欧州PVメーカーに暗雲 問われる政府とEUの対応


【ワールドワイド/経営】

ドイツ政府は太陽光発電(PV)を主要な再エネ電源に位置付け、設備の累積導入量を2030年までに、現在値の約2・5倍にあたる115GWまで増加させるとした。従来の導入ペースより大幅に加速させなければ達成は難しい。23年5月に連邦経済・気候保護省は「PV戦略」に今後の施策方針をとりまとめ、ソーラーパッケージ(Ⅰ・Ⅱ)と呼ばれる法案パッケージにて立法化するとした。

農業PVなどの多様なPVの導入促進や設置に関する規制緩和を中核とするソーラーパッケージⅠは今年4月下旬に上下両院で可決された。23年夏に採択予定であったが、一連の施策の一つ「レジリエンスボーナス」の採用可否について資金問題を抱える連立与党内で意見が割れ、採択が遅れた。同制度はドイツや欧州におけるPV製造能力を強化するため、欧州で製造されたPVを補助対象とするもの。自由民主党のリントナー財務大臣は「再エネ分野には既に多額の税金が投入されており、高度な技術ではないとされるモジュール製造に支援を行うのは妥当ではない」と主張。社会民主党のショルツ首相も、同制度の導入は経済的に持続不可能であると判断し、ソーラーパッケージⅠでは不採用となった。

中国のPVメーカーは低賃金労働と多額の政府補助により、安価な製品を大量生産して売上を伸ばし、独占的な地位を築いた。一方で欧州メーカーは不当な価格競争にさらされ、経営が悪化している。欧州メーカーの低迷が問題視される中、現時点でEUは、輸入制限などは実施していない。大量生産される中国製品がなければ気候変動目標を達成できないというジレンマが事態を複雑にしている。

こうした中で、ドイツに工場を有する欧州メーカーはレジリエンスボーナスによる救済を求めていたが期待外れの結果となった。スイスの大手メーカー、マイヤー・バーガーは、フライベルクの工場を閉鎖し、税額控除や中国製品の輸入制限が行われている米国への製造拠点の移転を計画している。ドイツのソーラーワットもドレスデンの工場を停止すると発表している。

EUでは間もなく「ネットゼロ産業法」が公式な成立に至る(原稿執筆時点)。これは欧州の製造能力強化に関する措置が盛り込まれる予定であるが、内容次第で状況は大きく左右されよう。また、ソーラーパッケージⅡではどんな施策が実行されるか、今後の動向が注目される。

(藤原 茉里加/海外電力調査会調査第一部)

水素生産支援策に懐疑的 オークションで見えた特性


【ワールドワイド/資源】

 4月30日、欧州委員会は、欧州水素銀行の下で実施したトライアルオークションで、158万tの再生可能水素を生産する計七つのプロジェクトに合計7・2億ユーロを提供すると発表した。プロジェクト開始後10年間、再生可能水素1kgあたり0・37~0・48ユーロを支援する。入札上限とした4・5ユーロの約10分の1の価格での落札であった。

支援額の多少を既存のグレー水素価格との比較で考えてみる。

メタンの水蒸気改質でグレー水素1㎥を作るには3分の1㎥のメタンが必要で、天然ガス価格から原料費は約20円。もし再エネ電力で水電解を行い、同じ価格で水素を作るなら、水素1 ㎥あたり約5kW時の電気が必要で、1kW時あたり4円程度の再エネ電力が必要。設備コストや託送コストなども考えると、1kW時あたり2円程度での調達が必要であろう。オークションの水素1㎥あたり5・5~7円の支援額は、電力価格換算だと1kW時あたり1円強ほどで、経済性はかなり厳しい。では、なぜこのような低価格の落札結果となったのか。

一つ目は地域性。今回の落札者はスペイン、ポルトガル、ノルウェー、フィンランドの南欧北欧4カ国に絞られている。これらの国は再エネ比率が70%以上と高く、欧州における再エネ電源(RFNBO)基準である

水素製造と再エネ電力供給の「同時性」を気にせず安価な再エネを入手できる環境にある。逆に言えば、今後EU内でも、実施できる地域が偏る可能性が高いとも言える。

二つ目は、欧州の厳しい規制を上手く利用した巧みな制度設計の結果であろう。他の地域、例えば米国ではインフレ抑制法(IRA)でグリーン水素に最大1Kgあたり3ドル、豪州では水素生産補助金政策(HTPI)で1Kgあたり1・3ドルと、欧州のオークション支援額と比べてはるかに手厚い。一方、欧州は脱炭素に向けた目標(基準)を達成できなければ巨額の罰金が待ち受けるムチの政策が前提にある。ムチを見せて、アメの支援額を大きく抑え込んだ。実際、支援で埋まらない価格差は、ムチを見て積極的に脱炭素化を進める需要家が支払う。アメもムチも最後は国民負担となるが、EUはそのバランスを巧みにとり脱炭素化の推進力を生み出したと言える。

24年末に第2回のオークションとなるが、この流れが継続していくのか注目したい。

(篠澤康彦/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年7月号)


【Jパワー/DXで水力発電所の保守業務を高度化】

Jパワーは、最新のデジタル技術を駆使した水力発電所の保守業務の高度化を図るため、2019年度から下郷水力発電所(福島県)で取り組んできた実証試験の成果を全国の水力発電所へ展開する。具体的には、①独自開発の設備異常兆候を検知するAIの活用による設備トラブルの未然防止、②衛星通信ブロードバンドを利用した自社ネットワークの適用拡大による、通信状況が良好でない遠方からでも保守業務が可能な利用環境の整備、③災害時でも行動可能な4足歩行ロボットなど2種類の巡視ロボットを導入―。発電所の安定稼働、保守業務の省力化を推進し、電力の安定供給に貢献していく。


【三井住友建設/自社工場のCN実現へ水素製造・貯蔵設備を導入】

三井住友建設は、PCa(プリキャストコンクリート)部材を製造する能登川工場(滋賀県)に水素製造装置と貯蔵設備を新たに導入した。購入する全電力を実質再エネ100%電力に切り替えることにより、グリーン水素を製造し、これを燃料に蒸気ボイラーを稼働させる。同工場では、工場全体のCO2排出量の6割をPCa部材製造時に使用する蒸気ボイラーが占め、2割をコンクリート製造プラントやクレーンなどの稼働時電力が占める。全使用電力を実質再エネ100%にすることで、こうした各種設備の稼働に伴うCO2排出量をゼロにすることが可能になる。


【TGES、JFEスチール、ガスター/世界初のレーザー式一酸化炭素検知器を開発】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、JFEスチール、ガスターの3社は、一酸化炭素(CO)の遠隔検知を可能とする携帯型検知器を世界で初めて開発した。TGESが既に実用化している赤外吸収現象を利用した反射式レーザー式メタン検知器の技術を応用。COの検知に最も適した2.3μm帯の波長を使用し、高感度な遠隔検知を実現した。人が簡単に立ち入れない場所や高所における点検などでの検知作業の効率化を図ることができ、保安の向上やコスト・時間削減が見込める。今後、量産化に向けた開発の検討を進め、2025年の販売開始を目指す。


