
【終了】そこが知りたい!石川和男の白熱エネルギートーク

本誌 データサイエンティスト(DS)とはどんな職業ですか。
河本 一般的に、データからビジネスや社会的価値を創造する人を指します。私は①ビジネスDS、②AIDS、③理論DS――の三つに分類して考えています。①ビジネスDSはデータの分析力でビジネス課題を解決できる人材を指します。②AIDSはAIを使って人工知能システムを作る人、③理論DSは数学を使い何らかの証明をする人を言います。私は①ビジネスDSに当てはまります。
本誌 ビジネスDSに求められる仕事内容とは。
河本 一般的には数学的知識やプラログラミングを駆使するイメージを持たれますが、それだけでは解決できません。ビジネスDSの仕事には「見つける」「解く」「使わせる」の三つのステップがあると考えます。「見つける」では、社内にどのような解決すべき課題があるか探したり、分析のためデータを成形しないといけません。
「解く」は、現場の人に「押し付けられた」という感情なく、納得感を持って受け入れてもらう。そうしたものを引き出せるような解き方が問われます。
最後の「使わせる」は、最も難しいです。今まで勘と経験で責任感を持ってやってきた担当者を否定してデータ分析のやり方に変えるには、現場と一体となって取り組まなければなりません。
これら三つのステップを経て課題解決にたどり着きます。現場の知識とデータ分析のキャッチボールで進んでいきます。完全に分けることはできません。
本誌 エネルギー会社がデータを活用した新ビジネスの検討する上で気をつける点はありますか。
河本 「エネルギーに関するデータはお客さまにとって大切なもの。役に立つもの」と思い込んでいる点です。大半の需要家はエネルギーデータに関心がありません。スマートメーターのデータも最初の1カ月は見ますが、その後は手間や時間を使ってまで見ないのが現実です。謙虚な姿勢を持って臨むことが必要です。
本誌 需要家が関心を示すデータとは何ですか。
河本 時間やお金に関するデータです。多くの人が頻繁に時間やスケジュールを確認します。お金もどれだけ支出したか、貯金できたか、など関心が高いです。そうしたデータと肩を並べるほど、魅力あるサービスが提示できるかが、成否を分けるでしょう。
本誌 エネルギー会社のデータビジネスの現状をどう見ますか。
河本 多くの企業があるにもかかわらず、欧米のビジネスモデルを踏襲したようなサービスしか出てこないことが気になります。
本誌 柔軟な発想を持って生み出すには何が必要ですか。
河本 優れたサービスを作り出すところまで到達できると思いますが、成功するにはそれを採用する意思決定が必要です。エネルギー会社のこれまでのビジネスモデルとは異なる意思決定が求められます。そこに課題があると思います。
本誌 エネルギー関連で今後注目するデータ活用はありますか。
河本 政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、エネルギーリソースの改善だけではなく、需要家側の制御も必要になると思います。CO2を巡る規制は今後増えるでしょう。CO2関連のコストは上昇していくため、その最適化のためにデータを活用する余地は十分あると考えています。
スマートメーターから取得できる30分値の電力使用量データをはじめ、エネルギーデータを活用した新サービスが盛り上がりを見せている。
スマメは電力系統の最適制御のため、スマートグリッドを構成する要素の一つとして、2014年から設置が進んでいる。24年度末をめどに全国全ての需要家に取り付けられる計画だ。これに先駆けて、東京電力管内では今年2月末時点で、約2800万台が取り付け済みとなっている。
スマメの電力使用量を計測したデータは30分単位で内蔵する通信機能によって電力会社に送られる。データは図のようにルートによって3種類のデータに分けられる。Aルートはスマメと一般送配電事業者をつなぐもの。検針値を取得したり、接続・切断など遠隔操作のために使われる。
Bルートはスマメと宅内にある家電機器を通信規格「エコーネットライト」で連携可能だ。エネルギー管理システム(EMS)によって、電力使用量や電気料金などの「見える化」、機器の制御のために利用できる。
Cルートは一般送配電事業者がAルートで得たデータを、第三者の企業が需要家にサービスを提供するためのもの。電力小売り事業者などにデータを送信し、料金計算などに使われている。
BルートやCルートのデータは、これまで分からなかった電力使用量が可視化され、需要家に有益な情報を提供する。家電機器の利用時間から推測すれば、節電に活用できる。ただ、データサイエンティストの河本薫滋賀大学教授は「エネルギーの使用量データを単に示しただけでは、継続的に一般的な需要家から関心を得るのは困難」と指摘する。
これに対し、事業者やサービス提供者は、スマメデータのほか、独自に機器を分電盤などに取り付けてデータを取得。さらに加工、成形し直すなど再構築することで、需要家が「魅力的」「有益」と感じるサービスやデータを生み出して提供する動きが加速している。
例えば、一般の需要家にとって簡単かつ分かりやすくデータ表示するスマホのアプリやインターフェースを開発している企業がある。
エナジーゲートウェイでは、スマートホーム向けに「ienowa」を展開する。宅内の分電盤に取り付けた電力センサーを介し、電気の使用量を家電機器別に、スマホアプリ上に表示することが可能。②のように、前月と比較して今月の電気代がどの程度になるかが把握できる。
Natureが販売する「Nature Remo E」ではエコーネットライト規格対応の住宅用太陽光発電や蓄電池、スマメと連携することで、電力の使用量やPVの稼働状況、蓄電池残量がアプリ確認できる。
