【記者通信/8月4日】政府が節電ポイント概要公表 DR効果や公平性はなお不透明


経済産業省は8日3日、需給ひっ迫と物価高対策として節電ポイントを付与する事業の概要を明らかにした。小売り電気事業者などが今冬に実施する節電プログラム(DR・デマンドレスポンス)に参加を表明すると、「節電プログラム参加特典」として低圧契約者に2000円、高圧・特別高圧契約者に1法人あたり20万円を支援する。しかし、実際の節電量に応じて特典を与える制度についての詳細は検討中だとした。節電ポイントについて需要家の間にある効果や公平性に関する懸念を払しょくするには至っていない。

政府が実施を予定する節電ポイント事業は、二つの枠組みから成り立っている。①節電プログラム参加特典、②節電達成特典――だ。財源は新型コロナウイルス・物価対応の予備費から約1800億円を充てる。全国に存在する約9000万の契約口の半数の参加を想定しての予算額だという。

①は小売り電気事業者などが実施する今冬の節電プログラムに参加を表明した需要家に2000円、ないしは20万円のポイントを支援するものだ。8月4日~12月31日までにインターネットなどで参加を表明すると、8月4日~来年1月31日の期間にポイントを付与する。

②は、節電プログラムに沿って、実際に節電を行った家庭や企業に対して特典を与えるものだ。こちらは今冬の実施を予定しており、これまでDRのメニューを持っていなかった事業者にも取り組みを広げることを狙っている。

経産省は8月4日から、節電プログラムを実施する小売り電気事業者などからの公募を受け付ける。小売り事業者が具体的なDRメニューを確定していない場合でも申請は可能だ。経産省が10~11月頃にその詳細を確認し、条件を満たす事業者を順次採択する。その後、需要家にプログラムの内容の周知や試行実施を行う。厳しい需給状況が予想される12月~3月の4カ月間の節電を重視するためだ。

節電効果は不透明 一括受電事業者も対象に

政府が7月に節電ポイントを打ち出した際に噴出した疑問点は拭い切れていない。一体、どれほどの節電効果が見込まれるのか。また、各社のDRのベースラインもバラバラだ。「2000円」目的で節電プログラムに参加したとしても、実際に節電に参加する保証はどこにもない。

そもそも2000円支援は、 その場しのぎのバラ撒きとの批判が根強い。政府は当初、一世帯あたりが節電で獲得できるポイントは、金額換算でわずか月数十円程度としていた。すると「安すぎる」「効果がない」などと批判が殺到し、節電プログラムに“参加するだけ”で2000円を支援すると改めたのだ。

NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューションが行ったアンケート調査によると、今夏、節電に取り組む意欲があると回答した人は83.8%に達したが、節電で報酬がもらえればモチベーションが向上すると答えた人は35.9%だった。裏を返せば、6割強の人は報酬をもらったところで節電に取り組みたくなるわけではなく、まして月数十円程度のインセンティブとなれば絵に描いた餅だろう。

ただ、一括受電事業者も対象となることは評価できる。概要の公表前、マンションなどの一括受電事業者は電気事業法で定める小売り事業者ではないため、そこに住む世帯が対象外になるのではないかと懸念する声があった。節電ポイントのすそ野が広がったことになる。

国民への「お願い」の前に 問われる政治決断の覚悟

政府による節電要請は、東日本大震災後に原子力発電所の長期稼働停止を受けて行った2015年以来、7年ぶりのことだ。今冬には、数値目標をつけた節電要請が検討されている。物価高や電気代の高騰で重くのし掛かる家計や企業への負担を軽減しながら、需給ひっ迫にも対応する。一石二鳥を狙った取り組みだろうが、政府にはそれ以上にやるべきことがあるのではないか。

岸田文雄首相は7月27日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の初会合で、「足元の危機の克服が最優先」だとして、電力・ガスの安定供給に向けて「政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と意気込んだ。

ならば、国民に節電をお願いする前にやるべき決断があるだろう。新たな原発再稼働へ向けた原子力規制委員会による審査の効率化、地元の同意を得るための政治力の発揮──その政治決断こそが、足元の危機の克服に直結する。国民にお願いを“聞く力”を求める以上、政府にも最大限の努力を求めたい。

【特集2】ライフサイクルを完結せよ 廃止措置の現場「最前線」報告


多くの原子力発電所が廃止措置を迎える中、既に廃炉工事が進んでいる発電所がある。「ふげん」と美浜発電所1、2号機―。その作業状況を報告する。

2003年に運転を終了し、廃炉作業がすすむ「ふげん」

<ふげん>プルトニウム使用炉としての実績と成果 廃止措置のトップバッターとして技術継承も

新型転換炉(ATR)「ふげん」は2003年3月、運転を終了した。運転期間は約25年。この間、約219億kW時の発電を行い、MOX(混合酸化物)燃料772体を使用するなど、プルトニウム利用技術の実証で貴重な成果を残している。

ふげんは廃止措置においても、最も作業が進展している原子炉の一つである。08年に原子力安全・保安院(当時)が完了までのフルスコープの廃止措置計画を認可。作業を開始し、まず重水・ヘリウム系などの汚染の除去を17年度までに終えている(ちなみに重水は有用資源として、系統から抜き取り海外に輸出され利用されている)。

同時に原子炉周辺設備のうち、隔離冷却系・主蒸気系・空気再循環系設備などの解体・撤去を進めている。タービン設備では、復水器・湿分分離器などの解体と撤去を終えた。今後は原子炉本体の解体撤去を本格化し、33年度の終了を目標に作業に取り組んでいる。

原子炉本体の解体撤去を進めていく


どう効率的に進めるか 地元の協力得て技術開発

日本原子力研究開発機構(JAEA)には、前身の日本原子力研究所によるJPDR廃炉の経験・実績がある。とはいえ、発電実績のある実用規模の原子炉のトップバッターとして、試行錯誤を続けている面もある。廃止措置部の水井宏之部長は「作業を効率的に進めるのに大切なのは、プロジェクトマネジメント」と話す。

そのプロジェクトマネジメントで重要な要素となるのが、作業を安全、円滑に進めるための新技術だ。ふげんでは地元福井県の自治体、企業などと積極的に連携、研究開発を進めている。
運転時に燃料体を装荷していた圧力管などが配置される原子炉中心部は、高い放射線量を持つ。今、この圧力管などをロボットアームにより水中でレーザー切断する工法に挑んでいる。国内の原子炉では例がないこの工法は、JAEAの敷地内にある「スマートデコミッショニング技術実証拠点」で実証試験が行われている。

また除染では、金属などの粒をぶつけて放射能を含む汚れを削り取る工法を確立。これには地元企業の技術が大きな役割を果たしている。

制御棒駆動機構支持プラグの撤去作業

現場で続く試行錯誤 厚さ4mの壁を貫通

いかに作業を効率的に進めるか、現場でも試行錯誤が続いている。頭を痛めたことの一つが、スペースの確保だ。限られた空間の格納容器内で設備を解体していけば、どんどん作業に必要な場所が埋まっていく。解決策は、原子炉格納容器とタービン建屋との間に貫通孔を設け、解体物をタービン建屋に運ぶことだった。コンクリートと鉄の壁は厚さ約4m。大掛かりの作業だったが、貫通したことにより作業効率は飛躍的に向上した。

