【太陽光】事故報告の義務化 点検勧める好機


【業界スクランブル/太陽光】

4月1日から低圧の発電設備も事故報告が義務化される。発電事業者は事故を覚知してから(要するに知ってから)24時間で速報、30日以内に詳報を提出する必要がある。

50kW以上の設備で義務化されていたものが、低圧発電所を持つ事業者(発電所のオーナー)にも、課せられた格好だ。詳細は経済産業省の電力安全小委員会・電気保安制度ワーキンググループの資料などで確認できる。近いうちに広く周知するための、会議資料より分かりやすいパンフレットなどが公開されるはずであり、関係者各位にはぜひご確認をお願いしたい。

報告すべき事故は、主要設備の半壊以上(規模感で20%以上の損壊など)の事故、敷地外へ損害を与えた事故などであるが、パネルが1枚敷地外の近隣へ飛散したり、敷地からの土砂が近隣宅地へ流出するなどは報告対象になると考えられる。

実は、「風が吹くと桶屋が……」的な話だが、これで低圧設備の保守点検(必要あれば修繕)が進むとありがたいと思っている。

以下、表現が少々荒っぽいが、分かりやすさを優先していえば、「パネルが飛ぶ、地元住民が自治体へ相談、自治体が現地確認。まずここで設備に適切な標識がないとFIT法違反になる。標識により事故を通知されればその時点から速報、詳報を期限内に各地域の産業保安局へ届ける必要がある。これを怠れば電気事業法違反」ということになる。

現地と適切な関係を持ち、設備近隣に保守事業者かその関係者がいるような発電所オーナーなら、事故を知るか、知らされれば即現地確認をお願いして、必要な速報、必要な修繕、再発防止、詳報の準備も保守事業者の助けを得て適時適切に実施できそうだが、そうでない場合、すぐに対応するのは非常に難しそうだ。

ということをオーナーにも保守事業者にも広く知っていただき、今のうちに点検してくれと依頼する、または点検しましょうとお勧めする、という動きにつながるといいな、と思っている。(T)

【メディア放談】原発事故10年の報道 福島事故で変貌した電力業界


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

福島第一原発事故は、エネルギー需給の在り方について大きな問い掛けを残している。

しかし、エネルギー・原子力問題に正面から向き合うマスコミの報道は少ない 。

―東日本大震災、福島第一原発事故から10年を迎える。東京電力の社員は、事故を思い返さざるを得ない。

電力 原発事故に直接対応したのは原子力部門だが、本当につらい思いをしたのは事務系職員だ。本店と支社・支店の社員が、福島の賠償対応に駆り出された。

 あれだけの事故を起こしたのだから当たり前だが、福島の人たちの怒りは並大抵でなかった。それでも皆、「何で俺たちが」と思いながら、ひたすらお詫びを繰り返した。そのうちメンタル面で耐えきれない社員が出てくるようになって、会社は2年で異動させるようになった。

石油 東電の肩を持つわけではないが、福島事故で被害を受けた人たちに対応する姿を見て、さすがは日本を代表する企業の社員たちだなと思った。

ガス 福島第一原発事故で東電は実質国有化されて、大きく変わった。それとともに東電がリードしてきた電気事業と、事業を取り巻く環境も変わった。1980年代にはなかった料金値上げがあり、規制緩和は送配電部門の法的分離まで進んだ。

 ただ、東電の抱える問題は解決していない。賠償や廃炉に充てるだけの利益は稼いでいないし、トリチウム水の海洋放出もめどが立たない。再建の切り札の柏崎刈羽原発の再稼働も、10年経ってもまだ先行きが見通せない。

マスコミ 原発事故で、電力業界は東電という「長兄」をなくした。ならば「次男」、「三男」が頑張って、東電が一手に引き受けていた永田町や霞が関、マスコミ対応を引き継ぐべきだった。

 しかし、今まで東電に頼りすぎていたので、関西電力、中部電力がすぐにその代役を果たすわけにはいかなかった。それで電力業界は政治力を失った。

 東電に福島事故の賠償、廃炉を任せ、ほかの電力会社にも原発の安全対策で膨大な費用を負担させるには、本当ならばある程度、地域独占・総括原価主義を残すべきだった。だが、電力業界の力が弱まったことで、規制緩和が大きく進んだ。

 結果として、電力会社の体力は衰弱する一方で、東電も賠償や廃炉の費用を負担できる状況にはなっていない。ほかの電力会社も、原発が稼働していても青息吐息の経営が続いている。

電力 冷静に考えるならば、マスコミさんの言う通りだと思う。だけど、福島事故後に吹き荒れた反原発・反東電の嵐の中、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。

ガス 確かに、福島事故前の東電の力は圧倒的だった。経産省の役人の中には、「俺の人事は東電が決める」と言う人もいた。今の落剝ぶりを考えると、まさに諸行無常の一言だ。

【再エネ】発電側課金見直し 再エネは負担減に


【業界スクランブル/再エネ】

1月の電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合において、2023年度に開始予定の発電側基本料金について、kW課金と合わせてkW時課金を導入することが合意された。当面は比率を1:1とし、将来、kW時を考慮した系統整備の割合が想定と大幅に乖離した場合には、見直しをしていく。