【東邦ガスNW、アンドパッド/ガス管の3D竣工図自動作成のデジタル技術を開発】

東邦ガスネットワーク(NW)とアンドパッドは5月、ガス管の3D竣工図面を自動作成するデジタル技術「ANDPAD3Dスキャン」を開発したと発表した。従来の竣工図作成の作業工数を削減できるほか、導管の精緻な埋設情報を残せることで、他の工事によるガス管損傷の防止など、保安向上にも寄与する。東邦ガスNWは今夏からの工事で利用する方針だ。


【伊藤忠商事、日本エア・リキードなど/福島に大型FC車両対応の水素ステーションを開業】

伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、日本エア・リキードの3社協業で建設した「本宮インターチェンジ水素ステーション(福島県本宮市)」が開業した。ステーションは大型FC(燃料電池)トラックに向けた水素供給が可能だ。充填設備は2レーン備えており、交互にメンテナンスすることで、継続的に営業することができる。今秋には24時間営業にする予定だ。


【関電工、YKK AP/建材一体型の太陽光発電装置開発に向け業務提携】

関電工とYKK APは建材一体型太陽光発電装置の開発に向けて業務提携した。ペロブスカイト太陽電池などを用いて、既存ビル向けには施工や保守が容易な「内窓式」、新築向けには「壁内蔵式」を開発する。YKKが商品開発を担い、関電工が施工技術と電設部材を含めたシステム設計を担当する。内窓式では透過性による発電量などを確認する。

BEVの利点を生かした 新たなコンセプトに期待


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

前号まで、「将来はゼロカーボン社会を目指して、全ての自動車がBEV(バッテリーだけがエネルギー源のクルマ)に置き換わる」という主張が怪しいものであることを紹介してきた。しかし、私はBEVそのものに否定的な立場にあるわけではない。BEVも色々な利点・欠点があり、各種の利用方法に応じて、他の内燃機関も動力源とする自動車とすみ分ける存在になると予想している。

EVの利点、欠点

BEVの現在の欠点となっている、航続距離が短く充電時間が長いという技術課題は、なかなか解決される見通しが見えない。固体電池の開発で一気に解決するという主張が見られるが、電解質を固体とすると、正極や負極との間に隙間が発生して電池としての機能を喪失する課題が生じ、それを解決するのはかなり難しい。

現在、電気自動車の航続距離を長くするためには、搭載する電池の量を多くすることで対処されている。すると車両重量が増加して、駆動により多くのエネルギーが消費されるという不条理なことになり、さらにタイヤにかかる負荷が多くなって、タイヤの摩耗を促進する。最近ではタイヤの摩耗による粉塵発生も問題にされている。

このような観点からは、BEVは短距離の移動や輸送に特化して、内燃機関を動力とする車両とのすみ分けをすることになるのではと予想される。それではBEVの利点を生かす使い方について考えてみよう。主要な利点は以下である。

①低速時の駆動トルクが大きく、加速性能が優れている

②内燃機関エンジンが不要なので、クルマの全体 レイアウト・デザインの自由度が高い

③各車輪の駆制動トルクを独立に制御することに よって、トルクベクタリングと称する車両運動制御や乗り心地制御が可能となる

テスラは最初に商用化したロードスターに、利点1を活用して、0-96km/hが3.9秒というスーパーカー並みの加速性能をもたせ、1千万円強の価格帯で富裕層向けビジネスを成功裏に収めた。そして、他のメーカーもそれを追随した。しかし、2と3を生かしたBEVは出現していない。

これらを特に生かすためのデザインが、インホイールモーター(駆動システムを一体として車輪内に配置)やeアクスル(駆動システムを一体として車体側に配置)である。現在のBEVは内燃機関から駆動している車両デザインをそのまま踏襲していて、駆動輪の位置を自由に設定できる利点を生かしていない。駆動輪の位置の制約が少なくなれば、現在とは全く違った車体デザインにより居住空間や積み荷空間を広くとるなど、新しい車室内パッケージングデザインが可能となる。

さらに利点3では、左右輪の駆制動力差によって、車両の操舵応答特性を自由に制御したり、サスペンション特性を利用して車体の上下動を制御したりすることが可能となる。この制御によって、スポーツカーのような俊敏な操舵応答や高級車のような滑らかな乗り心地を得ることが可能となる。このようにBEVの利点を生かした新たなコンセプトの自動車の出現を期待したい。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

グリーン・リスキリング 個人でなく国や企業の責任で


【オピニオン】出馬弘昭/グリーンタレントハブシニアアドバイザー

シリコンバレー駐在員時代(2016~20年)、カリフォルニア州では化石燃料業界人の筆者にとって不都合な未来が始まった。バークレー市は新築住宅でのガス利用を禁止した。ガス燃焼はCO2だけでなく健康を害するNOX(窒素酸化物)も排出する。その昔、バークレー市は世界で初めて公共の場を禁煙に。ガスはタバコと同じ扱いだ。ガス会社は猛反対するも、規制は全米数十都市に広がり、サンフランシスコ市は新築ビルでも禁止した。ガスコンロをIHコンロへ、ガスボイラーをヒートポンプ(HP)へと代替も進む。古い化石燃料火力は解体され、ソーラーや蓄電池に置き換わった。

米ガス会社は天然ガスパイプラインに水素やRNG(再生可能天然ガス)を混入しCO2排出を減らそうとする。しかし、水素混入の上限は10数%で、RNGは生産量に限界があり、ガスを燃やさない時代への橋渡しでしかない。水素やRNG混入に反対する地域では、ガスパイプラインを遮断して地域オール電化を試行する。欧州でもガス禁止が広がり、英国はガスボイラー設置を段階的に廃止し、オランダは全住宅・建物で段階的にガス利用を禁止する。

そして、ネットゼロへのエナジートランジションの実現には圧倒的に人材が不足している。一番期待されるのが化石燃料人材のグリーン人材へのシフト、いわゆる「グリーン・リスキリング」だ。欧米ではガスボイラーエンジニアがEV充電器やHPエンジニアへ。ガスパイプエンジニアが再利用水パイプエンジニアへ。石油ガス掘削エンジニアが地熱エンジニアに。火力発電人材が再エネ人材へ―などとシフトが進む。

国際労働機関(ILO)はトランジションにおいて「誰ひとり取り残さない」公正な移行を強調する。グリーン・リスキリングは個人の努力や問題でなく、国・自治体・企業の責任だ。ニューヨークでは州政府と企業がHPエンジニアを育成し、ガスボイラーを代替する。ドイツでは火力発電所廃止に伴い、自治体と企業が発電所員だけでなく近隣業者も含めて再エネ研修を実施した。

