【特集1まとめ】アウトルック2022 「壬寅」の業界を大胆予想


新型コロナ禍、脱炭素化、資源高騰に揺れた2021年。
この3大テーマを引き継ぐ形で22年が幕を開けた。
欧州、米国、ロシア、中国、中東などの関係国は、
国益に関わるエネルギー政策をどう展開してくるのか。
そして日本は岸田政権の下、どんな戦略を描き出すのか。
「春の胎動を助ける」という壬寅の業界動向を大予想する。

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【覆面座談会】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」

インタビュー】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか

【レポート】エネルギー初夢NEWS10選 2022年に業界を騒がせそうな「夢物語」を集約

【特集1まとめ】原発逃避の終局 クリーンエネルギー戦略の切り札に


東日本大震災以降、長期低迷を続ける原子力政策に光明が差してきた。
脱炭素化の世界的潮流を受け、欧州主要国が原子力の役割を再評価。
わが国でも第二次岸田政権における原子力政策の前進に期待する声は多い。
経産省は、岸田首相が旗を振る「クリーンエネルギー戦略」の議論に着手する。
果たして「原子力戦略の再構築」は重要な論点に位置付けられるのか。
原発問題からの逃避を続けてきた時代は終局を迎えようとしている。

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【アウトライン】世論の壁を打ち破れるか 原子力政策「失われた10年」への決別

【レポート】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり

【インタビュー】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを

【レポート】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情

【インタビュー】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース

【レポート】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁

【インタビュー】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する

【特集2まとめ】保守管理の高度化時代へ スマート保安革命


メンテナンス業務を高度化する「スマート保安」の導入が進んでいる。
AI、IoT機器、ドローンなどを用いた画像解析や遠隔システムが次々生まれ、
政府もスマート保安の普及・拡大に向け、制度改正に本腰を入れている。
保守・保安業界の各セクターで起きる「革命」の一端を紹介する。

【アウトライン】デジタル技術と人材を融合 官民が進めるスマート保安

【インタビュー】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を

【レポート設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も

【レポートインフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解

【レポート システム機器編】通信技術で安全性を向上 収集データの活用進む

【特集2】まずは即効性の高い省エネに注力 将来の水素インフラ構築も視野に


【柏木孝夫/東京工業大学特命教授・名誉教授】

カーボンニュートラルの機運が高まったとしても、エネルギーの安定供給は最優先で求められる。渦中の業界は、どのようなことに取り組み、50年へと歩みを進めていくべきなのだろうか。

カーボンニュートラル都市ガスでも、脱炭素電源でも、エネルギーは常に安定的かつ安価に供給されることが最優先に求められる。この前提が揺らぐと、特に産業界は国際競争力を失いかねない。

よく引き合いに出されるEUのタクソノミー戦略には、明確な意図がある。環境投資をEU域内で循環させ、ひいてはアフリカに還元させて、EUとアフリカ大陸を一体と見なし、成長戦略を描こうと考えている。その辺のビジョンを描けることがEUの強さだ。

甘くないグリーン成長戦略 調整電源にコージェネ活用

日本の描くべき戦略とは何か。グリーン成長戦略に異論を挟む余地はないが、甘いものではない。まずは2050年までのトランジション期の取り組みが大切だ。即効性の高い戦略としてまずは省エネに注力すべきだ。日本の省エネ技術は世界に誇るもの。LNG火力や石炭火力、コージェネなどの発電効率は世界でダントツだ。

一方で、「モノ売り」から「ソリューション売り」へ発想転換も必要だ。省エネ効率の高い機器を販売するだけでなく、多様な機器を組み合わせ、国内外問わず、ソリューションとして売り込むことが求められる。大手都市ガス会社を中心としたスマートエネルギーネットワークの構築はその最たる事例だ。需要側でどのようなエネルギーの使い方をするか、知見のある日本のエネルギー事業者だからこそできる芸当だろう。

原子力発電も重要だ。工業国家においてベースロード電源は不可欠だ。それをベースにした再エネやコージェネといった分散型電源を普及させるべきだ。その際、コージェネは「調整電源」としての役割を果たせるだろう。常に変動する再エネの発電出力を調整することで再エネと共存できる。数千kW級のガスエンジンの効率は50%近くにまで向上している。調整電源は決して大型火力だけが担うものではない。

