【目安箱/12月26日】太陽光パネルは都市災害時に危険 東京都への警鐘


◆100年前の後藤新平の知恵「災害で逃げられる道路」

紅葉見物で賑わう神宮外苑の銀杏並木

東京都民の筆者は、神宮外苑の銀杏並木が好きで晩秋に毎年散策する。外苑前の道路は車道も歩道も幅広い。ここは1923年の関東大震災の後で、内務大臣と帝都復興院総裁を務めた後藤新平(1857-1929)が、新しい東京のモデル道路として作った。自動車化時代の到来と防災を意識し、道幅を広くし、長寿の銀杏を植えたという。大震災の際に、東京の入り組んだ道路が避難を遅らせて、被害を増やした反省により、後藤は「災害の時の逃げやすさへの配慮」を建設の際に指示したという。

ただし後藤の構想は経費がかかるため、世論や関係者に受け入れられず、道路の拡張は限定的だった。出典不明だが、昭和天皇が戦後外苑に来たときに、「後藤の言う通りにしていれば、戦災の規模も少しは小さくなったかもしれない」と、悔やんだという逸話があると聞いた。

100年経過しても、後藤の考えが東京の街づくりに活かされているとは思えない。筆者は東京東部のゼロメートル地域のマンションに住んでいる。周囲は埋立と以前は農地だった場所のようで、無計画に街が建設されたために、道路が入り組んでいる。仮に火災、洪水が起きた場合に、逃げられなくなるのか心配になる。

東京だけではない。日本のどの市街地も、防災や災害時の避難を意識して作られていないように思う。

◆太陽光パネル義務化政策、防災の配慮はあるのか

12月15日、東京都の進める新築住宅の太陽光パネルの義務化政策が、都議会で可決された。事前にそれほど話題になっていなかったので、唐突感がある。そして東京に住む人間として、防災面での心配がある。

筆者の住む東京東部のゼロメートル地帯では、数メートルの浸水の危険がある。また大規模火災、地震での避難の心配の破損がある。太陽光パネルが街中に増えたら、災害の際にどうなるのか。

以下、「メガソーラーが日本を救うの大嘘」(杉山大志編著、宝島社)を参考にした。東京の北部・東部を流れる荒川水系、南部を流れる多摩川水系の下流域は、河川と海に囲まれたゼロメートル地帯だ。

こうした水害の際に、太陽光パネルは危険だ。太陽光発電では、光があたれば発電をし続ける。特に水は通電性が高く、また破損時にそのような経路で電気が漏れるかわからないので、近寄ってはいけない。1システムで光があたれば300ボルト前後の電流を発生させる。これは数秒人間の体に通電すれば、心筋梗塞などをもたらして死ぬ可能性のある電流だ。

また太陽光パネルの表面はガラス製で、重さは1枚15キロ程度だ。強風や地震で屋根から外れて飛んだり、落下したりする危険がある。日本各地でパネルの手抜き工事で、その破損が伝えられている。

「屋根が電気を作ることを当たり前にしたい」。小池百合子都知事は、21年9月にこの政策を発表したときに語った。屋根に太陽光パネルを置くことが問題なのだ。筆者の住む場所の周りの屋根の上に、太陽光パネルが大量に設置される光景を想像してみた。水害の時には太陽光パネルによる感電のリスク、強風や地震の時には15キロを超えるガラスと金属の塊が住宅地に舞い、人にぶつかり移動を妨害する可能性があるだろう。とても危険だ。

太陽光発電を人里離れた場所でやるならともかく、なぜ東京のような人口密集地で行うのかわからない。

◆危険を考えていない東京都

東京都が2022年8月に「太陽光パネル解体新書」という政策説明パンフレットを作った。これを読むと、水没による感電については「過去に事故の事例は聞いていない」「専門家に対応を依頼してください」、破損リスクは「少ない」(同)と書いてある。(パンフ内Q&A18)

大水害の時に専門家を呼ぶ暇があるのだろうか。全国で太陽光発電の乱開発、パネルの破損問題が起きているのに、リスクは少ないのだろうか。あまりにも答えがいい加減すぎる。想定される人命リスクを無視すべきではない。

この政策は小池都知事の主導のようだ。(エネルギーフォーラム記事「【目安箱/12月12日】賛否渦巻く太陽光義務化 小池都知事はなぜ固執するのか」)東京都の事務方の方でも突如上から降りてきたために、政策をしっかり練っていないらしい。

そしてこれは東京都だけの問題ではない。京都市が大規模建物の太陽光パネル義務化を行い、群馬県も検討している。また神奈川県川崎市は新築住宅での義務化を検討している。防災の観点からリスクの大きな政策を遂行する不思議な動きが、日本各地にある。

太陽光発電を否定する意図は私にはない。しかし、どんな物事にも、場所や方法の適切なやり方への配慮がある。なんで都市に合わない太陽光発電の普及を、東京都や各自治体が進めるのか不思議だ。

冒頭の例を引用すれば、後藤新平が考えたような「災害時に逃げる」ための動く経路を、21世紀の都市計画で行政が考えていないのは、愚かで残念なことだと思う。太陽光パネル設置を都の条例は成立してしまった。2025年4月からの施行まで時間がある。この防災の面の懸念を払拭できない限り、筆者は都民として、この政策を支持できない。東京都を含め、各自治体は、過去を含めて知恵を絞り、その場に合い、効果があり、安全な環境・エネルギー対策を考えてほしい。

【記者通信/12月23日】政府がGXで原子力の持続的活用を明示 「成長志向型CP」実現も


政府は12月22日、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案を取りまとめた。今後10年を見据えたロードマップを策定。原子力では、再稼働の着実な推進に向け国が前面に立つことや、次世代革新炉の開発・建設、運転期間に関して長期停止期間分の延長も可能とする方針などを示した。第6次エネルギー基本計画では原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」と掲げており、今回の基本方針はエネ基の方向性をよりクリアに整理したものだと言える。また、もう一つの柱となる「GX経済移行債」創設に際し、その償還財源となる「成長志向型カーボンプライシング(CP)」の方針も決定した。政府はGX基本方針案を2023年に閣議決定し、次期通常国会に関連法案を提出する予定だ。

原子力政策の「方針転換ではない」 第6次エネ基を踏襲

第6次エネ基では、原子力に関して「依存度の低減」という方針は残しつつ、新増設・リプレースの明示は見送った。こうしたことから、一部では今回のGX基本方針案で、政府が原子力政策を大きく方針転換したと報じる向きもある。

だが、自民党内の原子力派議員に言わせると、「方針転換をしたわけではない」。第6次エネ基での原子力のポイントは、策定作業の最終盤で盛り込んだ「必要な規模を持続的に活用していく」という一文。今回の基本方針はこの表現を踏襲する形で、「将来にわたって持続的に原子力を活用するため、安全性の確保を大前提に(中略)次世代革新炉の開発・建設に取り組む」とリプレースの推進を明示した。

また、運転期間を巡っては、新規制基準適合性審査の長期化などで停止した期間を除外する「カウントストップ」を認めることとした。これまでの原則40年、最大20年の延長を一度限りで認める方針は残しつつ、長期停止期間の追加的な延長も可能になる。

これに伴い、原子力規制庁が高経年化原子炉の安全規制の枠組みを見直している。従来は①30年以降10年ごとの高経年化技術評価、②最大60年の運転期間延長認可制度――の2つが存在していたが、今後は新制度に一本化。30年以降、10年以内ごとに、「長期施設管理計画」で災害防止上の支障がないことや、技術基準適合性を規制委が審査していく。

そして、30年度原子力比率20~22%達成に向けて再稼働の加速を図る。今冬までに再稼働済みの10基に加え、来夏以降には、設置許可済みの高浜1、2号、女川2号、島根2号の再稼働が順次見込まれている。さらに来冬以降には、複数の課題を抱える柏崎刈羽や、東海第二の再稼働も目指したい考えで、国が前面に立った対応や、運営体制の改革に取り組む。20年代半ばごろからは、設置許可審査の申請済みや未申請の19基の再稼働も目指す構えだ。

