【特集1・再エネ安全保障論/コラム】コスト競争力ある長期安定電源目指して 主力化政策の現在地と重点施策

ポストFITを巡る課題解決に向けて残された時間は少ない。
資源エネルギー庁は主力電源化に向けてさまざまな観点から施策を進めている。

2012~16年頃にFIT認定を受け調達価格が比較的高い事業用太陽光は30GW弱存在する。買い取り終了後にこうした電源の多くが脱落すると安定供給に影響を及ぼしかねず、政府はさまざまな施策を実施する。

基本方針として24年に主力電源化アクションプランを策定。その柱の一つ、責任ある事業者への案件集約に向け創設した長期安定適格太陽光発電事業者制度について新エネルギー課の担当者は、「メガソーラー問題に注目が集まる中昨年、要件をよく確認し3社の認定に至った。ゆくゆくは数十社を目指す」と説明する。もう一つの柱がFIPのさらなる活用による再エネの電力市場への統合だ。ただ、25年3月末時点のFIP件数は1900件弱、出力ベースで3.7%程度。「蓄電池の活用に関する条件整理や、蓄電池の導入補助、バランシングコストへの支援を手厚くするなどし、当面は25%を目指す」という。

規制強化も同時並行で さらなる検討を継続

サイバーセキュリティ対策では、グリッドコードの改定でJC―STAR1取得製品の要件化を検討中だ。「特定の国を念頭に置いた措置ではないが、電力の安定供給にサイバー対策の強化は欠かせない。基本は新設が対象だが、既設の入れ替え時に適用するかどうかなど、事業者の声も聞きながら引き続き検討していく」(電力基盤整備課)としている。

出力制御対策では、23年末にパッケージを示し、①需要家の行動変容や再エネ利用の促進、②供給面では再エネが優先的に活用される仕組みの措置、③系統増強―と総合的に対応を進める。「軽負荷期の抑制量の低減に向けた取り組みが重要。事業者側での蓄電池併設やFIPへの移行が進めば、一定程度発電事業者側のリスク回避も可能となる」(省新部制度審議室)との考えだ。

そして昨年は、不適切事案へのさらなる規制強化に向けた省庁横断での議論、さらには関係閣僚会議を実施。法的規制や地域連携の強化、地域共生型への支援重点化を柱とするメガソーラー対策パッケージを取りまとめた。省庁間や自治体と連携し、依然残る不適切事案への対応を強化していく方針だ。

コスト競争力があり長期安定的に発電を継続する再エネを増やすべく、主力電源化アクションプランの先の政策についても引き続き検討していく。

鴨川市のFIT認定失効案件。規制強化も重点課題だ

【特集1・再エネ安全保障論/座談会】日本に望ましい電源へと促せるか 欠かせない真の価値評価

イラン危機を受け、電力安定供給に寄与する再エネの在り方に関心が高まる。
今後向かうべき政策の方向性を、専門家たちが語り合った。

【出席者】
大場紀章(ポスト石油戦略研究所代表)
山口順之(東京理科大学工学部電気工学科教授)
朝野賢司(電力中央研究所社会経済研究所副研究参事)

左から順に大場氏、山口氏、朝野氏

――政府が掲げる再エネ比率目標(2030年度36~38%、40年度4~5割程度)の実現可能性や、イラン危機を踏まえて今後目指すべき方針や水準をどう見ていますか。

朝野 40年度の政府見通しの再エネ発電量は4800億~5800億kW時。しかし、FIT(固定価格買い取り)価格の引き下げに伴って新規導入量の伸びが鈍化していることを踏まえると、再エネ発電量は3500億kW時にとどまるとわれわれは試算しています。(極東スポットLNG価格指標の)JKMとJEPX(日本卸電力取引所)の価格がリンクし、ガス火力が価格形成する時間帯が多いため、再エネは時間帯別の目標設定に変えるべきです。それがないまま太陽光を入れ続けても、LNGが価格を形成している夕方・夜間の卸価格には波及しません。KPI(重要業績評価指標)を時間軸で捉え、卸価格の低減に効果がある時間帯に発電を誘導するインセンティブを考える必要があります。

大場 私も再エネの目標設定の考え方を見直すべきだと思います。現状は再エネの価値が正しく評価されているとは言えません。FITで回避可能原価という形で部分的に評価されてはいますが、燃料費調整制度が導入されていることを考慮すると、卸売価格には全ての燃料変動コストが反映されていません。つまり、再エネ導入により電気料金をどれだけ抑制できたかが正確に評価できていないのです。再エネの価値は、まずカーボンニュートラルの達成、そしてエネルギー自給率の向上や、化石燃料輸入に伴う貿易赤字抑制など多岐にわたります。再エネの導入量の議論に終始するのではなく、安全保障上のメリットをどう評価すべきか、という議論が必要です。