ほかの産業についても触れたい。CO2を除去する触媒技術、除去後のプラスチック製造技術など、化学産業に強い日本はCCUSにも積極的に取り組むべきだ。CO2を農業などに利用できれば「強い一次産業」を築くことができる。排出されるCO2は農作物の栽培に利用して循環を図ることもできるだろう。 既存ガスインフラを利用できるメタネーションへの取り組みは確かに重要だ。しかし、既設インフラの利用が未来永劫に続くわけではない。だから、水素への取り組みも真剣に考えておくべきだ。水素管のインフラ整備、水素機器開発といった新たな挑戦を伴うが、社会全体として圧倒的に高効率なシステムになる。(談)

かしわぎ・たかお 1970年、東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授
を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。

【特集2】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み


【静岡ガス・岸田裕之社長】

―今年8月に「2050年カーボンニュートラル(CN)ビジョン」を発表しました。

岸田 当社では、菅義偉前首相の昨年10月のCN宣言以前から、30年に向けた中長期的な企業ビジョンを議論してきました。お客さまからCNについて相談や問い合わせをいただく機会も増える中で、当社の考えを示す意味を込めて、今回のCNビジョンを策定しました。今後、CNを実現していく上で、「地域共創」の文字通り、お客さまはもとより自治体や地域の皆さまとともに、取り組んでいこうと考えています。

 「脱炭素」の文字を前にすると、「コストがかかって収益的にも辛いもの」を想像する方が大半だと思います。確かに初期段階ではコストがかかり、困難な対応も多くあると思います。しかし、CN実現には10年、30年と長い時間軸で取り組む必要があります。その間に、経済やエネルギーを循環させる仕組みを構築し、最終的に収益面でもお客さまに喜ばれるものにしていけたらと考えています。

岸田社長

顧客とともに低炭素化推進 省エネでは提案を加速

―30年までに200万tのCO2削減との目標を掲げています。

岸田 この数値は、静岡県のエネルギー会社として、大きな目標を立てて取り組んでいるというメッセージでもあります。例えば、当社エリアの富士市には紙・パルプ、食品といった熱多消費産業のお客さまが多くあります。まずは、そうした企業の低炭素化を徹底的にサポートしていきます。そこで取り組むのが①天然ガスシフト、②コージェネなどのエネルギー高度利用の推進、③省エネビジネスです。①天然ガスシフトでは、C重油や石炭を使用している産業用のお客さまがCN宣言をきっかけに燃料転換に興味を持ち始めており、当社の提案に耳を傾けていただけるようになりました。CO2削減の施策をお客さま個々の事情に合わせて、ともに検討していきます。

―③省エネビジネスは営業力が重要になってきそうです。

岸田 お客さまが工場のエネルギー運用で困っていることを一つひとつ聞いていく必要があります。例えば、ある工場では熱配管の保温方法が旧態依然の方式のままでした。そこで、当社が新しい方法を提案したところ、大幅な省エネが図ることできました。こうした取り組みを加速していきたいです。課題は現場で分かることが多く、お客さまと良好な関係を築いていくことが重要です。30年まではこうした低炭素化に資する取り組みと、CNLNGクレジットとの組み合わせが大事になります。

CNLNGを積んだ船が同社袖師基地に入港した

その先、50年の脱炭素化への取り組みではメタネーションなどイノベーションが必要です。日本ガス協会や大手ガス会社と連携して取り組みを強化していきます。

―系列ガス会社もCNビジョンに基づき取り組むのでしょうか。

岸田 当社と導管がつながっているグループ会社は同じ考え方で取り組みを進めていきます。ただ、佐渡ガス(新潟県)のような会社は異なります。佐渡島は標高1000m級の山があり、森林が多くあります。例えば、佐渡島の森林を取得してCO2吸収価値をJクレジット化することでCNを推進できる可能性もあるでしょう。

 下田ガス(静岡県)では、市が使用する電気を切り替えるプロポーザルの際に、電力供給の枠にとどまらず、地域でエネルギーと経済を循環できる仕組みを導入できないかと提案しました。卒FITの電力を市役所や商店街に購入していただき、地域コインを発行するようなイメージです。これを地元の商店街などでの経済循環につなげることはできないかと。地域ごとに異なる特性に合わせたアプローチを考え抜きます。

