【シン・メディア放談】再エネタスクフォースが廃止 甘利VS河野が火花散らす


<メディア人編> 大手A紙・大手B紙・大手C紙

中国ロゴ問題を巡り、甘利氏が河野氏を痛烈批判。

総裁選に向けて河野氏はどう動くのか。

─昨年1月に始まった電気・ガス料金に対する補助金が5月使用分をもって終了した。

C紙 朝日が一面で報じていたが、他紙は2面や3面での扱いだった。読者層が高齢化しているので、「くらし情報」として掲載した社が多かったのだろう。補助金の是非は丁寧に取材すべきテーマだが、深く迫った記事は見ない。

B紙 5月22日には、共同通信が「6月電気代、最大46・4%上昇補助金終了、再エネ賦課金負担増」との記事を掲載した。46・4%という上昇幅は衝撃的だが、これは前年同月比での数字。なぜ前月比で報じなかったのか。事業者からは不満の声が上がっていた。

A紙 夏に向けて電力需要が高まる中で、補助金終了のタイミングは最悪だ。料金明細を見た時に驚く人は多いはずで、今後は「電気代、なぜ上がった?」というQ&A方式の記事を目にするかもしれない。


反原発が執筆の足かせに エネルギー記事はウケない

C紙 民放は「電気代が上がって大変だ」とあおり立てる報道が多かった。「なぜ上がるのか」という視点が求められていると思うのだが。

B紙 第7次エネルギー基本計画の議論中で腰を据えた記事を書きたいが、連載記事でも全てをカバーするのは至難の業。エネルギー問題はとにかく複雑で難しい。FIT(固定価格買取制度)とFIP(フィードインプレミアム)の違いを書いても、デスクが理解できるか不安だ。

A紙 エネ基の議論の中心は、電力需要増と脱炭素。この2点を前提にすると、朝日・毎日・東京は、原発を推進できない点が記事を書く上での足かせになっている。

B紙 A紙はリベラル系だが、書く立場としてはどう?

A紙 正直、かなり苦しい(笑)。一方で保守系は、再生可能エネルギーを叩く方向に走りがち。原子力VS再エネという構図にはまると現実的な記事が書けなくなる。

C紙 GX(グリーントランスフォーメーション)基本計画で原発新増設をうたっても、実現できそうなのは1、2カ所だけ。「原発回帰」など象徴的なフレーズが独り歩きしがちだが、こうした実情もセットで伝える必要がある。特にエネルギーはいろいろな立場の人が、それぞれの理想を語っているから……。

B紙 産経も原発の活用を訴えるが、少し詳しい人なら「そうは言っても、資金面はどうするの」と思っている。表面的な記事を書くほど、現実との乖離が目立つ。

A紙「データセンターで電力需要増」と言われても、読者はピンと来ない。人口減の地方ならなおのことだ。遠い話のように思えて、とにかくエネルギーの記事は読者にウケない。

─再エネ規制改革タスクフォース(TF)資料へのロゴ混入問題で動きがあった。内閣府は6月3日に調査結果を公表。翌日には河野太郎デジタル相が同TFの廃止を明言した。

C紙 河野氏の私的な懇談会が公的な審議会並みの権限を持っていたわけだが、同じ神奈川県を地盤とする自民党の甘利明前幹事長がずいぶんと怒っている。6月4日の産経によると同日、「(エネルギー、情報通信の政策を)何の公的権限もオーソライズされない人が決め、関係省庁に指示を出すことはおよそ考えられない」、さらには「とんでもない大臣が来たら暴走する」とまで語ったとか。

B紙 裏ではもっと激しかったらしい。河野氏が地元の例会で自分が描かれたまんじゅうを配った。それを見た甘利氏は「そんなの食べたら、お腹壊すよ」とボソリ(笑)。

C紙 この2人は、いわば原子力と再エネのボス同士。ここまでバチバチにやり合うのは久しぶりだ。


YKKに似てきた「小石河」 蓮舫氏は「惜敗」がベスト?

C紙 9月の自民党総裁選への影響もある。「腕力」という武器を封じられた河野氏がどんな一手を打つのか。小泉純一郎元首相のように、よりポピュリスト的な手法に出る可能性もある。

A紙 かつて小泉元首相は「YKK」(山崎拓氏、加藤紘一氏、小泉氏)を「友情と打算の二重構造」と評したが、「小石河連合」(小泉進次郎氏、石破茂氏、河野氏)も同じ匂いがする。ただ河野氏は次の内閣では要職が予想されるので、今回はあまり動かないかも。

B紙 岸田文雄首相としては、国会への憲法改正原案の提出を狙っていた。いくら安倍派などが「裏金」問題への対応で「岸田憎し」といえど、党の悲願達成に向けて動き出した総裁を引きずり降ろすわけにはいかない。だが政治資金規正法改正案の審議への影響を考慮し、原案提出は見送りに。総裁選に向けた政局の季節がやってくる。

B紙 党が窮地に陥る中で総裁選に手を挙げる人はいるのだろうか。若手を中心に「岸田さんでは選挙に勝てない」という声は出るだろうが、「岸田さんに泥をかぶってもらいたい」という議員も多いはず。

