【特集2】新たなエネ供給の形を提示 再エネを利用した電力網構築


【千葉県 いすみ市/リソルの森】

大規模発電所の電力供給に頼らず、コミュニティーで電源と消費施設を持ち地産地消を目指すマイクログリッドが注目を集めている。再生可能エネルギーを用いて、カーボンニュートラル(CN)を目指すほか、地域経済の発展、BCP対策など目的はさまざまだ。千葉県では2019年に台風が襲来し、長期間にわたる停電が発生した。こうした影響もあり、分散型エネルギー導入への関心が高く、複数のプロジェクトが進められている。その代表的な事例が「いすみ市地域マイクログリッド構築事業」と、複合リゾート施設「リソルの森」だ。

関電工が設備構築を手掛けた「いすみ市地域マイクログリッド構築事業」は災害などで系統からの電力供給が途絶えた際に、地域マイクログリッドを立ち上げ、大原中学校やいすみ市役所を含むエリア一帯に電力を供給するもの。関電工といすみ市、東京電力パワーグリッド木更津支社と共同で、この事業を推進してきた。

主な設備は太陽光パネルと蓄電池、LPガス発電機だ。これらをエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御していく。メーカーと共同開発したLPガス発電機を用いることで、長時間の安定した電力供給を可能にした。

いすみ市役所の屋上に216枚の太陽光パネル、大原中学校の屋上に528枚の太陽光パネルを設置。さらに、大原中学校の敷地内にEMSと蓄電池、LPガス発電機、インバータ、バルクなどが設置されている。

LPガスは、アストモスエネルギーと大多喜ガスが供給するCNLPガスを使用する。発電機が4日間以上稼働できる量を備蓄しているという。

安定した電力供給が可能 強靭化に資するシステム

マイクログリッドの立ち上げから復旧までを、3者が連携して行う。①停電の原因調査・復旧の見通し調査、②マイクログリッドの使用判断、③マイクログリッド系統の構築要請、④マイクログリッド関係者への周知、⑤マイクログリッド系統の構築、⑥マイクログリッドモードへの設定変更と発電機起動、⑦復旧―の7ステップだ。完成披露式では、実際に一時的に系統電力を遮断した実演「ブラックスタート」も行われた。

3月27日に開催したいすみ市マイクログリッドの完成披露式

「今回、関電工は太陽光発電と蓄電池、LPガス発電機の三つの電源を統合し、制御するシステムを開発した。これにより、安定した電力供給が可能となった。国土強じん化に貢献する新しいエネルギー供給の形を示せた、と自負している」と、関電工の中摩俊男社長は話す。次なる取り組みとして、システムの標準化とコストダウン、配電事業ライセンスの取得を目指すという。配電事業ライセンスを取得できれば、発電と小売りの兼業が可能となる。関電工は、再エネの地産地消のさらなる促進を目指していく。

もう一つの事例であるリソルの森は、千葉県の中央に位置する複合リゾート施設だ。別荘やホテル、ゴルフ場をはじめ、フィットネスや医療施設を有するメディカルトレーニングセンター(MTC)など、さまざまな施設が330万㎡の広大な敷地に点在している。こうした施設にも脱炭素の波は押し寄せている。

「これまで脱炭素の取り組みは企業が主体だった。いずれは一般の需要家にまで波及する。脱炭素への取り組みがリゾート施設を評価する基準の一つになるのではと考えている」。こう語るのはリソル総合研究所の湯田幸樹会長だ。

施設内で利用し自家消費 自己託送でゴルフ場に送電

同社がエネルギーに関わるようになったのは、ゴルフ場の未利用地を活用するため、再エネ固定価格買い取り(FIT)制度で太陽光発電所を手掛けたことに始まる。ただ、FITは長期にわたり継続できる仕組みではない。このため、エネルギーを地産地消できるやり方を模索していた。そうしたときに、東京電力グループから低炭素投資促進機構(GIO)の支援による「郊外型スマートコミュニティ構築事業」について声がかかり、今回のマイクログリッドを手掛けるようになったという。

同システムは、リソルの森の敷地内に太陽光発電設備(1200kW)を設置。主要施設のMTCで自家消費し、余剰分を隣接するゴルフ場のクラブハウスに託送して、発電した電力を全量消費する仕組みになっている。「当初は全て自営線を敷設して運用しようと考えたが、距離が長くなってしまう。そこで、東京電力パワーグリッドと相談して、系統を利用することで自営線を半分に短縮して敷設し、コスト低減が図れることを確認した。結果、自己託送を行うシステムになった」と設備を管理する東光高岳の石渡剛久フューチャーグリッド推進室長は話す。

リソルの森の敷地内にある太陽光発電所

マイクログリッドの運営では、前日昼までに自己託送計画を策定し、電力広域的運営機関に提出している。当日は、計画に従い発電量や需要量を制御し、30分間の電力量を計画と一致させている。同時同量が達成できない場合は、インバランスとしてペナルティーが発生する。「ウクライナ危機以降のエネルギーコストの値上がりで、インバランス料金がシステムを運営する上で足かせとなっている。なるべく出さないように注意している」と湯田氏は苦労を語る。

