【特集2】目まぐるしく変わる欧州政策 日本では独自の政策展開が必要


東京電力エナジーパートナー販売本部副部長/佐々木正信

全面自由化が早くから始まった欧州では、試行錯誤を繰り返し制度のブラッシュアップを図る。欧州の昨今の事情や今後の展望について、東京電力エナジーパートナーの佐々木氏に寄稿してもらった。

エネルギー自由化が早くから進められていた欧州。英国で1990年から段階的に電力自由化が始まり、2000年前後の欧州電力指令と欧州ガス指令を受けて、各国で電力・ガス市場の自由化、およびエネルギー垂直一貫型企業の分割が推進された。また、自由化の進展に伴い、各事業者の国外展開や電力・ガスの相互参入が促進され、例えば、英国のガス会社であったブリティッシュガスは現在、英国電力小売市場の最大シェアを獲得している。

高い政治目標を設定 市場ルールを随時変更

自由化と並行して、90年代から気候変動枠組み条約が発効し、温室効果ガス削減の世界的な動きが始まった。欧州は世界の温室効果ガス削減を先導し、再生可能エネルギー電力の導入拡大などの政策強化を積極的に推進しており、これらの政策は欧州事業者に大きな影響を及ぼしている。少し極端に表現すると、欧州では「政治的に高い目標を設定し、市場ルールを調整した中で、民間企業の自由競争を促す。目標未達ならば、期限やルールを柔軟に再調整する」ケースが多い。

また、CO2排出などの外部要因を内部コスト化させて、自由競争させる手法も一般的である。これらの政策は、炭素税やETS(排出量取引制度)が該当する。

05年からEUで導入された、キャップ&トレード型のETSは第4フェーズに入っているが、発電部門は原則として、オークションで排出枠を購入する必要がある。そして、化石燃料を使用する発電事業者は当該CO2排出量に応じたコストを追加負担している。

なお、EUでは23年からCBAM(炭素国境調整措置)を鉄鋼 、セメント、肥料、アルミニウム、 電力を対象に開始する計画であり、26年から、「EU外から送電線で輸入する電力」などに対しても、「当該製品の生産に起因するCO2排出量」と「原産国で支払われた炭素価格」を考慮して、EUのETS炭素価格に基づく炭素チャージのEUへの支払いが必要となる。欧州各国では、再エネ電源への支援策(FIT、FIPなど)と組み合わせて、電力部門のCO2削減を強力に進めている。

昨年発表されたETS改正案では、海運(船舶からのCO2排出)、道路輸送(ガソリン車などからのCO2排出)、建物(化石燃料を用いた暖房利用など)が新たな規制対象に加えられた。従来のETSはCO2排出者を直接規制する制度だったが、新制度ではガソリン車所有者や家庭を規制対象とするのではなく、燃料供給事業者を規制する制度となる。また、道路輸送や建物分野はEU域外からの競争圧力が比較的小さいため、炭素リーケージのリスクがない。よって、当該排出枠は、無償配分ではなく、オークションでのみ配分されるべきと考えられている。なお、ドイツでは先行して、21年から道路輸送と建物分野への新ETSが開始されているが、現時点では燃料供給事業者に固定価格が適用されている。

ヒートポンプとガスボイラー 再エネ雇用増加の独事情

エネルギー小売り事業者は需要側の脱炭素政策にも大きな影響を受ける。ドイツの建築物エネルギー法では、新築建物には再エネ冷暖房(ヒートポンプ冷暖房による空気熱や太陽熱などを利用)の設置が義務化されており、26年以降石油ボイラー、固体化石燃料ボイラーの設置が禁止される。

また、昨年発表された英国の「熱・建物戦略」では、35年以降、ガスボイラの新規・更新設置を、設備更新サイクルに沿って段階的に廃止する方針が示された。なお、ヒートポンプがガスボイラーよりもランニングコストが高くなることを防ぐために、電気からガスへの課税をシフトすることによる電気料金引き下げを22年に決定する可能性があることも公表している。さらに、フランスでは、22年1月から建築物環境規制「RE2020」が施行となり、新築戸建住宅の上限CO2排出量設定により、実質的に石油ボイラーやガスボイラーの設置が禁止され、ヒートポンプや木質ペレット暖房などの低炭素暖房設備の導入が義務化された。新築集合住宅に関しては猶予期間が設定されている。

ドイツでは、既存のエネルギー産業の雇用は減少しているものの、風力・バイオマス・太陽光発電の雇用が増加していると国内に訴求しており、英国でも洋上風力、ヒートポンプ拡大などのグリーン産業革命で多くの関連雇用を創出する計画だ。EUではETS制度で、年間140億~160億ユーロの収入を得ており、EU加盟国は平均して、これらの収入の70%を気候・エネルギー関連の目的に費やし、欧州企業のグリーン分野の技術力強化や雇用拡大を実現させつつ、衰退業種からの転職支援やエネルギー貧困世帯(低所得世帯)対策などもきめ細かく実施することで、国民の支持を得ている。

これらの資金は、年間100億ユーロと見込まれるCBAMや、燃料供給事業者へのETS拡大で、さらに増加することが見込まれている。また欧州のポストコロナ復興計画予算でも7年間で約5400億ユーロを「グリーンリカバリー」に充当することが発表されており、より強力に推進される方向である。