かつて日本では、炭鉱廃止に伴い20万人が職を失う危機があった。しかし国・自治体・企業が連携し、石炭トラック運転手は運輸業へ、炭鉱電機エンジニアは製造業へなど、20万人のリスキリングに成功した。最近ではLPガス事業者のグリーン水素配送、都市ガス事業者のEV事業参入や火力発電跡地での風力発電研修の動きが出てきた。

グリーンタレントハブは、日本初の脱炭素に特化した人材紹介とグリーン・リスキリング研修のスタートアップとして昨年創業した。国や業界と連携し、「誰ひとり取り残さない」グリーン・リスキリングを支援し、アジアナンバーワンを目指す。

いずま・ひろあき 京都大学工学部卒。1983年大阪ガス入社。2016年シリコンバレーで脱炭素事業開発に従事。18年東京ガス入社、コーポレートベンチャーキャピタル立上げに参画。21年帰国、東北電力アドバイザー就任。23年から現職兼任。

欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か


【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】関口博之 /経済ジャーナリスト

パリ五輪の聖火リレーがフランス国内で繰り広げられている。7月26日には開会式で聖火台に点灯される。この聖火トーチに使われている燃料は「バイオプロパン」だ。環境重視の大会運営を掲げる組織委員会からの注文だという。日本では馴染みのないこの「バイオプロパン」とは?

これは石油など化石燃料によらないプロパンガスのことで、欧米では商業生産されている。植物油や食用油、食物の残りかす、動物性脂肪など再生可能な資源から作られる。組成や性質は従来のLPガスと変わらないため、同様に使えるという。

パリ五輪の聖火リレー

なぜ日本では目にしないのか。LPガスの輸入生産を行う元売事業者で作る日本LPガス協会によれば、特に欧州ではバイオディーゼル燃料が広く利用されていて、これは主に植物油から作られるが、その際の副産物としてプロパンが生成され、それが「バイオプロパン」として流通しているという。本来の目的物ではないが、副次的に活用されているわけだ。フィンランドのネステ、オランダのSHVエナジー、米国のUGIなどエネルギー大手も手掛けていることで生産・流通も増えている。

残念ながら日本国内ではほとんど製造されていない。植物油を取る大豆などを栽培する広大な土地がない日本には不向きだ。

LPガスの脱炭素化を目指す「日本グリーンLPガス推進協議会」によれば、バイオ原料を元に同様なガスを作る試みとしては、牛のふんを原料にする古河電工や稲わらを発酵させるクボタなどの研究があるがまだ実験段階だ。一方では北九州市立大学や、産業技術総合研究所を中心としたグループでは、CO2と水素を合成し中間体のDME(ジメチルエーテル)を作り、そこから化学的にプロパンなどを生成する研究も始まっている。ただ北九州市立大でもようやく大型実験装置が立ち上がるところだという。

日本LPガス協会では2030年ごろまでに1日当たり100㎏生産の実証プラントを建設し、40年代に同10~100tの商用プラント稼働というロードマップを描くが、まだ現実味は乏しい。都市ガスの原料であるLNGの代替として開発が行われているe―メタンと比べても「まだ周回遅れの状態」(業界関係者)だという。

バイオプロパンが海外ですでに商用化されているのだとすれば、それを輸入するという選択肢もある。再生可能な資源を元に製造されたものであれば、中間体のDMEの形での輸入も手段だという。

現在のLPガスは、都市ガス導管のないエリアをほぼカバーしている。災害時には家庭のガスボンベが軒下備蓄にもなり、いわば最後のとりでともされる。こうした役割を考えてもLPガス(プロパンガス)の脱炭素化は避けて通れない課題だ。国も責任を持って道筋を描くべきだ。

ちなみに冒頭で触れたパリ五輪の聖火トーチ、この燃焼部を製造したのは新富士バーナーという愛知県豊川市のメーカーだ。この取材を縁にバイオプロパンなるものを知った。日本のものづくりと欧州の脱炭素燃料が五輪の祭典に彩りを添えると考えると、何とも心躍る気がする。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

落ち着き見せる卸電力市場 小売りは料金多様化で動向変化


【マーケットの潮流】曽我野 達也/ENECHANGE上級執行役員

テーマ:卸電力市場

JEPXスポット市場価格は23年度以降、すっかり落ち着きを取り戻している。

小売事業者の戦略はどう変わったのか。ENECHANGEの曽我野達也氏が現状を分析する。

2024年度の日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場は、落ち着きを取り戻した23年度の同市場の売買バランスとほぼ近似となっている。1日の各入札合算量が、「買い」よりも「売り」が上回る日が5月28日渡し時点で98%以上を占め、安定的なスタートとなった。

また、スポット市場価格とも高い相関を示すLNGの価格指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)は、地政学的リスクはあるものの、暖冬の影響もあり高在庫であり、安定的な価格推移を見せている。やはり23年度と近い状況だ。さらに、JKMと高い相関を示す欧州ガス価格指標のTTFにおいても、EU全体の地下ガス在庫が5月24日時点で68%以上。毎週増加傾向にあり、こちらも23年度と近い状況となっている。

これらのことから、大きな事件が起こらない限り24年度のスポット市場は、23年度とほぼ変わらない水準感が想定される。一方小売電気事業者は、21年11月から22年2月のスポット市場の高騰と、落ち着きを取り戻した23年度以降の電力業界を取り巻く状況変化を経験し、それに対応すべく新しいサービス、メニューを開発している。

電気料金見直しのポイント


活気取り戻した高圧市場 需要家はリスク避ける傾向

高圧電力の販売市場は、選択肢が極端に少なくなったロシア・ウクライナ戦争直後のような状況からは脱却し、再び複数の電力会社が積極的に参入し活気を取り戻している。この市場の活況の背景には、需要家が直接選択できる多様な電力販売プランの提供が大きく関係している。現在提供されているプランは主に次の三つのパターンに分類される。一つ目は、市場価格に連動するメニューである。このメニューは料金プランが多岐に渡り、30分ごとの価格に連動するプランや、月の平均価格に基づいて変動するプラン、各小売会社が独自に基準価格を設定する独自燃調型プランなどがある。日中の使用量が多い需要家は市場価格に連動するプランを選ぶ傾向があり、負荷率の高い需要家は月の平均価格に基づいて変動するプランを選ぶ傾向にある。

二つ目は、燃料費等調整額を含む燃調メニューで、大手電力によって提供される標準料金プランに沿った料金設定となる。ただし、どの時期の燃料費等調整料金の計算式を用いるかは各社異なるため、需要家は注意が必要だ。一見、基本料金、従量料金単価が安くても、燃料費等調整額が23年3月以前の計算式になっており、割高になる場合もある。電気料金としては緩やかに上がり、緩やかに下がるといった特徴があるため、市場連動メニューに比べ割高になるものの、安定性を求めて選択する需要家が多い。

