【特集2】北国ならではの省エネ対策 快適な暮らしとの両立を実現


【北海道ガス/LOOOP】

北国では冬場を快適に過ごすためエネルギー需要増大が避けて通れない。北海道ガスは独自の取り組みで、省エネと快適性の両立を実現した。

毎年冬になると、気になるのが暖房で増えるエネルギー消費だ。特に、北海道では1年の半分以上を暖房のスイッチを入れて過ごすため、1世帯当たりの暖房のエネルギー消費量は全国平均の3倍に達する。

北海道ガスでは、こうしたエネルギー消費の削減を課題に位置付け、省エネの推進と快適な暮らしを両立する取り組みを2016年から開始した。その一つがガスと電気の両方を扱えるホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)「EMINEL」の開発だ。

EMINELのシステム概要図

同システムで目指したのは、主に①IoTと行動科学を活用した省エネサービスの展開、②双方向のコミュニケーションによる顧客との関係強化、③ビッグデータを活用し、ニーズを的確に把握した新たなサービス展開やIoTによる事業効率化―の3点だ。

開発において、「環境省実証事業」として15~17年の3年間にわたり、札幌市内の顧客100件に自社開発のHEMSを設置して省エネ実証試験を実施した。エネルギー利用状況と詳細な住環境情報の分析を通じて、暖房熱源機の自動制御やお客さまの行動変容(省エネ行動の誘発)に関する技術開発や実証を行った。

北海道の多くの世帯では、冬は1日中暖房を入れっぱなしで利用する。これを外出時など、人感センサーで部屋にいないと判断したときには設定温度を下げる自動暖房制御や、アプリの遠隔操作で帰宅時間に合わせて暖房したりするなど省エネを図った。スマートエネルギー推進室の中村充室長は「北海道の暖房向けエネルギーの省エネの余地は大きい。実証では、7.6%の省エネ効果を得ることができました」と語る。

実証を経て、EMINELは18年10月、商用版のサービス運用を開始した。前述の自動暖房制御や省エネアドバイスを活用することで、快適性を維持したまま、省エネを実現。灯油セントラルより年間約16%、エコジョーズ単体より約5%のコスト削減を図ることが可能だ。

ナッジで自主的に行動 最大2.8%の省エネ効果

北ガスのもう一つの取り組みが環境省のナッジ実証への参画だ。「そっと後押しする」ことを意味するナッジの実証はエネルギーCO2削減を目的に、全国のエネルギー5社が30万世帯に省エネレポートを郵送する大規模事業として、17年から4年間実施された。実証の1~3年目はモニターとなる顧客に用紙1枚にまとめた省エネレポートを送付。各世帯のエネルギーデータとともに、属性が類似するほかの世帯のデータを掲載して比較検討できるようにした。

「単に省エネアドバイスを送るだけでなく、ほかのお客さまのデータを参照できるようにすることで、それが気付きとなり、お客さまが自主的に省エネについて考えて行動を起こすようになりました」と中村室長は実証を振り返る。

3年間を通して、北ガスが顧客に郵送したレポートが閲覧された割合は全体の約80%前後、レポートを見て実際に省エネ行動を起こしたのは約25%前後と多くの世帯で反応があった。これにより、月間最大2.8%の省エネ効果を得ることができた。最後の4年目はレポートをあえて送付せず、省エネ効果の持続性を検証。この期間も年間2%の省エネ効果が得られた。北ガスが実証した6万世帯での合計CO2削減量は6939tに上る。

北ガスでは、EMINELの通信機能を生かし、デマンドレスポンス(DR)の実施も計画中。中村室長は「DRに協力してくれたお客さまにはポイントで還元するなどを検討しています。世帯単位の最適にとどまらず、エネルギーネットワーク全体から見て電気が足りないとき、家庭用コージェネ『コレモ』を導入するお客さまに発電してもらうといった最適化も目指していきます」と展望する。

