【記者通信/12月1日】「LNG超えるパラダイムシフト」東ガス社長がネットゼロで言及


「2050年よりもできるだけ早く、国よりも早く、CO2ネットゼロを東京ガス単体として達成したい」

東京ガスの内田高史社長は11月30日に行われた定例会見で、脱炭素化に向けた意気込みをこう強調した。同社は長期経営ビジョン「Compass2030」で、2050年代のできるだけ早い段階で「CO2ネットゼロ」を目指す方針を掲げている。去る10月26日、菅義偉首相が臨時国会の所信表明演説で「2050年のカーボンニュートラル実現」を表明したことを背景に、内田社長は会見で「(ネットゼロの達成時期が)45年なのか、40年なのかはまだ分からないが、国の政策をリードしたいという考え方自体は変えていない」と述べ、国の目標に先駆ける形でネットゼロを目指す考えに改めて言及した。

具体的な方策としては、①太陽光発電やバイオマス発電、洋上風力発電など再エネ電源の導入拡大、②カーボン・オフセットされた「カーボンニュートラルLNG」の普及拡大、③メタネーションに活用可能な水素の製造コストの低減、④CCUS(CO2の回収・貯留・利用)などCO2マネジメント技術の開発――などを提起。ガス体エネルギーの脱炭素化に向けた技術開発を軸に、ネットゼロの取り組みを加速させる方針を打ち出した。

「(エネルギー事業者だけでなく、社会・経済全体のパラダイムを変えてしまう意味で)50年前のLNG導入時のパラダイムシフトを大きく超えるものだと思っている」。内田社長は、カーボンニュートラルがもたらすインパクトの大きさをこう表現した。

そもそも天然ガス転換を行った70年代当時は、地域独占・総括原価が認められていた時代だった。そうした中で大手都市ガス会社に続き、地方ガス事業者が高カロリー化のための熱量変更作業に着手したのは90年代前半。日本ガス協会が主導する「IGF21」計画の下、国の補助を受けながら、2010年の完遂を目標に、都市ガス業界の総力戦で転換作業に当たった。それが今や全面自由化によって地域独占・総括原価は事実上の崩壊状態。し烈なエネルギー間競合に対応しながら、都市ガスのネットゼロ対策に取り組んでいくわけだから、内田社長のみならず、ガス業界関係者の危機意識の高さは相当なものだ。

果たして、全国の都市ガス事業者はカーボンニュートラル時代に生き残ることができるのか。まずは、最大手である東ガスの動向に業界関係者の視線が集まっている。

【記者通信/11月26日】省エネが不要になる?脱炭素・電化の落とし穴


菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、わが国のエネルギー産業を取り巻く政策・ビジネスが脱炭素化へと急速に舵を切り始めた。国の経済財政諮問会議や成長戦略会議、経団連などは相次いで「再生可能エネルギー電のイノベーション」「原子力発電の活用」「電化の推進」を打ち出し、脱炭素化と経済成長の両立を図る姿勢を鮮明にしている。

「いくらクリーンな天然ガスといえども、化石エネルギーである限りCO2の発生は避けられないが、ノンカーボン化された電気ならいくら消費してもCO2は出ない。将来的には、CO2フリーの原発と再エネ、それにカーボンオフセットされた火力で発電することで、脱炭素社会の実現が可能になる」。大手電力会社の幹部はこう指摘した上で、50年に向けて電力需要が1.5〜2倍ほど増えると予測する。

さて、こうした情勢の中で、最近気になる傾向が目に付き始めた。省エネルギーの機運が次第に薄れつつあるのではないかということだ。言うまでもなく、省エネ技術は日本が世界に誇る分野。1970年代のオイルショック以降、発電設備にしても、利用機器にしても、高効率化の技術力で世界をけん引してきた。それが、「再エネ由来の電気であれば、いくら使っても大丈夫。化石燃料からのシフトを図っていくことが最優先課題」(環境NPO関係者)となれば、状況が変わってこよう。