自己託送ルールを順守しながら、インバランスを最小限に抑えるため、MTCには据置型蓄電池100kW、VtoHシステムが1台、ゴルフ場にヒートポンプを設置し、自己託送を実現する制御対象としている。今後はEVや電気カートなどリゾート施設内に導入し太陽光発電の電気をさらに有効活用していく構えだ。

【特集2】分散型を一気通貫で管理 モバイルアプリで簡単導入


【NextDrive】

これまで大口需要家向けとされていた、同一規格での分散型プラットフォーム。NextDriveが提供する「Ecogenie+」は、家庭から企業まで目的別の活用が可能だ。

近年はエネルギーマネジメントシステム(EMS)のデータ集約に、さまざまな企業が乗り出しており、データを管理制御する仕組みや接続されるデバイスも多種多様だ。これらを一つにまとめるプラットフォームを構築したのが、EMSの開発提供を行うNextDriveだ。

同社は通信基盤の設定、各種デバイスの制御管理、データの可視化や外部システム連携サービスなどを一気通貫で行うプラットフォーム「Ecogenie+(エコジーニー・プラス)」を提供している。プロダクトソリューション部の小長井教宏部長は「プラットフォーム構築で、企業が分散型エネルギーリソース活用に注力し、価値創出に取り組む環境を作りたい」とサービスの意義を語る。

LTEゲートウェイ「Atto」を紹介する小長井部長

このプラットフォームの利点はその設置、設定の容易さにある。これまで分散型エネルギー設備を同一の仕組みで構築するプラットフォームは、高額で大口需要家向きとされていた。同サービスは、モバイルアプリで簡単に導入でき、家庭内の消費者向け機能から、企業管理者向けシステムまで、使用者の目的に合わせて柔軟に活用することができる。

また、Wi-Fi環境がなくても通信可能な「Atto」や、わずか5cm角と世界最小クラスの「CubeJ」といったエネルギーマネジメントコントローラーによって、スマートメーター、太陽光、蓄電池、EVからエアコンに至る幅広い機器と連携。メーカーごとに異なる設備、異なるプロトコルでも統合管理が可能で、電力の可視化、機器の遠隔制御などを行うことができる。各種端末の情報は、安全性を確保したネットワーク通信で集約し、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)実現やJ―クレジット取得に伴う業務効率化など、企業が分散型エネルギー資源を活用できるようサポートする。

先進性が評価され受賞 分散型リソース集約に寄与

このように、インフラ設備全般へ対応可能な先進性を評価され、Ecogenie+は2022年度の新エネ大賞・新エネルギー財団会長賞(商品・サービス部門)を受賞した。今後の目標について小長井部長は「異なるインターフェース同士のすり合わせでトラブルが起きないよう、満足していただける価値を作る必要がある」と話し、安定したサービス提供に尽力する姿勢を見せた。

企業による分散型リソースの集約促進、そして脱炭素社会構築のために「EMSの再定義を目指す」(小長井部長)。NextDriveのさらなる進化が楽しみだ。

「CubeJ」はコンセントに挿して使用

【特集2】これからの街づくりで強み発揮 自治体の取り組みをサポート


【インタビュー】松原浩司/日本熱供給事業協会 専務理事

脱炭素に向けてCO2排出量低減に寄与する熱供給が注目を集める。日本熱供給事業協会も普及に向けて自治体のサポートに注力する。

―長期ビジョン発表から3年が経過しましたが、公表後、どのような動きがありましたか。

松原 カーボンニュートラル(CN)への対応として「温室効果ガス算定・報告・公表制度(SHK制度)」における熱供給事業者別排出係数制度の導入に向けた取り組みを行っています。これにより、熱供給事業者自身がCO2排出の少ない熱を製造する取り組みを助長するとともに、カーボンオフセットされた熱を需要家へ供給できるようになります。国は今年度中の導入を目指しています。

未利用エネルギーの活用 個別では困難な省エネ実現

―制度の導入で熱分野のCO2削減につながりそうですか。

松原 熱供給事業者が未利用エネルギーを有効利用するなど、CO2排出の少ない熱を需要家に供給し始めることで、地域全体のCO2削減につながるものと考えます。

―再生可能エネルギー大量導入について、地域熱供給との親和性や共存のメリットはありますか。

松原 地域熱供給は、地中熱、河川熱など、個別建物では使いづらい未利用熱の活用が可能です。エネルギー需要が集約する地域では、建物に熱源を持つよりも、導管で冷・温水を地域全体に送る方が、省エネ・脱炭素につながります。東京の田町駅東口北地区では、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を用いて、天候や施設のエネルギー使用状況などのデータを基に効率的な運転が行われています。地域全体でエネルギーを管理するので、デマンドレスポンス(DR)にも対応できます。