―30年までに再エネ20万kW開発という目標については。

岸田 太陽光は一般的な野立てに加え、PPAモデルによる地域電源を考えています。太陽光発電設備を無償提供し、10~20年間のサービスとガス供給を行うモデルを展開していきます。また、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)にも取り組んでおり、耕作放棄地の解消などに寄与するものと考えています。

 バイオマスは今年5月、三菱地所などと埼玉県で剪定枝を燃料としたバイオマス発電所を手掛ける計画を発表しました。道路整備などで発生する剪定枝は廃棄物として扱われています。これを燃料として利用するものです。静岡県内でも同様の仕組みを用いた発電所を展開したいです。

―今後、エネルギービジネスはどうなっていくと見ていますか。

岸田 今後10年で低炭素化への取り組みがさらに加速していくでしょう。地域の皆さまや企業と知恵を出し、その地域に合ったやり方を見出して経済やエネルギーを循環させていくインフラの仕組みの構築が鍵になると思います。エネルギー企業である当社が中心になりながら魅力ある仕組みをつくっていきたいですし、「静岡ガスなら任せられる」という信頼を積み上げていきたいと考えています。

【特集2】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す


【北海道ガス】

北海道南富良野町は、北海道のほぼ中央に位置し、町総面積の約9割を森林地帯が占めるという緑の多い町だ。周辺は富良野市やトマムリゾートなど観光地に囲まれ、同町にもラフティングなど、アウトドアのオプショナルツアーを楽しみに来る観光客が多く訪れる。

さまざまな資源を守る森林 経営や維持管理が課題

そんな自然あふれる南富良野町において、課題の一つとなっているのが森林の維持だ。森林は維持管理に資金や雇用が必要となる。この経営を将来にわたり継続できるかが問題となっていた。近年では、森林を商行為対象と考える業者から森林を購入したいとの申し出が多数ある。そうした買い手は所有した後に木を伐採して、残った山をそのまま放置する可能性がある。責任を持った運営が継続される保証がないのだ。このため簡単に継承できないのが課題だった。

「森林を守ることは水資源の確保や自然災害の防止にもつながるため重要です。町内のかなやま湖に生息する魚の絶滅危惧種イトウなど、生物を守ることにもなります。南富良野町は自然を観光資源にしているため、森林の安定的な整備は欠かせません」。南富良野町企画課まちづくりプロジェクト推進室の川口健太主幹はそう話す。

一方、北海道ガスは2050年脱炭素という目標に向け、さまざまな施策を検討中だった。その一つにCO2吸収価値(CO2クレジット)を創出するアイデアがあった。また、同社はエネルギーを通じた地域の課題解決や活性化に寄与するための取り組みを行っている。これまで夕張市などと連携協定を締結した実績もある。

そこで今回、南富良野町とも連携協定を締結。町内のかなやま湖に隣接する土地142・82 haの森林を取得し、維持管理を行いながら、CO2吸収価値を創出していくことにした。南富良野町も「信頼おける企業に継承できて安心できた」(川口主幹)と語る。

取得したかなやま湖に隣接する森林

ただ、吸収価値に変える作業は当初手探り状態だった。北ガス経営企画部環境グループの笠原慎副課長は「どの程度の量を認めてもらえるか、認証機関はあるのかなどを調査し、J―クレジットを選択しました。吸収量は木の年齢によっても変わります。得たCO2吸収価値は決して大きい規模ではありませんが、前述の水や自然資源の確保の観点からも森林を維持管理することは重要です」と話す。北ガスでは、同森林を長期にわたり管理維持していく方針だ。

レジリエンス強化でも連携 極寒期でも2週間の避難可能

今回の北ガスと南富良野町の連携協定では、レジリエンス強化や再エネの地産地消の内容も含まれている。南富良野町は16年8月、洪水豪雨災害に見舞われた。昨今の異常気象による豪雨は、治水に問題なかった町の想定を遥かに上回った。これにより、主力産業のポテトチップス工場が浸水。3カ月操業を停止し、全国的に品不足になるなど大きな影響を与えた。

近年は、猛吹雪など冬の災害も増えている。町に入る二つの道路が寸断され、陸の孤島になってしまうこともあった。そこで、町では道の駅を改装して防災拠点にする計画を進めており、北ガスが参画する。22年に営業を開始する複合施設には停電自立型GHPや、LPガス非常用発電機を導入する。極寒期においても、2週間程度暖や食事を取れるようにする構えだ。

