【メディア放談】CO2排出削減目標引き上げ 原発は「46%」で復活するか


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

政府は欧米と足並みを揃えるためCO2排出削減目標を46%に引き上げた。

ゼロエミ電源として原子力発電の重要性は増すが、マスコミの応援は期待できそうもない。

  

――菅義偉首相が2030年のCO2排出削減目標を、13年度比で46%に引き上げた。産業界からは異論が出ているが、マスコミは歓迎ムードだ。

電力 アメリカが気候変動問題に熱心な民主党政権に代わり、議会も民主党が上下両院で過半数を占めた。46%がかなり無理な数字なことは、経済産業省、環境省、それに政権首脳も分かっていたはずだ。しかし、アメリカの方針転換で欧米が温暖化防止で一枚岩になった。それで外交を進める上で、首相は引き上げを政治決断せざるを得なかった。

石油 問題はこれからだ。50年カーボンニュートラルを打ち出したときは、「まだ当分先の話」と切迫感がなかった。だが、30年は9年先のこと。役所はしゃかりきになって、産業界に排出削減を押し付けてくるだろう。

 長く続く低成長で、経営を維持するためコストを減らそうと省エネに取り組んで、「もう雑巾は絞り切った」という企業は多い。そういう会社は「何をすればいいんだ」とあきれ気味だ。

マスコミ 手っ取り早いのは、再エネ電源を増やして、需要家に買わせることだ。ただ、企業からすると、「一体いくら払えばいいんだ」となる。

 エネルギー基本計画を議論する審議会で出た数字だと、50年に電源を再エネ100%にした場合、需要家のコスト負担は4倍になる。再エネ50%強でも2倍だ。要するに、再エネを増やせば負担は増す。46%減を目指して30年までに再エネを増やしても、同じことが起きる。

増え続ける国の借金 再エネ支援の余裕なし

――再エネの価格を引き下げるには、政府の財政支援が欠かせない。でも、国にそんな余裕があるとは思えない。

ガス 財務省の発表によると、今年3月末の時点で国債や借入金など「国の借金」は、1216兆円だ。アベノミクスで大胆な財政出動を始め、新型コロナ対策でさらに膨らんだ。もう感覚がまひしたのか、新聞もあまり取り上げないようになった。

 これから団塊の世代が「後期高齢者」になる。社会保障費が減る見通しはない。かといって、経済成長が伸びず、格差社会が広がる中、消費税や所得税の増税は難しい。環境税は入れられるかもしれないが、再エネを主力電源にするだけの規模の財源になるとは思えない。

石油 産業界にとって、脱炭素化は存続が危ぶまれるような膨大な費用がかかることだ。経産省はトランジション・ファイナンスを普及させて、企業に資金供給をするとしているが、あまり期待はしていない。

マスコミ 欧米の金融機関は、脱炭素をビジネスにしようとしている。政治を動かして、自分たちに都合のよい国際ルールをつくってしまう。日本の46%はどう考えても無理。また彼らのいいなりになって、30年に大量のクレジットを買う羽目になるかもしれない。

―すると、やはり原子力に期待するしかない。だが、相変わらず産経を除くとマスコミの「応援」は期待できない。

電力 朝日、毎日、東京ははじめから諦めている。本来ならば、日経に期待したい。だが、もう何回もこのコーナーで話題になったが、日経は「再エネ盲従・反原発」新聞となりつつある。

ガス 日経も現場の記者は、再エネだけで脱炭素が難しいことは分かっている。ところが、編集局の幹部クラスはそれを無視する。環境省の首脳はそれがよく分かっていて、書かせたいネタがあると直接、編集幹部に連絡する。それで幹部から記者に「こう書け」と指示がくる。

マスコミ 46%が打ち出されて、さすがに日経も再エネだけでは無理だと思ったようだ。普段は再エネしか眼中にない気候変動担当のHエディターが「脱炭素電源、6割視野に」(5月14日)で原子力について触れている。

 H氏も46%達成が原発抜きでは難しいことは認めている。一方、廃棄物とコストで「課題山積」としている。確かに、高レベル放射性廃棄物の処分は難題だ。北海道の寿都町、神恵内村が文献調査に応募したが、これは「長期戦」で取り組まざるを得ない。

 しかし、原発のコストについては、何を基に書いているんだと思った。単に再エネと原発の発電コストを比べても意味がない。再エネ普及拡大で問題なのは、太陽光などの単体の発電コストではない。不安定電源のため調整電源や系統の整備などが必要で、発受電システムの全体コストが上がってしまうことだ。

企業泣かせの日経新聞 連日の「SDGsセミナー」

電力 H氏は、再エネを「最も安価な電源になりつつある」とし、原発のコストについては「競争力が低下している」という。確かに福島事故で膨大な安全対策費用がかかっている。だが、それでも、お天気任せで低稼働の再エネを無理やり大量導入するよりも、はるかに安いコストで電力供給ができる。きちんと説明すれば、そんなことは小学生でも分かる。

――ところで最近の日経は、自社が主催するSDGs関連のセミナーなどの広告がやたらと目立つ。

マスコミ セミナーは無料だが、企業や団体からはしっかり協賛金などを取っている。経団連加盟企業でSDGsに賛同しない会社はない。でも、いくら一流企業でも予算に限度がある。毎回、日経にお付きはできない。それで「今回は見送りたい」と言うと、新聞の紙面で意地悪をされるらしい。

――それじゃ、高杉良の経済小説『濁流』(講談社文庫)の「帝都経済」誌と同じ商法だよ。

【再エネ】地熱発電への期待 伸び悩み打破なるか


【業界スクランブル/再エネ】

菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル宣言以降、再生可能エネルギーへの期待が高まっている。再エネの各電源には、それぞれ特徴がありメリット、デメリットがある。各電源の特徴を見据えて推進を図る必要がある。

