【特集2】経験と訓練で磨いた応用力 受け継がれる安定供給DNA

【九電グループ】

台風や大雨など自然災害が多い九州だが、停電の復旧はすこぶる早い。 備えられる災害にはたゆまぬ訓練で、予見できない災害には経験と知恵で果敢に挑む。

九州電力送配電の復旧部隊は、台風など事前に被害が予想される自然災害においては、襲来前に現地入りして復旧に備える。特に離島では台風が去った後も海が荒れた状態が数日続き、現地に入れず、復旧が遅れる可能性があるからだ。

「台風は進路が変わって、被害はないかもしれない。それでも空振り覚悟で必要な人員、資機材などを事前準備している」と話すのは、九電送配の古賀寛典技術企画グループ長だ。8月の台風6号では、高速道路や船が利用できるうちに、九州各地から300人規模の復旧要員と復旧資機材を、本土では長崎県と鹿児島県に、離島では奄美大島や五島列島などに送り込んだ。台風に伴い、宮崎と鹿児島には線状降水帯が発生。土砂崩れが道をふさいだが、自治体と連携し優先的に道路を啓開してもらい、停電は長くても2日以内に復旧できた。

九電グループは、九州7県233市町村の全自治体との相互連携に取り組むとともに、災害時の連携協定を結んでいる。また、陸上自衛隊とは、復旧資機材や人員、車両の運搬や自衛隊活動拠点への電源供給など、災害時の相互連携を図ることを目的に協定を締結。陸路が途絶した場合にも備え、海上自衛隊とも協定を結んでいる。さらに、九州全域を管轄する海上保安本部とも協力協定を締結し、離島が孤立化した場合に備え、人員や資機材を海上輸送する手段の多様化に取り組んでいる。

高圧発電機車の空輸訓練。実際の復旧では2010年に初めて実施

大規模台風がきっかけ 設備を強化し信頼度を維持

九電送配が自然災害に備え、設備を強靭化するきっかけになったのは、1991(平成3)年の台風19号だ。数百人規模の応援者派遣スキームを作るきっかけにもなった。台風は長崎県に上陸し、最大瞬間風速54・3mを観測。大規模な倒木が発生した。鉄塔や電柱なども大きな被害を受け、当時の九電エリアの3割以上に当たる、約210万戸が停電する事態に陥った。

これを機に、九電送配は全ての電柱をコンクリート柱にし、送電鉄塔についても、電気設備の技術基準で定められている風速40m(毎秒)での設計を基本としつつも、気象や地形条件を勘案し個別に設計して強靭化を図った。その後も、発変電所の浸水対策や日頃の設備点検・補修などを強化し、設備の信頼度維持に努めている。

九電と九電送配は毎年、台風襲来前の7月にこの台風19号規模を想定した「大規模非常災害対策訓練」を合同で行っている。陸上・海上自衛隊、海上保安本部とは、さまざまなシチュエーションで訓練する。高圧発電機車の空輸訓練や輸送艦への復旧車両搭載訓練を実施するほか、近年ではヘリによる空中巡視訓練にも取り組む。

連携で早期復旧した熊本地震 経験を伝承し組織力に

台風と違って事前配備できず、被害確認後の初動になるのは地震や線状降水帯の発生時だ。

2016年4月16日に起こった熊本地震・本震では、大規模な土砂崩れが発生。一の宮・高森方面に電力を供給している6万V送電線が使用できなくなり、停電が長期化する深刻な事態になった。九電は、北海道から沖縄までの9電力それぞれに応援を依頼。当時は10社間の「災害時連携計画」(20年に策定)はなかったものの全面的な協力が得られ、9社から629人、高圧発電機車110台の応援が続々と熊本に到着した。これにより、がけ崩れなどで復旧困難な箇所を除いて、発災4日目にはずらりと並ぶ高圧発電機車から直接高圧配電線へ送電することができた。

仮鉄塔の設置は余震が続く中、深い支持地盤までの掘削が困難だったため、掘削不要な特殊な鋼板補強基礎を災害復旧工事で初めて採用した。用地交渉が完了した箇所から順次作業を開始し、仮鉄塔3基、仮鉄柱14基、総計約5㎞の仮送電線ルートをわずか10日ほどで構築した。

九電送配・送電グループの佐藤智彦課長は「この時初めて災害復旧対応でドローンを使った。鉄塔近くに地割れがあり、余震も頻繁に起こっていたため、作業員の安全を優先しての判断だった」と振り返る。鉄塔に上らず状態を確認できることが分かり、今では保守や、立ち入りが困難な箇所の被害確認でも活用している。

熊本での迅速な復旧は、経験を応用し、挑み、関係者全てが力を合わせた結果だ。後に復旧オペレーションの一つの見本となった。実際の復旧対応でのさまざまな経験を次につなげ、組織や人材が成長できるのは九電グループの大きな強みだ。若手社員は先輩社員から過去の大災害の話を聞き、指導を受ける中で、経験が伝承されていく。

九電送配の石松泰配電管理グループ長は「社員は電気の重要性を認識し、『一刻も早く電気を届ける』『自分たちが安定供給を守る』という、九電・九電送配の強い意志を受け継いでいる。この〝DNA〟が早期復旧の原動力」と言い、こう続ける。「ただし、災害時においては安全が大前提で最重要。対応は相互協力を旨とすることを、全社の非常災害に関する心得として定めている」

災害ごとに復旧対応での課題を洗い出し、改善を図ることにも力を注ぐ。良好事例などのナレッジも含め、都度、災害復旧マニュアルに落とし込んでいる。毎年実施するさまざまな訓練を含め、表には見えない一つひとつの備えへの取り組みや、関係機関との連携が九電グループの底力になっている。今後も立ち向かう自然災害に対しても、培ってきた技術力や組織力で乗り越えられるはずだ。九電グループは今、地域社会との連携の重要性を再認識しながら、最新の情報技術の導入も検討し進化を続けている。

斜面近くに鋼板補強基礎で仮鉄塔を建設(熊本地震・南阿蘇村)

