【特集2】ガス漏れを検知する「スマート兄弟」 保安の高度化に資する二つの製品


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

人口減少に伴う建物の老朽化などが進む中で、スマート保安が求められている。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、都市ガス事業を通じて培った技術を商品化し、保安の高度化に貢献する。TGESがガス事業者向けに販売するのは「スマート兄弟」―30m先までレーザー光線を照射しメタンガスを検知する「レーザーメタンスマート」と、ガス配管の気密が保たれているかを圧力を用いて検査する「セーバープロスマート」だ。

レーザーでガス漏れ検査 離れた場所から検知可能

レーザーメタンスマートには、特殊なレーザー光線が用いられている。ほかのガスには吸収されないが、メタンに当たると吸収される、1・6μ m(ミクロン)という波長の光だ。このレーザーを照射すると、ガス漏れがない場合は反射する光が検知される。ガス漏れがある場合はメタンに光が吸収されるため、反射する光が減少し、ガス漏れと判断される。ガス漏れを検知すると、アラート音とLEDの点滅で知らせ、表示部に測定値を表示する。さらに検知時にレーザーを照射していた部位の画像と測定値をクラウドに送信できる仕組みも実装する。また、レーザーを使用して計測するため、光を透過するガラス越しでの検知も可能となっている。

同製品の最大の特長は、ガス漏れを遠隔で計測できる点にある。従来の検知方式には、ガスが触れるとわずかに燃焼しその温度変化を検知する接触燃焼式や、ガス分子により抵抗値が変わる性質を利用する半導体式などがある。どちらの手法も、作業員がガス設備の近くで計測する必要があり、高所や橋の下、私有地など立ち入りが難しい場所の検査は一苦労だという。点検は法律で義務付けられているため、ガス事業者は大幅なコストを掛けて、こうした点検を実施してきた。「現場付近まで行かなくてもガス漏れを検知できることは、ガス事業者の究極の夢」と、企画本部経営企画部技術企画グループの安部健技術顧問は話す。

レーザーメタンスマートはハンディータイプの製品だ

これまでレーザー式のガス漏れ検知器は、他の製品の補助にとどまっていた。しかし、日本ガス協会が6月に発表した「供給管・内管指針」では、単独での漏えい検査方法として認められた。

レーザーメタンスマートの測定値の単位は、絶対濃度のppmにガスの厚みのmを掛け算した「ppm・m」となる。レーザーがどのくらいメタン分子にぶつかったのかで数値を算出するからだ。ゆえに、ガス漏れの場所や広がりの速やかな特定を得意とするが、漏れているガスの濃度を測定することはできない。従来の接触燃焼式や半導体式ではppmを計測しており、測定値の単位が異なるため、単純な性能の比較は難しいという。同製品と従来方式、それぞれの特質を理解して使用することが推奨されている。

レーザーメタンスマートの製造はガスターが手掛けている。製造数は年間500~600台ほど、レーザーメタンシリーズはこれまで計6000台ほどを製造してきた。その購入の9割は海外からだという。200社ほどの海外の代理店網を生かし、販売を拡大中だ。インフラの老朽化が進む米国ニューヨーク市の消防局では、約500台を導入。アメリカの環境保護庁が提唱する「Leak Detection and Repair(LDAR)」という、ガス漏れの発見から修理までを一気通貫で行うための管理コンセプトを導入している。 同製品ではガス漏れを検知すると、即座に画像と測定値がクラウド上に保存され、改ざんのない記録が蓄積されていく。LDARプログラムでは、こうした記録をデジタルで管理しないと罰則規定もあるという。「海外ではガス事業者の独自判断で導入するので、普及が進んでいる。日本ではスマート保安の新たな形として採用されたことが、非常に大きな一歩。保安の向上に寄与することがわれわれの責務だと考えている」(同)

温度補正機能が特長 3社共同で開発

もう一つのセーバープロスマートは、気密試験を行う機器だ。気密試験は、ガス管の両側を塞いだ状態で圧力をかけ、管の中の圧力の変化でガス漏れを検知する手法。正常だと圧力は変化しないが、ガス漏れがあると圧力は低下する。

温度補正機能は2018年度日本ガス協会技術大賞を受賞した

同製品の特長は温度補正機能にある。気密試験を行う際、気温が上がりガスが膨張すると、ガス漏れがあっても圧力が上がってしまう。反対に気温が下がると、ガス漏れがなくても圧力は下がってしまい、いずれにしても正しく計測することができない。この課題を解決すべく、同製品ではガス管内に圧力をかけるのではなく、内と外の圧力が同じになるよう設定。ガス管内外の圧力が同一のため、圧力に変化があれば気温の影響であると推測できるという仕組みとなっている。