会合の簡易試算では、10社の発電側課金の対象原価は計5333億円(託送原価の1割程度)。kWベースのみ従来案では、毎月kW当たり約150円程度と見込まれたが改正案では約75円に半減。残りの対象原価2650億円は発電量に基づく従量課金となる。低稼働率の再エネ電源にとっては相当な負担減だ。

現行の託送料金制度は、小売りの部分自由化が始まった2000年に創設。当時は、従来型の大規模電源が大宗を占め、主に都市部の需要の拡大に応じて送配電設備が整備されてきたことから、需要家が起因者・受益者との考えに基づき、託送料金の全額を小売事業者が負担する仕組みとなっていた。ところが、再エネを中心とした分散型電源の立地による潮流の変化など、発電事業者が設備増強の起因者となるケースが増加したことを背景に、16年に発電側課金導入の議論に着手し、18年にはkWに応じて発電事業者に課金する仕組みが決まっていた。

これを覆したのが梶山弘志経産相だ。昨年7月、再エネ導入加速化に向け、基幹送電線利用ルールの抜本見直しとともに発電側課金についてもこれと整合する仕組みとなるよう見直しを指示したのだ。なお、FIT電源の調整措置の具体案については、調達価格算定委員会などで引き続き議論されることになる。事業の予見可能性確保のためにも、早期の決定が待たれる。

カーボンニュートラルの実現に向け再エネ電源を大量導入するには、送配電網の増強は不可欠。電力需要が伸び悩み送配電網の高経年化に伴う修繕などの増大が見込まれる中、社会的総費用を最小化することが重要だ。投資効率化に資する割引制度など、インセンティブを機能させる方策にも期待したい。(N)

【石炭】2兆円グリーン投資 偏りすぎる議論2兆円グリーン投資 偏りすぎる議論


【業界スクランブル/石炭】

コロナ禍で、世界各国で経済活動が止まってしまった結果、CO2排出量は減ったとされているが、感染収束後に、その反動で再びCO2排出量が増える懸念もあり、環境省が対策に乗り出している。こうした状況を踏まえて日本政府は、グリーン投資の成長のために、2兆円規模の追加経済対策を行うという。収束後をにらんで直接の経済効果をGDP比で3.6%としている。

環境やデジタル化を中心に水素技術や蓄電池開発などの技術に資金を出すのは、主要国に共通した潮流である。各主体バラバラであった長年の課題を統一的に行うという。

2050年までに日本国内でカーボンニュートラルを達成するため「30年ガソリン車禁止」などの方針がマスコミを賑わしている。背景にESG投資を促し、画期的なイノベーションを期待する状況がある。ここで目指すべき姿をいきなり「脱炭素」にせずに、「低炭素」にしておくことは重要ではなかろうか。

モノを一つ作るにしても、その製造過程や運搬過程でCO2を出さないようにする必要がある。太陽光パネルの製造も例外ではない。技術開発の段階にあってはその点は多少目をつぶってもいいのではないか。「低炭素」なくしては「脱炭素」にならないので、移行のための「トランジション」の段階を経てイノベーション促進を目指すことを規格化してほしいものだ。

欧州タクソノミーでは、石炭利用を「ブラウン」として環境に優しくない行為と決めつけているのだ。無資源国日本として賛成できないが、再生可能エネルギーの施設の修理における化石燃料の使用などは許容されていいのではないかと思う。

欧州案は「善悪」の二元論に偏りすぎている。解決のための手段も否定されては最適なイノベーションも育たないだろう。世界的な地球温暖化対策は、「脱炭素政策」合戦の様相を呈しているが、それぞれの国によって事情は異なる。それぞれの国情に沿った地に足の着いた議論を期待したい。 (T)

統計は政策のインフラ 自由化によって失われた情報


【リレーコラム】鶴崎敬大/住環境計画研究所研究所長

シンクタンクの研究員として社会人生活を開始して間もなく24年になる。省エネルギーや地球温暖化対策などの政策的課題に取り組む官公庁や自治体、それらの社会的課題に対応しつつエネルギーの安定供給を行うエネルギー事業者のお手伝いをしてきたが、その基礎はエネルギーの使用実態調査であった。

住環境計画研究所の主な調査対象である家庭部門にはエネルギー使用実態に関する統計が長年欠けていた。その状況が調査の依頼の背景でもあったが、公的統計が不可欠と考え、環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)」の実現に尽力してきた(2017年度から毎年度実施中)。

統計は政策のインフラだ。その有り難みは失われなければ実感しにくい面もある。エネルギー分野では需要側の統計の充実が図られる一方で、供給側の統計は自由化に伴って変化し、失われた情報もある。これまで自治体の依頼に基づきエネルギー事業者が提供してきた区域のデータが、自由化後に提供されなくなり、自治体が苦慮していると聞く。政策・制度が要求するデータは、依頼に基づくのではなく、制度的に確保されるべきだろう。

