1600tの上蓋が空中に 史上最悪のチェルノブイリ事故

【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.6】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

1986年、チェルノブイリ原発4号機が爆発事故を起こした。
そのすさまじさは、巨大な原子炉上蓋が高く浮き上がるほどだった。

原子炉火災に放射線被ばく、水蒸気爆発に水素爆発、燃料棒の建屋外への飛び出しに炉心の溶融――。原子力災害なら何でもござれがチェルノブイリ事故だ。それも当然で、事故は反応度事故に始まり冷却材喪失事故を併発している。事故の経緯も災害の様相も複雑多岐で、全ての紹介は無理だ。今回は爆発のすさまじさについて述べる。

圧巻は何と言っても、直径17m、重量1600tの巨大な原子炉上蓋が空中高く浮き上がり、爆発で空中回転(4分の3回転)して炉心上面に落下し、グラファイトブロックに突き刺さったことだ。これもTMI(スリーマイルアイランド)事故を起こしたジルカロイ・水反応の仕業で、水素ガス発生そのものの勢いが言語に絶する力を発揮した結果だ。

1600tもある上蓋が空中に浮き上がるとは考え難いが、1気圧の圧力が下面に掛かれば蓋は簡単に持ち上がる。問題は持ち上がった高さだ。直径17ⅿの円盤を空中で回転させるには最低8.5mの高さに持ち上げる必要があるが、蓋が持ち上がるにつれてガスは横に逃げ出す。この逃げ出しに打ち勝って、蓋の下面圧力を1気圧に保つ水素ガスが、チ事故では発生していたことになる。これは大変な水素ガスの大量発生だ。当時のソ連の論文は、遮蔽盤を持ち上げるには、冷却菅を引きちぎる必要があるので10気圧が必要と書いてある。その通りだろう。

再度書く。水素ガスの発生で、直径17m、重量1600tの原子炉上蓋が空中高く浮き上がった。すさまじいの一言に尽きるが、この主役が福島事故を起こしたジルコニウム・水の反応が作る水素ガスの力だ。なお、水素の発生時間は約1分そこそこであった。

飛び散った燃料棒 上蓋が冷却管を引きちぎる

遮蔽盤が一回転したことで、冷却管内に入っていた燃料棒は飛び散った。この説明には炉の構造を簡単に知る必要がある。

チ発電所は出力約100万kW、原子炉容器は直径12ⅿ、高さ8ⅿの鉄筋コンクリート造りの円筒形構造物で、底の厚さは3ⅿある。

原子炉の中は、一辺25㎝の四角な黒鉛ブロックを積み重ねた構造で、ブロックの中はジルコニウムニオブ製の冷却管1本が通っている。冷却管は燃料棒18本を内蔵し、下は原子炉底を通って給水ヘッダーにつながり、上は上蓋を貫通して汽水分離機に接続している。このような冷却管が約1700本でチ炉はできている。

原子炉上蓋が浮き上がるには、上下を結ぶ冷却管を全て引きちぎる必要がある。その幾割かは、燃料棒を内蔵した状態でちぎれたであろうから、蓋の回転による遠心力で中の燃料棒はほうぼうに放り出されることになる。

タービン建屋に落ちた燃料棒は、屋根に塗布された雨水よけのタールに着火して火災を起こした。火災は早期に消し止められたが、この消火による放射線被ばくで後日死亡した消防士は多い。

火は消えても、放射線を出す燃料棒は放っておけない。燃料棒を屋根から地面に突き落とす作業は、軍隊による人海戦術だった。作業は長いT字棒を使っての突き落としで、一人50レムが目安の、被ばく必至の突撃だった。号令一下、原子炉建屋から屋根に飛び出して、突き落として戻る仕事は秒刻みという。従事者数は延べ50万人との報道もあるが、実体は不明だ。

地上に落ちた燃料棒も突撃の繰り返しで穴を掘り、コンクリートを流し込んで埋め殺しにしたという。突撃の基点となる橋頭堡は遮蔽を施した貨車で、構内にレールを敷設して建設したという。原子炉建屋内部に落下した燃料は、今もそのままの放置状態にある。

消防士の中には原子炉に近づいて消火を試みた強者もいたが、放射線が高く放水できなかったという。その男が上から見た炉内は、赤と青の炎が黒鉛の隙間からちょろちょろと出ていたという。

見学に同行してくれた副所長は、自分も数回突撃に参加したという。被ばく線量は1回当たりほぼ50レムだったと語った。

原子炉の直上にある運転フロアの南北側の壁は簡易な造りで壊れたが、東西側は鉄筋コンクリート造りの汽水分離機室の仕切り壁であり爆発に耐えた。壁を補強して、東西にパイプを渡して梁とし、その上に鉄板を敷いて天井とした。南北の壁は壊れを補修し鉄板を当てて雨風を防ぐ壁とした。この応急手当が有名な石棺である。造る目的が放射性物質の飛散防止にあり、雨露をしのぐのが精一杯の粗末な仮設工事であったという。

なお2019年、EUの援助によって石棺を覆う新しい建造物が出来上がり、チェルノブイリの安全隔離が完成した。新建屋内での将来計画は未定という。

事故発生から3日後のチェルノブイリ原発

破壊された建屋内部 流れ出した水素ガスが爆発

原子炉の横手にある建屋内部の破壊もすさまじい。原子炉からの冷却水循環配管が破壊し、流れ出した水素ガスが建屋の各場所に拡散して爆発を起こす原因を作った。破損したのは炉心下の再循環水の配分ヘッダーの辺りで、最も強度の弱い配管部分が水素ガス圧力で内圧破裂したという。

発電所の造りはロシア特有の頑健な造りだ。しかし大きな爆発が建屋の内部で幾回か起きたのであろう。太い梁が真ん中で割れて、割れた梁と頑丈な柱とがL字状になって、斜めに傾斜して倒れかけているのを見た。その奥はがれきと残骸の山でよく見えなかった。