三つ目は、基本料金、従量料金、再エネ賦課金のみで構成される完全固定メニューである。このメニューは、料金の変動リスクを回避し、一定期間安定した料金で電力を確保したい場合に最適だ。特に長期的な事業計画をもつ法人にとって有用で、今年1月から3月にかけて先物市場価格が下落したことで、価格が安価になり、選択する需要家が増加している。法人向け電力比較サービス「エネチェンジBiz」では、これらの多岐にわたる料金プランについて需要家が最適な電力会社を選択できる支援を行っており、全てのプランで市場価格や燃料費等調整額を詳細に計算し、需要家が公平に各プランを比較できる。

【コラム/7月12日】欧州水素銀行とH2Global


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

GX実現に向けて、水素に対する国際的な注目は近年急激に高まっている。このような中で、わが国では、2023年6月に、「水素基本戦略」が改定された。改定のポイントは、①2030年の水素等導入目標300万トンに加え、2040年目標を1200万トン、2050年目標は2000万トン程度と設定、②2030年までに国内外における日本関連企業の水電解装置の導入目標を15GW程度と設定、 ③サプライチェーン構築・供給インフラ整備に向けた支援制度を整備することなどである。わが国は、2017年12月に世界で初めてとなる水素の国家戦略である「水素基本戦略」を策定しているが、水素調達の具体的な取り組みはEUとりわけドイツが先行している。そこで、本稿では、EUおよびドイツの水素調達戦略を紹介したい。

EUは、2020年7月 に「欧州の気候中立に向けた水素戦略」を発表し、グリーン水素の推進を明確にしたが、2022年5月のEUの共同アクションREPowerEUで、2030年までにグリーン水素の域内製造目標を1,000万トン、輸入目標を1,000万トンと設定した。そして域内製造目標の達成のために、2030年までに100GWの水電解槽を域内に設置することを目標とした。さらに2023年10月の「再生可能エネルギー改正指令」で、産業部門の水素利用に占めるグリーン水素を主体とする再生可能燃料(Renewable Fuels of Non-Biological Origin :RFNBO)の割合を、 原則として、2030年までに42%に、2035年までに60%にすることを目標とした。また、運輸部門では、2030年までにRFNBOを先進バイオ燃料との合計で5.5%とする目標を設定している。

水素の調達戦略としては、2023年3月に、欧州委員会は水素生産の拡大のために、EU域内外の水素製造への民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」の構想を発表している。「欧州水素銀行」は、グリーン水素市場の本格的な形成に向けて、現状では割高なグリーン水素と天然ガスなどの化石燃料由来の水素との生産コストの差額を補填することにより、初期段階にとどまっているグリーン水素の生産への投資を後押しすることで、その普及を目指すものである。

2023年11月、欧州委員会はEU域内の製造事業者に対して、第1回の競争入札(パイロットオークション)の募集を行った。競争入札は、応札した生産者のうち、入札価格(グリーン水素1キログラム当たりの支援額)が低い生産者から順に落札する方式が採用された。入札結果は、2024年4月に発表された。選定されたのは、スペイン3事業、ポルトガル2事業、ノルウェー、フィンランド各1事業の合計7事業である。7事業の入札価格は、1キログラム当たり0.37~0.48ユーロであった。各事業に対し、10年間の生産予定量(1万7,000~51万1,000トン)に応じて、800万~2億4,500万ユーロのプレミアムの支払いが見込まれる。7事業者は、11月までに補助金に関する合意書に署名、5年以内に、グリーン水素の生産を開始する。グリーン水素は、鉄鋼、化学などの分野で利用される。また、第2回入札を2024年末までに実施する予定である。

ドイツでは、EUに先んじて2020年6月に「国家水素戦略」(2023年7月改定)が発表されたが、2021年6月にはグリーン水素およびその派生物の国外からの調達のために「H2Global」が設立され、2022年の12月からグリーンアンモニアなどの水素デリバティブの調達に関して具体的な活動が始まっている。「H2Global」では、ダブルオークションと呼ばれる入札方式が採用される。まず、供給側で、入札に基づき最も低い価格を提示した水素製造業者と10年間の購入契約を結ぶ。その後、需要側でも、入札を開催して最高額の入札者と1年程度の短期の販売契約を締結する(pay-as-bid方式)。需要家への最初の引き渡しは、2024年か2025年に始まる予定である。供給価格と需要価格の差は、入札実施主体である「Hintco」(H2Global財団の100%子会社)が政府からの補助金で補填する。

欧州委員会は、EU域外の水素製造事業者に対して、第2回の競争入札の募集を2024年末までに行う予定である。第2回の競争入札では、「H2Global」のダブルオークションが採用される。2023年5月には、「H2Global」が「欧州水素銀行」のEU域外からの水素輸入に対する支援を担うことが欧州委員会のエネルギー担当委員から発表されており、EUは域外からの水素の調達に関して一体的に取り組むようになってきている。わが国でも、水素とその派生物の多くは海外から調達することを検討しているが、水素資源の権益競争が顕在化する中、早期の水素サプライチェーンの構築と調達メカニズムの具体化が求められている。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

順調に進むガスパビリオンの建設 放射冷却素材の建築物採用は世界初


【大阪ガス】

来年4月の開幕まで1年を切った大阪・関西万博。建設工事の遅れや費用膨張などがメディアを騒がせているが、日本ガス協会が出展するガスパビリオンの工事は順調だ。6月11日時点の工事進捗率は、計画通りの約58%だという。

ガスパビリオンのコンセプトは「化けろ、未来!」。日本にガスの明かりが灯ってから150年余り。ガス業界は原料の天然ガスへの転換や省エネ技術の開発などで低炭素化に貢献してきた。今後はe―メタンの実用化など脱炭素化の実現に向けてさらなる進化、つまり「化ける」ことが必要との意味が込められている。そんなガスパビリオンの名称は「おばけワンダーランド」。未来に化けるドキドキ・ワクワクな体験を提供するというが、一体どんなおばけが私たちを待っているのだろうか。

ガスパビリオンの外観(6月7日撮影)


放射冷却原理を活用 ゼロエネルギーで低温に

パビリオンは特徴的なデザインを持つ。最大高さは約18m、三角形断面の不思議な空間を持ち、鏡面の膜に覆われている。そこに風景が映り込み、天候や時間帯、見る位置によってさまざまな表情に変化。夜間はライトアップにより、カーボンニュートラルな炎をイメージさせるパビリオンと化す。

建設に当たっては、膜構造の建物にすることで、建築部材を最大限削減。膜材などは再利用し、ほかの部材も再生利用するなど3Rに取り組む。また膜の端材を利用して日よけを設けるなど、廃棄物も減少させる。