水井氏は、効率化について「不要なものはやめる。大きなものは小さくする」と説明する。例えば、除熱の必要がなくなった使用済み燃料貯蔵プールでは、熱交換器による冷却をせずに貯蔵・管理する方法を申請し認可されている。またクリアランス制度の適用でも一歩先行。年間約150t規模の対象物の測定・評価を実施している。

「ふげんで得た技術やノウハウは、ここで終わりにしない」と水井氏。高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置も視野に入れ、作業をより効率的にと、作業に関わる全員が知恵を絞っている。

【特集1】「規制」と「自由」の逆転現象 新電力が直面する料金戦略の難局


新電力は高圧での「ラストリゾート問題」に続き、低圧での自由料金と規制料金の「逆転現象」に直面。各社が料金戦略の練り直しやDRの取り組みを進める一方、政策の見直しを求める声が高まっている。

全エリアで大手電力会社の経過措置規制料金が残る電力の低圧部門では、自由料金の戦略練り直しが課題となっている。新電力は、料金規制の撤廃や、撤廃までしなくとも燃料費調整制度の上限値を見直さなければ、自由化の進展にブレーキがかかると懸念する。

小売り全面自由化当初から、新電力各社は規制料金を基準に、そこから安値を提示するように料金を設計。営業効率や顧客の分かりやすさを重視した結果、独自燃調などの文字通り「自由」なプランは少なく、大手電力各社の燃調上限をそのまま採用するケースが大勢だ。しかし価格高騰が終息する気配がない中、最近では燃調上限を撤廃する新電力が増えている。


3 月末に燃調上限撤廃を表明した楽天エナジー

燃調上限撤廃か維持か この局面で上限設定も

東急パワーサプライの場合、春頃までは電源の市場調達抑制といった努力で耐えようとしてきたが、同社が供給する東京エリアの平均燃料価格が上限に達したタイミングで、上限を撤廃する方向で検討を進めている。「これ以上の影響は看過できない」(同社電力企画室)との判断だ。同社はもともと安値を強く訴求するわけではなく、電気料金だけではないサービスとのバンドルでの「おトク感」をアピールしてきた。とはいえ、「上限撤廃後の新料金と、いずれはなくなる規制料金が逆転する状況はいびつだ。高圧での最終保障供給約款を巡る状況と似たような構図」(同)と訴える。

上限撤廃後は、「規制料金と比べて誰でもおトク」といった従前の説明はできなくなる。「お客さまに燃調制度を正確に理解してもらうことの難易度が高い点が、新規獲得のブレーキになると懸念する。誤認がないよう営業も守りになる」(同)と課題を挙げる。

逆に上限維持を選択した事業者も、規制料金と自由料金の「逆転現象」の解消、つまり規制料金の在り方の見直しを求めている。ソフトバンク系のSBパワーは、顧客にとっての分かりやすさ、規制料金からの移行のしやすさを追求しており、燃調上限の撤廃は熟考の構えだ。「燃調の上限があることは短期的には需要家保護につながるが、今は需要家が規制料金に逆戻りして競争が起きていない状況。それは将来の需要家の選択肢を狭めることになる」(同社事業戦略部)と指摘する。

日本全体で約半分に規制料金が残る現状を新電力から見ると、燃調上限を突破したエリアでは大手電力が本来の適正価格よりも安値で販売し顧客を獲得していることになり、一般的な商売であれば独占禁止法上の問題も出てこよう。同社は「競争環境のいびつさこそ課題。総括原価からの脱却という電力システム改革本来の目的と逆行する」として、政府に一段踏み込んだ検討を求めている。

一方で、この局面であえて上限を設定するケースもある。KDDIはこれまで、auでんきで燃調の上限を設定してこなかったが、大手電力の燃料価格が上限を突破したエリアで上限を設定し始めた。「auでんきの料金は、地域電力会社の従量電灯の料金と同等で提供してきた。その趣旨に則り、契約約款も含めて適切な改定を行った」(同社広報部)と説明する。

いずれにせよ、自由料金の設計当時には想像し難かったこの異常事態を乗り切ろうと、それぞれ苦渋の決断を下している。

【記者通信/8月1日】GX会議初会合で首相が指示 原子力政策立て直しにどこまで踏み込むか


政府は7月27日、GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の初会合を開き、今後の論点を確認した。初会合で強調されたのは、足元のエネルギー危機への対応を意識した上でのGX戦略の必要性だ。特に目下最大の懸念事項である今冬以降の電力やガスの安定供給に向けて、岸田文雄首相は、原子力政策で政治決断が求められる項目を具体的に示すよう要請した。岸田政権が参院選後に着手すると見られてきた原子力政策の再構築にどこまで踏み込むのかが注目される。

原子力再稼働への追い風となるのか(写真は島根原発)

会議では、エネルギーの安定供給の再構築に必要な方策を整理した上で、脱炭素に向けた経済、社会、産業構造変革への今後10年のロードマップを策定する。会議の議長は岸田首相、副議長は同日付でGX実行推進担当相に就任した萩生田光一・経済産業相と、松野博一・内閣官房長官が務め、環境相や財務相、外務相も参加。有識者としては、勝野哲・中部電力会長、杉森務・ENEOSホールディングス会長、十倉雅和・日本経済団体連合会会長、岡藤裕治・三菱商事エナジーソリューションズ社長、竹内純子・国際環境経済研究所理事・主席研究員らが議論に加わる。

初会合で岸田首相は、足元のロシア問題やエネルギー価格高騰を踏まえ、「国内における電力やガスの需給ひっ迫の懸念など、1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて緊迫した状況」と強調。足元の危機への対応と、30年、50年に向けたGXの実行を一体的に捉えた議論を行うよう指示した。そして、再生可能エネルギーや蓄電池、省エネの最大限の導入を図りつつ、「原発の再稼働とその先の展開策など具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してほしい」と言及した。

岸田首相は14 日の会見でも、今冬に原発9基を稼働させる方針を表明しており、それに続いて原子力政策のてこ入れに意欲を示した格好だ。

複数の委員からも原子力政策に関する要望する意見が相次ぎ、「再稼働に向けた立て直しが大事」「9基再稼働の表明に加え、既存原発の稼働延長やバックエンド、新増設・リプレース、革新炉の開発も重要」「早期再稼働と、新増設・リプレースに向けた事業環境の整備を進めるべき」といった意見が挙がった。

首相指示の「原子力で政治決断が求められる項目」について、事務局は中身の検討はこれからだと説明する。特に状況が危機的な東日本の需給ひっ迫の改善につながる柏崎刈羽原発などの再稼働、原子力規制委員会による新規制基準適合性審査の効率化、新増設・リプレースの方針明示などは、まさに政治決断なくしては動かない問題だ。ただ、「クリーンエネルギー戦略」(CE戦略)の議論でも、昨年末のスタート当初は「第六次エネルギー基本計画で踏み込めなかった原子力の課題に着手するのでは」などと期待が高まったものの、結局政権は今年7月の参院選まで荒波を立てないことを選択した。此度こそ正念場となるのか、そして岸田政権はどのような決断を示すのか。

