【記者通信/10月8日】千葉市とTNクロスの意外な関係 レジリエンス対策に注目


「NTTの澤田純社長は、サラリーマンの時の直属の上司」。こう話すのは千葉市の熊谷俊人市長。市は東京電力ホールディングスとNTTの共同出資会社であるTNクロスと契約し、市内の避難所182カ所に再生可能エネルギー設備を導入する。具体的には、太陽光発電設備、蓄電池、付帯設備を設置することで、CO2排出削減と災害時のエネルギー確保を同時に実現するものだ。導入は2020年度から2022年度までの3年間。運転の開始日から最長20年間を予定する。

台風15号で打撃を受けた千葉市。東電のライバルの東京ガスも、市側にエネルギーレジリエンス対策を提案していたもようだが、現時点では東電側に軍配が上がる。NTTの澤田社長は京都大学工学部卒で、土木を専攻。関係者によると、洞道などのインフラ分野に知見が深いという。その薫陶を受けた熊谷市長は、レジリエンスに再エネをどう活用していくのか、注目される。

【覆面座談会】原発を封印した安倍政権 業界から菅首相への注文


テーマ:新旧政権のエネルギー政策

安倍晋三前首相による突然の辞意表明を受け、2012年12月以来、7年9カ月に及ぶ長期政権が幕を閉じた。この間、電力・ガスシステム改革やFIT制度導入などでエネルギー政策は大きく動いたが、支持率に影響する原子力ではほとんど手付かずのまま。9月16日に誕生した菅義偉内閣に対し、エネルギー業界関係者は何を期待するのか。

〈出席者〉 A電力関係者  Bガス関係者  C石油関係者  D報道関係者

7年9カ月ぶりに主が交代した首相官邸

―菅内閣の顔ぶれを見ると、エネルギー政策に関係する梶山弘志経産相、小泉進次郎環境相はいずれも再任となった。大手メディアの世論調査では、支持率が7割前後に達し好調な滑り出しといえる。まずは、率直な感想から聞きたい。

A 菅さん本人が「仕事をする内閣」と言っているように、閣僚の顔ぶれを見ると、何よりも安定感や堅実さを感じる。支持率の高さの裏には、安倍政権があまりにも長く続きすぎたため、菅政権が新鮮に見えていることもあるのだろう。期待値の表れだ。

D 同感で、仕事師をそろえてきたなという印象だ。うわさされていた橋下徹さんは入閣しなかったし(笑)、○○チルドレンといった人気だけの若手も登用せず、無理に世間受けを狙っていないところは好感が持てる。それが逆に支持率を高めているのかな。女性の入閣が上川陽子法相の一人にとどまったのは、個人的には残念だ。

B 全体的に安定感、経験を重んじた体制になっているという点は、私も同じ。具体的には、梶山さん、小泉さんのほか、麻生太郎財務相、茂木敏充外務相、西村康稔経済財政・コロナ担当が留任したことや、田村憲久厚生労働相、上川法相、平井卓也デジタル改革担当相が復活してきたことに注目している。

C 順当な人事で、国会対応を想定した陣容と言ってもいい。いずれも答弁能力のある大臣ばかりだ。野党第一党の立憲民主党は苦労するだろう。

エネ政策に思い入れ強い梶山経産相 小泉環境相は原子力に理解を

―派閥への配分を考えた人事と報じられているが。

B そういう人選ではないと思う。例えば石破派の田村さんのように、経験重視で人選したら、結果として石破派からの登用という形にもなったという側面もある。

D 派閥よりも即戦力だよ。そこは菅さんが強調する「コロナ・経済最優先」の方向性が色濃く表れている。

C まあ、梶山さんの再任は、経産省としては大歓迎だろうね。エネルギー政策見直しについても本腰を入れて進めてほしい。

D 政権交代に当たって、梶山さんはエネルギー政策見直しを引き続き主導していきたいということで、経産相の続投を申し入れていたらしい。経産省の幹部異動があった際の定例会見でも、資源エネルギー庁の人事に関して異例の言及をしていたし。旧動力炉・核燃料開発事業団(現原子力研究開発機構)の出身ということもあって、エネルギーへの思い入れは人一倍強いようだね。

A その意気込みを、ぜひ全国の原子力発電所の再稼働に生かしてもらいたい。これは電力業界の総意だと思う。梶山さんには実務的な課題を押さえながら地に足のついた政策展開を期待したい。

―一方で、小泉環境相は交代確実と見られいたが、再任された。

D 環境省の官僚は大半が退任と思っていたし、小泉さん自身も8月ごろから「心ここにあらず」で、次は防衛大臣かなと冗談交じりに漏らしていたらしい(笑)。

B 環境副大臣経験のある井上信治氏の大臣就任を期待する向きが多かったけど、ふたを開けてみれば万博担当。省内では「あれ? なんで?」という声が聞こえていたね。

C 小泉さんの再任のあいさつは自画自賛が多くて、調子に乗り過ぎていた感じだった。もう少し謙虚になって、周囲に気を配れるといいんだけど。

A 小泉さんの政治スタイルを見ると、梶山さんとは対照的だが、環境省のスタッフが以前に比べて現実路線を重視してきていることは歓迎したい。脱炭素化への思いは業界も同じなので、原子力への理解をいかに深めてもらうかがカギになるだろう。

―今回は7年9カ月ぶりの政権交代ということで、官邸周辺の官僚人事でも動きがあった。官僚トップの杉田和博官房副長官、菅首相側近の和泉洋人首相補佐官が再任される一方、安倍晋三前首相を長きにわたって支えてきた今井尚哉首相補佐官兼秘書官は内閣官房参与になった。

A 今井さんが外れたことで、経産省色が薄まる感じも受けるが、業界にとってはむしろそれがプラスに作用する可能性もある。

B 経産内閣という形ではなくなったとすれば、原発政策に臆病だった前政権とは違う踏み出し方をする可能性があるのではないか。

D いろんな意味で今井さんは、エネルギー政策にもちょっかいを出してきたからね。特命担当内閣参与の飯島勲さんが週刊誌の連載で痛烈に批判していたのは興味深かった。

C 経産省関係では、佐伯耕三首相秘書官が大臣官房参事官に異動。その後任に門松貴内閣官房長官秘書官が就き、門松さんの後に曳野潔大臣官房参事官が就いた。曳野さんは電力システム改革に長年携わってきただけに、これからの動きに注目したい。