セーバープロスマートに用いられている技術は、エイムテックが開発・製品化したものだ。TGESと東洋計器がエイムテックと共同で都市ガス用の製品を開発し、2018年には日本ガス協会の技術大賞を受賞している。

TGESは、これら「スマート兄弟」のさらなる導入拡大を通じて保安の高度化を推進していく。

【特集2】ドローンとアプリで送電線点検 点検の品質・安全性の向上に貢献


【ブルーイノベーション】

ドローンやロボットなどを利用したソリューションサービスを手掛けるブルーイノベーションは11月7日から、送電線ドローン点検ソリューション「BEPライン」のサービスを提供している。同サービスはドローンが送電線を自動で追従飛行し、点検に必要な撮影を行い、そのデータをリアルタイムで送信するというものだ。

独自のプラットフォーム 映像のブレも自動で補正

BEPラインは、ドローンに搭載する送電線追従モジュールと操作・データ管理アプリで構成される。同サービスに用いられている「送電線点検用ドローン自動飛行システム」は、ブルーイノベーション独自のプラットフォーム「Blue Earth Platform」をベースに、東京電力ホールディングス、テプコシステムズと共同で開発。2021年5月から、東京電力パワーグリッドの送電線約2万8000㎞の点検に導入されている。

BEPラインでは、ドローンに搭載したモジュール内のセンサーが送電線を検知すると同時に、映像のブレを補正する。送電線にたわみや揺れがあっても、風の影響でドローンの向きや位置が変わっても、適切な距離を保ちながら追従飛行を継続。高画質かつ最適な画角で撮影し続けることが可能だ。

送電線に沿って飛行するドローン

また鉄塔に昇る労力やリスクを負うことなく、詳細な点検を実現する。点検員はリアルタイムで送られてくる映像を見て、異常を発見した場合は、ドローンを一時停止させズームでの撮影を行う。ドローンは自動で送電線を追従するため、事前のルート設定は不要で、点検員の操縦技能も問わない。

自社で点検を行う「サブスクリプション」と、点検を委託する「委託点検」の二つのプランで提供され、点検頻度や運用方法などに合わせた導入が可能だ。従来の高倍率スコープやヘリコプターなどによる目視での点検と比較すると、BEPラインの導入は、大幅な効率化や点検員の安全性向上、点検の品質向上を実現する。加えて、将来的な人材不足や設備の経年劣化による点検対象の増加への対応、データ利活用による設備の運用・管理、予兆保全、DX化の推進などにも寄与するという。

【特集2】都市ガスと電気をバックアップ 公立校の体育館や給食施設へ導入


【I・T・O】

I・T・Oは防災減災システム「BOGETS」の導入拡大を目指している。自治体の災害時におけるエネルギーのニーズに応える。

今、非常用発電機の需要が高まっている。停電が全国的に頻発しており、支障が大きい施設や事業者のニーズが増加しているのだ。

非常用発電機には2種類ある。法律で設置が義務付けられた防災用発電機と、任意で設置する保安用発電機だ。防災用の稼働時間は2時間ほどで、避難誘導での使用が前提。保安用は燃料備蓄により約72時間稼働し、エアコンや給水ポンプ、照明などが利用できる。

空調や調理機能を維持 自治体のニーズに応える

I・T・Oは防災減災システム「BOGETS」の自治体への導入を進めている。BOGETSは、LPガスから都市ガスと電気をつくるシステムだ。ガス変換器の「NEW PA」でLPガスと空気を混ぜ、都市ガスと同様の燃焼特性を持つガスを生成。停電対応型GHPや発電機に投入し、発電する。BOGETSに組み込まれる発電機は、保安用にあたる。

自治体での導入事例として、足立区立の小中学校91校、稲城市立学校給食共同調理場第一調理場、寝屋川市立の中学校11校の三つがある。足立区と寝屋川市の事例では、NEW PAと停電対応型GHPを組み合わせて運用。災害時に避難所となる体育館の照明やコンセントでの使用、空調設備の運転などを目的としている。稲城市の事例では、NEW PAを導入。同施設は市の防災計画上、災害時に炊き出しを提供する。回転釜や連続炊飯器など厨房機能に不可欠なガスをバックアップする。