爆発も派手だが、汚染もひどい。丸2時間ほどの見学で僕の浴びた放射線量は約1ミリシーベルトほどだったが、ほかの同行見学者はその3分の2程度であった。この差は僕の単独行動にある。炉上面とおぼしき方向に掛けられたはしごに了承を得てよじ登らせてもらったのだが、天罰覿面、結果は手の汚染となって表れた。二重手袋にもかかわらず、手の甲の汚染が出口で判明した。せっけんで洗っても汚染は取れない。業を煮やした案内人が軽石でゴシゴシとこすって汚染を取ってくれたので退出できたが、その痛かったこと、今も覚えている。

僕が昇ったのは高さにして5mばかりで、時間でいえば20秒足らずだ。だが、被ばく線量は画然と差が出た。はしごも汚れていたのだろうが、溶融炉心の汚染は非常に微細で、かつ高いと考えて間違いない。

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いしかわ・みちお  東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3 https://energy-forum.co.jp/online-content/5381/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.4 https://energy-forum.co.jp/online-content/5693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.5 https://energy-forum.co.jp/online-content/6102/

【火力】電源別の発電コスト 定量的提示を評価

【業界スクランブル/火力】

第六次エネルギー基本計画の策定に向けた検討が、いよいよ最終盤を迎えている。2030年度の温室効果ガス削減目標46%という縛りのある中で、整合の取れた計画とするべく懸命の検討が続いているが、そこで盛んに使われている“野心的”という表現に問題の困難さがにじみ出ている。エネ基の素案発表に先立ち電源別発電コストの試算結果が公表された。「数字が独り歩きしないように」という各委員の願いむなしく、報道では太陽光の発電コストが原子力を下回った点ばかりが強調されている。そもそも資源エネルギー庁が試算する発電原価は、一定の前提の下に想定したモデルプラントに対して計算された仮想のものもあり、地点ごとに条件が異なる実際の電源建設の判断に、この試算結果が影響することは全くない。

今回の発電コスト検証で注目すべきは、「統合コスト」という新しいコスト概念を採り入れようとしている点だ。統合コストは、変動する再生可能エネルギーの大量導入に伴い電力システム全体で必要となるコスト全体を指している。従来、再エネ大量導入のために送配電設備の整備にばかり関心が集まっていたが、変動性を補うのに必要な諸々のコストを網羅しようとするものであり、電源側や需要側の対策費用を定量的に示そうとしている点は大いに評価できる。

統合コストは、発電量が変動する電源や需給バランス調整に寄与しない電源の発電コストには大きくプラスに働き、調整力を供給する電源にはわずかにプラスもしくはマイナスの効果がある。数値の絶対値については、燃料費などその時々で変化する諸元に左右されてしまうが、調整力の寄与度に応じて増分が抑えられる傾向に変わりはない。つまり統合コストを加味することにより、電力系統全体への影響も含めた電源価値が定量的に表されることになる。統合コストは比較的新しい概念であり、定量化に向けてはさらなる検討が必要とのことだ。しかし、今後火力の運用形態の最適化を検討する上で、調整力向上分も加味した定量的な指標となることを期待したい。(S)

【原子力】原発産業は安楽死? エネ基案に反発噴出

【業界スクランブル/原子力】

エネルギー基本計画の素案が公表された。再生可能エネルギーへの大幅シフトを強力に打ち出す一方、梶山弘志経済産業相の「新増設を打ち出すのは10年早い」という「原発再稼働一本足打法」に沿い、事実上の国内原発産業の「安楽死」容認の内容となっている。この素案を資源エネルギー庁は自民党の各議連や本部政務調査会などへ説明したが、さまざまな反響が生じている。茨城県選出の有力代議士から筆者に、「素案については、私たちの要望通りにならないようですが、これではカーボンニュートラルの達成どころか、国民生活や日本経済を毀損するのではないかと危惧しています」というメールが寄せられた。

また、ある元閣僚からも電話が寄せられた。「素案の内容についてエネ庁の高官が来て分厚い資料を使って説明した。再エネを大幅に増やすことが特徴だが、数字合わせの内容が多いだけでなく、肝心の原子力についての内容が乏しく、耐用年数や再稼働の動向などによっては目標実現のめども立たない。こんなものを閣議決定するそうだが、何の意味があるのか」と語っていた。

実際、エネルギー基本計画には、懸念すべき点が少なくない。基本計画の根拠法であるエネルギー基本法は、国会で国会議員が真剣に議論を重ねることを想定している。しかし、今は国会で真剣な議論を重ねることを意図的に避けようとする傾向が目立つ。また、エネルギー政策の基本はS(安全性)+3E(経済性、環境性、供給安定性)とされているが、Sについて、最近は漠然とした大都市の安全性議論に終始しているように思えてならない。中央紙の厳しい抽象論調に引きずられるのではなく、立地地域のマスコミ・市民の現実的・具体的な議論こそ重視すべきだ。

エネ基の検討段階で、再エネを一定以上にするとコストが4倍にも膨れ上がり、わが国の産業競争力や雇用が失われるという議論があった。これらの諸点をいま一度掘り起こし、地に足が着いたエネルギー基本計画がまとめられることを切望する。(S)

46%減で必要論高まる炭素価格付け 論争続く政策課題の潮目変わるか

【多事争論】話題:46%減目標とカーボンプライシング

カーボンプライシングに関する経済産業省、環境省の審議会の検討結果が出そろった。

2030年度46%減目標を受けてどう考えるべきか、両審議会委員の見解を紹介する。

<目まぐるしく変化した温暖化目標 導入目的化でなく効果の精査に重点を>

視点A:工藤拓毅(日本エネルギー経済研究所理事)

日本がパリ協定に基づくNDC(国別目標)として、2030年度までに13年度比で26%削減を目指す内容の文書を気候変動枠組み条約事務局に提出したのは15年末であり、50年までに80%の削減を行うという長期戦略は19年6月に提出された。

その後、50年目標達成を目指す革新的環境イノベーション戦略が20年1月に策定され、地球温暖化対策計画の見直しと関連する第六次エネルギー基本計画の策定が始まった。ところが、同年10月の菅義偉首相によるゼロエミッション宣言により長期目標が強化され、21年4月には30年度の目標も46%まで引き上げられた。ゼロエミッション宣言を受け、政府は50年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を20年12月に策定したが、その後強化された30年度排出削減目標への対応も視野に入れた成長戦略実行計画を21年6月に閣議決定した。このように、日本のGHG(温暖化ガス)目標を巡る政治的・政策的な取り組みは、短期間で目まぐるしく変化した。