いくら再エネといっても、太陽光パネルや風力発電、蓄電池といった設備機器を作るためには、石油などの化石資源が必要。また再エネ電源の開発には相応のエネルギーを使うし、環境破壊も伴う。つまり、再エネが主力電源になったとしても、電力使用量自体を減らす努力は本来必要なはずだ。「再エネ分野だけでなく、省エネ分野のイノベーションをどう推進していけばいいのかは、隠された大きな課題。脱炭素化・電化を重視するあまり、省エネに対するインセンティブがなくならないよう、政策レベルで改めて確認する必要がある」(機器メーカー関係者)

省エネ機器のトップランナー制度が再び脚光を浴びる日は、果たして訪れるのだろうか。

【都市ガス】グリーン投資の波 都市ガスも乗れるか


【業界スクランブル/都市ガス】

新型コロナショックによって、全世界が未曽有の経済減速に苦しみ続け、半年以上が経過した。これを受け、エネルギー需要もご多分に漏れず落ち込んでいる。業界からは「コロナが終息すれば元に戻る」と期待を込めた楽観論が聞こえてくる一方、コロナによって生じた変化は「ただ時代の流れを速めただけ」という声も聞こえてくる。


そうした声を象徴するのが、脱炭素化を加速させる「グリーンリカバリー」の動きだ。グリーンリカバリーとは、コロナ後に元の経済や生活に戻るのではなく、パリ協定や国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す方向で、地球温暖化や社会的課題の解決につながる「持続可能な経済復興」を意味する。どうせ経済復興のために大きな負担を抱えて財政出動を行うなら、地球温暖化防止に役立つ投資に振り向けようというもので、日本ではまだ見慣れないが、欧州では急速に広がっている。欧州委員会は90兆円の復興基金をつくったが、グリーンリカバリーはその成長戦略の中心に位置付けられている。


経済の落ち込みをグリーンビジネスで回復できるのだろうか。IEA(国際エネルギー機関)レポートによると、太陽光・風力などの再生可能エネルギーや、省エネ、EV購入補助などに今後3年間で300兆円を投じれば、世界のGDPを年平均1.1%増加させ、年間900万人の雇用を生み、CO2を大幅に削減できるという。それによって、EUは2030年のCO2削減目標(1990年比マイナス40%)をマイナス50~55%に引き上げる方向だ。コロナショックを契機にして、世界の脱炭素化が一気に進む可能性がある。


資源エネルギー庁は9月4日から「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」を開催し、脱炭素社会への動きなどを踏まえたガス事業の将来像について検討を開始した。ぜひとも、こうしたグリーンリカバリーの動きをウオッチしつつ、加速される世界の脱炭素化の動きを見据えた効果的な対応策を打ち出してほしい。われわれの存在自体が懸かっている。(G)

【記者通信/11月20日】米政権交代で中東情勢悪化か どうなる原油価格


米大統領選の投票結果を受けて来年、民主党のバイデン政権誕生の可能性が濃厚になる中、中東情勢の悪化を警戒する向きが広まっている。米国の外交政策がかつてのオバマ政権時代に逆戻りする公算が大きいからだ。

大きな波乱要因はイラン、サウジアラビア、イスラエルの3カ国だ。バイデン氏は、イランに対するトランプ政権の「最大限の圧力」政策を緩和し、2年前に離脱した「2015年核合意」に復帰する方向性を打ち出すとともに、イランと敵対するサウジアラビアとの関係も見直すことを公約に掲げている。そうなると黙っていないのがイスラエルだ。一部報道によると、バイデン氏の当確を聞いたイスラエルの閣僚の一人は、イランとの紛争再燃をにおわせたという。

トランプ政権はここ数年、UAEなどアラブ諸国とイスラエルの国交正常化をはじめとして、中東の「関係正常化」に熱心に取り組んできた。しかし、バイデン氏の出方次第では全て白紙に返る可能性もある。

もう一つの波乱要因がロシアである。プーチン大統領は昨年10月のサウジ訪問以来、同国のサルマン国王やムハンマド皇太子との関係強化に力を入れている。最近も両氏と立て続けに電話会談を行い、「両国のエネルギー協力が中東の安定と安全保障にとって重要」との認識を改めて確認した。そんなロシアを、バイデン氏は「安全保障上、最大の脅威」とロシアを名指ししているわけだ。

