【特集2】メタネーションの要となる技術 排ガス・大気中からCO2を回収


【東邦ガス】

水素とCO2からメタンを合成するメタネーションのキーテクノロジーとして、東邦ガスが研究開発に注力するのは、原料となるCO2の分離回収技術だ。早期社会実装を目指し、技術の確立やコスト低減といった課題に立ち向かう。

一般的に、CO2の分離回収技術には三つの方式がある。液体に溶け込ませて別の場所で放出させる化学吸収式、多孔体の表面に付着させて回収する物理吸着式、ガスのうちCO2を優先的に通す膜を用いる膜分離式だ。同社は分離回収対象を①需要家先、②LNG基地近傍の発電所など、③大気中―の三つに分類し、特徴に合わせた技術開発を行っている。

①では、工場などの排ガスからCO2を分離回収する。回収量が比較的少ないことや、設備の設置スペースの制限などが課題となる。こうした中小規模の場合、低濃度のCO2に対してもコンパクトに設備導入が可能な物理吸着式や膜分離式が適すると考えている。

物理吸着式や膜分離式でのコスト低減には、吸着剤や分離膜の性能向上が必須となる。東邦ガスは大学やメーカーと協力し、さまざまな素材を模索中だ。実験とシミュレーションで、物理吸着と膜分離の最適な組み合わせや順序なども探究。機器によって量やCO2の濃度が異なる排ガスに、オーダーメイドで対応できるよう、試行錯誤を重ねている。2030年までの社会実装を目指し、22年度から模擬排ガス・実排ガスでの評価を行い、20年代半ばからは需要家先での実証を予定している。

②では、化学吸収式とLNGの未利用冷熱を組み合わせた「Cryo-Capture(クライオキャプチャー)」を開発中だ。同技術はグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択され、CO2回収コストの抜本的な低減(1t当たり2000円台)を目標としている。

クライオキャプチャーは、吸収塔、再生塔、昇華槽で構成される。まず吸収塔下部から排ガスを送入し、上部から散布する吸収液でCO2を分離。CO2が溶け込んだ吸収液は再生塔に送られる。吸収液からCO2を放出させることを「再生」といい、LNG冷熱を活用した減圧により再生する。

再生塔とつながる昇華槽をLNG冷熱で冷やすと、CO2のドライアイス化(昇華)が起こる。昇華により体積が小さくなる原理を利用し、ポンプを使わずに減圧することが可能だ。この減圧再生で、吸収液からCO2が放出されていく。こうして生成されたドライアイスは、復温で高圧ガスや液化炭酸として取り出すこともできる。

クライオキャプチャーのCO2分離回収の仕組み

LNG冷熱を有効活用 少量のエネで分離回収

クライオキャプチャーの特長は、少ないエネルギー投入でCO2回収を実現する点だ。吸収液を再生するとき、通常のボイラーによる加熱再生とは異なり、未利用だったLNG冷熱を有効活用し、燃料は不要。減圧する際にポンプも使用しないため、電力消費もない。

28~30年度のパイロット実証フェーズでは、LNG基地にパイロット機を実際に設置する予定。回収したCO2と水電解で製造した水素を用いたメタネーションなど、一連のカーボンリサイクル実証を行う計画だ。

LNG基地実装イメージ。カーボンリサイクルの実証を行う予定だ

③では、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」において、大気中のCO2直接回収の研究開発を行っている。排ガス中のCO2濃度が約10%であるのに対し、空気中の濃度は400ppm(0・04%)と、排ガスの100分の1以下でとても希薄だ。ゆえに、空気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の技術的難易度は、非常に高い。

DAC技術には、主に化学吸収式や固体吸収式が用いられる。吸収液や吸収材からCO2を放出させるためには高温の熱源が必要であり、エネルギーを大量に投入することになる。東邦ガスが手掛ける「Cryo-DAC(クライオダック)」は、クライオキャプチャーと同じ仕組みのため、少量のエネルギーでCO2を分離回収できる。

ムーンショット型研究開発事業の研究開発期間は、最長10年間。そのうち、22~24年度でベンチスケールの装置を開発し、25~29年度でパイロット機を開発する計画だという。クライオダックはその研究成果を評価され、第一ステージである20~22年度の審査を見事に通過。23~24年度の研究開発継続が決まった。

「CO2の分離回収技術は、脱炭素の要となる技術。回収したCO2を再利用したe―メタンは、CO2排出が実質ゼロとなることに加えて、そのe―メタン利用時に発生するCO2を回収し、固定化や地中に埋めるなどすれば、カーボンネガティブが実現できる可能性もある。e―メタンをはじめとしたカーボンリサイクルの取り組みを進めていきたい」と、技術研究所環境・新エネルギー技術グループの薮下雅崇チーフは語る。

国内外での検討が進行中 地産地消の取り組みも

こうした革新的なCO2分離回収技術の開発と同時に、メタネーション技術の実証や国内外での実案件の事業性検討も着々と進めている。国外では、30年にはe―メタン1%以上の導入を目指して、三菱商事と東邦ガスを含む大手都市ガス3社による北米での事業性検討などに取り組んでいる。国内では、地域のCO2を活用する知多市との実証、アイシン、デンソーとの中部地区におけるCO2地域循環モデル検討などが進む。

