【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。

【特集2】強みが生きるCCS・CCUS 脱炭素の切り札に技術開発進める


【石油資源開発(JAPEX)】

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、石油資源開発(JAPEX)は「JAPEX2050」を策定し50年までに温室効果ガスネット排出量ゼロを目指す。 具体的には、同社のE&P(探査・生産)事業の知見が生きるCCS(CO2回収・貯留)/CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)による実質排出量の削減を主軸にすすめていき、同分野のトップランナーとして早期実現に向けて注力していく方針だ。


苫小牧と東新潟で調査を受託 生産した油ガス田を活用へ


その代表的な取り組みが、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の23年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の受託だ。JAPEXは苫小牧と東新潟エリアを請け負う。北海道・苫小牧エリアは出光興産と北海道電力、東新潟エリアは三菱ガス化学と東北電力、北越コーポレーション、野村総合研究所をパートナーとしてCCSの実現性調査を実施する。野村総合研究所を除くいずれの企業もCO2を排出源となる発電所や製油所、プラントや工場を持つ企業。しかも、貯留地として有望視されるJAPEXの油ガス田周辺に製造拠点があるため、CO2輸送にコストが掛からないのが大きな特長だ。

貯留地として有望視される東新潟ガス田


「油ガス田は生産した原油や天然ガスの貯留実績がある。CO2を圧入後も長期にわたって変化しない安心感がある。ただ、目標とする30年時点で貯留量年間約150万tに対し、規模が適しているかどうかは調査で見極めていきたい」。環境事業推進部・新規事業推進部担当の池野友徳常務執行役員はこう話す。
なお、苫小牧エリアは勇払油ガス田と、海域の新規貯留地の二つ候補地があり、年度内に決定する方針だ。
国のロードマップを見ても、水素やアンモニアなどの次世代燃料が台頭していく一方で、熱源として天然ガスの利用は続くとみている。その中でCO2の処分方法としてCCS・CCUSは必要であると示している。池野常務は「当社のスタンスも同様だ。長期にわたってこの取り組みを続けていく」と強調する。脱炭素の切り札にするべくCCS・CCUSの技術開発に注力していく構えだ。

【特集2】自家消費率の最大化を目指した実証 日本企業の蓄電池やHP技術を活用


【NEDO】

環境先進国であるドイツで、再エネの自家消費率を高める実証が行われた。再エネ導入を促進し、新たなビジネスモデルの可能性を探る試みだ。

太陽光パネルと蓄電池を、給湯暖房のエア・トゥ・ウォーター(ATW)式のヒートポンプ(HP)と組み合わせ、住宅での再生可能エネルギーの自家消費率最大化を図る実証が、2015~17年度にドイツで行われた。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「スマートコミュニティ海外実証プロジェクト」の一つで、日本企業も参加している。

戸建てと集合住宅で検証 新ビジネスの可能性を示す

実証の舞台は古都シュパイヤー市だ。同市のエネルギー公社Stadtwerke Speyer(SWS)社と住宅公社GEWO社の協力の下、NTTドコモ、NTTファシリティーズ、旧日立化成、日立情報通信エンジニアリングからなるコンソーシアム主体で行われた。

実施に当たり、ドイツ側が実証サイトの選定や住民への対応、太陽光パネルの設置など、日本側がシステム運用・開発、設備導入、効果分析などを担当。スマートコミュニティ・エネルギーシステム部の櫻井愛子統括主幹は「住民がいる住宅で行ったため、シミュレーションとは異なり、実際の使用環境で検証できた」と話す。

戸建てを想定した世帯単位のモデルをタイプA、集合住宅を想定した棟単位のモデルをタイプBとした。再エネ機器をエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御することは、当時のドイツでは新しい技術だったという。

上がタイプA、下がタイプBのモデルイメージ図

実証の狙いは住宅への再エネ導入を促し、SWS社やGEWO社に新たなビジネスモデルを示すことにあった。結果としてタイプAでは約40%、タイプBでは約34%改善し、CO2の削減にもつながった。ビジネスモデルとしては両タイプとも、SWS社が設備を所有し需要家宅へ設置することを想定。利益確保と投資費用の回収が見込まれるとの結論に至った。

5年以上経った今でも、再エネの地産地消には拡大の余地がある。そのカギとなるのは、太陽光発電とHPの組み合わせかもしれない。

【特集2】大災害の教訓を対策に反映 業界を越え協同で備える


近年、地震や台風をはじめとする災害が激甚化している。関東大震災から100年を数える今、エネルギー業界の災害対策を追った。

防災の日の由来となった関東大震災から100年の節目を迎えた今、エネルギー業界ではさまざまな災害対策が進められている。東京ガスは7月、関東大震災と同様の台風と地震、地震による火災と津波を想定した「複合災害」の訓練を行った。同社が複合災害の訓練を行うのは今回が初めてだ。グループ全体と協力企業を含め約2万人が参加。さらに東京ガスネットワークと協定を結んでいる警視庁との連携も確認した。