GX移行債の償還財源 CP政策も踏まえた議論の行方は

もう一つ注目の論点は、岸田首相が5月下旬のCE戦略に関する有識者懇談会で表明した「GX経済移行債」だ。こちらの制度設計も次回以降本格化することになる。6月7日閣議決定の「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」の中では、「成長志向型カーボンプライシング(CP)構想」を具体化し、最大限活用すると言及。同時に、150兆円超の官民投資を先導するための政府資金を、〝将来の財源の裏付け〟を持った「GX移行債」で先行して調達する政策と一体的に検討するとしている。

ポイントは、この「将来の財源」をどう手当てするのかだ。2023年度から始まるGXリーグでのカーボンクレジット取引を政府主導で有償化してその収入を充てる案、または炭素税を導入してその税収を充てる案などが浮上している。ただ、例えば一口に炭素税といっても、商品段階で消費税的に課税して一般財源化するのか、電力や燃料段階で課税するのか、などその手法はさまざま。さらに既存のエネルギー諸税の整理も必要だろう。なにより、国民が足元の物価高や円安に苦しむ中、どの程度の負担を課すのかは大きな関心事になる。GX移行債を巡る政治決断の行方も焦点となっている。

【特集2】神戸市とセミMグリッド実証 3電池で電力地産地消に挑戦


【大阪ガス】

大阪ガスが神戸市と連携し、既設の配電網を活用した「セミマイクログリッド」の実証を開始した。エネファーム、太陽電池、蓄電池の3種類を制御し、地域での電力地産地消を目指す。

脱炭素化の潮流に加え、世界的なエネルギー資源の供給不安、国内の電力需給ひっ迫リスクが拡大する中、エネルギーの地産地消のニーズは増すばかりだ。こうした社会課題に合致する実証が今春、神戸市で始動した。

大阪ガスと神戸市は今年度、再生可能エネルギーの最大限の活用を目指す「セミマイクログリッド」実証に取り組む。目的の一つに環境性と経済性の両立を掲げていることから、コストがかさむ自営線を敷設せず、既存の配電線を活用。あえて〝セミ〟マイクログリッドとした。

「セミマイクログリッド」実証のイメージ

蓄電池+燃料電池の可能性 系統電力への依存低減

これまでも分散型リソースを遠隔制御する同様の実証はさまざまあり、大阪ガスもVPP(仮想発電所)構築実証に取り組んだ経験がある。一方今回は、家庭用燃料電池・エネファーム、住宅用太陽電池、蓄電池の3種類のリソースを組み合わせる点が特徴的だ。一般販売されている3電池を活用する実証は日本初になる。変動する太陽光の発電量に対し、調整力として一般的に組み合わせる蓄電池に加え、エネファームも活用することで、100世帯規模で系統電力への依存を低減し電力の地産地消を目指す。

実証を担当する大阪ガスマーケティングでは、「周波数レベルでの需給バランスは難しいにせよ、今回は30分同時同量レベルで系統電力を購入せずに済む状況を実現させたい。分散型リソースを最適に制御した上で、CO2排出量などの環境性にもどのような影響があるのか検証していく」(商品技術開発部)方針だ。

約100世帯を仮想街区とし、神戸市民で3電池のいずれか、または複数を保有する顧客に参加を募り、新たに設備を希望する場合については顧客負担で設置する。具体的には、①各家庭の需要や機器の稼働状況をリアルタイムで把握、②収集データから街区全体の需要をAIなどで予測、③需要予測に基づく制御計画を設定、④リアルタイムの状況も踏まえたエネファームや蓄電池の最適制御―に取り組む。

4月上旬から参加者の募集を開始したところ、顧客からの問い合わせは当初の予想以上に順調という。遠隔制御は夏以降に開始し、2023年3月まで実証を行う。

以前のVPP実証の知見などを踏まえ、この規模の電力需要を自家消費ベースでコントロールするために十分な分散型リソースのボリュームとして、3電池それぞれの導入数を想定しているという。運用面では、街区全体の需要や太陽光の発電状況に合わせて、各家庭のエネファームの出力や蓄電池の充放電を制御していく。同社は「VPPでは親アグリゲーターからの指示に合わせた制御だったが、今回は自ら需要を予測して長期間の制御計画の策定に挑戦する」(同)と強調する。

【特集1】異常な市場高騰で二極化が加速 減益決算に見る新電力の試練


2021年初頭の市場価格高騰が経営に打撃を与えたまま、現在も環境が回復する兆しはない。最新の経営実態について緊急アンケートを実施したところ、各社の直面する現状が見えてきた。

2021年度の全国の倒産件数は、57年ぶりに6000件を割る低水準に収まった。これは実質無利子・無担保融資など政府の新型コロナウイルス関連の資金繰り支援策の効果だといわれている。

しかし新電力業界は数少ない例外だった。JEPX(日本卸電力取引所)スポット価格の振り幅が大きかった21年、新電力の倒産件数は過去最多の14件に上った。これらのほとんどが新電力専業組だ。

2021年以降撤退・経営破綻を発表した主な新電力(本誌調べ)

新電力専業は赤字大幅上昇 転売ビジネスの限界表面化

同年は、1月に電力需給ひっ迫に伴う卸市場のスポット価格高騰が発生し、その一服後も、世界的なエネルギー高騰やJEPXへの電気の供出量減少などで秋以降、価格が再び上昇。現在まで逆ざや状態が続き、ロシア有事の勃発も相まって、収束の気配はない。

他方、新電力向けの情報サイトを運営するエネルギー情報センター理事の江田健二氏は、21年初頭の価格高騰前にも注目すべき局面があったと指摘する。コロナ禍の入り口の20年3月ごろは一段と市場価格が安くなっていた時期で、新電力は年間の相対契約を結ぶかどうか悩むケースが多かったという。20年末までは相対を結ばない社の方がもうかったのだが、一転、21年に入った途端、形勢が逆転したのだ。

新電力専業組のうち21年中に業績が判明した212社に関する東京商工リサーチの調査によると、赤字会社が56.3%と、前期(24.1%)から大幅に増加した。最新期決算で3期連続の比較が可能な137社の動向を見ると、21年の売上高の合計は1兆8699億円と増収だった。しかし損益の合計は593億円の赤字で、326億円の黒字だった前期から大きく落ち込んでいる。

新電力の市場自体は拡大を続けるものの、業界全体で見ると利益が大きく下がっていることが分かる。参入者が多い介護業界も同様に利益が下がる傾向にあるが、それでも新電力ほど極端な状況ではないという。同社情報部は「ここまで調達価格に左右される業界も珍しい。今は電力以外の品目は概ね価格転嫁できている。しかし新電力が値上げをしても大手電力より高い値段であれば差別化が難しい。差額ビジネスの厳しい状況に陥っている」(増田和史課長)と分析する。

ただし、倒産した14件のうち7社は新電力ベンチャー・パネイルの子会社だった。しかも、政府のコロナ対策で借り入れをしやすい状況にあることから、「思ったよりも倒産は少なくて済んだイメージ」(同)。例えば21年初頭の高騰局面で発生したインバランス料金の支払いなどで借り入れを抱えた状態で、今後さらなる調達価格高騰を迎えるようであれば、経営状況はかなり苦しくなる。