導入に当たっては、補助事業制度を活用した。足立区では「東京都効率学校屋内体育施設空調設置支援事業(リース補助)」、寝屋川市では「緊急防災・減災事業債」を利用。寝屋川市のケースでは、実質3割程度の負担での導入となったという。

稲城市の給食調理施設に設置されたNEW PA

自治体には三つのニーズがある。①避難所へのエネルギー供給、②炊き出しの調理、③災害対策本部の運営―のバックアップが求められている。①で特に重要なのは空調設備だ。災害から助かったとしても、避難中の暑さや寒さによる体調の悪化で亡くなることもある。これに応えたのが足立区や寝屋川市の事例だ。また、稲城市の給食調理施設の事例は②に該当する。

③災害対策本部運営のバックアップについて、営業開発部の野口恭夫防災担当部長は「災害対策本部となる庁舎に防災用発電機はあっても、それは避難を促すための設備。その場にとどまらなければならない災害対策本部の用途とは異なる」と話す。実際、庁舎などの保安用発電機の普及率は54%程度にとどまっている。導入コストなどの課題はあるが、まだまだ普及促進の余地がある。I・T・Oはこれらのニーズに応えるため、BOGETSのさらなる導入拡大を目指す構えだ。

【特集2】ZEBに対応した新本社ビル 環境性と防災性・職場環境が向上


【岡山ガス】

5月20日、岡山ガスの新本社ビルが完成した。同ビルは、快適な室内環境と建物のエネルギー使用量の収支ゼロを目指すZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の4分野のうち、外皮の断熱化や高効率な省エネ設備を備えた建物を評価する「ZEB Ready(ゼブレディ)」を取得。また、温室効果ガス排出ゼロを目指すオーナーが加盟する「ZEBリーディングオーナー」にも登録している。

旧本社ビルは1973年に建築され、耐震化を検討していた。その中で、BCP対策と省エネの両立が可能なZEB対応の新本社建設を立案。設計会社の丸川設計事務所、ZEBプランナーのパナソニック、コンサルタントの備前グリーンエネルギーに協力を仰いだ。

検討開始は2019年で、設計会社は複数社の企画案から適したものを採用するプロポーザル方式で選出。同時期にZEBリーディングオーナーの登録を準備し、設計案ができあがった20年8月に登録を完了した。21年1月にゼブレディを取得、2月に着工、22年5月末から業務を開始している。

ガス設備メインのZEB 働きやすさも重視

新本社ビルでは、ガスコージェネレーションシステムや廃熱回収型吸収式冷凍機、高効率GHP、太陽光発電、蓄電池などを運用している。加えてBEMSの導入で、エネルギー使用量を「見える化」した。計測した発電量は、外気温や室温などと併せて入口のサイネージに表示される仕組みだ。

一般的にZEBといえば電気を用いた建物が多い中、同ビルはガス設備を軸にZEBを構築。外壁断熱やLow―Eガラスなどで外皮性能を向上させ、コージェネなど空調設備の負荷設計を、建物の規模に対して従来設計で必要とされていたエネルギーの7割程度に抑えている。また、通常時はコージェネ1台と太陽光発電を中心に給電し、停電時には2台を追起動し、計3台で給電する。コージェネが起動しないことも想定し、非常用のディーゼル発電機も備え、さらなるレジリエンス向上も図る。

屋上にはGHPやコージェネなどが置かれている

ゼブレディの基準を達成する設計は難航した。岡山ガスでは防災性・環境性に加え、働きやすさも重視。窓をつくると断熱性が落ちるなどの課題があった。総務部総務グループの宮脇雄一グループ長は「省エネに特化すれば基準はクリアできるが、快適とは言い難い。ゆくゆくはCASBEE(建築環境総合性能評価システム)ウェルネスオフィスの認証取得を目指しているので、働きやすさは欠かせない」と話す。また、一級河川の旭川と世界かんがい施設遺産の倉安川水系に隣接。建設工事には多くの制約があったが、旭川の景観と用水沿いの桜並木は社員に癒しを与えてくれているという。

現在、岡山ガスは新本社ビル見学の対応に追われている。ガス設備メインのZEB構築を手本としたい県や市などの自治体や、同業他社などから、多数の声が寄せられているのだ。エネルギー開発部環境エネルギーグループの山本雅生グループ長は「電気だけでなくガスでもZEBが構築できることをアピールしていきたい」と意気込みを見せる。今後、新本社ビル横の第2ビルにも、ZEB化の改修を行う予定。防災性、環境性、働きやすさの向上を追求していく。

