【マーケット情報/1月29日】原油混迷、方向感を欠く値動き


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は引き続き、強弱材料が混在し、各地で方向感を欠く値動きとなった。29日時点で、米国原油の指標となるWTI先物は前週比で小幅に下落。中東原油を代表するドバイ現物も下落した一方、北海原油の指標となるブレント先物は上昇した。

経済の冷え込みにともなう石油需要後退への懸念が、WTI先物およびドバイ現物の重荷となっている。世界の新型コロナウイルス感染者数は1億人を超えた。変異株の感染も拡大しており、米国では28日、初めて南アフリカで変異したウイルスの感染者を確認。各国で移動規制が強化され、燃料用需要が一段と後退する見込み。また、米国の新政権は対中関税をただちに取り下げる方針はないと表明。米中関係の緊張が続くとの予測が台頭している。

一方、ロシアの2月輸出量は、前月比で減少する見通し。また、米国の週間在庫統計は、2020年7月以来の大幅減少を示し、ブレント先物を支えた。

【1月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】
WTI先物(NYMEX)=52.20ドル(前週比0.07ドル安)、ブレント先物(ICE)=55.88ドル(前週比0.47ドル高)、オマーン先物(DME)=54.63ドル(前週比0.51ドル安)、ドバイ現物(Argus)=54.70ドル(前週比0.34ドル安)

【マーケット情報/1月22日】原油、強弱材料入り混じり、方向感欠く


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物価格は小幅に上昇した一方で、米国原油の指標となるWTI先物原油価格は小幅に下落。強弱材料が入り混じり、方向感欠く展開となった。

価格を下支えしているのは、サウジの減産だ。

同国では、2月および3月の原油生産量を削減するため、契約者らへの供給量も同期間減少すると伝えられている。

一方、先週発表された米原油在庫統計は輸出量の減少を背景に増加を示した。世界的な原油需要の低下により、他国からの需要が弱い。

また、国際エネルギー機関は今年の原油需要予測に下方修正を加えた。世界各地で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、需要が鈍化する可能性が高い。ただ、後半はワクチンの効果もあり、急成長する見通しだ。

供給面では、イランからの輸出量が増加傾向にあることも下方圧力として働いている。

【1月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.27ドル(前週比0.09ドル安)、ブレント先物(ICE)=55.41ドル(前週比0.31ドル高)、オマーン先物(DME)=55.14ドル(前週比0.24ドル安)、ドバイ現物(Argus)=55.04ドル(前週0.29ドル安)

【コラム/1月25日】温暖化パニックに陥らずサプライチェーンに生き残る方法


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本の産業界は、昨年10月の菅首相の所信表明における「2050年CO2実質ゼロ」宣言以来、温暖化問題で浮足立っている。また海外のIT企業などが、サプライチェーンにもCO2ゼロや再エネ100%を求めると聞いて動揺している。近頃では日本政府に30年の再エネ比率を高める要望を出す企業も増えてきた。

だが、太陽光発電にしろ、風力発電にしろ、バイオマス発電にしろ、火力発電や原子力発電に比べればはるかに高価だ。これは誰が負担するのか?

もしもこの費用は再エネ賦課金等などの形で他の企業に負担させて、自分だけはそのCO2や再エネとしての価値を安く買って、他のすべての企業の犠牲のもとに自分だけ生き残ろうというのであれば、ずいぶんと利己的な話だ。

そうではない、というなら、自分で費用を全額支払ってでも再エネ100%にしようという意思のある企業はどれだけあるのだろうか?ここで言う費用とは、もちろん補助漬けで安価になっている見かけの費用のことではなく、現実に社会全体として負担している費用のことである。これは平均発電費用だけではない。再エネを接続するための送電網の増強などの、電力システム全体に掛かる費用だ。

本当に自分で費用を全て負担する用意があるというなら、国に頼らずとも、自前で電気を調達すれば済むことだ。今ではCO2ゼロ電気や再エネ電気を売る企業は沢山ある。それでも足りなければ、だれでも電気事業に参入できるのだから、そうすれば良い。

国全体として経済とのバランスを考えるならば、現在進行中の長期エネルギー需給見通しの見直しにおいて最も重要なことは、日本はこれ以上高コスト体質になってはならない、ということだ。だから、30年の再エネ比率を高めることには慎重になるべきだ。もしも比率を高めたいというならば、それにかかる費用がどの程度になるかはっきりさせるべきだ。十分に安価になるならば別に反対しない。だが一定の費用がかかるであろうから、それが受容可能かよく検討し、制度設計に当たっては、その費用が決して膨らむことの無いようにすべきだ。

「それでは海外IT企業などのサプライチェーンから外される」と言う意見がある。だが本当にサプライチェーンに残りたいなら、何よりもまず、コストこそが最重要課題だ。CO2がゼロであろうが、再エネが100%であろうが、高コストではそもそもサプライチェーンに残れない。

そして、冷静に競合相手を見てみることだ。日本と競合してさまざまな部品を供給しているのは、中国を筆頭に、アジアの開発途上国がその大半である。これらの国々は日本以上に化石燃料に大きく依存している。CO2や再エネを理由に日本企業をサプライチェーンから外すというなら、いったいどこの企業から調達するというのか?

