環境省が2022年度税制改正要望に、カーボンプライシング(CP)について踏み込んだ文言を盛り込んだことが、波紋を広げている。当初の資料にはなかった「(政府が)年内に一定の方向性の取りまとめをすべく」との一文を最終版に追加。環境省と経済産業省の事務方の間で調整した内容にはこの一文はなく、小泉進次郎環境相の土壇場の指示によるものと見られている。

環境省はこれまでの税制改正要望では、CPについては「専門的・技術的な議論が必要」といった表現にとどめ、具体的な要望には盛り込まなかった。産業界関係者からの反対意見は根強く、同省事務方は長年重ねてきた議論をぶち壊すことは望ましくないとの考えだった。
一方、小泉氏は昨年末の会見で「来年(21年)の最大の目標はCPを前に進めること」と述べるなど、議論の前進に意欲を見せていた。今年初旬から環境省と経産省はそれぞれ、50年のカーボンニュートラル実現を見据えたCPの議論を始め、夏までに中間整理をまとめている。環境省の中間整理はこれまで同様に両論併記となったものの、引き続き議論を重ねて年内の取りまとめを目指すとしている。
そんな中での税制改正要望の書きぶりに、産業界の関心が集まっていた。「いついつまでに税制のグリーン化の方向性を示すなど、期限を区切った一文が入ると厄介」(エネルギー関係者)といった声が出ていたが、その懸念が現実のものとなったわけだ。
石石税見直しにも言及 環境次官が異例の挨拶
小泉氏は8月31日の閣議後会見で、「CPを今回の税制改正要望にノミネートしたことが最大のポイント」とし、「年内の取りまとめ」という一文の追加については「不退転の決意を環境省としても示している」と力説した。確かに同省の審議会では年内の取りまとめを目指すとしており、それが税制改正要望に入ったことのインパクトは大きい。
また小泉氏は、長期的に炭素価格が上がるという価格シグナルを示すことで、企業の脱炭素に向けた取り組みが加速するとして、CPの方向性を早く決めるべきだと主張。この点がCPのポイントだとし、「コロナ禍で経済が痛んでいる状況下での導入は避けるべき」だといった反対意見については「CPのことを理解されていない」と突っぱねた。さらに既存税制の見直しの必要性まで示唆。石油石炭税について、石炭の税率が低い点がカーボンニュートラルに逆行すると問題提起した上で、「政府全体として脱炭素型に政策を変えていく取り組みを、環境省を挙げて不退転の決意でやっていきたいという職員の思いが表明された」と強調した。
こうした小泉氏の言動を後押ししたのが、財務省出身の中井徳太郎事務次官と見られている。中井氏は概算要求の記者レクにまで異例の登場。冒頭に挨拶し、「ここ5~10年でしっかりしたことが出来なければサステナビリティは無理だとの危機感を持っている」「政策を強化する局面だと思っている」などと訴えた。また、今回の概算要求のコンセプトとして、脱炭素に向けた取り組みを世の中に広めるという、広義でのCPの概念を柱に政策を組み立てたと強調した。
勢いとパワーで劣勢の経産省 梶山氏の存在感今一つ
これに対し、経産省の幹部は「CPの書きぶりの変更は寝耳に水」だとして怒り心頭だ。経産省はこれまでも、石炭火力輸出方針や、30年46%減という温暖化ガス目標設定などを巡り、小泉氏に振り回されてきた。経産省サイドの巻き返しが注目されるが、どうも梶山弘志大臣が今一つ存在感を発揮できていないのが、気になるところだ。31日の閣議後会見の時間はわずか10分間。小泉氏の会見時間が41分間だったのに比べると、大幅に少ない。
その前の27日の閣議後会見を見ても、小泉氏が48分間だったのに対し、梶山氏は25分間。もちろん長ければいいというわけではないが、31日会見での概算要求に関する質疑を見ても、全体概要をさらりと述べただけで、実にそっけない。そもそも、経産、環境両省の概算要求の説明資料を見比べると、環境省のほうが充実している印象を受ける。これまでには見られなかった現象だ。

対小泉氏だけではない。河野太郎規制改革担当相に対しても、経産省はやられっぱなしの状況だ。9月2日発売の週刊文春は、河野氏が第六次エネルギー基本計画案を巡りエネ庁幹部を恫喝する様子を、実際の音声データをもとに報じた。内閣府の再エネ総点検タスクフォースの構成員と、経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員との対立が背景にあるのだが、「河野氏サイドの勢いとパワーは物凄い。劣勢なのは経産省」(電力関係者)と見る向きが少なくない。
「エネルギー政策の主役である経産省が、脇役にお株を奪われてどうする。梶山大臣には奮起を期待したい」(経産省OB)。来週前半に予想される内閣改造。これを契機に、経産官僚の逆襲撃が見られるか、どうか。