そうした動きの中で、20年末策定のグリーン成長戦略では、カーボンプライシング(CP)などの市場メカニズムを「成長に資するものについて躊躇なく取り組む」と明記された。菅首相の指示を受けて、環境省と経済産業省はその取り組みの在り方の検討を開始し、7月末~8月初旬にそれぞれの中間報告が取りまとめられた。それぞれの検討が進む過程で、閣議決定された成長戦略実行計画では、両省におけるそれまでの検討結果を踏まえながら、①わが国における炭素削減価値が取引できる市場(クレジット市場)を活性化する措置を講じる、②まずは、J―クレジットや非化石証書などの炭素削減価値を有するクレジットに係る既存制度を見直し、自主的かつ市場ベースでのCPを促進するとともに、③炭素税や排出量取引については、負担の在り方にも考慮しつつ、プライシングと財源効果両面で投資の促進につながり、成長に資する制度設計ができるかどうかの専門的・技術的な議論を進める―という方向性が示された。今後は①②のクレジット活用促進に向けた具体的な制度設計と並行して、③で示された制度活用の可否に関してより踏み込んだ議論が行われることになる。

実行計画の原則に照らし合わせて 制度設計の検証は客観的に

今後のCPの活用の在り方は、どういった視点で考えるべきであろうか。短期間の間に中長期的な目標の強化が行われた状況では、制度の導入を目的化するのではなく、CPによる効果を精査し判断する姿勢がより一層重要になる。CPの議論は長く行われてきたが、今後は前述の実行計画に記された「成長に資すること」と「目指す目標がカーボンニュートラルであること」を原則として共有し、この原則に適合する制度設計であるか検証されなければならない。

例えば、30年目標達成に向けて高額の炭素税を課すことは、企業の国際競争力や家計への影響が懸念され、成長に資する原則にそぐわない可能性が高い。また、カーボンニュートラル達成原則に則して考えれば、多くの将来シナリオ分析が示すように、カーボンニュートラル達成には、全ての主体がゼロエミッションに到達するのではなく、ネガティブエミッション技術の開発・普及を促進するとともに、企業などのGHG排出主体がそれらの成果を活用してゼロエミッション化を目指す枠組みが必要になる。実行計画では、自主的かつ市場ベースでのCPを促進することを目指すとしているが、こうした取り組みを通じた制度的基盤整備は、将来的なネガティブエミッション技術の成果活用に不可欠であり、有効な取り組みであると考える。

このように考えると、CPを巡る主要な論点の一つは、ネガティブエミッション技術(今後の移行期を考慮すれば、水素やCO2回収・貯留のようなゼロエミッション技術を含む)の開発と普及を促進するCP制度の在り方であるが、技術開発とCPとの相互関係については多様な見方があり、単純に評価することが難しい命題である。実際には、技術開発促進への政府の関与の在り方(開発資金支援、共同開発体制の構築、将来炭素価格の明示化など)が、結果的にCPの活用の是非や制度設計の判断に結び付くと思われ、総合的な政策評価の視点が求められる。

最後に、電力市場をはじめとしてエネルギー関連市場の制度や(参加者を含めた)構造がより複雑化する中で、CP導入による効果や影響の波及経路を詳細に分析することは容易ではない。制度導入を目的化せず、制度検討の原則に則した客観的な検証・評価が、今後の専門的・技術的検討プロセスに求められる要件であろう。

くどう・ひろき 1991年筑波大学大学院環境科学研究科修了(学術修士)後、日本エネルギー経済研究所入所。2018年7月から現職。

【マーケット情報/9月20日】原油混迷、方向感を欠く値動き

【アーガスメディア=週刊原油概況】

9月20日までの一週間における原油価格は依然、強弱材料が混在し、各地で方向性を欠く値動き。また、価格の変化は引き続き、小幅に留まった。北海原油の指標となるブレント先物と、中東原油を代表するドバイ現物は、前週から若干上昇。一方で、米国原油の指標となるWTI先物は、小幅下落となった。

米国メキシコ湾ではハリケーン「ニコラス」が発生し、14日以降、生産が一時停止。また、9月10日までの一週間における米国の原油在庫は、ハリケーン「アイダ」による生産停止を受け、大幅に減少した。加えて、マレーシア・サバ州の洋上生産設備の一部に不具合が発生し、11月の出荷に遅延が見込まれている。

需要面では、OPECが、2022年の石油需要予測を、日量100万バレルほど上方修正。新型コロナウイルスのワクチン普及と、経済回復を根拠としている。需給逼迫感が一段と強まり、ブレント先物とドバイ現物を支えた。

ただ、米国メキシコ湾での生産は徐々に復旧し、20日時点で82%の設備が稼働再開。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した、17日までの一週間における国内の石油掘削リグ稼働数は10基増加し、411基となった。さらに、リビアでは、東部の輸出港におけるデモが16日に終了。出荷再開が可能となった。

加えて、中国の8月原油処理量は、過去6カ月で最低を記録。新型ウイルス変異株の感染拡大が背景にあり、WTI先物の重荷となった。

【9月20日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.29ドル(前週比0.16ドル安)、ブレント先物(ICE)=73.92ドル(前週比0.14ドル)、オマーン先物(DME)=72.54ドル(前週比0.72ドル高)、ドバイ現物(Argus)=71.95ドル(前週比0.37ドル高)

【コラム/9月21日】「地球エコロジーから当り前のエネ選択を考える~化石エネの代替エネは、原子力拡大・再エネ推進の複線思考で」

飯倉 穣/エコノミスト

1,菅義偉政権決断のカーボンニュートラルに取り組む総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第(21年8月4日)が開かれた。報告案取り纏めで化石エネ扱いへの危惧や原子力推進のコメントがあった。現在パブリックコメント(9月3日開始)中である。

