電力と通信の大手が協業 社会貢献とビジネスを両立へ


【エネルギービジネスのリーダー達】髙瀬憲児/TNクロス代表取締役社長

社会への貢献と課題解決がビジネスとして成り立つ革新的な事業の創造に奔走する。

通信分野で数々の新規事業に携わってきた経験を生かし、エネルギーという新たな分野に挑む。

たかせ・けんじ 1990年東大大学院工学系研究科修了、日本電信電話入社。97年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修了。2014年NTTコミュニケーションズサービス基盤部企画部門長、19年TNクロス副社長などを経て、20年4月から現職。

東京電力とNTT―。日本のインフラを支える大企業2社の共同出資により、TNクロスは2018年7月に誕生した。取締役として入社し、20年4月に社長就任。世の中にある社会課題の解決につながる事業をビジネスとして成立させることを目指し、新会社のかじ取り役を担う。

ビジネス創出の先駆者に 時には思い切った行動を

同社の事業は、電力と通信それぞれが持つ設備や技術を融合することで、分散型エネルギーシステムの構築やレジリエンスの強化など、新たなエネルギーソリューションを企画すること。各事業の主な実働部隊は東電やNTT、グループ各社が担当するが、事業そのものがなければ何も始まらない。同社は新たな事業を生み出す、いわば先駆者としての役割を担う。

「パイオニアであれ。プロであれ。全ての人に寄り添い、誠実に」。社員にはこう説きつつ「時にはやんちゃも必要」とも話してきた。この言葉には、既成概念にとらわれない発想や思い切った行動も必要との思いが込められている。

この「やんちゃ」が実を結んだのが、千葉市と取り組む実証事業だ。従来であれば担当部局に提案するところ、真っ先に熊谷俊人市長のもとを訪れた。プレゼン当日には、各部署の担当者も集合。提案内容が評価され、災害時と平常時に活用できるエネルギーソリューションの検討に向け、市との協定締結がすぐさま決定した。それが、現在進めている小中学校など182カ所の避難所に太陽光発電(PV)とリチウムイオン電池を設置する事業にもつながっている。

PVなどの新たな設備を入れるには、自治体側にコスト負担が発生し、予算化には時間がかかる。だが、まずは導入しないと先に進まない。そこで選択したのが、電力購入契約(PPA)という方法だ。TNクロスが設備・施工費を負担し、PVが発電した電気を自家消費しながら電気料金として回収する。このスキームによって導入のハードルが大きく下がった。

今後、小中学校でPVと蓄電池がうまく活用されて必要性が認識されれば、将来的には予算化される可能性も出てくる。「社会的ニーズに応え、かつそれを事業として成立させる。その仕組みづくりが重要になる」

プライベートでは、社会的課題を事業により解決することを目指す社会起業家に対し支援を行う団体の理事を務める。一時的な支援や寄付で終わるのではなく、持続的な事業により社会のニーズに応えていく仕組みづくりは、TNクロスの事業でも生きている。

数々の新規事業を経験 エネルギー分野にも挑戦

技術畑出身ながら学生の頃からビジネス分野に興味があった。転機は、NTT入社の5年目に、社内制度で経験したマサチューセッツ工科大学への留学だ。目的意識の高い学生たちとともに机を並べ、仕事に対する考え方に多くの刺激を受けた。また、大学のプログラムで学生を日本に招くイベントに主催者として参加し、主体的に動く楽しさややりがいを実感する。

「このまま会社にいてもいいのか」。帰国後、自問自答を繰り返しつつも、社内のさまざまな先輩と話していく中、印象的な社員に出会う。当時、まだ公社体質が抜けきれていなかったNTTにおいて、その枠にとらわれず道を切り開こうとしている彼の姿を見て「自ら主体的に動けば可能性は広がる」と活路を見いだした。その社員が、現在のNTT社長の澤田純氏だった。

NTTでは公衆Wi-Fiの整備やデータセンターの立ち上げ、オフィスのIT化ビジネスをはじめ、10年には南アフリカの大手システム会社の買収という大型の海外案件も経験した。いずれも新規事業や既存ビジネスの再構築といったゼロから立ち上げる仕事ばかり。これらの経験を経たからこそ、分野外のエネルギー事業にも挑戦できる。

千葉市の事業は20~22年度の3カ年プロジェクト。小中学校はそれぞれ、建物の配置や電力配線の敷設箇所が全て異なる。1カ所ずつ、PV・蓄電池の設置を進める中で、今後の展開に向けた類型化を進めるなど、1年目は下地づくりに注力した。2年目となる今年、いよいよ事業が本格化する。また、今年1月には、NTT東日本の通信ビルから敷設した自営線で市内の中学校に直流送電を行う実証試験も始まった。

TNクロスの設立当初、「お手並み拝見」と冷ややかに評するメディアもあったが、この言葉が社員たちの心に火をつけ、徐々に形となってきた。千葉市の担当者とは、毎日のように電話でのやり取りが続いている。相談を受け、時には相談することもあり「今では困難を乗り越えた仲間のような存在」だという。千葉市での取り組みをきっかけに、東京都ともスマートエネルギーシティに関する勉強会を行うなど、電力、通信に自治体が加わったコラボの成果が、徐々に広がり始めている。

