【特集1】火力燃料購買の50年を振り返る 新たな課題にどう向き合うか


電力事業は、燃料・電力市場の価格変動という新たなリスクに直面している。各社はこうした市場リスクとどう付き合うべきか、水上裕康氏が解説する。

水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

オイルショックから50年を迎え、電力会社は改めて燃料市場、そして近年始まった電力市場との「付き合い方」を問われている。大手電力の2022年度決算は、10社のうち9社が経常赤字を計上したが、原因は燃料および電力市場価格の高騰とのことであった。

そもそも、燃料価格の変動影響は、燃料費調整(燃調)制度によって外部化されていたはずなのに、なぜ、このようなことになってしまったのか。

確かに燃調は上限に達し、燃調の「期ズレ」影響もあった。原子力の再稼働が遅れる会社は、高騰した市場から電気を調達する必要もあったであろう。それでも、原子力が未稼働ながら黒字を確保した会社もある。各社の対応に差があったのも確かだ。燃料・電力市場の価格変動が益々激しくなる中、次に価格が大きく動いた時に、昨年度と同じ轍を踏めば、会社の存続にも関わってくるに違いない。

今回は、火力燃料購買の50年を以下の四つの時期に分けて振り返りながら、こうした新たな課題に対して果たすべき役割を考えてみたい。

事業環境とともに変化 燃料調達部門の役割

まず1973~80年代半ばは、危機を教訓に燃料部を独立させ、石油を中心に納入会社が管理する時代だったと言える。電力各社は、オイルショックの経験を踏まえ、もともと資材部や経理部にあった燃料購買機能を燃料部として独立させたのだ。それだけ、燃料調達の重要性が認識されたと言える。

オイルショックで燃料調達の重要性が認識された

もっとも、この時期、燃料の中心を占めた石油の輸入や国内の物流は概ね石油元売りと商社が独占していたので、燃料部の仕事は調達というより、納入会社管理であった。具体的には、需給が厳しい時に助けてくれた会社には翌年の発注を増やして報いる「シェア管理」である。価格は、国際的な石油価格+原価積上げの国内経費であり、「安定供給」の保証を優先に交渉したものであった。

80年代半ばから2000年ごろには、脱石油電源として開発が進められたLNG・石炭火力用の燃料調達が始まる。電力会社は燃料の輸入当事者となり、初めて海外の資源メジャーなどと交渉を経験、石炭では輸送も手掛けることとなった。

安定調達が最優先の時代である。契約は石炭で10年、LNGでは20年の長期契約が締結され、価格は、代表会社を中心に安定供給実現のための「あるべき価格」が交渉された。市場で価格が決まる現在と違い、価格交渉には非常に長い時間がかけられたものである。また、輸入の当事者とはいえ、どの契約も商社が仲介し、供給元や物流の情報もほぼ商社に依存していた。

【東北電力 樋口社長】お客さまに「より、沿う」付加価値サービス提供で 自由化競争に打ち勝つ


他の大手電力会社や新電力との競争が来年度以降、さらに厳しさを増すと見る。地域に寄り添いながら、価格面のみならず、お客さまに「より、沿う」付加価値サービスを強みに、競争に打ち勝っていきたい考えだ。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

志賀 6月に低圧規制料金の値上げに踏み切りました。

樋口 ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響などにより、さまざまな物価が上昇する中、当社は、これまでも徹底した経営効率化に努め、低圧規制料金の料金水準を維持するよう努めてきました。しかしながら、昨年6月には、燃料費の高騰に伴い燃料費調整単価が上限に到達し、その超過分を料金に転嫁できない、いわゆる「逆ザヤ」の状態が継続していました。 これを見直さない限り、当社の財務基盤はますます棄損し、設備投資ができないようなことになれば、安定供給に支障を来しかねないことから、「苦渋の決断」ではありましたが低圧規制料金の値上げを実施しました。

志賀 23年度通期では経常損益が前期の1992億円の赤字から2000億円の黒字に転換する見通しです。

樋口 21、22年度と2年連続で経常赤字に陥り有利子負債残高がおよそ1兆円増加し、自己資本比率が10・5%まで低下するなど、財務状況が急激に悪化したことから、電力の安定供給を果たすためにも今年度は何としても黒字を確保し、その上で早期かつ持続的に利益を積み上げていくことで財務基盤の回復と安定化を図っていく必要があります。第1四半期決算では、値上げ時期が当初の予定よりも2カ月遅れたことにより150億円程度の収支悪化影響があったものの、高圧以上のお客さまなどの電気料金の見直しに加えて、燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度のタイムラグの影響が利益を大きく押し上げ、収支が大幅に改善しました。

 通期業績についても、電気料金全般の見直しによる収入増や、昨年12月に高効率の上越火力発電所1号が営業運転を開始したことによる燃料消費量などの抑制、燃料価格の動向の見極めによるタイミングを捉えた燃料調達の効率化などに加え、今後も燃料費調整制度のタイムラグ影響が利益を押し上げる見込みです。

       ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。
       2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、
       19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

依然厳しい財務状況 早期の回復に努める

志賀 これを機に、財務基盤の強化が期待されます。

樋口 当社の6月末時点の自己資本比率は12・4%と東日本大震災直後と同程度です。今年度末の自己資本比率は13・0%程度へと若干改善する見込みですが、有利子負債残高は震災直後を上回る3兆3千億円を超える水準が依然として続くものと想定しています。

