【特集2】倫理なきソーラー開発を規制 厳しい姿勢で挑む(長崎幸太郎山梨県知事)

【インタビュー:長崎幸太郎/山梨県知事】

山梨県は、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する条例を施行した。条例制定に至った背景や特長、活用方法などについて長崎幸太郎知事に聞いた。

―2021年10月、県土の約8割を占める森林や土砂災害警戒区域などを設置規制区域とし、出力10 kW以上の太陽光発電施設の設置を原則禁止する太陽光条例を一部施行しました。条例制定に至った背景、条例の特長や狙いについて聞かせてください。

長崎 山梨県では、上質な自然環境ときれいな水がさまざまなブランド価値を創出しています。再生可能エネルギーは本来、こうした自然環境を守るために存在するにもかかわらず、県内にある太陽光発電施設は森林を伐採して建設するなど、自然破壊をしているものが多く目につきます。これは大いなる矛盾です。山間部には水源があり、その水に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、土砂災害を引き起こす危険性もあります。

太陽光発電がこうなった主な原因として、金融商品化して、事業者が責任を持った運営管理に取り組むという意識が希薄になったことがあります。県としては、太陽光発電が真に環境保全に役立ち、地域と共存共生できるようになってもらう必要があるという考えの下、条例を制定しました。

新条例では県に監督権限 事業者とまず対話で解決

―今回のような太陽光発電施設を規制する条例制定を求める声は住民からはありましたか。

長崎 住民はもちろんのこと、市町村などの自治体からもありました。中には「時既に遅し」という地域もあります。その点は悔やまれる部分であり、周辺住民の皆さまには本当に申し訳ないことになってしまいました。が、遅まきながら法的手段に訴えられる仕組みづくりに取り組んでいます。

この条例は、太陽光発電施設が稼働した後の監督権限を県が有します。場合によっては、行政処分することもありますが、そうならないように事前に話し合いを持ち、行政指導することになります。しかし、それだけでは効力がありません。今回の条例では、太陽光発電施設が金融商品である特性に注目し、国にFITの取り消しを求めることができるようにしました。

―金融商品としての価値をなくすというのは大きいですね。

長崎 これは本当に最終手段となります。県が持っているカードは、林地開発許可の取り消し、もしくは今回の条例に基づく措置です。FITの取り消し請求は経済産業大臣にします。しかし、取り消すかどうかは国の判断となります。

いたずらに地方分権を掲げるつもりはありませんが、全国に太陽光発電施設は何万カ所もあります。それらをすべて国は「監視する」と言っていますが、結局行動していません。県民はそのフラストレーションをずっと抱えています。

―この条例を施行できたこと自体が画期的だと思います。ほかの都道府県から反響はありますか。

長崎 問い合わせが相次いでいます。他県もこうした条例施行を検討中だと思います。この条例に違反した建設に関しては法的措置も辞さない毅然とした態度で臨みます。最高裁まで徹底的にやり合う覚悟です。そういった事態も想定して条例は入念に設計しています。

―今回の条例施行で乱開発は収まると見ていますか。

長崎 はい。減少すると見ています。今後は地元に祝福される太陽光発電施設を作ってほしいです。森の中に大規模メガソーラーをつくるのは祝福されないと思います。ほかの太陽光発電の可能性を模索してほしいと思います。

―エネルギー関連で期待している取り組みは。

長崎 現在、県を挙げて水素技術に注力しています。甲府市南部の米倉山太陽光発電所の余剰となった電気を水素に変えるパワーtoガスシステムの実証を進めています。 プロジェクトに参画する東京電力ホールディングスと東レ、山梨県で合弁会社を設立し、同システムをグローバルに広げていく予定です。県内のスーパーマーケットで水素燃料電池によって電気に再び変換し、店内の照明などに活用したり、半導体工場のボイラー用燃料として利用する取り組みを進めています。カーボンニュートラル時代に山梨県が貢献できる手段として取り組んでいます。

甲府市南部の米倉山電力貯蔵技術研究サイト

FITと連動した条例へ 再エネ価値は環境保全にあり

―国の太陽光発電政策に対し要望はありますか。

長崎 今回の条例では、建設や運用における大部分を規制できるよう設計しましたが、最終的にはFIT制度と連動して運用できるようにしていただきたい。県では国に取り消しを申し出ることは非常事態であり、最終手段だと考えています。地域の問題にしっかりと向き合っていただきたい。

―再生エネ事業者に対してメッセージはありますか。

長崎 再エネ開発は価値のある業務だと思っています、それ故、多くの方が投資しようと思うわけです。ただ、地球温暖化も含めて自然環境の保全であるということをぜひ重視してください。

また、太陽光発電施設は長い年月にわたって、地域に存在しうるものなので、地域住民からの理解を丁寧に取っていただきたい。一つは安全性。これはマストです。県としては全く妥協する余地はありません。もう一つは、生活環境への影響です。地域住民はこれも気にしています。ここをしっかりケアして欲しいと思います。

―今後もリーダーシップを発揮してください。ありがとうございました。

ながさき・こうたろう 1991年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館、金融庁、山梨県などを経て、2005年から3期衆議院議員を務める。19年2月から現職。

【特集2】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も

【インタビュー:髙崎敏宏/テス・エンジニアリング社長】

テス・エンジニアリングは、エネルギー設備の設置や運用のノウハウを生かし太陽光発電事業に取り組む。太陽光事業の戦略や、再エネ事業を進める上での秘訣を髙崎敏宏社長に聞いた。