トランプ氏が去った後、バイデン新政権がイランとの関係改善を図る一方、イスラエルやサウジアラビア、ロシアなどと対峙することになれば、どうなるか。「中東地域全体の地政学リスクは再び高まり、原油価格が高騰するのは火を見るより明らか」。経産省の関係はこう指摘する。波乱の先行きを暗示するかのように、11月17日夜、イラクの首都バグダッドで米国大使館を狙った複数のロケット弾攻撃があった。WTIの原油価格は今のところ41ドル台での推移を続けている。

【イニシャルニュース】送配電網協議会が設立 電事連は原事連に?ほか


1.送配電網協議会が設立 電事連は原事連に?

大手電力会社の送配電部門で、大きな動きがあった。北海道から九州まで大手電力9社系列の送配電会社と沖縄電力が参画する「送配電網協議会」が10月1日、電気事業連合会内に設置されたのだ。去る4月に、沖縄電力を除く旧一般電気事業者に対し送配電部門の法的分離が行われたことを受け、「送配電事業の一層の中立性の確保を図る」ことが主な狙いだ。

また来年度から、電力各社の供給エリアを超えた広域で調整力をやり取りする「需給調整市場」がスタートするのを視野に、その受付窓口となる「需給調整市場運営部」を同協議会内に設置。10月1日から、需給調整市場に関する情報やお知らせなどをウェブサイトで発信しており、市場開設後は取引実績などの情報提供も行っていく。

今後の焦点は、同協議会が来年4月に電事連から独立した組織となることだ。これにより電事連は、大手電力の発電部門と小売り部門を主体とする組織になる。ただ火力は縮小傾向、小売りでは競争ということで、業界団体としての役割はおのずと原子力部門に収れんしていく方向だ。

「電事連ではなく、原事連と呼んだほうがいい時代が来るかもしれない」とは、大手電力会社幹部X氏の話。将来は原子力事業連合会へと変わることになるのだろうか。

一方で、都市ガス業界はどうか。2022年に導管部門の法的分離を控え、対象の大手都市ガス3社は導管分社化などの準備を進めている。しかし、それ以外の190社強に上る中小事業者は導管分離の対象外。だが、電事連とは対照的に、業界団体の日本ガス協会は「むしろ導管会社が協会の中核を担う」(広瀬道明会長)方向で、昨年までに協会の定款を変更している。

旧一般電気事業や旧一般ガス事業という概念が薄れつつある中、地域独占体制を母体にしてきた業界団体は大きな転機を迎えている。

2.首相のゼロエミ宣言 大臣暴露に事務方驚愕

未来投資会議での表明は見送られた

菅義偉首相が10月26日、就任後初の所信表明演説で「2050年ゼロエミッション」の方針を掲げた。気候変動に関する日本の現時点の長期目標としては、50年80%削減と、「今世紀後半のできるだけ早期の脱炭素化」を閣議決定している。ここからさらに一歩踏み込んだビジョンを示すこととなる。

実はこれをリークしたのはK大臣。箝口令が敷かれていたにもかかわらず、たまたま入っていた大手紙のインタビュー中に暴露したという。事務方はまさかの事態に仰天。関係省庁も、てんやわんやの状態だったという。

一時、これまで内閣総理大臣を議長とし、経済成長につながる分野の投資活動を議論してきた「未来投資会議」を9月中に開き、ここで50年ゼロエミを議題とする方向で調整が進んでいた。調整役は前政権下で重用されてきた経産官僚N氏。

しかし菅首相は未来投資会議ではなく、所信表明演説で大々的に発表することを選択した。N氏の振り付けに対し、首相補佐官のI氏が待ったをかけた。結局、未来投資会議は廃止され、官房長官を議長とする「成長戦略会議」に格下げされた。

