【特集1/座談会】経産省の検証作業を一刀両断 不可欠な需要家目線の議論


システム改革によって競争が活性化する一方、安定供給面での課題も浮き彫りに。

有識者・実務家3人が改革の成果と問題点を振り返り、検証への期待や注文を語った

【出席者】
安永崇伸/イーレックス常務取締役
中野明彦/ソフトバンク執行役員GX推進本部長兼エナジー事業推進本部長、SBパワー社長兼CEO
伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

左から順に、伊藤氏、中野氏、安永氏

―2015年からの一連の電力システム改革をどう評価していますか。

伊藤 本来、電気事業に関わる制度改革の目的は、いわゆるエネルギー政策の基本である「S+3E(安全性、安定供給性、経済性、環境性)」を確保した上で競争原理をより一層導入し、新規事業者に参入機会を与え、既存事業者の経営の自由度を高めることで電力産業全体の合理化、効率化を進め、その結果として料金の低廉化を図ることにあると理解しています。ほかにも要因があるとはいえ、結果的に料金は上昇しています。経済性を高めるためには、電気事業全体の体質の改善が欠かせませんが、原子力発電所の稼働停止、硬直的な料金制度、近年の燃料価格の高騰などにより多くの電力会社の財務体質が著しく劣化しており、そのマイナスの影響が利用者にも及んでいます。現状、必ずしも期待・目的に沿う成果を挙げられているとは言えないのではないでしょうか。

中野 改革の目的は、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢の拡大、事業者の事業機会拡大―の三つです。必ずしも全てがうまくいっているとは思っていませんが、成果を挙げれば、②については、改革当初に比べデマンドレスポンス(DR)の取り組みが進んでいること、③については、さまざまな事業者が参入し新しいサービスやセットメニューが登場し、需要家の選択肢は増えたことです。私たちのような新規参入者は、この改革を事業機会として自らの得意分野でビジネスを拡大していこうと懸命です。一方で、大手電力会社が事業機会と捉え前向きに取り組んでいるかについては、新規参入者との温度差を感じます。

安永 安定供給の確保が最も大きな論点の一つですが、効率化と投資が絞られることは表裏なので、ある程度想定した通りに効率化が進んだと見ることもできますし、原発再稼働が相当遅れているにもかかわらず、関係者の必死の努力で電力の需給ひっ迫を最小限にとどめていると見ることもできます。完全な市場原理では大型投資は進みませんから、容量メカニズムや電源入札の仕組みなどにより安定供給と競争のバランスを取っていくことが当初から想定され、実際にそのための仕組みが整備されてきました。公式的にはこれから検証されますが、制度設計に携わった立場として、電力ビジネスに関わる多くの人のすさまじい努力によっていろいろなことが着実に進んではきたと評価しています。

―原発の再稼働の遅れや脱炭素の加速による再エネの大量導入など、さまざまな想定外があったことも否定できません。

安永 確かに東日本大震災直後、政策当局は、もっと順調に原発再稼働を進めたいと考えていたと思います。とはいえ、制度はその時々の見通しを前提に決まりますから、必ずしも再稼働の遅れが想定外だったかというと、そうとは言い切れません。再エネについても、政府としてはかなり高い導入目標を以前から掲げていましたので、大量導入そのものは想定外ではありませんでした。ただ、実際に電力システムに統合される中でさまざまな課題が顕在化したというのが実態だと思います。

【特集1】目的達成にほど遠い電力改革 期待と不安が交錯する検証議論


2015年度にスタートした電力システム改革は現状、その目的の達成に近付いているとは言い難い。

エネルギー業界内外が検証議論に大きな関心を寄せる中、有効な道筋を示すことができるか。

「電力システム改革によるメリットにばかり注目し、低減すべきリスクへの配慮が不足していたのではないか。事前の検討が十分だったのか、検証と反省が必要だ」―。

電力システム改革の検証作業に着手した総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会の2月27日の会合の一幕。有識者へのヒアリングに登壇した国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏は、一連の改革についてこう指摘し、抜本的な見直しの必要性を強調した。

システム改革は、「電力広域的運営推進機関設立による広域系統運用の拡大(2015年)」「小売事業の全面自由化(16年)」「法的分離方式による送配電部門の中立性の一層の確保(20年)」の3段階で進められてきた。欧米諸国の先行事例をモデルにした制度変更を通じて効率的、競争的な電力市場を整備し、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大―の三つの目的の達成を目指したのだ。

電源投資促進の有効な手立てとは

だが、東日本大震災後の13年2月の電力システム改革専門委員会の報告書を受け、同年4月に「電力システム改革に関する改革方針」が閣議決定されてから10年が経過、改革の前提条件はさま変わりしている。再生可能エネルギーの大量導入に伴う供給網の脆弱化、ウクライナ戦争を契機とする燃料価格や電気料金の高騰と需給ひっ迫といった、国内外の環境変化がもたらすリスクが顕在化し、目的達成はおろか、安定供給が揺らぎかねないのが実情だ。