知多市との実証では、下水処理場から出るバイオガス由来のCO2を利用する。毎時5㎥ほどの小規模な実証だが、①バイオガス由来のCO2の利用、②都市ガスの原料として利用するのは国内初、③実証段階から水電解による水素にこだわる―というのが特長だ。

アイシン、デンソーとはCO2の地産地消による循環モデルの事業性検討も行う。工業地帯の中部地区では、ものづくりにおけるCO2排出は大きな課題だ。東邦ガスは地域の課題を地域で解決することを探索し、CO2の循環をソリューションとして捉えている。

メタネーションをはじめカーボンリサイクルの要となるCO2の分離回収技術に可能性を見出した東邦ガスの挑戦に、今後も注目だ。

【特集2】合成燃料用試作プラントを建設 サプライチェーンの構築を急ぐ


【ENEOS】

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、ENEOSは次世代エネルギー事業に多角的に参入し、合成燃料の開発において、合成燃料やSAF(再生航空燃料)などにも取り組む。2040年までに、合成燃料はプラント規模として日産1万バレル程度、SAFは国内最大の供給体制を確立しシェア50%獲得を目指している。

5月にトヨタと合成燃料の走行試験を実施した

合成燃料の開発は22年にグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として採択されたことを契機に研究を本格化した。GTL(ガス液化油)技術で培ったFT(触媒反応)合成技術やアップグレーディング技術などを活用し、合成粗油を製造、精製することで目的の液体燃料をつくり分けることができる。

合成燃料は石油由来の製品と同等の性状でありながら、水素とCO2を原料とするため、製品ライフサイクル全体においてCO2排出量を抑えることのできるCN燃料である。

合成燃料の実用化に向けた課題はコストだ。大量の再エネ水素と高濃度のCO2を調達し安価な製造が必須と言われている。経済産業省の試算によると現状の製造コストは1ℓ当たり700円程度で、内訳は水素が634円、CO2が同32円、製造コストが同33円。水素が合成燃料コストの大半を占める。将来、海外の水素価格が政府目標の127円まで下がれば、そのコストは200円程度に下がると予測されている。

早坂和章サステナブル技術研究所長は「製造コストの大半を占める再エネ水素を安価に調達しなければならない。まずは国内でサプライチェーン構築に向けた開発を行う。商用化の製造拠点は決まっていないが、海外での製造も想定している」と説明する。

この目標に向けて、同社では日産1バレルのベンチプラントを24年度上期から運転を開始し、検証を行う。その後、同300バレルのパイロットプラントの運転を通じ、その後できるだけ早い段階での社会実装を目指す。

航空燃料の10%をSAFに 和歌山製油所を製造拠点

SAFでは、政府が国内航空会社や石油元売りに対し、30年までに航空燃料使用量のうち、10%をSAFに置き換えるよう促している。これに対応するため、ENEOSでは、和歌山製油所を活用し製造体制確立に取り組んでいるほか、国内生産開始前の対応として、輸入体制構築を進めている。

SAFの原料調達・製造技術においては、ノウハウと実績を持つ仏エネルギー大手のトタルと協業。将来的に両社は年間30万t(40万㎘)のSAF製造を想定し、製造事業を行う合弁会社を設立予定だ。海外でも、日本への輸出を視野に入れ、豪州Ampol社と製造設備投資に関する初期検討を開始した。

開発や事業化の取り組みが急速に進む合成燃料とSAF。石油元売最大手の取り組みが今後の動向の大きな鍵を握っている。

【特集2】革新技術で高効率・低コスト化 自社実証・海外検討と並行


【東京ガス】

ガスのカーボンニュートラル(CN)化技術であるメタネーションの開発が加速している。東京ガスは①国内小規模実証、②国内地産地消、③海外大規模製造・サプライチェーン構築―の取り組みにより、2030年のe-メタン1%導入を目指す。

①では横浜テクノステーションなどでの自社実証が進行中だ。22年3月にスタートした実証は順調。製造能力は12・5N㎥/時で、純度97%以上のe-メタンを製造する。現在は、再生可能エネルギーの変動を考慮した負荷変動特性評価などの試験が行われている。今年度中を目途にITM社製の水電解装置の導入を予定しているほか、近隣施設で排出されるCO2を有効活用する準備も進められている。

②では横浜市の清掃工場や下水処理場の排ガスやバイオガス、再生水などを活用する地域実証モデル構築や、富士フイルムとその工場が位置する南足柄市とのものづくりにおけるCNモデルの確立などを検討している。

横浜テクノステーションの実証は順調に進む

進む海外での事業性検討 適切なルールの確立も

③では海外サプライチェーンの構築も進む。メタネーションは、液化・出荷基地やLNG船、受け入れ基地など既存の都市ガスインフラを利用できるというメリットを持つ。設備の新設が必要な液化水素やアンモニアと比べて、コスト面において優位といった試算もある。ゆえに、水電解に使用する再エネ由来の電力が安価な海外でe-メタンを製造し、日本へ輸送する方法が検討されている。

