【原子力】ゼロエミ宣言 絵に描いた餅も

【業界スクランブル/原子力】

菅義偉首相は2050年CO2削減80%の方針を上方修正し、50年温室効果ガス排出ゼロ方針を打ち出した。他国同様に実行計画を伴わないが、もしこのままなら意欲と方向性だけの絵に描いた餅になる。しかし、わが国の特長は首相が50年ゼロを成長戦略として位置付けるとし、今後実行計画を策定するとみられる点にある。意欲的目標に実行計画をプラスするのは世界に例のないことであり、極めて困難な道だ。もし道を誤れば環境・経済・社会に幅広く深刻な影響を与え一国を滅ぼす恐れすらある。

50年に向けた発射台を13年とすれば、わが国のCO2排出量は14億tで、鉄鋼と化学産業だけで2.5億tに達す。エネルギー消費のうち約75%が非電力部門で、ほぼ化石燃料による発電。それを使用抑制すれば経済への悪影響が甚大だ。非電力部門を電化し、非化石燃料による電力で賄えば効率的にCO2抑制が図れる。すなわち有効な処方せんは電源脱炭素化と需要の電化であり、そのかけ算でCO2排出を抑制できる。

13年のわが国の総電力消費量は1兆kW時だったが、放っておけば人口減・経済停滞・省エネ進展により、総需要は減少傾向だ。しかし、電化を進めると25%増程度になる。これをどう賄うかというと、再エネが53%、石炭なしの火力発電が35%、原子力が10%(20基相当・2000万kW)としても、CO2は72%減にすぎず、カーボンニュートラルは未達だ。実行計画の策定はそれだけ難しい。わが国の再エネ普及遅延が話題になるが、狭い国土ながら、太陽光は世界第三位に伸びた。それは既に織り込み済みであり、再エネの国民負担が極めて大きい。賦課金だけでも年間2.4兆円、家庭用電気料金の約10%、業務用・産業用の電気料金の約20%に達している。カーボンニュートラルの実行計画には、低炭素電源での原子力をどうするかという視点が欠かせない。当面有力な道である既設原発の長期運転にしても、米国は80年超運転に既にかじを切っているが、その立法政策の担当すら具体化していない。地に足がついた実行計画の策定を望む。(Q)

【LPガス】地域の持続可能性 脱炭素化への対応

【業界スクランブル/LPガス】

2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を菅義偉首相が表明した。その際、LPガス業界がどうなるのか考える必要がある。忘れてはならないのは「地域がどうなっているのか」という問題認識と組み合わせて考えなければならないということだ。あくまでも現実的な解決策を求める必要がある。

LPガス事業を取り巻く課題として、次の四つの大きな潮流がある。すなわち、①エネルギー間のさらなる競合激化、②脱炭素社会への対応、③人口減少社会への対応、④地球温暖化への対応―であり、これらの課題が深刻化する中にあったとしても、LPガス事業にとって保安や災害に対する強靭さの確保は必要不可欠なものであることは変わらない。

50年を視野に入れた時に、化石燃料のLPガスも、天然ガスと同様に脱炭素化が求められるが、燃焼時に出るCO2を大気中に排出させないための処理をしない限り、残念ながら環境面ではほかのカーボンフリー・エネルギーに劣後してしまう。都市ガスは、メタネーションによるカーボンニュートラルを検討しており、既存のガス導管網を活用して消費者に供給できる可能性がある。

一方LPガスの場合は、仮にプロパネーションや、バイオLPガスで「グリーンLPガス」が作れるにせよ、物流・配送形態が今のままの効率では、商用化の可能性は極めて低い。価格が利用不可能な水準であれば消費者は選択しないだろう。

LPガスは、地球温暖化対策にかかわらず生活には必要不可欠なものであり、死活問題にもなりかねないため、消費者に対して使用禁止措置を講じることはあり得ないと思われる。故に、人口減少社会下にある地域のエネルギー供給と密接不可分に関わってくるLPガスは、地域の生活者にとっての「最後のとりで」となるエネルギーであり、たとえノーカーボンではないにせよ、LPガスはローカーボンで「地域の持続可能性を支えていくエネルギー源」であると強固に主張するしかないのかもしれない。(D)

【松本洋平衆議院議員(自民党)】日本が一歩を踏み出してきた

「人の役に立つ」との思いで政治家を志し、福島復興やエネルギー政策の最前線に立った。政権では福島復興の難しさに直面。課題に真正面から向き合い、収束に向け奔走する構えだ。

まつもと・ようへい 1973年東京都品川区出身。96年慶大経済学部卒、三和銀行入行。05年衆院選に出馬し、初当選。14年内閣府政務官、16年内閣府副大臣(防災担当)、19年経済産業副大臣兼内閣府副大臣に就任。当選4回。

1973年に東京都に生まれた松本氏。学生時代には陸上競技に打ち込む青春を送り、高校ではインターハイやジュニアオリンピックに、大学ではインターカレッジにも出場。就職活動をするに当たり、「仕事を通じて社会の役に立ちたい」との思いもあって、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行した。
しかし、入行後にはアジア通貨危機が発生。急速な円高の影響で金融業界の経営は一気に苦しくなった。「社会の役に立ちたいと思って入行したが、銀行の財務状況は悪く、中小企業への貸し渋り・貸し剥がしが社会問題化する厳しい現実に直面した」

それから政府が貸し渋り・貸し剥がし対策に乗り出したことで、状況は改善の兆しを見せる。政府施策で自身が担当していた多くの企業が救われたのを目の当たりにすると、「政治の判断には、大きなインパクトがあると実感した。正しい政治が人々の暮らしを助ける」と思い、政治家を志すようになった。

出馬に向けて数多くの政治に関わる勉強会に参加したほか、国会議員事務所にアポなしで訪問するなど多くの活動を行った。その結果、2003年の衆院選に自民党から出馬することが決定する。しかし、初めての選挙戦の結果は落選。05年に行われた衆院選に東京19区から出馬し初当選を飾る。その後は浪人も経験しながらも、現在4期目を迎えた。政権では16年の第3次安倍政権で内閣府副大臣に就任し、19年9月から今年9月にかけて経済産業副大臣兼内閣府副大臣を務めた。