調査票情報へのアクセス改善求む

公的統計には社会の急速な変化を捉えきれない面もあり、近年、オルタナティブデータが注目されている。経済分野のクレジットカードやPOSのデータ、検索語やSNSの投稿などテキストデータがそれに含まれる。データの質と量の両面で、公的統計とは違う魅力がある。スマートメーターデータもこの文脈で捉えられよう。こうしたデータの活用は試行錯誤が必要であり、当面は公的統計を補完するものと位置付けられるだろう。

家庭CO2統計に携わって感じたことは、調査票情報(個票データ)の利用のしにくさである。政策の他には学術・教育目的に限定され、手続きの負担も大きい。家庭CO2統計の設計では、できるだけ多くの説明変数を取得することに留意してきた。しかし、統計表だけでは提供できる情報に限りがあり、調査票情報へのアクセスのしやすさが本統計の価値を左右すると考えている。米国の類似統計では匿名処理された調査票情報を、誰でも自由にダウンロードでき、エネルギー事業者やサードパーティによる省エネ情報提供サービスの発展に貢献した。

わが国ではエネルギー小売事業者には情報提供の努力義務が課されており、その内容も一層の充実が求められるだろう。本統計が広く利用され、その一助となれるように統計制度のさらなる改革に期待したい。

つるさき・たかひろ 1997年慶応大学大学院政策・メディア研究科(修士課程)修了、住環境計画研究所入社。2013年より現職。17年博士(工学)取得。

次回は滋賀大学データサイエンス学部教授の河本薫さんです。

【石油】サウジの自主減産 政策転換の謎


【業界スクランブル/石油】

このところ、原油価格が堅調に推移している。2月初旬には、WTI先物が55ドル前後、ドバイ原油も50ドル台後半に達した。

ワクチン接種開始や米国経済指標改善など早期の経済回復期待、各国の金融緩和効果もあろうが、やはり、サウジアラビアが1月5日に発表した2~3月の自主的な追加減産(日量100万バレル)が大きかった。この発表は、OPEC(石油輸出国機構)プラス合同閣僚監視委員会後の記者会見で、アブドルアジズ・エネルギー相から、同国ムハンマド皇太子の決定だとして発表された。感染再拡大で需要回復が遅れる中、需給改善効果が評価されたのだろう。

ただ、この発表を聞いて、筆者は耳を疑った。事実ならば、35年ぶりのサウジによる石油政策の変更だからだ。確かにその間、減産が必要な局面でサウジ一国が黙って減産したことはあったが、公言したことはなかった。

第2次石油危機後の需要減少にOPEC内のスイングプロデューサーとして、一手に減産を引き受けた結果、1985年夏、サウジの産油量は100万バレルを切る水準まで落ち込んだ反省から、一国での減産は拒否、OPECベースでの生産調整を続け、2017年からは減産負担軽減のため減産のベースを広げOPECプラスによる調整に移行した歴史がある。生産カルテルの原則は、「プロラタ」である。生産シェアを変更することなく負担や痛みを平等に分担するのが基本だ。一国で調整可能であれば、カルテルは不要である。

サウジの石油政策は安定志向で、長期的視野に立ち、こうした原則には忠実で保守的であった。しかし、ムハンマド皇太子が最高実力者となってからは、よくブレる。昨年3月の協議決裂時もそうであったが、今回は35年に及ぶ原則を放棄した。

皇太子の真意はよく分からないが、サウジの石油政策が短期的な政策や思惑でブレるのはよくない。4月以降の生産政策がどうなるか、3月の合同閣僚監視委員会が懸念される。 (H)

【舟山康江 国民民主党 参議院議員】農業の叡智でエネルギー創出


ふなやま・やすえ 1966年埼玉県越谷市生まれ。90年北海道大学農学部卒、農林水産省入省。経済局国際部、関東農政局勤務などを経て2000年退官。小国ガスエネルギー入社。07年参議院選で初当選。当選2回。

中央官庁の官僚として農政に携わったのち、結婚を期に地方LPガス会社の経営に参画。

国会では農業とエネルギー政策の最適解を探し、地方創生に情熱を燃やす。

生まれ育ちは埼玉県だが、母の実家が北海道で農業を営んでいたこともあって農業に興味があった。また、高校時代にはアフリカの飢餓救済に向け、世界中のミュージシャンがキャンペーンを行った「Band Aid」の活動などをきっかけに、世界の食料問題にも関心を持つようになる。

進路は、「命の源は食料、そして農業。厳しい環境下でも生育可能な農作物を作ることに貢献したい」との思いで北海道大学農学部に進学。卒業後は、農林水産省に入省し、本省で経済局国際部や大臣官房に勤務したほか、経済企画庁や関東農政局、近畿農政局などに勤務。「官庁での仕事は忙しくもやりがいがありました」と振り返るように、時には国際交渉の場に立ち会うなど農政全般に携わった。

しかし、仕事を続ける中で、「農業政策に携われるとはいえ、自分が描く理想の農業と政府が進める方向の違いに悩んだり、自分をはじめ官僚の限界を感じたこともありました」と振り返る。