候補地としては北米や豪州、マレーシアなどが挙げられ、グローバル企業や総合商社と事業性検討を行っている。中でも、先行しているのは、三菱商事と東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの4社で取り組む米国でのプロジェクトだ。具体的には、テキサス州・ルイジアナ州でのe-メタン製造、キャメロンLNG基地などの既存サプライチェーンを活用した液化・輸送などに取り組む。このプロジェクトでは、都市ガス3社合計で年間1億8000万N㎥、そのうち東京ガスは年間8000万N㎥のe-メタンを調達する予定となっている。

海外で製造したe-メタンを日本で使用する場合、いくつかの課題がある。その一つが「CNの価値」を誰が有するのかという点だ。e-メタンはCO2を回収してつくられるため、トータルではCO2排出実質ゼロとなる。国境を越える場合には、e-メタン燃焼時の排出をカウントしないなどの二国間のルールづくりが必要だ。また、流通などの過程でe-メタンの環境価値を適切に管理できる証書制度や価値取引の仕組みなども求められる。加えて、現状e-メタンはLNGよりも高価なため、社会実装には水素・アンモニアと同等の価格差に対する支援も必要となる。

「いずれも当社だけでは解決できない課題なので、国や業界を巻き込んで仕組みや制度を確立できるよう働きかけている」と、水素・カーボンマネジメント技術戦略部革新的メタネーション技術開発グループの小笠原慶マネージャーは話す。

革新的技術で効率向上 既存技術の課題をクリア

三つの取り組みと並行して、革新技術のハイブリッドサバティエとPEM(固体高分子膜)CO2還元の技術も開発中だ。既存技術のサバティエ方式は古くから知られているが、装置コストの低減や合成効率の向上、大規模化に向けたシステムの大型化、熱マネジメントといった課題もある。こうした課題をクリアするのが、二つの革新的メタネーション技術だ。

ハイブリッドサバティエのデバイス
PEMCO2還元のセル

ハイブリッドサバティエは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、PEMCO2還元は大阪大学と連携して開発を進めている。ハイブリッドサバティエは、もともとJAXAが宇宙船の中で空気を再生するために開発を始めた技術だという。これを地上でのメタン製造に応用。低温でのサバティエ反応と、そこで発生する熱を水電解へ利用する。既存技術のサバティエ方式では約500℃の大きな発熱を伴うのに対し、ハイブリッドサバティエでは水電解で80℃、サバティエ反応で220℃ほど。熱の活用により、電気分解に必要な電力の削減を実現する。

また、排熱の水電解への利用によって50%程度だった効率を、将来的には80%以上に引き上げることを目指す。さらに、ハイブリッドサバティエは既存技術の組み合わせで構成されるため、早期の実用化も期待されている。

一方、PEMCO2還元の特長は、一つのデバイスでメタネーションが完結することだ。水電解と類似したセルスタックを開発。一つのセルで水だけでなくCO2も還元する。そのため、シンプルかつコンパクトなシステムとなる上、コスト低減にもつながる。また、電極の条件などを変えることでメタン以外の副生成物の合成が可能。eフューエルなどへの展開も視野に入れ、30年以降の実用化を目指している。

東京ガスが手掛ける革新的メタネーション技術―。その社会実装に期待が高まる。

【特集2】病院や特養向けに販売拡大 災害対応バルクと周辺設備を提案


【I・T・O】

LPガスの個別供給の強みが発揮できる用途の一つに、災害への備えがある。地震などで供給がいったん停止しても、調査・点検が終了すれば、すぐに使用可能とあり、非常用発電機を稼働して電源を確保したり、炊き出しによる食事の提供、冷暖房の利用など、避難所における最低限の生活確保にLPガスは欠かせないものとなっている。

発電機やGHPをセットで 被災した経験を生かす

こうした災害対応する設備として、I・T・Oの災害対応型LPガスバルクの販売が好調だ。LPガスは東日本大震災発生時に災害に強い分散型エネルギーとして評価され、政府の国土強じん化基本計画に「LPガス等の燃料供給インフラによる災害対応能力の強化」と記された。この目標達成のため、補助金が拡充され、災害対応型バルク導入を導入する施設が増えている。その中心は病院や特別養護老人ホーム(特養)、避難所指定された公共施設などだ。特に病院や特養は避難困難者が多く、透析治療など電気が常に必要となる。「近年、大災害の発生が増えている。特養は建設時にBCP(事業継続計画)対策の提出が求められている。当社ではLPガス発電機やガスヒートポンプ(GHP)を災害対応型バルクとセットで提案しており、こうしたニーズにうまくはまっている」。営業本部企画課の松原巧己氏はそう説明する。

具体的には、発電機やGHPは他社製品を取り扱う。顧客が希望する発電量などによって各社の製品群から選択できるよう紹介する。災害バルクを単品で販売するメーカーが多い中、関連設備の知識を持ち合わせた点がI・T・Oの強みになっている。周辺設備では、SR空温式蒸発器が災害対応向けで販売を伸ばす。アルミフィンの中をLPガスが通り気化するため、電気がなくても使用可能なためだ。

「東日本大震災発生時、当社の仙台営業所が被災した。その時、営業所に設置していたバルクで煮炊きするなど、社員だけでなく周辺住民の救済にも役に立った。この教訓が、現在のバルク販売のノウハウに生きている」と松原氏。

