脱石炭が加速する欧州の中でも、特に英国とドイツでは長年石炭火力が供給上重要な役割を果たした。両国ともCO2対策で使用停止を決めたが、国内事情を反映し、政策決定の歩みは大きく異なっている。
平野学/海外電力調査会調査第一部欧州グループ上席研究員
【英国】CO2排出価格の下支え制度 容量市場で火力の収益改善へ
英国において石炭はエネルギー供給源として基幹的な役割を担い、電力供給でも1990年に構成比65.3%と太宗を占めていた。しかし90年以降は北海のガス田開発が活発化しガス火力への転換が進み、2000年代に入ってガス生産量が減少する中、エネルギー供給の安全保障を確保するため、電力部門で大きな制度改変が進められることになった。
08年に「気候変動法」を定めるなど、英国は気候変動問題に対して世界に先駆けて取り組みを始めた。しかし電力供給構造を見ると、石炭火力を中心に老朽化した発電設備が供給力の多数を占め、その多くが10年以内の閉鎖が想定されるなど脆弱性は否めず、送電運用事業者は、09年に20%あった供給予備力が14年には2〜3%まで低下すると報告していた。
この事態を打開するため英国政府が提案したのが「電力市場改革」(EMR)である。低炭素電源の固定価格買い取り制度を導入する一方、石炭火力の多くが建て替え時期を迎え、石炭のほとんどを輸入に依存していたことから、英国政府が石炭の活用を検討することはなかった。このためEMRではCO2排出量の多い石炭火力の運転抑制を目的に、CO2排出価格の下支え制度(CPS)が導入された。13〜17年にかけてユーロ危機による経済低迷、それに伴うエネルギー需要の伸び悩みなどを背景にEU排出量取引制度(EU‐ETS)の価格がCO21t当たり5ユーロ前後と低迷し、CO2排出削減が思うように進まなかった。13年度から始まったCPSは、英国政府が設定するCO2排出価格の下限値にEU‐ETSの市場価格が届かない場合、その差額を発電用の燃料に課税する仕組みだ。CPS導入により石炭火力の停止が加速することになった。

提供:Draxウェブサイト
またEMRでは需給調整に優れたガス火力の収益を確保し、投資を促す仕組みとして容量市場が創設された。14年以降4回の入札が行われ、いずれも目標調達容量を上回る入札容量が集まり、容量確保の役割を果たしている。落札した電源はCCGT(43.1〜47%)、石炭・バイオマス(6〜18.7%)、ガスタービン(4.3〜7.2%)などで、火力発電の収益改善に一定程度寄与すると考えられる。
英国の電力供給に占める石炭火力の割合は19年に2.1%まで減少し、さらに20年4月10日から67日間、石炭火力の発電量がゼロを記録するなど政府が目指す停止期限(24年)を前倒しで達成する情勢である。ガス火力の稼働率も低下し火力発電の事業環境も厳しくなっているが、現時点で電力供給全体として大きな問題とは認識されておらず、現行の政策が継続することになりそうだ。