朝野 大場さんご指摘のように、現状の制度では再エネの真の価値が見えにくい構造です。LNGが限界電源となる時間帯が大半を占める限り、再エネ拡大が卸価格全体に与える効果は構造的に限定されるため、価値評価とKPI設計の見直しは表裏一体の課題です。
山口 時間帯別の価値に加えて、エリア別の価値など系統運用を考慮したきめ細やかな価値評価を行い、限界導入量を見える化しないと設備投資は進まないと思います。また、大場さんが指摘されたように再エネには安全保障の価値もあります。今まで発電機の性能を主に評価していましたが、世の中に求められる再エネとは何なのか、という視点と組み合わせて幅広に電源の評価をしていくべきです。

大場 エネルギーの自立化とは、自給率100%を目指すことではなく、外的要因に対して堅牢であること。つまり、代替性を持つことが重要で、その一つの要素として再エネを位置付ける整理が必要です。そうしたロジックの下で最適なKPIをつくるべきでしょう。

山口 また、再エネ政策では規制と市場と系統という三つの問題を整合的に解いていかなければならず、全体を俯瞰した議論は欠かせません。イラン危機への短期的対応を考えれば、既存電源の柔軟性、揚水、デマンドレスポンス(DR)などを総動員し、動かせる原発も全て動かして乗り切ることになるかと思います。

【特集1・第3次石油危機】ホルムズ海峡再開後も石油の不足続く 示された備蓄の重要性

中東情勢を受けた国際エネルギー市場の混乱は簡単には収まりそうにない。国際エネルギー機関(IEA)で緊急事態対応を担当するエリオット氏に話を聞いた。

【インタビュー:ジェイソン・エリオット/IEAエネルギー安全保障・緊急事態課長】

ジェイソン・エリオット
コロラド大学ボールダー校経済学学士課程修了、1997年OXYTELE入社。99年国際エネルギー機関(IEA)。エネルギー安全保障・重要鉱物資源課長などを経て2025年から現職。

──今回のエネルギー供給危機をどう見ていますか。

エリオット ホルムズ海峡を通過する輸送は依然として厳しく制限され、原油・NGL(天然ガス液)・石油精製品の積み出し量は、4月初旬で日量約380万バレルにとどまっています。これは、危機前の2月の2000万バレル超と比べて大幅に低い水準です。代替ルートによる輸出は増加していますが、全体としての石油輸出の減少は日量1300万バレルを超えています。
 海峡再開の合意の兆候はありますが、4月17日時点で確認されていません。そして再開後も、石油需給の不足は続く見込みです。湾岸諸国では、油・ガス田、製油所、ターミナルを含む80以上のエネルギー関連施設が損傷を受け、復旧には相当な時間を要する可能性があります。
 IEA加盟国による石油備蓄の協調放出は、石油市場に必要とされていた追加供給をもたらしましたが、中東におけるエネルギー生産および貿易の混乱は依然として深刻であり、国際市場へのエネルギー供給は引き続き大きく制限されています。肥料、石油化学製品、ヘリウムなど、世界経済に不可欠な重要資源の供給も大きく失われており、規模と長期的影響の両面で過去の全ての危機を合わせたよりも深刻であると言えます。

日本政府の対応評価 新たな枠組みに協力

──日本の対応をどう評価していますか。

エリオット 日本政府は、国家備蓄の30日分の石油を放出(追加で20日分の放出を発表)するなど、IEAの協調行動の枠組みに沿った強力かつ積極的な対応をしています。4月15日には、アジア支援のための新たな枠組み「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ」の立ち上げを発表しました。現在、そして将来のアジアのエネルギー供給確保に向け、IEAとしても全面的に支持し協力していきます。

──危機対応として見直すべきことはありますか。

エリオット 今回の危機から得られるエネルギー安全保障上の大きな教訓は、単一の国や輸送ルートへの過度な依存にはリスクが伴うということです。供給源、ミックス、そして輸送経路の多様化が極めて重要です。そして、大規模な供給途絶に対し緊急石油備蓄が依然として第一の防衛手段であることも示されました。迅速かつ協調的な放出は、短期的な供給不足を緩和し、価格の安定化を図り、現物市場に安心感を与えます。実際多くの国、とりわけIEA非加盟国では、大規模な供給途絶の影響を十分に緩和するための備蓄水準が不足しています。さらに需要側でも、燃料転換、省エネルギー、一時的な節約措置などの緊急対応策の手段を十分に維持することが不可欠です。