今後もさまざまなコミュニケーションツールに対応させ、顧客とともに省エネによる低炭素・脱炭素化に取り組む構えだ。

【特集2】脱炭素化を目指す家庭用エネ戦略 消費者行動とデータ分析に焦点


日本オラクル Utilities Global Business Unit Opower日本代表/小林浩人

カーボンニュートラルは、需要側の対応がその実現に大きく貢献する。家庭向けのIT活用による脱炭素への取り組みには、大きな可能性が広がっている。

2050年カーボンニュートラル実現へ向けた潮流が世界的に加速することを受けて、日本政府も20年10月に「50年カーボンニュートラル」を表明した。21年4月には30年度までに温室効果ガスの排出を13年度比で46%減らすという削減目標の引き上げが宣言され、21年7月には家庭部門で30年度までに13年度比で66%の温室効果ガス排出削減方針も共有された。21年は脱炭素に向けての取り組みが大きく動き出した1年となった。

しかしながらカーボンニュートラルへの道のりは長く、目標としている削減量は大きい。カーボンニュートラルに向けては再生可能エネルギーをはじめとする供給源のクリーンエネルギー化に焦点が当てられているが、現在使われている主力の電源である火力発電の供給量を賄うためのクリーエネルギー供給への転換は大きな投資と長い期間をかけなくてはならない。

需要側で三つの施策 鍵は消費者の行動

視点を変えてみるとカーボンニュートラルへの取り組みは、需要側でも大きく目標達成実現に貢献することができると考えられる。

需要側での三つの施策の柱としては、まず①さらなる省エネルギー化の推進、次に②需要の柔軟性を確保することでよりクリーンなエネルギーが利用できる時間帯への消費行動のシフトや、需要ピーク低減・平準化によるエネルギー利用の最適化と、それによるCO2排出削減、最後に③CO2排出が少なくできるエネルギーへの転換や、クリーン供給源活用を促進する電化や電気自動車採用を含む戦略的なエネルギー転換推進―が上げられる。

これらの需要側での取り組みの鍵となるのは各家庭での消費者の行動である。米コンサルティング会社のBrattle Groupと公益事業(電力・ガス・ 水道業界)に特化したソリューションを提供するOracle Utilitiesが21年10月に発表したレポートでは、40年までに電力会社の顧客が行動を起こすことで、家庭用および小型自動車部門からの温室効果ガス(GHG)排出量を、現在の政策でクリーンエネルギー供給への投資を促進するケースの約2倍削減できることを明らかにした。このレポートでは家庭の消費者による電気やガスのエネルギー効率化による省エネの推進、太陽光発電の各家庭での導入の推進、また長期的には電気自動車の導入や高効率の暖房・給湯機器への移行が脱炭素推進に向けて大きな役割を果たすと記している。

消費者行動が温室効果ガス排出に与える影響出所:Brattle Group社らのレポート

家庭の省エネルギー行動促進としては、日本オラクルと住環境計画研究所が環境省の委託事業として17~20年度に実施した「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭などの自発的対策推進事業」(以下「環境省ナッジ事業」)の取り組みにおいて、ホームエネルギーレポートを導入し日本における省CO2効果と、気候や地域の関連性および消費者への情報提供に対するお客さまの反応について検証した。

環境省ナッジ事業においては、最大5地域30万世帯規模の実証を行うことで平均2%の省エネ効果を確認することができた。また「ナッジ」による消費者の行動変容は、一般に世帯当たりのCO2削減効果は比較的小さいものの、多くの家庭に展開することにより高い費用対効果を上げることができ、非常に大きなエビデンスを残すことができた。各家庭に向けたエネルギー消費のアドバイスを提供するサービスを実施することによって顧客との接点を深め、エネルギー事業者に対するロイヤルティー向上に寄与することも確認することができた。

環境省ナッジ事業での成果で着目すべきはCO2削減効果という点だけではない。消費者が行動することによって得られる成果に着目し、適切な情報提供を適切なタイミングでのコミュニケーション配信をスケーラブルに実現できることによる効果が挙げられる。

例えば、直近エネルギー供給事業者が直面している課題としては需給のひっ迫に対する調達コストの増加に対する影響への対応が挙げられる。再エネによる供給が増えてくると、さらに需要に対する供給の制御を柔軟にしていく必要性が増してくると想定される。需要のピークを平準化、もしくは利用時間帯のシフトを促すための仕組みとして家庭向けに展開していくためには、機器を活用した方法や利用時間帯に応じた料金プランの展開なども挙げられる。

