【特集2】都市ガスエリアの防災対策設備 ライフラインを72時間維持


【I・T・O】

自然災害による被害の甚大化に伴う防災のニーズが高まっている。ガス変換器と発電機で自立型防災減災システムを展開する。

近年、台風や地震などの災害が頻発していることに加え、その規模は強大化している。こうした災害による停電への対策として、非常用電源のニーズが高まっている。I・T・Oが提供する防災減災対応システム「BOGETS」では、LPガスを原料とするガス変換器「New PA」と都市ガス発電機を組み合わせ、都市ガスと電気をバックアップする。

都市ガス発電機は、都市ガスの供給がある限り燃料の備蓄は不要であり、BCPで求められる72時間の使用が可能。加えて、排気に黒煙を含まないといったメリットがある。New PAはLPガスと空気を混ぜ合わせ、疑似的な都市ガスを作り出すガス変換器だ。LPガスは個別供給のため復旧が早い上、劣化せず、少ないスペースで大量備蓄が可能であることから、災害に強いエネルギーとして注目されてきた。都市ガスの供給が一時的にストップしても、LPガスをあらかじめ備蓄しておくことで、New PAを用いて都市ガスを生成することが可能だ。

I・T・Oでは「熱の用途がないお客さま向け商材として非常用発電機をアピールしていく」(担当者)とし、発電機の導入に関して、提案や設計・プランニング、工事・施工、補助金の申請作業などを一貫して手掛けることで、地域の防災事業をサポートしていく構えだ。

New PA
都市ガス発電機

【特集2】新エネとの融合図る分散型 独自色を打ち出す実証を開始


太陽光や水素など新たなエネルギー設備を取り込んだ分散型エネルギーが台頭してきた。地産地消やRE100をキーワードに構築し、今後拡大していくものとみられる。

分散型エネルギーの位置付けが大きく変わろうとしている。太陽光発電コストの急激な低下、デジタル技術の発展、RE100やSDGs(持続可能な開発目標)による再エネ導入を求める動き、頻発する自然災害への強靱化、地域経済の活性化といったことに対応するための仕組みとして需要サイドの関心が高まっているのだ。

これまでの分散型システムは、ガスコージェネを導入して電気や熱をつくり、地域冷暖房事業や分散型のエネルギーサービスを行うものが主流だった。しかしここ数年、太陽光などの再エネを軸に、蓄電池や燃料電池などを複合的に組み合わせることで、エネルギー安定供給を強化するシステムを実証する動きが出てきた。

大阪ガスと神戸市はエネファームと太陽光、蓄電池の三つを組み合わせ系統電力への依存を減らす「セミマイクログリッド」実証に取り組む。パナソニックは自社工場のRE100実現に向け純水素型燃料電池と太陽光を使った実証を開始した。九電工では太陽光と鉛蓄電池を使い、基本的にオフグリッドで実質再エネ100%での自給自足を行うなど、ユニークな事例が増えている。

パナソニックの実証は燃料電池を99台活用する

再エネの普及に向け 法整備や補助金が課題

こうした取り組みを進める上で課題となるのが、法律の整備や補助金の活用だ。例えば、環境省の補助金の中には、全量自家消費のみを対象としており、系統に接続しているものは対象にならないものがある。逆に系統につながっている場合は完全なオフサイトPPA(電力購入契約)のみを対象とするものもあり、申請しづらい仕組みになっている。「柔軟に対応できる補助金になれば、より再エネが普及するのではないか」と電力関係者は話す。

水素は新エネルギーのため取り組みに前例がなく、実証を進める上で官公庁との話し合いが毎回必要になるという。

パナソニックの「H2 KIBOU FIELD」の場合、水素を燃料にして発電する際の安全基準を定める法律が整備されておらず、統一ルールがない。このため消防法や電気事業法、高圧ガス保安法といった複数の法律を参照しながら、適した法律にのっとって施設を運用している。また、再エネ由来のグリーン水素と化石燃料(CO2排出)由来のグレー水素は同等の扱いだが、今後はグリーン水素を非化石価値として検討することも必要になってこよう。

分散型を取り巻く環境変化を受け、制度設計にもスピードと柔軟性が求められる。

【特集2】低コストで分散型エネ導入へ 既存設備を有効活用が鍵に


分散型エネルギーの構築には、街づくりをどう進めていくかという視点が欠かせない。都市部と地方でそれぞれ分散型エネルギーを構築するを街づくりの専門家に聞いた。

【インタビュー:村木美貴/千葉大学大学院工学研究院教授】

―太陽光や蓄電池、水素などを組み込んだ分散型システムが登場してきました。街づくりの観点からどう見てますか。

村木 都市部や地方を共通して、エネルギーシステムより熱導管やマイクログリッドなどエネルギーネットワークの整備を優先すべきと考えます。ネットワークさえ構築できれば、これまで化石燃料を使っていたとしても、再エネや水素など新エネルギーに容易に転換できます。

―エネルギーネットワーク整備において課題はあるでしょうか。

村木 人口密度が高い地域ほど、公道の利用料金が高くなります。電力ネットワークはエリア内の都心部の高い利用料金を地方の安い利用料金でならし、電気料金に組み込んでいます。分散型の場合、利用する地域が限定されるため、他の地域との平均を取ることができません。このため、都市部で分散型の街づくりを行うのはハードルが高いです。