改革の〝成否〟を巡るエネルギー業界関係者や学識者、有識者の意見はさまざまだが、現行の電力システムが安定供給面で危機的だとの認識は一致している。同検証に求められているのは、新たなリスクを踏まえつつ、将来のさらなる環境変化を見据え、安定供給確保に向けたシステムの再構築に道筋を付けることにほかならない。

【マーケット情報/3月28日】原油上昇、ひっ迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給ひっ迫感の強まりを背景に、主要指標が軒並み上昇。米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物は28日、それぞれ83.17ドルと87.48ドルの終値を付け、前日から2ドル近く上昇した。

2月の英国における産油量が減少を示したことで、市場では需給の引き締まりが意識された。英国の産油量は2月、日量59万1,000バレルとなり、前月から2%減、過去5カ月で最低となった。また、米国における石油のリグ稼働数減少も、ひっ迫感を強めている。石油リグの稼働数は506基となり、前週から3基の減少となった。

加えて、中東での地政学的リスクも引き続き、上方圧力として働いている。イエメンを拠点とする武装集団フーシは紅海で、中国籍タンカーを攻撃。タンカーの航行は継続するも、供給不安が一段と広がった。

一方、ロシアからの原油の海上輸出が、大幅に増加する可能性が台頭している。ドローン攻撃を受けたことによる、製油所の稼働停止が背景にある。価格上昇を幾分か相殺した。


【3月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.17ドル(前週比2.54ドル高)、ブレント先物(ICE)=87.48ドル(前週比2.05ドル高)、オマーン先物(DME)=85.85ドル(前週比0.71ドル高)、ドバイ現物(Argus)=86.28ドル(前週比1.00ドル高)

*29日は休場のため、28日を最新価格として表示しております。

【北陸電力 松田社長】能登と「こころをひとつ」に 地震からの復旧・復興へ グループの総力を挙げる


2024年元旦、能登を中心とする北陸地方を最大震度7の巨大地震と津波が襲った。

損傷した電力インフラの復旧に全力を挙げつつ、財務基盤の強化、脱炭素化、新事業領域の拡大という三つの柱に注力し持続的な経営を実現する。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 元日に能登半島地震が発生し、2024年は非常に大変な幕開けとなりました。

松田 最大震度7を観測した今回の地震は、度重なる余震や降雪により能登地域を中心に家屋の倒壊や道路寸断といった深刻な被害が発生するなど、われわれがかつて経験したことのない「未曽有の災害」となりました。

当社は迅速な災害体制を敷く観点から、震度6以上で最寄りの事業所へ自動出社するルールを設けていますが、家屋の損壊など自らも被害に遭った中で、家族・親族の最低限の安否を確認した上で、多くの社員が駆け付けてくれました。幸い全ての社員にけが人はいませんでしたが、今も避難所から出社している社員もいます。

志賀 当初は被害状況の把握が難しく、対応は困難を極めたのではないでしょうか。

松田 元日の夕方に発生した地震ではありましたが、発災直後に私を総本部長とする「非常災害対策総本部」を立ち上げ、午後6時には全役員がそろって最初の対策会議を開きました。最も被害が大きかった能登エリアの事業所ともテレビ会議をつなぐことができたため、道路の損壊状況など限られた情報の中でも早い段階から現地の情報を得ることができたのは非常に良かったと思います。とはいえ、地震直後は現地に立ち入ることもままならない状況の中、陸路に加えヘリコプターや船を利用するなど、関係各所と連携しながら電力設備の巡視や点検を実施し、状況把握を行うことから始まりました。

発災直後に非常災害対策総本部を立ち上げた

設備の復旧作業に当たるのは、主に北陸電力送配電および協力会社ですが、24時間体制の燃料補給や食料・車両の手配などの後方支援を北陸電力の社員が一手に担い、自治体の復旧拠点・医療機関・福祉施設や各地域の避難所など、まずは人命に関わる場所へ優先的に高圧・低圧発電機車を配備するなど、当社グループ一体となって電気の供給再開を急ぎました。

余震や降雪などの影響で新たな停電が発生したこともあり、延べ約7万戸が停電しましたが、国や自治体、自衛隊などとも連携し道路啓開に合わせた復旧作業を昼夜問わず進め、土砂崩れや道路損壊による立ち入り困難箇所、地震・津波・火災により建物に甚大な被害を受けるなど早期の復旧が見通せない一部の地域を除き、1月中には停電は概ね解消しています。これは当社グループだけの力ではなく、協力会社の皆さんや全国の電力会社の皆さんに応援に駆けつけていただいたおかげであり、大変感謝しています。

【日本原子力発電 村松社長】東海第二・敦賀2号で動き リプレースで貴重な資源をどう生かすか


東海第二や敦賀2号を巡り、昨年は転換点となる動きがあった。

政府が掲げるリプレース政策でも敦賀3、4号の動向が注目を集め、GXでの役割が一層高まっている。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる 1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 昨年、東海第二発電所の安全対策工事現場を視察し、大規模な工事の様子に驚きました。その後、防潮堤の鋼製防護壁基礎の施工状況を巡り、工事の中断もありましたが、原子力規制庁への説明や工期の見通しなどはいかがでしょうか。