長年手掛けたノウハウを活用 洋上でリーディングカンパニー目指す


【コスモエコパワー】

政府は昨年10月、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言、同12月には「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を開催し、梶山弘志経済産業相が「温暖化ガス排出削減における鍵の一つが洋上風力」と発言するなど、風力発電業界はさらなる成長期を迎えつつある。

コスモエネルギーグループでは第6次連結中期経営計画にて風力発電事業を新たな柱と位置付けており、このような流れの中、傘下のコスモエコパワーの取り組みをより一層強化し、国を挙げて取り組む脱炭素化社会の実現に貢献したいと考えている。

波崎ウインドファーム(茨城県神栖市)

大切な地元との合意形成 地域支援を通し関係を構築

コスモエコパワーは前身となる会社が日本初の風力発電専門企業として1997年に創業。現在、国内シェア第3位に位置する業界の老舗だ。これまで20年以上にわたり、25カ所以上の地域で風力発電所の建設を行い、設備容量は約26万kWを有する。

同社の強みは、発電所建設における風況の知見があることや、開発地域住民との合意形成、設計、施工、O&M(オペレーション&メンテナンス)まで一貫して手掛け、それぞれノウハウを持っている点だ。

特に、事業化に向けて注力しているのは地元との合意形成だ。地権者や地元町内会、自治体などの理解を得るに当たっては、相手の立場を尊重しながら、不安や課題を取り除くべく丁寧に話し合い、さらに自社事業を理解してもらうよう努めている。時には、風力事業と直接的に関係しないが、地域活性化につながるような、独自の地域支援を通して、各地で良好な関係を築いているとのことだ。このような取り組みにより、これまで円滑に事業を拡大してきた。

今後、洋上風力発電事業に注力していくに当たっては、これまで以上にコスト競争力や開発に関わる人材力、サプライチェーンを形成する力が求められる。

そんな新市場に向けて、同社では長年にわたり培ってきた陸上風力発電事業でのノウハウを生かした展開を進めていく方針だ。

例えば、洋上風力事業に適した海域における漁業では、ほかの地域と同様に、後継者問題や漁獲高の減少など多くの課題を抱えている。新たな産業として洋上風力事業を加え、融合することで、漁業の効率化や、地域社会における新たな雇用機会や産業の創出のほか、風車を観光資源化し旅行者を呼び込める可能性もある。このような課題に一つひとつ丁寧に取り組むことで地域社会の活性化と共生につなげ、同社は洋上風力事業のリーディングカンパニーを目指していく。

大手ガス株価に上昇・下降の二局面 ROE低下と気候変動問題が影響


【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京ガス、大阪ガスの過去10年の株価上昇率は東証株価指数(TOPIX)の上昇率を下回った。

競争激化による都市ガス事業の利幅縮小と成長事業の成果が出ていないことが影響している。

過去10年間(2010年末~20年末)の東京ガスと大阪ガスの株価上昇率は約3割であり、同期間のTOPIXの上昇率(約2倍)を大きく下回った(図1と2を参照)。

注:月末値、2010年12月末を100として指数化
出所:Quick Workstationに基づきMUMSS作成

注:2010年末から2020年末の10年間の株価パフォーマンス
出所:Quick Workstation に基づきMUMSS作成

本稿では、過去10年間のガス業界(都市ガスおよびLPガス)の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。前半では、東ガスと大ガスについて、後半では、株価上昇率が高かった日本ガスと岩谷産業について述べることにする。

株価に二つの局面 上昇期と下降期

図1に示すように、過去10年間の東ガスと大ガスの株価の推移は、二つの局面に大別される。前半期間(10年~15年ごろ)は、両者の株価はTOPIXと同様に上昇した。しかし、後半期間(15年ごろ~19年)は、TOPIXは上昇したが、両社の株価指数は大きく下落した。

東ガスと大ガスの過去10年間の株価上昇率がTOPIXを大きく下回った主な要因は、ROE(=純利益÷自己資本)が低下したことと、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことの2点と考える。

第一の要因であるROEは、株式市場で最も重要視されているKPI(重要業績評価指標)である。その理由は、ROEは、会社が株主から預かっている資金(自己資本)を使って、どのくらい稼いでいるかを示す指標であるからだ。

脱炭素の動きの中、天然ガスへの評価も低下している

本稿では、利益に対する原料費調整制度によるタイムラグ影響を平準化するため、3年平均のROEを計算する(例えば、19年度のROEは、17年度から19年度の3年間平均である)。

東ガスと大ガスの19年度のROEは10年度よりも悪化した。前述の株価の推移と同様に、過去10年間は、二つの局面に大別される。次に見るように、前半期間(10~15年度)にROEは改善し、後半期間(15~19年度)にROEは悪化した。