その中で期待したい電源が「地熱発電」である。世界指折りの火山国である日本は、世界第3位の地熱資源量を誇っている。18年策定の第5次エネルギー基本計画で、地熱は天候の影響を受けない「ベースロード電源」であると明確に示された。蒸気や熱水が主な資源であり、CO2の排出量が極めて少ないクリーンな電源である。また、いったん運転が開始されれば発電コストが安いなどさまざまなメリットがある地熱は、わが国としてもぜひ推進させたい電源である。

しかし、地熱発電は17年長期エネルギー需給見通しで提示された30年エネルギーミックスでの約150万kWに対し、現状は60万kWの導入にとどまっている。地熱が伸び悩んでいる理由を挙げてみる。

地熱資源は地下の割れ目沿いに存在するが、ボーリングで割れ目を通すのは綿密な調査や高度な技術を要し時間やコストがかかる。地熱資源の多くが国立・国定公園内に存在しており、厳しい規制への対応に時間を要する。また、温泉との調整に苦心している。

こうした障壁が存在する地熱であるが、活気づいているのを感じる。新エネルギー財団のホームページに掲載された「地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言」では、新規地熱開発と既設地熱発電所に分けたそれぞれの政策提言が行われているなど、業界団体の動きが活発化しつつある。

河野太郎・行政改革担当相率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、日本地熱協会の要望を受けて、環境省や経済産業省と規制緩和に向けた丁々発止のやり取りをしている。また、NHKでも「世界が注目 地熱発電」という特集が放送された。これらの取り組みが地熱発電の促進につながることを大いに期待したい。(F)

交通や通信とセクターカップリング統合エネルギーマネジメントの実現


【リレーコラム】浅野浩志/東海国立大学機構 岐阜大学高等研究院特任教授

ちまたではエネルギーの地産地消とやや文学的な表現を使うが、電力は地産地消可能な農産物とは異なることは言うまでもない。規模の経済と範囲の経済を生かし、全国的な電力ネットワークで融通・輸送され、消費される。住宅用太陽光発電(PV)システムなど分散型資源も大規模電源とともに電力系統に連系している限り、電源と需要地を含む電力プールとして、最経済かつ安定供給を維持しながら、電力潮流は制御されている。PVを設置し、大容量蓄電池が搭載された電気自動車を所有できる、ごく限られた階層では自立エネルギーシステムを実現できているかもしれないが、途上国を含むグローバルに普及するモデルではない。

それよりは、多様な地域環境で暮らしている人々とインクルーシブ(包摂的)な社会を目指すなら、狭いスマートコミュニティーではなく、地域(基礎自治体)間で再生可能エネルギーを融通しあう地域間連携システムを構築していくのが現実的だろう。これによりローカルはもちろん、日本全体の脱炭素社会への移行を容易にする可能性がある。筆者は、戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」でそうした未来型エネルギーシステムの社会実装を目指した研究開発を進めている。まずはスマートメーターデータに代表されるデジタルデータも活用した地域エネルギー需給データベースを整備するところから始めている。

ICTが電給制御を効率化 

洋上風力に代表されるように地域に偏在する電源を自治体の枠を超えて広域で運用し、地元密着の小規模電源はローカルに消費される階層型グリッドシステムに移行していく。分散型エネルギー資源の普及に伴い、エネルギー需給の地点別・時間帯別価値を可視化し、プロシューマ間で自由に取り引きし、エネルギーシステムとしては自律分散的に運用される姿を長年研究し、提案してきた。ICTの急速な進展とさまざまなプラットフォームを通じた電力取引(市場)環境の整備によって、ようやく実現の目途が見えてきた。

サイバーセキュリテイーを確保するのは言うまでもなく、激甚災害に備えた安全なコミュニティーの維持に高信頼度のエネルギー供給は欠かせない。最も重要なライフラインである電力システムは、交通部門や通信部門、公共部門を核としたセクター間で連携するセクターカップリングによって、日々の暮らしから雇用の場である産業を下支えする地域社会サービスを提供していくのが望ましいのではないか。

あさの・ひろし 東大大学院修了。博士(工学)。現在、電力中央研究所研究アドバイザー、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」サブ・プログラムディレクターを務める。

次回は電源開発執行役員の中山寿美枝さんです。

【石炭】日本に良い参考 ポーランドの政策


【業界スクランブル/石炭】

2018年末にCOP24を開催したポーランドは、脱炭素社会の形成を進める欧州にあって石炭資源に恵まれており、いかに脱炭素化を行っていくか世界中から注目されている。その方法は他国同様、再生可能エネルギーの拡充や原子力の推進にあるが、エネルギーセキュリティーを確保しながらどう達成するかは容易ではない。

ポーランドは49年に全ての国内炭鉱を閉山することで8万人の労組と合意しており、①送発電インフラ網の整備、②再エネ・コージェネなどの進展、③エネルギー効率の向上、④エネルギー経済市場の進展―に配慮した30年必達の「エネルギー計画」の実施が不可欠として公表中の案に対してパブリックコメントを募集中だ。

現在の80%以上の石炭依存率も60%以下とすべく、CCUS(CO2回収・利用・貯留)に配慮した高効率の石炭火力の導入も検討しており、日本技術への関心も高い。ロシアからの天然ガス輸入にこれ以上頼らないために不可欠としている。

しかし、EU全体の低炭素化の動きや金融機関の締め付けによりポーランドのエネルギーコストは他の加盟国の2倍以上、1000kW当たり50ユーロに及びつつある。EUが15年に公表したものに、ポーランドは最後まで反対し、独自に気候変動に対応し70年までに目標達成するとした。上記計画の完遂には7000億~9000億ユーロが必要であり、EUの資金充当が不可欠とみられている。

ポーランドでは現在約16%のグリーンエネルギー産業を育成しているという。例えば炭田地域のシレジア地方に電気自動車工場を誘致し、雇用創出を図るとしている。わがままに映るポーランドだが、環境に配慮せずに経済成長したEU諸国に対して「公正移行」を唱えるものとなっている。現在世界の各方面で日本の石炭産業は批判にさらされているが、ポーランドのエネルギー政策の取り組みは参考になるところが大きいと思う。(C)