最近の燃料価格高騰への対応は欧州各国により異なるが、エネルギー料金課税の減税や、エネルギー貧困世帯への補助金が実施されている。

シェアを伸ばしたブリティッシュガス

各国が燃料費高に対応 事業者撤退と貧困補助

英国などでは、変動型料金単価に消費者保護のための上限が設定されていることもあり、資金力が弱く、卸価格高騰リスクをヘッジできなかった中小の小売り事業者が撤退している。こうした欧州の各エネルギー小売り事業者は、再エネ電源確保、エネルギー調達価格安定化、省エネやVPP(仮想発電所)などの付加価値サービスに関する独自戦略を実行している。大手のエネルは昨年、40年までにガス火力発電所を全廃し、ガス小売り事業(20年実績で97億㎥を約600万顧客に販売)からも撤退、再エネ電力のみを発電・小売りするネットゼロ戦略を発表した。 日本では需要側の直接CO2排出を抑制するような、強力な政策は取らない方向であり、日本独自の脱炭素経済転換やエネルギー貧困者支援政策が必要となる。

東京電力エナジーパートナー販売本部副部長/佐々木正信

【特集2】スマホで節電にチャレンジ 類を見ない高精度DRサービス


【SBパワー】

通信事業会社傘下で小売り電気事業を行うSBパワー。グループ企業の強みを生かした画期的なDRサービスを展開する。

2050年脱炭素化に向け、産業用部門を中心にさまざまな取り組みが加速している。一方、家庭用部門では、設備や機器などハード面での省エネは進んでいるが、一般消費者の省エネ行動にまで踏み込んだ製品やソリューションの実用例はまだ少ない。

そんな中、ソフトバンクの子会社SBパワーが展開する家庭用DR(デマンドレスポンス)サービス「エコ電気アプリ」が家庭用ユーザーの省エネ意識を高め、行動を促すだけでなく、小売り電気事業者のピークカット、SDGsへの寄与など、さまざまな付加価値を生むツールとして注目を集めている。昨年、経済産業省主催の「省エネコミュニケーション・ランキング制度」で最高ランクの五つ星を獲得。さらに、省エネルギーセンター主催の「省エネ大賞」では製品・ビジネスモデル部門で今年度新設された省エネコミュニケーション分野で「経済産業大臣賞」を受賞するなど、第三者機関からの評価も高まっている。

スマホアプリを活用したDRサービスフロー

2タップでエントリー完了 簡単に節電参加できる

エコ電気アプリは、事業者が電力需要予測からDR条件を設定、利用者にスマートフォンアプリを通じて節電依頼をかける。利用者は対象時間にエアコンの設定温度を上げ下げするなど節電に取り組み、翌日の判定結果を待つ。成功すればソフトバンクのグループ会社であるPayPayの「PayPayボーナス」が成功報酬として獲得できる仕組みだ。

利用者の操作はシンプルで、①節電タイミングがスマホのプッシュ通知で送られてくる、②通知の「参加する」をタップする―だけでエントリー完了だ。

SBパワーの中野明彦社長兼CEO

ソフトバンクエナジー事業推進本部事業開発部の楠見嵩史氏は「ユーザーがなるべく簡単に節電に取り組めるよう、参加のスマホ操作を2タップで済むようにしました。翌日には節電結果が通知され、PayPayがすぐに獲得できるようにするなど、利用者の参加意欲が増すように、仕組み構築を心掛けました」と話す。実際、エコ電気アプリの利用者はプッシュ通知に対する反応率が高い。DRサービス参加率は31.8%に上る。「PayPayボーナスの獲得だけでなく、節電によって電気代も削減できます。そうしたメリットを感じ取ってもらえているのでは」と楠見氏。

電力事業者にとっても魅力的だ。利用者の節電がピークカットとなり、電源仕入れのコスト削減につながる。DRの設定時間は一年中可能。実施する10分前まで任意のタイミングを設定できる。さらに報酬額もその都度設定可能となっている。昨冬のような需給ひっ迫によって、日本卸電力取引所(JEPX)の価格が高騰したときなどにも活用できる。

また、DRサービスを展開するほかの事業者がベースラインを独自ルールで設定する中、同サービスではDRのベースラインが経産省の「ERABガイドライン」に準拠しており、具体的な削減量を公表している。現在、DRの参加対象者は20万件で、20年夏から21年12月31日までの期間で節電した消費電力量は約173万kW時に達した。これに伴うCO2削減量は907t。利用者にはPayPay報酬額として計953万円相当を還元したとのことだ。

中野明彦社長兼CEOが言う。「当社の約200万件の顧客データを活用した予測技術と、エンコア―ドジャパンの特許技術であるDRスケジューリングなどの組み合わせによって、同サービスが構築できました。当社が、通信事業者のグループ企業で小売り電気事業を行い、社内に有能なエンジニアスタッフを抱えているからこそ、実現できたと考えています。大規模データを扱いながら、精度の良いDRサービスは世界的にも類を見ないでしょう。参加者も増え調整量も大きくなってきているため、需給調整市場など市場への参加要件をどのように満たしていくのかの検証を進めるとともに、『電源』として活用することも視野に入れています」

