【覆面ホンネ座談会】GX投資で成長は本当? 潜在する課題に迫る


テーマ:GX投資

GX(グリーントランスフォーメーション)政策が着々と進み、さらに政府は2040年に向けた新たな国家戦略を策定する方針だが、GXが真の成長に資するかはいまだ不透明だ。

本施策に潜むさまざまな課題を掘り下げた。

〈出席者〉 A製造業関係者   Bアナリスト   Cシンクタンク関係者

―2022年末にGX基本方針が示され、その1年後の分野別投資戦略では、GX経済移行債による投資促進策と支援額を提示した。

A 網羅的で数字の根拠がよく分からないものもある。これでは何も書いていないのと同様だし、全ての取り組みがモノになるわけでもない。支援にメリハリをつけ、必要に応じて組み替えるなど、今後の対応こそ重要だ。

B 基本方針は22分野だったが、その後の投資戦略では大くくり化され16分野に。「次世代ネットワーク」が「再生可能エネルギー」に統合され、「航空機」や「カーボンリサイクル燃料」に入っていた「SAF(持続可能な航空燃料)」は外出して、さらに「カーボンリサイクル燃料」を「水素等」に組み替えるなど、一部扱いが変化した。他方で国土交通省や農林水産省の提案を中心に姿を消したものも。モーダルシフト(貨物輸送を環境負荷の小さい手段に転換すること)など期待される領域もあったのだが……。

C 今後10年で官民投資が150兆円、GX経済移行債を20兆円発行予定の中、投資促進策の1回目(22年度補正~23年度当初)では1・6兆円の半分弱をGI(グリーンイノベーション)基金が占めた。今後、実際に分野ごとのバランスがどうなるかが重要だ。他方、20兆円では足りないと「お代わり」がある可能性も。その制度設計もポイントとなる。

B 投資戦略では新たな税制措置も示した。EV、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAFを購入する企業の法人税を控除するものだが、そのためにはGXリーグへの参加がマスト。昨夏JALが一度リーグから離脱したが、税制措置の対象にSAFをピンポイントで入れたのもJALの引き戻し策だったのだろう。こうした対応を見ると、企業が一層内向きになりかねないと危惧している。

GXで最後の果実を手にするような産業政策となるのか


不安抱える移行債 推進機構の裁量は

―GX移行債は合計1・6兆円で2月に初めて発行され、24年度は4回発行で計1・4兆円を予定する。先行きをどう見る?

A 政府は「若干グリーニアム(環境債のプレミアム)が付いた」「海外投資家に事前に説明し高評価を得た」などと言うが、現実はプレミアムがほぼ付かず、大部分を日本の金融機関が買い、国内でお金が回っただけだ。

B グリーニアムの件は由々しき問題で、特に5年債は流通市場でのプレミアムはないに等しい。初回は海外で不人気の水素・アンモニアを除外したのに。今後日本のやりたいアイテムを入れるほど、プレミアムが付きづらくなるジレンマがある。また、本来は年間2兆円ずつ発行する必要があるのに、今年度は小分けにし総額を減らす点も、弱気に見える。

C そもそもGXの受け手の土壌が耕されていない。そんな中で移行債の1回目は腰が引けていたが、今後対象に水素・アンモニアを筆頭に化石燃料系を認め、真のトランジションファイナンスにしていければ、GXの突破口となり、民間投資のインセンティブにもなる。日本政府がその点を欧米の金融側などにどこまで訴えられるかにかかっている。

B 移行債は税額控除の税収減の補てんにも使うが、財政論的な問題をはらむ。本来エネルギー対策特別会計の収入になる移行債で、一般会計の減少分を補てんするということは、プライマリーバランスの調整に特会を使うということ。いわば「プライマリーバランス是正詐欺」と市場から見られ、日本の国債全体の信用問題になる可能性すらある。

―先行したGXリーグでは、25年度までの第一フェーズで自主的なJクレジットの市場取引が行われている。第二フェーズでは超過削減枠の取引、第三フェーズでは発電事業者の有償オークションと、規制を強める。

A GXリーグのポイントは、26年度からのETS(排出量取引)の本格稼働でどこまで強制的なシステムとするかが全てだ。EU―ETSは政府が目標を設定し、未達の罰則規定もある。日本ではどうなるのか、参加企業は戦々恐々だ。他方、自社目標を超過達成した企業から枠を買ってオフセットしても、国全体の削減量が上積みされるわけではない。

B 根本的にこの制度が日本全体の削減に効果があるのかはやはり疑問。事実上、リーグへの参加が政府支援を得る条件になっている。

C 現状はそもそもJクレの玉が少ない中、マーケットメイカーを導入しても実質的には少数が9割方取引しているような状況にある。また、第一フェーズでは第三者が削減量の検証を行うが、京都議定書時代の知見が失われており、人材育成が課題だ。第二フェーズ以降は目標の検証も行うというが、国際的な枠組みでも十分なノウハウが確立されていない。個人的には金融を含めエンゲージメントしながら取り組む形が望ましいと思う。

―そして7月にはGX推進機構が発足し、日本生命保険の筒井義信会長が理事長になる。業務内容は、150兆円の投資実現に向けた債務保証、ETSの運営、化石燃料賦課金の徴収などだが、詳細は明かされていない。

C お金周りは無論、排出権の割り当ての基準作りなどにどこまで関わるか、機構の裁量がまず気になっている。また、メンバーに関して一時はそれぞれ産業界から人を出すような話も聞こえてきたが、結局どうなるのか。

B 機構が積極的に債務保証をハンドリングし、リスクを取ってリターンを得る形を目指してほしい。だが、初回の移行債購入者は、日銀に次いで機構理事長の出身である日生が2番手だったというのが、なんともはや。

A 昨秋時点の経産省の資料には、機構の業務として債務保証のほか「出資・助言等」とあり、ベンチャーキャピタル的な組織を目指すと思っていた。だが最近の資料には出資などは入っていない。債務保証の際は融資する金融機関がプロジェクトを選別することになるが、事業の良し悪しが分かるのか。選別眼のある産業界の人材がいるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業でさえビジネスとして成功するケースは多くなく、機構の人材育成が課題だろう。

C 化石燃料賦課金の徴収事務もある。ただ、国税などの仕組みには載せずに自前で行う必要があり、当面は国税局OBなどを投入するのだろう。再エネ賦課金などと違い対象が多く、その仕組みづくりも大変そうだ。

【イニシャルニュース 】原子力推進が軸に!? 高市派結成の可能性


原子力推進が軸に!? 高市派結成の可能性

低支持率と裏金問題などの失態で、岸田文雄首相率いる自民党、公明党の連立政権の崩壊に加え、事と次第によっては自民党下野の可能性もささやかれる。永田町界隈では、早くも次の首相候補が取り沙汰されているが、筆頭格は上川陽子外相といえよう。また高市早苗・経済安保相や、河野太郎・行政改革相の名前も聞こえている。この二人の場合、原子力問題が対立軸に加わりそうだ。

高市氏は、自らの勉強会とする『「日本のチカラ」研究会』を発足させ、会合会を重ねている。3月の勉強会では20人が集まり、1月から倍増した。取りまとめの中心になっているのは、高市氏に近いI県のⅠ議員だ。また自民党筋によると、別派閥であるF県のT議員と保守グループのA議員なども代理人参加などしたという。いずれの議員も原子力活用派だ。