再エネの地産地消に関しては、現在、固定価格買い取り制度(FIT)で売電している町内の小水力発電(177kW)の電力を町内に供給するスキームについて検討している。また、太陽光発電を道の駅などに設置し、道の駅で消費し余剰が出る場合は、北ガスが購入することも考えている。

北ガスは、この知見を今後の取り組みに生かしていく。北ガス経営企画グループ地域連携・再エネ開発推進チームの宮澤智裕チームリーダーは「北海道には多数の森林が存在します。森林を有効活用しながら、環境問題、レジリエンス強化について地域と連携と進めることが、地域活性化に有効であると考えます」と説明する。

エネルギー事業者による、CO2の吸収価値の創出を目的の一つとした森林取得は全国的にも珍しいケースだ。こうした取り組みは今後さらに広まりそうだ。

【特集2】脱炭素化関連の技術開発を加速 鍵握る複合センサーシステム


【理研計器】

都市ガスプラントの業界標準となっている理研計器のセンサー製品群。複数個組み合わせることで、メタネーションなど次世代エネ開発に寄与する。

天然ガスはLNG化してタンカーで運ばれ、荷役設備を通じて荷揚げし、LNGタンクに運ばれる。出荷時にはLNGを天然ガスに戻し、熱量調整してパイプラインに送られる―。この一連の都市ガス製造工程に理研計器のガス検知器やセンサーが業界のスタンダードとして多く採用されている。

そんな同社が現在注力しているのが、次世代エネルギー技術開発現場へのセンサーの展開だ。カーボンニュートラルの潮流が世界規模で加速している。その中で、メタネーションや水電解技術、水素混焼・専焼技術など、さまざまな技術を社会実装するべく、国やエネルギー会社、メーカーなどが開発中だ。ただ、現場の開発者からは「実証実験ではコストはかけられない」「現場が防爆で一般的な分析計では対応しきれない」といった悩みの声を多く聞く。

市場戦略部の寺本考平副部長は、「当社は既存センシング技術の組み合わせや既存センサーの転用で、『ガス検知器以上、分析計未満』のガスモニタリング環境を提案できます」と胸を張る。

メタネーション開発に対応 三つのガスを高精度に把握

例えば、メタネーションにおいては、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、メタン(CH4)3種類のガス濃度の把握が求められる。それぞれのガスにきちんと置き換えされているか継続的に確認する必要があるためだ。

そこで、同社の防爆型熱量計「OHC―800」を用い、独自の演算技術でメタネーション工程における組成分析を行う。すると、H2とCH4の割合が判明し、演算で雑ガス量が計算できる。さらに、自動制御に使うプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)を組み合わせることによって3種類のガスの濃度管理(モニタリング)が可能となる。これにより、ガス検知器よりも正確な精度で濃度のモニタリングを実現しながら、分析装置よりも手軽にリアルタイムで把握が可能で、防爆エリアでの使用も考慮できるようになる。営業技術課の杉山浩昭課長は「センサーを組み合わせることで、単一のガス検知器では難しかった複雑なモニタリングが可能になりました」と説明する。

組み合わせ応用例

同社には、メタネーション以外に、水電解装置や水素ステーション、アンモニア燃料エンジンなどの開発でも問い合わせが相次いでいる。これらにも複合センサーシステムで対応していく。「さまざまな要望に応えていきたいです。開発において困りごとがあったら、問い合わせていただきたい」と寺本副部長。同社のセンサーが脱炭素化に資する次世代技術開発をさらに推し進めていきそうだ。

【特集2】激甚化する災害の備えは万全か 電力・都市ガス供給をバックアップ


【I・T・O】

都市ガスエリアの防災減災に寄与するのがI・T・Oの「BOGETS」だ。LPガスと組み合わせることで都市ガスと電気の復旧に寄与する。

LPガスの分散型エネルギーとしての特長を生かし、都市ガスエリアの防災・減災に寄与する設備がある。I・T・Oが販売する「BOGETS」だ。このシステムは、あらかじめ備蓄しておいたLPガスを活用して都市ガスと同じ燃焼特性を持ったプロパンエアーガス(PAガス)と電気を作り出すことが可能だ。

BOGETSを備えておけば、災害などで都市ガスの供給停止や停電などが起きても一定期間ガスと電気を確保することができる。ライフラインが寸断された状況にあっても、ガス空調や厨房用のコンロ、シャワー室の給湯器などもそのまま使用できるので、熱中症や風邪予防が図れるほか、温かい料理の提供も続けられる。