またエネルギー以外のビッグデータ、通信や決済機能などスマホの利便性を組み合わせたサービスも登場してきた。ソフトバンクの子会社SBパワーは、各一般送配電事業者から取得したスマメのCルートデータを、独自のAIによる需要予測技術を活用したデマンドレスポンスサービスのトライアルを昨年夏から実施。今年は九州電力と共に取り組む。
スマホ専用アプリを通して、需要家に節電協力を案内し、節電効果に応じてポイントを付与する。ポイントはキャッシュレス決済サービス「PayPay」のPayPayボーナスと交換できる。節電に協力してもらうことで需要家に利益を還元し、モチベーションを高め、しかも需要家が簡単に参加できる仕組みを構築したのは画期的だ。
こうしたエネルギーデータを応用した新サービのス開発・普及の取り組みが、今後も増えていくことが期待される。
災害発生時の人命救助は、72時間を境に生死を分けるといわれている。避難所や病院、福祉施設など向けに、その時間をしのぐことをコンセプトに開発されたのがI・T・Oの防災減災対応システム「BOGETS」だ。都市ガスと電気を製造するシステムで、プロパン・エアーガス発生装置「New PA」、発電機、耐震LPガススタンド、都市ガスとプロパン・エアーガスを切り替えるワンウェイロックバルブで構成されている。
BOGETSを構成するシステムの核となるのがNew PAだ。同装置は元々災害対応向けではない。1990年以降に旧通産省が推進した都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画の熱変工事用ツールとして、「PA-13A」が注目された。プロパン容器を接続するだけで、ほかの動力を使わずにガスの噴射圧で簡単に空気を混合させ13A相当のガスが製造でき、移動できる点が脚光を浴びたのだ。2011年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の大阪府北部地震など、近年の大災害においてガスインフラ復旧に大きく貢献している。
ただ、「PA-13A」は都市ガスとプロパン・エアーとの切り替えなどに専門性が高い操作が必要だった。東日本大震災以降、高圧ガス保安法が改正され、需要家でもガス設備を保有することが可能になった。
そうした背景が相まって、誰でも簡単に扱えて、防災減災に資する製品として生み出されたのがNew PAだ。タッチパネル式制御盤を使い、モニターに表示される手順と音声に従って操作すれば、簡単に都市ガスを仮復旧することができる。プロパン・エアーガスを使えば、都市ガス仕様のGHPやガス調理器などが利用可能になった。
また、LPガス発電機やマイクロガスコージェネといったガスの発電システムにより電源を確保することで、New PAの制御盤の稼働をはじめ、スマートフォンの充電や照明など、最低限必要な電化製品が使用できる。
西村茂晴営業開発部マネージャーは「大阪府寝屋川市では学校体育館の空調に都市ガスのGHPを採用しました。これに合わせて都市ガスが途絶してもLPガスを原料に都市ガス相当のガスをつくり出すことができるBOGETSが評価され、導入に至りました。今後もそうした導入実績をつくっていきたい」と話す。
同社では教育関連施設を中心に、ほかの用途でも需要を開拓していく構えだ。
昨年12月、水素社会の実現に向け、新たなコンソーシアム「水素バリューチェーン推進協議会」が誕生した。同協議会の目的は、サプライチェーン全体における社会実装プロジェクトを実現し、早期の水素社会構築を目指すこと。岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、東芝など9社が理事会員を務め、参画企業は88社(2020年12月現在)に上る。
今後、水素社会構築を加速するため、①水素の需要創出、②技術革新によるコスト削減、③事業者に対する資金供給―の3点の課題に取り組む。ワーキンググループを作り、社会実装プロジェクトの提案・調整やファンド創設、規制緩和などの政策提言を行っていく方針だ。
同協議会の参画企業の業種は、電力、ガス、石油などのエネルギーをはじめ、自動車や運輸、商社、電機メーカー、プラントメーカー、金融―と実に多彩だ。このように、水素は、製造、輸送、貯蔵に始まり、需要側への供給や利用に至るまで、多岐にわたる分野の技術と知見が必要になる。同様に、水素関連のプロジェクトや取り組みでは、ほかにも企業間連携による事例がいくつか挙げられる。
技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構「HySTRA(ハイストラ)」、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合「AHEAD(アヘッド)」はそれぞれ、海外産の水素を日本に輸送するサプライチェーン構築に向けた実証試験を行っている。また、FCV(燃料電池車)の普及に向け、日本水素ステーションネットワーク合同会社「JHyM(ジェイハイム)」は水素ステーションの整備を進めている。昨年11月時点で全国162カ所の採択数となり、経産省が目標とする「20年度までに160カ所程度」を達成した。
日本の水素政策のベースとなっているのが、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(14年策定)だ。16年に改訂された際には、フェーズ1「水素利用の飛躍的拡大(燃料電池の社会への本格的実装)」、フェーズ2「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」、フェーズ3「トータルでのCO2フリー水素供給システムの確立」とする三段階での方向性が示された。中でも、フェーズ1では、燃料電池の目標価格、燃料電池の普及台数や水素ステーションの設置箇所の数値目標が示された。さらに19年の改定では、基盤技術のスペックやコスト内訳の目標として、水素製造コストや水素液化効率などの数値が設定された。
