【特集2】水素社会推進法案が閣議決定 実効的な国家戦略の第一歩


政府は2月13日、水素の供給や利用を促進させる「水素社会推進法案」を閣議決定した。

今通常国会に法案を提出し3月から審議入り、5月の大型連休明けの成立という青写真を描く。

水素社会推進法案はグリーントランスフォーメーション(GX)を実現するためのカギとなるエネルギー源として、CO2排出量の少ない低炭素水素の定義を明確にしたものだ。このほか、供給する企業が複数の事業者などと共同利用することを前提に、パイプラインや輸送タンクといったインフラ整備の費用を支援することを盛り込んだ。普及の障壁になっている割高なコスト負担を軽減する支援策も導入する。今後15年間で官民合わせて総額15兆円を超える投資を実施し、2040年までに水素の利用量を現在の約6倍の規模に引き上げる方向だ。

国会で審議入りする水素社会推進法案

法案の特徴は規制と支援をパッケージにしたことだ。規制面では主務大臣が基本方針を策定する。さらに計画認定制度を設け、供給事業者と利用事業者が地方自治体と連携するなどして、供給計画や利用計画を策定し、国に申請することを求めている。計画認定には安定供給や安全性、経済合理性といった従来のエネルギー源と同様の条件が必要なほか、事業全体が国際競争力に貢献するかという観点も求められる。供給事業者には低炭素水素の導入について自主的取り組みを進めるようにし、国が進捗状況などを確認する。

支援策は計画認定制度が国の条件に合致して認められた場合に受けられる仕組みだ。化石燃料との価格差を原則15年間補填。価格差支援には約3兆円を投じる。財源はGX経済移行債でまかなう。

インフラ整備に必要な資金も支援する。関連設備や港湾での事業場新設、導管の整備などに対しては、高圧ガス保安法や港湾法、道路法での特例措置を設けるなど手厚い。支援を進めることで政府は今後10年間で大都市圏を中心に大規模拠点3カ所程度、中規模拠点5カ所程度を整備する方針だ。


50年に国内供給量10倍 先進国で支援策活発化

23年に6年ぶりに改定した水素基本戦略は九つの技術などを「戦略分野」と位置付けた。水を電気分解して水素を作る「水電解装置」、水素製鉄を念頭に置いた「脱炭素型製鉄」などだ。水素供給の要にもなるサプライチェーンの構築に向けて、海外から水素を運搬する船の大型化などの技術開発への支援を充実させる考えだ。

こうした制度整備を進めることで水素の国内供給量を、30年に現状の1・5倍の年300万t、40年に同6倍の年1200万t、50年には同10倍の年2000万tまで段階的に増やしていく。

水素は次世代エネルギーとして世界的に注目されており、先進国を中心に政府主導で導入支援策を活発化している。

【特集1/座談会】原子力事業の在り方を徹底討論 次期エネ基でGX関連法の反映を!


GXは原子力事業への大きな追い風となったが、まさにこれからの対応が問われる局面に―。

政治家、大口需要家、法律家がそれぞれの立場で、待ったなしの課題を深く論じた。

【出席者】
滝波宏文/参議院議員(自民党)
小野 透/日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行
豊永晋輔/弁護士・キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員

左から順に、滝波氏、小野氏、豊永氏

―皆さんそれぞれの立場でこの10年あまり原子力の問題を見つめてきたと思いますが、今振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。

滝波 私は福井県選出で、まさに3・11を機に原子力発電所の立地地域の声をしっかり国政に届ける必要があると考え、立候補しました。その当初から、現実的で責任のあるエネルギー政策とするため、S+3E(安全性+安定供給性、経済性、環境性)の連立方程式を解くには原子力が不可欠だと訴えてきました。それが認められない状況が長く続きましたが、ようやく昨年、岸田政権でGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針、GX脱炭素電源法と推進法、そしてGX推進戦略と、一連の仕組みを整備できました。再生可能エネルギーに加え、安全確保を前提に原子力も脱炭素電源として最大限活用するという解に、やっとたどり着いたのです。

小野 3・11直後、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本問題委員会の委員長を務めたのが三村明夫・新日本製鉄会長(当時)で、そのバックアップ対応をしていました。原子力のあり方について30数回にわたる会合を間近でつぶさに見ていました。結局、必要派と反対派、両者の合意点は見つかりませんでしたが、その議論を通じて、原子力を捨ててしまっては日本のエネルギーは立ち行かないとの思いを強くしました。

豊永 13年前、当時所属していた法律事務所で、東京電力の責任が原子力損害賠償法下で免責されるかどうか、検討することになり、そこから原子力に関わるようになりました。原子力損害賠償・廃炉等支援機構の設立から関わり、福島にもたびたび赴き、損害賠償の必要性や現実を見てきました。原子力は取り巻く環境が特殊な産業です。しかし少なくとも法律上は、感情論で原子力を扱うことは良くない。こうした状況に対する問題意識を持っています。

【特集1】人材・技術の継承が重要課題に 原子力長期停止の影響を探る


人材や技術の継承は、日本の原子力産業の行方を左右する重要課題だ。

原子力発電の長期停止がサプライチェーンに及ぼす影響を探った。

「3・11後の10年余りは本当に苦しかった」

原子力発電所の周辺機器の設計・製造・メンテナンスを手掛けるメーカーの幹部がこう嘆く。沸騰水型原子炉(BWR)を運転する電力会社から「もうすぐ再稼働するので準備をしておいて」と言われ続けたが、一向に〝その時〟は来なかった。それでも、「ここまで待ったんだから……」と我慢を続けてきた。