政治家としては、自身が第2次ベビーブーム世代で就職氷河期を肌で知る経験から、社会構造の変革を目指している。「私が生まれた昭和40年世代が今後の日本経済を支えていくボリュームゾーンになるが、将来の社会保障に期待が持てない難しい世代になってしまっている。人口が右肩上がりに増加する時代の古い社会から、人口減が進む現代に合わせてモデルチェンジしたい」と思いを語った

福島復興は国の存在意義と同義 脱炭素化に向け水素に期待

銀行員として、また国会議員としてもエネルギー政策とは直接的な接点は多くなかったが、かねてから海洋資源開発推進を目指す議連に所属していたこともあり、「エネルギーの安定確保は、国民生活の基本だ」との感想を持っていた。
経産副大臣時代には原子力災害対策本部の現地対策本部長も兼任。時間があれば地元に行き、多くの関係者と対話の機会をつくるなど、福島復興や、福島第一原子力発電所の廃炉、ALPS処理水問題の収束に従事した。

「福島は前に進んでいる姿と、3・11から時が止まっている姿の両方が印象に残っている。地元の方からは『福島には二つの風が吹いている』という話を聞いた。一つは『風評』で、もう一つは『風化』だ。政府の存在意義が国民の生命・財産を守るのであれば、福島の事故に真正面から向き合い、復興の実現は必ずやり遂げなければならない課題だ」
また国内外のエネルギー施設の視察や、国際会合に出席し、エネルギー業界で起きる最先端の潮流にも触れた。今年10月26日には菅義偉首相が「50年カーボンニュートラル」を宣言するなど、日本も本格的に脱炭素社会を目指そうとしている。こうした取り組みに重要なこととして、「具体的な取り組みを積み重ね、新技術を確立することが目標達成につながる」と指摘する。

脱炭素社会構築に向けては、再生可能エネルギーの主力電源化や、水素に大きな期待を寄せている。特に水素については、今年3月に開所した福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドの開所式に出席。また国内で行われる水素のサプライチェーン構築に向けた運搬船の実証の模様などを視察し、「実験にとどまらず社会実装できる」と感じた。

「水素は実用化に程遠いとの意見も多い。しかし過去を振り返れば、50周年を迎えたLNGも当初は未知の技術とされていた。そうした状況にあっても日本が一歩を踏み出したことで、今では世界中で当たり前のように使われている。水素には国内だけではなく、世界を変えられる大きなチャンスがある。仕組み作りを行っていくことも大事な観点だ」

座右の銘は、大学の恩師から送られた、小平市名誉市民の彫刻家・平櫛田中の「今やらねばいつできる、わしがやらねばたれがやる」という言葉。課題に直面したときに、この言葉を思い出して「逃げることなくやっていくんだ」と自らを奮い立たせるそうだ。

「政治を志したきっかけは、貸し渋り、貸し剥がしで苦しむ中小企業を救うことだった。そういう意味ではコロナ禍で苦しむ中小企業を救う経産省での仕事は、難しいながらも、やりがいのある仕事だった」と、この1年を振り返る。政権中枢で得た知見をどう還元するのか、注目が集まる。

【コラム/12月21日】コロナ下の経済成長戦略を考える~空論・期待脱却、現実直視で

飯倉 穣/エコノミスト

 成長戦略会議で、ポストコロナ時代も考えた実行計画の中間まとめがあった。従来の成長戦略の考え方を踏襲し、労働参加率、労働生産性の指標に重点を置いてイノベーション投資増と働き方で労働増を狙う。現下の日本は技術革新停滞が継続し、成長牽引の投資は願望の域を出ない。計画は、50年カーボンニュートラル実現を目指し、革新的イノベーションを訴えた。肝心の研究体制について、独立行政法人化等で当初のプロパガンダと違い大学や国立研究機関の弱体化を仄聞する。研究・技術開発力の低下が懸念される中で、革新的エネルギー利用技術の実現は可能なのであろうか。また現在の技術で活用可能な原子力発電等の推進が曖昧である。最終報告では、机上の空論にならないように現実を踏まえた実行計画を期待したい。

1、新型コロナ対策で感染対策と経済政策の方向が迷走する中、菅新政権の成長戦略会議・実行計画の中間取り纏めがあった(2020年12月1日)。地味な報道があった。「成長戦略の実行計画」(朝日2日)、「成長戦略会議 実行計画 中小の業態転換に補助金 生産性向上へ規模拡大 脱炭素の技術開発も支援」(日経同)。

2、内容は、15章に及ぶ。まず成長戦略の考え方と50年CO2排出ゼロ・グリーン成長戦略の現実性が気懸りである。また論点の中小企業対策、デジタル化、国際金融都市、経営者の多様化も吟味が必要である。他は従来政策の焼き直しである。この稿では経済成長の考え方と研究開発状況を踏まえたエネルギー選択を考える。

3、実行計画の成長戦略の考え方は、ソローモデルの延長にある。同モデルは、成長要因分析に係る一つの考えである。資本、労働、TFP(技術進歩率・生産性等)で説明する。計画は述べる。経済成長率は、労働参加率の伸び率と労働生産性の伸び率を合計したものである。近時(安倍内閣時代)の成長で、参加率は女性や高齢者参加で拡大したものの、労働生産性の伸びが低いと指摘する。今後両者の伸び率が必要と労働投入や通常投資増を目論む。

4、繰り言だが、経済成長は、技術革新を体化した民間企業設備投資(独立投資)が惹起する。企業家の事業化意欲が投資を具現する。資金確保、投資実施(例えば工場建設等)に伴う資材・労働調達、そして生産開始・出荷・販売となる。生産性上昇(労働時間当たり生産数量増)があれば、製品単価の低下、販売増がある。そして所得増、賃金・利潤の支払い増となる。結果的にソローモデルの語る資本や労働の増加を観察できる。成長の基本は、イノベーション具現化の独立投資である。労働や資本が成長のけん引役でない。