ソフトバンクエナジー事業推進本部の楠見嵩史氏

大手エネ事業者も採用 最終目標は1000万件

エコ電気アプリの仕組みは大手電力も採用している。九州電力は昨年2月、アプリを再生可能エネルギー活用のために導入した。これにより、下げDRで1世帯当たり1日平均で0.95 kW時の削減、上げDRで同0.36の需要創出を実現した。さらに、北陸電力が今年1月に発表したアプリ「リクプリ」に、SBパワーのDR技術を活用したサービス導入を検討している。他の大手エネルギー事業者も採用予定という。

SBパワーでは、エコ電気アプリの利用者を来年度中100万件に増やしていく計画だ。最終的にはアプリを採用する事業者を含め合計1000万件の到達を目標としている。「この規模が実現すると、真に実効性のある省エネを進めることできます」。中野社長兼CEOは、こう展望する。

通信とITの強みを生かしたエコ電気アプリ。エネルギー業界の〝キラーコンテンツ〟として今後さらに普及していきそうだ。

【特集2】290万件の電力ユーザー獲得 再エネ商材で環境メリットを訴求


インタビュー:岸澤 剛/東京ガスリビング営業計画部長

新電力事業者として国内最大規模の顧客を獲得した東京ガス。販売店組織が有する技術力・顧客対応力が大きな強みだ。

―2016年に電力、17年に都市ガスの小売り事業が全面自由化されました。6年近く経過しましたが、現在、東京ガスが獲得した電力の顧客件数と流出した都市ガスの顧客件数は。

岸澤 電力については、昨年末時点で約290万件のお客さまにご契約をいただいています。都市ガスの流失件数については、電力に比べれば少ない件数にとどまっています。

―意識するライバル企業はありますか。

岸澤 特にガス事業で着実に件数を伸ばしている大手エネルギー事業者ですね。加えて、エネルギー事業者にはない、お客さまとの接点を有している事業者の動向も注視しています。

販売店組織の存在大きい 接点機会通じて信頼を得る

―現状の評価と取り組んでいる内容について教えてください。

岸澤 電力の拡大に関しては、当社の販売店ネットワークであるライフバル・エネスタ(37法人)の存在が大きく、厳しい環境の中でも着実に進めることができたと思っています。

 ガス機器の販売やメンテナンスの際にお客さまと対面で接点を持つライフバル・エネスタの存在は東京ガスならではの特徴です。そうした接点機会を通じて、電気とガスをセットにした割安なメニューを提案しています。お客さまに対して丁寧な説明が可能で、信頼感を得やすい環境であると感じています。

―ライフバル・エネスタが扱う商材は年々変わってきているのでしょうか。

岸澤 もちろん今でもガス機器が中心であることは変わりませんが、昨今では、住設機器や電気エアコンなどの販売・修理も行っています。サービス分野では「東京ガスの修理サービス」で 、水回り分野の修理にも本格参入していきます。今後は脱炭素関係の商材も広げていきたいと考えています。

初期費用ゼロ円で再エネ エネファームでVPP利用

―脱炭素の商材として期待されている太陽光パネルについてはどうですか。

岸澤 初期費用ゼロ円で導入し、サービス料金をいただく新たなサービスモデルを進めています。新築を中心に今後拡大が期待できるサービスで、「ずっともソーラー」という名称で、さまざまなビルダーさまに採用され始めているところです。

―取り組んでいる内容が多様化されているライフバル・エネスタでは、業務が煩雑になっていると思います。現場では新しい商材を扱うことに抵抗感はないのでしょうか。

岸澤 時代の流れを受けて、事業領域を広げていきたいと思う経営者は多いです。ライフバル・エネスタがガス機器のエキスパートとしてこれまで培ってきた技術力と、地域に密着してお客さまに寄り添った対応力を生かして、取扱商材やさまざまなお困り事解決のサービスを、今後も拡大していきたいと考えています。

―従来から手掛けてきたエネファームの売り方に変化はありますか。

岸澤 現状では売り方に大きな変化はありませんが、今トライアルで取り組んでいることがあります。エネファームをご購入いただく際、VPP(仮想発電所)へ参画の承諾を得たお客さまに、エネルギー需給管理の全体最適にご協力いただいています。エネファームの出力を遠隔から制御することがありますが、インセンティブを設けてお客さまのメリットにつながればと考えています。

―デジタルの取り組みについて何かありますか。

岸澤 スマホやパソコンを使って完結するような購買スタイルへと変わってきています。その年齢層は若い世代だけでなく、40代から50代、さらにその上の世代にも広がってきています。そういった幅広い年齢層に対して、デジタル技術を使ってどうやってリアルな接点に結び付けられるかがポイントです。

 その基盤となるのが、弊社アプリを活用した会員サイト「my TOKYO GAS」だと考えています。200万件以上の会員の方にご利用いただいていますが、このアプリを使うことで、ご自身のエネルギー利用状況や請求代金をグラフで分かりやすく、ひと目で確認できます。

 また、引っ越しの際のエネルギー関連の手続きでは、入力の手間を省いて便利に手続きができます。今後、さまざまなサービスの手続きをこのアプリで完結できるように取り組んでいきたいと考えています。