報道もあった。「国2030年試算 発電コスト原発11.7円以上、太陽光が下回る見通し」(朝日8月4日)、「エネ基本計画案 原発 将来像の判断先送り 小型炉研究は推進」(同5日)。

今回の素案を見ると、政治目標ありきで実現性検証は困難な下、再エネは精一杯努力する漸進主義。原子力は発電所新増設が明確でなく及び腰である。これで経済成長かつカーボンニュートラル達成のエネルギー手当てが可能だろうか。気候変動対策のエネルギー選択の基本を改めて確認し、原子力の扱いを考える。

2,気候変動対策の要諦は、生物の環境形成作用で作られた現地球生態系(地球エコロジー)の保持である。生物は、無機的環境と相互作用で原始大気(気圧30気圧、CO2濃度95%)を約40億年かけ現在の大気(1気圧、CO2濃度0.04%以下)とした。この大気の下で、人間は地球生態系の一部である局所生態系を破壊・改質し都市・経済活動を行っている。意識すべきは「人類は、農業と工業の恩恵で自然の局所生態系の制約を脱しながら、依然地球生態系に依存している」ことである。

活動に必要なエネルギーの85%は化石エネで、現経済水準を維持している。排出CO2は、温暖化を加速し気候変動に伴う災害等で人類の生存基盤を危うくする。

3,地球エコロジーの視点から見れば、エネルギーの選択肢は、明解である。化石エネを不使用とし、核反応(核融合・分裂)か自然エネ(太陽光由来か地殻内の放射性物質の崩壊熱由来:地熱)利用である。その高度利用(エネ変換)に一定の技術水準を要する。核分裂の一部は現在技術、再エネ利用技術は発展段階技術、核融合は22世紀技術である。選択肢は少ない。

4,この事実にもかかわらず、再エネ一辺倒論者がいる。恰も月光仮面(正義の味方)である。ジェレミー・レゲット(グリーンピース)は、物質利用で予防原則を掲げ、温暖化対応で化石燃料使用中止、省エネ・再エネ推進、結果的に再エネ軽視となる原子力利用を否定する(1991年)。その流れか、グリーン派は、原子力利用を拒絶する。例えば気候ネットワーク関係者等は、石炭火力と原子力発電は全廃し、過渡的に「自然再生エネルギー50%、天然ガス火力50%」と述べる(日本記者クラブ会見8月2日)。気候変動対策の本丸として大幅な省エネと「再エネ100%」を力説する。エコロジスト(生態保護論者)なら、世代間倫理から化石エネゼロである。緑大事の人の暫定的天然ガス利用容認は不可思議である。

5,ジェームズ・ラブロック(英国 生物・物理学博士)は、自己調節する地球をガイアと名付けた。地球温暖化対策は手遅れ状態であり、化石エネをやめ、核融合と再エネが有効利用できるまで、核分裂エネが安定した電力源として必要と述べた。そしてガイアが養える人口は5億人か10億人と考えた。(「ガイアの復讐」2006年)。

人類が経済水準維持の欲望を追求するなら、地球エコロジー的には、再エネだけでなく原子力技術を利用し、同時に人口規模と経済水準の検討が必要である。

6,今回のエネ基本計画策定は、第一次オイルショック後のエネルギー需給見通し作成に類似する。技術的・経済的に積上げ可能な供給量不足に直面している。当時は、石油供給制約(量と価格)の下で、経済成長・エネルギー確保を目指し、需要抑制と石油代替エネルギーの確保がテーマだった。発電部門は、石炭、LNG、原子力、地熱、新エネ・再生可能エネルギー(研究開発対象)の選択だった。不足分の皺寄せは、再エネ等新エネ(技術開発期待)で賄う姿となった。結果は、成長率低下による需要停滞、省エネ、LNG・石炭という化石エネの活用、原子力の拡大、わずかな地熱活用となった。経済的に実用段階だったLNG・石炭・原子力が大きな役割を担った。

7,今回の基本計画は、エネルギー需給で、需要縮小と化石エネ代替エネルギーの確保がテーマである。選択肢は少ない。非化石は、核融合(研究開発中)・核分裂(原子力発電、実用段階)、太陽電池・風力発電(補助金付き実用化)、地熱他の再エネ(多くは研究開発段階)のみである。

発電コスト検証では、太陽・風力も10円/kwh前後でいずれも実用段階の印象を受ける。故にその拡大は如何様にも可能なようだが、量的拡大に伴う立地制約が顕在化している(国土利用計画不在)。またコスト検証も2030年の話である。つまり介護保険付き再エネ(現在3兆円弱の国民負担)では、経済水準維持は困難である。経済性でも原子力の着実な利用拡大が必要である。

8,勿論原子力活用には、技術者・経営者の意識覚醒・対応努力・想像力・説明力向上が求められる。また原子力規制委員会にも課題がある。福島事故は、津波への対応問題である。津波対策に特化すれば、10年放置することなく再稼働可能であった。

地球エコロジーの基本を考えれば、再生エネ一本足打法でなく、原子力発電等使えるものをフルに活用する複線思考こそ大切である。また化石エネは、限定的ノーブル・ユースとなろう。日本人の陥りがちな単線思考だけは回避したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【LPガス】船舶への新環境規制 変動フレートで対応

【業界スクランブル/LPガス】

カーボンニュートラルに向けた動きが加速する中、港湾・海事分野においても環境規制がさらに厳格化される。国際海事機関(IMO)は、世界の大型外航船への新たなCO2排出規制として「既存船燃費規制(EEXI)・燃費実績(CII)格付け制度」に関する条約を採択し、2023年1月からの運用開始を決定した。新たな規制がLPG業界へもたらす影響は必至だ。

新国際規制は、燃費性能を事前に検査・認証し、毎年の実績を事後チェックするもので、性能に劣る既存船にペナルティー(出力制限や改造による燃費改善)を与え、新造代替を促進することが狙い。EEXI規制(エンジン出力制限などにより、新造船と同レベルの燃費性能を義務化)とCII規制(1年間の燃費実績を5段階評価。低評価時は改造計画を提出)の補完により40%以上のCO2削減を目指す。