・東ガス:10年度7・9%→15年度10・2%→19年度5・9%

・大ガス:10年度6・7%→15年度8・0%→19年度3・8%

15年度以降の両社のROEが低下した主な要因は、稼ぐ力の悪化だったと考える。

稼ぐ力のKPIであるROA(=経常利益÷総資産)の3年平均値は、次の通りである。株価とROEの推移と同じように、前半期間と後半期間と同じトレンドである。

・東ガス:10年度4・8%→15年度7・7%→19年度4・2%

・大ガス:10年度5・3%→15年度6・5%→19年度3・7%

15年度以降に両者の稼ぐ力が悪化した主な要因は、次の2点だったと考える。

①全面自由化などによる競争激化を背景とした都市ガス事業の利幅縮小

②成長事業への新規投資の成果が出ていないこと

第二の要因である気候変動問題への関心が高まったことは、本誌2月号の羅針盤で述べた通りである。機関投資家が脱炭素を目指す動きの中、石炭や石油だけでなく、天然ガスの将来性に関する評価も低下したと考える。

【新電力】消費者のリスク 市場高騰で顕在化


【業界スクランブル/新電力】

卸電力市場価格高騰に伴い、市場連動メニューのリスクが社会で話題になっている。SNS上では主に新電力と市場連動メニューを契約している消費者から「電気代が1日5000円を超えてしまう」「今月の電気代が10倍になってしまう」といった悲痛な声が注目を集めた。市場連動メニューは主に風力発電所の導入が進む欧州で盛んだ。特に深夜時間帯を中心に風力発電所の余剰電力が発生し、市場価格が低下する。この安価な電力を活用して、小売電気事業者が消費者の電気自動車(EV)やヒートポンプ(電気給湯器)の充電制御を行うことで再生可能エネルギーの出力抑制量を減らすことができ、電気料金を削減できる画期的なメニューだった。欧州の市場連動メニューには上限価格が存在することから、消費者のリスクは少なく顧客の支持を集めている。

一方で、日欧を比較すると見落とせない大変重要なポイントがある。日本は資源輸入国であり、資源国とガスパイプラインでつながっていない。また、欧州は異なる電源構成の国の系統が相互につながり、電力取引を通じて相互補完する仕組みが確立されている。

日本は資源産出国から遠く離れており、ガス大量消費国の中国・韓国との購買競争にさらされている。電力需要や再エネの発電量の予測が外れた場合、すぐにエネルギー(ガス・電力)を輸入できる欧州と異なり、日本はすぐにエネルギーを輸入できる環境にない。今回の事態は日本のエネルギー供給体制の課題が顕在化した出来事だったといえよう。

今後の議論のポイントは3点である。①新電力は供給条件説明義務、契約締結前・締結後の書面交付義務を果たしていたのか、②市場連動メニューを利用している消費者は卸電力取引所の価格変動リスクを認識していたのか、③顧客が価格リスクをヘッジできるオプションは用意されていたのか―。

電力・ガス取引監視等委員会において「電力の小売営業に関する指針」の改正について検討が進むと思うが、消費者保護の観点から議論が必要だ。(M)

韓国が北朝鮮への原発輸出を検討か


【ワールドワイド/コラム】

国産原子炉の輸出禁止や、月城原子力発電所1号機の早期稼働停止を図るなど、脱原発政策を進める韓国・文在寅政権。そんな文政権には1月末から「秘密裏に北朝鮮で原発を建設する案が進められていたのでは」との疑惑が広がっている。

そもそも韓国では、月城原発の早期閉鎖問題を巡り、「早期閉鎖の根拠となっている『経済性』は、文政権に忖度したもので、妥当性に欠けているのではないか」との問題が浮上していた。監査院が本件の調査に乗り出そうとしたところ、産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は調査が入る前に内部文書530件を違法に削除した。

だが、その削除データはマスコミの手に渡り、その中に「北朝鮮への原発輸出プラン案」が含まれていたことが発覚した。

最大野党の「国民の力」は、「衝撃的な利敵行為だ」と文政権を批判し、「この文書を2018年に行われた南北首脳会談で韓国の対北支援プランとして金正恩に手渡した」と主張する。一方の文政権は「そのような事実はない」と反論。当の産業通商資源部も本文書について「あくまでも政策立案を行う上でのアイデア出しにすぎない」として、実効性のあるものではないと説明している。

輸出の実現性について、国際原子力機関(IAEA)元事務次長のオリ・ハイノネン氏は「原発は韓国と北朝鮮が独自に議論して建てられる類の施設ではない」と指摘。「1994年にあった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)での原発建設計画とは比べ物にならない規模の投資が必要になる。どのような国際的合意を結ぶかというのも問題だ」と語っている。真相はやぶの中だが、実現の可能性は限りなく低そうだ。

【電力】新電力に打撃 脆弱な電源構成


【業界スクランブル/電力】

昨年末からの電力需給ひっ迫・市場価格高騰で一部新電力の経営がダメージを受けていることについて、審議会の主要メンバーである学識者の言。

「多くの有識者や発電事業者は、今冬の需給ひっ迫の前には、『変動再エネが普及すれば卸市場価格は傾向的に低下する』『卸市場価格には少なくとも一部の固定費は含まれておらず、取引所で電力を調達する小売事業者は固定費負担を免れてただ乗りしている』などと、ミクロ経済学のイロハが分かっているのか怪しい、物事の一面しか見ない愚かな議論を振りまいてきた。これが正しければ、固定費の乗ったベースロード電源市場を活用せず、小売事業者が過度にスポットに頼る経営をしたとしても、価格高騰への備えを怠っても、むべなるかな」

