経済産業省は8日3日、需給ひっ迫と物価高対策として節電ポイントを付与する事業の概要を明らかにした。小売り電気事業者などが今冬に実施する節電プログラム(DR・デマンドレスポンス)に参加を表明すると、「節電プログラム参加特典」として低圧契約者に2000円、高圧・特別高圧契約者に1法人あたり20万円を支援する。しかし、実際の節電量に応じて特典を与える制度についての詳細は検討中だとした。節電ポイントについて需要家の間にある効果や公平性に関する懸念を払しょくするには至っていない。
政府が実施を予定する節電ポイント事業は、二つの枠組みから成り立っている。①節電プログラム参加特典、②節電達成特典――だ。財源は新型コロナウイルス・物価対応の予備費から約1800億円を充てる。全国に存在する約9000万の契約口の半数の参加を想定しての予算額だという。
①は小売り電気事業者などが実施する今冬の節電プログラムに参加を表明した需要家に2000円、ないしは20万円のポイントを支援するものだ。8月4日~12月31日までにインターネットなどで参加を表明すると、8月4日~来年1月31日の期間にポイントを付与する。
②は、節電プログラムに沿って、実際に節電を行った家庭や企業に対して特典を与えるものだ。こちらは今冬の実施を予定しており、これまでDRのメニューを持っていなかった事業者にも取り組みを広げることを狙っている。
経産省は8月4日から、節電プログラムを実施する小売り電気事業者などからの公募を受け付ける。小売り事業者が具体的なDRメニューを確定していない場合でも申請は可能だ。経産省が10~11月頃にその詳細を確認し、条件を満たす事業者を順次採択する。その後、需要家にプログラムの内容の周知や試行実施を行う。厳しい需給状況が予想される12月~3月の4カ月間の節電を重視するためだ。
節電効果は不透明 一括受電事業者も対象に
政府が7月に節電ポイントを打ち出した際に噴出した疑問点は拭い切れていない。一体、どれほどの節電効果が見込まれるのか。また、各社のDRのベースラインもバラバラだ。「2000円」目的で節電プログラムに参加したとしても、実際に節電に参加する保証はどこにもない。
そもそも2000円支援は、 その場しのぎのバラ撒きとの批判が根強い。政府は当初、一世帯あたりが節電で獲得できるポイントは、金額換算でわずか月数十円程度としていた。すると「安すぎる」「効果がない」などと批判が殺到し、節電プログラムに“参加するだけ”で2000円を支援すると改めたのだ。
NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューションが行ったアンケート調査によると、今夏、節電に取り組む意欲があると回答した人は83.8%に達したが、節電で報酬がもらえればモチベーションが向上すると答えた人は35.9%だった。裏を返せば、6割強の人は報酬をもらったところで節電に取り組みたくなるわけではなく、まして月数十円程度のインセンティブとなれば絵に描いた餅だろう。
ただ、一括受電事業者も対象となることは評価できる。概要の公表前、マンションなどの一括受電事業者は電気事業法で定める小売り事業者ではないため、そこに住む世帯が対象外になるのではないかと懸念する声があった。節電ポイントのすそ野が広がったことになる。
国民への「お願い」の前に 問われる政治決断の覚悟
政府による節電要請は、東日本大震災後に原子力発電所の長期稼働停止を受けて行った2015年以来、7年ぶりのことだ。今冬には、数値目標をつけた節電要請が検討されている。物価高や電気代の高騰で重くのし掛かる家計や企業への負担を軽減しながら、需給ひっ迫にも対応する。一石二鳥を狙った取り組みだろうが、政府にはそれ以上にやるべきことがあるのではないか。
岸田文雄首相は7月27日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の初会合で、「足元の危機の克服が最優先」だとして、電力・ガスの安定供給に向けて「政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と意気込んだ。
ならば、国民に節電をお願いする前にやるべき決断があるだろう。新たな原発再稼働へ向けた原子力規制委員会による審査の効率化、地元の同意を得るための政治力の発揮──その政治決断こそが、足元の危機の克服に直結する。国民にお願いを“聞く力”を求める以上、政府にも最大限の努力を求めたい。