I・T・Oの提案がライフライン確保を目指す企業や団体に今後も大きく寄与していきそうだ。

【特集2】方針の公表で連携を強化 移行期間も低・脱炭素に貢献


【ジクシス】

ジクシスは4月、2050年脱炭素社会の実現に向けた挑戦として「カーボンニュートラル(CN)取組方針」を公表。①直接削減、②LPガスの低炭素化、③LPガスを利用した燃料転換(削減貢献)、④LPガスの脱炭素化、⑤アンモニアによる脱炭素化貢献(削減貢献)―の五つの行動指針とロードマップが示されている。

同社はLPガスの安定供給を前提とした上で、脱炭素社会の実現だけでなく、その前段階であるトランジション期間においても、LPガスの特性やインフラを生かして貢献していく構えだ。

社会実装と事業化が命題 経営資源を生かして挑む

50年の温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を見据え、まずは30年に20年度比で90%のCO2直接排出(スコープ1、2)の削減を目指している。具体的には、主に基地で使用する電力の非化石化などに取り組んでいる。加えて、LPガスを用いた低・脱炭素化の取り組みとして、ボランタリーカーボンクレジットによるオフセットや、産業用ボイラーの燃料を重油からLPガスへ切り替える燃料転換、外航船のLPガスと重油の2種類を使用可能なデュアルフューエル船への切り替えなどを進めている。

長期的な取り組みとして、生産から消費までの過程でCNに貢献するグリーンLPガスの技術開発と社会実装、さらには燃料アンモニアの事業化にも挑む。グリーンLPガスについては、21年秋にジクシスを含むLPガス元売り5社で結成された日本グリーンLPガス推進協議会で製造技術の研究が進行中だ。また22年6月には経済産業省、ジクシスなどのLPガス関連企業、大学が社会実装に向けて協議を行うグリーンLPガス推進官民検討会も設立された。

燃料アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないことから、脱炭素社会実現に資するとして注目されている。石炭火力への混焼や船舶の燃料としての利用に向けた動きがある中で、アンモニアはLPガスと特性が似ていることから、LPガス事業者は貯蔵や輸送などの担い手としての可能性を持っている。

2050年に向けた五つの取り組み

「グリーンLPガスの社会実装は大きな命題。燃料アンモニアの事業化の検討も進めていきたい。どちらも難易度が高いチャレンジになるが、今あるLPガスビジネスのインフラや経営資源を活用するとともに、他社や株主とのアライアンスの機会も模索していく」と、田中保経営企画部次長兼グリーン戦略室長は話す。

LPガス業界において、脱炭素への方向性をいち早く示したジクシスの今後に期待が高まる。

【特集2】LPガスならではの注目商材 分散型エネの新たな使い道


LPガスの特長といえば、分散型エネルギーで災害に強く、可搬性に優れていること。こうした利点を生かして、ユニークな製品・ビジネスが展開され始めてきた。

【リバティシップ/国産木材でつくる地産地消のサウナルーム】

コロナ禍において顕在化した「一人の時間を充実させたい」というニーズとマッチし、ブームとなっているのがサウナだ。Libertyship(リバティシップ)が手掛けるバレルサウナ「ONE SAUNA(ワンサウナ)」は、国産木材を使用した樽型のサウナルームで、自宅や別荘などに手軽に設置できる。熱源は電気、都市・LPガス、薪の3種類。サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるセルフロウリュも可能だ。LPガスを用いた事例としては、別荘のサブスクリプションを展開するSANU(サヌ)のCabinや、鳥取県の閉校になった小学校を活用した宿泊施設OOE VALLEY STAY(オオエバレーステイ)などがある。豊かな緑に囲まれ汗を流す気分転換に、LPガスが一役買っている。

【ホンダ/LPガス式発電機で非常時やレジャーに対応】

BCPや防災対策の観点から、非常時でも活用できる発電機の重要性が増している。発電機向け燃料として、LPガスは非常に有効だ。かつて家庭用ガスエンジンコージェネ「エコウィル」を開発していた自動車メーカーのホンダは可搬性を有する小型LPガス発電機を販売中。カセットガスやLPガスで稼働するもので、カセットガス式(900VA)は、持ち運びに便利なハンディタイプ(写真左)。場所をとらずにすっきりと収納できる。低温下で気化しにくくなるカセットガスでも、同社独自の技術で広い温度範囲での使用が可能。カセットガスは手軽に入手でき、非常用利用はもちろん、レジャーにも活用できる。写真右は家庭用のLPガス容器からの燃料で発電するタイプだ。

【橋本商会/使いやすさにこだわったキッチンカー】

橋本商会はキッチンカーの製作・販売を展開中。専門の建築士がオペレーションや動線を考慮し使いやすさにこだわったキッチンカーの内装設計を実施する。同社は自動車販売を手掛けており、長年の実績から優良な中古車を選定。コストを抑えつつも理想のキッチンカー製作を実現している。レンタルやリースのほか、出店サポートなども行う。キッチンカーでの調理に関してはLPガスを推薦する。「IHなど電化厨房機器を希望する顧客もいるが、雨天時の運用など安全性などを考えるとLPガスの方が安心だ」(担当者)。キッチンカー販売においては、関西圏なら質量販売を実施する事業者を探し、顧客に紹介するところまでを手掛けるなどフォローも万全だ。

