【LPガス】仏の新環境規制 器具販売に逆風


【業界スクランブル/LPガス】

NHK・BSのワールドニュースを見ていたら、2020年11月末の仏国営放送のニュースとして、仏国内ではCO2排出削減のため、21年夏から新築家屋ではガスの給湯・暖房器具の使用が禁止されると報じていた。建物(家庭・業務用)が排出するCO2が多く、新しい環境基準の実施(RE2020)に対応するための措置であるという。この規制では、24年には新築集合住宅でもガスの給湯・暖房器具が使用できなくなる。

ガス給湯・暖房器具によるCO2の排出はフランスにおける温室効果ガスの排出量の4分の1を占めていて、今後は電気式のヒートポンプ給湯・暖房器具が優遇されるという。報道の最後に都市ガス団体の責任者のインタビューがあり、「期待されるような環境への効果はないし、ガスの使用量の低下を懸念している」と述べていた。

11月末に仏国内で報道されたのは、11月24日にポンピリ環境相が新たな環境規制である新規則「RE2020」の説明を行ったからである。欧州諸国の給湯暖房器具は、温水暖房(日本でいう貯湯型ボイラー)が大部分で、日本と違い入浴はシャワーが主体なので、それ自体の使用量は少ないはずであり、大部分が温水暖房器具として使われているようだ。

日本のようにガス風呂給湯器で追い炊きをして湯舟にお湯をため、それに漬かる生活慣習がないことから、日本でのガスの給湯・暖房器具の使用実態と同一では論じられないと思われるが、家庭用のガス、さらには石油系燃焼器具類の販売を禁止にするのは、いくら環境規制といえども、相当厳しい規制だといえる。

おそらく日本では、風土、生活習慣の相違から、すぐにはこのような規制が出てくるとは思えない。しかし、30年に向けて徐々にガス燃焼器具販売などに逆風が吹いてくる時代になってきていることを、あらためて痛感せざるを得ない。

これからの中長期の販売戦略も、2050年ネットゼロに合わせた形で考えていく必要があるのではないだろうか。(D)

問題だらけの「不都合な真実」 正しくない記述に反証を


【気候危機の真相 Vol.10】伊藤公紀/横浜国立大学名誉教授

発行から10年以上経つ「不都合な真実」は、今なお温暖化関連で最も有名な書籍といえよう。だが、同書でのアル・ゴア氏の主張には不正確な記述が多く、反証にも目を向ける必要がある。

アル・ゴア元米国副大統領の手による本書は2006年の発行で、帯には故・筑紫哲也氏をはじめ、今見てもそうそうたる顔ぶれによる推薦文が記されている。筆者は、本書の内容について幾つかの論評(例えば渡辺正氏との共著「地球温暖化論のウソとワナ」第4章)を書いたが、改めて本書を読むと、もし現在このままの内容を信じている人が多いなら困ったことだ、と感じざるを得ない。 

そもそも前書きから、「ハリケーン・カトリーナのような強烈な暴風雨が大西洋、太平洋でももっと増えるだろう」「海面が6mも上がる恐れがある」とあり、恐怖心をあおる。本文には「アフリカのチャド湖はわずか40年で姿をほぼ消した」とか、「永久凍土が溶けてシベリアの建物が崩れている」とかの証拠としてきれいな写真が載せられている。装丁などを見ても良くできた本には違いない。

しかし内容には問題点が多過ぎる。図に見るように、気候変動の要因は自然と人為、また規模も局所的から地球的まであり、その結果や対策も多岐にわたる。しかしゴア氏はAのように、何でもかんでもCO2の人為的放出のせいにしている。

気候変動の考え方についての流域モデル
出典:「パリティ」2012年1月号

英国で下された判決 「教材とするには注意必要」

英国では、中学校の教材として本書の内容に基づく映画を使う際、教師はいくつもの注意をすべきだ、という裁判の判決が07年に出たが、日本ではあまり知られていない。担当のバートン判事が07年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書に基づいて書いた注意点を具体的に挙げよう。

①氷河の後退が人為的温暖化の証拠とされているが、例えばキリマンジャロ山の氷河が後退する原因は複雑である、②過去65万年のCO2濃度と気温の関係について、CO2が気温変化の原因と読者が誤解しそうだが、実際には気温変化が数百年先行している、③海水温が上がってハリケーンが強大化し、カトリーナは甚大な被害を与えたとあるが、個別の現象を気候変動に帰することはできない、④チャド湖の消失の原因については共通の理解はない、⑤ハリケーン、洪水、旱ばつ、山火事のような極端な気象やそれによる被害が気候変動のせいだという証拠は不十分である、⑥北極の氷が40年で40%減少し、シロクマが溺死したとあるが、シロクマについては元の研究が明確でない、⑦海洋コンベアベルトが不安定化し、急変してヨーロッパが氷期に戻るのではとあるが、科学者の大多数の意見では、氷期が差し迫っているというのは憶測にすぎない、⑧温暖化はサンゴ礁に影響するだろうが、乱獲や汚染の影響と区別するのは難しい、⑨南極の氷が急速に崩壊しており、海面が6mも上がる可能性があるとの記述に関連して、実際に海面がそんなに上がるにしても数千年はかかるし、「ニュージーランドに避難する太平洋の島嶼国」のような事実はない―。