 さらに、電気料金に応じて貯まる当社独自のポイントサービスも設けています。他社のポイントと等価交換できるほか、ガス機器まわりや生活まわりの商材を扱っている当社のウェブショップでの利用も可能です。

先進国・英国企業と連携 子会社通じデジタルを加速

―東京ガスは、昨年に英国企業とTGオクトパスエナジーを立ち上げました。

岸澤 われわれのリビングサービス本部の所管ではありませんが、昨年に英国企業との合弁によって立ち上げて、電力小売り事業者として、今後取り組んでいきます。お客さまへのアプローチやマーケティング手法など東京ガスとは異なるやり方で、デジタルを活用した取り組みを全国で深掘りしていきます。

 英国は、日本に比べてエネルギーの自由化が10年以上早かったこともあり、競争環境が進んでいます。そうした中、オクトパスエナジーは、独自に開発したITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、コストや時間をかけずに、世の中のニーズに合った新しい料金メニューをどんどん作ることで、存在感を発揮しています。「柔軟なシステム設計」という面では、参考にするべき点が多々あると思います。

非化石証書を組み合わせた再エネプランを始めた

―料金メニューとして再エネ電気への取り組みはどうでしょうか。

岸澤 昨年から東京ガスが販売する電気に非化石証書を組み合わせた「さすてな電気」を扱い始めました。一般家庭のお客さまを主眼に置いたメニューでして、環境に関心の高い方を中心にお申し込みをいただいています。また、今後は事業者向けにも販売を展開し、お客さまと一緒に脱炭素社会の実現を目指していければと考えています。

きしざわ・ごう 1998年慶応大学大学院理工学研究科修了、東京ガス入社。20
12年原料部LNG契約グループマネージャー、19年総合企画部経営計画グループマネージャーを経て21年から現職。

【特集2】実質再エネ100%プランを開始 機器連携で「スマートシティ化」へ


インタビュー:吉田恵一/日本瓦斯専務執行役員エネルギー事業本部長

LPガス、都市ガス、電気の顧客数を着実に伸ばしているニチガス。脱炭素時代への対応を図りながら、将来のスマートシティ構想を描く。

―ガス・電気の家庭向け事業を展開していく上で、どのようなビジョンを描いていますか。

吉田 潜熱回収型ガス給湯器と電気式ヒートポンプを組み合わせたハイブリッド型給湯器、および電気自動車(EV)を柱にした営業展開を考えています。

―ハイブリッド給湯器は、ガス業界が販売を控えてしまうような商材です。

吉田 はい。ハイブリッド給湯器は環境性能の高さや停電時にも車の電源で起動できるなど魅力的な商品ですが、普及が進めばガスの消費量が下がるというガス会社的にとっては導入をちゅうちょしてしまうデメリットがあることは事実です。

 とはいえ、過去に電力会社が省エネ機器を普及させ、ガス会社がエコジョーズを普及させてきたように、高効率で環境性能の高い商品、便利で快適な暮らしを提供することで多くのユーザーを獲得し、利益を拡大していきたいと考えています。

EV式家庭用蓄電池への期待 再エネプランとのシナジー

―EVについてはどうですか。

吉田 脱炭素化の波やガソリン高騰の影響もあり、EVを選択するユーザーは増加しています。走行距離が従来の自動車と比べて短いという課題はありますが、日中や夜間に自宅に駐車しておけば充電が可能で、かつガソリンスタンドに行く必要もありません。充電も夜間の運転しない時間帯に行えるなど、平均的な暮らしのパターンとマッチする点が挙げられます。

 EVは短期的に見れば「環境に優しいモビリティ」ですが、家庭需要を増やす画期的な商材です。中長期的には「家庭用の大型蓄電池」にもなり、これを太陽光発電と組み合わせれば災害に強い分散型エネルギー電源になれるメリットがあります。

―2月から、ガスと実質再生可能エネルギー100%の電気をセットにした料金プランを始めます。

吉田 これまでも市場に電気の再エネ料金プランはありましたが、通常の電気料金プランよりも値段が高いケースもあり、実際に採用に踏み切るユーザーは少数でした。しかし最近ではEV購入補助金の中に「実質再生可能エネルギー100%」の料金プランを導入していることが条件のものもあって、補助金という目に見えるメリットを背景に、EVユーザーの間で再エネプランの採用件数が増えています。

 こうした需要を背景に、再エネ価値を安価に提供し、さらにEVをお得に使えることをコンセプトにした新料金プランを2月から開始します。

昼夜間の値差幅を縮小 新プランで安価に環境価値

―新料金プランとはどのような内容ですか。

吉田 当社にはガスと電気料金をセットにした「でガ割」という商材があります。新プランは「でガ割」を軸に、環境価値を上乗せし、かつ安価に抑えられるよう設定しています。

 また通常、夜間の料金を安くした電気料金は夜間が安い分、日中は高めに設定されていますが、今回の新しいプランでは、夜間を割安料金としつつ、日中と夜間の価格差が大きくならないよう設定しています。

 例えば日中に太陽光の電気を自家消費しているお客さまの場合、日中に天候不順で発電量が少なくなっても、この新メニューでは系統から購入する電気料金が割高でないため、負担が大きくなることはありません。