A それと、エネルギー政策に熱心に取り組んできた阿達雅史内閣府大臣政務官が首相補佐官になったことは大歓迎だ。

D 経産内閣は終わったという話だけど、実際はどうかなと見る向きもある。私の記憶だと、実は菅さんは1990年代後半の駆け出し議員の頃、師匠である故・梶山清六さんの指示を受けて、経産省の若手官僚と一緒に朝食勉強会をやっていた。彼らが今の局長級になっているので、つながりは深いはず。その意味でも菅政権誕生を喜んでいて、関係の再構築に向けて活発に動いているよ。

【記者通信/10月6日】東電「新々総特」の評価は年内か EP買収騒動のてん末


経産省の人事異動や政権交代などの影響もあってか、このところすっかり表舞台に登場しなくなった東京電力の経営再建問題。今年度は、第三次中期経営計画「新々・総合特別事業計画(新々総特)」の最終年度に当たるためレビューを行うことになっているが、聞こえてくるのはエネルギー基本計画見直し絡みの話題や、再生可能エネルギー大量導入に向けての制度設計関係、容量市場の上限価格落札問題など。資源エネルギー庁担当官のメンバーもがらりと入れ替わったことで、方針に変更はないのだろうか。ただ関係者によれば、水面下での検討は着々と進められており、年内にも評価の取りまとめが行われる見通しだという。

そうした中、東京電力エナジーパートナー(EP)を巡って、大手商社が昨年来、買収などの検討を行ってきたが、結局断念したもようだとの情報が寄せられた。有力関係筋によると、理由は「費用対効果に難あり」。東電EPのM&Aに関しては、商社を通じて複数の大手エネルギー会社に内々に話が持ち込まれたものの、想定譲渡価格の高さなどから折り合わなかったのではないかとみられている。今後は、第三者割当増資などを活用した資本提携の道を探る可能性も。東電再建の難しさを浮き彫りにしている。

【イニシャルニュース】地内系統巡る勉強会 疑問視される人選


1.地内系統巡る勉強会 疑問視される人選

経済産業省が送電線利用の先着優先ルール見直しの方向性を打ち出したのに合わせ、電力広域的運営推進機関に「地内系統の混雑管理に関する勉強会」が立ち上がった。

7月27日に初会合が行われ、年内にも課題の洗い出しと議論の方向性をまとめる方針だが、発電事業者のX氏が「一体どういう人選なのか」と首を傾げるのは、勉強会に参加する委員の顔ぶれについてだ。

というのも、系統利用を巡っては、既に地域間連系線に「間接オークション」の仕組みを導入しメリットオーダーに応じたルールに移行している。この制度設計に当たっては最終的に10年間の経過措置を設けるなど紆余曲折の議論があったのだが、この時の検討会の委員で今回の勉強会に参加しているのは座長のM教授のみ。他は、間接オークションの議論の経緯を知らないメンバーばかりだからだ。

M教授といえば、メリットオーダー導入を強く主張してきた一人。そのM教授を議論の取りまとめ役である座長に抜擢したことも含め、発電事業者としては委員選出の裏の意図に不安を隠せない「間接オークションを議論していた当時、広域機関幹部だったS氏らは、地内系統へのメリットオーダーの導入に強くこだわっていた。あとは後任のT氏がどこまで敢行できるかだ」とX氏は語る。

地内系統へのメリットオーダーの導入は、制度を信頼し投資判断に踏み切った発電事業者にとって、地域間連系線以上に事業の行方を左右しかねない重大事。それだけに、経過措置期間を何年にするかなどが今後の議論で注視されることになるだろう。

議論の展開次第では、行政訴訟も辞さないという話になってもおかしくない。国民負担低減と安定供給を両立させるために、変動電源と安定供給電源をいかにバランスさせるか―。メリハリのある制度設計が求められる。

2.評価割れる経産省参与 エネ基見直しに影響は

水野氏は石炭嫌いで知られている

今年5月に経済産業省参与に就任した前GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)理事の水野弘道氏。水野氏といえば、日本でのESG(環境・社会・ガバナンス)投資推進の第一人者で、小泉進次郎環境相との親密な関係が有名だ。昨年のCOP25に水野氏が同行した際は、役人を差し置いて、小泉氏の真横でステートメント発表直前までアドバイスをしていた姿が目立っていた。

水野氏の経産省参与就任は、閣僚経験者のS国会議員が言い出したことだという。さらに経産省としても、水野氏の人脈に期待する部分があった。日産とルノーの統合話が問題となった際、水野氏のフランスの金融関係者との人脈が一役買ったそうだ。

ただ、資源エネルギー庁からすれば、気候変動問題で欧州の主張に近い問題意識を持ち、石炭嫌いの水野氏の参与就任は、歓迎されるものではない。石炭火力輸出問題は厳格化で幕引きとなったが、現在進行中の石炭火力フェードアウトなど、エネルギー基本計画見直しの議論まで口を出されてはたまらないだろう。エネ庁ばかりでなく、金融庁などほかの省庁からも厄介な存在とみる向きが強い。

一方、水野氏とタッグを組んできた小泉氏は大方の予想を覆し環境相留任となった。水野氏の発言力は引き続き継続されるだろうか。

3.ガス販売に電力提携 包囲網で活気付く北電

「泊原発の停止や一昨年のブラックアウトの影響などで経営の苦境が続いているが、ここにきてにわかに社内が活気付き始めた」。北電関係者S氏がこう話すように、ライバルの北海道ガスに責められる一方だった北電が反転攻勢を強めているようだ。

背景にあるのが、10月1日からスタートする「ほくでんガス」の販売だ。北ガスの供給区域のうち札幌、小樽、石狩、北広島、千歳、恵庭の6市を対象に、都市ガスを提供。これに合わせ、テレビCMも大々的に展開する。

折しも、北ガスと共同運用する石狩LNG基地に、念願の4号タンク(24万㎘)が10月に完成。既存の3号タンクと合わせ、北電は計48万㎘のLNG貯蔵能力を保有することになる。対岸にある北電石狩湾新港火力発電所(発電出力57万kW)向けの燃料として活用する一方、都市ガス原料にも転用していく構えだ。

一方、電気の販売では他エネルギー事業者とのアライアンスを積極的に推進。北海道エア・ウォーターが7月1日から北電の電気を調達し、LPガスや灯油とセットで割安になる「エア・ウォーターでんき」の販売を始めたのに続き、ENEOS系特約店の北海道エネルギーと業務提携し、電気の販売を含めた生活サービスの提供を始める。

「北海道のエネルギー間競合の構図はある意味、北ガス包囲網と言っていい。これは、東京電力がニチガスやENEOS、大阪ガスと連携し、東京ガス包囲網を築いているのと似ている感じがする」(都市ガス関係者B氏)