BWRの長期運転停止は、原子力の現場にどのような影響を与えているのだろうか―。

原子力事業は約1000万の部品点数を持ち、運転を担う電力会社、定期点検・保守を行う工事会社のほか、ものづくり分野などさまざまな領域で約8万人規模の雇用効果を持つ。部品が数万点の風力発電と比較すると、その規模は実に広範だ。

日本の原子力発電所は国産化率が90%を超え、その技術は国内企業に集積している。サプライチェーンがほぼ国内で完結する意義は、経済・雇用への効果だけではない。為替や国際情勢による影響を受けずに機器・部品などを安定した価格と納期で調達できるなど、原子力産業の維持・発展はエネルギー安全保障の一環でもある。

しかし、わが国では2011年3月の東日本大震災以降、国内で進行・計画中だった新設プロジェクトがいずれも中断。英国やトルコ、ベトナムで計画中の輸出案件も中止・終了した。空白期間の長期化により、川崎重工業(保守管理)や住友金属工業(燃料製造加工)といった大手企業が原子力事業から撤退。従事者も減少の一途をたどる。プラントメーカーにおける建設経験者は、3・11後から21年度までの9年間で約4割減少。建設経験者の年齢層は51歳以上が約半分を占める。

運転・建設のノウハウや技術をどう維持していくか
提供:朝日新聞


廃炉と再稼働対応がメインに 新規プロジェクトの必要性

再稼働が進まず、BWR関連の技術者・技能者の仕事は福島第一原子力発電所の廃炉と再稼働への対応がメインとなった。中でも3・11以降に入社した社員らは、原子力発電所を運転したことがない。震災前に運転や定検、保守、建設などに携わっていた者とは経験面で大きな差が生じている。

とはいえ、現場は十分な訓練を積み、いつ再稼働しても対応できるようにプラントの維持・管理を続けてきた。もちろん再稼働は十数年ぶりになるため、多少の不具合が生じる可能性はある。ただこうした事例は加圧水型原子炉(PWR)でも発生しており、特段大きな問題が起こることは考えにくい。「実際に運転してからでないと身につかないスキルもあるが、再稼働すればすぐに把握・理解できる」(原子力関係者)

【特集1】設備上の要因で複数基同時申請できず BWR再稼働が大幅に遅れたワケ


BWR(沸騰水型原子炉)の再稼働がここまで遅れた背景には何があるのか。

原子炉工学が専門の奈良林直氏は一因として過酷事故時の代替炉心冷却設備の違いを指摘する。

奈良林 直/東京工業大学特任教授

福島第一原子力発電所の事故から13年が経過したが、現在までに再稼働した原発は、関西電力の7基、九州電力の4基、四国電力の1基で、計12基に過ぎない。全てPWR(加圧水型原子炉)である。同じPWRでは、北海道電力の泊原子力発電所3号機の審査が敷地内断層の有無で7年間を費やしたが、現在、津波対策と原子炉本体の安全審査にこぎ着けている。

一方、BWR(沸騰水型原子炉)では、まず柏崎刈羽原子力発電所6、7号機に関し2017年12月27日、原子力規制委員会が安全審査の合格証にあたる「審査書」の発行を正式決定したが、それから既に6年も経過している。続いて、日本原子力発電の東海第二が19年9月、東北電力女川2号機が20年2月26日、中国電力島根2号機が21年6月23日に、安全審査を合格した。

他方、中部電力浜岡原子力発電所は後回しにされ、現在は敷地内断層を考慮した基準地震動の策定がほぼクリアとなり、津波対策や原子炉本体の安全審査が開始されている。東北電力東通1号の審査は、女川2号の再稼働後となる。

BWRの安全審査は1、2基ずつ申請されている


低レベルのマスコミ報道 未申請の大半がBWR

北陸電力志賀2号機は敷地内断層が活断層であるかどうかで審査が停滞していたが、これが動かないと判断されて安全審査が始まっていた。今年元日の能登半島地震で輪島地区は大きな被害があったが、志賀原子力発電所の被害は受電用の変圧器のオイル漏れはあったものの、発電所本体の安全上の問題は発生しなかった。既に耐震補強工事で600ガルから1000ガルへの対応が取られていたからで、サイトの立地選定と耐震補強工事が重要であることが立証された。

外部電源5回線のうち2回線が受電できなくなったが、3回線から受電できており、外部電源喪失に備えて待機している非常用ディーゼル発電機の起動の必要もなかった。外部電源喪失にも至っていないのに、「耐震Cクラスの変圧器なのに損傷した」と報じた読売新聞はじめ、マスコミの勉強不足をさらけ出すような報道に、さすがの北陸電力も正式に抗議していた。再稼働がここまで遅れているのは、低レベルのマスコミ報道などが要因の一つであり、業界や識者の広報力の強化が必要である。

そして電源開発大間原子力発電所は、建設工事中に東日本大震災があり、現在まで工事が中断されたままで、安全審査もまだ本格化していない。工事が完了していないので新設炉扱いなのだ。島根3号機も試運転時の制御棒駆動機構(CRD)の不具合で営業運転に至っていないので、新設炉扱いとなる。