 過去の大規模災害レベルと同程度の自然災害リスクへの備えや収支変動への備えとしてはかなり脆弱であり、燃料価格や卸電力取引市場価格の急激な変動など、電気事業運営上のリスクの振れ幅がこれほどの状況になかった震災直後とは異なり、危機的な状況が継続しています。このため、電力需給の最適化を図りつつ、グループ全体で「サービス提案の強化」「原子力発電所の再稼働」「経営全般の徹底的な効率化」に取り組み、早期の財務基盤回復に努めます。

大災害がもたらすエネルギー供給危機 その時業界はどう動くか


エネルギー業界は、さまざまな災害を経験しながら災害対策に不断の努力を重ねてきた。電気、都市ガス、石油、LPガスの4団体に、災害対策の現状を語ってもらった。

送配電網協議会/ 松木隆典 工務部長

広がる関係機関との協力体制構築 より良い災害対応へ改善重ねる

2016年4月に熊本地震が発生した際には、九州電力の非常災害対策総本部の総括班として災害復旧対応に当たりました。北海道から沖縄まで各電力から110台の発電機車が派遣されるなど、現在確立している一般送配電事業者同士の災害復旧応援スキームの先駆け的な対応がなされたのがこの熊本地震です。

20年7月には、19年9月の台風15号による千葉県を中心とした大規模な停電への対応を踏まえ、10社共同で「災害時連携計画」を策定、電力広域的運営推進機関を経て経済産業大臣に届け出ました。現在はこれに基づき、エリアの垣根を越えて連携するための体制を構築しています。

復旧資材の仕様を共通化したり、発電機車の操作方法を統一したりすることで、復旧応援をスムーズに行うための取り決めをしているほか、一般送配各社の防災の実務担当責任者が定期的に集まり、災害対応や応援の考え方について至近の対応実績などを基に意見交換し、連携計画の実効性の担保を図っています。

災害時は一刻も早い停電復旧が求められますし、お客さまへの対応もありますから、災害対応に携わる事業者間の一体的な連携は不可欠です。国の審議会では、非公開情報の漏洩に係る再発防止策の検討の中で、災害時に一時的に情報共有が許容される項目など災害時の情報共有の在り方が議論されており、それに確実に対応することで災害時の円滑な連携につなげたいと考えています。

千葉の台風対応がきっかけ 情報伝達の重要性を再認識

また、千葉の台風対応において、倒木処理や道路の復旧などが、電気の復旧作業に大きく影響することが改めて認識されました。これを機に、自治体との間で災害時の役割分担や情報伝達の在り方について取り決めを行い、相互に連携体制を構築する動きが全国で広がっています。さらには、遠隔地への復旧人員や資材の輸送を支援いただくため、自衛隊や海上保安庁と協定を結び、合同で訓練を実施しながら協力関係を構築している事例も出てきています。

大規模災害では、復旧要員となる送配電事業者の社員が被災する可能性もあり、想定通りに体制が機能するとは限りません。制約のある中でどれだけのことができるのか。一人ひとりが、訓練などを通じて自らの役割を常日頃から確認し、いざという時にきちんと実行できるようにしていくことが重要です。

災害時連携計画についても、現行の形が数年後も正しいとは限らないので、10社が連携し絶えず検証しながら、必要な改善を重ねていきます。(談)

【特集1】DER活用の期待と課題 最前線の取り組みに迫る


分散型エネルギーリソース(DER)の活用に向け、さまざまな取り組みが行われている。技術面や事業性の課題を克服した先に見える配電系統の未来とは―。

NEDO:系統混雑緩和し出力制御回避へ 来春に実際のリソースで実証

DERのフレキシビリティ(柔軟性)を活用し、電力系統のさまざまな課題解決に貢献することを目的に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む、「電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発(FLEX DER)」事業。2020年度から進めてきたFS(事業可能性の検証)を踏まえ、現在は22~24年度までの計画でシステム開発とフィールド実証のステージに入っている。来春にはいよいよ、実際のリソースを導入しての検証に乗り出す。

送配電事業者からはDERの稼働状況が見えにくい。一方、アグリゲーターは系統の混雑状況が分からない。そこで、双方をつなぐ「DERフレキシビリティシステム」を構築し、それによるDERの制御と系統混雑の緩和、再エネ出力制御回避の効果を検証するのが、同事業の狙いだ。

DERシステムの成果適用のイメージ提供:NEDO

フィールド実証は、太陽光発電の逆潮流により混雑しそうな配電用変電所をターゲットに行われる。具体的には栃木県那須塩原市において、市が保有する施設の構内や、配電系統に直結する形でDER(蓄電池)を設置しDERフレキシビリティシステムによる上げDR(デマンドレスポンス)を実施することで、実際の系統で混雑緩和を実現するシステムについて検証する予定だ。

従来は、系統が混雑するのであれば増強工事を行うほかなかったが、それでは膨大なコストと時間がかかる。DERの活用によりそれを回避できれば、総コストを低減し得る。

そこで、FS検証において、送電線、配電用変電所、配電線の3設備を対象に28~50年におけるDER活用による費用便益を算出したところ、配電用変電所とその上位にある送電線との組み合わせのみ便益がプラスという評価になった。フィールド実証が配電用変電所をターゲットとするのはそのためだ。

NEDOスマートコミュニティ・エネルギーシステム部の小笠原有香プロジェクトマネージャーは、「DERの社会実装を目指す上では、まだまだ整理すべき課題が多い」と強調する。例えば、①系統ごとにDERを管理する時の、アグリゲーター側のシステムや通信プロトコルの標準化、②プラットフォームと系統混雑解消の観点からは、既存送変電設備を最大限活用する「日本版コネクト&マネージ」との役割分担の在り方、③既存市場あるいは将来あるべき市場運営との整合性―といった点を挙げる。