【都市ガス】円の中のアリ どう外に出るか


【業界スクランブル/都市ガス】

紙に円を描いて、その中に一匹のアリを描く。四方八方を円に囲まれている状況下で、このアリはどうやったらこの円から出られるだろうか? こうした質問をさまざまな人にしてみると、意外にも若い人たちが答えに窮するケースが多い。答えは「円をまたいで出る」というものだが、2次元の世界に捉われてしまうと答えは出てこない。

職場内で現状実施困難な課題を提案してみる。すると、「規則があってできない」「契約上できない」「予算がなくてできない」など、できない理由がごまんと出てくる。しかし、こちらはできない理由でなく、どうしたらできるのかを聞きたいのだ。規則があってダメなら規則を変えればいい。2次元のアリを3次元の発想で円から救い出すことが必要なのだ。

今まで先達はこうした困難を乗り越えて、現在の都市ガス業界を築き上げてきてくれた。50年前にLNGを世界で初めて導入したときもそうだ。今まで慣れ親しんだ石炭・石油から熱量2倍の天然ガスへ原料を切り替えるという発想の転換により、大規模なパイプライン投資を行わずして倍の需要量への供給を可能にした。しかも、天然ガスはCO2排出量が化石燃料の中で一番少なく、環境に優しいエネルギーとしてさらに需要拡大に貢献したのだ。

今、「2050年温室効果ガス実質ゼロ」という難問がわれわれの前に立ちはだかっている。いかに化石燃料の優等生といえども、天然ガスを燃やせばCO2を排出する。メタネーションなどの新技術も見据えてはいるが、ブレークスルーしなければならない課題が多いのも事実だ。脱炭素化となると、現時点では都市ガス業界において有効な手立ては見えてこない、という声も聞こえてくる。

まさに、われわれは円の中に閉じ込められたアリだ。どうやったら、円の外に出ることができるのか。必ず解決策はあるはずだ。今、都市ガス業界にとってのこれからの50年間につながる発想の大転換が求められている。(G)

【新電力】脱炭素宣言で直面 市場変化の逆風


【業界スクランブル/新電力】

菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説で、「2050年温室効果ガス排出量実質ゼロ」を表明した。これにより、さらなる再エネの導入拡大、エネルギー貯蔵開発に向けた投資支援が行われるものと考えられる。新電力への影響は甚大である。今後、さらなる再エネ導入拡大により、火力の「焚きしろ」は減少し、ミッシングマネーは増加、容量市場の重要性は高まっていくものと考えられる。

電力取引市場も大きく変化する。非効率石炭火力発電のフェードアウトにより、価格が低下する時間帯と高騰する時間帯に分かれ、価格ボラティリティが非常に大きくなる可能性が高い。デマンドレスポンス(DR)創出は容易ではないが、電源を持たない小売り電気事業者は、DR創出に向けた努力を続ける必要があるだろう。

欧州では、再エネの出力変化により前日スポット市場、インバランス価格がスパイクする事態が頻発している。今後日本でも、再エネ電源の出力変化に伴い、電力市場が大きく価格変化する事態が恒常的に発生する可能性がある。一方で、小売り電気事業者はさらなる効率化に向けた社会的要請を受けている。

20年10月30日に開催された電力・ガス基本政策小委員会において、大手電力10社における電気料金平均単価の推移が紹介されたが、燃料費の増大と再エネ賦課金導入によって、19年度の電気料金は10年度に比べて約23%上昇したと示されている(燃料費は1円上昇、再エネ賦課金は2.6円上昇)。これは再エネ導入拡大に伴い、電力業界全体でコストが上昇していることを示している。当然、再エネ賦課金抑制だけでなく、小売り電気事業者に対してさらなる効率化、それに伴う電気料金の低減が求められていると考えられる。

50年排出量実質ゼロを実現するに当たり、小売り電気事業者は電力市場の変化、さらなる効率化に向けた社会的な要請といった逆風に直面する。当然、新電力各社は生き残りに向け、次世代の小売事業の展望を描いていく必要がある。(M)