高市氏は無派閥だ。自民党内には、「水面下で支持が広がっている可能性がある。特に、派閥を攻撃した岸田首相に不快感を持つ旧安倍派議員が支持するかもしれない」との見方がある。「高市派」が結成された際、思想的まとまりの核に原子力の活用が置かれる可能性がある。

高市氏の主張は、故・安倍晋三元首相と重なり、自主独立・防衛力強化が柱。そして個人的に原子力に関心を持ち、夫の山本拓元衆議院議員も、新型原発の支援に、現役時代は動いていた。対立する河野氏は、反原発と再エネの過剰重視を行ってきた。

次の首相争いでは、原子力の活用とエネルギー政策が重要な論点になるかもしれない。これは、エネルギー関係者には朗報である半面、イデオロギー的な批判も再燃しかねず注意が必要だろう。


燻るマイクオフ問題 J議員と環境相の攻防

環境省職員が水俣病患者らの団体と伊藤信太郎環境相の懇談の場で、マイクの音を切るなどして団体側の発言を遮った問題がくすぶり続けている。

「マイクオフ問題」は、厚生労働省から出向してきた環境省保健部の担当室長K氏が、1団体3分という時間制限の運用を厳格に守ったのが原因だ。この運用は2017年からマニュアル化されていたが、これまではきっちり3分で切ることはなかったという。

環境省関係者は「出向者は医系技官で医者ならではの杓子定規な人。水俣の歴史や被害者対応といった基本を理解していなかったのが起因して、マニュアル通りの仕事をしてしまったことが裏目に出た」と話す。

伊藤環境相が現地に再び出向いて遺族の仏壇の前で土下座して謝罪し、事務次官以下関係する職員の処分を発表した。省内には部局横断のタスクフォースを立ち上げ、再発防止策を講じることで事態の収束を図ろうとした。

環境官僚だったら対応は違った?

だが立憲民主党のJ議員が執拗に攻め立てているという。J議員は伊藤氏と同じ選挙区でいわばライバル同士といえる。

永田町の関係者は、「今回の失態を利用して、次の選挙で叩きのめす作戦だろう。もともとJ議員は伊藤大臣には勝ち続けているので心配ないとは思うが、今回は伊藤大臣に同情する声もある。そして何といっても、土下座の謝罪という伊藤大臣のパフォーマンスに用心しているのではないか」と分析する。

自民党の政治資金問題や岸田政権の不人気で、各種メディアの世論調査では次の選挙での政権交代を望む回答が増えてきている。ここぞとばかり攻め立てて得点稼ぎをする狙いが透けて見えるが、永田町では「しつこく追及すればするほどJ議員が政争の具にしているという批判が、ブーメランになって立憲民主党に返ってくるのではないか」と心配する声も聞かれる。

害獣の自動検出AI「Bアラート」 官公庁と連携協力し実用性向上目指す


【北陸電力】

北陸電力はDX戦略で新たな価値創造を推進しており、AIを活用したクマ被害減少に取り組む。

コア事業を基盤に地域課題に貢献し、将来像である持続可能な発展とスマート社会を目指す。

クマの出没に伴う人身被害の報告件数が、全国的に増加傾向にある。DXを推進することでこの課題に取り組んできたのが北陸電力だ。ほくつう、ガルムと協力して開発した「Bアラート」で、AIなどのデジタル技術を駆使してクマ出没の早期検出と通報を可能にし、人への被害を未然に防いでいる。

富山県の公式統計データを確認すると、県内のクマ出没は2015年から18年まで年間およそ100件~300件の間で推移してきた。しかし、食糧となる木の実が山で不作となった19年には、919件と大幅に増加。実はこの年の10月、北陸電力でBアラート開発の契機となる事件があった。県内の山林で送配電の保守業務を行っていた職員がクマに襲われたのだ。以降、AIやデジタル技術を活用して危険回避の方法を検討する社内議論が始まった。自治体や野生動物の有識者とも討議を重ね、クマ出没を早期に把握し、関係者に迅速に通報するシステム構築が有用であるとの結論に至った。そして20年9月から22年6月まで、2年近い歳月をかけて開発されたのがBアラートだ。現在、北陸地方の12自治体が導入済で、7自治体が試験運用中。北陸以外では神奈川県、山形県などでも利用されている。


既設カメラ活用で監視強化 害獣指定で導入拡大見込み

Bアラートは、カメラで撮影した画像に写っている生物がクマかどうかをクラウド上のAIが識別し、クマの場合には自治体や捕獲隊などに通報してくれるシステムだ。使用するカメラはトレイルカメラと呼ばれるもので、SIMカードが装着された通信機器でもある。1台およそ10万円。単3電池で動くため、屋外のコンセントがない場所でも問題なく使える。カメラは生物の体温を感知すると撮影モードに入り、その画像をキャプチャする。あらかじめクマの外見的特徴を学習したAIが、その画像の被写体がクマかどうかを99・9%の高精度で判定し、クマだった場合、Bアラートの通報システムがその画像をメールで送る。人間による監視には自ずと時間的、空間的制約があるが、Bアラートは24時間365日休みなく働ける。

Bアラートのシステムイメージ(クマ検出の場合)

AIによりクマと判定された画像

ただ、このトレイルカメラには欠点もある。初期費用が高いことと、定期的に電池交換が必要なことだ。そこで河川や道路に設置されている監視カメラを活用する案が浮上した。現状、クマの管理は環境省、河川や道路の管理は国土交通省が行っているため、活用案の実現には省

庁間の連携が必要だが、今般、両省から協力を得られることになり、富山県は今年度「河川および道路のライブカメラ画像識別による出没状況の把握」に取り組むことが決定した。トレイルカメラは富山市で約10台、県全体で約50台設置されているが、河川や道路の既設の監視カメラを利用できるとなれば、その台数は一気に400台まで拡大し、Bアラートの実用性は飛躍的に高まる。

イノベーション推進本部・新価値創造研究所の橋本茂男副課長は、全国初となるこの対策に「まさに今年度の目玉対策」と期待を寄せる。今後のBアラートの展開については「まず今年度の実証実験に注力し、関係者と連携して実用性の高いソリューションを実現していきたい」と語る。実用性が示されれば、環境省が4月にクマを「指定管理鳥獣」に定めたことも追い風となり、Bアラートの導入は加速していくことが見込まれる。


経産省からDX事業者認定 目指す将来像の実現へ

北陸電力は23年10月に「北陸電力DX戦略」を発表し、その柱として「生産性の向上」「新たな価値創造」「変化に対応可能な環境整備」の三つの方針を掲げている。いずれもDXを推進するもので、「生産性の向上」では電力事業というコア事業にAIを活用し業務の高度化・効率化を進めている。

一方、Bアラートの開発に関しては、「新たな価値創造」を体現した取り組みと言える。電力事業の枠にとらわれず、快適な暮らしや利便性の向上に向けて地域やお客さまの課題解決に資する新たな付加価値を生み出すことや、新たな挑戦に果敢に取り組んでいる。

DX戦略を具現化していくことにより、「新中期経営計画」の実現、その先には「地域とともに、持続可能なスマート社会を目指して」という「2050年の将来像」を達成することを目標にしている。