【特集2】国内の大手電力向けアセスを実施 業界全体のレベルアップが重要


【インタビュー:下村貴裕/資源エネルギー庁電力産業・市場室長】

政府は電力のサイバー対策について、業界構造の現状を踏まえ検討してきた。この間の議論のポイントなどについて、経済産業省の担当者に聞いた。

資源エネルギー庁電力産業・市場室の下村貴裕室


―産業サイバーセキュリティ研究会では2018年度から電力サブワーキンググループ(電力SWG)を13回開催しています。この間、どのような議題について検討を重ねてきたのでしょうか。

下村 経済産業省では産業界全体でサイバーセキュリティー対策を強化していくため、事業者や学識者らを交えた研究会で検討を進めています。この研究会の電力SWGでは、事業者の取り組みの現状や課題を取り上げてきました。
 主な議題は、大手電力の対策、電力自由化以降の新規参入者の対策、サプライチェーンの対策などです。重要インフラへの脅威に対し、どのようにリスクを特定するか、攻撃を防ぐか、あるいは攻撃をいかに早期に検知するか、検知した際にどう対応するか、そしてどういった手順で復旧すべきかといった点について、世界的によく知られたフレームワークがあります。これを参考に、日本の大手電力に向けてアセスメントを実施してきました。

―電力の対策としては特にどのような点が重要になりますか。

下村 詳しい内容を公表すること自体が脆弱性につながるので詳細な紹介は差し控えますが、大事なことは共通フレームによるアセスメントを行うことにより、各社が足りない点に気づき、学び、全体として対策の底上げにつなげること、そして継続的に改善する姿勢の醸成が重要と考えています。
 また電力自由化の下、多くのプレイヤーが電力システムに参加するようになったことも重要な視点です。このため、小売り電気事業者に対するガイドラインを昨年策定したほか、再生可能エネルギー事業などの発電事業者を対象として、グリッドコードでのサイバー対策の位置付けを明確化しました。大手電力だけでなく、自由化以降の新規参入者も含めて取り組みを深め、全体としてのレベルアップを図っていきます。

トップマネジメントが重要 継続的な対策高度化に努める

―21年の東京五輪・パラリンピックにはどう対応しましたか。

下村 これも重要な議題の一つでした。実際に供給支障を伴うサイバーインシデントは確認されませんでしたが、常時とは違うどのようなリスクがあり得るかを議論し、対策を講じました。大会本番に際しては、大手電力社長が参加する電力サイバーセキュリティー対策会議を開催しました。サイバー対策はトップマネジメントレベルでの理解が重要との考えからです。

―国内外に、どのような攻撃事例があるのでしょうか。

下村 電力関係における攻撃事例としては、15年のウクライナの変電所へのサイバー攻撃があります。また、最近では電力以外の国内メーカーがサイバー攻撃を受けた事案が発生しました。 

―そして現在のウクライナ有事を受け、サイバー攻撃の潜在的なリスクが高まっていると、政府が注意勧告を行いました。

下村 一般論として、昨年と比べてサイバーリスクが高まっていると認識しており、産業界全体に注意するよう呼び掛けました。米国バイデン政権も国内インフラへの攻撃に備え、対策強化を呼び掛けています。重要インフラ対策の必要性が高まる中、日本の電力会社も日々情報収集のアンテナを張り、電力業界全体で情報共有を図りながら、対策の高度化に継続的に努めることが重要になります。

【特集1】戦後最大危機を乗り越えられるか 脱ロシアで深まる歴史的分断


ロシアへの経済制裁が激しさを増し、エネルギー供給網などで深刻な分断が起き始めている。第一次石油危機をも超える今回の事態をどう乗り切るべきか。専門家が激論を交わした。

【出席者】藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー、加藤 学/国際協力銀行地経学リスク対応担当特命審議役、大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表

左から藤氏、加藤氏、大場氏

―ロシアの侵攻開始以降、エネルギーを始め世界経済に多大な影響が出ています。

加藤 ウクライナ東部出身のゼレンスキー大統領は44歳で、NATO(北大西洋条約機構)加盟を公約に掲げ大統領となりました。一方、ロシアのプーチン大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領らは60代後半で、旧ソ連の良き時代に生まれた世代。両者の間にはジェネレーションギャップがあります。プーチン氏は、ウクライナが主権国家となり30年かけて国体をつくり上げてきたことを理解していませんでした。ゼレンスキー氏はなかなかNATO加盟の旗を降ろしませんでしたが、ようやく政治の現実を見極め始めています。一方、NATO側もこの間、ロシアを仮想敵国として振る舞い続けました。

大場 ウクライナの抵抗、西側の経済制裁の踏み込み方、それを受けてもロシアが意思を変えないことは双方に取って予想外でした。結果、戦闘が長期化し、経済的にも人的にも犠牲の我慢比べになってしまった。ロシアの意思をくじくためには、米国に続く石油禁輸くらいの強い制裁が必要ですが、西側にも相当の覚悟が求められます。また、ジェネレーションギャップは西側にもいえる問題です。ソ連崩壊時に行った経済制裁では、ソ連への石油掘削機の輸出を禁じ、サウジアラビアと協力して石油価格をつり下げ、ソ連の内部崩壊へ導きました。そのイメージが西側首脳の一部に根強かったのではないでしょうか。しかし今は中国から機材を買えるし、原油価格は高い状況です。

 欧米の経済制裁は苛烈です。SWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除は予想されていましたが、ロシア中央銀行が保有する米ドルとユーロの外貨準備凍結は想定外でした。ロシアの軍事侵攻同様、欧米の経済制裁についても度が過ぎているのではないかと危惧しています。

加藤 キエフの軍事侵攻があり得ると事前に語っていた数少ない一人、米安全保障シンクタンク・CANのマイケル・コフマン氏は、ロシアの軍事侵攻は数カ月かかると見ています。プーチン氏にも側近からこのままでは国が亡ぶという訴えがあれば、ウクライナのNATO非加盟を巡る合意が一定の落としどころになるのではないでしょうか。ただ、ウクライナ側はロシアへの吸収や国土の分割などはクリティカルな問題で受け入れられず、難しい交渉になります。

 2008年のグルジア紛争後の処理がモデルになると思います。ロシアは南オセチアとアブハジアを一方的に承認し、現在に至っています。クリミアとドネツク・ルガンスク州の扱いは、ロシアとウクライナの間で玉虫色の合意となるでしょう。そうした状況が続けば、ウクライナはNATOに加盟できません。

―泥沼状態を抜ければ、世界経済の明るい兆しが見え始めるでしょうか。

 今回実施された経済制裁は米国ランド研究所が19年に発案したプランがベースだと言われています。敵国に与える打撃という点では極めて効果的ですが、「返り血を浴びる」というマイナス面も甚大です。制裁が長期化すれば、世界経済システム全体が毀損するリスクが生ずると言わざるを得ません。