膜材に使われているのは、大阪ガスが開発し、出資先であるるスペースクールが事業展開する高性能、高耐久の放射冷却素材「SPACECOOL」だ。太陽光と大気からの熱をブロックし、熱吸収を抑制。さらに放射冷却の原理を用いて、宇宙に放射し熱を捨てる。ゼロエネルギーで室内を外気よりも低温にする新素材だ。ガスパビリオンのような膜構造建築物や医療・防災テント、トラックの荷台カバーなどでの活用が見込まれる。

スペースクールは、2020年度にカンボウプラスとSPACECOOL膜材料の共同開発をスタート。さまざまな効果検証やサンプル提供を行い、昨年1月に正式販売を開始した。放射冷却素材が建築物に採用されるのは、今回が世界初だという。

スペースクールの末光真大・代表取締役CEOは「張り終わったSPACECOOLを現場で見た時は感無量だった」と振り返る。脱炭素や暑熱環境の改善といった社会課題の解決に向け、SPACECOOLの活用は具体的な「解」となる。まずはガスパビリオンで、その冷却効果を体感してみよう。

政治資金問題で大荒れ予感の政局 エネ政策の変化を見定める時


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

通常国会の終盤、私は政治改革特別委員会の委員として政治資金規正法等改正法案の審議を連日行った。委員会では、単に再発防止策と言ってパーティー券購入の公開基準の引き下げといった小手先の議論をするのではなく、自民党中心の政治システム自体こそが戦後日本の限界と閉塞感の最大の要因であり、骨太の「令和の政治改革」を行うべきことを主張してきた。

結果は、当初の自民党案は、パーティー券購入の公開基準を10万円としていたり、政策活動費の使途の公開を制限的に行うものであったため、与党の公明党ですらこの案に乗らず、修正する始末となった。さらに、日本維新の会も取り込むべく土壇場で再修正案が作成され、ドタバタ劇の中ようやく衆議院で可決した。慌てて作られた再修正案は、提出された法案の条文に誤りがあったり、維新の会と合意して作ったはずの政策活動費の公開に穴がいくつもあったりと、法律としては前代未聞の出来の悪さの不格好なものとなった。

この間明らかとなったことは、岸田政権の下、自民党の意思決定システムが不全となっていることである。従来の自民党は、政調で政策を議論し、総務会で党としての意思決定をするなど、下から議論を積み上げる民主的なものであった。しかし、今回の政治改革では、誰が意思決定をしているのかも分からず、正当なプロセスも経ずに一夜にして法案が変えられていった。しかも、その結果はお粗末なものであった。


戦後有数の大政局に!? 権力移行期に転換点

こうした岸田政権の下で、9月に自民党総裁選を迎える。私は、自民党内はこれまでにない、想像もできないような政局の変化が起きると予想する。そして、前例のない総裁選は、自民党内だけでなく国政全体の大政局へと波及をすると考える。日本の政治は、しばらく戦後有数の大政局の時代に突入するのだ。

これまでのエネルギー政策の重要な転換点は、政局の大きな変化の時に起きてきた。例えばFIT制度の導入は、東日本大震災への対応のまずさなどで支持率が低迷する中、菅直人総理の退陣と引き換えに実現された。電力・ガスシステム改革での発送電分離などは、民主党政権末期の野田政権において検討が始まり、自民党の第2次安倍政権の発足間近に実施が決定された。いわば、権力移行期のどさくさ紛れに実現されてと見ることもできる。

さて、今回の大荒れの政局に当たって、どのようなエネルギー政策の変化が起きるのか。悪夢のようなことにならないことを祈るが、何が起きるのかは皆さんにもしっかりと見定めていただきたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年7月号)


NEWS 01:23年度版エネ白書 燃料油補助継続に待った!

燃料油価格の激変緩和措置を、巨額の予算で長期間実施し続けることは現実的ではない―。

経済産業省は、6月4日に閣議決定した2023年度版エネルギー白書の中で、激変緩和措置の終了に向けた出口戦略の必要性を提起した。「岸田政権の政治事情でだらだらと続く補助金バラマキの無駄遣い政策に、警鐘を鳴らした」(大手電力会社幹部)として、同措置の弊害を知る関係者からは評価の声が高まっている。

燃料油価格の高止まりは継続中だ

白書は、「燃料油価格激変緩和対策事業」で約6・4兆円、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」で約3・7兆円の国費が投じられたものの、世界的なエネルギー価格の高止まりに加え、歴史的な円安が進む中で、一時的な負担軽減策だけでは対応しきれないと指摘。その上でエネルギー資源の大半を海外産に頼る現行のエネルギー供給構造から脱却し、原子力や再エネといった準国産エネルギーを軸に、強靭な需給構造への転換を進める重要性を訴えている。

ただ、岸田政権には馬耳東風のようだ。一部報道などによると、政府・与党は今夏以降も燃料油補助を継続する方向で調整中。それまでに予算を使い切ってしまうことから、予備費の活用を念頭に新たな予算措置を検討している。「価格決定メカニズムを狂わせた激変緩和の罪は大きい」(石油関係者)。白書の提言は岸田政権に届くのか。

NEWS 02:東電が総特見直しに着手 柏崎刈羽・事業提携に注目

東京電力ホールディングス(HD)の経営再建を目指す「総合事業特別事業計画」の見直し作業が始まった。6月5日、大株主の原子力損害賠償・廃炉等支援機構の有識者会合が開かれ、東電HDの小早川智明社長らが出席。2021年8月に策定された現行・第4次総特の改定に向けた検討に着手した。

関係筋などによると、福島第一原発事故関連の費用が賠償や廃炉などを含め計23・4兆円と、現行計画の想定から1・9兆円も増加。これに対応するため、柏崎刈羽原発再稼働への取り組みを進めるとともに、他社とのアライアンスによる収益力の強化策などを検討する。

柏崎刈羽について、東電は13日、7号機の再稼働に向けた技術的な準備が整ったことを発表した。が、肝心の地元同意が得られる見通しは今のところ立っていない。同日、斎藤健経済産業相と面会した新潟県の花角英世知事は、「今も東電に対する県民の信頼は大きく損なわれていると思っている。信頼できる運営体制を構築いただきたい」と要請した。

関係者の間では「年内の再稼働がマスト。これが実現できない限り、第5次総特にしてもつくりようがないのでは」(元東電関係者)との声も。

一方、アライアンスを巡ってはさまざまな観測が流れている。東電パワーグリッドと大手通信会社、東電エナジーパートナーと大手エネルギー系販売会社、東電リニューアブルパワーと大手商社―。原賠機構は昨年12月にまとめた東電経営改革評価の中で、年4500億円の安定利益を確保すべく、JERAに続く包括提携の必要性を提起した。第5次総特では、この宿題にどんな答えを出すのか。再建の一環で上場廃止もささやかれる中、議論の行方に要注目だ。