24年3月、北陸電力は経済産業省から「DX認定」を取得した。これは、AIなどのデジタル技術を利用した生産性向上に努力し、経産省が定めるデジタルガバナンス・コードに適合したDX推進を行っている事業者に与えられる認定で、いわばDXに関して国からのお墨付きを手に入れた形だ。

デジタルの力を活用して地域の課題解決に取り組む企業や団体を内閣官房が表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」にも積極的に参加している。岸田首相が旗振り役を務めるこのイベントで、昨年、Bアラートは応募総数240件から見事予選を通過。55件が競いあった本選では惜しくも受賞を逃したが、「今年こそは」と新たな取り組みのエントリーを進めている。

千葉印西変電所が6月稼働へ 27年までに230万kWに増強


東京電力パワーグリッド(PG)は、工業団地の整備が進む千葉ニュータウンエリア(千葉県印西市)の電力需要に対応するため、新設した「千葉印西変電所(印西市牧の台)」が6月上旬に運転を開始すると発表した。同変電所の稼働で印西エリアの供給力は約60万kW増の計170万kWほどになる。

現時点で東電PGに申し込みがあった同エリアの電力需要は、現在の6倍に当たる約200万kW。2027年までに、千葉印西変電所と新京葉変電所(千葉県船橋市)を結ぶトンネル内に敷設した送電ケーブルの数を増やすほか、同変電所の変圧器の数を2台から4台に拡大することで供給力を230万kWまで増強する予定だ。

約10㎞のトンネル内に敷設した送電ケーブル

本工事は18年夏ごろに自治体によるデータセンター(DC)の誘致などで申し込み件数が急増したことを背景に計画。立案から稼働まで約5年と前例のない工期でトンネル掘削、送電ケーブル敷設、超高圧変電所新設が実施され、中でもトンネル掘削は全長約10・1kmと東電PGにとって実に四半世紀ぶりの大規模工事となった。トンネル掘削工事では通常シールドマシーン1台で進めるところを、本工事では4台同時稼働させることなどによって約2年半で貫通させ、その後のケーブル敷設も2年も満たない期間で行われた。

「計画立案から稼働まで当初8年を見込んでいたが、8年もかけていたら申し込んだDC事業者が海外へ流出し日本の損失となる」(草間順一・東電PG系統計画グループマネージャー)。DX時代に向け、電力インフラ増強は待ったなしだ。

多様な課題に直面する都市ガス 業界一体となり課題解決へ


【巻頭インタビュー】内田高史/日本ガス協会会長

エネルギー安定供給や脱炭素化などさまざまな経営課題に直面している都市ガス業界。

日本ガス協会はその中でどのような役割を担っていくのか。内田高史会長に話を聞いた。

うちだ・たかし 1979年東京大学経済学部卒、東京ガス入社。2009年総合企画部長、12年常務執行役員、16年副社長執行役員、18年社長を経て23年から会長を務める。24年4月日本ガス協会会長に就任。

 ―4月1日に日本ガス協会会長に就任されました。業界を取り巻く課題をどう見ていますか。

内田 現在、都市ガス業界に最も求められているのが、2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの加速です。業界では、移行期においては天然ガスの高度利用や他燃料からの転換を進めることで、天然ガスの使用量は増えつつも社会全体のCO2排出量を削減することに貢献し、それを徐々にe―メタン(合成メタン)に置き換えることでCN化の達成を目指そうとしています。

ただ安定供給を損なうことなくこうした取り組みを進めるには、政策の後押しが欠かせません。策定議論が始まった第7次エネルギー基本計画においても、天然ガスやe―メタンについて、時間軸を織り交ぜながら位置付けていただきたいですね。

もう一つの大きな課題は、地方ガス事業者が取り組む地域活性化への支援です。全国に190社ほどあるガス事業者はいずれも地域に根差した企業ばかりですから、人口減少・少子高齢化に伴いガス需要が減少し続ければ、事業が成り立たなくなりかねません。都市の持続可能性が危ぶまれる中、自治体と一体となって地域課題に取り組むことが求められています。

―地域における役割が、ますます高まっていきそうですね。

内田 都市ガス会社だからこそ、それぞれの地域特有の課題、特徴を生かしたさまざまな支援が可能です。例えば、石炭や石油から燃料転換する余地はまだまだありますし、小水力やバイオマスといった地域資源を活用した再生可能エネルギー由来の電気とうまく組み合わせながら地域のCN化への道を描くことができます。また、保育園の運営や空き家対策、さらには地域での見守りサービスなどを手掛けることで、総合生活産業的な立ち位置を目指す事業者もあります。ガス事業で培ってきたお客さまとの接点を次の成長につなげられるよう、協会としても事例の情報提供や会員同士の情報交換の場を設けるなどし、各社の取り組みを支援していきます。

―e―メタンの社会実装に向けた協会の役割とは。

内田 e―メタンの製造や輸入といった実際の事業は個社の取り組みとなりますが、協会としては、それが円滑に進むよう後押ししていかなければなりません。導入当初は、どうしてもLNGよりも価格が高くなりますから国による値差支援は不可欠です。またCO2排出量を二重計上することがないよう、カウントルールを公的に決める必要もあります。計画通り30年度にe―メタンを販売量の1%導入するためには、米キャメロンLNG基地(ルイジアナ州)で計画しているプロジェクトなどは来年度中にも最終投資決定(FID)を行わなければなりません。会員企業が適切なタイミングで投資の意思決定を行うべく、国に対し早期に制度・政策の方向性を示していただけるよう働き掛けていきます。

―日米が協調することへの期待はありますか。

内田 LNGの出荷基地が多く存在する米国にとっても、長期的にはe―メタンはメリットがありますし、エネルギー省(DOE)も解の一つだと明言しています。実際、インフレ抑制法(IRA)を活用したプロジェクトが計画されています。また、4月に行われた日米首脳会談を受けた声明では、日米企業間で進むカーボンリサイクルプロジェクトの進展を歓迎すること、CO2の二重計上を回避することに日米企業間で合意したことに言及されています。両国が協調することで、制度化が加速することを期待しています。

e-メタン事業計画が進むキャメロンLNG基地


e―メタンの円滑導入へ 業界挙げて燃転に取り組む

―将来的には、中小事業者の供給エリアにもe―メタンを行き渡らせなければなりません。

内田 これまで、各事業者が石炭や石油から天然ガスへの転換に力を入れてきましたが、いまだ大きなCO2排出需要家が残されています。e―メタンは、既存の都市ガスインフラをそのまま使えることが大きな強みですから、こうした需要家の燃転を進めておけば、e―メタンを導管に注入するだけでシームレスにCN化を進めることができるわけです。

引き続き、大手、中小が一体となって燃転に積極的に取り組んでいかなければなりませんし、新たなパイプラインの整備などに対し、国の支援をお願いしたいと考えています。また将来的にe―メタンを全国に広げていくためには、e―メタンの環境価値を移転できる仕組みも必要になります。今年度から民間で運用するクリーンガス証書の実績を積み、国の制度で認められるよう働き掛けていきます。

―5月15日に始まったエネ基議論への注文はありますか。

内田 S+3E(安全、安定供給、経済、環境)を念頭に置いて議論していただきたいと考えています。天然ガスは、都市ガス用途よりも発電用燃料としてより多く使用されています。CN化に向け再エネを大量導入するには、調整電源としての火力は欠かせません。その主力はガスです。都市ガス、発電用の双方で天然ガスをきちんと位置付けることが肝要です。

逆風吹き荒れる再エネ拡大政策 エネ基とNDCは砂上の楼閣に!?