このほか、核燃料サイクルや最終処分の取り組みの推進も掲げた。

ただ、今回の方針を具体的にどう実現していくのかは、いまだ不透明だ。例えば柏崎刈羽は、東京電力の核物質防護での不手際に対する不信感が根深く、新潟県の「3つの検証の総括」が進まず地元同意が得られていない。東海第二を巡っては、茨城県や水戸市などでの避難計画の策定や、日本原子力発電と東海村や周辺5市との「事前了解」締結に至っていないことが課題だ。長年停滞していたこれらのハードルをどうクリアしていくのか。

また、「カウントストップ」は認められたものの、それがどの程度原発稼働率の向上に寄与するかは未知数。革新炉建設についても、資金調達などに関する制度的支援の検討などが必要になるし、具体的地点の選定段階ではまた課題に直面することになるだろう。

これらの課題をそれぞれ着実に解決していくための具体的な政策の検討が、引き続き求められている。

炭素賦課金を28年度以降徴収 発電部門には排出量取引を有償化

GX基本方針でのもう一つの注目点が、成長志向型CP政策だ。政府はGX経済移行債を20兆円規模で発行し、これを呼び水に今後10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素分野の投資に結びつけたい考え。GX移行債の新設は償還財源の明示が条件となっており、①排出量取引制度(ETS)の本格化と、発電事業者を対象とした「有償オークション化」、②炭素賦課金の導入――を決めた。

まず①を先行させ、段階的なCP強化を図る。23年度から自主的な形でETSを始め、26年度頃からは企業が削減目標を超過達成した分の取引などを本格化させていく。そして33年度頃からは、発電部門を対象に有償オークションに移行する方針だ。

もう一方の炭素賦課金は、化石燃料輸入業者に対し炭素比例で課し、28年度頃から導入する。なお、CPの二重負担を避けるため、発電事業者は炭素賦課金の対象からは外れる。

これらの導入条件として、エネルギー諸税や再エネ固定価格買い取り制度(FIT)賦課金といった既存制度を含め、炭素に絡む総合的な負担は増えないようにするという。例えば炭素賦課金は、石油石炭税や地球温暖化対策税との位置づけの整理や、賦課金の水準設定が焦点となる。政府はGXの進展などに伴い将来的な石石税収の減少や、FIT賦課金の負担減を見込んでいるが、脱炭素へのトランジションがうまく進まず化石燃料使用量が大して減らなかった場合でも、総額負担が増えないことを担保できるのか。

他方、賦課金を巡っては「最終的に国庫に入るのであれば結局は炭素税とイコールだ」(政府関係者)といった見方もある。防衛増税議論などで今は炭素税議論を封印した形だが、いずれ議論が再浮上する可能性がある。

真に成長につながるCP施策を具体的にどう設計していくのかも、23年の注目点となる。

【目安箱/12月23日】エネルギー業界は「戦争」に備えよ


日本の安全保障戦略の見直しが打ち出された。それに応じて、エネルギー業界も万が一の戦争に備える時期になったと思う。エネルギー業界の端にいる私が、実務に関わる責任ある方々に言うのは恐縮だが、その呼びかけの文章だ。

安全保障政策の転換を説明する岸田首相(21年12月16日、首相官邸のウェブサイトから)

◆防衛政策の転換、エネルギーの重要性

岸田文雄首相は12月16日に記者会見し、防衛政策の転換を打ち出した。中国による台湾への侵略の可能性、北朝鮮によるミサイルや核兵器による威嚇、ロシアのウクライナへの侵攻と日本への脅威。こうした安全保障情勢の変化を受けて、国家安全保障戦略など防衛3文書を見直し、敵地攻撃などの能力を高めるとした。これまでの防衛戦略から、転換し少し積極性を持つものだ。

この戦略文章では、「エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保」という章が加えられ、「資源国との関係強化、供給源の多角化、調達リスク評価の強化等に加え、再生可能エネルギーや原子力といった自給率向上に資するエネルギー源の最大限の活用、そのための戦略的な開発を強化する」と述べた。前回の国家安全保障戦略より記述が詳細になり、「原子力」と「再エネ」という言葉が文章に入った。

◆エネルギーインフラは戦争で狙われる

この変化で、エネルギー業界の日々の業務が変わるわけではないが、国の行動にエネルギーへの配慮が少し加わった。そして政府がここまで状況を深刻に認識し、世論がそれを認めているという、安全保障環境の変化をエネルギー業界は考えるべきだろう。

この10年、原子力が使えないことで日本の発電に占めるLNG火力の割合は7−8割を占めてきた。日本が輸入するガスは半分が電力、半分が民間の都市ガスと産業の都市ガスに使われ、年間26兆円(21年、貿易統計)の巨額になる。

ガスの輸入は10%がロシア(20年)だが、今後は減る見込みだ。残りは中東諸国とインドネシアだ。シェール革命で産出が増えた米国産ガスの輸入は本格化していない。そのガスは、中国が制海権と制空権を握りつつある南シナ海を通る。日本郵船、大阪商船三井、川崎の大手3社の持つ、日本の輸入に使われるLNG船は191隻(21年末、NYKファクトブック)。船はペルシャ湾から20日、インドネシアから7日で日本に到着する。往復を考えると数十隻の日本向けのLNG船が南シナ海、東シナ海を常時、無防備で航行している。LNGは長期間備蓄できない。そのために南シナ海が通れなくなったら、日本は即座にエネルギー面で大混乱に陥ってしまう。海上交通路が日本の敵国による船舶攻撃などで、何らかの形で遮断する可能性があるだろう。

また現在のウクライナ戦争で、完全勝利の望めなくなったロシア軍が今年秋から、電力やガスなどの民間企業の設備を攻撃し、エネルギーの禁輸を続けている。ウクライナの厳しい冬を、エネルギー不足でより厳しくし、継戦能力や民間活動を弱めようとしている。同国は電力、ガス不足に直面している。

日本周辺の有事の場合には、国内外の日本のエネルギー企業の権益、設備が攻撃されるリスクが大きい。

◆想像できないことに向き合う

日本が無謀な太平洋戦争を始めたのは、石油の輸入が米国などに止められたことが一因だ。その経験や2度の石油ショック、福島第一原発事故、今の電力危機など、エネルギーを巡って、国が揺らぐ問題が繰り返し起きているのに、みんな忘れてしまう。仕方のないことかもしれないが、エネルギー業界が真面目で供給が途切れることがないように頑張ってしまったために、誰も気にしないという面もある。

戦争は民間企業の対応できるところではないし、想像もできない。しかし、それに直面することを想定しなくてはいけない状況になりつつある。「何も想定していない」というのが、多くのエネルギー企業にとっての答えだろう。しかしやらばければいけない。購入し運搬中のガスや石油の外国軍による攻撃、従業員の勤務中の死傷、自社設備への破壊やテロ、日本周辺の海上交通遮断の時の事業継続など、論点は山のようにある。できる限りの対応法を、エネルギー業界も考え始めるときだ。

キューバ危機を描いた「13Days」という映画で、ケネディ大統領のスピーチライター、セオドア・ソレンセン(実在の人物)が、核戦争を想定した演説を頼まれた時に、「想像さえできない世界を、どうやって書けばいいのか」と、重い表情で絶句する場面がある。エネルギー業界の人も、その同じ状況に直面しつつある。絶句せざるを得ないだろう。それでも、やらなければいけない。日本のために、国民のために、会社のために、自分と家族のために、エネルギーを安定的に供給し、国民生活を守るのだ。

