【論説室の窓】西尾邦明/朝日新聞 論説委員
太陽光や風力による発電を一時的にとめる「出力制御」が急増している。
再生可能エネルギーを主力電源にしていくために、需給両面の対策強化が必要だ。
今年のゴールデンウイークも晴天が続いているとすると、太陽光発電や風力発電の出力抑制も大きくなっているはずだ。日差しが強くなって発電量が増える一方、工場は休みで、冷暖房も使わないため、需要は少ないからだ。
朝日新聞の調べでは、大手電力の2023年の「出力制御」はその2年前の3倍以上に増えていた。九州で発電が止められた割合(制御率)は、4月が25・3%、年間では8・9%に達した。太陽光発電が多く原発の再稼働も進んだ西日本での実施が多いが、最近は他の地域にも広がっている。日本全体では他国と比べても高い水準にはない。
おさらいになるが、国の「優先給電ルール」では、太陽光の発電量が多く電気が余りそうな時には、①火力の抑制、揚水や蓄電池の活用、②他地域への送電、③バイオマスの抑制、④太陽光・風力の抑制、⑤水力・原子力・地熱の抑制―の順番で制御することになっている。⑤は出力の回復に時間がかかるほか、技術的に制御が困難とされている。
「出力制御」は悪いことではない。太陽光や風力の発電が天候次第である以上は、ある程度は必要な仕組みだ。ピーク時を抑えることで接続できる設備は増え、それ以外の時間帯の再エネ発電を増やすことができる。
だが、二酸化炭素を出さず、純国産エネルギーである再エネを有効利用する観点からは、出力抑制を減らすための一層の工夫が求められる。再エネの事業計画が見通せず、新規投資の足かせになるようなことは避けるべきだ。

対策は費用対効果優先で 期待したい「上げDR」
需給両面の対策が必要だが、電気料金の抑制の観点からは費用対効果の見極めが欠かせない。需要創出の対策は特に力を入れたい。
太陽光発電が多い時に、電力消費の多い工場で電炉などの設備の稼働を増やしたり、事業所や家庭のヒートポンプ給湯器や蓄電池を動かしたりすれば、出力抑制を減らすことができる。「上げDR(デマンドレスポンス)」と呼ばれている。
実際に九州電力で既に始まっており、18年秋以降、東京製鉄に九州域外の生産を移してもらって需要を作っている。春と秋の候補日を両社で事前協議し、候補日の前々日に需給想定を確認した上で、実施するかどうかを決める。東京製鉄は通常の平日昼間の単価よりも安い電気で電炉を動かすことができる。23年春は5回実施し、毎回数万kWの需要があったという。
22年秋からは中越パルプ工業と、自家発電の抑制による「上げDR」を実施している。この仕組みは系統を切り替えるだけなので、働く人たちへの影響も少ない。中越パルプは自家発電よりも安く電気を調達し、九電は電力販売量が増え、太陽光発電事業者の出力抑制も減らすことができる。
家庭向けでも、4月から「おひさま昼トクプラン」を創設し、昼間の電気代が安い料金プランの提供を始めた。エコキュートや蓄電池について、夜から昼へ電気使用の移行を促す。
需給予測の精度を高め、エコキュートや蓄電池をオンライン制御するなどデジタル技術を活用することで、一層の効率化につなげることが期待される。
蓄電池は足元で価格低下が進み、世界的にも設置が拡大している。将来的には、水素も季節を超えて長期間・大容量で貯めることができる。水素の供給は、国産の再エネ由来を最優先するべきだろう。
供給側では、政府は昨年末の対策パッケージで火力発電の最低出力を50%から30%に引き下げることを決めた。九電は、大型石炭火力である松浦発電所(長崎県)や苓北発電所(熊本県)で15%にまで下げて運転している。他地域でも、最低出力を可能な限り引き下げ、広域対応を進めるべきだ。
洋上風力発電の拡大と連系線の増強も急ぐ必要がある。
風力は太陽光と補完的な関係にあり、夜でも発電できることは強みだ。経済産業省の審議会では「海外では変動再エネを上げ下げ両方の調整力と活用している」と報告され、スペインでは21年、必要な調整力の7%を風力が供出したという。
地域間連系線の増強では、再エネが国内の電源の半分程度に増える想定で、必要な投資額が6兆~7兆円と見積もられている。まずは再エネのポテンシャルの高い北海道から秋田県を経由し、東京をつなぐ海底直流ルートを新たに設置するとともに、九州と中国を結ぶ関門連系線の増強する方針だ。
広域的な系統運用拡大 災害レジリエンス強化も
国民負担につながることから費用便益を含む丁寧な検討は必要だが、災害時のレジリエンスの観点からも、広域的な系統運用を拡大し、発電所を全国で活用していくことは重要だ。
最後に、原発について触れておく。原発の「出力制御」については慎重に検討するべきだ。確かに原発依存度が高いフランスでは日常的に行われているが、日本では実績がない。実証が試みられたことはあるが、1980年代の四国電力伊方原発のように住民の強い反対運動があった経緯もある。ドイツのブロックドルフ原発では17年、出力制御を繰り返した結果、核燃料棒が損傷する事案が発生している。既設原発の出力制御は設計や制度面に加え、安全面からも課題がある。
一方、柔軟性を欠く電源には応分のコストを負担させるような仕組みの検討は必要だ。海外では卸電力市場で「マイナス」の価格(ネガティブプライス)での取引がなされ、供給側に出力抑制を促すとともに、小売料金に適切に反映されれば、需要側に電力消費を促すことが期待できる。検討を深めていくべきだろう。
いずれにせよ、エネルギー自給率を高め、脱炭素化を実現するには「再エネの主力化」が本道だ。そのためのさまざまな努力を怠ってはならない。