―太陽光発電を手掛け始めたきっかけについて聞かせてください。

髙崎 当社は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる前からもコージェネと組み合わせた太陽光複合コージェネや、補助金を活用した自家消費太陽光のEPC(設計・調達・建設)を行っていました。

 制度開始後は、エンジニアリング事業のノウハウが生かせるビジネスモデルだと判断し、顧客に向けた太陽光発電のEPCを本格的に手掛け始めました。建設後の設備運用においても、遠隔監視システムを活用したO&Mを行うなど、太陽光発電に係わるビジネス全てを内製化してワンストップでサービスを提供しています。

 当社は、フロービジネスである「エンジニアリング事業」とストックビジネスである「エネルギーサプライ事業」の二つの事業を中心に展開しています。前者はガスコージェネを中心としたエネルギー設備の建設で、景気や原油高など時流に左右されます。太陽光発電もFITを背景に発電所の建設ばかり手掛けていると、買い取り価格が安くなったときに仕事が減少する恐れを懸念していました。

 そこで、定期的な収入が見込めるストックビジネスを拡大するため、2015年ごろからは太陽光発電を自社で保有し、売電収入を得る事業を開始しました。現在では自社発電所の件数も増加し、、経営基盤の強化に寄与しています。FIT期間終了後も、再エネ電源の需要は高まっていくと考えているため、それらを顧客向けの再エネ電源として活用していく予定です。今後は自社で建設するだけでなく、稼働済み太陽光発電所の買い取りやオンサイトPPAで発電所件数をさらに確保していく方針です。

オンサイトPPAに注力 工場の屋根などに設置

―太陽光発電では、オンサイトPPA(電力販売契約)にも注力しています。

髙崎 当社の顧客ターゲットは産業部門のエネルギーを多く消費する工場や事業所が中心です。エネルギー管理指定工場やそれに準ずる規模の施設などです。そういったお客さまには工場などの屋根やカーポートなどに太陽光発電を設置してもらうよう積極展開しています。当社の経営基盤を生かしながら、中長期的に売電収入が得られるビジネスモデルです。

 また、PPAの提案をきっかけに、ガスコージェネ導入やユーティリティの更新、LNGへの燃料転換などといった、低炭素・脱炭素化に対するソリューションも併せて提案しています。

 21年春、オンサイトPPAでは、THKリズムの九州と浜松の二つの事業所の屋根に太陽光を設置しました。コージェネで長いお付き合いがあり、太陽光についても導入してもらうことができた事例です。そのほか、脱炭素化に向けて、さまざまな産業のサプライチェーンでも低炭素、脱炭素化への取り組みニーズが増加していると感じます。そうしたニーズを抱えている企業に提案していきたいと考えています。

―貴社の太陽光発電事業における強みはEPCの品質などになるのでしょうか。

髙崎 当社はエネルギー設備を建設した後、O&Mも手掛けています。建設したものがいい加減だと、オペレーションに影響し、自分たちが苦しくなるだけです。コージェネで培ったエネルギー設備の建設や運用に関わるノウハウを転用し、お客さまに信頼いただける品質を心掛けています。

―太陽光発電所の開発・運営で気をつけていることは。

髙崎 各種法令の遵守はもちろん、地元の皆さんとコミュニケーションをとりながら進めていくことです。当社は建設する立場であり、事業者でもあるので、地元からの意見に耳を傾けるようにしています。例えば、雑草対策として、除草剤一つにしても、使ってほしくない地域もあれば、使ってほしいと要望を受ける地域があるなど、約束事が異なります。隣接する地域で農産物を作っている地域と作っていない地域では考え方も変わってきます。このように地域との対話を行いながら開発・運営を行うことで、地域と共存しながら持続可能な事業を行っていかなければならないと考えています。

バイオマス発電所が稼働 新たな燃料の開発進める

―ほかの再エネで取り組んでいるものはありますか。

髙崎 バイオマス燃料の開発に取り組んでいます。パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS)はFITのバイオマス燃料として認められていますが、ヤシ房から果実を取り出した後に残る空果房(EFB)は認められていません。これをペレット化して利用できないか、インドネシアで開発を進めています。自社で行うバイオマス発電についても太陽光発電に次いで注力しています。現在、当社グループが事業に関わっている発電所は三重エネウッド松阪木質バイオマス発電所(5800kW)の1カ所ですが、今後は熊本県で2000kW、佐賀県で4万6000kWの発電所が稼働する予定です。

茨城牛久メガソーラー発電所(2万9400kW)

―再エネ普及における課題は何だとお考えですか。

髙崎 系統の空き容量が無いことから、特高・高圧の発電所を系統連系できないことが課題だと考えています。以前、バイオマス発電所を建設できないか調査したら、180億円という高額な連系工事負担金を提示されました。これは事業ができないことと同義です。

 当社は工場や事業所内のオンサイト発電にも注力していますが、ある程度の規模の発電所を建設するには余剰電力を逆潮流させる必要があることから、系統空き容量の確保は必須です。こういった課題が改善されることで、さらなる再エネ拡大が期待できるのではないかと考えています。