【山岡金属工業/野外でも安全に暖を取れる画期的ストーブ】

創業以来、60余年にわたりさまざまな製品の企画開発、販売を行ってきた山岡金属工業。ヒット商品の一つが、屋外用ストーブ「パラソルヒーター」だ。野外イベントやガーデンテラスなどの屋外スペースに最適で、空間を暖かく演出する。スリムなボディーはステンレス製で、屋外での使用でも高い耐久性と耐食性を確保した。LPガスボンベタイプなら、電気コードやガスホースの制限がなく、設置場所も選ばない。さらに夏には、パラソルヒーターがミストクーラーに早変わりする。水タンクなどを簡単に取り付けでき、ミストを360度噴霧することで機器周辺の温度を下げる。コロナ禍以降、高まっている屋外での飲食需要に伴い、同製品の需要もうなぎ上りだ。

【ジーアイビー/コインランドリーを一時的な避難所に】

ジーアイビーはコインランドリー「ブルースカイランドリー」を展開している。全国234店舗のうち、117店舗が災害対応型ランドリーだ。災害対応型ランドリーでは3日分のLPガスと、発電機やガスコンロ、炊き出しセットなどを常備。スマートフォンの充電なども可能となっている。設置のきっかけは2019年の台風15号だ。千葉県で発生した大規模停電により、洗濯機を使えない多くの住民が訪れた出来事をもとに誕生したという。現在、全国20市町村17自治体と災害協定を締結し、7回の防災訓練を実施。内閣官房が発行する『国土強靭化民間の取組事例集』にも掲載された。コインランドリーとして地域住民と関わりながら、防災訓練を通じて防災意識の向上に貢献している。

【パナソニック/LPガス冷媒のショーケース新発売】

業務用製品でも温室効果ガス対策でプロパン(R290)を自然冷媒に利用する動きが出てきた。パナソニックはこのほど、地球温暖化係数3のR290を使用したノンフロン内蔵型冷蔵オープンショーケース3機種を発売した。同製品は店舗での使用シーンや季節、販売する食品・飲料などに応じて、陳列棚のホットとコールドの運転切り替えが可能だ。自然冷媒を使用するとともに、DCインバーターコンプレッサーや高輝度LED照明を搭載し、消費電力量削減にも貢献する。同社は今後も、R290に加え、CO2冷媒(R744)や、イソブタン冷媒(R600a)などの冷媒を製品の特性や大きさに応じて使い分けながら、コールドチェーン機器のノンフロン化を推進していく。

【特集2】デラックスタイプの新製品発売 高級感ある外観と性能を兼ね備える


【リンナイ】

リンナイは7月12日、ガス衣類乾燥機「乾太くん」デラックスタイプを発売する。2013年の登場から10年ぶりのフルモデルチェンジとなる。

乾太くんにはスタンダードとデラックスの二つのタイプがある。もともとは、手前から温風が出て、ドラムの奥に糸くずフィルターがあるスタンダードタイプのみの展開だった。その後、フィルターが手前にあると手入れをしやすいというニーズから、デラックスタイプが誕生した。

ドラム内が見える窓付き 糸くずフィルターに工夫

今回のフルモデルチェンジによって、①容量の拡大、②デザインの刷新、③新たな衣類ケアコースの搭載―の3点が更新された。①は従来の5㎏から6㎏への拡大に加え、大容量の9㎏モデルも新たにラインアップした。洗濯機の大容量化に対応しながら、設置スペースを考慮。高さと横幅はそのままのサイズで奥行きのみを変更し、容量の拡大を図った。②は高級感のある外観とした上で、使用感にもとことんこだわった。「扉の開閉時の重厚感や操作パネルやダイヤルのクリック感は特に意識した」。営業本部営業企画部の中尾公厚部長はこう話す。③は高温の温風でのケアが難しい革製品やデリケートな衣類などに対応。シャープのプラズマクラスターによる除菌・消臭を図る新コースを設けた。

近年、共働き世帯の増加などから、家事の効率化ニーズが高まっている。今回のフルモデルチェンジでは「複数の家事を並行する中で進行状況を確認したい」という要望に応えるべく、ドラム内が見えるよう扉に窓を取り付けた。従来のデラックスタイプでは扉の内側にあった本体側に設ける必要があった。そこで構造を一から見直し、本体入口下部の目立たない位置にフィルターを配置した。扉を開けたときのスタイリッシュさも重要視する徹底ぶりだ。

さらにスマートフォンアプリ「リンナイアプリ」との連携で、残り時間の確認や完了通知の受け取りができるようになった。乾太くんのアプリ連携は今回が初めてだ。SNSをきっかけとした購入が増えているという背景もあり、家電とスマホの連携に対するユーザーの関心は非常に高いという。

リンナイは乾太くんシリーズの23年度の年間販売目標として12万台を掲げている。「乾太くんは設置場所にガス栓を設ける必要があるなど、ガス事業者の協力が欠かせない。オール電化に対抗できる商品として『乾太くんを使いたいからガスを引く』と言ってもらえるようにしていきたい」と、中尾部長は意気込みを見せた。