【横山信一 公明党 参議院議員】常に人々の代弁者でありたい


よこやま・しんいち 1959年北海道生まれ。北海道大学大学院博士課程で単位取得。90年北海道庁入庁。道議会議員(2期)を経て、10年参院選初当選。参院2期、農林水産大臣政務官を経て、19年から復興副大臣を務める。

復興副大臣として積極的に携わる、「福島イノベーション・コースト構想」。

国会議員唯一の水産学博士として、海洋プラごみ問題の解決にも尽力している。

生まれは北海道帯広市だが、大学入学までの少・青年期を過ごしたのは石狩町(現石狩市)。漁業者や多種多様な海産物が身近な環境で育ち、北海道大学水産学部に進学した。1990年4月、北海道庁に入庁し網走水産試験場に配属。多くの水産業者と関わりながら水産に関する知見を深めた。入庁後も水産学の勉学に励み、92年3月には水産学博士号も取得した。さらなる知識を求め、98年にはアメリカ海洋漁業局で在外研究を行う。

政治の道へ転向するきっかけは、意図しないものだった。親交があった地方議会議員から後任になってほしいと直々に指名があったのだ。周囲からの強い後押しもあり出馬した、2003年の北海道議会選挙で見事トップ当選を果たすと、4年後の2期目も当選。「地方の声の代弁者」として進出した国政でも、参院選に2期連続で当選した。その間数々の要職を歴任し、現在は復興副大臣として、被災地の復興政策などに関わっている。

周囲に推される形で進んだ政治の道は、途切れることなく今年で18年目を迎える。政治家として活動するようになってから特に大切にしてきたことの一つが、「一人一人の声に耳を傾けること」だ。

「人それぞれの考えや主張について、まずはしっかりと聞くことに務めてきた。自分の意見があっても、決して押し付けたりはしない」

政治家とはさまざまな人の声を聴き、社会をより良い方向に変えていく仕事であると考え、常に代弁者であることを心掛けてきた。そうした姿勢が周囲の信頼を集め、政治家として担う役割を大きくしていった。

被災地ならではの産業基盤構築へ 「海ごみ法」改正により脱プラも推進

現在は、福島県・浜通り地域を中心に新たな産業基盤の構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に力を入れている。ロールモデルとしているのが、第二次大戦時「マンハッタン計画」のプルトニウム製造拠点となった米ワシントン州のハンフォード・サイトだ。当時の汚染水などのずさんな管理により、現在も環境再生事業が続いている。

それにもかかわらず、ハンフォード・サイトでは産業が活発で人口も増加している。各機関・団体が相互に協調しながら都市形成を推進し、住民との信頼関係が築かれているからだ。その要となるのが、環境再生事業などを主導する国立パシフィックノースウェスト研究所(PNNL)だ。横山氏もその成功例から学ぶべく、PNNLで最高科学者を務めた大西康夫氏と意見交換を重ねてきた。

「ハンフォード・サイトに倣い、司令塔として国際教育研究拠点の構築を目指している。そして、意見交換を通して浮かび上がってきた研究テーマの一つが『放射線化学』です」

今、世界中の放射線化学の研究者は福島第一原発に注目している。実験室では決して得られない材料が事故炉の中にあり、その物性を調べることが新たなイノベーションにつながる可能性があるからだ。

「悲惨な原発事故を反省し、二度と起こらないよう対策するのは当然です。しかし、ネガティブな部分だけに目を向けることが未来につながるわけではない」。国際教育研究拠点を通じ放射線化学を地域振興の材料にすることは大きな目標の一つであり、復興副大臣を退任した後もフォローを続けていくという。

もう一つ、積極的に関わっているのが「脱プラスチック(脱プラ)」だ。脱プラに関わるようになったきっかけは、山形県酒田市の飛島訪問だという。飛島は、海岸漂着物などの処理を推進する「海岸漂着物処理推進法(海ごみ法)」立法のきっかけとなった場所で、現在も大量のごみが漂着する。

脱プラに関する政策の一つの成果が、19年の「海ごみ法」改正だ。この改正により、回収が困難なマイクロプラスチックに関する規制が加わった。さらに「プラスチック資源循環戦略」や、「プラスチック資源循環促進法」閣議決定につながる流れも作った。

脱プラは世界的な課題の一つであり、G7やG20でも議題に上っている。しかし現状は、まともなごみの回収システムすらない発展途上国も多く存在する。

「日本は3Rのうちリユース、リサイクルに関しては世界でも進んでおり、廃棄物を焼却して得た熱エネルギーを回収するサーマルリカバリー(TR)についても他国にはない技術がある。脱プラや温暖化対策が全く進んでいない国に対していきなり3Rを求めるのは難しく、『その前段階としてのTRの提案』など、もっと国際社会でアピールしていく必要がある」と主張する。

途上国には燃やすしかないプラごみが大量に存在する現実がある。脱炭素社会という世界的目標のために、わが国の技術協力を促進し、途上国のエネルギー効率化やCO2削減に貢献していく構えだ。

【石油】脱炭素化の担い手へ 炭素価格の導入を


【業界スクランブル/石油】

石油連盟は今年3月、政府の方針を踏まえて、「石油産業のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)」を発表している。

これによると、石油産業は、これまでの低炭素化の取り組みに加え、CO2フリー水素、合成燃料、CCUS(CO2回収・利用・貯留)など革新的な脱炭素技術の研究開発と社会実装に積極的にチャレンジし、業界として社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献するとしている。

業界として、将来のジリ貧を回避するために、従来の事業基盤の転換・拡大に加えて、むしろ自ら「脱炭素の担い手」を目指すとの決意表明であろう。

確かに、業界には、製油所における水素の製造・取り扱いへの熟練、基地や給油所など既存インフラの活用といった点で、水素や合成燃料への技術的優位性がある。ENEOSは燃料電池車向けの水素ステーションを積極的に展開してきた。特に、既存自動車や代替燃料の決め手に欠く航空機や船舶の燃料にも利用可能なカーボンフリー水素起源の合成燃料には期待したい。