たかさき・としひろ 大阪府出身。1995年同志社大学卒、テス・エンジニアリング入社。2017年7月社長就任。

【特集2】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御

既存のインフラを生かし、太陽光や風力を主力化する新発想が生まれている。 「分散型コージェネ」を使った再エネ共存策のアイデアもある。

東光電気工事のクロス発電 新発想「光×風」の真骨頂

「クロス発電」という耳慣れない言葉がある。クロス発電とは、太陽光発電と風力発電を効率よく制御して、一つの連系枠を有効に利用するシステムのことだ。こんなユニークな仕組みの再生可能エネルギー発電が動き出している。2020年9月から福島県飯舘村で「いいたてまでいな再エネ発電所」が国内初のクロス発電所として、運転を開始している。

いいたてまでいな再エネ発電所。「までい」は「物を大切に」「心を込めて」の福島の方言

始まりは太陽光発電所としての稼働だった。11年の東日本大震災後、全村避難となった飯舘村の遊休地を利用して太陽光発電所を建設する案が浮上。復興のシンボルとなるべく、東光電気工事と飯舘村が共同出資して「いいたてまでいな再エネ発電」を設立した。

牧草地だった約14 haの平地に太陽光パネル約4万5000枚を設置。パネル容量が1万1800kW、連系出力1万kWの太陽光発電所として、15年3月に運転を開始した。

東光電気工事は建設に取り組む中で、培った風力発電の知見からこの地が風力発電の適地であると予想。太陽光の運転開始後に風況観測を開始した。

太陽光発電は夜間や曇天では発電量がほぼゼロになる。契約容量は1万kWでも全体の設備利用率は14%程度だ。一方、夜間や天候が悪い日にも風は吹く。晴天時には風が弱く、風の強い日には天気が悪いという気象の特徴からも、太陽光と風力は補完し合える。設備未利用の約86%分を風力発電で補えば、発電量は増やせる。

こうして1990年代から風力発電の建設にかかわってきた同社のノウハウを生かし、敷地内に3200kWのGE社製風車2基の建設が実現した。

独自開発の制御システム 安定した再エネ電源を目指す

同社は、変動する二つの再エネが契約容量を超えないようコントロールする制御システムを開発した。実際の発電の変動に合わせて24時間365日、双方の設備を自動制御している。タイムラグも計算するリアルタイム制御だ。太陽光と風力のどちらを優先させるかも設定できる。

この再エネ発電所はクロス発電で、年間の太陽光発電量は約1200万kW時、風力発電量は約1100万kW時の実績となり、発電量は倍になった。太陽光発電を効率良く補う風力設備の導入で、出力制御が必要だったのは全体の1%程度と、ロスもほとんどなかった。

クロス発電の発電量推移

クロス発電は、契約容量はそのままで、二つの再エネを稼働できることがメリットとして挙げられる。同発電所は、契約容量が1万kWのところに風力を6400kW増設した上で、両方の出力をコントロールして1万kW以下で発電している。

初の取り組みを巡って、東北電力とは協議を重ねた。太陽光と風力の買い取り価格は異なるため、契約メーターの手前に個別にメーターを取り付け、それぞれの発電の割合で契約をしている。発電量は全量を東北電力に売電。収益の一部を村の復興に役立てる。

再エネ事業部の原隆之営業部長は「今ある容量の枠を無駄にせず、有効に活用するにはどうしたらいいか、というのがクロス発電の発想」と話す。国が目指す30年の再エネ電源構成比率24%を目標に、送電網を強化する取り組みの一方で、クロス発電を導入すれば設備更新を抑えつつ再エネ電源を増やしていくことができるのだ。

発電量推移のグラフを見ると、クロス発電を導入しても設備利用率は30%程度。契約容量にはまだ余裕がある。原部長によると、クロス発電で再エネをさらに増やす場合、安定的な水力やバイオマスなどをベース電源として組み合わせ、変動部分を太陽光と風力で補うことも可能だという。

「培ったノウハウでお手伝いし、連系枠を有効に活用してもらいたい。再エネを拡大させながら社会的コストの削減に貢献できると考えています」

現在は1サイトでの活用だが、連系協議が認められれば離れたサイトを一つの連系枠で接続するなど、活用の幅も広がる。復興のシンボル、いいたてまでいな再エネ発電所は、連系容量を有効に活用して効率良く再エネを供給する新しいモデルになりそうだ。

「再エネ×コージェネ」 二つの分散型の親和性

需要地で熱と電気を発生させるガスコージェネレーションシステム―。この分散型に、もう一つの分散型である再エネ電源を加えて共生を図ろうとするユニークな発想がある。

コージェネは優れた省エネ性と、ガス導管のレジリエンス性の高さを持つ。停電時も継続的・安定的に発電できる分散型エネルギーシステムとして、工場などの産業用、商業施設や病院などの業務用、家庭用などさまざまな分野で活用されてきた。11年の東日本大震災以降、災害対応への意識が高まったことなどから、さらに導入が進んでいる。そんなコージェネが、昨今の再エネ普及の社会情勢と相まって、新たな役割で注目されている。

変動型の再エネが拡大する中、「いつでもすぐに出力調整が可能」というコージェネの特長を生かし、その再エネの変動性を補う調整力・供給力としても期待が高まっているのだ。コージェネは再エネとの親和性が高く、「調整力」のほかにもいろいろと果たせる役割がある。簡潔にまとめると、①送電容量の確保、②自然条件や社会制約への対応、③系統の安定性維持、④コストの受容性―といった面での貢献が考えられる。