ロードマップの最初の改定時にはフェーズ1に重きを置いた政策だったが、現在はフェーズ2やフェーズ3、また電力分野での利用に重点が置かれるようになってきた。三菱パワーは発電所のゼロエミッション化に向け、水素専焼ガスタービンに向けた開発を進めるとともに、既設のLNGだき発電設備の改造を最小限にすることで投資コストを抑えた水素転換を目指している。また独シーメンス・エナジーは、30年までにガスタービン全機種を水素専焼に対応する目標を掲げる。
脱炭素への機運の高まりも、水素利用の拡大を後押しする。菅政権のカーボンニュートラル宣言を受けて策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、キーテクノロジーとして盛り込まれ、水素発電コストをガス火力以下に低減する目標などが示された。
さらに水素の製造プロセスに着目し、よりCO2排出量の少ない方法を目指す動きも出ている。その種別は色分けで分類される。グレー水素は、化石燃料を改質して生成される水素で副生物としてCO2が発生する。ブルー水素は化石燃料から水素を生成するが、CCS(CO2回収・貯留)によって実質的にCO2排出量を削減する。グリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して水素を生成することで、CO2フリーとなる。
課題となるのがコストだ。アクセンチュアのビジネスコンサルティング本部の岩上昌夫マネジング・ディレクターによると、「CO2フリーの点ではグリーン水素が理想的だが、グレー水素に比べて約4倍の製造コストがかかり(図参照)、早期の商用化は難しい」という。このため、当面は天然ガス蒸気改質、もしくは石炭ガス化にCCSを組み合わせたブルー水素が現実的とされる。ただ、「CCSで貯留したCO2は長期的には漏洩していくこと、また化石燃料が有限であることから、貯留はあくまで、つなぎの技術と考えるべきである」(岩上マネジング・ディレクター)という。
また、サプライチェーンにおけるコストアップも要因として挙げられる。水素の沸点はマイナス253℃と低く、極低温の液化設備や専用の輸送船が必要となり、水素コストが高くなってしまう。
そこで、水素エネルギーキャリアとして注目されているのがアンモニアだ。アンモニアは8・6気圧、20℃で液化するため、水素よりも液化時のエネルギー損失が少なく、輸送船も水素に比べて安価に製造することができる。この特性を利用して、アンモニアを海外で製造し、日本に輸送した後、必要な場所で水素を取り出して利用することが可能だ。
これまで幾度かのブームがありながら、エネファームやMIRAIといった市販化された商品はあるものの、水素社会の実現にはまだ至っていない。国内、海外を含めた脱炭素化という大きな潮流の中、水素の果たす役割はこれまでになく重要なものになっている。
近年、全国各地で台風や豪雨など、自然災害が頻発している。ライフラインが止まり、多くの被害を及ぼしている。このうち、停電は約9割なのに対し、ガス供給停止はわずか2%程度だ。このことから、ガスを利用する家庭用燃料電池「エネファーム」が有事への備えとして有効なことが消費者に徐々に広まりつつある。
そうした中、パナソニックは災害対策機能を強化したエネファームの新製品を発表した。第7世代となる今回の製品はLPWA(低電力広域)通信機能を標準で搭載した。従来は有線LANで接続するため、ネットワーク環境が必要で工事や設定が必要だった。今回搭載の携帯電話通信網を使うため100%接続を実現し、これまでにない新サービスの拡充が可能となった。
具体的には、気象データを取得して自動的に最適発電を実施する「おてんき連動」機能を搭載した。ウェザーニューズが提供する「1kmメッシュ天気予報」を基に日々の運転計画を作成して発電を行う。太陽光発電を含めた家庭用エネルギー設備において、経済性を優先した運用が可能であり、例えば、晴天時の昼間は太陽光からの電気が屋内で使われているためエネファームを停止させて、夕方から稼働させる。雨や曇りの日は太陽光が発電しないのでエネファームを朝から発電させる。
さらに、ウェザーニューズが提供する「停電リスク予測API(アプリケーションプログラミングインターフェース。システム同士が相互に連携するための技術仕様)」をエネファームが受信した場合には、自動的に発電モードを切り替えて停電に備える。
このほか、通信機能は遠隔メンテナンス機能を実装、ソフトウェアの遠隔アップデート、保守点検作業の効率化などに寄与する。
今回のエネファームでは、ガスや水道が途絶えても最低限の生活が維持できることを目指した。ガスが停止して電気と水道の供給がある場合は、電気ヒーターによって、貯湯タンクが満タンならば、お風呂一杯分のお湯をつくることができる。断水時は貯湯タンクから130ℓの水を生活用水として取り出し、トイレの水洗用に約32回分の水を確保することが可能だ。
エネファームはコロナ禍において販売台数が伸びており、2020年度は4万台に達する見通しだ。パナソニック燃料電池企画部の浦田隆行部長は「今回の災害対策機能搭載によって、21年度の早期に累計20万台を達成したい」と意気込む。
