【特集2】歴史的なLNG不足と高騰 大手電力経営への影響を占う


水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

LNG需給は、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに危機的な状況を迎えている。燃料の不足は即停電につながる。電力ビジネスの今後について専門家に聞いた。

大手電力のLNG調達担当にとって2022年度は忘れられない年になりそうだ。昨秋から既にタイトになっていたLNG需給は、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに危機的な状況を迎えている。

EUの脱ロシアエネルギー計画「REPowerEU」は、今年末までにLNG調達を3600万t増やすと謳う。わずか年3・5億tのLNG市場の1割にも相当する数字だ。ガスの不需要期に入って、いったんは落ち着いた市場も、冬場の需要期になれば不足する供給の奪い合いになりそうなのだ。

折しも、わが国の今冬の電力需給は東京エリアなどで予備率がマイナスと想定される極めて厳しい状況だ。燃料の不足は即、停電のリスクを招く。いまや一隻150億円もする購買に、社内からは量的な確保に加え、コストダウンのプレッシャーものしかかる。

思えばLNGの購買も変わったものである。ほんの10年ほど前までは、特定の生産者との20年にも及ぶ長期契約に基づき、年間の配船計画を粛々と実行するのが燃料担当の仕事であった。

いまやLNG取引は一隻150億円に上る

劇的に変化したLNG市場 スポット取引が全体の約40%

この10年ほどの間に、長期契約の仕向け地制約の見直しが進むとともに、供給側では米国、需要側では中国や欧州など、従来の商慣行に縛られないプレーヤーが増えたことで、LNGは一気に世界的なコモディティとなった。いまや世界のLNG取引のうち、約40%がスポットである。欧州のパイプラインガス市場とも一体化が進み、双方の需給が大きく影響し合うようになった。LNGを欧州の需要家と取り合うなどということは、ほんの5年前でも想像しづらいことであった。生産者と需要家に加えて、欧州の大手資源商社トラフィギュラや石油商社ヴィトールなどのトレーダーも市場の重要な担い手となっている。こうして購買担当のひのき舞台は、年単位に及ぶ厳しい長期契約交渉から、多様な相手との間で瞬時に取引を決断していく短期決戦の場に移りつつある。

日本において燃料が使用される環境も大きく変わった。例えば、電力自由化によって燃料費の高い石油火力の退場が進んだこと、太陽光を中心に変動再エネが大幅に増えたこと、そしてベースロードである原子力の多くが依然として休止していることなど、電源構成が変化した。LNG火力はミドルに加え、ベースやピークも一部担うようになった。

LNG火力はベースもピークも担うようになった

電力市場は様変わり 冬の陣をどう戦うか

ガスタービンが多いLNG火力は、再エネの出力変動に対する出力調整となる⊿(デルタ)kWは得意分野だが、従来石油火力が担ってきたような季節や景気変動による需要の変化に対応した発電量の増減(⊿kW時)はタンクの容量が小さいため苦手である。スポット取引が増えたのが救いだが、これとて需要が集中する冬季には思うに任せないことも多い。いったん調達難で発電が止まれば、原子力不在のベースロードも手薄になり、揚水の稼働すら厳しくなるのだ。

勇ましい表題をつけてはみたものの、短期的にできることは限られている。有事には、ロープ際に追い込まれる前に手を打っていくのが鉄則である。ここでは「モノの確保」「価格よりマージン」「総力戦」の三点をキーワードとしたい。

まずは「モノの確保」である。お客さまへの供給義務が存在する電気事業ではモノ(燃料)がないのは最悪だ。ロープ際ではkW時当たり200円の電気も買わざるを得ない。早め早めの手当が肝要だ。

二つ目は「価格よりマージン」である。現在のような高値相場になると、つい「上がりすぎ」と思い込み、調達や値決めをためらうものだ。ところが、ひっ迫した市場では何が起きても不思議はない。大事なのは価格そのものより、小売りや卸売りに対するマージンの確保だ。時にはロスを固定する判断も必要になる。市場の変動に晒される状況をいかに避けるかが大切だ。

三つ目は「総力戦」だ。実はコトはLNGでは完結しない。求められるのは需給運用全体の最適化だ。供給責任を満たしつつ、少しでも収支を改善するために、LNGに加え、石炭・石油などの燃料取引、火力の補修計画や貯水池・揚水など水力の運用、さらに卸・小売販売など、社内の需給対応機能をフル回転しつつ、緊密に連携させるということである。

20年代は「資源インフレの10年」になる可能性が高いように思う。ガスにおいては、LNG換算で年1億tを超える欧州向けのロシア産の相当量をLNG市場が受け止めねばならない。ところが、25年までは新規運開予定の大型LNG基地案件もなく供給増はわずかだ。LNG以上に新規投資がない石炭市場も緩和の見通しは暗い。こうした中、時代に適応する電力経営について考えてみた。

25年まで大型LNG基地案件はなく供給増はわずかだ

先に「総力戦」という言葉を使ったが、需給回りの各機能こそが電力事業のバリューチェーンだ。特にその上流(燃料)と中流(電力卸)の市場リスクはロシアのウクライナ侵攻以前から大きくなっていた。そのことを念頭に、LNG取引の在り方は無論、それを含めたバリューチェーン全体の再点検を提案したい。キーワードは「リスク管理」「組織」「上流」である。

まずは「リスク管理」である。大手電力のビジネスは、自由化とともに卸電力取引の発達や「域外」販売の増加などにより、仕入れと販売の在り方が複雑になってきた。そうした中で燃料や卸電力の市場価格変動が大きな経営リスクとして顕在化している。自社の発電所から「域内」販売というシンプルなモデルに適応した燃料費調整だけでは需給収支のリスクをカバーすることが困難になってきたのだ。今後は仕入れから販売の過程において、各市場の騰落の影響(感度)を洗い出し、ヘッジなどでリスクを最小化していく手順を整理し、それを遂行していく必要がある。

関連部門の全体最適と早い意思決定が求められてくる

資源インフレ時代へ 電力経営の進化に期待

二つ目の「組織」については2点指摘したい。まずは、燃料市場や卸電力市場の劇的変化に対応できるプロ集団を組織できているか、ということだ。価格の動きが激しくなった市場にあっては、機動的に高額の売買(購買だけではない)の判断をしながら、マージンを確定するヘッジ取引なども併せて実行する体制が必要だ。

もう一点は先ほどの「総力戦」を遂行する体制の構築である。市場の動きが格段に早くなっている中では、関連部門の「全体最適」の姿をいち早く描いて意思決定することが重要だ。例えば、市場をにらみながら需給最適に資すると判断すれば、一隻200億円のLNGの購買も、抑制してきた石油火力の補修費の大幅増による稼働増も、安売りで拡販してきた大口営業の単価の大幅引き上げも、ためらわず行わねばならない。「スピード感を持て」と言う前に、「仕組み」レベルで考えるときではないか。

