【石油】不透明な原油価格 読みづらい米大統領選の影響


【業界スクランブル/石油】

NY原油先物は、9月初めに1バレル70ドルを割り軟化している。米中経済と石油需要の見通し、OPECプラスの減産緩和動向、パレスチナ紛争とウクライナ戦争の行方が主な変動要因だが、先行きは不透明だ。そうした中、米大統領選の原油価格への影響についてよく質問される。

トランプ前大統領が選挙公約に掲げる共和党の政策綱領では「掘って掘って掘りまくれ」と、石油・ガス増産を前面に出した。供給増で原油安になりそうだが、成長志向で国内産業振興という需要増の原油高要素もある。他方、民主党のハリス副大統領は左派・環境派で増産反対や環境規制継続を唱えていたが、その姿勢を転換。最近、シェールオイル・ガス生産に用いる水圧破砕法を禁止するつもりはないと明言した。

電気自動車(EV)化に反対していたトランプ氏は、起業家イーロン・マスク氏の支援で推進派に転じた。ハリス氏はインフレ抑制法(IRA)を継続するだろうが、失速するEVの普及速度には大きな差は出ない気がする。

外交面でも、パレスチナ紛争とウクライナ戦争へのコミットで両者の差は大きいが、原油価格への影響は小さいのではないか。イランとベネズエラへの経済制裁にしても両者は、国内ガソリン価格への影響から違反の原油輸出が黙認されても、建前上、正面切って解除できないだろう。

どちらが勝っても、原油価格には上昇要因と低下要因の双方があり、選挙戦が進むにつれて両者の主張も近づいている。外交政策も差の出しようがない。やはり現時点で原油価格への影響を占うと、不透明としか言えない。(H)

【ガス】隠れたる自民総裁候補 メタハイ開発を一貫主張


【業界スクランブル/ガス】

本稿を書いている8月末時点で、自民党総裁選の立候補者が乱立する状態が頻繁に報道されている。その中で、いち早く立候補を表明したにもかかわらず、マスコミから無視されている人物がいる。青山繁晴参院議員だ。

青山氏は元共同通信社の記者であり、2016年に参議院議員選挙(全国比例区)に初当選し、現在2期目である。無派閥、支援団体なしを貫くなど独自の姿勢を持ち、メディアや講演、ブログなどを通じて、国民に分かりやすいメッセージを発信し続けている。自身のユーチューブには60万人を超える登録者がおり、3年連続で自民党員獲得数1位となっている。「既存の権益や利益構造を壊す」ことを公言しており、一定の支持者から強い支持を得る一方、批判や論争も巻き起こしており、自民党内では微妙な立場なのかもしれない。

エネルギー関係で青山氏が他の候補者と違うのは、日本近海に存在する表層型メタンハイドレートの実用化に向けた活動を積極的に行っている点だ。青山氏は国会での質疑応答や政策提言を通じて、表層型メタハイの開発が国家的な戦略として優先されるべきと主張している。

表層型は取り出せる量も限定的で運搬方法にも課題があるなど、商用化の可能性については未知数だ。が、国がこうした天然ガス資源を自己開発する姿勢を積極的に国内外へ示していくことは非常に有意義。特に産ガス国からは「買う以外に選択肢がない」と見なされている日本のLNGの買い手にとって、交渉力を強化する上で、メタハイの開発検討は重要であり、今後もこうした青山氏の活動に注目していきたい。(G)

G7とグローバルサウス〈下〉 アフリカ囲い込みを巡る角逐


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

G7広島サミットは2023年5月、新興国・途上国との橋渡しを目指し、国際的なパートナーを招き、さまざまな課題を討議した。日本は議長を務めたが、基本姿勢は法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り、国際的なパートナーとの関与を強化する観点からG7 を主導した。

一方、同年9月、G20議長国インドはG20ニューデリー・サミットを主宰した。同サミットでは「一つの地球、一つの家族、一つの未来」をテーマに食料安全保障、気候・エネルギー、開発、保健、デジタルといった重要課題が議論された。 岸田首相(当時)は、直後の国連総会でロシアによる侵略により、食料・エネルギーを含め世界経済の運営は深刻化しており、G7/G20として対処する必要性を指摘した。

24年に入ると11月のG20サミットに向け、2月にブラジル・リオデジャネイロでG20外相会合が開催された。同会議で上川陽子外相は、緊迫する中東情勢が世界経済に直接的な悪影響を与えていること、日本はハマスなどによるテロ攻撃を改めて非難、ガザ地区の人道状況に深刻な懸念を表明した。G20あるいはグローバルサウスの一員として、インド、インドネシア、サウジアラビアなどは近年存在感を増している。しかしながら、グローバルサウスは一枚岩ではなく、それぞれが自国の利益に基づいて動いている。BRICS5カ国は23年8月、南アフリカ・ヨハネスブルクで首脳会議を開き、イランやサウジアラビアなど6カ国を新メンバーに迎えることに合意した。