5、過去の経済成長の姿を見れば、前年度の民間企業設備投資が、当年度のGDP増加を生起する。高度成長時代なら、前年度の実質設備投資10兆円が、当年度実質GDPを5~10兆円増加させた。当年度GDP増加額/前年度設備投資比率(以下GDP増・投資比率という)は、1~0.5だった。オイルショック後0.2程度、その後さらに低下し90年代以降0.1前後である。アベノミクス期(13~19年度)のGDP増・投資比率は、約0.04である。例えば17年度90兆円の設備投資は、翌年度16兆円のGDP増を見たが、18年度91兆円の設備投資は、翌年度GDP増に至っていない。それが低成長の姿である。設備投資内容の多くは維持更新的である。前政権は民間投資を喚起する成長戦略を謳ったが、効果はなかった。大胆な金融政策・機動的な財政政策は、成長に何ら貢献せず、財政状況悪化と日銀バランスシートを肥大化させた。

6、実行計画は、新たに50年温暖化ガス排出ゼロを打ち出した。排出ゼロ且つ経済水準向上を目指すなら、大量・安定・経済性の3条件を満たす非化石エネの獲得が必須である。計画は、革新的なイノベーションの推進で、次世代型太陽電池、カーボンリサイクル、水素等の技術革新を掲げ、デジタルインフラでグリーン成長戦略を支えるとする。革新的研究開発促進と規制改革等政策で脱炭素社会を目指す。

7、技術開発を振り返れば、高度成長終了後「模倣から創造へ」というモットーを掲げて半世紀を経た。エネルギーの場合、サンシャイン計画(1974年)、ムーンライト計画(78年)から、技術戦略マップ等を経て、革新的環境イノベーション戦略(20年)を実施中である。

過去50年弱の研究技術開発を俯瞰すれば、同じ様なテーマの繰り返しである。未だ一次エネで石油代替の3条件具備のエネルギーの姿は見えない。何時も核融合、太陽電池変換効率向上、人工光合成効率(自然界は1%程度)引上げが、将来の成長牽引の手掛かりである。いずれも実用化を展望する段階でない。当面、現在利用可能な非CO2エネ利用技術の最大活用を図るほかない。とりわけ原子力発電、そして地熱、風力等の開発である。

8、この現実を踏まえて、新政権は今後の経済運営、成長戦略を再考すべきであろう。技術革新停滞状況では、低成長の事実を甘受し、現実的・安定的な経済運営(時に我慢も必要)が基本となる。また脱CO2では、現在の技術で可能なことに取り組みつつ、研究テーマ・開発体制の再構築も必要であろう。最終報告での充実を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【マーケット情報/12月18日】続伸、供給引き締め材料揃う

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給ひっ迫材料が出揃ったことで、市場は買い優勢となった。ブレント先物価格は18日、52.26ドルの終値となり、今年2月以来約10か月振りとなる高値更新となった。

世界各地で出荷量減少との報告が相次ぎ、先の供給に不安が広まった。リビアでは1月の出荷量が前月比23%減となる見通し。同国ではメリタターミナルで2月末までメンテナンスが予定されている。また、ロシアからの1月積みも前月比10%減と報告されている。アンゴラでも2月の出荷量減少が予想されており、過去3年で最低水準との報告だ。

また、米エネルギー省が先週発表した原油在庫統計は大幅な減少を示した。他国からの供給量が減少したことと、国内生産量も減少したことが要因としている。

一方、世界各地で原油需要予測に下方修正が加わったことが価格の上昇を幾分か抑えた。コロナ感染者の増加で国際的に経済活動が鈍化するとの予想につながっている。ただ、米議会が19日、9000億ドル(約93兆円)規模の追加新型コロナウイルス対策を発動することで大筋合意した。経済の好影響となり原油需要の増加も見込まれ、価格はさらに急伸している。

【12月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=49.10ドル(前週比2.53ドル高)、ブレント先物(ICE)=52.26ドル(前週比2.29ドル高)、オマーン先物(DME)=51.23ドル(前週比0.66ドル高)、ドバイ現物(Argus)=51.25ドル(前週1.04ドル高)

【都市ガス】脱炭素待ったなし 先駆的戦略構築を

【業界スクランブル/都市ガス】

菅義偉首相は2050年温室効果ガス実質ゼロを宣言した。注目すべきは「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」とし「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要」とした発言だ。これは、環境対策を経済の足かせと捉えるのではなく、グリーンリカバリーやグリーンディール投資計画など、世界が脱炭素経済への移行を経済発展の主戦略に据えていく中、日本でもようやく新しい経済社会への変革に踏み出したことを意味しているといえよう。

経団連や経済同友会などの経済団体はこの宣言を歓迎し、自動車・航空・船舶・鉄鋼・ゼネコンといった数多くの業界が実質ゼロにつながる抜本的な脱炭素化対策を企業戦略の中心に据えている。さらに、金融業界も環境対策事業を投融資の柱にすることを表明している。既に、各業界とも国際的な競争力を維持拡大するために、脱炭素化は必須事項となっているのだ。

もちろん、エネルギー業界も例外ではない。火力発電は日本のCO2総排出量の約4割を占めており、電力各社は洋上風力など再エネの主力電源化と併せ、アンモニアや水素の混焼・専焼に向けての研究開発を積極的に進めている。既存の火力発電設備を活用してゼロエミッションを実現できるとなれば、電力会社にとっては画期的で強力な戦力となる。

それでは、都市ガス業界はどうであろうか。天然ガスは化石燃料の優等生ではあるが、どうしてもCO2を排出する。現在、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」がちょうど良いタイミングで開催されているが、本研究会を形式的に終わらせてはならない。業界全体を抜本的に方向転換させるには極めて時間がかかる。周りの動きを見ながら対応策を考えているのでは、命取りになりかねない。50年前に都市ガス事業者は世界に先駆けてLNG導入を意思決定した。これからの50年を見据え、ほかに先駆けた戦略構築を強く望む。(G)