最後のキーワードの「上流」は権益の話だ。危機的な状況になるほど、資源は持てるものが強いという現実が実感される。豪州や北米に権益を保有する会社は、その有り難みをかみしめているのではないか。燃料の安定確保には長契という手段も大切だが、燃料に対する長期的な権利、価格のヘッジ両面において権益には及ばない。ESGの流行で上流投資はすっかり「禁句」になったが、現在、日本の電力の7割は化石燃料で発電され、当面は一定量の使用を続けねばならないのも現実だ。

資源会社や商社などが上流から逃げ、市況高騰下においても各燃料の増産投資の動きは鈍い。自ら需要を持つ電力会社は、彼らよりもリスクは小さく、今後考えられる数少ない投資の担い手だ。容易ではないことを承知で、あえて提言する。

スーパーサイクルと言えるほどの燃料資源高騰期を迎えた電力経営であるが、こういう時代なればこその進化を期待したい。

みずかみ・ひろやす 一橋大学商学部卒、米ジョージタウン大学MBA取得。1983年北陸電力に入社し、2011年から燃料部長を務める。20年同社執行役員を退任し同年7月から現職。

【特集2】調達価格のボラティリティ低減へ LNG先物取引を試験上場


石崎隆/東京商品取引所社長

東京商品取引所(TOCOM)は今年4月、LNG先物取引を試験上場させた。化石資源を巡る国際情勢が激変する中、同市場が果たす役割とは。石崎隆社長に話を聞いた。

―東京商品取引所(TOCOM)の社長に就任されてからの2年の間に、エネルギー情勢は様変わりしました。
石崎 WTI原油先物は2020年4月20日に、史上初のマイナス価格を付けました。その当時、TOCOMが取り扱うドバイ原油の先物価格も1万円程度でしたが、今は9万円近くまで高騰。1kW時当たり6円程度だった電力先物価格も、現在は20~30円で推移しています。
 価格が安ければ現物市場での取引のみで済みますが、ここまでボラティリティが高まってしまうと、事業者はリスクヘッジの手段を講じざるを得ません。19年9月に試験上場した電力先物市場は当初、取引参加者が13社でした。しかし、昨年1月のスポット価格高騰を契機に参加者が増え、今年5月には146社に達しました。今は、価格変動が激しく証拠金の額が上がっていて、参加者にとっては相当な負担になっていますが、エネルギー市場がこれまでになく注目されているという意味でも、時代は大きく変わったと見ています。


JPXグループに統合 先物市場の三つの役割果たす

―TOCOMが日本取引所グループ(JPX)に統合されて2年半、4月にはLNGの先物も上場されました。改めて、エネルギー激動の時代におけるTOCOMの役割とは。
石崎 大阪取引所が取り扱うCME原油等指数先物を除き、TOCOMは総合エネルギー市場として、電力、原油、石油製品、LNG先物市場を運営しています。先物市場の主な機能は、現物市場における価格変動に対するリスクヘッジです。実際、電力先物は新電力の経営安定化に貢献しており、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場から撤退する事業者が相次ぐ中、TOCOMで撤退したのは1社だけです。
 また、価格発見機能の役割も果たしています。例えば、ベースロード市場の約定価格は電力先物価格を参照していますし、事業者間の相対による現物取引でも先物価格が指標にされていて、先物取引に参加していない事業者にも使っていただいています。さらには、信用リスクヘッジの機能も重要な役割です。信用力の高いクリアリングサービスの提供を通じて、取引相手が破綻した際のリスクを遮断することができます。
―エネルギー価格のボラティリティの高まりとともに、先物市場も存在感を増しているというわけですね。
石崎 経済産業省も、エネルギー先物市場を政策的に高く位置付けています。第六次エネルギー基本計画では、先物市場の活用という項目が盛り込まれましたが、先物市場の活用が閣議決定されたのは初めてのことです。ただ言えるのは、エネルギーの安定供給があってこそのマーケットだということです。先物市場だけで現在起きている問題を解決できるわけではなく、しっかりとした供給力の裏付けが前提になります。
―4月に本上場を果たした電力先物市場は、4、5月と取引高や取組高の記録を更新しました。
石崎 今年4月は取引高が3億kW時、5月は取組高が4億kW時超と、取引量は対前年比2倍に拡大しました。ですが、取引されているのは総発電電力量の1%以下にすぎません。欧米では発電電力量の数倍の取引量があるわけですから、成長しつつあるとはいえ、まだまだ初期段階であることに変わりはありません。大手電力会社も、子会社を含め半数近くがトライアル的に参加していますし、売り買い双方に実需家に入っていただくことが、市場育成のために非常に重要なことだと考えています。
―4月に試験上場したLNG先物市場の意義とは。
石崎 LNGは国際貿易において、原油、金、鉄鉱石に次いでコモディティとして4番目に大きな市場規模があります。低炭素化にも資する重要な資源ということで、世界的にも取引が拡大してきた中で先物市場を開設することになりました。電力と同様にLNGも、この数年間は、価格のボラティリティが高まり価格リスクのヘッジニーズは増していると考えています。

TOCOMが扱うエネルギー先物市場

LNG先物厳しい時期の船出 取引活性化へ着実に努力


―とはいえ、滑り出しは低調なようです。
石崎 確かに4月の試験上場後、取引が成立しない日が多い状況です。その背景には、ロシアによるウクライナ侵攻であまりに供給が不安になり、価格動向が不透明になったことがあります。欧州のインターコンチネンタル取引所(ICE)のLNG先物においても、今年3月までと4月以降で1日平均の取引量が半減しており、非常に厳しいタイミングでの船出となってしまいました。ただ、長期的に見れば、間違いなく価格リスクのヘッジニーズは高まっていますから、先物市場の必要性は十分にあると考えています。
 実は、昨年5月にLNG先物の制度を検討していた際には、証拠金の額を10万円程度と想定していました。証拠金は価格水準とボラティリティで決まるため、その後200万円程度まで上昇し、現在は100万円近い水準で推移しています。価格が落ち着くか、市場参加者がこの水準に慣れてくれば、取引は増えていくと思います。
―取引活性化に向けた課題はありますか。
石崎 原子力発電の再稼働が見通し通り進むのか不透明な中、LNGは今後10年、20年と必要とされるエネルギーであることに変わりはありません。世界的な需要は減るどころか増えるものとみています。そうした中で、先物市場を活性化させるには、取引量と取引参加者を拡大することが不可欠です。
現在のLNG取引資格取得者は商社など12社ですが、複数社が資格取得を準備しているところですので、参加者は拡大する見込みです。今後は、海外のエネルギー市場で活発に立会外取引の仲介を行っているインターディーラーブローカー(IDB)などにも積極的な参加を促していく計画です。流動性を拡大することで実需家に活用していただける市場になるよう、時間をかけながら着実に成長させるよう努めていきます。