【特集1】新ビジネスの花開くか!? 風雲急の配電改革を討論


次世代の電力ネットワークを構築する上で求められるのは、経済性を伴った改革だ。そのために必要な制度設計やビジネスモデル構築の在り方を徹底討論した。

【出席者】市村 健/エナジープールジャパン取締役社長兼CEO、椎橋 航一郎/EYストラテジー・アンド・コンサルティングEnergyアソシエートパートナー、西村 陽/大阪大学招聘教授、平尾宏明/エナリス執行役員 事業企画本部本部長

左上から時計回りに西村氏、市村氏、椎橋氏、平尾氏

―分散型電力システム構築の意義とは。

市村 2016年の電力小売り全面自由化以降、本来撤廃されるべき経過措置料金規制が自由化の本質を歪めてしまっている現状下で、公明正大に自由に競争できるのが、配電網に接続された分散型エネルギーリソース(DER)をフル活用しながら需要家の選択肢を拡大しつつ、事業者自らの商材やサービスの価値の最大化を図る取り組みです。一定の規律の下で自由な運用が可能となるよう性善説に則った、ただし、逸脱した場合には罰則ありきの事業スキームの構築が求められます。

平尾 16年ごろ実証がスタートしたVPP(仮想発電所)の原点は、太陽光の出力抑制を回避するために太陽光や蓄電池、給湯器といった低圧のDERの制御を試みたことにあり、それらDERをアグリゲートする技術の確立を目指していました。それが今では、電力システムの中で調整力として活用することが主眼に置かれるようになりました。VPP実証で培われた技術は、脱炭素先行地域におけるマイクログリッドの運用などにも生かされています。

西村 需給運用の観点で目下の課題は、予備力が不足している中で多くの太陽光が導入されたために、瞬間的に需給バランスが崩れて停電が起きかねないリスクが顕在化してきたことです。発電機は供給力がゼロより下にはならないため、再エネバランシングへの効果は限定的で、吸い込んだり吐き出したりできるDERの活用に期待が寄せられています。分散化による配電網の革新は、安定供給のためにこそ求められているのです。

椎橋 現行の託送料金制度は、基本的に需要家の電圧別に設計されていますが、今後、ピアトゥーピア(PtoP)など配電網の中で電気を相互融通していくのであれば、託送料金の負担の在り方についても新たな検討が必要になる可能性があります。設備投資や補助金の投入を上流から下流にシフトすることが求められ、分散型電力システムの構築は、投資のリバランスという側面を内包していると考えています。その実現には、投資インセンティブも含めた制度設計が必要になりますし、今後、投資のリバランスの観点から大きな動きが起きると期待しています。

エナジープールは3000強の需要家設備を監視・制御しDRを運用

【特集1】DER活用へ制度措置実施 新たなビジネス創出も後押し


【インタビュー:清水 真美子/ 資源エネルギー庁 電力産業市場室 室長補佐】

DERの活用は、電力供給の効率化、強靭化のためにも欠かせない。資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力産業市場室の清水真美子室長補佐に、今後の展望を聞いた。

―分散型電力システムの構築を目指す理由を教えてください。

清水 カーボンニュートラル(CN)や電力供給の強靭化に対する関心の高まりを背景に、再生可能エネルギーやEV、蓄電池といった分散型エネルギーリソース(DER)の導入が拡大しています。制度面でも、卸電力市場や需給調整市場など電気の各種価値を取引する市場が整備されるとともに、2022年にはアグリゲーターや配電事業、特定計量といった制度が開始となり、次世代スマートメーターの標準仕様が策定されるなど、DERの活用拡大につながる環境整備が進んできました。

 そうした中、昨年11月に「次世代の分散型電力システムに関する検討会」における議論に着手しました。CN達成を目指しつつも、近年の電力需給ひっ迫などの課題に対処するために、DERの潜在価値を最大限活用することで電力システムの効率化、強靭化を実現することが狙いです。

―そのポイントは。

清水 DERの価値発掘とその価値評価、そして分散型システムの構築という、三つの柱で検討を進めてきました。価値発掘という点では、今後普及が見込まれるEVは電力システム側での活用が期待され、引き続き5月に立ち上げたEVグリッドワーキンググループ(WG)で議論していきます。

       しみず・まみこ 2018年早稲田大学政経学部卒、経済産業省入省。
       資源エネルギー庁資源・燃料部政策課、通商政策局北東アジア課などを経て
       21年から現職。

 価値評価という点では、機器点計測することで埋もれてしまっているDERの評価を可能にすることや、低圧DERを束ねて運用する「群管理」の概念など、26年度からの需給調整市場へのDERの参入に向けた制度面の整理を行いました。分散型電力システムの構築という観点では、系統増強以外の選択肢として、DERの活用は混雑緩和など配電系統の課題解決に寄与することが示され、実証を加速していく方向性を示せたことは一つの成果だと言えます。

EVと系統の最適な統合へ 多様な主体が本音で議論

―WGにおける検討事項とは。

清水 関連業界が垣根を越えて、EVのグリッド統合を議論する必要があるとして、同WGを立ち上げました。自動車メーカーや充電器サービサー・メーカー、一般送配電事業者、小売事業者、アグリゲーターなど多様なプレーヤーが一堂に会し、エネルギー政策と産業政策の両方の視点で検討を進めていきます。プレーヤーごとに異なる将来シナリオを共有し、将来像を本音で議論することが最初のステップであり、その上で、目指すべき姿に向けた課題を特定、それに対する制度を措置し、将来のEVとグリッドの最適な統合の実現を目指します。