懸念される欧州の社会不安 もっとも不安視されるドイツ


加藤 今は地経学の時代で、米露が直接戦争できない中、西側の主な武器は経済制裁となります。一方のロシアも、西側の市場経済体制に参加し、国民が所得を増やしてきたからこそ、プーチン体制が支持されてきました。外貨準備高のうち3000億ドルの凍結はロシアも意表を突かれた措置。ただし、SWIFTでは、ロシアは欧州とのエネルギー取引があるため、イラン向け制裁のように全銀行を除外することは難しく、数行に限る方針としました。
 そして今起きているのはエネルギーサプライチェーンの分断です。ロシア産資源の生産量の世界シェアは天然ガス17%、石油13%、石炭5%ですが、禁輸を表明した米国に続き、欧州のトレーダーもロシア産原油を敬遠し始めました。このままだと未曽有の世界的なエネルギー安保危機に陥ることもあり得ます。

大場 世界シェアは輸出量ベースではガス40%、石油20%、石炭20%となり、影響はさらに大きい。仮にドイツのメルケル政権が続いていたら、ここまでの事態にはならなかったでしょう。メルケル氏は、ノルドストリーム2の稼働を承認するなという米国の要求を突っぱね、米国の対ロ政策に完全には同意しませんでした。しかし2月22日にロシアが東部2州の独立を容認したことに反発し、ショルツ政権が承認停止を発表。戦火のきっかけをつくってしまった。

 私も同感です。メルケル氏が政界からの引退を決めていなかったら、昨年1月にウクライナのゼレンスキー大統領がミンスク合意の破棄を宣言し、これに反発したロシアが圧力をかけ始めた段階で、両国の仲介を行っていたはずです。昨年後半になっても欧州が動かなかったために「部外者」の米国が前面に出たことで、問題がミンスク合意からNATOの東方拡大にすり替わってしまったのです。

加藤 特に痛いのは欧州とロシア間の人的交流の断絶です。露国営石油会社ではロスネフチが英BPのルーニーCEOを、ザルべジネフチがフランスのフィヨン元首相を役員に迎えるなど、ビジネスの深い人的交流が欧露のエネルギー安全保障に寄与してきました。しかし彼らも批判を恐れていずれも辞任。結局、米国の石油・LNGの輸出に依存せざるを得なくなります。

【特集1】資源「持たざる国」の選択とは 全方位外交の産消対話が王道


インタビュー:今井尚哉/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

本誌1月号では、内閣官房参与を務める今井尚哉氏に、急進的な脱炭素政策のリスクについて聞いた。そこに重ねてのロシア軍事侵攻という難局を、日本はいかにして乗り越えるべきか。再度直撃した。

いまい・たかや 1982年東京大学法学部卒、通商産業省入省。2006年に首相秘書官(第一次安倍内閣)、11年に資源エネルギー庁次長、12年に首相秘書官(第二次・三次・四次安倍内閣)。21年から現職。

―ロシアが軍事侵攻を開始して以降、エネルギー問題がフォーカスされ続けています。

今井 2014年のクリミア侵攻前後から、ロシアと西側諸国との間でさまざまな経緯があったにせよ、今回の軍事侵攻はまったく正当化できません。しかしわれわれが感情的にライフラインを止めることは、自らの首を絞めることになります。自民党内にもサハリンプロジェクト自体が間違いだったとの声があることは残念です。

―改めて、当時の政権がこのプロジェクトを進めた理由は。

今井 目的は二つの多極化です。一つは地域的多極化。今サハリンから手を引けば、石油は100%中東に依存することになります。天然ガスはある程度多極化できているものの、やはり隣国からの調達は価格的に有利です。そもそもサハリンの話を最初に持ち掛けたのは米国のエクソンモービルで、話に乗らない選択肢はありませんでした。エクソンは自社の利益を考えてパイプライン化を提案してきましたが、日本はLNGなら乗ると返しました。なぜか。不測の事態に備え、ロシアにガス元を完全に握られたくなかったからです。
 もう一つは電源の多極化で、これは脱炭素化でも重要です。再生可能エネルギーの拡大は待ったなしですが、産業用需要を賄うには原子力比率を高め、火力は低炭素化しつつ活用する。その意味でも、サハリンはCCS(CO2回収・貯留)や水素製造の有力候補地であり、命脈は保っておきたい。

―日本の国益を踏まえ、対露政策は慎重に判断すべきですね。

今井 本気でロシアの国力を削ぐなら、中国も含めて全量ロシアからの資源輸出を止めなければならず、世界がその覚悟を持つなら日本も付き合わざるを得ないでしょう。しかし必要なのは輸出の停止で、権益からの撤退は意味を成さない。日本のロシア産ガス比率は1割弱ですが、サハリン2のガスが全て止まれば電力換算で原発5基停止に匹敵すると思います。
 今回、早急な脱炭素のリスクが改めて認識されたことでしょう。ひとたび緊急事態となれば安定供給が一気に脅かされるというリスクも肝に銘じた上で、エネルギーの安全保障を考えるべきです。


エネルギー緊急事態と認識 電気料金への転嫁容認を

―緊急時として原発再稼働を急ぐべきではないでしょうか。

今井 そのために安全審査をスキップすることへの国民的合意は得られないでしょう。既に合格した原発の稼働を急いでもらうよう、事業者に言うことしかできません。

―ロシアがウクライナ国内の原発を掌握したことで、原発防衛を強化すべきとの声もあります。

今井 サイバー攻撃やテロ対策、海岸警備の強化などはすべきですが、ミサイルにも耐え得る設備は技術的に不可能です。これはそもそも安保政策全体の問題であり、原発固有の問題ではありません。

―あらゆるエネルギー資源価格が上がり、一部で供給不安の話も出ている中、政府が「エネルギー緊急事態宣言」を発出してもよいのではないでしょうか。

今井 そう思います。しかし具体的に何をすべきかは難しい。4月以降、大手電力のうち5社が燃料費調整条項の上限を超える見通しであり、資源エネルギー庁などには上限の引き上げを認めるよう提言しています。国民には受け入れ難いでしょうが、このままでは新電力だけでなく大手電力の経営も厳しい。エネルギー産出国に経済制裁を仕掛けたのだから、本来は電気料金に転嫁させるべきです。

【特集1】世界を襲う未曽有のエネルギー危機 有事対応へ急務の安保戦略


これまで指摘されていたエネルギー安全保障上の課題が、ロシア・ウクライナ有事で噴出した。欧州では政策の根底を揺るがす大問題に。間もなく波及する日本でも政策の立て直しが急務だ。

「1970年代のオイルショックと同等の危機。エネルギー行政の枠組みを変えた当時のように政策の総点検をすべきだ」(橘川武郎・国際大学副学長)。大方の事前予想を裏切るロシアのウクライナ侵略、これに伴って本格化する国際エネルギー市場の大波乱を見据え、エネルギーの専門家からは警鐘を鳴らす声が相次いでいる。

