テーマ:GX投資
GX(グリーントランスフォーメーション)政策が着々と進み、さらに政府は2040年に向けた新たな国家戦略を策定する方針だが、GXが真の成長に資するかはいまだ不透明だ。
本施策に潜むさまざまな課題を掘り下げた。
〈出席者〉 A製造業関係者 Bアナリスト Cシンクタンク関係者
―2022年末にGX基本方針が示され、その1年後の分野別投資戦略では、GX経済移行債による投資促進策と支援額を提示した。
A 網羅的で数字の根拠がよく分からないものもある。これでは何も書いていないのと同様だし、全ての取り組みがモノになるわけでもない。支援にメリハリをつけ、必要に応じて組み替えるなど、今後の対応こそ重要だ。
B 基本方針は22分野だったが、その後の投資戦略では大くくり化され16分野に。「次世代ネットワーク」が「再生可能エネルギー」に統合され、「航空機」や「カーボンリサイクル燃料」に入っていた「SAF(持続可能な航空燃料)」は外出して、さらに「カーボンリサイクル燃料」を「水素等」に組み替えるなど、一部扱いが変化した。他方で国土交通省や農林水産省の提案を中心に姿を消したものも。モーダルシフト(貨物輸送を環境負荷の小さい手段に転換すること)など期待される領域もあったのだが……。
C 今後10年で官民投資が150兆円、GX経済移行債を20兆円発行予定の中、投資促進策の1回目(22年度補正~23年度当初)では1・6兆円の半分弱をGI(グリーンイノベーション)基金が占めた。今後、実際に分野ごとのバランスがどうなるかが重要だ。他方、20兆円では足りないと「お代わり」がある可能性も。その制度設計もポイントとなる。
B 投資戦略では新たな税制措置も示した。EV、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAFを購入する企業の法人税を控除するものだが、そのためにはGXリーグへの参加がマスト。昨夏JALが一度リーグから離脱したが、税制措置の対象にSAFをピンポイントで入れたのもJALの引き戻し策だったのだろう。こうした対応を見ると、企業が一層内向きになりかねないと危惧している。

不安抱える移行債 推進機構の裁量は
―GX移行債は合計1・6兆円で2月に初めて発行され、24年度は4回発行で計1・4兆円を予定する。先行きをどう見る?
A 政府は「若干グリーニアム(環境債のプレミアム)が付いた」「海外投資家に事前に説明し高評価を得た」などと言うが、現実はプレミアムがほぼ付かず、大部分を日本の金融機関が買い、国内でお金が回っただけだ。
B グリーニアムの件は由々しき問題で、特に5年債は流通市場でのプレミアムはないに等しい。初回は海外で不人気の水素・アンモニアを除外したのに。今後日本のやりたいアイテムを入れるほど、プレミアムが付きづらくなるジレンマがある。また、本来は年間2兆円ずつ発行する必要があるのに、今年度は小分けにし総額を減らす点も、弱気に見える。
C そもそもGXの受け手の土壌が耕されていない。そんな中で移行債の1回目は腰が引けていたが、今後対象に水素・アンモニアを筆頭に化石燃料系を認め、真のトランジションファイナンスにしていければ、GXの突破口となり、民間投資のインセンティブにもなる。日本政府がその点を欧米の金融側などにどこまで訴えられるかにかかっている。
B 移行債は税額控除の税収減の補てんにも使うが、財政論的な問題をはらむ。本来エネルギー対策特別会計の収入になる移行債で、一般会計の減少分を補てんするということは、プライマリーバランスの調整に特会を使うということ。いわば「プライマリーバランス是正詐欺」と市場から見られ、日本の国債全体の信用問題になる可能性すらある。
―先行したGXリーグでは、25年度までの第一フェーズで自主的なJクレジットの市場取引が行われている。第二フェーズでは超過削減枠の取引、第三フェーズでは発電事業者の有償オークションと、規制を強める。
A GXリーグのポイントは、26年度からのETS(排出量取引)の本格稼働でどこまで強制的なシステムとするかが全てだ。EU―ETSは政府が目標を設定し、未達の罰則規定もある。日本ではどうなるのか、参加企業は戦々恐々だ。他方、自社目標を超過達成した企業から枠を買ってオフセットしても、国全体の削減量が上積みされるわけではない。
B 根本的にこの制度が日本全体の削減に効果があるのかはやはり疑問。事実上、リーグへの参加が政府支援を得る条件になっている。
C 現状はそもそもJクレの玉が少ない中、マーケットメイカーを導入しても実質的には少数が9割方取引しているような状況にある。また、第一フェーズでは第三者が削減量の検証を行うが、京都議定書時代の知見が失われており、人材育成が課題だ。第二フェーズ以降は目標の検証も行うというが、国際的な枠組みでも十分なノウハウが確立されていない。個人的には金融を含めエンゲージメントしながら取り組む形が望ましいと思う。
―そして7月にはGX推進機構が発足し、日本生命保険の筒井義信会長が理事長になる。業務内容は、150兆円の投資実現に向けた債務保証、ETSの運営、化石燃料賦課金の徴収などだが、詳細は明かされていない。
C お金周りは無論、排出権の割り当ての基準作りなどにどこまで関わるか、機構の裁量がまず気になっている。また、メンバーに関して一時はそれぞれ産業界から人を出すような話も聞こえてきたが、結局どうなるのか。
B 機構が積極的に債務保証をハンドリングし、リスクを取ってリターンを得る形を目指してほしい。だが、初回の移行債購入者は、日銀に次いで機構理事長の出身である日生が2番手だったというのが、なんともはや。
A 昨秋時点の経産省の資料には、機構の業務として債務保証のほか「出資・助言等」とあり、ベンチャーキャピタル的な組織を目指すと思っていた。だが最近の資料には出資などは入っていない。債務保証の際は融資する金融機関がプロジェクトを選別することになるが、事業の良し悪しが分かるのか。選別眼のある産業界の人材がいるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業でさえビジネスとして成功するケースは多くなく、機構の人材育成が課題だろう。
C 化石燃料賦課金の徴収事務もある。ただ、国税などの仕組みには載せずに自前で行う必要があり、当面は国税局OBなどを投入するのだろう。再エネ賦課金などと違い対象が多く、その仕組みづくりも大変そうだ。