【特集2】SSを地域の安心拠点に 1日も早い営業再開を支援

【タツノ】 

世界の三大ガソリン計量機メーカーであるタツノは、BCP(事業継続計画)対策機器として、給油所用緊急用発電機「レスキューPG―8」や緊急用バッテリー可搬式計量機「レスキューB―PUMP」などを提供している。

地震や台風といった自然災害などで停電しても、レスキューPG―8で給油所を照らすLEDキャノピー2灯の照明をつけ、ノズル3本分の計量機とPOS1台、油面計1基に電力を供給し、営業を継続できる。地下タンクにつながる配管などに被害が出て計量機を使えない場合は、レスキューB―PUMPが有効だ。タンクに直接吸入ホースを差し込み、自動車のバッテリーなどから電源を取って、直接ガソリンなど燃料油の供給を可能にする。

全国約2万8000のサービスステーション(SS)の中で、約1万5000のSSに緊急用発電機が備えられ、うち約8000がタツノ製品を採用している。新村毅エネルギーソリューション事業部長は、「私たちはBCP対策機器を提供するだけでなく、災害時の支援にも最大限協力している」と話す。

元売り各社や大手特約店などのSSの多くは、震度5強以上などの地震が発生した場合、タンクの点検を行い、安全が確認できてから営業再開する。同社は災害発生時にSSから機器の不具合などの連絡が入ると、被害状況を確認し、迅速に取りまとめる。石油連盟、全石連、資源エネルギー庁に報告するとともに、全国79拠点のネットワークを活用して現地SSの早期復旧に努める。阪神・淡路大震災、新潟県中越沖地震、東日本大震災などの大規模災害時は全国から同社社員が応援に駆け付けた。

近年は気候変動に伴う災害も多く発生している。2019年に房総半島を襲った台風15号の被害時には、レスキューB―PUMPを現地に届け、早期の仮営業再開に貢献した。機器を届けた同社社員は、停電が続く中で地下タンクから直接給油できた時の住民の喜ぶ顔が忘れられないそうだ。

台風で停電が続く中、レスキューB-PUMPが活躍した

SSはライフライン ソフト面のサポートを手厚く

同社は自然災害に備えられるよう、SSにBCP機器の設置を薦めている。設置後は、SSが非常時に速やかに機器を利用できるよう、取り扱い説明動画が見られるQRコードを機器の取っ手などに取り付けるほか、定期的な講習会も開いている。

地方のSSは住民との関わりが深い。寒い地域では暖房用に灯油を利用する家庭も多い。同社は、SSはライフラインの一つだとの認識を持ち、バックアップ体制の強化を図る。「まずは社員とその家族、協力会社の安否確認をした上で、全社が一丸となり、災害支援の一つの役割を担えていることは大きな社会貢献だと思っている。SSが地域の安心拠点としてあり続けられるよう、ソフト面でも全面的に協力し、頼りにされるメーカーでありたい」(新村部長)

関東大震災時にも計量機やタンクが延焼火災の被害に遭わず安全性を高く評価されたタツノ。100年前と変わらず安全な製品を提供するだけでなく、人々の暮らしを守るSSや燃料供給施設をこれからも強力に支援していく。

【特集2】熱供給ネットワーク整備が奏功 ブラックアウトで効力発揮

【北海道ガス】

日頃から確かな提案力で、大災害に備えてきた北海道ガスと北海道熱供給公社。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターや、札幌市のまちづくり計画に合わせて整備を進めてきた札幌都心部の熱供給ネットワークの整備が功を奏し、エネルギー供給を継続した。

「コージェネを核としたエネルギーセンターを整備し、熱供給ネットワークを通じてエネルギーを供給するというスキームが結実した」と話すのは、北海道熱供給公社営業部営業グループの末廣隆志氏。胆振東部地震では、創世エネルギーセンターを円滑に稼働でき、そのレジリエンスの高さを示す実績となった。

さっぽろ創世スクエア内のコージェネ

また胆振東部地震では、両社から防災に関する提案を受け設備を設置していたユーザーからうれしい反響も。停電時でも空調の自立運転が可能で、一部の電気が使える電源自立型ガスヒートポンプエアコン(GHP)を導入していたユーザーからは、空調を復帰させることができ、真冬の被災でも安心だとの声が寄せられたのだ。

道内の防災意識依然高い 自立型GHP導入進む

大規模地震の被災経験から、道内では防災に対する関心が高まっている。自治体による具体的な事例の一つに、札幌駅前の地下歩行空間への非常用発電機導入がある。胆振東部地震の際に、地下歩行空間を帰宅難民などの避難施設として使用した。一時的な停電に見舞われたものの、早期に復旧。この反省を踏まえ、強靭性向上のため、札幌市や北海道開発局などが非常用発電機を導入。同様の事態に備え、設備を整えている。

「胆振東部地震による被災から5年が経ち、ブラックアウトを経験したみなさんのレジリエンスへの意識は、当時よりは薄れてきているが、依然として高い」と、北海道ガス第一営業部都市エネルギーグループの伊藤智徳マネージャーは話す。

被災直後は電源自立型GHPや都市ガス仕様のコージェネ・発電機の引き合いが増加。通常のGHPから設計変更したホテルもあった。ほかにも、道内チェーン店舗を展開する企業では、本社社屋に自立型GHPと都市ガス仕様の発電機、札幌市内の旗艦店には自立型GHPを導入した。社員と地域住民のレジリエンスに貢献したい考えだという。

近年の環境性への関心の高まりから、法令で設置が義務付けられている主に重油・軽油仕様の非常用発電機に加えて、都市ガス仕様の発電機の導入を検討する需要家もいる。またガスシステムの導入で、省エネ性・強じん性・環境性を並立できるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)をアピールしており、導入事例が増えている。

「防災設備は災害が起きなければ必要ないものになり得る。被災から時間が経った後にどう訴求していくかが重要。料金メニューやサービスを組み合わせて提案を行っている。最近は脱炭素が注目されているが、レジリエンスも国や自治体に理解していただけるよう、啓蒙していく」と、伊藤氏は意気込みを語った。

