【特集2】実質再エネ100%プランを開始 機器連携で「スマートシティ化」へ


インタビュー:吉田恵一/日本瓦斯専務執行役員エネルギー事業本部長

LPガス、都市ガス、電気の顧客数を着実に伸ばしているニチガス。脱炭素時代への対応を図りながら、将来のスマートシティ構想を描く。

―ガス・電気の家庭向け事業を展開していく上で、どのようなビジョンを描いていますか。

吉田 潜熱回収型ガス給湯器と電気式ヒートポンプを組み合わせたハイブリッド型給湯器、および電気自動車(EV)を柱にした営業展開を考えています。

―ハイブリッド給湯器は、ガス業界が販売を控えてしまうような商材です。

吉田 はい。ハイブリッド給湯器は環境性能の高さや停電時にも車の電源で起動できるなど魅力的な商品ですが、普及が進めばガスの消費量が下がるというガス会社的にとっては導入をちゅうちょしてしまうデメリットがあることは事実です。

 とはいえ、過去に電力会社が省エネ機器を普及させ、ガス会社がエコジョーズを普及させてきたように、高効率で環境性能の高い商品、便利で快適な暮らしを提供することで多くのユーザーを獲得し、利益を拡大していきたいと考えています。

EV式家庭用蓄電池への期待 再エネプランとのシナジー

―EVについてはどうですか。

吉田 脱炭素化の波やガソリン高騰の影響もあり、EVを選択するユーザーは増加しています。走行距離が従来の自動車と比べて短いという課題はありますが、日中や夜間に自宅に駐車しておけば充電が可能で、かつガソリンスタンドに行く必要もありません。充電も夜間の運転しない時間帯に行えるなど、平均的な暮らしのパターンとマッチする点が挙げられます。

 EVは短期的に見れば「環境に優しいモビリティ」ですが、家庭需要を増やす画期的な商材です。中長期的には「家庭用の大型蓄電池」にもなり、これを太陽光発電と組み合わせれば災害に強い分散型エネルギー電源になれるメリットがあります。

―2月から、ガスと実質再生可能エネルギー100%の電気をセットにした料金プランを始めます。

吉田 これまでも市場に電気の再エネ料金プランはありましたが、通常の電気料金プランよりも値段が高いケースもあり、実際に採用に踏み切るユーザーは少数でした。しかし最近ではEV購入補助金の中に「実質再生可能エネルギー100%」の料金プランを導入していることが条件のものもあって、補助金という目に見えるメリットを背景に、EVユーザーの間で再エネプランの採用件数が増えています。

 こうした需要を背景に、再エネ価値を安価に提供し、さらにEVをお得に使えることをコンセプトにした新料金プランを2月から開始します。

昼夜間の値差幅を縮小 新プランで安価に環境価値

―新料金プランとはどのような内容ですか。

吉田 当社にはガスと電気料金をセットにした「でガ割」という商材があります。新プランは「でガ割」を軸に、環境価値を上乗せし、かつ安価に抑えられるよう設定しています。

 また通常、夜間の料金を安くした電気料金は夜間が安い分、日中は高めに設定されていますが、今回の新しいプランでは、夜間を割安料金としつつ、日中と夜間の価格差が大きくならないよう設定しています。

 例えば日中に太陽光の電気を自家消費しているお客さまの場合、日中に天候不順で発電量が少なくなっても、この新メニューでは系統から購入する電気料金が割高でないため、負担が大きくなることはありません。

 環境面に配慮した実質再エネ100%の料金プランを安価に利用できる点に加え、特にEVユーザーは夜間の安い電気料金の時間帯に充電することでお得にEVを活用できるのが最大の特長となっています。

―EVや太陽光ユーザーを巻き込んで、家庭内のエネルギーマネジメントシステムの構築を目指しているようです。

吉田 まず考えているアイテムが、家電を遠隔制御するスマートリモコンです。ハイブリッド給湯器やEV、太陽光、蓄電池など各種機器と連携できれば、最適なエネルギー利用を自動制御できるスマートホーム化が実現します。

 また当社には料金の確認などを行える「マイニチガス」というアプリがあります。これらを組み合わせることで、アプリ上でDR(デマンドレスポンス)やVPP(仮想発電所)を行えるようになるかもしれません。

