【コラム/3月23日】東日本大震災11年後に復興の核を考える 福島原子力発電所再構築を期待

飯倉 穣/エコノミスト

1. 東日本大震災後11年である。時間の経過もあるが、10年超一区切り、復興完了に近づいた。復興一段落・課題紹介報道は、ウクライナへのロシア侵略で地味だった。

「東日本大震災11年 細る支援 継続が課題」「巨額復興の後 再生手探り」(朝日2022年3月11日)、「東日本大震災11年 福島復興拠点 避難解除へ」(日経同)。

また反原発の新聞は菅直人氏のインタビュー記事を載せた。「日本の原子力技術 楽観誤りだった、菅元首相 安全保障上も原発に懸念示す」(朝日同)。ロシアの原子力発電所攻撃・占拠もあり、原子力の在り方、福島第一原子力発電所事故後の状況報道も散見された。

 福島の復興状況は、福島第一原発の汚染水処理(ALPS処理水)と廃炉を最大課題として語る。農業・自然エネ・公共投資呼び込みの地域再生状況を解説する。事故後の政治的混乱・風評・マスコミの扱いの帰結である。浜通りの地域展開の方向として妥当な選択であろうか。福島原子力発電所再建を阻むタブーを考える。

2.  内堀雅雄福島県知事は,復興と未来を切り拓くキーワード「光と影」を強調した。光は11年間の県民の努力で復興進展、影は、11年経ても避難者・解除区域・福島第一原発廃炉・ALPS処理水・農産物の価格差・教育旅行等で復興不十分と述べる(日本記者クラブ会見22年3月10日)

福島県経済は、復興している。県内総生産(18年度)は、名目7兆9054億円で((11~18年度平均伸び率名目2.4%/年、同実質2.1%)、ほぼ名目・実質とも07年度水準(震災前の好況期)である。一人当たり県民所得も、294万円/人で、震災前を(07年270万円)を上回る(内閣府統計)。現在は、コロナの影響で水準維持の状況にある。産業別では、電気業の半減超の低下、宿泊飲食サービス業の停滞が目立つ。支出側では、政府最終消費、公的資本形成の増加が目立つ。雇用は一応の水準である。

 県全体と異なり、福島県内の原発事故被災地域(浜通り:双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯館村、葛尾村)は、様相が異なる。避難指示区域の解除も漸く最近で、居住人口(震災前7万人に対し1万人未満)、経済活動は限られている。原子力発電所が最大の雇用の場であった。産業活動は、公共事業や一部民間事業があるものの、一次産業中心となる。

 自然に帰るという意味で、「人新世の資本主義」のコモン的発想なら、理想郷だろうが、過去の努力や今後の地域展開の視点から疑問が残る。

3. 原子力発電所の事故はなぜ起きたか。「福島第一原発は、地震にも津波にも耐えられる保証がない、脆弱な状態であったと推定される。自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策・・など、それまでに備えておくべきこと・・をしていなかった」「本事故の直接的原因は、地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが、事故が実際にどのように進展していったかに関しては、重要な点において解明されていないことが多い」(国会事故調12年)。政府事故調も事故について地震か津波か曖昧表現である。専門家でなくとも、事故の状況を搔い摘めば、地震による送電線の倒壊と津波浸水による非常用電源喪失による原発事故という見方になる。故に11年3月時点で地震・津波の規模の予測可否が論点となる。残念ながら科学的に予測できなかった。故に東電も天災の被災者であった。

 国会事故調は、当時の科学的知見より、なぜ想定外対応が不可だったかという視点で東電の経営・企業体質や規制当局の対応を殊更論点とした。

4. 政治の都合もあった。苛立ちと責任転嫁の民主党の姿勢である。菅直人首相は、外国人献金問題で前原誠司外相に続き、辞職に追い込まれる状況だった(朝日11年3月11日)。そこに東日本大震災が発生した。野党自民党は、国家非常事態を受け追及出来ず、政権はそれを利用し懸命対応の姿勢で生き残りを図った。そして延命のためか権力者の思惑か、浜岡原発に続き全原子力発電所の停止を行い、電力不足・経済の危機を演出した(同年7月)。

5. 天災で発生した損害の責任はだれが負うのか。原子力損害賠償法の法律の立て付けに、立法当時の歪みが大蔵省の主張で残されていた。原賠法3条但し書き(異常に巨大な天災地変等の場合、事業者は損害の責めを負わず、政府が必要措置をとる)の扱いである。これに該当すれば、誰が法的に対応するか釈然としない規定のままだった。故に原賠法3条但し書きに該当するか否か、水面下で問われた。過去の国会答弁は、関東大震災の3倍以上の規模なら3条但し書き該当ということであった(1960年年5月18日科技庁長官国会答弁)。東日本大震災(マグニチュード9.0)は、関東大震災(マグニチュード7.9)の30倍を超える地震エネルギーであった。その発生規模を考えれば、関東大震災の3倍を遙かに超える。

事実と法解釈の経緯を無視して、民主党政権は、国会事故調の糾弾的聴聞で、被災者東電に責任を押しつけた。これに関係省も加担した。

 東電サイドは、日本人的信条の宿命か 優しさが難であった。地域を思った。それにつけ込む非情な権力の勝手解釈を吞み込まされた。イェーリング「権利のための闘争」を手放した。法権利の侵害に対する闘争は、私の物に対する攻撃だけでなく人格に対する攻撃である。権利を無視された者はあらゆる手段で戦うことが自分自身に対する義務であることを諦観した。その後遺症が、今日の経産省管理国有東電の姿である。忍一筋は悲しくもある。又活力喪失でもある。