また、上流では、CCS(CO2回収・貯留)は油田生産の逆の工程であるし、EOR(石油増進回収)といった増産技術への活用も可能である。ENEOSにはベトナムや米テキサス州での実績、石油資源開発があり、出光には苫小牧での経験もある。化石燃料に依存せざるを得ない需要が残る以上、貯留技術は必要不可欠だ。

やはり問題は、コストである。原理的には解明されていても、技術開発で劇的にコストを下げなくては社会実装は無理である。

ある程度までコスト低減が実現すれば、あとはカーボンプライス(炭素価格)でギャップを埋めることができる。その意味で、石油連盟が炭素価格導入を要望する日が早く来ることを期待したい。

同時にこのことは、石油をはじめとする石炭、ガスなどの化石燃料がいかに効率的で経済性があったかを、逆に、脱炭素社会がいかに高コスト社会になるかを示している。(H)

【コラム/6月23日】いい加減にしてくれ、進次郎君!


福島 伸享/元衆議院議員

 小泉進次郎環境相は6月11日の記者会見で、父である小泉元総理が宣伝塔を務めていた太陽光発電会社の詐欺事件への認識を問われて、「再エネ立地交付金」のような制度を作って、財政基盤が脆弱な事業者を支援していきたいとの認識を示した。そして、その制度は「今までだったら電源立地交付金、これからは「再エネ立地交付金」」と、電源三法交付金制度の根本的な見直しに取り組む意欲を示した。

 しかし、これはまったくの筋違いの素っ頓狂な政策と言わざるを得ない。小泉大臣は「これから再エネを最優先の原則で最大限の導入」と言っているが、市場原理を超えて、国費つまり国民の税金を投入してまで再エネを導入することは、果たして国民の理解と合意を得た政策なのであろうか。電源三法交付金は、一般送配電事業者が販売した電気にかけられる電源開発促進税を財源としており、同税は電気代に転嫁されるから、当然電気利用者たる国民の負担となっている。

 この制度ができた当時は、山奥の大規模ダム開発による水力発電所や大規模原子力発電所の建設に伴って必要となるインフラ整備、さらには発電所が立地する地方自治体と大消費地域の経済的格差の是正を目的としていた。私は、四半世紀前にこの交付金のとりまとめを担当し、新規立地候補地を訪ね回ったが、もんじゅの事故やJCO事故などが相次いだこともあって、原発の新規立地はこの交付金をもってしても経済的魅力が乏しく、住民投票による新潟県の巻原発の撤退などに見られるように新規立地は難航した。結果的に固定資産税收が逓減していく既存の原発立地地域に追加的に交付されていくこととなり、原発の新規立地を促すというよりは、原発の既設地域の自治体の緩み切った財政基盤を温存する役目しか果たしていない、と私は考えていた。

 電源三法交付金の実際の役割は、原子力推進を国策とする国が原発立地に直接関与しているという証文に過ぎず、原発新設にも地域振興にもつながっていないというのが私の結論である。立法当時の田中角栄が力をふるった高度経済成長期から時代は変わり、その在り方の抜本的な見直しが必要であると考えていた。民主党政権時に、特別会計の事業仕分けが鳴り物入りで始まり、私がエネルギー特会担当の「仕分け人」になった時、私のこうした考えを知る原発立地地域のある首長が、連日圧力をかけるために上京し、柱の陰から私を睨んでいた。私は、政治的な実力のない民主党政権では電源三法交付金の抜本的見直しはできないと思っていたので、多くは発言しなかった。

 小泉大臣は、こうした電源三法交付金の政策効果や負の側面を勉強したほうがいい。「原子力にお金を出しているんだから、再エネにも」というような、単純な予算の分捕り合戦の問題ではないのだ。そもそも、原発以外の他の民間事業で、事業に必要な施設を作る時に国からお金が出るようなものは、ない。設備投資や事業の遂行に関する資金を、金融マーケットから調達できないような事業は、そもそもビジネスとして成り立ちえない。資金が調達できない事業者は、マーケットから退場することによって、健全な再エネ発電市場は作られるのだ。

 そもそも再エネは、過疎地の大規模電源から大量の電気を遠隔の大消費地に供給する原発などと異なり、分散型電源として発電する地域のエネルギーを賄ったり、売電の利益を地域に還元し、エネルギー供給システムそのものを転換することこそがウリのはずだ。FIT制度やFIP制度は、そうしたエネルギー供給システムの転換を、極力市場メカニズムを歪めないようにして進めていく政策だったはずだ。この間、こうした制度を進めてきて問題となっているのは、小規模事業者への利益の確保ではなく、環境問題など様々な面でトラブルが続出している地域との共生のルールや、地域への利益還元の仕組みを作ることだ。

 「原発に使われているお金を再エネに」というような利権分捕り合戦の政策では、市場メカニズムが機能する健全な再エネ発電マーケットを歪めるだけでなく、最近自民党内でも跳梁跋扈し始めている「再エネ族議員」のメシの種をつくるだけになるだろう。小泉環境相は、最近も「リモートワークができてるおかげで、公務もリモートでできるものができたというのは、リモートワークのおかげです」と謎の言葉を発しているが、国家権力そのものである国民の税金を使う制度を、大した政策理解力もなく、実現する政策目標もあいまいなまま進めることは、亡国の道と言わざるを得ない。結果的に、国際競争力のない、ガラパゴス化した過保護で歪んだ再エネ市場ができ、自民党の新族議員を肥えさせるだけになるだろう。

 小泉環境相には、残り少ない任期を、得体のしれない新しいことに飛びつくのではなく、福島第1原発の処理水について国内外の理解を得て、風評被害を最小にするために汗を流すことに専念してもらいたい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