 既に市場では家庭向けに蓄電池や太陽光を無償設置するPPA(電力販売契約)サービスが出始めており、これからエネルギー会社はガス・電気供給だけでなく、家庭向けでも分散型エネルギー設備を取り扱う機会が増えていきます。

 そこで、こうした設備と当社のブロックチェーン技術を活用すれば、需要家同士が電力を取引するPtoPも可能です。さらに自社事業所を災害対策拠点の機能を持つよう整備することで、地域と一体になった「ニチガス版スマートシティ」も構築できます。

 当社は22年4月からスタートする配電事業ライセンスの取得も検討しています。こうした取り組みを進めることでエネルギー利用の高効率化、系統の安定化、CO2フリープランによるグリーン化を目指し、エネルギーソリューションサービスをパッケージ化し、地域社会の多様化する社会課題の解決を果たしてまいります。

プラットフォームの一翼を担うスペース蛍

プラットフォームの共有化 ラストワンマイルへの供給

―今後の意気込みを。

吉田 これからは家電機器の性能向上でユーザー1件当たりのガス・電気使用量は減少し、環境面を配慮して化石燃料の消費量を低減していかなければなりません。そうした環境下でもラストワンマイルへの安定供給を継続し、高効率な設備を提供してクリーンかつ便利な暮らしを実現することで、多くの消費者に選んでもらえる企業になれるよう成長を続けます。

 また当社には、世界最大規模のLPガス容器のハブ充填基地である「夢の絆・川崎」、ガスメーターに取り付けてガス使用量および容器のガス残量をリアルタイムで把握する自動検針ツール「スペース蛍」といった、低炭素化に貢献する、高効率なプラットフォームがあります。

 これを全国の事業者と共有することで、不毛なエネルギー事業者間の消耗戦ではなく、システムやサービス面における価値を高め合う「共創」の輪を広げたいと考えています。

よしだ・けいいち 東京電力を経て2020年に入社。東京電力では、送配電・用地取得・経営企画・労務人事・広報などの業務に従事。

【特集2】常識を超えた新サービスが誕生 技術と知恵で変化に挑む


電力・ガスの小売り業界で、従来の常識を超えたサービスが誕生している。背景にあるのはエネルギー利用形態の多様化。各社は技術と知恵で勝負を掛ける。

電力・ガスが全面自由化されて数年が経過した日本。今では、脱炭素、デジタル化といったキーワードに加えて、エネルギー利用の多様化といった側面が業界の現場では現れ始めている。

補助金でEVを後押し クリーン商材へのニーズ

まず、政府が力を入れているのが、電気自動車(EV)だ。走行時にCO2を排出しない、長期停電時に蓄電池としても利用できるといったメリットがあることから、補助制度を設けながら普及拡大に向け政策を総動員している。EV購入補助金には、EVをクリーンに運用してもらうべく実質再生可能エネルギー100%の電気料金プランへの加入が条件のものもある。環境意識の高まりやEV普及を機に、再エネ電力プランを提供する事業者が増加している。

さらにメーカーは電気とガスを組み合わせたハイブリッド給湯器のような高いエネルギー効率と環境性能を両立した商材を次々と開発し、省エネに定評のあるエコキュートやエネファームの改良も進んでいる。事業者が消費者に選ばれるためには、電気・ガスの安定供給にとどまらず、生活を豊かにするクリーンで便利な商材・サービスを提供することも重要な要素となっている。

同時に「デジタル化」に対応したサービスも注目される。料金決済を自社アプリやウェブで行えるシステムを導入するのも一つのデジタル化と言えるが、もう一歩進んだ事例がある。ユーザーに携帯のアプリでDR(デマンドレスポンス)を指令し、達成するとクーポンを取得できるサービスだ。

さらに需要家の家庭用太陽光発電やエネファーム、蓄電池、EVなどを使って電力需給に合わせて調整する実証を行う事業者の中には、アプリで各種機器を遠隔制御し、DRやVPP(仮想発電所)を行うスマートシティ化を目指すところもある。こうした高度なサービスが市場を席巻する日も遠くなさそうだ。