農水省には10年間務めたが、結婚を機に退官。夫の地元である山形県小国町への移住を決意する。夫の家業はLP販売会社の小国ガスエネルギー。これまでのキャリアとは全く無縁のLPガス業界に足を踏み入れた。小国町では商工会の会合や地域のイベントにも多数参加し、また自身もLPガスの各種資格を取得しながら事務・接客業務にも携わった。

こうした活動を行う中、「これまで、大規模偏重型の農業政策が続いたことで、地方の社会を支える小規模農家が圧迫される現実を見た。これは経済でも同じことが言えて、中小企業は苦境に立たされている。地方を創っているのは中小企業で、地元で頑張る方々の暮らしを支えたい」との思いが芽生えた。すると、地元政界関係者から「選挙に出ないか」との誘いがあり、2004年の参院選で民主党より山形選挙区から出馬するも落選。07年に同じ選挙区で再挑戦し、初当選を飾る。

09年には農水大臣政務官を経験したほか、12年に民主党を離党して「みどりの風」の共同代表なども務めた。現在は国民民主党に所属し、党の政務調査会長および農林水産調査会長を務めている。

LPガスは地域を支える大事な資源 地方にはエネルギーが眠っている

注力する政策課題は農業政策だ。「農業は地方の経済や雇用の受け皿であるだけでなく、治水や減災にもつながる」と、一次産業の発展がほかの産業の発展にも資すると主張する。

「LPガスは地域に根差した大事なエネルギー」と強調し、「電気や都市ガスと比べても災害からの復旧が早いし、分散型のエネルギーとして活用することもできる」と、LPガスのメリットを説明する。

会社経営に携わり、深く感じ入ったのが、「LPガス会社は地域を支える大事な企業である」という点だ。「私たちの仕事は燃料を売ることだけではなく、地域を見守るという役割も持っていると思う。軒先を回り、需要家と触れ合うのは一見非効率にも見えるが、地域をつなぐ意味でも大事なこと」

過去にも夫がLPガスの配達を行っているとき、郵便受けに大量の封筒などがたまっている家があった。もしやと思い宅内に上げさせてもらうと、体調を崩した需要家がいた、という経験もあったという。

「カーボンニュートラル化」が叫ばれる中、エネルギー業界にも脱炭素化の波が押し寄せ、LPガス業界でも難題に立ち向かおうとさまざまな取り組みがなされている。「設備の高効率化でCO2排出量を抑制することはもちろん、国としても研究開発投資を積極的に行い、既存の技術に新たな革新的な技術を加え、官民挙げて課題解決を図るべきだ。古河電工が家畜のふん尿からLPガスを精製する技術を開発したことは、循環型社会の一つのモデルになり得るのではないか」と語った。

また、政府は現在、再エネの拡大に向けて、内閣府にタスクフォースを設置し、営農をしながら農地の上に太陽光パネルを設置する、いわゆる「ソーラーシェアリング」の拡大に向けた課題について議論を進めている。

こうした動きについて、「農業用水路を使った小水力や、もみ殻を使ったバイオマス燃料など、農業とエネルギーは親和性が非常に高い存在。地方にはまだまだエネルギー源が眠っている」と評価する。だが一方で「農地は生産基盤であり、その根幹を壊さないことが重要。一定の要件を設けるなど、再エネと農業生産とのバランスをしっかりと取りながら行われるべきだ」と、慎重な議論を求めた。

座右の銘は「足を知る」。「無いものねだりからあるもの探しへ。知恵を絞り、調和を求めることが持続可能性にもつながる」との発想で課題解決に臨む。魅力ある地方や、さまざまな産業が交差する農業の実現に向けて、これからも日々情熱を燃やし続ける。

【火力】改革の不備露呈 高騰問題の根本


【業界スクランブル/火力】

1月の厳寒による需給ひっ迫は、燃料のLNG調達量減少と相まって長期化し、3週間以上も厳しい状況が続いた。幸いなことに停電には至らなかったが、JEPX(日本卸電力取引所)の価格は高騰し、スポット市場の最高値kW時当たり251円、同100円を超えたコマ数350(175時間)を記録した。継続期間が多少長かったが、こうした価格スパイクは市場が正常に機能していたことの証でもある。

今回の事象については複数の要因が重なったとされているが、背景には電力システム改革および発送電分離の副作用や準備不足から需要想定のブレへの対応が硬直化していたことが挙げられる。しかし、対策を検討する国の各委員会では、電力市場高騰の影響を受けている新電力や需要家の救済という結果かつ表面的な対応ばかりに目が向き、問題の根本原因に迫っているようには思えない。

今回の原因としてLNGの調達量不足に加え、厳寒や設備トラブルなども挙げられるが、本を正せば今冬の需要の上振れへの対応が遅れたことに帰結する。先月の本欄でも指摘したように、需要予測を行うのは小売側であり、発電側でやるとすれば小売りとの相対契約に基づく発電計画まで。設備故障や燃料調達の遅延などを考慮するとしても、需要の上振れまで自律的に対応しろというのは無理な注文だ。