それに、海外のIT企業自体がやっていることも、よく確認すると良い。CO2ゼロとか再エネ100%とか言っていても、その費用を全額負担している訳では無く、他の国民に多くを負担させて調達していることがほとんどだ。これがいつまで長続きするかは、気まぐれに移ろいやすい政策次第である。

また、物理的な裏付けがあるとも限らない。たいていの場合はCO2排出権を買ってきたり、再エネ証書を買ってきたりして帳尻を合わせている。

日本企業も、どうしても必要ならば、海外の支店でCO2排出権を買ったり、再エネ証書を買ったりして、国内と通算して帳尻を合わせればよい。無理に国内だけで済ますよりも、その方が安上がりになる。COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの国際交渉の場では「排出権の国際移転」と言った途端に面倒な議論が始まるが、私企業であるサプライヤーが世界全体のどこで排出権や証書を買って帳尻を合わせても、海外IT企業がそれをことさら問題にするとは思えない。

むしろ、海外IT企業の側で排出権や証書をサプライヤーに売るサービスを始めるのではないか、と筆者は予想している。というのは、海外IT企業自身が大量に排出権や証書を調達するスキルを身に着けつつあるのみならず、品質が良く安い部品であれば、どの国の製品であれ、何とかして買おうとすることは間違いないからだ。

メディアがあおるパニックに陥るのではなく、どのような政策と企業戦略のセットがあり得るのか、冷静に検討したいものだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める

【省エネ】排出ゼロと移行期 施策に明確な区分を


【業界スクランブル/省エネ】

省エネにはさまざまな手法がある。家庭分野の具体例としては暖房の設定温度を低くする、断熱性の高い窓にリフォームする、不使用時の照明を消灯する、省エネ型の電気製品を購入する、省エネ型の燃焼式給湯器を購入する―などだ。つまり、家庭・業務・産業・運輸分野において、我慢省エネ(最終的な効用の量、快適性などを抑制する)、必要負荷量の抑制(断熱性向上により、同じ快適性を維持するための空調負荷量を削減)、省エネ制御機器導入、エネルギー変換効率の高い高効率機器導入―などの省エネ手法があり、これらはどれも重要で、各需要家が費用対効果を考慮しながら導入判断をしている現状にある。

2050年のカーボンニュートラルを目指す場合、人類活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにする必要があり、「徹底した省エネルギー化」を実現した上で、「再生可能エネルギー等によるエネルギー供給」が必要となる。国内最大の火力事業者は海外の再エネ・CCSを利用した、グリーンアンモニアなどの輸入による50年ゼロエミッション宣言をした。一方、メタネーションでは需要場所でのCO2排出を抑えられず、化石燃料起因でないC供給が限定されることから、化石燃料CO2の分散排出になるだけという懸念がある。

よって、50年には需要場所での炭化水素燃焼(ガソリン車や燃焼暖房・給湯)をストックでゼロにする必要がある。環境先進国・州では30年代にガソリン車の新規販売中止を宣言しており、米国の一部自治体では熱分野の脱炭素対策として、新設住宅・建物への燃焼暖房・給湯の禁止を実施済みである。つまり、ガソリン車の燃費向上や燃焼暖房・給湯機器の効率向上の省エネは、最終的なCO2ゼロ社会では必要ない施策となる。なお、現在のZEH・ZEBも燃焼機器を採用しているケースもあり、50年にCO2ゼロとはならない。省エネ施策はさまざまだが、脱炭素社会に向けた省エネ政策への移行として、「CO2ゼロにつながる省エネ」と「移行期の省エネ」を明確に区分し、脱炭素社会に向けた省エネ施策に注力する必要がある。(T)

【住宅】再エネからのみ蓄電 課題解消の政策を


【業界スクランブル/住宅】

2020年9月の調達価格等算定委員会の資料では、「住宅用太陽光発電は、20年度の調達価格がkW時当たり21円であり、さらに調達価格を低減させる場合、設置者の調達期間中の経済合理的な選択(自家消費を行うか、余剰売電を行うか)を変え得るという意義がある中で、21年度の調達価格をどのように設定するか」との記述がある。やや分かりにくいが自家消費を促進するような対策が出てくる予感がする。

また、21年度の概算要求の説明資料においても、「ZEHの実証支援:需給一体型を目指したZEHモデルや、超高層の集合住宅におけるZEH化の実証等により、新たなモデルの実証を支援します」との記載があり、自家消費電力量を増加させる需給一体型モデルが21年度の主流になると思われ、その主役は太陽光発電と蓄電システムのセット導入が考えられる。

「太陽光発電の余剰電力を昼間蓄電池にためて夜間に活用する」。再エネ推進者にとっては理想の姿であり、50年までにCO2排出量実質ゼロを目指すには必須であると思う。だが、実際の導入・活用に関しては課題がある。

