大気中のCO2を直接回収技術に熱視線 2025年の商業運転開始に意欲

1PointFive】

脱炭素化を促す切り札の一つとして、大気中のCO2を直接回収して固定化する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」の展開に国内外の産業界から熱い視線が注がれている。DACを手がける1社が、米エネルギー大手オキシデンタル・ペトロリアム子会社、1PointFive(ワンポイントファイブ、テキサス州)で、25年からのDACプラントの商業運転開始を目指す。同社で炭素ソリューション部長を務めるポール・ケネディ氏に、DACを普及する可能性と市場開拓に向けた戦略について聞いた。

1PointFiveが手がけるDACは、カナダのカーボン・エンジニアリングが開発した革新的なCO2回収技術だ。具体的には、高出力のファンでプラント内に引き込んだ空気を、水酸化カリウム水溶液が流れる薄いプラスチックの表面に通過させることだ。こうした仕組みで炭酸塩を作り出した後、化学的なプロセスを経てCO2を回収し精製・圧縮する。加熱して分離されたCO2は地中深くに安全に閉じ込められるほか、セメントやプラスチックといった生活に役立つ原材料として役立てることも可能だ。

現在、テキサス州で第1号となるDACプラントを建設中で、25年半ばからの商業運転開始を計画している。フル稼働では、世界最大規模となる年間最大50万tのCO2を回収するDAC施設となる見込み。ケネディ氏は「われわれのDACプラントは、既存の機器を生かして容易に大規模化できるとともに、大量の空気を低コストで処理できる」と優位性を強調する。2号プラントの建設も視野に入れており、「約100万tのCO2を回収できる規模になる」という。

DACの技術革新にも力を入れ、新技術の試験や検証などを行うカーボン・エンジニアリングの研究開発拠点「イノベーションセンター」(カナダのブリティッシュ・コロンビア州)も生かしていく。

DAC事業で攻勢をかける背景には、気候変動対策を強化するという世界の潮流がある。 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの国際機関は、産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、「数十億t規模」のCO2を大気から除去する必要があると一致して結論付けた。気候変動対策を話し合う国際会議(COP)でも1.5℃目標達成に向けた緊急的な行動の必要性が再確認される中、大気中からCO2を回収する革新技術の存在感が高まる方向にある。DACに対する各国政府からの追い風も強まっており、1PointFiveが計画する第2号「South Texas DAC Hub」は、米エネルギー省(DOE)の資金援助の付与先に選定されている。

ケネディ氏によると、DACプラント第1号が建設中にもかかわらず、この技術から生まれる炭素クレジットを調達する動きが活発化している。炭素クレジットの購入企業が自社の排出量からクレジット分を差し引く取り組みで、DACプロジェクトによって生成されたクレジットの買い手が続々と現れている。DACは工業的に分離するため回収量を精緻に測定しやすく、炭素クレジットとしての信頼性が高いことが評価されているようだ。

すでに1PointFiveは、欧州航空機大手エアバスのほか、アマゾン・ドット・コムなどの米国企業と相次ぎ調達契約を締結。エアバスとは、40万tに上るDAC由来の炭素クレジットを購入する契約を結んだ。全日本空輸(ANA)とも契約を交わし、23年8月に同社が25年から3年間で計3万t以上のクレジットを調達すると発表した。航空業界では、機体の燃費向上や持続可能な航空燃料(SAF)による排出削減には限界があり、耐久性のある炭素クレジットを求めるニーズが強まる方向にあるという。

また海運大手の商船三井は、三菱商事がスイスの炭素クレジット創出大手と運営するクレジット共同購買事業「NextGen」を通じて、DAC由来クレジットを購入すると表明。その購買事業には、1PointFiveの技術も含まれている。ケネディ氏は、こうした実績を土台に日本市場も積極的に開拓したい考えで、「日本企業がDACに関与する機会を広げていきたい」と力を込めた。日本政府の支援や産業界からの協力にも期待感を示した。

ただ、DACの産業規模での普及に向けては、回収物を貯留する適地を探すことが重要になる。また、貯蔵コストの削減など、既存の課題も残る。ケネディ氏は「私たちが技術を進歩させ続けることで、各地でより多くのDACプラントを稼働し、大量にCO2が回収されるようになれば、貯留コストも下がるだろう」と予測。脱炭素に意欲的な企業と連携し、CADの採用実績を積み上げることに意欲を示した。

