電力事業は、燃料・電力市場の価格変動という新たなリスクに直面している。各社はこうした市場リスクとどう付き合うべきか、水上裕康氏が解説する。
水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表
オイルショックから50年を迎え、電力会社は改めて燃料市場、そして近年始まった電力市場との「付き合い方」を問われている。大手電力の2022年度決算は、10社のうち9社が経常赤字を計上したが、原因は燃料および電力市場価格の高騰とのことであった。
そもそも、燃料価格の変動影響は、燃料費調整(燃調)制度によって外部化されていたはずなのに、なぜ、このようなことになってしまったのか。
確かに燃調は上限に達し、燃調の「期ズレ」影響もあった。原子力の再稼働が遅れる会社は、高騰した市場から電気を調達する必要もあったであろう。それでも、原子力が未稼働ながら黒字を確保した会社もある。各社の対応に差があったのも確かだ。燃料・電力市場の価格変動が益々激しくなる中、次に価格が大きく動いた時に、昨年度と同じ轍を踏めば、会社の存続にも関わってくるに違いない。
今回は、火力燃料購買の50年を以下の四つの時期に分けて振り返りながら、こうした新たな課題に対して果たすべき役割を考えてみたい。
事業環境とともに変化 燃料調達部門の役割
まず1973~80年代半ばは、危機を教訓に燃料部を独立させ、石油を中心に納入会社が管理する時代だったと言える。電力各社は、オイルショックの経験を踏まえ、もともと資材部や経理部にあった燃料購買機能を燃料部として独立させたのだ。それだけ、燃料調達の重要性が認識されたと言える。

もっとも、この時期、燃料の中心を占めた石油の輸入や国内の物流は概ね石油元売りと商社が独占していたので、燃料部の仕事は調達というより、納入会社管理であった。具体的には、需給が厳しい時に助けてくれた会社には翌年の発注を増やして報いる「シェア管理」である。価格は、国際的な石油価格+原価積上げの国内経費であり、「安定供給」の保証を優先に交渉したものであった。
80年代半ばから2000年ごろには、脱石油電源として開発が進められたLNG・石炭火力用の燃料調達が始まる。電力会社は燃料の輸入当事者となり、初めて海外の資源メジャーなどと交渉を経験、石炭では輸送も手掛けることとなった。
安定調達が最優先の時代である。契約は石炭で10年、LNGでは20年の長期契約が締結され、価格は、代表会社を中心に安定供給実現のための「あるべき価格」が交渉された。市場で価格が決まる現在と違い、価格交渉には非常に長い時間がかけられたものである。また、輸入の当事者とはいえ、どの契約も商社が仲介し、供給元や物流の情報もほぼ商社に依存していた。