【記者通信/1月24日】新電力問題で「分断」の様相 蘇る通産OBの言葉


卸市場依存で経営難に陥った新電力を国が救済すべきかどうか――。昨年来の電力不足を引き金にした日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰問題への対応を巡り、大きな論争が巻き起こっている。その構図を見ると、大きく三つのグループに分かれそうだ。

一つは、「取引市場とはそもそも価格が乱高下するもの。損が発生した事業者は経営戦略のミス、自己責任であり、国が安易に救済すべきではない」とするグループ(救済反対派)。二つ目は、「スポット高騰は電力システム設計の問題に起因するため、国が中心となって制度見直しなどの対策措置を講じるべきだ」とするグループ(制度見直し派)。そして、三つ目が「今回の事態は、制度の欠陥、市場の失敗、想定外の大寒波など複合要因によって発生した“災害”。ここで経営破綻する中小新電力が続出すると、自由化政策や再エネ政策への影響も出かねないため救済措置が必要だ」とするグループ(救済要望派)だ。

もちろん、実際はそこまで単純な構図ではなく、反対派、要望派のいずれにも見直し派が混在していたり、一連の市場高騰を「人災」と指摘する向きがあったり、制度問題でもさまざまな論点が浮上したりしているが、こと「新電力を国が救済すべきか」との争点では賛成、反対両派の主張が真っ向からぶつかっている状況だ。SNS上ではもはや泥仕合の様相と言っていい。

再エネを取り扱う地域新電力の多くは崖っぷちに

優勢なのは、救済反対派だ。「戦略を誤って経営難に陥った新電力は速やかに市場から退出すべし」「こうした事態が起こり得るのが自由化の世界。いざ危うくなったら国の救済に頼るのは筋が違う」「マーケットで大損を出した事業者を国が救済するなど、世界的にも例がない」などと正論を展開しつつ、これまでの電力自由化が大手電力の市場支配力弱体化や新規参入者の優遇といった非対称規制の観点で進められてきたことへの反動もあるのか、支援要望に動く新電力を痛烈に批判している。もともと情報量・知識量・経験値のいずれにも長ける電力のプロが多いだけに、説得力があるのも事実だ。

これに対し、支援を求める新電力側は、「大手電力と中小新電力では、燃料情報一つとっても情報の非対称性があるほか、資金力にも大きな格差があり、圧倒的に不利な立場。有事対応力を同列に語ることはできない」「卸市場が一時的なスパイクではなく、超高値状態が数週間にわたって持続しているのはおかしい。大手電力の発電部門による玉出し抑制のような市場操作が行われているのではないか」などと訴えるものの、市場の論理の前に劣勢は否めない。とはいえ、今回の高騰が起きた要因として市場の欠陥や制度設計上の問題を指摘する向きは多く、制度改善策を通じての追加的救済措置は考えられる話だ。

【記者通信/1月23日】市場高騰下の新電力事情Ⅰ 追加支援の実現度を探る


電力需給のひっ迫に伴う日本卸電力取引所(JEPX)スポット価格高騰を巡り、電力業界は混乱が続いている。経産省資源エネルギー庁は、需給の過不足を発生させた際に新電力が一般送配電事業者に支払うインバランスの精算単価の上限をkW時200円とする措置を1月17日から適用。電力・ガス取引監視等委員会は22日から当面の間、市場の沈静化を図る目的でスポット市場の平日朝夕それぞれで最高価格を付けたコマの需給カーブを公開することを決めたが、これで悪化した新電力の資金繰り問題が解決するわけではない。

窮地に追い込まれた新電力各社は、延命のための支援措置を各所に求めて動き出している。Looopなど新電力56社は19日、①市場の需給曲線、燃料在庫状況など市場価格を形成している情報の公開、②高騰期間に一般送配電事業者がインバランスなどで想定外に得た利得を小売電気事業者と国民に還元すること――を求める要望書を、梶山弘志経産相に提出。また、みんな電力やエネチェンジ、地球クラブの3社が20日に開かれた自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(会長=柴山昌彦衆院議員)の会合で、上記の①②に加え、③市場連動するFIT特定卸価格の上限をFIT買い取り価格に設定すること、④託送・インバランス料金の支払い猶予――などの必要性を訴えた。