―都市部で注目する取り組みを紹介してください。

村木 東京・丸の内地区で地域熱供給にカーボンニュートラル(CN)LNGを採用しました。人も建物も密集する都市部では脱炭素に向けた取り組みが限定されます。その中でCNLNGは有効です。今後再エネとして認められ、オフィスに入居する企業が自社単独で脱炭素化に取り組むよりメリットがあると判断すれば、支持する輪がより広がっていくと思います。

自然や地域の特色を生かす 身の丈にあった分散型構築

―地方はいかがでしょうか。

村木 自然や地域産業の特色を生かし自前でエネルギーをつくり出すやり方が効率的です。北海道下川町では全面積の9割が森林でバイオマスによるエネルギー自給に取り組んでいます。北海道鹿追町では人口5000人に対し、牛が3万頭います。発生する大量のメタンガスを発電やLPガスの代替燃料製造などに利用しています。

 水素では、日立製作所と丸紅、みやぎ生活協同組合の取り組みがユニークです。水素を充填した水素吸蔵合金カセットを生協のトラックで配送し一般家庭や店舗に設置した燃料電池で利用するものです。多品目配送は、地方で展開するには良い仕組みです。これまで個社がそれぞれ配送網を持つのが一般的でした。エネルギーが食品などの配送網を活用して輸送できたら効率化につながり、コストを大幅に削減することができます。

―分散型エネルギーの普及にはどういったことが求められますか。

村木 人口減少が進む中、資金を投じて土地を開墾し、新たな街づくりを行うことは困難です。既存の建物や設備を可能な限り利用することが求められるでしょう。

 例えば、高齢者世帯が居住する屋根に太陽光発電、ガレージが空いているなら電気自動車(EV)や蓄電池などのエネルギー設備を置かせてもらい、その分使用料金を支払うなど、取り組みに参加する人が分かりやすく、かつ利益を享受できる仕組みが欠かせません。

むらき・みき 1991年日本女子大大学院家政学研究科修了、同年三和総合研究所入所、96年横浜国大大学院工学研究科修了、同年東工大大学院社会理工学研究科社会工学専攻助手、2000年ポートランド州立大ポートランド都市圏研究所客員研究員、13年から現職。

【特集2】温泉とともに湧出するメタンガス 自社エリアで地産地消活用


【東海ガス】

TOKAIホールディングス傘下で都市ガス会社の東海ガスは静岡県焼津市に都市ガス製造拠点を新設する。地下1500mから湧出するメタンガスから都市ガスをつくり自社エリア向けに供給していく構えだ。

静岡県中部に位置する焼津市。国内有数の遠洋漁業の基地である焼津港はカツオやマグロの水揚げ金額が国内トップであるほか、周辺漁港で取れる近海のサバやアジ、桜えびやシラスなど新鮮な魚介類も人気がある。また、地下から湧き出る温泉は貴重な観光資源として地域振興に寄与している。現在、温泉は焼津市が8カ所のホテルや温浴施設に供給している。

この温泉とともに地下から湧出することで注目を集めているのがメタンガスだ。焼津市ではガス田が80年以上前から確認されており、1941年から本格的に開発が始まった。最盛期の57年には14の井戸から日量3116mの生産量があった。現在は東海ガスが所有する4本の井戸がある。このうち2本が休止中で、1本が稼働中。もう1本が今回新たに掘削した「焼津港1号井」だ。

「焼津港1号井」。高さ10m近くまで湧き上がる

「稼働中の井戸はメタンガスと温泉の供給量が減少傾向にあります。特に温泉は周辺施設への供給が滞る恐れがありました。そこで、焼津市との協議により新たな井戸として、焼津港1号井を掘削することになりました」。担当する竹村昌徳供給保安部長はこう話す。

リスクが付きまとう開発 事前調査で狙いを定める

井戸は掘り当てられないリスクが常に付きまとう。このため、コスト抑制を踏まえた事前調査からの判断がとても大切になる。

焼津港1号井の場合、①掘削する敷地を焼津市、隣接地を東海ガスが所有しており、用地買収をすることなく、掘削と温泉・都市ガス製造設備の建設に十分な広さを確保している、②稼働中の既設井戸が近傍にあり、温泉・ガス脈が眠っている可能性が高い、③同社都市ガスエリア内にあり、ガスを輸送するための導管敷設費を最小限に抑えることができる―といったメリットを備えていた。

焼津港1号井では、深さ1500mまで掘削した。「周辺が住宅地のため掘削速度を落とすなど、近隣へ最大限配慮して工事を進めなければなりませんでした」と竹村部長は苦労を明かす。そうして焼津港1号井を掘り当てた。

通常、温泉はポンプを使用してくみ上げるが、同井戸では、メタンガスと温泉がパイプを伝って同時に湧き上がってくる。メタンガスの比重が水よりも軽い上に、水に溶けやすい性質のため、温泉を運ぶ役割を果たしているのだ。