国の委員会では、容量市場の仕組みの中で燃料制約による供給支障をペナルティーとしてはどうかとの案が示されている。しかし、今冬のように需要想定が外れた責任を発電や燃料調達部門に回すという意味なら到底受け入れることはできないだろう。

今回のことで、今のままでは、電力の調達先を市場に頼るだけでは供給力確保義務を果たしきれないこと、需給の乖離が長期間続きkW時の不足時に自然変動電源プラス蓄電の組み合わせでの対応に限界があることなどが顕在化した。一部の人には不都合なことでも、現実を直視せず小手先の対応に逃げていては、また同じことが繰り返される。(Z)

政治も巻き込んだ温暖化バブル 国民経済の破壊こそ真の危機


【気候危機の真相 Vol.12】杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

本連載では「科学的には気候危機は存在しない」というさまざまな意見を紹介してきた。

CO2ゼロを強引に進めることの深刻な弊害を、エネルギー関係者は声を大にして訴えるべきだ。

災害のたびに地球温暖化のせいだと騒ぐ記事があふれるが、ことごとくフェイクニュースである。

台風は増えても強くなってもいない。発生数は年間25個程度で一定し、「強い」に分類される台風の発生数も15個程度と横ばいだ。猛暑は都市熱や自然変動によるもので、温暖化のせいではない。温暖化によって気温が上昇したといっても過去30年間当たりで0・2℃と、感じることすら不可能だ。豪雨についても、理論的には過去30年間に0・2℃の気温上昇で雨量が増えた可能性はあるが、それでもせいぜい1%だ。よってこれも温暖化のせいではない。

観測データを見ると、温暖化による災害は皆無だと分かる。温暖化で大きな被害が出るという数値モデルによる予測はあるが、往々にして問題がある。第一に、被害予測の前提とするCO2排出量が非現実的なまでに多すぎる。第二に、モデルは気温予測の出力を見ながら任意にパラメータをいじっており、高い気温予測はこの産物である。第三に、予測は不確かな上に悪影響を誇張している。

FITの二の舞 グリーン成長の陥穽

政策決定に当たってはシミュレーションをうのみにせず、その妥当性を一つ一つ検証すべきである。実際、温暖化に関する不吉な予測はこれまで外れ続けてきた。海氷が減り絶滅すると騒がれたシロクマは、人々が保護した結果、むしろ増えている。海面上昇で沈没して無くなるといわれたサンゴ礁の島々は、実際は拡大している。サンゴは生き物なので海面が上昇しても追随するのだ。

CO2濃度は既に江戸時代の1・5倍となり、その間地球の気温は0・8℃上がったが、観測上、何の災害も起きていない。むしろ経済成長によって人類は長く健康に生きるようになり、食料生産は増えた。今後も緩やかな温暖化は続くかもしれないが、破局が訪れる気配は無い。「気候危機」「気候非常事態」といったものは、どこにも存在しない。これらの点について、本連載での小島正美氏の提案(2020年9月号)を受けて「地球温暖化ファクトシート」をまとめた(次頁の表参照)。

政府は20年12月25日に公表した「グリーン成長戦略」で、経済と環境を両立させて50年CO2排出実質ゼロを目指すとしている。ある程度のCO2削減であれば、経済成長と両立する政策は存在する。だが、50年CO2ゼロという極端な目標は、経済を破壊する可能性の方が高い。

政府は化石燃料の利用を規制し、CO2の回収貯留を義務付ける、ないしは不安定な再エネや扱いにくい水素エネルギーで代替するという。30年に年額90兆円、50年に190兆円の経済効果を見込んでいるが、莫大なコストをかけ、それをもって経済効果とするのは明白な誤りだ。もちろん巨額の温暖化対策投資をすれば、事業を請け負う企業は潤う。だが、それはエネルギー税などの形で原資を負担する大多数の企業の競争力を削ぎ、家計を圧迫し、トータルでは国民経済を深く傷付ける。

政府が太陽光発電の強引な普及を進めた帰結として、年間2兆4000億円の賦課金が国民負担となっている。かつて政府はこれも成長戦略の一環で経済効果があるとしていた。実質ゼロのための費用は年間100兆円規模となる可能性もある。FITの二の舞を一般会計に匹敵する規模でやるならば、日本経済の破綻は必定だ。

サイクルへの批判 見落とされる視点


【業界スクランブル/原子力】

2月2日の青森県の県紙・東奥日報に大島堅一・龍谷大学教授の論考「再処理、経済的に破綻」が掲載された。資金回収が稼働率次第で4~5兆円も不足して国民負担になる恐れがあり、経済性・採算性からみてサイクル事業は破綻しているとの結論だが、社会を惑わす単なる空論・暴論にすぎない。

大島氏は六ヶ所再処理工場の「40年操業・3.2万t再処理」を絶対視するという思い込みに陥っている。それをかたくなに前提としてコスト計算を行い、40年間の使用済み燃料の発生量・貯蔵量が3.2万tよりも減少するので資金回収も減少し、その分、国民負担は膨らむと想定しているが、40年を超える操業期間・資金回収期間を一切認めない大島氏の試算は合理的根拠を持たない。