ただ、各国で50年ゼロエミ宣言の表明が相次いでいることについては、「表現合戦をしているにすぎない」(経産省幹部)。各国は達成できるかどうかは抜きにして、あくまで高い目標を掲げているのが実態だ。真面目な日本が今回のゼロエミ宣言で首を絞めなければ良いのだが……。

【記者通信/11月4日】山本議員が処理水対策を提案 どうなる自民党内の不協和音


福島第一原発から出る処理水の海洋放出に反対を唱えている自民党・総合エネルギー調査会会長代理の山本拓衆院議員が自身のホームページで、独自の処理水対策を提案していることが分かった。

まず、2022年秋ごろまでに敷地内タンクが満杯になるとみられている点について、山本氏は東京電力ホールディングスが10月29日に公開した資料を踏まえ、「ボルト締めタンクから水漏れしにくい溶接タンクへの切り替えが進められ、今後の用地活用計画が未定の即席タンク跡地が5ヶ所ある」と指摘。この跡地には、計97基のボルト締めタンクがあったことから、「同じサイズのタンクを同じように置けば、9万7千トン分のタンクを確保することができる」と算出した。

その上で、「仮に汚染水発生量が日量140トンとした場合、9万7千トンは処理水1年11ヶ月分になる。その容量を新たに加えれば、2024年夏頃まではタンクが満杯にはならず、今から4年もの猶予ができる」「この間に、地下水・雨水の建屋流入水対策を行うことにより、新規汚染水発生をなくし、新規汚染水を発生させない完全循環の冷却システムが可能となり、海洋放出の必要がなくなる」との見解を示している。

新たな汚染水を発生させない「閉ループでの循環冷却システム」の構築を巡っては、山本氏が10月8日、東電HDの小早川智明社長に質問状を提出。これに対し小早川社長は21日付で、原子炉格納容器の止水対策に課題が多いことや高線量下での現場作業を伴うなどの理由から、閉ループの早期実現は困難と回答している。今回の山本氏の提案は、新たなタンク増設対策によってもたらされる24年夏までの猶予期間を使って循環冷却システムを完成させるというものだが、その実現可能性は全くの未知数と言っていい。

政府は処理水の海洋放出に関し、安全性への国民不安が依然強いことなどを理由に、27日に予定していた方針決定を断念した。自民党のエネルギー政策を取り仕切る山本氏の猛反対が影響したのか、真相は不明だが、海洋放出に道筋を付けようと努力してきた梶山弘志経産相との関係は気になるところだ。党内に生じた不協和音がどうなるのか、今後の展開が注目される。

再エネ開発を巡る「うわさの現場」 住民・企業・環境との共生を探る


太陽光などの再生可能エネルギーが、国の電源政策の中核に位置付けられようとしている。しかし開発現場では、地元との間で数々の問題が……。現地取材から「地域共生」の在り方を探る。

再生可能エネルギーは、自然由来のエネルギー源をベースにしている地球環境に優しい電源だ。温暖化を防止する脱炭素政策に資するからこそ、国は「再エネ主力電源化」政策をぶち上げ、実質的な国民負担を求めるFIT制度の下で導入拡大を推進してきた。

だが国内に到来した爆発的な再エネブームは、全国各地に乱開発などの悪影響ももたらした。その多くは、国の制度や自治体の条例などを順守しており、法律的に問題があるわけではない。本誌10月号の調査報道で取り上げた茨城県笠間市でのメガソーラー開発も同様だ。「適正な手続きを踏んでいるのに、何が問題なのか」と言われれば、その通りである。

最大の焦点は、「地域共生」が実現されているかどうかだ。「地域」の中には、住民や企業はもちろんのこと、里山や生態系などの自然環境も含まれる。再エネ事業がSDGs(持続可能な開発目標)を旗印にする以上、地域共生は欠かせない要素なのだ。これがうまくいけば再エネのメリットが引き出され、事業者、地元共にウィンウィンの構図が出来上がる。