送電線を使わない電力 社会的コストの削減

この四つの視点を説明しよう。①の送電容量の確保は、再エネ由来の電力を送電するには大規模な設備投資を伴うことから、大きな課題になっている。その背景は、再エネポテンシャルが高い地域と需要地が離れていることにある。そこで、コージェネの出番だ。再エネ由来の電気から、「メタネーション」につなげていく。圧縮性が高く長期間にわたって、品質が劣化しない「合成メタン」を作ることで、ガス体エネルギーとして貯蔵するというアイデアだ。ガス導管に流してコージェネで利用することも可能だ。送電せずに需要地で発電できるため送電容量の確保につながる。

②でも同様、合成メタンの出番だ。日本は再エネの開発余地が少ないことから、海外の再エネ適地の安価な電力でグリーン水素を作る。CO2と合成し、合成メタンを製造。これを輸送することでコージェネの燃料としても使おうというグローバルな視点での発想だ。一方、国内事情に目を向けると、都市部では狭小ビルが多く、屋上に設置する太陽光発電には限りがある。場所を取らないコージェネを併設すれば、都市部でも地産地消の電源が実現できる。

③は、ようやく国内でも議論の俎上にあがってきた「慣性力」という極めて重要な技術的視点だ。突発的な事故の際にブラックアウトを避けるためには系統全体で慣性力の確保が必要。太陽光や風力発電は、周波数などに急激な変化があるとその電子機器を守るため発電を停止する。他方、コージェネはタービンなどの回転で発電しており、急激な変化に対して、同じ周期で回転を維持する慣性力が働く。火力、原子力、水力などのタービンを回転させる電源と同様に系統安定に貢献できるのだ。

系統安定化には慣性力のある電源が不可欠だ。(出展:20年11月17日資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」

④は、エネルギー・資源学会にて発表された三菱総合研究所の分析を例に紹介する。この分析によると、50年にCO2排出量80%減を実現するために必要な社会コストについて、電化中心のシナリオでは、系統増強費、発電所を調整電源として維持する運営費などに費用がかかる。他方、メタネーションを活用したシナリオでは、合成メタンにより既存インフラを利用してこれらの費用を抑制することができる。電力システムの合理化にもつながることが示唆されている。

全国のコージェネの設置容量は約1300万kW。再エネ拡大を、系統増強や調整力としての火力発電の維持、蓄電池など、電力系統だけで部分最適とするのではなく、コージェネやガス導管といった既存インフラを最大限活用することで、社会コストを低減し、レジリエンスの向上や地域内経済循環のメリットが見込める。

こうしたコージェネとの親和性について日本ガス協会は「再エネ導入を加速させる中で、コージェネの利点が生かせるような制度設計をしてほしい」と話している。

  *  *  *

クロス発電にしても、コージェネ利用にしても、大切なことは「既存のインフラを無駄なく使う」という視点だ。こうした取り組みは、結果的に、国民負担の低減につながっていくことになる。

【特集2まとめ】太陽光「共存」時代へ 〈地域共生〉〈安定電源〉への挑戦

太陽光発電に代表される再エネの導入拡大が転機を迎えている。
お天気任せの出力変動による電力系統への悪影響に加え、
乱開発に伴う自然破壊が全国的に深刻化しつつあるためだ。
こうした中、英知を集めた技術開発・規制見直しによって、
地域や系統と「共存」する再エネを目指す動きが加速してきた。
自治体、メーカー、エンジニアリングなどの取り組みを紹介する。

【レポート】主力化を支える「良い再エネ」 多様な発想と技術で「共生」へ

【インタビュー】倫理なきソーラー開発を規制 訴訟辞さずの厳しい姿勢で挑む

【レポート】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線

【インタビュー】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も

【レポート】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御

【特集1まとめ】アウトルック2022 「壬寅」の業界を大胆予想

新型コロナ禍、脱炭素化、資源高騰に揺れた2021年。
この3大テーマを引き継ぐ形で22年が幕を開けた。
欧州、米国、ロシア、中国、中東などの関係国は、
国益に関わるエネルギー政策をどう展開してくるのか。
そして日本は岸田政権の下、どんな戦略を描き出すのか。
「春の胎動を助ける」という壬寅の業界動向を大予想する。

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【覆面座談会】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」

【インタビュー】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか

【レポート】エネルギー初夢NEWS10選 2022年に業界を騒がせそうな「夢物語」を集約

【特集1まとめ】原発逃避の終局 クリーンエネルギー戦略の切り札に

東日本大震災以降、長期低迷を続ける原子力政策に光明が差してきた。
脱炭素化の世界的潮流を受け、欧州主要国が原子力の役割を再評価。
わが国でも第二次岸田政権における原子力政策の前進に期待する声は多い。
経産省は、岸田首相が旗を振る「クリーンエネルギー戦略」の議論に着手する。
果たして「原子力戦略の再構築」は重要な論点に位置付けられるのか。
原発問題からの逃避を続けてきた時代は終局を迎えようとしている。

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【アウトライン】世論の壁を打ち破れるか 原子力政策「失われた10年」への決別

【レポート】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり

【インタビュー】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを

【レポート】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情

【インタビュー】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース

【レポート】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁

【インタビュー】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する

【特集2まとめ】保守管理の高度化時代へ スマート保安革命

メンテナンス業務を高度化する「スマート保安」の導入が進んでいる。
AI、IoT機器、ドローンなどを用いた画像解析や遠隔システムが次々生まれ、
政府もスマート保安の普及・拡大に向け、制度改正に本腰を入れている。
保守・保安業界の各セクターで起きる「革命」の一端を紹介する。