変化するライフ&ビジネス 業界の垣根越えた連携

また世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、在宅時間の増加や、密を避けられるアウトドア人気の加速など、生活様式を変化させた。各社は家庭内調理器具やアウトドア製品などを進化させている。さらに機器開発の手法も変化し、事業者がクラウドファンディングを使って製品を開発するなど、新しいスタイルのビジネスも始まっている。

2021年1月に住環境研究所が発表した20~50代の既婚男女を対象に行った「ニューノーマルの時代の住まい方に対する意識調査」では、20・30代の若い世代の「技術的最先端の暮らし」への関心が高く(20代43%・30代39%)、「エコな暮らし」は20代が50%、全世代平均で46%が関心を寄せているそうだ。多様化するニーズに応えるには、同業種・異業種問わず連携して、挑戦と進化を続けることが求められる。

【特集2まとめ】家庭用エネルギー大変革 顧客ニーズの多様化に挑む


小売り全面自由化、脱炭素化、デジタル化などを背景に
家庭用エネルギー市場は一大変革期に突入した。
多様なプレイヤーが参入し、多彩な顧客ニーズに対応する
料金メニューやサービス、利用機器が数多く登場している。
早くから自由化された欧州の事情にも触れながら、
国内で活発化する家庭用ビジネスの新潮流を追った。

【レポート】常識を超えた新サービスが誕生 技術と知恵で変化に挑む

【寄稿】脱炭素化を目指す家庭用エネ戦略 消費者行動とデータ分析に焦点

【レポート】北国ならではの省エネ対策 快適な暮らしとの両立を実現

【寄稿】目まぐるしく変わる欧州政策 日本では独自の政策展開が必要

【レポート】スマホで節電にチャレンジ 類を見ない高精度DRサービス

【インタビュー】290万件の電力ユーザー獲得 再エネ商材で環境メリットを訴求

【インタビュー】実質再エネ100%プランを開始 機器連携で「スマートシティ化」へ

【レポート】室内からアウトドア向けまで ガスを使った嗜好品の数々

【特集1まとめ】国際ガス市場「異変あり」 強まる不確実性と政治リスク


欧州の天然ガス不足に伴うエネルギー危機に端を発し、
世界の天然ガス・LNG市場で価格高騰と供給不安が続いている。
ロシアからのガス供給に依存する欧州は、ウクライナ問題でロシアとの対立を深め、
供給不安解消への切り札となる「ノルドストリーム2」の早期稼働は見込めないまま。
南アジアや南米などでは、市民生活や経済活動への深刻な影響が懸念される。
脱炭素社会実現への重要なトランジションにLNGを位置付ける日本。
持続的な活用に向け、国際的なルールメイクを主導する役割が期待されている。

【レポート】欧州エネルギー危機で顕在化 世界の天然ガス市場を覆う暗雲

【座談会】予見可能性の低下にどう対応!? 日本のLNG調達戦略を考える

【寄稿】欧州の天然ガス高騰を徹底検証 LNGに波及する地政学リスク

【特集2】倫理なきソーラー開発を規制 厳しい姿勢で挑む(長崎幸太郎山梨県知事)


【インタビュー:長崎幸太郎/山梨県知事】

山梨県は、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する条例を施行した。条例制定に至った背景や特長、活用方法などについて長崎幸太郎知事に聞いた。

―2021年10月、県土の約8割を占める森林や土砂災害警戒区域などを設置規制区域とし、出力10 kW以上の太陽光発電施設の設置を原則禁止する太陽光条例を一部施行しました。条例制定に至った背景、条例の特長や狙いについて聞かせてください。

長崎 山梨県では、上質な自然環境ときれいな水がさまざまなブランド価値を創出しています。再生可能エネルギーは本来、こうした自然環境を守るために存在するにもかかわらず、県内にある太陽光発電施設は森林を伐採して建設するなど、自然破壊をしているものが多く目につきます。これは大いなる矛盾です。山間部には水源があり、その水に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、土砂災害を引き起こす危険性もあります。

太陽光発電がこうなった主な原因として、金融商品化して、事業者が責任を持った運営管理に取り組むという意識が希薄になったことがあります。県としては、太陽光発電が真に環境保全に役立ち、地域と共存共生できるようになってもらう必要があるという考えの下、条例を制定しました。