しかし、そもそも導入されている規模が少ない中での効果は見込めないため、まずは省エネ推進と同様に各世帯でのピーク時間帯での消費者の行動によるエネルギー利用の抑制やシフトを促していくことが重要になってくる。そして少しでもピーク時間帯のエネルギー利用の削減・シフトに興味がある消費者がさまざまな施策の利用につなげていくことができれば、全体の効果をより高くすることができるようになる。

戦略的なエネルギー転換 クリーンエネを積極活用

脱炭素に向けた需要側での3点目の施策は戦略的なエネルギー転換になる。脱炭素化を確実に展開していくためにはクリーンエネルギー化したエネルギー源を積極的に活用展開していく仕組みが必要になる。

太陽光発電の採用やクリーンエネルギーを利用する電気自動車などの導入、高効率の暖房・給湯機器への移行を含む電化の推進、より省CO2につながるエネルギー源への戦略的なエネルギー転換の推進するためには、需要側での大きな行動の変化や投資が必要となるため、需要家を増やしていくには顧客の関心を捉え、それを高めていき、採用するための障壁を減らしていき採用に導くこと、また採用した顧客が継続して満足できる仕組みが必要になる。

そのため、より脱炭素のニーズを踏まえて家庭部門に展開していくためには、各世帯の個別のニーズに合わせた情報提供をお客さまのライフスタイルやニーズを継続的に把握した上で情報発信できることが不可欠になってくる。

この鍵となるのが行動型のコミュニケーションと、AIなど処理を活用したデータ分析になる。行動型のプログラムでは単純に消費者が喜ぶような情報を提供するのではなく、全ての顧客ごとにそれぞれの事情に合わせ、関連して興味を持ち実践したいモチベーションが上がるような情報提供を、顧客側の選択の余地を与えながら行うことで、その効果を最大化させることが可能になる。

このような顧客に合わせた情報提供が可能になり顧客との接点が強化されると、新しいサービス・商品を提供する際の顧客の反応を把握しながら、効果を高めていくことが可能になる。

より顧客に合わせた情報提供を行うことで顧客の節約や満足度向上に寄与することができ、エネルギー供給事業者においてもコスト削減や複雑な製品・サービス採用増化を実現することが可能になってくる。このアプローチを活用することでよりコスト対効果が高い脱炭素への取り組みを実現すると同時に、事業ニーズに合わせた最新技術やサービスの採用を促進させることが可能となる。

行動科学の知見とAI活用 ビジネス目標達成を支援

オラクル社では、これらのニーズを満たすために行動科学の知見とAIなどを活用した分析プラットフォームと運用サービスにて、スケーラブルにエネルギー消費者のニーズに合わせたコミュニケーションを提供することで、省エネ推進、需要の柔軟性、エネルギー転換の推進を中心とした需要側での脱炭素ニーズを踏まえたエネルギー事業者のビジネス目標達成の支援に注力している。

日本においては電力・ガスの家庭用エネルギーの全面自由化が経過している中で、エネルギー供給事業者がこの中長期的な脱炭素のニーズを踏まえた新しいユーザニーズを満たしていくことはさらに重要になっていくと考えられる。それぞれのエネルギー事業者の事業戦略に合わせた目標に対して、顧客行動の変化を捉えながら最適なタイミングで適切なアドバイスを、それぞれの世帯にパーソナライズした形でスケーラブルにできるような仕組みがあれば、ニーズが多様化していく中で顧客接点強化に対する投資対効果はさらに高まってくるであろう。

こばやし・ひろと IT業界にて20年以上にわたりエンタープライズテクノロジー・アプリケーションの販売・導入に従事。現在エネルギ―事業者へのAI分析・行動科学を利用した、脱炭素推進支援や顧客エンゲージメント強化を担当。

【特集1まとめ】国際ガス市場「異変あり」 強まる不確実性と政治リスク


欧州の天然ガス不足に伴うエネルギー危機に端を発し、
世界の天然ガス・LNG市場で価格高騰と供給不安が続いている。
ロシアからのガス供給に依存する欧州は、ウクライナ問題でロシアとの対立を深め、
供給不安解消への切り札となる「ノルドストリーム2」の早期稼働は見込めないまま。
南アジアや南米などでは、市民生活や経済活動への深刻な影響が懸念される。
脱炭素社会実現への重要なトランジションにLNGを位置付ける日本。
持続的な活用に向け、国際的なルールメイクを主導する役割が期待されている。

