【特集2】産業とともに進展する保安 人材不足など新たな課題に対応


保安は日本の産業発展を追いかけるように、さまざまな変遷を経て高度化してきた。2020年代の大きな目玉はAIやドローンなど新たなツールを活用したものだ。

産業界に保安が登場したのは高度経済成長期の1960年代だ。東名阪を中心にコンビナートが建設され、エネルギーを大量に消費して多くの産業を生み出してきた。生産技術の発展とともに、設備や施設が大型化していき、事故発生時には被害も甚大なものとなった。こうした事故や災害に対応するため、設備の安全技術向上が図られ、事故の発生確率が抑制された。

80年代~2000年代は、さらに事故を低減するため安全マネジメントシステムが導入された。製造事業所ではTQC(統合的品質管理)、TQM(総合的品質管理)など、現場での品質や安全を現場主導で行う取り組みが普及した。また、品質マネジメントシステム「ISO9001」が普及し、継続的な改善が進んだ。

00年代は人的・組織的要因の統合の取り組みが進んだ。事故の人的要因を考えるようなシステム構築や、企業組織としての風土や文化が事故要因につながらないか改めて検証する取り組みだ。

こうした取り組みによって、産業界の保安体制は高度経済成長期と比較して飛躍的に向上している。

産業保安の成熟 出所:三宅淳巳横浜国立大学理事・副学長資料

AIやドローンの活用 作業補助と効率化

20年以降は、さらなる安全向上に加え、人材不足への対応が課題となってきた。そうした中、注目を集めているのがドローンやロボットの活用だ。エネルギー業界でも、煙突や送電線、風力発電設備など、高所作業、遠隔地の点検作業に導入され、実証が進み実用化される用途も出てきている。

また、通信機能を保安設備に搭載し、現場の作業員と管理者がメンテナンス情報を双方向通信で交換したり、遠隔地からの操作などが行われるようになってきた。

さらに、部品やコンポーネントをはじめ発電所などプラントそのものをバーチャル化して、同じものを机上につくり、AIによる点検や寿命予測などが行われている。

こうした新技術の活用した保安は「スマート保安」と呼ばれている。大きな可能性を秘めているが、裏を返せば未知の部分があるということでもある。懸念事項を一つひとつ払拭していき、さらなる安全と効率化、人材不足解消に資することが保安には求められている。

【コラム/11月15日】制度設計は、益々増えて複雑に


制度設計の進捗に関する前回の寄稿から4か月ほど経ったが、まだまだその進展は止まることを知らない。最近では、環境省や内閣府など、少し範囲を広げてウォッチするようになったが、これを全て網羅して把握しようとすると、めまいが起きそうだ。今回は、今年7月以降、10月までの制度設計の進捗について振り返りたい。

幅広い分野での議論を展開

ここ最近の国の審議会の傾向は、相変わらず毎月の開催件数が減らず、多い時には、1日で4~5件開催されるケースも目立っている。コロナ禍でのオンライン化が影響していることになるが、人には「密になるな」と言いつつ、「会議」は「密」になっても良いということだろう。取り上げる分野が多岐に渡っていること、専門的な分野はワーキンググループ(WG)や専門部会を設置して議論せざるを得ないことが要因だろう。

 筆者も毎月、経産省を中心にエネルギーや環境に関する審議会をウォッチしている。完璧に全てを網羅しているというわけではないが、それ相応にチェックしているのであるが、審議会全体を見渡してみると、幅広い分野で議論が展開されていることが分かる。

例えば、表1は10月に開催された審議会を電力のサプライチェーンとその他キーワードを横軸にしてプロットしたものであるが、多岐に渡っていることが分かるだろう。

 ちなみに、筆者がチェックしている限りではあるが、エネルギー・環境関連の審議会開催件数は、7月が28件、8月が27件、9月が34件、10月が47件と、4か月で136件となっている。8月はお盆休みがあったので一服感があったものの、9月から再びドライブがかかり、10月には営業日換算で1日平均2.5件弱の開催という熾烈な状況になっている。

これから年末にかけてはGX実行会議の取りまとめに向けて各分野で一定程度の取りまとめが行われることや、年明けには通常国会が開会され、おそらくCCSや再エネ関連の法案提出が見込まれることから、ここしばらくの間は、審議会の開催頻度は高くなるだろう。

議論は同時並行で実施 内容も盛りだくさん

毎月、出しているレポートの中で、7月に第1四半期の振り返りと今後、予定されている月別スケジュールというものを作成した。(表2)

7月時点なので、更新・変更もあるので、最新版ではないが、非常に多くの検討が進められ、見直しや新たな措置が取られることが分かると思う。

全体をざっくり把握するには年度毎のスケジュールを見ていけばよいが、実務を行う事業者にとっては、こうして詳細にチェックして、抜け漏れがないようにしておくことが必要だろう。

至近の議題の特徴は、足元の危機・課題として挙げられているエネルギーセキュリティと電力安定供給、エネルギー価格高騰への対応を前提に、将来への布石としてカーボンニュートラル実現のためのGX推進についても同時並行的に議論が進んでいる。

前者については、資源燃料の安定確保のため、ガス事業法改正(臨時国会で法案提出)によるJOGMECによる調達支援や、発電事業者や都市ガス事業者などの異業種間でのLNG融通などの取組みを進めているほか、供給力確保において昨冬や今夏同様に、この冬も休止電源などを活用するkW公募、kW時公募により追加的な電源調達や再稼働可能な原子力発電の稼働などを行い、何とか厳気象時の最大需要であるH1需要に対して必要な最低限の供給予備力3%確保ができるレベルまで引き上げることができた。もちろん、大型火力のトラブル停止や寒波による急激な需要増が発生すれば、ひとたび、「ひっ迫」の危険水域に舞い戻る可能性は否めない。また、供給側だけに頼ることは難しいとして、需要側についても、「無理のない範囲での節電」協力依頼や、小売電気事業者を介したDR促進により、需給一体での対策を講じているところである。

 こうした足元の対策は、ある意味、プロ野球で言えば、先発投手が危険球退場して、急遽、リリーフ投手がマウンドに上がってピンチをしのぐといった場面に似ており、恒久的に同じことを繰り返してはいけない。そういった意味で、中長期的には、資源燃料としてアジア諸国などとのサプライチェーン強化や、供給力確保として24年度から契約発効する容量市場の着実な実施、予備電源の制度化、脱炭素電源の新規投資を促進するための長期脱炭素電源オークションの検討、そして需要側は引き続き、DRや省エネの徹底を進めることを検討項目として掲げている。

一方、将来の布石については、資源燃料や電源の脱炭素化を図るため、水素・アンモニア、メタネーションといった新たな燃料の開発・実証を進めるとともに、未整備である法令などの整備や事業者支援の在り方の検討を進めている。電源については、前述の長期脱炭素電源オークションの制度化による脱炭素電源の新設・改修を進めるため、来年度に初回オークション実施に向けた詳細設計が順次進められている。電源の脱炭素化については、再エネ主力電源化が謳われているが、そのために必要な地域間連系線の増強・系統運用の高度化を進めるほか、導入にあたって一定の規律を遵守させるためのルールづくりも始まっている。