6. 福島県生まれの木川田一隆が、福島県人と協力して浜通りに原子力立地を決定した。お互い故郷発展の思いは一緒であろう。地元・東電には、地場産業としての原子力発電産業であった。事故後、当初地域の首長の多くは、原子力再建の思いもある印象を受けた(11年4月5日記者クラブ会見)。その後現実と世論の厳しさとともに消えていった。人々は、事故で希有な苦渋と辛酸をなめて、原子力を語ることはなくなった。そして浜通り地域に漸く定住者が戻りつつある。人が戻り働く場を考えるとき、浜通りの復興で、自然に帰ることなく、公共的施設に頼ることなく、復興の核として原子力発電事業の再構築に取り組むべきではなかろうか。それが今後の地域展開の課題と考える。

【特集2】目指すは「ゼロカーボンシティ」 水素利活用の好循環モデル構築

【北九州市】

北九州市は、街中を走るパイプラインを使った水素利用の実証を行う。 低コスト・CO2フリーの水素をつくり、イノベーション創出に力を注ぐ。

官営八幡製鐵所の創業の地である北九州市東田地区は、近代産業発祥の地としての面影を残し、今も工業地帯の風景が広がる。環境問題に古くから積極的に取り組んでおり、現在は脱炭素社会に向け、環境と経済の好循環によって都市や企業の競争力を高め、国内外の脱炭素に貢献する成功モデルを構築するべく取り組んでいる。

産業都市の利点を生かし 水素利用に早期に取り組む

2009年、経済産業省の「水素利用社会システム構築実証事業」において水素タウンプロジェクトが発足した。岩谷産業やENEOS、東京ガスなどが名を連ねる「水素供給・利用技術研究組合(HySUT)」(当時)が主体となり、東田地区にコミュニティーレベルで水素を活用するエリア「北九州水素タウン」を構築。福岡水素エネルギー戦略会議などが協力をしながら、14年度まで水素パイプラインによる水素供給技術の実証を行った。

水素タウンエリアには、ホームセンターや水素ステーション(水素ST)、市営の博物館や居住可能な水素燃料電池実証住宅などが建つ。

実証では、東田地区が工業地帯であることが水素の調達面で奏功した。同地区にある日本製鉄が協力し、工場プロセスの中で利用している水素の一部を水素タウンまで1・2kmの長さのパイプラインで供給。水素タウンに設置した燃料電池14台を活用し、①水素パイプラインによる水素供給技術、②純水素型燃料電池などの多用途・複数台運転、③水素を燃料とするフォークリフトや燃料電池アシスト自転車、スクーターなどの走行―の実証を行った。

約4年間に及ぶ実証の後、設備は岩谷産業に譲渡。18年から引き続きパイプラインで水素を供給し、①普及型燃料電池の実証、②水素ガス不純物分析計の実証、③水素センサーによる漏洩監視システムの開発、④超音波式水素ガスメーターの実証、⑤高濃度低圧水素用ステンレス配管システムの開発―など、九つの技術実証を行っている。水素を供給し利用する実証から、社会実装に向けて水素関連の周辺機器の開発・技術実証に前進した格好だ。

一般消費者に対しても、移住希望者がお試しで入居できる水素燃料電池実証住宅に新型の燃料電池を設置。パイプラインで供給する水素を一部利用して生活してもらうなど、広く水素への関心を高めている。

響灘地区・東田地区の実証事業の概要

既存の再エネで水素をつくる 環境省の実証事業を開始

北九州市は、環境省の「既存の再エネを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築・実証事業」に採択され、水素の製造・運搬・利用の実証にも取り組んでいる。20~22年度にかけて、響灘地区の太陽光発電や風力発電と、市内にあるごみ発電(バイオマス発電)といった複数の再エネの余剰電力を有効活用することで、CO2を発生させずに低コストの水素をつくり、県内各地の水素STなどに運んで利用する。

代表事業者は、北九州市が出資する地域新電力の北九州パワー。水素製造とエネルギーマネジメントシステムの開発をIHIが担当する。製造したCO2フリーの水素は福岡酸素とENEOSが東田地区の水素タウンや水素ST、久留米市や福岡市の水素STに運び利用している。北九州市と福岡県は実証フィールドの提供や関係機関の調整を担う。

一方で北九州市は、25年度までに、市内全ての公共施設約2000施設を、ごみ発電を中心とした市内の再エネ発電所の電力で100%賄うことを目指す。自家消費型太陽光発電やEV・蓄電池、省エネ機器を第三者所有方式で導入して再エネを普及する「再エネ100%北九州モデル」を推進し、全国自治体の再エネ導入のトップランナーとなることを目標に掲げている。

北九州市環境局グリーン成長推進部の玉井健司水素戦略係長は、「ゼロカーボンシティの実現に向け、北九州市のグリーン成長戦略を策定し、産業都市としての特徴を生かした、産業競争力の強化と脱炭素化を実現する好循環モデルをつくりたい」と、事業への意気込みを語る。脱炭素に向けて水素の利活用を検討している需要家側からの問い合わせに応じ、メーカーなどの参画企業をマッチングする役割も担う。技術開発のフィジビリティスタディーを支援し、イノベーション創出に向けた企業支援に力を注ぐ。

玉井係長は、「水素をつくるのは技術的に難しいことではないが、何にどう使うかが需要拡大の鍵だ」と強調する。それには水素が低コストであることが欠かせないとし、響灘地区の取り組みの重要性を説く。再エネ電力の調達コストを下げることも視野に入れ、「経済性の高い脱炭素エネルギーを市内に安定供給して、脱炭素電力の推進と、水素を利活用できる町を目指す」。それを支えるイノベーションの創出をパッケージ化して、成長を続けるアジアを中心とした海外マーケットへの展開も視野に入れている。