米国で初の炉心溶融事故 原子炉反応度の研究進む


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

1961年1月、米海軍の訓練用試験炉SL―1で世界初の炉心溶融事故が起きた。

事故原因の調査・研究が行われた後、解体撤去が行われ、97年に廃炉が完了している。

過去、炉心溶融事故を起こした発電用原子炉は、世界に6基ある。古い順に、米海軍の訓練用試験炉SL―1、スリーマイルアイランド(TMI)、チェルノブイリ、福島第一(3基)である。本稿では、事故炉についての廃炉の現状を、事故の経緯とともに今後述べていく。今回は順序に従ってSL―1の話だ。

SL―1事故を知らない人は多い。だが事故を起こした炉で、廃炉が終了したのはSL―1だけだ。SL―1は、米国アイダホ州の国立原子炉実験場(NRTS)に設置された初期の加圧水型炉(PWR)で、潜水艦の運転訓練に使われていた。カーター元大統領が原子炉を学んだのがここだ。

SL―1事故は単純な反応度事故で、補修員が停止中の原子炉から制御棒を手で引き抜いたことで起きた。理由は失恋による自殺という。巻き添えで、同僚1人が重篤な放射線被ばくで死亡した。

自殺志願者は、制御棒を引き抜いた瞬間、驚いたに違いない。立っている大地(原子炉容器)が、衝撃音と共に突き上がったからだ。原子炉は暴走状態となり、その熱で燃料棒が熔融蒸発して飛び散り、水蒸気爆発が起きて(水素爆発ではない)事故は終了した。

炉心の上部を覆っていた水は、水蒸気爆発によって一塊となって跳ね上がり、原子炉上ぶたを強く叩いた。いわゆるウオーターハンマー(水撃力)の発生である。

水撃力で打たれた原子炉容器は、飛び上がる過程で冷却配管を剪断し、クレーに激突して元の位置に戻った。剥がれた断熱材が、座蒲団のように原子炉の下に敷かれていたという。

冷却配管の剪断によって、粉々になった燃料と冷却水が炉室に噴き出した。幸いにも燃料棒が交換されたばかりだったので、炉心の放射能は暴走による核分裂だけで、外部への放散量も微量であった。

暴走の時間は約100分の1秒、最大出力は約1000万kW、そのエネルギーは13万kW秒(40 kW時)と推定されている。

非現実的な数字を羅列したのは、反応度事故の実体を知ってもらうためだ。核分裂反応がいかに早くて大きいか。原子力は常識を越える存在なのだ。事故の発生は1961年1月、この当時は、反応度事故が原子炉の最悪事故と考えられていた。

余談だがこの頃、日本初の原子力発電所、JPDRの契約が日本原子力研究所と米国GE社の間で結ばれようとしていた。その直前の事故だ。今なら大問題であろうが、当時は小さな記事であった。

困難な事故の原因立証 英国がアメリカに助け舟

短時間に大出力が発生して、原子炉が破壊した。火薬の爆発に似ている。こう考えた米国は、爆薬や火薬を使った再現実験を行った。だが成果は芳しくなかった。圧力容器に残された変形が模擬できず、容器が破裂してしまうのだ。

原子炉で生じる最悪事故の原因が立証できないとなれば、軽水炉の開発は宙に浮く。米国は困ったらしい。この時、イギリスが助け船を出した。電気加熱ヒータで炉心を模擬したモックアップを作り、大電流を流したところヒータが溶けて、水蒸気爆発が発生した。容器の変形も似ている。この実験で、反応度事故の破壊原因は水蒸気爆発と判明した。

ここで一服してクイズを。水蒸気爆発と、福島第一で起きた水素爆発とでは、どちらが怖いか?

答えは、水素爆発。それもけた違いに。水素爆発に較べると、水蒸気爆発など赤ん坊の様に可愛らしい。だから、容器は破壊しないで変形したのだ。これが解答。覚えておいて損はありませんよ。

以降の米国は、暴走の本質を解明するために、「BORAX」「SPERT」の実験を矢継ぎ早に実施する。SL―1の破壊原因は分かったが、水蒸気爆発の発生理由は何か、暴走出力と水蒸気爆発の関係は何か等々、反応度事故の謎を追求し続けた。これがほぼ究明されたのが事故後約10年、1970年ごろのことだ。

SL―1のオフィスを利用 米国が示す解体撤去の本質

僕はSPERT(Special Pow-er Excurtion Test)の暴走実験で留学時代を送った。この縁で、廃炉を担当する以前の30年間は、燃料破壊の実験を本職としていた。

留学時代、偶然に2日ほどをSL―1のオフィスで過ごした。原子炉建屋内側の壁は除染作中で、グラインダーの音が間歇的に響いていたが、きれいに除染された外側はオフィスとして使用していた。

ここに税金の無駄を嫌う米国の国民性が現れている。飛散した燃料の後始末が終われば、原子炉建屋も倉庫として利用する。この発想は、残念ながら日本にはない。

元来、解体撤去の目的は、放射能を取り除いた跡を自由に再利用する所にある。それは、土地だけではない。建物も同じだ。米国が示した解体撤去の本質、読者はしっかりと覚えておいて欲しい。

初の炉心溶融事故を起こしたSL-1

SL―1の廃炉は、主要部分が84年に、最終的なサイトの除染が97年に完了した。廃炉完了まで36年、事故炉としては短い。

理由は、第一に原子炉室の放射線量が低かったこと、第二にBORAX、SPERTの実験により事故を確かめた上で、安心して工事が進められた事が挙げられる。さらに今一つ、事故が単純な暴走事故だけで終わった事実を挙げたい。ほかの事故では、第2、第3のミスが事故を災害にしている。

例えば、TMI事故では、原子炉冷却材ポンプを不用意に回したことで、高温のジルコニウムと水の化学反応が起き、炉心が熔融し、水素爆発が生じた。炉心溶融と爆発は、事故時の対応の不味さが招いた第2の災害といえるのだ。