 環境面に配慮した実質再エネ100%の料金プランを安価に利用できる点に加え、特にEVユーザーは夜間の安い電気料金の時間帯に充電することでお得にEVを活用できるのが最大の特長となっています。

―EVや太陽光ユーザーを巻き込んで、家庭内のエネルギーマネジメントシステムの構築を目指しているようです。

吉田 まず考えているアイテムが、家電を遠隔制御するスマートリモコンです。ハイブリッド給湯器やEV、太陽光、蓄電池など各種機器と連携できれば、最適なエネルギー利用を自動制御できるスマートホーム化が実現します。

 また当社には料金の確認などを行える「マイニチガス」というアプリがあります。これらを組み合わせることで、アプリ上でDR(デマンドレスポンス)やVPP(仮想発電所)を行えるようになるかもしれません。

 既に市場では家庭向けに蓄電池や太陽光を無償設置するPPA(電力販売契約)サービスが出始めており、これからエネルギー会社はガス・電気供給だけでなく、家庭向けでも分散型エネルギー設備を取り扱う機会が増えていきます。

 そこで、こうした設備と当社のブロックチェーン技術を活用すれば、需要家同士が電力を取引するPtoPも可能です。さらに自社事業所を災害対策拠点の機能を持つよう整備することで、地域と一体になった「ニチガス版スマートシティ」も構築できます。

 当社は22年4月からスタートする配電事業ライセンスの取得も検討しています。こうした取り組みを進めることでエネルギー利用の高効率化、系統の安定化、CO2フリープランによるグリーン化を目指し、エネルギーソリューションサービスをパッケージ化し、地域社会の多様化する社会課題の解決を果たしてまいります。

プラットフォームの一翼を担うスペース蛍

プラットフォームの共有化 ラストワンマイルへの供給

―今後の意気込みを。

吉田 これからは家電機器の性能向上でユーザー1件当たりのガス・電気使用量は減少し、環境面を配慮して化石燃料の消費量を低減していかなければなりません。そうした環境下でもラストワンマイルへの安定供給を継続し、高効率な設備を提供してクリーンかつ便利な暮らしを実現することで、多くの消費者に選んでもらえる企業になれるよう成長を続けます。

 また当社には、世界最大規模のLPガス容器のハブ充填基地である「夢の絆・川崎」、ガスメーターに取り付けてガス使用量および容器のガス残量をリアルタイムで把握する自動検針ツール「スペース蛍」といった、低炭素化に貢献する、高効率なプラットフォームがあります。

 これを全国の事業者と共有することで、不毛なエネルギー事業者間の消耗戦ではなく、システムやサービス面における価値を高め合う「共創」の輪を広げたいと考えています。

よしだ・けいいち 東京電力を経て2020年に入社。東京電力では、送配電・用地取得・経営企画・労務人事・広報などの業務に従事。

【特集2】常識を超えた新サービスが誕生 技術と知恵で変化に挑む


電力・ガスの小売り業界で、従来の常識を超えたサービスが誕生している。背景にあるのはエネルギー利用形態の多様化。各社は技術と知恵で勝負を掛ける。

電力・ガスが全面自由化されて数年が経過した日本。今では、脱炭素、デジタル化といったキーワードに加えて、エネルギー利用の多様化といった側面が業界の現場では現れ始めている。

補助金でEVを後押し クリーン商材へのニーズ

まず、政府が力を入れているのが、電気自動車(EV)だ。走行時にCO2を排出しない、長期停電時に蓄電池としても利用できるといったメリットがあることから、補助制度を設けながら普及拡大に向け政策を総動員している。EV購入補助金には、EVをクリーンに運用してもらうべく実質再生可能エネルギー100%の電気料金プランへの加入が条件のものもある。環境意識の高まりやEV普及を機に、再エネ電力プランを提供する事業者が増加している。

さらにメーカーは電気とガスを組み合わせたハイブリッド給湯器のような高いエネルギー効率と環境性能を両立した商材を次々と開発し、省エネに定評のあるエコキュートやエネファームの改良も進んでいる。事業者が消費者に選ばれるためには、電気・ガスの安定供給にとどまらず、生活を豊かにするクリーンで便利な商材・サービスを提供することも重要な要素となっている。

同時に「デジタル化」に対応したサービスも注目される。料金決済を自社アプリやウェブで行えるシステムを導入するのも一つのデジタル化と言えるが、もう一歩進んだ事例がある。ユーザーに携帯のアプリでDR(デマンドレスポンス)を指令し、達成するとクーポンを取得できるサービスだ。

さらに需要家の家庭用太陽光発電やエネファーム、蓄電池、EVなどを使って電力需給に合わせて調整する実証を行う事業者の中には、アプリで各種機器を遠隔制御し、DRやVPP(仮想発電所)を行うスマートシティ化を目指すところもある。こうした高度なサービスが市場を席巻する日も遠くなさそうだ。

変化するライフ&ビジネス 業界の垣根越えた連携

また世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、在宅時間の増加や、密を避けられるアウトドア人気の加速など、生活様式を変化させた。各社は家庭内調理器具やアウトドア製品などを進化させている。さらに機器開発の手法も変化し、事業者がクラウドファンディングを使って製品を開発するなど、新しいスタイルのビジネスも始まっている。