【特集2】再エネの余剰電力を最大限活用 国内初の水電解型EMS実証

【IHI】

低コスト、CO2フリーの水素が実現しようとしている。 北九州市響灘地区でのIHIの技術を結集した取り組みを紹介する。

産業都市であり水素の製造や需要のポテンシャルが高い北九州市では今、環境省の委託により「北九州市における地域の再エネを有効活用したCO2フリー水素製造・供給実証事業」が行われている。製造の中心となる技術は、「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム」だ。開発を手掛けるのはIHI。ごみ発電(バイオマス)を含む、太陽光、風力といった複数の再生可能エネルギー由来の電力を制御して、水電解装置でCO2フリーの水素を製造するエネルギーマネジメントシステム(EMS)としては、国内初の取り組みとなる。

ごみ発電は電力量のコントロールが難しく、発電計画と異なるインバランスが発生するという課題がある。余剰電力を水素に変えて活用すれば、エネルギーの有効利用につながることに。また響灘地区には太陽光・風力発電の設備が多いことから、複数の再エネを同時に制御するEMSの効果が期待できる―。そんな発想が開発のきっかけになった。

実証では、ごみ発電の余剰電力を想定した消費電力指令値をベースとし、合計出力9kWのマルチレンズ風車、合計出力45 kWの追尾型太陽光発電からの電力を制御して、水電解装置によりCO2フリーの水素を製造する。太陽光や風力の電力は不安定なので、これをうまく活用するために出力50 kWの蓄電池を組み合わせる。

パイプラインで水素供給 EMSが最適制御

EMSでは、ごみ発電からの消費電力指令値の変動や太陽光・風力の変動電力に対し、水電解装置と蓄電池のどちらを割り当てるかを最適制御する。リアルタイムで蓄電池の充放電と水電解装置の消費電力の制御を行いながら、三つの再エネ電力を最大限に利用して水素を製造する仕組みだ。

実証運転では、水電解装置で10Nm3/時の水素を製造して、内容積37 m3の水素中間貯蔵タンクにためる。これを圧縮機で20MPaまで圧縮し、移動用の水素カードルに貯蔵する。1週間の実証運転で製造する水素はカードル1基分で、FCV2台のひと月分ほどに当たる。これを東田地区に運び、水素パイプラインを通じて水素タウンで活用するほか、東田地区や福岡市、久留米市の水素ステーションや物流施設のフォークリフトで利用する。

カーボンソリューションSBU基本設計部の谷秀久主査は「再エネが多い北九州市で、出力制御などの余剰分を水素に変えて活用することで、北九州市が目指す『ゼロカーボンシティ』を実現する一助にしていきたい。また、日本の脱炭素化に貢献したいと思っています」と意気込みを語った。

IHIの実証実験は2020~22年度まで

【特集2】太陽光発電を余すことなく利用 PtoGシステムを本格展開

【山梨県】

太陽光発電の適地で知られている山梨県。その電気で水素を製造するサプライチェーンを構築した。今年4月には山梨県、東京電力ホールディングス、東レの3社による共同事業体で本格展開に乗り出す。

富士山や南アルプスに囲まれた山梨県―。3000m級の山々が雲の進入を防いでいるため、晴天の日が多く、日照時間が長いのが特徴だ。太陽光発電の設置場所としてポテンシャルが高く、県内にはメガクラスの発電所が点在している。

PtoGシステムによる水素製造拠点

そんな山梨県が現在注力しているのが水素事業だ。太陽光発電の電気を最大限活用するため、不安定な発電部分を水素製造に利用し、さらに作った水素を貯蔵・輸送するサプライチェーンの構築を目指す。2016?21年度の5年間、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、東京電力ホールディングス、東レ、東光高岳と共に開発を進めている。

水力発電のノウハウ活用 水素事業にも人材適用

山梨県のエネルギーへの関わりは古く1957年にさかのぼる。行政組織でありながら、水力発電事業を長年手掛けており、県内27カ所ある発電所(合計12・1万kW)の運営を行ってきた。担当する企業局には多くの技術系職員が在籍する。

「水素事業は、山梨大学が燃料電池の開発を積極的に行ってきたことをはじめ、水素が脱炭素化を促進する次世代エネルギーとして有望なことからスタートしました。水力発電に携わってきた技術系職員も多くいます。参画を依頼する企業には『一緒に水素事業に取り組みましょう』と声掛けをしています」。企業局電気課新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長はこう話す。

NEDOの実証事業では、4年をかけて太陽光から水素を製造するパワーtoガス(PtoG)システムと貯蔵・輸送する技術を開発した。同システムでは、東レが開発した世界最高効率の電解質膜を用いた固体高分子(PEM)型水電解装置を採用する。PEM型は電解の原料に水道水を利用できるため、取り扱いが容易、かつ小型で構成がシンプル、再エネの追従に適している、という特長がある。

PEM型水電解装置

実証の最終年度となった昨年6月からは、県内の半導体工場やスーパーマーケットに製造した水素をカードルに高圧充てんして輸送、水素専焼ボイラーや燃料電池に利用している。県内有数のスーパーマーケットチェーン「オギノ」では、店舗にパナソニックの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を2台設置。水素を原料に発電して店舗の電気として利用している。「午後1時?7時に店舗で利用しています。当社も環境問題には積極的に取り組んでおり、グリーン水素活用には関心も持っています」と向町店の長田好弘店長は話す。

スーパー「オギノ」に設置した純水素型燃料電池

PtoGの新会社設立 複数地点にシステム導入

今年3月で水素サプライチェーン実証は終了する。4月からは事業化に向けて東電HD、東レと共同事業体「やまなし・ハイドロジェン・カンパニー」を設立する予定だ。宮崎室長は「新会社を通してPtoGシステムの事業化を見据えています。また、国のグリーンイノベーション基金事業の第1号案件として140億円支援してもらい、山梨県と民間企業7社によるコンソーシアムをつくります。大規模PtoGシステムを国内の複数地点に作り事業化する方針です」と語る。山梨発の再エネ水素技術がいち早く全国に普及していきそうだ。