東京ガスの訓練の様子

関東大震災の死者約10万5000人のうち、火災の死者は約9万2000人に上る。こうした犠牲者を減らすべく、新コスモス電機は一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO (プラシオ)」の普及拡大を目指す。兵庫県三木市に「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開設し、火災と一酸化炭素の危険性、火災警報器の重要性の周知に努める。

業界の垣根を越えた連携にも注目だ。関西電力送配電は、自衛隊とは被災地へ駆けつける訓練、NTTグループとはNTTの電柱に電線をはり電力を復旧する応急送電訓練を行うほか、阪神高速道路とは災害時の停電・交通情報の共有やサービスエリアを復旧拠点として利用する協定を結んでいる。自治体とも協定を締結しており、今後は拡大していきたい考えだ。

自治体との協力が奏功 BCP対策機器の導入も

エネルギー事業者と自治体による街づくりが防災に奏功した事例がある。北海道ガスが手掛けた複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターと、札幌都心部の熱供給ネットワークだ。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、停電を免れ、エネルギー供給を継続できた。また、石油業界と「ランニングストック」と呼ばれる対策を進めているのは、東京都だ。都内150以上のガソリンスタンドと連携し、一定量のガソリンや軽油を確保している。都が平時からこれらの燃料の消費を担保し、有事に品不足を回避。そして、非常時には緊急車両などに優先的に供給を行う仕組みだ。

激甚災害が頻発する中で、BCP(事業継続計画)対策機器への関心も高まっている。ガソリン計量機メーカーのタツノでは、緊急用バッテリー可搬式計量機や給油所向けの緊急用発電機などを提供。災害で停電が発生したり、地下タンクへの配管などに被害が出たりしても、営業の継続が可能だ。

こうしてエネルギー事業者や自治体、メーカーなどが持てる技術や知見を集結させ、来る激甚災害に備えている。

【特集2】CO検知で火災通報をより早く 安全向上に警報器買い替えを促進


【新コスモス電機】

新コスモス電機の一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」が発売から半年で2万台を突破するなど好調だ。同製品は100ppmの一酸化炭素(CO)を検知すると、音声で注意報を発するとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げ、煙センサーのみの火災警報器より早く発報するなどの特長を持つ。

一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO」


火災実験ラボ開設 多くの来場者で好評

2011年に全ての住宅に火災警報器の設置が義務化され、今年6月時点での設置率は84・3%に達する。設置の普及により、住宅火災による年間死者数は900人と減少したが近年は横ばい状態だ。令和4年版の消防白書によると、建物火災による死因のうち、CO中毒・窒息が4割を占めている。COは血液中のヘモグロビンと結び付きやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭。1分1秒でも早くCOの存在に気付くことが生死を分けることになる。「火災原因のトップはタバコの火の不始末による寝具への着火。布団は不完全燃焼を起こしやすく、炎はほとんど出ない。CO検知での注意喚起が有効」とリビング営業本部開発営業部の大和功部長は説明する。
新コスモス電機は5月に火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。COの危険性と合わせて、プラシオの有効性を伝えるための施設となっている。ラボ内では、寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団に火をつけ、煙式のみの火災警報器よりCOを検知するプラシオの方が早く警報する様子や、天ぷら油を熱して熱感知式より煙感知式の警報機の方が早く発報する様子など、火災と警報器の様子などが体験できる。

連日盛況のプラシオラボ


「開設して数カ月経つ。ガス業界や消防関係などを中心に多くの方に来場していただいている。10月までほぼ毎日予約で埋まっている」(大和部長)と盛況だ。
同社では小中学生を対象に「COとはどのようなガスなのか」といった内容を分かりやすく説明する教育プログラムも実施する予定。さらに、アミューズメント感覚で消費者が火災や警報器について理解できる内容なども目指す方針だ。
警報器は電池駆動で、寿命は約10年程度。前述の火災警報器の義務化の時期に設置した製品がちょうどリプレース時期に当たる。警報器が作動しないと、火災が増える可能性がある。同社では、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、電子商取引(EC)サイトや全国の家電量販店、ホームセンターに拡大するなど、販売活動に力を入れ、リプレースを促していく構えだ。

【特集2】熱供給ネットワーク整備が奏功 ブラックアウトで効力発揮


【北海道ガス】

日頃から確かな提案力で、大災害に備えてきた北海道ガスと北海道熱供給公社。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターや、札幌市のまちづくり計画に合わせて整備を進めてきた札幌都心部の熱供給ネットワークの整備が功を奏し、エネルギー供給を継続した。

「コージェネを核としたエネルギーセンターを整備し、熱供給ネットワークを通じてエネルギーを供給するというスキームが結実した」と話すのは、北海道熱供給公社営業部営業グループの末廣隆志氏。胆振東部地震では、創世エネルギーセンターを円滑に稼働でき、そのレジリエンスの高さを示す実績となった。

さっぽろ創世スクエア内のコージェネ

また胆振東部地震では、両社から防災に関する提案を受け設備を設置していたユーザーからうれしい反響も。停電時でも空調の自立運転が可能で、一部の電気が使える電源自立型ガスヒートポンプエアコン(GHP)を導入していたユーザーからは、空調を復帰させることができ、真冬の被災でも安心だとの声が寄せられたのだ。