―どう制度措置していきますか。

清水 民間から26社、経済産業省側からも4部局と、これだけ多様な関係者が参画する会合は省内にもこれまでありませんでした。どのような制度が措置されるか未知数ですが、これまで出会うことのなかった業界同士が協力することで、画期的なビジネスが生まれることに大いに期待しています。

(取材は6月14日に実施)

【特集1】脱炭素化と安定供給の両立へ 電力システム分散化の現実度


蓄電池やEVといった低圧の分散型エネルギーリソース(DER)の導入が急速に拡大している。こうしたDERを活用した分散型システムの構築で、脱炭素と安定供給両立を実現するか。

2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向けて、太陽光や風力といった変動型の再生可能エネルギー大量導入を見据えた電力ネットワークの次世代化が喫緊の課題となっている。

従来の電力システムを引き続き効率的・合理的に運用していくことに加えて、次世代の分散型電力システムと調和させ、安定かつ持続可能な電力システムを構築していくことがその要諦。キーワードは「脱炭素」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「レジリエンス(強靭性)」だ。

基幹系統側では今年3月、電力広域的運営推進機関が再エネの最大限導入による脱炭素化と電力安定供給両立の切り札として、将来の広域系統の絵姿「マスタープラン」を公表。その具現化には、再エネ適地から大消費地への大容量送電を可能にする高圧直流送電(HVDC)など、新たな技術の開発が不可欠となる。

既に再エネが多く接続されているローカル系統(電圧77 kV以下)では、既存系統の空き容量を活用しながら系統増強を待たずに新規の再エネ電源を連系する「ノンファーム型接続」が21年4月に始まった。系統の増強には時間と費用がかかる。そこで系統混雑が生じた際の出力制御を大前提に、再エネ接続量を増やす狙いだ。

そして需要側の電化が加速し、EVや蓄電池といった分散型エネルギーリソース(DER)の導入拡大が見込まれる配電系統もまた、改革が待ったなしの様相だ。

25年度次世代スマメ導入へ 配電運用の高度化に期待

これらDERにより、混雑発生や電圧維持管理の困難化といった配電の課題が一層顕在化することになれば、系統全体にも悪影響を与えかねない上、それを回避しようとすれば人口減少時代に過大な送配電投資が必要になってしまう。逆に、デジタル技術を活用して最適に制御できれば、再エネ大量導入とレジリエンス向上を実現しつつ、運用効率の向上に資する可能性がある。

20年の電気事業法改正により、アグリゲーター制度や配電ライセンス、特定計量制度といった、DERを活用するためのおぜん立てとなる制度整備はある程度なされた。そして、それ以降も、新たなビジネス機会創出につなげつつ、配電系統運用の高度化を実現するための技術面・制度面の議論が続いている。

IoTによる系統運用や設備の制御、システム全体の最適運用のためのデータ取得の精緻化―。それを実現する手段として期待されているのが、25年度以降、順次導入が始まる次世代スマートメーターによる遠隔監視・制御だ。

25年度から順次、次世代スマメが導入される

資源エネルギー庁は20年3月から2年間にわたって、「次世代スマートメーター制度検討会」を開催し、有識者や業界関係者を集めて次世代型に求められる機能などを検討してきた。その結果、使用量データを現行の30分ごとから短縮し、15分単位で計量しデータ蓄積できるようにするほか、配電レベルの再エネ需給調整(バランシング)に寄与すべく、電圧データの収集が可能になった。

【JERA 奥田社長】再エネとゼロエミ火力で 安定供給と脱炭素化をグローバルで実現する


火力燃料を巡る情勢が激変する中、JERAの3代目社長に就任した。LNG調達の安定性、柔軟性の確保に加え、ゼロエミ火力への段階的な移行に力を入れる。

【インタビュー:奥田久栄/JERA社長CEO兼COO】

志賀 東京電力と中部電力の火力発電部門の統合会社として2015年に発足してから8年。3代目社長に就任されました。中部電力ご出身ですが、入社の経緯からお聞かせいただけますか。

奥田 学生時代から、地域経済の発展に貢献したいという気持ちを持っていました。また、英語で時事問題をディスカッションするサークルに入っており、米ソが核軍縮に合意し、レーガン・ゴルバチョフ両首脳が握手を交わす映像には大変衝撃を受けました。戦争勃発の端緒の多くがエネルギー問題であり、世界平和の礎として非常に大きいと感じたこともきっかけとなり、最終的に中部電力を選択しました。

   おくだ・ひさひで 1988年早稲田大学政治経済学部卒、中部電力入社。グループ経営戦略本部
   アライアンス推進室長、JERA常務執行役員、取締役副社長執行役員 などを経て2023年4月から
   代表取締役社長CEO兼COO。

志賀 19年にJERAの経営企画担当常務に就任されました。その後、わずか数年でエネルギーを巡る情勢は様変わりしてしまいましたね。

奥田 どのような情勢下においても、クリーンなエネルギーを安定的に届けるための新しい基盤を作るという当社の使命が変わることはありません。ただ、19年当時は、海外との資源獲得競争が激化していく中でこれを達成していくことに重きを置いていたのに対し、20年以降、新たに脱炭素への要請が強まったことで、より多くの手段を駆使しなければこれを実現できなくなりました。ゼロエミッション火力を実現するとともに、有事にも強い供給基盤、そしてデジタルを活用したプラットフォームを作り上げていくことで、使命を果たしていく方針です。ウクライナ問題を契機に、違う次元のエネルギーセキュリティが求められるようになりましたので、より困難な挑戦になると考えています。