【記者通信/12月22日】東ガス次期社長に笹山氏 新中計視野に発表前倒し


突然のトップ人事だった。東京ガスは12月21日、代表執行役副社長の笹山晋一氏(86年入社)が4月1日付で代表執行役社長に就任する人事を発表した。現社長の内田高史氏(79年)は、2023年6月の株主総会を経て取締役会長に就く。会長の広瀬道明氏(74年)は相談役に退く。同社は現在、笹山氏が中心となり2023年度からの新たな中期経営計画を策定中。社長就任後は、直面するエネルギー危機やカーボンニュートラル社会への対応など「エネルギー大変革時代を迎える中で、変化に柔軟に対応できるポートフォリオ型経営」の実践を目指していく構えだ。

会見でグータッチをする内田社長(右)と笹山副社長

「本日午後3時から、役員人事に関する記者会見を行います」。21日午後1時過ぎ、東京ガスから編集部に連絡が入った。この時期に役員人事の記者会見となれば、トップ人事しかない。同社の次期社長を巡っては、副社長の沢田聡(83年)、笹山の両氏が有力候補に浮上しており、その行方に業界内外の関心が集まっていた。ただ、過去の例を踏まえれば、同社の社長人事発表は来年1月下旬のはず。「マスコミがかぎつける前に、先手を打って発表か」。そんな思いを抱きながら、東京・大手町の会見場に向かう矢先、関係筋から一報が入る。「次期社長は笹山氏」。

笹山氏は、東京大学工学部卒。東京ガスとしては異例の技術系出身の社長が誕生する。とはいえ、経歴を見れば、エネルギー企画部や総合企画部で営業戦略やエネルギー政策関連の仕事に携わり、16年4月に執行役員総合企画部長に就任。その後は、18年4月常務執行役員デジタルイノベーション本部長、20年4月専務執行役員エネルギー需給本部長などを務め、DX(デジタル化)やGX(脱炭素化)、エネルギートレーディング、再生可能エネルギー開発など、幅広い分野で手腕を発揮してきた。現在は、同社初の最高戦略責任者(CSO)として次期中期経営計画の策定に向けた陣頭指揮を執っている。「東京ガスでは従来、経営計画の策定に携わった幹部が社長に就き、それを実行に移していくという形を取っていることを考えると、今回の人事はセオリー通りか」。都市ガス業界の関係者はこう話す。

新体制下で注目されるアライアンス戦略の行方

内田氏は会見で、笹山氏について「経営トップとしての資質は十分。この1年間はCSOとして私を補佐するなど、経験豊富であり、今後の東京ガスを託するにふさわしい人物」と評価した。人事発表が通例より1カ月ほど早まった理由については「取締役、執行役員、執行役の人事がこの後に控えていることに加え、いま笹山副社長が中心となって新たな経営計画を作成しており、その発表を年度内に行いたいといった事情があるため、選定を早めることになった」と説明した。

笹山氏がコメントした社長就任に際しての所感は次の通り。「長年にわたり築き上げた東京ガスグループの『安心・安全・信頼』のブランド価値や、お客さまをはじめとしたステークホルダーを大切する企業分解を受け継ぐとともに、グループ経営理念やグループ経営ビジョン『Compass2030』を踏まえ、社会課題の解決と当社グループの持続的な発展を実現することが、私の使命と考えています。特に、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するソリューション群の収益化・スケール化に注力し、ガス・電気に次ぐ事業の柱を、スピード感を持って育て、変化に柔軟に対応できるポートフォリオ型経営を推進していきます。グループが一丸となり、協力企業・アライアンスパートナーの皆さまとの連携を密にし、新たな時代を切り開いていく強い決意をもって、尽力していく所存です」

振り返れば、東京ガスは関西電力や九州電力、東北電力、ENEOS、NTTなど大手企業と事業分野に応じたアライアンスを積極的に推進してきた。その中には、成功したものもあれば、結果としてうまくいかなかったものもある。ただ、これからのDX・GX時代を生き抜いていくためには、アライアンス体制の戦略的強化が不可欠。笹山氏が信条に掲げる「三鏡」(自分の状況を知る=銅の鏡、歴史に学ぶ=歴史の鏡、厳しい意見を受け入れる=人の鏡)の組織・リーダー論を背景に、東京ガスグループの新時代をどう切り開いていくのか、その経営力が試される。

【目安箱/12月12日】賛否渦巻く太陽光義務化 小池都知事はなぜ固執するのか


東京都の小池百合子都知事が新築住宅の太陽光パネル義務化の政策を進める。人権、経済性、防災など、多くの問題がある。多くの問題があるのにその批判を無視して、小池都知事がこの政策を自ら主導して突如進めるのは不思議だ。両論併記で、賛成反対のそれぞれの意見と解説は「記者通信」に書かれている。このコラムでは、なぜ小池都知事がこの政策を唐突に持ち出したのかを考えてみたい。彼女自身が詳細を語っていないので謎なのだ。もしかしたら、彼女のいつもの行動「目立つことに飛びつく」というのが主要な理由かもしれない。

◆国が断念した政策に飛びついた

小池百合子東京都知事は2021年9月に、この政策を突如発表した。そして21年12月から始まった都議会定例会で設置義務化を定める東京都環境確保条例の改正案が審議されている。成立すれば2025年4月から施行される。実施されれば、新築一戸建てでは日本初の条例となる。華やかなことを追求する小池氏の好きそうな話になる。

菅義偉政権では20年に、温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル目標」を決めた。それを受けて、21年3月に当時環境大臣だった小泉進次郎が、この政策を行いたいと急に打ち上げた。しかし世論の反発が強く、立ち消えになった。小泉氏の断念した思いつき政策に、なぜか小池氏は飛びついた。

関係者によれば、小池氏の脳裏には、環境大臣(2003-05年)の時に自らが主導した「クールビズ」キャンペーンが成功体験として残っているらしい。夏の軽装で冷房を抑制しようとする政策だ。冷房抑制の効果があったかは疑問だが、服の軽装化は進んだ。キャンペーンでは各所に彼女が有名人と共に登場し、流れを作った。彼女は環境に注目するようになっている。

小池氏は、ネット広報には詳しくなさそうだが、ニュースキャスターの経験を活かして、オールドメディアの操作は上手だと思う。絵になる画像を提供し、短くキャッチフレーズを繰り返す。実際にこの政策で12月1日までに寄せられた3714件のパブリックコメントでは、賛成が56%と反対の41%を上回る。

◆「唐突すぎる」都民ファースト関係者からの声

ただし広報だけでは現実は変えられない。新型コロナでも、小池都知事は広報には一生懸命だった。しかし東京都による現実の防疫体制づくりは後手に周り、その政策と実務の評価は今ひとつだった。この太陽光パネルの義務化政策でも、実行には問題が多く、エネルギー関係者からは懸念の声ばかりが聞こえる。

太陽光パネルの設置義務化政策が、なぜ浮上したのか。小池氏の都議会与党である都民ファーストの関係者に聞く機会があった。「唐突すぎる」と都議の多くは不思議がっているという。同会の意思決定はほぼ小池の独断で決まり、秘書出身の側近側近がたまに小池の意見を聞かれる程度だ。それ以外の議員には、小池の真意はなかなか分からない。それでも選挙に勝てるから、都議たちはしがみついているようなのだ。

「メガソーラーが日本を救うの大嘘」(宝島社)という本で、かつて小池と協力したが、今は袂を分かち、「地域政党自由を守る会」を立ち上げ活動する上田令子都議会議員の寄稿が掲載されていた。彼女も、突然の政策化を疑問に思っていた。そして筆者は、上田氏と懇談する機会があった。

上田氏の見立ては「深く考えずに決めたのではないか」という。この政策が、突然浮上した21年9月に、都民ファーストは批判を集めていた。21年7月に行われた東京都議会議員選挙では、同会はなんとか過半数を制した。ところが選挙期間中に同会の木下富美子議員が選挙後に無免許運転で交通事故を起こし、さらに免許停止処分を5回も受けていたことが発覚。彼女はその後も11月まで都議に居座り、彼女を統制できない同会が批判されていた。また当時は新型コロナ対策にとらわれて、都政も社会の動きも止まっていた。その新型コロナ封じ込め策も批判を集めていた。小池氏には、新鮮な施策を手掛けたい動機があった。