【特集2】大地震からのガス復旧に貢献 重要施設向け製品が好調

【I・T・O】

ガス供給機器メーカーのI・T・Oが35年にわたり注力するのが移動式ガス発生装置だ。1995年の阪神・淡路大震災、2004年、07年の新潟中越地震と中越沖地震、甚大な被害をもたらした東日本大震災、記憶に新しい16年の熊本地震や18年の大阪北部地震―。いずれの地震においても都市ガス事業者は同装置を携えて被災地で復旧作業を行った。
移動式ガス発生装置の誕生は、90年までさかのぼる。当時、旧通産省では都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画を進めており、日本ガス協会のワーキンググループで13Aに統一するための熱量変換工事用設備として移動式ガス発生装置を取り上げた。しかし︑当時のガス事業法では使用が認められておらず、阪神・淡路大震災の際︑避難所で都市ガスが使えず各方面から指摘された︒﹁移動式を活用できないか﹂との要望で急きょ制度が見直され、同年中に製品化にこぎ着けた。


簡単に操作できる装置 病院など重要施設向けに販売

被災現場では一刻も早い復旧が求められている。特に避難所となる学校や、病院や福祉施設などはエネルギーが不可欠だ。そこで、同社はだれでも簡単にタッチパネルで操作して供給できる液化石油ガスエアー(プロパンエアー)発生装置「New PA」を開発した。現在は、同装置を組み込んだ都市ガスと電気を製造する防災減災システム「BOGETS」として販売している。これはNew PAと、都市ガスとプロパンエアーを切り替えるワンウェイロックバルブ、耐震LPガス容器スタンド、ガス成分とガス臭を吸着するパージユニットなどで構成される。
「医療機関は既設の発電機が医療設備の稼働に利用できると思っているが、実際はスプリンクラーなど消火設備向けなので利用できない。小中学校では体育館の空調設置がこれから進む。そうした施設に向けてガス発電機と合わせてさらに拡販していきたい」と営業本部長の高野克己氏は話す。

防災減災システムの核となる「New PA」


今年も台風が甚大な被害をもたらしている。全国各地の自治体がBOGETSに関心を寄せているという。災害に欠かせない存在として、さらに普及していきそうだ。

【特集2】CO検知で火災通報をより早く 安全向上に警報器買い替えを促進

【新コスモス電機】

新コスモス電機の一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」が発売から半年で2万台を突破するなど好調だ。同製品は100ppmの一酸化炭素(CO)を検知すると、音声で注意報を発するとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げ、煙センサーのみの火災警報器より早く発報するなどの特長を持つ。

一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO」


火災実験ラボ開設 多くの来場者で好評

2011年に全ての住宅に火災警報器の設置が義務化され、今年6月時点での設置率は84・3%に達する。設置の普及により、住宅火災による年間死者数は900人と減少したが近年は横ばい状態だ。令和4年版の消防白書によると、建物火災による死因のうち、CO中毒・窒息が4割を占めている。COは血液中のヘモグロビンと結び付きやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭。1分1秒でも早くCOの存在に気付くことが生死を分けることになる。「火災原因のトップはタバコの火の不始末による寝具への着火。布団は不完全燃焼を起こしやすく、炎はほとんど出ない。CO検知での注意喚起が有効」とリビング営業本部開発営業部の大和功部長は説明する。
新コスモス電機は5月に火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。COの危険性と合わせて、プラシオの有効性を伝えるための施設となっている。ラボ内では、寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団に火をつけ、煙式のみの火災警報器よりCOを検知するプラシオの方が早く警報する様子や、天ぷら油を熱して熱感知式より煙感知式の警報機の方が早く発報する様子など、火災と警報器の様子などが体験できる。

連日盛況のプラシオラボ


「開設して数カ月経つ。ガス業界や消防関係などを中心に多くの方に来場していただいている。10月までほぼ毎日予約で埋まっている」(大和部長)と盛況だ。
同社では小中学生を対象に「COとはどのようなガスなのか」といった内容を分かりやすく説明する教育プログラムも実施する予定。さらに、アミューズメント感覚で消費者が火災や警報器について理解できる内容なども目指す方針だ。
警報器は電池駆動で、寿命は約10年程度。前述の火災警報器の義務化の時期に設置した製品がちょうどリプレース時期に当たる。警報器が作動しないと、火災が増える可能性がある。同社では、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、電子商取引(EC)サイトや全国の家電量販店、ホームセンターに拡大するなど、販売活動に力を入れ、リプレースを促していく構えだ。

【特集2】大災害の教訓を対策に反映 業界を越え協同で備える

近年、地震や台風をはじめとする災害が激甚化している。関東大震災から100年を数える今、エネルギー業界の災害対策を追った。

防災の日の由来となった関東大震災から100年の節目を迎えた今、エネルギー業界ではさまざまな災害対策が進められている。東京ガスは7月、関東大震災と同様の台風と地震、地震による火災と津波を想定した「複合災害」の訓練を行った。同社が複合災害の訓練を行うのは今回が初めてだ。グループ全体と協力企業を含め約2万人が参加。さらに東京ガスネットワークと協定を結んでいる警視庁との連携も確認した。

東京ガスの訓練の様子

関東大震災の死者約10万5000人のうち、火災の死者は約9万2000人に上る。こうした犠牲者を減らすべく、新コスモス電機は一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO (プラシオ)」の普及拡大を目指す。兵庫県三木市に「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開設し、火災と一酸化炭素の危険性、火災警報器の重要性の周知に努める。

業界の垣根を越えた連携にも注目だ。関西電力送配電は、自衛隊とは被災地へ駆けつける訓練、NTTグループとはNTTの電柱に電線をはり電力を復旧する応急送電訓練を行うほか、阪神高速道路とは災害時の停電・交通情報の共有やサービスエリアを復旧拠点として利用する協定を結んでいる。自治体とも協定を締結しており、今後は拡大していきたい考えだ。