統合で調達規模拡大 トレーディングに強み

志賀 統合のメリットをどう見ていますか。

奥田 とてつもないメリットがあったと思います。当初は、5年間で1000億円のシナジー効果を出すと言っていたのですが、22年度末でそれ以上の効果が出ています。業務の手法や発電所の運用を標準化することでコストダウンを図ることができましたし、燃料調達規模が拡大し、本社をシンガポールに置くJERAグローバルマーケッツ(GM)は、今や世界最強の燃料トレーディング部隊です。世界中の石炭、LNGの需給に関する情報を得ながら燃料を上手に動かして、売り手・買い手双方Win―Winの関係を作りながら収益を出すことができています。

志賀 30年ごろにはLNGの契約更改期を迎えることになります。

奥田 徐々にアンモニア・水素に置き換えていくとはいえ、LNGは当面の間、魅力的な低炭素燃料であり、今後10、20年は活用していかなければなりません。LNGが普及していないアジア諸国では、これから燃料転換していくわけですから50年においても魅力的であり続けるでしょう。一方で、これまでは一定量をベース的に利用することができましたが、これだけ再生可能エネルギーが導入され日本の電力需要も成長しないという状況ですから、LNGは調整力としての役割を担うようになっています。従来からあった季節間変動のみならず、再エネ導入による短期変動も大きくなり、安定性と柔軟性を確保していくことは非常に難しくなってきています。毎月一定量の受け入れとなる長期契約だけでは、求められているLNGの役割は果たすことはできません。長期、中期、短期の契約とスポット調達―。これらをいかに上手に組み合わせたポートフォリオを作り上げるかが、大きな焦点になります。そういったポートフォリオを組んだ上でも対応しきれない変動がありますから、その時により経済的に、確実に対応するためのトレーディング力を強化していくことも重要です。

【特集1】脱炭素と電力安定供給の両立へ 50年に向けた広域送電網の絵姿


電力広域的運営推進機関は、最大7兆円規模の新設・増強工事を伴う広域送電網のマスタープランを公表した。再生可能エネルギーの最大限導入による脱炭素化と電力安定供給両立の切り札となるか。

国の政策目標である2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現を見据え、将来の広域連系系統のあるべき姿を具体的に示した「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの適地と電力の大消費地を結ぶ連系線の新設・増強や海底直流送電(HVDC)の新設、東西間で電力融通するための周波数変換所(FC)の増強などが軸で、その整備に必要な投資額として最大7兆円規模を見込む。

6兆~7兆円投資というと巨額のイメージが強いが、系統増強で毎年発生するコスト(5500億~6400億円)を年間需要で単純に割ると、1kW時当たりのコストは0・4~0・5円となり標準家庭で月百数十円の負担感。再エネ活用の最大化で電気料金やCO2対策コストを抑制できれば、これだけの投資を行ったとしても十分に便益が上回る計算になる。

豊富な再エネを大都市へ 3兆円かけ大規模HVDC

マスタープランの系統整備計画の中で政府が優先的に進めようとしているのが、今後、洋上風力の導入が見込まれる北海道、東北エリアと大消費地である東京エリアを結ぶ、日本初の大規模HVDCの敷設だ。

政府が2月に閣議決定した「GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた基本方針」においても、再エネ主力電源化に向けて、「今後10年間程度で過去10年間と比べて8倍以上の規模で整備を加速する」と提起し、特に北海道からのHVDCについては30年度を目指して整備を進めることがうたわれている。

その規模は、最終的には北海道~東北間で600万kW、東北~東京間で800万kW程度が有力とされ、日本海と太平洋の両ルートを合わせた工事費用は2・5兆~3・4兆円と、投資総額の半分近くを占めている。これがマスタープランの「目玉」プロジェクトであることは間違いない。

このほか、HVDCの敷設に伴い、北海道で約1・1兆円、東北で6500億円、東京で約6700億円の地内系統の増強が必要となるほか、九州の再エネを関西、中部に送るための九州と中国を結ぶ関門連系線の増強(280万kW)に4200億円、東西間のFC増強(270万KW)には4300億円の投資が必要となる見通しだ。

広域系統整備の長期展望(ベースシナリオ)※広域機関の資料より作成

【特集1/覆面座談会】「無償慣行」は改善できるのか? 業界事情通が赤裸々に明かす 現行制度の限界と解決策


不透明で割高な料金と商慣行が長年問題視されながら、健全化が進まないプロパン業界。業界事情に詳しい関係者3人が、その実態と解決策について赤裸々に語り合った。

〈出席者〉 A 弁護士  B プロパン業界関係者  C プロパン業界団体関係者

―プロパンガス業界の商慣行の現状をどのように見ているか。

A 1997年の液化石油ガス法改正に伴う規制緩和により、さまざまな弊害が出てきたことは事実。2017年の改正で、需要家に貸与している設備があるのであれば、ガスとは別建てでその料金を表示する「三部料金」を採用することをガイドラインに定めたが、それ以降も多くの事業者が基本料金と従量料金の区別すらせずに請求していて三部料金どころの話ではないのが実情だ。

B プロパン市場は、需要家1軒当たりの使用量やコスト、強い影響力を持つ事業者―いわゆるチャンピオンがいるのかなど、地域の状況に応じて競争環境が全く違う。当然内包している問題も、高い料金であったり、不当廉売に近い極端に安い料金であったり、業者間で価格統制が行われていたりとまちまちだ。しかし問題の根本は同じで、不健全な市場であるということにほかならない。