村松 防潮堤の大部分は出来上がっており、今回判明したのは取水口の南北に設置する柱(地中連続壁基礎)に関する事象です。昨年6月、南基礎の柱の中実部を掘削したところ、コンクリートの未充填と鉄筋の曲がりが見つかりました。南側を全て掘り原因調査、対策検討を行い、南基礎の中実部の鉄筋を補強することで当初と同等以上の強度を維持できると評価したことから、2月7日、原子力規制委員会に設計および工事計画認可申請の補正を行いました。
現段階では安全対策工事は9月完了を目指していますが、状況は厳しいと考えています。

志賀 今年は女川2号機や島根2号機、柏崎刈羽7号機とBWR(沸騰水型軽水炉)がいよいよ再稼働する見込みで、東海第二も続く展開が見えてきました。

村松 恐らく今年はBWRによる電力が供給されることになり、景色が変わるものだろうと期待しています。


東海村が避難計画策定 県は実効性を検証

志賀 東海第二を巡っては広域避難計画が未策定の自治体もあります。昨秋、弊誌が東海村の山田修村長にインタビューした際、避難計画策定が最優先だと強調し、村にとっての原子力の重要性を強く認識されているようでした。

村松 昨年末に立地自治体である東海村が避難計画を公表したインパクトは大きいと思っています。周辺自治体のうち常陸太田市も策定済みで、日立市は今年度内に公表すると聞いています。引き続き地域の防災力向上に向け、事業者としての責務を果たしていきたいと考えています。

また昨年11月には、茨城県の要請で当社が実施した東海第二の拡散シミュレーション結果が公表されました。シミュレーションは、茨城県の要請に応えるため、「東海第二から30‌km周辺まで避難・一時移転の対象となる区域が生じ、かつその区域が最大となると見込まれる事故・災害を想定する」という条件を満たす結果となるよう、分散して配置している常設の安全対策設備が一斉に機能喪失するなどの工学的には考えにくい仮想条件をあえて設定しています。
今後、茨城県は、このシミュレーション結果などを用いて避難計画の実効性を検証する方針と承知しています。

志賀 他方、能登半島地震ではアクセス面の課題が浮き彫りとなり、避難に対するさまざまな意見が出ています。

村松 もともと避難計画策定の範囲は、3・11以前は10㎞圏内でしたが、福島第一原子力発電所の事故を教訓に原子力災害対策特別措置法が見直され30㎞圏内に拡大しました。また、原子炉等規制法のバックフィット措置として、電力各社は新規制基準を取り込んだ原子炉設置変更許可を得て安全対策工事を講じています。事故以降、これらの法に基づき、それぞれ保守性を持って対応を強化してきたと言えます。

能登半島地震発生後、規制委員会の山中伸介委員長は、PAZ(東海第二から半径5㎞圏内)以外では屋内退避を基本とするという考えを改めて説明しています。加えて規制委は検討チームを立ち上げ、2025年3月をめどに効果的な屋内退避の運用方法を検討することから、その動向を注視していきます。

【電力中央研究所 平岩理事長】システム変容で役割拡大 幅広い研究分野の知見であらゆる課題解決に貢献


エネルギーの安定供給と脱炭素社会の両立へ、電力中央研究所に求められる役割は広がるばかりだ。

さまざまなプレイヤーが電力需給などに関わり、電力システムが変容していく中で、積極的な情報発信を行っていく。

【インタビュー:平岩芳朗/電力中央研究所理事長】

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程修了、中部電力入社。取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員、送配電網協議会理事・事務局長などを経て2023年6月から現職。

志賀 昨年6月に理事長に就任された所感をお聞かせください。

平岩 S+3E(安全性+安定供給、環境適合性、経済効率性)の同時追求への挑戦がわが国の重要課題となる中で、「電気事業の中央研究機関」かつ「社会に貢献する学術研究機関」である当所の役割は増しています。 当所は、これら二つの研究機関としての役割を主体的に果たし、保有する多様な専門分野の知見や技術を結集した総合力で、エネルギーの未来を切り拓く新たな価値の創出につながる研究開発を先導し続けてまいります。

就任以降、研究現場でさまざまな専門分野の研究者の説明を聞き、実験設備などを見学していますが、研究者一人ひとりの研究力の高さやインハウスの研究所としての強みを実感するとともに、培ってきた長年の研究の知見や技術の蓄積により、世界的にもトップレベルの研究成果を創出し、評価を受けていることを誇らしく思います。


洋上風力の開発に貢献 水素利活用への研究推進

志賀 幅広い分野の研究に取り組まれていますが、最近の研究トピックスを教えてください。再生可能エネルギー分野については、どうでしょうか。

平岩 再エネについては、わが国でも洋上風力発電の開発が多く計画されています。当所は、火力・原子力・送配電などの研究で培ってきた知見や技術を洋上風力分野の技術開発に活用していきます。