自治体との協力が奏功 BCP対策機器の導入も

エネルギー事業者と自治体による街づくりが防災に奏功した事例がある。北海道ガスが手掛けた複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターと、札幌都心部の熱供給ネットワークだ。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、停電を免れ、エネルギー供給を継続できた。また、石油業界と「ランニングストック」と呼ばれる対策を進めているのは、東京都だ。都内150以上のガソリンスタンドと連携し、一定量のガソリンや軽油を確保している。都が平時からこれらの燃料の消費を担保し、有事に品不足を回避。そして、非常時には緊急車両などに優先的に供給を行う仕組みだ。

激甚災害が頻発する中で、BCP(事業継続計画)対策機器への関心も高まっている。ガソリン計量機メーカーのタツノでは、緊急用バッテリー可搬式計量機や給油所向けの緊急用発電機などを提供。災害で停電が発生したり、地下タンクへの配管などに被害が出たりしても、営業の継続が可能だ。

こうしてエネルギー事業者や自治体、メーカーなどが持てる技術や知見を集結させ、来る激甚災害に備えている。

【特集2】高耐震化で供給継続と早期復旧 支援経験を生かし対応力強化

西部ガス】

西部ガスでは都市ガス事業の保安施策全般にわたる計画として、中期保安基本計画「Volante(ヴォランチ)2024」を策定しており、2022年度からの3カ年の目標・重点取り組みを設定している。

ヴォランチ2024は、西部ガスグループの中期経営計画「Next2024」、経済産業省が定める「ガス安全高度化計画2030」などと密接に連動し、生産・供給・消費機器保安部門が共同で策定。三本柱で構成され、柱の一つ「保安レジリエンス強化」では、①保安高度化、②災害時の対応力強化、③グループ大での連携強化―を重点課題としている。

熊本地震発生時、同地区は地震計のSI値がガスの緊急停止判断基準である60カイン以上になった場合には、ガス導管に被害が確認されていなくても、中圧のガバナー(整圧器)を安全のために遮断する「中圧遮断方式」を採用していた。そのため、同地区のほぼ全域の顧客(約10万戸)のガス供給を停止した。

通常、供給の再開には、ガス導管の安全確認などを経て、全ての顧客を一戸ずつ訪問して開栓するため、時間がかかる。しかし、ガス導管の被害が少なかったこともあり、当初の予定より約1週間早く復旧を完了した。同社は熊本地震発生前から、古くなったガス導管を耐震性や耐食性に優れたポリエチレン製のガス導管に取り換えるなど耐震化対策を進めており、熊本地震発生時には、耐震化率が85%を超えていたことが早期復旧の大きな理由だ。

一方、この経験から課題も見えた。中圧遮断方式は供給元から遮断するため、被害のない区域も一体的に供給停止を行うことになる。地震後は、さらなる供給停止戸数の縮減と復旧期間の短縮を目指して、福岡・北九州地区で採用していた「低圧遮断方式」への移行を進めた。

熊本地震での導管復旧の様子

低圧遮断方式に移行 ブロック細分化で供給継続

低圧遮断方式では、低圧の導管網をいくつかの地域(ブロック)に細分化し、被害が大きな地域だけ供給停止を行うため、供給停止区域を最小限に抑えられる。現在は熊本・長崎エリアで移行を完了。佐世保エリアも数年以内に完了する予定だ。

同社供給エリアの低圧導管の耐震化率は、経産省が「ガス安全高度化計画2030」に掲げる目標として「30年度に95%」であるのに対し、22年度末で90%を超えている。ブロックの細分化を進め、耐震化率の高いブロックなどは、緊急停止判断基準値を60カインから引き上げて、安全確保を大前提とした供給が継続できるよう努めている。

災害発生時に同業他社から受けた応援経験も今後の対策に生かしていく。被災後の早期復旧に向けては、迅速な復旧計画の策定が重要であると再認識。復旧計画の策定要員を固定化し、継続的な訓練を実施して災害対応力の向上を図る。防災保安部の窪田隆介マネジャーは、「災害が起こっても被害を最小限に抑え、1日でも早く復旧できるよう、社員の意識向上も含めグループ一丸となって防災対策を着実に進めていきたい」と話している。

【特集2】合成燃料用試作プラントを建設 サプライチェーンの構築を急ぐ

【ENEOS】

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、ENEOSは次世代エネルギー事業に多角的に参入し、合成燃料の開発において、合成燃料やSAF(再生航空燃料)などにも取り組む。2040年までに、合成燃料はプラント規模として日産1万バレル程度、SAFは国内最大の供給体制を確立しシェア50%獲得を目指している。

5月にトヨタと合成燃料の走行試験を実施した

合成燃料の開発は22年にグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として採択されたことを契機に研究を本格化した。GTL(ガス液化油)技術で培ったFT(触媒反応)合成技術やアップグレーディング技術などを活用し、合成粗油を製造、精製することで目的の液体燃料をつくり分けることができる。

合成燃料は石油由来の製品と同等の性状でありながら、水素とCO2を原料とするため、製品ライフサイクル全体においてCO2排出量を抑えることのできるCN燃料である。

合成燃料の実用化に向けた課題はコストだ。大量の再エネ水素と高濃度のCO2を調達し安価な製造が必須と言われている。経済産業省の試算によると現状の製造コストは1ℓ当たり700円程度で、内訳は水素が634円、CO2が同32円、製造コストが同33円。水素が合成燃料コストの大半を占める。将来、海外の水素価格が政府目標の127円まで下がれば、そのコストは200円程度に下がると予測されている。

早坂和章サステナブル技術研究所長は「製造コストの大半を占める再エネ水素を安価に調達しなければならない。まずは国内でサプライチェーン構築に向けた開発を行う。商用化の製造拠点は決まっていないが、海外での製造も想定している」と説明する。

この目標に向けて、同社では日産1バレルのベンチプラントを24年度上期から運転を開始し、検証を行う。その後、同300バレルのパイロットプラントの運転を通じ、その後できるだけ早い段階での社会実装を目指す。