しかし、最新鋭の改良型BWR(ABWR)が運転されずに13年も経過していることは、大きな経済的損失である。

岸田政権は昨年閣議決定したGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針で、安全審査に合格した17基の早期再稼働推進を明言したが、規制委の審査は長期化しており、効率的に行われなければならない。さらに、未申請9基のいずれもがBWRとなっている。これに審査中の10基(建設中を含む)を加えた計19基について速やかに安全審査の手続きを前進・完了させて、わが国のCO2排出削減とGXを推進しないと、世界から非難を受ける。

【特集1】「地震・津波」審査長期化の真相 元規制庁管理官が語る改善策とは


東日本を中心にいまだ多くのサイトが審査の途上にある。想定外に長期化した背景には何があったのか。

原子力規制庁で耐震や地震・津波対策の審査などを担当した小林勝氏が、望ましい規制の在り方を語った。

【インタビュー:小林 勝/TMI総合法律事務所参与】

―審査の長期化には何が強く影響したのでしょうか。

小林 それまでの基準で、津波の評価については地震の付随的な事象であったもの、また火山の影響評価については真正面から捉えていなかったものを新規制基準で整備しました。しかし、地震・津波関係は、近年急速に新たな知見が得られている分野であり、常に新しい論文が発表されており、いざ審査になってみると必要な論文などの精査に規制側・電力会社側ともに相当時間がかかりました。

審査の体制としては、「敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」の存在が挙げられます。原子力規制委員会発足直後、新規制基準の検討と並行して有識者会合がスタート。規制庁では会合準備や現地調査のセッティング、マスコミ対応などに相当の人手や時間を割きました。また会合では、有識者が最終ジャッジしましたが、適切な判断で議論が早く収束する例もあれば、逆も然り。反省すべきは、有識者会合の位置付けが不明瞭だったことです。数年かけ評価書がまとまった後、改めて適合性審査で評価する、といった二度手間が生じました。

さらに、適合性審査では当初、電力会社が規制側の顔色をうかがい、小出しで対応を進め、一方で規制側も、過去の教訓を踏まえ厳格に審査し、間違いは許されないと肩に力が入り、腹の探り合いが延々続きました。ただ、現在は両者が適度なコミュニケーションを取り、徐々に改善が図られているようです。


審査円滑化の仕組み足りず 新たな知見への考え方整理を

―行政手続法ではおおむね2年間で審査することとなっていますが、規制委・規制庁内の認識は?

小林 通常の規制関係の法令では、どのような考え方とプロセスで策定されたか、どのように適用されるかなどを「逐条解説書」で示すことが多いのですが、福島事故後は時間も人手もない中、そうした対応は取れませんでした。

新基準はこのような「逐条解説」が表に出なかったことから、透明性や明確性に欠け、電力会社がその意図を図りかねる場面もあったのでしょう。今振り返ると、基準の透明性を図り、審査を円滑に進める仕組みがあってもよかったのではないかと思います。

―能登半島地震などの新たな知見の規制への反映について、規制側に求められる姿勢とは?

小林 今回の能登半島地震のみならず、将来的にも地震・津波などの分野は常に新しい知見が出てくるので、その対応が必要になります。例えば、仮に津波評価関係で、新たな知見に基づいて津波の高さが現状より高くなる場合、設計基準においては、重要な施設に対して水密扉などの浸水防止設備で対応することも考えた方がいいのでは、と思います。つまり、単に敷地に一切海水を流入させないという現在の「ドライサイト」の考え方やゼロリスク論に関して、改めて論理構成を今のうちから整理しておくべきではないでしょうか。

こばやし・まさる 1978年4月通商産業省入省。原子力規制庁安全規制管理官(地震・津波安全対策担当)、耐震等規制総括官等を歴任。2022年5月から現職。

【特集1】BWR7地点の「現在地」 稼働ゼロにようやく終止符へ


東日本を中心にして全国に点在するBWR7地点の現状はどうなっているのか。

再稼働に向けて先行する3地点のほか、対策工事・安全審査中4地点の「現在地」を紹介する。

現存の原子力発電には大きく分けて、原子炉の中で発生させた蒸気を直接タービンに送り発電するBWR(沸騰水型)と、蒸気発生器で高温高圧の水から発生させた蒸気をタービンに送り発電するPWR(加圧水型)の2方式がある。東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所と同じ炉系のBWRは、新規制基準に基づく適合性審査の遅れなどから長期停止を余儀なくされてきたが、ようやく今年、稼働ゼロの状況に終止符が打たれようとしている。


東北電力 女川/被災プラント「再出発」へ

再稼働への道のりが終盤に近付くサイトの一つが、東北電力女川原子力発電所2号機だ。震災後、緊急的な安全対策工事を実施。そして新規制基準施行後、2013年12月に女川2号機の適合性審査を申請し、約9年半かけ、原子炉設置変更許可、工事計画認可、保安規定変更認可と一連の許認可を取得した。安全対策では地震・津波への備えが非常に重要との考えから、基準地震動を580ガルから1000ガルに引き上げるとともに、想定津波の高さを23・1mと評価した。