―BCP対策にも寄与しますか。

松原 2018年9月に発生した北海道胆振東部地震のときは強みを発揮しました。エネルギーセンターから供給を受けていた「さっぽろ創世スクエア」ではブラックアウトの中、熱と電気の供給を継続しました。観光客や帰宅困難者に空調の効いた避難場所を提供でき、災害状況の情報発信やスマートフォンの電源提供ができました。地域熱供給の導入は、不動産の価値や自治体の企業誘致力の向上にもつながると考えます。

―自治体との連携についてお聞かせください。

松原 再開発・街づくりにおいて地域熱供給の導入を必ず検討していただきたいです。協会主催の研修会などを通じて、地域熱供給への理解を深めてもらい、ゼロカーボンシティ宣言や脱炭素先行地域の取り組みにどのように貢献できるのか、自治体の皆さまと一緒に考えていきたいと思っています。

―協会として50年に向けた展望はありますか。

松原 地域総合サービス事業(DTS)への進化を目標としています。省エネや脱炭素の課題解決はもちろん、エネルギー以外でも、地域密着型のサービスの展開を通じて、各地域になくてはならない会員企業を増やしていきたいです。

まつばら・こうじ 中央大学法学部卒、現経済産業省入省。四国経済産業局資源エネルギー環境部長、地域経済部長などを歴任。21年から現職。

【特集2】石炭の環境対策巡る最新事情 エネルギー危機で高まる存在感


CO2発生量は多いが、低コストで安定した調達が可能な石炭をどう活用していくか。発電時のCO2有効利用や輸送時の燃料削減など、石炭火力の最新環境対策を追う。

カーボンニュートラル(CN)社会を実現する中で、石炭火力発電の在り方が見直されている。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、天然ガスの需給がひっ迫し価格が高騰。各国は石炭火力の新たな活用策を探っている。

石炭は他の化石燃料と比べ、採掘できる年数が長く、存在している地域も分散している。またLNGと比べ、市場価格は低く安定しているため、調達コストを抑えることが可能だ。

しかしながら、昨年は石炭の市場価格も高騰した。ウクライナ情勢に加え、それ以前からの石炭権益への投資不足や主要産炭国での人手不足といった要因が重なった結果だ。こうした中、一部の大手電力会社は長期契約に加え、短期・中期契約やスポット契約調達などを組み合わせることでコスト抑制を図っている。使用する石炭の品種も見直している。高品位炭限定ではなく、低・中品位炭の調達も視野に入れ始めた。

中国電力の安定供給を支える三隅火力

世界に誇る環境対策技術 新設による高効率化も

石炭火力には、LNG火力と比較してCO2排出量の多さに加え、SOX(硫黄酸化物)、NOX(窒素酸化物)、すすや燃えカスなどの煤塵といった大気汚染物質の発生量も多いという課題がある。ゆえに、西欧では、将来的な廃止を掲げる国が多い。しかし、電力安定供給のため、中長期的には脱石炭の方向性には変わりないものの、石炭火力を短期的に再活用する方針が示されている。同時に、火力発電の脱炭素化技術の開発も加速中だという。

日本では東日本大震災以降、発電量全体における原子力の比率が大きく低下した。代わりに、LNGと石炭火力の比率は大きく上昇。石油も含めた火力全体の発電量は約7~8割に上る。また、日本はエネルギー資源が乏しく、海外から安定的に調達できる石炭を活用していく必要がある。

高度成長期から40年以上にわたり、環境対策技術や効率的な燃焼方法の開発など、環境負荷の低減に取り組んできた。大気汚染物質の90%以上を除去できる日本のクリーンコール技術は、世界トップクラスといえる。加えて、発電所の新設やリプレースにも取り組んでいる。非効率的な古い石炭火力を、新しく高効率なものに替えることで、CO2の排出量を減らすことが可能だ。

クリーンコール技術の中では、IGCC(石炭ガス化複合発電)に注目が集まる。Jパワーと中国電力が進める酸素吹きIGCCプロジェクト「大崎クールジェン」では、石炭から精製したガスでガスタービンを、ガス精製・燃焼時の熱を利用する蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。さらに、石炭から精製したガスをもとに水素を製造。ガスの主成分である一酸化炭素(CO)と水素(H2)を蒸気(H20)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離・回収する。

その後、つくった水素を用いてガスタービンに加え、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を稼働させ、発電効率をさらに高める試みを進めている。

燃焼以外の技術も開発進む 運搬からCO2の活用まで

さらに、発電時に排出されたCO2を回収するプロジェクトも進行中だ。具体的には、回収したCO2を地下に貯留するCCS(CO2回収・貯留)や、貯留するだけでなく有効利用するCCUS(CO2回収・利用・貯留)などがある。関西電力の舞鶴発電所では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から採択・委託を受け、二つの実証事業を行っている。