新条例では県に監督権限 事業者とまず対話で解決

―今回のような太陽光発電施設を規制する条例制定を求める声は住民からはありましたか。

長崎 住民はもちろんのこと、市町村などの自治体からもありました。中には「時既に遅し」という地域もあります。その点は悔やまれる部分であり、周辺住民の皆さまには本当に申し訳ないことになってしまいました。が、遅まきながら法的手段に訴えられる仕組みづくりに取り組んでいます。

この条例は、太陽光発電施設が稼働した後の監督権限を県が有します。場合によっては、行政処分することもありますが、そうならないように事前に話し合いを持ち、行政指導することになります。しかし、それだけでは効力がありません。今回の条例では、太陽光発電施設が金融商品である特性に注目し、国にFITの取り消しを求めることができるようにしました。

―金融商品としての価値をなくすというのは大きいですね。

長崎 これは本当に最終手段となります。県が持っているカードは、林地開発許可の取り消し、もしくは今回の条例に基づく措置です。FITの取り消し請求は経済産業大臣にします。しかし、取り消すかどうかは国の判断となります。

いたずらに地方分権を掲げるつもりはありませんが、全国に太陽光発電施設は何万カ所もあります。それらをすべて国は「監視する」と言っていますが、結局行動していません。県民はそのフラストレーションをずっと抱えています。

―この条例を施行できたこと自体が画期的だと思います。ほかの都道府県から反響はありますか。

長崎 問い合わせが相次いでいます。他県もこうした条例施行を検討中だと思います。この条例に違反した建設に関しては法的措置も辞さない毅然とした態度で臨みます。最高裁まで徹底的にやり合う覚悟です。そういった事態も想定して条例は入念に設計しています。

―今回の条例施行で乱開発は収まると見ていますか。

長崎 はい。減少すると見ています。今後は地元に祝福される太陽光発電施設を作ってほしいです。森の中に大規模メガソーラーをつくるのは祝福されないと思います。ほかの太陽光発電の可能性を模索してほしいと思います。

―エネルギー関連で期待している取り組みは。

長崎 現在、県を挙げて水素技術に注力しています。甲府市南部の米倉山太陽光発電所の余剰となった電気を水素に変えるパワーtoガスシステムの実証を進めています。 プロジェクトに参画する東京電力ホールディングスと東レ、山梨県で合弁会社を設立し、同システムをグローバルに広げていく予定です。県内のスーパーマーケットで水素燃料電池によって電気に再び変換し、店内の照明などに活用したり、半導体工場のボイラー用燃料として利用する取り組みを進めています。カーボンニュートラル時代に山梨県が貢献できる手段として取り組んでいます。

甲府市南部の米倉山電力貯蔵技術研究サイト

FITと連動した条例へ 再エネ価値は環境保全にあり

―国の太陽光発電政策に対し要望はありますか。

長崎 今回の条例では、建設や運用における大部分を規制できるよう設計しましたが、最終的にはFIT制度と連動して運用できるようにしていただきたい。県では国に取り消しを申し出ることは非常事態であり、最終手段だと考えています。地域の問題にしっかりと向き合っていただきたい。

―再生エネ事業者に対してメッセージはありますか。

長崎 再エネ開発は価値のある業務だと思っています、それ故、多くの方が投資しようと思うわけです。ただ、地球温暖化も含めて自然環境の保全であるということをぜひ重視してください。

また、太陽光発電施設は長い年月にわたって、地域に存在しうるものなので、地域住民からの理解を丁寧に取っていただきたい。一つは安全性。これはマストです。県としては全く妥協する余地はありません。もう一つは、生活環境への影響です。地域住民はこれも気にしています。ここをしっかりケアして欲しいと思います。

―今後もリーダーシップを発揮してください。ありがとうございました。

ながさき・こうたろう 1991年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館、金融庁、山梨県などを経て、2005年から3期衆議院議員を務める。19年2月から現職。

【特集2】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も


【インタビュー:髙崎敏宏/テス・エンジニアリング社長】

テス・エンジニアリングは、エネルギー設備の設置や運用のノウハウを生かし太陽光発電事業に取り組む。太陽光事業の戦略や、再エネ事業を進める上での秘訣を髙崎敏宏社長に聞いた。