「地質・地盤評価、環境アセスメントに関わる技術」を洋上風力の立地・建設時の地質・地盤評価や環境アセスメントに、「気象災害リスク評価や再エネ出力予測などに活用してきた気象解析技術」を洋上風力の事業性や自然災害リスクの評価、運用・保守に必要な気象海象予測などに、また「材料分析・評価技術」を洋上風力設備の健全性評価、寿命評価などに役立てていきます。

具体的には、火力分野で培った損傷検査技術を活用し、「風車などの異常を早期検知する技術」などを開発していきます。幅広い専門分野による総合力で、洋上風力発電の導入拡大や運用保守効率化などに関する調査や技術開発、計画・設計から運用保守にわたる複合的な課題の解決に貢献していきます。

次代を創る学識者/山田秀尚・金沢大学先端科学社会共創推進機構准教授


2008年からCO2の分離・回収技術の研究・開発に携わっている。

社会の劇的な変化を想定し、それに合わせた技術を実用化することが目標だ。

脱炭素の実効的なソリューションの一つとして、導入に向けた動きが世界中で活発化するCCS(CO2の回収・貯留)技術。日本でも、2月13日に事業法案が閣議決定され、本格的に事業化が進もうとしている。

CCSを社会実装するには、安く効率的にCO2を分離・回収する技術が欠かせない。「ネットゼロが実現している2050年は、世界中で年間70億t以上のCO2を回収しているはず。省エネルギーでクリーンな吸収技術で気候変動対策に貢献していきたい」と語るのは、金沢大学先端科学・社会共創推進機構/未来知実証センターの山田秀尚准教授だ。

山田氏が地球環境産業技術研究機構(RITE)の研究員として、CO2の分離・回収技術の研究に取り組み始めたのは08年のこと。国のプロジェクトとして、RITEがCO2の回収に欠かせない、アミンの分子設計をする研究者を募っていたことがきっかけだった。 

アミンは、アンモニアを構成する水素原子を有機置換基で置き換えた化合物の総称。さまざまな種類が存在しているため、実際に作って調べるには膨大な時間を要する。RITEで手掛けていたのは、量子化学計算により、最適なアミンを理論的に予測し設計するというものだった。

もともと原子や分子に起こる現象を研究のテーマとし、「社会貢献よりも科学で真理を解明することに興味や関心があった」という山田氏。ただ、地球温暖化を「由々しき事態」とかねてから危機感を覚えていたこともあって、成果が実際のプラントの性能に反映され温暖化対策への貢献につながる研究活動は、非常に充実したものとなった。

奈良先端科学技術大学大学院の客員准教授を経て、3年前に金沢大学の准教授に就任。ガスの圧力の高低や組成、CO2濃度に応じて最適なアミンが異なるため、分子設計の仕事に終わりはなく、現在は企業などと共同で大気中からCO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」に最適な材料の研究にも注力している。また、アミン自体が化石資源由来であるため、化石燃料の消費量が減っていけば必要な量を賄うためのコストが増大してしまう。そこで、バイオマス素材からアミンを作るための研究にも着手している。


社会のあり様を変えるCN 50年の先を見据え研究活動

企業や行政、他の研究者、市民など、さまざまな意見を持つ人と交流しながら研究し、プロジェクトを前に進めていくことは楽しく、金沢大学での研究活動にやりがいを感じている。その山田氏が見据えているのは、50年カーボンニュートラル(CN)の先の未来の社会だ。「CNで化石燃料を極力使わない社会が訪れれば、従来のCCSではない別の技術が必要とされることになる。こうした社会の変化に合わせた技術を実用化できるよう、研究活動を続けていきたい」と意気込む。

やまだ・ひでたか 1972年長崎県生まれ。京都大学大学院地球環境学舎博士課程修了。博士(地球環境学)。関西光科学研究所博士研究員、地球環境産業技術研究機構主任研究員などを経て2021年から現職。22年から早稲田大学客員上級研究員。

EV充電料金 「時間」か「従量」か


【どうするEV】箱守知己/CHAdeMO協議会 広報部長

電池容量の大きなEVが登場し、大電流・高電圧で充電可能な充電器が設置されるようになった。すると「同じ時間で充電できる電力量が異なるのに料金は同じ」という不公平感が広がってきた。「グラスワインとボトルワインが同じ価格」とやゆする声も聞こえ、EVユーザーや充電関連業者から従量課金(kW時課金)の導入を求める動きが出ている。

従来、電力会社以外は電気を売れなかったが、2010年11月25日の経済産業省「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会・制度環境小委員会(第1回)」で配布された資料には、「ガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどの敷地内で電気自動車への充電事業を行う場合については、電気事業法における事業規制の対象外と判断される」と書かれていた。これが次第に知られるようになると、充電課金モデルに関する議論が活発になっていった。

EV充電料金の課金方式に変化が

かつては従量課金が事業的に導入しにくい事情があった。電力量を測るには正確な計量が必要であり、それを担う電力量計は7~10年という有効期限があり、機器の交換が不可欠だからだ。だが計量法は昨年10月に緩和され、従量課金により注目が集まった。