C紙 ちなみに、9月には立憲民主党の代表選挙もある。泉健太代表を交代させたい勢力にとっては、7月7日の東京都知事選で蓮舫氏が「惜敗」するのが望ましい。勝利すれば「泉降ろし」の理由にならず、大敗なら党の勢いが失われてしまう。とはいえ、蓮舫氏は敗れたとしてもすぐに衆議院へ鞍替えるのだろうが。

─エネルギー政策では、河野氏も立民も期待できない。

【ガス】LNGポートフォリオ 柔軟な構築が不可欠


【業界スクランブル/ガス】

LNGを輸入する主要都市ガス各社の業績が好調だが、その一因に各社が調達する長期契約LNGの価格競争力が日本入着LNG価格 (JLC)と比較し高かったことが挙げられる。ガス会社が長契で全量を固めている中、大手電力中心に購入されているスポットLNGの高値に引っ張られてJLCが高騰し、ガス会社の実際の調達価格を上回る状況が続いた結果だ。現在、スポットのJKMは11ドル前後で落ちついているが、過去5年間の平均価格と比較すると引き続き2倍程度高い水準で推移している。

ただし、こうした状況はいつまでも続くものではない。2027年前後からカタール増量、そして米シェールLNG事業の稼働が段階的に進む。

カタールのLNG生産量は24年7700万tから、30年には1億4200万tに増量。また、米国の生産量は24年8500万tから30年1億7000万tに拡大する。これにより、全世界の生産量は24年4億tが30年5・8億tと1・5倍に膨れ上がる。そして、世界の需給は急速に緩んでいく。これによりスポットは27年前後から1~3ドル程度に下落し、長契を下回る。そして、長契で固めたガス会社は安いスポットに手を出すことができず、競争力を失うことに。現在と真逆の状況になるのだ。

市場自由化が進展する中で価格競争力を維持することや、需要量の変化に柔軟に対応できる調整力を持つことは重要なミッション。これからは大勝ちや大負けを回避して、確実に一定の競争力・調整力を確保できるよう、スポット・短期・中期・長期の最適ポートフォリオを構築することが必須条件になる。(G)

脱炭素巡り対立鮮明化 独政府と経済界が非難の応酬


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

ドイツ政府は2045年カーボンニュートラルの実現を国際公約とし、CO2削減目標に多額の予算を投じている。メルケル前政権は環境問題を重視する政策にかじを切り、再生可能エネルギーの導入拡大を軸にエネルギー転換していく方針を打ち出した。21年に発足したショルツ政権も前政権の目標を具体化しようと動いている。

ところが、連邦会計検査院は政府のエネルギー政策に批判的だ。21年にメルケル政権下におけるエネルギー転換政策の怠慢を批判する報告書を出し、今年3月にも2回目の特別報告を発表した。この特別報告は、エネルギー転換実現への措置は不十分で、重大なリスクを抱えていることを指摘。「再エネと電力系統の拡充、並びにバックアップ電源の拡充が遅れている」などと、政権にとって厳しい内容となった。

ハーベック経済・気候保護大臣は、この数日前に「このテンポで継続すれば、プロジェクトを達成できる。われわれは現在、目標達成の過程に入っている」と楽観論を述べていたが、特別報告は「早急にエネルギー転換計画の変更に着手すべき」とこれを全否定した。

ドイツ経済界も、エネルギー政策については会計検査院と同様、否定的な見方だ。政府は21年秋、30年までに脱石炭・褐炭を実現すると標榜しているが、これについてドイツ経団連(BDI)のルスヴルム会長は23年末に、「極めて困難である」との見解を示した。

今年2月にも、「原子力発電と石炭・褐炭発電からの撤退は非現実的だ」と述べており、「国際的な競争市場でドイツ企業に不利益が生じる」と断言。「誰も7年後にドイツの電力供給や電力価格がどうなるのかを確信持って言えない。投資決定を行う企業にとって絶対に有毒である」とも強調した。

さらに4月初旬には、「ドイツ経済の停滞の観点から状況の深刻さを過小評価している」と政権に対する強い懸念を示し、21年末からのショルツ首相の政権担当期間を「失われた2年間」と表現した。これに対し、ショルツ首相は4月末のハノーバー・メッセで、「2年間を振り返って」と題した演説の中で、ルスヴルム会長の名前を上げて反論した。首相府と経済界との対立が鮮明化し、経済界の危機感は募るばかりだ。

このような状況下で、ショルツ政権は政権期間の折り返しを迎えた。23年のGDP(国内総生産)成長率は0.3%、今年の民間予想は0.1%のミニ成長率となっていることから、経済界は危機感を抱いている。

エネルギー政策について、政府は環境理想論を訴えるのに対し、産業界は現実論を主張している。この状況はエネルギー危機下で当分続くことが予測される。現在、政権与党内でも意見がまとまっていない中、25年の予算編成が既に焦点となっている。そして25年秋、国民の信を問う総選挙を迎えるのだ。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

気候変動、科学と活動を区別せよ


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

科学雑誌『ネイチャー』のWeb誌『npj Climate Action』に、英ケンブリッジ大のウルフ・ビュントゲン教授の「気候科学と気候活動を区別することの重要性」という論文が載った。

論文は「ますます多くの気候科学者が気候活動家になっている」ことや「科学者ぶる気候活動家」に懸念を示す。つまり、科学者が情報を選別して使用したり、人類の活動による温暖化を過度に問題視したりして気候問題を政治化すること、そして活動家が自らの主張を道義的に正当化するために科学を利用することを問題視するのである。