首相の50年脱炭素化宣言 「大風呂敷大会」に乗った日本

【気候危機の真相 Vol.09】有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

「50年ネットゼロ」を宣言する国際的な「大風呂敷大会」に、日本もいよいよ参加を決めた。他国よりCO2削減で不利な状況にあることを直視し、経済合理的な選択を行うほかない。

10月26日、菅義偉首相は所信表明演説において2050年カーボンニュートラルを表明した。グレタ・トゥーンベリやグテーレス国連事務総長が各国の目標引き上げとネットゼロエミッション表明を促す中で、EU(欧州連合)は既に50年カーボンニュートラルを表明し、30年目標を40%減から55%減に引き上げている。9月の国連総会では習近平国家主席が60年ネットゼロ表明を行った。米大統領選で優勢とされるバイデン候補も50年ネットゼロ目標を公約に掲げている。

9月時点でネットゼロ目標を表明した国は120カ国以上に上った。金融セクターは長期脱炭素化への取り組みを企業の評価基準に取り込みつつあり、50年ネットゼロを掲げる企業も出てきている。自治体レベルでも東京都、京都市、横浜市などの23都道府県、91市、2特別区、41町、10村が50年CO2排出実質ゼロを表明している。

いわば国内外問わず、50年ネットゼロ表明の大風呂敷大会が行われるようなものだ。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」という阿波踊りの一節を想起させる。「バスに乗り遅れてはならない」「目標は高く掲げた方がいい」「政府が確固たる方向を示すことが民間企業にとっても望ましい」という議論もあるだろう。そうした中で菅首相が「50年カーボンニュートラル」を掲げたくなる気持ちは理解できなくはない。

削減コストは加速度的に上昇 二元論からも抜け出せず

しかし市町村や企業と異なり、国全体を預かる日本政府の表明は各段に重みが違う。例えば企業が調達電力をゼロエミ化するのと、国全体の電力供給をゼロエミ化するのでは全く意味が違う。日本は50年80%減を目指すという長期戦略を昨年6月に策定したばかりである。それからわずか1年数カ月で20ポイントも目標を上乗せできる客観的条件が整ったとは、とても思えない。

筆者が主催する研究会で日本エネルギー経済研究所と協力して再エネ、水素、CCS(CO2回収・貯留)、原子力などの脱炭素技術を総動員して、50年80%減目標を最小費用で達成するモデル分析を行ったが、全ての技術をバランスよく導入する基準ケースにおいても限界削減費用は50年時点でt―CO2当たり6万円に達するとの結果であった。

これを90%まで引き上げると限界削減費用は一気に20万円近くに上昇し、モデルで解が出せる95・3%になると同60万円に達した。もちろんモデル分析の結果はさまざまな前提条件に左右される。しかし80%を100%に引き上げれば削減コストが増大することだけは間違いない。

50年目標達成のための限界削減費用
出所:東京大学公共政策大学院/日本エネルギー経済研究所

50年目標はさまざまな不確実性を伴うゴールであり、具体的なエネルギーミックスに裏打ちされた30年目標(ターゲット)とは性格が異なる。第5次エネルギー基本計画において野心的な50年目標に向けた道筋を「複線シナリオ」と位置付け、さまざまな脱炭素技術を追求するとしたのは、それが理由だ。従って現在と50年目標を直線で結び、その経過点として30年目標を決定するという考え方は不適切である。にもかかわらず、50年目標を100%に引き上げたことにより、早速30年目標を現状の26%減から45%減程度に上乗せせよ、という議論が生じている。

しかし足元のCO2削減においても欧州、米国、中国と比較して日本は不利な条件がある。送電線で相互に接続された欧州地域では変動性再エネを域内全体で吸収しやすい状況にあり、原子力大国フランス、スウェーデンなどもいる。米国は安価な国産シェールガスを使ったガス火力が経済論理に従って石炭火力を代替しており、脱炭素化を掲げるバイデン候補は原子力、CCS、再エネなど、全てのオプションを追求するとしている。中国は政府主導で再エネ、電気自動車に大量投資を行っているが、大規模非化石電源としての原発もどんどん新設を進める構えだ。

福島への責任と収益力向上が不可欠 東京電力「次期総特」への注文

【多事総論】  話題:東京電力の総合特別事業計画

東京電力の次期(第4次)総合特別事業計画への関心が高まっている。 福島原発事故の補償などに収益力向上が欠かせず、その方策が問われることになる。

<福島の補償・廃炉・復興が大前提 総合エネ事業と福島事業に解体を>

視点A:森本紀行/HCアセットマネジメント代表

現在の新々・総合特別事業計画(第3次計画)には、「福島への責任を果たすために東電が存続を許されたということは今後も不変である」とあるが、第4次計画においてもこれは不変である。そして、そこでは「福島への責任」について、補償・廃炉・復興の完遂を自明の前提とした上で、原資の完済を果たすことへ重点が移り、そのために、いかにして経済事業の収益力を高めるかが中核の課題に浮上するはずである。

このことは既に新々・総特においても、「国が実質的に立て替えてきた多額の賠償等の費用の償還原資を東電がどう捻出するかが焦点となる」とされている。その具体的な捻出方法として、経済事業の全ての領域において、JERAに代表される共同事業体の設立を通じた再編・統合を推進し、東京電力はそれら共同事業体の持分利益を享受すると明記され、さらには、共同事業体の企業価値を高めて、持分利益を増大させるためは、その経営の自律性の確保が重要だとされていた。

しかるに原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東京電力ホールディングス(東電HD)が政府支配下にあることは、共同事業体の経営の自律性の確保における大きな障害になり得ることから、新々・総特において既に、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」が課題とされていたのである。故に第4次計画においては、この点に深く踏み込まざるを得ないはずである。