一つ目は、川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)と共同で実施するCCS実証だ。舞鶴発電所に、省エネルギー型CO2分離・回収システムの試験設備を設置し、燃焼排ガスからCO2を分離・回収する。この実証は「固体吸収法」という、表面にCO2を吸着する物質をコーティングした固体吸収材を用いた手法で行われる。従来の技術と比較して、CO2分離に要するエネルギーを約40%以上低減することを目指している。

二つ目は、日本CCS調査(JCCS)と共同で実施するCO2の輸送だ。CO2の排出地と貯留地・活用地は離れているケースが多く、安全かつコストを抑えた輸送技術の確立が求められている。この実証では、舞鶴発電所で排出されたCO2を液化し、北海道の苫小牧市に新たに建設される基地まで船舶で輸送する。CCUSを目的とした液化CO2の船舶輸送実証は、世界初となる見込みだ。

石炭を海外から運搬する船の脱炭素化も進められている。商船三井が開発した「ウインドチャレンジャー」は、帆で捉えた風を推進力に変えることで化石燃料の使用を抑える装置だ。新造船・既造船を問わず搭載できる。北米やオーストラリアなどから石炭を輸送する、東北電力の石炭運搬船「松風丸」の場合、航路によって約5~8%以上の燃費を削減可能だ。

帆で受けた風を推進力とし運行する

燃焼技術そのものの向上はもちろん、排出されたCO2の有効利用といった関連技術の開発・実証が進む。脱炭素社会の実現と安定供給の両立に石炭をどう利用していくか―。そのための取り組みが注目される。

【特集2】25年までに専焼ガスタービン開発へ 逆火・NOX対策で水素割合増やす


【三菱重工業】

三菱重工業では、水素だきガスタービン複合発電(GTCC)の開発を進めている。これまで大型ガスタービンで天然ガスに水素を30vol%(1vol%=1万ppm)混ぜて使用できるガスタービン燃焼器の開発を完了し、水素混焼割合を50vol%まで拡大した燃焼試験を実施した。さらに、中小型ガスタービン用の燃焼器で水素100%専焼(ドライ式)の燃焼試験を実施し、得られた知見を大型ガスタービン用の燃焼器にも展開して開発を進めている。また、米国の既設の高効率・大型GTCC発電プラントにて水素20vol%混焼の実証試験にも昨年成功した。これらを皮切りに、実機での実証試験を進めて早期の商用化を目指している。

水素ガスタービンは、既設の天然ガスだきガスタービンの燃焼器の交換と燃料供給系統の一部改造のみで対応可能となるため、開発のキーポイントは水素だきに対応できる燃焼技術と燃焼器となる。

技術検証は最新鋭の水素ガスタービンを用いる

世界初の一貫した検証施設 水素製造から発電まで

水素は天然ガスと比較して燃焼速度が速く、従来の拡散燃焼器に比べてサイクル効率が高い予混合燃焼器(燃料に空気をあらかじめ混合し燃焼器内に投入する方式)で混焼・専焼させた場合、天然ガスのみを燃焼させた場合よりも逆火(フラッシュバック)の発生リスクが高くなる。そのため、逆火発生の防止に向けた改良を中心に、低NOX化や安定燃焼化を実現する燃焼器の開発を進めている。

水素だき燃焼器の開発を進める中、発電に利用する水素を確保しガスタービンの運転実証を行う機会は少ない。そこで、三菱重工はガスタービンの開発・製造拠点を置く高砂製作所(兵庫県)に、水素製造から発電までにわたる技術を世界で初めて一貫して検証できる「高砂水素パーク」を、構内の実証設備複合サイクル発電所に隣接させて整備している。

水素製造に関しては、水電解装置を導入するほか、メタンを水素と固体炭素に熱分解することによりターコイズ水素を製造するなど、次世代水素製造技術の試験・実証を順次行う。

また、大型ガスタービンについては最新鋭機種であるJAC形を用いて水素混焼発電を実証するほか、中小型ガスタービンでの水素100%専焼も、H―25形ガスタービンでの実証を行う予定である。高砂水素パークでの実機実証を経て、共に2025年までの水素ガスタービン商用化を目指している。

三菱重工は脱炭素分野での実績を誇るリーダーとして、水素ガスタービンの開発・商用化を通じてグローバル社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献していく。

【特集2】水素燃焼炉でLiB電池製造 モノづくりの脱炭素ソリューション


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)】

東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、ノリタケカンパニーリミテドと共同で、水素燃焼式のリチウムイオン電池(LiB)電極材用連続焼成炉「C-SERT-RHK-Nero(シーサートRHKネロー)」を開発した。特殊なセラミックを用いた水素燃焼ラジアントチューブバーナーを採用した世界初のLiB電極材用焼成炉だ。

連続焼成炉は大容量のもので全長40m、百数十台のラジアントチューブバーナーが並ぶ。あらかじめ設定された温度環境の中を、製品がローラー搬送により連続で通過することで、高品質な熱処理を行う。東京ガスグループの研究施設「アスラボ」では、その一部分を切り出した試験炉で顧客のニーズに合わせた検証を行っている。