半導体工場に設置した水素専焼ボイラー

  *       *   *

山梨県のPtoG実証をはじめ、北九州市のパイプラインを使った水素利用実証、豪州から液体水素を輸入など、水素サプライチェーン構築に向けた動きが活発だ。本特集では、そうした事例を取り上げていく。

【特集2】燃料電池開発の一大拠点に 産官学連携で事業化推進

【山梨大学】

長年、水素・燃料電池開発を進めてきた山梨大学。現在は県内企業の実用化に向けた取り組みをサポートする。

山梨県では産官学を挙げ水素・燃料電池の実用化に向けて取り組んでいる。もともと山梨大学では燃料電池開発が盛んであり、1978年に燃料電池実験施設を設置。2008年には「燃料電池ナノ材料研究センター」を設立した。同センターは大学の領域を超えた①燃料電池の試作、②触媒や電解質材料の開発、③劣化機構の解析――などが行える。加えて、産官学連携でも重要な役割を果たしている。

センター内で試作した燃料電池を評価


15年6月には、山梨県、山梨大、やまなし産業支援機構が「やまなし水素・燃料電池ネットワーク協議会」を発足させた。協議会では、県内企業向けに技術講座を実施する。山梨大をはじめ民間企業からも講師を招き、県内企業を中心に延べ約120人が受講。水素・燃料電池の設計開発に必要な知識を習得した。


17年から5年間は、文部科学省の地域イノベーション・エコシステム形成プログラムで地域企業と燃料電池関連の産業化を目指して開発を進めている。電動アシスト自転車に燃料電池を搭載するシステムなどの開発にも取り組んでいる。飯山明裕センター長は「県内企業との連携をさらに深め産業化をサポートしていきたい」と話す。水素・燃料電池産業の裾野を広げる取り組みは、今後も積極的に行われる予定だ。

【特集2】国内初の水素専焼発電所を建設 知見をためて次世代に備える

【イーレックス】

新電力のイーレックスが水素専焼発電の稼働を開始する。次世代電源をいち早く手掛けることで知見を得る。

イーレックスは、国内初の水素専焼発電所を山梨県富士吉田市に建設し3月から稼働する。水素専焼発電はCO2を排出しないため脱炭素化に寄与する次世代電源として注目されている。しかし、燃料となる水素の安定的な供給、発電所を稼働するための知見、再エネ水素の利用によるCO2フリー電気の位置付け―など、前例がなく発電から小売りまで手探り状態で進めることになる。

そこを逆手に取り「どこよりも早く手掛け課題を抽出したら強みになると考えました。将来に向けた水素利用の在り方を検討したい」と高橋良太水素事業開発室長は立ち上げの背景を語る。

今回、水素は発電所の隣接地で共同事業者のハイドロジェンテクノロジーが製造しオンサイトで供給する。発電機は独2G社製の300kWクラスを導入した。

富士吉田市に設置した水素専焼発電機

さらに、特徴的なのは水素を高圧で扱わない点だ。そうすることで、高圧ガス保安法で課せられるハードやソフト両面で規制を軽減し、コスト削減につなげていく。

イーレックスでは今回の取り組みが成功した暁にはパッケージ化し、分散型電源として販売も検討中。高橋室長は「特に離島での脱炭素化に寄与する可能性を大いに秘めている」と意気込む。ユニークな中小クラス水素専焼発電。自治体からも注目を集めそうだ。

【特集2まとめ】水素供給網の新展開 CN視野に本格導入へ

2022年は日本のエネルギー産業にとって歴史的な年となろう。
石炭で製造された豪州産水素が日本に輸入されるからだ。
石炭ガス化技術、液化技術、船舶による大量輸送技術―。
これらを組み合わせた世界初の水素調達が実現する。
脱炭素化を視野に本格化するサプライチェーンの構築。
水素エネルギー「大量消費時代」の幕が開く。

【レポート】太陽光発電を余すことなく利用 PtoGシステムを本格展開

【トピックス】燃料電池開発の一大拠点に 産官学連携で事業化推進

【トピックス】国内初の水素専焼発電所を建設 知見をためて次世代に備える

【レポート】目指すは「ゼロカーボンシティ」 水素利活用の好循環モデル構築

【トピックス】再エネの余剰電力を最大限活用 国内初の水電解型EMS実証

【レポート】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開

【レポート】低廉なグリーン水素供給へ 新燃焼プロセス実験設備を導入

【レポート】輸送・産業分野のCN化支える 水素利活用の技術開発を推進

【インタビュー】液体水素の大量輸送時代が到来 供給網を構築した日本の技術力

【インタビュー】欧州から見た再エネ・水素事情 将来の安定供給に懸念強まる

【トピックス】RE100を目指した燃料電池実証 工場での再エネ活用ロールモデル

【トピックス】ブルー水素への対応に注力 CN都市ガスでステーション運用

【トピックス】POS内蔵水素充てん機でセルフ対応 独自開発のノズルで運営をサポート

【トピックス】中国や韓国のニーズに応える 高付加価値機種の開発に注力

【トピックス】業界標準の水素検知警報装置 FCVや工場向けなどで普及進む

【特集1まとめ】検証 核燃サイクルの実力 六ヶ所再処理工場の完成迫る

世界の国々が脱炭素化を進める中、原子力発電の開発は確実に進んでいく。
やがて訪れるのはウラン資源の争奪戦。価格高騰は避けられそうもない。
原子力発電による低廉かつ安定的な電力供給を維持しいくには、
核燃料サイクルによりウラン資源を余すことなく使うことが欠かせない。
使用済み燃料の再処理はその第一歩。六ヶ所再処理工場の稼働で前に踏み出す。
日本が国策として進める核燃料サイクル―その実力を検証する。