右の写真のように、くみ上げるパイプは高さ10m近くまで伸びており、湧き上がってきた温泉が天板にぶつかることで、温水は重力に従って下へ、比重の軽いガスは上へと分離される。一度の衝突では温水とガスを完全に分離できないため、落下先にハチの巣状の板を何層か設置し、衝突を繰り返す構造となっている。ガスは天井に設けられたパイプから冷却装置を通ってタンクへ、温水は一時的な貯水槽へ送られる。

温水とともに採取されたガスは50℃ほどで温度が高く、水分を多く含んだ状態であるため、タンクに貯蔵する前に冷却し、水分を取り除く必要がある。温水はいったん泥などの不純物を取り除いてから焼津市の貯水槽へ送り、そこからホテルや温浴施設へと供給する仕組みとなっている。

メタンガスタンク。この奥に都市ガス製造施設を建設する計画
温泉の貯蔵タンク。ホテルなどに供給する

高純度のメタンガス 都市ガス供給に貢献

メタンガスは、静岡大学の木村浩之教授の協力の下、掘削したガス成分の分析などを実施した。「湧出したガスに硫黄分が含まれていたら脱硫装置を付ける必要があり、その分コストが上乗せされます。今回のガスは約99%メタンガスと非常に純度が高いことが分かりました。都市ガス用途向けのカロリー調整が最小限で済むなど大きなメリットがあります」と竹村部長。

焼津港1号井の1日当たりの産ガス量は、一般家庭が1年間で使用する都市ガスの5世帯分に相当する。年間産ガス量では約1800世帯分になる計算だ。

「当社が扱うガス量全体から見たら微量ですが、今回都市ガスに活用することで低炭素化や地産地消につながります。当社としてもアピールしていきたい」と後藤芳彦供給保安事業部長は語る。

焼津港1号井の隣接地には、都市ガス製造施設「中港製造所」を現在建設中。都市ガスの供給開始は今年秋口ごろになる予定だ。

脱炭素やSDGsへの取り組みが世界的に加速する中、こうした地産地消できる分散型エネルギーの取り組みはさまざまな地域で大きなヒントになるだろう。

建設を担当した後藤事業部長(右)と竹村部長(左)

【特集2】燃料電池と太陽光発電を活用 自社工場でRE100実証


【パナソニック】

パナソニックはRE100工場の実現に向けて実証施設を開所した。純水素型燃料電池を組み合わせることで、太陽光発電の不安定さを解消する。

純水素型燃料電池、太陽光発電、蓄電池が並ぶ実証施設

パナソニックは4月、純水素型燃料電池と太陽光発電を組み合わせた自家発電設備によって、同社草津工場内にある燃料電池工場で使用する電気を100%再生可能エネルギーで賄うための実証施設「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始した。実証施設は同社の5kWクラス純水素型燃料電池「KIBOU」を99台(495kW)、太陽光発電(約570kW)を組み合わせた自家発電設備と余剰電力をためるリチウムイオン電池(約1100kW時)で構成される。純水素型燃料電池に使用する水素は敷地内の液体水素タンク(7万8000ℓ)に貯蔵する。

99台の燃料電池は全数が常時フル稼働するわけではなく、半数を稼働させて、残り半数を休めるといった運用を行い、燃料電池への負荷を平準化しながらベースロード稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、昼間が約600kW時、夜間が約300kW時。ピーク電力は約680kW。昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は純水素型燃料電池が稼働する。これらにより、年間電力需要の約80%を燃料電池で賄う計画で、タンクにある液体水素は8日前後で使い切る。水素は岩谷産業が供給し、年間水素消費量は約120tに上る。

エネ設備の設置面積に制約 工場屋根への導入を想定

同実証では、発電設備の設置面積にもこだわった。太陽光発電の設置面積を同社の燃料電池工場の屋根と同等にしたのだ。実証後、普及を図るときには、制約のある敷地にもエネルギー設備を設置しなければならない。それでもRE100が実現できるかを試すのが狙いだ。太陽光発電は発電量を確保するのに一定の敷地面積が必要となる。また、天候に左右される不安定電源でもある。同社の水素型燃料電池は連結して使用するため、屋上の敷地面積や形状に合わせて設置できるほか、太陽光発電との立体設置なども対応可能だ。

このほか、独自のエネマネシステムを導入。電力需要に追随し、太陽光の発電量から燃料電池の発電パターンを計画。電力の余剰や不足に対し蓄電池を活用する。こうして「系統からの電力を購入せずに運用できるか、挑戦していきたい」。同社スマートエネルギーシステム事業部の加藤正雄燃料電池/水素事業統括は意気込む。

水素を用いたRE100実現には再エネ由来のグリーン水素が不可欠となる。そうした水素サプライチェーン構築と同時に利活用に関する取り組みも重要だ。今回の取り組みがその大きな一歩を担うことは間違いない。

【特集2】分散型エネ増加で強み発揮 AIで計画値提出業務を自動化


【デジタルグリッド】

太陽光など分散型電源の導入が進んでいる。デジタルグリッドはAIを駆使し、その需給管理業務を支える。

デジタルグリッドは、需要家と発電事業者が電力取引と環境価値取引を自動で行える「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」を展開する。需要家にはソニーや日立製作所、住友林業、発電事業者にはLooopなどが名を連ね、2021年4月時点で合計40社以上、約9万kW規模を取り扱う。