NEWS 03:排出量取引義務化へ まずは法的課題を整理

政府が今夏以降、いよいよカーボンプライシングの制度設計に着手する。

特に排出量取引(ETS)を巡っては、2026年度から一定規模以上の企業に参加を義務づけ、さらに33年度以降はCO2排出量の多い発電事業者に対して有償オークションの段階的導入が決まっている。

ETSの検討に先駆け、経済産業省と環境省は、法的課題を整理する研究会を5月17日に立ち上げた。新制度導入前に平場でこうした法的な整理を行うことは珍しいが、経産省は「既存の延長ではなく、今までにない規制的な措置を導入するに当たり、実務上不都合がないよう最低限の整理を行う」(環境経済室)と狙いを説明する。

6月5日の会合では、憲法上の課題や考え方に関する骨子案と、行政法上の論点を提示。ETSは汚染防止などの目的ではなく、産業政策としてCO2を規制する措置だが、憲法が定める営業の自由、平等原則、財産権などと照らし合わせ、合理的な検討がなされれば直ちに違憲とはいえないことを確認した。

その上で委員からは、ETSは企業活動や財産に大きく関わることから、「予見可能性を高めるため、事前に基準を明確化し透明性を確保することが重要」といった指摘があった。

例えば韓国のETSでは、政府が排出枠の総量を定め、無償割り当ても実施。セクターごとに排出上限を設けるため同一セクター内でパイの奪い合いが起き、不公平性などを理由に多数の訴訟や異議申し立てが起きている。この事例が、多くの委員の関心を集めた。

ただ、日本でも政府が排出枠を割り振り、無償割り当てを導入するのか、といった方針は決まっておらず、あくまで「予断を持たず前広に検討するため」(同)の例示だとしている。

NEWS 04:エネ幹部が国際展示会で決意 脱炭素と安定供給の両立へ

エネルギー業界の今後を展望する国際展示会「ジャパン・エネルギー・サミット」が6月上旬に東京ビッグサイトで開かれ、大手企業の首脳らが脱炭素化と安定供給を両立する現実的な道筋を開拓する決意を国内外に向けて表明した。

テープカットに臨む東京ガスの笹山社長ら

東京ガスの笹山晋一社長は講演で、地政学リスクの高まりなどを背景に変化するエネルギー需給構造に触れた上で、「安定供給の確保と気候変動への対応の両立という非常にチャレンジングな事業環境にある」と説明。再エネ導入拡大に伴う出力変動問題にも触れ、「出力変動に柔軟に対応でき、CO2削減効果もある天然ガスの安定的な確保が現実的かつ重要なソリューションだ」と力説した。長期的には、水素とCO2から作る合成メタン「e―メタン」に置き換えることにも意欲を示した。

JERA常務執行役員の多和淳也氏も登壇し、安定供給や経済性に脱炭素化を加えた「トリレンマ(三重苦)」を成立させる課題に挑む必要性を説き、「再エネと低炭素火力を組み合わせ、最先端のソリューションを提供する」と力を込めた。また経済安保の観点から供給網の特定国への依存度を下げる課題が突きつけられる中、欧州委員会のカドリ・シムソン・エネルギー担当委員は日本に対し、「世界のエネルギー安全保障体制を設計する上で重要なパートナーの一つだ」と期待感を示した。

EV伸長の自動車市場に変化 各国で異なるニーズ攻略が鍵に


【論説室の窓】神子田章博/NHK 解説主幹

EV販売が減速し、ハイブリッド車が一気に巻き返している。

日本メーカーも各市場を踏まえた多元的な戦略づくりが必要だ。

脱炭素のニーズが高まる中で、環境対応車の主力と見られていた電気自動車(EV)。中国EVメーカーが世界を大きくリードする一方、市場の拡大に向けては課題も残っている。ハイブリッド車を含めた環境対応車を巡る世界の主要市場の動きを俯瞰する。

EV市場の伸長著しい中国では、同国でのEV販売台数が2019年に101万9000台となったが、昨年は668万5000台とわずか4年の間に6倍以上に急拡大した。こうした中で現地の日本車メーカーは、環境対応車で大きく後れを取る。日本が強みを持つハイブリッド車が、中国政府が補助金や税制優遇の対象とする「新エネルギー車」の扱いをされず、苦戦を強いられているのだ。

中国EVメーカーの勢いは、国内にとどまらない。日本メーカー進出の歴史が古く、東南アジア地域での日本車の牙城とも言われたタイ。政府の振興策を背景に、昨年1年間のEVの新規登録台数は7万6000台余りと、前の年に比べて8倍近くに急増したが、このうち中国EV最大手のBYDが4割のシェアを占めている。BYDは現地生産も開始し、今年中にはタイ国内の販売店の数を現状の2倍に当たる200店舗まで拡大させる計画だ。

中国が過剰生産で攻勢 欧米諸国が影響を問題視

現地の消費者は中国のEVについて、性能と価格を考えたら日本車よりも手ごろと受けとめているようだ。こうした中国EVメーカーの台頭で日本は、タイの自動車市場でシェアを落とし、昨年は8割台を下回った。日本は環境意識が高まりつつあるタイのマーケットでも、環境対応車をどう強化していくかの対応を迫られている。

中国のEV攻勢に対する危機感は欧米にも広がっている。それを象徴するのが、中国メーカーのEVを「過剰生産だ」とする批判の声だ。中国と対立する米国のイエレン財務長官は、今年4月に北京を訪れて、中国政府で金融や経済政策などを統括する何立峰副首相らと会談。その時の記者会見では、中国の過剰生産の問題が米国や世界経済に大きな影響を与えると指摘した上で、「中国からの安価な輸入品によってアメリカの産業が破壊されることを容認しない」と強調。新たに立ち上げる米中間の意見交換の枠組みを通じて、中国側に政策転換の必要性を求めていく考えを示した。 

EU(欧州連合)は、価格を抑えた中国のEVが欧州の企業に損害を与える恐れがあるとして、暫定的に38・1%の関税を上乗せする方針を発表した。

欧米諸国の懸念は、5月に開かれた主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議でまとめられた共同声明にも反映された。「中国メーカーによるEVなどの過剰生産が、G7各国の労働者や産業、経済的な強靭性を損なう中国の非市場的な政策や慣行について懸念を表明する。

公平な競争条件を確保するための措置を講じることを検討する」として、G7が一致して中国をけん制する姿勢を示した。

こうした対応の背景には、中国がEVの開発・製造・生産の過程で、事実上の国家による補助を与え、市場原理にそぐわない安価な価格で海外に輸出しているのではないかという疑念がある。EUは調査を通じてその実態をつかもうとしているが、中国側は過剰生産の指摘がそもそもあたらないとして、批判をはねつけている。

中国メーカーの競争力は、政府の補助に頼る必要がないほど強くなっている。かつて日本メーカーが世界を席巻した際に、米国から高額の関税をかけられ、日本政府が「国際貿易ルールに違反している」として、世界貿易機関(WTO)に提訴した事案があったが、そうした「無理筋」の貿易制限措置でも取らない限り、中国製EVの勢いを止めるのは難しそうだ。