新電力がリスク管理を怠ったのは発電事業者のせいとは随分と乱暴な話だ。今行われている限界費用によるスポット市場への投入は、当時審議会メンバーであった某氏の強い主張で実現したものだが、氏は相応の頻度で市場が玉切れによる価格スパイクを起こし、電源が固定費を回収することを想定していた。

ところが、日本の市場ではほとんどスパイクが起こらない。まるで、凪のような市場だ。玉切れが相応の頻度で起こる市場が社会的に望ましいという感覚が共有されず、例えば予備率8%を必達目標としたなら、そんな凪の市場になるのもむべなるかな。

ところが、kWの不足でなく燃料不足により価格スパイクが起きた。これが3週間ほど続いたことを世界的に異常だとか災害級だとか言う向きがあるが、水力発電中心の国で渇水が起きたようなもので、北欧に行けば渇水か豊水かで月平均でも市場価格が数倍違う。

それよりも深刻なのは、日本の電源ミックスが大量の備蓄が難しいLNGに過度に依存し、海路が封鎖されればひとたまりもないほど脆弱だと国内外に知れ渡ったことだ。このような国家安全保障にかかわる課題を尻目に新電力の経営問題ばかり騒ぐのでは、平和ボケと言われても仕方ないのではないか。(T)

温暖化外交に注力する米国 注目される米中関係の行方


【ワールドワイド/環境】

1月20日、厳戒態勢の中で米国にバイデン新政権が誕生した。公約通り、就任と同時にパリ協定復帰に署名し、1カ月後に米国は法的にパリ協定に復帰する。

 4月にはアースデーに合わせて気候サミットを主催し、国際的な温暖化防止運動への復帰を誇示するとともに他国に国別目標の引き上げを迫り、リーダーシップを発揮したい考えだ。それには野心的な2030年目標を掲げる必要があるが、民主党は新法制定に必要な絶対多数を上院で有していない。そのため行政命令や既存法の解釈に基づく施策が中心となるが、巨額なインフラ予算を通すことは過半数あれば可能だ。それをテコに4月のサミットで何らかの数字を出してくる可能性も十分ある。

 バイデン政権の温暖化外交で注目されるのは米中関係の行方だ。気候変動特使に任命されたケリー元国務長官は気候変動に対する思い入れが極めて強く、ほかの懸案事項を横に置いても米中協力の深化に突き進むのではないかとの見方がある。民主党に近いブルッキングス研究所のトマス・ライトが書いた「バイデンが独自の対中政策に走るリスク」という論文で、彼はオバマ政権時代から米中関係での最重要分野は気候変動との信念の持ち主で、政権の対中方針からは乖離していたと評される。

 中国はこれをチャンスと捉え、1月初めには王毅外相が米中関係の関係改善や協力促進を呼び掛けている。真の狙いは気候変動分野で前向きな姿勢を示しケリー特使の歓心を得て、南シナ海、香港、台湾などの安全保障分野や人権、知的財産権、貿易などの分野で米側の譲歩を得ようというものだ。ケリー特使が政権発足直後、中国に飛んで温暖化分野での米中協力をうたい上げるのではないかという懸念は、バイデン政権に近い専門家からも公然と囁かれていた。

 本人もそういう懸念を認識していたのだろう。政権発足直後の記者会見で「知財の盗用、南シナ海など、米国と中国の間には深刻な意見の食い違いがあり、これらが気候変動分野の進展の交渉材料になることは決してない」と言明。米国では中国(正確には中国共産党)に対する反感は民主党、共和党を問わず一致している。米中が手を携えてパリ協定を作った5年前とは状況が大きく異なっている。

 とはいえ、ケリー特使の気候外交は船出したばかり。日本としても引き続き注視が必要であろう。

脱炭素社会への展望がテーマ 電力のシンポジウムを開催


【公益事業学会】

識者で作る公益事業学会政策研究会(電力)のシンポジウムが1月18日に開催された。今回のテーマは、「電力自由化20年の検証と2050年への展望」。年初からの電力需給ひっ迫と、それに伴うスポット価格高騰のさなかの開催とあって、将来の安定供給に向けた電力システムの在り方についてさまざまな意見が噴出した。

初めに論点提起した山内弘隆会長(一橋大学大学院特任教授)は、「今回の電力需給ひっ迫を教訓に、どのような形でこの先の安定供給を維持していくのか。市場原理に委ねることの限界を認識した上で、詳細な政策、制度を考えていく必要がある」と強調した。

シンポジウムはオンライン形式で開催された(提供:電気新聞)