【特集2】食品工場にLNG冷熱を供給 省エネとCO2削減を実現


【広島ガス】

広島ガスは2月から、豆腐など大豆を主原料とした食品を製造するやまみと共同で、「連携省エネルギー事業」を開始した。この事業は、三原西部工業団地に位置する広島ガスの備後工場から、隣接地にあるやまみ本社工場に、都市ガス製造の過程で抜き出したLNG冷熱を供給するというものだ。

両社は、連携事業のために新たな設備を導入している。広島ガス備後工場では、都市ガス製造で使用する気化器のシステムを、温水式の気化器からブライン式を中心としたシステムに変更した。やまみでは、主に豆腐を製造する過程で必要となる大量の冷水を生成していた冷凍機24台を、LNG冷熱の受け入れに対応した高効率ターボ冷凍機3台に入れ替えた。これにより、備後工場では加熱燃料、やまみでは電力使用量の大幅な削減に成功した。

省エネ・CO2削減は順調 冷熱利用の最適化が課題

連携事業の実現は、省エネなどの利益の一致はもちろんだが、広島ガスの確かな営業力と技術力の結晶だ。同社にとってやまみは都市ガスの供給先でもある。以前から両社間では、LNG冷熱を取り出し、やまみ本社工場で利用するアイデアを共有していた。

2017年に国の補助金を用いて、事業化に向けた調査を開始した。当初は三原市や工業団地内の他企業の協力も得つつ、工業団地全体での共同受電といったLNG冷熱利用にとどまらない、より大きな範囲での事業化を検討していた。最終的には投資効果の高いLNG冷熱の利用に的を絞った。20年度に、経産省が実施する「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金事業」に採択され、事業化に至った。

広島ガス備後工場の全景

連携事業を開始して約半年、省エネやCO2排出量の削減は順調に進んでいる。当初想定されていた目標値は、原油換算での省エネルギー量は年間1465㎘(広島ガス392㎘、やまみ1073㎘)、CO2削減量は年間2813t(広島ガス901t、やまみ1912t)となっている。「事業開始時に算出した目標値の達成に向け、毎月実績を管理しています。通年での成果の取りまとめはこれからですが、このまま安定的な運用を継続できるよう、努めていきます」と、エネルギー事業部産業用エネルギー営業部技術グループ服部大資主任は意気込みを見せる。

事業開始後の課題としては、冷熱の需要と供給の最適化がある。季節や1日の中の時間帯によって需要量も供給量も異なるため、無駄が出ないようデータを分析し、両社で検討する機会を月に1回設けている。効率的な設備運用のため、定期点検などの情報共有なども行う。また、備後工場ではガスの安定供給のため、ブライン式気化器の不具合を想定した訓練を充実させていくことも検討中だ。

広島ガスでは、「このまち思いエネルギー」という企業スローガンの下、エネルギーの地産地消や隣接地との関わり方、異業種間での連携などのノウハウを、次なる事業へ展開することも見据えている。実際に、広島県に拠点を持つ企業や自治体からの問い合わせが多数寄せられているという。同社の地域に根差した取り組みに今後も注目だ。

【特集2】カーボンオフセットガスを拡販 グループで45年CN達成目指す


【サイサン】

サイサンは創業100周年となる2045年に向け、脱炭素化に取り組む。目下はカーボンオフセットLPガスの導入拡大に挑む。

サイサンは「ガスワングループカーボンニュートラルへの挑戦」というテーマを掲げ、グループ全体でカーボンオフセットLPガスの導入を促進している。2045年の創業100周年に向け、政府が目標とする50年でのCN達成より、5年前倒しで実現すべく取り組んでいる。

同社はCNLPガス(グリーンLPガス)とカーボンオフセットLPガスを区別している。前者は掘削や輸送などの過程でCO2が排出されないLPガスを指すが、現在の日本の技術では実現が難しい。現実的に可能となるのは、燃焼時に排出されるCO2をカーボンクレジットにより相殺する後者の導入だ。

サイサンは、カーボンオフセットLPガスに用いるクレジットの質も重視している。日本国内で認証を受けたJクレジットは、信頼性は高いが、値段も高額だ。同社はジャパンガスエナジーから1万t分の海外製クレジットを購入。その調達先はガスワングループが拠点を置く9カ国に限定している。価格を抑えつつも、森林や再エネ由来などの信頼性が高いとされるものを選ぶ徹底ぶりだ。

