A バイデン氏は6月27日の第1回候補討論会で言葉に詰まるなどの失態を演じ、民主党陣営は大混乱に陥った。「認知症疑惑」はかねて一部で取り沙汰されていたが、いよいよ全世界に知れわたった格好だ。その後、猛烈な勢いで「バイデン降ろし」が始まり、81歳と高齢の大統領に対して、再選を断念するよう求める声が党の内外から上がった。
B 米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が行った世論調査結果には驚愕した。8月5~9日に激戦州であるミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州で実施した世論調査で、ハリス氏の支持率が50%と、46%のトランプ氏を上回ったのだ。現在、勢力は拮抗している。
A だがトランプ氏がその3州でリードを許したとしても、最終的に結果がどう転ぶかはわからない。というのも、前回の2020年の大統領選で両候補が獲得した票数は1億5500万票。そのうちバイデン氏の当選を決定づけたのは、接戦だったジョージア、アリゾナ、ウィスコンシンの4州で、バイデン氏がトランプ氏を上回ったのはわずか4万票だ。16年のヒラリー・クリントンVSトランプではクリントン氏の勝利を多くの人が予想していたし、選挙結果は予測できない。どちらかの勝利を決めつけるのは危険だ。
突然の「ハリス旋風」に唐突感 厳しい排ガス規制に国民の受容度は
C 次回9月10日の討論会でハリス氏がどう攻めるのか注目だ。ハリス氏は元検察官でカリフォルニア州の司法長官を務めた経歴を持つ。機密文書持ち出しや20年大統領選の手続きの妨害など、トランプ氏が抱える四つの刑事裁判を材料に責め立てるだろう。一方のトランプ氏は「魔女狩りだ」と猛反発するとみられ、実りある政策論争が行われるか不安は残る。
A ハリス氏の追い上げはすさまじいが、彼女に強力な実績があるわけではない。現政権発足当初にバイデン氏から与えられた南部国境の移民対策では、なかなか現地に足を向けず、具体的な対策も講じることなくこの問題を放置した。むしろ「不法移民はアメリカに来ないで」と発言したことで、支持基盤である左派からも不興を買った。インフレに適切に対応できなかったことや、バイデン氏の健康不安を隠してきた点もマイナスに働くはず。トランプ陣営はこうした姿勢を、有権者に印象付ける戦略だろう。
C Aさんが言うように、ハリス氏は最近までバイデン氏に負けず劣らず不人気で、指導者としての力量が問題視されていた。手のひらを返すようにハリス氏を持ち上げる民主党の姿勢には首をかしげたくなる。それに日本に住んでいると現地の生の声を聞けない分、メディアの報道や論調に影響を受けやすい。ニューヨーク・タイムズやCNNなどの大手メディアは民主党寄りで、特にトランプ氏に対しては手厳しい。彼らが世論調査で「ハリス氏優勢」と報じるのも、いくらかバイアスがかかっているはず。朝日や毎日の世論調査で自民党政権の支持率が低く出やすいのと同じだ。
A 米国ではグローバル化で栄える人々と取り残された人々の間に厳しい分断がある。インフレ、不法移民の流入が長引く中で、白人中間層のみならずラテン系などにも不満が高まっている。この「反グローバル化」層がトランプ氏の支持基盤だ。果たして民主党はこの不満の広がりに対し、有効な一手を打てるだろうか。ハリス氏が副大統領候補に指名したミネソタ州知事のティム・ウォルツ氏は長く高校教師も勤めた庶民的な人柄だが、ハリス陣営の政策は全体的に左派色が強く、刷新感を欠く。