自動車や通信機器にも展開 脱炭素に向けた提案を行う

ネローの主な特長として、燃焼時のNOX(窒素酸化物)の抑制と高い耐熱・耐蝕性がある。水素専焼はCO2が発生しない一方、火炎温度が高く燃焼速度が速い。そのため、NOXが発生しやすいという課題があった。この課題に対し、これまで開発してきた省エネバーナーの独自技術である「二段燃焼技術」や「自己排ガス再循環技術」を応用し燃焼をコントロールすることで、NOXの発生を抑制している。

また、従来の炉の課題であった耐熱・耐蝕性ついては、特殊セラミックを用いることで解決した。ネローに搭載されたラジアントチューブは、1300℃の炉内温度に対応可能であり、LiB電極材の焼成時に発生する特殊腐食雰囲気にも強い耐性を有している。

さまざまな検証を行う試験炉

シーサートRHKシリーズはネローのほかに、都市ガス燃料型の「C-SERT-RHK(シーサートRHK)」と、電力対応型の「C-SERT-RHK-Fos(シーサートRHKフォス)」がある。どちらも、ネローと共通のセラミックラジアントチューブを採用している。

「ネローで培った技術を生かして、燃焼や炉の操業に関する技術など、カーボンニュートラルに向けたトータルエンジニアリングを行っていきたい」と、エンジニアリング本部燃焼システム部新商材開発・営業グループの米島正人マネージャーは意気込みを語る。

今後、LiB分野にとどまらず、高温域での熱処理が必要な自動車用超高張力鋼板等や通信機器、セラミックなどの分野への展開も目指すという。現状では水素は高価なため、省エネ化検討をはじめ、都市ガスとの混焼でエネルギーコストを削減したり、試験炉を用い実際に水素燃焼でテストを実施するなど、脱炭素化のための提案をしていく方針だ。

【特集2】再エネ由来の水素ステーション 大幅なコストダウンも実現


【石川県】

石川県は2022年3月に「石川県カーボンニュートラル産業ビジョン」を発表した。経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で示された、今後成長が期待される14分野を踏まえて策定。脱炭素化を推進する産業を支援し、その成長を促すことが目的だ。中でも、製造、輸送、利用それぞれの段階で県内企業の参入が見込まれる水素には、脱炭素化のキーテクノロジーとしての期待が高まる。

「能登スマート・ドライブ・プロジェクト」では、「能登の里山里海」が11年6月に世界農業遺産に認定されたことを契機にプラグインハイブリッド車で能登半島を周遊できるプロジェクトを実施した。認定10周年を迎えた21年には新たな展開として、燃料電池車(FCV)を用いた水素利用に関するプロジェクトを開始した。能登の「のと里山空港」と金沢の「産業振興ゾーン」に、県内初の水素ステーションを整備。最大の特徴は、水素を再エネ由来の電力による水の電気分解で、オンサイト製造すること。水素製造能力に限界があるが、「エリア内のFCVの普及台数などを考慮し、ステーションの運用上、必要十分」と、県内の水素利用のFS(事業化調査)を実施した日本環境技研は説明する。

両地点とも水素供給能力1時間当たり50Nm3以下の小規模ステーションとなる予定だ。オフサイト型の中規模ステーションと比較して、大幅なコストダウンも実現したという。「県内にステーションが初めて整備され、FCVの普及はこれから」という石川県の現状を踏まえた整備だ。

【特集2】水素利用で実現する脱炭素 技術力を結集し開発加速


製造現場や街づくりなどで、水素を利用する動きが活発化している。サプライチェーン構築から、機器開発、自治体の取り組みまでを追う。

水素はカーボンニュートラル(CN)の達成に必要不可欠なエネルギー源だ。そして2050年脱炭素社会の実現だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻で一変した世界情勢において、エネルギーの安定供給のカギでもある。今、世界各国で水素戦略が策定されるとともに、関連技術の研究開発への投資や、サプライチェーン実証事業への支援が加速している。水素社会の実現に向け、コスト低減やインフラ整備、水素の燃焼特性に合わせた機器の開発といった課題と向き合わなければならない。

このような流れの中で、日本では水素タービンや燃焼機器などの開発が進められている。資源エネルギー庁の資料によると、水素タービンの市場は50年までの累積で最大約23兆円に上る想定。ウクライナ戦争の動向次第では、水素関連技術の需要はさらに高まる見通しだ。

水素関連技術の実用化のため、各社は蓄積してきた知見やノウハウを注ぎ込み、全力で開発に当たっている。水素は燃焼時にCO2を排出しない一方、天然ガスと比較して燃焼速度が速いという特性を持つ。ゆえに、逆火やNOX(窒素酸化物)が発生しやすいという課題がある。

三菱重工業では、逆火などへの対応と環境性能を両立させる燃焼器を開発中だ。小型の水素発電では、既に実機での専焼の検証まで終了している。大型は30vol%(1vol%=1万ppm)混焼の開発を終え、専焼の開発が進んでいる。混焼、専焼ともに、実機での実証段階となっている。今後、30%を超える混焼が可能な燃焼器を開発できれば、混焼率の選択肢を提供でき、国際市場で優位に立てる可能性がある。