カーボンニュートラルの必須技術 CCS・CCUへの期待と課題


【多事総論】  話題:CCS・CCUの役割

カーボンニュートラル実現のためには、CO2を貯留、利用する技術も重要になる。CCS、CCUの社会実装に向けて、専門家の視点を紹介する。

<投資リスクの大きさが共通課題 技術同士の対立招かない視点が肝要>

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構主席研究員

菅義偉首相が2050年までの実現を目指すと宣言したカーボンニュートラル(正味ゼロ排出)のためには、一次エネルギーは原則、再エネ、原子力、化石燃料+CO2回収・貯留(CCS)のみでの構成となる。完璧なエネルギーはなく、これらすべての組み合わせの追求が求められる。再エネ拡大は必須であるが、太陽光、風力発電は、間欠性の課題がある。設備コストの低下は期待できるものの、導入量を拡大していけば、条件が悪く単価が高くなるポテンシャルも利用することになるし、間欠性に対応するため、系統増強、蓄電池の導入、水素に転換するなど、さまざまな追加コストが必要になる。脱炭素電源の原子力の必要性は言うまでもないが、社会的な受容性の問題などから、その役割は限られる。そうした中、CCSの必要性が高まっている。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、05年に技術に焦点を当てた初の特別報告書としてCCSを取り上げ、その重要性を指摘した。しかし、その後のCCSの普及が早かったとはいえない。考えられる理由としては、①再エネのコスト低減が相当進んだこと、②米国ではシェールガスが普及し、CCSなしでも相応に排出削減が進んだこと、③CCSは地中を対象とするため状態の完全な把握が難しいこともあり、投資回収の不確実性が相対的に高いこと、④欧州では排出量取引制度(ETS)のオークション収入の一部をCCSに利用しようとしていたが、ETSの炭素価格の低迷により、その収入が当初の見込みよりも相当小さくなってしまったこと――などが挙げられる。日本では、CCSの実証試験が新潟県長岡市、北海道苫小牧市で行われ、多くの有用な知見が得られてきた。しかし、日本でも貯留における不確実性や、現実的な貯留ポテンシャルの点から、慎重な見方もあった。ただ、少なくとも技術的には、日本でも1500億tCO2程度ものポテンシャルがあると見積もられている。

燃料利用CCUは水素が必須 負の排出技術・DACCSも重要

一方で、CCSの課題も相まってCO2回収・利用(CCU)への期待も大きくなっている。CCUは、CO2を有効に利用するという良いイメージを持ちやすいし(実際にそうであるが)、正味ゼロ排出を目指す上での重要性は大きい。特に非電力での脱炭素化は容易ではなく、合成燃料製造のためのCCUは期待が大きい。ただ注意が必要なのは、CO2はエネルギー価値がほとんどないため、回収したCO2を使って、合成メタンや合成液体燃料として利用する場合は、エネルギー源として水素が必要な点である。そして水素も二次エネルギーであるため、一次エネルギーとしては、再エネ(グリーン水素と呼ばれる)、化石燃料+CCS(ブルー水素)のいずれかが必要となる。つまり、合成燃料用のCCUは、再エネもしくはCCSと組み合わせなければ成立しない。回収CO2は燃焼時に再び排出されるので、あくまで水素エネルギーを運ぶのを助ける役割となり、カーボンフリー水素が化石燃料を代替することによって排出削減効果がもたらされる。

CCUとしては、合成燃料のほか、化学品利用や、コンクリート部門での鉱物化もある。しかし、化学品の場合は燃料と同様に水素が必要であるし、用途としての量も限られる。鉱物化は、CCUの中では比較的経済性が高いと推計されるが、コンクリートは経年とともに自然にCO2を吸収するため、CCUの削減効果は自然吸収分を差し引くべきなので、必ずしも大きな量を稼げるわけではない。

最後に、大気中CO2の直接回収・貯留(DACCS)について触れておこう。化石燃料を脱炭素エネルギーに代替することでコストが急増してしまう部門・技術もある。そこで負の排出を実現できるDACCSを利用すると、その分だけCCSなしの化石燃料利用が許容され、あたかもCCS付き化石燃料のように取り扱えることを意味する。よって、特に正味ゼロ排出目標においてはDACCSの重要性は高いと考えられる。ただ、濃度の低いCO2を回収するのでコストは高くなりやすい。一方で、集中的なCO2排出源がなくても、貯留に向いた地点で実施でき、経済合理性の高い地点を選ぶことができるという利点がある。また回収エネルギーは大きく必要だが、世界で余剰の再エネや、将来的に余剰となる可能性もある天然ガスなどを活用することで、安価に実現できる可能性もある。

CCS、CCU、DACCSは、これらの技術間の関係性に加え、再エネや水素などとも併せた全体システムとして考えることが大変重要であって、これら技術同士が対立するような考えを採るべきではない。

あきもと・けいご 1999年横国大大学院工学研究科博士課程(後期)修了、博士。エネルギー関連の多数の政府審議会委員や、IPCC第6次評価報告書代表執筆者も務める。

SDGs経営の先駆的事例 持続的成長へリスクと機会の特定


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

SDGsの17の目標には、社会、経済、環境の持続性に向けた課題が集約される。企業の持続的成長に向けて、何がリスクなのか、どこにチャンスがあるのかを検討する上で、SDGsは格好の参考資料となる。

SDGs(持続可能な開発目標)についての関心は着実に高まっており、企業の経営戦略を考える上で看過できない存在になっている。第二回では、なぜSDGsが民間企業にとって重要なのかについて解説した。第三回では、SDGsを踏まえたサステナビリティ経営の先駆者と見なされる4社の事例を紹介する。各社ともSDGsが登場する以前から、事業活動の社会・経済・環境面のインパクトを直視し、SDGsに資する経営が自社の持続的成長につながることを理解しているように見える。

BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)は、英国に本社があり、エネルギー関連事業を展開する多国籍企業である。

脱炭素社会への転換 脱石油キャンペーンを開始

石油やガスを主力製品とするエネルギー関連企業として、脱炭素社会への転換には強い危機感を抱いている。2000年からは脱石油キャンペーンを開始し、石油などの化石燃料依存から脱却する姿勢を示した。太陽光発電企業を買収するとともに、長年使ってきた企業ロゴを、太陽をイメージするロゴへと改め、再生可能エネルギー開発に取り組んでいく決意を内外に表明している。