工事の特徴は、ほかのプラントでも前例がない、圧力抑制室内の耐震補強工事だ。効率的に現場作業が進むよう、実機模型を製作し工事着手前に技術習得訓練などを行い、着工から約1年6カ月で完了。また、国内サイトでトップクラスの高さの防潮堤(海抜29m、総延長約800m)は、「鋼管式鉛直壁」と「セメント改良土による堤防」で、1000ガルにも耐えられる構造体としている。

9月ごろの再稼働が見込まれる女川
提供:朝日新聞

なお、火災防護対策工事の遅れの影響で、安全対策工事完了は今年2月から6月に、そして再稼働は9月ごろを目指すとしている。同社は、女川2号の運転再開を単なる再稼働ではなく「再出発」と位置付ける。「発電所をゼロから立ち上げた先人の姿に学び、地域との絆を強め、福島事故を教訓に新たに生まれ変わる」との決意を込めている。


中国電力 島根/8月再稼働へ工事佳境

昨年8月、原子力規制委員会から工事計画認可申請に対する認可を受け、9月に「使用前確認申請」を行った中国電力島根2号機。今年8月の再稼働、9月営業運転開始という具体的な工程を初めて示したことで、手続きはいよいよ最終段階に入った。

5月の完了を見据え安全対策工事が急ピッチで進むが、懸念されるのがテロに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)を巡る審査の難航だ。原子力規制庁は昨年10月の審査会合で、特重施設設置位置付近の地質・地層構造の評価に当たり、同社が対象から外していた断層と、新たに確認されたシーム(薄い粘土層)について、追加で基礎データを整理するよう求めた。特重施設には発電所本体の工事計画認可から5年以内という設置期限があり、島根2号機の場合、28年8月までに完成しなければ規制委から運転停止命令が出される可能性がある。再稼働スケジュールを揺るがすものではないが、その後の継続的な運転に支障が生じかねない状況だ。 

この特重施設の対応に区切りが付き次第、同3号機の本体施設に関わる審査対応が本格化する。政府がカーボンニュートラル社会へ原子力の活用を標榜する中、東日本大震災後、初の新規稼働を実現するためにも、慎重かつ迅速な対応が求められている。


東京電力 柏崎刈羽/新潟県知事の判断が鍵

東京電力柏崎刈羽原子力発電所6、7号機は17年12月、新規制基準の適合性審査に合格した。同月、原子力規制委員会は安全性の最優先など「七つの約束」の順守を条件に、東京電力に原子力事業者としての「適格性」を認定。また規制委は20年10月、7号機の設計・工事計画、保安規定の変更を認可した。

しかし一方で20年9月、核物質防護に関して、他人のIDカードを使用した中央制御室への不正入室が発覚。21年3月には原子力規制庁が、侵入検知設備が損傷していながら復旧に長期間を要し、実効性のある代替措置も講じられていなかったことを指摘。規制委は同月、東京電力に事実上の運転停止命令(核燃料の移動禁止措置)を発出し、核物質防護に関わる追加検査などを行っていた。昨年12月に運転禁止命令を解除、東京電力の「適格性」を再判断した。

柏崎市で行われた冬季避難訓練
提供:朝日新聞

再稼働に向けては、地元同意が得られておらず、広域避難計画も未策定だ。地元同意については新潟県の花角英世知事が「県民の信を問う」構えを見せる。

広域避難計画の策定については、除雪時の人員確保や避難道路の整備拡充、鉄道網の活用など実効性の向上が求められているが、昨年12月に国が大雪時対応の全体像を提示するなど策定に向けて前進している。


日本原電 東海第二/「避難計画」がハードルに

日本原子力発電東海第二発電所は18年9月、新規制基準の適合性審査に合格した。10月には規制委が設計・工事計画を認可、11月には運転期間の延長を認めた。現在、今年9月の完了を目指して安全性向上対策工事を実施しているが、防潮堤の基礎で一部不備が見つかり、その原因分析や対策を進めている。

広域避難計画は未策定の自治体があるが、立地する東海村が昨年末に避難計画を公表し、隣接する日立市も年度内に公表する方針を示すなど地域防災の動きが加速している。

しかし、原子力発電所の半径30㎞圏内(UPZ)に含まれる14市町村の人口は約92万人と全国最多。避難計画の実効性向上が課題となっている。茨城県は昨年11月、日本原電の協力を得て、30㎞周辺まで避難・一時移転が生じるような仮想的条件での拡散シミュレーションを公表した。今後、茨城県はこの結果も踏まえて、広域避難計画の実効性向上を図っていくとみられる。

21年3月には、水戸地裁が避難計画の未作成などを理由に運転差し止めを認容する判決を出しており、現在、東京高裁で控訴審が行われている。

【関西電力 森社長】中期経営計画の三本柱で着実に事業を遂行し 財務目標を達成する


電気事業を巡るさまざまな不確実性にさらされる中、原子力の全7基体制を実現し、経営を回復基調に乗せた。

引き続き中期経営計画で掲げた三つの柱を着実に遂行し、自己資本比率を高め、有利子負債を圧縮、計画の完遂を目指し取り組んでいく。

【インタビュー:森 望/関西電力社長】

もり・のぞむ 1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

志賀 2023年度上期の連結業績が黒字転換し、通期見通しについては期初予想よりも売り上げを下方修正したものの、利益を上方修正しました。その背景は。

森 23年度第2四半期は、燃料価格の低下などの一時的な要因に加え、原子力利用率の上昇や電灯電力料収入の増加などが増益に寄与しました。通期では、当初の見通しよりも燃料価格が低く推移しているため、燃料費調整額の減少により販売単価が低下するほか、1件当たりの使用量減が見込まれるため、売り上げは期初予想よりも減収となる見通しです。一方で、燃料価格低下の影響で火力燃料費が減少することで、経常利益は1450億円増の5700億円を見込んでいます。為替・燃料価格の変動による収支への影響は非常に大きく、22年度は円安と燃料費の急騰で相当の期ずれ差損が生じていましたので、二期連続で見ればそれほど利益が増えているというわけではないと認識しています。