どう安定供給を維持するか 多角的観点から提言

基調講演した資源エネルギー庁の小川要・電力基盤整備課長は、①電源の投資回収、②再生可能エネルギー変動の調整、③イノベーション、④市場の機能―などを課題として挙げ、「自由化に伴い変化、変動が大きくなっていることを踏まえ、制度としてどのような仕組みを作るか。同時に、小売り、発電のプレーヤーが、どのような経営戦略を描いていくかも重要だ」と述べた。

続いて、12人の学識者、電力業界関係者が「マクロ制度設計」「競争設計」「発電投資・容量市場」「再エネ」「脱炭素」「イノベーション」といった多角的な観点から、現状の課題と最新の知見に基づく電力システムのあるべき姿を提言した。

最後に行われたパネルディスカッションでは、需給ひっ迫により足元の安定供給体制に課題が突き付けられた中、50年の脱炭素社会の実現に向けて電力システムをどう再構築するかが大きなテーマとなった。東京大学の高村ゆかり教授は、「脱炭素化を目指す上で、必要な供給力を維持しながら電源の差し替えをいかに円滑に進めるかという視点が、これまでの脱炭素議論の中で欠落していた」と指摘した。

聴講者からの「需給ひっ迫の原因は制度、プレーヤーのどちらにあるのか」「経営難に陥った新電力の支援は必要か」といった需給ひっ迫に関連する質問に対して登壇者からは、「プレーヤーをよくするのも悪くするのも制度。(安定供給の確保を)どこまで市場に任せ、どこまで政府が担保するのか長期的な議論が必要だ」(竹内純子・国際環境経済研究所理事)、「経営難に陥った新電力を支援してしまうと、リスクヘッジをしていた事業者が損をしてしまう。今後の制度設計にどう生かすかが、重要だ」(井手秀樹・慶応大学名誉教授)といった回答があった。

ポーランドも脱炭素へ 大手電力が50年ゼロエミ宣言


【ワールドワイド/経営】

欧州最大の産炭国であり発電量の7割を石炭に依存するポーランドでも、脱炭素化に向けた動きが加速している。

 同国の電力最大手PGE(政府資本57%)は2020年10月、石炭火力発電所を段階的に閉鎖し、30年までに自社電源の50%を再エネに、50年までにゼロエミッション化することを目指す新たな経営戦略を発表した。同社ダブロフスキCEOは石炭火力の段階的な閉鎖に備え、今年末までに自社の石炭火力資産を別の国営企業として分離することを提唱している。

 19年12月の欧州グリーンディール発表後、欧州ではカーボンニュートラルに向けた動きがますます活発化しており、石炭火力の前途には暗雲が垂れ込めている。そうした中、新型コロナウイルス感染拡大によって、ポーランドでも昨年3月以降経済活動が制限され電力需要が急減、一方、欧州排出量取引制度(EU−ETS)の排出権価格や国内炭価格が上昇を続け、石炭火力の経済性は悪化した。PGEはこうした情勢や政府の原子力・再エネを主軸に据えるエネルギー戦略案を受けて、再エネ電源に活路を見いだそうとしている。

 PGEは自社発電設備の8割を占める石炭火力を今後約10年で天然ガス火力にリプレースし、コージェネと地域暖房設備についても石炭から天然ガスへ転換する方針を示している。さらに同社は30年までに総額750億ズロチ(約2兆円)を投じ、再エネ開発を進める計画だ。洋上風力と太陽光発電をそれぞれ250万kW新設、これらの出力変動を補完するため80万kW以上のエネルギー貯蔵システムを設置するとしている。

 再エネに注力する新戦略を発表後、同社の株価は上昇するなど、投資家からは高評価を得ているが、環境保護団体からは「石炭火力をスピンオフするだけならエネルギー変革にならない」との批判も残る。この石炭火力分離案については現在政府と協議中とされており、その行方が注目されている。

 こうした中、今年1月21日にドゥダ大統領が「洋上風力法」に署名し、近く施行される見通しとなった。同法は固定価格での差額決済契約(英国のFIT−CDFと同様)による洋上風力の開発、投資促進を目指すものである。PGEはバルト海沖に30年までに250万kW、40年までには最大650万kWの洋上風力発電所を建設することを目指している。今回、洋上風力法が成立したことで、50年の電源のゼロエミッション化を目指す新たな経営戦略は現実味を帯びてきている。

新たな石油生産エリアに成長? ガイアナとそれを追うスリナム


【ワールドワイド/資源】

南米・スリナム沖合第58鉱区では、2019年9月から21年1月までに4坑の探鉱井が掘削され、全坑井で油層が確認された。具体的な埋蔵量は公表されていないが、大規模な炭化水素の埋蔵が確認されたという。

 この第58鉱区に接する隣国ガイアナのStabroek鉱区では、15年に米エクソンモービル率いるコンソーシアムがLiza1号井で油層を確認。その後に掘削した17坑でも油層を確認した。現在、同鉱区の可採埋蔵量は80億バレル以上と推定されている。19年12月にはガイアナ初の石油生産が始まり、20年には石油輸出を開始。20年12月以降、石油生産量は日量12万バレルを上回っている。同社は26年までに5基の浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備を用いて、日量75万バレルの石油を生産することを計画している。