環境問題にいち早く対応し、温室効果ガス削減に貢献するビジネスモデルを構築することは、大きなビジネスチャンスにつながる。同社はリスク対応にとどまらず、さまざまな分野でビジネスチャンスを広げ、業界全体にも影響を与えているように見える。例えば、排出削減につながる新しい燃料や製品を開発している。同社が開発したBPバイオジェットは、従来のジェット燃料と再生食用油を混合した燃料であり、既に欧州各地の空港において提供されている。さらに再生可能プラスチックの開発や、炭素の捕捉、貯留にも率先して取り組んでいる。

ネスレは、スイスに本社を置く世界最大の食品・飲料会社である。ベビーフード、コーヒー、乳製品、アイスクリームなどさまざまな製品を取り扱っている。同社は「共有価値の創造(CSV)」経営の先駆者であると見なされている。共有価値の創造とは、日本の「三方良し(売り手良し・買い手良し・世間良し)」に通じる考え方である。企業が社会課題の解決に対応することで、経済的価値と社会的価値をともに創造するアプローチである。

同社の事業が社会と最も深く交わる分野として、「栄養と健康」「農村開発」「水と環境保全」の3分野が特定されており、各分野で持続可能な開発に向けた取り組みが進められている。例えば、「農村開発」では、製品の原材料である農産物の安定的な確保が、中長期的なリスクとして認識されている。世界各地の農業は気候変動や水不足、労働者不足などの影響を受けて疲弊しており、農業生産は低下傾向にある。こうした傾向に歯止めを掛けぬ限り、将来、安定的に原材料を調達することが困難になる。そこで、同社は世界各地の農家へ手厚い技術指導を行い、農業経営の安定化をサポートしている。

ユニリーバは、オランダと英国に本拠を置く世界有数の一般消費財メーカーである。同社は、世界に先駆けて持続可能な開発への取り組みを企業戦略の中核に位置付けている。SDGsが登場する5年前の10年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を発表し、持続可能な成長を目指す新たなビジネスモデルを提唱した。「サステナビリティを暮らしの『当たり前』にすること」を自社のパーパス(存在意義)と位置付けている。

トヨタの六つの環境チャレンジ
出所:トヨタ サステナビリティ データブック 2019

このサステナビリティ経営戦略は、同社のビジネスの拡大につながっている。サステナビリティを考慮したブランドは、ほかと比べてはるかにパフォーマンスが高いことが同社調査によって判明した。その要因として、同社は「ブランドが社会・環境に与えるインパクトや、日常の消費行動を通じた自らの影響力について、消費者が強く意識するようになったこと」を挙げている。サステナビリティに配慮した製品を開発し、これを市場に提供することは、社会や環境の持続可能な開発に貢献するだけでなく、ビジネスの成功につながることが、同社の経験で示されている。

自動車業界の将来に危機感 百年に一度の大変革の時代

トヨタは、自動車業界の将来に大きな危機感を持ち、今日を「百年に一度の大変革の時代」とみなしている。自動車産業はいわゆるCASE時代に突入しており、個人が車を所有して利用するという形態が変化しつつある。そこで、同社は全ての人々にモビリティ(移動の自由)を届けることを新たな使命と位置付け、産業用ロボット技術の転用など、自社の技術とノウハウを生かしつつ、社会分野の新たな事業機会を開拓している。

地球温暖化への危惧も同社にとっては明らかなリスクである。自動車は利用時のみならず製造過程でも大量の温室効果ガスを排出する。脱炭素の流れに対応できない企業は、中長期的に持続可能ではない。そこで同社は、15年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を公表し、クルマの環境負荷をゼロに近づけるとともに、地球・社会にプラスとなる取り組みを通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを表明している。

SDGsの17目標の中には、社会、経済、環境の持続性に向けた課題が集約されている。企業の持続的成長に向けて、何がリスクなのか、どこにチャンスがあるのかを検討する上で、SDGsは格好の参考資料となる。拙著『SDGs経営の羅針盤』にはSDGsの経営活用のステップが解説されている。サステナビリティを踏まえた企業戦略を構築する上で活用していただければ幸いである。

みつい・ひさあき 早稲田大学政治経済学部卒、英国サセックス大学大学院開発学修士課程修了。政府開発援助に資する調査研究・技術協力業務に従事。GRIスタンダード認定講師。早稲田大学理工学術院非常勤講師。

【第1回】SDGsとは何か 持続可能な開発の意味

【第2回】民間企業にとってなぜ重要か SDGsに積極的に取り組む理由

【電力】排出枠に言及 経産省のサプライズ


【業界スクランブル/電力】

このところ、政府の政策決定が、審議会の議論の積み上げという従来の枠組みから、大きな方向性をトップダウンで決め、審議会は方向性を追認し詳細設計を行うというやり方にシフトしているようだ。菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言して以降、その動きは加速しているようで、20年12月上旬の日本経済新聞だけでも驚くような見出しの連発だった。

「新車販売、30年代半ば全て電動車に 経産省目標」(12月3日)、「自動車に排出枠取引制度 20年代後半、販売目標課す」(4日)、「水素を30年に主要燃料に 目標1000万t、国内電力1割分」(8日)、「電力会社に排出枠 経産省検討、再生エネ拡大促す」(10日)といったところだ。観測気球の可能性もあるが、関連業界は気が気ではないだろう。