各県で最初の供給に奮闘 シンボル案件から輪を広げる

サイサンのカーボンオフセットLPガスの営業戦略は、まずアピールにつながる大型商業施設やスポーツチームに導入する。そして、関連施設や企業・団体などへと輪を広げていくというものだ。この戦略のもと、西武ライオンズのベルーナドームは、大型商業施設で日本初の導入となった。

西武ライオンズの事例に続くよう、ガスワングループの拠点がある各県での第一号を目指して、営業担当者は奮闘している。グループ会社で福島県にある常磐共同ガスは、いわきFCへ供給。サポーターなどへの社会貢献活動の際に、カーボンオフセットLPガスの使用をアピールできることは、チームにとってもメリットになるという。こうした流れが宣伝効果を高め、他社への流出を阻止することにもつながっている。

このほか、大口の工場や飲食店、自治体などへの導入も推進している。カーボンオフセットLPガスを導入した顧客に対し、年1回、ガス使用量とCO2排出量、クレジットでの削減量を記載した証明書を発行。環境に関する取り組みを集客やイメージアップにつなげたい企業・自治体の関心が集まっている。現在、グループ全体での顧客獲得件数は2100件ほどに上る。

「脱炭素化への関心の高まりを感じます」と語る鈴木課長

LPガス直売部の鈴木崇也課長は、「ゆくゆくは、ガス業界全体で研究を進めているグリーンLPガスの普及に携わりたいです。足元の取り組みとして、カーボンオフセットLPガスの導入拡大で、5年前倒しのCN実現を目指していく」と意気込みを見せた。

【特集2】特約店向けに新商材でサポート 環境型LPガス運搬船を導入


【ジクシス】

親会社である住友商事の知見を生かしクレジットを調達するジクシス。特約店向けには「環境住宅」普及でサポートする。

コスモエネルギーホールディングス、住友商事、出光興産の3社が出資するLPガス元売り、ジクシス。同社が低炭素・脱炭素に向けて取り組むのは「自社の事業活動における対策」や「LPガス運搬船への環境対策」を進めるのと同時に、特約店向けには「クレジット使用によるCNLPガス販売」や「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様も可能な先進のLPガス住宅の販売サポート」を展開している。

住商系の知見活用 LPガス仕様の先進住宅

このうち、クレジット調達については取り組み始めたばかりだ。「親会社である住友商事グループの知見も活用しながら、クレジットの由来となるプロジェクト内容を確認し、第三者機関からの認証を得たクレジットを取り扱っています」と、企画管理本部経営企画部の田中保次長は説明する。

そんなクレジットを、まずは同社の事業活動における温室効果ガス排出分(GHGプロトコールのスコープ1・2)の相殺に活用する。同時に、全国各地の特約店へCNLPガスとして販売を順次進めている。

特約店では、ジクシスから購入したCNLPガスを、現状では「小売り商材」としてではなく、主に自らの事業所やオフィスなどで生じるCO2の相殺に利用しているケースが多いそうだ。

特約店向けには、CNLPガスの取り扱いだけでなく、新しい商材にもトライしている。『ホッと楽な家』というブランド名でLPガス式エネファームを標準搭載した先進のLPガス住宅だ。オプションとして、住宅内の年間消費エネルギーと、生み出すエネルギーを相殺するZEH仕様の住宅も展開している。同社が関わるのは、住宅販売ではなく住宅設計プログラムの提供だ。

和歌山県内につくったモデルルーム

「地域の工務店との連携が必須となっていきます。実際に和歌山県の工務店に協力してもらい、県内にモデルルームを開設しました。当社としては工務店と特約店を結び、こうした住宅が増えることで、結果としてLPガスの販売促進につなげていければいいと考えています」

大型船舶の環境対策 デュアル燃料式で運搬へ

ジクシスは、LPガスサプライチェーン全体で低炭素化に取り組んでいる。

LPガスを運搬する船舶は、従来は重油燃料で運航していたが、昨今は世界各国で船舶燃料の環境対策が求められている。こうした中、重油に加えて、環境性の高いLPガスも燃料として活用できるデュアル・フューエルタイプの船舶を来年から用船する計画だ。「水素やアンモニアなども将来的には輸送できる設計となっています」とのことだ。

サプライチェーン全域で環境対策を果たそうと、ジクシスの挑戦が始まっている。

【特集2】NEDO実証でグリーン化模索 特約店の環境推進をサポート


【ENEOSグローブ】

ENEOSグローブはLPガスの脱炭素化施策を展開中だ。CNLPガス販売や特約店の支援策など多岐にわたる。

ENEOSグローブは、今年度から経営企画部に、新たに「カーボンニュートラル推進グループ」を設置した。カーボンニュートラル(CN)の推進を目指して、CO2排出量の削減目標や取り組み方針を策定するほか、グリーンLPガス(合成燃料)の研究開発にも着手する。