太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーを取り巻く事業環境は年々厳しくなっている。発電事業者は固定価格買い取り制度(FIT)に頼らず、PPA(電力販売契約)をはじめとした新たな販売スキームを手掛け、電気の売り先や需要家にどう送り届けるのかなどを検討するようになった。

また太陽光が急速に増えた結果、日中時間帯の市場価格とそれ以外を比較すると中部エリアでは1kW時当たり平均10円の価格差があり、売電ノウハウが従来にも増して重要になってきている。

DGPはそうした電力事業者の需給管理業務をAIによって自動化する。前日に広域機関に提出する計画値業務を、人手を介さずに合理化できる。直近では、FD社が手掛けるソニーグループの太陽光発電の自己託送の取り組みにDGPが採用された。 今後も再エネを中心に分散型電源が多く建設される見通しで、需給管理業務を自動化できるDGPはより強みを発揮するだろう。

豊田祐介社長

【特集2まとめ】分散型の「生きる道」 再エネコラボで脱炭素化へ


分散型エネルギーの新たな試みが始まっている。
従来のコージェネを核に据えたものに加え、
太陽光発電などの再生可能エネルギーや燃料電池、蓄電池、
電気自動車を組み合わせた取り組みだ。
再エネと蓄電池によるマイクログリッド、RE100工場など、
脱炭素時代に向けて分散型の「生きる道」を探る。

【アウトライン】新エネとの融合図る分散型 独自色を打ち出す実証を開始

【インタビュー】低コストで分散型エネ導入へ 既存設備を有効活用が鍵に

【レポート】神戸市とセミMグリッド実証 3電池で電力地産地消に挑戦

【レポート】再エネとEV軸に脱炭素化へ「ゼロカボ」サービスを展開

【レポート】燃料電池と太陽光発電を活用 自社工場でRE100実証

【レポート】オフグリッドで再エネ100% 防災拠点として機能を強化

【レポート】再エネとコージェネを最適制御 多様な設備群を扱う強み生かす

【トピックス】温泉とともに湧出するメタンガス 自社エリアで地産地消活用

【トピックス】分散型エネ増加で強み発揮 AIで計画値提出業務を自動化

【トピックス】都市ガスエリアの防災対策設備 ライフラインを72時間維持

【特集2】対ランサムウェアで「防災訓練」 利便性と安全性の両立が課題


【静岡ガス】

生産性向上を目指したデジタル化を推進する一方、日増しに高まるサイバー攻撃のリスクにどう対応するかは、企業経営にとって重要な課題になりつつある。

静岡ガスでは、2月にサイバー攻撃を想定した「防災訓練」を行った。訓練内容は、社内システムが一斉にランサムウェアに侵された疑いがある、というもの。各部門のハブとなる担当者に15分ごとに対応すべき事象が通知され、誰が、どこに、どのタイミングで報告するかなどを検討するのが大まかな流れだ。

今回の訓練には、情報、供給、生産、電力の4部門から全体で30人ほどが参加した。本社と清水・袖師のLNG基地、電力需給管理部門がある富士支社をリモートで接続し、チャットツールを駆使して部門間での円滑な情報共有・連携の方法などを確認した。

訓練に当たる供給系システム班

こうした取り組みのきっかけは、2016年に行われた日本ガス協会主導の訓練だ。これを踏まえて、年1回の社内訓練を実施している。最初はITベンダーに協力を仰いでいたが、20年からは訓練用シナリオの考案をはじめ、全て自社で執り行っている。シナリオはあえてシンプルにし、議論の時間を長めに設けることで、今後の課題をしっかりと洗い出す。加えて、マニュアルに沿った対応策を身に付けたり、参加者自らの発想を促したりする狙いもある。

非常時の対策チーム結成 情報収集に取り組む

静岡ガスでは4部門のうち、供給、生産、電力の3部門を制御系とし、そのOT(制御系)領域を守ることを特に重視。情報を取り扱う技術やシステムをITと呼ぶのに対し、OTはプラントなどの制御機器を運用するシステムを指す。制御系のOTがサイバー攻撃を受けると、人々の暮らしや生命に重大な影響が出る可能性を否定できない。

静岡ガスは技術、組織、人材をサイバーセキュリティーの三本柱とし、訓練のほか、組織的な対策として「CSIRT(コンピュータに関するセキュリティー事故対応チーム)」を結成した。CSIRTは有事の際に立ち上がる組織で、システム系のメンバー約10人を中心に20人ほどで構成される。全国400チーム以上が加盟している日本CSIRT協議会にも所属し、情報共有を図るなど、横のつながりを大切にしている。

情報系システム班

デジタルイノベーション部ICT企画担当の佐藤貴亮マネジャーは「社員一人ひとりが常にセキュリティーを意識しながら仕事をするのは大変。自身の仕事に集中してもらうためにも、システム担当として、それを意識させすぎないような、セキュリティーと利便性のバランスを実現したい」と意気込みを見せた。