航空燃料の10%をSAFに 和歌山製油所を製造拠点

SAFでは、政府が国内航空会社や石油元売りに対し、30年までに航空燃料使用量のうち、10%をSAFに置き換えるよう促している。これに対応するため、ENEOSでは、和歌山製油所を活用し製造体制確立に取り組んでいるほか、国内生産開始前の対応として、輸入体制構築を進めている。

SAFの原料調達・製造技術においては、ノウハウと実績を持つ仏エネルギー大手のトタルと協業。将来的に両社は年間30万t(40万㎘)のSAF製造を想定し、製造事業を行う合弁会社を設立予定だ。海外でも、日本への輸出を視野に入れ、豪州Ampol社と製造設備投資に関する初期検討を開始した。

開発や事業化の取り組みが急速に進む合成燃料とSAF。石油元売最大手の取り組みが今後の動向の大きな鍵を握っている。

【特集2】メタネーションの要となる技術 排ガス・大気中からCO2を回収

【東邦ガス】

水素とCO2からメタンを合成するメタネーションのキーテクノロジーとして、東邦ガスが研究開発に注力するのは、原料となるCO2の分離回収技術だ。早期社会実装を目指し、技術の確立やコスト低減といった課題に立ち向かう。

一般的に、CO2の分離回収技術には三つの方式がある。液体に溶け込ませて別の場所で放出させる化学吸収式、多孔体の表面に付着させて回収する物理吸着式、ガスのうちCO2を優先的に通す膜を用いる膜分離式だ。同社は分離回収対象を①需要家先、②LNG基地近傍の発電所など、③大気中―の三つに分類し、特徴に合わせた技術開発を行っている。

①では、工場などの排ガスからCO2を分離回収する。回収量が比較的少ないことや、設備の設置スペースの制限などが課題となる。こうした中小規模の場合、低濃度のCO2に対してもコンパクトに設備導入が可能な物理吸着式や膜分離式が適すると考えている。

物理吸着式や膜分離式でのコスト低減には、吸着剤や分離膜の性能向上が必須となる。東邦ガスは大学やメーカーと協力し、さまざまな素材を模索中だ。実験とシミュレーションで、物理吸着と膜分離の最適な組み合わせや順序なども探究。機器によって量やCO2の濃度が異なる排ガスに、オーダーメイドで対応できるよう、試行錯誤を重ねている。2030年までの社会実装を目指し、22年度から模擬排ガス・実排ガスでの評価を行い、20年代半ばからは需要家先での実証を予定している。

②では、化学吸収式とLNGの未利用冷熱を組み合わせた「Cryo-Capture(クライオキャプチャー)」を開発中だ。同技術はグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択され、CO2回収コストの抜本的な低減(1t当たり2000円台)を目標としている。

クライオキャプチャーは、吸収塔、再生塔、昇華槽で構成される。まず吸収塔下部から排ガスを送入し、上部から散布する吸収液でCO2を分離。CO2が溶け込んだ吸収液は再生塔に送られる。吸収液からCO2を放出させることを「再生」といい、LNG冷熱を活用した減圧により再生する。

再生塔とつながる昇華槽をLNG冷熱で冷やすと、CO2のドライアイス化(昇華)が起こる。昇華により体積が小さくなる原理を利用し、ポンプを使わずに減圧することが可能だ。この減圧再生で、吸収液からCO2が放出されていく。こうして生成されたドライアイスは、復温で高圧ガスや液化炭酸として取り出すこともできる。

クライオキャプチャーのCO2分離回収の仕組み

LNG冷熱を有効活用 少量のエネで分離回収

クライオキャプチャーの特長は、少ないエネルギー投入でCO2回収を実現する点だ。吸収液を再生するとき、通常のボイラーによる加熱再生とは異なり、未利用だったLNG冷熱を有効活用し、燃料は不要。減圧する際にポンプも使用しないため、電力消費もない。

28~30年度のパイロット実証フェーズでは、LNG基地にパイロット機を実際に設置する予定。回収したCO2と水電解で製造した水素を用いたメタネーションなど、一連のカーボンリサイクル実証を行う計画だ。

LNG基地実装イメージ。カーボンリサイクルの実証を行う予定だ

③では、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」において、大気中のCO2直接回収の研究開発を行っている。排ガス中のCO2濃度が約10%であるのに対し、空気中の濃度は400ppm(0・04%)と、排ガスの100分の1以下でとても希薄だ。ゆえに、空気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の技術的難易度は、非常に高い。

DAC技術には、主に化学吸収式や固体吸収式が用いられる。吸収液や吸収材からCO2を放出させるためには高温の熱源が必要であり、エネルギーを大量に投入することになる。東邦ガスが手掛ける「Cryo-DAC(クライオダック)」は、クライオキャプチャーと同じ仕組みのため、少量のエネルギーでCO2を分離回収できる。

ムーンショット型研究開発事業の研究開発期間は、最長10年間。そのうち、22~24年度でベンチスケールの装置を開発し、25~29年度でパイロット機を開発する計画だという。クライオダックはその研究成果を評価され、第一ステージである20~22年度の審査を見事に通過。23~24年度の研究開発継続が決まった。

「CO2の分離回収技術は、脱炭素の要となる技術。回収したCO2を再利用したe―メタンは、CO2排出が実質ゼロとなることに加えて、そのe―メタン利用時に発生するCO2を回収し、固定化や地中に埋めるなどすれば、カーボンネガティブが実現できる可能性もある。e―メタンをはじめとしたカーボンリサイクルの取り組みを進めていきたい」と、技術研究所環境・新エネルギー技術グループの薮下雅崇チーフは語る。

国内外での検討が進行中 地産地消の取り組みも

こうした革新的なCO2分離回収技術の開発と同時に、メタネーション技術の実証や国内外での実案件の事業性検討も着々と進めている。国外では、30年にはe―メタン1%以上の導入を目指して、三菱商事と東邦ガスを含む大手都市ガス3社による北米での事業性検討などに取り組んでいる。国内では、地域のCO2を活用する知多市との実証、アイシン、デンソーとの中部地区におけるCO2地域循環モデル検討などが進む。