まずは天候による発電量の問題であるが、雨・曇天日では、太陽光の発電電力は昼間の直接自家消費に回ってしまい、蓄電池に充電できるだけの余剰電力は出てこず、蓄電池の稼働率低下につながる。悪天候を予測して深夜の充電に切り替えるようなAI技術が期待される。蓄電池には太陽光発電からのみの充電を許容するような政策は愚策であるといえる。

また、太陽光発電と蓄電池のセットでは停電時のレジリエンス上のメリット訴求も導入拡大には非常に有効であるが、この提案は昼間しか発電できない太陽光発電所の弱点も同時にさらけ出すことになり、太陽光単体での導入とセット導入を切り分けてユーザーに説明することも重要なポイントになる。

需給一体型モデルに関しては、そのメリットだけではなく課題も明確にして、課題を解消できるような対策の立案、実施が望まれる。(Z)

【太陽光】50年ゼロエミ宣言 太陽光で水素製造も


【業界スクランブル/太陽光】

2020年はコロナ禍で世界中が未曽有の危機に瀕し日本も大打撃を受けた。一方で、7月に梶山弘志経済産業相が「再エネ型経済社会」の創造を表明、10月には菅義偉首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を宣言し、一気に脱炭素化へとかじが切られる大転換の年となった。

この脱炭素化宣言はパリ協定の国際的な潮流に沿ったもので、気候変動対策を成長戦略として位置付けたものだが、具体的にどう進めていくかが鍵になる。審議会などでもさまざまな意見が交錯しているが、なぜカーボンニュートラルを目指すのか、その意義と絵姿を示した上で「国民の総意」形成が重要だ。イノベーションや事業構造・ライフスタイルの変化は、期待と覚悟を伴うものであり、国民や企業がどう対処するか改めて考え行動に移すためにも必要だ。

もちろん、太陽光は主力電源化への一層の取り組みとして①長期安定稼働、②技術革新、③地域との共生――を加速させるとともに、コスト削減と量の拡大も求められる。国民負担の抑制が課題だが、電力コストだけを見ても、将来的に便益が費用(国民負担)を上回ることがJPEAビジョンで示されており、将来世代への便益拡大に向け、今が戦略的投資のタイミングといえる。

また、電力系統増強・調整力は、再エネを最大限導入するために系統・調整力はどう在るべきかを考えるのが合理的であり、地方創生・地域経済循環の面からも国のエネルギー総合政策としての主導を期待する。

かつて日本は、公害対策先進国に転換、産業界では痛みを伴いながらも雇用創出・技術革新が進み、国際競争力を飛躍的に向上させた歴史を持つ。そして今、エネルギー輸入国から省エネ・再エネ先進技術輸出国へと転換を果たし、地域経済循環・レジリエンス強化による豊かで安全安心な都市・地域社会の創造を目指す。太陽は全てのエネルギーの源であり太陽のエネルギー源は水素である。太陽光で水素を製造し、電力貯蔵・供給する究極の世界をぜひとも見てみたい。(T)

【再エネ】相次ぐ閣僚発言 推進旋風吹く


【業界スクランブル/再エネ】

菅義偉首相や閣僚らによる洋上風力発電などの再エネ推進発言が相次いでいる。世界的な脱炭素の流れから再エネ比率目標の引き上げが求められており、閣僚らの発言から政府の本気度がうかがえる。きっかけは、安倍政権下で行われた2020年7月の経済産業省と国土交通省による「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の初会合だ。洋上風力の導入拡大、関連産業の競争力強化を官民一体で進めることが目的で、海洋土木工事などのインフラ整備、事業者の投資やコスト削減などの課題を熱心に議論してきた。

続いて菅首相は10月の所信表明演説で「省エネルギーを徹底し、再エネを最大限導入する」と表明。これに前後し、「脱炭素化実現に向け洋上風力など地域の再エネ導入の支援を行っていく」(加藤勝信官房長官)、「洋上風力発電投資拡大のチャレンジをする事業者を全力で応援する」(梶山弘志経産相)、「洋上風力発電について、汗をかくのが得意な国交省が力を合わせる」(赤羽一嘉国交相)、「再エネ推進の課題を洗い出し、一つずつ見ていきたい」(河野太郎規制改革相)、「国立公園内で再エネ発電所設置を促す規制緩和をする」(小泉進次郎環境相)など、内閣一丸となった再エネ推進旋風が巻き起こり、風力発電の普及は菅内閣の看板政策となった。

現行の第5次エネルギー基本計画は30年の風力などの再エネ電源構成比の目標を「22~24%」としているが、その底上げは既定路線だ。自民党の議員連盟は20年11月、再エネ比率を30年度に30%以上にする必要があるとし、導入を促すための規制緩和など具体策の提言をまとめることにした。日本経済団体連合会も新成長戦略を発表し、「政府は手広く再エネ全般を支援する政策を抜本的に転換し、競争力ある再エネに支援を重点化すべき」「例えば、調整コスト込みでも価格競争力を有する屋根置き等の太陽光や、大規模洋上風力発電など」と主張した。政治家や産業界の援護射撃を受け、第6次エネ基で洋上風力が主役の座を射止めるのは間違いなさそうだ。(B)