AI活用しカラスの営巣防止 他の鳥害対策にも応用検討


【四国電力送配電】

従来取り組んできたカラスの営巣対策で、AI活用とLED点滅投光器が奏功した。

スマート保安の好例にもなり、今後の導入増加、他の鳥害対策への活用が期待されている。

四国電力送配電では、2022年春からカラスの営巣対策として、グループ会社テクノ・サクセスと共同開発した「AI型カラス忌避装置」「鳥害防止用LED点滅投光器」を使用し、成果を上げている。

変電所のカラスの営巣問題は設備の故障や停電につながるため、これまでもさまざまな対策を講じてきた。針金状や糸状の固定式の鳥害防止器具、においや粘着性のある忌避剤、定期的に発する音で逃避させる方法などを使用してきたが、カラスは鳥類の中でも学習能力が高く、また、慣れによる忌避効果の低下が課題になっており、改善が求められていた。

AIがカラスと判断し、LED閃光起動により逃避するカラス

生態調査から原型を開発 AIで識別、音と光で忌避

今回、カラス忌避装置を開発するにあたり、ある畜産場の協力を得て、そこに飛来するカラスの生態調査を行った。そこで判明したのは、カラスの忌避には金属打撃音と閃光の組み合わせが効果的ということだった。そこで、「AI型カラス忌避装置」「鳥害防止用LED点滅投光器」という2種類の製品のプロトタイプを制作した。この二つは次のように作動する。

変電所内の鉄構に飛来したカラスをカメラがとらえると、「AI型カラス忌避装置」を通じて、その画像に写っている生物がカラスかどうかを判断する。そして、AIがカラスだと判断した場合、鉄構に設置したスピーカーからカラスの嫌いな金属打撃音を発報。また、鉄構上の小型閃光器と地上の「鳥害防止用LED点滅投光器」が無線などで連動し、LEDの閃光をカラスに照射する仕組みだ。

「AI型カラス忌避装置」を開発するにあたり、コンセプトは三つあった。第一に、カラスが慣れてしまわないように、カラスが飛来した時だけ忌避装置が作動すること。第二に、同様に慣れを避けるために、忌避を促す音や光が変更可能なこと。第三に低コスト化が図れるように市販の既成品が活用可能なことだ。それゆえ、制御装置や防水スピーカー、閃光器などは市販されている小型の商品を採用し、低コスト化を実現した。

「鳥害防止用LED点滅投光器」は、変電所構内に飛来するカラスを地上からピンポイントで照らして忌避する装置として開発した。変電所には、カラスが巣を作ったとしても人間がそれを除去しに行くことが難しい危険な場所がある。そういった箇所への営巣を避けるために、指向性が高く高出力の閃光製品を検討し、カラスが嫌がる近紫外線(青色)を発する特殊仕様のLED点滅投光器(四国計測工業製)を採用した。また、カラスが飛来した場所に地上から投光できるように可搬式で、設置位置が容易に変更可能なものにした。

高所作業の負担激減 スマート保安の好例に

四国電力送配電はこれまでに、「AI型カラス忌避装置」を9台、「鳥害防止用LED点滅投光器」を8台導入し、カラスの営巣忌避に大きな成果を上げている。保守現場の評価は、「年間の営巣件数が大きく減少し、営巣防止効果が高い」「充電部に近い、高所で危険な箇所の営巣除去作業が激減して助かっている」「変電所の周辺環境への影響についても、音量調整や閃光方向、動作時間などを考慮して設定しているため問題は発生していない」など、二つの機器に対する満足度は非常に高い。

現在では、これらの機器の効果が証明され、複数の変電所にも導入を進めている。また、変電所にとって忌避すべきはカラスだけではない。そこで、今回の成果が他の鳥害にも活用できないか検討を始めている。一つ例を挙げると、サギの糞害がある。サギの糞は、長く粘着するという特性があり、落下する場所によっては変電所構内の電気事故につながる可能性があり、対策が待ち望まれている。

㊤変電所の鉄構に設置されたカメラ、スピーカー、小型閃光器 ㊦LED点滅投光器

四国電力送配電・送変電部・変電グループの澤村啓示郎氏は、「今回のカラス営巣忌避装置の開発は、別の見方をすれば、スマート保安を推進する中で生まれた一つの好例でもある」と強調する。

スマート保安とは、経済産業省が主宰する産業保安の維持や向上のために、IoTなどの先進技術を活用する取り組みのことで、20年6月に「スマート保安官民協議会」が発足。その所属部会の一つである電力安全部会が、21年4月、「電力保安分野 スマート保安に関するアクションプラン」を発表した。その中で、電気保安に関する現状の課題として、保安作業員の高齢化、人材不足、需要設備の高経年化などを挙げ、これらの課題を各種センサーや監視カメラなどを用いた監視・巡視の新技術導入により克服することを目指している。その新技術の中にはAIなどによるデータ解析も含まれている。

これまで、変電所には保安員が出向いて、メーターの読み取りや人の五感で外観や運転音に異常がないか確認する作業を行ってきたが、スマート保安の進展により時代は変わりつつある。スマート保安が電力の安定供給に果たす役割はさらに重要になってくるだろう。

【覆面ホンネ座談会】中東各地で問題勃発 国際石油市場への影響は?


テーマ:中東情勢と石油市場

昨年10月、イスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃し、中東情勢が一気に緊迫化。今も解決の道筋は見えない。気になるのが石油市場への影響だが、どんな展開があり得るのか。

〈出席者〉 A石油アナリスト B湾岸諸国専門家 Cシンクタンク関係者

―ガザ情勢、イランとイスラエルの衝突、イランのライシ大統領死亡事故、サウジアラビアのサルマン国王の健康問題―などなど、中東各地で問題が立て続けに起きている。

A 短期的な注目点は、やはりイスラエルのガザ侵攻が終結に向かうのか、それともイランが支援するヒズボラとの大規模紛争に飛び火するのか。いずれにせよパレスチナとイスラエルの間の憎悪は消えない。お互いに共存は不可能と信じれば、結局のところ、イスラエルがパレスチナを事実上隷属させる道しか残らない。他方、米国はイスラエル側に立ち、イラン陣営との敵対が続く。米国の安全保障の傘でイランに備える、というサウジアラビアのアプローチは、中東各国で反イスラエル世論が沸騰する中で難しくなった。中東はますます不安定になる。

B 気になるのはイラン情勢だ。ライシ大統領のヘリ墜落事故自体が現体制に大きな影響を与えることは考えにくいが、潜在的なリスクが高まる可能性はある。最高指導者ハメネイ師は85才と高齢だ。イランの専門家に聞くと、後継体制ははっきりしておらず、今回の事故で世代交代をめぐる混乱や不安定化が生じる可能性がある。米国による経済制裁で、イラン政府への国民の不満も渦巻く中、潜在的リスクが今後どの程度高まるのか。

C 私はサウジ国王の健康問題に注目している。というのも、日本ではムハンマド皇太子が国王になるのは既定路線のように言われる。しかし現国王までは年功序列を堅持しており、サルマン国王が生前譲渡するくらいでなければ、30代のムハンマド皇太子に一気に代替わりするのは難しいのではないか。実際、サウジは日本を冷遇していないのに、皇太子は今年5月の訪日を、2022年の際と2回続けてドタキャンした。それだけ国王の健康問題はセンシティブなのかと受け止めた。

各地での紛争を契機に石油供給網が変化し始めている

―米国や中国のポジションについては?