販売する東京ガスでは、エネファームの販売開始から10年が経過し、今後拡大する見込みの買い替え需要をターゲットに販売していく構えだ。暮らしソリューション技術部の高世厚史部長は「買い替え率は95%と高水準だ。ここに停電への備えを訴求していく」と話す。
今回の通信機能搭載によって、災害対策に加え、新たな機能やサービス創出も期待できる。新たなフェーズに入ったエネファームに今後も注目だ。
水素エネルギー普及を牽引している水素ステーション(ST)と燃料電池車(FCV)―。2014年にFCVの商用販売・水素ST開所が始まり、水素STは1月時点で4大都市を中心に137カ所が整備された。さらに25カ所が建設中であり、国が計画する「20年度中に160カ所程度」の目標は達成する見通しだ。
一方で、カーボンニュートラルを目指す機運が世界的に高まりを見せている。日本も50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言し、その中心的な役割を担うエネルギーとして水素が期待されている。
そうした中、ENEOSと火力発電事業者の最大手であるJERAは共同で、水素の普及促進を担う新たな拠点として「東京大井水素ステーション」を昨年8月に開所した。JERAの大井火力発電所敷地内につくられたもので、JERAは敷地の提供とともに、水素の原料である都市ガスの配管などの整備を担う。一方、ENEOSは都市ガス改質型の水素製造装置を有する(オンサイト方式)商用水素STの建設のほか、運営を担当する。
都市ガスはJERA、ENEOS、大阪ガスの合弁会社「扇島都市ガス供給」が供給する。敷地内には出荷設備があり、首都圏にあるENEOSの水素STにも水素を出荷している。
同STは、大井という東京の経済を支える物流の中心地に立地している。このことから、将来的には、燃料電池トラックへの水素供給拠点の役割も想定する。現在、自動車会社がコンビニ各社と小型トラックによる実証を行っているほか、22年からは物流会社と大型トラックの走行実証を開始するなど、実用化に向けて動きが加速している。FCバスもさらなる普及が期待される。現在、都内を中心に約100台が運行中。このうち、同STは14台のFCバスが水素の充塡に利用している。
自動車会社では、FCバスの年間水素消費量はFCV45台分に相当するとしている。ENEOSの塩田智夫・水素事業推進部長は「物流や公共交通の分野など、大型車による大量消費が進めば、普及に弾みがつく」と話す。また、ENEOSでは、同STをはじめとする首都圏7カ所の拠点を利用して、東京五輪・パラリンピックの開催期間中、大会車両として導入される500台のFCVへの供給も担う予定だ。
ENEOSとJERAは今回の水素STを機に、ほかの水素事業でも協力関係を模索していく。「水素の普及とコスト削減には発電や産業分野での大規模な需要創出が必要です。そのためには一社単独ではなく複数社の協業が欠かせません」(塩田部長)
大井でのプロジェクトのほかにも、ENEOSでは、将来、国内の石油精製、製鉄・発電分野で水素利活用が拡大する可能性を見据えている。これに向けては、再生可能エネルギー由来の水素を海外から大量調達・供給するビジネスを検討し、「CO2フリー水素」のサプライチェーン構築にも取り組んでいく方針だ。
三菱化工機は、水素の供給コストの低減とともに、廃熱やCO2といった未利用資源の有効活用につながる新技術の開発を進めている。一つが吸蔵合金を用いた水素圧縮機だ。従来、水素の昇圧には電動式のコンプレッサーなどの機械式圧縮機を使用する際、多くの電力コストがかかっていた。
一方、吸蔵合金は、室温程度で水素を吸い込み、加熱すると水素放出圧を増加させる特徴を持っている。この仕組みを利用することで、従来型機器に比べ、昇圧時に機械的な駆動部分が不要となりメンテナンスコストの低減が期待される。
また、水素を昇圧する際の加熱温度が室温から約250℃と比較的低いこともメリットだ。企画本部研究開発部の山崎明良部長によると「工場などから出る廃熱の中でも、これまで使われなかった低い温度帯の廃熱を活用できる」という。加熱源に廃熱などが利用できれば電力コストも低減できる。
同社は那須電機鉄工やダイテック(愛媛県西条市)、広島大学、四国産業・技術振興センターなどと共同で、50サイクルの試験運転を実施した。水素・エネルギープロジェクト部水素・エネルギープロジェクト課の瓶子裕之課長は「吸蔵合金の水素吸蔵と吐出にかかる温度領域やサイクル時間などの最適化を図りました」と説明する。実証の結果、昇圧時の温度、圧力値や吐出時の安定した流量などの目標値を達成。今後は、さらなる耐久性の向上やスケールアップなどを検討し、22年度中の商用化を予定している。
同機は1MPa未満の低圧水素を19・6MPaまで昇圧できる。また、1時間当たり1N㎥の吐出能力を持っている。オフサイト型水素ステーションなどに水素を輸送する際に使用するシリンダーやカードルへの充塡などへの活用が期待される。
一方、もう一つの技術開発としては、昨年、川崎製作所構内に微細藻類バイオマス生産の実証装置を設置し、11月から実証試験を行っている。この試験で使用する「フォトバイオリアクター」は、ガラス管の中で微細藻類を培養する装置だ。都市部のビルや工場への設置が可能。閉鎖空間での培養により不純物が混入しにくく、サプリメントや化粧品といった高付加価値商品向け原料の生産ができる。また、大型台風や地震に備え、飛来物対策や免振構造を採用したオリジナルフレームを考案した。 この実証試験の次なるステップとして、大気に排出されて未利用だったCO2を活用した「カーボンリサイクル技術」の開発に取り組む。バイオマス生産の実証装置は、同社川崎製作所構内の実証用水素ステーションの横に設置されており、ステーションにある小型水素製造装置「HyGeia-A(ハイジェイア-エー)」が都市ガスから水素を製造する際に排出するCO2の一部を直接投入して微細藻類の培養に利用する。今年2月末から実証試験を開始する。