知多市との実証では、下水処理場から出るバイオガス由来のCO2を利用する。毎時5㎥ほどの小規模な実証だが、①バイオガス由来のCO2の利用、②都市ガスの原料として利用するのは国内初、③実証段階から水電解による水素にこだわる―というのが特長だ。

アイシン、デンソーとはCO2の地産地消による循環モデルの事業性検討も行う。工業地帯の中部地区では、ものづくりにおけるCO2排出は大きな課題だ。東邦ガスは地域の課題を地域で解決することを探索し、CO2の循環をソリューションとして捉えている。

メタネーションをはじめカーボンリサイクルの要となるCO2の分離回収技術に可能性を見出した東邦ガスの挑戦に、今後も注目だ。

【特集2】革新技術で高効率・低コスト化 自社実証・海外検討と並行

【東京ガス】

ガスのカーボンニュートラル(CN)化技術であるメタネーションの開発が加速している。東京ガスは①国内小規模実証、②国内地産地消、③海外大規模製造・サプライチェーン構築―の取り組みにより、2030年のe-メタン1%導入を目指す。

①では横浜テクノステーションなどでの自社実証が進行中だ。22年3月にスタートした実証は順調。製造能力は12・5N㎥/時で、純度97%以上のe-メタンを製造する。現在は、再生可能エネルギーの変動を考慮した負荷変動特性評価などの試験が行われている。今年度中を目途にITM社製の水電解装置の導入を予定しているほか、近隣施設で排出されるCO2を有効活用する準備も進められている。

②では横浜市の清掃工場や下水処理場の排ガスやバイオガス、再生水などを活用する地域実証モデル構築や、富士フイルムとその工場が位置する南足柄市とのものづくりにおけるCNモデルの確立などを検討している。

横浜テクノステーションの実証は順調に進む

進む海外での事業性検討 適切なルールの確立も

③では海外サプライチェーンの構築も進む。メタネーションは、液化・出荷基地やLNG船、受け入れ基地など既存の都市ガスインフラを利用できるというメリットを持つ。設備の新設が必要な液化水素やアンモニアと比べて、コスト面において優位といった試算もある。ゆえに、水電解に使用する再エネ由来の電力が安価な海外でe-メタンを製造し、日本へ輸送する方法が検討されている。

候補地としては北米や豪州、マレーシアなどが挙げられ、グローバル企業や総合商社と事業性検討を行っている。中でも、先行しているのは、三菱商事と東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの4社で取り組む米国でのプロジェクトだ。具体的には、テキサス州・ルイジアナ州でのe-メタン製造、キャメロンLNG基地などの既存サプライチェーンを活用した液化・輸送などに取り組む。このプロジェクトでは、都市ガス3社合計で年間1億8000万N㎥、そのうち東京ガスは年間8000万N㎥のe-メタンを調達する予定となっている。

海外で製造したe-メタンを日本で使用する場合、いくつかの課題がある。その一つが「CNの価値」を誰が有するのかという点だ。e-メタンはCO2を回収してつくられるため、トータルではCO2排出実質ゼロとなる。国境を越える場合には、e-メタン燃焼時の排出をカウントしないなどの二国間のルールづくりが必要だ。また、流通などの過程でe-メタンの環境価値を適切に管理できる証書制度や価値取引の仕組みなども求められる。加えて、現状e-メタンはLNGよりも高価なため、社会実装には水素・アンモニアと同等の価格差に対する支援も必要となる。

「いずれも当社だけでは解決できない課題なので、国や業界を巻き込んで仕組みや制度を確立できるよう働きかけている」と、水素・カーボンマネジメント技術戦略部革新的メタネーション技術開発グループの小笠原慶マネージャーは話す。

革新的技術で効率向上 既存技術の課題をクリア

三つの取り組みと並行して、革新技術のハイブリッドサバティエとPEM(固体高分子膜)CO2還元の技術も開発中だ。既存技術のサバティエ方式は古くから知られているが、装置コストの低減や合成効率の向上、大規模化に向けたシステムの大型化、熱マネジメントといった課題もある。こうした課題をクリアするのが、二つの革新的メタネーション技術だ。

ハイブリッドサバティエのデバイス
PEMCO2還元のセル

ハイブリッドサバティエは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、PEMCO2還元は大阪大学と連携して開発を進めている。ハイブリッドサバティエは、もともとJAXAが宇宙船の中で空気を再生するために開発を始めた技術だという。これを地上でのメタン製造に応用。低温でのサバティエ反応と、そこで発生する熱を水電解へ利用する。既存技術のサバティエ方式では約500℃の大きな発熱を伴うのに対し、ハイブリッドサバティエでは水電解で80℃、サバティエ反応で220℃ほど。熱の活用により、電気分解に必要な電力の削減を実現する。

また、排熱の水電解への利用によって50%程度だった効率を、将来的には80%以上に引き上げることを目指す。さらに、ハイブリッドサバティエは既存技術の組み合わせで構成されるため、早期の実用化も期待されている。

一方、PEMCO2還元の特長は、一つのデバイスでメタネーションが完結することだ。水電解と類似したセルスタックを開発。一つのセルで水だけでなくCO2も還元する。そのため、シンプルかつコンパクトなシステムとなる上、コスト低減にもつながる。また、電極の条件などを変えることでメタン以外の副生成物の合成が可能。eフューエルなどへの展開も視野に入れ、30年以降の実用化を目指している。

東京ガスが手掛ける革新的メタネーション技術―。その社会実装に期待が高まる。

【特集2】病院や特養向けに販売拡大 災害対応バルクと周辺設備を提案

【I・T・O】

LPガスの個別供給の強みが発揮できる用途の一つに、災害への備えがある。地震などで供給がいったん停止しても、調査・点検が終了すれば、すぐに使用可能とあり、非常用発電機を稼働して電源を確保したり、炊き出しによる食事の提供、冷暖房の利用など、避難所における最低限の生活確保にLPガスは欠かせないものとなっている。