脱炭素化の有力手段とみられていた再エネ拡大政策に逆風が吹き荒れている。

地域共生、災害対策、安全保障などを踏まえ、政府の対応に関心が集まる。

 「どこに聞いても出てこない数字なんですよ」

4月15日の午後、環境省詰めの記者は慌ただしく幹部や担当部局への事実確認を急いでいた。日本経済新聞の電子版が同日配信した「2040年度の電源構成、次期エネ計画で策定 長期投資促す」と題した記事の裏取り取材のためだ。内容は次期エネルギー基本計画の大方針と、温室効果ガス削減の国が決定する貢献(NDC)について一足先に報じたものだ。環境省詰めの記者が反応したのは、NDCについて「35年度に13年度比66%減らす案を軸に調整する」という部分だ。

関係官庁のある幹部は、「どれだけ聞いても出てこないのは当たり前。まだ検討にも入っていないのだから。66%にした場合、どういう積み上げをすればそうなるのか根拠が分からない。日経は何を根拠に数字を出したのか迷惑な話だ」と明かした。

大規模再エネ開発は限界に近づく


NDC「60%」も視野に 再エネどこまで増やす?

事の真偽はさておき、温室効果ガスを35年に13年度比66%削減することは可能なのだろうか。気候変動やエネルギー問題に携わる政府関係者は「極めて難しいと言わざるを得ない」と語る。政府はおおむね3年ごとに改定されるエネルギー基本計画と、パリ協定の取り決めで25年2月に国連の条約事務局に提出される35年のNDCの両方の策定作業にまもなく入る。これまでも両者は裏表の関係で密接に結びついていたが、今回の第7次エネ基と35年NDCは岸田政権が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)戦略に整合する形で策定されるとみられ、より関連性が強まりそうだ。

両者の論点は多岐にわたるが、焦点の一つは電源構成に占める再生可能エネルギーの比率だ。現行の第6次エネ基では30年度の電源構成として、再エネは36~38%で最も比率が高い。50年カーボンニュートラルの実現を前提とし、再エネを主力電源に据えたのが理由だ。これから策定される第7次エネ基では、再エネ比率がより高くなることが予想される。これは35年NDCが少なくとも13年度比55%以上削減という数字になるのではないかとの見方があるからだ。

しかし、あるエネルギー企業の幹部は35年NDCについて「55%では足りず、60%の可能性も否定できない」と話す。60%の根拠についてこの幹部は、科学者らで構成する国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の統合報告書が「1・5℃に気温上昇を抑えるためには、35年までに世界全体で60%の削減が必要だ」と指摘していることを挙げる。先進国にはより厳しい削減目標が課せられており、「外圧に抗しきれない日本のいつものパターンで積み上げを無視して60%前後になることも想定しないといけない」(前出の幹部)と警戒感を隠さない。仮にNDCが60%前後になった場合、第7次エネ基の電源構成も温室効果ガスを排出しない電源である再エネと原子力発電の比率を相当高くしなければならない。原発は地元同意などさまざまな制約があるため将来的な数字を作りにくく、勢い再エネが増えることになる。30年の約4割から35年は約5割まで引き上げられることも考えられるだろう。


住民トラブルが頻発 国民は再エネにそっぽか

再エネが日本の電源構成の過半を占める将来は来るのだろうか。ここ最近の動きをみると、暗雲が立ち込めていると言わざるを得ない。再エネの開発を巡り、日本各地では景観の悪化や風車による騒音などで住民らとのトラブルが頻発している。山の斜面に作られることが多いメガソーラーにいたっては、豪雨の影響で泥水や土砂が流出し、設備が崩落するなど防災上の問題が浮上している。

直近では4月に鹿児島県伊佐市と仙台市郊外のメガソーラーから出火し、鎮火まで20時間以上かかった事故も発生した。伊佐市の火災では消火作業をしていた消防隊員4人が負傷するなど人的被害も。いったん発火すると、感電の恐れなどから消火活動が難しいな現実を突き付けた。

総務省が3月に発表した太陽光発電を多く設置する都道府県を対象にした調査によると、861市町村のうち約4割でトラブルがあったと回答した。こうした中、再エネの開発や導入を規制する条例を制定する動きが各地で広がっている。地方自治研究機構の調べによると、公布されているものは全国で276条例(3月下旬時点)に上る。

さらには事業者に課税することで実質的な開発制限をかけている自治体もある。大半は太陽光発電を対象にしているが、青森県のように陸上風力とメガソーラーを対象とする新税の創設を検討するところも現れた。

また記憶に新しいところでは、自然エネルギー財団の幹部が政府審議会に提出した資料の一部に、中国国有企業のロゴマークが入っていたことが発覚した。経済安全保障の観点からも再エネの危うさを浮き彫りにし、今なおくすぶり続ける。加えて太陽光発電設備がサイバー攻撃を受けるといった問題も発生するなど、枚挙にいとまがない。再エネ導入を巡る問題やトラブルは今後も増加するに違いない。

国が掲げる再エネの主力電源化への道は日を追うごとに険しさを増している。政府がカーボンニュートラル宣言を出して以降、企業もメディアもこぞって脱炭素を叫び一種のブームと化したが、その足元では再エネの事故やトラブルなどが頻発し、肝心の国民がそっぽを向き始めている。岸田政権はGXを重要施策として強力に推し進めていく方針だが、温室効果ガスを排出しない要の電源である原発と再エネの双方に困難さがつきまとう状況になった。掛け声は勇ましいが、実効性の乏しい政策が目立つ岸田政権が策定するエネ基とNDCは、砂上の楼閣と化してしまうのだろうか。

CCSで社会の脱炭素化を強力後押し 実用化への道を連携プレーで切り開く


【関西電力】

CO2の回収から地中に貯留するまでのプロセス構築を目指す関西電力。

事業化を視野に回収技術を磨き、船舶輸送の実証試験にも参画する。

国内の火力発電所などから排出されたCO2を分離・回収し、貯蔵や輸送を経て地中深くに閉じ込める―。関西電力はそうした「CCS」のバリューチェーン(価値連鎖)を構築することを目指し、エネルギー事業大手と組んで検討に乗り出した。分離・回収技術の実用化に向けた道筋を切り開こうと、実証試験もさらに積み重ねる計画だ。脱炭素化を後押しする多彩なCCSのプロジェクトが大きく前進しようとしている。

大阪湾近くに位置する工業地域で知られる「堺泉北エリア」。この地を舞台にCCSのバリューチェーンづくりに挑むのが関電とコスモエネルギーホールディングスで、昨年10月に共同検討を始めた。両社が同エリアで運営する事業所から排出されるCO2を回収し貯蔵・出荷する工程にとどまらず、それを輸送する方法や貯留候補地の調査にまで踏み込む計画だ。

関西電力舞鶴発電所内にあるCO2分離・回収試験設備
提供:川崎重工業


バリューチェーン構築 社会実装促進に弾み

背景には、脱炭素化という世界の潮流がある。こうした動きを踏まえて関電グループは今年4月、2050年を見据え温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボン」の道筋を示すロードマップを改定した。それに沿った展開は順調に進んでおり、「25年度時点で発電によるCO2排出量半減」という目標を2年前倒しで達成する見込みだ。