経産省の副大臣も新電力救済の必要性に言及した

とはいえ、ほとんどの一般送配電事業者のインバランス収支が慢性的な赤字傾向にある中、この期間に得た利益だけに着目して、それを新電力に還元することが可能かというと現実的ではない。FIT特定卸価格の上限設定についても、エネ庁幹部が「市場価格が上がった時の一般送配電事業者に蓄積されるFIT買い取り価格との差額は、国民に返すのが筋」と会合の場で一蹴している。

また燃料在庫の情報は、「社内でさえも限られた範囲でしか共有されていないのが実情」(大手電力関係者)。それを公開するようなことになれば、発電事業者の燃料調達の国際競争力を大きく削ぐことになりかねないため、これも実現可能性は低い。こうした背景から、「追加的な支援は支払いの猶予くらいではないか」(電力小売り関係者)との見方は強い。

(以下、Ⅱに続く)

【記者通信/1月23日】市場高騰下の新電力事情Ⅱ 静観するSB幹部の問題提起


大手エネルギー会社系列や通信会社系列をはじめ、救済策を求める動きとは一線を画す新電力も少なくない。要望書提出の前日までは同調していたにもかかわらず、土壇場で「降りた」大手新電力があるという話も聞こえてくる。「要望書に記された要求内容は、問題があり一般社会に受け入れられるものではない」との判断からだという。

通信系新電力大手のソフトバンク(SB)は、同業他社の動きに対し静観を決め込んでいる1社。中野明彦エナジー事業推進本部本部長は、「リスクヘッジをしていた新電力でさえ、相当なダメージを受けている。JEPX価格やインバランス料金を昨年12月下旬まで遡って精算してもらえればベストなのだろうが、それはあくまでも一時的な話に過ぎない。制度の根幹にかかわる事態の深刻さを、エネ庁や電力関係者の多くは理解していないのではないか」と、現在の議論を懐疑的に見る。

数ある新電力の中でも独特の存在感を示しつつあるSB

中野氏が最も懸念しているのは、これを機に自由化が振り出しに戻ってしまうことだ。実際、同社にも資金繰りに行き詰まった新電力から「需要家を引き取ってもらえないか」という相談が、少なからず寄せられているという。

「今回は、まさに〝市場の暴走〟が起きたにもかかわらず、直ちに市場を停止しなかったことが問題。遅くとも3連休明けに市場を停止していれば、ここまでの事態にはならなかった可能性がある。(価格が一定以上の変動を起こした場合に強制的に取引を停止させる)サーキットブレーカーのような仕組みが電力市場にも必要だ」とした上で、「市場はボラティリティがあるから使わないと判断する新電力が増えれば、市場の流動性が下がってしまう。自由化を逆行させないための制度見直し議論が、精算の話よりも先だ」と強調する。電力政策を動かす立場の政治家や官僚は、中野氏による問題提起をどう受け止めるのか。

電力関係者への取材を続ける中で、SB同様に独自路線を行く独立系新電力の幹部から、こんな声を聞いた。「今回の大騒動で小売り事業者の誰もが自社の利益を守るのに必死だが、実は最も不安を感じているのは需要家だ。果たして国は、そんな現実をどこまで理解しているのか。経営者としては今こそ、不安がる顧客に対し積極かつ的確に情報提供を行うことで、お互いの信頼関係を深める好機と捉えたい。もちろん資金繰りは火の車だが、電力制度をさまざまな角度から検証していくと、生き残るための抜け道も見えてくる。ある意味、経営者の腕の見せ所だろう」。自信に満ちた言葉が重く響く。