チェルノブイリも福島第一も、付随災害の発生が事故を災害に仕立てている。事故一つで終れば災害に至らずに済んだ。事故を一つに止め、付随災害を起こさせない、これは国防も安全も同じだ。

原子力安全が援用する米国の国防思想、深層防護哲学(Defense in Depth Philosophy)が教えるところが、これだ。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

賛否両論の処理水海洋放出 求められる地元への配慮


【多事争論】話題:ALPS処理水の海洋放出

政府は、福島第一原子力発電所のALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出を決めた。

決定を巡っては漁業関係者をはじめ、政界からも反対意見が出るなど賛否が分かれている。

〈汚染水増加の阻止が優先 海洋放出の前に止水工事をすべきだ〉

視点A:山本 拓 自民党衆議院議員

菅義偉首相は福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を決めた。私たちは風評被害を心配する漁業関係者などと共に一貫して、今海洋放出を決定することに反対してきた。だが、それらを踏まえて判断されたことであり、あえて反対するつもりはない。しかし、長年にわたって原子力行政を推進してきた政治家として、納得はしていない。この政治判断は国益を大きく損なう可能性があり、今後の原子力行政に不信感を与えかねないとも思っている。

首相は理由として、現状のままでは処理水が増え続け、サイト内のタンクの数が限界に達して、原発の廃炉作業に支障が出ることを理由に挙げた。確かに今は、燃料デブリに接触する汚染水の量が増えている。東京電力は建屋の周りに凍土方式の遮水壁を設置して地下水などが建屋内に入ることを防いでいるが、これが十分に機能していない。原子力規制委員会でも、専門家の会合で凍土壁がうまく働いていないことが指摘されている。

これ以上、汚染水を増やさなければタンクも増えないのに、なぜ汚染水が増えるのを放置しているのか。それを聞いたことがある。すると、「建屋の中に汚染水が多くあり、建屋外の水の水位が低いと汚染水が外に出てしまうので、水を増やしてバランスを取っている。それで汚染水は減らせない」と回答してきた。今もそれを理由にしている。

それならば、建屋の中に水が入り込めないように外壁部を止水すればいい。原子力規制委員会の会合で、ある外部専門家は「完全な構造壁を造ることで、流入水は完全に抑制できる。建屋の周りを防水すればいいだけで、難しい技術ではない。日本の建設技術なら簡単に防水はできる」と言っている。また国際原子力機関(IAEA)も勧告の中で、「まず早く止水をすべきだ」と指摘している。

ゼネコンの関係者に聞くと、止水はどの工事現場でも行われていて十分な経験、実績があり、福島第一原発の建屋の止水工事も長い時間をかけることなくできると言う。事故から10年経って建屋の周囲の放射線量が減ってきたこともあり、「工事はできる」と言うゼネコンは多い。汚染水が増えることを止めれば、今の冷却ループだけで原子炉などを冷やし続けることができる。

海洋放出は2年後というが、なぜ、それまでに止水工事を行わないのか。以前から経済産業省、東京電力に止水工事をしない理由について公開文書で尋ねているが、いまだに回答はない。政府は風評被害を心配して、税金を使い大規模な広報活動をするという。それよりも、本当に漁業関係者のことを考えるならば、まず止水工事を行い、汚染水が増えることを止めるべきではないか。

ほかの原発の処理水とは違う 魚介類の生態系への影響も懸念

世界中どこでも同じだが、原発は微量な放射性物質を含む処理水を放出している。しかし、福島第一原発の処理水は、事故で溶け落ちた燃料デブリに触れた放射性物質を含む汚染水を処理して放出することが、ほかの原発の場合と違う。ALPSでほとんどの核種は取り除くが、トリチウムのほかにも、わずかだが海洋放出する核種がある。東電はこれを十分に薄めて、基準以下にして放出するから人体への影響はないとしている。

だが、影響の対象は人体のみで、魚介類の生態系は対象になっていない。そのことを懸念し、米国のウェブ雑誌『サイエンス』に投稿した学識者もいる。そういったことが、風評被害を招くことを心配している。

海洋放出を韓国、中国が激しく批判している。彼らもトリチウムなどを放出しているから理屈としてはおかしいが、この両国が怒るのは無理もないと思う。福島第一原発は普通の原発と違い、炉心溶融を起こした事故炉だ。溶融デブリに触れた汚染水をALPSで処理はするが、感情的な反発は避けられない。もし韓国が同じことをしたら、日本海に面した私の地元の福井県でも同じように強い反発が起きただろう。いま、従軍慰安婦や徴用工問題、日米同盟強化などで日韓、日中関係は良好な状況ではない。その時期になぜ、あえて反感を買うような判断をしたのか。非常に悪いタイミングだったと思う。

漁業関係者などが反対していることから、自民党の中に、海洋放出に難色を示す議員は多い。中でも福島県をはじめ東北の太平洋岸に選挙区がある議員は、地元の支持者から再考を求められて頭を痛めている。昨年、この問題について議員を集めて勉強会を開くと、代理を含めてだが約50人が参加した。これからも海洋放出を懸念する議員が集まって会合を開き、政府に提言などをしていきたい。

やまもと・たく 法政大学卒。福井県議会議員を経て1990年衆院議員当選。農林水産副大臣、拉致問題等に関する特別委員会委員長などを歴任。当選8回。

【原子力】新増設の位置付け 安倍前首相も懸念


【業界スクランブル/原子力】

第6次エネルギー基本計画の今夏の閣議決定が見込まれている。5月の連休明け、基本計画の作成を踏まえ、資源エネルギー庁幹部が自民党の「最新型原子力リプレース推進議員連盟」の会合で、次のような発言をしている。

「4月22日に米国主催で開かれた「気候変動サミット」で、菅義偉首相が2030年排出目標(NDC)などを報告し、13年比46%削減と50%の高みを目指すと発言した。再生可能エネルギー5~6割、水素・アンモニア1割、CCUS(CO2回収・利用・貯留)+化石火力+原子力で3~4割を50年に達成することをベースケースとしてシミュレーションして試算している」