著者は、科学者が気候変動に関して特定の立場をとることは否定しないし気候活動自体を批判するわけでもない。ただし、科学的知見が予定された立場を推進するために利用されれば、科学に対する信頼が失われ、気候保護活動などに悪影響を及ぼすとともに、持続的成長やエネルギー転換に関する国際合意を難しくするのだと語る。

気候変動対応の多くは市場原理だけでは成立しないため、「補助金」という名の利権が幅を利かす状況に陥りやすい。一方、「地球環境保護」とか「自然エネルギー」などは、あたかも宗教のように人の善意に訴えかける魔法の言葉である。これに科学という「神の啓示」が加われば、これほど政治的に美味しい世界はない。

エネルギー・環境政策の混乱は、社会のなかで最も弱い層を直撃する。科学的知見の「いいとこ取り」をして、「活動家」と「研究者」の顔を都合よく使い分ける者、それに乗っかって、民主的な手続きもそこそこに独善的な「教義」を押しつける政治家の傍若無人を許してはならぬ、ということではないか。著者は、自己批判的な態度と多様な視点を科学者に求めている。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

【コラム/7月19日】2024年度第1四半期を振返って


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

7月に入り電力業界で言うところの「夏季」が始まった。事前の見通しでは電力需給は猛暑H1需要に対して最低限必要な3%の供給予備率が確保できるとのことで、節電要請はなかったわけだが、蓋を開けると、気温上昇により一部で需給改善のための電力融通指示が発動され、一方で西日本を中心とした線状降水帯が発生するなど、予断を許さない状況が続いている。そうした中でエネルギーを取り巻く議論は活発さを増している。中長期の戦略や計画策定から、足元の制度設計に至るまで多くのテーマが各審議会で取り上げられている。今回は、2024年度第1四半期の状況を簡単に振り返ってみることとする。


政策立案の大きな動き

まずは中長期的な視点での議論から。この数年、50年カーボンニュートラルの実現という大きな目標を掲げ、そこからバックキャストして30年の温室効果ガス排出削減やエネルギーミックスという目標を設定し、徹底した省エネや再エネ主力電源化などの各種施策が講じられてきた。

一方で、その間にロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル問題、新型コロナウィルス感染症拡大などの外部要因により、エネルギーや環境の在り方を単純に語るレベルではなくなり、産業や国民生活と不可分なものと位置づけで対応しなければならなくなっている。そうした状況下で、エネルギー安全保障や電力安定供給の確保、経済成長、そして脱炭素化の3つの柱を同時に実現するというGX(グリーン・トランスフォーメーション)というワードが躍るようになり、そこに新たな商機や投資の可能性を見出すようになった。

この第1四半期では、政府のGX実行会議が約5か月ぶりに開催され、エネルギーと産業、脱炭素を一体で考えるGX2.0の考えが提唱され、新たに「GX2040ビジョン」を4つのフレームワーク(産業立地、産業構造、市場構造、エネルギー)の観点で策定する方針が占めされた。有識者を招いて意見を聴くリーダーズパネルと具体的な議論を行う専門家ワーキンググループ(WG)を7月から始め、24年内を目途にビジョンをまとめる予定となっている。

この中でエネルギーについては、3年ごとの見直しの時期にかかっているエネルギー基本計画の策定に主に委ねることとなる。こちらは既に有識者ヒアリングを2回実施済みである。前回、第6次計画の際に着目されたカーボンニュートラルや再エネ主力電源化といったテーマは、引き続き重要とされつつも、足元の国内外の情勢を踏まえ、エネルギー安全保障や、大規模電力需要増加に対する脱炭素電源の確保とそのために必要な系統増強など、現実を踏まえた意見が多くなっていると感じる。

また、カーボンニュートラルの観点からは、日本の温室効果ガス排出削減目標であるNDC(温室効果ガス削減の国別目標)の次期目標の設定が必要となる。COP28やその後のG7気候・エネルギー・環境大臣会合でも確認されたが、35年の目標を25年2月までに提出することが推奨されており、日本もその趣旨は認識している。そのため、地球温暖化対策計画の改定と併せて議論が着手された。今回は、環境省の中央環境審議会の小委員会と経産省の産業構造審議会のWGとの合同会議となっている。前述の通り、エネルギー・産業・環境が不可分な関係となっていることもあり、このような合同会議での検討になったとみられる。

電力については、昨年度から始めた第5次の電力システム改革の検証に有識者などのヒアリングが完了し、7月から取りまとめに向けた詳細議論が行われている。 大きな政策の方向性としては、毎年6月に出される政府の経済政策が今年も閣議決定されて公表された。いわゆる骨太の方針と新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画、そして規制改革実施計画である。エネルギー関連では、GXと安全保障といったテーマで、足元の状況と今後の政策について記載されている。

【新電力】同時市場検討に疑問符 需給調整手直しが合理的


【業界スクランブル/新電力】

同時市場の検討に危惧を覚えている。経緯を当初から追っていると、「PJM模倣、送配電主導の一元統御に前掛りな人達が、現行制度の欠陥に責めがあるのに、過激な制度変更を主導し安定供給の基礎を破壊してしまう」と感じるのである。