日本は、G7の一員としてのみならず、グローバルサウスの国々に対し、G20のパートナーに共通の利益を提示することが重要である。

さて、日本とアフリカ外交の柱となってきたTICAD(アフリカ開発会議)は8月24~25日、東京で閣僚級会合を開催した。TICADは、25年8月20~22日に横浜で第9回首脳会議の開催を予定しているが、日本は存在感を示すことができるだろうか。

一方、中国は9月4~5日、北京で「中国・アフリカ協力フォーラムサミット」を開催した。今回のサミットでは、国政運営、工業化と農業現代化、平和と安全保障、「一帯一路」の質の高い共同建設の4会議で中国とアフリカの関係指導者が共同議長を務め、アフリカ諸国の多くの代表団メンバーが出席した。中国がこの協力フォーラムを始めて以来、米、仏、英、独、印、日、韓などもアフリカとの間で、同様の趣旨の定期的な会議を開いている。22年に開催されたワシントンサミットでは今後3年間で少なくとも550億ドルの投資を行う計画を発表しており、アフリカでの開発利権を巡っても米中は競い合っている。23年の中国・アフリカ間の貿易額は2821億ドル(40.3兆円)で、2年連続で過去最高を記録した。

アフリカ諸国から見れば、中国はG7と比べれば価値観の違いに寛容であり、自由貿易を推進するように見えるのだろう。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

日本でのDMEの再評価は可能か


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

世界リキッドガス協会(WLGA)は7月23日、6~7月にスイスで行われた国際危険物輸送に関する国連専門家小委員会で「ジメチルエーテル(DME)混合率(ドロップインブレンド)12%以下のLPガス」が既存LPガスの貯蔵と輸送に関する規制の定義に含まれることを発表した。

日本では20数年前から、多様な原料から製造できるDMEをLPガスに混合させる実証試験が進んでいた。しかしながら、当時はLPガス需要供給が安定してきており、費用対効果の面からDMEの本格的普及に至らなかった。

またDMEは、ゴムへの膨潤・浸潤や潤滑性の乏しさなどから、バルブ漏えいにつながる欠点も存在した。5~8%程度の混合比率の試案まで出たものの、DMEの混合比率が大きな課題となった。本格的に導入する場合には、今でもこれら欠点の克服が課題となっている。

近年、欧米を主軸にカーボンニュートラル(CN)への対応から、再生可能原料を使ったrDMEの開発が進んでいる。グリーンLPガスへの社会的要請が高まる日本でも、DMEが大きな役割を果たすのではないかという見方が広がり始めている。すでにグリーンLPガス推進官民検討会の「LPガスのCN対応に向けた今後のロードマップ」には、2035年に向けた数値目標にグリーンLPG/rDME輸入調達として年間100万t、国内生産として20万tが目標値とされている。日本で独自展開している合成LPガス製造と、欧米諸国が積極的に取り組んでいるrDMEの既存LPガスへのドロップインブレンドの技術開発が競い合っているのである。かつての基礎知見では欧米に負けない技術開発を行ってきたDME研究開発技術が復活、再評価されるのか注目を集めている。

(花井和夫/エネルギ―コラムニスト)

【新電力】酷暑下の予備率予測 安定した市場運営に課題


【業界スクランブル/新電力】

酷暑日・ゲリラ豪雨が連発し、ついにこの気象状態が夏の通常となるのではと感じさせる今日この頃。7月上旬はこの気温の上昇に伴う需要増が起因し、東京エリアを中心に予備率が厳しくなる状況が相次いだ。今年度からの容量市場の導入に伴い、容量提供事業者は低予備率の時間帯においてリクワイヤメント達成のために市場応札が求められ、連日のように供給力の拠出に迫られた。

ここで浮き彫りとなった課題は、前週時点、前々日時点での予備率の予測の精度だ。需給ひっ迫が予想される時間帯であっても、実需給断面が近づくにつれ、回復することが散見された。

原因調査が進んでいるものと理解しているが、需給調整市場の落札率が低く、本来調整力として確保されているはずの供給力が認識されておらず、実需給断面に近づくにつれ、供給力としてその余力を認識されるようになっているためだとの仮説もある。

予備率は2022年からインバランス料金のベース(需給ひっ迫時には需給ひっ迫インバランスカーブに基づきインバランス料金が決まる制度に変わっている)になるなど、小売電気事業者をはじめとした市場参加者にとっては、運用上重要なインデックスになっている。