「50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする『ネットゼロ』を達成するという目標が突きつけられている中、DACの存在感はますます高まるだろう」とケネディ氏。DACをグローバルスタンダート(世界標準)に育てる挑戦はこれからが本番だ。

【特集2】HPが脱炭素化の「現実解」に 市場拡大への環境整備が急務

HPは、空気熱の賢い利用で家庭の省エネ対策を強力に後押しする有効な手段。
国内産業の競争力を高めるためにも普及に向けた取り組みが不可欠だ。

カーボンニュートラル(CN)を需要側から促す機運が高まり、化石燃料を燃やさずに空気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯などに利用する技術「ヒートポンプ(HP)」が、家庭分野の省エネ対策として日に日に注目を集めている。こうした中、今夏にHPや蓄熱システムの普及拡大に向けた提言書をまとめたヒートポンプ・蓄熱センター(東京都中央区)を取材し、「CN実現の切り札」として広がる可能性を探った。

50年度視野にCNへ貢献 CO2削減効果を引き出す

HP市場は、燃焼機器との比較で優位性を発揮し、中長期的な成長が期待されている。同センターによると、家庭用HP給湯機のストック台数は、2022年度に推計747万2
000台に到達(図参照)。HPが最大限普及する高位シナリオでは、35年度に2714万1000台に達成すると推算した。50年度には3651万1000台に達する。市場拡大に伴い、CO2の20年度比削減量も右肩上がりで推移。政府が目指すCNの達成年次である50年度には、5250万3000t規模のCO2削減効果が得られる見通しだ。

CO2を削減する「エコキュート」


HP給湯機が住宅のCN対策に発揮する実力は、同センターの試算結果をみると明白だ。試算は、1kW時を発電した際に発生したCO2量を示す「CO2排出係数」を設定し行った。
30年度のCO2排出係数を0・250kg/CO2kW時(全電源平均)とし、太陽光発電(PV)パネル付き戸建て住宅に備えた各種給湯機を比べると、オール電化住宅のHP給湯機で昼に沸き上げるケースの年間のCO2量が最も少なく931kgとなり、他の給湯設備を大幅に下回った。
沸き上げ時間を、再エネ発電量が多く、かつ夜間よりも外気温度の高い昼間に移すことで、CO2削減効果を引き出せるというわけだ。また、集合住宅でも、HP給湯機「昼沸き上げ」住宅が優位な結果となった。
トータルコストでも、HP給湯機に軍配が上がった。20年度の試算(CO2排出係数0・441kg)をPVパネル付き戸建て住宅でみると、ヒートポンプ給湯機「昼沸き上がり」住宅のコストが一番低かった。
同センターは6月にまとめた提言書で、こうした強みを持つHPを「需要側の脱炭素対策の切り札」(業務部)として普及させる必要性を強調。再生可能エネルギーの大気熱を利用できるHPの利点にも触れるとともに、再エネの利用拡大をエネルギー安全保障につなげる方針も盛り込んだ。蓄熱槽を生かしてレジリエンス(強靭性)を向上させるという役割も重要になるとの認識も示した。

図 普及の高位シナリオ見通しとCO2削減量 出所:ヒートポンプ・蓄熱センター


その上で、対応方針を整理した。一つが、政策や施策にヒートポンプ・蓄熱システムの普及拡大に向けた方向性を明確に反映するという要望だ。具体的には、次期エネルギー基本計画に「需要側(家庭・業務・産業用)へのヒートポンプ導入」を重点施策として明示することを求めるとともに、新築建築物へHP機器・システムの設置準備が施されるよう必要な法整備を施す対応なども要求した。
さらに、HP・蓄熱システムの導入コストを削減する課題にも言及。初期投資費用調達時の金利優遇措置を設けて消費者側の導入障壁を下げることに加えて、HP製造事業者向け税制優遇措置を用意して機器本体価格の低減や国内製造の機運醸成につなげることも明記した。