 また、電力・ガスシステム改革から既に6~7年経過し、様々な課題が露見してきたことを受け、システム改革の再整理にも着手し始めている。

さらに、環境面で言えば、製品一つひとつのライフサイクルCO2を算定・表示し、取引先などのステークホルダーからの要請に応えることができるよう、カーボンフットプリントの算定に係る検討会創設や、脱炭素投資の財源として活用が見込まれるカーボンフットプリントの制度化、脱炭素に先行的に取り組み、野心的な削減目標をもつ企業が参加するGXリーグの詳細設計や、その中で行われる排出量取引についても、検討が始まっている。

制度が複雑化し機能するのか エネ事業者と需要家に最適なものを

こうして多くの議論が幅広く、同時並行に行われ、多くの制度が実装されているが、事業を行う側、そしてエネルギーを利用する側の双方にとって最適なものになっているかは、まだ言い難い状況である。

電力やガスといった産業は、どうしても制度や規制があってこその事業ではあるが、あまり複雑で頑ななものになると、せっかくの良い制度であっても機能しないおそれがあり、結果して、再度見直しが入り、また多くの時間を費やして議論し直すことになりかねない。もちろん、一回作った制度が運用を経て、その状況を踏まえたブラッシュアップを行うことは否定しないが、各議論においては、是非、実りあるものになるよう願いたいところである。

【特集2】脱炭素に挑むガス体エネルギー e-メタンなど次世代技術が加速


脱炭素化に向けて新たなエネルギー技術が取り上げられるようになってきた。実用化に向けてのルールづくりも重要なポイントなってくる。

2050年カーボンニュートラルに向けて、ガス体エネルギーの次世代技術がこの1年で数多く発表され、従来にも増して開発や取り組みが加速している。
日本ガス協会は昨年6月、「カーボンニュートラルチャレンジ 2050」アクションプランの中で「メタネーション実装への挑戦」を打ち出し、業界を上げての取り組みを本格化させた。メタネーションはCO2と水素(4H2)を反応させて都市ガスの主成分である「メタン(CH4)と水(2H2O)」を生成する。こうして合成されたメタンを総称で「e-methane (e-メタン)」と呼ぶ。e-メタンの代表的な合成法はサバティエ反応を利用した方式で、触媒を介してH2とCO2を反応させてCH4を生成する。
INPEXと大阪ガスが24年度に開始する実証においても同方式が採用されている。INPEXの長岡鉱場内から回収したCO2を用いてe-メタンを製造し、同社の都市ガス導管に注入する予定だ。e-メタンの製造能力は1時間当たり400N㎥と世界最大規模となる。実証では、①触媒によるメタネーション反応の挙動把握を目的とした反応シミュレーションの技術開発、②プロセスの基本性能や触媒の長期耐久性などの評価・確立を目的とした大規模メタネーション反応プロセス技術開発、③商用スケールへの大型化、適用性や経済性などの評価を目的とした、反応システムのスケールアップの適用性―を検証する。

メタネーションの事業イメージ 出所:INPEX


エネ変換効率向上を目指す 新たなメタネーション技術

メタネーションでは高効率化や低コスト化を目指し、次世代技術の開発も進行中だ。東京ガスの「ハイブリッドサバティエ」や「PEMCO2還元」、大阪ガスの「SOECメタネーション」、「バイオメタネーション」などがその代表的な技術となる。
東京ガスが取り組むハイブリッドサバティエは、サバティエ反応を220℃以下と従来よりも低温で行う。これにより、発生する熱を水素発生の水電解に活用。投入する電力量を抑制して、80%以上の高効率なメタネーションを目指して開発を進めている。
PEMCO2還元は独自に開発する水電解セルスタックと親和性の高い電気化学還元デバイスを使用して、水とCO2から直接メタンを生成する。メタン合成装置が不要のため、設備を簡素化して設備コストの低減が期待できる。また固体高分子型のため反応温度が100℃以下と低く、大型化における配熱処理の課題がないことも特徴だ。
大阪ガスのSOECメタネーション技術(高温電解ガス合成技術)は、水素の供給が不要で、電力からメタンへのエネルギー変換効率が85~90%と非常に高い。従来のメタネーションでは水の電気分解やメタン合成反応で発生する熱を有効利用できず同55~60%にとどまっている。SOECメタネーションはエネルギー損失が少なく前述のような高い効率が実現でき、電力使用量を従来に約3分の2まで削減できる可能性があるという。
メタネーションの実用化に向けて、制度面での取り組みも進められている。CO2を排出する側とメタネーションなどに利用する側のどちらでCO2をカウントするかというルール決めが行われているのだ。国内におけるカウントルールは、メタネーション推進官民協議会傘下の今年3月に開かれた「CO2カウントに関するタスクフォース」で、工場や発電所などの排出者側にCO2排出を計上し、メタネーションでe-メタンを生産する都市ガス事業者など利用側はゼロと整理された。
ただ、排出者側にとって利用側にCO2を引き渡すメリットがなければ、そうした取り組みが浸透しない。このため、補完的な仕組みの制度設計が必要とされている。
30年には、海外でグリーン水素を調達し毎時数千~数万N㎡の大規模実証を行い、現地からe-メタンを輸入する計画だ。これにより、30年までに都市ガス全体のうち1%のe-メタン導入を目指す。この1%を都市ガス量に換算すると、4億㎡に相当する大規模なものとなる。
24年度に始まるINPEXと大阪ガスの実証や、海外での大規模生産計画のためにも、早期の環境価値取引ルールづくりが求められている。


グリーン水素登場を見越し 利用機器の実証始まる

次世代エネルギーでは水素関連の取り組みも活発だ。パナソニックは純水素型燃料電池や太陽光発電、蓄電池を自社工場敷地内に設置して、工場で利用するエネルギーを賄う実証を行っている。将来、再エネ由来のグリーン水素が供給されることを見越した先進的な実証だ。リンナイは、水素100%燃焼給湯器を開発。水素の燃焼特性に合わせたバーナー技術によって実現した。11月からはオーストラリアで実証をスタートさせる。同社はトヨタ自動車が静岡県裾野市に建設する「ウーブン・シティ」において、水素を燃焼させて行う調理において共同開発も開始した。このように、水素利用機器側での取り組みが今年に入って活発となっており、今後さらに加速していくものと見られる。
産業ガス大手のエア・ウォーターは北海道十勝地方で、家畜糞尿由来のバイオガスに含まれるメタンを液化バイオメタン(LBM)化し、活用するまでのサプライチェーン構築の実証を行っている。LBMはメタン純度が99・99%と高い。ロケットやLNGトラックなどその性能が生かせる用途をターゲットにしている。
次世代に向けてさまざまな開発や取り組みが進む中、環境価値についてのルールが話題に上るようになってきた。ただ、水素もLBMも再エネからつくり出したとしても、環境価値が認められる仕組みには現在のところなっていない。こうした手つかずの部分の整備が今後一層求められてくるだろう。