10月19日、この方向性を具現化する取り組みが発表された。東急不動産、東京ガス、大阪ガス、Looop、リニューアブル・ジャパンの5社が、再エネ発電所のある地域と協調しながら発展を目指す新たな枠組み「フォーレ構想」を共同検討することで合意したのだ。「地域の発展・地方創生・長期視点での地域社会への貢献に向けて、再エネと地域が共に発展する」ことを基本理念に掲げ、民間先行で地域共生に挑む。

乱開発に歯止めをかけるのは本来、国の役割だ。「国が認定した案件に、自治体が待ったを唱えるのは非常に難しい」(自治体関係者)という現実もある。しかし国は法律の建て付けや縦割り行政などの影響から、開発問題に積極的に踏み込むことができず、事実上の野放し状態が続いている。

縦割り打破に力を入れる河野太郎・規制改革担当相は、再エネ推進に向けた規制の総点検に言及している。この際、再エネの負の側面にも目を向け、地域共生のための縦割り行政改革をぜひ主導してほしい。本誌からの問題提起だ。(本誌・井関晶)

【記者通信/10月30日】自民党議員が海洋放出に反対 東電の公表資料が根拠に


「政府が処理水(汚染水)の海洋放出の方針を示すことには反対です!」。自民党の総合エネルギー調査会会長代理を務める山本拓衆院議員が10月中旬以降、自身のホームページやSNSで、福島第一原発の処理水の海洋放出に反対する意向を繰り返し表明している。

「通常の原子力発電所の排水には、トリチウムのほか、Mn-54、Fe-59、Co-58、Co-60、Ni-63、Zn-65が含まれています。しかし、福島第一原子力発電所のタンク内の処理水(汚染水をALPSで処理した水)には、それ以外にも事故由来の57核種が含まれています。加えて、処理水を海洋放出に際して二次処理したとしても、事故由来の核種は低減こそすれ、完全に除去することはできません。東京電力が処理水の海洋放出について通常の原子力発電所の排水と同じであるかの説明をしていますが、それは事実ではありません。通常の原子力発電所の排水には含まれていない事故由来の57核種が含まれています」(10月28日)

「東京電力が、主要7核種とストロンチウム89の計8核種について、処理水を二次処理の試験を行った結果を発表しました。その結果、二次処理後も6核種(うち5核種は通常の原子力発電所の排水に含まれない核種)が検出されました。二次処理をしても、事故由来の核種はなくなる訳ではなく、残り続けており、それを海洋放出することは、通常の原子力発電所の排水を同視することはできず、風評被害の拡大を招くこととなるとみられます」(10月29日)

山本議員が反対の根拠にしているのが、ALPS設備の一次処理水(http://yamamototaku.jp/wp-content/uploads/2020/10/63halflife.pdf)のみならず、二次処理水の中にも、ストロンチウム89・90やヨウ素129など事故由来の核種が複数残存していることだ。東京電力ホールディングスが10月15日に公表した「多核種除去設備等処理⽔の⼆次処理性能確認試験結果(速報)」(https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2020/2h/rf_20201015_1.pdf)で明らかになった。ごく微量とはいえ、トリチウム以外の事故由来の核種が検出されている事実は、「通常の原発排水と同等」という従来の見解との食い違いを見せている意味で、確かに無視できないだろう。健康などへの影響は本当に大丈夫なのか、しっかりとした説明が求められる。この問題が解消されない状況下で海洋放出を実施すれば、風評被害を増長させる恐れがあるうえ、韓国など周辺国の反発も一段と強まりかねない。山本議員は、小早川智明・東電HD社長に国民への説明を求める一方、SNSでこう述べている。

「今は海洋放出を行うべきではありません。タンクが満杯になる予想に対しては、タンクに代え、処理水を100年の耐久性を持つと言われる超高強度繊維補強コンクリートボックスに処理水を保管し、サイト内に地中設置することで、海外からの意図的なものも含めた風評被害を当面回避することができます。その上で、福島県が放射性廃棄物置き場とならないよう、事故の経験を活かし、トリチウム水を限りなくゼロにまで分離する技術をはじめとする、原子力の平和利用に関する研究開発を行うイノベーション・セキュリティ研究・情報等の拠点として位置付けるべきと考えます」