志賀 高浜原子力発電所2号機が再稼働し、全7基体制となりました。経営や競争力強化への好影響についてどのように見ていますか。

 23年度業績見通しにおいて、原子力利用率が1%上昇した際の燃料費削減効果を51億円と見積もっています。このように、原子力利用率が上昇すれば火力燃料を焚き減らすことができるのですから、経営に好影響をもたらすことは間違いありません。とはいえ、ここにたどり着くまでに相当な安全対策投資を行っており、財務基盤が毀損した状況にありますので、これを改善することが今後の大きな経営課題となっています。

次代を創る学識者/平野 創・成城大学経済学部経営学科教授


過去に企業が経験した事象の分析は、これからの企業経営にも示唆を与え得る。

脱炭素や人口減少などへの対峙でも、過去の知見の活用が重要だと提案する。

戦後日本経営史を専門とする成城大学の平野創教授は、日本のエネルギー、化学産業、コンビナートの発展などを史的分析し、さらに、その知見をこれからの企業経営にどう生かすかという視点で研究に取り組む。政府の審議会委員などを務め、政策や業界戦略の策定にも広く携わる。

幼少期から、大学の教員であった父や交流のある異分野の研究者に話を聞く機会が多く、自然と自身も研究職を生業にすると決めた。大学では経済学を学ぶが、抽象化してマクロに捉えるより企業ごとの違いに注目したいと考え、大学院では事例研究を扱う経営学を専攻。さらに、ある事象を考察する上では歴史を遡って捉えることが重要と考え、経営史の道に入った。

そして橘川武郎氏(現国際大学学長)のゼミに入ったことが、後の研究者人生に大きく影響する。平野氏は化学企業の多角化や産業政策の歴史を研究。恩師に同行し多数の製造現場や審議会に赴いたことや、ゼミで学外や社会人含め多様な経歴の院生と議論したことが貴重な財産になったという。


過去の事例をCNの参考に 多様性尊重した議論を

いずれの企業もカーボンニュートラル(CN)への対応を迫られる中、「過去に岐路に立った企業の事例を分析し、そこからCN戦略の在り方を考えることが重要だ」と強調する。今取り組むのは、日本の石炭関連企業の終焉についてだ。福岡県の炭鉱経営の事例を比較すると、最後まで本業にこだわり政府方針に沿った社は姿を消し、一方で別の領域に進出した企業は今も生き残っている。「長期の需要予測は難しく、不確実性の高い将来目標に向かうリスクを認識することが不可欠だ」という。

脱炭素の優先度を巡る不確実性も無視できない。①途上国も含めCNを完全達成する、②先進国はCNにこだわる一方、途上国は緩やかに取り組む、③CNの枠組みが崩壊し、温暖化にも適応する技術を持つ国・企業が覇権を握る―という三つの世界観を念頭に置いた企業活動が求められる。

高い理想そのものは問題ではなく、LNG導入や新幹線開発など、先人の努力が現代に恩恵を与えた例は多い。翻って今はCNに注力すべき局面にあるが、「着地点が不透明な中、多様性を認めない風潮は変え、冷静に議論を尽くし企業が腹落ちしてCNに向かうべきだ」。次期エネルギー基本計画の議論でも、日本がどの産業で稼ぎ、それに資するエネルギー政策はどうあるべきか。そしてCNはあくまで要件の一つであると、位置付けを間違えないよう指摘する。

地方との格差拡大への懸念も強い。例えば政府の水素・アンモニア関連の予算規模を見ても、総力戦とはならず、置き去りにされた地方経済が崩壊するリスクもある。地方に目配りするとともに、将来の人口大幅減に対しては「エネルギーはもとより、国土計画として確実な縮小戦略を描き、いかに工夫して『不便化社会』に対応するかが問われている」と訴える。

ひらの・そう 2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。一橋大大学院商学研究科特任講師などを経て、20年4月から現職。政府の「脱炭素燃料政策小委員会」、「石油備蓄のあり方検討会」委員、自動車技術会エネルギー部門委員長なども務める。

【コラム/2月28日】危機感持つ有志が緊急提案「非政府」エネルギー基本計画を公表


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

このたび「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第 7 次エネルギー基本計画)」を公表した(報告書全文 150ページ)。

杉山大志と野村浩二が全体を編集し、岡芳明、岡野邦彦、加藤康子、中澤治久、南部鶴彦、田中博、山口雅之の各氏に執筆分担などのご協力を得た。

以下は要約である。ぜひ7ene@proton.meまでご意見をお寄せ頂きたい。

2024 年は、日本のエネルギー政策の方向性を定める第 7 次エネルギー基本計画の策定の年にあたる。前回策定の第 6 次エネルギー基本計画(21年10月)では、いわゆる 3E+S(エネルギー安定供給、経済効率性、環境、そして安全性)のうち、もっぱら CO2 削減(環境のE)に重点が置かれてきた。