容量市場・需給調整市場のスタートによって、新たな課題が顕在化したわけだが、この夏のような酷暑が当たり前になってきた昨今の状況を鑑みると、高温による予備率の低下が毎年常態化することも考えられ、その下で安定した市場運営がなされるようにするためにも、予備率がその実態をもって精度高く予測されることが求められる。(K)

AZEC閣僚会議開催 多様な道筋を示した日本


【ワールドワイド/環境】

8月中旬、ジャカルタで第2回AZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)閣僚会合が開催された。AZECは脱炭素化を推進するアジア諸国による枠組みとして日本が提唱したものであり、現在オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどの11か国がパートナー国となっている。

共同声明にはAZEC原則として「気候変動対策、包摂的な経済成長の促進、エネルギー安全保障の確保を同時に実現するというトリプル・ブレークスルーを目指すこと」および「一つの目標、多様な道筋という概念を尊重し、地理的、経済的、技術的、制度的、社会的、公平性を含む各国固有の状況、既存の目標や政策、開発上の課題を考慮した上で、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた多様かつ現実的な道筋が存在すること」が強調されている。

「多様な道筋」は日本が昨年の広島サミット議長国であった際、共同声明に盛り込んだ概念であり、AZECもこの考え方に沿っている。成長著しいアジア諸国においては急増する電力需要に対応するため、大量の石炭火力が設置されてきた。石炭火力のプラント年齢はいまだに若く、直ちにフェーズアウトできるはずはない。だからこそ石炭とアンモニアあるいはバイオマスの混焼などによって発電電力量当たりのCO2排出量を下げていくことが現実的だ。唯一のG7諸国である日本がアジアの実情をも踏まえた「多様な道筋」を主張した意義は大きい。

しかし逆風もある。昨年のCOP28では国際環境NGOが「岸田首相はAZECを通じて、水素とアンモニアの混焼技術を使って石炭・ガス発電所を稼働させ続けるよう、東南アジアに売り込みを行い、自然エネルギーへの移行を遅らせている」との理由で日本に化石賞を授与した。 これはアジアのエネルギーの現実から乖離したものである。

石炭から天然ガスへの燃料転換、アンモニアと石炭の混焼、天然ガスと水素の混焼、CCUSさらには原子力も幅広くスコープに入れたAZECは、アジア各国の実情を踏まえた現実的なエネルギー転換のプラットフォームたり得る。そのためにはAZECのみならず、COPなどの場でアジア諸国自身が「多様な道筋」の現実性、必要性について声を上げることが重要だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/10月18日】長期脱炭素電源オークションの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

容量市場の一部として「長期脱炭素電源オークション」が2023年度から導入された。本オークションは、脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進するためのものである。初回となる2023年度オークションの入札は2024年1月に実施され、4月26日にその約定結果が実施主体である電力広域的運営推進機関(OCCTO)により公表された。

長期脱炭素電源オークションは、大きく、「脱炭素電源」と「LNG専焼火力」があるが、前者は、募集容量400万kWに対してほぼ同レベルの401.0万kWが約定した(約定総額は年間2336億円)。後者は、募集上限600万kWに対して575.6万kWが約定した(約定総額は年間1766億円)。また「脱炭素電源」のうち「蓄電池・揚水」は、100万kWの募集容量を大きく上回る166.9万kWが約定した。これは「既存火力の改修(水素・アンモニア混焼)」区分などが募集上限に満たなかったため、余った枠が「蓄電池・揚水」に振り分けられたためである。また、蓄電池だけを見ると、落札109.2万kWに対して不落札が346.7万kWと激しい競争となったことが窺える。落札者で目立つのは、海外で実績を積んだプレーヤーで、電力関係者にとって初めて見る企業名が多かったようである。なお。原子力では、既設の中国電力島根原子力発電所3号機1件が落札している。

このような落札結果も踏まえて、長期脱炭素電源オークションのあり方について、様々な機関や識者から見解が述べられているが、以下では、筆者の考える本オークション制度の課題をいくつか述べたい。まず、「脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進する」という本オークションの目的は達成されるであろうか。大型電源の建設を目指す事業者からの指摘にあるように、原子力、大型揚水、大型火力のような大型電源に関しては、リードタームが10~20年程度、総事業期間(各種調査から建設、運転、廃止まで)は、60~100年程度に及ぶため、収入やコストの変動リスクが大きく、投資の意思決定には慎重な事業性評価が求められる。

現段階で最善のコスト見積りをしても様々なコンティンジェンシーの発生で、コストが大きく上振れすることがあるだろう。税制や規制の変更によるコストの変化は、事後的な調整が認められるようになるかもしれないが、金利上昇、インフレ、為替変動など投資判断時点で予見できないその他のコスト変動要因のすべてを考慮した事後的調整を認めることは現実にはありえないだろう。そのような不確実性が存在する場合、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって非常に難しいだろう。このため、大型電源の新設に関しては、投資に慎重になる事業者も少なからず存在するだろう。このことは、とくに建設から廃止措置に至るまで総事業期間が100年程度となる原子力発電の新設に関して当てはまる。