また、新々・総特の開始段階においてすら、「国内電力市場を巡る環境変化の結果、安定的に東電が多額の金額を捻出することは、一層困難になってきている」との認識が示されていて、「海外市場を視野に入れた事業成長」への言及があったが、第4次計画は、さらに一段と厳しい経営環境を想定したものとなる。必要原資の捻出のためには、国内の電気事業はおろか、電気事業自体の枠を超えた成長戦略が求められるはずである。

総合エネ事業と福島事業に解体 収益性向上に投資対象の拡大を

以上を要言するならば、第4次計画において東電は、二つ領域に完全に解体されるか、少なくとも解体される方向が明確に示されるべきである。第一は複数、あるいは多数の共同事業体を通して展開される電力を中核とした総合エネルギー事業であり、第二は福島事業と、その原資を確保するための投資事業である。

さらには福島事業と投資事業とは、機能としては表裏一体ではあるものの、業務内容は全く異なるものとして、明確に二分されるべきだから、結果として、東電は三つに完全解体されるべきである。また、新々・総特においてはこの投資事業の対象として、東電の事業を継承発展していく共同事業体を念頭においているが、第4次計画は収益性を高めるために投資対象を拡大させる必要もあろう。

実は、新々・総特においても、「非連続の経営改革」という言葉が用いられていたのだが、第4次計画においては、その非連続の意味が組織の非連続として明らかにされなくてはならない。さらに、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」により、政府関与は主として福島事業に限定され、原資確保の側面からの投資事業へ一定の政府関与は必要だとしても、共同事業体を通して展開される中核事業については、一切の政府関与が否定されるべきである。

ここで論点は三つに集約されるであろう。第一は、現在の東電HDを改組する方法で、観念的には、東電HDの直下に福島事業部門と投資事業部門が帰属し、投資事業部門の下に共同事業体への出資持分が帰属するのであろう。

そして、ここで重要なことは、共同事業体の経営の自律性なのであって、投資事業の目的は、電気事業などの遂行ではなく、投資家としての持分利益の最大化であり、経営の自律性の要件として、独自の資金調達があることから、分離上場など、共同事業体に遠心的な力を働かせるべきであろう。

第二は、投資事業部門の資金量で、支弁すべき費用の巨額さと、期待される投資収益率からすれば、資金が不足していると思われ、政府からの無利子無期限の融資を行うなどにより、資金量を増やし、共同事業体への投資を超えて、世界の幅広い領域へ投資対象を拡大する必要があろう。

そして、第三は人の問題で、東京電力の電気事業を技術的に支えてきた人材は、共同事業体へ転籍することで、全ての制約から解き放たれて、自由な活動の機会を与えられるべきであろうし、福島事業、投資事業に携わる人には、その高度な社会的意義にふさわしい処遇が与えられるべきであろう。

もりもと・のりゆき 東大文学部哲学科卒。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、2002年 HCアセットマネジメントを設立。

【新電力】制度への理解促進 業界団体設立を

【業界スクランブル/新電力】

容量市場の約定価格を巡る混乱が続いている。10月5日と20日にそれぞれ新電力複数社が経済産業大臣と環境大臣に対して要望書を提出。資源エネルギー庁は大幅な制度変更は行わない方針のようだが、制度への批判の声を整理すると、①諸外国(特にドイツ)の事例を持ち出して日本の制度を批判するケース、②負担額が高く事業継続性がないと主張するケース、③原子力発電所や石炭火力発電所の容量価値を認めるべきではないと主張するケース―に分けられる。③は党派性のある主張のためさておき、業界関係者は大抵①②の主張を行っているようだが、双方とも国内の制度・事業環境の理解不足に基づいた発言が多い。

新電力は非常にタイトな人員で身軽に事業展開ができることがメリットであるものの、制度が大幅かつ複雑に変化していく過程において、制度理解不足に起因する非合理的な主張・行動が目立つようになっている。最近は旧一電の主張の方がよほど競争環境の確保や脱炭素に向けた変革の意欲に溢れており、このまま放置すると「新電力こそ制度に守られた既得権益者」との批判を浴びかねない。

新電力の勉強会・業界団体は複数存在するものの、いずれも参加者が大抵同じ顔触れであり、議論があまり成立せずサロンのような状況に陥っているのではないかと感じる。同じ顔触れであれば、異論を挟みづらく自浄作用が働きにくい。当然、制度理解が進むはずもなく、社会の要請とは反した主義主張に囚われる可能性も否定できない。

いくつかの新電力の勉強会・業界団体にはエネ庁や電力広域的運営推進機関の担当者も訪問して制度の説明を行っているようだが、電気事業連合会も含めて複数の業界団体が存在し、個社が規制当局に対してロビー活動を行うのは極めて非合理的である。制度の啓蒙・意見の集約を行う仕組みが必要だ。旧一電・新電力問わず小売り電気事業者全体の業界団体を設立し、新電力の意識底上げや制度理解を深め、脱炭素の社会的要請に応えていくべきではないか。(M)

【電力】脱炭素の需要増 供給の担い手は

【業界スクランブル/電力】

10月26日、菅義偉首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げた。それまでの日本政府の公式な目標は、19年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」による「50年に温室効果ガス80%削減」「今世紀後半のできるだけ早期の脱炭素社会の実現」だったので、これを大きく前倒しすることになる。

折しも、第6次エネルギー基本計画策定の議論が始まろうとしている時期の表明である。どのようなシナリオとロードマップが示されるのだろうか。第5次計画では、「50年温室効果ガス80%削減」という目標は掲げつつも、非連続なイノベーションなしでは実現困難であり、かつイノベーションの実現には不確実性が伴うという認識の下、30年以降については個別の数値目標を設定したり、単一のシナリオに決め打ちしたりすることを回避していた。

しかし、最終目標である脱炭素社会実現を「50年」と表明した今回の計画では、シナリオの絞り込みは不可避なのではないか。そして、そのシナリオは、「エネルギーの電化+水素化」であろう。水素化とは、水素をそのまま活用するだけでなく、アンモニアなどエネルギーキャリアの形での活用も含む。ピュアな水素にこだわり過ぎない方が社会実装は早まろう。電気は化石燃料フリーの一次エネルギーから作られる電気であり、水素も多くはそのような電気から作られるCO2フリーの水素だ。