発電機やGHPをセットで 被災した経験を生かす

こうした災害対応する設備として、I・T・Oの災害対応型LPガスバルクの販売が好調だ。LPガスは東日本大震災発生時に災害に強い分散型エネルギーとして評価され、政府の国土強じん化基本計画に「LPガス等の燃料供給インフラによる災害対応能力の強化」と記された。この目標達成のため、補助金が拡充され、災害対応型バルク導入を導入する施設が増えている。その中心は病院や特別養護老人ホーム(特養)、避難所指定された公共施設などだ。特に病院や特養は避難困難者が多く、透析治療など電気が常に必要となる。「近年、大災害の発生が増えている。特養は建設時にBCP(事業継続計画)対策の提出が求められている。当社ではLPガス発電機やガスヒートポンプ(GHP)を災害対応型バルクとセットで提案しており、こうしたニーズにうまくはまっている」。営業本部企画課の松原巧己氏はそう説明する。

具体的には、発電機やGHPは他社製品を取り扱う。顧客が希望する発電量などによって各社の製品群から選択できるよう紹介する。災害バルクを単品で販売するメーカーが多い中、関連設備の知識を持ち合わせた点がI・T・Oの強みになっている。周辺設備では、SR空温式蒸発器が災害対応向けで販売を伸ばす。アルミフィンの中をLPガスが通り気化するため、電気がなくても使用可能なためだ。

「東日本大震災発生時、当社の仙台営業所が被災した。その時、営業所に設置していたバルクで煮炊きするなど、社員だけでなく周辺住民の救済にも役に立った。この教訓が、現在のバルク販売のノウハウに生きている」と松原氏。

I・T・Oの提案がライフライン確保を目指す企業や団体に今後も大きく寄与していきそうだ。

【特集2】LPガスならではの注目商材 分散型エネの新たな使い道

LPガスの特長といえば、分散型エネルギーで災害に強く、可搬性に優れていること。こうした利点を生かして、ユニークな製品・ビジネスが展開され始めてきた。

【リバティシップ/国産木材でつくる地産地消のサウナルーム】

コロナ禍において顕在化した「一人の時間を充実させたい」というニーズとマッチし、ブームとなっているのがサウナだ。Libertyship(リバティシップ)が手掛けるバレルサウナ「ONE SAUNA(ワンサウナ)」は、国産木材を使用した樽型のサウナルームで、自宅や別荘などに手軽に設置できる。熱源は電気、都市・LPガス、薪の3種類。サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるセルフロウリュも可能だ。LPガスを用いた事例としては、別荘のサブスクリプションを展開するSANU(サヌ)のCabinや、鳥取県の閉校になった小学校を活用した宿泊施設OOE VALLEY STAY(オオエバレーステイ)などがある。豊かな緑に囲まれ汗を流す気分転換に、LPガスが一役買っている。

【ホンダ/LPガス式発電機で非常時やレジャーに対応】

BCPや防災対策の観点から、非常時でも活用できる発電機の重要性が増している。発電機向け燃料として、LPガスは非常に有効だ。かつて家庭用ガスエンジンコージェネ「エコウィル」を開発していた自動車メーカーのホンダは可搬性を有する小型LPガス発電機を販売中。カセットガスやLPガスで稼働するもので、カセットガス式(900VA)は、持ち運びに便利なハンディタイプ(写真左)。場所をとらずにすっきりと収納できる。低温下で気化しにくくなるカセットガスでも、同社独自の技術で広い温度範囲での使用が可能。カセットガスは手軽に入手でき、非常用利用はもちろん、レジャーにも活用できる。写真右は家庭用のLPガス容器からの燃料で発電するタイプだ。

【橋本商会/使いやすさにこだわったキッチンカー】

橋本商会はキッチンカーの製作・販売を展開中。専門の建築士がオペレーションや動線を考慮し使いやすさにこだわったキッチンカーの内装設計を実施する。同社は自動車販売を手掛けており、長年の実績から優良な中古車を選定。コストを抑えつつも理想のキッチンカー製作を実現している。レンタルやリースのほか、出店サポートなども行う。キッチンカーでの調理に関してはLPガスを推薦する。「IHなど電化厨房機器を希望する顧客もいるが、雨天時の運用など安全性などを考えるとLPガスの方が安心だ」(担当者)。キッチンカー販売においては、関西圏なら質量販売を実施する事業者を探し、顧客に紹介するところまでを手掛けるなどフォローも万全だ。

【山岡金属工業/野外でも安全に暖を取れる画期的ストーブ】

創業以来、60余年にわたりさまざまな製品の企画開発、販売を行ってきた山岡金属工業。ヒット商品の一つが、屋外用ストーブ「パラソルヒーター」だ。野外イベントやガーデンテラスなどの屋外スペースに最適で、空間を暖かく演出する。スリムなボディーはステンレス製で、屋外での使用でも高い耐久性と耐食性を確保した。LPガスボンベタイプなら、電気コードやガスホースの制限がなく、設置場所も選ばない。さらに夏には、パラソルヒーターがミストクーラーに早変わりする。水タンクなどを簡単に取り付けでき、ミストを360度噴霧することで機器周辺の温度を下げる。コロナ禍以降、高まっている屋外での飲食需要に伴い、同製品の需要もうなぎ上りだ。

【ジーアイビー/コインランドリーを一時的な避難所に】

ジーアイビーはコインランドリー「ブルースカイランドリー」を展開している。全国234店舗のうち、117店舗が災害対応型ランドリーだ。災害対応型ランドリーでは3日分のLPガスと、発電機やガスコンロ、炊き出しセットなどを常備。スマートフォンの充電なども可能となっている。設置のきっかけは2019年の台風15号だ。千葉県で発生した大規模停電により、洗濯機を使えない多くの住民が訪れた出来事をもとに誕生したという。現在、全国20市町村17自治体と災害協定を締結し、7回の防災訓練を実施。内閣官房が発行する『国土強靭化民間の取組事例集』にも掲載された。コインランドリーとして地域住民と関わりながら、防災訓練を通じて防災意識の向上に貢献している。