【アウトライン】デジタル技術と人材を融合 官民が進めるスマート保安

【インタビュー】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を

【レポート設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も

【レポートインフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解

【レポート システム機器編】通信技術で安全性を向上 収集データの活用進む

【特集2】飲料業界では初めての採用 人も地球も健康な社会の実現へ

【ヤクルト本社】

今年3月、ヤクルト本社は「ヤクルトグループ環境ビジョン」を策定した。2050年のあるべき姿として、バリューチェーン全体でGHG(温室効果ガス)排出量ネットゼロを目指している。コーポレートスローガン「人も地球も健康に」の下、脱炭素社会の実現のためにグループが一体となってGHG排出量削減に挑む。

ヤクルト本社 中央研究所(東京都国立市)

ヤクルト本社中央研究所は06年以降、新棟建設や改修を進め、16年に全面リニューアルが完了。延べ床面積が2倍以上になり、エネルギー消費量も原油換算で10年実績の2倍以上にあたる6188klにまで増加した。

建設・改修と共に10年からは一段と積極的に省エネ対策に取り組んできた。中でも、研究所全体のエネルギー使用量の7割以上を占める空調の省エネに注目。既に新しい建物と設備で高効率機器は導入済みだったため、運用面での省エネに取り掛かった。熱源設備の運用や制御方法を変更するなど工夫を凝らすことで節電を図った。

電力でCO2を削減する場合、高効率機器を導入した後も運用を見直し、再エネ由来の電力を選択すれば一層のCO2削減につながるが、ガスについては高効率機器を導入した後の有効な手段が取りづらい側面がある。

ガス設備では既存の蒸気配管や熱交換器、蒸気ヘッダーの保温外装材の上から、通常の2倍以上の保温性がある断熱材を巻くなど、物理的に放熱ロスを削減した。また、蒸気配管系統にあるスチームトラップを、可動部分がなくドレン排出時のロスが少ない省エネタイプのものに更新し、蒸気ロスの低減を図った。

事務部施設管理課の光永浩也課長は「ガスを燃焼して蒸気を出す理論値は変わらないので、ガス設備でのCO2を減らすには二次的な方法に頼るしかなかった」と、当時の苦労を振り返る。こうした取り組みにより、20年のエネルギー消費量を16年比で16・7%減の5157klまで削減することができた。

保温カバーを付け放熱ロスを削減

CN都市ガスを採用 利用拡大も検討

ヤクルトではさらなる省エネの検討を進める中、東京ガスから「カーボンニュートラル(CN)都市ガス」の提案を受けた。「できることを最大限に積極的に進める」という研究所の方針のもと、導入を決定した。

今年4月から5年間の契約を結び、飲料業界初のCN都市ガスの全量導入が始まった。主に2・5t/時の蒸気ボイラー4台に供給。年間約1500tのCO2を削減し、国内のヤクルトグループ全体のCO2排出量で約2%減を見込む。

当初は東京ガスのみがCN都市ガスを供給していたため、利用できる事業所が限られていた。ヤクルトグループの環境活動を担うCSR推進室によると、今後供給されるエリアが広がれば、CO2削減への選択肢の一つとして他事業所での利用を検討するという。

一方、ガスは省エネ法や地球温暖化対策推進法の適用外だ。CN都市ガスを導入してもCO2削減効果が数字に表れないことが課題として見え始めている。

今年3月に発足した「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」には、CN都市ガスを調達・供給する東京ガスと、購入する企業や法人14社が参画してスタートした。CN都市ガスの普及拡大と利用価値向上の実現を目的に据える。参画企業が増え、国の制度における位置付けの確立に向けて取り組み、この課題解決の糸口が見えることが望まれる。

ヤクルトグループは50年の実質ゼロを目指し、30年にはCO2の30%削減を目標に掲げている。

「目標達成に向け、新しい技術や工夫を取り入れて、ガスの使用量の削減を図るとともに、エネルギー事業者と協力しながらCO2削減の取り組みを進めていきたい」。光永課長は自社による省エネ活動への意欲とCN都市ガスの普及・導入拡大への期待を語った。

【特集2】ガス事業からCNに取り組む 響灘エネルギー拠点の青写真

【西部ガス】

CNのトランジション期において目標達成に挑む西部ガス。LNG基地をはじめとするエネルギーの一大拠点はどうなるのか。

北九州市の響灘地区に、西部ガスのひびきLNG基地(18万kl×2基)や、グループ会社が運用するエネ・シードひびき太陽光発電所(2万2400kW)がある。基地の隣接地には九州電力との共同事業として、2020年代半ばの運転開始を目指すLNG火力発電所の建設が予定されている。響灘の約83万㎡に及ぶ一大エネルギー産業拠点だ。

九州地域の発電設備の低・脱炭素化を進める

西部ガスは50年のCN実現に向け、30年に次の目標を掲げる。①同社グループおよび需要家のCO2排出削減貢献量を150万tにする(現在の排出量は約300万t)、②再エネ電源の取り扱い量を20万kWにする(現在は約5万kW)、③供給するガス全体のCN化率を5%以上にする―。