【特集2】多種多様な業界が注目 燃料電池による水素活用


【パナソニック】

純水素型燃料電池を用いた「H2 KIBOU FIELD」実証。再エネや蓄電池を組み合わせた試みが話題を呼んでいる。

パナソニックは今年4月、RE100実現と分散型エネルギー社会構築に向け、5kW純水素型燃料電池「H2 KIBOU」と太陽光発電、リチウムイオン電池を組み合わせた実証施設「H2 KIBOU FIELD」を同社草津工場内に設置して実証実験を開始した。

同社草津工場に隣接する実証施設「H2 KIBOU FIELD」


実証施設ではH2 KIBOUを99台(495kW)並べて、昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は燃料電池を稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、24時間稼働する装置があるため一日中電力使用があり、ピーク電力は夏場に約680kW使用する。年間通して、工場の電力需要を太陽電池、燃料電池、蓄電池の三電池で賄う。液化水素の供給は岩谷産業が担当。年間で120tの水素を使用することが想定され、270万kW時の電力需要に対応する。
実証施設は稼働から半年が経過した。今もメーカーやゼネコン、地方自治体など、多種多様の業種の担当者が見学に訪れており、関心の高さがうかがえる。燃料電池事業横断推進室の河村典彦水素事業企画課長は、実証施設の能力について「長期的には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を用いるのが目標です。現段階は、グリーン水素ではないが消費拡大、利活用の好事例を示していきたい」とアピールする。

実用化課題は発電コスト 価格引き下げで選択肢に

このような水素によるRE100スキームにおいて、課題の一つがコストだ。現在の水素発電では、1kW時当たり0.6㎥の水素が必要で「例えば今の1㎥当たり100円の水素価格では、経済合理性が成り立たない」(河村課長)。経済産業省は2030年に向けて、水素価格を同30円、50年には同20円程度に引き下げる目標を掲げており、河村課長は「同30円なら再エネ電力程度のコスト、同20円なら系統電力並みになります。そうなれば電力の選択肢の一つに選ばれる可能性も出てきます」と期待を寄せる。
そのほか、ガス管と別の水素導管の敷設や関連法案の整備などといった課題も実用化に向けて解決しなければいけない。
河村課長は将来に向けて、「水素は、エネルギーミックスの考えで共存を図りながら推進していくべきだと思っています。燃料電池を用いた分散型エネルギーはBCPの観点からもリスク分散につながるほか、電力価格上昇に対応する自衛手段にもなります」と強調する。23年4月以降は実証実験を次のフェーズに進めて、欧州や中国などにもアピールし、海外展開する計画。パナソニックは、脱炭素社会の実現に向けて、純水素型燃料電池を核とした水素の利活用を進めていく。

【特集2】道内初の天然ガス主体ZEB物件 エネやBCPの知見を投入


【北海道ガス】

北海道ガスはZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及推進に注力する。ZEBとは、建物の高断熱化や設備の高効率化、消費エネルギーを削減すると同時に、太陽光発電や地中熱利用などの創エネで年間の一次エネルギー消費の収支ゼロ以下を目指す建物のことを指す。
政府が昨年11月に発表した第6次エネルギー基本計画では、2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の省エネ性能の確保を目指すと明記され、その重要性が高まっている。
そうした背景から、同社は21年4月、環境共創イニシアチブの「ZEBプランナー」に登録した。顧客向けにシステム提案から補助金申請のサポート、稼働後のビル運用のサポートまで、一貫したZEBコンサルティングサービスを展開している。
今年11月には、地上三階、延床面積856㎡のZEB第一号物件が完成する。高断熱化と高性能ガラス、高効率設備の導入でエネルギー消費量を56%削減。建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の最高ランクである5つ星を獲得した。

北ガスが手掛けたZEB物件


第一号物件をモデルケースに 道内全域にZEBを展開

同社が手掛けるZEB物件は他にはない独自の特徴がある。災害に強い都市ガスインフラによりガスを供給し、空調に電源自立型ガスヒートポンプ(GHP)を導入することで、レジリエンスを強化している点だ。電源自立型GHPなら仮に停電が発生しても、冷暖房の稼働はもちろんのこと、照明の利用やスマートフォンなど電子機器の充電など、必要最低限の電源が確保できる。
「18年9月に発生した北海道胆振東部地震によって、道内のお客さまはBCPへの意識が高まっています。そうしたニーズにも応えながら、ZEB化を実現することができます」。第一営業部都市エネルギーグループの渡邊翔氏はそう説明する。
さらに、同ビルにはカーボンニュートラル(CN)天然ガスや実質再生可能エネルギー100%電気を供給することで、建物全体のCO2排出量が実質ゼロの「CNビル」を実現した。
同グループの鈴木崚太氏は「CO2排出量を徹底した省エネによるZEB Ready化で40t削減し、さらにCO2排出量実質ゼロの電気と天然ガスの供給によって36t削減し、実質ゼロとしました。脱炭素化の実現には、需要側と供給側の双方からのアプローチが求められてくるでしょう」とZEBへの取り組みについて話す。
今年に入り、エネルギー価格の高騰や、4月に「官庁施設の環境保全性基準」が改定されたことなどを受けて、ZEBの需要がさらに高まっている。6月に同ビルの建設が明らかになってからは、北ガスに対して同じ規模のZEB物件建設に関する相談が増えたとのことだ。
北ガスでは中小規模の建物については、今回の第1号案件をモデルケースとして、省エネとレジリエンス強化を両立するZEBを道内全域に展開していく。また、CNにつながるエネルギーサービスの提供を通じて、北海道の脱炭素化、地域発展に貢献していく。

【特集2】液化バイオメタンの実証開始 高純度ガスを多彩な用途へ


【エア・ウォーター】

エア・ウォーターは、家畜のふん尿からつくる液化バイオメタンの実証を開始した。LNG代替に加え、高純度なガス質を生かしロケット燃料などの利用を目指す。

北海道十勝地方で、牛などの家畜から排出されるふん尿を利用して液化バイオメタン(LBM)を生成し、需要家に供給する実証が今年度から本格的に開始となった。
同実証は、環境省が推進する「令和3・4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択されたもの。エア・ウォーターが中心となり、家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンをLBMに加工。液化天然ガス(LNG)の代替燃料として利用することを目的として、LBM生成から需要家での活用までを実証する。サプライチェーン全体でのCO2排出量、温室効果ガスの削減とともに、家畜ふん尿に起因する臭気の減少にもつながることが期待されている。