C 米国のイスラエルへの軍事支援は今後10年で弱まっていくと考えており、懸念している。理由は、米国がシェール革命により世界一の原油産出国となったからだ。米国は重油の輸入を続けているが、アメリカ大陸で自給できており、中東のプレゼンスが下がっている。実際、イラクの新油田に入札したのはすべて中国勢で、米国は興味を示さなかった。さらに米国のZ世代ではアンチイスラエルの機運が高まっている。

A イエメン武装組織・フーシ派が紅海で商船を攻撃したが、石油タンカーがロシアから南下するルートにはほぼ影響せず、中東やアジアから欧州向けに北上するルートには影響した。そうした中、ロシア・ウクライナ戦争以降、欧州・北米・中南米・西アフリカと環大西洋の新たな供給網が確立しつつあるが、米国が中東への関与を弱めて取り残されるのは極東だ。石油供給網をどう維持するか、日本が積極的に問題提起すべきだ。

B 昨年3月、中国の仲介でサウジとイランが国交回復に合意したことが象徴的だが、中国の影響力は大きく、今後さらに強まる。中国はイラン産石油の多くを輸入し、サウジやUAE(アラブ首長国連邦)の経済にとって中国の投資の存在感は大きい。中国のエネルギー事情からすれば、石炭や天然ガスに比べ、石油は7割を輸入に依存し、半分が中東からだ。中国としては石油がネックで、中東を抑えなければという意識が強い。一方、日本は中国に太刀打ちできておらず、少しでも存在感を高める方策が必要だ。


中東情勢が価格にリンクせず 問われるOPECの結束

―6月10日のWTI原油価格が78ドル程度と、少し前よりは上昇基調にあるものの、2年前のように高騰する気配は見られない。

C 中東情勢が原油価格の判断材料ではなくなってきている。中東情勢が泥沼化しても供給支障は起きておらず、端的に言えばマーケットが飽きてきた。4月、イランとイスラエルの大衝突かという局面から比べ、6月上旬の価格は2割ほど下がっている。市場がまったく想定していない深刻なリスクが顕在化したら、とてつもない状況に陥るかもしれない。

A 西側諸国が経済制裁を行ってもロシアの石油輸出に大きな変化はないし、中東のガザ情勢なども供給に直接影響を及ぼさず、思いのほか油価が上がらない展開になっている。ただ、6月2日、(石油輸出国機構・OPEC加盟国と非加盟主要産油国からなる)OPECプラスが今年第3四半期まで協調減産の生産目標を据え置いた。目標を各国が順守すれば、年末にかけて日量50万~100万バレル程度の需要超過となり、次第に価格が強含む方向にいくのではないか。

C マーケットが年内減産を続けると見る中、10月以降緩やかに増産するスケジュールをつくったのに、油価が下がってしまったのはOPECにとってサプライズだったと思う。唯一の勝者はUAEで、来年から生産枠を日量30万バレル引き上げる。UAEは最近OPEC脱退をほのめかしており、サウジはUAEとの確執を回避するために今回譲歩した結果、価格が軟調に。UAEは今GDPの7割が非石油経済で、財政均衡の油価価格が50ドル台後半。一方、サウジは90ドル台半ばであり、やはり減産で価格を上げたい考えだ。こうした両国の出方は今後も気になる。

B OPECとしては価格を下げるシグナルは出したくなく、減産の緩和にフォーカスしてほしいわけではない。OPECは今年第4

四半期の需要が伸びる見通しを示しており、それと整合を取る意味でも減産の緩和は自然な流れ。ただ、需要が想定通り伸びない場合は、減産の緩和を取りやめる可能性もある。しかしマーケットはそうは取らなかった。

現場のニーズを追求し商品開発 操作性が向上したガス検知器


【理研計器】

理研計器はこのほど、都市ガスやLPガスの開栓や配管工事などの際、ガス漏れを検知するポータブル型ガスリーク検知器を発売した。今回の新商品「SP―230」は、従来機種「SP―220」をリニューアルしたもの。「現場で作業する方から従来型の使いにくい点や操作する上での要望などを聞いて開発した」。第一営業部第3営業グループ営業三課の青木裕喜夫課長はこう話す。同タイプの検知器の発売は実に9年ぶり。現場の声を踏まえて改良を重ね、使いやすく、作業効率が向上する検知器が完成した。

現場のニーズに応える機能が充実している

特長の一つが操作しやすい機能を搭載した点だ。LEDライトや操作・警報音のON/OFF、警報を鳴らすガス濃度の設定は全て片手で操作し、ワンプッシュで切り替えられる。また、使用頻度の高い機能を予め割り当てるファンクションボタンも備えた。例えば、点検箇所ごとに、検知する対象を都市ガスとLPガスで切り替えることが多い場合、「ガス種切り替え機能」を割り当てれば、ボタンを押してすぐに設定できる。

もう一つは、作業時の表示を見やすくした。営業技術部営業技術課の眞継恭輔氏は「暗い場所や奥まった狭い場所での作業が多いことに配慮した機能になっている」と説明する。表示モニターの横にはLED表示部を新設。ガス濃度や動作状態が色と目盛で分かりやすくなった。前方を照らすLEDライトとボタン部にバックライトがついているので、暗所での作業もスムーズに行える。

測定データを自動送信 通信技術で作業を効率化

通信技術の活用も作業効率の向上に一役買っている。SP―230には、本体内部に測定記録を保存する機能がついている。ブルートゥースでスマートフォンと連携すれば、位置やガス濃度などの情報が自動でメール送信でき、手書きで記入する必要がなくなった。また同社が開発したスマートフォンアプリ「RK Link」と接続することで、

スマートフォンを介してブルートゥースイヤホンから警報音を流すことが可能になる。住宅街での作業や夜間の工事といった警報音を鳴らしにくい環境でも、静音で周囲に配慮しながら、作業者は警報音を聞き漏らさず、安全に作業ができる。

理研計器はこれまで、半導体・電気業界市場において売上の半分近くのシェアを維持してきた。今後はインフラ業界でもシェア拡大を目指していく構えだ。