2018年7月31日に原子力委員会は、利用目的のないプルトニウムは持たないとの方針を改めて明確にした。プルサーマルの実施に必要なだけ使用済み燃料の再処理を実施するとしており、確実なプルトニウム消費の方針を打ち出している。従って、40年という期間よりも、むしろ3.2万tとみられる使用済み燃料に含まれるプルトニウムの確実な消費に注視していると考えるべきである。六ヶ所再処理工場が40年を過ぎても安全を大前提に多少稼働年数を余計にかけても所定の再処理・消費を完遂するために、稼働期間に多少の延長の幅を持たせることを許容する方針と考えられる。

そうした総稼働期間を念頭に置けば、使用済み燃料の再処理事業は固定費が大宗を占めるだけに、総コストの回収を念頭に置いた合理的稼働は可能である。原子燃料サイクルは、エネルギーの供給安定性や環境保全性、持続可能性など総合的視点を踏まえると大きな意義を持つ。わが国には既に1.8万tの使用済み燃料が存在している。それを再処理・回収してMOX(混合酸化物)燃料・回収ウラン燃料に加工して利用すると、わが国の約1.5年分の電力が得られることを見失ってはならない。(Q)

自由化市場の健全化待ったなし 電力不足騒動が突き付けた課題


【多事争論】話題:電力需給ひっ迫と市場価格高騰

電力需給ひっ迫と市場価格の高騰は、自由化関連の制度設計で見落とした視点をあぶり出した。

制度の軌道修正が不可欠だが、有識者や新電力事業者は、この騒動をどう受け止めたのか。

<脱炭素、競争重視で置き去りは許されず 資源小国のエネルギー政策に必要な視点>

視点A:野村宗訓 関西学院大学経済学部教授

2016年4月に実施された電力小売り全面自由化からまもなく5年。17年のガス小売り全面自由化とともに、電力・ガス市場は競争的な環境へと移行した。発電と小売りの両部門で多数の参入者が出現し、電力取引が多様化している。このような状況下でも、数量と価格面で利用者に安定的なサービスを提供する必要があることは言うまでもない。

資源エネルギー庁公表の発電事業届出事業者一覧によれば、昨年12月末で946もの事業者が存在し、小売電気事業者一覧では698の事業者が登録されている。自由化先進国の英国の発電ライセンス登録269社、小売りライセンス登録174社と比べると、わが国は圧倒的に多い。両国ともに実際に業務を行う事業者は限られる点から、登録数が直接、競争状態を意味するわけではない。

昨年12月までの日本卸電力取引所(JEPX)のスポット平均価格は安値で推移していた。しかし年末にかけて寒波が到来し、スポット価格は一転して高騰した。その理由として、燃料であるLNGの不足と急激な気温低下による暖房需要の増加が挙げられる。新型コロナ感染拡大以降、関連業界の勤務体制とサプライチェーンがうまく機能していない点や、ステイホームの影響から例年とは異なる需要に対応しなければならない点で運用面の難しさもあったと考えられる。

これまでにも地震や台風などにより電力供給が途絶えることはあったが、昨年末からの電力不足と価格高騰は、自然災害とは直結していない。強靭性を高める議論をしているにもかかわらず、「綱渡りのような状態、薄氷の需給運用、極限の緊張」と表現されるほどの切迫した状況に直面してしまった。

電力調達手法の改善必要 エネミックスと消費者保護も

電力不足に伴う危機的状況を回避するために、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の果たした役割は大きかった。昨年末からの動きを整理すると次のようになる。

20年12月8日 電気事業者に対する計画的な供給力確保に関する要請、12月15日~21年1月16日 一般送配電事業者に対する融通指示(計218回)、1月6~28日 非常災害対応本部の設置、1月29日 警戒本部の設置、1月6~26日 発電事業者および小売電気事業者に対する発電に関する指示(計3回)、1月8~13日 地域間連系線の運用容量拡大(計6回)、1月12日 発電事業者に対する供給力の確保状況に関する報告の求め。これらの断続的な要請や指示が功を奏し、最悪の事態に陥ることはなかった。

融通指示が1カ月で218回にも及んだのは、いかに緊迫していたかを物語っている。政府は1月12~15日までのスポット市場の最高価格が4日連続してkW時当たり200円を超える日が続いたため、同17日からインバランス料金等単価の上限を200円とすることを決定した。この措置は来年4月から導入する予定であったが、電力の安定的な取引環境確保のために前倒しで一般送配電事業者の託送供給約款等の特例が認可された。

今冬のスポット市場における価格高騰は、市場が現実にうまく機能したという見方もできる。卸電力価格の高騰は次のような影響をもたらす。まず、事業者が予想外の費用を負担する必要がある。次に、契約者に価格転嫁される可能性が高い。逆ザヤで破綻するのは当然であり、撤退する事業者も現れている。問題は利用者に法外な価格を支払わせるべきではないという点だ。特に「市場連動型」プランは月額で数万~数十万円という常識を超える支払額になる。