従量課金の利点としては「公平さ」が挙げられる。例えば、30kWしか受電できないEVに比べて120kWを受電できるEVでは、電池温度や充電率などの条件で受け入れられる電力量は変わるが、計算上は同じ料金で4倍の電力を受電できてしまう。また顧客が求めるのは結局のところ「電力量」だ。この点、従量課金は課金理由も明確となる。

問題点としては、施設占有の長期化・回転の低下がある。急速充電器は「施設」でもあるので、その占有時間が意味を持ってくる。例えば従来の時間課金であれば、20kW程度しか充電できないEVが180kWクラスの充電器の長時間占有を防げたが、従量課金だけでは防げない。充電器の回転が落ちることは、EVユーザーの利便性をむしろ低下させてしまう。また家庭での電力料金と混同する可能性も出てくる。家庭の電力料金のような、電力に対する従量料金だけでなく、EV充電の従量課金には充電器自体の建設費や維持費、充電施設に対するコストもかかっている。kW時だけで課金すると、こうした電力量以外のコストがかかることを消費者は忘れる可能性が高い。

筆者は、従量課金に時間課金を加えた「時間・量併用式」が一つの答えだと考える。さらに、EVユーザーグループで議論して出てきた基本料金の「松竹梅方式」も併用すると良いのではないか。松は150kW以上、竹は150kw未満50kW以上、梅が50kW未満だ。こうすれば、受電能力に応じてEVが自然と適する充電器に向かうようになる。また充電後放置に対する高めの時間課金も検討に値するだろう。

はこもり・ともみ NHK、東京都、国立大学に勤務後、2022年4月から現職。主にアジア地区の広報を担当。「EVsmart」ブログチーム所属。EVオーナーズクラブ副代表を務め、EVとの関わりは12年目に。

【須田善明 女川町長】原子力の優位性変わらず


すだ・よしあき 1972年生まれ。宮城県女川町出身。明治大学経営学部卒業後、大手広告代理店に就職。99年宮城県議会議員の補欠選挙に立候補し初当選。自民党宮城県連幹事長などを歴任し、2011年の女川町長選挙で初当選。現在4期目。

39歳で就任した須田善明町長のもとで復興を成し遂げた宮城県女川町。

復興によって培われた人々のつながりで、町の明るい未来を切り開く。

女川町長を務めた父・善二郎氏の背中を見ながら「いつかは自分も『公』の仕事を」との思いで学生時代を送った。石巻高校卒業後は明治大学経営学部に進学。学業そっちのけでアルバイトや趣味のバンドに明け暮れた。地元に戻り、某広告代理店の東北子会社に就職。時代的にいろんな意味でタフな職場だったが、社会人としての基礎を叩き込まれた。

転機は1999年、27歳の時だった。町長任期中に父が他界。周囲から町長選出馬の打診を受けたが、「町民の命と財産を守る立場を、人生経験の少ない27歳の自分が負うべきではない」と固辞。町長には県議会議員だった安住宣孝氏が就任した。

今度は「県議会議員ならどうだ」との声に「『いつかは』とは思うが、何の実績もない自分が親の七光りで出るのは違う」とこれも辞退したが、父の支援者らが「今まで親父さんにお世話になった。今度は自分たちが頑張る番だ」と須田氏を支える姿勢を示してくれた。そうした人たちへの恩返しの意味も込めて、「当落は別にして頑張ろう」と出馬した。ところが、いざ選挙戦が始まると「勝たなければ意味がない」との思いがひしひしと湧き上がってきた。多くの人に応援され、選挙を戦う本当の意味を痛感した瞬間だった。当選後は県議を3期務めることになる。

2009年、国政で自民党が下野すると「厳しい局面だからこそ、自分のような者がやる意味もあるだろう」との思いで、35歳にして県連幹事長に就任。さまざまな利害が存在する党内で、時には永田町の党本部と激しくやり合いながらも組織をまとめ上げた。「県連幹事長の仕事をしていなければ、首長という役目は果たせなかっただろう」。須田氏を大きく成長させた経験だった。そんな中、11年3月11日を迎えることになる。

約15mの巨大津波が襲った女川町は、文字通り「壊滅」した。当時の人口約1万人のうち、死者・行方不明者は827人。須田氏も震災翌日、車の中で抱き合いながら亡くなっていた親族を発見した。

おいしくて清潔「すごい野菜」 冷熱生かした工場で生産


【エネルギー企業と食】日本ガス×レタス栽培

日本ガスは鹿児島市に拠点を置く都市ガス事業者だ。同社が生産しているリーフレタス「すごい野菜」は、発売してから8年が経とうとしている。鹿児島の主要なスーパーでは、すっかりおなじみの顔だ。「すごい野菜」は、外界と隔離した環境の中で、太陽光を用いず、LEDライトだけを使って水耕栽培で生産するリーフレタスだ。この製品のすごいところを紹介しよう。