新型コロナウィルスに始まり新型コロナウィルスで終わった感が強い2020年から21年に移り、早や1カ月――。
電力事業は年末からの需要ひっ迫に端を発した卸電力取引市場価格高騰、新電力を中心とした小売り電気事業者の窮状、市場連動型メニューを選択した消費者の電気料金高騰、国による措置の話題がこの1カ月の大半を占めたと言っても過言ではない。
まずは1月の危機的な状況に対応した電気事業者全てに感謝したい。筆者も契約している小売り電気事業者がほぼ毎日、通知してきた家庭用デマンドレスポンスに参加し、本当に微力ながら節電に協力させていただいた。
現時点ではLNG船も順次、入港しており、また卸電力取引市場価格も落ち着きをみせているが、まだ冬は終わっていないことから、予断は許さない状況であることに変わりない。この話題はエネルギーフォーラム本誌を含め色々な場でも議論されているので、そちらに譲ることとしたい。
さて、こうして危機的な状況が話題をさらった1か月であったが、電気事業制度を検討・審議する国の審議会などは粛々と開催されている。
もちろん、今回の需給逼迫と市場価格高騰に関する議題もいくつか取り上げられているが、大半は今後の電気事業に関する議題が占めている。
筆者も仕事柄、審議会を追っているが、この1月に電気事業に関連がある審議会などでチェックした会議数は23件。1月は年始の休みがあってスタートが遅いこともあるので、平均1日に約1件は開催されている状況である。電力広域的運営推進機関が開催する研究会などはこれに含まれていないので、それを含めると更に増えることとなる。
議論されている分野を「電力事業のサプライチェーン+その他関連キーワード」別に筆者独自に整理してみたが、多く取り上げられているのは再エネや環境関連となり、これは50年カーボンニュートラル実現や再エネ主力電源化等の流れを大きく受けていると考えられる。
また、昨年6月に成立・公布されたエネルギー供給強靭化法の詳細設計も昨年夏以降に検討されており、多くの制度が施行される22年4月に向けた準備も進みつつある。
例えば、託送料金制度におけるレベニューキャップ制の導入では、今夏の省令改正などを目指し、電取委の料金制度専門会合の下部にワーキンググループが設置され、専門的な議論に入っている。その他、FIP制度の規模の目安や地域活用電源の要件の整理、配電事業や特定卸供給制度(アグリゲーター)における保安の在り方などの議論も進んでいる。
今後数年間で予定されている電気事業制度を記してみた。これでも一部を記したものであるが、特徴としては、多くの制度がこの2~3年で同時並行的に進展していくことである。
この全体像を把握し、一つひとつの制度が自社にとってどういったリスクがあるのか、また、逆にどういった事業機会があるのかを見極めながら事業運営を日々行っていくことが求められる。某経営者は「脳に汗をかくまで考える」と言っているが、まずは基本を押さえ、そして考え抜き、行動に移すことが必要であろう。
もちろん、制度は完ぺきではないので、事業者や団体は必要な意見を国に主張していき、国の方でも事業者や団体からの意見に耳を傾けて制度設計や見直しを図っていただく体制ができることが望まれる。
現に、最近の審議会では、例えば、発電側基本料金の議論では、再エネ関連の各団体によるヒアリングを行っており、こうした流れを少しずつ形作っていけるとよいだろう。
最後に、今年で東日本大震災から10年が経つ。あの震災を契機に日本の電力事業が大きく変わった。
再エネ導入拡大を求めFIT制度ができ、世界的に低炭素から脱炭素へ舵を切り始め、パリ協定の締結、日本でも第5次エネルギー基本計画で再エネ主力電源化やCO2削減を言及してきた。また、電力システム改革として3段階の施策を実行するなど、矢継ぎ早に制度を進めてきた。一方で、北海道胆振東部地震でのブラックアウトや台風による大規模かつ長時間の停電など災害の激甚化によりレジリエンスの強化といった言葉が強調されるようになった。
こうした中で、エネルギー供給強靭化法の成立や50年カーボンニュートラル宣言など、この10年を踏まえた法改正や国としての新たな姿勢を示したのが昨年。今後は改正法の実行、カーボンニュートラル実現に向けた行動が問われる時代となり、いままさにこの瞬間が電気事業の転換期にあたるのではないかと感じる。
今回の事象の整理・検証を含め、今後のあるべき姿、目指すべき姿を見つめ、行動していくことが大切になってくるだろう。
【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。
制度Tracker: https://solution-esp.com/seido-joho2.html
鈴与商事は主力の石油・LPガスに続く新たな柱として電力事業の拡大に注力している。これまで清水港にある鈴与グループの倉庫屋根を活用した分散設置型メガソーラーをはじめ、静岡市とのエネルギー地産地消事業、資源循環型バイオガス発電、御前崎港バイオマス発電所などに取り組んでいる。
静岡市との地産地消事業は17年2月に開始した。再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期間が満了を迎える太陽光発電の卒FIT電源を地産電源の一つに組み込み、市内の全小中学校や市有施設に電力供給する。これにより、地域経済の活性化や防災機能の向上、環境負荷の低減などを推進中だ。