対応策は、エンジンの出力制限、機器改造の2通りが考えられる。主に出力制限での対応となり、航海日数の増加が懸念されている。出力制限幅は個船ごとに異なるが、一般に船齢の高い船ほど影響は大きくなる傾向にあるという。LPG輸入船は、建造から廃船まで25年程度運航する前提で建造されており、急速に進展する環境変化、規制強化への対応に迫られている。

LPG元売りのアストモスエネルギーは、これらを受け来年1月出荷分の価格フォーミュラの一部に変動フレートを採用することを決定した。同社はこれまで安定供給を第一に自社船(3隻)、定期契約船(18隻)を保有し、固定フレートで運用してきた。しかし、今後も厳格な環境規制が予測されるため、安定供給、リスク回避の面からも変動フレートに切り換えるもの。また、世界初の定期用船(VLGC)規模でのカーボンニュートラルLPGの調達や、8月末には国内初となるLPG燃料エンジンを搭載した大型LPGタンカーの運航開始を予定するなど、環境負荷の低減、低炭素・脱炭素化への取り組みを加速させている。LPG燃料は重油に代わるクリーンな船舶燃料として関心が高まっており、他元売りの対応なども注目される。(F)

【都市ガス】ニチガスの新戦略 プランBを提起

【業界スクランブル/都市ガス】

ニチガスの株主総会において脱炭素化戦略が発表された。その戦略に対してLPガス業界から批判の声が出ているという。「LPガスを捨てる意思表示をした」というのが、その理由だ。ニチガスといえば、いち早くDXへの変革を決断し、無人稼働を目指した世界最大のLPハブ充填基地や無線通信検針による配送業務の効率化、他社へのLPプラットフォーム提供など、LPガス事業内でも革新的な戦略を矢継ぎ早に展開しているのに、なぜなのか。

今回の脱炭素化戦略では、2030年度のCO2削減目標達成のためにエネファームを捨てて、エコジョーズとハイブリット給湯器の普及促進にシフトする戦略が明示されている。さらに、ニチガスの持つ個々のお客さまとのネットワークをフル活用して、LPガス自動車ではなくEVの販売を行い、同時にEV電力料金メニューを提案し、さらには電化の営業も強化して電力販売促進につなげるものだ。この戦略は、今後もLPガス事業を推進しつつも、世界的脱炭素化の動きに伴う電化シフトを見越して、プランBを打ち出したものといえよう。

しかし、これがLPガス元売りにしてみると面白くない。もっとプロパネーションを強調して、LPガス事業が今後も持続的に成長していくと明言してほしかったのに、脱LPガスを暗示させるような戦略になっていることに不快感を覚えているわけだ。そこには、化石燃料を取り扱う事業者にとっての、将来を見通せない不安感情が見え隠れする。

ひるがえって、都市ガス事業はどうだろうか。LPガス同様、メタネーション一本足打法だけでは、将来を見通せないことは誰もが分かっているのではないか。エネルギー基本計画では、30年までにエネルギー需要量は2割弱削減され、熱燃料の需要量は2.5割減少する。われわれにもプランBが必要なのではないか。「環境変化に従って自らを変えることができるものだけが生き残る」というダーウィンの進化論は誰もが知っているはずである。(G)

地域共創に必要なもの ビジョンと地域と仲間

【私の経営論】川村憲一/トラストバンク代表取締役

過去2回の連載では、トラストバンクの組織作りとビジョン経営について紹介してきた。今回は、当社が大事にしている「地域共創」についてお伝えしたい。
当社のビジョン「自立した持続可能な地域をつくる」―。これはトラストバンク単独、ましてや一人で実現できるものではない。多くの共感する仲間がいるからこそビジョンの実現に近づく。地域の発展も同様だ。インターネットやモビリティーなどの技術革新により、これまで以上に地域外との交流が生まれている現在、地域内のコミュニティーを考えるタイミングが訪れている。今後は地域内に閉ざした世界観ではなく、地域の未来像(ビジョン)を明確にし、その地域に関わる皆で盛り上げていくことが必要になっている。
現在、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」は全国の9割以上の自治体が利用しており、多くのおカネを全国に還流させている。ただし、それだけで地域に変化を起こすのは難しい。地域と向き合い、理解する必要がある。

共創に必要な相互理解 自治体とビジョンを共有

どの自治体も総合計画を策定する。当社は自治体の中長期の方針を理解し、そしてふるさと納税において寄付を集めた先の使い道を知ることを徹底する。自治体を知るのは現場だけではない。私が全国行脚して行っている首長訪問を通じて、自治体のビジョンを、資料を読み込むだけでは分からない背景も含めて理解することを同時に進めている。こうすることで、うわべだけの情報で理解したつもりにならず、「生」の言葉を通じて自治体をより深く理解する。相手を理解した上で、当社のビジョンや想いをお話しして、トラストバンクを理解してもらうのだ。
また、自治体職員向けにふるさと納税に関するセミナーや実務者向けの勉強会を全国で実施している。これらは、ふるさと納税制度や制度に関わる業務内容の説明、先輩職員がどのような想いで活動してきたのか、そこにトラストバンクのメンバーがどのような想いで関わっているかを共有する重要な場となっている。制度を通してどう地域を持続可能にしていくのかを議論したり、自治体職員同士の悩みを相談する場としても欠かせないものとなっている。
会合では、ふるさとチョイスの想いやふるさと納税で起きた変化などを共有し、自治体職員一人ひとりが、ふるさと納税でどんなことができるかをイメージしてもらう。当社の想いを言葉で理解してもらうだけではなく、伴走する中で体温を感じてもらいながらお互いの理解を深めていく。
逆に、自治体職員からトラストバンクに勉強会を開催してもらうこともある。勉強会の講師を担当してくれた自治体職員はこう話す。「トラストバンクの考えに共感し、地域のことを一番に考えてわれわれと伴走してくれる姿に感銘も受け、自治体と民間企業という間柄ではなく、『仲間』として時間を共にしてきた。今後どんなに会社の規模が大きくなろうとも、大好きなトラストバンクには自治体と共創することでビジョンを達成してもらいたいという想いが胸にある。入社して間もなかったり、普段自治体職員と関わることがないスタッフ向けに、自治体視点でトラストバンクがどれほど素晴らしい企業なのかという客観的な意見を伝えたかった」。そうした想いから開催された。
お互いの理解をさらに深めていくためには、地域課題を解決するために提案し、伴走することが重要である。昨年2月27日、コロナ禍で全国一斉休校となり、給食の食材を提供している事業者が悲鳴を上げた。そこで、3月4日に給食事業者の品をお礼の品として提供し、寄付者がこれらの事業者を支援できるプロジェクトを立ち上げた。その後も観光関連や外食産業関連、花卉関連と矢継ぎ早に事業者支援プロジェクトを立ち上げ、1年半で約185億円を全国の事業者に届けることができた。
例年起きている災害でも、継続的な被災地支援を実施している。弊社は災害が発生した際、早ければ発災当日に被災自治体のプロジェクトを立ち上げ、寄付を募る。自治体が災害対応に追われている中でも、自治体と日頃から密なコミュニケーションを取っているからこそ、迅速に連絡が取れ、このスピードで寄付を募ることができる。災害の寄付では、寄付募集が3日遅れると6~7倍程度、寄付の集まりに差が生まれるためスピードは非常に重要である。