【記者通信/1月22日】再エネのアセス緩和は必要!?風力でも乱開発拡大の恐れ


菅義偉首相が宣言した2050年カーボンニュートラルを実現すべく、昨年12月1日に行われた再生可能エネルギーの導入拡大に向けた課題を整理する専用タスクフォースで、河野太郎規制改革相は風力発電所への環境影響評価制度(アセスメント)の基準緩和を環境省に要請している。

そもそもアセスメントとは、道路、空港、発電所、ダムなどの大規模開発を行う際、周辺に住まう鳥獣など環境面に及ぼす影響を、開発事業者が事前に調査する制度。動植物の保護や、地域住民に対する説得材料としても重要な制度であり、発電所では一定出力以上の火力、水力、原子力、太陽光、風力などが対象となっている。

では今回、なぜアセスメントの規制緩和を求めているのか。それは、アセスメントにかかる期間があまりにも長いため、①長期間の調査費用で建設コストが増える、②電力系統の利用申し込みを行う前に容量がいっぱいになってしまう、③建設までに時間が掛かるため設備導入が進まない――といった理由が挙げられる。会合では、風力発電事業者で構成される風力発電協会、および自然エネルギー財団が現在風力発電所にアセスが必要となる発電所の規模要件「1万kW」を、「5万kW」に引き上げるよう規制緩和を提案していた。

環境アセスの緩和が求められている風力発電

河野氏の要請を受け、環境、経産両省は1月21日、「再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」を開催。会合には、参考人として風力協会、自然エネルギー財団、日本自然保護協会、日本野鳥の会、愛知県、北九州市が出席。それぞれの立場から意見を述べた。

日本自然保護協会、日本野鳥の会は昨年12月15日に規制緩和に反対する共同声明を発表しており、理由として「現行の出力要件でも風力発電によるバードストライクが頻発していること」などを理由に挙げている。また日本自然保護協会は「そもそもアセス制度は規制ではなく、手続き法。環境調査が地域住民との発電所建設に向けた合意形成に役立っている部分もあり、実施期間の短縮は合意形成がないがしろにされるのではないか」と話している。

実際、導入が一挙に進んだ太陽光発電所にはアセスメントの要件が課されていない(風力発電所のアセスカバー率は98.6%)。このため、事業者と地元住民の間でトラブルが絶えず、自治体も対応に苦慮しており、環境省や経産省は事業者向けにガイドラインを策定するに至った。「規制緩和すれば、風力でも乱開発が進み、地域住民とのトラブルや環境破壊が起きている太陽光発電の二の舞になるのでは」との指摘は的外れではないと言える。

【記者通信/1月21日】電力小売り大手が裏技を考案 市場高騰危機を乗り切れるか


市場連動型の電気料金プランを導入している電力小売り大手A社が、独自に考案した手法によって現在の卸市場価格高騰の局面を切り抜けようとしているようだ。電力事情に精通する市場関係者Z氏の話で浮かび上がった。

年初来の大寒波と電力需給危機はひとまず落ち着いたものの、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は依然として高値水準を維持している。インバランス料金単価の上限をkW時200円とする臨時措置が1月17日から適用されて以降も、連日のように午後6時前後の時間帯では200円の超高値。ただ気温が上昇する予報の22日の受け渡しでは、午前9時のコマで190円となった以外は、おおむね100円以下の水準になった。

「100円が大したことない水準に感じてしまうのが恐ろしい。それでも小売り事業者の経営には甚大な影響が出る。JEPXからの調達比率が3割程度の大手事業者でも、あと半月、100円が続いたらキャッシュが完全に底をつく状態だ。資金援助がない限り、到底もたない」。大手エネルギー会社系の新電力関係者X氏はこう話す。

一方で、市場連動プランを提供する小売り各社にとっては、収益への直接的な影響はある程度回避できる半面、1月分の電気料金支払い額が跳ね上がる顧客からの解約依頼が殺到している状況だ。Z氏によると、この危機を何とか乗り切るべく、A社が法人顧客向け対策として考え出したのが、同社との契約をあえて解除し、大手電力会社の最終補償約款などを活用してもらう方法だという。その際、通常なら適用される違約金を全額免除する代わりに、しかるべき時期にA社に戻ることを条件としているもようだ。