海洋放出への地ならしを進める政府・自民党、経産省・東電にとって、にわかに垂れ込めてきた暗雲。今後の動向から目が離せない。

【記者通信/10月29日】高レベル廃棄物処分の理解促進へ 実験・見学施設の活用を


北海道電力泊発電所周辺の寿都町と神恵内村で、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査が行われる見通しとなった。長く横たわっていた最終処分問題にようやく光が差したが、地元ではまだまだ反対意見が根強くあり前途は多難だ。これについてある電力業界関係者は、「ガラス固化体ではなく放射性廃棄物をそのまま埋めると思い込んでいたり、よく分からないから反対している人も多い」と指摘する。

そんな話を聞いて、2018年3月、エネルギーフォーラム海外視察団の一貫として訪れたスウェーデンの放射性廃棄物の研究施設「エスポ岩盤研究所」を思い出した。ここでは、実際の最終処分地とは別の場所に本物さながらの最深部450m、総延長5㎞ものトンネルが掘られ、放射性廃棄物処分の研究が行われていたのだ。

実験場とは思えない本格的な施設を整備した「エスポ岩盤研究所」

そして、キャニスタと呼ばれる外側が銅製、内側が鋳鉄製の2重構造の容器に封入して地下深く埋設されることや、無人運転で動く作業車両により埋設作業は無人で行うことなどを体感で知ることができた。当時、同施設の担当者が「放射性廃棄物の最終処分を地下深くで行うのは、危険だからではなく処理期間が非常に長期に渡るためだ」と説明してくれたことも印象的だった。

北海道には、幌延深地層研究センターがある。エスポほど大規模なものとはいかないまでも、見学施設など最終処分に関して市民とコミュニケーションを図るための場を全国各地に設け、これを広くPRすることが、住民の理解促進の一助となると考える。

【記者通信/10月27日】温暖化ガス「2050年ゼロ」の盲点 問われる菅首相の本気度


菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の目標を掲げ、脱炭素社会の実現を目指す方針を表明した。わが国では、2012年4月に当時の野田佳彦内閣が「2050年80%削減」を目指す第4次環境基本計画を閣議決定して以来、これが政府目標となってきたが、世界の脱炭素化の潮流に対応すべく、さらに踏み込んだ格好だ。しかも、所信表明演説でぶち上げたことは画期的といえるが、問題はこの困難な目標をどう実現に近づけていくかだ。

演説では、「鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーション」と強調。その上で、「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進める」「脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設する」「環境関連分野のデジタル化により効率的、効果的にグリーン化を進めていく」などの方策に言及した。

しかし、わが国はこれまで太陽光発電や風力発電、蓄電池、燃料電池などの新エネルギー技術開発に世界に先駆けて取り組みながらも、ビジネス展開では後手後手に回り、今や欧州勢や中国勢の後塵を拝している。補助金による開発支援をはじめとした従来型の政策手法で周回遅れを挽回するのは極めて難しい状況にある。研究開発した新技術をどうビジネス化し、わが国が主導する形で世界標準を創り上げていくかという視点での検討が不可欠だ。

その一方で、残念なのは、温暖化ガス削減のキーテクノロジーである原子力発電への言及がほとんどなかったことだ。演説には「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立」するという一言が盛り込まれたのみ。2050年実質ゼロを目指すには、原発の再稼働はもとより、新増設・リプレースが避けて通れないにもかかわらず、これでは国民に対するメッセージとして原発の重要性が伝わることはないだろう。

安倍政権は、国民世論や支持率への影響を重視するあまり、原発政策に及び腰の姿勢に終始した。菅首相も同日のニュース番組での発言を見る限り、積極的な姿勢は感じられない。いま梶山弘志経産相は、ある意味政治生命を掛けるほどの意気込みで、原発政策の立て直しに全力を注いでいる。「最終処分場の文献調査にしても、福島原発処理水の海洋放出にしても、梶山大臣がいるからこそ、長年のこう着状態から事態が前進した。次は、柏崎刈羽や女川、島根などBWR原発の再稼働だ」(経産省関係者)。2050年実質ゼロを宣言した以上、政権挙げて原発の重要性を国民に訴えかけていくことが求められる。