【レポート】欧州エネルギー危機で顕在化 世界の天然ガス市場を覆う暗雲

【座談会】予見可能性の低下にどう対応!? 日本のLNG調達戦略を考える

【寄稿】欧州の天然ガス高騰を徹底検証 LNGに波及する地政学リスク

【特集2まとめ】太陽光「共存」時代へ 〈地域共生〉〈安定電源〉への挑戦


太陽光発電に代表される再エネの導入拡大が転機を迎えている。
お天気任せの出力変動による電力系統への悪影響に加え、
乱開発に伴う自然破壊が全国的に深刻化しつつあるためだ。
こうした中、英知を集めた技術開発・規制見直しによって、
地域や系統と「共存」する再エネを目指す動きが加速してきた。
自治体、メーカー、エンジニアリングなどの取り組みを紹介する。

【レポート】主力化を支える「良い再エネ」 多様な発想と技術で「共生」へ

【インタビュー】倫理なきソーラー開発を規制 訴訟辞さずの厳しい姿勢で挑む

【レポート】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線

【インタビュー】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も

【レポート】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御

【特集2】FITに頼らない事業運営を計画 将来的には自社電源の活用も


【インタビュー:髙崎敏宏/テス・エンジニアリング社長】

テス・エンジニアリングは、エネルギー設備の設置や運用のノウハウを生かし太陽光発電事業に取り組む。太陽光事業の戦略や、再エネ事業を進める上での秘訣を髙崎敏宏社長に聞いた。

―太陽光発電を手掛け始めたきっかけについて聞かせてください。

髙崎 当社は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる前からもコージェネと組み合わせた太陽光複合コージェネや、補助金を活用した自家消費太陽光のEPC(設計・調達・建設)を行っていました。

 制度開始後は、エンジニアリング事業のノウハウが生かせるビジネスモデルだと判断し、顧客に向けた太陽光発電のEPCを本格的に手掛け始めました。建設後の設備運用においても、遠隔監視システムを活用したO&Mを行うなど、太陽光発電に係わるビジネス全てを内製化してワンストップでサービスを提供しています。

 当社は、フロービジネスである「エンジニアリング事業」とストックビジネスである「エネルギーサプライ事業」の二つの事業を中心に展開しています。前者はガスコージェネを中心としたエネルギー設備の建設で、景気や原油高など時流に左右されます。太陽光発電もFITを背景に発電所の建設ばかり手掛けていると、買い取り価格が安くなったときに仕事が減少する恐れを懸念していました。

 そこで、定期的な収入が見込めるストックビジネスを拡大するため、2015年ごろからは太陽光発電を自社で保有し、売電収入を得る事業を開始しました。現在では自社発電所の件数も増加し、、経営基盤の強化に寄与しています。FIT期間終了後も、再エネ電源の需要は高まっていくと考えているため、それらを顧客向けの再エネ電源として活用していく予定です。今後は自社で建設するだけでなく、稼働済み太陽光発電所の買い取りやオンサイトPPAで発電所件数をさらに確保していく方針です。

オンサイトPPAに注力 工場の屋根などに設置

―太陽光発電では、オンサイトPPA(電力販売契約)にも注力しています。

髙崎 当社の顧客ターゲットは産業部門のエネルギーを多く消費する工場や事業所が中心です。エネルギー管理指定工場やそれに準ずる規模の施設などです。そういったお客さまには工場などの屋根やカーポートなどに太陽光発電を設置してもらうよう積極展開しています。当社の経営基盤を生かしながら、中長期的に売電収入が得られるビジネスモデルです。

 また、PPAの提案をきっかけに、ガスコージェネ導入やユーティリティの更新、LNGへの燃料転換などといった、低炭素・脱炭素化に対するソリューションも併せて提案しています。

 21年春、オンサイトPPAでは、THKリズムの九州と浜松の二つの事業所の屋根に太陽光を設置しました。コージェネで長いお付き合いがあり、太陽光についても導入してもらうことができた事例です。そのほか、脱炭素化に向けて、さまざまな産業のサプライチェーンでも低炭素、脱炭素化への取り組みニーズが増加していると感じます。そうしたニーズを抱えている企業に提案していきたいと考えています。