道内の防災意識依然高い 自立型GHP導入進む

大規模地震の被災経験から、道内では防災に対する関心が高まっている。自治体による具体的な事例の一つに、札幌駅前の地下歩行空間への非常用発電機導入がある。胆振東部地震の際に、地下歩行空間を帰宅難民などの避難施設として使用した。一時的な停電に見舞われたものの、早期に復旧。この反省を踏まえ、強靭性向上のため、札幌市や北海道開発局などが非常用発電機を導入。同様の事態に備え、設備を整えている。

「胆振東部地震による被災から5年が経ち、ブラックアウトを経験したみなさんのレジリエンスへの意識は、当時よりは薄れてきているが、依然として高い」と、北海道ガス第一営業部都市エネルギーグループの伊藤智徳マネージャーは話す。

被災直後は電源自立型GHPや都市ガス仕様のコージェネ・発電機の引き合いが増加。通常のGHPから設計変更したホテルもあった。ほかにも、道内チェーン店舗を展開する企業では、本社社屋に自立型GHPと都市ガス仕様の発電機、札幌市内の旗艦店には自立型GHPを導入した。社員と地域住民のレジリエンスに貢献したい考えだという。

近年の環境性への関心の高まりから、法令で設置が義務付けられている主に重油・軽油仕様の非常用発電機に加えて、都市ガス仕様の発電機の導入を検討する需要家もいる。またガスシステムの導入で、省エネ性・強じん性・環境性を並立できるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)をアピールしており、導入事例が増えている。

「防災設備は災害が起きなければ必要ないものになり得る。被災から時間が経った後にどう訴求していくかが重要。料金メニューやサービスを組み合わせて提案を行っている。最近は脱炭素が注目されているが、レジリエンスも国や自治体に理解していただけるよう、啓蒙していく」と、伊藤氏は意気込みを語った。

【特集2】大地震からのガス復旧に貢献 重要施設向け製品が好調


【I・T・O】

ガス供給機器メーカーのI・T・Oが35年にわたり注力するのが移動式ガス発生装置だ。1995年の阪神・淡路大震災、2004年、07年の新潟中越地震と中越沖地震、甚大な被害をもたらした東日本大震災、記憶に新しい16年の熊本地震や18年の大阪北部地震―。いずれの地震においても都市ガス事業者は同装置を携えて被災地で復旧作業を行った。
移動式ガス発生装置の誕生は、90年までさかのぼる。当時、旧通産省では都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画を進めており、日本ガス協会のワーキンググループで13Aに統一するための熱量変換工事用設備として移動式ガス発生装置を取り上げた。しかし︑当時のガス事業法では使用が認められておらず、阪神・淡路大震災の際︑避難所で都市ガスが使えず各方面から指摘された︒﹁移動式を活用できないか﹂との要望で急きょ制度が見直され、同年中に製品化にこぎ着けた。


簡単に操作できる装置 病院など重要施設向けに販売

被災現場では一刻も早い復旧が求められている。特に避難所となる学校や、病院や福祉施設などはエネルギーが不可欠だ。そこで、同社はだれでも簡単にタッチパネルで操作して供給できる液化石油ガスエアー(プロパンエアー)発生装置「New PA」を開発した。現在は、同装置を組み込んだ都市ガスと電気を製造する防災減災システム「BOGETS」として販売している。これはNew PAと、都市ガスとプロパンエアーを切り替えるワンウェイロックバルブ、耐震LPガス容器スタンド、ガス成分とガス臭を吸着するパージユニットなどで構成される。
「医療機関は既設の発電機が医療設備の稼働に利用できると思っているが、実際はスプリンクラーなど消火設備向けなので利用できない。小中学校では体育館の空調設置がこれから進む。そうした施設に向けてガス発電機と合わせてさらに拡販していきたい」と営業本部長の高野克己氏は話す。

防災減災システムの核となる「New PA」


今年も台風が甚大な被害をもたらしている。全国各地の自治体がBOGETSに関心を寄せているという。災害に欠かせない存在として、さらに普及していきそうだ。

【特集2】革新技術で高効率・低コスト化 自社実証・海外検討と並行


【東京ガス】

ガスのカーボンニュートラル(CN)化技術であるメタネーションの開発が加速している。東京ガスは①国内小規模実証、②国内地産地消、③海外大規模製造・サプライチェーン構築―の取り組みにより、2030年のe-メタン1%導入を目指す。

①では横浜テクノステーションなどでの自社実証が進行中だ。22年3月にスタートした実証は順調。製造能力は12・5N㎥/時で、純度97%以上のe-メタンを製造する。現在は、再生可能エネルギーの変動を考慮した負荷変動特性評価などの試験が行われている。今年度中を目途にITM社製の水電解装置の導入を予定しているほか、近隣施設で排出されるCO2を有効活用する準備も進められている。

②では横浜市の清掃工場や下水処理場の排ガスやバイオガス、再生水などを活用する地域実証モデル構築や、富士フイルムとその工場が位置する南足柄市とのものづくりにおけるCNモデルの確立などを検討している。