―太陽光発電を手掛け始めたきっかけについて聞かせてください。

髙崎 当社は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる前からもコージェネと組み合わせた太陽光複合コージェネや、補助金を活用した自家消費太陽光のEPC(設計・調達・建設)を行っていました。

 制度開始後は、エンジニアリング事業のノウハウが生かせるビジネスモデルだと判断し、顧客に向けた太陽光発電のEPCを本格的に手掛け始めました。建設後の設備運用においても、遠隔監視システムを活用したO&Mを行うなど、太陽光発電に係わるビジネス全てを内製化してワンストップでサービスを提供しています。

 当社は、フロービジネスである「エンジニアリング事業」とストックビジネスである「エネルギーサプライ事業」の二つの事業を中心に展開しています。前者はガスコージェネを中心としたエネルギー設備の建設で、景気や原油高など時流に左右されます。太陽光発電もFITを背景に発電所の建設ばかり手掛けていると、買い取り価格が安くなったときに仕事が減少する恐れを懸念していました。

 そこで、定期的な収入が見込めるストックビジネスを拡大するため、2015年ごろからは太陽光発電を自社で保有し、売電収入を得る事業を開始しました。現在では自社発電所の件数も増加し、、経営基盤の強化に寄与しています。FIT期間終了後も、再エネ電源の需要は高まっていくと考えているため、それらを顧客向けの再エネ電源として活用していく予定です。今後は自社で建設するだけでなく、稼働済み太陽光発電所の買い取りやオンサイトPPAで発電所件数をさらに確保していく方針です。

オンサイトPPAに注力 工場の屋根などに設置

―太陽光発電では、オンサイトPPA(電力販売契約)にも注力しています。

髙崎 当社の顧客ターゲットは産業部門のエネルギーを多く消費する工場や事業所が中心です。エネルギー管理指定工場やそれに準ずる規模の施設などです。そういったお客さまには工場などの屋根やカーポートなどに太陽光発電を設置してもらうよう積極展開しています。当社の経営基盤を生かしながら、中長期的に売電収入が得られるビジネスモデルです。

 また、PPAの提案をきっかけに、ガスコージェネ導入やユーティリティの更新、LNGへの燃料転換などといった、低炭素・脱炭素化に対するソリューションも併せて提案しています。

 21年春、オンサイトPPAでは、THKリズムの九州と浜松の二つの事業所の屋根に太陽光を設置しました。コージェネで長いお付き合いがあり、太陽光についても導入してもらうことができた事例です。そのほか、脱炭素化に向けて、さまざまな産業のサプライチェーンでも低炭素、脱炭素化への取り組みニーズが増加していると感じます。そうしたニーズを抱えている企業に提案していきたいと考えています。

―貴社の太陽光発電事業における強みはEPCの品質などになるのでしょうか。

髙崎 当社はエネルギー設備を建設した後、O&Mも手掛けています。建設したものがいい加減だと、オペレーションに影響し、自分たちが苦しくなるだけです。コージェネで培ったエネルギー設備の建設や運用に関わるノウハウを転用し、お客さまに信頼いただける品質を心掛けています。

―太陽光発電所の開発・運営で気をつけていることは。

髙崎 各種法令の遵守はもちろん、地元の皆さんとコミュニケーションをとりながら進めていくことです。当社は建設する立場であり、事業者でもあるので、地元からの意見に耳を傾けるようにしています。例えば、雑草対策として、除草剤一つにしても、使ってほしくない地域もあれば、使ってほしいと要望を受ける地域があるなど、約束事が異なります。隣接する地域で農産物を作っている地域と作っていない地域では考え方も変わってきます。このように地域との対話を行いながら開発・運営を行うことで、地域と共存しながら持続可能な事業を行っていかなければならないと考えています。

バイオマス発電所が稼働 新たな燃料の開発進める

―ほかの再エネで取り組んでいるものはありますか。

髙崎 バイオマス燃料の開発に取り組んでいます。パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS)はFITのバイオマス燃料として認められていますが、ヤシ房から果実を取り出した後に残る空果房(EFB)は認められていません。これをペレット化して利用できないか、インドネシアで開発を進めています。自社で行うバイオマス発電についても太陽光発電に次いで注力しています。現在、当社グループが事業に関わっている発電所は三重エネウッド松阪木質バイオマス発電所(5800kW)の1カ所ですが、今後は熊本県で2000kW、佐賀県で4万6000kWの発電所が稼働する予定です。