重点分野の一つが、火力発電のゼロカーボン化を後押しするCCSだ。分離・回収し貯留したCO2の有効利用も含めた「CCUS」まで踏み込み、具体例として堺泉北エリアでの共同検討をロードマップに盛り込んだ。CCUSは30年ごろの導入を視野に検討を進め、50年に向けてCO2の分離・回収量の拡大を目指す戦略を描く。

関電火力事業本部の北澤京介・火力開発部長は「CCSの社会実装はバリューチェーンを構築することで実現する。各工程で強みを持つ多彩な企業と手を組み、CO2回収を面で広げる取り組みを着実に進めていきたい」と意欲を示した。

CCSの事業化に向けた関電の取り組みは長く、三菱重工業と共同でCO2の分離・回収に必要な技術を開発した1990年代までさかのぼる。両社はLNG火力による発電過程で出る排ガスからCO2を吸収する物質「アミン」を含む吸収液を用い、実証試験を重ねてきた。

両社は今後、姫路第二発電所(兵庫県姫路市)内に建設するパイロットスケールの試験設備を活用し、25年度から実証試験を始める計画。1日当たり5tのCO2を回収できる設備だ。

さらに培った技術や経験を生かし、今年1月から関電舞鶴発電所(京都府舞鶴市)で、川崎重工業などが進めるCO2分離・回収の実証試験にも協力。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で、地球環境産業技術研究機構(同木津川市)が開発した個体吸収材を循環させて1日約40tを回収することに挑む。


試験データを収集・分析 国際ルールづくりにも貢献

「CCSバリューチェーンに必要な最後の技術ピース『CO2の低温輸送』にも力を入れる」(北澤氏)方針だ。日本CCS調査(JCCS)を代表とするコンソーシアムが世界に先駆け取り組むCO2の船舶輸送に着目した実証試験へ参画。NEDOからの委託事業で、舞鶴発電所から出るCO2を同発電所構内の基地で液化し、主に北海道の苫小牧基地との間を輸送船で移送する。

北澤・火力開発部長(左)と脱炭素技術グループの羽原チーフマネジャー

CO2の液化設備や貯蔵タンクなどを備える舞鶴基地は今年9月に完成予定。その翌月からさまざまな条件下で液化CO2を輸送する本格的な試験を立ち上げる。そこで集めた試験データの分析結果は、安全な輸送に必要な規格や設計基準の検討のほか、液化CO2を長距離で大量輸送する際に求められる国際ルールづくりにも生かされる。関電は試験への参画を通じて、CCSの普及に向けた取り組みを加速していく考えだ。

ただ、CCSの事業化に向けた道のりは平坦ではない。建設や設備にかかるコストが見通しにくい上、貯留地の確保に向けた調査や法整備なども途上にあるからだ。とはいえ、CCSは産業競争力に直結する有望技術だけに、社会実装に向けた国際競争が激化する方向にある。「未開拓領域を先行し切り開くファーストムーバーとして、多様な脱炭素技術の可能性を追求したい」と火力開発部門脱炭素技術グループの羽原英史チーフマネジャー。そんな使命感を強める関電の展開から目が離せない。

玄海町が文献調査受け入れ 処分場の選定プロセス前進へ


佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長が5月10日、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査の受け入れを表明した。原発立地自治体としては初めてとなる。

文献調査は調査の第1段階で、その後は調査実施自治体や都道府県知事の意見を尊重した上で概要調査、精密調査へと進む。これまで文献調査が行われたのは北海道寿都町と神恵内村の2町村のみで、原子力発電環境整備機構(NUMO)が作成した文献調査の報告書案を巡る議論が行われている。

文献調査実施の申し入れ書を受け取る玄海町の脇山町長(左)
提供:朝日新聞社

両町村が概要調査に進む上で鍵となっていたのが、文献調査を実施する「仲間」の登場だった。寿都町は概要調査の賛否を問う住民投票を実施する予定だが、同町の片岡春雄町長は住民投票に向けた勉強会について、文献調査の新地点が出てから開催するとしていた。玄海町の調査受け入れを受け、片岡町長は6月以降に勉強会を実施する方針を示した。

また北海道の鈴木直道知事は「現時点では」との留保をつけ、概要調査の実施に「反対」の姿勢を打ち出している。一方で「原発の所在の有無にかかわらず、国民的な議論が必要な問題」(2月16日の定例会見)だとして、昨年12月にはNUMOに対し、文献調査報告書の全国的な説明会開催などを求める要請書を提出。「一定程度の全国的な議論が深まった」として概要調査を容認する下準備とも見て取れる。

いずれにせよ、玄海町の文献調査受け入れが最終処分場選定プロセスの前進につながるのは間違いない。

事業の体質強化へ〝治療〟開始 新たな価値提案競争の幕上がるか


【論点】電気事業制度の運用適正化/西村 陽・大阪大学大学院工学研究科招聘教授

2023年末からこの夏前にかけて、電気事業を巡るいくつかの制度が変更された。

これらは日本での電気事業にとって、どのような意味を持つのか。西村陽氏が解説する。

小売部分自由化がスタートした2000年代初頭から10数年間に渡って作られたさまざまな制度が、ここにきて相次いで変更された。これらは、電源をほぼ独占する大手電力会社の市場支配力を削ぐことを目的に、先進諸国には存在しない、もしくは禁止されているルールだ。例えば自己託送は、もともとガスや再生可能エネルギー自家発電が設置場所の需要を上回る供給力が生じた分について送配電ネットワークを使って他の顧客へ提供する利便を与え、なかなかシェアの落ちない電力会社の牙城を崩す、あるいは分散型電源の活用を図るための特例として「自己の拡張」を図るもので、ネットワーク利用ルールの運用上明らかに正統的ではない。

また、小売部分供給は、卸電力取引市場が未発達で水力発電所のような発電計画が立てにくい電源しか持たずに発電・小売市場に参入しようとするプレーヤーへの便宜を図るために、一つのユーザーに電力会社(現旧一般電気事業者小売り)の一部を埋める形で電気を送る(通告部分供給)ことによって新電力の生息領域を確保するものだが、小売電気事業がネットワークに対して果たす責任が曖昧になることを恐れて諸外国では認められていない。加えて、(旧一電の社内取引を卸電力市場を介して行う)グロス・ビディングは、もともとは英国当局が不祥事を起こした事業者へのペナルティとして考え出したもので、市場活性化策として筋は良くない。

電気事業制度適正化/事業者負担増の動き


正統的ではないルール乱用 一部で脱法行為が激増

正統的でないルールは全体の電気事業を律しているルール体系から逸脱しているので監視がききにくく、乱用されると悪い面が出てくる。代表的なのが自己託送制度で、太陽光発電の低価格化やその証書価値へのニーズが高まった2010年代後半以降、一部の事業者によって「自己の拡張」とは全く言えないような組み合わせと制度の使い方で再エネ賦課金を逃れるという、脱法的な事例が劇的に増えてしまい23年末に抜き打ちで運用が適正化された。