「もちろんA社の利益は激減するだろうが、顧客との接点は最低限維持しつつ、好機が到来するのをじっと待つ戦略として考えれば、ある意味したたかな裏技だ。とはいえ、いずれ出戻りする際、A社が魅力的なプランを提示できなければ、顧客はほかに行ってしまうだろう。リスクが高いことに変わりはないと思う」(Z氏)

今後、A社に限らず、さまざまなアイデア(制度の隙間を突く裏技も含め)でこの危機的局面を克服しようとする事業者が現れよう。賛否両論は当然あるだろうが、国の救済に頼らない意味では、これが自由化市場本来の姿なのかもしれない。なお、1月18日に市場高騰対策で経産省に要望書を出した新電力56社の中に、A社が入っていないことは言うまでもない。

【記者通信/1月19日】電力不足は「災害級」か 問われる新電力救済の是非


今回の電力需給のひっ迫は災害級なのか否か――。1月19日、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会の会合が開かれ、年初からの電力需給ひっ迫やそれに伴う市場価格の高騰についての検証が始まったが、その深刻度への見解が委員によって大きく食い違っていることが浮き彫りになった。

横山明彦委員(東京大学大学院教授)は、「事業者はkW時600円程度までの高騰はあり得ることを承知している。市場リスクを理解し管理することの大切さが改めて理解できたし、このことで右往左往してはならない」との見方を示した。

一方、松村敏弘委員(東京大学教授)は、「いろいろな影響が複合的に出てきたために起こった事象。原発の全停止とは比較できないかもしれないが、災害に近いことが起こったという発想が必要ではないか」との認識。村松久美子委員(PwCあらた有限責任監査法人ディレクター公認会計士)も、新電力の退出や倒産が相次ぐ恐れを指摘した上で、「新電力は信頼できないという印象を需要家に与えれば、これまでせっかく進めてきた自由化にとっても問題のある結果になる。需要家の不安を取り除くためにも何らかの支援が必要ではないか」との見解を述べた。

オブザーバー参加の川越祐司・エネット社長は、「3週間以上、価格高騰が継続している異常な状況。小売り事業者の経営や競争環境、需要家が支払う料金にも大きな影響がある」として、インバランス精算単価をkW時200円とする措置に加え、LNGの在庫状況に関する情報開示や、調整力コストの精算について一般送配電事業者の実際のコストに基づき算出するなどの追加的な支援を求めた。

新電力が救済措置を受けるには、今回の事象が「災害級」か否かが判断の分かれ目になりそう。ただ、政府はどんなに使用率が高止まりしようと、電気事業法に基づく電気使用制限令を発することに否定的な姿勢を示してきた。「新電力の経営にとっては災害級かもしれないが全国の電力量は足りており、世間一般的に災害級だと認識されるのは難しい」(大手エネルギー会社幹部)ことから、実際に新電力救済に踏み切るか否かは今のところ不透明だ。

【記者通信/1月18日】狙うは190兆円の経済効果 菅首相は施政方針で何を語る ?


1月18日に召集される通常国会で、菅義偉首相が表明する施政方針の骨子(グリーン成長戦略関係)が明らかになった。昨秋の臨時国会の冒頭で宣言した「2050年カーボンニュートラル社会の実現」に向け、地球環境対策の推進が産業構造の大転換と力強い経済成長を生み出すとして、環境投資の重要性を強調。その上で、主に次のような具体策を提示する見通しだ。

①環境投資を促進するため、過去に例のない2兆円の基金を創設し、最大10%の税額控除を行う。次世代太陽光発電、低コスト蓄電池、カーボンリサイクルといった野心的イノベーションに挑戦する企業を支援することで、最先端技術の開発・実用化を加速させる。