茨城牛久メガソーラー発電所(2万9400kW)

―再エネ普及における課題は何だとお考えですか。

髙崎 系統の空き容量が無いことから、特高・高圧の発電所を系統連系できないことが課題だと考えています。以前、バイオマス発電所を建設できないか調査したら、180億円という高額な連系工事負担金を提示されました。これは事業ができないことと同義です。

 当社は工場や事業所内のオンサイト発電にも注力していますが、ある程度の規模の発電所を建設するには余剰電力を逆潮流させる必要があることから、系統空き容量の確保は必須です。こういった課題が改善されることで、さらなる再エネ拡大が期待できるのではないかと考えています。

たかさき・としひろ 大阪府出身。1995年同志社大学卒、テス・エンジニアリング入社。2017年7月社長就任。

【特集2まとめ】太陽光「共存」時代へ 〈地域共生〉〈安定電源〉への挑戦


太陽光発電に代表される再エネの導入拡大が転機を迎えている。
お天気任せの出力変動による電力系統への悪影響に加え、
乱開発に伴う自然破壊が全国的に深刻化しつつあるためだ。
こうした中、英知を集めた技術開発・規制見直しによって、
地域や系統と「共存」する再エネを目指す動きが加速してきた。
自治体、メーカー、エンジニアリングなどの取り組みを紹介する。

【レポート】主力化を支える「良い再エネ」 多様な発想と技術で「共生」へ

【インタビュー】倫理なきソーラー開発を規制 訴訟辞さずの厳しい姿勢で挑む

【レポート】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線

【インタビュー】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も

【レポート】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御

【特集1まとめ】アウトルック2022 「壬寅」の業界を大胆予想


新型コロナ禍、脱炭素化、資源高騰に揺れた2021年。
この3大テーマを引き継ぐ形で22年が幕を開けた。
欧州、米国、ロシア、中国、中東などの関係国は、
国益に関わるエネルギー政策をどう展開してくるのか。
そして日本は岸田政権の下、どんな戦略を描き出すのか。
「春の胎動を助ける」という壬寅の業界動向を大予想する。

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【覆面座談会】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」

インタビュー】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか

【レポート】エネルギー初夢NEWS10選 2022年に業界を騒がせそうな「夢物語」を集約

【特集1まとめ】原発逃避の終局 クリーンエネルギー戦略の切り札に


東日本大震災以降、長期低迷を続ける原子力政策に光明が差してきた。
脱炭素化の世界的潮流を受け、欧州主要国が原子力の役割を再評価。
わが国でも第二次岸田政権における原子力政策の前進に期待する声は多い。
経産省は、岸田首相が旗を振る「クリーンエネルギー戦略」の議論に着手する。
果たして「原子力戦略の再構築」は重要な論点に位置付けられるのか。
原発問題からの逃避を続けてきた時代は終局を迎えようとしている。

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【アウトライン】世論の壁を打ち破れるか 原子力政策「失われた10年」への決別

【レポート】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり

【インタビュー】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを

【レポート】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情

【インタビュー】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース

【レポート】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁

【インタビュー】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する

【特集2まとめ】保守管理の高度化時代へ スマート保安革命


メンテナンス業務を高度化する「スマート保安」の導入が進んでいる。
AI、IoT機器、ドローンなどを用いた画像解析や遠隔システムが次々生まれ、
政府もスマート保安の普及・拡大に向け、制度改正に本腰を入れている。
保守・保安業界の各セクターで起きる「革命」の一端を紹介する。

【アウトライン】デジタル技術と人材を融合 官民が進めるスマート保安

【インタビュー】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を

【レポート設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も

【レポートインフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解

【レポート システム機器編】通信技術で安全性を向上 収集データの活用進む

【特集2】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み


【静岡ガス・岸田裕之社長】

―今年8月に「2050年カーボンニュートラル(CN)ビジョン」を発表しました。

岸田 当社では、菅義偉前首相の昨年10月のCN宣言以前から、30年に向けた中長期的な企業ビジョンを議論してきました。お客さまからCNについて相談や問い合わせをいただく機会も増える中で、当社の考えを示す意味を込めて、今回のCNビジョンを策定しました。今後、CNを実現していく上で、「地域共創」の文字通り、お客さまはもとより自治体や地域の皆さまとともに、取り組んでいこうと考えています。