被災自治体のサポート 地域を超えた共助の形

実は、災害支援の話には続きがある。被災自治体は、発災中は現場対応に追われているため、寄付に対する事務手続きなどに手が回らず、寄付を募ることが難しい。当社では、これを解消すべく被災していない自治体が代わりに寄付を受け付ける代理寄付という仕組みを提供している。これまで多くの自治体が代理寄付を請け負ってくれた。まさに地域を超えて助け合うという共助(共創)の形が出来上がった。
当社のスタンスとして「困っている人を助けよう」「面白いことをやっているから応援しよう」そんな世界をつくりたいと思っており、もっと仲間が必要だ。だからこそ、そこに共感してくれる人がイメージしやすいように明確なビジョンが必要になる。そして、共感してくれる自治体を含めた地域やアライアンス企業と一緒に取り組みをしていく。
「自立した持続可能な地域をつくる」―。自立した仲間たちがお互いのビジョン実現のために支え合う相互依存により持続可能な状態を可能にすると信じている。

かわむら・けんいち 食品専門商社を経て、コンサルティング会社で中小企業の新規ビジネスの立ち上げなどに従事。大手EC企業を経て、コンサルティング会社設立。2016年3月トラストバンク参画。ふるさとチョイス事業統括やアライアンス事業統括を経て、20年1月から現職。

【新電力】小売り部門の意義 脱炭素政策が鍵

【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者には、本質的な価値はあるのか――。今冬の電力需給ひっ迫を経て、このような言説を見聞きすることが増えた。実際、電力システム全体の中で、小売り部門は調達(発電)費用・託送料金(流通費用)の料金回収機能を担っているが、700社以上の事業者がしのぎを削るだけの価値のある市場だとは到底言えない。小売り部門は明らかに自由化前よりも非効率となっていると考えられる。

一方で、2050年カーボンニュートラル目標の実現や8月9日に公表されたIPCC第六次評価報告書における世界の気温上昇予測(今後20年以内に産業革命前からの気温上昇が1.5℃に達する可能性)を鑑みると、発電部門だけでなく需要家内のエネルギーリソースの脱炭素化は喫緊の課題であるといえる。

日本と同様、熾烈な小売り電気事業者間の競争が行われている英国では、7月23日にビジネス・エネルギー・産業戦略省から「Energy retail market strategy for the 2020s(20年代のエネルギー小売り戦略)」が公表された。戦略では、20年代の小売市場の目標として、①需要家の行動変容を容易にし、エネルギー転換を実現するための持続可能な小売市場の実現、②さらなる競争環境・需要家が競争の果実を得られる仕組みの実現―の2点を挙げている。日本の小売市場にも通ずるものがあるのではないだろうか。

かつて、一般電気事業者において、配電設備の運用・維持に関わる機能は営業部門が担ってきた。それだけ、営業機能と配電設備は密接な関係にあるのだが、現在の小売り電気事業者においては発電・流通整備費用の料金回収と需要家内の設備把握・工事対応機能が残っており、重視されているのはもっぱら前者である。今後、分散電源・EVの導入拡大と脱炭素化に向けた機運の高まりにより、後者の機能強化が求められるのではないだろうか。そのためには、カーボンプライシングなど、需要家の脱炭素化が経済合理性を持つような政策の実現が必要である。政策当局には、需要家の脱炭素化に向けた政策の実現を強く期待したい。(M)

付加価値サービスにこだわり 脱炭素時代のニーズに率先対応

【エネルギービジネスのリーダー達】谷口直行/エネット社長

低価格競争が続いてきた電力小売り市場で、付加価値サービスにこだわってきた。

今後も、脱炭素時代に求められる新たなサービスに率先して取り組み電力業界をけん引する。

たにぐち・なおゆき 1989年日本電信電話に入社。2000年エネット設立に合わせ経営企画部課長に就任。NTTアノードエナジー取締役などを経て21年4月から現職。

 2000年の電力小売り部分自由化のスタートに合わせ、NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの共同出資により誕生した新電力最大手のエネット。今年4月に就任した谷口直行社長は、同社の立ち上げに携わり、新電力として、そしてかつて自由化を経験した通信事業者として、16年の全面自由化に向けた電力市場制度の詳細設計議論の場で意見を発信、大きな役割を果たした一人だ。

安定供給に貢献へ サービスメニューを転換

通信系の技術者としてキャリアをスタートさせながら、この20年の間は電力事業に関わった期間の方が長い。NTTグループが19年6月にグループのエネルギー関連事業を統括する戦略会社としてNTTアノードエナジーを設立すると、その取締役スマートエネルギー事業部長に就任。エネットを離れていたのはわずか2年だが、「電力事業を取り巻く環境は、これまでにない激変を遂げた」と実感しているという。