いしざき・たかし 1990年東京大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁電力基盤整備課長、内閣府規制改革推進室参事官などを経て、2020年6月から現職。

【特集1】主要政党のエネルギー政策


自民

・代替先を確保しながら露へのエネ依存を低減。サハリン1・2やアークティック2などは引き続き権益を維持する。
・石油高騰対策による価格抑制効果は出ており、高騰がどの程度長期化するか見極め今後の対応を検討。家庭向け電気料金は燃料価格調整上限で値上げに一定の歯止め。また「原油価格物価高騰等総合緊急対策」に対応を盛り込んでいる。
・成長志向型カーボンプライシング(CP)構想を投資支援策と一体で検討。排出量取引を含むGXリーグの発展等、さまざまな手法を検討。
・石炭火力比率は安定供給を大前提に低減。脱炭素型火力への置換を促進。燃料確保については在庫モニタリングの継続や代替調達先確保へ。
・安全性確保を大前提、地元理解を得ながら再稼働を進める。新増設・リプレースは現時点で想定しないが、将来を見据え小型原子炉や安全性向上への研究開発、人材育成に取り組む。厳正かつ効率的な規制の実現を求め、運転期間制度の在り方を含めた長期運転の方策を検討、必要な措置を講じる。最終処分実現に向け、地域の理解を得ながら着実に進めることが重要。核燃サイクル推進の基本方針は堅持する。
・再エネは国民負担抑制と地域共生を大前提に最大限導入。太陽光の廃棄費用外部積み立てや、適正な設置管理、低コスト化の技術開発を進める。

立憲民主党

・日本が有する露権益について、国益上の観点を考慮しても、国際社会と共同歩調を取り(輸入規制も含めた)厳しい措置を求める。
・燃料価格高騰に対しては、5%への時限的消費減税とともに、トリガー条項発動やガソリン以外への購入費補助など、家計に直接届く総合対策をガソリン価格がℓ150円以下で安定するまで続けるべき。その結果、電気料金も抑制できる。そもそも政府が省エネへの努力を怠ってきたことも問題。
・全体の税負担軽減を図りつつ、CP、炭素税の在り方は税制全体の見直しの中で検討する。
移行期はLNG火力を中心に、既存設備を有効活用し、国が必要な設備投資、運転コストを支援。石油火力、石炭火力は緊急時のバックアップ用途が基本。将来的にアンモニア専焼やCCUSなどの可能性を探る。容量市場は、その効力の発揮前に電力不足が生じているとすれば政府の判断ミス。
・実効性ある避難計画や地元合意がないままの原発再稼働と、新増設は認めず。廃炉作業は国の管理下で実施。福島事故を教訓にした新規制基準、原則40年運転制限を遵守すべき。核燃サイクル中止を目指し、使用済燃料は直接処分。電力会社が有する使用済燃料は速やかに乾式貯蔵で一時保存を。
・まずは省エネを徹底。環境調和型再エネ事業を集中的に推進し、送電網整備、蓄電システム導入、技術開発などで安定した低コストの再エネ100%を実現。さらに「農山漁村ベーシックインカム」創設で、農林漁業者を支えるエネルギー兼業を推進。

公明

・現時点では露権益維持が望ましく、海外依存度の高いエネ構造の転換と調達先多角化の一層の推進が必要。省エネや再エネの徹底、自給率向上を通し、エネ安全保障強化とCNの両立目指す。
・石油元売りへの補助金は公明党の強い主張で9月末まで延長、拡充し、負担軽減に一定の効果。高騰がどの程度長期化するかを見極め、トリガー条項凍結解除も含め引き続き検討。電気料金については政府の供給面や需要面の対策がある中、公明党の主張で拡充された「地方創生臨時交付金」を公共料金引き下げなどに活用する。
・産業競争力強化と環境投資拡大を両立し得るCPの在り方を検討。安定的な移行過程の道筋を明確化。
・火力の高効率化やカーボンリサイクル、CO2貯留、直接回収等の研究開発と事業環境整備を推進。アンモニア混焼の促進と東南アジアへの技術輸出図る。
・原発再稼働は安全基準を満たした上で、自治体の理解と協力を得て判断。新増設・リプレースは認めず、将来的に原発に依存しない社会をつくる。40年超の再稼働はさらなる安全性確保のハードルが高く、国民の理解が重要。使用済燃料の貯蔵や高レベル廃棄物最終処分の課題解決の取り組みを進める中で、核燃サイクルも着実に進めることが必要。
・再エネ主力化には法令順守と地域の理解が必要。パネルや蓄電池のリサイクル、長寿命化を図る。FIPや入札制で電気料金(再エネ賦課金)低減へ。

共産

・露が侵攻を続ければエネ輸入を削減、停止せざるを得ず。輸入先の振り替え、省エネの徹底や再エネ拡大でエネ需要の削減へ。
・エネ価格高騰には「異次元の金融緩和」の見直し、消費税率5%への引き下げを。再エネ最優先の電力システム構築が急務。大手電力の市場支配力が圧倒的な中、公正な市場ルールの確立が必要。
・G7の議論や地震リスクを踏まえ、大型石炭火力新設を続ける施策はやめるべき。政府はアンモニア混焼を強調するが、計画的撤退の検討が必要。
・原発の再稼働、新増設・リプレースに反対。審査の「効率化」は安全軽視で、40年運転延長もすべきでない。使用済み燃料の地層処分にこだわらず、廃棄物量を増やさないためにも原発停止を。再処理もすべきでなく、高速増殖炉の見通しが立たない核燃サイクルの断念を。
・政財界が再エネ乱開発やFIT負担等の問題をなおざりにしてきたツケが再エネ導入遅れの最大要因。30年度までに発電の再エネ比率50%以上を目指す。

国民民主

・サハリン1・2の権益は維持すべきだが、露依存度は低下させることが必要。
・与党との3党協議で石油高騰対策の拡充延長を実現したが、トリガー条項凍結解除も必要。電気ガス料金には上限を設け、超過の場合は補助金等の価格抑制策が必要。特に電気料金抑制と需給ひっ迫回避には原子力活用を。
・短期的な需給調節機能の高い火力は一定量を確保。CCUS、アンモニア混焼、水素利用等の実現に向け政府が積極支援を。
・原発新増設は行わないが、基準を満たした原発再稼働と安定運転を図る。40年運転制限は厳格適用する一方、次世代軽水炉やSMR、高速炉等へのリプレースを実施。審査の効率化を進める。再処理は使用済み燃料の減容化等を進めつつ、可逆的な直施処分や暫定保管の方策も検討し、全量再処理政策の再検証を含め今後の在り方を検討。
・FITの支援対象重点化や賦課金減免の拡充等で再エネコストを低減。自家消費型の普及を前提とした託送料金改革を進め、再エネの早期自立を促す。