【特集2】制御系を狙うサイバー攻撃 エネインフラに甚大被害の脅威


近年、エネルギー施設などの重要インフラを狙ったサイバー攻撃が激増している。ランサムウェアやエモテットを利用した攻撃は、甚大な被害を及ぼす可能性がある。

今年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻によって、サイバー攻撃の脅威が世界的に高まっている。戦時下にあるウクライナでは国防省や国営銀行がDDoS(大量アクセス)攻撃を受けて、ウェブサイトやサービスが停止した。欧州では通信衛星がサイバー攻撃によって停止し、約1100万kW分の風力発電の遠隔監視制御が不能になる事態となった。国内でも、トヨタ自動車のサプライチェーンで部品供給が停止となった。ウクライナ侵攻との直接的な関係は不明だが、さまざまなサイバー攻撃の被害が顕在化している。

この状況を受けて、政府は2月23日から3回にわたって「産業界へのメッセージ」としてサイバー攻撃への注意喚起を行い、警戒を呼び掛けている。

ランサムウェアで身代金要求 猛威を振るエモテット

近年、サイバー攻撃で猛威を振るっているのが、ランサムウェア攻撃とマルウェア「エモテット(Emotet)」だ。ランサムウェアは身代金という意味の「ランサム」と「ソフトウェア」を組み合わせた造語で、企業のシステムに侵入し、暗号化などによってファイルを利用不可能な状態にする。攻撃者はそのファイルを元に戻すことと引き換えに身代金を要求する。

昨年5月には、米国最大の石油パイプライン会社コロニアル・パイプラインがランサムウェアの被害を受けた。情報ネットワークが不正アクセスされランサムウェアが侵入、脅威を封じ込めるため課金用ITシステムなどを停止した。これにより、全てのパイプラインが停止する事態となり、最終的に身代金440万ドル(約5億5000万円)を支払うことになった。

エモテットは、昨年11月頃から出回り始めたマルウェアだ。主に、マクロ付きのエクセルやワードファイル、パスワード付きジップファイルとしてメールに添付する形式で配信されてくる。ファイルを開封すると、マクロを有効化する操作によって感染し、メールアカウントとパスワード、アドレス帳などの情報が抜き取られる。攻撃者はエモテットによって入手した情報をもとに他のユーザーへ感染メールを送信し、取引先や顧客を巻き込んでいく。

狙われるOTシステム 防ぐゼロトラストの概念

エネルギー事業者が使用するシステムは、顧客管理などを行うIT(情報系)システムと、発電所や送配電網、LNG基地の運用などに利用するOT(制御系)システムの大きく二つで構成されている。ITは一般企業と同様に顧客情報管理やサービスを行うため、適宜新しいシステムに入れ替えて利用するケースが大半だ。一方、OTは外部ネットワークへの接続点が限定された閉じられたシステムで、以前はサイバー攻撃が心配されていなかった。OTは10~20年という長期間にわたり使用され、システムによってはいったん稼働したら停止が困難なものもある。このため、古いOSのままで使われていたり、セキュリティーのアップデートをしていないものがあったりする。そうした対策を全く実施していないOTをネットワークにつなげると、セキュリティーが脆弱でサイバー攻撃のリスクに晒されることになる。

15年12月、ウクライナの送配電事業者のOTがフィッシングメールによってマルウェア「ブラックエナジー」に感染、情報を盗み取られた。この情報をもとにエネルギー供給事業者3社の変電所を遠隔制御して停止させたほか、無停電電源装置やモデムなども止めた。さらに、ハードディスクなどの情報を完全に削除するツールでサーバーやワークステーション上の情報を破壊。このほか、コールセンターがつながらないように大量の電話をかけて、サービス拒否状態にするなど、徹底的な攻撃が仕掛けられた。

昨年2月に、米国フロリダ州の水処理施設にあるパソコンに不正アクセスがあった。OTシステムは古いOSが稼働し、ファイアウォールもなく、共通パスワードのリモートアクセスシステムのままだった。これにより、産業用制御システムが外部から不正な操作を受け、水酸化ナトリウムが通常の100倍に増やして投入された。このように、OTは一度サイバー攻撃を受けると、甚大な被害になる危険がある。

近年はOTにおいても、IoT機器の導入が進められ、ITとネットワークで接続しコスト削減や稼働効率の向上などにつなげようという動きが出てきている。そうなると、以前にも増してサイバー攻撃には注意を払わなければならない。そこで注目されているのが、「ゼロトラストネットワーク」という概念のソリューションだ。文字通り、全てのトラフィックが信用できないことを前提に、あらゆる端末や通信のログを取得して検査する性悪説のアプローチを採用する。

セキュリティーベンダー大手である米国パロアルトネットワークスの「セグメンテーションゲートウェイ」では、IoTデバイスから顧客情報までが部門ごとにレベルで区分けされ、各部門から通信するには、中央の監視を通過しないと通信できない仕組みになっている。「レベル分けされたそれぞれの部門にあるIoTデバイスやパソコン、サーバーなどの設備を1カ所で監視します。こうすることで信頼性が高まるほか、コスト削減につながります」。林薫日本担当最高セキュリティー責任者はこう説明する。