②水素や再生可能エネルギーの導入を拡充し、電力供給インフラとなる送電網を増強する。安全確保を最優先に原子力政策を推進し、安定的なエネルギー供給を確立する。2035年までに、新車販売で電動車100%を実現する。

③経済成長につながるカーボンプライシングに取り組んでいく。先行モデルとして脱炭素地域を創出するなど、脱炭素化に向けた取り組みを広げていく。

④240兆円の民間資金、3000兆円の海外投資を呼び込むため金融市場の枠組みをつくる。グリーン成長戦略を実現することで、50年には年190兆円規模の経済効果が見込まれる。

菅政権は、こうした数々の政策的取り組みを通じ、「世界に先駆けて、脱炭素社会を実現していく」姿勢を鮮明に打ち出す構えだ。

【記者通信/1月17日】自民党議連が市場問題調査へ 新電力対策で政治判断も


年初来の電力需給ひっ迫を背景にした日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰の事態を受け、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(会長・柴山昌彦衆院議員)が1月20日に開く会合で、みんな電力やエネチェンジなどの新電力事業者を対象に聞き取り調査を行う方針だ。

自民党再エネ議連の動きは、官邸にも波及するのか

同議連事務局長の秋元真利・衆院議員は15~16日、自身のツイッターで次のように投稿した。「今回の電力逼迫で考えさせられるのは、電力自由化後の市場のルール形成が歪すぎる事。来週の議連に、みんな電力とエネチェンジに来て頂いて、さまざまな観点から議論をすることにした。それまでに、しっかりと情報収集をして備えるつもり」、「エネ庁が卸電力市場価格の高騰に対する対応を発表した。評価はするけれど、まだまだこれだけでは不十分なので、来週の議連で追加で必要な対策について議論する。そもそも自由化後の市場設計に瑕疵があるので、この機会に旧一電の責務のあり方について再考したい」、「日経も触れているように今のシステムは新電力に不利な面が多いのは否めない。菅政権の掲げる2050年カーボンニュートラル実現の支障になりかねない。来週の議連でしっかり議論する」――。

経済産業省は15日、スポット価格暴騰に対応するため、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。梶山弘志・経産相は同日の会見で、「支払価格の上限を決めることで、新電力だとか、市場連動型の契約をしている消費者に、どう手を差し伸べていくか」だと述べたが、新電力関係者からは「上限200円では水準が高過ぎて、苦しい経営状況は何も改善されない」との声が聞こえている。

【記者通信/1月17日】カーボンゼロ方策に言及か 菅首相が18日召集の国会で


菅義偉首相が1月18日に召集される通常国会の所信表明演説で、昨秋の臨時国会で表明した「2050年カーボンニュートラル目標」の実現に向けての方策に言及するとの観測が浮上している。関係筋が明らかにした。

それによると、主な柱は、①温暖化ガスのNDC(国別削減目標)の引き上げに意欲的に取り組む、②炭素税や排出量取引などカーボンプライシングの導入に取り組む、③2035年までに新車販売の全てを電動化する――の3点とみられる。特に炭素税については、新型コロナ禍対策で国の財源が不足していることもあり、早期実現に向けて今夏の税制改正要望に盛り込むべく、検討を加速させる可能性がある。

【記者通信/1月15日】梶山経産相「 手を差し伸べる」本当に新電力救済なのか


これは本当に電力小売り事業者の救済になるのか――。経済産業省は1月15日、日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の暴騰に対応するため、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。

梶山弘志・経産相はこの日の会見で、「市場の中で価格が決定される中で、消費者であったり、新電力あったり、そうしたところに対するセーフティーネット的な制度をつくらなくてはという思いを持っており、今回の措置になった」と説明。その上で、「200円を超えるような急騰を許容しないという立場なのか」との質問に対し、「市場を許容しないということはあり得ない。支払価格の上限を決めることで、新電力だとか、市場連動型の契約をしている消費者に、どう手を差し伸べていくか」だと述べた。

