【論点】制度変更と電気料金〈最終回〉/伊藤菜々・電力系ユーチューバー(電気予報士)
再エネ賦課金は、FITやFIP制度を適用した再エネや市場価格に左右される。
その価格決定の仕組みと2024年度の単価を解説する。
2012年度に始まり22年度まで再生可能エネルギーの増加に伴い上昇してきた「再エネ賦課金」。FIT(固定価格買い取り)やFIP(フィードインプレミアム)制度を適用している再エネへのプレミアム支払いの原資になっている。この再エネ賦課金の単価は、FITとFIPの費用から回避可能費用を差し引き、事務費用を足した金額を全ての小売電気事業者が販売した販売電力総量で割ることで算出される。
回避可能費用とは、電力会社がFIT電気を買い発電・調達をせずに済んだことで支出を免れた費用を意味し、現行では市場価格がそれに相当する。つまり、再エネ賦課金単価の決定には、再エネ買い取り総額と市場価格、そして販売電力量の三つが大きく関わっているということになる。
24年度は3・49円 前年度比2・09円値上がり
再エネ賦課金は年に一度、5月に改定される。今年度の単価は昨年度から2・09円上昇し3・49円となった。再エネ賦課金を算出する際の分子となる買い取り費用が増大した一方で、分母に当たる市場価格(回避可能費用)が下がり、販売電力量がさほど変わらなかったためだ。

図のグラフは、21~23年度の市場価格の全国月間平均価格の推移である。21年度(つまり22年度の再エネ賦課金を決める際の回避可能費用)の水準からして、24年度の再エネ賦課金が22年度の水準に戻ってしまったことの説明が付く。
前述の通り、再エネ賦課金は毎年5月に改定されるが、今年は4月まで国の激変緩和措置で電気代が補助されており、低圧で3・5円/kW時、高圧で1・8円/kW時が値引きされている。5月にもその半額が値引きされるが、6月使用分からは国の補助はなくなる。
5月使用分から再エネ賦課金が値上がりするとなると、6月以降の電気代は、家庭では一気に5円前後/kW時値上がりすることになるわけだ。これは、電気代が10数%も上がる可能性があることを意味し、特に電力使用量の増える夏場には、大きな打撃となる。
では、小売電気事業者が再エネ賦課金の上昇に対して対策することや需要家に対してすべきことはあるのだろうか。
まず、気を付けなければならないのが前述したダブルパンチの値上げの理由や、それがいつから起こるかを事前に需要家に対して周知することである。電気代のお知らせは、現在ほぼ郵送でなく、インターネットのマイページなどで確認する形式になっている。受動的な姿勢でも電気代のお知らせを受けていた時代と違い、毎月の電気代を確認しない人も多いが、そのような中、需要家に重要なメッセージを発信するツールとして、SNSを生かすこともできる。
需要家と密な関係を構築 一方的ではない情報配信を
これは、今回の再エネ賦課金の上昇に伴う周知だけでなく、今後の小売電気事業者のあり方を考えるきっかけにもなる。カーボンニュートラル(CN)に向けて気候によって発電量が変動する再エネの導入を拡大していくには、需要家の行動変容や対策が必須である。そのためにも小売事業者こそが、需要家とのつながりをより密にしていく取り組みや啓蒙活動、デマンドレスポンス(DR)などに応じた場合は、価格で還元できる施策を行う必要がある。
では、再エネ賦課金上昇の具体的な対策は何だろう。再エネ賦課金は系統を通して販売される電力にかかる。そのため、自家消費を増やしてもらうことや省エネをしてもらうことが対策となる。自宅や工場、オフィスの屋根などに太陽光を付け、自家消費を促すことや、既に太陽光が導入されている場合は蓄電池やEVなどを活用して自家消費を増やすことが大事だ。
また、電気の使用量自体が減れば電気代削減にもなるので、使用量の多いエアコンや冷蔵庫などで古い家電を使っている場合は、最新のモデルで省エネ効果の高いものに変えることも大切である。一方、省エネに関しては、いつでもすればいいという時代ではない。再エネ、特に太陽光が増えることで昼間の供給量が余り、夕方の需要増と供給減で1日の中の需給バランスが崩れている。その解決のためには、昼間に出力制御されてしまう太陽光をできる限り使うようにタイムシフトしてもらうためのDRを促すほかない。
小売事業者によっては昼間の時間帯が割安なプランを出していたり、昼間に電気を使うことでポイントをキャッシュバックしたりといった取り組みがある。FITやFIP再エネが発電する限り再エネ賦課金は継続するので、それ自体に働きかけることはできない。
だが、電気を賢く使うことで電気代を下げるよう促すことはできる。需要家が気にしているのは、再エネ賦課金の値上がりよりも電気代全体の水準。だからこそ、需要家と密な関係を構築し、一方的ではない情報配信と、CNを促すための料金プランやキャンペーンの施策が大事である。