2021年1月に住環境研究所が発表した20~50代の既婚男女を対象に行った「ニューノーマルの時代の住まい方に対する意識調査」では、20・30代の若い世代の「技術的最先端の暮らし」への関心が高く(20代43%・30代39%)、「エコな暮らし」は20代が50%、全世代平均で46%が関心を寄せているそうだ。多様化するニーズに応えるには、同業種・異業種問わず連携して、挑戦と進化を続けることが求められる。

【特集2まとめ】家庭用エネルギー大変革 顧客ニーズの多様化に挑む


小売り全面自由化、脱炭素化、デジタル化などを背景に
家庭用エネルギー市場は一大変革期に突入した。
多様なプレイヤーが参入し、多彩な顧客ニーズに対応する
料金メニューやサービス、利用機器が数多く登場している。
早くから自由化された欧州の事情にも触れながら、
国内で活発化する家庭用ビジネスの新潮流を追った。

【レポート】常識を超えた新サービスが誕生 技術と知恵で変化に挑む

【寄稿】脱炭素化を目指す家庭用エネ戦略 消費者行動とデータ分析に焦点

【レポート】北国ならではの省エネ対策 快適な暮らしとの両立を実現

【寄稿】目まぐるしく変わる欧州政策 日本では独自の政策展開が必要

【レポート】スマホで節電にチャレンジ 類を見ない高精度DRサービス

【インタビュー】290万件の電力ユーザー獲得 再エネ商材で環境メリットを訴求

【インタビュー】実質再エネ100%プランを開始 機器連携で「スマートシティ化」へ

【レポート】室内からアウトドア向けまで ガスを使った嗜好品の数々

【特集1まとめ】国際ガス市場「異変あり」 強まる不確実性と政治リスク


欧州の天然ガス不足に伴うエネルギー危機に端を発し、
世界の天然ガス・LNG市場で価格高騰と供給不安が続いている。
ロシアからのガス供給に依存する欧州は、ウクライナ問題でロシアとの対立を深め、
供給不安解消への切り札となる「ノルドストリーム2」の早期稼働は見込めないまま。
南アジアや南米などでは、市民生活や経済活動への深刻な影響が懸念される。
脱炭素社会実現への重要なトランジションにLNGを位置付ける日本。
持続的な活用に向け、国際的なルールメイクを主導する役割が期待されている。

【レポート】欧州エネルギー危機で顕在化 世界の天然ガス市場を覆う暗雲

【座談会】予見可能性の低下にどう対応!? 日本のLNG調達戦略を考える

【寄稿】欧州の天然ガス高騰を徹底検証 LNGに波及する地政学リスク

【特集2】倫理なきソーラー開発を規制 厳しい姿勢で挑む(長崎幸太郎山梨県知事)


【インタビュー:長崎幸太郎/山梨県知事】

山梨県は、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する条例を施行した。条例制定に至った背景や特長、活用方法などについて長崎幸太郎知事に聞いた。

―2021年10月、県土の約8割を占める森林や土砂災害警戒区域などを設置規制区域とし、出力10 kW以上の太陽光発電施設の設置を原則禁止する太陽光条例を一部施行しました。条例制定に至った背景、条例の特長や狙いについて聞かせてください。

長崎 山梨県では、上質な自然環境ときれいな水がさまざまなブランド価値を創出しています。再生可能エネルギーは本来、こうした自然環境を守るために存在するにもかかわらず、県内にある太陽光発電施設は森林を伐採して建設するなど、自然破壊をしているものが多く目につきます。これは大いなる矛盾です。山間部には水源があり、その水に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、土砂災害を引き起こす危険性もあります。

太陽光発電がこうなった主な原因として、金融商品化して、事業者が責任を持った運営管理に取り組むという意識が希薄になったことがあります。県としては、太陽光発電が真に環境保全に役立ち、地域と共存共生できるようになってもらう必要があるという考えの下、条例を制定しました。

新条例では県に監督権限 事業者とまず対話で解決

―今回のような太陽光発電施設を規制する条例制定を求める声は住民からはありましたか。

長崎 住民はもちろんのこと、市町村などの自治体からもありました。中には「時既に遅し」という地域もあります。その点は悔やまれる部分であり、周辺住民の皆さまには本当に申し訳ないことになってしまいました。が、遅まきながら法的手段に訴えられる仕組みづくりに取り組んでいます。

この条例は、太陽光発電施設が稼働した後の監督権限を県が有します。場合によっては、行政処分することもありますが、そうならないように事前に話し合いを持ち、行政指導することになります。しかし、それだけでは効力がありません。今回の条例では、太陽光発電施設が金融商品である特性に注目し、国にFITの取り消しを求めることができるようにしました。

―金融商品としての価値をなくすというのは大きいですね。

長崎 これは本当に最終手段となります。県が持っているカードは、林地開発許可の取り消し、もしくは今回の条例に基づく措置です。FITの取り消し請求は経済産業大臣にします。しかし、取り消すかどうかは国の判断となります。

いたずらに地方分権を掲げるつもりはありませんが、全国に太陽光発電施設は何万カ所もあります。それらをすべて国は「監視する」と言っていますが、結局行動していません。県民はそのフラストレーションをずっと抱えています。