【石炭】炭治郎の人生観 『鬼滅の刃』の魅力


【業界スクランブル/石炭】

加藤勝信官房長官自ら「『鬼滅の刃』のアニメを見た」とした上で「メディア芸術はわが国が誇る日本文化として重要だ。引き続き支援したい」などと述べたことが報じられた。とにかく『鬼滅の刃』はすごい人気だ。「炭」と名が付く「炭治郎」の主人公名に興味をそそられる。

時は大正時代。木炭を売ることで田舎の家族は生計を立てていた。木炭が家庭用燃料として浸透していきながらも、石炭の流通は未整備であったという時代背景が読み取れる。

日本は西欧先進国の産業革命からの影響を受けて、明治時代の45年の間に国内での工業化も進みインフラは整備され、経済は着実な発展を遂げた。鉄道網の形成や汽船による水運が発達、「無限列車」が普通に走る。伊之助が戦いを挑もうとして失笑を買うが、石炭は一般化した。

背景に大正ロマンが見え隠れすることも興味深い。19世紀を中心にヨーロッパで展開した「ロマン主義」の影響を受け、大正時代の個人の解放や新しい時代への理想に満ちていたが、一方でどこか切ない現実逃避的願望が見られる。

仲間を失っても戦い続ける鬼殺隊の一員としての炭治郎には家族愛、復讐でなく修復、この世は捨てたものではないという人生観が認められる。退治されて当然という鬼もかつては弱い人間で、彼らも彼らなりの感情があることが共感を生んでいる。

戦国時代、炭治郎の先祖「炭吉」が「ヒノカミ神楽」を継承した。火に関わる仕事の中で、安全や災いが起きないよう、一晩中舞いを踊って祈りを捧げる。これは「水の呼吸」のような鬼側との戦いの型の原型だったのだが、炭焼き一家は技を伝承し、ついに子孫の炭治郎がこれを用い、鬼を退治する。

そして鬼のいなくなった現代、子孫の日常が平和な時代の中で対比される。人の生死と運命を正面から描き、生きることの切なさを訴えるこの物語は、多くのヒトを魅了し続けている。(T)

【石油】死刑宣告!? ネットゼロの衝撃


【業界スクランブル/石油】

2021年、新しい年が始まった。

新型コロナウイルスのまん延は、「グリーンリカバリー」(緑の復興計画)という副産物を生み、世界各国で脱炭素化の動きを加速させた。コロナ禍で対策と経済のバランスが意識され、気候変動対策もバランスある方向に進むに違いないと見た筆者の予想は見事に外れた。米国で環境対策重視のバイデン政権誕生も、コロナ禍の副産物かもしれない。

わが国も例外ではなく、昨年10月末には菅義偉首相が50年カーボンニュートラルを宣言した。これを受けて、総合資源エネルギー調査会はエネルギー基本計画改訂の審議を開始した。脱炭素化の方向が具体化される中で、石油業界も将来に向けて正念場を迎えることになった。

化石燃料業界にとって、脱炭素化は「死刑宣告に等しい」とする論評もある。しかし、現時点では、石油業界では、カーボンニュートラルは比較的冷静に受け止められている感がある。菅首相発言があまりに唐突で、実現可能性が極めて疑問であるからかもしれない。それ以上に、ネットゼロの実現は、政府や供給者側だけでなく、需要家・消費者が経済性や利便性に基づいて決める問題であろう。

19年度エネルギー需給実績によれば、最終消費ベースでは、電力化率は全体の26%にすぎず、74%は熱利用や輸送用の消費で、いまだ石油が48%を占める。この10年間、エネルギー政策の議論は供給側の再エネと原発に止まっていたが、今後は電化・水素化の可能性やエネルギーの消費形態にも踏み込んでいかざるを得ない。さらに、「ネットゼロ」の観点から、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)や炭素循環経済(CCE)の重要性が大きくなる。 石油業界も将来に向けた経営基盤の転換・拡大の中で、既存のインフラやノウハウなど優位性の発揮できる技術開発に取り組んでいく必要がある。その意味で、むしろ石油業界の役割や貢献は、これまで以上に重要になるに違いない。(H)

【メディア放談】米新政権のエネルギー・環境政策 バイデン政権をウオッチせよ!


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

米国大統領選の報道では、他国の選挙にもかかわらず日本のマスコミも過熱気味だった。だが、肝心の新大統領がどう政策を展開するのかについて、踏み込んだ記事は見られない。

――バイデン氏がアメリカ大統領に就任する。新政権はパリ協定、イラン核合意に復帰すると表明している。トランプ政権が温暖化対策に後ろ向きだっただけに、日本でも新政権の動きに敏感になっている。

電力 アメリカにかなりの数の日本人特派員がいるけれど、エネルギー・環境政策では、これといった報道は少ない。きちんと米国の政策の動きを見ているのはエネ研で、会員に配布している資料に網羅している。

石油 大統領選の報道は日本でも過熱したけれど、バイデン氏が当選した後、新政権のエネルギー・環境政策をマスコミはフォローしていない。パリ協定に戻るとしても、アメリカでは石油・ガス産業がものすごく力を持っている。石炭産業も健在だ。再エネを中心にCO2を減らしていくのは、簡単なことじゃない。そこに踏み込んだ記事がない。