【アウトライン】核燃サイクルの「現在・過去・未来」 変わらない高速炉の意義再確認を

【座談会】伝えたい「閉じたサイクル」の実力 貴重なウラン資源の有効利用

【レポート】戦略ロードマップに基づき高速炉を開発 国は核燃サイクルを推進していく

【レポート】プルトニウム有効利用と長寿命核種の低減 高速炉サイクルの新たな可能性

【特集2】POS内蔵水素充てん機でセルフ対応 独自開発のノズルで運営をサポート

【タツノ】

充てん機の設置場所に合わせた豊富な製品ラインアップを持つタツノ。アフターサービスにも力を入れ、手厚いサービスを提供する。

タツノのFCV用高圧水素ディスペンサー「HYDROGEN―NX」シリーズは、運営用途に合わせて最適なタイプを選べるよう豊富なラインナップを用意している。国内で多くの水素ステーション(ST)で採用されている「L」タイプをはじめ、複数箇所の水素STで充填運用が可能な移動式の「M」タイプなどがある。フォークリフト専用35Mpaの機種も取りそろえ、市場に合わせた製品展開を進める。国内の約160カ所の水素STでは、タツノ製ディスペンサーが過半数を占めるほど好評を博している。

タツノ製ディスペンサーの大きな特長は、POSを内蔵した非防爆モデルがあるという点だ。国内では限られたスペースに水素STを建設することが多く、POSを内蔵することで省スペース化になるうえ、1カ所で充填と精算ができれば利便性も高まる。

コスト削減の一環として遠隔監視型の無人セルフ水素STで運用する場合にも、このモデルの活用が見込まれる。

もう一つ、タツノ製だけの特長として充填ノズルが自社製という点が挙げられる。ノズルには、より早く安全に水素を充填するために通信を行う赤外線通信受光部(IR受光部)が組み込まれている。IR受光部とノズルの製造元が異なると、IR受光部の故障発生時にはノズルごと取り外し工場に持ち込んで修理を行うため、その間充填ができなくなり、営業に支障を来すことになる。タツノのノズルは自社製のIR受光部を内蔵しており、故障が発生した際に現地での交換が可能。運営者にとっては販売機会の損失が少なくなるメリットがあるわけだ。

POS内蔵の水素ディスペンサーはタツノ製だけだ

サービス面でも安心を提供 FCトラックの登場も視野

タツノは販売後のメンテナンスにも力を注ぐ。ガソリン計量機でも共通するポリシーとして「迅速なメンテナンス」を掲げる。これは国内外共に同様で、特に国内約80カ所のサービス拠点数は業界トップを誇る。水素事業部の小嶋務部長は「できる限りメンテナンスを理由に運営を止めずに済むよう、引き続きアフターサービスに力を注ぐ」と語る。

今後の課題は大量充填への対応だ。業界では、大型トラックに関してはFC化が有望だとされている。EV化ではバッテリーを大量に積む必要があり、荷物の積載量が少なくなってしまうからだ。水素技術開発部の木村潔次長は「FCトラックが登場すれば、大量の水素を短時間に充填することが求められるでしょう。その要望に応えられるディスペンサーの開発を進めたい」と言う。来るFCトラックの時代を見据えている。

【特集2】RE100を目指した燃料電池実証 工場での再エネ活用ロールモデル

【パナソニック】

パナソニックは4月から「RE100」実現に向けて燃料電池を使った実証を開始する。使用する純水素型燃料電池は発電効率の高さなどが各方面から注目を集めている。

国内外のさまざまな企業がRE100への取り組みを加速させている。この流れを受け、パナソニックは今年4月から、自社工場で使用する電気を再生可能エネルギー100%にするべく、純水素型燃料電池を用いた実証を開始する。

同社草津工場(滋賀県)に隣接する土地に、5kWの純水素型燃料電池100台分(500kW)と太陽光発電(約570kW)、余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池(約1100kW時)、燃料電池向けに液体水素タンク(7万8000?)を設置。草津工場内にある燃料電池工場の製造部門の全使用電力をこれらの設備で賄いながら、各設備を連携して最適な電力需給運用を行うための検証を実施する計画だ。

草津工場の隣接地に燃料電池などを置く

燃料電池はベースロードで運転する計画で、事前のシミュレーションでは燃料電池が8割、太陽光が2割を賄うことになりそうだ。太陽光発電は天候によって発電量が変化するため、晴天時は太陽光からの発電を優先して消費し、曇天時は蓄電池から電力を供給して夜間に燃料電池の運転量を増やして充電した上で昼間活用する。

発電効率は56% 連結して需要規模に対応

燃料電池は昨年10月に発売した「H2 KIBOU」を使用する。基幹部品となる燃料電池スタックは家庭用燃料電池コージェネ「エネファーム」と共用化しており、安定した発電性能を有する。発電出力は5kW。モノジェネでの発電効率は業界最高の56%、熱を利用したコージェネでのエネルギー効率は95%に達する。さらに今回の実証のように、複数台を連結制御することが可能だ。

H2 KIBOU

「需要規模に応じて発電出力を調整できるのが大きな特長です。さまざまな用途のお客さまにご提案できると考えています。50年脱炭素化の盛り上がりによって、昨年から純水素型燃料電池の導入に関心を示す企業が増えています」。スマートエネルギーシステム事業部水素事業推進室の河村典彦課長はこう話す。

パナソニックでは、今回の実証を工場のRE100実現に向けたロールモデルとして、国内外に広くアピールしていく。さらに、グループ全体でRE100を推進しており、工場などへの採用に積極的に取り組む構えだ。

【特集2】業界標準の水素検知警報装置 FCVや工場向けなどで普及進む

【新コスモス電機】

水素ステーションや工場などありとあらゆる場所で使われる水素向けガス検知器。新コスモス電機の製品は業界の定番としての地位を獲得している。

水素エネルギーの本格普及に向け、燃料電池車(FCV)の販売、水素ステーションの整備、サプライチェーン構築のための実証などが進んでいる。そうした水素関連製品や設備の運用に欠かせないのが水素の漏れなどを調べる検知器や警報器だ。