「再エネを主力電源とする方向が示されているが、お天気任せで、自然・社会・経済性の制約がある。原子力は現在9基が再稼働し、地元了解が4基で得られて、計13基の再稼働の準備が整ったところだが、将来の設備容量の見通しは60年運転シナリオでも50年に23基2374万kWにとどまり、40年代以降、設備容量は大幅に減少する」

「それだけに運転期間の在り方を含めた長期運転は重要で、その方策は政治判断だが、検討を求める声などが審議会などで高まっている。また立地地域からは、地域が将来に希望を持てる計画を求める声が寄せられている。基本計画についてまだ案文はなく、これから調整する。原子力については選択肢としての位置付けにとどまる」

結局、議連の会合で基本計画についての具体的な内容は一切示されなかった。リプレース議連の会合は「今回で終了」との声もあり、「エネ基見直しに合わせて新増設・リプレースを明確に推進する方針を打ち出す」という同議連の趣旨は不発に終わりそうだ。

会合に出席した安倍晋三前首相は、「私の地元のジルコニウム部品製造メーカーは、事業をパイプ椅子メーカーに売却した。このままでは部品を作れるのは中国の会社だけになる。原子力産業界が心配だ」と述べていた。前首相の懸念が杞憂に終わればいいが。(S)

【火力】な削減目標 実現の根拠なし


【業界スクランブル/火力】

4月に米国大統領主催で開催された気候変動サミットにおいて、菅義偉首相は「2030年度に温室効果ガスを13年度比で46%の削減を目指す」と表明した。従来目標の26%削減から7割以上の大幅な引き上げとなったが、数字の作り方の過程は全くの別物である点を正しく理解しておく必要がある。

従来の26%削減目標については、実現に向け相応の蓋然性をもって示された見通しであることがエネルギー基本計画の中に明記されている。省エネの目標が厳しすぎるなどの意見もあるが、主要を占める電力部門については、エネルギーミックス(電源構成)と削減目標が整合の取れたものとなるよう電力会社なども巻き込みながら作り込まれている。裏を返せば、S+3Eを念頭に電力価格やエネルギーセキュリティーに配慮しながら実現可能なエネルギーミックスを想定し、それを基に30年のCO2削減目標を導き出していたのである。現状では原子力の再稼働の遅れが懸念材料だが、それ以外は、個別の事情による課題は数多くあるものの、全体として想定の範囲内で推移している。

それに引き換え、今回の46%削減に関しては「政治決断」とか「野心的」と言えば聞こえはよいが、今のところ実現のための根拠が欠けている状況だ。

再エネ比率を3割台に増やし火力を4割程度に抑えるとの話も出ているようだが、そもそも、火力比率の目標を下げれば再エネが拡大するのだろうか。拡大が期待される太陽光や風力などの自然変動電源については、変動性を補完する調整力・予備力がなければ安定供給を維持することができない。つまり、調整電源を担う火力をむやみに削減して再エネを増やすと、たちまち安定供給が崩壊することになってしまう。

このように調整力を維持しつつ火力の比率を下げるという矛盾したことをやらねばならず、それには現場実態を踏まえた検討が必要で、単なる数字合わせでうまくいくはずもない。30年目標はそびえ立つ冬山のようなものだ。地図もコンパスも持たず、軽装備で登ろうとするのは無謀としか言いようがない。(S)

【マーケット情報/6月18日】欧米続伸、需要回復へ期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油を代表するブレント先物と、米国原油の指標となるWTI先物が続伸。需要回復への期待感が、一段と高まった。

国際エネルギー機関やトレーダーVitolが、石油需要の回復を予測。新型コロナウイルスのワクチン普及や、それにともなう移動の増加、経済活動の回復が背景にある。特に欧米で、感染防止策の規制緩和が続いている。

フランスの4月原油輸入量は、前年および前月から増加。また、製油所の稼働率上昇で、引き続き増える見込みだ。スペインの石油ガス会社Repsolは、燃料の増産を決定した。さらに、米国の週間在庫統計は、輸出増加と製油所の高稼働を受け、4週連続で大幅減少。米国の製油所における原油処理量は、2020年1月以来の最高を記録した。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、需給緩和観により小幅下落。マレーシアでは感染拡大が収まらず、全国的なロックダウンを6月末まで延長。燃料用需要の弱まりが予測される。また、イランでの生産と輸出の増加も重荷となった。

【6月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.64ドル(前週比0.73ドル高)、ブレント先物(ICE)=73.51ドル(前週比0.82ドル高)、オマーン先物(DME)=70.96ドル(前週比0.41ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.87ドル(前週比0.10ドル安)

【LPガス】30年以降が正念場 グリーン化加速を


【業界スクランブル/LPガス】

今後の資源・燃料政策の基礎となり、次期エネルギー基本計画に反映される報告書案を、資源・燃料分科会がまとめた。2050年カーボンニュートラル宣言や新型コロナ感染拡大に伴い大きく変化するエネルギー需給環境を踏まえたものだ。LPガスに関しては「エネルギー供給の“最後の砦”として、平時のみならず緊急時にも対応できる強靭な供給体制確保の重要性は変わらない」「燃焼時のCO2排出が比較的低いという特性を有しており、低炭素に貢献できるエネルギー」と、国民生活・経済活動に不可欠と位置付けた。具体的対応として、備蓄日数の維持とともに、災害時における避難所などでの自衛的備蓄や中核充てん所の新設・機能拡充への支援を継続していくとした。

カーボンニュートラル推進の観点からはどうだろうか。ボイラーや発電機などで石油燃料の燃料転換による需要増も期待できるとする一方で、産業のグリーン(非化石燃料由来)化を課題として挙げている。グリーン化施策では、バイオLPガスや合成LPガスなどの研究開発や、社会実装を目指す取り組みを後押しすると明記した。