LNG基地を中心とした響灘地区の取り組みは、この目標達成に大きく貢献している。

基地の特性を生かす事業展開 新技術を取り入れCN実現へ

国際海事機関(IMO)は50年までに船舶から排出されるGHG(温室効果ガス)排出量を08年比で半減させ、今世紀の早い段階でゼロにする目標を掲げており、今後LNGを燃料とする船舶の導入拡大が見込まれる。

ひびきLNG基地では、船舶燃料を重油からLNGに転換した船舶へのLNG供給事業に乗り出す。岸壁や洋上に停泊するLNG燃料船に横付けしてLNGを供給する、Ship to Ship方式のLNGバンカリングの拠点形成に参画する。LNG燃料供給船の建造や保有について、九州電力や日本郵船、伊藤忠エネクスと検討中だ。

基地では、さらにメタネーションにも取り組む。太陽光発電所などで発電した電気を使って水を電気分解。水素を発生させCO2と合成して、都市ガスの原料となるメタンを作る。CO2を再利用するため、燃焼時にCO2が発生しても相殺される“CNメタン”になる。既存のインフラを使い、都市ガスと同じように供給して社会コストを抑制する。

基地に隣接する太陽光発電所は敷地面積の合計が約27万6000㎡。約7500戸分の年間電力使用量に相当する発電量だ。

立地を生かし、メタネーションへの活用も検討している。

西部ガスグループ最大のインフラ基盤であるひびきLNG基地。経営企画部の齋藤章人マネジャーは、「ISOコンテナなどによる海外向けLNG再出荷事業を拡大しながら、CNの実現に向け、新たな基地利用の取り組みを検討していく。アジアに近い立地の優位性や拡張性がある同基地の特性を生かしたビジネスを展開したい」と話している。

【特集2】まずは即効性の高い省エネに注力 将来の水素インフラ構築も視野に

【柏木孝夫/東京工業大学特命教授・名誉教授】

カーボンニュートラルの機運が高まったとしても、エネルギーの安定供給は最優先で求められる。渦中の業界は、どのようなことに取り組み、50年へと歩みを進めていくべきなのだろうか。

カーボンニュートラル都市ガスでも、脱炭素電源でも、エネルギーは常に安定的かつ安価に供給されることが最優先に求められる。この前提が揺らぐと、特に産業界は国際競争力を失いかねない。

よく引き合いに出されるEUのタクソノミー戦略には、明確な意図がある。環境投資をEU域内で循環させ、ひいてはアフリカに還元させて、EUとアフリカ大陸を一体と見なし、成長戦略を描こうと考えている。その辺のビジョンを描けることがEUの強さだ。

甘くないグリーン成長戦略 調整電源にコージェネ活用

日本の描くべき戦略とは何か。グリーン成長戦略に異論を挟む余地はないが、甘いものではない。まずは2050年までのトランジション期の取り組みが大切だ。即効性の高い戦略としてまずは省エネに注力すべきだ。日本の省エネ技術は世界に誇るもの。LNG火力や石炭火力、コージェネなどの発電効率は世界でダントツだ。

一方で、「モノ売り」から「ソリューション売り」へ発想転換も必要だ。省エネ効率の高い機器を販売するだけでなく、多様な機器を組み合わせ、国内外問わず、ソリューションとして売り込むことが求められる。大手都市ガス会社を中心としたスマートエネルギーネットワークの構築はその最たる事例だ。需要側でどのようなエネルギーの使い方をするか、知見のある日本のエネルギー事業者だからこそできる芸当だろう。

原子力発電も重要だ。工業国家においてベースロード電源は不可欠だ。それをベースにした再エネやコージェネといった分散型電源を普及させるべきだ。その際、コージェネは「調整電源」としての役割を果たせるだろう。常に変動する再エネの発電出力を調整することで再エネと共存できる。数千kW級のガスエンジンの効率は50%近くにまで向上している。調整電源は決して大型火力だけが担うものではない。

ほかの産業についても触れたい。CO2を除去する触媒技術、除去後のプラスチック製造技術など、化学産業に強い日本はCCUSにも積極的に取り組むべきだ。CO2を農業などに利用できれば「強い一次産業」を築くことができる。排出されるCO2は農作物の栽培に利用して循環を図ることもできるだろう。 既存ガスインフラを利用できるメタネーションへの取り組みは確かに重要だ。しかし、既設インフラの利用が未来永劫に続くわけではない。だから、水素への取り組みも真剣に考えておくべきだ。水素管のインフラ整備、水素機器開発といった新たな挑戦を伴うが、社会全体として圧倒的に高効率なシステムになる。(談)

かしわぎ・たかお 1970年、東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授
を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。

【特集2】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み

【静岡ガス・岸田裕之社長】

―今年8月に「2050年カーボンニュートラル(CN)ビジョン」を発表しました。

岸田 当社では、菅義偉前首相の昨年10月のCN宣言以前から、30年に向けた中長期的な企業ビジョンを議論してきました。お客さまからCNについて相談や問い合わせをいただく機会も増える中で、当社の考えを示す意味を込めて、今回のCNビジョンを策定しました。今後、CNを実現していく上で、「地域共創」の文字通り、お客さまはもとより自治体や地域の皆さまとともに、取り組んでいこうと考えています。