―この条例を施行できたこと自体が画期的だと思います。ほかの都道府県から反響はありますか。

長崎 問い合わせが相次いでいます。他県もこうした条例施行を検討中だと思います。この条例に違反した建設に関しては法的措置も辞さない毅然とした態度で臨みます。最高裁まで徹底的にやり合う覚悟です。そういった事態も想定して条例は入念に設計しています。

―今回の条例施行で乱開発は収まると見ていますか。

長崎 はい。減少すると見ています。今後は地元に祝福される太陽光発電施設を作ってほしいです。森の中に大規模メガソーラーをつくるのは祝福されないと思います。ほかの太陽光発電の可能性を模索してほしいと思います。

―エネルギー関連で期待している取り組みは。

長崎 現在、県を挙げて水素技術に注力しています。甲府市南部の米倉山太陽光発電所の余剰となった電気を水素に変えるパワーtoガスシステムの実証を進めています。 プロジェクトに参画する東京電力ホールディングスと東レ、山梨県で合弁会社を設立し、同システムをグローバルに広げていく予定です。県内のスーパーマーケットで水素燃料電池によって電気に再び変換し、店内の照明などに活用したり、半導体工場のボイラー用燃料として利用する取り組みを進めています。カーボンニュートラル時代に山梨県が貢献できる手段として取り組んでいます。

甲府市南部の米倉山電力貯蔵技術研究サイト

FITと連動した条例へ 再エネ価値は環境保全にあり

―国の太陽光発電政策に対し要望はありますか。

長崎 今回の条例では、建設や運用における大部分を規制できるよう設計しましたが、最終的にはFIT制度と連動して運用できるようにしていただきたい。県では国に取り消しを申し出ることは非常事態であり、最終手段だと考えています。地域の問題にしっかりと向き合っていただきたい。

―再生エネ事業者に対してメッセージはありますか。

長崎 再エネ開発は価値のある業務だと思っています、それ故、多くの方が投資しようと思うわけです。ただ、地球温暖化も含めて自然環境の保全であるということをぜひ重視してください。

また、太陽光発電施設は長い年月にわたって、地域に存在しうるものなので、地域住民からの理解を丁寧に取っていただきたい。一つは安全性。これはマストです。県としては全く妥協する余地はありません。もう一つは、生活環境への影響です。地域住民はこれも気にしています。ここをしっかりケアして欲しいと思います。

―今後もリーダーシップを発揮してください。ありがとうございました。

ながさき・こうたろう 1991年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館、金融庁、山梨県などを経て、2005年から3期衆議院議員を務める。19年2月から現職。

【特集2】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も


【インタビュー:髙崎敏宏/テス・エンジニアリング社長】

テス・エンジニアリングは、エネルギー設備の設置や運用のノウハウを生かし太陽光発電事業に取り組む。太陽光事業の戦略や、再エネ事業を進める上での秘訣を髙崎敏宏社長に聞いた。

―太陽光発電を手掛け始めたきっかけについて聞かせてください。

髙崎 当社は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる前からもコージェネと組み合わせた太陽光複合コージェネや、補助金を活用した自家消費太陽光のEPC(設計・調達・建設)を行っていました。

 制度開始後は、エンジニアリング事業のノウハウが生かせるビジネスモデルだと判断し、顧客に向けた太陽光発電のEPCを本格的に手掛け始めました。建設後の設備運用においても、遠隔監視システムを活用したO&Mを行うなど、太陽光発電に係わるビジネス全てを内製化してワンストップでサービスを提供しています。

 当社は、フロービジネスである「エンジニアリング事業」とストックビジネスである「エネルギーサプライ事業」の二つの事業を中心に展開しています。前者はガスコージェネを中心としたエネルギー設備の建設で、景気や原油高など時流に左右されます。太陽光発電もFITを背景に発電所の建設ばかり手掛けていると、買い取り価格が安くなったときに仕事が減少する恐れを懸念していました。

 そこで、定期的な収入が見込めるストックビジネスを拡大するため、2015年ごろからは太陽光発電を自社で保有し、売電収入を得る事業を開始しました。現在では自社発電所の件数も増加し、、経営基盤の強化に寄与しています。FIT期間終了後も、再エネ電源の需要は高まっていくと考えているため、それらを顧客向けの再エネ電源として活用していく予定です。今後は自社で建設するだけでなく、稼働済み太陽光発電所の買い取りやオンサイトPPAで発電所件数をさらに確保していく方針です。

オンサイトPPAに注力 工場の屋根などに設置

―太陽光発電では、オンサイトPPA(電力販売契約)にも注力しています。

髙崎 当社の顧客ターゲットは産業部門のエネルギーを多く消費する工場や事業所が中心です。エネルギー管理指定工場やそれに準ずる規模の施設などです。そういったお客さまには工場などの屋根やカーポートなどに太陽光発電を設置してもらうよう積極展開しています。当社の経営基盤を生かしながら、中長期的に売電収入が得られるビジネスモデルです。

 また、PPAの提案をきっかけに、ガスコージェネ導入やユーティリティの更新、LNGへの燃料転換などといった、低炭素・脱炭素化に対するソリューションも併せて提案しています。