【特集1・第3次石油危機】史上最大の危機を乗り越えられるか 有事下のエネ供給最前線

これまで国とエネルギー事業者は、さまざまな有事を想定した対策を打ってきた。現状でそれは功を奏しているのか。有事下のエネルギー供給最前線を取材した。

【レポート】石油・LPガス・LNGの備蓄事情 特性に応じた安定供給対策とは

【コラム】中東・輸入依存続くナフサ 需要構造の変化に対応できず

【インタビュー:細川成己/経済産業省大臣官房審議官】補助金は消費の奨励にあらず 代替調達に努め経済活動を維持

【インタビュー:岩瀬昇/エネルギーアナリスト】 備蓄巡る数々の疑問 不都合な真実の公開を

【緊急特集 イランショック】世界を襲う未曽有の危機 消費促す日本の的外れ政策

「あのホルムズ海峡が、イランによる実効支配の形で現実に封鎖されてしまうとは……」。今回のイラン危機を受け、エネルギー政策・ビジネスに携わる政官学民の関係者の多くが、異口同音に驚きの感想を漏らした。

正確に言えば、インド船籍のタンカーなどホルムズ海峡を通過している船もあり、完全に封鎖されているわけではない。しかし、イラン軍部隊によるミサイルや無人ドローンなどを使った攻撃で、被害を受けるタンカーが続出。イラン側が海峡の支配権を握っているため民間船舶は安全に航行できず、多数のエネルギー輸送船がペルシャ湾内に留め置かれる事態に陥った。またペルシャ湾の周辺国では、エネルギー関連施設をターゲットにした攻撃も激化した。

去る2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し戦争状態に突入して以来、原油、天然ガスのみならず、代替燃料となる石炭も含めエネルギー資源の国際市場価格は軒並み急騰した。国際エネルギー機関(IEA)は3月12日、加盟32カ国が保有する緊急石油備蓄12億バレル超のうち、過去最大規模となる約4億バレルの石油備蓄の協調放出を決定し実行に移した。

ペルシャ湾で炎上する石油タンカー
提供:ロイター=共同

しかし、その後もホルムズの実質封鎖とエネルギー施設攻撃の応酬が続き、エネルギー価格は高止まり。戦争前に比べて原油が1・5倍、天然ガスが1・8倍、石炭が1・2倍近くの上昇だ。ガソリンなど燃料油のほか、ナフサなど石油化学製品でも大幅値上げや供給不足への懸念が強まり、世界各国で経済への影響が深刻化しつつある。

「史上最大のエネルギー危機」。IEAのビロル事務局長は、今回の事態をこう表現した。また米ダラス連邦準備銀行は20日公表したリポートで、〈原油供給の途絶規模は1970年代の石油ショック時を上回る可能性がある〉と分析。まさに、第三次オイルショックである。

IEAが消費抑制提言 日本は真逆のメッセージ

こうした中、IEAは20日、「石油備蓄の放出など供給面の対応に加えて、使う量そのものを減らす取り組みが重要だ」として、「家庭や企業が石油の消費を削減する対策」を提言する報告書を取りまとめた。主な内容は次の通りだ。

〈短期的な対策=①可能な限りの在宅勤務、②高速道路の制限速度を時速10㎞引き下げ、③公共交通機関の利用促進、④大都市でのマイカー規制による渋滞緩和、⑤エコドライブなど効率的な運転手法の導入、⑥代替手段がある場合は航空機移動を回避、⑦電気による調理などでLPガスの依存度を引き下げ、⑩石油化学など関連業界で原料の柔軟な活用や操業を効率化〉

〈長期的・構造的な対策=EVなどの普及と充電インフラの整備の加速、②道路車両の燃費基準の引き上げ、③代替となる最新の調理方法(電化など)の展開加速、④産業界におけるエネルギー管理システム導入の促進、⑤石油暖房システムや産業用ボイラーのヒートポンプへの置き換え、⑥プラスチック廃棄物の回収・再利用・リサイクルの促進、⑦バイオ燃料や合成燃料などの供給拡大〉