ただ大量のエネルギー需要が集積する首都圏と違って、北海道では札幌など都市の一部を除き、過疎化や人口減少が年々加速している。「限られた需要を奪い合う消耗戦に陥る可能性が極めて高く、できれば北電、北ガスの両者は共存共栄でやっていくのが望ましい」(前出B氏)

メガソーラー、大型風力、バイオマス、地熱・温泉発電といった再生可能エネルギー電源の急増も加わり、道内の電力供給過剰は必至。北の大地のガチンコ競争は遠からず終焉を迎えるのか。

【記者通信/10月5日】笠間メガソーラー乱開発問題の現地動画


エネルギーフォーラム10月号の「フォーカス」「調査報道」で取り上げた茨城県笠間市のメガソーラー乱開発を巡る問題。本誌取材班は9月上旬の現地取材で、ドローンによる空撮を行いました。その動画バージョンをYouTubeにアップしています。現場がいかにひどい状況になっているかが一目瞭然です。

太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、これからの低炭素社会実現に向けて欠かせないものです。しかし、法制度上問題ないからといって、やたらめったら開発していいわけではありません。

国民生活・経済活動を支えるエネルギーインフラ設備である限り、開発・運営事業者には相応の責任が伴います。地域の住民や自然環境と長きにわたって共生してこそ、真のSDGs(持続可能な開発目標)ではないでしょうか。

問題提起の意味を込めて、ぜひ貴重なドローン映像をご視聴ください。

都市ガス・火力・再エネの共存目指す エネミックスで果たす安定供給事情


【北海道ガス】

北海道ガスが運営する石狩LNG基地は2012年の運転開始以来、道内の天然ガス供給を一手に担ってきた。10月には北海道電力が所有する4号タンクが完成。再生可能エネルギーとの共存も視野に入れながら安定供給を支える。

石狩なくして、北海道に真の天然ガス時代は到来せず――。そう言っても過言ではないほど、今や道内エネルギー供給の一大重要拠点となっている北海道ガスの石狩LNG基地。10月完成の4号タンク(23万㎘、川崎重工業製、北海道電力所有)を含めると、合計貯蔵能力は84万㎘で、一般家庭約150万世帯分の年間ガス使用量に相当する規模だ。

道内一帯に天然ガスを供給 日頃の訓練生きた胆振地震

計4基のタンクのうち、北ガスは1号(18万㎘、川重製)、2号(20万㎘、IHI製)を所有。石狩と苫小牧を結ぶ高圧パイプラインを通じ札幌・小樽・千歳地区に供給するほか、LNGローリー車で旭川、室蘭、帯広、北見地区へ、また内航船で函館、釧路地区などにも供給し、まさに全道一帯をカバーしている。

原料のLNGはロシア・サハリン産の輸入を中心に、最近はスポット玉も調達し多様化を図っている。19年度実績(北ガス分)で外航船11隻を受け入れている。

ガスエンジンの排熱でLNGを気化する設備

一方、LNGの出荷実績(同)を見ると、19年度はローリー車7285台(約9万7000t)、内航船62隻(約7万7000t)。冬場の需要期には、10レーンあるローリー車の出荷設備が1日・1レーン当たり6~7回転し、「休む暇もないのほどのフル操業」(澁谷聡・石狩LNG基地所長)だ。厳しい暴風雪や地震などの災害も想定し、万全の体制を敷いて安定供給を日々遂行している。

「日頃の訓練、対策が生きたのが、18年9月に発生した北海道胆振東部地震です。最大震度7の大地震の影響でブラックアウト(全域停電)が発生しましたが、ガスの供給に支障はありませんでした。さらに北海道の電力供給力確保のために、基地内の北ガス石狩発電所から北電さんに電力を緊急融通しました」。同社取締役常務執行役員の前谷浩樹・生産供給本部長はこう話す。

11月にGEの増設完了 風力発電の調整力も想定

その石狩発電所では現在、ガスエンジン(GE)2機の増設工事が佳境を迎え、11月に完成する予定(総出力9万3600kW)。ユニークなのは、出力7800kW(川重製)のGEを並列させていることだ。その理由の一つに、基地周辺に林立する風力発電への対応がある。

石狩発電所内で稼働する高効率ガスエンジン

「風力の系統接続時に出力安定化が求められており、当社の発電所はその調整力としての役割を担うべく検討を進めています。GEが12台あれば、ガスタービン1台よりも柔軟に負荷を調整できる。起動時間が10分程度と早いうえ、発電効率50%というGEの高性能を余すところなく発揮できるメリットもあります。設計時から再生可能エネルギーの調整力を想定しているガス発電所は、全国でも珍しいのでは」(前谷氏)

この空き地に北ガスの風力発電が建設される

北電が所有する3、4号タンクは同社の石狩湾新港発電所(57万kW)向けに燃料のLNGを供給する。30年までに2、3号機が順次建設され、全機完成時には総出力171万kWの大規模火力となる計画だ。また石狩湾新港沖では、計300万kW相当もの洋上風力計画が持ち上がっている。

都市ガス、火力、再エネ――。多様なエネルギーが集積する石狩湾新港で、北海道全域のエネルギーの安定供給を担う石狩LNG基地の役割は大きい。

【覆面座談会】経産・環境省人事を深読み 政策大転換の背後に官邸の影


テーマ:経産・環境省の幹部人事

エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画が見直しの時期を迎え、わが国のエネルギー環境政策は大きな転機に突入した。7月中旬に発令された経済産業省と環境省の幹部人事を読み解きながら、政策の行方を占う。

〈出席者〉 A元官僚  B有識者  C霞が関関係者  D業界関係者

脱炭素人事を明言した梶山大臣(右から2人目)の真意は原子力シフトか

エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画が見直しの時期を迎え、わが国のエネルギー環境政策は大きな転機に突入した。7月中旬に発令された経済産業省と環境省の幹部人事を読み解きながら、政策の行方を占う。

―まずは、経産省人事の評価から聞いていきたい。

A 梶山弘志大臣が今回の人事を発表するに当たって、「エネルギー政策を思い切った脱炭素に転換していくために、保坂(伸・前貿易経済協力局長、1987年入省)さんを資源エネルギー庁長官に登用する」と言及したのは、極めて異例のことだ。梶山大臣自身はもともと旧動力炉・核燃料開発事業団の出身でエネルギー問題に造詣はあるとはいえ、官僚の人事に口を出すようなタイプの政治家ではない。何か別の力が働いた上で誰かが大臣に振り付けをしたと思っている。