 ガイアナでは、政党間の争いにより20年3月2日に実施された総選挙の正式な結果が出ない状況が続いたことや、新型コロナウイルスの感染拡大で油田開発に一部遅れが見られた。しかし8月にイルファーン・アリ大統領が就任し政情が安定したことや、同国沖合油田の損益分岐点は原油価格1バレル当たり25~32ドルであることも相まって、開発が進展するようになった。これまでに油層が確認できなかった坑井もあったものの、油層の広がるエリアの確定につながり、開発を後押ししている。

 一方、スリナムでは国営石油会社Staatsolieにより1980年代から陸上で原油の生産が行われていたが、近年の生産量は日量1万5000バレル程度と小規模なものだ。沖合ではガイアナ沖合でLiza油田が発見されて以降、メジャーをはじめとする石油会社の参入の動きが活発化し、探鉱が行われてきた。だが、これまで商業規模の油田の発見はなく、ガイアナの後塵を拝していた。

 そんな中、米国の独立系石油会社アパッチは、スリナム沖合第58鉱区で19年9月に探鉱井の掘削を行った。同社は当初掘削の結果を公表せずに、掘削を続けるとしたことから「有望な結果を得られなかったのでは」とみられていた。しかし同年12月に仏トタルが同鉱区の権益50%を取得し、その後、油層の確認が相次いだため同鉱区やスリナムでの探鉱・開発への関心が一気に高まった。21年1月からはトタルがオペレーターを引き継ぎ、今後は評価井の掘削キャンペーンが実施される。

 スリナムが石油生産量を増やし、ガイアナと併せて新たな石油生産エリアとなれるのか注目が集まる。

新電力ビジネスの「困りごと」に対応 パートナー企業獲得で事業拡大目指す


【ダイヤモンドパワー】

中部電力グループのダイヤモンドパワーは、電力小売り競争が激化する中でさらなる事業拡大を図るため、小売り電気事業者向け支援サービスとして展開している「新電力プラットフォーム事業」の強化に乗り出した。

2000年に高圧需要家向けの電力小売業に参入し、「新電力1号」となった同社は、16年4月の全面自由化を機にそれまでの実績を生かし同事業を開始。事業者登録や営業活動、電源調達、需給管理、顧客管理といった、新電力に必要な業務を包括的にサポートしてきた。

電源調達やインバランスのリスクを同社が全面的に引き受けることで、加入する事業者はリスクフリーで販売活動に専念できるのが特徴で、これまでに地方都市ガス会社やLPガス販売会社、地域新電力といった約50社が同プラットフォームに参加している。

今後は、電源調達のみ、需給管理のみといったように、事業者の個別の「困りごと」に柔軟に対応していく。また、再生可能エネルギーやCO2フリー電気の販売、自社の発電機を持つ顧客に対する自己託送といった、新たな顧客ニーズに対応できるよう、メニューづくりやサービス提案の支援にも力を入れる。中部電力ミライズが提供している生活支援サービスを付加価値サービスとして活用することもできるようになる。

ホームページでは「困りごと」に応じた支援を提案

パートナー企業100社へ ホームページも刷新

宮下功嗣営業部長は、「販売量の拡大には、本業で顧客との接点のあるパートナー企業の存在が欠かせない」と語る。実際、取り扱い電力量約60億kW時のうち、約7割を新電力プラットフォームを通じた販売が占めている。「困りごと」に応じたきめ細かい支援を通じて、パートナー企業を100社まで増やし電力販売量の拡大につなげたい考えだ。

1月15日には、ホームページを全面的に刷新し、自社の顧客、新たに電気事業を始めたい事業者、「困りごと」がある新電力、発電事業者―といった対象ごとに、事業内容に関する説明を充実させた。新型コロナウイルス禍で新規にパートナーを獲得するための営業活動が難しい中、ホームページを通じた問い合わせをきっかけに契約交渉が進むことへの期待は大きい。

現在は、昨年末からの電力需給ひっ迫やスポット市場価格高騰に伴う相談が多く寄せられているといい、電力事業を安定的に継続したい新電力に対してプラットフォームを提案する好機となっている。

【マーケット情報/3月12日】欧米原油上昇、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物と、北海原油の代表であるブレント先物が、需給緩和の見込みを背景に下落。一方、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週比で上昇した。

米国の週間原油在庫は、寒波に見舞われたテキサス州で生産が再開したことで増加。また、米エネルギー情報局は、原油価格の上昇を背景に、今年および来年の国内産油量に上方修正を加えた。さらに、リビアは今年の終わりまでに、産油量を2012年以来の最大にする方針を示した。他方、クウェイトとオマーンは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入国規制を延長。供給増加の見込みと燃料需要回復への不透明感が、WTI先物とブレント先物の重荷となった。

一方、ドバイ現物には、中東の情勢悪化による供給不安が強材料として働いた。イエメンを拠点とする武装勢力フーシが7日、サウジアラビアの石油関連施設をミサイルで再度攻撃。サウジアラビアは、それを迎撃したと発表した。