 「脱炭素」の文字を前にすると、「コストがかかって収益的にも辛いもの」を想像する方が大半だと思います。確かに初期段階ではコストがかかり、困難な対応も多くあると思います。しかし、CN実現には10年、30年と長い時間軸で取り組む必要があります。その間に、経済やエネルギーを循環させる仕組みを構築し、最終的に収益面でもお客さまに喜ばれるものにしていけたらと考えています。

岸田社長

顧客とともに低炭素化推進 省エネでは提案を加速

―30年までに200万tのCO2削減との目標を掲げています。

岸田 この数値は、静岡県のエネルギー会社として、大きな目標を立てて取り組んでいるというメッセージでもあります。例えば、当社エリアの富士市には紙・パルプ、食品といった熱多消費産業のお客さまが多くあります。まずは、そうした企業の低炭素化を徹底的にサポートしていきます。そこで取り組むのが①天然ガスシフト、②コージェネなどのエネルギー高度利用の推進、③省エネビジネスです。①天然ガスシフトでは、C重油や石炭を使用している産業用のお客さまがCN宣言をきっかけに燃料転換に興味を持ち始めており、当社の提案に耳を傾けていただけるようになりました。CO2削減の施策をお客さま個々の事情に合わせて、ともに検討していきます。

―③省エネビジネスは営業力が重要になってきそうです。

岸田 お客さまが工場のエネルギー運用で困っていることを一つひとつ聞いていく必要があります。例えば、ある工場では熱配管の保温方法が旧態依然の方式のままでした。そこで、当社が新しい方法を提案したところ、大幅な省エネが図ることできました。こうした取り組みを加速していきたいです。課題は現場で分かることが多く、お客さまと良好な関係を築いていくことが重要です。30年まではこうした低炭素化に資する取り組みと、CNLNGクレジットとの組み合わせが大事になります。

CNLNGを積んだ船が同社袖師基地に入港した

その先、50年の脱炭素化への取り組みではメタネーションなどイノベーションが必要です。日本ガス協会や大手ガス会社と連携して取り組みを強化していきます。

―系列ガス会社もCNビジョンに基づき取り組むのでしょうか。

岸田 当社と導管がつながっているグループ会社は同じ考え方で取り組みを進めていきます。ただ、佐渡ガス(新潟県)のような会社は異なります。佐渡島は標高1000m級の山があり、森林が多くあります。例えば、佐渡島の森林を取得してCO2吸収価値をJクレジット化することでCNを推進できる可能性もあるでしょう。

 下田ガス(静岡県)では、市が使用する電気を切り替えるプロポーザルの際に、電力供給の枠にとどまらず、地域でエネルギーと経済を循環できる仕組みを導入できないかと提案しました。卒FITの電力を市役所や商店街に購入していただき、地域コインを発行するようなイメージです。これを地元の商店街などでの経済循環につなげることはできないかと。地域ごとに異なる特性に合わせたアプローチを考え抜きます。

―30年までに再エネ20万kW開発という目標については。

岸田 太陽光は一般的な野立てに加え、PPAモデルによる地域電源を考えています。太陽光発電設備を無償提供し、10~20年間のサービスとガス供給を行うモデルを展開していきます。また、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)にも取り組んでおり、耕作放棄地の解消などに寄与するものと考えています。

 バイオマスは今年5月、三菱地所などと埼玉県で剪定枝を燃料としたバイオマス発電所を手掛ける計画を発表しました。道路整備などで発生する剪定枝は廃棄物として扱われています。これを燃料として利用するものです。静岡県内でも同様の仕組みを用いた発電所を展開したいです。

―今後、エネルギービジネスはどうなっていくと見ていますか。

岸田 今後10年で低炭素化への取り組みがさらに加速していくでしょう。地域の皆さまや企業と知恵を出し、その地域に合ったやり方を見出して経済やエネルギーを循環させていくインフラの仕組みの構築が鍵になると思います。エネルギー企業である当社が中心になりながら魅力ある仕組みをつくっていきたいですし、「静岡ガスなら任せられる」という信頼を積み上げていきたいと考えています。