マスコミ イラン核合意にしても、トランプ大統領は、イスラエルによるイランの核開発責任者の暗殺を容認している。トランプ政権の「置き土産」で、イランの姿勢を硬化させて、わざと復帰を困難にしたといわれている。これでイランの核開発が進むとの見方もある。バイデン大統領の政権になって、中東情勢は混乱を増すかもしれない。そんなことを分析する記事がない。

――バイデン大統領の民主党政権は、温暖化防止に大きく政策のかじを切り直しそうだ。

ガス バイデン氏は、初めは民主党左派への配慮から環境重視を打ち出していた。しかし、選挙戦が進むにつれて、現実路線に方針を修正している。民主党政権は雇用を重視するから、就労者の多い石油、ガスなどのエネルギー産業に大きなダメージを与えるような政策は取らないはずだ。

電力 それにしても、日本の新聞はどの記事も面白くない。一番注目していたのは、新政権の環境政策と外交とのリンケージがどうなるかだけど、どこも取り上げていない。

 温暖化対策は、先進国だけ力を入れても意味がない。これから急速にCO2排出が増える途上国を巻き込まないと、実効性のある枠組みはつくれない。そのための調整役を務めるのは、やはりアメリカが中心になる。

習主席「宣言」に不信感 化石賞を喜ぶ「識者」たち

――中国が温暖化防止に力を入れ始めた。それで、日本もうかうかとしていられなくなった。

マスコミ 中国の言うことは、まともには信じられない。習近平主席が2060年のゼロエミッションを宣言したけれど、本気でやろうとはしていないはずだ。アメリカがパリ協定に復帰すれば、先進国が足並みを揃えて中国の「約束違反」を批判できる。

電力 地球環境問題は、本来ならば先進国と途上国のそれぞれの温室効果ガスの現状と予想を分析して、対策を立てていくべきこと。だけど、それをマスコミも有識者もやろうとしない。そうかといえば、「COPで再び日本が化石賞を受賞しました」とかは熱心に報道する。

マスコミ また、日本にはそれをなぜか自虐的に喜ぶ「識者」たちがいる。

石油 新聞、テレビには期待していないけど、老舗月刊誌も以前のような「権威」や「威厳」がなくなった。昔の『文藝春秋』は、通して読むと知的レベルが上がったような気がした。ところが今は、途中で読むのを止めるような記事が多い。『中央公論』も読売の傘下に入ってからつまらなくなった。

ガス 『文藝春秋』『中央公論』にエネルギー環境問題で、読もうと思う記事はまずないね。週刊経済誌も似たり寄ったりだけど。

マスコミ 週刊ダイヤモンドが電力再編の連載を掲載していた。それなりに読ませたが、なぜ将来、再編が必要になるのか深掘りが足りなかった。

 国際大の橘川武郎教授のインタビュー記事も掲載されていた。エネルギー関連の学者では第一人者だけに、「なるほど」と思うところがあった。だけど、「事故を起こした東京電力には、柏崎刈羽原発を動かせない」との指摘はおかしい。

 仮に東北電力や日本原子力発電に参画させて、会社の「看板」を替えても、実際に運転・管理をするのは東電の社員と関連企業の作業員たち。地元の人たちは、彼らが再稼働に向けて汗を流しているのを見ている。それで原発を間近に見てきた自治体の首長らも、「運営は東電以外、考えられない」と言っている。

花盛りのゼロエミ報道 原発は継子扱い

――菅義偉首相が50年カーボンニュートラル宣言をしてから大手紙では再エネ、水素、EV(電気自動車)などの記事が目白押しになっている。

電力 まさに花盛りだね。再エネだけでカーボンゼロを実現できる、と勘違いしているんじゃないか。再エネを進めるのはいい。だけど原子力の役割も欠かせない。しかし、ほとんどのマスコミが原発は継子扱いだ。

ガス 特に最近の日経はバランスを欠いた記事が多い。科学部の気候変動の記事は、首をかしげるものばかりだ。むしろ、朝日の方がしっかり取材した記事を載せている。もっとも、結論は決まっているけど。

マスコミ 日経はとにかく景気優先の紙面づくりだから、先細りの原発には見切りを付けたんじゃないか。再エネ偏重の報道になっているけど、それで将来、国民が高いつけを払うことなっても、彼らは責任を取らないんだよ。

――また、最後は日経批判になってしまった。

【火力】発販分離後の責任 砂上の楼閣を懸念


【業界スクランブル/火力】

2020年、菅義偉首相から50年に向けたカーボンフリーへの取り組みが明示されたこともあり、今年は、これからの30年を見据え腰の据わったエネルギー政策の議論がなされることを期待している。しかし足元を見ると、昨年猛威を振るったコロナ禍の影響もあり、20年で完結するとされた電力システム改革の整備が十分できたとは言えないのが気に掛かる。