2月24日の軍事侵攻開始以降、戦争の長期化と、ロシアへの経済制裁の強化に翻弄され、化石燃料資源価格は乱高下を続ける。今後、実際に供給途絶が起きれば市場の大荒れは間違いない。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事は、①経済制裁でロシアのエネルギー取引が制約を受け供給が減少する、②ウクライナ国内の戦闘行為でパイプライン損傷などの事態が発生、供給が減少・停止する、③欧米などへの対抗措置でロシアがエネルギー輸出を削減・停止する―といった可能性があり得るとし、「石油は2008年の最高値である147ドルが一つの目安になる。しかし、実際に供給途絶が起きればこれ以上になってもおかしくはないし、欧州の天然ガス価格がさらに最高値を超えていくこともあり得る」と指摘する。


欧州の脱ロシアは可能か 来冬の在庫水準極めて厳しく

欧州では昨年から、複層的な要因による天然ガス価格と電気料金の高騰で、経済や国民生活に多大な影響が発生。そしてついに戦火が現実のものとなり、エネルギー政策の根底が揺らぐ事態となった。

欧州の化石燃料需要に対するロシア産比率は天然ガスが4割、石油が3分の1、石炭が4分の1となっている。「ウクライナ侵攻の前、欧州委員会(EC)内ではロシアからの天然ガス供給が今冬万が一途絶えても乗り切れるとの楽観論があったが、それが崩れた」(山本隆三・常葉大学名誉教授)。欧州におけるガスプロムとの長期契約比率は2割程度とされ、これが徐々に期限を迎えていく。さらに、ECは今年末までにガスのロシア依存度を3分の1にまで減らし、27年には化石燃料全体でロシア依存ゼロを目指す構えだ。

昨年来の欧州エネルギー危機の概要(提供:エネルギー経済社会研究所)

国際エネルギー機関(IEA)も、欧州のロシアガス依存度を下げるための10の計画を公表。ロシア以外からのパイプラインによる輸入やLNG輸入、省エネ、再生可能エネルギーの導入加速などを掲げた。10の案以外にも、石炭火力の利用や、ガス火力での石油利用で一層依存度を低減できると指摘。安定供給と脱炭素化を両立させる難しさが浮かび上がる。

しかし実情は脱ロシアには程遠い。山本氏は、EU諸国はいまだに毎日10億ユーロ(約1300億円)をロシア産ガスと原油に支払っていると指摘し、「ロシアの収入は昨年来のガス、原油価格の上昇を受け、今までの数倍に増えており、この状況はまったく痛くない」と分析する。

欧州のガス貯蔵在庫レベルの推移を見ると、脱ロシアの難しさがよく分かる。ECは次の需要期前の10月初旬には在庫レベルを9割まで高めようとしている。3月末の水準は少し持ち直しているものの、過去最低に近い状況だ。

JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)のシミュレーションによると、ロシアからのパイプラインガス輸出量が例年通りであれば、在庫は過去最低並みで推移。なんとか来春まで持ちこたえそうだ。しかし、昨年はLNG価格が高騰したため各国が目いっぱい増産し、液化設備能力的にこれ以上の増産余地はない。欧州がLNGの追加手当てや省エネなどに努めても、ECの目標水準までロシア産ガスを減らせば、来年1月頃までに在庫が尽きてしまう可能性が高いのだ。

特に苦況に立たされるのがドイツだ。政権幹部が「ロシアから化石燃料輸入が止まると社会不安を招く」(ハーベック副首相)といった懸念を示す中、ロシア産ガスをドイツに送る新設導管・ノルドストリーム2の行方が注目される。

ドイツ政府は2月22日、使用前検査に必要な安全保障のレポートを撤回し、稼働にストップをかけた。ただし、レポートを再提出すれば検査は再開され、ドイツ、EUの検査が終了すれば使用可能になり、山本氏は「ドイツが永遠にこの事業を止めようとするかは疑問」だと見る。ドイツ政府の支援を背景に、1兆円超の建設費の約半分は、独ユニパーや英シェルなどの欧州勢5社が拠出したといわれる。巨額投資を無に帰す決断は簡単には下せないだろう。

【電力中央研究所 松浦理事長】社会に受容される 持続的なエネシステムの実現へ 戦略的に研究推進


カーボンニュートラルによる電気事業の環境変化を見越してさまざまな研究課題を設定。研究成果を着実に社会実装し、電気事業と社会に貢献していく。

【インタビュー:松浦昌則/電力中央研究所理事長】

まつうら・まさのり 1978年京都大学工学部卒、中部電力入社。2013年取締役専務執行役員、16年代表取締役副社長執行役員電力ネットワークカンパニー社長。18年6月から現職。

志賀 2050年カーボンニュートラル(CN)が今や世界全体の共通目標となり、先進国にはNDC(国別目標)の見直しが求められ、日本は30年46%減と大幅に引き上げました。ことに電力業界には脱炭素電源の拡充などCN対応の要請が強まる一方、足元ではエネルギーの安定供給への不安や電気料金の上昇といったさまざまな懸念も出ています。

松浦 電力業界の対応が注目を集めていることは承知していますが、日本全体のCO2排出量のうち発電部門は約4割です。残り6割の産業、家庭、運輸部門なども含め社会全体でどのような対策を講じるかが重要です。当所としては電気事業の課題解決に向けた研究が中心ですが、われわれの成果や技術をほかの部門にうまく適用できないかということも、今後よく考えていく必要があると思います。
 昨年は第六次エネルギー基本計画の策定や、英国グラスゴーでのCOP26の開催があり、脱炭素の必要性に特化した報道が目立ちました。しかし、S(安全性)+3E(環境性、経済性、供給安定性)が基本だということを改めてしっかりと認識すべきであると考えています。

社会要請見越し先手 多様な可能性検討

志賀 昨今の脱炭素キャンペーンともいえる報道がわが国の産業政策をゆがめ、将来の国民生活に負担を強いないか危惧しています。
 ここ数年は特に金融機関の姿勢が脱炭素化に大きく寄ってきている点も気になります。

松浦 21年初頭の電力需給ひっ迫の頃から燃料の問題が注目され始めましたが、こうしたエネルギーの安定供給が脅かされる事象は今後の日本社会全体にかかわる重要な課題です。
 EU(欧州連合)タクソノミーに、原子力と天然ガスが含まれる方針が表明されており、さまざまな条件が設定される見込みですが、EUがこうした方向性を打ち出したことには大きな意味があります。
 ではどのような研究にリソースを割くべきなのか。石炭火力については50年80%減目標の頃から縮減の路線は見えており、今後どう石炭を使うのかが課題となっていました。当所では19年度に策定した中期経営計画において、「持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム」の実現を50年にわが国が目指すべき姿とし、その実現に向けて七つの目標を定め、その一つとして「ゼロエミッション火力」を既に掲げておりました。
 ゼロエミッション火力に関連する研究として、当所では以前より石炭火力でのアンモニア混焼に関する研究を進めてきており、アンモニア混焼率20%まではNOXの抑制と発電効率の確保が実証できています。この成果を踏まえて火力発電所実機において、混焼率20%から徐々に高めていき、その後、水素混焼にも挑戦することを計画しています。研究の成果は課題が生じた時にすぐに創出できるものではありません。あらかじめさまざまな選択肢を用意し、可能性を吟味しておくことが重要です。