既に1月末に電力・ガス取引監視等委員会事務局から、「『市場連動型』の電力料金プランを契約されている消費者の皆様へ」という注意喚起が出されている。新電力は電力調達手法を改善すべきだ。具体的には相対取引、JEPXのスポットや先渡、東京商品取引所の先物などを通じてリスク分散を図ることが重要になる。利用者保護の視点からは小売料金を抑制する目的で、英国が採用したような上限価格規制を視野に入れる時期に来ている。

今冬の危機を受け、資源小国のエネルギー政策の重要性が再確認できた。脱炭素化の観点から再エネを一層増やすべきだという見解はもっともだが、自然変動電源に大きな期待を寄せることはできない。石炭火力は早晩停止されるだろうが、冬場に再び需給がひっ迫しないか。原子力再稼働や国際連系線による供給力確保という前向きな議論も不可欠だ。政策目標を競争維持、脱炭素化に置きながらも、エネルギーミックスと利用者保護にもプライオリティーを置くべきだ。50年に向けたロードマップを策定した上で、LNG基地の新規建設の具体策も検討する価値がある。

のむら・むねのり 1986年関西学院大大学院経済学研究科博士課程修了。89年英レディング大客員研究員、98年から現職。専門は産業経済学、公益事業論。

【マーケット情報/3月19日】原油続落、需要回復に懸念感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から下落。世界各地で需要の回復に懸念の声が広がっており、余剰感につながっている。

新型コロナウイルスの感染拡大により需要が伸びにくい状況だ。米国原油の大口買い手であるインドでは感染拡大により、石油製品への需要が弱まる見通しが強い。また、世界最大の石油消費国である中国では、感染予防による航空機の往来が減少しており、当面の追加需要は見込みにくい状況だ。

また、欧州でも、ワクチンの安全性に懸念が広がっており、一部接種見合わせの動きも報じられている。ワクチン接種により、石油需要は回復が見込まれていたが、石油需要が感染拡大前の水準に回復するには時間を要するとの見方が強い。

また、世界各地の製油所で定期検査が予定されており、原油調達の動きも一時的に弱まる見通しだ。

米国原油在庫は、需要減少の動きもあり、増加傾向にある。米エネルギー情報局(EIA)の週間原油在庫統計では4週連続の増加が報じられ、同国の在庫は昨年12月以来の最高水準に積みあがっている。

【3月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.42ドル(前週比ドル4.19安)、ブレント先物(ICE)=64.53ドル(前週比4.69ドル安)、オマーン先物(DME)=62.45ドル(前週比5.46ドル安)、ドバイ現物(Argus)=62.12ドル(前週比5.78ドル安)

【コラム/3月22日】米国における電力自由化の評価


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力小売自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした電力小売全面自由化が始まり、その後本格的な電力の小売自由化時代に突入した。しかし、電力小売自由化の道のりは決して平坦なものではなかった。カリフォルニア州では、2000年夏場から2001年の冬場にかけて、電力需給の逼迫に端を発した電力価格の高騰や大規模停電が発生した。卸電力価格は、2000年12月には前年比で10倍、また2000年8月には小売料金規制が撤廃されていたSDG&E地区で、小売料金が同年4月比で2倍に高騰している。この電力危機は、電力供給が州管理下に置かれるという最悪の事態で幕を閉じた。

さらに、2003年8月14日には、北米大停電が発生した。米国北東部とカナダで起きた大停電では、最大6180万kWの電力供給が停止し、約5000万人が影響を受け、経済・社会の蒙った被害は約60億ドル規模に達した。原因としては、設備の脆弱性や系統連系の弱さなどの系統上の問題があったところに、自由化で長距離大容量送電が増えたことが挙げられた。完全復旧までに2日以上かかっている 。復旧に時間がかかった理由の一つは、発送電分離により、発電側と送電側の情報交流がスムーズにいかなかったことである。

このような出来事の結果、すでに電力小売自由化に踏み切った州でも自由化を中断、延期、また自由化法を廃止する州が続出し、米国では電力小売自由化の動きは後退していった。このような出来事から約20年たった現在、あらためて米国の電力小売自由化はどのように評価できるだろうか。現在、小売全面自由化を行っている州は、コネチカット、デラウェア、イリノイ、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、モンタナ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニア、ロードアイランド、テキサスの14州とコロンビア特別区である。これらのうち、家庭用需要家による供給事業者の変更率が高いのは、テキサス州(約8割)、オハイオ州(約7割)、イリノイ州(約6割)であるが、テキサス州は規制当局による強制的措置として供給事業者の変更を行った結果であり、あとの2州は、自治体によるアグリゲーションプログラムの結果である。また、ペンシルベニア州では約3割の家庭用需要家が供給事業者を変更しているが、これは州の公式の価格比較サイトの存在によるところが大きい。これら以外の州における供給事業者の変更率は、2割を下回っている。

 電気料金(家庭用)については、1997年当時、全米平均8.4¢/kWhに対して、自由化州10.1¢/kWh、規制州7.2¢/kWhであったが、2019年では、全米平均12.8¢/kWhに対して、自由化州14.6¢/kWh、規制州11.5¢/kWhとなっている。自由化州と規制州の料金格差は、1997年では2.9¢/kWhであったが、2019年には、3.1¢/kWhまで拡大している。