一つめは、こだわりの「味」。一般的な人工の植物工場では、生産性を重視するため強い光を使って野菜を育てていることが多い。だが、光が強すぎると、葉が締まって硬くなってしまったりする。同社は何よりも品質を重視。時として生産性を犠牲にしてでも、味と食感を追求している。

二つめは、桁違いに清潔な野菜であること。洗った後の露地野菜を一般生菌検査にかけると、生菌が十万匹から百万匹ほど出てくる。一方で「すごい野菜」は、パッケージから取り出したばかりの状態で数百匹から1000匹程度。洗わないでそのまま食べられるのはもちろん、買った時のシャキシャキ感が一週間続くほどに、鮮度の保ちが抜群だ。

「すごい野菜」の工場は、日本ガスのLNG受け入れ基地であり、都市ガスを製造する鹿児島工場(鹿児島市)の敷地内にある。都市ガスをつくる原料のLNGは、マイナス162℃という非常に冷たい液体だ。LNGを気化して都市ガスを作る際の冷熱エネルギーを有効活用することで、空調コストの約4割を削減している。

世界初のLNG冷熱利用型植物工場

総合企画グループの寒水正和さんは「ガス自由化に伴い、新しいビジネスを探る機運が社内にあった。鹿児島市の14万5千軒のお客さまに役立てることはないかと模索し、行きついたのが農業だった」と話す。小さなプラントから始めた水耕栽培が成功し、都市ガスを製造する気化器の隣に植物工場を新設。LNGの冷熱をレタスの栽培に活用できることになった。

「現在は植物工場の屋根に太陽光パネルも設置して、工場の電力を賄っている。来年度には、ガスヒーポンで使っているLNGもカーボンニュートラル由来にする見込みだ」(寒水さん)

「すごい野菜」は、鹿児島県内を中心に出荷し、生産分はほぼさばけている。購入者の80%は県内デパート・スーパーを通した個人の需要家だ。同社が農業を始めたのも、地元の顧客の役に立ちたいから。その願いは実現している。日本ガスは、食とエネルギーの双方から南九州を支えているのだ。

【マーケット情報/3月22日】欧州、中東原油が上昇、供給逼迫観強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物、および中東原油を代表するドバイ現物が小幅に上昇。供給逼迫観が強材料となった。一方で、需要後退の見通しが、価格の上昇を幾分か相殺。また、米国原油の指標となるWTI先物には、下方圧力となった。

国際エネルギー機関は、一部OPECプラス加盟国による自主的追加減産の延長を受け、今年の原油供給予測に大幅な下方修正を加えた。

また、イエメンを拠点とする武装集団フーシは、船舶に対する攻撃の範囲を、紅海およびアデン湾から、インド洋にまで拡大すると発表。供給不安が一段と広がった。

他方、米連邦準備理事会および英イングランド銀行が、金利の据え置きを決定。高金利継続により、デフレへの警戒、それにともなう石油需要後退の観測が強まった。さらに、米ドル高を受け、ドル建てで取引される原油の需要が弱まった。


【3月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.63ドル(前週比0.41ドル安)、ブレント先物(ICE)=85.43ドル(前週比0.09ドル高)、オマーン先物(DME)=85.14ドル(前週比0.37ドル高)、ドバイ現物(Argus)=85.28ドル(前週比0.46ドル高)

電力卸分野の課題を指摘 公取委実態調査の読み解き方


【多事争論】話題:電力卸取引の実態調査

公正取引委員会が、『電力分野における実態調査報告書~卸分野について~』を公表した。

今後の卸取引の在り方への影響について、業界人はどう見ているのか。


〈 実態に踏み込めない規制当局 薄まる自由経済色に懸念 〉

視点A:阪本周一/公益事業学会会員

公正取引委員会が1月に公表した報告書は、「電力分野の概要」、「課題」、「考え方」に分かれている。「概要」は経緯の振り返り、「課題」は発電会社の卸売り(内外無差別オークション、常時バックアップなど)に関わる個別論点の分析、大手発電事業者、新旧小売事業者のヒアリングの紹介であり、客観的ではある。「課題」の出口になる「考え方」、そしてそもそもの「課題」の切り口について疑問に思う点を本稿では述べる。

まず、「相対契約における契約条件の是正」に関し、各種の取引制限条項(転売禁止、供給エリア制限、数量上限設定)について、公取委は独占禁止法抵触の可能性ありと言い切った点が注目される。与信管理に関し基準緩和、明確化を求めている点も含め、「電源アクセス無差別を前提にすれば」妥当だ。ただ、多くは電力・ガス取引監視等委員会の議論を経て既に対応済みで、この時期の報告に付加価値はない。

経過措置規制料金については、「電取委は、規制料金が障害となることが確認された場合には、是正に向けた検討を行うことが望ましい」と正しく分析しているが、証文の出し遅れである。2022~23年の規制料金審査時に同じく内閣府外局の消費者庁が料金値上げ幅圧縮のために電取委に働き掛けをしていた際、声を上げるべきだったし、小売各社が旧一般電気事業者の逆ザヤ料金前提の販売攻勢に苦戦している現時点でも即時対応を求めるべきだ。逆ザヤうんぬんとは別に、直近規制料金審査には公取委方針の「人件費上昇の販売価格への適正転嫁」と真逆の「人件費上昇否認」が織り込まれていた。この点の黙認だけでも組織の存在理由が問われる。