水素の利用で、ものづくりの脱炭素化も進む。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)とノリタケカンパニーリミテドは、水素燃焼に対応した連続焼成炉を開発。特殊セラミックを用いたラジアントチューブバーナーを搭載し、高い環境性能と耐熱・耐蝕性を誇る。リチウムイオン電池(LiB)電極材の焼成のほか、自動車や通信機器などの分野へ展開を目指している。

東邦ガスは水素バーナーの開発や燃焼試験サービスの提供のほか、サプライチェーンの構築にも取り組んでいる。同社の知多緑浜工場内に24年までにプラントを建設し、水素供給を開始する予定。需要創出と供給体制整備の両面から水素利用を展開していく。

顧客の要望に応じた検証を行うTGESの試験炉内部

石炭をガス化し水素製造 火力発電を脱炭素化

石炭火力発電を水素発電に転換する取り組みも進められている。Jパワー(電源開発)と中国電力が出資する大崎クールジェンは、石炭火力の発電効率を高めることで、CO2排出量の大幅削減を目指す「石炭ガス化複合発電(IGCC)」プロジェクトを進行中。石炭からガスを精製し、そのガスから製造した水素で発電することでCNを達成するというものだ。

実証は3段階で構成される。第1段階の「酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスを燃焼させてガスタービンを、ガスの精製時と燃焼時の熱で発生させた蒸気で蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。

第2段階の「CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスをもとに水素を製造する。ガスの主成分は一酸化炭素(CO)と水素(H2)のため、蒸気(H2O)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離回収する仕組みだ。

第3段階の「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証」では、第2段階で作った水素を用いてガスタービンを回すだけでなく、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)2台に水素を供給し発電試験を行っている。

火力発電は、天候などによって発電量が大きく変動してしまう太陽光や風力発電に対し「調整力」の役割を担っている。安定供給と脱炭素化の両立に寄与する大崎クールジェンのプロジェクトに期待が高まる。

D大崎クールジェンでは、次世代の石炭利用技術を開発している(提供:大崎クールジェン)

自治体の取り組みも活発化 BCP対策などにも有効

自治体の水素利用や街づくりの動きも注目だ。山梨県では「P2G(パワーtoガス)システム」を構想中。固体高分子(PEM)形水電解装置で、再エネ由来電力と水からグリーン水素を製造する。脱炭素化の促進とBCP(事業継続計画)対策として、工場などへ導入する方針だ。また山梨県は東京都と連携し、山梨県で製造した水素を東京都に供給する。

東京都では「晴海フラッグ」を水素供給のモデルにする方針が発表された。晴海フラッグは、東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション群を中心とする大規模街づくり事業だ。隣接地には水素ステーションが整備されるほか、パイプラインから純水素型燃料電池に水素を供給し、電力だけでなく発電時に発生する熱も活用する。

水素ステーションに関しては、充填速度向上のための技術開発が加速。トラックなどの大型商用車への高速充填や、2台同時の充填を可能にするディスペンサーの開発が進む。

脱炭素社会実現に向けた水素利用の課題を乗り越えるための技術や取り組みが注目される。

【特集2】COセンサーで早期に発報 住宅火災の死者減少を目指す


新コスモス電機は一酸化炭素(CO)検知機能付火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」を開発した。

COは毒性が強い気体だ。その上、無色無臭で、煙よりも先に発生することもあるという。人間の五感では気付かず、吸い込むと頭痛やめまいなどの症状を引き起こす。これにより避難が遅れ、死に至ることも少なくない。実際、CO中毒は火災の死因の約4割に上る。

火災による死者数の増加から、全ての住宅への警報器設置が義務化されたのは、2006年のことだ。同年、新コスモス電機は国内初となる電池式のCO検知機能付火災警報器を開発。「火災による犠牲者を一人でも減らしたい」という思いのもと、改良を経て誕生したのがプラシオだ。

COセンサー付火災警報器PLUSCO

プラシオは従来の煙センサーに加え、COセンサーも搭載し、火災の発生を早期に知らせる。COがない通常時は、煙濃度5~15%/mで火災警報を発報。100ppmのCOを検知した場合は、煙センサーの感度が約2倍に上昇し、煙濃度2.5~7.5%/mで警報を発する。この機能は住宅用防災警報器に関する基準に基づき、光電式住宅用防災警報器(CO反応式)として、総務大臣からの認証を受けている。

また、より多くの設置を目指して、現代の住宅に馴染むよう設計。警報器としては斬新なキューブ型を採用しつつ、シンプルなデザインとなっている。新コスモス電機は、プラシオの設置拡大により火災での死者数減少を目指していく。