また、米国の新大統領は、ベネズエラの原油輸出に対する制裁を直ちに解除する意向はないと表明。加えて、同国大統領は、1.9兆ドルの新型コロナウイルス追加経済支援を承認。経済再建とワクチン普及にともなう石油需要増加への期待感が高まり、ドバイ現物を支えた。

【3月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=65.61ドル(前週比0.48ドル安)、ブレント先物(ICE)=69.22ドル(前週比0.14ドル安)、オマーン先物(DME)=67.91ドル(前週比ドル1.50高)、ドバイ現物(Argus)=67.90ドル(前週比1.51ドル高)

【コラム/3月15日】枝野氏の現実的発言を歓迎する


福島 伸享/元衆議院議員

 立憲民主党の枝野代表は、西日本新聞のインタビューに答えて「原発をやめるということは簡単なことじゃない」「政権の座に就いたら急に(原発ゼロを実現)できるとか、そんなのはありえない」「カーボンニュートラルには技術革新も必要で、何年やったらできますなんて無責任なことは言えない」と発言している。2月26日の記者会見でも同趣旨のことを繰り返し、「原発をゼロにするゴールは100年単位だ。使用済み核燃料が安定的に保管されて初めて原発をやめたと言える。廃炉も簡単に作業できるとは限らない」と語ったと報道されている。

 もちろん党の綱領に掲げる「原発ゼロ社会」の旗印を下ろしたわけではないが、イデオロギー的な「原発即時ゼロ」のスローガンを唱えるのではなく、現在の日本の原子力が抱える状況を見据えた上で、現実的な政策論を展開しうる土俵に降りてきたことを歓迎したい。最近打ち出している立憲民主党の「zeroコロナ戦略」もウイルスゼロということではないようなので、綱領の「原発ゼロ社会」も幅のある概念だということなのだろう。とかく選挙の時になると俗耳に入りやすい「原発即時ゼロ」「原発絶対ゼロ」を野党は掲げがちだし、支援者にはそれを期待する向きも多い。しかし、今回そうしたポピュリズムと一線を画する姿勢を明らかにしたことは、党の代表としては勇気のいることであると最大限に評価されるべきである。

 枝野代表は、「使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない」と、原子力政策に関わる立地地域との関係を指摘し、なぜ原発ゼロが簡単にいかないかその本質も的確に把握している。八ッ場ダムの二の舞を繰り返すことはないだろう。さらに、毎日新聞のインタビューでは「原子力技術をいかに残していくかも重要な課題だ」とも言っている。単純な「脱原発」論者じゃないことは、明らかだ。

 このように土俵を設定されると、政府・与党の側でも現実的な原子力政策の再構築を提示せざるをえないだろう。10年前の東日本大震災以降、原子力をめぐる環境が根本的に変わったにもかかわらず、7年8ヶ月の安倍政権の間に惰性で無為な時間を過ごしてしまった。そのため、あの大事故後、日本の原子力政策の目標はどこにあって、そのためにどのような体制で遂行し、どのような政策資源を投入していくのか、ほとんど何も決まってはない。その結果、再稼働はほとんど進まず、原子力産業は衰退し、日本の原子力は瀕死の状況に陥りつつある。私は、その状況を拙著『エネルギー政策は国家なり』で、「実は「脱原発」の安倍政権」と表現している。

野党第一党側は、100年単位での現実的な原発ゼロへの道を模索し始めている。そうであるなら、政府・与党側からも今の日本のエネルギーや原子力が現実に置かれている環境を的確に見据えた上で、やはり現実的な原子力政策論を展開すべきであろう。菅総理の唱える「カーボンニュートラル・バブル」に踊っている場合ではないし、カーボンニュートラルにかこつけてドサクサ紛れに原子力政策を進めるといった弥縫策も通用しまい。まずは、バックエンド問題をどう解決していくのか、もんじゅの廃炉やプルサーマル可能な稼働原発数の激減、最終処分場の立地を巡る自治体での新たな動きといった環境変化を踏まえた政策を提示しなければならない。

「原発か再エネか」などといった単純な二項対立の無意味な議論は、もう終わった。イデオロギー的観念論ではない、現実の所与の条件に即した、地に足の着いたエネルギー政策の議論が、今後政治の場で始まることを期待したい。そのためにも、自分もその場に戻らなくてはならない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

「女性発言」は最重要か? 見過ごされる電力危機


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

原子力関連の会合でパネル討論に出た時のことだ。原子力発電所の再稼働に向けて理解を得るにはどうすべきか、と問われた。

「女性の活躍に期待する。ついては発電所長などリーダーに女性をどんどん登用すべきだ」と申し上げた。「再稼働が難航している今こそ」。そう強調した。

人に思いを伝えるコミュニケーション能力は、概して女性の方が高い。そう考えるからだ。

フィンランドを訪問した際に見かけた原子力関連の冊子にも、同じ趣旨の記述があった。同国は世界で初めて、使用済み核燃料の処分地を決めたことで知られる。どう対話を結実させたか。理由の一つとして、女性たちの積極的な役割が紹介されていた。