CO2原料のLPガス製造 社会実装まで包括的に検討

サプライチェーン排出量には、燃料の燃焼や工業プロセスなど、自社の直接排出である温室効果ガスなどが該当するスコープ1、他社から供給され、自社で使用している電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出のスコープ2、どちらでもなく、自社以外のサプライチェーンにおける間接排出のスコープ3がある。同社のグリーンLPガス研究開発は、スコープ3の排出量削減に貢献する取り組みだ。

NEDO実証のスキーム図

同研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発・実証事業」に、富山大学と日本製鉄と共同で「カーボンリサイクルLPG製造技術とプロセスの研究開発」を提案し、4月1日付で採択されたものだ。①触媒技術開発、②製造工程、③社会実装モデルの研究開発―を実施し、事業化に向けた包括的な検討を行う。

①の技術開発として、Fischer―Tropsch(FT)合成を用いて、カーボンリサイクルLPガスを製造する。FT合成とは、一酸化炭素と水素から触媒反応による、LPガス成分を含む液体炭化水素の合成過程のこと。

②の製造工程では、火力発電所・製鉄所などからCO2を調達し、水素はコスト面で課題はあるが、再生可能エネルギーによる電気分解や海外からのグリーン(あるいはブルー)水素の調達などを想定する。また、オンサイト型のカーボンリサイクルLPガス製造では、バイオマス資源からCO2と水素を含む合成ガスを取り出す技術を検討している。これらのガスからFT合成で液体炭化水素を合成し、精製・調整を経てLPガスを製造する。

③の社会実装モデルとして、製造されたLPガスの貯蔵・輸送や、LPガスの連産品を含めた利活用などを模索する。

LPガスは国民生活に密着した重要なエネルギーだ。現在、国内需要は年間約1400万tで、全国の約半数の世帯で使用されている。同社は、化石燃料ではなく、CO2原料のLPガスを製造するための高効率な製造技術とプロセス研究開発を進める。その成果を用いたカーボンリサイクルLPガスの早期商用化よって、脱炭素社会の実現に寄与する考えだ。

米国認証クレジットで提供 特約店と手を携えて

ENEOSグローブは顧客である特約店に対して、CNを推進するさまざまな取り組みを行っている。その一つに、CNLPガスの販売がある。米国の国際NGO団体が認証したクレジットにより、採掘から燃焼に至るまでに発生するCO2をオフセットしたものだ。全国各地の顧客から多数問い合わせを受け、既に複数の契約を締結した。納入後には、独自の供給証明書も発行。グループの環境方針として「事業活動における環境保全の推進」「低炭素・循環型社会への貢献」を掲げる同社にとって、CNLPガスの販売は、その実現に資するものとなっている。

また、12年から「ECO&EARTHキャンペーン」を展開している。同キャンペーンは、エネファームのさらなる拡販、家庭用・産業用の燃料転換、省エネ機器販売の後押しなどが目的だ。特約店の事業活動を支援するとともに、低炭素かつ豊かで安心・安全な暮らしの実現を目指す。

同社は、政府が掲げる50年の脱炭素社会実現に向けて、LPガス事業を通じたさらなる施策を今後も積極的に展開する構えだ。

【特集2】震度6被災後18時間での復旧 過去の経験による対応が奏功


【石油資源開発(JAPEX)・福島ガス発電】

石油資源開発・相馬LNG基地と福島ガス発電・福島天然ガス発電所は、2年連続で地震に見舞われた。

今年3月の地震発生時の迅速な復旧のカギとなった、対応や安定供給への思いを聞いた。

仙台駅から在来線で南へ約1時間―のどかな田園風景を抜けた先に開発が進む新地駅がある。そこから車で15分程度の相馬港4号埠頭に、大規模なLNG基地とガス火力発電所がある。

LNG基地は、石油資源開発(JAPEX)相馬事業所が運営する相馬LNG基地だ。広大な敷地内には、LNGタンクや外航船・内航船のバース、ローリーの出荷施設などのガス関連設備があり、二つあるタンクは現在、1号タンクはガス事業用、2号タンクは発電事業用として運用されている。LNG外航船の受け入れと、導管への気化ガス送出、ローリーによる都市ガス事業者などへのLNGサテライト輸送、北海道・勇払への内航船輸送を行っている。