市場原理を歪ませるような新電力救済措置には、反対論も聞こえている

梶山大臣の発言を見る限りは、ギリギリのところで判断した救済措置と言えるが、エネルギー関係者の中には「現実的に考えると、上限200円の水準で、新電力の救済はかなり難しい。市場崩壊を食い止めるのが真の狙いでは」と見る向きも少なくない。

全国的な寒波が去ったこともあって、JEPXの16日受け渡しのスポット価格は、時間帯別のピーク時でkW時100.01円(午後5時~7時)、24時間平均で同48.51円となった。12日から15日の受け渡しにかけて200円超えが続いていた異常事態からは、やや落ち着きを取り戻した格好だ。それでも平時と比べれば、10倍近い高値が付いている状況に変わりはない。天候や需給次第で、再び暴騰する可能性もある。今後、資金繰りに行き詰まる小売り事業者が続出する事態は避けられそうもない。

【記者通信/1月15日】大飯4号機が原子炉起動 住民側は設置許可停止を申し立て


関西電力は14日、昨年11月から定期検査を行っていた大飯原子力発電所4号機(出力118万kW)が15日に原子炉を起動し、翌16日に臨界に達する予定と発表した。その後の調整運転が順調に進めば、2月中旬にも本格運転を再開する。これにより、昨年暮れから続いてた関電エリアの電力需給ひっ迫は解消される見通しだ。

ところが驚いたことに、福井県などの住民は同日、大阪地裁が原子炉設置許可の取り消しを命じた大飯原発3、4号機について、控訴審の判決が出るまでの期間、設置許可の効力を停止するよう大阪高裁に申し立てたのだ。一部報道などによると、住民側は「関電の想定を超える地震が起きれば、原子炉事故により重大な被害を受ける可能性がある」との理由から、「運転できないようにする緊急の必要性がある」と主張している。

これについて、エネルギー業界の幹部は「大飯を稼働させないことの方が、大規模停電などで(需要家が)重大な被害を受ける可能性がある。運転させる緊急の必要性があるのは明らかだ」と指摘する。大地震と大停電のどちらが発生リスクが高いかと言えば、現状ではどう考えても後者だ。原告の住民側は、現在の電力需給が綱渡りの状況にあることを全く知らないか、もしくは大飯原発を動かすぐらいなら大停電リスクもやむを得ないと考えているとしか思えない。大阪高裁には冷静な司法判断が望まれる。

【記者通信/1月14日】節電?効率的使用? 電力業界と経産省でひと悶着


年初来の電力需給ひっ迫下で、「節電」「効率的な電気の使用」のどちらを使うかで電力業界と経産省の間でひと悶着あったようだ。関係筋が明らかにした。

昨年暮れから全国の電力会社がLNG在庫の不足によりLNG火力の出力低下を余儀なくされる中、年明け早々に日本海側を猛烈な寒波が襲ったことで全国的な電力不足が発生。大規模停電などのトラブルを避けるため、電力業界と経産省の間で断続的な協議が行われた。その際、電力側が節電の必要性を訴えたのに対し、経産省側は新型コロナ対策で1都3県に緊急事態宣言が発令されることなどから、市民生活に影響を及ぼす「節電要請」には難色を示した。

記者通信でも既報の通り、梶山弘志・経産相は8日と12日の閣議後会見で、「今は供給側で対応しているので、節電要請は現時点では行われていない」「いざという時にはあるかもしれないが、現時点では想定していない」「節電要請ということではない。例えば使っていない部屋の電気を消していただくとか、効率的な電気の使用をお願いしている」「効率的な電気の利用をしていただければ、どうにか対応できる状況にある。節電要請にまでは至ってない」などと、節電要請の発出を繰り返し否定した。

暖房はこれまで通り使って大丈夫だが、節電要請が出るとそうはいかない?