20年4月に送配電部門の法的分離がなされ発送電分離が実現したが、発電部門と小売部門、いわゆる発販分離については、最も根本的な前提条件が曖昧のまま次の議論が進められており、今後さまざまな不都合が生じるのではと懸念している。旧一般電気事業者の対応を見ても、火力燃料事業を分離してJERAを設立した東京電力、中部電力に対し、ほかは発販一体のままであり、制度が固まらないことで対応を決めかねていることがうかがえる。この根本的な前提条件とは、一点は供給義務の役割分担であり、もう一点は、CO2削減に向けた責任の在り方についてである。

発送電分離に伴い、最終的な供給義務は送配電事業者が負うことになり、小売り事業者には供給力確保義務が課されている。この結果、発電事業者は、契約の履行義務は負うものの供給義務からは解放された。またCO2の削減については、発電事業者に課せられているのは省エネ法による熱効率(≒CO2排出原単位)の規制でしかない。CO2排出量については、エネルギー供給構造高度化法で非化石電源の比率を30年に44%以上とすることを求められているが、義務を負っているのは、実は小売り事業者だ。

発電事業者が果たすべき責任について、発販一体なら簡単なことでも分離では整理すべき事柄は山ほどある。内部補助などといった観点から発販分離を徹底すべきというのであれば、まずこの点をはっきりと決めなければならない。より良い制度にするために、移行期に試行錯誤を重ねるのは必要なことだ。だが、いくら新たな施策を積み重ねても足元がしっかり固まっていなければ文字通り砂上の楼閣となってしまう。(Z)

【マーケット情報/1月15日】ブレント反落、移動規制で原油需要に懸念


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物原油価格は続伸した一方で、北海原油の指標となるブレント先物価格は小幅に下落した。原油需給はひっ迫感が強まっているが、新型コロナウイルス感染者が世界各地で増加傾向にあり、先の需要に懸念が強まっている。

米国の原油在庫量が減少傾向だ。米エネルギー省が発表した、同国の原油在庫統計は今週も減少を示した。同国では冬季需要が強く、製油所が高稼働を続けている。

また、サウジ・アラムコ社は長期契約を結んでいる数社に対し、2月原油供給量を5~15%削減する。サウジアラビアは今月5日、2月および3月の原油生産量を追加で日量100万バレル減産させると表明しており、この追加減産が供給量削減の背景。

ただ、世界各国でコロナ感染者数が増加傾向にあり、ロックダウンや国境間の移動制限で原油需要の減少が懸念されている。週後半には、中国国家衛生健康委員会が来月の新正月に不要不急の移動を控えるよう呼び掛けた。移動による燃料需要が高い同期間の規制は、原油市場にはとって大きな痛手となる。

【1月15日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.36ドル(前週比0.12ドル高)、ブレント先物(ICE)=55.10ドル(前週比0.89ドル安)、オマーン先物(DME)=55.38ドル(前週比0.80ドル高)、ドバイ現物(Argus)=55.33ドル(前週0.83ドル高)

【コラム/1月18日】2021年度政府経済見通しを考える~対策不首尾で、遠ざかる「思って一出て三」


飯倉 穣/エコノミスト

 今年の経済動向に関心が集まる。昨年末、来年度政府経済見通しの発表があった。コロナ感染防止期待の消費増、グリーン化念願の設備投資、輸出待望に加え大規模な歳出でコロナ前の水準回復を見込む。実態を鑑みれば、消費は、コロナ感染防止の不首尾で、GoToトラベルの根拠でもある「思って一、出て三(おもっていち、でてさん)」に至らないだろう(大阪の慣用句:出かける前に予算千円と思っても、実際出かけると3千円使ってしまう)。企業業績から投資も弱そうである。財政支出頼りだけで、回復はおぼつかない。次年度は、今年度並みの喜怒哀楽の経済と考え、政府期待でなく、自立で負の波乱万丈を乗り越える努力が求められる。

1,今年の経済はどうなるのか。年末政府は2021度経済見通しを示した(20年12月18日)。コロナ前水準への回復を描く。今年度実質成長率△5.2%(見込み)の後、来年度4.0%増を見積る。内訳は、感染防止と活動の両立で民間消費3.9%増、デジタル・グリーン化等で設備投資2.9%増、総合経済対策で公的需要0.9%増、回復で輸出11.4%増(外需0.7%増)である。

その実現に向けて今年度補正予算3号19.2兆円(同15日)に続き、来年度政府予算案107兆円(前年度比3.8%増)(同21日)を編成し、また2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(同26日)を決定した。

2、政府見通しは、経済財政運営方針の前提となる経済状況を示す。政治・政策目標(願望)が絡むので、予測の正確性だけでなく政策的意味合いを踏まえた品定めとなる。

 5つの視点から、来年度の経済見通しを考える。①コロナ感染防止対策、②グリーン成長・投資の可能性、③金融緩和による資産価格上昇、④日銀頼りの財政運営、⑤バラマキによる企業経営・活力問題である。

3,再度の非常事態宣言で、コロナ施策の不首尾が明確になった。感染症対策の基本は、早期発見、早期隔離、早期治療である。早期発見はPCR検査以外に手がない。検査数制限で、無症状感染者等を放置した。且つ隔離施設の確保や治療(含む国内ワクチン・治療薬開発)でも課題が顕在化している。感染症専門家の頑なさと政治ショーが際立った。生活習慣頼りでは、ワクチン登場でも先行き懸念される。当面行動自粛解放は困難で「思って一出て三」は先となる。