電力での利用が困難 ふん尿の扱いに苦戦続く

酪農が盛んに行われている十勝地方は家畜から大量に排出されるふん尿の扱いが課題となっている。春や秋に畑の肥料として散布するが、この臭いが十勝地方の中心部である帯広の街中でも立ち込めることがある。これがイメージダウンにつながり、インバウンド需要に影響すると懸念する声もあるほどだ。一方で、エネルギーとして再利用することに関心のある酪農家は、固定価格買い取り制度(FIT)を活用し、ふん尿をバイオガス化して発電することを模索したが、送電網などインフラに関わる制約から活用は限定的で、長年解決策を見いだせずにいた。
このように、ふん尿をそのまま田畑に散布せず、新たな方策を見いだす機運が高まっていた。
そうした中、バイオガスをエネルギーに有効利用する手段として、エア・ウォーターが産業用ガス事業で培った極低温技術などを応用して同実証のスキームを考案。酪農家や乳業メーカー、同社グループ会社などの参画を受けて実証を行う運びとなった。
実証では、①酪農家の敷地内に設置したバイオガス捕集システムで家畜ふん尿由来のバイオガスを回収し圧縮や前処理を行い、ガスを貯めた吸蔵容器をセンター工場に輸送する、②センター工場で捕集したバイオガスを前処理した後、マイナス162℃まで冷やしメタンガスを液化する、③これを需要家に持ち込みボイラーなどで利用する―ところまで行う。
①バイオガス捕集システムは、今年5月に完成し試運転を実施してきた。酪農家に設置し無人で稼働するため、ガスを1MPa未満で捕集する。高圧ガスの複雑な保安体制を必要としない仕組みにした。ガス吸着剤に関わる知見を活用し、ガスが低圧状態でも容積の約20~30倍のガスを輸送できるものを開発した。装置は酪農家でも運用できるよう簡単な点検を1日1回行うだけで済むようにした。
②センター工場は1日当たり1tのLBMを製造する能力を有する。実証では30~50%程度で稼働させている。1日2台持ち込まれる吸蔵容器から抽出したバイオガスを圧縮した後、膜分離装置などでメタンからCO2、大気を除去。さらに深冷分離装置で液体窒素を用いて熱交換を行い、メタンを液化する。同工場は8月8日完成し試運転が開始となった。9月4日からは純度99%以上のメタンが製造可能に。10月13日には同センター工場からLBMが初出荷された。

LBM製造プラント


③出荷されたLBMは、需要家であるよつ葉乳業でLNGと混合してボイラーで燃焼試験を実施している。11月からは、同社と三菱商事が共同で実証しているLNGトラック向け充填所にも出荷していく予定だ。
地球環境システム開発センターの田中真子部長は「燃料としてのLBMはメタン純度が99・99%(フォーナイン)と非常に高いのが特徴です。そうした品質が求められる用途向けにも展開していきたいです。LNGトラックには重質分が含まれていないことから火炎温度が上がらず適しているとされています。また十勝地方の大樹町には堀江貴文氏が設立者に名を連ねる宇宙ベンチャーの『インターステラテクノロジズ』があります。このロケット向け燃料として、高純度なメタン燃料であるLBMは非常に有望です。高付加価値向けにも訴求したい」と強調する。

LBM 実証のスキーム図

LBMの都市ガス利用も 道内の複数地域に展開

地元の都市ガス事業者でも、LBMの導入を検討する動きがある。都市ガス大手3社に限定されているが、エネルギー供給構造高度化法で、条件を満たす余剰バイオガスについては80%以上を利用することが目標と位置付けられているのだ。
今後、こうした法律が地方ガス事業者にも適用される可能性がある。このため、LBMの取り組みに注目をしているとのことだ。
エア・ウォーターでは、道内の他の地域でもLBMサプライチェーンの展開を模索している。北海道産の新たな地産地消エネルギーとして、今後さらに注目を集めていきそうだ。

【特集2】CNに向けた取り組みをサポート 業務用顧客向けコンサルサービス開始


【東邦ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、日本国内の企業はCO2削減を推進するさまざまな施策を検討している。しかし、「そうはいっても、具体的に何から着手したらよいのかわからない」―。そうした企業が大半だという。
業務用顧客のこのような状況を受けて、東邦ガスは都市ガスや電力、エンジニアリングのノウハウを活用した新サービス「CN×P」を立ち上げた。これまでのガス会社の営業というと「ガスや設備導入はいかがですか」と提案してきた。これに対し、CN×Pでは、「まずはCO2削減、その先にあるCN化に向けてこのような手順で進めたらどうですか」「現状の把握から一緒に取り組んでいきましょう」とCNに資する取り組みを一から具体的にアドバイスして顧客とともに取り組む。


現状把握が重要 ロードマップを策定


国のCN宣言以前は、省エネ関連のサービスが主体だった。顧客には燃料転換に伴う都市ガスや設備の導入を提案しCO2削減を進めていった。その中で顧客が最も重要視するのは費用対効果だ。エネルギー関連で新たな設備導入や取り組みを行う際には必ず採算性が求められたという。
CN宣言以降はこの状況が一変した。CO2排出量削減に取り組むという点では同じだが、コストを負担してでも推進しなければならない課題となったのだ。
「従来の投資回収基準に加え、取引先や国、社会からの要請など、CNへの取り組みは判断軸が増えて複雑化しています。いつまでに、どれだけのコストを割いて注力するのか、企業の方針によっても異なります。そこで現状を把握しお客さまの要望を聞きながら、ロードマップ策定やデータの見える化、エンジニアリングを提供し、CN化をサポートするのがこのCN×Pです」。エネルギー計画部ビジネス開発グループの富田達也マネジャーは、こう話す。
CN×Pでは、①顧客のCO2排出量を把握しCNに向けた課題を明確化する、②運用改善、省エネ、再生可能エネルギーや高効率設備の導入などのエンジニアリングサービスの提供によりCO2を削減する、③工場などの現場のCO2排出量のモニタリング、現場社員向けの技能講習会の開催、設備チューニングの支援など良好な削減環境の維持する―という三つのサイクルを回していくことを掲げている。
このうち、①のCNに向けた正しい状況把握の部分が新たなに提供するサービスであり、ロードマップ支援サービスとデータの見える化支援サービスなどを展開する。ロードマップ支援サービスは、顧客の事情に合わせて、CN達成への取り組みを排出量の削減効果と費用対効果でグラフ化し、中長期的な指標となる「CNカーブ」を作成する。図のようにグラフは横軸がCO2削減量、縦軸が施策を行うことによる追加コスト影響を表している。色付きの長方形はCO2削減のそれぞれの施策を表している。施策の長方形が中央線のゼロより下にあるものは投資回収可能なもの、上にあるものは投資回収できないがCO2削減に寄与するものとなっている。このグラフの横軸に目標年度を記入することでそれぞれの顧客に合った排出削減ロードマップが策定できるというわけだ。

「CN実現に向けたロードマップの策定」支援のアウトプットイメージ


例えば、製造業では、古い設備をそのまま用いて効率の悪い蒸気の使い方をしていたり、設備過剰で無駄に電力やガスを消費しているケースがある。こうした際に、「ガス設備の導入はもちろんですが、場合によってはヒートポンプの導入や既存設備の廃止を提案することもあります。電力もグリーン証書付き電力の購入よりオンサイトPPA(電力購入契約)による太陽光発電の設置の方がCN化に有効であれば導入を推薦します。あくまで優先すべきは顧客のCN化です」と、富田マネジャーは強調する。
データの見える化支援サービスでは、各種データの蓄積により、現場の管理工数低減やCO2削減進捗管理・フォローを行う。多くの事業所では工場単位、建屋単位でのエネルギー消費などのデータを蓄積しているが、製造ラインごとでは取得していないことが多い。
しかし、そうした取り組みがさまざまな企業に求められる時代がやってくるのは確実だ。そこで東邦ガスでは、「まず優先度の高い製造ラインから各データを測定していこう」と提案している。
また、データの見える化支援サービスでは事業所全体のエネルギーを見渡すマクロの視点から製造工程の細かな箇所確認するミクロの視点まで、いろいろな角度から見ることで問題点を見つけ出すことが鍵となる。「こうしたコンサルティングができるのは、エンジニアリングの知見を有し、お客さまの現場に深く入り込んできた当社ならではと自負しています」と、比嘉盛嗣チーフはアピールする。
これらのコンサルティングサービスを実施した後は、強みであるエンジニアリングサービスの提供によりCO2削減を行っていく。その後、現場の状況診断、CO2排出量のモニタリングなど削減環境の維持を図る。