【特集1】伝えたい「閉じたサイクル」の実力 貴重なウラン資源の有効利用


脱炭素の潮流により、今後、各国で原子力発電所が建設ラッシュを迎える。天然ウランの価格高騰が予想され、高速炉サイクル開発の必要性が増している。

【出席者】佐賀山 豊/日本原子力研究開発機構高速炉開発タスクフォース リーダー、澤田哲生/東京工業大学助教、田中治邦/日本原燃フェロー

左から佐賀山氏、澤田氏、田中氏

澤田 六ヶ所再処理工場の完成が迫る中、EU(欧州連合)がカーボンニュートラルのためにタクソノミーで原子力を選択肢に含めるなど、原子力の実力に関心が高まっています。 

 これから原子力開発を進めるには、資源を有効利用するための「閉じた核燃料サイクル」(※)、その中心となる高速炉の将来像を明確に示すことが欠かせません。ところが、今は将来像がぼやけています。核燃料サイクルは原子力政策の要です。今日はあらためてその意義をお聞きしたい。


天然ウランを余すことなく利用 高速炉サイクルの画期的な能力


田中 エネルギー資源のない日本にとって、準国産エネルギーである原子力はエネルギーを安定供給する上で不可欠です。さらに政府が2050年カーボンニュートラルを目指すことを決めた中、その必要性がより高まっています。

 軽水炉で利用するために天然ウランを濃縮してつくる燃料では、ウラン資源の0.7%しか使えません。もし、使用済み核燃料を再処理しないで、直接処分(ワンススルー)するならば、ウランの可採年数は化石資源と変わらないことになります。やはり、天然ウランのほとんどを占めるウラン238をプルトニウムに変えて、燃料として利用する核燃料サイクルが、原子力の最も望ましい利用方法です。そうすることで、原子力を長い期間にわたり安定的に利用することができます。

 今、MOX(混合酸化物)燃料を軽水炉に装荷するプルサーマルを進めています。プルサーマルでは天然ウランの利用効率が2割増しほどになる効果しかありません。しかし、プルトニウム燃料を高速炉で使うならば、天然ウランをほぼ全て使うことができます。ですから、将来は高速炉を中心とした核燃料サイクルにするべきです。プルサーマルは、それに切り替えるまでの第一ステップだと思っています。

澤田 世界中の国々が今後、脱炭素化を本格的に進めるならば、先進国を中心に原子力発電を増やさざるを得ません。中国、ロシアでは既に増えています。すると、ウラン資源の争奪が始まるかもしれない。その中で日本が原子力発電を続けるとすれば、閉じた核燃料サイクルの重要性が浮上してくるはずです。

佐賀山 その通りだと思います。田中さんも言われたように、高速炉を利用すれば天然ウランのほとんどを使うことができます。閉じた核燃料サイクルは資源の有効利用、すなわちエネルギー安全保障上非常に大きな意味を持ちます。さらに環境負荷の低減、つまり放射性廃棄物の減容と有害度を低減することもできます。

 具体的には、核分裂しないウラン238が原子炉内で中性子を吸収すると核分裂するプルトニウム239になります。軽水炉によるプルサーマル利用では、水で減速した熱中性子を利用するので、プルトニウム239の一部が核分裂しないプルトニウム240などになってしまう。プルトニウムが高次化して、核分裂をしないプルトニウムができてしまいます。一方、高速炉は高速中性子を利用するので、プルトニウムの高次化はほとんど起きません。

 さらに、使用済み燃料を再処理する際に、非常に長い時間放射線を出し続けるマイナーアクチノイド(MA)核種を分離し、プルトニウムと混ぜて燃料として燃やすことができます。軽水炉では廃棄物となるMAを高速炉では燃焼させることができるのです。これにより、高レベルの放射性廃棄物量を削減するとともに、放射能レベルが天然ウラン並みになるまでの時間を大幅に短縮し、有害度を低減することもできます。

 ですから、軽水炉でプルトニウムを混ぜたMOX燃料を使うことは可能ですが、効率はよくないし、放射性廃棄物の有害度を低減することができません。やはり高速炉で使うことが最もふさわしい。

澤田 すると、軽水炉サイクルとして、プルサーマルを進めることの意義をどう考えますか。

佐賀山 まず大切なことは、軽水炉の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを分離し、利用する技術を確立することです。その点で六ヶ所工場で再処理を行いプルサーマル利用を進めることは、核燃料サイクルを実用化していく上での第一歩です。さらにプルサーマルでの使用済みMOX燃料には、プルトニウムが多く含まれていますから、高速炉の運転開始をするときのスターターの燃料として使える。高速炉の燃料として貴重な資源です。

田中 そうですね。今、大量にたまっている使用済み燃料を六ヶ所工場で再処理をして、まずプルサーマルで1回使う。そして、使用済みMOX燃料のプルトニウムは将来、高速炉時代がきて、高速炉用の再処理工場ができたときに備えて温存して残していく。そういう点で、高速炉が普及していくまでのオプションとして、プルサーマルを進める意味は大きいと思います。


【特集1】プルトニウム有効利用と長寿命核種の低減 高速炉サイクルの新たな可能性


日本では、高速炉により半減期の長いマイナーアクチノイド(МA)の低減が求められる。そのためにふさしい高速炉マルチリサイクルの方法を選定するべきである。

藤田玲子/科学技術振興機構・革新的研究開発推進プログラム プログラム・マネージャー

年明けに日本原子力研究開発機構(JAEA)と三菱重工業が米国のテラパワー社の高速炉計画に参画するというニュースが飛び込んできた。この件については新聞報道を参考にしていただくとして、日本における高速炉・サイクル計画について今一度、考える時期にきているのではないか。またもや、技術的な議論をする前に政治的な判断が見え隠れしている。

フランスの酸化物高速炉「ASTRID」から米国の金属燃料高速炉「PRISM」へ、いとも簡単に方向転換した。ナトリウム(Na)冷却こそ共通だが、燃料形態が酸化物と金属では全く異なるにもかかわらずNa高速炉と一括りにすることに違和感と危機感を抱く。本稿では、世界の高速炉の開発状況と、これを踏まえた日本が取るべき高速炉サイクルの今後について述べたい。

世界で高速炉サイクルの研究および技術開発を先進的に実施してきた国はフランス、ロシア、そして米国である。周知の通り、フランスとロシアは酸化物燃料高速炉を、米国は金属燃料高速炉を開発している。

酸化物燃料を用いたスーパーフェニックス


フランス 酸化物燃料の高速炉開発を主導


酸化物燃料を用いた高速炉開発はフランスが主導したが、2010年に高速原型炉フェニックス(25万kW)が廃炉になり、1997年にNa漏れ事故などによってほとんど稼働せずに高速実証炉スーパーフェニックス(124万kW)が閉鎖され、大型高速炉の開発が頓挫した。2006年に第4世代炉開発計画を開始し、12年に後継の高速原型炉ASTRID(60万kW)計画を始め、研究開発を進めてきた。

しかしながら、18年にフランス原子力庁は当初60万kWとしていた出力を3分の1以下の10~20万kWに縮小し、予算のサポートが得られず最終的にはASTRID計画を放棄することになった。

