【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニアアナリスト
過去10年間、東証株価指数(TOPIX)が上昇したのに対して、電力セクターの株価指数は54%下落した。
株式市場が電力業界への評価を大幅に下げたためで、今後、改善が求められる経営課題を挙げる。
過去10年間(2010年末~20年末)の電力セクターの株価指数は54%下落した(図1と2を参照)。同期間のTOPIXは約2倍に上昇しており、株式市場での電力業界への評価が大幅に低下したことが分かる。本稿では、東日本大震災後の電力業界の過去10年間の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。
過去10年間の電力セクターの株価指数の推移は、次の三つの時期に大別される。
第1期(11~12年)の株価指数は下落した(TOPIXも低下)。株価指数が下落した主な要因は、11年3月の東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故後に、原子力発電所が再稼働できず(火力発電量が増加し、コスト増加)、業績が悪化したことだったと弊社では考える。
第2期(12~15年)の株価指数は上昇した(TOPIXも上昇)。株価指数が上昇した主な要因は、電気料金の改定値上げや原子力発電所の再稼働により、業績が部分的に回復したことと考える。
全面自由化で競争激化 ROE・ROAが低下
第3期(15~20年)の株価指数は下落した(TOPIXは上昇)。この時期は、今後の経営課題を考える上で、もっとも注目すべきである。株価指数の主な下落要因は、次の2点と考える。
第1の要因は、電力会社の稼ぐ力が低下したことである。
株式市場では、企業の財務で最も重要なKPI(重要業績評価指標)として、ROE(=純利益÷自己資本)が注目される。この指標は、会社が株主から預かっている資金を使って、どのくらい稼いでいるかを示している。数値が高い方が稼いでいることになる。
電力8社(北海道・東北・中部・北陸・関西・中国・四国・九州電力)の平均ROEは15年度9・9%から19年度7・8%に低下した。

この期間に電力8社の平均ROEが低下した主な要因は、ROA(=経常利益÷総資産)が低下したこと(15年度2・5%→19年度2%)と自己資本比率が上昇したこと(15年度17・7%→19年度20・2%)である。自己資本比率(=自己資本÷総資産)の上昇は、財務体質の改善を意味しており、弊社では電力業界にとって良いことと考える。
問題は、ROAが低下したことである。ROAは、会社の総資産に対する稼ぐ力を示しており、民間企業としての経営成果を示す重要なKPIと考えている。
電力業界のROAが低下した主な要因は、次の3点と弊社では考える。
①全面自由化などによる競争激化を背景に、販売電力量1kW時当たりの粗利益(スプレッド、利幅)が悪化していること
②エネルギーレジリエンス強化のための費用増加
③都市ガス事業や海外事業などの新規事業の収益性の低さ
第3期に株価指数が下落した第二の要因は、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことである。第3期が始まった15年は、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)でパリ協定が、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択された年である。
国内では、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)が、国連が提唱したPRI(責任投資原則)に署名した年であり、国内機関投資家がESG投資を本格化し始めた時期である。