4,グリーンで投資増に首を傾げる。「グリーン成長戦略」は、再エネ、電化、水素を掲げ、現預金活用(240兆円)の民間投資等を謳う。グリーン化は、市場経済に介入し、化石エネの市場縮小と再エネ化を目指す。為政者は、後者に焦点を当て民間投資・資金の多寡を喧伝する(ESG関連民間資金世界3000兆円、国内300兆円)。投資の経済的根拠は不明である。また再エネは、化石の代替であり、成長の牽引力という評価は過大である。当面経済成長に寄与しそうにない。繰り言だが、新規原子力発電建設こそ水準維持に効果的である。

5,金融緩和による株価上昇は、消費等に影響する。過去の経験では、上昇額の一定割合(1~3%)の消費増をもたらす。そして時価総額が名目GDPを超えるとバブル的と言われる。現相場は、マネーゲーム突入、かつ日銀・GPIF介入の官製相場と見られる。経済の実態から乖離し、今後株価崩壊も懸念される。

6,新年度予算規模は過去最大で、歳入の公債依存度は41%である。来年度末国債残高が990兆円に達すれば、国債残高/GDP比は177%となる。日銀の国債保有額は、昨年12月544兆円(12年3月末87兆円)である。日銀の保有額は、今年度末で国債残高の60%を超える。コロナ対応で急上昇している。

今後の財政不安は、第一次大戦末期の公的債務・財政問題を語ったシュムペーター「租税国家の危機」(1918年)を想起させる。彼は、浪費による国家の過大債務をインフレでなく一回限りの高率の財産税で解消すべきと考えた。コロナ戦争後の過大債務の解消は、インフレか増税の受容以外に道はなそうである。財政出動で、民需主導の成長軌道には戻らない。

7,過去の経済推移を概観すれば、経済停滞期における企業の創意工夫が次の経済の牽引力となる。オイルショック後が好例(自動車等)である。その後、企業は自助を忘却し公助を求め続けた。知恵なき行政に依存する体質は、企業活力を低下させた。企業に社会福祉は不要である。「自立自営」が基本である。現在必要な改革は、企業活動を制約する株主重視のコーポレートガバンスの廃止、株主代表訴訟の制限強化、四半期決算廃止・時価会計の弾力的運用、間接金融システムの再構築等であろう。

8、今回の政府見通しには、違和感がある。民間最終消費は、コロナ沈静化なければ、自粛継続で時間消費型中心に低迷が継続する。設備投資等も企業業績(利潤投資反応)や現在の技術革新状況では期待薄である。輸出量は、海外経済状況・為替・企業努力次第である。省察すれば、来年度経済は変動下降局面で今年度水準並みが精一杯と推察する。悲喜こもごもの経済ながら、個々人・企業が、「政府こそ問題だ」を意識して、負の波乱万丈を回避する取組が大切である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【原子力】誤解と無理解 水素の製造法


【業界スクランブル/原子力】

自民党は総裁直属の「2050年カーボンニュートラル実現推進本部」を立ち上げた。20年11月の初会合では、参加議員から原子力を有力な選択肢とすべきという意見が続出した。50年カーボンニュートラルは量の問題が鍵で、そう簡単ではなく、原子力なしには到底実現できないという認識が共有されているわけで、それは正しい。

しかし、肝心の菅義偉首相は「原発新増設を今は考えていない」と語り、腰が引けている。一方、小泉純一郎元首相と進次郎環境相の父子は「原子力がなくても大丈夫」と言っているが、それは錯覚にすぎない。この肝心なことが分かっている人は国民の数%にすぎないと、永田町のある重鎮は語る。錯覚をデリートし、救国のイノベーションを努力と時間をかけても実現することが欠かせない。

しかも無理解は、意外と根強い。先日、麻生太郎副総理は、「わが国の困難は、人口減とエネルギーだと思うが、エネルギーについては、いずれ水素の時代がきて無尽蔵のものが手に入るだろう」と講演で語っていた。水素時代到来で全て丸く収まり、全問題から解放されると思い込んでいる。水素がどういったフローで製造されるかによって、多くの問題を発生する恐れがあることを全く認識していない。

どんな製造法を採用するかで、水素自体についての評価は分かれる。昨年夏まで、EUでは再エネ電力ベースの「グリーン水素」のみをクリーン水素としていたが、9月にフランスは「原子力で製造、30年650万kW規模」という軽水炉ベースの計画を進めた。EU委員会では、原子力から製造した水素を低炭素水素とする当局者の発言があった。製造する原料やプロセスで水素に色を付けて呼ぶ見解もある。 Green hydrogen=再エネから製造、Black hydrogen=石炭から製造、Grey hydrogen=天然ガスから製造、 Brown hydrogen=褐炭から製造、Blue hydrogen=化石燃料からCCS付きで製造、そして Purple hydrogen=原子力から製造―という具合だ。誤解や無理解を消し去り、錯覚をデリートすることが急務だ。(X)