攻撃を受けたUAEのエネルギー施設
提供:ロイター=共同

キーワードは「省エネと電化の推進」「石油代替燃料・原料への転換」であり、特に目新しい施策はない。「エネルギー有事の省エネ・代エネ対策こそ、本来はわが国の出番」。こう話すのは、大手電力会社の元幹部だ。1970年代のオイルショック時、日本は政府主導で「サンシャイン計画」や「ムーンライト計画」を策定し、新エネ・省エネを巡る技術開発に官民挙げて注力した結果、ことエネルギー利用では世界屈指の技術大国に躍り出た経験がある。また「脱石油」「脱中東」を合言葉に、原子力発電やLNG導入、調達先の多様化などを進め、エネルギーセキュリティの抜本的強化に取り組んだ、はずだった。しかし昨年の時点で、日本の原油調達のホルムズ依存度は93%であり、LNGの6・3%と比べると、その差は歴然だ。

「今回のイラン危機で日本政府が燃料油補助を復活させ、石油消費の下支えに回ったのは、的外れとしかいいようがない。石油備蓄を放出してもまだ200日分以上あるから大丈夫、ホルムズ封鎖もそこまで長続きしないと考えているのかもしれないが、最悪の事態を想定すべき有事対策としては失敗だ。IEAとは真逆のメッセージを国民に発信している」(前出の元幹部)

【緊急特集 イランショック】ナフサ高騰で製品不足へ 国主導で緊急対策計画策定を

合成樹脂製品の原料ナフサが供給不足の事態に陥ろうとしている。石油業界の論客である垣見裕司氏が深刻な問題を提起する。

【レポート:垣見裕司/垣見油化社長】

米国とイスラエルがイランを攻撃した。エネルギー業界人として今一番心配なのはLNGを除けばナフサだ。2025年の国内ナフサ需要は3421万㎘だが、原油からの精製=生産は1313万㎘のみ。その不足分の2334万klは輸入に頼っている。1月末の製品在庫はわずか138万㎘で約14日分。またナフサの民間備蓄数量を調べたが、筆者推定で215万kl。合わせても37日分しかない。

ナフサの輸入先は、韓国の752万㎘と米国の118万㎘を除けば他は全て中東で、その中東依存度は約60%。国内の需要は自国で生産という「消費地精製主義」を満たしていない。距離的に近い韓国も日本同様に中東から原油輸入しているので、今後のナフサ輸入は、金額の問題ではなく、数量そのものを確保できないだろう。

もしホルムズ海峡封鎖が長引けば、価格高騰後に製品不足が来るのは間違いない。今申し上げたいのは、半世紀前のオイルショック時、ホルムズ海峡は封鎖されていなかった。それでもトイレットペーパーは市場から消え、テレビは24時で終わり、銀座のネオンも消えた。個人的意見だが、ナフサの製品在庫や備蓄があるうちに、例えば医療品などを優先する。レジ袋やスーパーのお刺身のトレーは紙に変える。この対策は時間があればできるので、政府主動で緊急対策計画を作成、それを公表し国民に協力を仰ぐことだ。

ガソリン他石油製品には「激変緩和政策」で3月19日から約30円の補助金が復活した。しかしこれは政府放出の原油価格を戦争前の安価にしたようで、時価換算では50円以上だ。さらに昨年末に廃止したガソリン税暫定税率25円の代替財源もない。実質75円の補助は、責任ある積極財政出動ではない。

50年前、田中角栄総理はガソリン税を大幅に上げて道路を作ったが需要抑制策でもあったと思う。またアメリカの味方になれと強い要請を受けたが、田中角栄総理は断り、中東諸国支持を表明し、原油を確保することができた。高市総理には安倍さんだけでなく角栄さんも参考にしてほしい。

その意味ではトランプ氏との会談は無事乗り切った。次はイランと日本船舶通過の交渉を成功させてほしい。官民合わせて250日あった原油備蓄を早くも45日分を取り崩した。封鎖が長引くなら、需要抑制策とともに、バス・トラック業界など本当に補助が必要なところに絞ることが必要だ。