具体的には、静岡市役所庁舎など279の市有施設の電力を市内2カ所の清掃工場から発生する電力と、鈴与商事が調達する電力によって賄い、エネルギーの地産地消を実現する。また、地域の防災拠点となる静岡市内の小中学校80校に蓄電池を設置。蓄電池群制御システムを活用し、平常時は需給調整のため、非常時には防災用電力として活用するスキームを構築している。そうした取り組みによって、19年にはこれらの施設にかかる電気代を1億3672万円削減している。
資源循環型バイオガス発電では、鈴与グループでアグリビジネスを手掛けるベルファームが生食用トマトのハウス栽培を行っており、栽培で発生する食品系廃棄物処分を利用し、メタン発酵によるバイオガス発電を行っている。
現在、効率よくメタン発酵させ、ガスを取り出すプロジェクトを産業技術総合研究所と共同で取り組んでおり、産総研が有する大規模RNA/DNA解析技術を用いて、良好な菌叢・微生物機能が維持されるプラント運転条件を見いだすため研究を続けている。生成されたバイオガスで発電するだけでなく、排出される熱は冬季暖房向けに、CO2はトマトのハウス栽培に供給されるトリジェネレーションとして活用中だ。
最新の取り組みでは、レノバが主導する御前崎港バイオマス発電所に出資した。鈴与グループなどが保有する当地を発電所候補地としてレノバに紹介したのがプロジェクトの始まりだという。2社に加え、地元の大手電力である中部電力と三菱電機クレジットが参画。4社で発電所の建設・運営やFITを利用した売電事業を行う。
建設・運用に関しては、レノバが先行して運転を開始する秋田県内の発電所をはじめ全国4カ所でバイオマス発電所を手掛けており、そのノウハウを生かす。「特に御前崎港の7万5000kWクラスは他の3地点と同規模であり、運用においてノウハウを横展開して進めている」(レノバ)という。燃料は木質ペレットやパームヤシ殻など輸入材をメインに、静岡県内の未利用材や間伐材なども利用していく方針だ。
このように、鈴与商事は静岡県内で地産地消、循環型社会の実現をテーマにさまざまな電力事業を進めている。吉村豊・エネルギーシステム営業部長は「事業を行う上で地元への貢献、地域活性化というキーワードは欠かせません。また、再エネの普及促進や利活用は当社の主要なテーマとして取り組んでいます。菅義偉首相が掲げた50年温室効果ガスゼロ政策は当社の電気事業にとって追い風です。この流れに乗っていきたい」と意気込む。
30年に向けては、電気自動車シフトの動きも活発になってくる。そうした変化にも、EVを活用したエネルギーマネジメントに取り組むスタートアップ企業、REXEVと協業するなど追随する。社内で一致団結してスピード感を持って取り組んでいく。
大規模災害が発生したとき、まず優先的に確保すべきは、電気やガスなどエネルギー、そして生活水だ。水は飲料水としてだけでなく、入浴やトイレなど、多くの生活シーンで欠かせないものとなる。
そんなエネルギーと水のBCP(事業継続計画)対策に優れた先鋭的な住宅として注目を集めているのが、TOKAIが提供する「OTSハウス」だ。電気を太陽光発電と蓄電池、水を独自開発の浄化装置を核とした生活水循環システムにより賄い、完全自給自足する従来にない住宅となっている。2011年から9年の歳月をかけて開発・実証が行われ、19年から販売を開始した。
鈴木辰麻理事・新規事業開発部長は「太陽光発電と蓄電池は多くのメーカーが取り扱っていますが、水まで扱って完全自給自足できる家を販売するのは当社しかありません。その独自性から昨年12月に住宅系の展示会に出展した際も、多くの方から関心を寄せていただきました」と反響を口にする。
OTSハウスは全6タイプをラインアップする。最上位クラスの「アドバンス」は、電気を系統電力に頼らずに太陽光発電と蓄電池で賄う。生活用水は建物敷地内に降る雨水を集め、最大1万7000ℓを貯水。この水を独自開発したRO(逆浸透膜)浄化装置を通して浄化、塩素消毒して生活水として利用している。キッチン・トイレを除いた生活排水も合併浄化槽で一次浄化した後、雨水と一緒にタンクに戻され、生活水として循環することを実現している。
昨年6月には、新たな方式で生活水を確保する「ウォーターコンシャススタンダード」を追加した。経済的な活性炭フィルターによるろ過システムを採用するもので、一次ろ過器で砂や鉄サビなど、二次ろ過器で色や臭いの原因物質を除去する。RO装置と同様に浄化後に塩素消毒で一般細菌を除去し水道水と同等レベルにする。
このほか、水道水を貯める大容量貯水タンクで断水に対応する「バリュー」に3日間自立する「バリュー3」を新たに加えるなど、導入しやすい低価格帯も追加している。
昨年6月には、これまで静岡県内で進めてきたOTSハウスの販売を全国規模に広めるため、「雨と太陽で暮らす家。On The Spot コンソーシアム(共同事業体)」を設立した。住宅コンサルタントとして実績のある清水英雄事務所と協業し、全国で事業パートナー(代理店)と販売パートナー(会員)を募集。共同でOTSハウスの普及を推進していく構えだ。事業・販売パートナーは「OTSハウス」をはじめTOKAIが提供する規格住宅商品および水と電気の自給自足に必要な設備の取り扱いが可能となるとともに、毎年発表を予定する新商品の取り扱いも可能となる。「これまで当社単独で販売してきましたが、全国展開となると仲間が必要になります。OTSハウスのコンセプトに共感してもらえる企業の参加を募っていきます」と鈴木理事はアピールする。
昨年からの新型コロナウイルス感染拡大で、大規模災害が発生した場合、避難所に身を寄せるリスクもあることから、自宅でライフラインを確保することが従来にも増して重要になってきている。エネルギーと水を自給自足するOTSハウスのコンセプトはそうした新しい生活様式にもマッチすることから、今後より脚光を浴びていくだろう。