【特集2】分散型の特性生かす展開 新商材などで評価高まる


LPガス自体の特性や独自のサプライチェーンを生かした新ビジネスが生まれてきた。カーボンニュートラルLPガスや新商材の普及などが注目されている。

2050年カーボンニュートラル(CN)に向けて、LPガス業界でも、さまざまな取り組みが進んでいる。これまで、ガスの普及拡大の取り組みを巡っては、元売りがサプライチェーン全域に関わっていくことで、供給者としての責任を果たしてきた。この手法は現在にも引き継がれ、CNLPガスの利用拡大、燃料転換、省エネ活動などに生かされている。

CNLPガス自治体で採用 元売りと特約店が連携

アストモスエネルギーは、CNLPガス普及のため特設ウェブサイトを開設したり、ウェビナーを開催したりするなど、広報活動を積極展開している。こうした活動と地元特約店の働きかけが功を奏し、昨年9月には山口県周防大島町にCNLPガス供給を開始した。このように、次世代に向けた取り組みにおいても、元売りと販売店、需要家が連携していく手法をとっていく。

LPガスの用途拡大に向けては、新たなアプリケーションの創出が欠かせない。11年の東日本大震災以降は、国からの補助金供出の効果も相まって、病院や特別養護老人ホームなどに災害対応型バルクと発電機、ガスヒートポンプ(GHP)をセットで導入する事例が相いでいる。また、学校や体育館にもバルクや空調を設置する動きも加速しており、防災兼用エネルギーとしてLPガスを選択するケースも出てきている。

質量販売で使われるパラソルヒーター

一般消費者向けでは、近年のアウトドアブームによって、キャンピングカーやバーベーキューコンロ、パラソルヒーターなどが人気でLPガスを利用したいという需要が高まっている。これらの製品は移動して利用するケースが多く、保安業務を担うLPガス販売事業者が30分以内で駆けつけられない事態が想定される。ゆえに、販売事業者は積極的に販売対応してこなかった。

これに対し、経産省は昨年7月、質量販売において法律を見直し、「質量販売緊急時対応講習」を受講すれば、需要家が緊急時に必要な措置を自ら実施できるようにした。これにより、前述のアウドドア製品のような今までになかった需要の創出など、新たな動きが出てくると見られる。利用者に魅力あるエネルギーとして、LPガスが改めて脚光を浴びそうだ。

【特集2】質量販売向け消費者講習を開催 適したLPガス設備をネット販売


【ELG】

質量販売や付随するLPガス製品が事業拡大に寄与すると考えるELG。全国第1号で緊急時対応講習実施者に認定され月1回講習を開催する。

ELGは東大阪市を拠点とする中小LPガス事業者で現在、業界で大きな注目を集めている。経済産業省の「質量販売緊急時対応講習実施者」に全国第1号で認定され、毎月リモートや対面形式の講習を開催して反響を呼んでいるのだ。「リモート形式では毎月100人程度が受講している」。こう話すのは、講師を務める同社の米島周作社長だ。

ELGはLPガス製品のインターネット販売の事業に注力してきた。全国各地から注文がある中、質量販売に関する問い合わせが近年多く集まっていたという。その大半が「地元のLPガス事業者に質量販売をお願いすると扱ってないと断られた。何とかしてもらえないか」という内容だった。

米島周作社長

LPガスには、緊急時に販売事業者が30分以内に消費者のところへ駆けつけ、緊急対応できることを保安機関としての認定条件にしている。このため、キャンピングカーやキッチンカーなど、移動して使用するのは事業者が保安活動を保証できるものではないと断られるケースが多い。

しかし近年のアウトドアブームや災害におけるLPガスの貢献など利便性が認められたことで、経産省が昨年保安機関の認定に関するルールを条件付きで変更した。これにより、需要家が「質量販売緊急時対応講習」を受講すれば、自ら緊急時の対応が可能となり、販売事業者は30分ルールを考えることなく、LPガスを販売し、需要家は利用できるようになった。

同講習には、前述のキャンピングカーやキッチンカー利用者をはじめ、多くの需要家が参加しているという。「参加者の多くはネットや口コミ情報を頼りに参加している。当社が講習を行うのは需要家の利便性向上とLPガス普及促進のため。より多くの人に知ってもらいたい草の根運動だ」と米島社長は強調する。

質量販売向けLPガス設備 BBQグリルなどを販売

同社では、質量販売に適したLPガス設備の販売も積極的に行っている。その一つがバーベキュー(BBQ)製品だ。米国のウェーバー製のBBQグリルなど、関連製品の国内代理店を務める。ウェーバーはアウトドア愛好家を中心にファンが多く日本上陸が望まれていた。しかし、肝心の燃料となるLPガスを30分ルールによって事業者が取り扱ってくれないことがネックになり、普及していなかった。現在は、大手量販店でも取り扱うようになり、関西方面ではELGを事業者として推薦しているという。こうした新たな需要開拓がLPガス発展の裾野をさらに広げていきそうだ。

米ウェーバー製のBBQグリル

【特集2】省エネ強化へ制度整備が進展 短中期の脱炭素対策の柱に


脱炭素やエネルギー価格上昇をきっかけに企業や家庭での省エネ対策への意識が高まりつつある。省エネ法や建築物省エネ法の改正など制度整備が進む中、ビジネス機会も大きく広がってきた。

