【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト
東京ガス、大阪ガスの過去10年の株価上昇率は東証株価指数(TOPIX)の上昇率を下回った。
競争激化による都市ガス事業の利幅縮小と成長事業の成果が出ていないことが影響している。
過去10年間(2010年末~20年末)の東京ガスと大阪ガスの株価上昇率は約3割であり、同期間のTOPIXの上昇率(約2倍)を大きく下回った(図1と2を参照)。
注:月末値、2010年12月末を100として指数化
出所:Quick Workstationに基づきMUMSS作成
注:2010年末から2020年末の10年間の株価パフォーマンス
出所:Quick Workstation に基づきMUMSS作成
本稿では、過去10年間のガス業界(都市ガスおよびLPガス)の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。前半では、東ガスと大ガスについて、後半では、株価上昇率が高かった日本ガスと岩谷産業について述べることにする。
株価に二つの局面 上昇期と下降期
図1に示すように、過去10年間の東ガスと大ガスの株価の推移は、二つの局面に大別される。前半期間(10年~15年ごろ)は、両者の株価はTOPIXと同様に上昇した。しかし、後半期間(15年ごろ~19年)は、TOPIXは上昇したが、両社の株価指数は大きく下落した。
東ガスと大ガスの過去10年間の株価上昇率がTOPIXを大きく下回った主な要因は、ROE(=純利益÷自己資本)が低下したことと、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことの2点と考える。
第一の要因であるROEは、株式市場で最も重要視されているKPI(重要業績評価指標)である。その理由は、ROEは、会社が株主から預かっている資金(自己資本)を使って、どのくらい稼いでいるかを示す指標であるからだ。
脱炭素の動きの中、天然ガスへの評価も低下している
本稿では、利益に対する原料費調整制度によるタイムラグ影響を平準化するため、3年平均のROEを計算する(例えば、19年度のROEは、17年度から19年度の3年間平均である)。
東ガスと大ガスの19年度のROEは10年度よりも悪化した。前述の株価の推移と同様に、過去10年間は、二つの局面に大別される。次に見るように、前半期間(10~15年度)にROEは改善し、後半期間(15~19年度)にROEは悪化した。
・東ガス:10年度7・9%→15年度10・2%→19年度5・9%
・大ガス:10年度6・7%→15年度8・0%→19年度3・8%
15年度以降の両社のROEが低下した主な要因は、稼ぐ力の悪化だったと考える。
稼ぐ力のKPIであるROA(=経常利益÷総資産)の3年平均値は、次の通りである。株価とROEの推移と同じように、前半期間と後半期間と同じトレンドである。
・東ガス:10年度4・8%→15年度7・7%→19年度4・2%
・大ガス:10年度5・3%→15年度6・5%→19年度3・7%
15年度以降に両者の稼ぐ力が悪化した主な要因は、次の2点だったと考える。
①全面自由化などによる競争激化を背景とした都市ガス事業の利幅縮小
②成長事業への新規投資の成果が出ていないこと
第二の要因である気候変動問題への関心が高まったことは、本誌2月号の羅針盤で述べた通りである。機関投資家が脱炭素を目指す動きの中、石炭や石油だけでなく、天然ガスの将来性に関する評価も低下したと考える。