この検討が2022年1月に始まった頃は燃料供給確保を視野に入れた包括的なものだったが、現時点の検討では、限界費用理論、価格規律の従来思考はそのまま、対象電源拡大、PJM参照など味付け改変に意欲を示しつつ、調整力とkW時の最適確保ロジックに絞られている。

さまざまな電源を限界費用一本で評価→高限界費用電源種退出、燃料供給体制脆弱化→21年需給ひっ迫→同時市場検討開始、と私は認識するが、ユニット起動費、最低出力コスト、限界費用カーブを勘案する新市場でも「安さ=稼働」の発想のままなので、高限界費用電源退出は止まらない。一部の経済学者や送配電関係者がまるで「理論を試したい」かのように他制度との関連は後回しで細部を作り込もうとしているのではないかと発電、小売双方で不評だ。「新市場の費用対効果は10倍」というが、これは現需給調整市場の拙さの裏返し。だが、総括反省をついぞ聞いたことがない。

28年度の運用開始を目指すが、システム開発所要期間を踏まえると無理。発電と小売りは新たな札入れ方法に対応するシステム、業務フローを構築しなければならず、費用負担と無駄骨を予感させる。若干の非効率さはあっても、各事業者が乗り入れしやすい需給調整市場の手直しの方が合理的ではないか。検討の意義を再確認してほしい。(S)

欧州議会の「右傾化」 環境政策は見直しの可能性


【ワールドワイド/環境】

6月6日から9日に行われた欧州議会選挙では中道右派の欧州人民党(EPP)、右派の欧州保守改革(ECR)、アイデンティティと民主主義(ID)が議席を伸ばし、中道左派の社会民主進歩同盟(S&D)中道リベラルの欧州刷新(RE)、左派の欧州グリーン・自由連盟が大きく議席を減らし、欧州議会はこれまでで最も右旋回する結果となった。

自身が属するEPPが伸長したことは2期目を目指すフォンデアライエン委員長にとって好材料となるが、再選には特定多数決(加盟国の55%の15カ国およびそれら国々の人口がEU全体の65%以上を占めること)が必要となる。そのためにはドイツ、フランス、イタリアの支持が不可欠だ。加えて、欧州議会の過半数の360超の支持が必要であり、同委員長は2019年と同様、親EUのEPP、S&D、REを中心に欧州議会の多数派を形成する意向である。再選を確実にしたい同委員長はEU懐疑派が結集したECRと重要な政策課題で協力することを示唆しているが、中道左派、リベラル派など従来の支持層は同委員長がECRとの協調路線をとれば支持を取り下げると表明している。既に次期欧州委員長の選定作業は始まっているが紆余曲折が予想される。

19年にフォンデアライエン体制が成立した時は欧州議会選挙で環境政党が大きく伸長し、欧州グリーンディールを最重要政策と位置付け、クリーンエネルギー導入拡大、CO2削減に関する政策、法令が導入された。しかし今回の選挙結果は、移民、経済の優先順位が高まり、温暖化対策の優先順位が下がることを示唆している。

環境政策に懐疑的な右派、極右政党が勢力を伸ばした欧州議会であっても導入済みの法令は取り消せない。ただし法令の多くは今後5年間で見直されるため、右派、極右政党がその実効性を弱めるような抜け穴を設ける可能性がある。特に35年の内燃機関自動車販売禁止については、ECRを実質的に率いるメローニ首相が愚行であると反対し、EPPからも批判が強いため、見直される可能性は高い。また欧州委員会が提示した40年90%削減目標についても右派・極右が勢力を伸ばした欧州議会、加盟国において反発を受けるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

PFAS問題の論点整理 バイアスに注意し正しく理解を


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局記者

PFASを巡り「発がん性がある」「米軍基地から漏れ出した」といった報道が連日絶えない。

ただ、紙面やネットに踊る文言の中にはミスリーディングなものも散見される。

PFAS問題を巡る論点を解きほぐしてみたい。まず、PFASとは1万種類以上におよぶ有機フッ素化合物の〝総称〟だ。フッ素と聞いてすぐ思い浮かぶのがフライパンの表面加工だろう。実際、フッ素は水や油をはじき熱に強く、表面加工のほか消火器や半導体、金属めっきなどあらゆる分野で、さまざまなPFASが重宝されている。


環境水か水道水か 努力目標か必達目標か

この1万超のうち「PFOS」「PFOA」という2物質が焦点だ。いずれも動物や人間への有害性が指摘され、日本を含む各国で製造が禁止された(なお「PFHxS」という物質も最近禁止された)。そのため、①現在「基準を超える値が検出された」などと報じられるのは過去の残存分である、②ほかのあまたのPFASは依然として重宝されている―という2点を最初に押さえる必要がある。

次に水道行政について説明する。単に「水」といっても飲み水から海の水まで多種多様だ。日本では、水道水の水質を厚生労働省が、海水や河川水、地下水など(まとめて「環境水」と呼ぶことがある)の水質を環境省が管理してきた。今年4月から水道水の水質も環境省の所管になったが、いずれにせよ、それぞれ求められる水質のレベルが異なることは常識的に分かるはずだ。川の水を直接飲む人間はまずいない。この点が、PFAS報道の真贋を見極める一つのカギになる。