「この政策に小池さんが飛びついた理由は、はっきりとはわからない。彼女は記者会見の目玉テーマをいつも探している。都民の注意を逸らすため、深く考えずに、目新しいテーマに飛びついた可能性がある」と、上田氏は言う。

◆行き詰まりの今こそ議論を尽くす好機

小池氏の一貫性のない行動を考えると、上田氏が言うように、目立つことを重視して、小池氏が太陽光パネル義務化の政策に飛びついた可能性もあると筆者は思う。

ただし、それでも先行きが怪しくなり始めた。有識者が疑問を示し、ネットを中心に世論の批判が強まっている。都議会第二勢力の自民党は、小池氏が国の政策と連動した強調したため、これまで強く批判はしていなかった。しかし、問題点が次々に出てきたことで12月からの都議会では「慎重な審議を求める」と要求した。小池氏も12月の記者会見で、批判に配慮し始めたのか、「最新技術の開発促進、情報発信、人権尊重などSDGsに配慮したい」と、推進一辺倒から少し態度を変えた。

小池氏の独断だけでは、政策を遂行できなくなっている。この重要な政策が仮に「目立ちたい」という軽率な意図で推進されたら問題だ。行き詰まったこの機会を逆に生かし、都民、国民に問題を周知させ、議論を深めてほしい。

【記者通信/12月8日】都の住宅太陽光義務化で賛成・反対両派が同日会見


東京都の小池百合子知事が意欲を示す新築住宅への太陽光パネル設置義務付けを巡り、義務化に反対するキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏らが12月6日、記者会見を行った。杉山氏は国民負担の増加や人権侵害、強制労働が疑われる中国製パネルの使用に懸念を示し、義務化の撤回を求めた。一方で条例義務化を求める東京大学大学院の前真之准教授らも同じ日に会見を行い、電気代価格引き下げに太陽光発電が寄与するとして、導入推進を呼びかけた。

杉山氏「人権、経済、防災で問題」

反対派の会見には、杉山氏のほか、常葉大学名誉教授の山本隆三氏、東京大学公共政策大学院特任教授の有馬純氏、全国再エネ問題連絡会共同代表の山口雅之氏、東京都議の上田令子氏らが出席。杉山氏は会見で「義務化には人権、経済、防災の3点で問題がある。9月に反対請願を提出したが、都から誠意ある回答は得られなかった」と苦言を呈した。また山口氏は、再エネ賦課金や託送料金など国民全般の電気料金が設置義務化の原資になっていると指摘。山本氏も「東京都の政策によって東京都以外の住民の負担が増える、こういう政策をやっていいのか」と述べ、一部の都民が価格の恩恵を受ける構造と負担格差の拡大に警鐘を鳴らした。

さらに、会見では新疆ウイグル自治区での強制労働が疑われる中国製パネルの輸入も問題視。有馬氏は「太陽光パネル義務付けとなった際、最も利益を得るのは中国。温暖化防止やウクライナ侵攻問題を自国の都合の良いように活用している」とパネル導入による地政学的リスクを訴えた。そのほか、大規模水害でパネル水没した際の感電事故の危険性や、世界平均気温1.5度目標に対するパネル設置効果への疑問などが提起された。

前准教授「義務化は電気代の負担軽減に」

これに対し、同日午後に条例義務化を求める前氏や一般社団法人「太陽光発電協会」らが会見。前氏は「燃料高騰による電気代上昇の中、電気代を安くできる確立された技術は、①断熱・気密、②高効率設備、③太陽光発電の三つだけ」だと述べ、義務化は電気代の都民負担軽減につながると主張した。

負担格差の拡大については「固定価格買い取り制度(FIT)の価格下落に加え、賦課金も近くピークアウトが予想される」と分析。太陽光導入で昼間の電力コストが軽減し、国民全体に恩恵をもたらすと話した。また「誘導策だけでは停滞が顕著だ。事業者への設置義務によって市場の競争原理が働き、太陽光をリーズナブルに導入できる」と義務化のメリットを説明した。その上で「条例案には設置が難しい、日照条件が悪い建物は除外できるなど、さまざまな配慮がある」としながら、「いま取り組むべきは『ほぼゼロリスク』をことさらに吹聴し不安をあおり、普及を阻害することではない」と義務化反対の風潮にくぎを刺した。

小池知事は急激にトーンダウン

賛成派と反対派との議論が活発化する中で、旗振り役だったはずの小池百合子都知事は急激にトーンを落としている。9月の都議会の所信表明では「新築住宅への義務化の動きは、国際社会の潮流だ」と話していた小池都知事だが、12月の記者会見では太陽光発電普及について「最新技術の開発促進などをはじめとする情報発信、人権尊重などSDGsに配慮した事業活動に関する取り組みなどについても協力して進めていく」と批判に配慮した発言にとどまっている。

設置義務化の反対署名活動を行ってきた上田都議は「小池知事はこんなに(反対派から)やり玉に挙げられるとは思っていなかったはず」だと話す。さらに「今回の件は政府や国に先駆けたい小池百合子都知事のパフォーマンスの一環ではないか」との見方も示している。上田令子都議らは会見終了後、反対運動に署名した5778筆を都の担当者に手渡した。

【記者通信/11月28日】四国28%・沖縄41%値上げ申請 原発稼働が明暗分ける


四国と沖縄の大手電力2社が11月28日、経過措置規制料金の値上げを経済産業省に申請した。両社とも今年4月には、燃料費調整制度の平均燃料価格が調整上限に達し、燃料費の超過分を自社で負担しなければならない状態が続いていた。燃料費の変動を適切に反映できる料金体系とすることで、これ以上の財務状況の悪化に歯止めをかける狙いがある。

具体的には、四国は低圧規制料金を平均28・08%値上げし、標準的な家庭(契約種:別従量電灯A、使用電力量260kW時/月)の月額料金は現行比27・9%値上がりの1万120円とする。一方、沖縄は40・93%の値上げを申請。標準的な家庭の電気料金は同39・3%値上がりし1万2320円となる。沖縄は高圧分野にも規制が残っており、こちらは50・02%の大幅値上げとなる。

四国は2013年、沖縄は08年以来の料金改定。沖縄では12年に吉の浦火力が運開したため、今回初めてLNG火力が電源構成に加わった。これにより、電源が石油、石炭のみと仮定した場合よりも、3か年平均で92億円の燃料費抑制効果を原価に織り込むことができたという。

燃料費に加え、卸市場価格が押し上げ要因に

25日に申請した東北、中国も含めて各社共通しているのは、燃料費に加え「他社購入電力料」が原価算定期間である23~25年度の年平均原価の押し上げ要因となっていることだ。これは、FIT(固定価格買い取り制度)に基づく再エネの買い取り量が増え、この買い取り価格が卸電力市場の高騰と連動しているためだ。一方で、市場での販売量も増加傾向にあり、販売電力料も大幅に増加している。自由化の進展や再エネの導入拡大が原価の在り方に大きく影響していることが浮き彫りとなっている。

総じて大幅値上げを申請している各社の明暗を分けているのが、原子力発電所の稼働状況だ。伊方3号機を供給力として織り込める四国は値上げ幅を20%台に抑え、24年初頭の原発再稼働を織り込んだ東北、中国はそれぞれ30%強の値上げ申請となったのに対し、供給力のほとんどを火力に依存せざるを得ない沖縄は40%強と、他社と比べても大幅な値上げに踏み切らざるを得ない状況だ。原発が稼働している関西、九州は今のところ値上げを表明しておらず、電源構成の違いが電気料金の地域間格差を拡大することになりそうだ。

【目安箱/11月28日】好調な日立の危うさ 原子力で転んだ東芝と類似?