2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向け、日本のエネルギー需給構造の転換と安定的なエネルギー供給を確保するための法制度整備として、今年4月に改正省エネルギー法が施行された。

具体的には、①非化石エネを含めたエネルギー全体の使用を合理化、②工場などで使用するエネルギーを非化石エネに転換促進、③ デマンドレスポンス(DR)など電気需要の最適化―などを掲げている。そうした中にあって、今後10〜20年後を見据えた期間においては、省エネや低炭素化に資する取り組みが欠かせない。

東京ガスエンジニアリングソリューションズは、鹿児島県初となるエネルギーの面的供給のプロジェクトを手掛けた。病院やホテルに電気と熱を供給。エネルギー効率の高い設備を導入しながら、供給安定性とBCP(事業継続計画)の機能を高めている。

東京製鐵は九州工場で、九州電力管内で発生した余剰電力を消費する「上げDR」に取り組んでいる。九電管内では、需要閑散期の春や秋に太陽光発電の余剰電力が多く発生し、出力制御を行っている。この余剰を解消するため、昼間に割安な料金メニューを設定してもらい、工場を積極的に稼働させている。

ストック平均でネットゼロ 高い目標にどう対応するか

建築物の省エネにおいては、昨年6月に施行した改正建築物省エネ法で、50年に住宅・建築物のストック平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)基準水準の省エネ性能を確保することを目指す方針を打ち出している。

省エネ基準適合義務の対象外の住宅、小規模建築物の省エネ基準への適合を25年度までに義務化するとともに、30年度以降に新築される住宅・建築物はZEH・ZEB基準の省エネ性能の確保を目標に掲げている。

ZEB化工事を実施した大成建設のオフィス

この目標達成に向け、大成建設は既築ビルをZEB化する「グリーン・リニューアルZEB化工事」を展開。同工事は、既存建築物の特性を考慮して最適な省エネ、創エネ技術を導入し、事務所を稼働させながら、改修工事を行うことが可能。同工事を実施した同社関西支店では、BEI(省エネルギー性能指標)0・37を達成し、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)において「ZEB Ready」を取得した。

こうした産業や建築向け省エネ施策の最新動向を取り上げる。

【特集2】カーボンマイナスを目指すオフィス 自然との共生で室内環境も快適に


【戸田建設】

戸田建設が茨城県つくば市に構える筑波技術研究所のグリーンオフィス棟では、「カーボンマイナス」の取り組みが進行中だ。年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)』を達成した上で、施工から運用・解体までのCO2排出量の実質マイナスと、働きやすい室内環境づくりを目指している。

登はん・下垂植物を組み合わせて、上下に生育するよう植栽

2017年5月、ZEB建築の要素技術を実証する環境技術実証棟が完成した。その設計段階で技術実証の終了後、21年にZEBとして改修される計画だった。当時ZEBが普及しつつある中で、その先を行くカーボンマイナスの構想が浮かび上がってきた。この構想は政府がカーボンニュートラルを宣言した20年よりも早い、15年から始まっていたという。「消費エネルギーは設計時の想定より約26%低く、太陽光も多めに発電できている。ZEB計算の対象とならないコンセントなどの電力も含め、カーボンマイナスの達成を目指している。建物のライフサイクルを70年と捉え、38年ほどでエネルギー収支が逆転する計算だ」と村江行忠技術研究所長は話す。グリーンオフィス棟へと生まれ変わった現在は執務スペースとして活用され、研究所員の働きやすさの満足度も高い。

省エネと快適性を両立 壁面緑化と地中熱利用

同施設には建築をはじめとする多くの技術要素が取り入れられている。その一つに、壁面緑化ユニットがある。日光や雨風を遮るルーバーとつる植物を組み合わせ、CO2の吸収と日射熱の抑制を実現。このルーバーに使用される木材は、施設建設時に伐採した樹木を原料とした再生木だ。壁面で生育されるつる植物は、自然の要素を取り入れ生産性の向上などを促す「バイオフィリックデザイン」となるほか、紅葉など季節ごとに外観の変化をもたらす珍しい建築となっている。

ルーバーは内側からも緑が覗く

室内を快適に保つ設備としては、タスクアンビエント空調がある。個人と空間全体を効率的に空調するため、在・不在と温冷感を画像AIで解析する制御を組み込んでいる。冷暖房には熱回収効率が高いオープンループ方式で採熱した地中熱を活用している。

こうした高いデザイン性と環境性が評価され、第1回SDGs建築賞国土交通大臣賞と22年度のグッドデザイン賞を受賞した。既存の取引先を中心に、見学の問い合わせが多数寄せられている。戸田建設は、顧客に提供する施設への技術展開を通じて、脱炭素社会の実現に貢献していく方針だ。

【特集2】再開発で高効率のエネルギー供給 寒冷地ならではの取り組みも


【北海道ガス】

北海道ガスは経営計画「Challenge 2030」を掲げ、省エネを基盤として、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを展開している。「46エネルギーセンター」(札幌市)による再開発エリアへのエネルギー供給も、その一つだ。