新コスモス電機は約40年前から水素向けセンサーの研究開発に取り組み、多くの製品を販売する。現在では、全国で設置が進む水素ステーションの約8割に同社のガス検知警報装置が設置され、デファクト製品として普及している。

FCV向けでは2020年12月に発売されたトヨタ自動車の第2世代「MIRAI」に同社の水素ディテクターが採用され、FCVの燃料電池上部に1個、水素タンクに2個、合計3個を搭載している。FCVでは、とてもシビアな要求がある。具体的には、ガス漏れを素早く検知する性能を備えつつ、振動や自動車部品から出る特定成分による影響対策、過酷環境への耐久性、車の利用期間に相当する寿命確保などだ。加えて、前モデルからのコストダウンの要求もある。そうした課題を乗り越えるために開発したのがディテクターの核となる接触燃料式センサーだ。インダストリ営業本部の岩見知明執行役員はこう話す。

「水素検知に求められる応答速度に対応するには、センサー自体を小型化する必要があります。そこで従来よりも細い貴金属線コイルを巻く技術を開発しました。他社にはできない独自技術と自負しています。家庭用ガス警報器生産で培った量産化技術も水素センサーの製品づくりに生きています」

㊧水素ディテクター ㊨水素向けガス検知器

トヨタ自動車は、製造現場でも水素を活用している。元町工場(愛知県豊田市)では、脱炭素化の実現に向けて、FCフォークリフトを稼働しているほか、乾燥炉などの生産工程の燃料にも水素を利用している。そうした設備の運用や点検にも検知器をはじめとした新コスモス電機の製品が多く利用されているという。今後、水素供給網の構築や水素発電など、さまざまな実証が始まる。そうした現場での採用にも注力していく構えだ。

アンモニアにも注目 新センサーを開発

次世代エネルギーでは、アンモニアに注目している。石炭火力発電ではアンモニアを混焼することでCO2排出量を減らす実証をJERAが中心となり進めている。「10年以上前からアンモニアセンサーの改良に取り組んできて、安定した性能を確保したセンサーが完成しました。ようやく花を開きそうです」と岩見執行役員。水素に加え、アンモニアでも新コスモス電機の製品が普及しそうだ。

【特集2】290万件の電力ユーザー獲得 再エネ商材で環境メリットを訴求

インタビュー:岸澤 剛/東京ガスリビング営業計画部長

新電力事業者として国内最大規模の顧客を獲得した東京ガス。販売店組織が有する技術力・顧客対応力が大きな強みだ。

―2016年に電力、17年に都市ガスの小売り事業が全面自由化されました。6年近く経過しましたが、現在、東京ガスが獲得した電力の顧客件数と流出した都市ガスの顧客件数は。

岸澤 電力については、昨年末時点で約290万件のお客さまにご契約をいただいています。都市ガスの流失件数については、電力に比べれば少ない件数にとどまっています。

―意識するライバル企業はありますか。

岸澤 特にガス事業で着実に件数を伸ばしている大手エネルギー事業者ですね。加えて、エネルギー事業者にはない、お客さまとの接点を有している事業者の動向も注視しています。

販売店組織の存在大きい 接点機会通じて信頼を得る

―現状の評価と取り組んでいる内容について教えてください。

岸澤 電力の拡大に関しては、当社の販売店ネットワークであるライフバル・エネスタ(37法人)の存在が大きく、厳しい環境の中でも着実に進めることができたと思っています。

 ガス機器の販売やメンテナンスの際にお客さまと対面で接点を持つライフバル・エネスタの存在は東京ガスならではの特徴です。そうした接点機会を通じて、電気とガスをセットにした割安なメニューを提案しています。お客さまに対して丁寧な説明が可能で、信頼感を得やすい環境であると感じています。

―ライフバル・エネスタが扱う商材は年々変わってきているのでしょうか。

岸澤 もちろん今でもガス機器が中心であることは変わりませんが、昨今では、住設機器や電気エアコンなどの販売・修理も行っています。サービス分野では「東京ガスの修理サービス」で 、水回り分野の修理にも本格参入していきます。今後は脱炭素関係の商材も広げていきたいと考えています。

初期費用ゼロ円で再エネ エネファームでVPP利用

―脱炭素の商材として期待されている太陽光パネルについてはどうですか。

岸澤 初期費用ゼロ円で導入し、サービス料金をいただく新たなサービスモデルを進めています。新築を中心に今後拡大が期待できるサービスで、「ずっともソーラー」という名称で、さまざまなビルダーさまに採用され始めているところです。

―取り組んでいる内容が多様化されているライフバル・エネスタでは、業務が煩雑になっていると思います。現場では新しい商材を扱うことに抵抗感はないのでしょうか。

岸澤 時代の流れを受けて、事業領域を広げていきたいと思う経営者は多いです。ライフバル・エネスタがガス機器のエキスパートとしてこれまで培ってきた技術力と、地域に密着してお客さまに寄り添った対応力を生かして、取扱商材やさまざまなお困り事解決のサービスを、今後も拡大していきたいと考えています。

―従来から手掛けてきたエネファームの売り方に変化はありますか。

岸澤 現状では売り方に大きな変化はありませんが、今トライアルで取り組んでいることがあります。エネファームをご購入いただく際、VPP(仮想発電所)へ参画の承諾を得たお客さまに、エネルギー需給管理の全体最適にご協力いただいています。エネファームの出力を遠隔から制御することがありますが、インセンティブを設けてお客さまのメリットにつながればと考えています。