維新

・露権益からの日本撤退は露側に不利に働くとは限らず、慎重に判断すべき。調達先多様化を進める。
・現下の石油高騰には、消費税の軽減税率を8%から段階的に3%に引き下げ。その後は消費税本体を2年で5%に引き下げ、経済の長期低迷とコロナ禍打破へ。電気やガス料金は料金設定のあり方を見直し、激変緩和措置を講じる。いずれも法案提出済。
・火力の燃料費上昇や廃止に伴い電力市場価格高騰や新電力破綻が相次いだことから、電力市場改革について一層の見直しを行う。
・価格高騰や安全保障の観点から、安全性が確認できた原発は速やかに再稼働、長期では老朽原発フェードアウトへ。運転期間の20年延長などについて直ちに議論すべき。最終処分施設の確実な整備のための手続き法制整備を柱とする「原発改革推進法案」制定を。
・グリーンエネ推進の規制改革や投資促進制度を導入。再エネ導入の障害となる規制の見直しとともに、地域社会がうるおう仕組みづくりを構築。

れいわ

・停戦効果のない露への経済制裁には反対で、日本の国益を考え権益は維持すべき。中長期では化石資源に依存したエネシステムから脱却を。・石油高騰には、ガソリン税撤廃、消費税の撤廃か最低でも5%への引き下げが必要。電力は足りている時期の市場高騰の増加が問題で、市場の不備を独立中立的専門家集団がチェックし改善すべき。高い電気料金を押し付けられた国民には季節ごとの現金給付を提案。
・最終的には再エネ実質100%を目指すが、つなぎとして高効率ガス発電の利用と、天然ガスの安定調達が必要。
・原発が軍事侵攻の対象となる事実を踏まえ、また核燃料のこれ以上の増加につながる再稼働、新増設・リプレースには反対。40年超運転も認めるべきでない。破綻した核燃サイクルは即刻中止。廃炉加速に向け国家戦略として稼働時と同様の財政支援を。
・洋上風力や屋根上太陽光等、大規模な土地造成なしに再エネを拡大するポテンシャルはまだまだ大きい。パネルリサイクルや処理を輸出向けビジネスとして育てる政策が必要。

【特集2まとめ】分散型の「生きる道」 再エネコラボで脱炭素化へ


分散型エネルギーの新たな試みが始まっている。
従来のコージェネを核に据えたものに加え、
太陽光発電などの再生可能エネルギーや燃料電池、蓄電池、
電気自動車を組み合わせた取り組みだ。
再エネと蓄電池によるマイクログリッド、RE100工場など、
脱炭素時代に向けて分散型の「生きる道」を探る。

【アウトライン】新エネとの融合図る分散型 独自色を打ち出す実証を開始

【インタビュー】低コストで分散型エネ導入へ 既存設備を有効活用が鍵に

【レポート】神戸市とセミMグリッド実証 3電池で電力地産地消に挑戦

【レポート】再エネとEV軸に脱炭素化へ「ゼロカボ」サービスを展開

【レポート】燃料電池と太陽光発電を活用 自社工場でRE100実証

【レポート】オフグリッドで再エネ100% 防災拠点として機能を強化

【レポート】再エネとコージェネを最適制御 多様な設備群を扱う強み生かす

【トピックス】温泉とともに湧出するメタンガス 自社エリアで地産地消活用

【トピックス】分散型エネ増加で強み発揮 AIで計画値提出業務を自動化

【トピックス】都市ガスエリアの防災対策設備 ライフラインを72時間維持

【特集2】分散型エネ増加で強み発揮 AIで計画値提出業務を自動化


【デジタルグリッド】

太陽光など分散型電源の導入が進んでいる。デジタルグリッドはAIを駆使し、その需給管理業務を支える。

デジタルグリッドは、需要家と発電事業者が電力取引と環境価値取引を自動で行える「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」を展開する。需要家にはソニーや日立製作所、住友林業、発電事業者にはLooopなどが名を連ね、2021年4月時点で合計40社以上、約9万kW規模を取り扱う。

太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーを取り巻く事業環境は年々厳しくなっている。発電事業者は固定価格買い取り制度(FIT)に頼らず、PPA(電力販売契約)をはじめとした新たな販売スキームを手掛け、電気の売り先や需要家にどう送り届けるのかなどを検討するようになった。

また太陽光が急速に増えた結果、日中時間帯の市場価格とそれ以外を比較すると中部エリアでは1kW時当たり平均10円の価格差があり、売電ノウハウが従来にも増して重要になってきている。

DGPはそうした電力事業者の需給管理業務をAIによって自動化する。前日に広域機関に提出する計画値業務を、人手を介さずに合理化できる。直近では、FD社が手掛けるソニーグループの太陽光発電の自己託送の取り組みにDGPが採用された。 今後も再エネを中心に分散型電源が多く建設される見通しで、需給管理業務を自動化できるDGPはより強みを発揮するだろう。

豊田祐介社長

【特集2】燃料電池と太陽光発電を活用 自社工場でRE100実証


【パナソニック】

パナソニックはRE100工場の実現に向けて実証施設を開所した。純水素型燃料電池を組み合わせることで、太陽光発電の不安定さを解消する。

純水素型燃料電池、太陽光発電、蓄電池が並ぶ実証施設

パナソニックは4月、純水素型燃料電池と太陽光発電を組み合わせた自家発電設備によって、同社草津工場内にある燃料電池工場で使用する電気を100%再生可能エネルギーで賄うための実証施設「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始した。実証施設は同社の5kWクラス純水素型燃料電池「KIBOU」を99台(495kW)、太陽光発電(約570kW)を組み合わせた自家発電設備と余剰電力をためるリチウムイオン電池(約1100kW時)で構成される。純水素型燃料電池に使用する水素は敷地内の液体水素タンク(7万8000ℓ)に貯蔵する。

99台の燃料電池は全数が常時フル稼働するわけではなく、半数を稼働させて、残り半数を休めるといった運用を行い、燃料電池への負荷を平準化しながらベースロード稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、昼間が約600kW時、夜間が約300kW時。ピーク電力は約680kW。昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は純水素型燃料電池が稼働する。これらにより、年間電力需要の約80%を燃料電池で賄う計画で、タンクにある液体水素は8日前後で使い切る。水素は岩谷産業が供給し、年間水素消費量は約120tに上る。