一方の小売部分供給は、卸市場の拡大・流動化とともに必要性が薄まったが、思わぬ日本独自の副産物として太陽光のPPA(小売事業者が自社小売供給+自社の設立した別法人から託送した太陽光発電部分を合わせて供給する形態)を産み出した。小売電気事業者と太陽光PPA事業者が同一でないケースについては、小売部分供給の廃止によって事業ができなくなるので、政策当局は別途このケースについて「一需要二供給者」の仕組みを検討することとしている。

こうした制度の適正化と同じタイミングで容量拠出金負担が開始され、事業者によっては厳しい制度変更が同時期に集中したわけだが、政策当局者は「意図したものではなく単なる偶然だ」と言う。いずれにせよ、20年の制度的「膿」がようやく出され、日本の電気事業が治療の過程にあることは確かだ。


残る課題は経過措置規制 電取委の重い宿題

大事なのは、せっかく始まった「治療」をさらにどう進め、体質の良い電気事業にするかということである。その点で小売り・託送関係制度に残った最後の「膿」が、経過措置料金であることは論を待たない。規制約款だけが燃料費調整上限を持ち、燃料高騰時の価格リスクが飛びぬけて小さいこの制度は、家庭用分野の競争をゆがめているだけでなく、昼間の余剰太陽光を活用するような給湯器・蓄電池・EV(電気事業者)最適化電気料金メニューの普及を阻害し、電力システムの脱炭素にとっても壁になっている。

電力・ガス取引監視等委員会は、規制解除の条件として旧一電以外に5%以上のシェアを持つ事業者が二つ以上という条件を設定しているが、LNGのアジアスポットマーケットで中国が圧倒的な長期契約を確保している以上、(その地域のガス会社以外の)新電力が5%のシェアまで成長する間、中国がスポット以上に余剰の安価なガスを放出し続ける可能性は極めて低く、現在の解除条件は経過措置が永続するという間違ったシグナルを出す効果を持っている。

この春始まった電力システム改革の検証の場でもこの点について学識者、新電力から見直しが必要である旨が問題提起された。一度出すと引っ込みがつかない、というのが欧米に比べて日本の電力政策の大きな欠点だが、解除後の貧困層の保護や燃料高騰ショックの吸収手法を含め、後の制度的「膿」の解消・治療のために電取委の背負った課題は極めて重い。

当初から非正統的なルール設定が行われなかったならば、日本の電気事業は今日ずいぶん違う姿になっていたと思われるし、ここ10年の悲惨な予備力縮小や電力危機もなかったかもしれない。参入する事業者は、電源の調達と顧客への価格提示、実供給までの取引調整(ポジション管理)に秀でることや、電気の価格以外の価値提供をどう図るかという世界標準の「良い事業者」を目指しただろう。

時を経て今は、再エネ大量導入、DER(分散型エネルギーリソース)の活用可能性の拡大、さらには脱炭素と、電気事業全体が新しい局面に入った。電気事業制度の適正化は、ユーザーも市場に参画しうまく電気を使うという電気事業の新しい地平、価値提案競争の土台となるものだと言える。賢く、かつ情勢変化に対して謙虚に考え続ける事業者像が求められることになる。

にしむら・きよし 1984年一橋大学経済学部卒、関西電力入社。99年学習院大学経済学部特別客員教授などを経て2013年から現職。公益事業学会政策研究会(電力)幹事。

軒並み減収の23年度エネ決算 利益は明暗分かれ「まだら模様」


主要エネルギー各社の2023年度(24年3月期)連結決算が出そろった。

大手電力10社は販売量の減少などで北海道、関西、沖縄を除く7社が前期比で減収を余儀なくされたが、燃料費調整制度による期ずれ差益などを好材料に、全社が黒字を確保した。また石油元売り、LPガス、都市ガスの主要各社も、本業の販売量の落ち込みなどから軒並みの減収で着地。一方、利益では明暗が分かれ、「まだら模様」の業績となった。

大手電力の最終損益は燃料価格の高騰が響いて前期に8社が赤字となったが、一転して全社が黒字に転換。東京電力ホールディングス(HD)と沖縄以外の8社が過去最高益となった。

中でも東電HDは2年ぶりに黒字に転換し、2678億円を確保。福島第一原発事故に伴う処理費などが利益を圧迫したが、燃料費の下落分を遅れて電気料金に反映する「期ずれ」に伴う差益も膨らみ、利益を押し上げた。北陸電力は能登半島地震の復旧で特別損失を計上したが、黒字に回復。一方で火力発電最大手のJERAも、期ずれ差益などで大幅増益となった。

2年ぶりに黒字転換した東京電力HDの小早川社長

石油元売りも健闘し、大手3社のうちENEOSHDとコスモエネルギーHDが最終増益。中東情勢の緊迫化などを背景に原油価格が上昇した局面で採算が改善した。ただ売上高は販売量減などを受け、出光興産を含む3社ともに減収となった。

大手燃料商社の伊藤忠エネクスも石油販売などのカーライフ事業が業績をけん引し、4・8%の減収ながら最終利益が過去最高を更新した。LPガス大手の岩谷産業も6・4%減収の半面、9期連続で過去最高益を達成。3月に持ち分法適用会社にしたコスモHDの投資利益を計上したほか、産業ガスでの値上げ浸透も収益に貢献した。

都市ガス各社は販売量の不振で、減収が相次いだ。利益面で企業ごとに濃淡が現れ、東京ガスの最終利益は好調だった前期の反動で、前期比約4割減の1699億円と苦戦。対照的に大阪ガスは、約2・3倍の1326億円と大きく伸長した。


経営基盤強化は途上 ガバナンス強化も課題

24年度については、電力、石油、ガスの多くが軒並みの減益を予想。東電HDは柏崎刈羽原発の再稼働時期が見通せないため、開示を控えた。会見した小早川智明社長は一過性の利益で黒字回復した前期の業績に満足せず、「決して経営状況が抜本的に改善されたという状況ではない」と述べた。ENEOSHDの宮田知秀社長は女性への不適切行為でグループ首脳3人が相次ぎ引責したことに触れ、「決算は大きく影響を受けていない。再発防止とガバナンス強化を着実に実行したい」としており、各社とも経営基盤を強化する正念場が続きそうだ。

会見で再発防止に言及したENEOSHDの宮田社長

西条火力1号機をリプレース 「伊方訪問対話」の対面再開


【電力事業の現場力】四国電力労働組合

新型コロナ禍での西条発電所1号機のリプレース工事を予定通り完工。

伊方発電所周辺地域を対象に、対面形式による訪問対話活動を再開した。

昨年6月、西条発電所1号機が最新鋭の超々臨界圧(USC)石炭火力発電へと生まれ変わり、営業運転を開始した。

西条旧1号機は昭和の高度経済成長期に急増した電力需要の増加に対応するため、1965年11月に石油火力発電所として運転を開始。70年代にはオイルショックに直面し、石炭へと燃料転換。半世紀以上にわたり発電を続けた旧1号機だが、経年化が進んだことなどを踏まえ、リプレースを決定。2019年6月に着工した。

西条発電所新1号機

2号機の運転を続ける中でのリプレース工事は大忙し。日常業務をこなしながら、旧1号機の廃止作業と新1号機の新設工事を同時に進める必要があった。組合として苦心したのは職場の安全衛生対策と労働時間管理だ。安全かつ組合員の健康面に配慮しながら、長時間労働が常態化しないよう、所内応援ができるように労使で対話を重ねた。

