電力広域的運営推進機関は、最大7兆円規模の新設・増強工事を伴う広域送電網のマスタープランを公表した。再生可能エネルギーの最大限導入による脱炭素化と電力安定供給両立の切り札となるか。
国の政策目標である2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現を見据え、将来の広域連系系統のあるべき姿を具体的に示した「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの適地と電力の大消費地を結ぶ連系線の新設・増強や海底直流送電(HVDC)の新設、東西間で電力融通するための周波数変換所(FC)の増強などが軸で、その整備に必要な投資額として最大7兆円規模を見込む。
6兆~7兆円投資というと巨額のイメージが強いが、系統増強で毎年発生するコスト(5500億~6400億円)を年間需要で単純に割ると、1kW時当たりのコストは0・4~0・5円となり標準家庭で月百数十円の負担感。再エネ活用の最大化で電気料金やCO2対策コストを抑制できれば、これだけの投資を行ったとしても十分に便益が上回る計算になる。
豊富な再エネを大都市へ 3兆円かけ大規模HVDC
マスタープランの系統整備計画の中で政府が優先的に進めようとしているのが、今後、洋上風力の導入が見込まれる北海道、東北エリアと大消費地である東京エリアを結ぶ、日本初の大規模HVDCの敷設だ。
政府が2月に閣議決定した「GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた基本方針」においても、再エネ主力電源化に向けて、「今後10年間程度で過去10年間と比べて8倍以上の規模で整備を加速する」と提起し、特に北海道からのHVDCについては30年度を目指して整備を進めることがうたわれている。
その規模は、最終的には北海道~東北間で600万kW、東北~東京間で800万kW程度が有力とされ、日本海と太平洋の両ルートを合わせた工事費用は2・5兆~3・4兆円と、投資総額の半分近くを占めている。これがマスタープランの「目玉」プロジェクトであることは間違いない。
このほか、HVDCの敷設に伴い、北海道で約1・1兆円、東北で6500億円、東京で約6700億円の地内系統の増強が必要となるほか、九州の再エネを関西、中部に送るための九州と中国を結ぶ関門連系線の増強(280万kW)に4200億円、東西間のFC増強(270万KW)には4300億円の投資が必要となる見通しだ。