稀頻度リスクが重なって起きた今回の事象。今後、どのような手立てを講じるべきか。日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事が、独自の検討で見えてきた課題と対策について論じる。
小笠原潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事
東京エリアは、東日本大震災に伴う原子力発電所事故で福島第一・第二原子力発電所の廃炉が決まり、柏崎刈羽原子力発電所が長期停止中だ。それに代わる火力発電設備は川崎火力2号系列や鹿島火力7号系列など限られている。
また東京、関西、中部といった大手電力エリアでは、発電電力量に占めるLNG火力の割合が高く、石炭火力の割合が比較的高い他エリアから純輸入となることが多い。エリアの需給情報が公表されている2016年度以降、東京エリアはコロナ禍が本格化する20年4月ごろまでは、ピーク時に占める他エリアからの輸入の割合が一貫して上昇傾向にあった。
その一方で卸電力取引の活性化を目的として、旧一般電気事業者に取引所への入札に際して限界費用ベースでの拠出を求めるとともに、社内取引分を含め取引所取引を介して売買するグロスビディングが、17年4月に開始された。
欧米では、エネルギー取引に際して限界費用に一定のマージンを加えて入札を行うことが許容されており、米国東部地域の地域送電機関であるPJMでも、エネルギー取引において限界電源がどの程度マージンを乗せているかを「マークアップ率」と呼んで監視しているが、わが国では限界電源はそのようなマージンを乗せることが認められていない。
このため限界電源となってしまう発電設備は利益を得ることが難しくなり、近年、限界電源に相当する老朽火力発電設備の廃止が相次ぎ、17年冬ごろから夏季・冬季に広域機関から出される需給改善の指示が増加している。
20年度冬季は、20年12月15日から21年1月16日の間に広域機関から一般送配電事業者に対して累計で218回も指示が出されたことは記憶に新しい。容量市場の受け渡しが24年度に開始されれば、限界電源の収益性は一定程度改善されることが期待されるが、低炭素化への要請から新規の火力発電投資は難しくなっており、不安定な状況が継続する可能性は否めない。
東日本大震災後の計画停電の反省を踏まえ、「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会」が、03年の東電原子力発電データ改ざんに起因した原子力発電所停止に伴う夏季の需給ひっ迫、07年の中越沖地震に伴う柏崎刈羽原子力発電所停止に伴う夏季の需給ひっ迫、そして11年夏季の需給ひっ迫を振り返り、FC(周波数変換設備)を300万kWまで増強することを提言した。
その後、21年3月末に120万kWから210万kWまで容量が拡大したことで、今回の東京エリアでの需給ひっ迫に際して供給力の下支えとして一定の役割を果たしたと言える。その一方で、当時想定していた大規模電源脱落から夏季に至るまでのシナリオと、近年の情勢変化により、類似の事象が起きた場合に計画停電を回避できるかが不透明であることが今回、明らかになったといえる。
今回のように東京・東北と、複数エリアをまたがって発電設備が被災した場合、過去の3事例では長期停止火力の再稼働や自家発の余剰購入、そして11年夏季においては、被災火力電源の全台復帰が供給力の回復に効果的だった。当時は石油火力を停止させ、石炭火力やLNG火力に置き換えていこうという長期計画停止火力が比較的フレッシュな状態であり、早期の復帰が比較的容易であった。