50年カーボンニュートラルをまじめに達成するつもりなら、経済社会の大変革は不可避である。かつ自動車にせよ発電所にせよ建築物にせよ、ストックの大きい分野は今から方向性を決断して実行に移さなければ50年には間に合わないから、このような一見拙速に見える政策決定にシフトするのはやむを得ない面もありそうだ。

加えて、環境省との関係で以前ならNGワードだったであろう排出枠取引制度という言葉が、経産省から出てきたことも驚いた。健全な炭素価格議論の地合いが整いつつあるのであれば、喜ばしいことであるが、自動車と電力に排出枠とは、経産省の裁量が及ぶ範囲で安易に考えているのではないかという疑問も湧く。経済活動全体をカバーし、エネルギー選択に中立的に働く炭素税が本命であるべきだ。

特に、これから電化を強力に進めることが求められているのに、電力会社に排出枠はいただけない。欧米の一部の国で実施されているような「新築住宅にガス管敷設禁止」とセットにするならまだしもだが、これで最終消費におけるガスや石油の直接燃焼に制限が掛からなかったら、単に電力需要を縮小するだけで終わってしまうだろう。(T)

公害のない太陽光発電に全力 動植物への悪影響も防ぐ


【私の経営論】吉富政宣/吉富電気代表取締役

太陽光発電設備の設計・施工に取り組み始めて30年余りになる。将来の石油の枯渇が叫ばれ、国産エネルギーとして太陽光発電が脚光を浴び始めた頃のことである。

その頃、北アルプスの山小屋では、太陽光発電による独立電源の試行錯誤が続けられていた。大学卒業後そこに参加し、物に触れ、その働きを体感することが私の経験の始まりとなった。

当社は技術者不足の頃に、個人事業として創業した。やがて法人化を果たしたが、そのきっかけは、事業拡大ではなく大手メーカーとの商取引の要件であったからという消極的なものだった。

経営学と経済学の違い 自然調和と万人利益

私の関心事は経営ではなく、経済であった。経営と経済とは、互いに反対の目的を持っている。経営は私益と独占の科学、経済は公益と分配の科学である。あらゆる取り組みは、自然との調和、万人の利益を目指すものでなければならない。私は「巨大独占資本からの自由」「エネルギーの自給自足」「持続可能性」といった経済学の大きな思想に魅せられていた。

仕事の勉強は徹底的にやった。最初は、一人前の電気屋と認めてもらうために電気数学に取り組んだ。でも、電気数学さえできればそれでいいのかというと違う。

形ある物を作る際には、目的に応じた機能とともに危険も作り込まれる。太陽電池架台にあっても同様である。

計画中の架台がいかほどの強風に耐え、いかほどの豪雪に耐えられるかも分からないようでは困る。私は自ら構造計算を行って耐力が外力を上回ることを確認するが、これは、顧客を安心させ受注を容易にする動機からではない。専門外だからといって外注任せで製作した架台が倒壊し、周辺住民にけがをさせることがあってはならないという考えからだ。

風工学・雪氷工学・構造力学といった公害防止に必要な物理学は、のちに基準改正の委員を務め、後進の指導に当たるほどまで力を付けた。

ところで、こうした物理学上の正しさが社会生活上の適切さを保証するとは限らない。何万年に一度という風水害にもびくともしない要塞並みの太陽光発電設備など、誰も欲しがらないだろう。問題はどこで安全と不安全とを線引きするかだ。その答えを導こうとするのが法律だった。法学もよく勉強し、改正FIT(固定価格買い取り制度)法の策定にも貢献させてもらった。

なお、この改正では、太陽光発電以外の他法令も順守することが認定要件であることが明確化された。それまで業者都合でつまみ食いの法解釈が行われていたことが、公害と環境破壊の原因となっていたことへの対策である。

電気・構造・法学。ここまでやれば鬼に金棒。私よりも広くかつ細やかに見えている者がほかに見当たらなくなった頃、外国政府、そして、国や県の機関からも問い合わせが来るようになった。気が付いたら食うには困らないところまではたどり着いていた。

昨今、メガソーラーをはじめとする地上設置型太陽光発電による自然環境破壊が取り沙汰されている。公害を防ぐだけでは不十分であり、開発予定地に生息する動植物に悪影響を与えない取り組みが求められている。

研究者や役所の職員と共に開発予定地の調査と保全を行う

環境アセスメントの重要性を訴えようとしているのではない。開発が決まってからのアセスは手遅れであり、むしろ自然破壊の片棒を担ぐようなものだと思える。場当たりの調査では、土に埋もれた希少植物の種子が発芽チャンスを待っていることは分からず、目にする時期の短い昆虫の存在を見逃してしまうかもしれない。

【マーケット情報/1月11日】原油急伸、サウジ減産で買い強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

11日までの一週間の原油価格は、主要指標が急伸。サウジが追加減産を決定したことで、買い意欲が強まっている。ブレント先物価格は8日、55.99ドルの終値となり、昨年2月以来約10か月振りとなる高値更新となった。

サウジアラビアは5日、2月および3月の原油生産量を追加で日量100万バレル減産させると表明。その翌日には米エネルギー省が同国の原油在庫量の大幅減少を発表した。市場では供給ひっ迫感が一気に強まり、買い優勢、価格の上昇につながった。