必然的に50年に向けてCO2フリーの電気が大量に必要になる。人口減少時代なのに、電力需要は5割増にもなりかねない。この大量の脱炭素電力を供給する担い手と、それを支える社会システムの姿を早急に描く必要がある。それが、東日本震災以降次々に論点が浮上し、今も継続している電力システム改革議論の延長線上にあるとは実はあまり思われない。電力システム改革議論にも、実は非連続なイノベーションが求められるのかもしれない。(T)

民間企業にとってなぜ重要か SDGsに積極的に取り組む理由

【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

SDGsは国際的な開発目標であるが、特に拘束力があるものではない。それにもかかわらず、多くの企業が積極的に取り組んでいる。その理由を六つの視点から説明する。 

SDGs(持続可能な開発目標)の経営活用についての関心を受けて、『SDGs経営の羅針盤』を刊行した。前回では、内容や背景、「持続可能」の意味について説明した。第2回では、なぜ民間企業にとって重要なのかについて解説する。

SDGsと経営戦略 ESGとの共通課題

SDGsとは、2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』の中で示された国際的な開発目標である。単なる開発目標であり、拘束力があるものではない。民間の企業にとって取り組むことは全く任意であり、何の義務もない。

しかしながら、今日多くの企業が強い関心を示すようになっている。経営戦略の中でSDGsを位置付けるべく試行錯誤を続けている企業が増えてきている。それはなぜなのか。民間企業が取り組む理由を六つに分けて説明する。

民間企業のビジネスとSDGsとの関係で一番分かりやすいのは、地球温暖化からのつながりであろう。地球温暖化の防止はSDGsの複数のゴールに関わる重要なテーマである。地球温暖化は、今日では日本でも身近な話題になっている。石油、石炭といった化石燃料の大量の燃焼が、温室効果ガスの排出量を急増させ、地球温暖化に拍車を掛けていることが意識されるようになった。

こうした状況下では、化石燃料の利用を前提とするビジネスは成立が難しくなる。大量の化石燃料を利用するビジネスは、次第に国際的なバリューチェーン上から排除されていくこととなる。すなわち化石燃料に依存するビジネスは中長期的に持続可能でないことになる。

世界では人身取引や借金などを通じて、劣悪な労働環境の下で低賃金労働を強いられるケースが後を絶たない。こうした強制労働や児童労働に対する国際的な非難は次第に高まっており、これに関わる企業には社会から厳しい目が注がれるようになっている。スマホやSNSの普及によって、アジア諸国の一工場の労働問題が容易に世界に広まることになる。グローバル展開する企業にとって、サプライチェーン上の人権や労働問題に目を向けないことは大きな事業リスクになる。現状を把握し、問題が明らかになった場合はこれに適切に対処しなければならない。人権や労働問題はSDGsではゴール8の領域であり、これへの取り組みが不可欠となる。

SDGsが国連総会で採択されたのは15年であったが、その9年前の06年に当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が「責任投資原則(PRI)」 を金融業界に対して提唱した。機関投資家に、ESG課題という概念を用いて、環境、社会、ガバナンスの三つの観点から投資判断することを求めた。SDGsとESG課題には共通する部分が多く、両者は不可分である。さらに、近年になり、銀行や保険など機関投資家以外の金融サービス業にも、責任投資原則の考え方が広まってきている。社会や環境の持続性を考慮せず、SDGsに積極的に取り組まないビジネスは、金融機関にとって長期的に持続性に欠けると判断され、投資や融資などの対象から外されることとなりかねない。

SDGsへの取り組みと収益力との関係

昨年末に日本経済新聞社は、上場企業など国内637社についてSDGsへの取り組み状況を評価し、偏差値で格付けした。そして各社の評価点と財務指標を比較した。その結果、SDGs経営調査で評価点の高かった企業は、自己資本利益率や売上高営業利益率といった点で収益力が比較的強いことが分かった(図参照)。

本来、SDGsへの取り組みは企業の中長期的な価値創造を目的とするものであり、短期的な収益力強化を意図するものではない。だが、取り組むことが業績向上の妨げになるといった見方が必ずしも適切でないことがこうした調査結果に示された。

次なる成長領域は地方創生 21年度に東証上場目指す

【私の経営論(3)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長

1964年に発足した当社は、通信事業を手はじめに、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)やVOD(ビデオ・オンデマンド)、高圧一括受電、メガソーラー開発、電力・都市ガス小売り事業と、その時代の旬のビジネスにいち早く乗り出し大きな成長を遂げてきました。

当社は、これら全ての事業を現在も変わらず手掛け続けており、それぞれがお客さまのニーズに合わせ、豊かな生活を提案するために欠かせないサービスの一角を担っています。

前回は、今後、こうしたビジネスを結び付けトータルでサービス提供することで、ドイツにおける多様な社会インフラを提供する公益企業「シュタットベルケ」のような地域密着型の事業展開を目指していきたいというお話をしました。最終回となる今回は、その具体的な取り組みについて述べたいと思います。

当社は、再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)制度のスタートと同時にメガソーラーの開発を手掛けるようになり、今年8月には、新電力のFパワーが千葉県袖ケ浦市に所有していたガス火力発電所「新中袖発電所」(ガスコンバインド/出力11万kW)を買収するなど、発電事業にも本腰を入れ始めました。

そして、次の成長領域として見据えているのが、過疎化が進む中山間地におけるバイオマス発電と農業を組み合わせた「次世代農業プラント」(NAP:Next Agriculture Plant)事業の実現です。

これは、地産地消の未利用資源を活用する2000kWのバイオマス発電設備を建設し、地域の旧一般電気事業者にFIT電気として販売。発電の副産物であるCO2と熱を利用し、高収量・高品質な野菜や花などをハウス栽培するものです。