CN黎明期にアピール 専用ホームページ開設


コンサルティングの内容は業種や規模が変われば取り組む内容も千差万別だという。それぞれカスタマイズした形で提供していくとのことだ。「同サービスは自信を持ってオススメできる費用感とアウトプットになっています。ただ、今はまだCN黎明期と捉えています。普及は当社がどうアピールしていくかにかかっています」と、富田マネジャー。
東邦ガスでは、専用ホームページを立ち上げるなど、CN×Pにかける意気込みが伝わってくる。同社の事業の新たな柱に育てていく構えだ。

同サービス普及を目指す富田マネジャーと比嘉チーフ

【特集2】水素・メタネーション技術を展開 脱炭素化の切り札として注目


【日立造船】

日立造船は水素発生装置とメタネーション装置を手掛ける。次世代エネルギー製品として各方面から注目を集めている。

脱炭素化に向けた次世代エネルギーとして脚光を浴びているのが、水素と合成メタンだ。この二つに関連する装置を手掛ける日立造船には各方面から多くの引き合いが寄せられている。
同社の水素発生装置「HydroSpring」は固体高分子(PEM)型水電解法を採用する。PEM型は電解槽内に設置した電解膜を純水で満たし電気で水素と酸素に分離する。中でも、電源の出力変動にミリ秒単位で追従できる長所により、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発生する急激な出力負荷変動にも対応する。
また、純水で水素を製造できるため環境負荷が小さい。10〜100%で水素発生量を制御することが可能なほか、電流密度が高く電解装置自体のサイズを小さくできる。1500kWクラスでの水素発生量は400Nm3時に上る。このほか、屋外設置ができる点も利点となっている。

水素発生装置「HydroSpring」


触媒技術に強み 低温反応性能と高耐久性


水素発生装置と組み合わせて合成メタンの製造に利用するのがメタネーション装置だ。同社は以前から装置の反応器と触媒の製造を手掛けている。特に触媒技術に強みがあり、CO2と水素からメタンへの転換率は99%以上、エネルギー効率は75~80%を有する。
電解・PtGビジネスユニット営業部の足立進一電解営業グループ長は「同触媒は200℃台の低温でもメタンへの反応が可能なほか、2万時間以上の耐久性などを有しています」とアピールする。

メタネーション装置


最近はエネルギー事業者だけでなく、企業からもメタネーションへの引き合いが増えている。高橋哲也営業部長は「工場のCO2削減に検討する企業が増えています。企業の脱炭素への考え方・取り組みなどをヒアリングしながら、機器・システムの提案を行っています。排出するCO2が低濃度の場合には濃縮が必要だったり、水素はどう調達するかなどを考える必要があります。脱炭素に向けてどこに採算性を見出すのか、各企業の方針にかかっています」と、現状を説明する。脱炭素化を推し進める企業の積極的な姿勢が、次世代技術のこれからを左右していきそうだ。

【特集2】自社製品のCO2削減でCN貢献 水素100%燃焼給湯器を開発


【リンナイ】

リンナイは脱炭素時代に向けて給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。従来の給湯器で培った技術を応用し実現。今年秋から海外で実証を始める。

リンナイはこのほど、家庭用給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。今年11月からは、オーストラリアで実証実験を開始。実用化に向けた取り組みを加速させる。
同社は、2050年脱炭素化に向けて、独自のカーボンニュートラル(CN)宣言「RIM2050」を策定。日本国内全体のCO2排出量は11億794万t。このうち、リンナイの給湯、暖房、厨房商品を使用して排出されるのは1.5%に上る。これを受けて、「自社製品のCO2排出削減の取り組みはCNにおいて大きな役割を担う」と位置付け、開発を加速させている。その一つが水素給湯器だ。水素100%燃焼が可能でCO2を排出しないのが特長となっている。

水素100%燃焼の給湯器


水素を扱う上での燃焼の課題は逆火による爆発の恐れと、燃焼が安定しないことの二つだ。開発ではこれらを解決しながら、①従来の給湯器と同様に任意の水量と湯量に即座に対応できるよう低能力でも安全かつ安定的に燃焼できること、②天然ガスから水素への仕様転換が容易にできることが同時に求められる。


水素特有の燃焼特性 新たな燃焼技術で解決

そこで、新たに開発したのがバーナーとバーナーボディーだ。バーナーは、燃焼速度とガスの噴出速度のバランスを保つことで火が燃える。水素は燃焼速度が天然ガスより8倍は速く、低能力では噴出速度が遅くなり、バーナー内部に炎が入る逆火が発生しやすい。
この解決のため、海外向け給湯器やボイラーで使用されている全一次燃焼方式を採用し、かつ使用する金属繊維の素材や金属繊維の構成、板金に入れるスリットのパターンなどを見直し、逆火耐性、火炎均一性など水素燃焼に最適な条件を実現した。
バーナーボディーは万が一逆火が発生したときの安全性を確保するために開発した。天然ガスを燃焼する従来構造はガスの制御・混合を最適に行うため、ガスと空気をファンの手前で混ぜた状態で送っていた。これに対し、水素給湯器では、ファンとバーナーの間で水素を供給し空気と混ぜるようにした。さらに、バーナーの直前に低圧損のフレームトラップを取り付けることで、逆火時のリスクを最小限化している。これらにより、天然ガス同等の給湯性能を達成した。このほか、都市ガスから水素への転換を簡単な部品取り付けとマイコン内のデータを変更するだけで一時間以内に対応できるようにしている。
開発を担当した要素開発部の赤木万之次長は「オーストラリアの実証では長期使用などを検証します。英国やニュージーランドでも水素の利活用は検討されており、今後の各国の政策などを注視し、商品化に向けて先行したい」と意気込む。今後も、同社では燃焼技術を核にCN実現に向けた取り組みを加速させていく。

【特集2】業界を挙げて低・脱炭素化へ 官民連携で地域活性化に貢献も


LPガス業界ではサプライチェーン全体で脱炭素・低炭素化に取り組む。そうした施策の中には、自治体との連携などで地域活性化に貢献する動きも。

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けた国のグリーン成長戦略において、LPガスはその達成の柱の一つになるとされている。政府の試算では50年時点におけるLPガス需要は現在と比較して約6割が維持される見通しで、CNに貢献する業態転換の検討が待ったなしの情勢だ。