D 経産省は、持続化給付金問題などでみそを付けてしまった。新しく生まれ変わる一つの柱がエネルギー政策になっていくという、省全体の決意の表れではないかな。

B エネルギー政策の実務に詳しい人がトップになってほしいという意味で、髙橋(泰三・前エネ庁長官、85年)さんを事務次官にと思う業界関係者は多かった。しかし経産省としてはさまざまな理由から、今までの延長線上でエネルギー政策見直しのストーリーを描くことが難しくなっている。梶山大臣が会見で政策転換を強調したように、根本的なところから政策の組み換えが起きる可能性が高い。そこをにらんだのが今回の人事だろう。

想定外だった髙橋、西山両氏退任 「脱炭素」の裏で原子力シフト

A 誰がこの人事を行ったのかはだいたい想像がつく。一部の週刊誌には「原案作成=安藤(久佳・事務次官、83年)、監修=今井(尚哉・首相政務秘書官兼補佐官、82年)」と書いてあったが、ここまで経産省の人事が話題になることも異例だろう。

C 週刊誌の報道はおおむね当たっていると思う。次官候補の呼び声もあった85年組の髙橋さんと西山(圭太・前商務情報政策局長)さんの2人が去って、84年組の新原(浩朗・経済産業政策局長)さんと糟谷(敏秀・特許庁長官)さんが残った。省内の若手や中堅からすると、よろしくない人事だよ。

A 同感だな。安藤さんの次は、多田(明弘・官房長、86年)さんが有力視されているが、新原さんの芽も消えたわけじゃない。

C 新原次官だけは勘弁してほしいね。

B それは皆そう思っている。残念なのはやはり髙橋さん、西山さんの退任だ。2人ほど実務を分かっている人はいない。

―電力関係者の間では直前まで、髙橋さんの留任に期待する向きが多かった。

B そう聞いている。2人とも切られることは想定していなかっただろうね。

A ただ『エネルギーフォーラム』が8月号で書いていたように、髙橋さんは面倒な事案で泥をかぶらないタイプ。私から見ると、少しきれい過ぎる。そのような評価は確かにあった。それにしても、西山さんまで切ることはなかった。

―官邸側の狙いは何か。

D 次の政権交代、総選挙を視野に入れながら、国民ウケする「脱炭素」政策を強力に推進していくことだろう。そのために、保坂さんをエネ庁長官にした上で、飯田(祐二・前産業技術環境局長、88年)さんをエネ庁次長兼首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官に、小澤(典明・前技術総括保安審議官、89年)さんを政策立案総括審議官兼首席エネルギー・地域政策統括調整官にそれぞれ据え、脇を固める体制を敷いた。

C 脱炭素を経産省的に翻訳すると、原子力シフトになる。今回の梶山大臣の記者会見では、原子力という言葉は1回も出てこなかったが、完全に原子力シフトだよ。

エネ庁に3人の局長級を配置 来年のCOP26がターゲットに

―「思い切った脱炭素転換」の真意が、原子力なのか。

C そう考えて間違いない。

A 脱炭素イコール原子力、とはおおっぴらには言えないからな。

C 石炭火力発電を廃止していくと、ベースロード電源を担うのは原子力発電しかない。関係者なら周知の事実だよ。

B 今回の再生可能エネルギー特別措置法の改正によって、新原さんが主導した、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)でねじ曲げられていた再エネ政策はそれなりに正常化される。これからは、まともな再エネしか入らなくなるので、今までのような流れとは違ってくる。つまり原子力を動かさない限り、環境目標の達成は不可能な状況になるわけだ。

A わが国のエネルギー政策を前進させていていくには、いつかは原発問題に手を付けなければいけない。安倍政権の7年間でずっと塩漬けされていたツケを、いつかどこかで払う必要がある。梶山大臣はもともと原子力企業の出身なので、政権は彼にババを引かせようとしているのだと感じたよ。

B もちろん、安倍政権では原子力の話を声高に言えない。矢面に立つのは、経産省であり、資源エネルギー庁だ。ババかどうかはともかく、誰かがやらなければならない。

C いずれにしても今回の人事では、冒頭にもあったように、官邸筋、つまり今井さんの意志が働いている。髙橋さんが長官を務めていながら、原発政策が前進しないのはやはり不満だったんだろう。その打開策として、今井さんと師弟関係にある保坂さんをエネ庁長官に持ってきたのはうなずける。

―エネ庁次長級の人事をどう見ているか。

D 例えば、前事務次官の嶋田(隆・富士フイルムホールディングス社外取締役、82年)さんは今回の人事について、周囲に「2人のエネ庁次長」と言っているし、「3人の局長」という見方も少なくない。要するに、首席は局長扱いということだ。

A つまり降格ではないと。

D そう。で、2人の次長だけど、飯田さんはエネルギー基本計画とエネルギーミックス。小澤さんは地域性で、これは原子力発電。その両輪で政策を動かすことになる。さらに言えば、地球温暖化対策計画の見直しも含め、重要なエネルギー政策議論が相次いでスタートしていく。ターゲットは来年のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)だ。そこを目掛けてさまざまな物事が動き出す中で、保坂さん、飯田さん、小澤さんの3人がヘッドとなり、エネルギー政策の大転換を図っていくわけだ。

【イニシャルニュース】沈黙の資源燃料政策 昭和から戦略変わらず


1.沈黙の資源燃料政策 昭和から戦略変わらず

エネルギー政策の「脱炭素」転換方針を受け、大幅な人事異動が行われた資源エネルギー庁。長官、次長、審議官、電力ガス事業部長、省エネルギー新エネルギー部長が続々と交代する中で、唯一続投になったのが、南亮・資源燃料部長だ。

梶山弘志経産相が定例会見などで言及しているのは、再生可能エネルギーや石炭火力フェードアウトなど「脱炭素」関係ばかりで、資源燃料政策はおおむねスルー。そもそも記者側から質問が出てこないといった事情もあるが、先の通常国会で石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法が改正されていることから「新国際資源戦略の展開も含めて、なぜもっと積極的に新政策を打ち出さないのか」(石油開発会社関係者)と見る向きも少なくない。

梶山経産相の関心は主に脱炭素だ

これについて、経産省OBのX氏はこう話す。

「わが国の資源戦略は昭和の石油公団時代から、基本的に変わっていない。つまり、資源はないけどGDP世界第二位の圧倒的な経済大国なので、石油ガス安定調達に向けて自主開発を拡大していくというものだ。しかし、その大前提はもはや崩壊しつつある。再エネ・省エネ分野の技術革新などでエネルギー需給のパラダイムシフトが進み、化石資源の供給過剰が鮮明化。また少子高齢化により、世界経済の中でのプレゼンスも年々低下している」