エネルギーと農業を融合 地方創生に貢献

いくらFITを活用したとしても、2000kWの規模、しかも地産地消の間伐材のみを燃料とするバイオマス発電では採算を取ることができません。しかし、ここに農園からの収益が加わるのであれば話は違ってきます。

ハウス内を年間を通して27℃程度に保つことで、農作物の収穫率は各段に向上するといわれます。そのために、次世代農業を営んでいる農家は、熱源として灯油を焚き、農産物の成長を促すCO2をわざわざ購入しているわけです。同事業では、発電所からの副産物を利用することでこれらを無償で活用できるのですから、収益性の高い農業経営が可能になることは間違いありません。

既に高知県本山町で同事業に着手しており、自治体からも地方創生を後押しするものと大きな期待が寄せられています。バイオマス発電所と農園で設備投資額は28億円。これにより、毎年約4000万円の償却資産税が自治体の税収増に貢献しますし、さらに、20年に渡って約30人の新規雇用が創出されるからです。

また、地方の林業は、木材はいくらでもあるが伐採したとしても収入につながらないことが悩みの種になっています。同事業では、木を切り出し発電所まで持ってきていただければ全て買い取ることにしています。町民の方にとっては新たな収入源となり、年間3億円を超える経済効果を生むと見ています。

バイオマス発電所と農園の売り上げを合わせ、年間15億円ほどのビジネスになると見込んでいます。それだけではなく、自治体の税収増、新規の雇用創出、農林業の活性化を実現し、地方における産業の好循環を生むのですから、「SDGs(持続可能な開発目標)」経営に叶う新事業モデルと呼んで過言ではないでしょう。

高知県本山町との協定締結式

NAP事業を展開する地域での取り組みは、これだけではとどまりません。町庁舎などへの地産地消の電気の供給、住民を対象にした電気やガス、電話やインターネットサービスの提供と、水道を加えた多様なインフラサービスの請求代行の一括請負など、地域のインフラに関わるさまざまな事業を展開していきたいと考えています。まさに、当社のこれまでの事業を全てつないだ集大成となりますし、これが実現できることは、当社がこれまで取り組んできたことが財産となり、強力な武器になっている証だと思っています。

本山町と同様の取り組みを、今後は全国10カ所程度に広げていく考えです。人口1500~5000人程度の限界集落と呼ばれるところにしか進出しません。その地域では当社が最も大きな企業となり、地域のインフラを支えていきます。「義」のあるビジネスになると思っていますので、地域のみなさんに喜んでいただけるものと自負しています。

気候変動解決への大規模開発 地域と共に歩む再エネ事業

【エネルギービジネスのリーダー達】木南陽介/レノバ代表取締役社長CEO

創業から20年、将来の気候変動問題の解決に向け、再エネの大規模開発で実績を積んできた。地域との信頼関係の下で実現した発電所は、自然と共存しながら稼働を続けている。

きみなみ・ようすけ 1998年京大総合人間学部卒、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。2000年5月にレノバ(旧リサイクルワン)を設立し、12年から再エネ事業に進出。18年に東証一部に上場。

再生可能エネルギーの電源開発と運営を専業とするレノバは今年、創業から20年目を迎えた。「気候変動問題に責任を持って対応するには民間企業が事業として行っていくしかない」。木南陽介社長はこう力を込める。こだわりは大規模開発。「CO2削減には一定の規模が必要」だからだ。有望地域の選定、事業性評価や発電所の設計、電力会社との協議、許認可・設備認定の取得から建設、運転管理まで、自社に専門性の高い社員をそろえ、ほぼ全てのプロジェクトのリード企業として、パートナー企業との協働の中核を担う。

再エネの開発には、立地地域と発電所の共生が常に課題となる。「多くの地域の方々にとって、電源立地は初めての経験であることが多い。懇切丁寧に説明するのは当然のこと」。時間をかけ、地域住民ととことん向き合う。環境影響評価法(環境アセスメント)に基づく説明会に加えて、個人・団体・町内会など、さまざまなステークホルダーにも個別に事業内容を説明。幾度もの質疑応答や対話を重ねるうち、徐々に地元の要望や期待が見えてくる。雇用創出、観光資源としての活用、林業や漁業など地場産業へのメリット―。発電所の設計・運用に、こうした要望や期待を反映して開発を進めていく。

「地域の資源は使わせていただくもの」。だからこそ、発電所は地元住民の意向に沿い、地域にプラスになるべきだ。そうした思いで太陽光、風力、木質バイオマス、地熱の電源開発・運転に取り組み、現在運営・建設中(工事準備中を含む)の発電所は国内外で20カ所、合計設備容量は約91万kWで、開発中の案件も含めると約180万kWに上る(10月末日現在)。

自然を最大限に生かす 共生を目指して開発

エネルギー業界においてレノバは新規参入組。故に、最初に取り組んだ太陽光発電では、建設が容易な案件はほぼなく、さまざまな障壁との闘いの連続だった。一つが三重県の「四日市ソーラー発電所(2万1600kW)」。三重県は大規模太陽光に関する独自の条例に基づき、環境影響評価法で求められる水準に近い環境アセスメントの手続きを定めており、業界ではハードルが高い地域。そうした中、適地と見込んで、開発を決めた。また、事前調査で複数の希少生物の生息を確認し、建設計画を大幅に変更。追加投資で1haのビオトープを造成した。

一方、岩手県の山中に建設した「軽米西ソーラー・東ソーラー発電所(計約13万kW)」では、斜面を削る平地化を行わず、山肌を残し、日の当たる南側に太陽光パネルを敷設。地面は緑化し、雨水の流量を加減する調整池は約30カ所に造成し、自然災害に備えた。

一手間も二手間もかけるのは、発電所が地域の付加価値となり、将来にわたって長く運用される電源となるべきとの思いからだ。「価値を高める提案にこそ意義がある」。レノバは投資会社ではない、事業会社だという自負がある。