公取委報告の独自性は、「持続的な競争環境確保のため」として「旧一電の発電・小売り両部門の別々の会計報告」、「発販分離」の推奨にある。私企業の組織分離は私企業自身の決定事項で、政府が促すのは自由経済では不適当である。歴史的に公権力と距離が近かった電力産業相手でも、政府が何でもできるわけでない。

既に電取委主導で卸取引の内外無差別オークションが進んでいるが、発電側が設定する取引条件を見れば、小売り側にリスクを振り切ったものばかりで、活用できるのは旧一電の域外小売りと大手ガス会社くらいと見る。特に、与信管理において契約期間全支払額への第三者保証差し入れの要求が所与になっている点が厳しい。保証提供者確保は不可能だ。新プラント建設があるわけではないので要求過大だが、電取委も公取委も外形完成は気にかけても、実態には踏み込まない。

【需要家】省エネ大賞に見る 製品・技術最新トレンド


【業界スクランブル/需要家】

昨年12月に省エネ大賞の受賞者が発表された。応募事例を確認すると、省エネ製品・技術の最新トレンドが見えてくる。発表から時間は過ぎたが、応募事例の中から建築物および家電に焦点を当て、傾向をまとめてみたい。

建築物は、毎年ZEB・ZEHに関する多数の事例がある。

最新省エネ技術を多数取り込む華やかな事例が多いが、近年は汎用技術を生かした既存建築物のZEB改修が見られ、2023年も1件の関連事例がある。

このほか、19年からCASBEE(建築環境総合性能評価システム)でウェルネスオフィスの評価認証が開始されたことを受け、健康・快適性を訴求するZEB事例が多数確認できる。住宅については、近年躯体の断熱性能を高めてエアコン1台で住宅全体の暖冷房を行う全館空調が販売され、関連する応募事例があった。

家電については、冷蔵庫およびエアコンは受賞の常連であり、AI制御を売りにした製品が並んだ。エアコンについては、近年住宅の断熱性能向上に伴い低負荷領域における省エネの必要性が高まる中、こうしたニーズに対応する製品が確認できる。またドラム式洗濯乾燥機では、電気による乾燥はガスと比較し温風が低温なため、乾燥ムラなどが問題になっていたが、温度・湿度センサーの利用とAI制御により乾燥ムラ抑制を実現した製品が見られた。

このように、躯体・設備とも、省エネに加えて健康や家事の時短といった付加価値で訴求する例が確認でき、その実現にはAIなどのDX技術が大いに活用されている。エアコンで例示したように、躯体の性能向上を念頭に置いた製品事例もあり、設備単体でなく、それが使われる周辺環境の変化も考慮した技術開発が必要となっている。(K)

蓄電池の常識を塗り変える 革新的技術で脱炭素社会に貢献


【エネルギービジネスのリーダー達】
真鍋竹春/テックスインターナショナル代表取締役
川島徳道/HTL取締役

これまでの概念を覆す蓄電池の実用化を目指し、研究・開発に取り組んでいる。

日本発の技術として、世界の脱炭素化に貢献することを目指す。

まなべ・たけはる(右) 2002年にテックスインターナショナルを創業。環境ソリューションなどを手掛ける傍ら蓄電池の研究・開発に着手。
かわしま・のりみち(左) 理学博士。桐蔭横浜大学医用工学部長などを経て12年から環太平洋大学教授。23年HTL取締役。

2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指し、鉛、リチウムイオン、全固体、レドックスフロー(RF)など、さまざまな技術が次世代の蓄電池の地位を競い合っている。そうした中、これまでの技術とは一線を画す革新的な蓄電池が実用化の段階を迎える。

開発者は、テックスインターナショナルの真鍋竹春代表取締役。高分子と金属元素とからなり、金属のレドックス(酸化還元)反応による電子の移動で充放電を行う。単位体積当たりのエネルギー密度が高く小型化が可能であり、リチウムを含む電解液を使用しないため、発火や爆発のリスクがないのがメリットだ。


既存技術のデメリットを克服 製品の安定供給も

もともと、真鍋氏は病院や介護施設の事業継続計画(BCP)対策として非常用電源の導入事業を手掛けていた。しかし、設備導入した施設ではリチウムイオン電池(リン酸鉄リチウム蓄電池)の設置後、5年以内の故障が相次いで発生。調査の結果、経年劣化による膨張、破損があり、爆発と火災の危険性があったため「根本的な課題を解決しなければ、蓄電池による災害対策は不可能だ」と考え、約3年前に自ら研究・開発に着手した。化学的知見を取り入れるため、理学博士でHTL取締役の川島徳道氏の協力の下、技術の精度向上を目指し試作機を完成させた。