エネ設備の設置面積に制約 工場屋根への導入を想定

同実証では、発電設備の設置面積にもこだわった。太陽光発電の設置面積を同社の燃料電池工場の屋根と同等にしたのだ。実証後、普及を図るときには、制約のある敷地にもエネルギー設備を設置しなければならない。それでもRE100が実現できるかを試すのが狙いだ。太陽光発電は発電量を確保するのに一定の敷地面積が必要となる。また、天候に左右される不安定電源でもある。同社の水素型燃料電池は連結して使用するため、屋上の敷地面積や形状に合わせて設置できるほか、太陽光発電との立体設置なども対応可能だ。

このほか、独自のエネマネシステムを導入。電力需要に追随し、太陽光の発電量から燃料電池の発電パターンを計画。電力の余剰や不足に対し蓄電池を活用する。こうして「系統からの電力を購入せずに運用できるか、挑戦していきたい」。同社スマートエネルギーシステム事業部の加藤正雄燃料電池/水素事業統括は意気込む。

水素を用いたRE100実現には再エネ由来のグリーン水素が不可欠となる。そうした水素サプライチェーン構築と同時に利活用に関する取り組みも重要だ。今回の取り組みがその大きな一歩を担うことは間違いない。

【特集2】温泉とともに湧出するメタンガス 自社エリアで地産地消活用


【東海ガス】

TOKAIホールディングス傘下で都市ガス会社の東海ガスは静岡県焼津市に都市ガス製造拠点を新設する。地下1500mから湧出するメタンガスから都市ガスをつくり自社エリア向けに供給していく構えだ。

静岡県中部に位置する焼津市。国内有数の遠洋漁業の基地である焼津港はカツオやマグロの水揚げ金額が国内トップであるほか、周辺漁港で取れる近海のサバやアジ、桜えびやシラスなど新鮮な魚介類も人気がある。また、地下から湧き出る温泉は貴重な観光資源として地域振興に寄与している。現在、温泉は焼津市が8カ所のホテルや温浴施設に供給している。

この温泉とともに地下から湧出することで注目を集めているのがメタンガスだ。焼津市ではガス田が80年以上前から確認されており、1941年から本格的に開発が始まった。最盛期の57年には14の井戸から日量3116mの生産量があった。現在は東海ガスが所有する4本の井戸がある。このうち2本が休止中で、1本が稼働中。もう1本が今回新たに掘削した「焼津港1号井」だ。

「焼津港1号井」。高さ10m近くまで湧き上がる

「稼働中の井戸はメタンガスと温泉の供給量が減少傾向にあります。特に温泉は周辺施設への供給が滞る恐れがありました。そこで、焼津市との協議により新たな井戸として、焼津港1号井を掘削することになりました」。担当する竹村昌徳供給保安部長はこう話す。

リスクが付きまとう開発 事前調査で狙いを定める

井戸は掘り当てられないリスクが常に付きまとう。このため、コスト抑制を踏まえた事前調査からの判断がとても大切になる。

焼津港1号井の場合、①掘削する敷地を焼津市、隣接地を東海ガスが所有しており、用地買収をすることなく、掘削と温泉・都市ガス製造設備の建設に十分な広さを確保している、②稼働中の既設井戸が近傍にあり、温泉・ガス脈が眠っている可能性が高い、③同社都市ガスエリア内にあり、ガスを輸送するための導管敷設費を最小限に抑えることができる―といったメリットを備えていた。

焼津港1号井では、深さ1500mまで掘削した。「周辺が住宅地のため掘削速度を落とすなど、近隣へ最大限配慮して工事を進めなければなりませんでした」と竹村部長は苦労を明かす。そうして焼津港1号井を掘り当てた。

通常、温泉はポンプを使用してくみ上げるが、同井戸では、メタンガスと温泉がパイプを伝って同時に湧き上がってくる。メタンガスの比重が水よりも軽い上に、水に溶けやすい性質のため、温泉を運ぶ役割を果たしているのだ。

右の写真のように、くみ上げるパイプは高さ10m近くまで伸びており、湧き上がってきた温泉が天板にぶつかることで、温水は重力に従って下へ、比重の軽いガスは上へと分離される。一度の衝突では温水とガスを完全に分離できないため、落下先にハチの巣状の板を何層か設置し、衝突を繰り返す構造となっている。ガスは天井に設けられたパイプから冷却装置を通ってタンクへ、温水は一時的な貯水槽へ送られる。

温水とともに採取されたガスは50℃ほどで温度が高く、水分を多く含んだ状態であるため、タンクに貯蔵する前に冷却し、水分を取り除く必要がある。温水はいったん泥などの不純物を取り除いてから焼津市の貯水槽へ送り、そこからホテルや温浴施設へと供給する仕組みとなっている。

メタンガスタンク。この奥に都市ガス製造施設を建設する計画
温泉の貯蔵タンク。ホテルなどに供給する

高純度のメタンガス 都市ガス供給に貢献

メタンガスは、静岡大学の木村浩之教授の協力の下、掘削したガス成分の分析などを実施した。「湧出したガスに硫黄分が含まれていたら脱硫装置を付ける必要があり、その分コストが上乗せされます。今回のガスは約99%メタンガスと非常に純度が高いことが分かりました。都市ガス用途向けのカロリー調整が最小限で済むなど大きなメリットがあります」と竹村部長。

焼津港1号井の1日当たりの産ガス量は、一般家庭が1年間で使用する都市ガスの5世帯分に相当する。年間産ガス量では約1800世帯分になる計算だ。

「当社が扱うガス量全体から見たら微量ですが、今回都市ガスに活用することで低炭素化や地産地消につながります。当社としてもアピールしていきたい」と後藤芳彦供給保安事業部長は語る。

焼津港1号井の隣接地には、都市ガス製造施設「中港製造所」を現在建設中。都市ガスの供給開始は今年秋口ごろになる予定だ。

脱炭素やSDGsへの取り組みが世界的に加速する中、こうした地産地消できる分散型エネルギーの取り組みはさまざまな地域で大きなヒントになるだろう。

建設を担当した後藤事業部長(右)と竹村部長(左)

【特集2】低コストで分散型エネ導入へ 既存設備を有効活用が鍵に


分散型エネルギーの構築には、街づくりをどう進めていくかという視点が欠かせない。都市部と地方でそれぞれ分散型エネルギーを構築するを街づくりの専門家に聞いた。

【インタビュー:村木美貴/千葉大学大学院工学研究院教授】

―太陽光や蓄電池、水素などを組み込んだ分散型システムが登場してきました。街づくりの観点からどう見てますか。

村木 都市部や地方を共通して、エネルギーシステムより熱導管やマイクログリッドなどエネルギーネットワークの整備を優先すべきと考えます。ネットワークさえ構築できれば、これまで化石燃料を使っていたとしても、再エネや水素など新エネルギーに容易に転換できます。