BOGETSはPAガス発生装置の「New PA」、発電機、耐震LPガススタンド、都市ガスとPAガスを切り替える「ワンウェイロックバルブ」で構成されている。タッチパネル式制御盤により誰でも簡単に操作が可能だ。モニターに表示される手順と音声案内で簡単に都市ガス仮復旧できる仕組みとなっている。LPガス発電機で電源を確保することで、New PAに電力供給するほか、非常用電源としてスマートフォンの充電や照明など避難時の最低限の生活支援に役立つ。

足立区の小中学校に導入 シリンダー1400本を設置

このシステムは、足立区の小中学校に採用されている。激甚化する災害への対応を目的に91校に設置された。LPガスは東京都のLPガス会社、富士瓦斯がシリンダー約1400本を供給している。富士瓦斯は、事業継続に関するISO22301を取得するほか、東日本大震災発生後、LPガス災害対応コンソーシアムを立ち上げるなど、LPガスの防災への関わりについて、長年取り組んできた事業者だ。

富士瓦斯の津田維一社長は「今後、政府の2050年カーボンニュートラル宣言によって電化が進んでいきます。しかし、災害への備えを考えたとき、一つのエネルギーに頼るのは好ましいといえません。万が一の備えとして、LPガスはBOGETSのような設備と組み合わせることで電気や都市ガスのバックアップができます」とLPガスの重要性を強調する。

LPガス単独としての役割に加え、このような設備と組み合わせれば、ほかのエネルギーに柔軟に変換できる点を多くの人に知ってもらうと、LPガスの存在感はさらに高まっていくだろう。

【特集2】レジリエンス性能さらに高まる 調整力電源としての役目も


【パナソニック(エネファーム)】

新型エネファームはLPWA搭載で利便性を高めた。10月からは本州の寒冷地向けにLPガス仕様も販売する。

近年、頻発する大災害によって分散型エネルギーとして見直されているLPガス。組み合わせることで、さらにレジリエンス性能が高まる機器として注目を集めているのが、家庭用燃料電池「エネファーム」だ。

中でも、パナソニックが今年4月に発売した第7世代機は、従来に増してレジリエンス性能を高めた仕様になっている。

特徴的なのは、セルラー方式のLPWA(省電力広域無線通信)機能を標準搭載していること。同機能でレジリエンス性能が飛躍的に向上している。具体的には、停電発電に備えた待機モード「停電そなえ発電」を付加した。エネファームがウェザーニューズ社のWxTechサービス「停電リスク予測API」を受信すると、自動的に停電そなえ発電に切り替わる。実際に停電が発生した場合は停電発電を継続し、停電が発生しなかった場合には通常運転に戻る。

また、同機能では、深夜など通常エネファームが運転を停止している時間帯に停電が発生した場合でも、停電に備え発電に切り替わっていれば、外部電源による再起動が不要で、停電発生時でも電気を利用できる。

第7世代の「エネファーム」

LINEで遠隔操作 使用状況を見える化

LPWAの搭載によって、エネファームの利便性も向上した。同社は、エネファームの遠隔操作に対応するLINE公式アカウントを活用したサービス「LINEのエネファーム」の提供を開始した。遠隔操作に加え、家庭の電気やお湯の使用量といったエネルギーの使用状況が、スマートフォンで確認できる。発電に関する情報や、電気・お湯などの使用量、使用料金の目安を、気軽にLINEのトーク画面で確認できる。また、ガス遮断時でも浴槽にためて入浴できる量のお湯を賄うヒーター給湯機能を搭載し、レジリエンス性能を高めた。

LINEのエネファーム画面

今年6月からは関西電力と東京ガスとともに、エネファームを活用したVPP(仮想発電所)実証に参画する。最大3000台規模のエネファームを対象に、LPWA通信によって群制御するシステムの各種技術検証を実施し、電力需給バランスの調整など、電力市場での活用を目指すもの。同社燃料電池企画部の浦田隆行部長は「補助金を頼らず、ビジネスとして成立させる志を持って取り組みます。LPガス顧客の多い地方の分散型電源として、再エネの調整力として脱炭素社会に貢献するものにしたい」と意気込む。エネファームの特長を生かし、さらなる価値創出にまい進する構えだ。

