高効率な省エネシステムとして分散型電源の一翼を担ってきたガスコージェネレエーション。
エネルギーの自由化や脱炭素化は、その技術開発にどんな影を落としているのか。
コージェネレーションシステム(CGS)は1980年代から、その高効率性によって省エネルギーを達成する方策として普及拡大してきた。その背景には次のような技術開発が大きく貢献しており、個々の技術からシステム全体の技術まで多岐にわたっている。
具体的には、①標準化・パッケージ化による低コスト化、高信頼性への対応、②大型火力にも迫るガス発電システム(ガスエンジン、ガスタービンなど、左図参照)の高効率化、③窒素酸化物の排出を抑制する低NOX化、④吸収式冷凍機などと組み合わせた排熱回収、⑤逆潮流ありでの系統連系、⑥停電時のブラックアウトスタートをはじめとした自立運転―などだ。

自由化と脱炭素化 技術開発体制に変化
こうした技術開発の下でCGSは順調に普及してきたが、ここにきて次のような変化が表れている。
一つは、エネルギー小売事業の自由化だ。まず都市ガス事業の自由化により、ガス事業者にとってはCGSの普及が必ずしも自社のガス販売量拡大に結び付くとは限らない状況になると、CGS技術開発にかける予算、人材もガス自由化前とは状況が大きく異なってきた。またガス事業者間の競争も起こり、従来のような複数のガス事業者とメーカーが協力して技術開発することも難しくなっている。
電力事業に目を向けると、CGSはガス事業者にとって新たな市場であった唯一の「電力」を獲得するための手段であった。しかしながら、電力市場の自由化が進展し、2016年には家庭用需要も含め全面自由化され、ガス事業者にとって「電力」を獲得するマーケットが整備された。従って、CGSは「電力」を獲得するための唯一の手段ではなくなったのだ。
もう一つは、脱炭素化だ。カーボンニュートラル(CN)が叫ばれる昨今、CGSはその省エネルギー効果によって一次エネルギー、ひいてはCO2排出量を削減できる極めて実現性の高いシステムである。一方、天然ガスなどの化石燃料を使用するため、CO2排出量をゼロにすることはできない側面がある。将来的には、燃料に水素・アンモニアなどを使用可能とする技術開発が着実に進められている。
CNでも重要性変わらず 今後の技術開発の展望
〈電力の価値を最大限に利用〉
従来CGSの価値は基本的には電力量(kW時)と排熱をいかに多く取り出すか、換言すればいかに高負荷率、かつ長時間(すなわち高稼働率)で運転するかがその活用のポイントだった(CGSを複数台設置するなどの場合によっては、需要家の契約電力を削減できる場合もありそれは電力kWの価値を生かしていると言える)。その背景には、電力量の価値(価格)およびガスなどの燃料の価格が一定だったことがある。
それが今や電力全面自由化などのシステム改革が進み、電気事業者が多様になったことで、電力市場連動の契約など電力契約メニュー、すなわち電力量の価値(価格)が多様化している。さらには20年から容量市場、24年から需給調整市場が創設され、容量(kW)や調整力(ΔkW)の価値も認められている。
これらの価値を活用しながら、導入したCGSの価値を最大化することが必要であり、従来の「高負荷率かつ長時間で運転する」だけではなく、電力市場をはじめ容量市場、需給調整市場の動向を視野に入れ、オペレーションズリサーチの手法を取り入れながら、経済的収益を最大にする運用計画の策定やそれに向けた研究が求められている。
〈再生可能エネルギーとの調和〉
現在の貴重な化石燃料や将来の高価な水素・アンモニアを使用するCGSなどの火力発電設備は、その機動力、調整能力を活用して十分な価値を引き出すことが必要である。
CGSには、起動停止が機敏であることに加え、出力調整も高速で行うことができるメリットがある。それだけに、CN達成のため再エネ主力電源化を目指す中でCGSの機動力を生かした運用、および通信システムなども含めた制御システムの進展が期待される。
一方で、再エネとりわけ太陽光発電などインバーター型の発電設備が増加することにより、電力系統の擾乱時(周波数や電圧に変動が起きた時)に保護装置が働き、電力系統から解列(分離)されることで、さらに電力系統の擾乱を拡大するという現象が起こり得る。このような現象を回避するために、CGSなどは系統擾乱時も一定程度連系を維持することが必要だ。
〈レジリエンスへの貢献〉
電力系統の停電時に、CGSの自立運転によって需要家構内の負荷に電力を供給できることは、以前からCGSのメリットとしてうたわれている。しかしながら、それを実現するにはCGSの仕様だけでなく、需要家構内の負荷選択など構内設備のエンジニアリングも重要だ。
災害などに対応できる強靭な街づくりにCGSが貢献するためには、電力系統の停電時にCGSが自立運転できることに加え、街全体の配電系統の運用も含めた入念な設計が必要である。防災への活用の観点からCGSは電力だけでなく熱(給湯、蒸気)の供給も可能であるため、災害時の総合的なエネルギー供給に貢献することが期待されている。
いずれにせよ、省エネの重要な役割を担ってきたCGSは、自由化やCNの影響を受けているものの、再エネを主力とする将来においても、その重要性には変わりなく、時代に即した技術開発が求められている。