システム改革によって競争が活性化する一方、安定供給面での課題も浮き彫りに。
有識者・実務家3人が改革の成果と問題点を振り返り、検証への期待や注文を語った
【出席者】
安永崇伸/イーレックス常務取締役
中野明彦/ソフトバンク執行役員GX推進本部長兼エナジー事業推進本部長、SBパワー社長兼CEO
伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

―2015年からの一連の電力システム改革をどう評価していますか。
伊藤 本来、電気事業に関わる制度改革の目的は、いわゆるエネルギー政策の基本である「S+3E(安全性、安定供給性、経済性、環境性)」を確保した上で競争原理をより一層導入し、新規事業者に参入機会を与え、既存事業者の経営の自由度を高めることで電力産業全体の合理化、効率化を進め、その結果として料金の低廉化を図ることにあると理解しています。ほかにも要因があるとはいえ、結果的に料金は上昇しています。経済性を高めるためには、電気事業全体の体質の改善が欠かせませんが、原子力発電所の稼働停止、硬直的な料金制度、近年の燃料価格の高騰などにより多くの電力会社の財務体質が著しく劣化しており、そのマイナスの影響が利用者にも及んでいます。現状、必ずしも期待・目的に沿う成果を挙げられているとは言えないのではないでしょうか。
中野 改革の目的は、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢の拡大、事業者の事業機会拡大―の三つです。必ずしも全てがうまくいっているとは思っていませんが、成果を挙げれば、②については、改革当初に比べデマンドレスポンス(DR)の取り組みが進んでいること、③については、さまざまな事業者が参入し新しいサービスやセットメニューが登場し、需要家の選択肢は増えたことです。私たちのような新規参入者は、この改革を事業機会として自らの得意分野でビジネスを拡大していこうと懸命です。一方で、大手電力会社が事業機会と捉え前向きに取り組んでいるかについては、新規参入者との温度差を感じます。
安永 安定供給の確保が最も大きな論点の一つですが、効率化と投資が絞られることは表裏なので、ある程度想定した通りに効率化が進んだと見ることもできますし、原発再稼働が相当遅れているにもかかわらず、関係者の必死の努力で電力の需給ひっ迫を最小限にとどめていると見ることもできます。完全な市場原理では大型投資は進みませんから、容量メカニズムや電源入札の仕組みなどにより安定供給と競争のバランスを取っていくことが当初から想定され、実際にそのための仕組みが整備されてきました。公式的にはこれから検証されますが、制度設計に携わった立場として、電力ビジネスに関わる多くの人のすさまじい努力によっていろいろなことが着実に進んではきたと評価しています。
―原発の再稼働の遅れや脱炭素の加速による再エネの大量導入など、さまざまな想定外があったことも否定できません。
安永 確かに東日本大震災直後、政策当局は、もっと順調に原発再稼働を進めたいと考えていたと思います。とはいえ、制度はその時々の見通しを前提に決まりますから、必ずしも再稼働の遅れが想定外だったかというと、そうとは言い切れません。再エネについても、政府としてはかなり高い導入目標を以前から掲げていましたので、大量導入そのものは想定外ではありませんでした。ただ、実際に電力システムに統合される中でさまざまな課題が顕在化したというのが実態だと思います。