将来コストの不透明性が著しいのは、水素やアンモニアの専焼・混焼火力発電などの実証段階にある技術についてもいえる。本来、このような技術は信頼性、操作性、コストなどに関する実証試験を経て、初めて市場に出回るものである。実証段階の技術では、完成時のコストが当初見積りよりも、大幅に上振れするリスクは存在している。このため、大型電源の新設同様、実証段階の技術に関しても、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって非常に困難となる可能性がある。このように考えると、従来の容量市場を補完して「容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進するため」に導入された長期脱炭素電源オークションであるが、事業環境の一層の整備のために、制度の修正が必要になってくる可能性がある。

課題として次に指摘したいのは、脱炭素電源を導入する際に、設備や資源の調達に関して構築されるサプライチェーンの地政学的なリスクを考慮しなくてよいのかという点である。脱炭素は達成したけれども、設備や資源の供給が特定の国に大きく依存することにならないように、入札の条件や評価方法を工夫することが必要ではないだろうか。

最後に指摘したいのは、長期脱炭素電源オークションの対象外となった小規模再生可能エネルギー電源(10KW未満)の応札が可能となるような見直しが求められる点である。大規模脱炭素電源は膨大なコストがかかり、また将来コストの予測も難しいが、再生可能エネルギー電源は、長期的にコストダウンが見込まれ、将来的な拡大ポテンシャルは高い。このような再生可能エネルギー電源のポテンシャルを最大限引き出せるように、最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などにより、小規模電源でも応札しやすいような制度とする必要があるだろう。

電力自由化の綻びを繕うために、既存市場の補正や新たな市場の創設が絶えず行われてきたが、長期脱炭素電源オークションは、自由化の問題を解決する抜本的な処方箋となるだろうか。電力自由化は、いつまでも発展途上にあるのではなく、そろそろ完成されたものになってほしいものだ。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【電力】脱石炭火力の時期 政府や事業者が選べるのか?


【業界スクランブル/電力】

今年もCOPの季節がやってくる。この時期になると、石炭火力をいつまで続けるのかが話題になる。今年のG7では「気温上昇を1・5℃以内に抑えられる時間軸」と逃げたが、毎年、廃止への圧力は強まっている。

データセンターや半導体工場の増設で需要の伸びが上方修正される中、原子力の再稼働や再エネの導入も思うように進まず、ガス火力の新設も10年くらいはかかる。政府や発電事業者の腹の中は、高効率機は2030年代までは使わないと需要は満たせないのではと思いつつ、いくつかシナリオを作って様子を見ながら考えよう、と言ったところではないだろうか。

ところで、石炭火力の廃止は、政府や発電事業者が選択できるのであろうか。発電所というハードの稼働という観点からはそうかもしれないが、燃料のサプライチェーンを考えると、そうもいかないのではという疑問が湧くのだ。

炭鉱、鉄道、港、輸送船などのサプライチェーンは、長期にわたり一定の物量が期待できることで、初めて投資が行われる。いつ頃まで、どの程度の数量を使うのかという政策も示さず、発電会社は、自由化もあって長期契約はダメと言いながら、供給インフラが今の姿で残っていくと期待するのは、あまりにおめでたい。ただでさえ、日本の石炭火力は、石炭や輸送船のスペックにはうるさいのだ。気がつけば、石炭が出てこない、運べない、あるいはとても価格が合わないということになりはしないだろうか。

海外から燃料を輸入せざるを得ない日本においては、サプライチェーンにしっかり寄り添って「撤退戦」を考えねばならないはずだ。(M)

暫定政権下のバングラデシュ エネルギー改革の行方注視


【ワールドワイド/経営】

バングラデシュで8月8日、暫定政権が発足した。首席顧問にはムハマド・ユヌス氏が就任し、20人の顧問が任命された。2009年から首相を務めたシェイク・ハシナ前首相は同月5日に辞任した。本稿では8月下旬までの報道をもとに、この政変の電気事業への影響などを時系列で紹介する。

外出禁止令の発令から約1週間後の7月28日、インド・ネパール政府間で、インド経由でネパールから4万kWの電力を輸入する契約の調印が予定されていたが延期となった。またインド電力省は8月12日、バングラデシュ政変を受け、電力輸出入に関するルールを定めた「電力輸出入ガイドライン」を改正した。これまでインドでは、輸出専用の発電所は国内で売電できなかったが、相手国からの支払リスクが生じた際に国内系統への接続を認め、インドで売電できるようにした。バングラデシュは現在、三つの国際連系線を通じて、インドから電力需要の15%を輸入している。