国内のエネルギー事業者は従来、ITとOTの間にセキュリティー機器を設置したり、ITとOTを接続しないことで、サイバー攻撃による甚大な被害を起こさせずに運用してきた。しかし今後は、IoTデバイスやデジタルツインなどの導入による効率的な運用が重要施設でも行われていく。そうしたとき、ゼロトラストネットワークのような新たな仕組みが必要になってくるとみられる。

【特集2】攻撃情報を事業者間で共有 電力インフラを守る業界組織


【インタビュー:内田忠/電力ISAC代表理事】

5年前、電力業界でもサイバー攻撃を未然に防ぐという機運が高まった。電力ISACは事業者間で情報共有と分析を行う組織として活動している。

電力ISACの内田忠代表理事

―電力ISACの設立背景を教えてください。

内田 サイバー攻撃の脅威が高まった約10年前、ITや金融などの業界がISAC(セキュリティー情報共有組織)を立ち上げました。重要インフラである電力業界でも、事業者間でサイバーセキュリティーに関する情報を共有し、適正かつ迅速に対応できる組織が必要との判断から、2017年3月に設立しました。現在、大手電力をはじめ新電力など53の企業・事業者が参画しています。

―具体的な活動内容は。

内田 大きく三つあります。一つ目が「サイバーセキュリティーに関するインシデント対応力の強化」です。会員同士が交流するワーキンググループを「需給・系統」「火力」「小売り」「対応力強化」の四つのテーマでつくり、サイバー攻撃に対する最適な取り組み方法を検討しています。また、人材育成を目的に、実際に攻撃を受けたらどのように対処するか、などを想定して演習や模擬訓練を行っています。

 二つ目が、「情報の収集・分析の高度化とそのタイムリー性の追求」です。サイバー攻撃は日々巧妙化しています。国内外でどのような攻撃があり被害を受けたのか、といった脅威情報を電力ISACが収集・分析を行い、会員に配信しています。

 三つ目が「国内外のセキュリティー組織等との関係強化」です。ITや金融などほかの業界のISACや、欧米の電力ISACと連携し、取り組みや政策動向など最新の課題について定期的に情報共有を行っています。

国内の電力インフラは無事故 セキュリティー対策強化継続

―今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻によって、サイバー攻撃の脅威は高まっていますか。

内田 ウクライナでは国防省や国営銀行がDDoS(大量アクセス)攻撃を受けて、ウェブサイトやサービスが停止しました。また、欧州全域で約5000基の風力発電の遠隔監視制御システムが停止する事態に陥りました。国内でも自動車のサプライチェーンで部品供給が停止しました。

 そうした中、2月下旬以降、経済産業省から産業界に向けて、計3回の注意喚起が発信されました。電力ISACの会員各社も緊張感をもってサイバー攻撃を警戒しています。

―これまで、国内の電力インフラはサイバー攻撃を受けて危機的状況に陥ったことはありますか。

内田 IT(情報系)システムとOT(制御系)システムのうち、発電所や中央給電指令所などのOTがサイバー攻撃の被害を受けると、電力の安定供給に影響する可能性があるので、国内の大手電力はOTとITの間にセキュリティー機器を設置し、ITが攻撃を受けてもOTに影響が出ないようなシステム構成を採用しています。このため、電力インフラがサイバー攻撃を受けて被害にあった事例はありません。

 ただ今後、OTで取得した情報をITで分析するといった業務は増えてきます。また、そのため、OTとITでもセキュリティー対策を着実に行い、電力の安定供給に万全を期す必要があります。

 電力ISACとしては、業界のセキュリティーの底上げにつながるような情報共有に今後も取り組んでいきます。事業者が万全を期すことができるよう継続的にサポートしていきたいです。

【特集2】情報へのアクセスに安全な仕組み ITとOTの通信にメタバース導入


【ニチガス】

社内システムにDXを積極的に導入するニチガス。セキュリティーに関してもメタバースなど最新技術を採用する。

日本瓦斯(ニチガス)は、LPガスの充填基地や営業所の運営、配送や検針などの業務全体の管理に、自社運用のクラウドサービス「雲の宇宙船」をはじめ、DXを積極的に導入してきた。その一方で、それらをサイバー攻撃から守るためセキュリティー対策にも取り組んでいる。

従来は、顧客情報の管理などを扱うIT(情報)システムと充填基地の運営に利用するOT(制御系)システムを個別に運用していた。しかし近年、コロナ禍によってリモートワークが増えた影響などから、ITとOTを接続してリモートでメンテナンスを実施するといった双方向通信のニーズが出てきている。

OTの情報は事業運営に関わる重要情報であり、ネットワークで扱うデータ量が増えたとしても厳重に守らなくてはならない。

「ITとOTの間を安全に通信できる環境を構築するのに、新たな仕組みが必要と考えました。その一つがメタバース(CPS:サイバーフィジカルシステム)です」。エネルギー事業本部情報通信技術部の松田祐毅部長はこう話す。

重要情報に直接アクセス不可 メタデータでまずは検索

メタバースはコンピューターやネットワークに構築された3次元仮想空間を指す。アバターを操作するファンタジーな世界を想像するかもしれないが、同社のCPSで扱うのはあくまでエネルギー事業に関連する情報だ。