国内の製油所だけではナフサ不足に対応できない

【緊急特集 イランショック】アジア太平洋諸国で供給逼迫 石油緊急事態体制への移行が急務

ホルムズ海峡の実質封鎖を受け、世界は異次元の石油危機の真っただ中にいる(3月25日現在)。イラン戦争が泥沼化すれば、油価に無制限の上昇圧力がかかる可能性もある。

【レポート:小山正篤/国際石油アナリスト】

2月28日のイラン戦争開始以降ホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界需要の2割に相当する石油輸出が滞っている。封鎖状態が続けば、世界はこのまま未曾有の石油供給ひっ迫に陥る。この危機はアジア太平洋、特に日本をはじめとする域内の自由主義諸国を集中的に襲い、経済のみならず、その安全保障に深刻な打撃を与える。ホルムズ海峡封鎖は、巨大な数量の石油輸出を停止させるだけでなく、同時に世界の原油生産余力の大半を無力化する。この重大さを、まず理解せねばならない。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、輸出途絶量は原油・日量1500万バレル、石油製品・日量500万バレルに上る(いずれもイラン産含む)。これに対しペルシャ湾を迂回する追加的な原油輸出は、サウジアラビアが紅海側から最大で日量500万バレル、UAEがフジャイラ港から日量70万バレルとされる。しかし紅海側からの追加量は、3月前半時点で日量約100万バレルにとどまる。フジャイラ港も、3月半ばにイランによる数次の空爆を受けた後、むしろ輸出量は開戦前水準を下回っている。仮に迂回ルートの追加的輸出量を計・日量300万バレルとしても、なお途絶量は世界需要の2割弱に匹敵する。

一方、昨年末時点、世界の原油生産余力の9割がサウジ、UAE、イラク、クウェートの4カ国に集中しており、その全量がホルムズ海峡封鎖によって稼働不能となった。すなわち封鎖が解除されない限り、石油供給は激減した水準で硬直する。

民間船舶の航行が途絶えたホルムズ海峡

アジア親米諸国を直撃 ホルムズ封鎖影響の実態

桁違いの途絶量と供給の硬直化――。それが過去の石油危機との根本的な違いだ。例えば1979年のイラン革命の際に起きた第二次石油危機では、同年のイランの年間原油生産は日量約200万バレル減少したが、サウジなどの増産によって、中東全体の年間生産量は前年を上回った。今回、そのような機動的生産余力は存在しない。供給途絶に見合うだけの未曾有の消費抑制が一気に必要となる。

図1 ホルムズ海峡封鎖・石油途絶インパクト
*欧州、北米、中南米及びアフリカ 
**追加的迂回供給は原油日量300万バレルを想定

しかもこの供給ひっ迫は世界均等に起こるのではない。危機が襲うのは、まずアジア太平洋地域だ。ペルシャ湾からの石油輸出の約9割はアジア太平洋市場に向かい、域内石油需要の約45%に相当する(図1)。迂回ルートでの振替量を加味しても、なお域内需要の35%以上を占める。対照的に、大西洋市場向け輸出量は域内需要のわずか5%相当に過ぎない。

大西洋地域で最大の輸入者は欧州で、22年以降にロシア産の輸入を大幅に減らし、これを主に米国メキシコ湾、中南米、アフリカからの輸入増で代替してきた。紅海岸からも南部海域がフーシ派の攻撃で航行困難でも、スエズ運河経由で地中海に北上するルートは機能する。

図2 原油輸入(中東産、ロシア産)/原油処理 比率:2025年
*日韓台は原油輸入の中東(オマーン除く)比率

アジア太平洋地域の中でホルムズ海峡封鎖の影響が特に厳しいのは、ロシア石油供給網の外にある、日本を含めた自由主義・親米諸国だ。中東(オマーン除く)産が輸入原油に占める昨年の割合は、日本が9割強、韓国は7割、台湾で約6割だった。国内原油生産を欠くため、この比率がそのまま原油精製に反映される(図2)。

ニュージーランドは国内製油所がなく、豪州も国内需要の4分の3を製品輸入に頼り、その大半が韓国、シンガポール、台湾などを供給源とする。フィリピン、インドネシア、ベトナムも輸入依存度が高い。中東原油のひっ迫は、これら諸国の石油供給に連鎖的な打撃を与える。

他方、アジア最大の産油国である中国では、中東原油の国内精製に占める比率は約35%だ。イランからの輸入が継続し、また1・5億バレル前後と推定されるイラン原油洋上在庫から手当てすれば、影響を一層緩和できる。ロシアも大手供給元だ。需要側でも20年以降に国内EV販売を急伸させ、燃料油消費は既に下方屈曲を示している。

すなわち、中国はアジア太平洋地域の中でホルムズ海峡封鎖に対し最も耐性が強い。ロシア原油輸入に傾斜してきたインドも、比較的優位にある。直撃を受けるのは、東・南シナ海と西太平洋で中国の軍事・外交的威圧に抗する、日本をはじめとする自由主義・親米諸国だ。