横浜テクノステーションの実証は順調に進む

進む海外での事業性検討 適切なルールの確立も

③では海外サプライチェーンの構築も進む。メタネーションは、液化・出荷基地やLNG船、受け入れ基地など既存の都市ガスインフラを利用できるというメリットを持つ。設備の新設が必要な液化水素やアンモニアと比べて、コスト面において優位といった試算もある。ゆえに、水電解に使用する再エネ由来の電力が安価な海外でe-メタンを製造し、日本へ輸送する方法が検討されている。

候補地としては北米や豪州、マレーシアなどが挙げられ、グローバル企業や総合商社と事業性検討を行っている。中でも、先行しているのは、三菱商事と東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの4社で取り組む米国でのプロジェクトだ。具体的には、テキサス州・ルイジアナ州でのe-メタン製造、キャメロンLNG基地などの既存サプライチェーンを活用した液化・輸送などに取り組む。このプロジェクトでは、都市ガス3社合計で年間1億8000万N㎥、そのうち東京ガスは年間8000万N㎥のe-メタンを調達する予定となっている。

海外で製造したe-メタンを日本で使用する場合、いくつかの課題がある。その一つが「CNの価値」を誰が有するのかという点だ。e-メタンはCO2を回収してつくられるため、トータルではCO2排出実質ゼロとなる。国境を越える場合には、e-メタン燃焼時の排出をカウントしないなどの二国間のルールづくりが必要だ。また、流通などの過程でe-メタンの環境価値を適切に管理できる証書制度や価値取引の仕組みなども求められる。加えて、現状e-メタンはLNGよりも高価なため、社会実装には水素・アンモニアと同等の価格差に対する支援も必要となる。

「いずれも当社だけでは解決できない課題なので、国や業界を巻き込んで仕組みや制度を確立できるよう働きかけている」と、水素・カーボンマネジメント技術戦略部革新的メタネーション技術開発グループの小笠原慶マネージャーは話す。

革新的技術で効率向上 既存技術の課題をクリア

三つの取り組みと並行して、革新技術のハイブリッドサバティエとPEM(固体高分子膜)CO2還元の技術も開発中だ。既存技術のサバティエ方式は古くから知られているが、装置コストの低減や合成効率の向上、大規模化に向けたシステムの大型化、熱マネジメントといった課題もある。こうした課題をクリアするのが、二つの革新的メタネーション技術だ。

ハイブリッドサバティエのデバイス
PEMCO2還元のセル

ハイブリッドサバティエは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、PEMCO2還元は大阪大学と連携して開発を進めている。ハイブリッドサバティエは、もともとJAXAが宇宙船の中で空気を再生するために開発を始めた技術だという。これを地上でのメタン製造に応用。低温でのサバティエ反応と、そこで発生する熱を水電解へ利用する。既存技術のサバティエ方式では約500℃の大きな発熱を伴うのに対し、ハイブリッドサバティエでは水電解で80℃、サバティエ反応で220℃ほど。熱の活用により、電気分解に必要な電力の削減を実現する。

また、排熱の水電解への利用によって50%程度だった効率を、将来的には80%以上に引き上げることを目指す。さらに、ハイブリッドサバティエは既存技術の組み合わせで構成されるため、早期の実用化も期待されている。

一方、PEMCO2還元の特長は、一つのデバイスでメタネーションが完結することだ。水電解と類似したセルスタックを開発。一つのセルで水だけでなくCO2も還元する。そのため、シンプルかつコンパクトなシステムとなる上、コスト低減にもつながる。また、電極の条件などを変えることでメタン以外の副生成物の合成が可能。eフューエルなどへの展開も視野に入れ、30年以降の実用化を目指している。

東京ガスが手掛ける革新的メタネーション技術―。その社会実装に期待が高まる。

【特集2】メタネーションの要となる技術 排ガス・大気中からCO2を回収


【東邦ガス】

水素とCO2からメタンを合成するメタネーションのキーテクノロジーとして、東邦ガスが研究開発に注力するのは、原料となるCO2の分離回収技術だ。早期社会実装を目指し、技術の確立やコスト低減といった課題に立ち向かう。

一般的に、CO2の分離回収技術には三つの方式がある。液体に溶け込ませて別の場所で放出させる化学吸収式、多孔体の表面に付着させて回収する物理吸着式、ガスのうちCO2を優先的に通す膜を用いる膜分離式だ。同社は分離回収対象を①需要家先、②LNG基地近傍の発電所など、③大気中―の三つに分類し、特徴に合わせた技術開発を行っている。

①では、工場などの排ガスからCO2を分離回収する。回収量が比較的少ないことや、設備の設置スペースの制限などが課題となる。こうした中小規模の場合、低濃度のCO2に対してもコンパクトに設備導入が可能な物理吸着式や膜分離式が適すると考えている。