―デジタルの取り組みについて何かありますか。

岸澤 スマホやパソコンを使って完結するような購買スタイルへと変わってきています。その年齢層は若い世代だけでなく、40代から50代、さらにその上の世代にも広がってきています。そういった幅広い年齢層に対して、デジタル技術を使ってどうやってリアルな接点に結び付けられるかがポイントです。

 その基盤となるのが、弊社アプリを活用した会員サイト「my TOKYO GAS」だと考えています。200万件以上の会員の方にご利用いただいていますが、このアプリを使うことで、ご自身のエネルギー利用状況や請求代金をグラフで分かりやすく、ひと目で確認できます。

 また、引っ越しの際のエネルギー関連の手続きでは、入力の手間を省いて便利に手続きができます。今後、さまざまなサービスの手続きをこのアプリで完結できるように取り組んでいきたいと考えています。

 さらに、電気料金に応じて貯まる当社独自のポイントサービスも設けています。他社のポイントと等価交換できるほか、ガス機器まわりや生活まわりの商材を扱っている当社のウェブショップでの利用も可能です。

先進国・英国企業と連携 子会社通じデジタルを加速

―東京ガスは、昨年に英国企業とTGオクトパスエナジーを立ち上げました。

岸澤 われわれのリビングサービス本部の所管ではありませんが、昨年に英国企業との合弁によって立ち上げて、電力小売り事業者として、今後取り組んでいきます。お客さまへのアプローチやマーケティング手法など東京ガスとは異なるやり方で、デジタルを活用した取り組みを全国で深掘りしていきます。

 英国は、日本に比べてエネルギーの自由化が10年以上早かったこともあり、競争環境が進んでいます。そうした中、オクトパスエナジーは、独自に開発したITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、コストや時間をかけずに、世の中のニーズに合った新しい料金メニューをどんどん作ることで、存在感を発揮しています。「柔軟なシステム設計」という面では、参考にするべき点が多々あると思います。

非化石証書を組み合わせた再エネプランを始めた

―料金メニューとして再エネ電気への取り組みはどうでしょうか。

岸澤 昨年から東京ガスが販売する電気に非化石証書を組み合わせた「さすてな電気」を扱い始めました。一般家庭のお客さまを主眼に置いたメニューでして、環境に関心の高い方を中心にお申し込みをいただいています。また、今後は事業者向けにも販売を展開し、お客さまと一緒に脱炭素社会の実現を目指していければと考えています。

きしざわ・ごう 1998年慶応大学大学院理工学研究科修了、東京ガス入社。20
12年原料部LNG契約グループマネージャー、19年総合企画部経営計画グループマネージャーを経て21年から現職。

【特集2】実質再エネ100%プランを開始 機器連携で「スマートシティ化」へ

インタビュー:吉田恵一/日本瓦斯専務執行役員エネルギー事業本部長

LPガス、都市ガス、電気の顧客数を着実に伸ばしているニチガス。脱炭素時代への対応を図りながら、将来のスマートシティ構想を描く。

―ガス・電気の家庭向け事業を展開していく上で、どのようなビジョンを描いていますか。

吉田 潜熱回収型ガス給湯器と電気式ヒートポンプを組み合わせたハイブリッド型給湯器、および電気自動車(EV)を柱にした営業展開を考えています。

―ハイブリッド給湯器は、ガス業界が販売を控えてしまうような商材です。

吉田 はい。ハイブリッド給湯器は環境性能の高さや停電時にも車の電源で起動できるなど魅力的な商品ですが、普及が進めばガスの消費量が下がるというガス会社的にとっては導入をちゅうちょしてしまうデメリットがあることは事実です。

 とはいえ、過去に電力会社が省エネ機器を普及させ、ガス会社がエコジョーズを普及させてきたように、高効率で環境性能の高い商品、便利で快適な暮らしを提供することで多くのユーザーを獲得し、利益を拡大していきたいと考えています。

EV式家庭用蓄電池への期待 再エネプランとのシナジー

―EVについてはどうですか。

吉田 脱炭素化の波やガソリン高騰の影響もあり、EVを選択するユーザーは増加しています。走行距離が従来の自動車と比べて短いという課題はありますが、日中や夜間に自宅に駐車しておけば充電が可能で、かつガソリンスタンドに行く必要もありません。充電も夜間の運転しない時間帯に行えるなど、平均的な暮らしのパターンとマッチする点が挙げられます。

 EVは短期的に見れば「環境に優しいモビリティ」ですが、家庭需要を増やす画期的な商材です。中長期的には「家庭用の大型蓄電池」にもなり、これを太陽光発電と組み合わせれば災害に強い分散型エネルギー電源になれるメリットがあります。

―2月から、ガスと実質再生可能エネルギー100%の電気をセットにした料金プランを始めます。

吉田 これまでも市場に電気の再エネ料金プランはありましたが、通常の電気料金プランよりも値段が高いケースもあり、実際に採用に踏み切るユーザーは少数でした。しかし最近ではEV購入補助金の中に「実質再生可能エネルギー100%」の料金プランを導入していることが条件のものもあって、補助金という目に見えるメリットを背景に、EVユーザーの間で再エネプランの採用件数が増えています。

 こうした需要を背景に、再エネ価値を安価に提供し、さらにEVをお得に使えることをコンセプトにした新料金プランを2月から開始します。

昼夜間の値差幅を縮小 新プランで安価に環境価値

―新料金プランとはどのような内容ですか。

吉田 当社にはガスと電気料金をセットにした「でガ割」という商材があります。新プランは「でガ割」を軸に、環境価値を上乗せし、かつ安価に抑えられるよう設定しています。

 また通常、夜間の料金を安くした電気料金は夜間が安い分、日中は高めに設定されていますが、今回の新しいプランでは、夜間を割安料金としつつ、日中と夜間の価格差が大きくならないよう設定しています。