―貴社の太陽光発電事業における強みはEPCの品質などになるのでしょうか。

髙崎 当社はエネルギー設備を建設した後、O&Mも手掛けています。建設したものがいい加減だと、オペレーションに影響し、自分たちが苦しくなるだけです。コージェネで培ったエネルギー設備の建設や運用に関わるノウハウを転用し、お客さまに信頼いただける品質を心掛けています。

―太陽光発電所の開発・運営で気をつけていることは。

髙崎 各種法令の遵守はもちろん、地元の皆さんとコミュニケーションをとりながら進めていくことです。当社は建設する立場であり、事業者でもあるので、地元からの意見に耳を傾けるようにしています。例えば、雑草対策として、除草剤一つにしても、使ってほしくない地域もあれば、使ってほしいと要望を受ける地域があるなど、約束事が異なります。隣接する地域で農産物を作っている地域と作っていない地域では考え方も変わってきます。このように地域との対話を行いながら開発・運営を行うことで、地域と共存しながら持続可能な事業を行っていかなければならないと考えています。

バイオマス発電所が稼働 新たな燃料の開発進める

―ほかの再エネで取り組んでいるものはありますか。

髙崎 バイオマス燃料の開発に取り組んでいます。パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS)はFITのバイオマス燃料として認められていますが、ヤシ房から果実を取り出した後に残る空果房(EFB)は認められていません。これをペレット化して利用できないか、インドネシアで開発を進めています。自社で行うバイオマス発電についても太陽光発電に次いで注力しています。現在、当社グループが事業に関わっている発電所は三重エネウッド松阪木質バイオマス発電所(5800kW)の1カ所ですが、今後は熊本県で2000kW、佐賀県で4万6000kWの発電所が稼働する予定です。

茨城牛久メガソーラー発電所(2万9400kW)

―再エネ普及における課題は何だとお考えですか。

髙崎 系統の空き容量が無いことから、特高・高圧の発電所を系統連系できないことが課題だと考えています。以前、バイオマス発電所を建設できないか調査したら、180億円という高額な連系工事負担金を提示されました。これは事業ができないことと同義です。

 当社は工場や事業所内のオンサイト発電にも注力していますが、ある程度の規模の発電所を建設するには余剰電力を逆潮流させる必要があることから、系統空き容量の確保は必須です。こういった課題が改善されることで、さらなる再エネ拡大が期待できるのではないかと考えています。

たかさき・としひろ 大阪府出身。1995年同志社大学卒、テス・エンジニアリング入社。2017年7月社長就任。

【特集2】倫理なきソーラー開発を規制 厳しい姿勢で挑む(長崎幸太郎山梨県知事)


【インタビュー:長崎幸太郎/山梨県知事】

山梨県は、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する条例を施行した。条例制定に至った背景や特長、活用方法などについて長崎幸太郎知事に聞いた。

―2021年10月、県土の約8割を占める森林や土砂災害警戒区域などを設置規制区域とし、出力10 kW以上の太陽光発電施設の設置を原則禁止する太陽光条例を一部施行しました。条例制定に至った背景、条例の特長や狙いについて聞かせてください。

長崎 山梨県では、上質な自然環境ときれいな水がさまざまなブランド価値を創出しています。再生可能エネルギーは本来、こうした自然環境を守るために存在するにもかかわらず、県内にある太陽光発電施設は森林を伐採して建設するなど、自然破壊をしているものが多く目につきます。これは大いなる矛盾です。山間部には水源があり、その水に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、土砂災害を引き起こす危険性もあります。

太陽光発電がこうなった主な原因として、金融商品化して、事業者が責任を持った運営管理に取り組むという意識が希薄になったことがあります。県としては、太陽光発電が真に環境保全に役立ち、地域と共存共生できるようになってもらう必要があるという考えの下、条例を制定しました。

新条例では県に監督権限 事業者とまず対話で解決

―今回のような太陽光発電施設を規制する条例制定を求める声は住民からはありましたか。

長崎 住民はもちろんのこと、市町村などの自治体からもありました。中には「時既に遅し」という地域もあります。その点は悔やまれる部分であり、周辺住民の皆さまには本当に申し訳ないことになってしまいました。が、遅まきながら法的手段に訴えられる仕組みづくりに取り組んでいます。