暫定政府は、ハシナ政権時代に制定された「電力・エネルギー迅速強化(特例)法2010」と「エネルギー規制委員会(改正)法第34条」を一時停止した。前者は迅速な電源開発を目的として競争入札を免除、後者は政府に直接料金改定の権限を付与する法律で、いずれも電気料金が不当に高くなったと批判が出ている。電力・エネルギー・鉱物資源省のカーン顧問は8月22日、今後の電力・エネルギー部門の調達で入札を行う方針を示した。

政策シンクタンクCPDは8月18日、暫定政府に対しエネルギー改革案を提言した。CPDは「41年までに電力の40%をクリーンエネルギーにする」という目標に、水素・アンモニア混焼やCCS付き火力が含まれる点を批判し、目標達成に向けて23年に国際協力機構(JICA)の支援で策定された「統合エネルギー電力マスタープラン」の改訂も求めた。

野党は3カ月以内の総選挙実施を求めているが、19日付の印英字紙タイムズ・オブ・インディアは、ユヌス氏の「選挙の前に選挙管理委員会、司法、民政、治安部隊、メディア改革を行う」という発言を引用し、総選挙がすぐには行われない見通しを報じた。暫定政権期間を3年に延長する請願が高等裁判所に出されており、暫定政権が長期化する可能性もある。今後、暫定政権下でどこまでエネルギー改革が行われるか注視が必要である。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

カスピ海をまたぐガス供給? ロシアがイランと戦略的協力


【ワールドワイド/資源】

6月、ロシアのガスプロムがイラン国営ガス会社と新しい戦略的協力に関する覚書を締結した。ロシア産の天然ガスをパイプラインでイランに供給することが盛り込まれている。当時、契約量や輸送ルートについては説明がなかったが、ロシアとイランを直接つなぐパイプラインは存在しないことから、業界専門家の間では、両国間にある旧ソ連諸国のインフラを利用したスワップ取引によるガス供給が想定されるとの見方が有力だった。カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンを経由するか、アゼルバイジャンを経由するスワップが想定され、既存インフラの容量を考慮すれば年間数十億㎥程度が予想された。

ところが翌7月にイランの石油相が発表した両国ガス会社の合意内容は予想と異なるものだった。量は年間1000億㎥を超える規模で、ルートはロシアの負担で整備されるカスピ海経由であるという。この発表により、両国の合意は一気に現実性が霞み、西側に対抗する勢力で連携を強めようという政治的メッセージ以外に中身がないことが露呈した。というのも、カスピ海における国際パイプラインの建設がまず困難だからである。カスピ海横断パイプラインは過去20年にわたりトルクメニスタンが西へのガス輸出を目指し、対岸のアゼルバイジャンに向けて建設することを切望しているが、建設に際し必要となる環境影響調査に沿岸国全ての承認が求められ、ロシアとイランが否定的な立場を取ってきたことから実現していない。

ロシアがイランへのカスピ海南北縦断パイプラインを建設しようとすれば、トルクメニスタンは東西横断パイプライン建設への賛同を要求するだろう。ガス生産ポテンシャルの大きいトルクメニスタンに西向きの輸出ルートを解放すれば、ロシアは自身が失った欧州市場をトルクメニスタンに明け渡すことになるが、果たしてそれを覚悟しているのか。その覚悟もあるということなら、カスピ海を挟むガスの流れは大きく変わり得る。

しかしロシアがイラン市場にそこまでの魅力を見出し、建設費を負担してまで、技術的なハードルも高い海底パイプラインを新設することは考えにくい。量的にも誇張の入った、当面実現の見通しが立たない内容の合意であると捉えざるを得ない。欧州市場を失ったロシアにとってイランは新しい供給先候補に違いないが、今のところ欧州市場の代替確保に近道はない。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年10月号)


 【東北電力NW、北陸電力送配電など/AI技術で労働災害を未然に防ぐ共同を実施】

東北電力ネットワークと北陸電力送配電、SWCCの3社は、AI技術を活用して労働災害を未然に防ぐための共同検証を行う。送配電2社はこれまで、作業手順や安全ルールの順守、経験に基づく危険予知活動などにより、送変電設備の保全業務や更新工事に伴う労働災害防止に努めてきた。同検証では、SWCCのAIが過去に発生した労働災害時の作業内容や環境などを解析し、労働災害の発生リスクが高い作業を抽出。作業員の経験則によらない、より客観的な注意喚起を可能とする。また、2社の労働災害データを共有し、今後、データの拡充を図ることで、より高精度な労働災害予測AIの実現を目指す。