その意味するところは、「暖房などは通常通りに使ってもらって大丈夫。日常生活に支障のない範囲で、無駄な電気を小まめに消すよう心掛けてほしい」(資源エネルギー庁関係者)ということだ。

これに対し、大手電力会社の関係者の多くは「安全サイドに立つなら、それだけでは不十分。全体的な節電が必要」(送配電部門関係者)との見解だ。経産省とすったもんだの調整の末、業界側は「効率的な使用」で妥協したという。しかし、電気事業連合会や大手電力各社が10日発表したプレスリリースのタイトルは『電力の需給状況と節電へのご協力のお願い』。やはり譲れない部分があったのだ。。

【記者通信/1月13日】電力各社「極限の緊張状態」それでも動かない経産省


関東での降雪予報などで全国的な電力不足が懸念されていた1月12日を何とか乗り切った電力業界。電気事業連合会のまとめによると、北海道から九州まで大手電力9社の「でんき予報」では、いずれも同日の使用率が95%を上回る異常事態となっていた。具体的には、北海道95%、東北97%、東京95%、中部95%、北陸96%、関西98%、中国96%、四国97%、九州96%。「もはや95%という、通常なら危険水域の数字を聞いても、驚かなくなった感じがする。そんな状況が恐ろし過ぎる」。エネルギー業界の幹部はこう話す。

言うまでもなく、需給調整に当たる電力会社の現場は大変な状況だ。連日の24時間体制で不眠不休の状況が続いている。「当社は一番危なかった12日を何とか乗り切ったが、引き続き西日本への最大限の応援も必要で、(電力各社とも)極限の緊張の中での運用を続けている」(東京電力パワーグリッド幹部)

全国的な悪天候はひとまず収まっているが、寒波・降雪はこれからが本番だ

こうした非常事態にもかかわらず、電力事業を所管する経済産業省の我関せずの姿勢には大いに疑問を感じざるを得ない。梶山弘志経産相は12日の閣議後会見でも、「全国的に電力需給が厳しい状況が続いている」との認識を示しながらも、節電要請の発出に関してはなぜか否定を繰り返した。記者とのやり取りは次の通り。

記者「電力需給の件で国としても効率的な使用を要請したが、それは節電要請なのか」

梶山「節電要請ではない。例えば使ってない部屋の電気を消していただくとか、効率的な電気の使用をしていただきたいということで、どうにか調整、融通ができている状況だ」

記者「電力需要がひっ迫する中、節電要請を出されない理由を改めて教えてほしい」

梶山「今の時点では、効率的な電気の利用をすれば、どうにか対応できるという状況にあるので、節電要請までに至ってないことをご理解いただきたい」

【記者通信/1月11日】電力スポットがついに210円台 今週中に資金難の新電力も


全国的な電力需給ひっ迫が続く中、関東一円での降雪が予想される1月12日を前に、日本卸電力取引所(JEPX)の12日受け渡しのスポット価格がまたも史上最高値を大きく更新した。時間帯別のシステムプライスを見ると、午後5時半~午後7時半のコマで同210.02円という異常な高値を記録。24時間平均でも同150.25円の最高値だ。東京電力パワーグリッドのでんき予報では、同日夕方のピーク時で95%の使用率を想定している。関係者によると、JEPXにおいて、買い手側は取引日の2営業日後に決済する必要があるため、早ければ今週中にも資金繰りに行き詰まる電力小売り事業者が現れる可能性があるという。

JEPXの12日受け渡しのスポット価格

「噂で言われている通り、中小新電力の多くは、今冬の難局を乗り越えられそうもない。今後、電力小売り事業から撤退する事業者が続出するだろう。また、市場連動価格のメニューを契約している需要家は1月分の電気代がとんでもない高額になるため、取り扱い事業者にはクレームが殺到しているようだ。いずれにしても、今回の件でJEPX依存リスクの怖さが顕在化した。電力不足が落ち着いた段階で、相対調達や自社電源開発にシフトする電力事業者が相次ぐとみられ、JEPX離れが加速する可能性も否定できない」(大手エネルギー会社関係者)

2016年から始まった電力小売り全面自由化は、LNG在庫不足に端を発する電力需給ひっ迫という思わぬ形で、一大転機に突入した形だ。