LPガス事業者の脱炭素化に期待が高まる


現在、LPガス業界のCNに向けた取り組みには、①化石燃料由来ではない原料から合成するグリーンLPガスの実用化、②LPガスと証書を組み合わせたオフセット、③省エネ機器を導入することによる低炭素化―などがある。
グリーンLPガスの実用化では、日本LPガス協会が今年7月、「グリーンLPガス推進官民検討会」を立ち上げた。現在、国内のグリーンLPガス開発では、CO2と水素から直接合成する方法と、DME(ジメチルエーテル)に水素を添加して合成する方法が有力視されている。検討会では、こうした開発のバックアップや社会実装に向けたロードマップづくり、品質基準の統一化、移行期における燃焼機器の省エネ化など、課題を共有化して協議していく。
実用化に向けては、コストも課題と指摘した。グリーンLPガスの製造原価は、水素価格の影響を受ける。政府が掲げる50年の水素の目標価格は1m当たり20円。現在のLPガス原価と比較して約1・7倍と試算している。ただ、水素生産国の豪州から安価に調達できるため、仮にグリーンLPガスの開発に成功したとしても、国内でサプライチェーンを完結するのは難しい。
このため、グリーンLPガスの社会実装の方向性としては、一般のLPガスと混合して供給することや、グリーンLPガスを一般のLPガスと差別化して販売することなどを想定している。


多角的な戦略で低炭素化 地域活性化にも貢献

脱炭素化への移行期においては、CO2排出権が付与されたLPガスの輸入や、Jクレジット制度を活用しカーボンオフセットされたLPガスなどが今後増加する。また、エコジョーズやエネファーム、燃転の省エネ機器拡販、ガス需要を守りながらの太陽光・蓄電池、ハイブリッド給湯器の販売、また電力や都市ガスの販売事業進出など、多角的な経営戦略による低炭素化が30年までに求められる。
各事業者がそれぞれの立場でいかにCN対応を加速させられるかに注目が集まる。加えて、自治体との連携などを通じ、地域の脱炭素化や経済活性化に貢献しようとする動きも活発化。CN時代に向けた業界の最前線を追った。

【特集2】LPガスグリーン化への挑戦 官民一体の取り組みに意義


ようやく本格化の兆しを見せ始めた「LPガスグリーン化」。その意義と課題について、橘川武郎・国際大学副学長に聞いた。

【インタビュー】橘川武郎/国際大学副学長


―LPガスのグリーン化にはどのような課題がありますか。
橘川 二つの大きな課題があります。その一つがCO2と水素を合成してメタンをつくるメタネーションや合成燃料「e-fuel」などと比べ、技術の確立が非常に難しいということです。国のグリーンイノベーション(GI)基金には、古河電気工業と北海道大学、静岡大学が連携し、金属触媒の技術を転用して、家畜の糞尿由来のバイオガスからグリーンLPガスを合成する技術の確立を目指すプロジェクトが採択されています。
 一方で、元売りの業界団体である日本LPガス協会の幹事五社は昨年、プロパン・ブタンガスのグリーン化事業を共同で進めていくための「日本LPガス推進協議会」を設立し、藤元薫・北九州私立大学名誉教授の多段LPガス直接合成技術や、LPガスと類似した特性を持つDME(ジメチルエーテル)からLPガスを製造する技術の開発を進めています。
 政府が支援する技術と業界団体が進める技術が違う例はほかにはほとんどなく、それだけLPガスのグリーン化へ決定打となる技術が定まっていないということを意味しています。もう一つの課題は担い手の不在です。ENEOSグローブもアストモスエネルギーも石油元売り会社の子会社で、元売りの優先順位はe-fuelである可能性が高く、プロパネーション、ブタネーションまで手が回るとは考えにくいのです。
―「グリーンLPガス推進官民検討会」にはどのような役割を期待していますか。
橘川 政府、業界団体、開発会社、研究機関など官民が一体となって、LPガスグリーン化へ、今考えられるあらゆる技術を網羅し互いに切磋琢磨しながら活路を見出そうという点で、非常に意義のある取り組みだと評価しています。検討会には、ユーザーとしても全国ハイヤー・タクシー連合会がオブザーバー参加していて、今後はLPガスを燃料とする産業用需要家にも参加を呼び掛けていくことになると思います。
―2050年の脱炭素社会においてLPガスが一定の役割を果たしていくということですね。
橘川 電力は電化が進み現在より30~50%需要が増え、都市ガスは使用量が維持されると推計されています。LPガスは消費量が減るとはいえ60%は残ると考えられます。業界は生き残りへの覚悟を持っていて、こうした動きはその表れだと思っています。
 もう一つ重要なことは、アジアでLPガスの需要が増えていることです。人類がLPガスを使い続けるためには、脱炭素化の技術開発を日本が担うしかありません。本業ではなくとも、サウジアラムコやエンタープライズはLPガスで相当収益を上げているでしょうから、そうした上流企業に出資してもらい、日本の技術をマッチングして開発するような仕掛けがあってもよいと考えています。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

【特集2】自治体の脱炭素化をサポート 新たな地域貢献の形を提示


群馬県下仁田町で都市ガス事業を展開する東海ガス。これまでの事業ハウハウを生かし自治体の脱炭素化を支援する。

【東海ガス】


下仁田町と東海ガスの協定締結式の模様

群馬県南西部に位置する下仁田町は、下仁田ねぎやこんにゃくの産地として知られている。町の北部から西部の長野県との境にかけては、「妙義荒船佐久高原国定公園」が広がり、急峻に切り立つ妙義山があるなど自然豊かな地域だ。
そんな下仁田町は今年7月、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明。これに合わせて、TOKAIホールディングスの子会社である東海ガスと、ゼロカーボンシティ実現に向け、相互協力する連携協定書を締結した。
両者の関係は、下仁田町の公営ガス事業を東海ガスが2019年に譲り受けたことに始まる。以来、同社はこの3年余りの活動で、町内にある工場の生産・製造設備の燃料を重油などの石油系燃料から都市ガスに転換するなど、大口需要の開拓を進めてきた。その結果、ガス販売量を事業譲受の時点から3・3倍に増加、CO2排出量も1551t削減するなど、事業拡大と低炭素化の両立を実現してきた。
ガス供給以外でも、TOKAIグループで標榜するTLC(トータルライフコンシェルジュ)によって、電力販売やリフォームなどのサービスを展開したり、近隣の店舗とコラボレーションしてガス展を開催するなど、地域住民に寄り添った活動を行ってきた。