最も苦労したのは新型コロナウイルス禍への対応だった。海外で製造する機器が各国のロックダウンなどの影響で届かないことも。また感染対策を取っているとはいえ現場は人が密集せざるを得ず、感染者が発生して工程は遅延。だが機器の国内製造への切り替えや作業員の感染拡大防止の徹底、人員増強など関係者が一丸となって遅延を挽回し、当初の計画通りの運開を達成した。

西条発電所新1号機の中央制御室

再エネの最大限導入を目指す中、その出力変動に対応するため、火力発電所は調整電源という重要な役割を担う。今後も、さらなるCO2排出量削減に向けて、アンモニア混焼の導入検討などを加速していく予定だ。


約2万6000戸を訪問 住民と直接関わる好機

四国地域の安定供給を支える「大黒柱」といえば伊方発電所。東日本大震災後、16年に再稼働を果たし、安全・安定運転を続けている。

労使で力を入れるのが、1988年以来、約35年にわたり継続して実施している訪問対話活動だ。発電所から20㎞圏内の約2万6000戸を一軒ずつ訪問し、発電所に関する意見・質問を伺うとともに、安全性に対する取り組みを説明している。

近年は新型コロナウイルス禍により非対面で活動していたが、昨年4年ぶりに対面形式での活動を再開し、延べ1300人の社員が参加した。地域の人々からは、「今後とも安全を最優先に伊方発電所の運営にあたってもらいたい」「透明性の高い情報公開をお願いしたい」といった意見が多くあった。

伊方発電所周辺地域への訪問対話活動の一幕

訪問活動は2人一組みとなり、1日30〜40軒の家庭に足を運ぶ。近年は事業所の統廃合などもあり、地域の人と直接関わる機会が減っている。こうした中、訪問対話活動は地域の人と接点を持つ数少ない機会だ。活動後、若手社員からは「勉強になった」「また参加したい」との感想が聞かれたという。

慣れない土地で普段と異なる活動に従事することで、知らず知らずのうちに疲労が蓄積することもあろう。安全に活動を終えられるよう、組合は活動拠点への陣中見舞いを実施。従事する社員を激励した。

4年ぶりに地域住民との直接対話による実施が叶った訪問対話活動。伊方発電所の安全・安定運転には、地域との信頼関係が大前提だ。今後も地域との信頼関係の要である訪問対話活動を継続し、受け継いでいく。

「蓄電池」多数落札の落とし穴 脱炭素電源投資促す目的果たせるか


脱炭素電源による供給力確保を目指し、容量市場の一部としてスタートした長期脱炭素電源オークション。

初回は多くの蓄電池案件が落札。第二のFITになりかねないとの懸念が高まっている。

「まるで再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)制度の二の舞。いや、高いとはいえFITは発電するだけマシで、これでは脱炭素にも供給力にも貢献しない設備の費用を国民に負わせるだけだ」

電力業界関係者がこう憤りを見せるのは、4月26日に電力広域的運営推進機関が公表した長期脱炭素電源オークションの初回(2023年度)約定結果についてだ。その内訳を見ると、30件という蓄電池の落札案件の多さが目を引く。

今回、揚水・蓄電池は100万kWの募集上限に対し、それを大きく上回る539・7万kWが応札。脱炭素電源の新設・リプレースの落札案件が少なく全体の募集容量400万kWに満たないことから、66万kWが追加約定された結果、揚水・蓄電池合わせて166・9万kW、蓄電池だけで109・2万kWと、同枠の当初の上限を上回る容量を落札することになった。

2023年度の約定結果 ※2023~25年度の3年間の募集量
出典:電力広域的運営推進機関


要件を満たせるのか 蓄電池案件への懸念噴出

脱炭素社会に向けた再エネ利用の最大化には、基盤インフラ設備として蓄電池が果たす役割は大きい。一体何が問題視されているのか。

今回、案件ごとの落札価格は明らかにされていないが、1kW当たり2万4000~2万5000円辺りが当落水準と目される。容量拠出金として最終的には需要家が費用を負担する以上、安い案件から落札されるのは当然だ。だがアグリゲーター事業者の一人は、「極端なことをしない限り無理がある価格設定で、20年間要件を満たし続けることはおろか、きちんと稼働するのかさえ怪しい」と訝しむ。

しかも、落札事業者として名を連ねるのは、一部を除き業界関係者でさえ初めて見るような外資系企業。大手電力関係者は、「そもそもまともに動かす気がないのではないか」と見ており、「需給調整市場や卸電力市場で約定しないよう、高額で売り入札すれば利用率を下げられる。あとは故障する前に売却してしまえばいい。それが悪いというのではなく、それを許容してしまっている制度側の問題だ」と指摘する。

いずれにしても、蓄電池に絞って見ると、長期にわたって脱炭素電源による供給力を確保するという同オークションの目的から大きく乖離してしまったというのが電力業界の大方の評価のようだ。

既に第2回オークションの募集要項策定に向けた検討が始まっているが、業界からは、「規律を厳格化するか、一層のこと脱炭素オークションから蓄電池を除外するべきだ」、「揚水のリプレースがままならなくなれば、需給安定にも悪影響をもたらす。少なくとも揚水と蓄電池の枠を分けるべきだ」といった、抜本的な制度見直しへの要望が聞こえてくる。

一方で、中国電力の島根原子力発電所3号機(130万kW)が落札したことに、資源エネルギー庁も業界関係者も胸をなでおろしているだろう。「島根3号がなければ、脱炭素オークションの結果はさらに悲惨なものになっていた。水素やアンモニアは不確実性が高く、現時点で脱炭素に資する大型電源は原子力だけなのだから」(前出の大手電力関係者)

初回は、建設工事途中も含めた新設・リプレースのみが応札要件だったが、次回以降は、既設の安全対策投資についても対象とすることが検討の俎上に上がっている。各原子力事業者がそれを受けてどういった動きを見せるのか、注目される。

将来の脱炭素化を条件に、脱炭素電源とは別枠で募集されたLNG専焼火力も予想外の展開となった。3年間で600万kWを上限としていたにもかかわらず、初回で575・6万kWが落札しほぼ枠を使い切ってしまったのだ。

火力電源投資のボラティリティの高さから各社が躊躇していた投資判断を後押ししたことは、脱炭素オークションの大きな成果だと言えるだろう。再エネ拡大に向けた調整力確保のためにも、次回以降の募集要項策定ではLNG専焼火力の枠をさらに拡充することも論点となる。


業界に衝撃与えた JERA奥田社長の発言

容量市場が単年度を対象とするのに対し、脱炭素オークションは原則、20年間にわたって固定費水準の容量収入が保証されるスキーム。その代わり、スポット市場や非化石価値取引市場などから得られる収益の9割を事後的に還付することが求められる。

広域機関が19~23年度の5年間のスポット価格を基に還付額控除後の約定総額を試算したところ、脱炭素電源はマイナス43億~1560億円、LNG専焼火力はマイナス3163億~1062億円となった。落札事業者は市場価格が低迷すれば容量収入を得て、高水準となれば還付金を納付することにはなるが、市場からの収入で利益を得られる。同機関の山次北斗企画部部長は、「結果として、脱炭素オークションは電源投資を行う発電事業者にとってある種の保険のような役割を果たす面もあると考えられる」と、その意義を語る。