ただ、日本を含む世界各国でロックダウンが相次ぎ、経済の先行き不透明感が強まっていることが上値を重くしている。また昨日、国際通貨基金(IMF)は原油の主要消費国である中国の経済成長が「依然として不安定」との見解を示したことも、警戒材料となっている。

【1月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.25ドル(前週比4.63ドル高)、ブレント先物(ICE)=56.66ドル(前週比4.57ドル高)、オマーン先物(DME)=55.24ドル(前週比2.69ドル高)、ドバイ現物(Argus)=55.22ドル(前週2.78ドル高)

【コラム/1月11日】予知保全の評価


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

 電力設備の保全方式として、わが国では、予知保全(predictive maintenance)の考え方が受け入れられるようになってきている。予知保全とは、設備に遠隔から監視するセンサネットワークを構築し、これらセンサ群により収集した情報から故障の予兆を発見・推定する考え方である。定期的に検査・保守を行う時間計画保全から「壊れる予兆が出たら」取り換えるという保全方式への転換により、供給信頼度を維持しつつ保守コストを抑制することができる。

 デジタル化の進展とともに、予知保全が注目されるようになってきているドイツの電気事業で、この予知保全はどのように評価されているだろうか。予知保全は、大手の電力会社での適用例はあるが、現段階で、シュタットヴェルケでは広まりを見せていない。実際には、状態に基づく保全のほうが明らかに広範囲に用いられている。ここでは、保全のための予測は使われておらず、リアルタイムでのセンターの通報により対応している。すなわち、専門家の経験値により対応している。双方の保全ともに、一定期間に予め決められたプランで設備の保守を行う従来のサイクルベースの対応を回避でき、保守コストの低減が図られる。

未だに状態に基づく保全が多く用いられていることは、シュタットヴェルケの多くの専門家は、状態に基づく保全と比べて予知保全の費用対効果が今一つ明確でないと考えていることを示している。しかし、将来的には、予知保全は、その費用対効果が向上するにつれ、状態に基づく保全に取って代わるようになることは確かだろう。

 電力だけでなく、ドイツの産業全体で見たときも、現段階では、予知保全の適用は限定的である。Staufen-Neonex社の調査によると、「予知保全に関しては、残念ながらデタラメレベルが非常に高い」とのことである。同社が、製造業394社を対象に「予知保全の状況」を調査したところ、 3分の2の企業は、すでにそのようなソリューションを使用している、あるいは少なくともそう思うと回答している。しかし、よく調べてみると、多くは、せいぜい状態監視、つまり、センサや予測アルゴリズムを使わずに、純粋に機械の動作を観察しているだけとのことである。また、「現在市場に出回っている予知保全のパフォーマンスをどのように評価しますか」という問への回答の74%は、利用可能なアプリケーションは改善可能であると考えているか、その有用性はまだ低いと考えており、パフォーマンスが高い、または非常に高いとの評価はわずか6%に過ぎなかったとのことである。

多くの企業は、欠陥が発生しているときにしか反応しないが、Staufen-Neonex社のシニアパートナーJochen Schlick氏によると、「ほとんどの故障は損耗によるものではなく、ヒューマンエラー(工具が適切に調整されていないなど)によるものであり、これらのエラーをすべてなくすことができて初めて、予知保全を考える価値がある」とのことである。

 電力設備は安定供給が至上命題なので、ヒューマンエラーはまず考えられないだろう。しかし、予知保全が状態に基づく保全に取って代わられるようになるには、その費用対効果が明確に示されることが必要であることは確かなようだ。デジタル技術を駆使した革新的なサービスは、やがては広範囲に用いられるようになるとしても、その導入初期段階においては、過大評価されている可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【コラム/1月5日】日本はカーボンニュートラルで何を目指すのか?


福島 伸享/元衆議院議員

菅首相が10月26日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とぶち上げて以降、にわかに「カーボンニュートラル」すなわち温室効果ガスをネットでゼロにすることがブームになっている。日本人の特性なのかもしれないが、こうして一斉に同じような方向を向いて多くの情報が流れてくる時こそ、冷静に現実を見据えなければならない。

まず第一に、日本がカーボンニュートラルを目指す目的を明確にしなければならない。言うまでもなく、1992年の気候変動枠組条約の採択によって国際的に温室効果ガスの削減に取り組む取り組みが始まり、1997年の京都議定書、2015年のパリ協定によって削減に向けた具体的な枠組みが定められているが、これらの条約交渉の過程で繰り広げられたのはまさに国益と国益のぶつかり合いであり、自国がいかに利益をあげられるかという観点から国際ルールや枠組みが作られてきた。言い換えれば、国際ルールや枠組みという土俵をうまく利用して、自国産業が利益をあげることを目指してきた。学校の校則のように、単にルールを守ればいいというものではないのだ。

今、世界中で再生可能エネルギーなどカーボンニュートラルに関連する新たな産業が勃興しているが、これらは京都議定書以降に作られた国際ルールや枠組みという土俵の中の競争であり、風力発電やグリッド技術など多くの分野ですでに日本は欧米各国のみならず中国などの新興国にも大きく遅れを取っている。技術や産業のみならず、石炭火力の位置付けなど規制や制度の分野でも、ドッグイヤーの世界のエネルギー政策の分野で周回遅れとなっている。菅総理は、所信表明で「世界のグリーン産業をけん引」などと言っているが、井の中の蛙か厚顔無恥でない限り、こんな恥ずかしいことを総理に言わせる原稿は書けないだろう。