エネルギーの現場を歩くと電力でもガスでも、前から多かった日立の計測機器類、システムがこの10年でさらに増えた印象がある。I T化の動きにも対応し、より使いやすく、正確になっている。技術者など社員の努力に加えて、川西隆氏、故・中西宏明会長らの経営者の改革が実を結んだ結果だろう。ところが、中の人から見ると、絶好調から一転して経営危機に陥った東芝に「似ている」という声がある。エネルギー分野での心配という。本当のところはどうなのか。

◆足元絶好調、死角なし?

日立グループが10月28日に発表した中間決算発表は好調だ。⑳20、21年度と連続で過去最高益を出した強い成長は継続。22年度上半期(4~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比12%増の5兆4167億円。円安による為替影響と電機、重電の世界的な市況回復傾向が影響した。

売り上げの伸びの中心は計測分析システムの好調と、20年に1兆円で購入したソフトウェア開発の米国のグローバルロジック社の効果だ。さらに、分析システムの機器と連携し、顧客のデータを使いシステムを共同で作り上げる「Lumada」事業も広がりを続けている。通年の売上高予想は、期初比5500億円増の10兆4000億円。ただし当期利益は変わらず6000億円となっている。

ウェブ会見した河村芳彦副社長は、この好調さにもかかわらず先行きで慎重な見方を示した。世界的なリセッションと中国ビジネスの不透明感を当面は警戒し、「地政学リスクを考慮すると、一部の拠点を国内や同盟国に戻すこともあり得る」と述べた。

◆財界活動を引き受けた悪影響

この決算を見ると、日立の行く末に問題はなさそうだ。ところが元幹部によると、「東芝に似ていないか」という声が社の内外に囁かれているという。特に、電力に関わる面に不安があるそうだ。この人によると、東芝と2つの類似点がある。

第一は、財界活動に巻き込まれ、本業が悪影響を受けることだ。

東芝は古くは、石坂泰三、土光敏夫という名経営者が会社を飛躍させ、その後に経団連会長になった。同社は三菱、三井、住友以外の非財閥系企業で、財界の中では中立的立場だ。そのために経団連会長になりやすい。東芝を、一時、重電、原子力で2000年代に成長させた西室泰三氏(1935-2017)は、亡くなる直前には、財界、本業以外の活動に積極的だった。05年に会長から相談役になった後で、公職を歴任した。

ところが西室氏は、社長を務めたゆうちょ銀行で不祥事の責任をとらされ、16年に退任。さらに東芝の経営危機は、西室氏が敷いた原子力への積極策が影響したとされる。西室氏の指名で後任になった西田厚聡元社長は利益水増し、原子力分野の巨額の買収の失敗などの失策を行なってしまった。

日立は2008年度決算で、約7800億円の赤字決算を出した。その際に、子会社転出後の役員らを呼び戻し、幹部を入れ替えた。川村隆氏(1939-)、中西宏昭氏(1946−2021)はその時、子会社の経営者から日立本体に復帰し、大規模なリストラと、今の重電、電子ソリューション分野への注力の路線を敷いた。

日立は、東芝と違って財界活動にはそれほど関心を示さなかった。いまは昔と違って各社とも経営に余裕はないし、利益にもつながらない。14年には川村氏が経団連会長に推薦されたが就任を固辞。中西氏は経団連会長に18年から就任した。当初は就任を固辞したが、今の財界の人材不足と、ふさわしい大企業がなかったために、引き受けてしまった。

川村氏は17年に東京電力会長に就任するが、20年に退任してしまう。早期の退任は年齢面もあるが「事実上国営化され自由に行動できない東電の経営の自由度を上げようと動きはじめ、政府に嫌がられた」(電力筋)という説もある。日立幹部O Bによると、こうした財界活動に引き込まれると、日立の経営に悪影響が出かねないという懸念が会社にあるという。

現在の東原敏昭会長、小島啓二社長は、中西氏に近い人材、その路線の忠実な後継者とされる。「危機の際に自発的に、同じ対応ができるか疑問」(日立幹部OB)という。

◆原子力の束縛の悪影響も

東芝との類似点の第二点は、原子力を巡る問題だ。筆者が懇談した日立幹部O Bは原子力の経歴はなかったが、こんなことを述べていた。「原子力に関わる人は、それを発展させなければいけないと、思い入れを持つ。川村さん、中西さんもそうだ。しかし国策であり、一企業ではどうしようもない。東芝はそれで転んだ」。経歴では中西氏はI T・システム中心だが、川村氏は原子力、発電畑の出身だ。2人とも原子力の必要性をことあるごとに強調していた。

20年の日立の英国からの原発事業の撤退では、同社は3000億円の損失処理を余儀なくされた。これは中西氏主導のプロジェクトだった。その失敗には、日英経済協力の外交案件になって、また英政府の政策変更に翻弄された気の毒な面があった。ただし撤退が遅れたのは、「中西さんらしくなかった。経団連会長職による束縛と、原子力への思い入れのためかもしれない」(同)。日立・G Eの原子力事業は次の成立しそうな案件は見当たらない。一方で中国、ロシア、韓国企業は世界で攻勢をかけている。

現在、日立は子会社の整理が終わり、前述のグローバルロジックなど巨額投資の結果を待っている状態だ。現時点では業績上の効果が出ている。しかし10年に原子力への巨額投資が一巡した東芝でも、似た姿があった。また独シーメンス、成長中の中国企業などとの競争の中で、システム、重電分野の日立の優位局面は長く続くとは限らない。

財界活動と原子力。この東芝をつまずかせた2つの問題をきっかけに、好調の日立の業績が暗転する可能性があるかもしれない。

【記者通信/11月28日】原油価格急落で昨年12月水準に 国の補助金見直しも?


原油価格の下落が止まらない。米原油価格指標のWTI原油先物は11月28日午前に1バレル73ドル台に突入し、一時73.7ドルまで急落した。今年12月下旬以来の水準だ。先週、主要7カ国が適用するロシア産原油の価格上限制度を巡って、現在の相場とほぼ同水準の「1バレル65~70ドルを上限に設定することを検討」との情報が流れたことで、供給減少の懸念が後退。さらに、中国の厳格な新型コロナ対策への抗議デモで需要後退懸念が高まっていることも、全体的な原油相場の押し下げにつながっているとみられる。

先行きは不透明だが、もし今後も引き続き70ドル台で安定的に推移するのであれば、昨年1月下旬にガソリンなど石油燃料への補助金投入を始める前の市況水準に戻ることになる。その上で為替が円高に振れていけば、補助金の根拠がなくなるわけで、政府の総合経済対策にある「(燃料油価格の高騰に対しては)来年度前半にかけて引き続き激変緩和措置を講じる。具体的には、来年1月以降も、補助上限を緩やかに実施し、その後、来年6月以降、補助を段階的に縮減する一方、高騰リスクへの備えを強化する」との方針の見直しが求められる可能性もある。

その一方で、オーストラリア産石炭(一般炭)の相場は25日現在1t当たり347ドルと相変わらず高値圏での推移。アジア市場のLNGスポット価格(JKM)も依然として100万BTU当たり30ドル台前半で高止まりしている状況だ。このため、国内の電気・ガス料金の燃料・原料費に関しては今後も高値傾向が続く公算が大きい。大手電力6社が想定する規制部門の電気料金の値上げ改定に影響を与えることはなさそうだ。

【記者通信/11月25日】東北・中国電が3割強の値上げ申請 赤字解消へ正念場


大手電力会社による低圧規制料金の値上げ改定に向けた申請ラッシュが始まった。4月の改定実施を視野に、11月25日までに東北・中国電力が経済産業省に申請を済ませ、北陸、四国、沖縄が月内にも申請する見通し。経済産業省の有識者会合などが値上げ額の妥当性について査定を行った上で正式に決定する。当初月内に申請すると見られていた東京については、年明けの申請、6月の実施を目指すもようだ。