 21年春、オンサイトPPAでは、THKリズムの九州と浜松の二つの事業所の屋根に太陽光を設置しました。コージェネで長いお付き合いがあり、太陽光についても導入してもらうことができた事例です。そのほか、脱炭素化に向けて、さまざまな産業のサプライチェーンでも低炭素、脱炭素化への取り組みニーズが増加していると感じます。そうしたニーズを抱えている企業に提案していきたいと考えています。

―貴社の太陽光発電事業における強みはEPCの品質などになるのでしょうか。

髙崎 当社はエネルギー設備を建設した後、O&Mも手掛けています。建設したものがいい加減だと、オペレーションに影響し、自分たちが苦しくなるだけです。コージェネで培ったエネルギー設備の建設や運用に関わるノウハウを転用し、お客さまに信頼いただける品質を心掛けています。

―太陽光発電所の開発・運営で気をつけていることは。

髙崎 各種法令の遵守はもちろん、地元の皆さんとコミュニケーションをとりながら進めていくことです。当社は建設する立場であり、事業者でもあるので、地元からの意見に耳を傾けるようにしています。例えば、雑草対策として、除草剤一つにしても、使ってほしくない地域もあれば、使ってほしいと要望を受ける地域があるなど、約束事が異なります。隣接する地域で農産物を作っている地域と作っていない地域では考え方も変わってきます。このように地域との対話を行いながら開発・運営を行うことで、地域と共存しながら持続可能な事業を行っていかなければならないと考えています。

バイオマス発電所が稼働 新たな燃料の開発進める

―ほかの再エネで取り組んでいるものはありますか。

髙崎 バイオマス燃料の開発に取り組んでいます。パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS)はFITのバイオマス燃料として認められていますが、ヤシ房から果実を取り出した後に残る空果房(EFB)は認められていません。これをペレット化して利用できないか、インドネシアで開発を進めています。自社で行うバイオマス発電についても太陽光発電に次いで注力しています。現在、当社グループが事業に関わっている発電所は三重エネウッド松阪木質バイオマス発電所(5800kW)の1カ所ですが、今後は熊本県で2000kW、佐賀県で4万6000kWの発電所が稼働する予定です。

茨城牛久メガソーラー発電所(2万9400kW)

―再エネ普及における課題は何だとお考えですか。

髙崎 系統の空き容量が無いことから、特高・高圧の発電所を系統連系できないことが課題だと考えています。以前、バイオマス発電所を建設できないか調査したら、180億円という高額な連系工事負担金を提示されました。これは事業ができないことと同義です。

 当社は工場や事業所内のオンサイト発電にも注力していますが、ある程度の規模の発電所を建設するには余剰電力を逆潮流させる必要があることから、系統空き容量の確保は必須です。こういった課題が改善されることで、さらなる再エネ拡大が期待できるのではないかと考えています。

たかさき・としひろ 大阪府出身。1995年同志社大学卒、テス・エンジニアリング入社。2017年7月社長就任。

【特集2まとめ】太陽光「共存」時代へ 〈地域共生〉〈安定電源〉への挑戦


太陽光発電に代表される再エネの導入拡大が転機を迎えている。
お天気任せの出力変動による電力系統への悪影響に加え、
乱開発に伴う自然破壊が全国的に深刻化しつつあるためだ。
こうした中、英知を集めた技術開発・規制見直しによって、
地域や系統と「共存」する再エネを目指す動きが加速してきた。
自治体、メーカー、エンジニアリングなどの取り組みを紹介する。

【レポート】主力化を支える「良い再エネ」 多様な発想と技術で「共生」へ

【インタビュー】倫理なきソーラー開発を規制 訴訟辞さずの厳しい姿勢で挑む

【レポート】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線

【インタビュー】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も

【レポート】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御

【特集1まとめ】アウトルック2022 「壬寅」の業界を大胆予想


新型コロナ禍、脱炭素化、資源高騰に揺れた2021年。
この3大テーマを引き継ぐ形で22年が幕を開けた。
欧州、米国、ロシア、中国、中東などの関係国は、
国益に関わるエネルギー政策をどう展開してくるのか。
そして日本は岸田政権の下、どんな戦略を描き出すのか。
「春の胎動を助ける」という壬寅の業界動向を大予想する。

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【覆面座談会】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」

インタビュー】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか

【レポート】エネルギー初夢NEWS10選 2022年に業界を騒がせそうな「夢物語」を集約

【特集1まとめ】原発逃避の終局 クリーンエネルギー戦略の切り札に


東日本大震災以降、長期低迷を続ける原子力政策に光明が差してきた。
脱炭素化の世界的潮流を受け、欧州主要国が原子力の役割を再評価。
わが国でも第二次岸田政権における原子力政策の前進に期待する声は多い。
経産省は、岸田首相が旗を振る「クリーンエネルギー戦略」の議論に着手する。
果たして「原子力戦略の再構築」は重要な論点に位置付けられるのか。
原発問題からの逃避を続けてきた時代は終局を迎えようとしている。

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【アウトライン】世論の壁を打ち破れるか 原子力政策「失われた10年」への決別

【レポート】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり

【インタビュー】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを

【レポート】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情

【インタビュー】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース

【レポート】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁

【インタビュー】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する