さらに続ける。

「米国、ロシア、中東諸国、中国を中心に国際情勢が激変している状況も踏まえて、資源調達戦略の抜本的な見直しが急務になっているにもかかわらず、今春発表された新国際資源戦略は『昭和時代』の発想を引きずったまま。JOGMEC法改正にお墨付きを与えるための対策にしか見えない」

現役官僚のZ氏も今の資源燃料政策に疑問を投げる。

「石油公団時代からの伝統がなぜ変わらないかといえば、おそらく資源開発分野にいる有力OBが旧来の発想のままイケイケの姿勢を見せているためだろう。世界のオイルメジャーの戦略は拡大からリスク管理へとシフトしている。しかし、経産省では新戦略や今回の人事を見ても、そうした大転換を行う状況にはなっていない。だから問題意識を持っている人たちも、沈黙せざるを得ないのでは」

資源エネルギー庁の「一丁目一番地」の仕事は、脱炭素というよりも資源戦略にあるはず。そこをなおざりにしてはならない。

2.J社のガス火力計画 荒唐無稽の指摘も

地方紙N新聞が8月、発電プラントの開発、建設、運営などを手掛けるJ社が九州のI市で2万kWのLNG火力発電所建設計画を進めていると報じた。

報道によると、建設予定地は造船所跡地で、海外からのLNGの受け入れ施設と発電所を建設。同地で受け入れたLNGをほかの火力発電所に供給する事業も実施するという。早ければ、2023年度にも、商業運転を開始する予定とのことだ。

ガス発電は、石炭や石油に比べれば環境負荷が低く、世界各地で産出されるため安定した調達も期待できる。しかし、同プロジェクトについて新電力のS氏は、「少し荒唐無稽な計画のように見える」と語る。

というのも、再生可能エネルギーの大量導入が進む九州エリアでは、既存の火力発電所でさえ稼働率が相当低く抑えられているのが実情。新たに建設したところで、コスト的に見合わない可能性が高いのだ。

電力小売り全面自由化後、過疎化が進む地方都市では、再エネの地産地消をはじめ、電力事業で地域活性化を目指す取り組みが加速している。約30人の雇用を見込んでいるという同プロジェクトも、地域経済への貢献が期待されるだろう。

ただ、I市ではかつて、バイオマス発電所の建設計画が持ち上がったものの、その後プロジェクトを主導した新電力R社の破たんで頓挫したことがある。リスクの高い発電事業での地域活性化は、不確実性が伴いそうだ。

【都市ガス】ウィズコロナ時代 事業者も対応を


【業界スクランブル】

思い込みというのは怖いものである。長年何の疑いもなく、毎日満員電車に揺られて会社へ行き、顔を突き合わせて会議やお客さまとの打ち合わせを行うなどして1日のほとんどを費やしてきた。これは仕事をする上での常識だと思っていた。近年、政府主導でリモートワークをはじめとした「働き方改革」の必要性が叫ばれていたにもかかわらず、なかなか進展しなかったのは、誰もがこの常識を変えられるとは思っていなかったからであろう。

しかし、この常識が新型コロナウイルスの猛威とともに一気に覆った。緊急事態宣言の発令とともに、必要に迫られて多くの企業がオンラインによるリモートワークなどを採用した。そして、いざやってみると、いつでも・どこでも・誰とでも仕事ができる新たなワークスタイルがあることに、誰もが気が付いたのだ。新たな常識が形成された瞬間だ。

この新たな常識がさらなる常識の変化を生み出していく。大都会は職場・学校、買物、遊び、病院など何でもそろっている。だから大都会に人が集まる。そうした常識がコロナによって覆った。リモートワークで職場に毎日行く必要がなくなり、多くの人の行動エリアが居住圏内の商店や病院そして公園などに集中するようになったのだ。

こうした行動変化によって、今までばらばらだった通勤・通学、購買、文化、医療といった領域が統合され、さらにエネルギーをはじめとしたライフラインや公共サービスなどもひとくくりにして、居住地域で独自に生産・提供される新しいまちづくりのニーズが強まっていく。さらには、複数の都市がネットワークによって連携し、機能を補強・強化し合っていく。こうした社会変化を表した「逆都市化」「逆参勤交代」といった言葉がネット上でも散見されるようになってきた。

ウイズコロナ時代になって、われわれは経験したことのない急激な変化に見舞われている。この変化に伸るか反るかで大きな差が出てくる。おいそれとしてはいられない。(G)

【故片倉百樹氏を偲ぶ】エネ争奪戦で競い合った畏友


草野成郎/環境都市構想研究所代表

元東京電力執行役員・販売営業本部副本部長を務め、ジェイテム社長の片倉百樹氏が6月18日死去した。かつて片倉氏とし烈なエネルギー争奪戦を繰り広げた元東京ガス副社長の草野成郎氏が追悼する。

東京電力執行役員販売営業本部副本部長を務めていたころの片倉氏

「ロボコンが死んだ」。私は入院中の病床で聞きました。入院が思っていたよりも長引いて気鬱になっているところに訃報がもたらされ、さらに気が滅入りましたが、その瞬間、さまざまな思いが脳裏をよぎりました。

最初に思い浮かんだのは、数年前にある企画に乗せられて、楽しくもない会合に二人して参加した際に、片倉さんが、自分がかつては立派な肥満体であったことを棚に上げ、私の肥満体を憐れむかのように、既に痩せ細ってきていた自身の腹を指さしながら、「これだから数値はいいんだよ」と、照れながら説明してくれた悲しげな姿でした。今こうして病床に就いている自分にとって健康がどれだけ大切なことか、あらためて思い知りながら、彼がロボコンと呼ばれていた時代からの交流の歴史を思い起こし、畏友片倉百樹さんについて語りたいと思います。

今回、私に執筆を依頼してきた背景は、おそらく、われわれ二人が、東京電力と東京ガスの現役時代に壮絶なエネルギー争奪戦を演じたに違いない、その時代の思い出話を語ってほしい、ということだろうと思いますが、今あらためて考えれば、われわれはもっと奥深いところで、激論を交わし合った仲であったと思います。