物理吸着式や膜分離式でのコスト低減には、吸着剤や分離膜の性能向上が必須となる。東邦ガスは大学やメーカーと協力し、さまざまな素材を模索中だ。実験とシミュレーションで、物理吸着と膜分離の最適な組み合わせや順序なども探究。機器によって量やCO2の濃度が異なる排ガスに、オーダーメイドで対応できるよう、試行錯誤を重ねている。2030年までの社会実装を目指し、22年度から模擬排ガス・実排ガスでの評価を行い、20年代半ばからは需要家先での実証を予定している。

②では、化学吸収式とLNGの未利用冷熱を組み合わせた「Cryo-Capture(クライオキャプチャー)」を開発中だ。同技術はグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択され、CO2回収コストの抜本的な低減(1t当たり2000円台)を目標としている。

クライオキャプチャーは、吸収塔、再生塔、昇華槽で構成される。まず吸収塔下部から排ガスを送入し、上部から散布する吸収液でCO2を分離。CO2が溶け込んだ吸収液は再生塔に送られる。吸収液からCO2を放出させることを「再生」といい、LNG冷熱を活用した減圧により再生する。

再生塔とつながる昇華槽をLNG冷熱で冷やすと、CO2のドライアイス化(昇華)が起こる。昇華により体積が小さくなる原理を利用し、ポンプを使わずに減圧することが可能だ。この減圧再生で、吸収液からCO2が放出されていく。こうして生成されたドライアイスは、復温で高圧ガスや液化炭酸として取り出すこともできる。

クライオキャプチャーのCO2分離回収の仕組み

LNG冷熱を有効活用 少量のエネで分離回収

クライオキャプチャーの特長は、少ないエネルギー投入でCO2回収を実現する点だ。吸収液を再生するとき、通常のボイラーによる加熱再生とは異なり、未利用だったLNG冷熱を有効活用し、燃料は不要。減圧する際にポンプも使用しないため、電力消費もない。

28~30年度のパイロット実証フェーズでは、LNG基地にパイロット機を実際に設置する予定。回収したCO2と水電解で製造した水素を用いたメタネーションなど、一連のカーボンリサイクル実証を行う計画だ。

LNG基地実装イメージ。カーボンリサイクルの実証を行う予定だ

③では、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」において、大気中のCO2直接回収の研究開発を行っている。排ガス中のCO2濃度が約10%であるのに対し、空気中の濃度は400ppm(0・04%)と、排ガスの100分の1以下でとても希薄だ。ゆえに、空気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の技術的難易度は、非常に高い。

DAC技術には、主に化学吸収式や固体吸収式が用いられる。吸収液や吸収材からCO2を放出させるためには高温の熱源が必要であり、エネルギーを大量に投入することになる。東邦ガスが手掛ける「Cryo-DAC(クライオダック)」は、クライオキャプチャーと同じ仕組みのため、少量のエネルギーでCO2を分離回収できる。

ムーンショット型研究開発事業の研究開発期間は、最長10年間。そのうち、22~24年度でベンチスケールの装置を開発し、25~29年度でパイロット機を開発する計画だという。クライオダックはその研究成果を評価され、第一ステージである20~22年度の審査を見事に通過。23~24年度の研究開発継続が決まった。

「CO2の分離回収技術は、脱炭素の要となる技術。回収したCO2を再利用したe―メタンは、CO2排出が実質ゼロとなることに加えて、そのe―メタン利用時に発生するCO2を回収し、固定化や地中に埋めるなどすれば、カーボンネガティブが実現できる可能性もある。e―メタンをはじめとしたカーボンリサイクルの取り組みを進めていきたい」と、技術研究所環境・新エネルギー技術グループの薮下雅崇チーフは語る。

国内外での検討が進行中 地産地消の取り組みも

こうした革新的なCO2分離回収技術の開発と同時に、メタネーション技術の実証や国内外での実案件の事業性検討も着々と進めている。国外では、30年にはe―メタン1%以上の導入を目指して、三菱商事と東邦ガスを含む大手都市ガス3社による北米での事業性検討などに取り組んでいる。国内では、地域のCO2を活用する知多市との実証、アイシン、デンソーとの中部地区におけるCO2地域循環モデル検討などが進む。

知多市との実証では、下水処理場から出るバイオガス由来のCO2を利用する。毎時5㎥ほどの小規模な実証だが、①バイオガス由来のCO2の利用、②都市ガスの原料として利用するのは国内初、③実証段階から水電解による水素にこだわる―というのが特長だ。

アイシン、デンソーとはCO2の地産地消による循環モデルの事業性検討も行う。工業地帯の中部地区では、ものづくりにおけるCO2排出は大きな課題だ。東邦ガスは地域の課題を地域で解決することを探索し、CO2の循環をソリューションとして捉えている。

メタネーションをはじめカーボンリサイクルの要となるCO2の分離回収技術に可能性を見出した東邦ガスの挑戦に、今後も注目だ。

【特集2】合成燃料用試作プラントを建設 サプライチェーンの構築を急ぐ


【ENEOS】

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、ENEOSは次世代エネルギー事業に多角的に参入し、合成燃料の開発において、合成燃料やSAF(再生航空燃料)などにも取り組む。2040年までに、合成燃料はプラント規模として日産1万バレル程度、SAFは国内最大の供給体制を確立しシェア50%獲得を目指している。