資源・燃料分科会やエネルギー基本計画を検討する基本政策分科会の委員を務める橘川武郎・国際大学副学長は、「ガス体エネルギーは30年までは化石内部の燃転などで順風だろう。問題は30年を過ぎると、供給する燃料自体をカーボンフリーにする必要があり、風向きは逆転する」と警鐘を鳴らす。

脱炭素化の要請が加速する中、日本LPガス協会を事務局とする「グリーンLPガスの生産技術開発に向けた研究会」がまとめた最終報告では「即効性のある形での手段が当面存在しない中で、グリーンDME(ジメチルエーテル)とプロパン混合方式は、社会が求める速やかな社会実装に向けた有効策」としている。だが、都市ガス業界が進めるメタネーション(合成メタン)などよりハードルは高いと言わざるを得ない。国民生活・経済活動に不可欠なLPガス産業の維持へ、さらなる取り組みのスピードアップが必要だ。(F)

需要高度化と電化・水素化の実装 現実的な手段で地球温暖化対策を


【羅針盤】矢田部隆志/東京電力ホールディングス 技術統括室プロデューサー

カーボンニュートラル実行戦略〈第2回〉

産業・運輸を中心に最終エネルギー消費の約75%が化石燃料の直接消費だ。

脱炭素化と産業競争力の両立には燃料直接消費から電化・水素化へのシフトが鍵を握る。

今回は、拙共著カーボンニュートラル実行戦略』(エネルギーフォーラム刊)の第2章について紹介したい。

投資家は企業を財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンスなどの「長期的な企業価値の最大化に寄与しているか」で評価するようになってきた。企業の気候変動リスクを評価するため、気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD)も発足した。環境リスクの投資評価が確立したことにより、企業間取引において CO2フリーを条件として提示する企業も出現している。

これまで企業活動において、温暖化対策は、企業の社会的責任(CSR)活動の一環に位置付けられてきた。環境対策は、利益を生むものではなくコストである、ということが一つの理由である。

しかし、取引条件に CO2フリーが付されるということは、ビジネスとして発注をする製品の仕様に織り込まれることであり、売り上げに直接影響を及ぼすということでもある。これからは、CO2削減に向けた取り組みを各方面のステークホルダーに対して開示していくことが求められる。

供給対策から需要対策へ 非化石エネルギー源の選択

現在検討が進む第6次エネルギー基本計画では、2020年7月に開催された、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(第31回会合)で、今後のエネルギー政策として電化・水素化を掲げた。

CO2排出削減対策は、最終エネルギー消費の約7割を占める化石燃料燃焼をいかに削減するかが鍵である。電化・水素化の推進は最も現実的な手段であり、現時点でほかの選択肢がないことも事実である。

しかし、設備の低コスト化、プロセスやプロダクトの高機能化など、技術面・経済面での課題も多く克服に向けた対策が重要である。

既存の工場には、電気設備やガス設備、蒸気・水配管などさまざまな種別のユーティリティーが存在している。一般的に設備は15年でリプレースを迎えるとされている。パリ協定の50年まであと約30年間の期間があるため、工場や建築物で利用されている多くの設備は少なくとも1回、更新の時期を迎えることになる。したがって、化石燃料を消費する設備更新の機会を生かせば、需要家側での非化石化は実現可能である。

工場構内で最も重要なユーティリティーは蒸気インフラである。化石燃料をたいて水を蒸発させるだけの構造であることから、高度な技術がまだ未成熟であった高度経済成長時代に多くの工場で導入され、今でも蒸気インフラに依存している。

一度導入してしまうと改修後も同じ設備になってしまうことを「ロックイン効果」と呼ぶ。蒸気インフラのような工場のコアをなすインフラの場合、トラブルが発生すると、その影響は甚大であり、これまで導入したことのない設備を導入することは大きなリスクが伴う。このリスク回避もロックインの一つの原因である。

【都市ガス】英NGがガス売却 座礁資産化を懸念


【業界スクランブル/都市ガス】

「46というシルエットが浮かんできた」との小泉進次郎環境相の名セリフはさておき、4月22日開催の気候変動サミットで、菅義偉首相は世界に向かって「温室効果ガス・2013年比46%削減」を表明した。米国を中心に各国首脳が50%以上削減を表明する中、国際的信用を維持するために、日本にとって46%達成は絶対命題になったといえよう。

しかし、早くもこの目標は達成不可能との声が聞こえてくる。今年発表予定のエネルギー基本計画では、30年の原発比率20~22%を維持した上で、再エネ比率を30%台後半まで引き上げるという。それは現在9基が再稼働している原発を、今後10年間で約3倍の25基まで引き上げることを意味する。日本の政治家はCO2削減を理由に原発再稼働を押し進めることができるだろうか。再エネはどうだろうか。全国的に太陽光の設置はほぼ行き渡っている状態だ。今後はフローティング式洋上風力が最大の課題解決策となろうが、技術的・制度的に課題は山積みだ。

そうなると、化石燃料削減に拍車が掛かってくることは想像に難くない。石炭や石油はもちろんのこと、化石燃料の優等生である天然ガスも例外ではない。都市ガス事業者が「30年まで現状の方向性を維持しつつ、その後CO2ネットゼロに向けて戦略を考える」と悠長なことを言っているとしたら、CO2削減の流れから取り残されることになろう。

3月に「英国の大手エネルギー企業ナショナル・グリッド(NG)が、保有するガス事業の株式の過半を21年中に売却し、送配電会社を買収する」との報道があった。英国政府が推進するグリーン産業革命の中で、今後ガス需要は減少する方向だ。NGはガス事業インフラが座礁資産化する前に売却する戦略をいち早く打ち出したわけだ。

今後、世界的にNGに追従する動きがどの程度進むのか、大変注目されるところだ。ただし、その動きが顕著になったときに慌てても、既に「It’s too late」ということなのであろうが。(C)