今回、各社が値上げに踏み切るのは、2016年の全面自由化後も「需要家保護」を名目に規制が残されてきた経過措置料金。具体的には、東北は、24年2月の女川2号の再稼働を織り込むことで5ポイント上げ幅を抑制しつつ平均で32・94%の値上げを申請した。これにより、標準的な家庭(契約種:別従量電灯B、使用電力量260kW時/月)の月額料金は現行比31・72%値上がりの11282円となる。中国は24年1月末の島根2号機の再稼働を織り込むことで3ポイント上げ幅を抑制。平均で31・33%の値上げ申請となった。標準的な家庭(従量電灯A、使用電力量260kW時)の月額料金は現行比29・88%値上がりの1万0428円となる。

今回の料金値上げの背景には、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料や卸電力市場の価格高騰がある。東北は今年6月、中国は3月に燃料費調整制度の平均燃料価格が上限を超過。既に規制が外れている高圧・特別高圧契約の料金値上げや、低圧契約の自由部門で燃調上限を廃止するなど手を打ってきたが、東北の場合、10月末までの自社負担額212億円中119億円と大半を規制料金分が占める。低圧契約も含めて自由部門は燃調上限を廃止済みの中国でも、22年度340億円の自社負担額が来年度には450億円まで膨れ上がる見通しで、規制部門の赤字解消が喫緊の課題となっていた。

値上げ改定に合わせて両社は、逆ザヤの要因となった燃調の前提となる電源構成比などを見直し、基準燃料価格を大幅に引き上げ(東北は3万1400円→8万5400円/㎘、中国は3万9000円→8万0300円/㎘)、燃料市況の変動をより確実に料金に反映できるようにした。

規制料金の限界が浮き彫りに 来年4月実施を危ぶむ声も

とはいえ、自由化の進展や再エネの導入拡大により電力の需給構造は前回改定時から激変。これまでの延長上の見直しではこの変化に対応できるとは到底言えない。例えば、卸市場価格の変動が調達コストに与える影響が増す中、自由部門では燃料費のみならずこの市場価格を料金に反映する調整項を導入する動きが始まっているが、「特定小売り供給約款料金算定規則」に則って策定する規制料金では、燃料費以外の調整項を設けることができず、こうした構造変化を料金に柔軟に反映することができないままだ。自由化時代における現行の規制料金制度の限界が浮き彫りになっているわけで、その存在意義も含めて抜本的に見直すタイミングが来ている。

関係者の中には、公聴会や査定といった手続きに必要な時間を踏まえれば、来年4月の改定実施は間に合わないとの観測もある。だが、健全な電力安定供給体制が維持困難な状況を放置してはならず、経産省・電力ガス取引監視等委員会には迅速で適切な審査が求められる。

【目安箱/11月25日】米中間選挙とトランプ再出馬 エネルギー政策への影響は?


米国で11月8日に連邦議会議員の中間選挙が行われ、15日にトランプ前大統領が2024年に大統領選挙の出馬を表明した。上院は多数派を民主党が占めるものの、下院は共和党が過半数以上を占めるねじれ状態に。トランプ氏が大統領選挙で勝てるかは不明だが、彼を中心に米国の政治が回っていくことは間違いない。報道とこれまでの動きからの表面的分析だが、日本ではこの問題で、あまり情報がないので整理してみたい。

◆一理ある共和党保守派のエネルギー批判

共和党保守派は2月のウクライナ戦争の後で、エネルギーを軸に、バイデン政権を批判した。

テッド・クルーズ共和党上院議員(テキサス州)は、バイデン政権の2つの過ちが、ウクライナ戦争を誘ったと、指摘している。21年に行われたアフガニスタンでの米軍の無様な撤退。そして同年にトランプ政権が課していたロシアからバルト海を通じてガスを供給するノルドストリーム2への制裁を、バイデン政権が解除したことの2つだ。

マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は、世界最大のガス・石油の産出国であるアメリカが、自由に開発と輸出ができなくなったからプーチン大統領が利益を得て増長したと主張。バイデン政権は、オバマ政権と同じように、環境ビジネスへの投資を促すグリーン・ニューディールを掲げているため、ルビオ議員は「最大の対ロシア制裁は、今すぐ愚かなグリーン・ニューディールをやめることだ」と述べている。

2人の発言は保守系のFOX Newsで今年3月配信されているのを筆者は見たが、同趣旨の演説やTwitterを2人は繰り返している。意見への共感もかなり多い。そして、この選挙で共和党の議員は、中道派でも似た意見で、バイデン政権を批判していた。今後、こういう認識と主張が、米国で一定の割合を占めるはずだ。

トランプ氏はまだ大統領選挙の公約を発表していない。彼は大統領の在任期間中、石油、石炭産業の支援を行い、気候変動問題については懐疑論に飛び付かなかったものの、米国の雇用を守るためとしてパリ協定を脱退した。

トランプ氏はその個性の強さが注目されがちだ。しかし、その政策では、共和党が掲げるマニフェストを着実に実行したものばかりだった。エネルギー政策では特にそうだ。彼はエネルギー問題で共和党保守派の議論に乗ってくるだろう。

◆世論調査で示される米国の分断

興味深い記事を読んだ。エネルギー論客である山本隆三氏が(常葉大学名誉教授)「米中間選挙の争点−エネルギー問題が日本に与える影響」というWedge Onlineの記事で、米国での世論調査をまとめている。

「クイニピアック大学が11月2日に発表した世論調査では、最も喫緊の課題は何かとの質問に対し、36%がインフレを挙げ、次いで10%が中絶の権利を挙げているが、共和党、民主党支持者間で大きな違いがみられる。共和党支持者の57%がインフレ、15%が移民問題を挙げたのに対し、民主党支持者は中絶の権利が19%、インフレが15%となっており、関心は大きく異なっている。」(以上記事)

米国の分断が指摘されるが、こうした意識の面からも、うかがえる。経済が低迷し、インフレが米国でも顕在化している。2024年の大統領選挙と、次の連邦議会選挙に向けて、共和党はインフレと経済を中心に論戦を仕掛けるに違いない。結果として世界のエネルギー需給・価格と各国の気候変動政策も影響を受ける。

◆気候変動を巡る対立は長期化しそう

米国は、議会の立法権限が強く、それが具体的で、政府の政策を規定する。8月に民主、共和両党合意の下に成立した「インフレ抑制法」は、10年間で約3700億ドル(約55兆円)のエネルギー・気候変動関連の支出をすることを決めた。補助金、アメリカらしく税額控除で支援をする。再生可能エネルギー、小型モジュール炉、水素製造、E Vのなどが対象になる。これらの産業をアメリカの政治家は党派を問わずに、これからも支援するだろう。

ただし前出のガス、石油などの資源貿易と米国内の生産では、党派的な対立が見込まれる。また気候変動をめぐる国際交渉でも共和党は、民主党攻撃を続けそうだ。バイデン政権は2050年に温室効果ガスの純排出量ゼロを宣言している。それは不可能そうだが、その目標を下さない以上、化石燃料を抑制する政策は転換しそうにない。

前述の2人の議員の発言は誇張された面がある。米国の産油量は、連邦、各州政府の政策が影響することは確かだが、市場原理によって左右される点が大きい。その産出は3−4年前に大幅に減ったが、直近2年ほどは増加している。しかし政治では事実よりもイメージが大切だ。「バイデン政権と民主党が政策の失敗で、エネルギー価格を上げている」という主張は、共和党支持者の耳に心地良いだろうし、トランプ氏もそこを攻めてくるだろう。

日本は米国でのビジネスで収益を上げる企業は多い。また気候変動交渉では、日米が協力して結んだ国際協定を2回も米国が脱退する経験をしている。京都議定書とパリ協定(バイデン政権では復帰)だ。もちろんそれに関心を向ける世界の大きな流れは米国政府でも変えられないだろうが、微妙に影響を与えるに違いない。政府も民間も、米国の政策に縛られた行動をするのではなく、いつでも米政府の勝手な方針転換に対応できるように、柔軟な構えをしておいた方がよさそうだ。

【記者通信/11月22日】大手電力5社が月内値上げ申請へ 公取委の処分も同時期か?