5月にトヨタと合成燃料の走行試験を実施した

合成燃料の開発は22年にグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として採択されたことを契機に研究を本格化した。GTL(ガス液化油)技術で培ったFT(触媒反応)合成技術やアップグレーディング技術などを活用し、合成粗油を製造、精製することで目的の液体燃料をつくり分けることができる。

合成燃料は石油由来の製品と同等の性状でありながら、水素とCO2を原料とするため、製品ライフサイクル全体においてCO2排出量を抑えることのできるCN燃料である。

合成燃料の実用化に向けた課題はコストだ。大量の再エネ水素と高濃度のCO2を調達し安価な製造が必須と言われている。経済産業省の試算によると現状の製造コストは1ℓ当たり700円程度で、内訳は水素が634円、CO2が同32円、製造コストが同33円。水素が合成燃料コストの大半を占める。将来、海外の水素価格が政府目標の127円まで下がれば、そのコストは200円程度に下がると予測されている。

早坂和章サステナブル技術研究所長は「製造コストの大半を占める再エネ水素を安価に調達しなければならない。まずは国内でサプライチェーン構築に向けた開発を行う。商用化の製造拠点は決まっていないが、海外での製造も想定している」と説明する。

この目標に向けて、同社では日産1バレルのベンチプラントを24年度上期から運転を開始し、検証を行う。その後、同300バレルのパイロットプラントの運転を通じ、その後できるだけ早い段階での社会実装を目指す。

航空燃料の10%をSAFに 和歌山製油所を製造拠点

SAFでは、政府が国内航空会社や石油元売りに対し、30年までに航空燃料使用量のうち、10%をSAFに置き換えるよう促している。これに対応するため、ENEOSでは、和歌山製油所を活用し製造体制確立に取り組んでいるほか、国内生産開始前の対応として、輸入体制構築を進めている。

SAFの原料調達・製造技術においては、ノウハウと実績を持つ仏エネルギー大手のトタルと協業。将来的に両社は年間30万t(40万㎘)のSAF製造を想定し、製造事業を行う合弁会社を設立予定だ。海外でも、日本への輸出を視野に入れ、豪州Ampol社と製造設備投資に関する初期検討を開始した。

開発や事業化の取り組みが急速に進む合成燃料とSAF。石油元売最大手の取り組みが今後の動向の大きな鍵を握っている。

【特集2】分散型の特性生かす展開 新商材などで評価高まる


LPガス自体の特性や独自のサプライチェーンを生かした新ビジネスが生まれてきた。カーボンニュートラルLPガスや新商材の普及などが注目されている。

2050年カーボンニュートラル(CN)に向けて、LPガス業界でも、さまざまな取り組みが進んでいる。これまで、ガスの普及拡大の取り組みを巡っては、元売りがサプライチェーン全域に関わっていくことで、供給者としての責任を果たしてきた。この手法は現在にも引き継がれ、CNLPガスの利用拡大、燃料転換、省エネ活動などに生かされている。

CNLPガス自治体で採用 元売りと特約店が連携

アストモスエネルギーは、CNLPガス普及のため特設ウェブサイトを開設したり、ウェビナーを開催したりするなど、広報活動を積極展開している。こうした活動と地元特約店の働きかけが功を奏し、昨年9月には山口県周防大島町にCNLPガス供給を開始した。このように、次世代に向けた取り組みにおいても、元売りと販売店、需要家が連携していく手法をとっていく。

LPガスの用途拡大に向けては、新たなアプリケーションの創出が欠かせない。11年の東日本大震災以降は、国からの補助金供出の効果も相まって、病院や特別養護老人ホームなどに災害対応型バルクと発電機、ガスヒートポンプ(GHP)をセットで導入する事例が相いでいる。また、学校や体育館にもバルクや空調を設置する動きも加速しており、防災兼用エネルギーとしてLPガスを選択するケースも出てきている。

質量販売で使われるパラソルヒーター

一般消費者向けでは、近年のアウトドアブームによって、キャンピングカーやバーベーキューコンロ、パラソルヒーターなどが人気でLPガスを利用したいという需要が高まっている。これらの製品は移動して利用するケースが多く、保安業務を担うLPガス販売事業者が30分以内で駆けつけられない事態が想定される。ゆえに、販売事業者は積極的に販売対応してこなかった。

これに対し、経産省は昨年7月、質量販売において法律を見直し、「質量販売緊急時対応講習」を受講すれば、需要家が緊急時に必要な措置を自ら実施できるようにした。これにより、前述のアウドドア製品のような今までになかった需要の創出など、新たな動きが出てくると見られる。利用者に魅力あるエネルギーとして、LPガスが改めて脚光を浴びそうだ。