隣接地にあるのは、福島ガス発電が運営する福島天然ガス発電所だ。この発電所の最大の特徴は、燃料調達と発電の仕組みにある。燃料調達はJAPEXを含む事業パートナー5社が行う。それぞれが必要な電力に応じたLNGを調達し、福島ガス発電はそのLNGを発電所で電力に変換し、事業パートナー各社に引き渡すという「トーリング方式」を採用。各社が持ち込む発電燃料LNGの貯蔵や気化、発電所への送出に関する業務は、福島ガス発電から相馬LNG基地へ業務委託している。

国内で他に例のない連携を行う相馬LNG基地と福島天然ガス発電所を、震度6強の地震が襲った。

相馬LNG基地

2年連続震度6の被災 密な連携による早期復旧

福島県沖で地震が発生したのは、3月16日の午後11時36分ごろだった。地震により、相馬LNG基地の操業と福島天然ガス発電所の運転は一時停止した。基地・発電所の地震の被害は、地盤が緩んだことによるアスファルトのひび割れや配電盤の傾き、配管の支柱の沈下などだった。基地では工業用水タンクの溶接部からの水漏れ、発電所では海水を冷却水として取り入れる取水口の破損なども発生。しかし、幸いにも、基地のガス製造設備、発電所の発電設備など、主要設備への影響はほぼなかった。

メインとなる設備への被害が少なかったことを差し引いても、復旧の速さは驚くべきものだった。

相馬LNG基地では、気化ガス送出は被災翌日の17日午後6時に、ローリーでの出荷は18日午後1時までに再開。地震などでガス製造が止まった場合、24時間以内に再稼働できないと、ガス事業法上の製造支障事故として処理される。今回、相馬LNG基地は災害発生から約18時間で復旧。迅速な復旧ができたのは、安定供給への強い思いがあったからだ。

また、こうした速やかな復旧には、過去の経験が生かされている。昨年2月13日にも福島県沖を震源とする震度6の地震が発生した。その際、地盤沈下によってできた配管と支柱の隙間に詰め物をしたことなど、応急処置を係員が体に覚え込んでいたという。

加えて、深夜に地震が発生した場合、相馬LNG基地ではどの程度の地震があったのかを当番者が宿直者に知らせ、ガスの製造に支障がないかを中央監視センターで確認する。異常がある場合には、宿直者からその上位の者にメールで連絡を行う仕組みになっている。今回の地震発生時にもこの仕組みがすぐに立ち上がった。

福島天然ガス発電所の発電設備2機は夜間のためミドル運用となっていたが、すぐさま安全装置が作動し緊急停止。福島ガス発電は災害本部を立ち上げ、関係官庁との連絡や、安全確認をした上での被災状況の確認などを行った。地震直後は津波注意報が発令されていたため、注意報が解除された翌朝5時以降に発電設備の被災状況の確認を順次行っていったという。地震発生後は相馬LNG基地からの発電燃料の供給も一時的に止まっていたが、日頃から連携を深めていたこともあり、供給再開までの確認もスムーズに進んだ。

福島天然ガス発電所では、2号機は19日午後6時7分に、1号機は20日1時14分に運転を再開。福島天然ガス発電所の阿河恵所長は「東日本大震災を踏まえた設計や、昨年の地震の際に事業パートナー各社を含めた取り組みが実を結び、迅速な復旧に至ることができた。今回の地震発生時には、寒波による電力需給ひっ迫の想定もあったので、早期復旧により電力の安定供給に寄与することができたと考えている。出力規模が100万kWを超える発電所として、電力供給に対する社会的責任の大きさを改めて認識しました」と語る。

一方、発電所は再エネの導入が進んだことによる、電力需給バランス制御のための火力発電の出力抑制を受け、発電量の一時的な制御などにも対応している。

福島ガス発電

安定供給が重大な使命 脱炭素社会にも貢献

相馬LNG基地がインフラとして果たす役割は大きい。顧客や隣接する発電所以外に、地域活性化のために稼働した駅前の「新地エネルギーセンター」へもガスを供給している。「引き続きエネルギー安定供給の継続という使命を果たすため、2年連続で震度6を超える地震に見舞われたこの経験を、訓練や教育を通じて後世にしっかりと伝えていきたい。そして、基地の設備面では、今回の教訓を生かすべく、対策工事を行っていきます」と、JAPEX相馬事業所の中野正則所長は話す。