この高分子蓄電池は「IPB」(Incombustible Polymer Battery)」と呼び、その最大の特徴は難燃性を持ち、最大動作温度が85℃まで対応可能であることや、リチウム電池の半額程度の製造コストでありながらも約2万回の充放電と高速充電を実現している点にある。これにより、既存技術のデメリットを全て克服できると考えられる。

川島氏は、「リチウム電池は需要を満たすための原材料の確保に懸念があるが、IPBは全て国内で調達可能で製品を安定して供給できる。さらに、高分子は土中で自然分解するため、廃棄時の発火・爆発や環境汚染の心配がない」と、この技術を社会実装する意義を強調する。

昨年12月には、テックスとHTLが共同研究契約を結び、現在は両社でセルやユニットの製造と製造装置の開発を進めており、量産体制への準備段階にある。真鍋氏は、「さらなる改良により性能を高めることができる。まずは、太陽光発電(PV)向けに製品化。次に、パソコンやスマートフォンなどの弱電製品向け、将来は電気自動車(EV)やドローンなどのモビリティ領域への搭載を目指していきたい」と意気込む。

小型アプリケーションへの搭載だけでなく、有望な市場として期待されるのが分散型エネルギーシステムへの活用だ。デベロッパーや地方自治体からは、ビルや街全体を分散型のPVで賄いたいというニーズが高まっているが、これまではPVの施工や蓄電池の寿命の問題などから採算を取ることが困難だった。

HTLは既に、軽量で厚さ1・8㎜と薄く架台なしで屋根や壁に設置でき、発電効率も21・4%と従来製品(約19%)よりも高いPVを市場投入しており、これをIPBと組み合わせることで、固定価格買い取り(FIT)や市場連動価格買い取り(FIP)などの優遇策に依存せず、住宅や商業施設への導入を進める。

「2000kWのPVと4000~6000kWの蓄電池を組み合わせた発電システムの導入費用は4億~5億円に上るが、PVの高い発電効率と蓄電池の長い寿命により、補助金なしで約9%の利回りを確保できる」と真鍋氏。不動産投資よりも高い利回りとあって、国内投資家からは大きな期待が寄せられているという。


海外からは既に引き合いも 国内では関心低く

HTLの吉川良一代表取締役は「発火しない上に長寿命の蓄電池は安心して使用できる。今後、島しょ部や過疎地へのスマートグリッドの導入を後押しできるはずだ」と語る。

能登半島地震では発災後のインフラの早期復旧の重要性が改めて注目された。外部電源に頼らない自律型のエネルギー供給源として、PVと蓄電池を搭載したトレーラーハウスが被災地に向かうことや、透析装置やX線検査装置などの医療機器を避難所で使用できるようになることで、災害支援の在り方に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。

海外の大手蓄電池メーカーなどは既に、IPBに高い関心を寄せており商談も始まっているが、政府の次世代蓄電池開発支援が既存技術に特化しているため活用が難しいこともあり、国内における注目度がまだ低いことが課題となっている。だが、目標は日本発の技術として世界の脱炭素に貢献することであり、「性能通りのスペックを出せれば、世界中で必要とされるようになる」という需要家の言葉が、取り組みの原動力となっている。

【再エネ】バイオ燃料ルール作り 国際枠組みの参加必須


【業界スクランブル/再エネ】

米国、イタリア、インド、ブラジル、アルゼンチン、アラブ首長国連邦。何のために集まった国かお分かりだろうか。昨年9月に発足したグローバル・バイオフュエル・アライアンス(GBA)の主要メンバー国だ。インドのニューデリーで行われたG20サミットでの調印式では、バイデン米大統領とブラジル・ルラ大統領に挟まれ、モディ首相が誇らしげに写真に収まっている。日本の首相の姿がないのは、エネルギー転換でバイオ燃料の話題が少ないからだろう。日本はクリーンエネルギー大臣会合の一つであるバイオフューチャー・プラットフォームにも参加していない。

しかしSAF(持続可能な航空燃料)については、2030年までに石油元売りに10%の供給義務を課す方針だ。将来的にはグリーン水素由来の合成燃料利用の可能もあるが、当面はバイオ燃料を使うことになる。そのため、石油元売りだけではなく、航空会社や商社などが原材料の確保を急いでいる。長距離バスやトラック、船舶などバイオディーゼルに対するニーズも顕在化しつつある。自動車でも、電気自動車の普及スピードをにらみながら、当面の対策としてバイオ燃料を活用する国は多い。

24年のG7議長国はイタリア、G20はブラジルである。いずれもGBAの主要メンバーであり、GBAで議論される持続可能性基準や認証制度などが、G7やG20などで国際標準として承認される可能性が高い。つまり、こうした国際的枠組みに参加しないのであれば、「日本発のルールメイク」を後から言い出したところで手遅れになる。国内の森林資源など日本企業が考える原材料の活用が認められない恐れすらあるのだ。24年は、バイオ燃料を巡る国際議論に日本が参加できる最後のチャンスになるかもしれない。(A)