日本で、原子力発電所や関連企業、研究機関を女性が率いる例は聞かない。おっさんばかりだ。

ところが、である。女性パネリストから叱責された。「今は、どうせ発電所が止まっている。だから女性に任せとけばいい、というのか」。予想外のツッコミで、その後はシドロモドロになり、会場の失笑を買った。

朝日2月5日の一面トップ「五輪組織委、森会長、発言撤回し謝罪」「女性が多い会議、時間がかかる」に、当時を思い出した。

記事によると、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で、「『女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言される』などと発言した」という。

「国際オリンピック委員会の広報担当者は、取材に『森会長は謝罪した。これで問題は終了したと考えている』とコメントした」とあるが、朝日は容赦しない。社会面で「撤回で終わり? 強まる逆風 性差別に『怒り』、海外メディア批判」と展開する。

前日の報道を見ると、実は、だいぶ雰囲気が違う。

問題の会議は記者たちに公開されており、読売4日朝刊は社会面ベタ記事。同日の朝日朝刊社会面「JOC会合、森氏『女性がたくさんいる会議、時間がかかる』」に至っては、発言に「評議員からは笑い声もあがった」である。

同日の毎日社会面「森会長が私見」には、「組織委の7人の女性理事にも言及し、『みなさんわきまえておられる。競技団体ご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり。話も的を射ており、役立っている』とも述べた」とある。

本当に、これは最重要のニュースなのだろうか。

森氏を袋だたきする紙面を横目に、例えば読売5日朝刊を見る。社説「車の半導体不足、『産業のコメ』確保に知恵絞れ」は「日本の半導体産業の再生も課題だ」と主張する。重要な視点である。

地味だが、同日の日経朝刊10面「LNG 日本へ初輸出 タイ石油公社」も見逃せない。

「タイ石油公社が火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)を初めて日本に輸出したことが4日、分かった。他国から輸入したLNGを再輸出した形。日本は冬季でエネルギー需給がひっ迫する一方、タイは比較的余裕がある」

電力供給が危機に陥った日本の今冬の状況を考えれば、ニュースの軽重は明らかだ。

そして、電力の安定供給に資するのは原子力発電所の再稼働である。出よ! 女性のリーダー、と書くと、炎上するだろうか。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

カーボンニュートラル宣言 新増設・リプレースに正面から議論を


【オピニオン】新井史朗/日本原子力産業協会理事長

昨年10月末、菅義偉首相は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラルを宣言。省エネルギーの徹底や再生可能エネルギーの最大限導入と並んで、原子力による安定的エネルギー供給にも言及された。

18年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、脱炭素化の目標は原子力なしでは達成できないことを明らかにしている。また、国際エネルギー機関(IEA)は、19年に公表した「Nuclear Power in a Clean Energy System」において、パリ協定の目標を達成するにはエネルギー効率改善と再エネと共に、原子力の大幅な増加が必要だとしている。

世界の多くの国は、発電時にCO2を排出しない原子力利用による電力の脱炭素化に注目しており、英国、中国、ロシア、東欧、中東、インド、米国、フランス、フィンランドなどで原子力発電所の新増設が進行し、アフリカやアジア諸国でも導入の検討が行われている。

日本では、年間CO2排出量11億4000万tのうち、4億2000万tを電力部門が排出しているが、仮に100万kW級の原子炉1基が稼働すれば年間約310万tの削減効果がある。さらに、原子力は間欠性のある再エネを補って電力の安定供給を確保し、再エネ導入拡大によるコスト増大を緩和し、電気料金の低廉化に貢献する。

原子力がこうした役割を果たすためには、新規制基準に合格したプラントの再稼働を着実に進めるとともに、50年に向けて、稼働率向上や運転期間延長による既存炉の徹底活用、さらには50年以降を見据えた新増設・リプレースの検討が必要である。

一方、前述の11億4000万tには、エネルギー起源のほかに、鉄鋼・化学など産業部門の2億8000万t、運輸部門の2億t、都市ガスやプロパンガスといった熱源からの1億1000万tが含まれており、カーボンニュートラルにはこれらの抑制も必要である。IEA発行の「World Energy Outlook 2020」においても、再エネや原子力による電力は、輸送や産業部門の電化を通じて一層のCO2排出削減に役立つとされている。

日本には、現在、建設中を含め36基(廃炉申請済みを除く)の原子炉があるが9基しか再稼働していない。未稼働の原子炉について、早急に安全審査、安全対策工事を完了させ、1日も早い再稼働を期待する。さらに、持続可能な原子力発電の利用には技術力の維持・継承と人材の確保・育成が欠かせない。次期エネルギー基本計画の策定においては、可能な限り原子力依存度を低減するという現行方針の見直しや新増設・リプレースについて、正面から議論されることを望む。

原子力産業界は、たゆまぬ安全性向上、技術革新、そしてそれらを推進する人材の育成に努めると共に、脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する原子力の価値について、国民の理解が深まるよう努めてまいりたい。

あらい・しろう 1982年東大工学部原子力工学科卒、東京電力入社。2010年柏崎刈羽発電所副所長、14年東通原子力建設所長、19年東京電力ホールディングス理事・原子力・立地本部副本部長、20年8月から現職。