【東京ガス、TGESなど/パッケージ型の水素バーナーで幅広いニーズに対応】

東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、加藤鉄工バーナー製作所の3社は、水素燃焼式のパッケージバーナーを共同開発し販売を開始した。窒素パージ機能や水素対応遮断弁を搭載した水素燃焼の安全対策を含めてパッケージ化。これにより、バーナー交換が容易になるため既存の設備を有効に活用できる。また、バーナー内部のノズル形状などを最適化することで高温になりすぎることを防ぎ、天然ガス仕様のバーナーと同程度の低NOX化を実現した。100℃以下から500℃まで幅広い温度帯で対応可能で、さまざまな加熱設備の熱源として活用できる。


【住友商事/単機容量で世界最大規模のNZ地熱発電所が運開】

住友商事は、ニュージーランド(NZ)の大手発電事業社、コンタクトエナジーから建設工事を請け負っていたタウハラ地熱発電所が完工し、安定稼働に入ったと発表した。同発電所の発電機単機容量は世界最大規模の18万4000kWを誇り、年間発電量はNZの総発電量の約3.5%、約20万世帯の電力使用量に相当する。同社は、2030年までに再生可能エネルギー利用率100%を目指すNZにおいて、08年から地熱発電所の建設に携わってきた。タウハラ発電所の完工により、同社が建設や機器供給に携わった地熱発電所の総発電設備容量は、世界シェアの17%に当たる270万kWに達した。


【商船三井/風力推進装置を搭載したLNG船の設計承認】

商船三井は、韓国のハンファオーシャンと開発・設計する風力推進装置を搭載したLNG船について、基本設計承認を取得した。同装置を備えたLNG運搬船の承認は世界初。現在、実搭載に向け新造船を対象に詳細設計を実施中だ。世界中のLNG基地に入港可能な汎用性の高い船型で、同社は2030年までに25隻、35年までに85隻投入する計画だ。


【JFEエンジニアリング/バイオガス発電の燃焼排ガスからCO2を分離回収】

JFEエンジニアリングは、自社開発のCO2分離回収設備により、バイオガス発電設備の燃焼排ガスから高濃度のCO2回収に成功した。膜分離法と物理吸着法のハイブリッド型で、低濃度CO2を低消費エネルギーで99.5%という高濃度に分離・回収することができた。回収能力は1日当たり3t。小型の燃焼ガス排出設備に適しており、今年度中の商品化を目指す。


【清水建設/国内最大の陸上風力用タワークレーンの施工性確認】

清水建設は、大型陸上風車の施工に向け自社開発した移動式タワークレーン(SMTC)を北海道豊富町で建設中の風力発電所に実証施工として初めて適用した。最大揚程152m、定格荷重145tと、楊重性能は国内最高。7月には、風車施工の一連の作業を4日で消化し、想定通りの施工性を確認した。大型化が進む陸上風力。SMTCの提案で受注拡大につなげる。

自動化レベルと課題 走行条件に限界も


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

自動運転での自動化レベルは、米国の自動車技術会であるSAEが提案し、それを日欧が受け入れて国際的な共通定義として使用されている。レベル1から5の5段階で、レベル2までは運転の責任はドライバーにあり、レベル3以上が自動運転システムが運転責任を取ることとなる。

レベル1は、LKAS(車線維持支援システム)、FVCMS(追突被害低減システム)、ACC(車間維持前車追従制御)などの運転支援システムを指す。レベル2は、運転操作は自動化されているが、常にドライバーが周囲の道路交通環境を監視して、交通事故などの危険に至る可能性がある時には手動運転に切り替えるシステムを指す。現在、自動車メーカーが実用化している自動運転システムはほとんどがこのレベル2であり、ハンズフリーであってもドライバーは常に周囲状況を監視することが義務付けられている。

レベル3では、周囲の道路交通環境の監視までを自動運転システムに任せて、システムが危険に至る状況の判断をした時には、ドライバーに警告して運転を移譲する。ホンダが2021年にレベル3の自動運転システムを実用化しているが、高速道路で時速60km以下の場合だけという走行条件に限定されている。なぜ、速度が限定されているかというと、センサーの検知可能距離が限られていることによる。

レベル3の自動走行中にシステムから運転移譲の告知を受けたとして、それにドライバーが対応するには、少なくとも10秒程度の余裕が必要であることがドライビングシミュレータでの実験などで確認されている。ということは、10秒間走行する間は自動運転を確実に実施できないとならないので、前方道路環境センサーにはその走行距離だけ先まで検知できる性能が必要である。

ところが時速100kmでは10秒間で278m走行することになるが、現在のセンサーの性能はそこまで遠方を検知できるようにはなっていない。そこで、時速60km以下という走行条件が必要となるわけである。今年米国で実用化されたメルセデス・ベンツのレベル3の自動運転車もほぼ同じ速度条件がついている。