【特集2】LPガスならではの注目商材 分散型エネの新たな使い道


LPガスの特長といえば、分散型エネルギーで災害に強く、可搬性に優れていること。こうした利点を生かして、ユニークな製品・ビジネスが展開され始めてきた。

【リバティシップ/国産木材でつくる地産地消のサウナルーム】

コロナ禍において顕在化した「一人の時間を充実させたい」というニーズとマッチし、ブームとなっているのがサウナだ。Libertyship(リバティシップ)が手掛けるバレルサウナ「ONE SAUNA(ワンサウナ)」は、国産木材を使用した樽型のサウナルームで、自宅や別荘などに手軽に設置できる。熱源は電気、都市・LPガス、薪の3種類。サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるセルフロウリュも可能だ。LPガスを用いた事例としては、別荘のサブスクリプションを展開するSANU(サヌ)のCabinや、鳥取県の閉校になった小学校を活用した宿泊施設OOE VALLEY STAY(オオエバレーステイ)などがある。豊かな緑に囲まれ汗を流す気分転換に、LPガスが一役買っている。

【ホンダ/LPガス式発電機で非常時やレジャーに対応】

BCPや防災対策の観点から、非常時でも活用できる発電機の重要性が増している。発電機向け燃料として、LPガスは非常に有効だ。かつて家庭用ガスエンジンコージェネ「エコウィル」を開発していた自動車メーカーのホンダは可搬性を有する小型LPガス発電機を販売中。カセットガスやLPガスで稼働するもので、カセットガス式(900VA)は、持ち運びに便利なハンディタイプ(写真左)。場所をとらずにすっきりと収納できる。低温下で気化しにくくなるカセットガスでも、同社独自の技術で広い温度範囲での使用が可能。カセットガスは手軽に入手でき、非常用利用はもちろん、レジャーにも活用できる。写真右は家庭用のLPガス容器からの燃料で発電するタイプだ。

【橋本商会/使いやすさにこだわったキッチンカー】

橋本商会はキッチンカーの製作・販売を展開中。専門の建築士がオペレーションや動線を考慮し使いやすさにこだわったキッチンカーの内装設計を実施する。同社は自動車販売を手掛けており、長年の実績から優良な中古車を選定。コストを抑えつつも理想のキッチンカー製作を実現している。レンタルやリースのほか、出店サポートなども行う。キッチンカーでの調理に関してはLPガスを推薦する。「IHなど電化厨房機器を希望する顧客もいるが、雨天時の運用など安全性などを考えるとLPガスの方が安心だ」(担当者)。キッチンカー販売においては、関西圏なら質量販売を実施する事業者を探し、顧客に紹介するところまでを手掛けるなどフォローも万全だ。

【山岡金属工業/野外でも安全に暖を取れる画期的ストーブ】

創業以来、60余年にわたりさまざまな製品の企画開発、販売を行ってきた山岡金属工業。ヒット商品の一つが、屋外用ストーブ「パラソルヒーター」だ。野外イベントやガーデンテラスなどの屋外スペースに最適で、空間を暖かく演出する。スリムなボディーはステンレス製で、屋外での使用でも高い耐久性と耐食性を確保した。LPガスボンベタイプなら、電気コードやガスホースの制限がなく、設置場所も選ばない。さらに夏には、パラソルヒーターがミストクーラーに早変わりする。水タンクなどを簡単に取り付けでき、ミストを360度噴霧することで機器周辺の温度を下げる。コロナ禍以降、高まっている屋外での飲食需要に伴い、同製品の需要もうなぎ上りだ。

【ジーアイビー/コインランドリーを一時的な避難所に】

ジーアイビーはコインランドリー「ブルースカイランドリー」を展開している。全国234店舗のうち、117店舗が災害対応型ランドリーだ。災害対応型ランドリーでは3日分のLPガスと、発電機やガスコンロ、炊き出しセットなどを常備。スマートフォンの充電なども可能となっている。設置のきっかけは2019年の台風15号だ。千葉県で発生した大規模停電により、洗濯機を使えない多くの住民が訪れた出来事をもとに誕生したという。現在、全国20市町村17自治体と災害協定を締結し、7回の防災訓練を実施。内閣官房が発行する『国土強靭化民間の取組事例集』にも掲載された。コインランドリーとして地域住民と関わりながら、防災訓練を通じて防災意識の向上に貢献している。

【パナソニック/LPガス冷媒のショーケース新発売】

業務用製品でも温室効果ガス対策でプロパン(R290)を自然冷媒に利用する動きが出てきた。パナソニックはこのほど、地球温暖化係数3のR290を使用したノンフロン内蔵型冷蔵オープンショーケース3機種を発売した。同製品は店舗での使用シーンや季節、販売する食品・飲料などに応じて、陳列棚のホットとコールドの運転切り替えが可能だ。自然冷媒を使用するとともに、DCインバーターコンプレッサーや高輝度LED照明を搭載し、消費電力量削減にも貢献する。同社は今後も、R290に加え、CO2冷媒(R744)や、イソブタン冷媒(R600a)などの冷媒を製品の特性や大きさに応じて使い分けながら、コールドチェーン機器のノンフロン化を推進していく。