同センターは、北海道ガスの都市ガス製造工場跡地を活用する「北4東6周辺地区第一種市街地再開発事業」の一貫として設置された。再開発エリアは三つの地区で構成され、札幌市の中央体育館であり指定避難所でもある「北ガスアリーナ札幌46」、全2棟・275戸のマンション、202戸のシニア向けマンション、フィットネスクラブがある。これらの施設への効率的なエネルギー供給が評価され、「コージェネ大賞2022」民生部門の最高位である理事長賞を受賞した。

4種のエネルギーを供給 地域全体でのエネマネ

再開発には①積雪寒冷地での省エネ、②都心地区の低炭素化、③地区全体の強じん化(レジリエンス強化)―の三つの課題があった。これらを解決するため、46エネルギーセンターは設置された。

供給するエネルギーは電力、温水、冷水、融雪温水の4種類で、主な設備はコージェネや地中熱ヒートポンプだ。電力は系統電力とセンター内で発電し、エリア内全ての施設に供給。温水と冷水はそれぞれ80℃と7℃ほどで、暖房・給湯と冷房に使用される。

寒冷地特有のエネルギーとして、融雪温水も供給する。40℃ほどの低温の排温水の活用で、ロードヒーティング専用のボイラーや電熱線が不要となる。また、太陽光の利用方法にも特色がある。太陽光発電ではなく、太陽光集熱器により熱として回収。太陽光の電力への変換効率は20%ほどだが、熱としては約50%で回収でき、通年ある温水需要に対応可能だ。

街区のエネルギー使用・発生の状況やCO2削減量を一元化

コージェネの活用により、災害時に外部からの電力供給が途絶えても、エネルギー供給が可能だ。複雑な制御のため、CEMS(コミュニティーエネルギーマネジメントシステム)を北海道で初導入。地域全体の需要を予測し、機能的で効率的な省エネを実現した。加えて、省人化や住民へのDR(デマンドレスポンス)要請などにも役立っているという。 エネルギーシステムグループの奥山憲司副課長は「多くの事例の中から理事長賞を受賞できたのは、寒冷地という地域条件や小規模な取り組みゆえに他地域への展開が可能な点が評価されたから。脱炭素には需要と供給双方の省エネが第一歩。道内はもちろん、他のエリアへの展開にも貢献していきたい」と意気込みを見せた。

【特集2】ZEB化に向けた新たな手段 業務を止めずにリニューアル工事


【大成建設】

大成建設はこのほど、既築ビルをZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化する「グリーン・リニューアルZEB化工事」を自社の関西支店で実施した。同工事は、既存建築物の特性を考慮して最適な省エネ、創エネ技術を導入し、事務所を稼働させながら、改修工事を行うもの。これにより、関西支店はBEI(省エネルギー性能指標)0・37を達成し、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)において「ZEB Ready」を取得している。

同社が考える建物のZEB化では、①パッシブ技術で必要なエネルギーを減らす、②アクティブ技術でエネルギーを効率的に利用する、③再生可能エネルギーを利用する―の大きく三つだ。①のパッシブ技術は高断熱化、自然換気、日射遮蔽、植栽・緑化、昼光利用などが該当する。

庇や植栽などを取り付けた同社関西支店

改装したビルでまず目を引くのがその外観だ。各階の窓の外にはルーバーと庇が新たに設けられ、植栽がされている。これが、日射遮蔽や緑化に寄与し快適性を向上している。

建物の改修では新たな仕組みを多数取り入れている。独自の自然採光ブラインド「T-Light Blind」は、ブラインドを上下二段構成にして二つの異なる種類のスラットを採用。下部のブラインドでは室内窓際に直接日光が入らないように遮光し、上部のブラインドでは太陽光を反射させて、オフィス室奥の天井面に光を取り入れる。これにより、室内窓際に入る直射日光を避けながら明るい環境を実現し、エネルギー消費量も削減できるようにした。

②のアクティブ技術では、高効率照明や空調、それらの制御システムの導入、空調設備のダウンサイジング化を図る。照明と空調を制御する人検知省エネ自動環境制御システム「T-Zone Saver」ではLED照明の制御に独自の人検知センサーを採用し、従来の4灯単位から1灯単位で制御することで照明に使われるエネルギーを最小化する。

さらに、同システムでは空調も制御、在籍人数に応じた適正な換気量に調節することで外気ロスを低減する。

太陽光パネルを独自開発 オフィスの一部をテラス化

③再エネ関連では、窓建材に太陽光発電セルを組み込んだシースルー対応の太陽光発電パネルや、ビル外観に配慮したカラー太陽光パネルなど独自製品も採用する。このほか、オフィスの一部をテラス化したり、インナーバルコニーを設置するなど、オフィスの快適性を重視した改修も行った。これらにより、CO2削減量は年間365t、光熱費は同1760万円の削減につながるとのことだ。

現在、同社はグリーン・リニューアルZEBを検討する顧客などを対象に見学を受け入れている。リニューアル推進部の須田健二部長は「今回の改修工事の知見を生かし、顧客への展開を目指していく」と意気込む。既築ビルのZEB化は多くのビル所有者などの課題となっている。今回のようなリニューアルの取り組みが突破口となり、脱炭素化をさらに加速させていくだろう。