また、JAPEXはエネルギーの安定供給を事業ミッションの一つとしつつ、脱炭素社会をも見据えている。LNG自体、低炭素な燃料であるが、再生可能エネルギーの拡大に貢献することや、三菱ガス化学との新潟県でのCCUSの可能性共同検討など、脱炭素社会への貢献にも取り組む方針だ。

【特集2】都市ガスエリアの防災対策設備 ライフラインを72時間維持


【I・T・O】

自然災害による被害の甚大化に伴う防災のニーズが高まっている。ガス変換器と発電機で自立型防災減災システムを展開する。

近年、台風や地震などの災害が頻発していることに加え、その規模は強大化している。こうした災害による停電への対策として、非常用電源のニーズが高まっている。I・T・Oが提供する防災減災対応システム「BOGETS」では、LPガスを原料とするガス変換器「New PA」と都市ガス発電機を組み合わせ、都市ガスと電気をバックアップする。

都市ガス発電機は、都市ガスの供給がある限り燃料の備蓄は不要であり、BCPで求められる72時間の使用が可能。加えて、排気に黒煙を含まないといったメリットがある。New PAはLPガスと空気を混ぜ合わせ、疑似的な都市ガスを作り出すガス変換器だ。LPガスは個別供給のため復旧が早い上、劣化せず、少ないスペースで大量備蓄が可能であることから、災害に強いエネルギーとして注目されてきた。都市ガスの供給が一時的にストップしても、LPガスをあらかじめ備蓄しておくことで、New PAを用いて都市ガスを生成することが可能だ。

I・T・Oでは「熱の用途がないお客さま向け商材として非常用発電機をアピールしていく」(担当者)とし、発電機の導入に関して、提案や設計・プランニング、工事・施工、補助金の申請作業などを一貫して手掛けることで、地域の防災事業をサポートしていく構えだ。

New PA
都市ガス発電機

【特集2】対ランサムウェアで「防災訓練」 利便性と安全性の両立が課題


【静岡ガス】

生産性向上を目指したデジタル化を推進する一方、日増しに高まるサイバー攻撃のリスクにどう対応するかは、企業経営にとって重要な課題になりつつある。

静岡ガスでは、2月にサイバー攻撃を想定した「防災訓練」を行った。訓練内容は、社内システムが一斉にランサムウェアに侵された疑いがある、というもの。各部門のハブとなる担当者に15分ごとに対応すべき事象が通知され、誰が、どこに、どのタイミングで報告するかなどを検討するのが大まかな流れだ。

今回の訓練には、情報、供給、生産、電力の4部門から全体で30人ほどが参加した。本社と清水・袖師のLNG基地、電力需給管理部門がある富士支社をリモートで接続し、チャットツールを駆使して部門間での円滑な情報共有・連携の方法などを確認した。

訓練に当たる供給系システム班

こうした取り組みのきっかけは、2016年に行われた日本ガス協会主導の訓練だ。これを踏まえて、年1回の社内訓練を実施している。最初はITベンダーに協力を仰いでいたが、20年からは訓練用シナリオの考案をはじめ、全て自社で執り行っている。シナリオはあえてシンプルにし、議論の時間を長めに設けることで、今後の課題をしっかりと洗い出す。加えて、マニュアルに沿った対応策を身に付けたり、参加者自らの発想を促したりする狙いもある。

非常時の対策チーム結成 情報収集に取り組む

静岡ガスでは4部門のうち、供給、生産、電力の3部門を制御系とし、そのOT(制御系)領域を守ることを特に重視。情報を取り扱う技術やシステムをITと呼ぶのに対し、OTはプラントなどの制御機器を運用するシステムを指す。制御系のOTがサイバー攻撃を受けると、人々の暮らしや生命に重大な影響が出る可能性を否定できない。

静岡ガスは技術、組織、人材をサイバーセキュリティーの三本柱とし、訓練のほか、組織的な対策として「CSIRT(コンピュータに関するセキュリティー事故対応チーム)」を結成した。CSIRTは有事の際に立ち上がる組織で、システム系のメンバー約10人を中心に20人ほどで構成される。全国400チーム以上が加盟している日本CSIRT協議会にも所属し、情報共有を図るなど、横のつながりを大切にしている。

情報系システム班

デジタルイノベーション部ICT企画担当の佐藤貴亮マネジャーは「社員一人ひとりが常にセキュリティーを意識しながら仕事をするのは大変。自身の仕事に集中してもらうためにも、システム担当として、それを意識させすぎないような、セキュリティーと利便性のバランスを実現したい」と意気込みを見せた。