このようにレベル3の自動運転では、システムからドライバーへの運転移譲の期間を安全かつスムースに実施するという課題がある。そこで、ボルボ社などは、レベル3の自動運転の実用化は難しいので、レベル4の自動運転の開発を目指すという宣言を公開したことがある。

レベル4となると、走行条件は限定されてはいるものの、安全監視から緊急時の対応まで自動運転システムが全て完遂することが必要となる。そこで、無人タクシーや国内のラストマイル自動走行サービスでのレベル4の実証実験では、遠隔監視装置を搭載して、安全監視センターで走行中の自動運転車両をスタッフが監視する体制をとっている。それでもレベル4と呼べるかどうかは疑問があり、また一人のスタッフが複数台の車両を監視しないと省人化の効果がないが、それが安全にできるかどうかが大きな課題である。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

【コラム/10月15日】1年弱続く紅海〝封鎖〟 フーシ派による無人艇ドローン攻撃の実態


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

2023年11月以来、イエメンの武装組織フーシ派が紅海を通行する船舶を攻撃し、事実上の封鎖をしている。フーシ派は「親イスラエル」の国の船舶を攻撃すると声明を出しており、インド洋から欧州諸国に行き来する船は、紅海およびその湾奥にあるパナマ運河の通航を回避して、遠くアフリカの南端喜望峰を迂回することを強いられている。

フーシ派の攻撃の様子を詳しく報じるショッキングな動画がウェブ上にアップされているのでリンクを3件紹介する。

この動画チャンネルhttps://www.youtube.com/@wgowshippingでは他にも攻撃の事例がアップされている。モーターボートを改造した無人艇(USV)に爆薬を積み、船舶に体当たりで攻撃を仕掛けていることが分かる。警備員が3人乗り組んでいて、ライフルで船舶を攻撃するが、なかなか当たらない。何とか難を逃れることもあるが、攻撃を受けて船体に穴が開き、船舶の放棄を余儀なくされたり、最悪の場合は浸水して乗組員に犠牲者が出たりしている。放棄されたタンカーにはフーシ派が乗り込んで火を放ち、1カ月にわたって燃え続けたこともあった。


未遂含め累積100件に 重大事例や犠牲者も発生

紅海封鎖に関しての情報はJoint Maritime Information Center (JMIC)によって収集され公開されている。

最新の9月28日付の概況報告https://cd.royalnavy.mod.uk/-/media/ukmto/products/jmic-weekly-dashboard—22-28-sep—week-39-2024.pdfによると、これまでの船舶への攻撃は未遂も含めると累積で100件に上る。船の放棄などに至る重大事例は6件で、4人が死亡、2人が負傷を負っている(図参照)。

攻撃対象となった船舶の3分の1はタンカーである。攻撃にはUSV以外にもミサイルや空中ドローン(UAV)も使用されていて、一度に複数を使う場合が多いようだ。

台湾有事となると、前回https://energy-forum.co.jp/online-content/18639/も書いたが、米軍を後方で支援する日本の経済活動を妨害するために、日本近海を航行する船舶が狙われるかもしれない。防衛体制を整えておく必要がある。

エネルギーに関しては、輸入量が減少しても経済活動を継続できるよう、備蓄を増やしておくことが必要だろう。


【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

地域と調和した再エネ促進へ 規制条例を活用せよ


【オピニオン】井上源三/地方自治研究機構 顧問

自治体の条例の動きを見ると、地域そして日本の課題が見えてくる。

地方自治研究機構は、全国の条例をウォッチし、その制定状況をホームページの「条例の動き」で公開している。この数年、規制条例の中で最も制定数が多いのは、再生可能エネルギー規制条例(太陽光などの再エネ発電設備の設置・管理の規制に関する条例)である。現時点で300弱の条例が制定されている。FIT(固定価格買い取り)制度導入以降、全国各地で再エネ設備の設置が急速に進む一方、トラブルが発生し、自治体として条例により独自の規制措置を講じざるを得なくなっているのである。

そもそもわが国の土地利用は、各省庁の各法令により個別的、縦割り的に規制されている。各法令で立地可能とされても、再エネ設備の立地には不適とされる土地は少なくない。他方で、再エネ設備の立地を規制し、調整する法令は、これまでも、現在もない。その穴を埋める形で再エネ規制条例の制定が進んでいる。

関係省庁では再エネ特措法、地球温暖化対策推進法、環境影響評価法などの改正で規制強化を行っているが、その内容は、立地規制・調整に踏み込むものでなく、後追いの弥縫策にとどまっている。だから、今でも条例制定の動きは止まらない。