 「脱炭素」の文字を前にすると、「コストがかかって収益的にも辛いもの」を想像する方が大半だと思います。確かに初期段階ではコストがかかり、困難な対応も多くあると思います。しかし、CN実現には10年、30年と長い時間軸で取り組む必要があります。その間に、経済やエネルギーを循環させる仕組みを構築し、最終的に収益面でもお客さまに喜ばれるものにしていけたらと考えています。

岸田社長

顧客とともに低炭素化推進 省エネでは提案を加速

―30年までに200万tのCO2削減との目標を掲げています。

岸田 この数値は、静岡県のエネルギー会社として、大きな目標を立てて取り組んでいるというメッセージでもあります。例えば、当社エリアの富士市には紙・パルプ、食品といった熱多消費産業のお客さまが多くあります。まずは、そうした企業の低炭素化を徹底的にサポートしていきます。そこで取り組むのが①天然ガスシフト、②コージェネなどのエネルギー高度利用の推進、③省エネビジネスです。①天然ガスシフトでは、C重油や石炭を使用している産業用のお客さまがCN宣言をきっかけに燃料転換に興味を持ち始めており、当社の提案に耳を傾けていただけるようになりました。CO2削減の施策をお客さま個々の事情に合わせて、ともに検討していきます。

―③省エネビジネスは営業力が重要になってきそうです。

岸田 お客さまが工場のエネルギー運用で困っていることを一つひとつ聞いていく必要があります。例えば、ある工場では熱配管の保温方法が旧態依然の方式のままでした。そこで、当社が新しい方法を提案したところ、大幅な省エネが図ることできました。こうした取り組みを加速していきたいです。課題は現場で分かることが多く、お客さまと良好な関係を築いていくことが重要です。30年まではこうした低炭素化に資する取り組みと、CNLNGクレジットとの組み合わせが大事になります。

CNLNGを積んだ船が同社袖師基地に入港した

その先、50年の脱炭素化への取り組みではメタネーションなどイノベーションが必要です。日本ガス協会や大手ガス会社と連携して取り組みを強化していきます。

―系列ガス会社もCNビジョンに基づき取り組むのでしょうか。

岸田 当社と導管がつながっているグループ会社は同じ考え方で取り組みを進めていきます。ただ、佐渡ガス(新潟県)のような会社は異なります。佐渡島は標高1000m級の山があり、森林が多くあります。例えば、佐渡島の森林を取得してCO2吸収価値をJクレジット化することでCNを推進できる可能性もあるでしょう。

 下田ガス(静岡県)では、市が使用する電気を切り替えるプロポーザルの際に、電力供給の枠にとどまらず、地域でエネルギーと経済を循環できる仕組みを導入できないかと提案しました。卒FITの電力を市役所や商店街に購入していただき、地域コインを発行するようなイメージです。これを地元の商店街などでの経済循環につなげることはできないかと。地域ごとに異なる特性に合わせたアプローチを考え抜きます。

―30年までに再エネ20万kW開発という目標については。

岸田 太陽光は一般的な野立てに加え、PPAモデルによる地域電源を考えています。太陽光発電設備を無償提供し、10~20年間のサービスとガス供給を行うモデルを展開していきます。また、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)にも取り組んでおり、耕作放棄地の解消などに寄与するものと考えています。

 バイオマスは今年5月、三菱地所などと埼玉県で剪定枝を燃料としたバイオマス発電所を手掛ける計画を発表しました。道路整備などで発生する剪定枝は廃棄物として扱われています。これを燃料として利用するものです。静岡県内でも同様の仕組みを用いた発電所を展開したいです。

―今後、エネルギービジネスはどうなっていくと見ていますか。

岸田 今後10年で低炭素化への取り組みがさらに加速していくでしょう。地域の皆さまや企業と知恵を出し、その地域に合ったやり方を見出して経済やエネルギーを循環させていくインフラの仕組みの構築が鍵になると思います。エネルギー企業である当社が中心になりながら魅力ある仕組みをつくっていきたいですし、「静岡ガスなら任せられる」という信頼を積み上げていきたいと考えています。

【特集2】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す

【北海道ガス】

北海道南富良野町は、北海道のほぼ中央に位置し、町総面積の約9割を森林地帯が占めるという緑の多い町だ。周辺は富良野市やトマムリゾートなど観光地に囲まれ、同町にもラフティングなど、アウトドアのオプショナルツアーを楽しみに来る観光客が多く訪れる。

さまざまな資源を守る森林 経営や維持管理が課題

そんな自然あふれる南富良野町において、課題の一つとなっているのが森林の維持だ。森林は維持管理に資金や雇用が必要となる。この経営を将来にわたり継続できるかが問題となっていた。近年では、森林を商行為対象と考える業者から森林を購入したいとの申し出が多数ある。そうした買い手は所有した後に木を伐採して、残った山をそのまま放置する可能性がある。責任を持った運営が継続される保証がないのだ。このため簡単に継承できないのが課題だった。

「森林を守ることは水資源の確保や自然災害の防止にもつながるため重要です。町内のかなやま湖に生息する魚の絶滅危惧種イトウなど、生物を守ることにもなります。南富良野町は自然を観光資源にしているため、森林の安定的な整備は欠かせません」。南富良野町企画課まちづくりプロジェクト推進室の川口健太主幹はそう話す。