【特集2】ポイント交換で顧客満足度を向上 ガス機器の購入機会の創出も


【広島ガス】

広島ガスは、ウェブ会員サービス「MY HIROSHIMA GAS(マイ広島ガス)」を展開している。毎月のガス使用量と料金の確認ができるほか、家庭用の需要家には「広ガスポイント」が貯まる。

広島県の特産品と交換 イベントへの抽選応募も

広ガスポイントのサービスは、ガスの使用料金や警報器のリース料金など税込み100円の支払いで1ポイントがたまる仕組みだ。このほか、アンケートへの回答や購入したガス機器の種類に応じてポイントを付与。また、中国電力の電気と広島ガスのガスをセットで契約すると、中国電力の「エネルギアポイント」と広ガスポイントが年間最大で各500ポイント付与される。

たまったポイントは、商品との交換や抽選企画への応募に使うことができる。ほかに、スーパーや飲食店など180を超える加盟店で利用できる「広ガスクーポン」、エネルギアポイントや「広島広域都市圏ポイント(としポ)」への交換も可能だ。

地産地消をテーマに、ポイント交換商品は広島県の特産品50点ほどをそろえている。抽選企画では、広島東洋カープやひろしま美術館などのチケット、ABCクッキングスタジオでの料理教室への参加券などが当たる。料理教室は同社のガスを契約しているスタジオで行われ、この企画をきっかけにスタジオを利用し始めた人もいるという。

マイ広島ガスは2016年10月、広ガスポイントは17年4月にスタートした。昨年末には、サービス開始以来初の交換商品の大きな入れ替えを実施。交換しやすいポイント数の商品を充実させるなど、会員の目線を意識したという。また、ガス機器を販売する「広島ガスWEBモール」の利用者にはマイ広島ガス会員が多いこともあり、会員限定のシークレットセールの開催や、メールでセールを通知し商品購入につなげるなど、新たなアプローチを模索中だ。

昨年末にトップページもリニューアル

「ガス機器の買い替えスパンは長い。ウェブ会員サービスは、その間の顧客満足度を保つ手段でもある。しかし現状、サービスの周知ができていないこともあるので、ガス機器の販売施策とウェブ会員サービス全体の親和性を高めると同時に、お客さまとの接点機会での周知を徹底していきたい」と、エネルギー事業部販売推進部プロモーショングループの宮堂太朗マネジャーは意気込む。

広島ガスでは23年2月に、約3年振りとなる実会場でのイベントを開催。ガス機器の購入者はもちろん、来場者に対しマイ広島ガスや広ガスポイントサービスを広く案内していく。

【特集2】水深40m以上でも調査可能 着床式基礎に対応できる調査方法


【中央開発】

中央開発(東京都新宿区、田中誠社長)は、1946年の創立以来、77年にわたり「人と土と水」をテーマに、多くのインフラ整備に貢献してきた建設総合コンサルタントである。創業初期には、標準貫入試験(SPT)、ウェルポイント工法、シンウォールサンプラーを日本で初めて実用化するなど、地盤コンサルタントとしてパイオニア的存在である。また、同社は水深50mまでの大水深域に対応できるボーリング工法「傾動自在型試錐工法」を保有しており、東京湾アクアライン、下田港沖防波堤などに代表される大水深の海域における地盤調査の実績も数多く有している。

洋上風力発電プロジェクトでは、事業想定海域における地質構造や工学的性質を把握し、地盤・基礎に関するリスクを適切に評価し事業に反映していく必要がある。日本列島沿岸部の地盤は数万年前からの海面変動や浸食などにより形成されたと考えられており、現在の海底面から深さ100m程度までは複雑な層相を呈する場所も多く存在すると考えられる。このため、わが国における地盤調査にはボーリング調査は必須であり、特にコスト的に有利な着床式基礎の限界水深50~60m程度までに対応したボーリング調査が必要とされる。しかし、洋上地盤調査において一般的な鋼製やぐらの適用水深は最大でも35m程度であり、現時点において水深40mを超える海域では地盤調査の空白域となっていると言っても過言ではない。

同社が保有する傾動自在型試錐工法は、このような空白域に対応できる数少ないボーリング手法である。

傾動自在型試錐工法は水深約50mまで対応できる

掘直しのタイムロスを回避 効率的で安全な調査に貢献

また、鋼製やぐらに代表される一般的な海上足場を用いたボーリング調査では、荒天時に退避を余儀なくされ再度堀直しになるが、同工法では、足場ではなく独立式ガイドパイプを用いる構造的特徴から、堀直しによるタイムロスを避けることが可能という利点がある。洋上風力事業における傾動自在型試錐工法の実績は確実に増えてきており、この経験を生かしつつ改良を進め、より効率的かつ安全な海上地盤調査に対応していく予定である。さらに、同社は川崎地質と業務提携しており、両社の得意分野を生かして洋上風力発電プロジェクトの地盤調査に最適なソリューションを提供していく方針である。