しかし今や内外の情勢は当時とまったく変わっている。

•安全保障状況は、ウクライナ、中東、台湾などを巡り切迫している。

•世界経済は、コロナ、戦争や紛争、米中経済デカップリングなどをうけ、高インフレ、金利上昇、財政難、生産性の低迷、不平等の拡大などの課題に直面している。

•日本経済は、長期にわたり抑制を強いられた賃金水準が上昇へと転じたが、それを持続させながら民需を拡大できるか、デフレ脱却に向けた岐路に立っている。

こうした厳しい現状にありながら、これまで四半世紀以上にわたり推進されてきた低炭素・脱炭素政策の弊害を省みることなく、政府は合理的な根拠もエビデンスを示すこともないままに、GX(グリーントランスフォーメーション)によって脱炭素政策をさらに強化しようとしている。慣性のついてしまった行政府は、巨大な船のように方向転換が効かない。 そこで、危機感を持つわれわれ有志は、「非政府の手による第 7 次エネルギー基本計画」を提案するものである。強く豊かな日本を築くために、これからのエネルギー基本計画は安全保障(強さ)と経済成長(豊かさ)を重視しなければならない。

電力の研究者 知的好奇心でEVを買う


【どうするEV】高木雅昭/電力中央研究所 上席研究員

ある日、妻に「EVがあると停電の時でも電気を使えるの?」と聞かれ、私は「V2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)というEVから家の中に電気を送る装置があればできるよ」と答えた。この会話をきっかけにわが家でEVとV2Hの購入の検討が始まった。私はEVに関する研究はしていたが、車は走ればいいというスタンスだったため、EVを所有していなかった。

EV単体のメリットとしては、ランニングコストの安さや加速性能の良さ、振動や騒音が少ないといった点が挙げられるが、V2Hとセットで考えると、さらに複数の購入動機が加わる。

妻にとっては、停電時でも電気を使用できるという安心感、私にとっては、EVを定置型の蓄電池と捉え、割安な夜間に充電し、割高な昼間に放電することによって経済運用ができるという、知的好奇心が購入動機となる。私の動機は、経済的なメリットというよりは「EVを含むエネルギーシステムを我が家で実証できる」という研究者目線によるものだ。複数の購入動機に後押しされ、EVとV2H、ついでに屋根上太陽光発電(PV)の購入に踏み切ることとなった。

走行以外のEVの価値

さて、EVやV2Hの購入後、運用履歴を確認してみると、V2Hの充放電効率と我が家の電気料金メニューの条件では、充放電による経済的メリットがほとんどないことが判明した。エネルギーシステムの研究者であるにもかかわらず、経済性の検討が不十分であったことが恥ずかしい。この事実に気づいた際、一瞬がっかりしたが、もう一つの購入目的である停電時の電力供給のことを思い出し、気を取り直した。複数の価値があって良かったと安堵した瞬間である。今後は料金メニューの変更を検討するとともに、V2Hの充放電効率が改善することを願う。

EVには走行以外の使い道がある点が面白い。そこで今回、EVの走行以外の価値を表のように整理してみた。定置用蓄電池として捉えた場合と動く蓄電池として捉えた場合、それぞれについて常時と非常時のシチュエーションを想定した。

表の①のうち、PVの余剰電力吸収については、確実に効果を期待できる一方、経済運用については、前半部分で述べたように事前に検討する必要がある。②の停電時の電力供給については、有事の際、確実に役割を果たしてくれるだろう。④の停電している地域への電気の運搬については、活躍度の大きさから、実現すればEV冥利に尽きるといえる。③については注釈が必要である。EVの駐車場所とPV余剰の発生している場所がマッチしていればいいが、EVが移動することで逆にミスマッチとなる可能性も。条件次第だ。

そこで、最後は「EVの充電がPVの余剰電力を吸収することでPVの導入を促進するような、社会全体として最適なエネルギーシステムの構築が望まれる」と研究者らしいコメントで締めくくろうと思う。

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たかぎ・まさあき 千葉県出身。東京大学大学院卒。エネルギーシステムを環境や経済性、持続可能性などの観点から多面的に評価し、代表的な将来シナリオの検証と電力システムの有効性分析を行う。

【米澤光治 敦賀市長】廃炉でもパイオニア精神を


よねざわ・こうじ 1967年生まれ。福井県敦賀市出身。筑波大学大学院修了(理工学修士)。修了後は積水化学工業に入社。帰郷後は原電事業(現・原電エンジニアリング)勤務を経て2015年、敦賀市議会議員選挙でトップ当選。23年の敦賀市長選挙で初当選。

日本原電の関連会社や市議を経て昨年4月、敦賀市長に就任した。

敦賀市のあたらしいステージに向けて、人口減少対策などに力を注ぐ。

福井県敦賀市に生まれ、高校卒業後は筑波大学で化学を学んだ。化学に興味を持つきっかけは、小学生の頃に行った敦賀原子力発電所の見学。記念にアインシュタインやレントゲン、湯川秀樹など原子力の発展に寄与した科学者の評伝が描かれた下敷きをもらった。核分裂の模型を見て感激したことは、今でも鮮明に覚えている。大学卒業後は大手化学メーカーに入社。大阪府などでサラリーマン生活を送った。