特徴的なことは、単なるエネルギー選択ではなく、お客さまを巻き込みながら、それぞれの会社の思惑を離れ、エネルギー資源に乏しい日本として、かくあるべしとの視点で持論を展開し合う、というものであったと思います。そのような場面に出くわした多くのお客さまが、後年になって一種の懐かしみも含めて、面白おかしく語り伝えていただいていますが、その中では、われわれの天下国家論に巻き込まれて困惑された様子が伝わってきます。

エネシステム営業で対抗 官公庁を巻き込んだ展開へ

ロボコンに初めて会ったのは、第一次石油危機直後の1975年ごろであったでしょうか。当時、東大教授であられた平田賢先生(故人)を囲む、「これからのエネルギーに関する勉強会」であったような記憶があります。これは、業界をまたがった勉強会で、所属する会社を外部の目から眺め直し、時代を先取りする気概を持って議論した上で、できるだけ具体化していこうとする意欲的な会合であり、後年、コージェネレーションを組み込んだ先駆的システムである、「CES」と呼ばれるエネルギーシステム体系をつくり上げました。メンバーには、私自身も含め「らしくない」人が選ばれていたような気がします。

ロボコンと愛称されていた片倉さんは、エネルギー会社の壁や会社間の境を打ち破る、という、ひときわ優れた持論を展開していました。それは私にとってもっとも斬新的な考え方であり、実に印象的でありました。そして、飲み会では一盃ごとに激論を交わし、麻雀では一振りごとに、ゴルフでも一打ごとに一喜一憂するなど大いに遊んだ時期でもあり、当時30歳代の前半の熱気はとどまることを知りませんでした。

その後、片倉さんは、「CES」の中核の一部を「ヒートポンプ・蓄熱システム」に置き換えて、個別のお客さまや地域冷暖房に適用する営業活動を展開し、「有効なエネルギーシステムの推進」という基本線は同じでしたが、コージェネレーションによる電気と熱の併給システムを中心とした営業を展開する私とは、正面から対抗することになりました。

それ自体はそれぞれが切磋琢磨する意味でよかったのですが、やがて会社から業界間の戦いに進展し、それぞれが支援団体を設立し、果ては官公庁をも巻き込んだ展開となるに至り、結果的に双方とも引くに引けない状況になってしまいました。時代の流れでもあったのでしょうが、今考えれば、残念なことです。

実際の営業折衝の中で、お客さま先で片倉さんとバッティングした例も多くありました。思い起こせば、お客さまもそれを狙っていた節もあったような気がします。プレゼンは、基本的には後出しが有利といわれています。なぜなら、後攻がプレゼンする場合は、お客さまは先攻の様子の一端を教えてくれることもありますし、それに対する先方の感触をうかがい知ることも可能となるからです。従って、事前に先方の担当者の方々にお願いして、後攻にしてもらうのが前哨戦となります。

ゴルフ場でのバッティングもありました。休み時間に隣のテーブルに片倉さんとお客さまが座っていて、そのお客さまは一週間前に私とゴルフをご一緒していただいた方々であったとか、今思い出しても冷や汗が出てしまいます。

ところで、われわれが折衝するお相手のお客さまとは、エネルギーそのものをご使用していただく消費者の方々だけではなく、エネルギー選択に関して重要なポジションにある設計事務所、総合建設会社、設備会社、不動産会社など多岐にわたっており、これらの方々にどのように理解していただけるか、このことに全知全能を傾けた毎日でした。

災害への即応が喫緊の課題 片倉さんからの伝言とは

こうしたエネルギー争奪戦の結果は、人によって評価が分かれるでしょうが、電力業界に比べて相対的に弱小な都市ガス業界が、健気にも闘ってそれなりに勝ち抜いてこれた理由を挙げれば、それはガス業界の体質でもある「技術力と現場力」であるかもしれません。昔から大きなメーカーからのご支援が期待できなかったガス業界は、自らの手で技術を生み出し、自分の手によって現場で適用していかねばならず、これに打ち克つための努力の結果、お客さまの期待に沿える力量を備えることができたと言えるのかもしれません。

業界の垣根を越えて、日本にとって有効なエネルギーシステムを構築する重要性は今日なお不変ですが、東日本大震災、一昨年の北海道の全域停電、昨年の大規模台風の襲来による甚大な被害などを考慮するならば、災害に即応できる新しい時代のシステムを構築することがエネルギー関連業界に課せられた喫緊の課題でもあり、電力会社がコージェネレーションを営業ツールとして推進する時代への変遷をあらためて認識するまでもなく、その重要性はますます高まるものと考えられます。

日本という立場を考えた両業界の新たな取り組みが展開されること、これが片倉さんからわれわれへの伝言ではないでしょうか。

草野成郎・環境都市構想研究所代表(元東京ガス副社長)

【イニシャルニュース】環境団体の内ゲバ 分断の契機は小泉氏ほか


1.環境団体の内ゲバ 分断の契機は小泉氏

石炭火力の削減、グリーンリカバリー、ESG投資など話題に事欠かない脱炭素戦略だが、世の中の機運の高まりとは裏腹に、環境団体間の対立が際立ってきた。

「企業と自治体が主役の意見交換会なのに、環境団体Sのプレゼンに大半の時間が費やされた。どっちが主役なのか分からなくなりましたよ」

こう不満を漏らすのは、環境団体Iのある関係者だ。6月10日に小泉進次郎環境相と企業の代表者がグリーンリカバリーについての意見交換会を開いたが、企業が前面に出て討議するはずが、ほとんどの時間を割いたのはSという団体だったという。

前出の関係者は「Sは豊富な資金力をバックに強引に事を進める。国連などのイベントでも自分たちの持ち時間を勝手に延長してひんしゅくを買った前科がありますから」とあきれ顔だ。

J、K、Wの環境団体間でも微妙にすきま風が吹く。小泉環境相が就任以来、Jをひいきにすることが発端になった。小泉氏は何かにつけJの代表に直接意見を聞いており、これが各団体間のやっかみにつながっているようだ。

典型例はベトナムの石炭火力「ブンアン2」の計画を巡る一騒動。小泉氏が異議を唱えて物議を醸した案件だが、当の環境、経産の両省はどこ吹く風で予定通りの計画を進めることで合意した。「何を思ったのかJは『自分たちの活動が政治を動かした』といってはばからないのです。結果は変わらないのに何をぬか喜びしているんだか」(K関係者)と痛烈に批判する。

政府の気候変動対策の遅れを批判して、パリ協定に沿った対策をするよう一致団結して求めていた環境団体だが、小泉氏の登場が分断を招いているというのは皮肉な話だ。ある政府関係者は「小泉氏入閣の最大の功績は、何かと面倒な環境団体を結果的に分断させたことだ」とほくそ笑んでいる。