C この問題は非常にやっかい。元売り事業者としても、激戦のエリアに系列の事業者がいたり、場合によっては争奪戦を繰り広げる双方に供給していたりして下手に口を挟めば大変なことになってしまう。

―17年の省令改正後も、料金は不透明なまま、取引の適正化もあまり図られなかったということか。

A 大手を含むプロパン業者の動きの鈍さから察するに、経済産業省・資源エネルギー庁も本気ではなかったのだろう。料金をきちんと説明しなければ立ち入ると警告していたにもかかわらず、結局どの業者にも立ち入ることはなかった。プロパン料金は自由であり、誰にどのような料金水準で販売しようが業者の裁量の範囲だ。料金にガスの仕入れにかかわるコストだけではなく設備費用を上乗せすることも自由であり、結局、これを制限する手段は今のところ消費者の「買わない」という判断しかない。

B とりわけ北海道がクローズアップされるのは、ほかのエリアよりもプロパン料金が高いという市場の特殊性がある。北海道の業者がよく言うのは、冬の間は雪かきをしてからボンベを交換しなければならないということ。暖房は灯油がメインだからプロパンの使用量は少ないにもかかわらず、配送にかかる時間や手間は本州とは比べ物にならないし、彼らだって冬の間は配送に行きたくないというのが本音だ。地域によってマーケットの状況が異なる中で、一律に規制をかけることは非常に難しい。

 この30年あまり、行政はとにかく規制を緩和する方向で動いてきたわけだし、逆に規制を強化することなど本気で考えるとは思えない。袋小路の感があるよね。問題を解決するには、自浄作用を働かせるしかなく、本来であれば業者側が改善するために必要な方策を提示してエネ庁に法改正を申し入れるべきだ。だけど、やはりそこには地域によってマーケットの状況が違うというプロパン市場の実態が立ちはだかってしまう。要は、法改正による自浄作用のメカニズムは働かないということだ。

北海道大学周辺の賃貸集合住宅のプロパン料金格差  北大生協調べ

C 三部料金にすれば解決するだろうということだったのかもしれないが、現場にとっては相当手間がかかって大変な作業だ。賃貸集合物件の場合、物件の償却の期限によって料金が変わってしまうから、現実問題として対応しきれないよ。首都圏の場合は、都市ガスの導管網の延長に合わせてそれに対抗するためにこうした商慣行の問題が出てきたわけで、歴史的な経過が積み重なった結果として今の状況があるわけだから、そう簡単に小手先の方法で解決できるわけがない。

【特集1】「搾取」の構図に歯止め 設備無償提供の原則禁止も


賃貸物件の設備無償提供はプロパンガスの健全な競争を阻害し、消費者に不利益を与えてきた。松田世理奈弁護士は、景品表示法などの法律に照らしても禁じられるべき行為だと指摘する。

【インタビュー】松田世理奈 阿部・井窪・片山法律事務所弁護士

―プロパンガス業界の取引適正化ガイドラインは、商慣行の是正になかなかつながっていません。

松田 業界全体のリテラシーやコンプライアンス意識は確実に高まっていますが、そうしたガイドラインを守れない事業者が1社でもある限り、業界全体の問題としてみなされてしまいます。事業者の自主的な改善や呼びかけによる取引の適正化、消費者の選択だけでこうした行為を阻止できないのであれば、根絶するには液化石油ガス法の改正を含む制度的な措置が必要になります。

―どのようなルールを設けるべきでしょうか。

松田 非常に難しい問題ですが、液石法からのアプローチとして、プロパン業者に対し、建物に付随する設備を無償で提供することを原則禁止してしまうことが考えられます。これによって、現行の商慣習によってメリットを得ている人―、つまり賃貸物件のオーナーなどはそれを享受できなくなりますが、より弱い立場にある消費者保護を優先して考えることが妥当です。

まつだ・せりな 2007年東京大学法学部卒、09年東京大学大学院法学政治学研究科卒。経済産業省、公取委への出向を経て21年から電力・ガス取引監視等委員会専門委員、工業所有権審議会臨時委員。

―液石法以外での規制の在り方はいかがでしょうか。

松田 設備の無償貸与は、ある種過大な景品の提供で取引を誘引するもので、景品表示法などほかの法律の趣旨からしても禁じられるべき行為であるにもかかわらず、今のところ的確に対応できる法制度がありません。

 プロパン事業自体の競争をゆがめていること、消費者にとって料金の不透明感があること、何よりも利益を得ている人とコストを負担している人が食い違っている点で問題をはらんでいますから、何らかの形でこうした搾取の構図に歯止めをかけなければならないでしょう。自由市場だから自由に営業できるとはいえ、割りを食っている消費者がいる以上、何をしてもいいということにはなりません。

事業者への信頼担保へ 経営リスクの監視も一手

―電気の小売り営業でも数々のトラブルが報告されています。

松田 現行の電気事業の規制は、事業に参画するプレーヤーにとってもやや複雑な制度になっています。一般的な企業需要家や、ましてや家庭の需要家がそれを理解することはなおさら困難です。どの事業者と契約しているのか分からなくなるという話も耳にしますが、自らの契約状況を自ら管理することは当然とはいえ、それには限界があるということを制度は織り込まなければならないと思います。

―改善策はありますか。

松田 消費者にとって電気はあくまでも公共的サービスですので、事業者には相応の信頼性が求められていると思います。たとえ請求内容が正当な算定に基づくものであっても、消費者の事業者に対する信頼がなければどんなに説明を尽くしても納得を得ることは難しいでしょう。政策側で議論されている小売り事業者の経営リスクの監視も一案ですが、消費者の安心のために事業者の信頼を担保する仕組みの構築が求められます。