2007年に家族と共に敦賀市に戻り、日本原子力発電の系列会社である原電事業(現・原電エンジニアリング)に勤務。東日本大震災が発生した11年は東京に単身赴任中だった。同年に単身赴任を終え再び敦賀市に戻ると、敦賀原発1、2号機が同時に定期点検中。サイト内は人で溢れていた。しかし徐々に福島県への応援や東海原発、柏崎刈羽原発への人員補充などに従業員が派遣され、街の活気が失われていく姿を目の当たりに。こうした中で「市議会議員選挙に挑戦しないか」と声をかけられ、「自分の経験が敦賀市のためになるなら」と立候補を決意。15年に初当選した。

市議を1期務めた後、19年の敦賀市長選で落選するも、昨年4月の同選挙で初当選。再挑戦へと突き動かしたのは「さまざまな物事を前に進めなければならない」「自分が市長になることで、敦賀市民の力を結集させたい」との思いだった。

原子力を巡っては、市長選への準備を進めている途中にさまざまな動きがあった。昨年2月には、政府が「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」を閣議決定。第7次エネルギー基本計画の策定前に原子力政策が前進したことに驚きつつ、「原子力基本法で原発の活用を『国の責務』と記したのは良かった」と評価する。国会でのGX関連法案の議論中に敦賀市長となり、全国原子力発電所所在市町村協議会の会長に就任。「タイミングの巡り合わせが印象深い」

敦賀2号機はデータの不備などで新規制基準の適合性審査が長期化している。「安全性という本質論になかなかたどり着かなかったのは残念だ」とした上で、「しっかりとしたデータが提出され、審査が進んでほしい」と語る。

原子力の活用にはバックエンド問題の進展が欠かせない。関西電力は昨年10月、「使用済燃料対策ロードマップ」を公表した。使用済み燃料の県外搬出は福井県と関電の約束だが、「関電には計画をしっかりと実行に移してほしい」。青森県の六ヶ所再処理工場の稼働に関しては「エネルギー政策の重要なピースを埋めるべく、国の主導で早期稼働を」と切望する。

【マーケット情報/2月23日】欧米原油が下落、需給緩和感が根強い


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物の価格が下落。国際エネルギー機関による石油需要の需給緩和予測が、価格に対する根強い下方圧力となっている。

また、ベネズエラ政府と野党が、12月に大統領選挙を実施すると示唆。米国のベネズエラ産原油に対する経済制裁が一時的に解除され、原油供給が増加する可能性が台頭している。2018年の選挙では、欧米諸国が結果の公正性を認めず、米国の制裁に繋がった。

中国人民銀行は景気刺激策の一環として、住宅ローンに影響を及ぼす、期間5年の最優遇貸出金利(ローンプライムレート)を過去最高の0.25%引き下げ、3.95%とした。金利の下落幅は市場予測を上回る。ただ、景気回復や投資増加への期待感は依然薄い。

一方、中東原油の指標となるドバイ現物は小幅上昇。中東情勢の緊迫化が引き続き、価格の支えとなった。

さらに、米国の原油在庫は、一部製油所の稼働率低迷を背景に前週から増加するも、前年同期比では減少。加えて、ガソリンおよび軽油需要は前週から増加した。


【2月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.49ドル(前週比2.70ドル安)、ブレント先物(ICE)=81.62ドル(前週比1.85ドル安)、オマーン先物(DME)=82.08ドル(前週比0.02ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.36ドル(前週比0.37ドル高)

国内外で愛される「棒ラーメン」 九州発の食文化を共に発信


【エネルギー企業と食】西部ガス×ラーメン

「九州生まれの即席麺」と聞かれて、まず思い浮かべるのがマルタイの「棒ラーメン」だ。発売から今年で65周年を迎える定番商品は、いまや日本全国で愛される存在となった。

福岡県には、名物の博多ラーメンがある。1950年代の博多ラーメンは食堂で食べる高価なもので、一般家庭で頻繁に食べられるものではなかった。そこでマルタイの創業者である藤田泰一郎氏は「食堂で食べるラーメンを家庭でも手軽に食べられるものにしたい」と考え、約2年かけて開発し59年に棒ラーメンを発売した。

棒ラーメンの所以となるストレートの細麺は、ノンフライ・ノンスチーム製法で生麺に近い風味に仕上がっている。スープはポークとチキンをベースにした風味豊かなあっさりしょうゆ味だ。

69年には国内初となるとんこつ味の即席袋麺「屋台ラーメン」を発売した。ご当地シリーズでは、「博多とんこつラーメン」や「熊本黒マー油とんこつラーメン」「鹿児島黒豚とんこつラーメン」「宮崎辛麺風ラーメン」をはじめ、九州地方を中心に多数取り揃える。このほか、長崎県の名物である皿うどん製品や、カップ麺なども発売中だ。

マルタイの主要商品ランアップ

同社の製造工場は福岡県と佐賀県に3拠点ある。製造において要となるのが麺の乾燥工程だ。麺の内側がしっかり乾燥していないと保存期間が確保できない。また、麺の外側が乾きすぎるとひび割れてしまう。マルタイの飯田健三マーケティング部長は「麺の内側と外側を均一に乾燥させるのは難しくノウハウの塊」と話す。