―エネルギーネットワーク整備において課題はあるでしょうか。

村木 人口密度が高い地域ほど、公道の利用料金が高くなります。電力ネットワークはエリア内の都心部の高い利用料金を地方の安い利用料金でならし、電気料金に組み込んでいます。分散型の場合、利用する地域が限定されるため、他の地域との平均を取ることができません。このため、都市部で分散型の街づくりを行うのはハードルが高いです。

―都市部で注目する取り組みを紹介してください。

村木 東京・丸の内地区で地域熱供給にカーボンニュートラル(CN)LNGを採用しました。人も建物も密集する都市部では脱炭素に向けた取り組みが限定されます。その中でCNLNGは有効です。今後再エネとして認められ、オフィスに入居する企業が自社単独で脱炭素化に取り組むよりメリットがあると判断すれば、支持する輪がより広がっていくと思います。

自然や地域の特色を生かす 身の丈にあった分散型構築

―地方はいかがでしょうか。

村木 自然や地域産業の特色を生かし自前でエネルギーをつくり出すやり方が効率的です。北海道下川町では全面積の9割が森林でバイオマスによるエネルギー自給に取り組んでいます。北海道鹿追町では人口5000人に対し、牛が3万頭います。発生する大量のメタンガスを発電やLPガスの代替燃料製造などに利用しています。

 水素では、日立製作所と丸紅、みやぎ生活協同組合の取り組みがユニークです。水素を充填した水素吸蔵合金カセットを生協のトラックで配送し一般家庭や店舗に設置した燃料電池で利用するものです。多品目配送は、地方で展開するには良い仕組みです。これまで個社がそれぞれ配送網を持つのが一般的でした。エネルギーが食品などの配送網を活用して輸送できたら効率化につながり、コストを大幅に削減することができます。

―分散型エネルギーの普及にはどういったことが求められますか。

村木 人口減少が進む中、資金を投じて土地を開墾し、新たな街づくりを行うことは困難です。既存の建物や設備を可能な限り利用することが求められるでしょう。

 例えば、高齢者世帯が居住する屋根に太陽光発電、ガレージが空いているなら電気自動車(EV)や蓄電池などのエネルギー設備を置かせてもらい、その分使用料金を支払うなど、取り組みに参加する人が分かりやすく、かつ利益を享受できる仕組みが欠かせません。

むらき・みき 1991年日本女子大大学院家政学研究科修了、同年三和総合研究所入所、96年横浜国大大学院工学研究科修了、同年東工大大学院社会理工学研究科社会工学専攻助手、2000年ポートランド州立大ポートランド都市圏研究所客員研究員、13年から現職。

【特集2】新エネとの融合図る分散型 独自色を打ち出す実証を開始


太陽光や水素など新たなエネルギー設備を取り込んだ分散型エネルギーが台頭してきた。地産地消やRE100をキーワードに構築し、今後拡大していくものとみられる。

分散型エネルギーの位置付けが大きく変わろうとしている。太陽光発電コストの急激な低下、デジタル技術の発展、RE100やSDGs(持続可能な開発目標)による再エネ導入を求める動き、頻発する自然災害への強靱化、地域経済の活性化といったことに対応するための仕組みとして需要サイドの関心が高まっているのだ。

これまでの分散型システムは、ガスコージェネを導入して電気や熱をつくり、地域冷暖房事業や分散型のエネルギーサービスを行うものが主流だった。しかしここ数年、太陽光などの再エネを軸に、蓄電池や燃料電池などを複合的に組み合わせることで、エネルギー安定供給を強化するシステムを実証する動きが出てきた。

大阪ガスと神戸市はエネファームと太陽光、蓄電池の三つを組み合わせ系統電力への依存を減らす「セミマイクログリッド」実証に取り組む。パナソニックは自社工場のRE100実現に向け純水素型燃料電池と太陽光を使った実証を開始した。九電工では太陽光と鉛蓄電池を使い、基本的にオフグリッドで実質再エネ100%での自給自足を行うなど、ユニークな事例が増えている。

パナソニックの実証は燃料電池を99台活用する

再エネの普及に向け 法整備や補助金が課題

こうした取り組みを進める上で課題となるのが、法律の整備や補助金の活用だ。例えば、環境省の補助金の中には、全量自家消費のみを対象としており、系統に接続しているものは対象にならないものがある。逆に系統につながっている場合は完全なオフサイトPPA(電力購入契約)のみを対象とするものもあり、申請しづらい仕組みになっている。「柔軟に対応できる補助金になれば、より再エネが普及するのではないか」と電力関係者は話す。

水素は新エネルギーのため取り組みに前例がなく、実証を進める上で官公庁との話し合いが毎回必要になるという。

パナソニックの「H2 KIBOU FIELD」の場合、水素を燃料にして発電する際の安全基準を定める法律が整備されておらず、統一ルールがない。このため消防法や電気事業法、高圧ガス保安法といった複数の法律を参照しながら、適した法律にのっとって施設を運用している。また、再エネ由来のグリーン水素と化石燃料(CO2排出)由来のグレー水素は同等の扱いだが、今後はグリーン水素を非化石価値として検討することも必要になってこよう。

分散型を取り巻く環境変化を受け、制度設計にもスピードと柔軟性が求められる。

【特集2】情報へのアクセスに安全な仕組み ITとOTの通信にメタバース導入


【ニチガス】

社内システムにDXを積極的に導入するニチガス。セキュリティーに関してもメタバースなど最新技術を採用する。

日本瓦斯(ニチガス)は、LPガスの充填基地や営業所の運営、配送や検針などの業務全体の管理に、自社運用のクラウドサービス「雲の宇宙船」をはじめ、DXを積極的に導入してきた。その一方で、それらをサイバー攻撃から守るためセキュリティー対策にも取り組んでいる。

従来は、顧客情報の管理などを扱うIT(情報)システムと充填基地の運営に利用するOT(制御系)システムを個別に運用していた。しかし近年、コロナ禍によってリモートワークが増えた影響などから、ITとOTを接続してリモートでメンテナンスを実施するといった双方向通信のニーズが出てきている。

OTの情報は事業運営に関わる重要情報であり、ネットワークで扱うデータ量が増えたとしても厳重に守らなくてはならない。

「ITとOTの間を安全に通信できる環境を構築するのに、新たな仕組みが必要と考えました。その一つがメタバース(CPS:サイバーフィジカルシステム)です」。エネルギー事業本部情報通信技術部の松田祐毅部長はこう話す。

