<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人
今冬、電力需給は危機的な状況に陥ったが、マスコミは大きく報道せず国民の関心は薄かった。経産省と電力業界の対応も一枚岩でなく、今後に禍根を残しそうだ。
―年明けから電気の需給がひっ迫して、電力供給は綱渡り状態が続いた。しかし、マスコミはあまり注目しなかった。
電力 東日本も西日本も危機的な状況が続いた。国が節電要請を出してもおかしくなく、マスコミはもっと異常な状態であることを伝えるべきだった。もっとも、新型コロナの東京の感染者が1月7日から急激に増えて、マスコミにとってはコロナの報道が優先。大きく紙面を割いた。電力危機は後回しにされた。13日ごろから各紙が報じ始めたが、「もう少し早くから伝えてくれれば」と思っている。
ガス さすがに電気新聞は年明けからスポット市場の高騰を書き始めて、その後も継続的に需給の問題を追っていた。電力会社と近い関係にあるだけに、現場の人たちの切実な危機感を伝えていた。その後に日経が書き始めたが、ほかの一般紙は出遅れている。
石油 ただ、朝日、毎日、東京をはじめ、産経を除く各紙の電力需給の記事は歯切れが悪かった。今回は、LNG、石油などの燃料不足が大きな要因だ。原発は3基しか稼働していなかったが、多く動いていればこんな事態は起きなかった。燃料輸入が停止しても安定的に電力供給をする原発の役割について、原子力嫌いの大手紙は書こうとしない。しかも、再エネを盛り立てたいから、調整力として欠かせない火力発電の重要性にもあまり触れない。それで、結局何が言いたいのか分からない記事や論説ばかりとなった。
―電力業界関係者からは、国の節電要請を求める声も出ていた。
電力 経済産業省は需給ひっ迫を深刻に受け止めていなかった。梶山弘志経産相は会見で「電気を効率的に使ってほしい」と話したが節電には触れていない。それどころか、「暖房の利用などは普段通りに」と言っていた。記者も、大臣が「効率的に」と同じことしか言わないことが分かっているから、それ以上、踏み込んだ質問をしなかった。
マスコミ 経産大臣が効率的な使用しか言わないのは、官邸からクギを刺されているから。新型コロナ対策で7日に緊急事態宣言を出して、「とにかく家にいてください」と言っている。すると例年にない寒さだから、エアコン暖房の人たちは室温を上げる。それを「温度を下げてください」と言ったら、ただでさえ支持率が低下気味なのに、一気に政権批判が高まってしまう。
ガス 電気事業連合会は10日から節電の要請を始めたが、「節電」という言葉を使うか、経産省と電事連との間でかなり激しいやり取りがあったようだ。経産省の要請が「効率利用」で、電力業界が「節電」では国民は戸惑う。結果として需給ひっ迫は乗り切れそうだが、大停電を引き起こす可能性があった。今冬、経産省と電力業界が一枚岩になれなかったことは、今後に禍根を残したと思う。
ピンチに電力間で温度差 関電は頭を下げて燃料調達
―電力業界は停電阻止に懸命だったと思うが。
電力 いや、そうとは言えない。福島第一原発事故の前は、電力会社はとにかく安定供給が至上命題。予備率が5%を切ると「大変だ」と、社内は雰囲気が一変して、社員の顔色が変わった。ところがいまは、例えば東京電力の場合、どこか緊張感が足りない。経産省の支配下になって、供給義務もなく責任感が薄れて、「停電が起きてもエネ庁の責任。おれたちが悪いわけじゃない」という雰囲気を感じる。
マスコミ 会社によって温度差がある。例えば、発電と小売りが一体の関西電力は、停電阻止に会社が一丸となった。LNGを分けてもらうために、幹部が大阪ガスに頭を下げたと聞く。停電や台風などに使う高圧発電機車も出動させている。こんなことは、大阪北部地震でもなかったらしい。「できることは、全てやった」と社員が言っていた。ところが、持株会社の下に3社に分けた東電は、責任感、義務感もバラバラになった気がする。
激変するエネルギー業界 原発否定では解決せず
―需給ひっ迫で再エネは役に立たず、火力発電は石油火力まで動員して危機に対応した。それでも、原子力に否定的なマスコミの風潮は変わっていない。
石油 カーボンニュートラル宣言をしたこともあり、日本のエネルギー全体を取り巻く状況が大きく変わろうとしている。それをマスコミは直視しようとしていない。3月11日の福島第一原発事故10年に向けて、原子力に批判的な記事が出始めている。まだ避難している人たちが多くいることを考えると、仕方がない。だけど原発を否定するだけでは、日本が抱える課題は何も解決しない。
マスコミ 朝日が東日本大震災10年の連載で、原子力規制委員会誕生の経緯と現状を取り上げていた(1月17日)。福島事故の後、当時野党だった自民・公明党が規制機関を「3条委員会」にすることを求めたことなど、なかなか読み応えがある内容だった。ただ、再稼働が遅れている理由を、「(電力会社の)基準を満たす最低ラインを探るような姿勢」とするのは首をかしげた。遅れているのは主に、活断層の審査が進まないせい。個人の主観で判断がコロコロ変わるような内容の規制にしたため、一部の専門家などが「(活断層の)可能性は否定できない」と主張して止まっている。世の中に「可能性を否定」できるものはない。朝日には、そこまで突っ込んでほしかった。
―それを朝日に期待するのは無理だと思う。