2.石炭火力輸出で成果誇張 有識者からも苦言

春先に小泉進次郎環境相が問題提起し、注目されていた石炭火力輸出方針の厳格化を巡る調整が、7月9日に決着した。

インフラ輸出新戦略の骨子では、相手国のエネルギー政策や脱炭素化方針の詳細を把握していない場合は、原則輸出しないと表記。しかし小泉環境相は9日の会見で、前後の文脈を無視して、「石炭火力発電については、支援しない方針を書き込むという異例の決着を見た」と強調した。経済産業省側との説明の食い違いが際立った格好だ。

それでも飽き足らなかったのか、小泉環境相はS紙の16日付のインタビューでも自らの実績アピールを展開。「これほど明確な政策転換はない。環境先進国である日本の逆襲が始まる」「石炭火力の輸出厳格化は、エネルギー政策のセンターピンになった」などと力説した。

エネルギー関連の政府審議会委員を務める有識者X氏は、この紙面を目にして、「小泉大臣は浮かれすぎだ」とばっさり。小泉氏はほかにも、海外メディアBなどで同様の主張を繰り広げている。

小泉氏の強引な手法は、動物愛護政策でも鮮明に。業界の声には耳をふさぎ、ペットショップやブリーダーに対する新たな規制をぶち上げた。賛否両者の意見に耳を貸して調整力を見せれば、「やはり将来の首相候補」との呼び声が高まりそうだが……。

3.一方的な不可抗力宣言 相対契約破棄の暴挙

新型コロナウイルス禍は、新電力経営にも大きな影響を与えている。

非常事態宣言に伴う経済活動の停滞で、大口分野のエネルギー消費量が減少した一方、家庭分野では増加。これにより、にわかに活気付いたのが、家庭向けの供給がメインで、かつJEPX(卸電力取引所)調達比率が高い新電力だ。

安いスポット価格を背景に、「在宅応援プラン」などと称した破格のメニューを打ち出し、新規の契約獲得を推し進めた。これとは反対に、大口顧客が主力の新電力は販売量が激減。この経験を踏まえ、こうした新電力が、より家庭用営業を強化していく可能性は高い。

そんな中、新電力大手のF社に関するとんでもない話がまたまた聞こえてきた。「随分と無茶苦茶なことをしているようだ」と話すのは、新電力経営に詳しいX氏。F社も大口供給をメインとしているが、このコロナ禍を理由に一方的に不可抗力を宣言し、5月ごろからまだ契約期間が残っている発電事業者との契約を切っていったというのだ。

当の発電事業者は泣き寝入り状態だというが、一体どのような条件で契約を結べばそのようなことが起きるのか、首をかしげざるを得ない。

ここ数年、赤字経営が続いてきたものの、不採算部門からの撤退や契約の大幅な見直しで経営体質の改善を進めてきたF社。「2020年6月期決算は黒字に転じたようだ」(エネルギー業界関係者のY氏)というが、他者に不利益を付け回すような何でもありの経営手法で、黒字化しないことの方が不思議だ。

「脱炭素」「分散型」に照準 経産・環境両省の人事を読む


エネルギー政策の大転換期に、どんな人事を行うのか―。業界関係者が大きな関心を寄せていた経済産業省の幹部人事が、7月20日付で発令された。

エネ政策見直しに当たり6月下旬、青森を視察した梶山経産相(写真は六ヶ所再処理工場)

「エネルギー政策を思い切った脱炭素に転換していく。このために、エネルギー政策、産業技術環境政策の経験の長い保坂(伸)貿易経済協力局長(1987年入省)をエネ庁長官に登用する。加えて、産業技術環境局長の飯田(祐二、88年)をエネ庁次長兼首席エネルギー環境イノベーション政策統括調整官に。また技術総括保安審議官の小澤(典明、89年)を政策立案総括審議官兼首席エネルギー地域政策統括調整官に就けて、エネルギー環境政策とイノベーション政策、地域政策を一体的に推進していく」

梶山弘志経産相は14日の会見で、こう所感を述べた。エネ庁の高橋泰三前長官を巡っては、電力業界を中心に留任と見る向きもあったが、「面倒な事案で自ら泥を被らない姿勢が見られるため、安藤久佳事務次官(58年)はリスクの取れる保坂氏でエネ政策転換の重要局面に挑むと判断したのではないか」(商社関係者)という。

保坂氏と並んでエネ庁長官の有力候補に挙がっていた多田明弘氏(内閣府政策統括官、86年)は官房長に就いた。事情通によると、多田氏は官邸からの評価が高く、二階俊博・自民党幹事長の経産相時代に秘書官を務めていた経験もあることから、同じく二階氏に近い安藤次官の後任となる可能性がある。またエネ政策関係では、飯田次長がエネルギーミックス、小澤審議官が原子力分野をそれぞれ担当することになるという。

部長級の動きを見ると、省エネルギー新エネルギー部長だった松山泰浩氏(92年)が電力ガス事業部長に。その後任には、電ガ部や省新部の経験がある茂木正大臣官房参事官(92年)が就いた。いずれも分散型政策への造詣が深く、「今国会で成立したエネルギー供給強靭化法を実行していくのに打ってつけの人材」(新電力関係者)。梶山経産相が会見で強調した「思い切った脱炭素への転換」を進める意味でも、彼らの手腕に関心が集まる。

環境省人事の注目点 「地域循環共生圏」が軸に

一方、同じ14日発表の環境省幹部人事も、エネルギー関係者にとっては注目すべきものだ。

鎌形浩史事務次官(84年)が就任1年で急きょ退任。後任には、旧大蔵省出身の中井徳太郎総合環境政策統括官(85年)が就いた。また中井氏の後には、和田篤也大臣官房政策立案総括審議官(88年)が、事実上の〝二階級特進〟で就任。両氏とも「地域循環共生圏」政策を推進し、分散型や地産地消を軸に経産省との連携を強めてきた中心人物。エネ庁の保坂長官、飯田次長はもとより、松山、茂木両部長とも接点がある。

エネミックス、地球温暖化対策計画、エネルギー基本計画―。重要政策見直しの方向性が、両省の人事から浮かび上がってくる。脱炭素の切り札である原子力を巡る政策議論もいよいよ〝再稼働〟する見通しだ。行方はいかに。

露呈した「逆石油ショック」を読み解く 需要途絶リスクに対応する新ビジネス


山田光/スプリント・キャピタル・ジャパン代表

わが国エネルギー政策の根幹を担ってきた、資源・燃料の「安定供給」の概念が揺らぎ始めている。新型コロナウイルス禍で顕在化したのは、「需要途絶」のリスク。この事態に、どう対処すればいいのか。