【特集1】プロパンの闇に光は差し込むか 問われる慣行是正の実効力


プロパンガスの不透明な料金体系や商慣行の放置は、業界の将来にも影を落とす。業界体質を改め、消費者に信頼されるエネルギーの担い手となることが求められている。

家庭のエネルギー供給インフラとして欠かせないプロパンガス。特に、都市ガスが行き届かない地域においては、今後もなくてはならない存在であり続けることに変わりはない。その一方で、不透明な料金体系や商慣行を長く放置してきたことが、消費者不信を招いているという一面も。あるプロパン業者の幹部は、「このままでは業界そのものが消費者に見限られてしまう」と危機感を募らせる。

それも無理はない。ただでさえ、約1万6千社あるプロパン業者の6割が小規模事業者であり、全国津々浦々までガスの供給を担っているのも彼ら。それにもかかわらず、オール電化など他のエネルギーとの競合に後継者不足も相まって、毎年300~500社が廃業、普及率も低下の一途をたどるなど業界は衰退著しい。

こうした中、プロパンの料金透明化と取引適正化について検討する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(座長=内山隆・青山学院大学教授)が3月2日、7年ぶりに議論を再開した。7月までに計3回の会合を開き、現行の商慣行を見直すとともに、制度改正も視野に議論するという。

不透明な料金を問題視 三部料金制の効果薄く

電力、都市ガスの小売り全面自由化に触発される形で2016年に発足した液石WG。もともとプロパンは自由契約とはいえ、①戸建て住宅の消費配管やガス機器などを事業者の負担で設置し、ガス料金で利用者から回収する「貸付配管」や、②事業者が賃貸集合住宅のさまざまな設備をオーナーに無償提供し、その費用を入居者に転嫁する「無償貸与」―といった商慣行が、不透明で割高な料金と利用者の自由な選択の妨げの要因になっていることは、これまで幾度となく問題視されてきた。

17年に制定された取引適正化ガイドラインでは、事業者が利用者に貸与している設備がある場合、基本料金と従量料金とは別建てて設備使用料を算出する「三部料金」制により、料金の透明性向上を図ることを定めているほか、業者を選択する権限のない賃貸集合住宅への入居者に対して、家賃とは別にガス料金や設備代金の負担がどの程度になるかをあらかじめ提示することを求めている。

賃貸住宅のガス料金に批判が集まる

【特集1】消費者が納得できる料金提示を 業界の不信感払しょくに不可欠


これまで、消費者側から幾度となく是正が求められてきたプロパンガスの商慣行。抜本的な改善には何が必要なのか。全国消費生活相談員協会の林弘美氏に話を聞いた。

【インタビュー】林 弘美 全国消費生活相談員協会 エネルギー問題研究会 代表

―プロパンガス業界の料金の不透明性や商慣行が改めて問題視されています。

 2017年に料金の透明化に向けた改正液化石油ガス法省令や取引適正化ガイドラインが出されましたが、あまり変わっていないというのが実感です。店頭やホームページで公表している料金が実態と合っていなかったり、勧誘の際に公表とは全く異なる安い料金を提示し、切り替えから2、3カ月後に大幅に引き上げてしまったりといったケースが多く発生しているのが実情です。

―解決策についてどのようにお考えですか。

 1事業者に何種類もの料金メニューがあることや、公開している料金と実際の料金、そして勧誘時の料金が全て違うというのはおかしな話です。基本料金と従量料金、配送条件による割増料金なども含め、消費者が納得できるよう料金を提示するべきです。1社でもこのような悪習を続ける限り、消費者のプロパン業界への不信感を拭うことはできません。

 エネルギーの選択肢は多い方が生活の安心感につながりますし、プロパンはその大切な選択肢です。何より、地域に密着して事業を行うプロパン業者には、選ばれるというより地域に愛される存在であってほしい。安定供給への意欲を持つ事業者が、取引の透明化に努めたばかりに競争相手に攻め込まれ、廃業に追い込まれてしまうことは望ましくありません。消費者も、経済合理性だけではなく賢く事業者を選ぶ必要があります。

はやし・ひろみ 町田市消費生活センターの相談員として27年間勤務。プロパンガスの料金透明化や取引の適正化などについて、業界に対しさまざまな問題提起を行っている。

増える電気料金巡るトラブル 自由化は消費者利益なのか

―賃貸住宅において、設備の無償貸与など入居者のデメリットになる取引が行われたとしても、入居者は防ぎようがありません。

 賃貸集合住宅では、さまざまな設備費用がガス料金に含まれて入居者に請求され、その分、賃貸オーナーが入居者に提示する家賃を安く設定するという行為が横行しています。これを阻止するためには、法改正により、プロパン料金の中にガスを供給するための費用以外は入れてはいけないという規制を設けるほかに手立てはないと考えています。

―電気料金を巡るトラブルも増えているようですね。

 電気料金の高騰を受け、消費生活センターに寄せられる相談も電気関連が圧倒的に多くなっています。家賃をしのぐような高い料金を請求されたという相談もありますし、経営難による新電力撤退に伴うトラブルも散見されます。

 事業者は、電話でメリットを強調して契約を結びますが、撤退に際してはインターネット上で公表するだけだったり、消費者側から問い合わせたくても電話がつながらなかったりと、消費者に説明を尽くしているとは到底言えない状況です。高齢者の中には、自分が契約している電力会社を知らないという方もいるくらいです。自由化の制度設計そのものが、消費者に対する説明責任や納得感という観点で十分な考慮がなされていないと言わざるを得ません。