実は、しばしば「基準を超えた」と報じられるのは大半が環境水である。政府の調査によれば、水道水で基準を超えるケースはまれ。一方、環境水で「基準を超えた」との報道が目立つ背景には、社会的関心の高まりに応じて政府が調査範囲を広げたという事情もある。

水道水と環境水で水質の基準は異なる

人間はどうしてもショッキングでネガティブな情報に強く反応する。メディアも同様で、悪いニュースほど報じやすく良いニュースほど報じにくい「出版バイアス」に警戒しなければならない。

これに対しては「水道水だろうが環境水だろうが、基準を超えてはならない」と反論が出るかもしれない。ただし注意すべきは、ここでの「基準」は、日本では現状、死守すべき値(必達目標)ではなく暫定的な目安(努力目標)にすぎない点だ。

なぜなら「PFOSやPFOAの有害性」の正体が、十分に判明していないからだ。確かに「動物では肝機能や体重減少に影響する」「人間ではがんや免疫系に影響する」との研究報告はある。ところが、いずれもデータが限定的で、実際にどの程度の量を摂取すればどのような影響が出てくるか―すなわち「閾値」が分からない。

おそらく一般市民の理解を阻む最大のハードルがここだろう。

そもそもPFOSやPFOAを摂取しすぎて人間に健康被害が出たというケースは、少なくとも日本では確認されていない。この点が、過去に有害性を理由に使用が禁止されたポリ塩化ビフェニール(PCB)やアスベストなど、いわば〝正真正銘の有害物質〟との大きな違いだ。PFOSやPFOAは、研究を進めつつ、暫定的な目安を設けて対応していくしかない。

【電力】異様な電気料金規制は いい加減廃止するべきだ


【業界スクランブル/電力】

2023年度の大手電力各社の決算が出そろい、前年度より大きく改善したことから、「電気料金値上げして最高益かよ!」といった怨嗟の声が少なからず聞こえてくる。先日、石川和男のエネルギートーク「電気料金値上げ報道への異論反論」を視聴した。内容はもっともなのだが、もとよりこの放送を見る人の多くは、燃料費調整制度の期ずれのことなどは理解しているであろう。メディア関係者が見て勉強してくれるならよいが、心ある記者も既に理解しているだろうから、あまり追加的な効果は期待できそうもない。

本誌4月号のこの欄で「(電力会社は)料金制度などの情報提供は国の仕事と思っていないか」という問いかけがされていたが、筆者の意見は少し違う。国が認可をするわけであるから料金制度にしろ、料金水準にせよ説明責任は国にあるのが道理だ。しかも、法的独占が撤廃されたのに、供給義務と料金規制を残置するという異常な制度を選択したのだから、なおさら責任は重いと思う。

他方、都市ガスは既に料金規制は撤廃されている。新規参入実績がゼロでも、都市ガス普及率が5割を下回っていれば、規制が撤廃されるということすら行われた。電力、他燃料との競争があるからとのことであるが、こんな競争の構図は当該都市ガス事業者のエリアだけでなく全国どこでもある。当該事業者が非効率だから都市ガス普及率が低い可能性だって否定できないだろう。

こんな謎理論でも通るのだから、要は政府のやる気だろう。異様な規制料金残置をずるずる続けるのはいい加減止めるべきだ。(V)

欧州PVメーカーに暗雲 問われる政府とEUの対応


【ワールドワイド/経営】

ドイツ政府は太陽光発電(PV)を主要な再エネ電源に位置付け、設備の累積導入量を2030年までに、現在値の約2・5倍にあたる115GWまで増加させるとした。従来の導入ペースより大幅に加速させなければ達成は難しい。23年5月に連邦経済・気候保護省は「PV戦略」に今後の施策方針をとりまとめ、ソーラーパッケージ(Ⅰ・Ⅱ)と呼ばれる法案パッケージにて立法化するとした。

農業PVなどの多様なPVの導入促進や設置に関する規制緩和を中核とするソーラーパッケージⅠは今年4月下旬に上下両院で可決された。23年夏に採択予定であったが、一連の施策の一つ「レジリエンスボーナス」の採用可否について資金問題を抱える連立与党内で意見が割れ、採択が遅れた。同制度はドイツや欧州におけるPV製造能力を強化するため、欧州で製造されたPVを補助対象とするもの。自由民主党のリントナー財務大臣は「再エネ分野には既に多額の税金が投入されており、高度な技術ではないとされるモジュール製造に支援を行うのは妥当ではない」と主張。社会民主党のショルツ首相も、同制度の導入は経済的に持続不可能であると判断し、ソーラーパッケージⅠでは不採用となった。

中国のPVメーカーは低賃金労働と多額の政府補助により、安価な製品を大量生産して売上を伸ばし、独占的な地位を築いた。一方で欧州メーカーは不当な価格競争にさらされ、経営が悪化している。欧州メーカーの低迷が問題視される中、現時点でEUは、輸入制限などは実施していない。大量生産される中国製品がなければ気候変動目標を達成できないというジレンマが事態を複雑にしている。

こうした中で、ドイツに工場を有する欧州メーカーはレジリエンスボーナスによる救済を求めていたが期待外れの結果となった。スイスの大手メーカー、マイヤー・バーガーは、フライベルクの工場を閉鎖し、税額控除や中国製品の輸入制限が行われている米国への製造拠点の移転を計画している。ドイツのソーラーワットもドレスデンの工場を停止すると発表している。