ところが、JERAの奥田久栄社長が5月16日の記者会見で、落札した知多火力発電所7、8号機について「投資意思決定をしたわけではない」と発言した。燃料費などの変動費回収リスクは全て事業者が負うことになり、9割還付のルールの下では投資回収が不透明だというのがその理由だ。

この発言は業界関係者を相当驚かせた。「9割還付は制度の前提である上に、還付しなければならないということは、それだけ市場が高騰し稼げる自信があるということではないのか」と、奥田社長の真意を図りかね一様に首を傾げる。

何はともあれ、確実な供給力の確保策へ、まだまだ試行錯誤が続くことになりそうだ。

2040年のビジョン策定へ GX新戦略・エネ基議論が始動


政府が2040年に向けたエネルギーと産業の新たなビジョンづくりに動き出した。「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」、そしてエネルギー基本計画の改定が5月中旬にそれぞれスタート。エネルギー安全保障の重要性が一層増す中、急増が見込まれながらも、予測が難しい将来の電力需要を見据えた政策の在り方を示す。

国内の電力需要は約20年ぶりに増加に転じる見込みで、電力システム改革で想定外の変化が生じている。また、政府は現状を放置すればGXとDX双方に関する貿易赤字が定着するとの危機感も示す。そうした中、5月13日のGX実行会議で岸田文雄首相は、新たなビジョンについて「経済社会全体の大変革と脱炭素への取り組みを一体的に検討し、40年を見据えたGX国家戦略として統合していく中で、官民が共有する脱炭素への現実的なルートを示すものにしたい」と述べた。

エネ基改定キックオフの基本政策分科会であいさつする斎藤経産相(右から3人目)

エネルギー関連では、電力需要の増大に備え、投資回収の予見性が見えにくい脱炭素電源の投資促進や、送電線整備の方向性などを検討。水素・アンモニアなどの供給確保、トランジション期の化石燃料や関連設備の維持・確保といった課題の検討も深める。このほか、GX関連の産業立地、産業構造、市場創造の在り方を議論する。


従来の手法に捕らわれず 今回のミックスの行方は

並行してエネ基改定も進む。15日には総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)を開催。斎藤健・経産相もDXの進展を念頭に「それに応えられる脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右するといっても過言ではない」「日本はエネルギー政策における戦後最大の難所にあるとの強い危機感を持っている」などと強調した。

①需要側のGX・省エネ、②電源の脱炭素化、系統整備・蓄電池、③重要鉱物、脱炭素燃料を含む資源戦略、④電力システム改革、エネルギー事業環境整備、⑤エネルギーミックスの在り方―と、網羅的な論点を想定。電源に関して委員からは、引き続き再生可能エネルギー拡大や石炭火力フェードアウトの加速を求める声がある一方、原子力の再稼働・新増設などの明確化や、火力の重要性を再認識すべきといった意見も目立った。GX会議で岸田首相は「単一の前提ありきでエネルギーミックスの数字を示す手法には限界がある」と述べており、どんな形に決着するのか注目される。

ほかにも委員からは多様な意見が出た。澤田純・NTT会長は、国際競争力の向上に向け、広域系統の増強や蓄電所併設といった「電力システムの安定性や柔軟性を高める努力」を要望した上で、「電力会社の体制もより広域化するなど検討していくべきではないか」と提起した。

【マーケット情報/5月31日】欧米下落もドバイ上昇、方向感欠く


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が小幅下落。他方、中東原油を代表するドバイ現物は小幅上昇。強弱材料が混在し、方向感を欠く値動きとなった。

米国の週間ガソリン在庫は増加し、3月22日の週以来の最高を記録。輸入が輸出を上回ったほか、国内需要が後退した。軽油在庫も、過去3か月で最高となった。また、ジェット燃料在庫も過去約7か月で最高。生産増加が、過去5か月で最高となった需要を上回った。これら石油製品在庫の増加が、原油価格に対する下方圧力となった。ただ、原油在庫は、製油所における原油処理量の増加を受けて、減少している。

一方で、供給減少の見通しは、価格に対する強材料として働いた。英国のバザード油田が計画外停止。詳細は非開示だが、供給減少が見込まれている。加えて、イエメンを拠点とする武装集団フーシは紅海にて、28日に対艦弾道ミサイルを発射。中東地域の治安悪化、それにともなう供給不安が一段と強まった。

さらに、市場参加者は、OPECプラスが協調減産を6月以降に延長すると予測。実際、OPECプラスは6月2日の会合で、一部加盟国による自主的減産を含む現行の協調減産すべてを、来年まで継続することで合意した。


【5月31日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.99ドル(前週比0.73ドル安)、ブレント先物(ICE)=81.62ドル(前週比0.50ドル安)、オマーン先物(DME)=82.08ドル(前週比0.34ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.89ドル(前週比0.45ドル高)

【特集2】非可食由来バイオエタノールに注力 日米で商用生産への取り組み加速


【住友商事】

国内外でバイオエタノール市場の開拓を目指す住友商事。

米国では航空燃料用途の拡大に貢献することを狙う。

住友商事は社会のカーボンニュートラル化への貢献に資する取り組みの一つとして、バイオマス関連事業におけるバイオエタノール、バイオジェット(SAF)、バイオガスの3品目に注力している。このうちバイオエタノールでは、主に日米で次世代品として注目を集める木質バイオマスなどを利用したセルロース系バイオエタノールの実用化を進める。

国内では2023年2月、日本製紙とGreen Earth Institute(GEI)の2社と協業した。具体的には、日本製紙の工場内で年産数万㎘の国産材由来のパルプを基に、非可食バイオエタノールを27年度に製造開始する計画。パルプの前処理は製紙もエタノールも酷似する。日本製紙のノウハウにより、製造コスト低減を図る方針だ。

左から木質チップ→パルプ→糖化発酵培養液→バイオエタノールの順で作られる
提供:日本製紙/GEI

同プロジェクトは通称「森空プロジェクト」と呼ばれる。森林資源事業ユニットの大森夏樹副ユニット長は「森林循環に寄与すると同時に、国産SAFへの利用を想定していることから名付けられた。エネルギー安全保障や自給率向上といった問題解決の可能性を探っている」と、新たな価値創出にも期待する。


米国では豊富な間伐材を利用 森林火災低減にも貢献

米国では同年8月、住商の現地法人とバイオエタノール製造事業者Axens North America、バイオ事業者Allotrope Partnersが連携し、カリフォルニア州で木質バイオマス由来のバイオエタノール商用生産に向けた共同調査を始めた。木質バイオマスから直接バイオエタノールを生産。間伐材や農業残渣などを利用した地産地消を前提として、年間生産量約6万tを狙う。近年、同州内は森林火災が深刻で、この防止を目的とした間伐数量の増加が見込まれる。同プロジェクトでこれを活用する計画だ。「米国は制度設計や補助金の仕組みがしっかりしているため事業性が見込める。米国が目指す50年に航空燃料の100%SAF化にも寄与していきたい」。バイオマスエネルギー事業ユニット第二チームの中島崇全チームリーダーはこう語る。

同年10月にはアジア最大のエタノールトレーダー韓国KC&Aと基本合意書を締結し、日本のバイオエタノールの用途拡大や安定供給に共同で取り組むことにした。セルロース系バイオエタノールの実用化を進めながら、普及に向けた流通インフラを整備していく。