都市ガス小売り競争の激化で、大手3社も含めた経過措置料金規制解除に向けた機運が高まっている。しかし、電気の料金規制への飛び火を憂慮する経済産業省内では、これを阻止しようとする動きもあるようだ。
経済産業省は今秋にも、一部の都市ガス会社に課している経過措置料金規制の解除に向けた議論に着手する。焦点は、大都市圏の電力・ガス市場で熾烈な競争を繰り広げている大手都市ガス会社の規制撤廃が実現するかどうかだ。
2017年の都市ガス小売り全面自由化と同時に、地方都市ガス会社のほとんどで規制料金が撤廃されたが、経産省は東京、大阪、東邦の大手3社を含む12社を経過措置の対象に指定し、規制を継続した。LPガスやオール電化といった他燃料を含めた競争が十分ではなく、独占性が高いため、これらのエリアでは競争なき値上げが起こりかねないとの判断からだった。
全面自由化から3年半が経過した今、既に仙南ガス、浜田ガス、エコアの3社が基準を満たしたとして指定から除外。関係筋によれば、大手の中でも大阪ガスは既に指定解除の基準を満たし、東京ガスや東邦ガスもそれに近い状況に迫っているという。
一度解除のためのルールを設けたからには、企業規模の大小にかかわらず、電力・ガス取引監視等委員会で審議し条件を満たしていることが確認されれば、規制はなくすのが道理。それが、エネルギー自由化が大きく進展したことを象徴することにもなる。
ただ、資源エネルギー庁ガス市場整備室の下堀友数室長は、「基準をクリアしたかどうかは十分条件ではなく、状況を総合的に判断して決定することになる」と慎重姿勢だ。ほかの都市ガス事業者の参入がない地方エリアで、他燃料との競争状況を規制解除の指標としてきたこれまでとは違い、大手については大都市圏における都市ガス同士の競争状況を踏まえて判断する初めてのケースになる。それだけに、エネ庁としても大きな判断を迫られるわけだ。
査定権限の維持画策 経産省の裏の意図
しかし、大手都市ガス3社の規制解除が一筋縄ではいきそうにないのは、それだけが理由ではないようだ。大手3社の規制を撤廃するとなれば、当然、競合する大手電力会社の規制料金をどうするのかという問題にも波及する。それを何とか避けたいという経産省側の思惑が見え隠れしている。前出の関係筋はこう話す。
「大手都市ガス会社の料金規制が外れれば、競合相手の大手電力会社の規制も外さなければならなくなる。大手電力会社に対し、総括原価の査定権限を維持したい経産省としては電力料金規制の撤廃だけは絶対にしたくない。そのためにも、大手ガス会社の規制解除などとんでもないというのが、経産省側の本音だ」
そもそも、全面自由化では後追いだった都市ガスが電力に先駆けて料金規制撤廃に至ったのは、それが地方ガス会社に全面自由化を納得させるための取引材料だったからにほかならない。地域の都市ガス利用率や、それを踏まえた他燃料事業者による需要家獲得件数―などといった複雑な指標を作ることで、多くを指定外とした。
経過措置料金規制が課された事業者一覧
規制改革のアメとして地方ガスの料金規制を撤廃する―。そんな思惑で作られたルールには相当の無理があることは明白。そもそもルール策定時、大手の部類に入る西部ガスが対象から外れたことがエネ庁内で問題となり、幹部間で「こんな変なルールは納得できない」と騒動になった経緯もある。
「この自ら作ったルールの破綻を逆手に取って、大手都市ガス会社の規制解除を何とか阻止しようとするのはいかがなものか」と語るのは、ガス業界の関係者。いかなる理由があろうとも既にルールとして認定し運用している現状があることから、規制当局の勝手な思惑でそれをねじ曲げてしまっては行政機関としての筋が通らない。
この関係者は、「もし、どうしても料金規制を解除したくないのであれば、ルール自体を見直さざるを得ない。そのためには、審議会を早急に開く必要がある。もちろん、経産省側はルール見直しの合理的な理由について説明しなくてはならない。当時の議論が間違いでしたなどと言えるのだろうか」とやゆ交じりに語る。
不当な値上げは皆無 問われる料金規制の意味
もし解除ルールを見直すとなっても難しい問題がある。その一つが、既に解除してしまった都市ガス会社に対し、再び規制を課すことができるのかということだ。
自由化の当初から、消費者団体を中心に需要家保護を最優先に考えるのであれば、競争の起きづらい地方にこそ料金規制を残すべきだとの主張はあった。「規制なき独占」が起こりやすいのは、新規参入が進む大都市圏よりも地方であることは、プロパンガス料金の事例を見ても明らかだからだ。ルール見直しをきっかけに、消費者団体などは再規制を求めてくるだろうが、地方ガス側からしてみれば到底納得がいくものではなく、混乱は避けられない。
ただ経産省側の狙いは、あくまで大手に対する規制存続。そのためには、まず電気料金で明確な規制解除のルールを策定し、それをガスにも適用させる方法が考えられる。が、大手電力を巻き込んだ議論に発展するため、そう簡単に結論は出ない。
忘れてはならないのは、多くの都市ガス事業者で料金規制が撤廃されて3年半が経過したが、これまでに消費者団体が危惧するような不当な値上げなどは確認されていないということだ。
とすると、まして競争の激しい大都市圏で事業を展開する大手ガス会社が、規制撤廃によって値上げするとは考えづらい。これは電気料金についても同じことが言えるだろう。同業者間の競争、新規参入者との競争、競合エネとの競争―。料金規制自体がもはや無意味といっても過言ではない。 現行ルールを継続するにしても、抜本的に見直すにしても、経産省にとって前途は多難。自由化を急ぐあまりできの悪い指標を作ってしまったツケが、今まさに回ってきている。