大手電力会社5社が相次いで規制部門の電気料金の値上げ改定申請に踏み切る。関係筋によれば、東北電力が11月24日に申請するのを皮切りに、中国電力が25日、四国電力と沖縄電力が28日、北陸電力が30日に、それぞれ申請する見通しだ。経済産業省での査定を経て、来年4月からの実施が予想されている。

当初、東京電力も25日に申請するのではと見る向きもがあったが、産経新聞が22日付朝刊の1面で「6電力、値上げ申請へ」と報じたことに対し、東電はウェブサイトで「規制料金を含む家庭向け電気料金について、月内(11月中)に値上げ申請を行う予定はない。現在、東京電力エナジーパートナー(EP)では規制料金を含むすべての低圧の料金メニューの見直しに向けた検討を行っているところであり、値上げ幅など、具体的な見直しの内容については決まったものはない」とコメントし、報道を否定した。

これについて、事情通は「役員クラスから、東電EPが増資するタイミングで値上げ申請はどうなのか、という疑問が出たようだ」と解説。役員会などの場で改めて協議した上で、今週後半に予定される会見で、2022年度決算の通期予想とともに、料金改定に関する状況説明を行うとみられる。

カルテル処分と値上げ改定は別次元の問題か

値上げ改定とは別に、11月下旬に予想されているのが、中部、関西、中国、九州の大手電力4社の価格カルテル問題に対する公正取引委員会の処分だ。公取委は昨年4月から10月にかけて、①大手電力4社が供給区域外での法人向けの電力営業活動を巡って価格カルテルを結んだ、②中部電力と中部電力ミライズ、東邦ガスの3社が電力・ガス販売で価格カルテルを結んだ――という二つの独占禁止法違反容疑で、関係各社に立ち入り調査。それを踏まえ、近く課徴金などの処分を行う見通しだ。

もし公取委の処分が月末に出るとなると、一部の電力では値上げ申請と課徴金のタイミングが重なることに。業界関係者からは「カルテルの課徴金で世間から厳しい目が向けられる時期に、本当に値上げ改定などできるのか」との指摘も聞こえてくる。一方、別の有力関係者は「料金改定とカルテルは別次元の問題であり、たまたまタイミングが重なるというだけ。事業者から改定申請があれば、規制当局としては制度上の手続きにのっとって、粛々と手続きを進めていくはず」と話す。

いずれにしても、大手電力10社全てが通期決算予想で最終赤字を見込む厳しい情勢の中、ここに巨額の課徴金などが加われば、経営の根幹を支える資金力で決定的なダメージを受けかねない。規制当局の迅速・適正な査定を通じ、経営健全化に必要な値上げ改定を速やかに実行に移すことが、何よりも求められる。

【記者通信/11月18日】住民に暴力恫喝 北杜市の太陽光で何が起こっているのか?


「いい加減にしろ」。男性の老人が、怒鳴り、人を殴る素振りを見せ、バンと机を叩く。そして「黙ってろ」と怒鳴り、住民の資料を無理やり取り上げ、それを制止しようとした人の腹を叩く。見ている女性は悲鳴をあげる。このような衝撃的な映像が、S N Sで拡散されている。(サイト「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」

これは、山梨県北杜市で行われた太陽光発電の住民説明会を映した映像だ。いったい、何が起きているのか。

◆暴力老人と事業者の素性

関係者によると、これは5月に2回、7月に1回行われた、北杜市内での住民説明会での映像だ。この老人は、営農型太陽光発電を作り、販売する東京・世田谷区にあるN社の人だ。7月の説明会では、暴力沙汰で刑事事件になっている。

北杜市では、2019年に「北杜市太陽光発電設備と自然環境の調和に関する条例」を作り、10k W以上の発電能力を持つ太陽光発電設備(屋根上等の設置を除く)では設置前に地元住民に周知を行うこと、一定の条件に基づき市が太陽光を許可することを定めている。そのために、N社は説明会を行った。

N社は現時点で、北杜市内での3カ所の太陽光発電の実施を計画している。しかし突然の計画発表で、住民は計画に懐疑的だ。最初からN社は攻撃的で、住民との対話をする姿勢がない。一連の対応をし、暴力を振るったのはN社の顧問の80歳のNという人物だ。

映像の内容を紹介する。今年5月7日の説明会では住民の参加者を選び、それに住民が抗議すると、Nは「俺が決めてんだよ、何が決めて悪いんだよ」と激昂。さらに住民に「けんか売りにきたのか。帰ってもらおう」と凄んだ。冒頭の住民に殴る姿勢を示した映像は、この時の説明会の光景だ。腹を殴られたのは同社の社員らしい。

同7月14日の説明会では、出席した北杜市議会の高見澤伸光議員が、このNに腕を掴まれ全治2週間のけがとの診断を受けた。市議は被害届を警察に出し、甲府区検察庁は10月17日に暴行罪でNを略式起訴した。11月15時点で、裁判の結果は明らかになっていない。

N社側から住民に出された資料もかなりおかしなものだ。「景観について」という文章で、同社の営農型太陽光発電は「スマートでおしゃれでかっこいい」「パネル下でお食事でもしたくなる」などと、暴力からは連想できない単語を並べている。

また高見澤市議のブログによると、このNは市役所で許可をめぐって昨年から押しかけ、騒ぎ、市職員の胸ぐらをつかむなどのこともしたという。

N社に対して11月にEメールと電話で取材を申し込んだが、電話は留守電で、メールに返事はなかった。

◆反対に一丸となれない地元、冷たい市長

山梨県北杜市は、八ヶ岳の南斜面にあり、冬でも雪が少なく日照時間が長い。そのために近年太陽光発電が急増したが、それが景観や環境を破壊し、大変な問題になっていた。ここは別荘地で、高原野菜の産地であり、国蝶とされるオオムラサキの生息地である里山が残る地域だ。

太陽光発電など再エネは2012年以来、国が補助金(再エネ賦課金制度(F I T))で設置を支援する。太陽光発電は、その開発の多くの場合に、森が切り開かれる。パネルによるぎらつきや景観の悪化、周辺環境の破壊など多くの問題が起きる。家の周りが太陽光パネルに囲まれると、資産価値は当然暴落する。設置の際には、常識的にせめて住民の合意が必要だが、これまでほとんど行われていないし、法律上の規定もなかった。太陽光発電の事業者は、計画も、小分けによる販売も含めて、北杜市内でF I Tで認定された太陽光発電施設の数2400カ所になる。その面積は不明で、全体像はどこも把握していない。F I Tの制度はかなり雑に作られており、手直ししても問題が次々と浮上している。

太陽光発電による太陽光発電の問題が顕在化する中で、21年には山林指定された地域での太陽光パネルの設置を原則禁止する山梨県条例、19年には前述の北杜市の条例が施行された。しかし再エネの優遇策が始まってから時間が過ぎ、あまりにも遅い。すでにできてしまった設備には、訴求適用はされない。

北杜市では住民が集まり、太陽光発電について意見交換を重ねるようになった。その一つの「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」(里山連絡会)は、市内の要望を取りまとめ、上村英司北杜市長、北杜市、北杜市会議員に働きかけを行っている。政党や市民団体の背景はなく、地元住民による自発的なグループという。

同会代表の坂由花(ばん・ゆか)さんによれば、「せっかく北杜市の条例ができたのに、また住民から多くの疑問の声が寄せられているにもかかわらず、太陽光発電所の設置許可は安易に出てしまっているというのが実情だ」という。