EUでは間もなく「ネットゼロ産業法」が公式な成立に至る(原稿執筆時点)。これは欧州の製造能力強化に関する措置が盛り込まれる予定であるが、内容次第で状況は大きく左右されよう。また、ソーラーパッケージⅡではどんな施策が実行されるか、今後の動向が注目される。

(藤原 茉里加/海外電力調査会調査第一部)

水素生産支援策に懐疑的 オークションで見えた特性


【ワールドワイド/資源】

 4月30日、欧州委員会は、欧州水素銀行の下で実施したトライアルオークションで、158万tの再生可能水素を生産する計七つのプロジェクトに合計7・2億ユーロを提供すると発表した。プロジェクト開始後10年間、再生可能水素1kgあたり0・37~0・48ユーロを支援する。入札上限とした4・5ユーロの約10分の1の価格での落札であった。

支援額の多少を既存のグレー水素価格との比較で考えてみる。

メタンの水蒸気改質でグレー水素1㎥を作るには3分の1㎥のメタンが必要で、天然ガス価格から原料費は約20円。もし再エネ電力で水電解を行い、同じ価格で水素を作るなら、水素1 ㎥あたり約5kW時の電気が必要で、1kW時あたり4円程度の再エネ電力が必要。設備コストや託送コストなども考えると、1kW時あたり2円程度での調達が必要であろう。オークションの水素1㎥あたり5・5~7円の支援額は、電力価格換算だと1kW時あたり1円強ほどで、経済性はかなり厳しい。では、なぜこのような低価格の落札結果となったのか。

一つ目は地域性。今回の落札者はスペイン、ポルトガル、ノルウェー、フィンランドの南欧北欧4カ国に絞られている。これらの国は再エネ比率が70%以上と高く、欧州における再エネ電源(RFNBO)基準である

水素製造と再エネ電力供給の「同時性」を気にせず安価な再エネを入手できる環境にある。逆に言えば、今後EU内でも、実施できる地域が偏る可能性が高いとも言える。

二つ目は、欧州の厳しい規制を上手く利用した巧みな制度設計の結果であろう。他の地域、例えば米国ではインフレ抑制法(IRA)でグリーン水素に最大1Kgあたり3ドル、豪州では水素生産補助金政策(HTPI)で1Kgあたり1・3ドルと、欧州のオークション支援額と比べてはるかに手厚い。一方、欧州は脱炭素に向けた目標(基準)を達成できなければ巨額の罰金が待ち受けるムチの政策が前提にある。ムチを見せて、アメの支援額を大きく抑え込んだ。実際、支援で埋まらない価格差は、ムチを見て積極的に脱炭素化を進める需要家が支払う。アメもムチも最後は国民負担となるが、EUはそのバランスを巧みにとり脱炭素化の推進力を生み出したと言える。

24年末に第2回のオークションとなるが、この流れが継続していくのか注目したい。

(篠澤康彦/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年7月号)


【Jパワー/DXで水力発電所の保守業務を高度化】

Jパワーは、最新のデジタル技術を駆使した水力発電所の保守業務の高度化を図るため、2019年度から下郷水力発電所(福島県)で取り組んできた実証試験の成果を全国の水力発電所へ展開する。具体的には、①独自開発の設備異常兆候を検知するAIの活用による設備トラブルの未然防止、②衛星通信ブロードバンドを利用した自社ネットワークの適用拡大による、通信状況が良好でない遠方からでも保守業務が可能な利用環境の整備、③災害時でも行動可能な4足歩行ロボットなど2種類の巡視ロボットを導入―。発電所の安定稼働、保守業務の省力化を推進し、電力の安定供給に貢献していく。


【三井住友建設/自社工場のCN実現へ水素製造・貯蔵設備を導入】

三井住友建設は、PCa(プリキャストコンクリート)部材を製造する能登川工場(滋賀県)に水素製造装置と貯蔵設備を新たに導入した。購入する全電力を実質再エネ100%電力に切り替えることにより、グリーン水素を製造し、これを燃料に蒸気ボイラーを稼働させる。同工場では、工場全体のCO2排出量の6割をPCa部材製造時に使用する蒸気ボイラーが占め、2割をコンクリート製造プラントやクレーンなどの稼働時電力が占める。全使用電力を実質再エネ100%にすることで、こうした各種設備の稼働に伴うCO2排出量をゼロにすることが可能になる。


【TGES、JFEスチール、ガスター/世界初のレーザー式一酸化炭素検知器を開発】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、JFEスチール、ガスターの3社は、一酸化炭素(CO)の遠隔検知を可能とする携帯型検知器を世界で初めて開発した。TGESが既に実用化している赤外吸収現象を利用した反射式レーザー式メタン検知器の技術を応用。COの検知に最も適した2.3μm帯の波長を使用し、高感度な遠隔検知を実現した。人が簡単に立ち入れない場所や高所における点検などでの検知作業の効率化を図ることができ、保安の向上やコスト・時間削減が見込める。今後、量産化に向けた開発の検討を進め、2025年の販売開始を目指す。