【特集2】複数拠点間での再エネ融通を最適化 環境価値の調達コストも削減可能


【三菱電機】

三菱電機は、再エネ設備の導入で脱炭素化を図る企業をサポートする。将来的には、自拠点間にとどまらない環境価値融通の場の創出を目指す。

横浜にオフィスを構える三菱電機の電力システム製作所電力ICTセンターには、同社が誇る電力・情報・通信技術を担うエンジニアが集結。先進的なソリューション創出のための開発を行っている。

電力ICTセンターはこのほど「マルチリージョン型デジタル電力最適化技術」を開発した。工場など複数拠点間における再エネ由来電力の融通を最適化し、企業の脱炭素化目標の達成を支援する。今後、同社の電力市場向けソフトウェア製品「BLEnDer」シリーズとして展開中の「再エネ発電・需要の予測」や「電力計画の作成・提出」といった機能と組み合わせた検証を行う。2023年4月には、クラウドサービス型ソリューション「マルチリージョンEMS」として提供を開始する予定だ。

30分単位で環境価値を管理 脱炭素化目標の達成を支援

近年、脱炭素社会の実現に向けて、サプライチェーンにおける再エネ導入が進められている。実際に欧米では、カーボンフリー電気で製造した製品でないと購入されないケースもあるという。こうした流れの中で、再エネを導入する企業は増加傾向にある一方、設備の設置スペースや電力の安定的な確保といった課題を抱える企業も少なくない。

これらの課題に対し、マルチリージョンEMSは電力融通と蓄電池運用で脱炭素化目標を達成する計画を策定。再エネ・需要予測や環境価値証書の価格などから、再エネ電力の自拠点内での消費、蓄電池への充電、自己託送制度を利用した別拠点への融通などの組み合わせを最適化する。環境価値調達のコスト削減も可能となる。

同システムの環境価値の管理業務は主に①脱炭素目標の設定、②需給計画の作成、③目標達成計画の表示、④目標達成計画の監視、⑤30分値の可視化、⑥最終結果の確認とレポート出力――の六つのステップで構成される。特にポイントとなるのは、⑤30分値の可視化だ。一般的には、カーボンフリー化のための環境価値は年間で管理し、月間の電力消費量に見合った分を購入する。一方、同システムでは30分単位で環境価値を管理。再エネで発電した電気と環境価値でカーボンフリー化した電気を区別することができる。拠点ごとに求める再エネ由来電力の条件が異なる場合や、設備導入の戦略検討などにも有効だ。

電力デジタルエナジーシステム開発部の塚本幸辰部長は「クラウドサービスなので、国内外問わず利用できる。参加企業が増えると、自社の拠点間だけでなく企業間での環境価値のやりとりも可能になる。そうした場として提供することで、環境価値の管理が普及していく」と今後の展望を語る。企業の脱炭素化と環境価値市場の成熟に資する同システムの実装に期待が高まる。

【特集2】地質調査をワンストップで提供 風車設計や認証取得に寄与


【基礎地盤コンサルタンツ】

今年創業70周年を迎える「基礎地盤コンサルタンツ」。長年にわたり培った技術と知見で、洋上風力発電の地質調査も手掛ける。

地質調査には、広域を探る探査や船を用いた調査、海底を掘るボーリングなどの手法がある。同社は各分野で技術力を有する企業とアライアンスを結び、地質調査をワンストップで提供。また、ノルウェー地盤工学研究所(NGI)とは互いのノウハウを交換し合う相互協力の関係。海底地質リスク評価会には海底で起こる地滑りやガス噴出などのリスク提言も行う。

3カ所全ての認証に貢献 日本特有のリスクを解明

洋上風力の開発は①デスクトップスタディー、②気象・海象調査、③第一次地盤調査(概略調査)、④風車基礎やレイアウトの検討、⑤基本設計、⑥第二次地盤調査(全数調査)、⑦EPC(設計・調達・建設)選定、⑧実施設計、⑨ウインドファーム認証委員会の承認、⑩拠点・基地港の整備、⑪建設工事、⑫メンテナンス―で進む。加えて環境影響評価も行う。

地質調査は主に③と⑥、⑨に関わる。③は風車の設計やレイアウトの検討材料となる。音波探査やボーリングなど、複数の手法を組み合わせ、地盤全体を把握する。レイアウトの決定後、風車が建つ地点を原則ジャストポイントで調査する。これが⑥だ。時間がかかるボーリングは代表的な地点のみ、ほかはセンサーを搭載したコーンを地盤に貫入させるCPT調査を行う。⑨の認証は地盤と設計の両方で受けるため、適切な調査データが必要となる。

洋上風力発電施設と海底ジオハザードの関係

同社は、現在認証を受けているプロジェクト3カ所全てに携わっている。3カ所とも港湾区域だが、今は沖合での開発が進んでいる。日本はアクティブマージンという、プレートがせめぎ合う場所にある。ゆえに、地盤が安定しているヨーロッパにはない問題が潜んでいる。

野村英雄営業本部長は「日本国内で安全に洋上風力を進めるには、こうした問題は避けて通れない。日本の洋上風力の発展に協力していきたい」と意気込みを語った。