【特集2】質量販売向け消費者講習を開催 適したLPガス設備をネット販売


【ELG】

質量販売や付随するLPガス製品が事業拡大に寄与すると考えるELG。全国第1号で緊急時対応講習実施者に認定され月1回講習を開催する。

ELGは東大阪市を拠点とする中小LPガス事業者で現在、業界で大きな注目を集めている。経済産業省の「質量販売緊急時対応講習実施者」に全国第1号で認定され、毎月リモートや対面形式の講習を開催して反響を呼んでいるのだ。「リモート形式では毎月100人程度が受講している」。こう話すのは、講師を務める同社の米島周作社長だ。

ELGはLPガス製品のインターネット販売の事業に注力してきた。全国各地から注文がある中、質量販売に関する問い合わせが近年多く集まっていたという。その大半が「地元のLPガス事業者に質量販売をお願いすると扱ってないと断られた。何とかしてもらえないか」という内容だった。

米島周作社長

LPガスには、緊急時に販売事業者が30分以内に消費者のところへ駆けつけ、緊急対応できることを保安機関としての認定条件にしている。このため、キャンピングカーやキッチンカーなど、移動して使用するのは事業者が保安活動を保証できるものではないと断られるケースが多い。

しかし近年のアウトドアブームや災害におけるLPガスの貢献など利便性が認められたことで、経産省が昨年保安機関の認定に関するルールを条件付きで変更した。これにより、需要家が「質量販売緊急時対応講習」を受講すれば、自ら緊急時の対応が可能となり、販売事業者は30分ルールを考えることなく、LPガスを販売し、需要家は利用できるようになった。

同講習には、前述のキャンピングカーやキッチンカー利用者をはじめ、多くの需要家が参加しているという。「参加者の多くはネットや口コミ情報を頼りに参加している。当社が講習を行うのは需要家の利便性向上とLPガス普及促進のため。より多くの人に知ってもらいたい草の根運動だ」と米島社長は強調する。

質量販売向けLPガス設備 BBQグリルなどを販売

同社では、質量販売に適したLPガス設備の販売も積極的に行っている。その一つがバーベキュー(BBQ)製品だ。米国のウェーバー製のBBQグリルなど、関連製品の国内代理店を務める。ウェーバーはアウトドア愛好家を中心にファンが多く日本上陸が望まれていた。しかし、肝心の燃料となるLPガスを30分ルールによって事業者が取り扱ってくれないことがネックになり、普及していなかった。現在は、大手量販店でも取り扱うようになり、関西方面ではELGを事業者として推薦しているという。こうした新たな需要開拓がLPガス発展の裾野をさらに広げていきそうだ。

米ウェーバー製のBBQグリル

【特集2】方針の公表で連携を強化 移行期間も低・脱炭素に貢献


【ジクシス】

ジクシスは4月、2050年脱炭素社会の実現に向けた挑戦として「カーボンニュートラル(CN)取組方針」を公表。①直接削減、②LPガスの低炭素化、③LPガスを利用した燃料転換(削減貢献)、④LPガスの脱炭素化、⑤アンモニアによる脱炭素化貢献(削減貢献)―の五つの行動指針とロードマップが示されている。

同社はLPガスの安定供給を前提とした上で、脱炭素社会の実現だけでなく、その前段階であるトランジション期間においても、LPガスの特性やインフラを生かして貢献していく構えだ。

社会実装と事業化が命題 経営資源を生かして挑む

50年の温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を見据え、まずは30年に20年度比で90%のCO2直接排出(スコープ1、2)の削減を目指している。具体的には、主に基地で使用する電力の非化石化などに取り組んでいる。加えて、LPガスを用いた低・脱炭素化の取り組みとして、ボランタリーカーボンクレジットによるオフセットや、産業用ボイラーの燃料を重油からLPガスへ切り替える燃料転換、外航船のLPガスと重油の2種類を使用可能なデュアルフューエル船への切り替えなどを進めている。

長期的な取り組みとして、生産から消費までの過程でCNに貢献するグリーンLPガスの技術開発と社会実装、さらには燃料アンモニアの事業化にも挑む。グリーンLPガスについては、21年秋にジクシスを含むLPガス元売り5社で結成された日本グリーンLPガス推進協議会で製造技術の研究が進行中だ。また22年6月には経済産業省、ジクシスなどのLPガス関連企業、大学が社会実装に向けて協議を行うグリーンLPガス推進官民検討会も設立された。

燃料アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないことから、脱炭素社会実現に資するとして注目されている。石炭火力への混焼や船舶の燃料としての利用に向けた動きがある中で、アンモニアはLPガスと特性が似ていることから、LPガス事業者は貯蔵や輸送などの担い手としての可能性を持っている。

2050年に向けた五つの取り組み

「グリーンLPガスの社会実装は大きな命題。燃料アンモニアの事業化の検討も進めていきたい。どちらも難易度が高いチャレンジになるが、今あるLPガスビジネスのインフラや経営資源を活用するとともに、他社や株主とのアライアンスの機会も模索していく」と、田中保経営企画部次長兼グリーン戦略室長は話す。

LPガス業界において、脱炭素への方向性をいち早く示したジクシスの今後に期待が高まる。