【東邦ガスNW、アンドパッド/ガス管の3D竣工図自動作成のデジタル技術を開発】

東邦ガスネットワーク(NW)とアンドパッドは5月、ガス管の3D竣工図面を自動作成するデジタル技術「ANDPAD3Dスキャン」を開発したと発表した。従来の竣工図作成の作業工数を削減できるほか、導管の精緻な埋設情報を残せることで、他の工事によるガス管損傷の防止など、保安向上にも寄与する。東邦ガスNWは今夏からの工事で利用する方針だ。


【伊藤忠商事、日本エア・リキードなど/福島に大型FC車両対応の水素ステーションを開業】

伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、日本エア・リキードの3社協業で建設した「本宮インターチェンジ水素ステーション(福島県本宮市)」が開業した。ステーションは大型FC(燃料電池)トラックに向けた水素供給が可能だ。充填設備は2レーン備えており、交互にメンテナンスすることで、継続的に営業することができる。今秋には24時間営業にする予定だ。


【関電工、YKK AP/建材一体型の太陽光発電装置開発に向け業務提携】

関電工とYKK APは建材一体型太陽光発電装置の開発に向けて業務提携した。ペロブスカイト太陽電池などを用いて、既存ビル向けには施工や保守が容易な「内窓式」、新築向けには「壁内蔵式」を開発する。YKKが商品開発を担い、関電工が施工技術と電設部材を含めたシステム設計を担当する。内窓式では透過性による発電量などを確認する。

BEVの利点を生かした 新たなコンセプトに期待


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

前号まで、「将来はゼロカーボン社会を目指して、全ての自動車がBEV(バッテリーだけがエネルギー源のクルマ)に置き換わる」という主張が怪しいものであることを紹介してきた。しかし、私はBEVそのものに否定的な立場にあるわけではない。BEVも色々な利点・欠点があり、各種の利用方法に応じて、他の内燃機関も動力源とする自動車とすみ分ける存在になると予想している。

EVの利点、欠点

BEVの現在の欠点となっている、航続距離が短く充電時間が長いという技術課題は、なかなか解決される見通しが見えない。固体電池の開発で一気に解決するという主張が見られるが、電解質を固体とすると、正極や負極との間に隙間が発生して電池としての機能を喪失する課題が生じ、それを解決するのはかなり難しい。

現在、電気自動車の航続距離を長くするためには、搭載する電池の量を多くすることで対処されている。すると車両重量が増加して、駆動により多くのエネルギーが消費されるという不条理なことになり、さらにタイヤにかかる負荷が多くなって、タイヤの摩耗を促進する。最近ではタイヤの摩耗による粉塵発生も問題にされている。

このような観点からは、BEVは短距離の移動や輸送に特化して、内燃機関を動力とする車両とのすみ分けをすることになるのではと予想される。それではBEVの利点を生かす使い方について考えてみよう。主要な利点は以下である。

①低速時の駆動トルクが大きく、加速性能が優れている

②内燃機関エンジンが不要なので、クルマの全体 レイアウト・デザインの自由度が高い

③各車輪の駆制動トルクを独立に制御することに よって、トルクベクタリングと称する車両運動制御や乗り心地制御が可能となる

テスラは最初に商用化したロードスターに、利点1を活用して、0-96km/hが3.9秒というスーパーカー並みの加速性能をもたせ、1千万円強の価格帯で富裕層向けビジネスを成功裏に収めた。そして、他のメーカーもそれを追随した。しかし、2と3を生かしたBEVは出現していない。

これらを特に生かすためのデザインが、インホイールモーター(駆動システムを一体として車輪内に配置)やeアクスル(駆動システムを一体として車体側に配置)である。現在のBEVは内燃機関から駆動している車両デザインをそのまま踏襲していて、駆動輪の位置を自由に設定できる利点を生かしていない。駆動輪の位置の制約が少なくなれば、現在とは全く違った車体デザインにより居住空間や積み荷空間を広くとるなど、新しい車室内パッケージングデザインが可能となる。

さらに利点3では、左右輪の駆制動力差によって、車両の操舵応答特性を自由に制御したり、サスペンション特性を利用して車体の上下動を制御したりすることが可能となる。この制御によって、スポーツカーのような俊敏な操舵応答や高級車のような滑らかな乗り心地を得ることが可能となる。このようにBEVの利点を生かした新たなコンセプトの自動車の出現を期待したい。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

グリーン・リスキリング 個人でなく国や企業の責任で


【オピニオン】出馬弘昭/グリーンタレントハブシニアアドバイザー

シリコンバレー駐在員時代(2016~20年)、カリフォルニア州では化石燃料業界人の筆者にとって不都合な未来が始まった。バークレー市は新築住宅でのガス利用を禁止した。ガス燃焼はCO2だけでなく健康を害するNOX(窒素酸化物)も排出する。その昔、バークレー市は世界で初めて公共の場を禁煙に。ガスはタバコと同じ扱いだ。ガス会社は猛反対するも、規制は全米数十都市に広がり、サンフランシスコ市は新築ビルでも禁止した。ガスコンロをIHコンロへ、ガスボイラーをヒートポンプ(HP)へと代替も進む。古い化石燃料火力は解体され、ソーラーや蓄電池に置き換わった。