【パナソニック/LPガス冷媒のショーケース新発売】

業務用製品でも温室効果ガス対策でプロパン(R290)を自然冷媒に利用する動きが出てきた。パナソニックはこのほど、地球温暖化係数3のR290を使用したノンフロン内蔵型冷蔵オープンショーケース3機種を発売した。同製品は店舗での使用シーンや季節、販売する食品・飲料などに応じて、陳列棚のホットとコールドの運転切り替えが可能だ。自然冷媒を使用するとともに、DCインバーターコンプレッサーや高輝度LED照明を搭載し、消費電力量削減にも貢献する。同社は今後も、R290に加え、CO2冷媒(R744)や、イソブタン冷媒(R600a)などの冷媒を製品の特性や大きさに応じて使い分けながら、コールドチェーン機器のノンフロン化を推進していく。

【特集2】デラックスタイプの新製品発売 高級感ある外観と性能を兼ね備える

【リンナイ】

リンナイは7月12日、ガス衣類乾燥機「乾太くん」デラックスタイプを発売する。2013年の登場から10年ぶりのフルモデルチェンジとなる。

乾太くんにはスタンダードとデラックスの二つのタイプがある。もともとは、手前から温風が出て、ドラムの奥に糸くずフィルターがあるスタンダードタイプのみの展開だった。その後、フィルターが手前にあると手入れをしやすいというニーズから、デラックスタイプが誕生した。

ドラム内が見える窓付き 糸くずフィルターに工夫

今回のフルモデルチェンジによって、①容量の拡大、②デザインの刷新、③新たな衣類ケアコースの搭載―の3点が更新された。①は従来の5㎏から6㎏への拡大に加え、大容量の9㎏モデルも新たにラインアップした。洗濯機の大容量化に対応しながら、設置スペースを考慮。高さと横幅はそのままのサイズで奥行きのみを変更し、容量の拡大を図った。②は高級感のある外観とした上で、使用感にもとことんこだわった。「扉の開閉時の重厚感や操作パネルやダイヤルのクリック感は特に意識した」。営業本部営業企画部の中尾公厚部長はこう話す。③は高温の温風でのケアが難しい革製品やデリケートな衣類などに対応。シャープのプラズマクラスターによる除菌・消臭を図る新コースを設けた。

近年、共働き世帯の増加などから、家事の効率化ニーズが高まっている。今回のフルモデルチェンジでは「複数の家事を並行する中で進行状況を確認したい」という要望に応えるべく、ドラム内が見えるよう扉に窓を取り付けた。従来のデラックスタイプでは扉の内側にあった本体側に設ける必要があった。そこで構造を一から見直し、本体入口下部の目立たない位置にフィルターを配置した。扉を開けたときのスタイリッシュさも重要視する徹底ぶりだ。

さらにスマートフォンアプリ「リンナイアプリ」との連携で、残り時間の確認や完了通知の受け取りができるようになった。乾太くんのアプリ連携は今回が初めてだ。SNSをきっかけとした購入が増えているという背景もあり、家電とスマホの連携に対するユーザーの関心は非常に高いという。

リンナイは乾太くんシリーズの23年度の年間販売目標として12万台を掲げている。「乾太くんは設置場所にガス栓を設ける必要があるなど、ガス事業者の協力が欠かせない。オール電化に対抗できる商品として『乾太くんを使いたいからガスを引く』と言ってもらえるようにしていきたい」と、中尾部長は意気込みを見せた。

【特集2】分散型の特性生かす展開 新商材などで評価高まる

LPガス自体の特性や独自のサプライチェーンを生かした新ビジネスが生まれてきた。カーボンニュートラルLPガスや新商材の普及などが注目されている。

2050年カーボンニュートラル(CN)に向けて、LPガス業界でも、さまざまな取り組みが進んでいる。これまで、ガスの普及拡大の取り組みを巡っては、元売りがサプライチェーン全域に関わっていくことで、供給者としての責任を果たしてきた。この手法は現在にも引き継がれ、CNLPガスの利用拡大、燃料転換、省エネ活動などに生かされている。

CNLPガス自治体で採用 元売りと特約店が連携

アストモスエネルギーは、CNLPガス普及のため特設ウェブサイトを開設したり、ウェビナーを開催したりするなど、広報活動を積極展開している。こうした活動と地元特約店の働きかけが功を奏し、昨年9月には山口県周防大島町にCNLPガス供給を開始した。このように、次世代に向けた取り組みにおいても、元売りと販売店、需要家が連携していく手法をとっていく。

LPガスの用途拡大に向けては、新たなアプリケーションの創出が欠かせない。11年の東日本大震災以降は、国からの補助金供出の効果も相まって、病院や特別養護老人ホームなどに災害対応型バルクと発電機、ガスヒートポンプ(GHP)をセットで導入する事例が相いでいる。また、学校や体育館にもバルクや空調を設置する動きも加速しており、防災兼用エネルギーとしてLPガスを選択するケースも出てきている。

質量販売で使われるパラソルヒーター

一般消費者向けでは、近年のアウトドアブームによって、キャンピングカーやバーベーキューコンロ、パラソルヒーターなどが人気でLPガスを利用したいという需要が高まっている。これらの製品は移動して利用するケースが多く、保安業務を担うLPガス販売事業者が30分以内で駆けつけられない事態が想定される。ゆえに、販売事業者は積極的に販売対応してこなかった。

これに対し、経産省は昨年7月、質量販売において法律を見直し、「質量販売緊急時対応講習」を受講すれば、需要家が緊急時に必要な措置を自ら実施できるようにした。これにより、前述のアウドドア製品のような今までになかった需要の創出など、新たな動きが出てくると見られる。利用者に魅力あるエネルギーとして、LPガスが改めて脚光を浴びそうだ。