結果、再エネ設備の設置に関しては、資源エネルギー庁や環境省、国土交通省、農林水産省などのさまざまな法令、そして各都道府県と各市町村の条例(団体ごとにその内容は多様である)が、複雑かつ重層的に関わっている。事業者から見た場合、極めて分かりにくい制度になっている。国家の重要政策を担う法制度の在り様として、このまま放置すべきではないと言わざるを得ない。

今特に必要なのは、再エネ設備立地の適地、不適地などのゾーニングを地域ごとに明示し、法的拘束力のある形で担保することであろう。それができれば、事業者は効率的に設備を設置することができ、自治体や住民は地域の安全・安心を確保することができる。現時点で法令の抜本的な見直しが困難だとするのであれば、その機能を担うことができるのは再エネ規制条例だけである。

そうであれば、地域と調和した再エネ促進を図るためにも、国として自治体の条例を積極的に活用すべきではないか。国の対応としては、自治体にガイドラインを示すとともに技術的協力を行うことを前提に、自治体が条例で各法令の規制にかかわらずゾーニングを決定できるようにする、その場合は事業者に対する法令上の手続きを大幅に簡略化する、事業者と住民らとの紛争解決のため中立的な専門家を派遣する―ことなどが考えられる。ぜひ政府で検討できないものだろうか。日々条例をウォッチする立場としてそう思う。

いのうえ・もとみ 1977年自治省入省。複数自治体での勤務を経て、同省広報室長、総務省市町村課長、内閣官房内閣審議官、防衛省地方協力局長、内閣府政策統括官、内閣府審議官、地方自治研究機構理事長などを歴任。2023年から現職。

インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?


【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】関口博之 /経済ジャーナリスト

洋上風力公募の第1ラウンド(2021年)、第2ラウンド(23年)で選定された8事業者がいずれも現段階でFID(最終投資決定)に至っていないという。大半が運転開始を28年から30年に予定しているが、間に合うのだろうか。

世界的インフレと円安が大きく影響している。落札時点からみれば資材費も人件費も上がっている。鉄鋼は21、22年で2倍に上がり高止まり。国交省のデータで電力分野の建設工事費はこの1年、急上昇している。まして大型風車は欧米メーカーからの輸入、円安がさらに採算をとりづらい事態にさせている。政府関係者も「コスト増による悲鳴は聞こえている」という。洋上風力は再エネ拡大の「切り札」だったはずなのに、だ。

暗雲が垂れ込める洋上風力

実は海外でもプロジェクトの撤退・中止が相次ぐ。去年秋には洋上風力大手、デンマークのオーステッドが米国ニュージャージー州での事業を中止、同業のエクイノールやBPも巨額減損に追い込まれた。英国では洋上風力支援制度への応札がゼロという事態が起こり、入札上限価格を50%超引き上げることを決めた。

日本はどうするのか。開発事業者からは「価格調整メカニズム」の導入を求める声が出ている。落札後の物価高騰分を事後的に価格に上乗せする仕組みで、スライド条項・エスカレーション条項とも呼ばれるものだ。収支見通しが立てにくい状況では、今後公募入札に参加できなくなる恐れもあるというのが事業者側の主張。物価変動を補う規定は公共工事標準請負契約約款の中にもあり、その援用を求めている。これについて資源エネルギー庁はまだ方針を示していない。9月の審議会で、投資規模が数千億円と大きく事業期間も長期にわたる洋上風力は「収入・費用の変動リスクに対し事業の確実性を高めていくことが重要」と何らかの見直しを示唆しつつも、具体策は今後の有識者の検討に委ねた。

事業者側の姿勢もふに落ちない点はある。そもそも公募時の落札価格は事業者が決めたもの。

例えば去年の第2ラウンド3案件のうち2件は「ゼロプレミアム」にあたる1kW時当たり3円。つまり市場連動価格買い取り(FIP)制度による上乗せは不要という価格で応札している。なぜこれが成り立つのか。発電した電気は市場ではなく相対で契約した特定の買い手(オフテイカー)に売るからだ。応札価格とは別に買い手と一定の価格で〝握っている〟ことで安値入札が可能になっている。

公募にあたって国側はIRR(内部収益率)10%という想定で上限価格を決めている。ある程度、事業環境に変化があっても耐えられるよう余裕を見てある、その範囲内で入札してくれればいいというのが国側のスタンスだ。国の上限価格が厳しすぎたという話ではない。自ら破格値を示しておいて、後でこれでは足りません、というのは〝虫のいい話〟にも映る。

洋上風力は次期エネルギー基本計画でも再エネ主力電源化の柱を担う。電力料金が上がるのは避けたい、開発事業者のリスクは抑えたい、さらに関連産業育成も進めたい。この連立方程式を解かなければならない。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。