重要情報に直接アクセス不可 メタデータでまずは検索

メタバースはコンピューターやネットワークに構築された3次元仮想空間を指す。アバターを操作するファンタジーな世界を想像するかもしれないが、同社のCPSで扱うのはあくまでエネルギー事業に関連する情報だ。

論理的セキュリティー施策

LPガスの従来型システムでは需要家の検針データ(請求)、ボンベの配送、保安の情報はそれぞれの業務システムで運用してきた。これに対しCPSでは、需要家宅にLPガスボンベと共に設置にするネットワーク制御装置(NCU)「スペース蛍」で得られた顧客情報が、安全な閉域ネットワークを通じてCPS内の各業務システムに格納される。

この業務システムに外部から直接アクセスすることはできない。いったんメタデータ(顧客の属性情報など)が記された仮想メーターにアクセスしてデータ検索を行い、権限を持った者が必要な情報のみを取り出せる仕組みになっている。「重要情報へのアクセスを困難にすることで、ランサムウェアからの攻撃を回避できます」と、松田部長は強調する。

ニチガスは引き続き新技術を積極的に採用しながら、エネルギー事業者の新たな運用モデルを提示していく。

【特集2】攻撃情報を事業者間で共有 電力インフラを守る業界組織


【インタビュー:内田忠/電力ISAC代表理事】

5年前、電力業界でもサイバー攻撃を未然に防ぐという機運が高まった。電力ISACは事業者間で情報共有と分析を行う組織として活動している。

電力ISACの内田忠代表理事

―電力ISACの設立背景を教えてください。

内田 サイバー攻撃の脅威が高まった約10年前、ITや金融などの業界がISAC(セキュリティー情報共有組織)を立ち上げました。重要インフラである電力業界でも、事業者間でサイバーセキュリティーに関する情報を共有し、適正かつ迅速に対応できる組織が必要との判断から、2017年3月に設立しました。現在、大手電力をはじめ新電力など53の企業・事業者が参画しています。

―具体的な活動内容は。

内田 大きく三つあります。一つ目が「サイバーセキュリティーに関するインシデント対応力の強化」です。会員同士が交流するワーキンググループを「需給・系統」「火力」「小売り」「対応力強化」の四つのテーマでつくり、サイバー攻撃に対する最適な取り組み方法を検討しています。また、人材育成を目的に、実際に攻撃を受けたらどのように対処するか、などを想定して演習や模擬訓練を行っています。

 二つ目が、「情報の収集・分析の高度化とそのタイムリー性の追求」です。サイバー攻撃は日々巧妙化しています。国内外でどのような攻撃があり被害を受けたのか、といった脅威情報を電力ISACが収集・分析を行い、会員に配信しています。

 三つ目が「国内外のセキュリティー組織等との関係強化」です。ITや金融などほかの業界のISACや、欧米の電力ISACと連携し、取り組みや政策動向など最新の課題について定期的に情報共有を行っています。

国内の電力インフラは無事故 セキュリティー対策強化継続

―今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻によって、サイバー攻撃の脅威は高まっていますか。

内田 ウクライナでは国防省や国営銀行がDDoS(大量アクセス)攻撃を受けて、ウェブサイトやサービスが停止しました。また、欧州全域で約5000基の風力発電の遠隔監視制御システムが停止する事態に陥りました。国内でも自動車のサプライチェーンで部品供給が停止しました。

 そうした中、2月下旬以降、経済産業省から産業界に向けて、計3回の注意喚起が発信されました。電力ISACの会員各社も緊張感をもってサイバー攻撃を警戒しています。

―これまで、国内の電力インフラはサイバー攻撃を受けて危機的状況に陥ったことはありますか。

内田 IT(情報系)システムとOT(制御系)システムのうち、発電所や中央給電指令所などのOTがサイバー攻撃の被害を受けると、電力の安定供給に影響する可能性があるので、国内の大手電力はOTとITの間にセキュリティー機器を設置し、ITが攻撃を受けてもOTに影響が出ないようなシステム構成を採用しています。このため、電力インフラがサイバー攻撃を受けて被害にあった事例はありません。

 ただ今後、OTで取得した情報をITで分析するといった業務は増えてきます。また、そのため、OTとITでもセキュリティー対策を着実に行い、電力の安定供給に万全を期す必要があります。

 電力ISACとしては、業界のセキュリティーの底上げにつながるような情報共有に今後も取り組んでいきます。事業者が万全を期すことができるよう継続的にサポートしていきたいです。

【特集2】制御系を狙うサイバー攻撃 エネインフラに甚大被害の脅威


近年、エネルギー施設などの重要インフラを狙ったサイバー攻撃が激増している。ランサムウェアやエモテットを利用した攻撃は、甚大な被害を及ぼす可能性がある。

今年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻によって、サイバー攻撃の脅威が世界的に高まっている。戦時下にあるウクライナでは国防省や国営銀行がDDoS(大量アクセス)攻撃を受けて、ウェブサイトやサービスが停止した。欧州では通信衛星がサイバー攻撃によって停止し、約1100万kW分の風力発電の遠隔監視制御が不能になる事態となった。国内でも、トヨタ自動車のサプライチェーンで部品供給が停止となった。ウクライナ侵攻との直接的な関係は不明だが、さまざまなサイバー攻撃の被害が顕在化している。

この状況を受けて、政府は2月23日から3回にわたって「産業界へのメッセージ」としてサイバー攻撃への注意喚起を行い、警戒を呼び掛けている。

ランサムウェアで身代金要求 猛威を振るエモテット

近年、サイバー攻撃で猛威を振るっているのが、ランサムウェア攻撃とマルウェア「エモテット(Emotet)」だ。ランサムウェアは身代金という意味の「ランサム」と「ソフトウェア」を組み合わせた造語で、企業のシステムに侵入し、暗号化などによってファイルを利用不可能な状態にする。攻撃者はそのファイルを元に戻すことと引き換えに身代金を要求する。

昨年5月には、米国最大の石油パイプライン会社コロニアル・パイプラインがランサムウェアの被害を受けた。情報ネットワークが不正アクセスされランサムウェアが侵入、脅威を封じ込めるため課金用ITシステムなどを停止した。これにより、全てのパイプラインが停止する事態となり、最終的に身代金440万ドル(約5億5000万円)を支払うことになった。

エモテットは、昨年11月頃から出回り始めたマルウェアだ。主に、マクロ付きのエクセルやワードファイル、パスワード付きジップファイルとしてメールに添付する形式で配信されてくる。ファイルを開封すると、マクロを有効化する操作によって感染し、メールアカウントとパスワード、アドレス帳などの情報が抜き取られる。攻撃者はエモテットによって入手した情報をもとに他のユーザーへ感染メールを送信し、取引先や顧客を巻き込んでいく。