町が実績を評価 ゼロカーボンで連携


下仁田町保健課の岩井収課長は「20年に環境省が『地方公共団体における50年二酸化炭素排出実質ゼロ』、19年に群馬県が『5つのゼロ宣言』を表明しました。5つのゼロ宣言には温室効果ガスゼロが含まれており、町としても取り組みを強化する必要があると考えていました。東海ガスは公営ガス事業を引き継ぎ、低炭素化に資する事業活動で下仁田町に貢献してきました。ゼロカーボンに向けた取り組みでもその中心を担ってもらえたらと考え、連携協定を結ぶに至りました」と背景を語る。
一方、東海ガスはゼロカーボンに関して実績となる案件があった。本部のある静岡県藤枝市で進めている脱炭素モデルだ。今回、そのモデルを踏襲して下仁田町にゼロカーボンの仕組みを形成していく。
具体的には、まずJクレジットを活用し、CN都市ガスを役場や公民館、学校、保健センターなどに導入していく。導入開始した直後は既に静岡県で実施するゼロカーボンの活動で得たCO2クレジットを活用し、将来的には下仁田町の公共施設や町内企業から創出したCO2クレジットを調達し都市ガスに付与して、CO2クレジットの地産地消サイクルの形成を目指すとのことだ。
CO2クレジットの創出では、地域特性を生かした取り組みも行う。下仁田町特産のこんにゃく工場は重油設備を使っている企業がいまだ多い。これらの企業に都市ガス設備への転換を依頼し、それに伴う温室効果ガス削減によるクレジット創出を促す。また、町の面積のうち8割を占める森林管理を促進して森林経営活動由来のクレジットにも期待する。このほか、再生可能エネルギーの導入なども進めていく方針だ。


下仁田町とのJクレジットの地産地消モデルフロー


地元でエネルギー教育も検討 他地域への展開も目指す


連携協定には環境に関する情報発信なども含まれる。町内の小中学校で東海ガスの社員が環境やエネルギーに関する授業の1コマを担当することなども検討されている。中山貴幸下仁田支店長は「町営ガスを譲り受けて以来、進めてきたことが地域貢献として一つの形になりました。これからも一層、都市ガス事業を軸に地域に還元できる取り組みを推進していきたい」と語る。東海ガスではこうした取り組みを他の地域でも推進していく構えだ。

【特集2】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」


かねてから地域のエネルギー供給を支え、地域と共に発展してきたLPガス業界。脱炭素時代に事業者が取り組むべき施策を、コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

LPガス事業はいろいろな意味で地域の発展に貢献できる事業である。クリーンな化石燃料であるLPガスは地域の低炭素化に貢献し、自立稼働が可能な分散型の供給形態は災害に強く、地域のレジリエンスに貢献する。これはLPガスの原料特性・供給特性に由来する貢献である。ただし脱炭素時代にあっては、グリーンLPガスへの置き換えや、LPガス非常用発電機の地域マイクログリッド組み込みなど、時代にふさわしい貢献が求められる。
LPガス事業者は大規模企業系から小規模個人経営系まで多様だが、地場系事業者が大半であり、その多くは今もLPガス以外の燃料(ガソリン、灯油など)も取り扱うことで、地域のエネルギー企業として貢献している。また、LPガス事業者が地域を支える代表的な企業であることも多い。
では、LPガス事業者は、地域が直面する脱炭素化と人口減少・過疎化の潮流の中でどういう役割を果たせるのか。ちなみに二つの潮流は、エネルギー(ガス)を減らす、市場(地域経済)を縮退させるという点で、LPガス事業者の持続可能性にも大きく影響するので、期待される役割は「自社の持続可能性のために何をすべきか」と実質的に同義になる。
日本の脱炭素政策は、地域では「地域脱炭素」として進められる。これは、地域(地方自治体)が主役となり、支援する関係省庁が縦割りを排し水平連携して、個々の地域での脱炭素を進める政策だと解せる。だが国との実力差が大きい自治体だけで進められる地域脱炭素には限界があり、おのずと民間からの援軍(脱炭素パートナー)が必要となる。ゼロカーボンシティ宣言自治体を中心に、脱炭素に関する連携協定や、コーポレートPPAを求める公募プロポーザルが増えているのはそのためである。
ただ当面、自治体が支援を求めるのは、自治体庁舎や施設・遊休地などへの太陽光導入、再エネ電力調達、公用車の電動車化といった電力分野の取り組みである。電力会社にとっては本業領域だが、ガス事業者にとっては、大手・中堅の都市ガスのように一定レベル以上の電力事業(再エネ発電、電力小売など)を営んでいなければ、直接的な連携が難しい領域である。


地域脱炭素化のカギ LPG事業者が中核に


しかし、地域に根ざすLPガス事業者は地域脱炭素に全く関与できないわけではない。あえて尖った提案をする。
結論を言えば、地域のLPガス事業者には、地域貢献と脱炭素化の交点としての「地域脱炭素化推進事業体」の中核的な推進者になってもらいたい。地域脱炭素は、今は自治体回りの脱炭素化が中心だが、いずれこうした事業体の必要性が理解され、設立を検討する自治体が増えてくる。一般的に「地域新電力・自治体新電力」と呼ばれるが、それは事業体の一側面しか表していないので、あえてこの聞きなれない環境省用語を使う。筆者は事業体の本質を、地域に賦存するエネルギーや資源を地域内で産出し、地域内で有効に利活用することでエネルギーの地産地消や資源の地域内循環に資するとともに、地域のステークホルダーの「サステナブル・マインドセット」を醸成するプラットフォームとなることだと理解している。資源循環まで視野に入れるのは、それがエネルギーにも資源にも恵まれないわが国の「地域」が進むべき方向であり、結果として地域が自立し地方創生にもつながると確信するからである(その意味では「カーボンニュートラル」ではなく「サステナブル」の形容になる)。


地産再エネをブランド化 自治体とタッグが必須


この事業体は、出だしはエネルギーの地産地消を担う地域新電力とみなされるが、今の地域新電力は「公共施設から始めて企業、家庭へ」としているものの、現実に地域住民まで巻き込めていない。地産地消は地域ぐるみで行うからこそ価値があり、その推進者は極めて重要である。LPガス事業者によっては、電力ビジネスゆえ腰引けになるかもしれないが、これは「電力小売事業ではなく、地域の宝である地産再エネ電力を地域ブランド化し、それを地域の脱炭素化と地域経済貢献のために最大限普及させる地域事業」だと考えてほしい(図参照)。電力ビジネスの難しい部分は専門家と連携すればよい。地域事業案件として参画意義を見出してもらいたい。

「地域脱炭素化推進事業体」の当面のイメージ


こうした事業体を地域脱炭素の中核に据えることで他のメリットも期待される。一つ目は、地域脱炭素施策の究極課題を解決しやすくなることである。その課題とは、住民や中小規模事業者(以下、住民など)といった、脱炭素ビジネス目線からでは動かない人たちの態度変容・行動変容をどう図るか、である。事業体の事業を通じて住民などと密接な関わりを持つことで、それが醸成される。
二つ目は、地域脱炭素ビジネスと地域貢献ビジネスのつなぎができることである。地方創生に資する地域脱炭素を志向していれば当然の帰結ともいえ、そこに関わっていればLPガス事業者にも新たなビジネスチャンスが見えてくるはずである。これらにより「地域脱炭素化推進事業体」は「地域サステナブル公社」に昇華できる。そのためにも、LPガス事業者をはじめ地域企業や団体が自治体のパートナーとなることが必要不可欠である。
おわりに、時代とともに柔軟な業態転換を果たしてきたLPガス事業者の「原点回帰」を強く望みたい。