【都市ガス】逆石油ショック 備えはあるか


8月号の特集「コロナ禍の破壊と創造」の中で、スプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表が提唱していた「逆石油ショック」という言葉が頭から離れない。われわれエネルギー供給者にとって安定供給は絶対命題であり、1970〜80年代の石油ショックをはじめ、度々エネルギー調達量が減少する経験をしてきたため、原燃料の安定調達を最優先に取り組んできた。

しかし、今回のコロナ禍では調達量は確保されている半面、需要量が急激に減少するという、今までとは真逆の現象、逆石油ショックが発生した。おそらく、われわれはこのような需要量の急減を近年初めて経験したのではなかろうか。

膨大な初期投資を必要とするLNGプロジェクトでは、買主は20〜30年といった長期契約を求められ、また厳しい引き取り義務も生ずる。今回のような需要急減リスクを認識してこなかったわれわれは、安定調達を重視する立場から、こうした契約内容を甘んじて受け入れてきた経緯がある。常温貯蔵ができないLNGの貯蔵量には限界があり、需要が急減した場合に一定の引取調整枠を超えてしまうと、引き取りを延期して支払いのみを行うテイクオアペイや、契約上可能な範囲での市場・他買主への転売などの手立てを即座に講ずる必要がある。しかし、現在のLNG売買契約においては、逆石油ショックに対応できる十分な柔軟性を確保できているとは言い難い。

買主が売主との個別交渉において硬直化した契約内容を見直し、価格水準を抑えながら、契約期間の多様化、引取調整枠・仕向け地の拡大、転売の自由化などを勝ち取ることは至難の業であろう。さらに、LNG需給を調整する卸市場の確立となれば、国を超えた取り組みが必要となる。しかし、半世紀にわたるLNGの歴史を次の半世紀につなげるためには、環境変化に応じて柔軟にLNG取引システムを変えていくことが必須となる。そうでなければ、近い将来、売・買主の両方が逆石油ショックによって大きな痛手を受けることになるだろう。(G)

【記者通信/10月23日】ガス料金規制の経過措置 現行ルール通りに解除か


本誌10月号のフォーラムレポート『ガス料金規制解除で波乱の様相、経産省内で現行ルールに疑問の声』で報じた問題を巡り、電力・ガス取引監視等委員会からは「現行ルールに則って判断し、基準を適正にクリアしていれば、経過措置料金規制を解除していいのではないか」との声が聞こえている。

関西電力との顧客争奪戦が激化している大阪ガスを筆頭に、エリアを超えた競争の進展によって東京ガス、東邦ガスでも顧客離脱が加速。いまや解除基準を満たす状況になっている。規制当局の検証を通じて、その事実が正式に確認されれば、経産省は大手都市ガス会社の小売り料金規制を撤廃しなければならないはずである。

ところが、経産省内でこの解除ルールへの異論が浮上。「大手都市ガス会社の料金規制が外れれば、競合相手の大手電力会社の規制も外さなければならなくなる。大手電力会社に対し、総括原価の査定権限を維持したい経産省としては電力料金規制の撤廃は絶対にしたくない。そのためにも、大手ガス会社の規制解除などとんでもないというのが、経産省の本音だ」(エネルギー関係者)

そもそも、この解除ルールの策定時に、大手の部類に入る西部ガスが対象からはずれたことなどがエネ庁内で問題となり、幹部の間で「こんな変なルールは納得できない」と騒動になった経緯がある。しかし、前回のガス事業法改正時に国会審議まで経て決まったルール。経産省の思惑で勝手に運用を変えるなど許されることではない。

監視等委員会の見方どおり、粛々と手続きを進めていくことが求められる。もし、どうしても解除したくないというのであれば、審議会などであらためてルールの見直しを議論するのが筋だ。でないと、行政への信頼が揺らぐ事態になりかねない。