米ガス会社は天然ガスパイプラインに水素やRNG(再生可能天然ガス)を混入しCO2排出を減らそうとする。しかし、水素混入の上限は10数%で、RNGは生産量に限界があり、ガスを燃やさない時代への橋渡しでしかない。水素やRNG混入に反対する地域では、ガスパイプラインを遮断して地域オール電化を試行する。欧州でもガス禁止が広がり、英国はガスボイラー設置を段階的に廃止し、オランダは全住宅・建物で段階的にガス利用を禁止する。

そして、ネットゼロへのエナジートランジションの実現には圧倒的に人材が不足している。一番期待されるのが化石燃料人材のグリーン人材へのシフト、いわゆる「グリーン・リスキリング」だ。欧米ではガスボイラーエンジニアがEV充電器やHPエンジニアへ。ガスパイプエンジニアが再利用水パイプエンジニアへ。石油ガス掘削エンジニアが地熱エンジニアに。火力発電人材が再エネ人材へ―などとシフトが進む。

国際労働機関(ILO)はトランジションにおいて「誰ひとり取り残さない」公正な移行を強調する。グリーン・リスキリングは個人の努力や問題でなく、国・自治体・企業の責任だ。ニューヨークでは州政府と企業がHPエンジニアを育成し、ガスボイラーを代替する。ドイツでは火力発電所廃止に伴い、自治体と企業が発電所員だけでなく近隣業者も含めて再エネ研修を実施した。

かつて日本では、炭鉱廃止に伴い20万人が職を失う危機があった。しかし国・自治体・企業が連携し、石炭トラック運転手は運輸業へ、炭鉱電機エンジニアは製造業へなど、20万人のリスキリングに成功した。最近ではLPガス事業者のグリーン水素配送、都市ガス事業者のEV事業参入や火力発電跡地での風力発電研修の動きが出てきた。

グリーンタレントハブは、日本初の脱炭素に特化した人材紹介とグリーン・リスキリング研修のスタートアップとして昨年創業した。国や業界と連携し、「誰ひとり取り残さない」グリーン・リスキリングを支援し、アジアナンバーワンを目指す。

いずま・ひろあき 京都大学工学部卒。1983年大阪ガス入社。2016年シリコンバレーで脱炭素事業開発に従事。18年東京ガス入社、コーポレートベンチャーキャピタル立上げに参画。21年帰国、東北電力アドバイザー就任。23年から現職兼任。

欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か


【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】関口博之 /経済ジャーナリスト

パリ五輪の聖火リレーがフランス国内で繰り広げられている。7月26日には開会式で聖火台に点灯される。この聖火トーチに使われている燃料は「バイオプロパン」だ。環境重視の大会運営を掲げる組織委員会からの注文だという。日本では馴染みのないこの「バイオプロパン」とは?

これは石油など化石燃料によらないプロパンガスのことで、欧米では商業生産されている。植物油や食用油、食物の残りかす、動物性脂肪など再生可能な資源から作られる。組成や性質は従来のLPガスと変わらないため、同様に使えるという。

パリ五輪の聖火リレー

なぜ日本では目にしないのか。LPガスの輸入生産を行う元売事業者で作る日本LPガス協会によれば、特に欧州ではバイオディーゼル燃料が広く利用されていて、これは主に植物油から作られるが、その際の副産物としてプロパンが生成され、それが「バイオプロパン」として流通しているという。本来の目的物ではないが、副次的に活用されているわけだ。フィンランドのネステ、オランダのSHVエナジー、米国のUGIなどエネルギー大手も手掛けていることで生産・流通も増えている。

残念ながら日本国内ではほとんど製造されていない。植物油を取る大豆などを栽培する広大な土地がない日本には不向きだ。

LPガスの脱炭素化を目指す「日本グリーンLPガス推進協議会」によれば、バイオ原料を元に同様なガスを作る試みとしては、牛のふんを原料にする古河電工や稲わらを発酵させるクボタなどの研究があるがまだ実験段階だ。一方では北九州市立大学や、産業技術総合研究所を中心としたグループでは、CO2と水素を合成し中間体のDME(ジメチルエーテル)を作り、そこから化学的にプロパンなどを生成する研究も始まっている。ただ北九州市立大でもようやく大型実験装置が立ち上がるところだという。

日本LPガス協会では2030年ごろまでに1日当たり100㎏生産の実証プラントを建設し、40年代に同10~100tの商用プラント稼働というロードマップを描くが、まだ現実味は乏しい。都市ガスの原料であるLNGの代替として開発が行われているe―メタンと比べても「まだ周回遅れの状態」(業界関係者)だという。

バイオプロパンが海外ですでに商用化されているのだとすれば、それを輸入するという選択肢もある。再生可能な資源を元に製造されたものであれば、中間体のDMEの形での輸入も手段だという。

現在のLPガスは、都市ガス導管のないエリアをほぼカバーしている。災害時には家庭のガスボンベが軒下備蓄にもなり、いわば最後のとりでともされる。こうした役割を考えてもLPガス(プロパンガス)の脱炭素化は避けて通れない課題だ。国も責任を持って道筋を描くべきだ。

ちなみに冒頭で触れたパリ五輪の聖火トーチ、この燃焼部を製造したのは新富士バーナーという愛知県豊川市のメーカーだ。この取材を縁にバイオプロパンなるものを知った。日本のものづくりと欧州の脱炭素燃料が五輪の祭典に彩りを添えると考えると、何とも心躍る気がする。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。