SLで有名な大井川鉄道で、始発の金谷駅から30分ほど北の山間に向かった所に川根温泉はある。1994年12月に掘削された同温泉は毎分730ℓの湯量が、今も自噴している。島田市観光課観光施設係の天野幸治課長補佐は「温泉を過疎化が進むこの地域の観光や産業振興の起爆剤に位置付け、温泉をつくることになりました」と経緯を話す。温泉湧出とともに、川根温泉ホテルをオープン。現在では多くの観光客を集めている。
一方で、川根温泉はお湯とともに湧出するメタンガスを主成分とする可燃性ガスを大気に放出していた。温室効果ガス排出抑制や再生可能エネルギーの活用といった機運が高まりを見せつつあり、可燃性ガスの有効利用について2012年から検討を開始した。
可燃性ガスはメタンガスを86%含む。ガス量も常時1時間当たり30㎥程度が確保でき、25 kWクラスのヤンマーエネルギーシステム製マイクロコージェネを3台稼働するのに十分であると分かった。
だが、計画を進める上で鉱業法に基づく採掘権の取得が課題となった。鉱業法は04年に一部改正され、特定区域制度が導入された。これにより、国が特定区域を指定し開発事業者を募集する制度になったのだ。同制度が導入された直後のため前例がなく、同地を特定区域にしてもらう交渉を国と行い、その後、特定区域の指定と開発事業者の公募を経て、全国初の同制度を利用した鉱業権として設定された。メタンガス発電の検討に入ってから5年の歳月をかけて実現したのである。
温泉にはコージェネのほか、ガスコンプレッサー、ガスホルダーを設置。発電した電気は川根温泉ホテルに、排熱は隣接する日帰り温泉に供給している。コージェネは4台設置しており最大100kWの発電が可能だ。深夜は需要が少ないため、ガスホルダーに貯めて、ホテルで使用する電力の約6割を賄い、ピークカットにも役立っている。排熱は日帰り温泉の沸かし湯に使われており、ガス代の削減に寄与している。BCP(事業継続計画)対策としても、非常用発電系統の一部負荷を肩代わりすることで、非常用発電機の持続時間を延長できる。
川根温泉の有効利用に関して、アドバイザーを務めた静岡大学グリーン科学技術研究所の木村浩之教授によると、「静岡県中西部一帯は川根温泉周辺だけでなく、温泉を掘ると広範囲にわたって高濃度のメタンガスを含有する可燃性ガスが湧出する可能性が高い。ほかの地域でもメタンガスを活用する事例が出てきてほしい」とさらなる活用に期待する。温泉が静岡県の地域振興や観光だけでなく、エネルギーや環境の面でも貢献していきそうだ。
※本セミナーは、2020年2月24日に開催し終了したものです。
<プログラム>
【13:00~13:30】「CO2フリーアンモニアによる低炭素社会の実現」
東京ガス株式会社アドバイザー 村木 茂 氏
【13:30~14:00】「なぜ、アンモニアか? ~CO2フリー燃料、水素キャリアとしてのアンモニアの可能性~」
住友化学株式会社主幹、元内閣府大臣官房審議官 塩沢 文朗 氏
【14:00~14:30】「JERAゼロエミッション2050」の取り組みとアンモニア混焼の展望(仮)」
株式会社JERA 経営企画本部 調査部長 坂 充貴 氏
【14:30~15:00】「日本の燃料アンモニア導入・拡大に向けた取組について(仮題)」
経済産業省資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課 石油・LNG企画官 渡邉 雅士 氏
【15:00~16:00】パネルディスカッション
モデレーター/塩沢氏、参加者/村木氏、渡邉氏
昨年12月下旬から電力卸市場で、異例な価格高騰が続いた。全容がはっきりしない中、まだ十分に事態を消化できていない私がうかつに発言するのはリスクがある。このような災害ともいえる事態では、慎重に発言する必要がある。しかし、今後理不尽な議論が横行することを懸念している。
今冬の卸価格の継続的な高騰の主な原因は、LNGの調達量不足に起因するkW時の不足で、発電設備(kW)の著しい不足ではない。にもかかわらず、今冬の需給ひっ迫を口実にkWを調達する容量市場の需要曲線の引き方や埋蔵電力の議論などをゆがめ、高すぎる消費者負担引き下げの改革を阻害する、あるいは石炭火力のフェードアウトの議論に逆行する、火事場泥棒のごとき議論が横行しないか懸念している。
発電事業者の責任追及は酷
12月上旬まではかなり穏やかな天候だったため、LNGの調達が厳寒に備えるものになっていなかったと推測している。穏やかな天気が続けば、需要減と太陽光の発電量増加が見込まれ、LNGを厚めに調達していれば結果的に使い切れず、その非効率的な利用で損失が出る可能性もある中、厳寒への備えが足りなかったと発電事業者の責任を追求するのは酷。調達量不足が見込まれた後に慌てて追加調達する局面では、さまざまなLNGの供給支障要因や国際的な需要増が重なり、十分に調達できなかった。
複数の大きなLNGの供給支障を主因として、天候、発電機トラブル、新型コロナウイルスの影響など、ここの要因は「災害」と呼べるレベルでないとしても、これだけ重なれば、大地震などの天災とも比較し得る事態と整理するのが妥当だ。
価格上昇は正常なメカニズム
需給ひっ迫によって価格が上昇すること自体は正常な市場メカニズムの現れだ。正常に市場メカニズムが働けば、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が200円、あるいは将来はさらに高くなるコマが現れても不思議ではなく、事業者は相対(金融)契約、先物市場やベースロード電源市場で備えておくべきリスクだ。一部の新電力は今冬以前のスポット価格の低下傾向に目を奪われ、リスクに対する正常な感覚と対策が欠如していたのではと疑っている。