需要途絶を象徴する緊急事態宣言下の東京・銀座

1970年代に起きた石油ショック。資源を持たない日本はパニックになり、国も、企業も資源・燃料の安定供給確保を目指してきた。石油ショックは「供給の大幅削減」だった。そこで、日本は量の確保を最優先し、上流投資に進出し、「安定供給」のために日本に資源・燃料を運ぶバリューチェーンを構築してきた。

この安定供給という言葉が広くエネルギー政策の中心となったが、一方で、安定的な資源・燃料の確保が、固定的な調達契約リスクとなる事実を無視してきた。2000年代に入り、エネルギー需要の伸びが頭打ちあるいは低下傾向を見せ始めたが、依然として最近まで、海外からの資源・燃料の「供給途絶」が最も恐れるべき事態であり続けた。

欧米では、エネルギー需要が中長期的に減少する予測に立ったエネルギー政策やエネルギー供給システムの検討が始まっている。30年、40年には現在よりもエネルギー需要が1~2割減少する予測もある。特に省エネ効果やシェアリング経済によって、日本ではさらに人口減少によってエネルギー需要は減退するという予測がある。

一方、電力分野ではデジタル・電化の進展、電気自動車の利用拡大などから、化石エネルギーよりも電力のほうが需要低下は抑えられるという予測もある。

しかしながら今年に発生した新型コロナウイルス禍は経済活動を急速に低下させ、エネルギー需要は大幅に縮小。石油ショックの「供給の大幅削減」とは真逆の、逆石油ショックである「需要の大幅削減」をもたらした。10〜20年先のエネルギー需要の自然減を、大きく前倒しした「需要途絶」が出現したのである。

そしてコロナ禍はウイルスと人間社会の長期的戦いであることから、コロナウイルスの第二波、第三波、あるいはウイルスの変容で、今後の経済活動の急降下は繰り返される可能性がある。

今回のコロナ禍による「需要の大幅削減」が将来も繰り返され、逆石油ショックのリスクに対応するエネルギー政策と企業経営が求められる可能性がある。旧来型の政策当局者や企業経営者は、依然として「供給の大幅削減」「供給途絶」リスクの亡霊を背負っている。需要回復を神頼みするのではなく、今後も発生する可能性のある需要途絶に対するリスク管理を強化することが、逆石油ショックへの処方せんである。

電気の利用形態を拡大 資源調達は柔軟性が重要

まずは、電気というエネルギーの利用形態を拡大すること。縮小変動するエネルギー需要については、物理的に常に需給をバランスさせなければならない電気というエネルギーの利用を拡大することが重要である。電力という財はためられないため、常に必要な量しか生産(発電)できない。そのため、大量蓄電という将来ケースを除けば、電気というエネルギーを中心にした方が、需要の縮小変動に対応したエネルギー・システムが描ける。また、化石燃料主体の火力発電から再生可能エネルギー主体の発電へのシフトで、発電のための燃料供給の「非柔軟性」を回避することができる。

第二は、資源・燃料の調達に供給の柔軟性をもたせること。発電にしてもすべてを再エネにすることは困難だが、発電燃料の調達契約では、契約先、数量、価格、期間、仕向け地、転売などの契約条件を変更できる「供給の柔軟性」をもたせることが重要となる。この供給の柔軟性を価値化するのは卸市場であり、天然ガスの卸市場の構築とインフラ整備が必要である。逆石油ショックが起きても卸市場が機能して、新たな需給均衡を図ることができる。

日本では卸市場(と基地インフラ整備)が遅れ、日本全体でLNGタンクトップの状態となったし、中国でもタンクは満杯となっている。つまりアジア全体での卸市場の構築が求められている。当然、調達契約には柔軟性が不可欠だが、さらに欧州では契約変更のための、資源メジャーとのハードネゴの専門家集団を使いこなしている。

需要で新たな価値創造 小売会社の改革実行を

第三は、需要家における柔軟性を価値化すること。固定的な調達契約下での需要途絶の時代では、卸価格(電力でいうとkW時の価値)は極端に低下するため、エネルギーの左から右への流通での利益は喪失する。そこで、エネルギー小売市場とアグリゲーター機能の高度化によって、需要家間の取引と需要の柔軟性を確保し、新たな価値を創造することが求められる。

逆石油ショックの状況では、コストとバリューチェーンの重い旧来型のバルク供給システムと、需要家同士でのエネルギーの相互取引を促し、需要家に密接した需給調整、潮流調整を行う分散型のエネルギー・システムとの共存が大切になる。ここでは「需要や分散型リソースの柔軟性」に価値が生まれ、エネルギー使用の時間、期間、量、価格、転売など、利用形態を変更できることが新たな価値となって、エネルギー・システムを支える。

そして第四は、エネルギー小売会社の改革を実行すること。旧来型電力・ガスの小売会社や自動車小売会社はサプライチェーンの一端であり、供給側のニーズで販売を行っている。反対にコンビニは、その需要地で求められる商品を研究・分析し、供給元を幅広く選択し競争させて、需要密着という本来の小売業務を行っている。

エネルギー・自動車の小売会社は供給側のエージェントとなっている点で、供給元の選択という小売会社の機能を逸しているし、最適化とリスク管理に限界がある。柔軟性や競争力のない供給元と一体化していると、サスティナブルの企業経営が困難となる。価格が高いときには上流が儲け、低いときには下流が儲けるという分散メリットもない。小売業では、どの供給者の商品も並べて、1カ所で選べる小売店が需要発起となる。

供給途絶の不安や、上流からのバリューチェーンが不可欠という固定概念を排除することが逆石油ショックの時代では不可欠となる。安定供給という言葉によって固定的な契約を強要する資源メジャー、そのメジャーに寄り添ってきた商社、そしてこれらに従ってきた国内ユーティリティー企業や融資を行ってきた銀行には大きな転換点が迫っている。

【終了】欧州の電力・ガス・熱利用最新動向


テーマ/欧州の電力・ガス・熱利用最新動向

時 期/2018年3月6日〜14日

団 長/橘川武郎・東京理科大学大学院イノベーション研究科教授(当時)

訪問先/

・スウェーデン・ストックホルム=エスポ地下研究施設、先進バイオマスCHP施設

・ノルウェー・オスロ=ノルドプール、EVインフラ

・オランダ・アムステルダム=ヴァンデブロン社、アグリポート、アルメレ・スマートシティ実証

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