【山際大志郎 自民党 衆議院議員】あらゆる可能性に張り続ける


やまぎわ・だいしろう 1968年東京都生まれ。95年山口大学農学部獣医学科卒、99年東大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。2003年衆院選で初当選。12年内閣府政務官、13年経済産業副大臣。当選5回。

「生物の生命現象を知りたい」と獣医学の道を選ぶが、現代社会の在り方に疑問を持ち政治の道へ。 転換が進むエネルギー政策については、多くの可能性を追求し、広い視座から向き合い続ける。

高校卒業後、「生物はなぜ生きているのかという、生命現象を知りたい」と、山口大学農学部獣医学科の門を叩いた。

「生命現象は複雑だが、なぜか生物は生きている。それがたいへん面白い。生きるということはどういうことなのかという尽きない興味があったが、日本の法律では生物を扱う職業の中で、人間を扱うのは医者、人間以外の動物を扱うのは獣医と決まっている。自分は生命現象そのものに興味があり、多くの生物を扱える獣医の方が面白いと思い、獣医学を学ぼうと考えた」

大学卒業後は東大大学院農学生命科学研究科に進み、獣医学博士号を取得。研究者の道から、なぜ政治家の道を志すようになったのか。「生命現象を学んだ人間からすると、現代社会は人間という種だけが特別なものだと思い込んでいる節があると感じた。地球上の生物は自らの生存戦略に従って必死に生きているが、人間だけがそのバランスを保とうとせず自分勝手に生物界を牛耳ろうとしているのではないか」と、社会への疑問を感じる場面が多々あったからと語る。

「人間が行うこうした振る舞いは自然な姿ではない。人間だろうがほかの生物だろうが、自然の理から外れれば生き物は滅びる。このまま傲慢な生活を続けるとまずいのではという思いがあった。もう少しきちんとした振る舞いをできるよう、社会のルール作りをしたいと考えた」。こうした思いを抱いたことから、政治家の道を歩もうと模索を始める。

大学院修了から3年後の2002年には、自民党の候補者公募に応募し、神奈川県8区の衆議院補欠選挙に初出馬。しかし初めての選挙戦は落選。翌03年行われた衆院選では神奈川県18区から出馬し、初当選を飾った。

政権では経済産業副大臣、内閣府政務官を歴任。現在、党では政調会長代理や総合エネルギー戦略調査会事務局長を務めている。

原発・再エネの二元論に「待った」一本足ではなく幅広い可能性を

これまで日本のエネルギー政策は、原子力発電や石炭火力発電などをベースロード電源として運用し、負荷に合わせてLNG・石油火力、水力発電で調整する運用が行われてきた。しかし東日本大震災以降、原子力発電所が停止し、その代替となるべく再生可能エネルギーの導入促進が図られるなど、エネルギー政策は大幅な転換期を迎えている。

こうした経緯もあって、エネルギー政策を語ろうとすると「原発VS再エネ」という二項対立にフォーカスが当てられる。しかし、山際氏はこうした議論について「本筋とずれている」と喝破する。

「エネルギー問題は戦争の原因になるほどの大事なテーマ。日本が小資源国である事実は変わらないため、科学技術を磨き続けることに将来が懸かっている。再エネはもちろん重要で、それと同じくらい原発や火力発電も重要だ。本当に必要なのは政策が一本足打法にならず、あらゆる可能性に張り続けること。こうした議論を単純な二項対立で語るのではなく、化石燃料に問題があるのであれば、その課題を解決できるよう研究を続け、あらゆる可能性を追求すべきだ」

国会議員として5期目を迎え、政策立案と同時に、党内外から寄せられる政策案を選ぶ側に回ることも多くなった。そうした中で、政治家と官僚の関係性について、思うところも多いそうだ。

「世間では官僚主導と呼ばれる政治手法に対する批判は多く、政治家がもっと政策について詳しくなるべきだとの意見がある。しかし、政治が持つべき本来の役割は、数ある選択肢の中から決断・選択をして全体のバランスを取ることではないか。政治家と官僚との役割分担を意識すべきだと思う」

この言葉の裏には、「政治に求められるのは判断することで、数ある選択肢を切り捨てるということ。だからこそ政治家は選択肢について詳しく知っている必要はあるが、選択肢を作るのは政治家である必要はない。最終的な判断を下すのは官僚ではなく、国民の審判を受けて当選した政治家。だからこそ政治に重みがある」との思いが込められている。

「その道の専門家であり、優れた選択肢を提示できる官僚と細部を競っても意味がない。政治家はそこと争うのではなく、全体最適を取るために一歩引いた地点から課題を俯瞰することが重要ではないか」と指摘した。

座右の銘は「大志貫徹」。名前にも大志という言葉があるだけではなく、「広く大きな志を持って、貫徹させることが世のため人のためになるのでは」と感じ入ったそうだ。

菅義偉首相が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言するなど、世界各国で気候変動問題への対応が重要課題として挙げられている。政治の道を目指した大志を実現するのに、絶好の環境といえるだろう。