【特集2】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す


【北海道ガス】

北海道南富良野町は、北海道のほぼ中央に位置し、町総面積の約9割を森林地帯が占めるという緑の多い町だ。周辺は富良野市やトマムリゾートなど観光地に囲まれ、同町にもラフティングなど、アウトドアのオプショナルツアーを楽しみに来る観光客が多く訪れる。

さまざまな資源を守る森林 経営や維持管理が課題

そんな自然あふれる南富良野町において、課題の一つとなっているのが森林の維持だ。森林は維持管理に資金や雇用が必要となる。この経営を将来にわたり継続できるかが問題となっていた。近年では、森林を商行為対象と考える業者から森林を購入したいとの申し出が多数ある。そうした買い手は所有した後に木を伐採して、残った山をそのまま放置する可能性がある。責任を持った運営が継続される保証がないのだ。このため簡単に継承できないのが課題だった。

「森林を守ることは水資源の確保や自然災害の防止にもつながるため重要です。町内のかなやま湖に生息する魚の絶滅危惧種イトウなど、生物を守ることにもなります。南富良野町は自然を観光資源にしているため、森林の安定的な整備は欠かせません」。南富良野町企画課まちづくりプロジェクト推進室の川口健太主幹はそう話す。

一方、北海道ガスは2050年脱炭素という目標に向け、さまざまな施策を検討中だった。その一つにCO2吸収価値(CO2クレジット)を創出するアイデアがあった。また、同社はエネルギーを通じた地域の課題解決や活性化に寄与するための取り組みを行っている。これまで夕張市などと連携協定を締結した実績もある。

そこで今回、南富良野町とも連携協定を締結。町内のかなやま湖に隣接する土地142・82 haの森林を取得し、維持管理を行いながら、CO2吸収価値を創出していくことにした。南富良野町も「信頼おける企業に継承できて安心できた」(川口主幹)と語る。

取得したかなやま湖に隣接する森林

ただ、吸収価値に変える作業は当初手探り状態だった。北ガス経営企画部環境グループの笠原慎副課長は「どの程度の量を認めてもらえるか、認証機関はあるのかなどを調査し、J―クレジットを選択しました。吸収量は木の年齢によっても変わります。得たCO2吸収価値は決して大きい規模ではありませんが、前述の水や自然資源の確保の観点からも森林を維持管理することは重要です」と話す。北ガスでは、同森林を長期にわたり管理維持していく方針だ。

レジリエンス強化でも連携 極寒期でも2週間の避難可能

今回の北ガスと南富良野町の連携協定では、レジリエンス強化や再エネの地産地消の内容も含まれている。南富良野町は16年8月、洪水豪雨災害に見舞われた。昨今の異常気象による豪雨は、治水に問題なかった町の想定を遥かに上回った。これにより、主力産業のポテトチップス工場が浸水。3カ月操業を停止し、全国的に品不足になるなど大きな影響を与えた。

近年は、猛吹雪など冬の災害も増えている。町に入る二つの道路が寸断され、陸の孤島になってしまうこともあった。そこで、町では道の駅を改装して防災拠点にする計画を進めており、北ガスが参画する。22年に営業を開始する複合施設には停電自立型GHPや、LPガス非常用発電機を導入する。極寒期においても、2週間程度暖や食事を取れるようにする構えだ。

再エネの地産地消に関しては、現在、固定価格買い取り制度(FIT)で売電している町内の小水力発電(177kW)の電力を町内に供給するスキームについて検討している。また、太陽光発電を道の駅などに設置し、道の駅で消費し余剰が出る場合は、北ガスが購入することも考えている。

北ガスは、この知見を今後の取り組みに生かしていく。北ガス経営企画グループ地域連携・再エネ開発推進チームの宮澤智裕チームリーダーは「北海道には多数の森林が存在します。森林を有効活用しながら、環境問題、レジリエンス強化について地域と連携と進めることが、地域活性化に有効であると考えます」と説明する。

エネルギー事業者による、CO2の吸収価値の創出を目的の一つとした森林取得は全国的にも珍しいケースだ。こうした取り組みは今後さらに広まりそうだ。