安心安全についても細心の注意を払う。ラーメンや皿うどんなどは製造後、X線検査や金属探知、重量検査などいくつもの検査工程を通る。

2007年には、西部ガスが筆頭株主となった。西部ガスは低炭素な天然ガスへの燃料転換を推進しており、食品工場などにコージェネなどガス設備の導入を積極的に行ってきた。また、収益力の強化を図るため、中華料理レストランやレタスの栽培・販売事業など、多岐にわたり新規事業を手掛け始めた。そうした中、マルタイが目にとまった。

西部ガスホールディングス経営戦略部の松田和俊マネジャーは「マルタイは長年九州で愛された個性豊かな企業。共に地元九州を盛り上げていきたい」と語る。

マルタイは「九州の味を全世界へ」をモットーに、世界の食文化の一つとしてラーメンを広めていくことを目指している。

【需要家】トップランナー制度の貢献 DR対応機も重要


【業界スクランブル/需要家】

経産省の省エネ小委で給湯機器の非化石転換を図る新たなトップランナー制度が議論されている。電力分野の非化石比率向上が先行しているが、2030年のCO2削減目標達成には、熱分野の非化石比率拡大が不可欠である。環境意識が高くない「市場を代表する需要家」は経済性で判断するものだ。エアコン分野で低効率機器を市場から排除した「トップランナー制度」でのメーカー側対策は極めて有効である。

当該小委の中で、日本ガス石油機器工業会が「企業ごとの目標値の設定」を訴求したが、ガス給湯機器とエコキュートのメーカー比率だけでなく、ハイブリッド給湯機器にガス機器メーカーが多いことも示すべきとの委員の指摘があった。太陽熱温水や石油温水も恣意的に外して示しているが、エコキュートを初めて市場投入したのは石油給湯機器メーカーのコロナである。

また、欧州の燃焼機器メーカーの多くもヒートポンプ給湯機器を市場投入しており、各社は自主的に非化石機器投入を判断してきたとも言える。各社の非化石比率拡大が最重要であり、メーカーへの生産設備新設補助金などの支援策も検討すべきである。なお、「住宅用Webプロ」の活用が検討されているが、建築義務化基準として安全側算定に寄り、電力の一次エネ原単位も古い値で算定するツールを、どのように総合指標に活用するかは議論が必要である。

COP28では「世界全体で再エネ3倍、エネルギー効率改善率2倍」への努力が合意された。再エネ電源の大幅拡大には、系統安定化のためのDRを具備した機器普及もより重要となる。

本総合指標にDR機器比率を考慮することも、当該合意の実現に貢献することになり、日本全体の非化石比率を拡大させる施策となる。(S)

150兆円投資のGX戦略始動 脱炭素と成長の同時達成は可能か


【多事争論】話題:GX投資への政府支援

政府は昨年12月末、GX投資促進に向けた分野別投資戦略を示した。

脱炭素と経済成長の同時達成を目指す戦略を、専門家はどう見ているのか。


〈 脱炭素の対欧米競争で勝ち目薄く 思い切った絞り込みで投資支援を 〉

視点A:山本隆三/国際環境経済研究所所長 常葉大学名誉教授

2011年にノーベル経済学賞を受けたトーマス・サージェント・ニューヨーク大学教授がカリフォルニア大学バークレー校の08年の卒業式で行ったスピーチは、経済学を12の点に要約したことで有名だ。その要点の最初は「望ましいことの多くは実現可能ではない」―だ。

さて、脱炭素のため日本政府が取り組むGX(グリーン・トランスフォーメーション)は望ましいことに違いないが、実現可能だろうか。GXについて多くの説明は不要だろう。エネルギーの安定供給を前提に脱炭素への移行と経済成長を同時に達成するとした基本方針だ。省エネの徹底、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力発電の活用、水素利用などが謳われている。

10年間で150兆円を超える投資が必要とされ、23年度から20兆円のGX経済移行債を10年間にわたり発行。28年度からの燃料賦課金と33年度から発電事業者に割り当てられる排出枠に基づく特定事業者負担金で償還する。20兆円の先行投資により民間投資を引き出す試みは目新しいが、国際競争を勝ち抜くことができるだろうか。

脱炭素目標をテコに経済成長を狙うのは、米国も欧州連合(EU)も同じだ。米国が22年に導入したインフレ抑制(IRA)法に対抗し、EUは23年2月にグリーンディール産業政策を打ち出した。再エネ設備、水素製造、蓄電池、EV、原子力発電など脱炭素のための技術開発、設備製造を支援する。中国の存在もある。国内に世界最大の市場を作ることで再エネ設備と蓄電池、EV市場で覇権を握った。

大きなイノベーションがない限り、脱炭素によりエネルギー価格は上昇し経済にマイナスの影響を与える。各国とも経済成長によりそれをある程度打ち消せると想定しているようだが、日本の事情は異なる。マクロで見ると、30年前は世界経済の18%あった日本の国内総生産(GDP)は、今や4%。さらに少子高齢化により、70年の人口は今から3割、労働力人口は4割減少する。大きく縮小する市場では大きな成長は期待できない。