論理的セキュリティー施策

LPガスの従来型システムでは需要家の検針データ(請求)、ボンベの配送、保安の情報はそれぞれの業務システムで運用してきた。これに対しCPSでは、需要家宅にLPガスボンベと共に設置にするネットワーク制御装置(NCU)「スペース蛍」で得られた顧客情報が、安全な閉域ネットワークを通じてCPS内の各業務システムに格納される。

この業務システムに外部から直接アクセスすることはできない。いったんメタデータ(顧客の属性情報など)が記された仮想メーターにアクセスしてデータ検索を行い、権限を持った者が必要な情報のみを取り出せる仕組みになっている。「重要情報へのアクセスを困難にすることで、ランサムウェアからの攻撃を回避できます」と、松田部長は強調する。

ニチガスは引き続き新技術を積極的に採用しながら、エネルギー事業者の新たな運用モデルを提示していく。

【特集2まとめ】対サイバー攻撃「最前線」 エネルギーインフラの防衛策


今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻などに端を発し、
サイバー攻撃のリスクが世界的に高まっている。
標的の一つがエネルギーインフラだ。
海外では安定供給に致命的な打撃を与える事例も出ており、
日本にもそうした脅威が間近に迫っている。
エネルギー関連企業のサイバー攻撃対策の最前線を追った。

【アウトライン】制御系を狙うサイバー攻撃 エネインフラに甚大被害の脅威

【インタビュー】国内の大手電力向けアセスを実施 業界全体のレベルアップが重要

【インタビュー】攻撃情報を事業者間で共有 電力インフラを守る業界組織

【レポート】想定を超えるトラブルに備える 最重要インフラの防衛策

【レポート】対ランサムウェアで「防災訓練」 利便性と安全性の両立が課題

【レポート】情報へのアクセスに安全な仕組み ITとOTの通信にメタバース導入

【レポート】多様化する通信環境を安全運用 制御系を守るSIMを開発

【レポート】「標的」と化す重要インフラ サイバー攻撃に備え危険回避

【トピックス】官公庁や自治体など広く対象に 高い技術力で制御システムを守る

【特集1まとめ】電力システム崩壊前夜 「3.22需給危機」の深層と教訓


東京・東北エリアに初の「電力需給ひっ迫警報」が発令された3月22日。
16日の福島県沖地震の影響で、両エリアの火力発電所6基(計約335万kW)が停止中。
そこにトラブルによる計画外停止や低気温による高い需要予測が追い打ちをかけた。
計画停電の実施は避けられたものの、今回の危機的事象からは、
地震や天候のせいばかりにしていられない、構造的な問題が浮き彫りになった。
問題から目を背け続ける限り、行き着く先は電力システムの崩壊だ。

【アウトライン】需要・供給双方の総力戦で難局打開 綱渡りの大規模停電回避の舞台裏

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【インタビュー】端境期の需給ひっ迫危機が顕在化 供給設備の作業停止調整に課題

【インタビュー】電力を取り巻く不確実性高まる 社会全体で対応力の向上を

【特集1まとめ】エネルギー非常事態宣言 ウクライナショックの波紋


昨年来懸念されていたロシア・ウクライナ危機が最悪の展開を迎えた。
ドイツが「ノルドストリーム2」の停止措置を取った直後、ロシアが軍事侵攻を開始。
西側諸国の経済制裁の代償として、国際エネルギー市場は大混乱に陥った。
欧州は脱ロシア化を息巻くも、化石燃料資源の調達は極めて不安定な状態に。
片や日本は10数年振りの油価急騰と、欧州のLNGシフトに巻き込まれつつある。
地政学の構図が変貌し始めた今、エネルギー安全保障上の課題が突き付けられている。
※3月23日までの情勢に基づき作成

【アウトライン】世界を襲う未曽有のエネルギー危機 有事対応へ急務の安保戦略

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【座談会】戦後最大危機を乗り越えられるか 脱ロシアで深まる歴史的分断

【コラム/3月23日】東日本大震災11年後に復興の核を考える 福島原子力発電所再構築を期待


飯倉 穣/エコノミスト

1. 東日本大震災後11年である。時間の経過もあるが、10年超一区切り、復興完了に近づいた。復興一段落・課題紹介報道は、ウクライナへのロシア侵略で地味だった。

「東日本大震災11年 細る支援 継続が課題」「巨額復興の後 再生手探り」(朝日2022年3月11日)、「東日本大震災11年 福島復興拠点 避難解除へ」(日経同)。

また反原発の新聞は菅直人氏のインタビュー記事を載せた。「日本の原子力技術 楽観誤りだった、菅元首相 安全保障上も原発に懸念示す」(朝日同)。ロシアの原子力発電所攻撃・占拠もあり、原子力の在り方、福島第一原子力発電所事故後の状況報道も散見された。

 福島の復興状況は、福島第一原発の汚染水処理(ALPS処理水)と廃炉を最大課題として語る。農業・自然エネ・公共投資呼び込みの地域再生状況を解説する。事故後の政治的混乱・風評・マスコミの扱いの帰結である。浜通りの地域展開の方向として妥当な選択であろうか。福島原子力発電所再建を阻むタブーを考える。