【特集1】CCSの前途は多難か洋々か 社会実装へ動き出す国内事業


研究開発や実証実験にとどまっていたCCSが、いよいよ本格的な社会実装を目指し動き出した。カーボンニュートラルに不可欠な技術と期待されるが、事業化への課題は山積している。

「CCS」は、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素(CO2)の回収・貯留」と訳される。文字通り、発電所や製油所、化学プラントなどから排出されるCO2を大気に放散する前に分離・回収し、船舶やパイプラインで貯留地に輸送、地中深くに圧入し長期間に渡り安定的に貯留する一連の技術のことをいう。

CCSそのものに経済的なインセンティブがあるわけではなく、これまでは、資源開発会社によるEOR(石油増進回収)/EGR(天然ガス増進回収)に伴う油ガス田へのCO2の圧入を除けば、技術開発や実証試験レベルにとどまっていた。それが、世界的なカーボンニュートラル(CN)の潮流が加速する中で、近年、国内外で社会実装を目指す動きが急速に広がってきている。

23年秋に法案提出 事業推進へルール明確化

国内では、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画で、水素やアンモニアと並ぶCNに向けた対応策として位置付けられ、これを受け経済産業省資源エネルギー庁は、約1年にわたり関係者による議論を重ね、今年1月末に事業化に向けた「CCS長期ロードマップ」を取りまとめた。今秋をめどに、事業者が準拠すべきルールや国の監督体制を明確にするための法整備を進める。

CCS長期ロードマップ

事業法では、「分離・回収」「輸送」事業については届出制(ただし、パイプライン輸送など地域独占を許容する場合は許可制)とする一方、石油・天然ガス事業と共通する点が多い「貯留」事業については許可制とし、鉱山法を参考にしつつ、海陸共通の制度化、貯留事業権の新設、保安体制の整備と賠償責任の明確化、(圧入後の)モニタリング責任の有限化などについて定めるほか、海外CCS推進に向けCO2輸出の法的枠組みについても措置する方針だ。

その上で、30年までに年間貯留量600万~1200万t、50年時点で約1・2億~2・4億tの貯留を可能とすることを目安に事業環境の整備を進め、30年までの事業開始を目標に、〝モデル性〟のある「先進的CCS事業」を支援する。

先進的CCS事業の要件については、複数の回収源を集約するクラスター化や、貯留地域のハブ化による事業の大規模化、そして圧倒的なコスト低減―としており、回収源、輸送方法、貯留地域の組み合わせが異なる3~5プロジェクトを選定することになる。

【特集1】事業法制定と行動計画策定 CCS事業化へ環境整備


国はCCS事業の将来をどう見据えているのか。資源エネルギー庁石油天然ガス課の佐伯徳彦企画官に課題と展望を聞いた。

【インタビュー】佐伯徳彦/資源エネルギー庁 石油・天然ガス課 企画官

―国として、CCSの事業化を目指す背景とは。

佐伯 2050年カーボンニュートラル(CN)の達成には、CCSが必要です。電力分野では、再生可能エネルギーの最大限導入により脱炭素化を目指しますが、調整力として火力システムの維持は欠かせません。製造業も、省エネと、電化や水素などの燃料の脱炭素化を最大限に進めても、最終的にはCCSを活用しなければなりません。このような事情を背景に、21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」や「GX実現に向けた基本方針」において、CCSの環境整備を推進することが方向付けられました。各国もこの2年間でがらりと政策が変わりました。

 これまで、北海道・苫小牧におけるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の大規模実証試験をはじめ、長きに渡って研究開発が行われてきましたが、結局、事業法がないため参入意向を示す事業者はありませんでした。事業法を整備しマーケットのルールを明確化することで、CO2の回収から輸送、貯留までのバリューチェーンの構築を目指します。

           さえき・のりひこ 2001年東京大学大学院総合文化研究科修士課程中退、
           経済産業省入省。ジェトロ・ロサンゼルス事務所次長などを経て、
           22年7月、新設されたCCUS政策担当企画官に就任。

24年前半にも行動計画 貯留量目標などを精緻化

―今後のスケジュールを教えてください。

佐伯 今はまだ、長期ロードマップの策定議論を通じて事業化を巡る課題を特定した段階です。できるだけ早期に事業法の制定を目指すとともに、今秋には、各産業の意見を積み上げて50年時点で達成すべき年間貯留量の目標を精緻化する作業にも着手する予定です。コスト目標や技術開発指針、適地調査計画についてもより詳細な検討を行い、24年前半までに行動計画を策定します。

―投資を呼び込むためには、採算性の見通しが欠かせません。

佐伯 現在、30年までに貯留を開始でき先進性のある事業について国が補助することを基本的な方針としています。海外事例を見ても、多くが国による補助金や税控除で成り立っているのが現状ですし、CCSが採算が取れる事業になるにはさまざまな条件がそろう必要があり英国などの先進地域でも結論が出ていません。現段階ではいつごろ国による関与が不要になるかを見通すことはできません。

―国内の貯留量のポテンシャルをどう見ていますか。

佐伯 22年3月末までに11地点で調査を行い、約160億tのC

O2を貯留可能であると推定しています。推定年間貯留量(1・2億~2・4億t)を貯留し続けた場合、100年ほど継続できる計算です。とはいえ、現在データを得られているのは石油・天然ガスの掘削により地質のポテンシャルが分かっている地点のみ。こうしたポテンシャルを最大限に活用するとともに、輸送コストをなるべく圧縮するためにも、排出源に近いエリアで地元のご協力を得られる地域において、地質調査を進めていきたいと考えています。