浸透余地のある寒冷地 技術や人材面の支援重要

地域的には、特に普及に課題を抱えている寒冷地で、建物の断熱性能が低いことを要因にHPを選ぶ可能性が狭まっていることを問題視。こうした現状を打開するため、断熱性能の向上に向けた技術支援対策を講じていく方針も示した。寒冷地で表面化する施工業者の不足問題も取り上げ、施工人材を育成する対策も求めた。
HPを柔軟に活用できる環境づくりも重視。消費者が電力使用量を制御する「デマンドレスポンス(DR)」に対応した機器開発が円滑に進むよう、電力事業者とメーカーが連携することを求めた。HPが優先的に選ばれるよう特性や利点の認知度を高める課題も投げかけた。
HP技術で世界をリードしてきた日本の機器メーカー。国内産業の競争力を強化するためにも、官民一体でHP市場を拡大する対応が急務だ。業務部は、「CNを確実に達成していくためにも、すでに技術が磨かれている『現実解』のヒートポンプを普及させたい」と意欲を示している。

【特集1まとめ】電力大消費時代の衝撃 DXがもたらす爆発的需要増の脅威

日本経済の成長に向け、政府が支援に力を入れる半導体産業とAI事業。
全国各地で半導体工場や大型データセンターの整備が進み、
これら新たな需要が、電力消費を爆発的に増大させる可能性が現実味を帯びてきた。
だが、再生可能エネルギーの導入が加速する一方、原子力の再稼働は遅れ、
競争力を失った大型火力の休廃止が進むなど、安定供給体制は盤石とは言えない。
需給構造の不確実性がますます高まる中で、業界・事業者は
DXがもたらす電力大消費時代を支えることができるのか―。
関係者への取材を通じて、電力システムが目指す方向性を探った。

【アウトライン】AI社会が突き付ける電力政策の限界 強靭性回復が日本経済復活の道開く

【レポート】DC・半導体活況の現場から 期待と不安渦巻く奮闘を追う

【レポート】光電融合技術でインフラの限界突破 消費増大問題解決の切り札に

【座談会】待ったなしの制度抜本見直し 電力需給構造が激変!?柔軟な仕組み構築できるか

【インタビュー】増加に転じた電力需要のトレンド 電源投資・系統整備への影響は

【特集2まとめ】バイオエタノールの挑戦 石油脱炭素化の切り札なるか!?

2050年カーボンニューラル、
30年CO2排出46%削減の目標達成に、
バイオエタノールが欠かせない状況になってきた。
運輸部門の脱炭素対策が重要な課題となる中、
安定供給、コストの両面から現実的な施策として、
バイオエタノールの活用に関心が高まっている。
取り組みで先行する米国事情を取材するとともに、
日本における課題、展望を探った。

【レポート】低炭素化する米国産の最新事情 自動車・航空機での活用に期待

【インタビュー】バイオエタノールへの期待大 さらなる活用に向けた準備を

【レポート】バイオ燃料で石油元売りが攻勢 供給網構築へ官民連携で挑む

【インタビュー】環境に配慮しリーズナブル 国内初「E7」ガソリン販売

【特集2】非可食由来バイオエタノールに注力 日米で商用生産への取り組み加速

【特集1まとめ】ガス自由化の功罪 規制料金廃止後の業界を徹底検証

2017年の都市ガス小売りの全面自由化から早くも7年が経過した。
新規参入を促し競争を活性化させようとさまざまな措置が講じられたが、
大手電力会社が参入した大都市圏を除けばほぼ無風。
自由化と同時にほとんどの事業者の料金規制が廃止されたとはいえ、
この間、原料費や資材費の高騰、脱炭素化や少子高齢化に伴う需要減など、
中小規模の地方都市ガス会社を取り巻く経営環境は厳しさを増す一方だ。
規制料金廃止後の都市ガス業界の実態とは―。
アンケート、個別取材、インタビューなどを通じて業界の“今”を徹底検証した。

【アウトライン】都市ガス会社に緊急アンケート 全面自由化後の実態を探る

【レポート】都市ガス会社に緊急アンケート 全面自由化後の実態を探る② 

【インタビュー】事業存続の岐路に立つ地方都市ガス 地域社会への貢献が生き残りの鍵

【覆面座談会】業界関係者がホンネで討論 「自由化」は何をもたらしたのか ガスシステム改革の光と影