2.  内堀雅雄福島県知事は,復興と未来を切り拓くキーワード「光と影」を強調した。光は11年間の県民の努力で復興進展、影は、11年経ても避難者・解除区域・福島第一原発廃炉・ALPS処理水・農産物の価格差・教育旅行等で復興不十分と述べる(日本記者クラブ会見22年3月10日)

福島県経済は、復興している。県内総生産(18年度)は、名目7兆9054億円で((11~18年度平均伸び率名目2.4%/年、同実質2.1%)、ほぼ名目・実質とも07年度水準(震災前の好況期)である。一人当たり県民所得も、294万円/人で、震災前を(07年270万円)を上回る(内閣府統計)。現在は、コロナの影響で水準維持の状況にある。産業別では、電気業の半減超の低下、宿泊飲食サービス業の停滞が目立つ。支出側では、政府最終消費、公的資本形成の増加が目立つ。雇用は一応の水準である。

 県全体と異なり、福島県内の原発事故被災地域(浜通り:双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯館村、葛尾村)は、様相が異なる。避難指示区域の解除も漸く最近で、居住人口(震災前7万人に対し1万人未満)、経済活動は限られている。原子力発電所が最大の雇用の場であった。産業活動は、公共事業や一部民間事業があるものの、一次産業中心となる。

 自然に帰るという意味で、「人新世の資本主義」のコモン的発想なら、理想郷だろうが、過去の努力や今後の地域展開の視点から疑問が残る。

3. 原子力発電所の事故はなぜ起きたか。「福島第一原発は、地震にも津波にも耐えられる保証がない、脆弱な状態であったと推定される。自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策・・など、それまでに備えておくべきこと・・をしていなかった」「本事故の直接的原因は、地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが、事故が実際にどのように進展していったかに関しては、重要な点において解明されていないことが多い」(国会事故調12年)。政府事故調も事故について地震か津波か曖昧表現である。専門家でなくとも、事故の状況を搔い摘めば、地震による送電線の倒壊と津波浸水による非常用電源喪失による原発事故という見方になる。故に11年3月時点で地震・津波の規模の予測可否が論点となる。残念ながら科学的に予測できなかった。故に東電も天災の被災者であった。

 国会事故調は、当時の科学的知見より、なぜ想定外対応が不可だったかという視点で東電の経営・企業体質や規制当局の対応を殊更論点とした。

4. 政治の都合もあった。苛立ちと責任転嫁の民主党の姿勢である。菅直人首相は、外国人献金問題で前原誠司外相に続き、辞職に追い込まれる状況だった(朝日11年3月11日)。そこに東日本大震災が発生した。野党自民党は、国家非常事態を受け追及出来ず、政権はそれを利用し懸命対応の姿勢で生き残りを図った。そして延命のためか権力者の思惑か、浜岡原発に続き全原子力発電所の停止を行い、電力不足・経済の危機を演出した(同年7月)。

5. 天災で発生した損害の責任はだれが負うのか。原子力損害賠償法の法律の立て付けに、立法当時の歪みが大蔵省の主張で残されていた。原賠法3条但し書き(異常に巨大な天災地変等の場合、事業者は損害の責めを負わず、政府が必要措置をとる)の扱いである。これに該当すれば、誰が法的に対応するか釈然としない規定のままだった。故に原賠法3条但し書きに該当するか否か、水面下で問われた。過去の国会答弁は、関東大震災の3倍以上の規模なら3条但し書き該当ということであった(1960年年5月18日科技庁長官国会答弁)。東日本大震災(マグニチュード9.0)は、関東大震災(マグニチュード7.9)の30倍を超える地震エネルギーであった。その発生規模を考えれば、関東大震災の3倍を遙かに超える。

事実と法解釈の経緯を無視して、民主党政権は、国会事故調の糾弾的聴聞で、被災者東電に責任を押しつけた。これに関係省も加担した。

 東電サイドは、日本人的信条の宿命か 優しさが難であった。地域を思った。それにつけ込む非情な権力の勝手解釈を吞み込まされた。イェーリング「権利のための闘争」を手放した。法権利の侵害に対する闘争は、私の物に対する攻撃だけでなく人格に対する攻撃である。権利を無視された者はあらゆる手段で戦うことが自分自身に対する義務であることを諦観した。その後遺症が、今日の経産省管理国有東電の姿である。忍一筋は悲しくもある。又活力喪失でもある。

6. 福島県生まれの木川田一隆が、福島県人と協力して浜通りに原子力立地を決定した。お互い故郷発展の思いは一緒であろう。地元・東電には、地場産業としての原子力発電産業であった。事故後、当初地域の首長の多くは、原子力再建の思いもある印象を受けた(11年4月5日記者クラブ会見)。その後現実と世論の厳しさとともに消えていった。人々は、事故で希有な苦渋と辛酸をなめて、原子力を語ることはなくなった。そして浜通り地域に漸く定住者が戻りつつある。人が戻り働く場を考えるとき、浜通りの復興で、自然に帰ることなく、公共的施設に頼ることなく、復興の核として原子力発電事業の再構築に取り組むべきではなかろうか。それが今後の地域展開の課題と考える。