米国の事例から、自由化が電気料金を引き下げたかといえば、否である。電気料金は、自由化州でも規制州でも1997年以降、上昇基調にあるが、料金動向に大きな影響を及ぼしているのは、供給コスト、とりわけ燃料(天然ガスなど)価格であり、自由化要因ではない。米国では、1997年に小売自由化に踏み切ったが、その限界も見えてきている。このような状況の中で、連邦政府が発布した電力関係の規制(オーダー)では、DR、省エネルギー、エネルギー利用効率向上などが重視されている。政策の重点は、市場自由化から環境へシフトしつつあるといえるだろう。わが国でも、グリーン成長戦略がポストコロナの重要政策として打ち出されているが、電力政策もやがて自由化から環境へ大きくパラダイムシフトしていくことになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【LPガス】容器流出に本腰 法令で規定へ


【業界スクランブル/LPガス】

「災害に強いLPガス」。大規模災害が発生するたびに、被災地での炊き出しや非常用発電機の燃料として、その認知度は向上している。一方、水害による洪水時には軒先に設置されたLPガス容器が流出するケースが多く、経産省の審議会などでは委員から「水害時には容器流出が繰り返され、災害に強いといえるのか」などの指摘もあり、早期の対策が求められてきた。そしてこのほど、LPガス供給設備などを扱う企業で組織する日本エルピーガス供給機器工業会(JLIA)が、「現在流通している高圧ホース(気相用)を全て災害対応型のガス放出防止型高圧ホースに一本化する」と表明した。

容器流出対策については、昨年6月から経産省、全国LPガス協会などLPガス関係団体が「容器流出対策に向けた検討会」を組織し、昨年10月に報告書をまとめている。その中で基礎的な対策として、①鎖またはベルトによりゆるみなく容器を固定、②ガス放出防止型高圧ホースを使用、③外壁の金具は、容器が浮上しても鎖またはベルトが外れにくいものを使用―などのルール化を検討する方向性を示した。これを受けJLIAは昨年12月、①集合用高圧ホース(気相用)は2021年4月製造分より防止型に一本化、②連結用高圧ホース(気相用)は同年10月製造分より防止型に一本化する―と表明していた。

近年の水害などによる軒先容器流出は、「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では岡山・広島・愛媛の3県で580本が、一般家庭などから流出したり土砂に埋没するなどした。同様の被害は、「令和元年台風19号」では1都11県で303本、「令和2年7月豪雨」では熊本、大分の両県を中心に286本に上っている。

今後、水害対策については、容器設置時の流出防止措置を法令などで規定する方向性で議論していくという。災害対応型高圧ホースのスタンダード化のみならず、安全対策の先行投資の観点からも、LPガス業界を挙げて取り組むことで、「真に災害に強いLPガス」と言われることに期待したい。(F)

【都市ガス】LNGが一転余剰 再度同じことも


【業界スクランブル/都市ガス】

今冬、なぜLNGが不足したのか。主な原因は一昨年の暖冬にさかのぼる。2019年は暖冬で、エネルギー企業は例年になくLNGの余剰在庫を抱えることになった。たださえ発射台が高い状態で、20年は新型コロナ禍の影響で需要が低迷し、さらに余剰在庫を上乗せした。各企業はスポット調達の停止はもちろんのこと、長期契約で仕向け地自由なLNGの転売、下方弾力性の行使などを駆使して、適正在庫を下回るスリム化を急いだ。JKM(日本・韓国への持ち届け価格)市場は夏場に100万BTU(英国熱量単位)当たり2ドル前後まで値が下がったが、LNGタンク満杯回避のために逆ザヤでの転売は実施した。相当量の在庫調整をする裏には「冬場に何かあっても、いざとなれば安価なスポットを購入できる」という安易ともいえる考えが担当者になかったとは言い切れない。

いろいろな要因も重なった。10月前後からのマレーシア・豪州などでのLNG出荷基地の故障、豪州の石炭出荷設備の故障、パナマ運河の混雑、大飯原発の未稼働、日本海側の天候不順による太陽光発電の不調、そして厳冬による中国・韓国のスポットLNG買い漁りなどだ。

そこに、例年より若干寒い冬がやって来た。通常なら十分に対応可能な需要増に対して、LNGをスリム化しすぎた分、燃料が足りない状況が際立ってしまった。このため発電所の出力を絞り込むことに。自社需要への供給を優先する電力会社は市場への投入量を一時的に抑えざるを得ない。それがかつてない電力市場の高騰を生み出し、結果として市場に軸足を置いている新電力各社は壊滅的な影響を受けることになった。

通常、スポットLNGは購入を決定してから到着まで3カ月以上かかる。12月ごろに電力会社が慌てて買い急いだ高価なスポットLNGの到着は2月末。それなのに2月後半以降は暖冬の見通しでLNG在庫はまた余剰になろうとしている。既に、4月以降のJKM市場は買手がつかない状態だ。残念だが、同じことはまた起こりそうだ。(G)