【緊急特集 イランショック】自衛隊派遣はあり得るのか!? 備蓄が底つけば「存立危機事態」も

【インタビュー:河野克俊/元統合幕僚長】

3月21日時点でホルムズ海峡が事実上封鎖されています。一部ではイランが機雷を敷設したとの情報もありました。

河野 中国やインドの船舶は一部通行できています。この事実が示すのは、機雷はまかれていないということです。一度敷設すれば、味方や友好国の船だけを安全に通行させるといったコントロールはできません。現時点で封鎖状態を作り出せているので、今後敷設する可能性もかなり低いと言えます。

アメリカはこの状況をどう捉えているのでしょうか。

河野 トランプ大統領は当初、攻撃を仕掛ければイラン国内で体制転換に向けた民衆の蜂起が起こると期待していましたが、読みは外れました。結果としてイランの徹底抗戦を招き、事態は経済戦争の様相を呈しています。トランプ氏は世界経済への悪影響がアメリカ経済に跳ね返ること恐れ、早期収束を望んでいるはずです。しかし、自らのメンツを保つために「核開発を阻止した」といった「勝利宣言」が必要です。外交ルートを通じて、折り合いをつけようとしているのでしょう。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、この機を逃さずに地上軍を投入してでもイランの体制転換を成し遂げたい。今後は両者の溝が深まりそうです。

―自衛隊の派遣はあり得ますか。

河野 国内の石油備蓄が残っている状態では、存立危機事態や重要影響事態の認定は難しい。ただ、長期化によって備蓄が底をつくような状況になれば、法的要件を満たす可能性があります。

【緊急特集 イランショック】イラン核兵器開発の阻止は「核カード」が交渉の切り札に

【コラム:晴山 望/国際政治ジャーナリスト】

米国がイラン攻撃に踏み切った本来の目的は、核兵器の開発阻止にある。イランでは核兵器製造に必要な技術と、兵器級となる90%濃縮ウランに近い60%濃縮ウランを440kg保有しており、これは核兵器11発分に当たる規模だ。

国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長によると、昨年6月の空爆直前の時点で60%濃縮ウランの約半分は中部イスファハンの地下貯蔵庫に保管されていた。残り半分は、空爆を受けた2カ所の濃縮施設にあるとみられる。ただ、イランは2月末の開戦直後、高濃縮ウランを他の施設に搬出するとIAEAに通告。移転場所は不明のままだ。イランはイスファハンに新たな濃縮施設を建設していたが、「単なる空っぽのホールなのか、すでにウラン濃縮に使う遠心分離機が設置されているのかは分からない」(グロッシ氏)という。

一方、米情報機関のトップであるギャバード国家情報長官は3月19日、昨年6月の空爆でイランの核濃縮計画は壊滅し、「再建する試みは一切行われていない」と議会に報告した。

イランの核兵器開発を阻止するには、①米軍が特殊部隊などを派遣し高濃縮ウランを回収する、②外交でイランに高濃縮ウランを放棄させる―しかなく、極めてハードルが高い。数千人規模の兵力投入が必要であり、ベネズエラのマドゥーロ大統領拉致のような「一晩限り」の作戦にはならないのが現実だ。

イランは濃縮施設や高濃縮ウランの状況に口をつぐむことで、「核カード」を交渉の切り札に使い続ける可能性が高く、解決は難航しそうだ。

【緊急特集 まとめ】イランショック 現実化した「ホルムズ封鎖」の脅威

エネルギー輸送の要衝「ホルムズ海峡」の封鎖が現実のものとなった。
原油、ナフサ、LNGなどの供給に大きな支障が出るとともに、国際市場価格が高騰。
石油のホルムズ依存度が9割を超える日本のエネルギー政策は重大な局面を迎えている。
需給ひっ迫への懸念が高まる状況下で、政府は消費を下支えする補助金を復活させた。
1970年代の経験を生かせない的外れぶりに、エネルギー関係者の危機感は強まるばかりだ。

【アウトライン】世界を襲う未曽有の危機 有事でも消費を促す日本の的外れ政策

【レポート】ナフサ高騰で製品不足へ 国主導で緊急対策計画策定を

【レポート】アジア太平洋諸国で供給逼迫 石油緊急事態体制への移行が急務

【インタビュー】自衛隊派遣はあり得るのか!? 備蓄が底つけば「存立危機事態」も

【コラム】イラン核兵器開発の阻止は「核カード」が交渉の切り札に