一方、北海道ガスは2050年脱炭素という目標に向け、さまざまな施策を検討中だった。その一つにCO2吸収価値(CO2クレジット)を創出するアイデアがあった。また、同社はエネルギーを通じた地域の課題解決や活性化に寄与するための取り組みを行っている。これまで夕張市などと連携協定を締結した実績もある。

そこで今回、南富良野町とも連携協定を締結。町内のかなやま湖に隣接する土地142・82 haの森林を取得し、維持管理を行いながら、CO2吸収価値を創出していくことにした。南富良野町も「信頼おける企業に継承できて安心できた」(川口主幹)と語る。

取得したかなやま湖に隣接する森林

ただ、吸収価値に変える作業は当初手探り状態だった。北ガス経営企画部環境グループの笠原慎副課長は「どの程度の量を認めてもらえるか、認証機関はあるのかなどを調査し、J―クレジットを選択しました。吸収量は木の年齢によっても変わります。得たCO2吸収価値は決して大きい規模ではありませんが、前述の水や自然資源の確保の観点からも森林を維持管理することは重要です」と話す。北ガスでは、同森林を長期にわたり管理維持していく方針だ。

レジリエンス強化でも連携 極寒期でも2週間の避難可能

今回の北ガスと南富良野町の連携協定では、レジリエンス強化や再エネの地産地消の内容も含まれている。南富良野町は16年8月、洪水豪雨災害に見舞われた。昨今の異常気象による豪雨は、治水に問題なかった町の想定を遥かに上回った。これにより、主力産業のポテトチップス工場が浸水。3カ月操業を停止し、全国的に品不足になるなど大きな影響を与えた。

近年は、猛吹雪など冬の災害も増えている。町に入る二つの道路が寸断され、陸の孤島になってしまうこともあった。そこで、町では道の駅を改装して防災拠点にする計画を進めており、北ガスが参画する。22年に営業を開始する複合施設には停電自立型GHPや、LPガス非常用発電機を導入する。極寒期においても、2週間程度暖や食事を取れるようにする構えだ。

再エネの地産地消に関しては、現在、固定価格買い取り制度(FIT)で売電している町内の小水力発電(177kW)の電力を町内に供給するスキームについて検討している。また、太陽光発電を道の駅などに設置し、道の駅で消費し余剰が出る場合は、北ガスが購入することも考えている。

北ガスは、この知見を今後の取り組みに生かしていく。北ガス経営企画グループ地域連携・再エネ開発推進チームの宮澤智裕チームリーダーは「北海道には多数の森林が存在します。森林を有効活用しながら、環境問題、レジリエンス強化について地域と連携と進めることが、地域活性化に有効であると考えます」と説明する。

エネルギー事業者による、CO2の吸収価値の創出を目的の一つとした森林取得は全国的にも珍しいケースだ。こうした取り組みは今後さらに広まりそうだ。

【特集2】脱炭素化関連の技術開発を加速 鍵握る複合センサーシステム

【理研計器】

都市ガスプラントの業界標準となっている理研計器のセンサー製品群。複数個組み合わせることで、メタネーションなど次世代エネ開発に寄与する。

天然ガスはLNG化してタンカーで運ばれ、荷役設備を通じて荷揚げし、LNGタンクに運ばれる。出荷時にはLNGを天然ガスに戻し、熱量調整してパイプラインに送られる―。この一連の都市ガス製造工程に理研計器のガス検知器やセンサーが業界のスタンダードとして多く採用されている。

そんな同社が現在注力しているのが、次世代エネルギー技術開発現場へのセンサーの展開だ。カーボンニュートラルの潮流が世界規模で加速している。その中で、メタネーションや水電解技術、水素混焼・専焼技術など、さまざまな技術を社会実装するべく、国やエネルギー会社、メーカーなどが開発中だ。ただ、現場の開発者からは「実証実験ではコストはかけられない」「現場が防爆で一般的な分析計では対応しきれない」といった悩みの声を多く聞く。

市場戦略部の寺本考平副部長は、「当社は既存センシング技術の組み合わせや既存センサーの転用で、『ガス検知器以上、分析計未満』のガスモニタリング環境を提案できます」と胸を張る。

メタネーション開発に対応 三つのガスを高精度に把握

例えば、メタネーションにおいては、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、メタン(CH4)3種類のガス濃度の把握が求められる。それぞれのガスにきちんと置き換えされているか継続的に確認する必要があるためだ。

そこで、同社の防爆型熱量計「OHC―800」を用い、独自の演算技術でメタネーション工程における組成分析を行う。すると、H2とCH4の割合が判明し、演算で雑ガス量が計算できる。さらに、自動制御に使うプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)を組み合わせることによって3種類のガスの濃度管理(モニタリング)が可能となる。これにより、ガス検知器よりも正確な精度で濃度のモニタリングを実現しながら、分析装置よりも手軽にリアルタイムで把握が可能で、防爆エリアでの使用も考慮できるようになる。営業技術課の杉山浩昭課長は「センサーを組み合わせることで、単一のガス検知器では難しかった複雑なモニタリングが可能になりました」と説明する。

組み合わせ応用例

同社には、メタネーション以外に、水電解装置や水素ステーション、アンモニア燃料エンジンなどの開発でも問い合わせが相次いでいる。これらにも複合センサーシステムで対応していく。「さまざまな要望に応えていきたいです。開発において困りごとがあったら、問い合わせていただきたい」と寺本副部長。同社のセンサーが脱炭素化に資する次世代技術開発をさらに推し進めていきそうだ。