 だから、私は、カーボンニュートラルを掲げるのであれば、今の世界の中の日本の位置や現実を冷静に見つめた上で、2050年までに一体今の状況から日本の産業構造やエネルギー供給構造をどのようなものにして、それが世界の中でどのような位置を占めるものになるのか、政策目的を明確に示すべきであると言っているのである。

 その第一歩になるのかどうかわからないが、12月8日に閣議決定された第三次補正予算では、コロナ禍に対応する喫緊の財政需要があるにも関わらず、「グリーン社会の実現」という項目で目玉政策として大盤振る舞いがなされている。しかし、その中身を見てみると、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発事業」などの旧来型の政府主導型技術開発予算や、各省ごとの「海事・港湾分野のカーボンニュートラルの推進」、「畜産バイオマス地産地消対策」「産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業」といった補助的事業の羅列である。この30年間にすでに失敗したか、成果の見られない政策の延長の先に一体何が生まれるというのか。

 カーボンニュートラルの実現とは、国際ルールや枠組みを利活用した自国産業の発展である。それを実現するための政策は、たとえば膨大なグローバルマネーを活用した民間による技術開発や世界的な企業のアライアンスを促進するための環境の整備であり、あらたな科学技術をいち早く社会において活用するための前例にない社会的な規制や制度の創設である。総合的な戦略の下、それらの政策を相互に結び付け、自国に有利な土俵を作るための国際交渉を行うことこそが政府の役割である。平成の30年間に、ITだバイオだと惰性で繰り広げられ成果を上げてこなかった政策の延長に、日本の未来は何もない。2050年に、日本の温室効果ガスの排出は著しく減ったけど、日本の産業も著しく衰退して、アジアの二流国になっていたということにならないようにするためには、相当な危機感をもってこれまでの政策体系そのものを転換し、政策立案の仕方そのものも変えなければならない。残念ながら、これまでの菅総理の言動や政府が打ち上げられる政策からは、そのような兆しは見えない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【省エネ】火力はアンモニア 配管は水素化に


【業界スクランブル/省エネ】

菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラル方針を示し、同日の梶山弘志経済産業相の会見では「電化・水素化」が基本とされた。発電側での大規模CO2排出回収と異なり、需要側での回収は不可能であることから、カーボンフリーのエネ供給構造への変革が必須だ。特に運輸分野・熱分野が鍵だ。60年の脱炭素実現を宣言した中国では、中国工業情報化省が指導し、中国自動車技術者協会が「技術ロードマップ2.0」を取りまとめた。EVなどの新エネ車の販売比率を35年に50%以上とする、世界最大の自動車市場の強烈な目標設定だ。また25年にはV2X接続端子装備率50%、35年にはスマートシティと深く融合するなど、系統電力の再エネとEVの連携も考慮している。

脱炭素社会のエネルギー基盤としては、電力は太陽光・風力(洋上含む)の大量導入、グリーンアンモニア専焼火力が本命だ。熱分野は都市ガスインフラをグリーン水素ネットワークに更新し、水素燃料電池(熱電供給)とIHで脱炭素を実現。再エネ電力の余剰電力吸収課題はPower to Gasで水素ネットワークを巨大な吸収媒体として解決し、運輸部門のFC自動車は当該水素を活用するのが理想的である。

既存の都市ガス配管網を座礁資産とせずに、水素ネットワークへと変革する技術ハードルは低い。経産省ガス安全室の事業でも、新設中低圧の都市ガス配管の水素化は問題ないと立証済みだ。高圧導管(1MPa以上)は未検証だが、水素ステーションは70MPaであり技術ハードルは低い。そもそも、日本の都市ガス配管は水素を主成分とした供給だった。その転換作業も経験済みで、「逆を行う」だけである。水素は発熱量が3分の1となるため、パイプライン輸送熱量が減るとの誤解もあるが、比重が軽く圧力損失が低いため流量を増加できるので問題はない。

日本の需要家のエネルギー使用を管理する法律は省エネ法のみ。EV導入などの電化・グリーン水素化を促進させる制度への変更が、30年後の脱炭素社会実現に向けて、今必要な改革である。(Y)

【住宅】修繕需要が向上 中古評価の必要性


【業界スクランブル/住宅】

今年度は新型コロナウイルスによる景気の後退が叫ばれている。加えて、近年の高齢化、世帯人数の減少、所得も増えずという状況は、住宅業界にとって厳しい環境と考えられる。一方でコロナの影響で外出を控えたり、在宅勤務を余儀なくされ、これまでにないほど「住まい」に関心を持った方が増えた年だともいえる。

内閣府の調査によると、コロナの影響下で新たに挑戦したり、取り組んだことの1位として「今までやれなかった日常生活にかかわること(家の修繕など)」との回答者が28%いたそうだ。家にいる時間が増えたことで今の住まいの不満や改善点が明確化し、リフォームしたいという潜在需要が喚起されたと思われる。

