A 短期的な注目点は、やはりイスラエルのガザ侵攻が終結に向かうのか、それともイランが支援するヒズボラとの大規模紛争に飛び火するのか。いずれにせよパレスチナとイスラエルの間の憎悪は消えない。お互いに共存は不可能と信じれば、結局のところ、イスラエルがパレスチナを事実上隷属させる道しか残らない。他方、米国はイスラエル側に立ち、イラン陣営との敵対が続く。米国の安全保障の傘でイランに備える、というサウジアラビアのアプローチは、中東各国で反イスラエル世論が沸騰する中で難しくなった。中東はますます不安定になる。
B 気になるのはイラン情勢だ。ライシ大統領のヘリ墜落事故自体が現体制に大きな影響を与えることは考えにくいが、潜在的なリスクが高まる可能性はある。最高指導者ハメネイ師は85才と高齢だ。イランの専門家に聞くと、後継体制ははっきりしておらず、今回の事故で世代交代をめぐる混乱や不安定化が生じる可能性がある。米国による経済制裁で、イラン政府への国民の不満も渦巻く中、潜在的リスクが今後どの程度高まるのか。
C 私はサウジ国王の健康問題に注目している。というのも、日本ではムハンマド皇太子が国王になるのは既定路線のように言われる。しかし現国王までは年功序列を堅持しており、サルマン国王が生前譲渡するくらいでなければ、30代のムハンマド皇太子に一気に代替わりするのは難しいのではないか。実際、サウジは日本を冷遇していないのに、皇太子は今年5月の訪日を、2022年の際と2回続けてドタキャンした。それだけ国王の健康問題はセンシティブなのかと受け止めた。
各地での紛争を契機に石油供給網が変化し始めている
―米国や中国のポジションについては?
C 米国のイスラエルへの軍事支援は今後10年で弱まっていくと考えており、懸念している。理由は、米国がシェール革命により世界一の原油産出国となったからだ。米国は重油の輸入を続けているが、アメリカ大陸で自給できており、中東のプレゼンスが下がっている。実際、イラクの新油田に入札したのはすべて中国勢で、米国は興味を示さなかった。さらに米国のZ世代ではアンチイスラエルの機運が高まっている。
A イエメン武装組織・フーシ派が紅海で商船を攻撃したが、石油タンカーがロシアから南下するルートにはほぼ影響せず、中東やアジアから欧州向けに北上するルートには影響した。そうした中、ロシア・ウクライナ戦争以降、欧州・北米・中南米・西アフリカと環大西洋の新たな供給網が確立しつつあるが、米国が中東への関与を弱めて取り残されるのは極東だ。石油供給網をどう維持するか、日本が積極的に問題提起すべきだ。
B 昨年3月、中国の仲介でサウジとイランが国交回復に合意したことが象徴的だが、中国の影響力は大きく、今後さらに強まる。中国はイラン産石油の多くを輸入し、サウジやUAE(アラブ首長国連邦)の経済にとって中国の投資の存在感は大きい。中国のエネルギー事情からすれば、石炭や天然ガスに比べ、石油は7割を輸入に依存し、半分が中東からだ。中国としては石油がネックで、中東を抑えなければという意識が強い。一方、日本は中国に太刀打ちできておらず、少しでも存在感を高める方策が必要だ。
C 中東情勢が原油価格の判断材料ではなくなってきている。中東情勢が泥沼化しても供給支障は起きておらず、端的に言えばマーケットが飽きてきた。4月、イランとイスラエルの大衝突かという局面から比べ、6月上旬の価格は2割ほど下がっている。市場がまったく想定していない深刻なリスクが顕在化したら、とてつもない状況に陥るかもしれない。
A 西側諸国が経済制裁を行ってもロシアの石油輸出に大きな変化はないし、中東のガザ情勢なども供給に直接影響を及ぼさず、思いのほか油価が上がらない展開になっている。ただ、6月2日、(石油輸出国機構・OPEC加盟国と非加盟主要産油国からなる)OPECプラスが今年第3四半期まで協調減産の生産目標を据え置いた。目標を各国が順守すれば、年末にかけて日量50万~100万バレル程度の需要超過となり、次第に価格が強含む方向にいくのではないか。
C マーケットが年内減産を続けると見る中、10月以降緩やかに増産するスケジュールをつくったのに、油価が下がってしまったのはOPECにとってサプライズだったと思う。唯一の勝者はUAEで、来年から生産枠を日量30万バレル引き上げる。UAEは最近OPEC脱退をほのめかしており、サウジはUAEとの確執を回避するために今回譲歩した結果、価格が軟調に。UAEは今GDPの7割が非石油経済で、財政均衡の油価価格が50ドル台後半。一方、サウジは90ドル台半ばであり、やはり減産で価格を上げたい考えだ。こうした両国の出方は今後も気になる。
B OPECとしては価格を下げるシグナルは出したくなく、減産の緩和にフォーカスしてほしいわけではない。OPECは今年第4