同会では上村北杜市長に今年5月26日に直接面会した。上村市長は「個人の土地は個人が自由に使う権利があると思っている、それは憲法で定められているので過度な制約はかけられない」と述べた。そして里山連絡会のチラシに「北杜市でたくさん問題が起きていると思われかねない」と、やんわりと批判した。そして条例の厳格な運用に消極的だったという。北杜市の住民の権利への視点、公共の福祉の視点を重視していないように思える態度だ。

ただし、この暴力事件の後には、市は市議会で、このN社に対して、「地元との信頼がまったく回復できていないので、それについては許可の対象にならないものと考えております」と、議員の質問に答弁している。

市長の反応が示唆するように、北杜市では太陽光発電によって利益が出る人たちもいる。事業者は市外の人が大半だが、遊休地を貸す人、設置に関わる地元工務店などだ。20人の市議会議員がいるが、同会が説明しようとしても約半数がそれを断ったという。つまり北杜市全体が一丸となって、太陽光の乱開発に対応できていないのだ。

◆悪質業者の自発的排除が必要

同会の坂さんは「私たちは太陽光発電を否定はしていません。景観や安全に配慮し、地域住民の意見を聞いて事業を行ってほしいという、当たり前の願いを持っています。しかし、このN社などのように最初から対話をする意思がないどころか、暴力の恐怖を撒き散らす人たちがいます」と、悲しげに語る。住民の不安と不満は当然だ。

太陽光では日本各地で乱開発による住民トラブルが発生している。一部には反社会的勢力が、太陽光発電に参入したという噂がある。太陽光など再エネの補助金の総額は2022年度の見込みで4兆2000億円。人為的に利権が急にできた以上、怪しい人々が参入するのも当然だ。北杜市と同じような住民の困惑は、日本中で起きつつある問題だ。

北杜市は住民を守るという態度を明確にしなければならない。そして、この異様な事件では、当事者の説明が必要だ。さらに太陽光事業者全体による自主規制と悪徳業者の排除が行わなければ、再エネや太陽光事業の未来はない。

【記者通信/11月2日】函南太陽光計画の崖っぷち 町が「勧告従わず」と社名公表


本誌でもたびたび報じてきた、静岡県函南町軽井沢地区での大規模メガソーラー建設計画を巡る問題。昨年、町側が「函南町自然環境等と再生可能エネルギー発電事業者との調査に関する条例」に基づき、計画への不同意を事業者側に通知して以降、膠着状態を続けていたが、このほどようやく事態が動いた。

函南町は10月28日、再エネ条例の勧告を受けた事業者が「正当な理由なく当該勧告に従わないため」として、トーエネック、ブルーキャピタルマネジメント両社の社名を公表した。それによると、両社に対する勧告内容について次のように記している。

〈(事業者の計画の届け出に対して)町は不同意を通知し、当該不同意の事業を継続する場合には、同条例第9条第3項の規定に基づき町長の同意を取得するよう指導を行いましたが、その後、事業地の地盤調査を実施するなど、当該事業を継続していることが確認されましたので、直ちに町長の同意を取得するよう勧告を行いました〉

トーエネックが特別損失を計上 事実上の撤退か

町側の勧告を受けたトーエネックは同日、2022年度上半期決算で特別損失を発表。具体的には、「当社が計画している再生可能エネルギー事業に係る固定資産(建設仮勘定)について、事業の見通しが不透明である」として、114.9億円の特別損失を計上した。関係者が言う。

「トーエネックとしては、函南町メガソーラーを特損扱いにしたことで、事実上の撤退ということだろうが、問題はブルー社から商社T社を経由して購入したFIT認定IDの行方だ。本来であれば、認定IDは取り消されるべきところだが、T社やブルー社が買い戻す可能性も否定できない。ただ、町側が計画への不同意を掲げている以上、事業続行は極めて厳しい。一体どんな決着を見せるのか、注視している」

同計画を巡っては、静岡県でも林地開発許可の前提となる河川調査の協議で事業者の提出した書類に不備があった問題が浮上。県議会での追及が始まっている。今回の町側の対応も加わり、計画はいよいよ崖っぷちに立たされた格好だ。

【記者通信/11月2日】脱炭素先行地域第2弾で20選定 再挑戦の地域多数


環境省は11月1日、脱炭素先行地域の第2回選定結果を発表した。7月 26 日から8月 26 日まで募集が行われ、共同提案を含めて全国 53 の地方公共団体から 50 件の計画提案書が提出された。今回、新たに先行地域に選出されたのは次の20地域(カッコ内は共同提案者)だ。

①北海道 札幌市(北海道ガス、北海道熱供給公社、北海道電力、北海道大学、北海道科学技術総合振興センター)

②北海道 奥尻町(越森石油電器商会、エル電)

③岩手県 宮古市(東北大学、宮古市脱炭素先行地域づくり準備会議)

④岩手県 久慈市(久慈地域エネルギー、岩手銀行)

⑤栃木県 宇都宮市(芳賀町、宇都宮ライトパワー、NTTアノードエナジー、東京ガスネットワーク栃木支社、東京電力パワーグリッド栃木総支社、関東自動車)

⑥栃木県 那須塩原市(那須野ヶ原みらい電力、東京電力パワーグリッド栃木北支社)

⑦群馬県 上野村

⑧千葉県 千葉市(TNクロス)

⑨神奈川県 小田原市(東京電力パワーグリッド小田原支店)

⑩新潟県 関川村

⑪福井県 敦賀市(北陸電力)

⑫長野県 飯田市(中部電力)

⑬愛知県 岡崎市(愛知県、三菱自動車工業)

⑭滋賀県 湖南市(滋賀県、こなんウルトラパワー、滋賀銀行)

⑮京都府 京都市

⑯兵庫県 加西市(プライムプラネット エナジー&ソリューションズ)

⑰奈良県 三郷町(藤井会、檸檬会、奈良学園、信貴山のどか村、Daigasエナジー、地域共生エコ・エネ推進協会、日本環境技研、三郷ひまわりエナジー、大和信用金庫

⑱山口県 山口市(西日本電信電話、NTTアノードエナジー、エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所、NTTビジネスソリューションズ、山口銀行、YMFG ZONEプラニング)

⑲宮崎県 延岡市(延岡市ニュータウン脱炭素再生コンソーシアム)

⑳沖縄県 与那原町(与那原脱炭素地域づくりコンソーシアム)

提案の大半が「関係者と連携した実施体制」を反映

環境省は 2050 年カーボンニュートラル達成に向けて、25 年度までに少なくとも 100 カ所の先行地域を選定し、30 年度までに実行するとしている。4月の第1弾では26 件の先行地域が選定されており、合計で 29 道府県 66 市町村となった。

先行地域は環境省の「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を受け、カーボンニュートラルの早期実現を目指す。環境省は同交付金について、本年度の200億円に加え来年度予算の概算要求で400億円を計上。西村明宏環境相は1日、閣議後の記者会見で「今回選定された地域の皆さまの取り組みに大いに期待する」と述べた。

今回の選定結果について評価委員会は、需要家の数・規模、提案の具体性、住民・需要家・系統側などとの合意形成がより重視されたことで、それらの程度・熟度が全体的に向上したと総括する。第1弾の後、「範囲の広がり・事業の大きさ」「関係者と連携した実施体制」「先進性・モデル性」を指摘していたが、今回の地域は第1弾の提案書などを参考にしたと思われる。

また評価委員会は、選定された提案の大半が「関係者と連携した実施体制」を反映して、地方公共団体や発電事業者、送配電事業者、地域金融機関、大学・シンクタンクなどとの共同提案であったことも特徴として挙げた。

新たに選定された20地域の多くは、前回不選定となった地方公共団体からの提案だった。先行地域は今後も年2回程度の募集と選定が予定されており、落選した地域の“三度目の正直”もありそうだ。