 例えば日中に太陽光の電気を自家消費しているお客さまの場合、日中に天候不順で発電量が少なくなっても、この新メニューでは系統から購入する電気料金が割高でないため、負担が大きくなることはありません。

 環境面に配慮した実質再エネ100%の料金プランを安価に利用できる点に加え、特にEVユーザーは夜間の安い電気料金の時間帯に充電することでお得にEVを活用できるのが最大の特長となっています。

―EVや太陽光ユーザーを巻き込んで、家庭内のエネルギーマネジメントシステムの構築を目指しているようです。

吉田 まず考えているアイテムが、家電を遠隔制御するスマートリモコンです。ハイブリッド給湯器やEV、太陽光、蓄電池など各種機器と連携できれば、最適なエネルギー利用を自動制御できるスマートホーム化が実現します。

 また当社には料金の確認などを行える「マイニチガス」というアプリがあります。これらを組み合わせることで、アプリ上でDR(デマンドレスポンス)やVPP(仮想発電所)を行えるようになるかもしれません。

 既に市場では家庭向けに蓄電池や太陽光を無償設置するPPA(電力販売契約)サービスが出始めており、これからエネルギー会社はガス・電気供給だけでなく、家庭向けでも分散型エネルギー設備を取り扱う機会が増えていきます。

 そこで、こうした設備と当社のブロックチェーン技術を活用すれば、需要家同士が電力を取引するPtoPも可能です。さらに自社事業所を災害対策拠点の機能を持つよう整備することで、地域と一体になった「ニチガス版スマートシティ」も構築できます。

 当社は22年4月からスタートする配電事業ライセンスの取得も検討しています。こうした取り組みを進めることでエネルギー利用の高効率化、系統の安定化、CO2フリープランによるグリーン化を目指し、エネルギーソリューションサービスをパッケージ化し、地域社会の多様化する社会課題の解決を果たしてまいります。

プラットフォームの一翼を担うスペース蛍

プラットフォームの共有化 ラストワンマイルへの供給

―今後の意気込みを。

吉田 これからは家電機器の性能向上でユーザー1件当たりのガス・電気使用量は減少し、環境面を配慮して化石燃料の消費量を低減していかなければなりません。そうした環境下でもラストワンマイルへの安定供給を継続し、高効率な設備を提供してクリーンかつ便利な暮らしを実現することで、多くの消費者に選んでもらえる企業になれるよう成長を続けます。

 また当社には、世界最大規模のLPガス容器のハブ充填基地である「夢の絆・川崎」、ガスメーターに取り付けてガス使用量および容器のガス残量をリアルタイムで把握する自動検針ツール「スペース蛍」といった、低炭素化に貢献する、高効率なプラットフォームがあります。

 これを全国の事業者と共有することで、不毛なエネルギー事業者間の消耗戦ではなく、システムやサービス面における価値を高め合う「共創」の輪を広げたいと考えています。

よしだ・けいいち 東京電力を経て2020年に入社。東京電力では、送配電・用地取得・経営企画・労務人事・広報などの業務に従事。

【特集2】常識を超えた新サービスが誕生 技術と知恵で変化に挑む

電力・ガスの小売り業界で、従来の常識を超えたサービスが誕生している。背景にあるのはエネルギー利用形態の多様化。各社は技術と知恵で勝負を掛ける。

電力・ガスが全面自由化されて数年が経過した日本。今では、脱炭素、デジタル化といったキーワードに加えて、エネルギー利用の多様化といった側面が業界の現場では現れ始めている。

補助金でEVを後押し クリーン商材へのニーズ

まず、政府が力を入れているのが、電気自動車(EV)だ。走行時にCO2を排出しない、長期停電時に蓄電池としても利用できるといったメリットがあることから、補助制度を設けながら普及拡大に向け政策を総動員している。EV購入補助金には、EVをクリーンに運用してもらうべく実質再生可能エネルギー100%の電気料金プランへの加入が条件のものもある。環境意識の高まりやEV普及を機に、再エネ電力プランを提供する事業者が増加している。

さらにメーカーは電気とガスを組み合わせたハイブリッド給湯器のような高いエネルギー効率と環境性能を両立した商材を次々と開発し、省エネに定評のあるエコキュートやエネファームの改良も進んでいる。事業者が消費者に選ばれるためには、電気・ガスの安定供給にとどまらず、生活を豊かにするクリーンで便利な商材・サービスを提供することも重要な要素となっている。

同時に「デジタル化」に対応したサービスも注目される。料金決済を自社アプリやウェブで行えるシステムを導入するのも一つのデジタル化と言えるが、もう一歩進んだ事例がある。ユーザーに携帯のアプリでDR(デマンドレスポンス)を指令し、達成するとクーポンを取得できるサービスだ。

さらに需要家の家庭用太陽光発電やエネファーム、蓄電池、EVなどを使って電力需給に合わせて調整する実証を行う事業者の中には、アプリで各種機器を遠隔制御し、DRやVPP(仮想発電所)を行うスマートシティ化を目指すところもある。こうした高度なサービスが市場を席巻する日も遠くなさそうだ。

変化するライフ&ビジネス 業界の垣根越えた連携

また世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、在宅時間の増加や、密を避けられるアウトドア人気の加速など、生活様式を変化させた。各社は家庭内調理器具やアウトドア製品などを進化させている。さらに機器開発の手法も変化し、事業者がクラウドファンディングを使って製品を開発するなど、新しいスタイルのビジネスも始まっている。

2021年1月に住環境研究所が発表した20~50代の既婚男女を対象に行った「ニューノーマルの時代の住まい方に対する意識調査」では、20・30代の若い世代の「技術的最先端の暮らし」への関心が高く(20代43%・30代39%)、「エコな暮らし」は20代が50%、全世代平均で46%が関心を寄せているそうだ。多様化するニーズに応えるには、同業種・異業種問わず連携して、挑戦と進化を続けることが求められる。