【記者通信/10月22日】容量市場問題の本質とは 電力制度全体を俯瞰した議論を


容量市場の落札価格が上限価格に近い1万4137円を付けたことが波紋を呼んでいる。市場管理者(日本の場合は電力広域的運営推進機関)は、指標価格(Net Ocone)前後での約定を目指すもの。その1.5倍もの価格が付いたことは、容量負担金を支払う小売り事業者のみならず、市場管理者、発電事業者とっても想定外だったことは想像に難くない。

この結果を受けて、来年度のオークションに向けた検証と制度の見直しが始まったが、エネ庁はあくまでも「制度に瑕疵はない」とのスタンスだ。確かに、「経過措置」と「逆数入札」ばかりが取りざたされるが、これだけが価格高騰を招いたわけではない。むしろ、「特定重大事故等対処施設(特重)」や「非効率石炭火力のフェードアウト」といった容量市場以外の政策により、応札容量が期待量を下回ったことの方が影響は甚大だ。

制度に問題があったからと、その制度だけに焦点を当てて議論すれば本質を見失う。電力を巡る各種政策・制度は相関関係にあり、「これはこれ、それはそれ」などと切り離せるものではないのだ。小売り事業者にもさまざまな考えがあることは承知しているが、一つの事象にとらわれるのではなく、電力制度全体を俯瞰した議論をしていただきたい。

【記者通信/10月13日】日本の電気料金がこの10年間で2割強も上昇したワケ


日本国内の電気料金単価がこの10年間で産業向けで約25%、家庭向けで約22%上昇していることが、経産省が10月13日公表した資料から明らかになった。それによると、2019年度の電力平均単価は産業用が1kW時17.03円、家庭用が同24.76円となり、震災前の2010年度の水準と比べてそれぞれ3.68円、4.39円上昇している。主な要因は、FIT制度に基づく再生可能エネルギーの賦課金だ。これが19年度現在、1kW時当たり2.95円の水準となっており、上昇幅の約7~8割を占めている。そのほかの要因は、原発停止に伴う火力発電向け燃料調達コストの増加とみられる。

2016年4月の電力小売り全面自由化で、新規参入者や大手電力会社同士の競争が劇的に進展したものの、再エネ大量導入と原発停止によるコストの増加によって、電気料金の値下げ効果が相殺されている実態が浮かび上がった格好だ。

とりわけ再エネについては、2020年度のFIT買い取り費用総額が約3.8兆円、賦課金総額が2.4兆円にも達している。経産省は「今後、賦課金総額を抑制・減少させていくためには、早期の価格引き下げ、自立化が重要」と提起。産業用から家庭用まで幅広い需要家に、料金面での自由化効果を実感してもらう意味でも、電気料金の負担感軽減に向けた対策が求められそうだ。

仙台市ガス公募で4社が最終調整 割高な最低譲渡価格に懸念


仙台市ガス局の民営化を巡り、市による事業継承者の公募受付が9月2日に始まった。これを受け、東北電力、石油資源開発(JAPEX)、東京ガス、カメイの4社連合が入札する方向で最終調整を行っているもようだ。関係筋の話で分かった。東北、J社、東ガスの3社は大方の予想通りだが、そこにENEOS系特約店のカメイが加わってきたのが興味深い。

「大手電力会社、大手パイプライン会社、最大手都市ガス会社に、地元の有力石油・LPガス販売会社という最強の連合体。対抗馬が出たところで負けることはないだろう」(市ガス事情通)

問題は400億円に設定された最低譲渡価格の割高さだ。「300億円にはなると思っていたが、100億円も上積みされるとは」。前出企業の関係者はこう話す。市ガスには330億円近くの企業債残高があるため、市側は譲渡収益でその借金を一括償還したい考えなのだ。しかも400億円は最低価格。入札状況次第では価格が跳ね上がる可能性もあり、それを避ける意味でも「競合は絶対出てほしくない」(前出関係者)という。

市は10月29日に応募を締め切り、提案内容の審査を経て来年5月に優先交渉権者を決定。再来年度内の事業譲渡を目指す。