1.出身企業へ利益誘導? 規制改革議論の実態
安倍政権下では、未来投資会議を司令塔に、第一次産業に企業を参入しやすくするさまざまな規制緩和が実施された。だがその実態については「政権と結び付いた経営者『M、T、N』の企業が私腹を肥やしただけ。利益相反だ」との指摘が出ている。
M氏はO社会長、T氏はP社会長、N氏はS社社長。T氏は現在もO社社外取を、N氏もかつてO社社外取を務めていた。両者は菅義偉政権でも政府の会議メンバーに名を連ねている。
例えば再生可能エネルギー関係では、洋上風力への参入、あるいは木質バイオマス発電事業を後押しする狙いで、漁業法を改正、また森林経営管理法などが制定された、との見方がある。少なくとも再エネ開発に積極的なO社にとって、これらの規制緩和は望ましいものだ。
さらにO社関連会社が、国家戦略特区であるH県Y市の農地を取得しているが、T氏は政府会議で企業の農地取得の全国展開を要請しているという。参入企業が粛々と農業に勤しむならまだよい。
しかし、農地転用許可の権限を持つ農業委員会は、以前の選挙制から任命制に変更されている。企業関係者が委員に納まれば、農業で儲からなくとも、農地転用して再エネ事業などに転換できるというわけだ。
しかも、現在再エネ拡大のための農地法改正までも浮上している。そうなれば、さらに容易に転用できることになる。再エネ拡大のための規制緩和という大義名分の下、さらなる利益相反の仕組みが検討されるのか。
2.中西会長批判が噴出 「電力再編」提言の波紋
大手電力会社の間で、中西宏明・経団連会長への批判が強まっている。
きっかけは、11月9日に開かれた政府の経済財政諮問会議。この場で、中西会長のほか、竹森俊平・慶応大学教授、新浪剛史・サントリーホールディングス社長、柳川範之・東京大学大学院教授の計4人が連名で「グリーン成長の実現に向けたイノベーションと投資の創出」と題する資料を提出したのだ。
経済財政諮問会議への提出資料が問題に
その中の「エネルギーインフラ産業の活性化」に、次のような内容が書かれてある。
「業界再編も含めた電力産業の構造改革を通じて送配電網の増強やネットワークの広域化を推進し、発電施設への集中投資や大型蓄電池の活用による調整力確保と合わせ、再生可能エネルギーを主力電源化すべき」
これに対し、大手電力会社の関係者からは、「経団連代表の立場で、特定の業界の再編問題に言及するのは、おかしい」(K氏)、「出身母体の日立製作所にとって利益になるような、我田引水の発言ではないか」(C氏)、「日立の関係する会合には出ないことにした」(H氏)といった怒りの声が噴出した。
ただ、これはあくまで連名提言の一部に過ぎない。中西氏が個別に提出した資料を見ると、「電力再編」の文言はなく、むしろ「合理的な規制のもと、安全性が確認された原子力発電所の再稼働を推進すべき」「脱炭素社会の実現を真剣に考えれば原子力の活用は不可欠」などと、大手電力会社を援護射撃する内容が中心となっている。
「NHKなどの大手メディアが、ニュースの中で『電力再編』を強調したことで、いらぬあつれきが生まれてしまった気もする」(大手エネルギー会社A氏)
確かに、責任の一端がメディアにあるのは間違いない。中西氏にとっては、とんだとばっちりかも。