ロシア 世界トップの酸化物高速炉開発

ロシアは旧ソ連時代から酸化物燃料高速炉開発を進めてきた。1973年にはBN―350(13万kW)の発電を開始し、その後、80年にBN―600(60万kW)を、2015年にはBN―800(88.5万kW)が運転を開始した。BN―800ではフルMOX炉心と閉高速炉サイクル、劣化ウラン(U)とプルトニウム(Pu)の有効利用の実証も目指している。

さらにBN―1200(122万kW)の研究開発を進めるとともに、混合窒化物燃料や鉛冷却高速炉の研究開発も進めており、酸化物高速炉開発では現在、世界のトップである。

【特集1】戦略ロードマップに基づき高速炉を開発 国は核燃サイクルを推進していく


経済産業省資源エネルギー庁 原子力立地・核燃料サイクル産業課 原子力政策課

政府は、プルトニウムなどを再利用する核燃料サイクルを原子力政策の基本方針としている。プルサーマルには資源有効利用の利点があり、六ヶ所再処理工場の稼働に向けた取り組みを進めていく。

六ヶ所再処理工場は対策工事を確実に進めてほしい(日本原燃ウェブサイトより)

政府は、第六次エネルギー基本計画でも閣議決定された通り、①高レベル放射性廃棄物の減容化、②有害度の低減、③資源の有効利用―などの観点から、使用済み燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを原子力発電所において再利用する核燃料サイクルを推進することを基本方針としている。

これを踏まえ、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、六ヶ所再処理工場の稼働に向けた取り組みやプルサーマルを推進するなど、引き続き核燃料サイクルを着実に進めていく。

現在、国は軽水炉でのMOX(混合酸化物)燃料利用(プルサーマル)を進めている。プルサーマルを進める意義は、使用済み燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを軽水炉において再利用するプルサーマルには、資源を有効利用できるという利点があるためである。

プルサーマルによって生じる使用済みMOX燃料の処理・処分の方策については、第六次エネルギー基本計画で閣議決定された通り、使用済みMOX燃料の発生状況とその保管状況、再処理技術の動向、関係自治体の意向などを踏まえながら、引き続き2030年代後半の技術確立をめどに研究開発に取り組みつつ検討を進めていく。


高速炉開発を推進 米・仏との協力を活用

高速炉の開発については、18年12月に策定した高速炉開発の「戦略ロードマップ」に基づいて取り組みを進めている。この高速炉開発の戦略ロードマップでは、当面5年間程度は、これまでに培った技術・人材を最大限活用し、民間によるイノベーションの活用による多様な技術間競争を促進して、その後、技術の絞り込みを行った上で、工程を具体化していくこととしている。

開発に当たっては、米国、フランスなどとの国際協力を活用しながら進めることとなっており、高速実験炉「常陽」、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」で積み重ねたデータや施設、日本メーカーの設計・製造能力などを活用し協力を加速していく。

こうした中、本年1月には米テラパワー社と日本原子力研究開発機構、三菱重工業との技術協力が開始されている。この協力を契機に、日米の高速炉協力のさらなる進展と、高速炉開発に関する技術力の発展に期待している。今世紀半ばの適切なタイミングにおいて、現実的なスケールの高速炉が運転を開始することを期待している。

六ヶ所再処理工場の稼働が迫っている。20年に原子力規制委員会から新規制基準に基づく許可を得たところであり、まずは足元の安全審査や対策工事を確実に進めていくことが重要と考えている。

【特集1】核燃サイクルの「現在・過去・未来」 変わらない高速炉の意義再確認を


もんじゅ廃炉が決定打となり、日本の核燃料サイクル政策は足踏み状態が続いている。世界では将来の高速炉市場を見据えた動きがある一方、日本はこのままで良いのか。

稼働停止中の高速実験炉・常陽(提供:JAEA)

昨年の自民党総裁選を通じ、論点の一つとして核燃料サイクルが改めて耳目を集めた。政策の方向転換を訴える河野太郎氏の発言が波紋を広げた。結局、総裁選・衆院選を経て発足した岸田政権は従来方針を踏襲するが、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決定打となり暗礁に乗り上げた高速炉サイクルの開発は棚上げ状態が続く。

ウラン資源争奪戦時代へ 重要性増す高速炉サイクル


にもかかわらず、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料を軽水炉で使う軽水炉サイクル(プルサーマル)だけでなく、なぜ高速炉サイクルが必要なのか。その意義を再認識し、政策を前進させるべき局面を迎えている。

サイクルの重要な意義の一つが、ウラン資源の節約だ。軽水炉で発電に利用するのは、核分裂しやすいウラン235。ウラン鉱石に約0.7%含まれ、この濃度を3~5%まで高めて燃料集合体として使う。この使用済み燃料のうち、核分裂せずに残ったウラン235やウラン238、新たに発生したプルトニウム(Pu)239の計95~97%の資源が再利用可能になる。

今後ウラン資源争奪戦が激しさを増す中、資源節約の重要性はさらに高まる。経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)が2020年に発表した報告書によると、世界の原子力発電の規模は40年に6億2600万kWと18年の約1.6倍に、年間ウラン需要は40年に約10万tUと18年の約1.7倍へと増える。ウラン資源は有限ではあるものの、当面これらの需要を満たすのに十分な資源量は存在する。

ただし、「問題は価格だ。今世紀後半に世界全体の原子力設備容量が増加するので、必ずウラン価格が上がる。そのときに価格交渉能力を維持するには、天然ウランの新規購入を必要としない炉型が必要になる」(電力業界関係者)。プルサーマルでの資源節約効果は2割増し程度にしかならないとの試算もあり、新たな燃料調達が実質不要となる高速炉サイクルがやはり必要なのだ。

廃棄物処分量の減容化や、毒性の早期低下につながる面も大きい。使用済み燃料の直接処分での高レベル放射性廃棄物の体積は、再処理しガラス固化した場合の2.7~3.7倍との試算がある。また、発熱量や放射能毒性の継続期間も、直接処分の方が長期に及ぶ。ガラス固化体の主な核種はセシウムやストロンチウムなど半減期が比較的短いものだが、使用済み燃料には半減期が長期にわたるウランやプルトニウムがそのまま含まれるためだ。天然ウラン程度の毒性に減衰する期間は、直接処分では10万年にもなるのに対し、軽水炉サイクルでは約1万年。これが高速炉サイクルでは数百年程度とさらに短くて済む。

これらの点に加え、東京工業大学の齊藤正樹名誉教授は核不拡散の観点からの重要性を説く。「大量の使用済み燃料を処分する直接処分では、自然に(核兵器に使われる)Pu239の濃縮が進み、将来『プルトニウム鉱山』になり得る」と指摘。「プルトニウムの問題は『量』ではなく、核拡散抵抗性という『質』で考えるべきだ。現在は使用済み燃料に含まれるMA(マイナーアクチノイド)は処分する方針だが、これを軽水炉燃料に少量添加すると核兵器に使用できないPu238をつくり、核拡散抵抗性が増大する。さらに高速増殖炉のブランケットに添加すると、核拡散抵抗性の強いプルトニウムの増殖も可能。MAは全量回収しリサイクルすべきだ」と提案する。