<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人
米国大統領選の報道では、他国の選挙にもかかわらず日本のマスコミも過熱気味だった。だが、肝心の新大統領がどう政策を展開するのかについて、踏み込んだ記事は見られない。
――バイデン氏がアメリカ大統領に就任する。新政権はパリ協定、イラン核合意に復帰すると表明している。トランプ政権が温暖化対策に後ろ向きだっただけに、日本でも新政権の動きに敏感になっている。
電力 アメリカにかなりの数の日本人特派員がいるけれど、エネルギー・環境政策では、これといった報道は少ない。きちんと米国の政策の動きを見ているのはエネ研で、会員に配布している資料に網羅している。
石油 大統領選の報道は日本でも過熱したけれど、バイデン氏が当選した後、新政権のエネルギー・環境政策をマスコミはフォローしていない。パリ協定に戻るとしても、アメリカでは石油・ガス産業がものすごく力を持っている。石炭産業も健在だ。再エネを中心にCO2を減らしていくのは、簡単なことじゃない。そこに踏み込んだ記事がない。
マスコミ イラン核合意にしても、トランプ大統領は、イスラエルによるイランの核開発責任者の暗殺を容認している。トランプ政権の「置き土産」で、イランの姿勢を硬化させて、わざと復帰を困難にしたといわれている。これでイランの核開発が進むとの見方もある。バイデン大統領の政権になって、中東情勢は混乱を増すかもしれない。そんなことを分析する記事がない。
――バイデン大統領の民主党政権は、温暖化防止に大きく政策のかじを切り直しそうだ。
ガス バイデン氏は、初めは民主党左派への配慮から環境重視を打ち出していた。しかし、選挙戦が進むにつれて、現実路線に方針を修正している。民主党政権は雇用を重視するから、就労者の多い石油、ガスなどのエネルギー産業に大きなダメージを与えるような政策は取らないはずだ。
電力 それにしても、日本の新聞はどの記事も面白くない。一番注目していたのは、新政権の環境政策と外交とのリンケージがどうなるかだけど、どこも取り上げていない。
温暖化対策は、先進国だけ力を入れても意味がない。これから急速にCO2排出が増える途上国を巻き込まないと、実効性のある枠組みはつくれない。そのための調整役を務めるのは、やはりアメリカが中心になる。
習主席「宣言」に不信感 化石賞を喜ぶ「識者」たち
――中国が温暖化防止に力を入れ始めた。それで、日本もうかうかとしていられなくなった。
マスコミ 中国の言うことは、まともには信じられない。習近平主席が2060年のゼロエミッションを宣言したけれど、本気でやろうとはしていないはずだ。アメリカがパリ協定に復帰すれば、先進国が足並みを揃えて中国の「約束違反」を批判できる。
電力 地球環境問題は、本来ならば先進国と途上国のそれぞれの温室効果ガスの現状と予想を分析して、対策を立てていくべきこと。だけど、それをマスコミも有識者もやろうとしない。そうかといえば、「COPで再び日本が化石賞を受賞しました」とかは熱心に報道する。
マスコミ また、日本にはそれをなぜか自虐的に喜ぶ「識者」たちがいる。
石油 新聞、テレビには期待していないけど、老舗月刊誌も以前のような「権威」や「威厳」がなくなった。昔の『文藝春秋』は、通して読むと知的レベルが上がったような気がした。ところが今は、途中で読むのを止めるような記事が多い。『中央公論』も読売の傘下に入ってからつまらなくなった。
ガス 『文藝春秋』『中央公論』にエネルギー環境問題で、読もうと思う記事はまずないね。週刊経済誌も似たり寄ったりだけど。
マスコミ 週刊ダイヤモンドが電力再編の連載を掲載していた。それなりに読ませたが、なぜ将来、再編が必要になるのか深掘りが足りなかった。
国際大の橘川武郎教授のインタビュー記事も掲載されていた。エネルギー関連の学者では第一人者だけに、「なるほど」と思うところがあった。だけど、「事故を起こした東京電力には、柏崎刈羽原発を動かせない」との指摘はおかしい。
仮に東北電力や日本原子力発電に参画させて、会社の「看板」を替えても、実際に運転・管理をするのは東電の社員と関連企業の作業員たち。地元の人たちは、彼らが再稼働に向けて汗を流しているのを見ている。それで原発を間近に見てきた自治体の首長らも、「運営は東電以外、考えられない」と言っている。
花盛りのゼロエミ報道 原発は継子扱い
――菅義偉首相が50年カーボンニュートラル宣言をしてから大手紙では再エネ、水素、EV(電気自動車)などの記事が目白押しになっている。
電力 まさに花盛りだね。再エネだけでカーボンゼロを実現できる、と勘違いしているんじゃないか。再エネを進めるのはいい。だけど原子力の役割も欠かせない。しかし、ほとんどのマスコミが原発は継子扱いだ。
ガス 特に最近の日経はバランスを欠いた記事が多い。科学部の気候変動の記事は、首をかしげるものばかりだ。むしろ、朝日の方がしっかり取材した記事を載せている。もっとも、結論は決まっているけど。
マスコミ 日経はとにかく景気優先の紙面づくりだから、先細りの原発には見切りを付けたんじゃないか。再エネ偏重の報道になっているけど、それで将来、国民が高いつけを払うことなっても、彼らは責任を取らないんだよ。
――また、最後は日経批判になってしまった。