身近にあった環境問題 会社設立のきっかけに

神戸市の出身。幼少期を過ごした1980年代、山を削り、臨海部を埋め立て、新たな街が生まれる一方、自然の変わり果てた姿を目の当たりにしてきた。エネルギー・環境問題に関心を抱き、京都大学に進学後、環境政策論と物質環境論を専攻。在学中、地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、議論の行方を見守った。しかし、一部の学識者などの関心事にとどまり、社会全体の問題意識になっていないと実感。ビジネスを通じた環境問題の解決への貢献を目指し、会社設立を決意する。

コンサルティング会社勤務を経て、創業時はリサイクルワンという社名で環境・エネルギー分野の調査・コンサルティングやリサイクル事業の開発などで実績を積みつつ、再エネ事業参入の機会をうかがった。東日本大震災でエネルギー政策が大きく転換。2012年、調査・検討を進めてきた再エネ事業への本格参入を果たす。

今後、注力するのが洋上風力だ。参入を決めたのは15年のこと。秋田県の新エネ戦略を踏まえ、由利本荘市沖での事業計画を策定した。漁業関係者との海底地盤調査のほか、環境アセスメントについては、法定の説明会に限らず大小数十回の自主説明会を開催した。

今年6月には、準備書に対する経済産業相からの勧告を受け、評価書提出の最終段階に入った。また、由利本荘市沖が国の促進区域に指定され、公募への準備を進めている。洋上風力は、風車やその据付け、海底送電線など、関連する技術分野が多岐にわたり、エンジニアリング力を今まで以上に高める絶好の機会。また、地域の期待に応える上でやりがいもある。 国が洋上風力推進の方向性を示し、日本は今、普及に向けたスタート地点に立ったところだ。「国民負担を抑えた、持続可能な洋上風力開発のモデル事業となる責務を感じている」。自身にプレッシャーを掛け、挑戦する日々が続く。

再エネ推進と化石燃料利用の両輪で進む中国

【ワールドワイド/コラム】

9月26日、オンラインで行われた国連総会で中国・習近平国家主席が「2060年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言。世界最大のCO2排出国の発言は、世界中の話題をかっさらった。

そうした中、中国共産党は重要施策を決定する党中央委員会第5回全体会議(5中全会)を開催し、21年から25年にかけての中期計画である「第14次5カ年計画」を承認した。そもそも5カ年計画とは農業から工業、軍事などを網羅した施政方針。その中で脱炭素化についても述べられており、その大枠について新華社通信が報じている。

報道によると、脱炭素に向けて自然の保全・保護・回復に軸足を置くのと同時に、経済・社会全体でグリーンイノベーションを起こすと規定。30年までに炭素排出のピークアウト達成を目指すという目標についても、行動計画を策定し対応策をさらに強化する構えだ。しかし、発表にはグリーンかつ低炭素な開発を推進すると書かれているのみで、具体的な電源には触れられていない。

さらに、11月8日に石炭業界の国際展示会が開催され、「国内産業は石炭をクリーンかつ高効率に利用している」とアピール。また同日に開かれた資源開発の国際会議で政府高官は、「石油・ガス開発を積極的に拡大する」と発言するなど、これまで通り化石燃料の使用を継続する方針だ。

中国は太陽光発電や風力発電部品は世界一の出荷量を誇り、国内でも再エネ開発を強く推進している。だが、あくまでも一つの側面にすぎない。再エネに加え、原子力発電や火力発電を両輪に据えて、脱炭素と経済成長の両立を目指している。対外的には脱炭素社会を目指すが、経済成長を損なうことは決して行わない、中国のしたたかな戦略が透けて見える。

バイデン政権で大きく変わる 米国のエネルギー環境政策

【ワールドワイド/環境】

本稿を執筆している11月8日、バイデン氏の大統領選の勝利を確実視する報道が流れた。トランプ氏は郵便投票の不正を理由に裁判闘争に挑む構えであるが、バイデン政権が誕生すると考えるのが妥当だろう。

バイデン政権の誕生によって米国のエネルギー温暖化政策は大きく変わることになる。共和党と民主党の両極化がしばしば指摘されるが、地球温暖化問題は党派性が最も強い分野の一つである。

トランプ大統領就任以降、パリ協定離脱、クリーンパワープランの解体など、オバマ政権が行ってきたことを次々に否定。その間に民主党内部では、グリーンニューディールなどの過激な温暖化対策を標榜する左派リベラル派が影響力を増したことなどもあり、新政権ではトランプ政権の政策が次々に否定されることになるだろう。

バイデン氏がサンダース氏ら左派の支持をとりつけるために設置したバイデン・サンダースタスクフォースでは、遅くとも2050年までに経済全体のネットゼロエミッション、35年までに技術中立的基準により電力部門のCO2排出ゼロ達成を目指している。

また800万カ所に国産PVパネル、国産風車を6万カ所設置、30年までにすべての新築建築物をネットゼロエミッション化、5年以内に既存建築物400万カ所の省エネ化に向け数百億ドルの民間投資を誘導するなど、脱炭素化に向けた野心的な項目が並ぶ。

国際面ではパリ協定に再加入し野心的な30年目標を設定する、他国にも野心レベル引き上げを働きかけるなどの方向が打ち出されている。ただサンダース氏が掲げていたフラッキング禁止は連邦所有地にとどめ、原発を含めすべての脱炭素化のオプションを追求するなど現実的な面もみられる。だが、これら施策には膨大な予算が必要で、当初10年間で1・7兆ドルだった温暖化対策予算は、4年間で2兆ドルに引き上げられた。

民主党は大統領選と下院を制したが、上院では共和党が引き続き過半数を維持すると見込まれる。そのためオバマ政権と同様、行政命令や既存法の解釈運用による温暖化政策が中心になりそうだ。最高裁判事の陣容も保守派6人、リベラル派3人になったため、訴訟が起きた場合、政策実施に支障をきたす可能性もある。まずは国務省、エネルギー省、環境保護庁などの人事に大きな注目が集まる。