そんな時流を反映し、各企業からは在宅勤務・テレワークに配慮した商品、感染症対策への提案などが相次いで発表されている。また、2021年度からはテレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人向けに最大100万円を交付するとの政府の方針も発表された。新型コロナの影響はまだ数年続くとの予測もあり、現状の景気動向を考えると、新しい生活様式に合わせた住まいの形を実現するのに、コストを抑えられ工期が短くて済むリフォームは、今後ニーズが高まるのではないかと考えている。

リフォームは、空家対策、資源の有効利用や廃棄物削減、ヒートショックといった健康問題の解決に加え、断熱改修による省エネ性の向上、環境負荷低減といったエネルギー問題の解決にもつながる。しかし、市場では、リフォームして適切に管理されている建物でも価値が適正に評価されていない。まだまだリフォーム=修繕の域を出ないのである。中古住宅が適正に評価され、スムーズな流通の仕組みができれば、リフォームの価値も高まり、積極的に動く人が増える。新しい生活様式が進む中、ライフスタイルも含めた適切なリフォームを実現しつつ、エネルギー問題や社会の課題解決には、中古流通やリフォームに対する分かりやすい基準、国や自治体の支援、費用の明確化、適切な業者の育成などが必要とされている。(C)

【太陽光】普及拡大の鍵 PPAの事業化


【業界スクランブル/太陽光】

2022年4月から導入される予定のFIP(フィードインプレミアム)制度について、制度の詳細設計の議論が始まったところだが、再エネ主力電源化のトップランナーの太陽光は、国民負担を抑制するために少しでも早くPPA(電力購入契約)へ移行できる施策、事業環境の整備が必要ではないかと考えている。

ここでいうPPAは、従来の発電事業者と電力会社間における電力調達契約ではなく、企業が発電事業者と直接、電力調達契約を結ぶコーポレートPPAだ。同モデルは、米国で普及し始め、近年、欧州においても普及が加速している。海外では発電単価の安い風力発電から普及した。近年では太陽光も発電単価が低下し拡大中だ。同モデルが成立するには、発電単価+託送料金+インバランス料金+再エネ賦課金などが、従来の電気料金よりも安くなることが必要である。

幸い、オンサイト型PPAモデルであれば、発電単価と従来の電気料金との比較となるため、昨年度から国内でも事業化の動きが活発だ。PPAの市場規模をさらに拡大するには、本来のオフサイト型PPAを普及させていく必要がある。そのためには、EPCやO&Mのコスト削減、長期契約に対応する設備の長寿命・信頼性の向上、発電単価の低下が重要となる。インバランス料金を削減するためには、再エネのインバランスコストを低減できる能力のあるアグリゲーターの育成が必要だ。また、発電事業者と企業が直接PPA契約できるようにし、企業が主体的に新しい再エネ電源開発に関与・貢献できるようにすることが重要となる。これには、電気事業法の改正が必要となるが、台湾などPPA契約が可能になった事例はある。

PPAモデルへの移行を容易にするには、契約内容の複雑な面を解消するため、契約書のひな型を作成し、契約プロセスの効率化を図ることが大事となる。FIPと並行して、PPAの事業環境整備を進めることで、太陽光発電が再エネ型経済社会の実現を主導する信頼される電源として今後も拡大し、30年の目標値を大幅に超える導入量を達成することを期待したい。(T)

【再エネ】脱炭素化の方向性 電気と熱で議論を


【業界スクランブル/再エネ】

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会でエネルギー基本計画の審議が始まり、梶山弘志経済産業相が「今世紀後半のできるだけ早期に実現するとされている脱炭素社会」と述べたが、直後に菅義偉首相から2050年脱炭素宣言が出されたことには驚いた。エネ基の改定では50年脱炭素を見据えた議論になる。

50年脱炭素に向けての再エネ大量導入の課題について、通常議論される電気だけでなく熱も含めて眺めてみたい。再エネの利用拡大により脱炭素に近づいていくとき、安定供給の課題とライフサイクルCO2(LCCO2)の課題がより顕在化するであろう。これは再エネの電気と熱に共通することである。

再エネによる安定供給には調整力が必要になる。再エネ電力の太陽光・風力と再エネ熱の太陽熱がこの問題を抱えている。蓄電・蓄熱は進むであろうが、それとともに調整力に必要なエネルギーの非化石化を図る必要がある。一方、安定的電源となる水力、地熱、バイオマスと、安定的熱源となる自然界の温度差エネルギー(地中熱・河川熱などの再エネ熱)、バイオマス熱の利用拡大が、エネルギーの安定供給に寄与できる。

電気と熱のセクターカップリングも脱炭素に必要となる。電源の再エネ比が高まれば、電気を使った熱利用として、ヒートポンプが脱炭素により有効になる。この熱源には多様であるが、中でも再エネ熱である温度差エネルギーは、極めて効率的な利用ができる。

もう一つの課題であるLCCO2では、再エネ電気・熱ともに設備製造を含め設置から廃棄に至るプロセスでの脱炭素化が課題となる。再エネ利用のために消費されるエネルギーは、産業・運輸・業務・家庭部門にまたがっている。再エネ利用における脱炭素化をこれまで以上に進めるには、部門を横断してLCCO2評価を行い、そこから課題を抽出することが必要であろう。

梶山大臣が言われたように、エネ基の審議は結論ありきではなく、個別の議論を積み重ね、全体の方向性を示していくことである。50年の脱炭素に向けて、再エネ電気・熱の議論を深めてほしい。(S)