このほか、本州の寒冷地向けにLPガス用エネファームを10月1日から発売した。第7世代機をベースに、凍結予防仕様を強化。設置環境温度下限マイナス15℃の寒冷地でも使用可能とした。浦田部長は「LPガスは寒冷地にお客さまが多いです。今回、LPガス仕様にして、全国展開していきます。また、標高800mまで設置可能にしたことで、設置可能世帯が約2割の増加が見込まれます」と販売拡大に期待する。

【特集2】給湯で圧倒的な省エネ性能 新たなニーズ対応で効果発揮


【リンナイ(エコワン

電気とガスのいいとこ取りした給湯器「エコワン」。今年4月には太陽光自家消費モデルを追加した。

LPガスは地方の人口減少、過疎化、オール電化・エコキュートへのシフトによる需要減少が続いている。そこで、ガスの良さをアピールしつつ、オール電化・エコキュートに対抗できる商品としてリンナイが開発したのが、ハイブリッド給湯暖房システム「エコワン」だ。従来の給湯器はガスか電気など一つの燃料を利用してお湯を沸かしてきた。エコワンはガスと電気の両方を使い給湯する。電気給湯はヒートポンプを利用、電気エネルギー効率を高めている。ガス給湯はエコジョーズを採用し、瞬発力があり、お湯をたくさん使うときや温水暖房時に性能を発揮する。まさに、ガスと電気のいいとこ取りした製品だ。

ハイブリッド給湯器「エコワン」

年間エネルギー消費量は、ガスはエコジョーズより約85%、電気はエコキュートよりも約45%少ない。ガスと電気を効率よく使うため低燃費だ。また、給湯の一次エネルギー消費量は、基準給湯器25・1GJ、エコキュート最高効率タイプ15GJに対し、エコワンは13・8GJとほかの給湯器より大幅に省エネを図ることできる。

太陽光自家消費モデルを追加 停電発生時にも給湯と暖房

今年4月には、太陽光自家消費モデルを追加した。太陽光発電は、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の価格下落や賦課金の増加、蓄電池の性能向上から、発電した電気を自宅で使用する自家消費が有効になってきている。

太陽光発電自家消費モデルは、昼間の太陽光発電時間帯にヒートポンプ運転を行い蓄熱する。家全体の一次エネルギー消費量の基準値である80・7GJを45%削減し44・6GJを実現する。年間の給湯ランニングコストは従来器に比べて67%減、金額にして6万7000円削減できる。太陽光発電を利用することで、省エネ、低ランニングコスト化が可能だ。

災害の大規模化を受け、住宅にレジリエンス性能を求める消費者が増えてきた。エコワンの太陽光発電モデルなら、停電発生時にも太陽光発電で給湯でき、床暖房にも対応する。同社営業企画部の中尾公厚部長は「レジリエンス性能など、新たなニーズに対応する点をこれまでに増してアピールしていきたい」と意気込む。ハイブリッド給湯器の特長は、今後のニーズ対応でも効果を発揮しそうだ。

【特集2】コインタイマー対応機などで 業務用ニーズを掘り起こす


【リンナイ( 乾太くん)】

家庭用で人気を集めるガス衣類乾燥機「乾太くん」。実は業務用でも新たな需要を開拓するなど好評を博している。

家庭用で好評なリンナイのガス衣類乾燥機「乾太くん」――。今年は昨年比2万台増の11万台を販売する見込みだ。業務用も好評で、いろいろな用途で広がりを見せている。乾太くんは5~9kgクラスをラインアップする。業務用は家庭用の3倍の使用回数に耐え得る設計が施されている。これまで、ホテルや病院、理美容院など、シーツやタオルを大量に使用する事業者に使われてきた。

業務用でも好調なガス衣類乾燥機「乾太くん」

新たな展開として、コインタイマー内蔵機種を追加した。タイマーは一回の稼働時間や金額などを管理者が設定可能だ。病院や宿泊施設、寮などで利用拡大を図っている。これによって、多くの人が乾燥機の利便性をはじめ、生乾きがないこと、仕上がりの良さ、ウイルスやアレルギー物質の除去など、ガス乾燥機ならではの特長を享受できるようになった。

同社営業企画部の中尾公厚部長は「乾燥機はガスの良さを知ってもらう、切り札のような製品と自負しています。業務用はそうした特長を知ってもらうよい機会となります。利便性が個人にまで浸透するきっかけになる」。LPガスの需要開拓に、業務用乾太くんはきっと貢献するだろう。