狙われるOTシステム 防ぐゼロトラストの概念

エネルギー事業者が使用するシステムは、顧客管理などを行うIT(情報系)システムと、発電所や送配電網、LNG基地の運用などに利用するOT(制御系)システムの大きく二つで構成されている。ITは一般企業と同様に顧客情報管理やサービスを行うため、適宜新しいシステムに入れ替えて利用するケースが大半だ。一方、OTは外部ネットワークへの接続点が限定された閉じられたシステムで、以前はサイバー攻撃が心配されていなかった。OTは10~20年という長期間にわたり使用され、システムによってはいったん稼働したら停止が困難なものもある。このため、古いOSのままで使われていたり、セキュリティーのアップデートをしていないものがあったりする。そうした対策を全く実施していないOTをネットワークにつなげると、セキュリティーが脆弱でサイバー攻撃のリスクに晒されることになる。

15年12月、ウクライナの送配電事業者のOTがフィッシングメールによってマルウェア「ブラックエナジー」に感染、情報を盗み取られた。この情報をもとにエネルギー供給事業者3社の変電所を遠隔制御して停止させたほか、無停電電源装置やモデムなども止めた。さらに、ハードディスクなどの情報を完全に削除するツールでサーバーやワークステーション上の情報を破壊。このほか、コールセンターがつながらないように大量の電話をかけて、サービス拒否状態にするなど、徹底的な攻撃が仕掛けられた。

昨年2月に、米国フロリダ州の水処理施設にあるパソコンに不正アクセスがあった。OTシステムは古いOSが稼働し、ファイアウォールもなく、共通パスワードのリモートアクセスシステムのままだった。これにより、産業用制御システムが外部から不正な操作を受け、水酸化ナトリウムが通常の100倍に増やして投入された。このように、OTは一度サイバー攻撃を受けると、甚大な被害になる危険がある。

近年はOTにおいても、IoT機器の導入が進められ、ITとネットワークで接続しコスト削減や稼働効率の向上などにつなげようという動きが出てきている。そうなると、以前にも増してサイバー攻撃には注意を払わなければならない。そこで注目されているのが、「ゼロトラストネットワーク」という概念のソリューションだ。文字通り、全てのトラフィックが信用できないことを前提に、あらゆる端末や通信のログを取得して検査する性悪説のアプローチを採用する。

セキュリティーベンダー大手である米国パロアルトネットワークスの「セグメンテーションゲートウェイ」では、IoTデバイスから顧客情報までが部門ごとにレベルで区分けされ、各部門から通信するには、中央の監視を通過しないと通信できない仕組みになっている。「レベル分けされたそれぞれの部門にあるIoTデバイスやパソコン、サーバーなどの設備を1カ所で監視します。こうすることで信頼性が高まるほか、コスト削減につながります」。林薫日本担当最高セキュリティー責任者はこう説明する。

国内のエネルギー事業者は従来、ITとOTの間にセキュリティー機器を設置したり、ITとOTを接続しないことで、サイバー攻撃による甚大な被害を起こさせずに運用してきた。しかし今後は、IoTデバイスやデジタルツインなどの導入による効率的な運用が重要施設でも行われていく。そうしたとき、ゼロトラストネットワークのような新たな仕組みが必要になってくるとみられる。

【特集2まとめ】対サイバー攻撃「最前線」 エネルギーインフラの防衛策


今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻などに端を発し、
サイバー攻撃のリスクが世界的に高まっている。
標的の一つがエネルギーインフラだ。
海外では安定供給に致命的な打撃を与える事例も出ており、
日本にもそうした脅威が間近に迫っている。
エネルギー関連企業のサイバー攻撃対策の最前線を追った。

【アウトライン】制御系を狙うサイバー攻撃 エネインフラに甚大被害の脅威

【インタビュー】国内の大手電力向けアセスを実施 業界全体のレベルアップが重要

【インタビュー】攻撃情報を事業者間で共有 電力インフラを守る業界組織

【レポート】想定を超えるトラブルに備える 最重要インフラの防衛策

【レポート】対ランサムウェアで「防災訓練」 利便性と安全性の両立が課題

【レポート】情報へのアクセスに安全な仕組み ITとOTの通信にメタバース導入

【レポート】多様化する通信環境を安全運用 制御系を守るSIMを開発

【レポート】「標的」と化す重要インフラ サイバー攻撃に備え危険回避

【トピックス】官公庁や自治体など広く対象に 高い技術力で制御システムを守る

【特集1まとめ】電力システム崩壊前夜 「3.22需給危機」の深層と教訓


東京・東北エリアに初の「電力需給ひっ迫警報」が発令された3月22日。
16日の福島県沖地震の影響で、両エリアの火力発電所6基(計約335万kW)が停止中。
そこにトラブルによる計画外停止や低気温による高い需要予測が追い打ちをかけた。
計画停電の実施は避けられたものの、今回の危機的事象からは、
地震や天候のせいばかりにしていられない、構造的な問題が浮き彫りになった。
問題から目を背け続ける限り、行き着く先は電力システムの崩壊だ。

【アウトライン】需要・供給双方の総力戦で難局打開 綱渡りの大規模停電回避の舞台裏

【レポート】安定供給が当然はもはや過去!? 社会に求められる意識改革

【インタビュー】節電協力の呼び掛けに課題 踏み込んだ取り組みの提示が不可欠

【レポート】電力需給ひっ迫はなぜ起きたか 独自検証で浮上した課題と対策

【インタビュー】予断持たず「需給警報」を検証 発令タイミングも議論の対象に

【インタビュー】端境期の需給ひっ迫危機が顕在化 供給設備の作業停止調整に課題

【インタビュー】電力を取り巻く不確実性高まる 社会全体で対応力の向上を

【特集1まとめ】エネルギー非常事態宣言 ウクライナショックの波紋


昨年来懸念されていたロシア・ウクライナ危機が最悪の展開を迎えた。
ドイツが「ノルドストリーム2」の停止措置を取った直後、ロシアが軍事侵攻を開始。
西側諸国の経済制裁の代償として、国際エネルギー市場は大混乱に陥った。
欧州は脱ロシア化を息巻くも、化石燃料資源の調達は極めて不安定な状態に。
片や日本は10数年振りの油価急騰と、欧州のLNGシフトに巻き込まれつつある。
地政学の構図が変貌し始めた今、エネルギー安全保障上の課題が突き付けられている。
※3月23日までの情勢に基づき作成

【アウトライン】世界を襲う未曽有のエネルギー危機 有事対応へ急務の安保戦略

【インタビュー】資源「持たざる国」の選択とは 全方位外交の産消対話が王道

【座談会】戦後最大危機を乗り越えられるか 脱ロシアで深まる歴史的分断