その背景には、長期化する新型コロナウイルス禍が社会様式の在り方に変化をもたらしていることに加え、昨年の10月に菅義偉首相が掲げた「カーボンニュートラル宣言」、昨年度の冬に発生した火力燃料不足による電力需給ひっ迫に伴う卸市場価格の高騰など、エネルギー事業者に戦略の抜本的な見直しを迫る出来事が相次いでいることがある。

特に冬の需給ひっ迫と卸市場価格の高騰は、相対契約による電力調達を基本としてきた同社にも大きな打撃を与えた。短期的な影響ばかりではない。全面自由化以降、新電力はあくまでも供給力が十分にあることを前提に、経済性を追求したり付加価値サービスを提供したりすることで顧客争奪戦を繰り広げてきたわけだが、安定供給はもはや所与のものではないことを浮き彫りにしたのだ。

谷口社長は、「参画するプレーヤーが安定供給を支え合いながら、顧客ニーズに対応したサービスでしのぎを削る時代に入った。そういった視点で、エネットとして電力小売り事業にどう取り組んでいくか考えていかなければならない」と強調する。

同社はこれまでも、熾烈な低価格競争とは一線を画し、適切な料金水準を維持しながらサービスの充実に注力してきた。例えば、電気使用状況の見える化を標準サービスとして提供しているほか、節電要請に応じたアクションに対して料金を割引するデマンド・レスポンス(DR)サービス「エネスマート」、CO2排出量の低減や再生可能エネルギーの調達を支援する「エネグリーン」、AIを活用し効率的な省エネの取り組みを提案する「エネットアイ」などを展開している。

こうした早期の取り組みが奏功し、エネスマートは5000件(契約電力約80万kW)、エネットアイは1万5000件の契約を獲得。エネグリーンは2000件で、「RE100」宣言企業の約2割が、同社のサービスを通じて再生可能エネルギー由来の電気を購入しているという。

ただ、こうしたサービスは、あくまでも省エネや再エネ調達など、環境対策に先進的に取り組む顧客企業向けだった。今後は、「これらサービスをブラッシュアップし、負担感を伴わずに顧客企業の需給への参加を促せるようなメニューへと転換し、小売り事業者として安定供給を支える役割とグリーン価値の普及につなげていかなければならない」と意気込む。

再エネ価値を最大化 企業の脱炭素経営を支援

 「カーボンニュートラル宣言」を機に、自社の脱炭素戦略をどう描くかは、多くの国内企業にとっての高い関心事。そこで同社は、経営者やエネルギー管理担当者などを対象にオンラインセミナーを開催し、契約切り替えによる電気料金の低減や、CO2排出量低減に向けた具体的な対策を積極的に提案することで、新たな顧客開拓に積極的に取り組み始めている。

NTTアノードエナジーをはじめとするNTTグループが開発、または権益獲得を進めていく再エネ電気をこうした需要家の脱炭素経営と結び付け、その価値を最大化させることは、小売り事業者としての今後の同社の重要な役割だ。

また、再エネの導入拡大が進み需給構造に変革が起きれば、需要側の技術もそれに合わせて進化する。現在は、周波数や電圧を維持し安定供給を担っているのは一般送配電事業者だが、「電力系統の負荷変動ありきで需要群としての電力利用形態を誘導・コントロールすることで、一層、小売り事業者が安定供給に貢献できるようになる」とみる。

需要側の工夫でネットワーク全体の負荷を下げることができれば、当然、電力コストの低廉化にも貢献する。同社としても、他社に先駆けてDXによりそうしたサービスの実装を目指す方針で、「脱炭素」という新たな競争のステージにおいても、引き続き電力業界をけん引し続ける決意だ。

EUタクソノミー巡り覇権争う独仏

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

欧州グリーンディール実現に向け、持続可能な事業に投資先としてのお墨付きを与えることを目的に公表された「タクソノミー」だが、発電分野ではフランスなどが推す原子力、ドイツなど石炭依存の高い国が期待するガス火力、そして森林資源豊富な北欧が求めるバイオの扱いについて大いにもめた。デンマークなど風力などに恵まCれた国々はいずれにも反対。そして原子力反対はドイツが主導する。わが国では「EUは再生可能エネルギー推進」とひとくくりに報道されるが、各国は多様なエネルギー事情を背景に資金の確保に向けて激しく闘っている。4月にバイオは承認されたが、原子力とガス火力は議論が続いている。EUの歴史は、独仏が2度の大戦で争ったエネルギーの共同管理から始まった。両国は今日も欧州の覇権をかけてエネルギー分野で争っているが、対立を調整し「大欧州」として世界に影響力を維持することこそEUの原点だ。これだけのバトルを経て作られるルールだから例外は許されない。生半可な見識で外から議論を仕掛ければ袋だたきに遭うのは当然だ。

フランスに原子力が不可欠なのは当然だが、ドイツが天然ガスにこだわるのは、原子力(発電量の1割)と石炭(同3割)の全廃がいかに大事業かということだろう。安定電源を喪失する上、増え続ける再エネの調整力を確保するのは容易ではない。最近メルケル首相の行動で感心したことが二つ。2038年の石炭火力廃止の前倒しを求める声に対し、「関係者には計画への信頼が必要」と昨年7月の決定を変更することを拒否。また、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」で反対する米国と手打ちを済ませた。何を守るべきかを理解して前に進むのが大政治家たる所以だろう。

【電力】裏付けは希薄 柔軟性重視の主張

【業界スクランブル/電力】

 再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースが、7月30日の総合エネルギー資源調査会基本政策分科会に提出した資料の中に「再エネ最優先の観点からも重要なのが、電力システムの設計思想をベースロード重視から柔軟性重視に転換すること」とあった。

言うまでもないが、同時同量の制約がある電力システムにとって、柔軟性すなわちシステムとして柔軟な需給調整能力を備えることは必須である。かつては発電設備の出力調整にもっぱら依存していたが、最近は需要側を含めて多様な柔軟性提供源が実装または構想されている。そして、再エネ導入が進むと柔軟性が重要さを増すのは、再エネに自然変動性があるからだ。