一方で、多くの有識者や発電事業者は、今冬の需給ひっ迫の前には、「変動再エネが普及すれば卸市場価格は傾向的に低下する」「卸市場価格には少なくとも一部の固定費は含まれておらず、取引所で電力を調達する小売り事業者は固定費負担を免れてただ乗りしている」などと、ミクロ経済学のイロハが分かっているのか怪しい、物事の一面しか見ない愚かな議論を振りまいてきた。これが正しければ、固定費の乗ったベースロード電源市場を活用せず、小売り事業者が過度にスポットに頼る経営をしたとしても、価格高騰への備えを怠っても、むべなるかな。
理論的には、変動再エネが普及すれば、卸価格がほぼゼロ円になるコマの増加はあるものの、気象条件や供給支障などのショックに反応して価格が高騰する可能性も増加し、価格がただ下がるのではなく変動が激しくなると予測すべきだ。固定費はこの価格高騰時に多く回収されるものだ。あらかじめ手当てしなければ、価格高騰時に小売り事業者は多額の固定費相当額を負担することになる。こんな当然の考えが普及していなかったことは、小売り事業者だけの責任ではない。
さらに、私自身もLNGの調達不調によって、これほど長く取引所の価格高騰が続く事態がこんなに早く起こるとは予想していなかった。今回の事態は想定外の災害とも言える事態で、災害により新電力が壊滅して競争が失われる事態は避けるべき。需給ひっ迫はまだ続いているがその収束を待たず、早急に新電力の救済の可否やそのやり方を検討する必要がある。
一方で今回の事態は長期的な制度設計の観点からも、学ぶべき多くの教訓を含んでいる。kWだけでなくkW時の確保も見据えた安定供給対策とその費用負担の制度設計、燃料制約下での限界費用概念の再整理、リスクを低コストで合理的にヘッジできる環境整備、各種の電力市場、とりわけインバランス市場の再検討など多くの課題がある。
今冬の悲惨な状況を招いた一つの原因は、不適切なインバランス料金かもしれない。(基本的には調整電源の限界費用と等しい)社会的限界費用よりも高いインバランス料金が持続するリスクが起点となって、卸価格を高騰させたと疑っている。従来の議論は、インバランス料金が社会的限界費用を下回ることの弊害に偏り、逆の事態に対応できなかったのかもしれない。
短期対策と制度設計の峻別を
一方で、恒常的な厳しい上限価格規制などの短絡的な制度設計はすべきでない。電力供給の社会的限界費用が200円になるコマでは、価値が200円を下回る電力消費は積極的に抑制されるべきだ。そのような抑制を伴うデマンドレスポンス(DR)に貢献した消費者・事業者が正当に利益を得られる状況をつくり、DRの合理的な発展を促すためにも、卸市場価格が高くなることを安易に「悪」と捉えるべきではない。今冬の経験を、都合よく解釈して制度改革をゆがめ、長期的に消費者負担を増やしてはならない。 今回の問題は卸価格が高いコマがあったことではなく、社会的費用に見合わない高騰が異常に長く継続していることにある。問題をはき違えてはならない。
水素への関心が国内外で高まっている。2017年12月に日本が世界で初めて水素戦略を策定した後、近年では欧州各国をはじめ韓国、オーストラリア、チリなど多くの国々で水素戦略を発表し、国を挙げて水素の取り組みを加速している。水素に関する国際会議も盛んで、「ウェビナー」というコロナ禍で普及したツールも相まって、大きなものでは1万人規模の参加者という実績もあるようである。世界が目指す「カーボンニュートラル」の実現に向け、水素が大きな役割を果たすことへの期待の表れといえる。
これには、水素を利用するアプリケーションである燃料電池製品が世の中に出てきたことも大きく貢献しているのではないか。09年に販売開始された家庭用燃料電池は国内で30万台を超え、14年12月に市場投入された燃料電池自動車も、20年12月には第二世代が発表されるに至っている。都内では燃料電池バスを頻繁に見かけることができ、水素ステーションは全国で約150カ所を数えるほどになった。他国では燃料電池列車や燃料電池船も開発されている。
とはいえ、これらは「水素社会」の実現に向けた第一歩にすぎない。社会システムの中で、どのように水素を利活用していくか、グランドデザインを描いていくことが必要であろう。その点、欧州の政策の打ち出し方は参考になる。普及が拡大する再生可能エネルギーを電力セクターのみならず、運輸・産業・熱の各セクターで利用する「セクター・カップリング」の概念は、さまざまなセクターをつなぐという水素の役割を端的に指し示すものといえよう。また、「Hydrogen Valley」構想は、地域主導で低炭素社会を構築するというメッセージと受け止めることができる。
水素を巡る夢物語が現実に
日本でも1993年に水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術プロジェクト、通称「WE―NET」プロジェクトで水素社会の絵が描かれた。これは他国で製造した水素を日本に運び、水素航空機も含めてさまざまに利用するという将来の姿で、当時は夢物語ともされた。だが、現代では燃料電池車が走り、水素タンカーが開発され、水素飛行機も開発計画が発表されるなど、夢が現実につながっている。 先達の長年にわたる取り組みが下敷きとなっていることは言うまでもないが、われわれはこれを享受するだけでなく、新しい未来の姿を描き、50年カーボンニュートラルを担う次の世代にいかにつなげていくか、あらためてその責務の大きさを感じるところである。
次回は日本エネルギー経済研究所新エネルギーグループ研究主幹の柴田善朗さんです。