つのだ・けんじ 1978年東京ガスに入社。家庭用部門、熱量変更部門、卸営業部門などに従事。2016年日本ガス協会地方支援担当理事。現在、業界向けに個社コンサルティングなどを行っている。

【特集2まとめ】LNG火力の正念場 電力危機に挑む新設・運用・調達事情


今年3月、政府は東京電力・東北電力管内に電力需給ひっ迫警報を発令した。
引き続き電力不足は深刻で、7月1日から7年ぶりに節電を要請する。
一方、ウクライナ戦争によって国際資源情勢が大きく変化してきた。
ロシア産の禁輸リスクの高まりで、安定・安価のLNG調達に黄信号が灯る。
そんな中、LNG火力の新規運開や燃料確保に奔走する大手電力会社。
差し迫るエネルギー危機をどう乗り切るのか。正念場のLNG火力事情に迫る。

【アウトライン】電力不足打開の切り札に LNG火力が供給力確保に貢献

【レポート】次世代GTで低炭素時代へ対応 12月運開で安定供給に貢献

【レポート】火力進化の一翼を担う拠点 高効率発電所に生まれ変わる

【レポート】震度6被災後18時間での復旧 過去の経験による対応が奏功

【インタビュー】調達価格のボラティリティ低減へ LNG先物取引を試験上場

【レポート】歴史的なLNG不足と高騰 大手電力経営への影響を占う

【特集2】調達価格のボラティリティ低減へ LNG先物取引を試験上場


石崎隆/東京商品取引所社長

東京商品取引所(TOCOM)は今年4月、LNG先物取引を試験上場させた。化石資源を巡る国際情勢が激変する中、同市場が果たす役割とは。石崎隆社長に話を聞いた。

―東京商品取引所(TOCOM)の社長に就任されてからの2年の間に、エネルギー情勢は様変わりしました。
石崎 WTI原油先物は2020年4月20日に、史上初のマイナス価格を付けました。その当時、TOCOMが取り扱うドバイ原油の先物価格も1万円程度でしたが、今は9万円近くまで高騰。1kW時当たり6円程度だった電力先物価格も、現在は20~30円で推移しています。
 価格が安ければ現物市場での取引のみで済みますが、ここまでボラティリティが高まってしまうと、事業者はリスクヘッジの手段を講じざるを得ません。19年9月に試験上場した電力先物市場は当初、取引参加者が13社でした。しかし、昨年1月のスポット価格高騰を契機に参加者が増え、今年5月には146社に達しました。今は、価格変動が激しく証拠金の額が上がっていて、参加者にとっては相当な負担になっていますが、エネルギー市場がこれまでになく注目されているという意味でも、時代は大きく変わったと見ています。


JPXグループに統合 先物市場の三つの役割果たす

―TOCOMが日本取引所グループ(JPX)に統合されて2年半、4月にはLNGの先物も上場されました。改めて、エネルギー激動の時代におけるTOCOMの役割とは。
石崎 大阪取引所が取り扱うCME原油等指数先物を除き、TOCOMは総合エネルギー市場として、電力、原油、石油製品、LNG先物市場を運営しています。先物市場の主な機能は、現物市場における価格変動に対するリスクヘッジです。実際、電力先物は新電力の経営安定化に貢献しており、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場から撤退する事業者が相次ぐ中、TOCOMで撤退したのは1社だけです。
 また、価格発見機能の役割も果たしています。例えば、ベースロード市場の約定価格は電力先物価格を参照していますし、事業者間の相対による現物取引でも先物価格が指標にされていて、先物取引に参加していない事業者にも使っていただいています。さらには、信用リスクヘッジの機能も重要な役割です。信用力の高いクリアリングサービスの提供を通じて、取引相手が破綻した際のリスクを遮断することができます。
―エネルギー価格のボラティリティの高まりとともに、先物市場も存在感を増しているというわけですね。
石崎 経済産業省も、エネルギー先物市場を政策的に高く位置付けています。第六次エネルギー基本計画では、先物市場の活用という項目が盛り込まれましたが、先物市場の活用が閣議決定されたのは初めてのことです。ただ言えるのは、エネルギーの安定供給があってこそのマーケットだということです。先物市場だけで現在起きている問題を解決できるわけではなく、しっかりとした供給力の裏付けが前提になります。
―4月に本上場を果たした電力先物市場は、4、5月と取引高や取組高の記録を更新しました。
石崎 今年4月は取引高が3億kW時、5月は取組高が4億kW時超と、取引量は対前年比2倍に拡大しました。ですが、取引されているのは総発電電力量の1%以下にすぎません。欧米では発電電力量の数倍の取引量があるわけですから、成長しつつあるとはいえ、まだまだ初期段階であることに変わりはありません。大手電力会社も、子会社を含め半数近くがトライアル的に参加していますし、売り買い双方に実需家に入っていただくことが、市場育成のために非常に重要なことだと考えています。
―4月に試験上場したLNG先物市場の意義とは。
石崎 LNGは国際貿易において、原油、金、鉄鉱石に次いでコモディティとして4番目に大きな市場規模があります。低炭素化にも資する重要な資源ということで、世界的にも取引が拡大してきた中で先物市場を開設することになりました。電力と同様にLNGも、この数年間は、価格のボラティリティが高まり価格リスクのヘッジニーズは増していると考えています。

TOCOMが扱うエネルギー先物市場

LNG先物厳しい時期の船出 取引活性化へ着実に努力


―とはいえ、滑り出しは低調なようです。
石崎 確かに4月の試験上場後、取引が成立しない日が多い状況です。その背景には、ロシアによるウクライナ侵攻であまりに供給が不安になり、価格動向が不透明になったことがあります。欧州のインターコンチネンタル取引所(ICE)のLNG先物においても、今年3月までと4月以降で1日平均の取引量が半減しており、非常に厳しいタイミングでの船出となってしまいました。ただ、長期的に見れば、間違いなく価格リスクのヘッジニーズは高まっていますから、先物市場の必要性は十分にあると考えています。
 実は、昨年5月にLNG先物の制度を検討していた際には、証拠金の額を10万円程度と想定していました。証拠金は価格水準とボラティリティで決まるため、その後200万円程度まで上昇し、現在は100万円近い水準で推移しています。価格が落ち着くか、市場参加者がこの水準に慣れてくれば、取引は増えていくと思います。
―取引活性化に向けた課題はありますか。
石崎 原子力発電の再稼働が見通し通り進むのか不透明な中、LNGは今後10年、20年と必要とされるエネルギーであることに変わりはありません。世界的な需要は減るどころか増えるものとみています。そうした中で、先物市場を活性化させるには、取引量と取引参加者を拡大することが不可欠です。
現在のLNG取引資格取得者は商社など12社ですが、複数社が資格取得を準備しているところですので、参加者は拡大する見込みです。今後は、海外のエネルギー市場で活発に立会外取引の仲介を行っているインターディーラーブローカー(IDB)などにも積極的な参加を促していく計画です。流動性を拡大することで実需家に活用していただける市場になるよう、時間をかけながら着実に成長させるよう努めていきます。

いしざき・たかし 1990年東京大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁電力基盤整備課長、内閣府規制改革推進室参事官などを経て、2020年6月から現職。