従来型電源よりも使い勝手が悪い自然変動電源をあえて活用することは、当たり前の話だが、それがシステム全体としてメリットがあるときに正当化される。追加的に必要になる柔軟性も考慮した上で、経済的である必要がある。シンプルに言えば、再エネの均等化発電原価(LCOE)が従来型電源の限界費用よりも安かったら、従来型電源の出力を下げて再エネを優先的に使うことが正当化される。さらに安くなれば、蓄電池に貯蔵する、水素を製造するなどコストがかさむ柔軟性技術の実装も正当化され、再エネ大量導入の道が開ける。

世界的には再エネがその水準を達成しつつある国・地域がある一方、日本の再エネは高いままだ。だから、さらにコストをかけてグリーン水素、グリーンアンモニアを輸入、活用することも正当化される可能性があり、石炭火力を含む既存の火力発電所でそれらグリーン燃料をたくことが構想されている。そして原子力だが、一定量コンスタントにCO2フリーの電気を生産する脱炭素化手段として意義は当然にある。

冒頭の文章、石炭火力と原子力への敵意が背景にあると邪推しているのであるが、そもそも再エネのLCOEが劇的に安くなってこそ、柔軟性向上に資源を大量に投入することが正当化される。その見通しを示すことがまずは肝要だろう。 (T)

欧州委員会の包括パッケージ コスト上昇に加盟国が懸念

【ワールドワイド/環境】

7月14日、欧州委員会は欧州グリーンディールを実施するための包括パッケージ「Fit for 55」を発表した。欧州委員会は2019年12月に50年カーボンニュートラルを実現するための欧州グリーンディールを発表し、20年12月に30年の削減目標を1990年比マイナス55%に引き上げることを決定した。提案は30年目標を達成するための具体的な政策パッケージを提示するものであり、その主な内容は次の通りである。

①35年にガソリン・ディーゼル車の生産・販売を実質禁止、②国境炭素調整措置を創設、EU—ETS(EU域内排出量取引制度)を海運業にも拡大、③道路交通、ビルを対象にした新たな排出量取引制度の創設、④再エネ普及目標を32%から40%に引き上げ(最終エネルギー消費比)、⑤省エネ目標を36~39%に引き上げ(ベースライン比、現行32.5%)、⑥航空燃料を対象にエネルギー税を改正、⑦炭素価格上昇に伴う弱者への救済基金設置―。

これらの施策は野心的であると同時に域内の国民、産業に大きなコストを強いることを意味する。このため包括パッケージには26人の欧州委員の3分の1が反対もしくは慎重な姿勢を示しており、加盟国の中からもフランス、スペイン、イタリア、ハンガリーなどがエネルギーコスト上昇に強い懸念を表明している。フランス出身の欧州議会環境委員会のパスカル・カンファン議員は「排出量取引を道路や建物に広げることは政治的自殺行為」と述べている。炭素税引き上げに伴う燃料価格上昇に反発したイエローベスト運動の苦い記憶があるのだろう。

35年のガソリン・ディーゼル車の生産・販売禁止については、ドイツ自動車工業会が「アンチイノベーションの考え方であり、消費者の選択の自由を阻害するものである」として慎重なコメントをしている。ビジネスヨーロッパは包括案を総論としては歓迎しつつも、国境調整措置と引き換えにEU—ETSの無償配賦措置が36年までに終了すること、輸出品に対する還付措置が盛り込まれていないことに懸念を表明している。

このようにマイナス55%目標達成のための包括パッケージについては加盟国、産業界からさまざまな反応が出されている。あくまで欧州委員会の提案段階であり、今後、加盟国、関連産業との間で調整が本格化されることになろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

政府の気候変動委員会 電力設備への影響を重視

【ワールドワイド/経営】

英国政府の諮問機関である気候変動委員会(CCC)は毎年、脱炭素化の進捗状況をまとめた報告書を公開している。6月公開の報告書では、前年からのコロナ禍の状況分析に加え、異常気象など気候変動リスクへの対応を取りまとめ、200以上の具体的な方策を提言した。電力部門では、脱炭素化の進展、洪水対策などの取り組みが高評価されたが、今後はこれらに加え、建物(暖房)や運輸の電化を通じた脱炭素化を重要な課題として取り上げている。

CCCが優先事項に位置付けているのは、気候変動が発・送・配電設備に与える影響の緩和である。まず、2019年の報告書で指摘した洪水対策について、必要な主要変電所の9割が本年末までに対策を完了する見通しであることや、23年まで1億7200万ポンドの洪水対策費用が計上されていることを評価した。一方、19年の落雷を発端とした大停電を引き合いに、一部のトラブルが連鎖的に波及する電力部門のリスクの特性に触れ、今後他セクターの電化が進むにつれ影響範囲は広くなると指摘した。また、今後の気温上昇に比例して気候変動リスクにさらされる設備が増加するという研究を紹介し、対策強化に向けた事業者による基準・規則の整備が重要としている。

20年の電力部門では、コロナ禍により需要が前年比5%減少し、再エネを中心に低炭素電源の発電量が5%増加したことから、同部門からの排出量は同15%減、CO2排出原単位も同10%減のkW時当たり182gとなった。一方、近年上昇傾向にある需給調整費用は前年比1.5倍、系統混雑時の再エネ発電抑制費用は2倍となっており、系統運用上の課題が改めて浮き彫りになっている。

CCCは、50年の脱炭素化には、電力の排出原単位を30年までに50g、35年までに10gにする必要があるとして、供給サイドはもちろんのこと、ヒートポンプや電気自動車(EV)導入による需要側の柔軟性向上が欠かせないと指摘する。最近は、バッテリー価格の下落を背景にEVの販売台数が増加し、充電インフラの整備も進んでいるものの、EVへの転換が都市部に集中していることから、政策面での工夫を求めた。また建物の脱炭素化には、ヒートポンプなどの導入や都市部の熱供給ネットワークの整備に向けた財政支援を課題とした。今後は財務省の全面的な資金支援を後ろ盾にした積極的な脱炭素化戦略の策定が必要であるとして、11月に開催されるCOP26までに包括的な戦略を固めることを政府に求めている。

(宮岡 秀知/海外電力調査会調査第一部)