この条例は、太陽光発電施設が稼働した後の監督権限を県が有します。場合によっては、行政処分することもありますが、そうならないように事前に話し合いを持ち、行政指導することになります。しかし、それだけでは効力がありません。今回の条例では、太陽光発電施設が金融商品である特性に注目し、国にFITの取り消しを求めることができるようにしました。

―金融商品としての価値をなくすというのは大きいですね。

長崎 これは本当に最終手段となります。県が持っているカードは、林地開発許可の取り消し、もしくは今回の条例に基づく措置です。FITの取り消し請求は経済産業大臣にします。しかし、取り消すかどうかは国の判断となります。

いたずらに地方分権を掲げるつもりはありませんが、全国に太陽光発電施設は何万カ所もあります。それらをすべて国は「監視する」と言っていますが、結局行動していません。県民はそのフラストレーションをずっと抱えています。

―この条例を施行できたこと自体が画期的だと思います。ほかの都道府県から反響はありますか。

長崎 問い合わせが相次いでいます。他県もこうした条例施行を検討中だと思います。この条例に違反した建設に関しては法的措置も辞さない毅然とした態度で臨みます。最高裁まで徹底的にやり合う覚悟です。そういった事態も想定して条例は入念に設計しています。

―今回の条例施行で乱開発は収まると見ていますか。

長崎 はい。減少すると見ています。今後は地元に祝福される太陽光発電施設を作ってほしいです。森の中に大規模メガソーラーをつくるのは祝福されないと思います。ほかの太陽光発電の可能性を模索してほしいと思います。

―エネルギー関連で期待している取り組みは。

長崎 現在、県を挙げて水素技術に注力しています。甲府市南部の米倉山太陽光発電所の余剰となった電気を水素に変えるパワーtoガスシステムの実証を進めています。 プロジェクトに参画する東京電力ホールディングスと東レ、山梨県で合弁会社を設立し、同システムをグローバルに広げていく予定です。県内のスーパーマーケットで水素燃料電池によって電気に再び変換し、店内の照明などに活用したり、半導体工場のボイラー用燃料として利用する取り組みを進めています。カーボンニュートラル時代に山梨県が貢献できる手段として取り組んでいます。

甲府市南部の米倉山電力貯蔵技術研究サイト

FITと連動した条例へ 再エネ価値は環境保全にあり

―国の太陽光発電政策に対し要望はありますか。

長崎 今回の条例では、建設や運用における大部分を規制できるよう設計しましたが、最終的にはFIT制度と連動して運用できるようにしていただきたい。県では国に取り消しを申し出ることは非常事態であり、最終手段だと考えています。地域の問題にしっかりと向き合っていただきたい。

―再生エネ事業者に対してメッセージはありますか。

長崎 再エネ開発は価値のある業務だと思っています、それ故、多くの方が投資しようと思うわけです。ただ、地球温暖化も含めて自然環境の保全であるということをぜひ重視してください。

また、太陽光発電施設は長い年月にわたって、地域に存在しうるものなので、地域住民からの理解を丁寧に取っていただきたい。一つは安全性。これはマストです。県としては全く妥協する余地はありません。もう一つは、生活環境への影響です。地域住民はこれも気にしています。ここをしっかりケアして欲しいと思います。

―今後もリーダーシップを発揮してください。ありがとうございました。

ながさき・こうたろう 1991年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館、金融庁、山梨県などを経て、2005年から3期衆議院議員を務める。19年2月から現職。

【特集1まとめ】アウトルック2022 「壬寅」の業界を大胆予想


新型コロナ禍、脱炭素化、資源高騰に揺れた2021年。
この3大テーマを引き継ぐ形で22年が幕を開けた。
欧州、米国、ロシア、中国、中東などの関係国は、
国益に関わるエネルギー政策をどう展開してくるのか。
そして日本は岸田政権の下、どんな戦略を描き出すのか。
「春の胎動を助ける」という壬寅の業界動向を大予想する。

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【覆面座談会】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」

インタビュー】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか

【レポート】エネルギー初夢NEWS10選 2022年に業界を騒がせそうな「夢物語」を集約

【特集2まとめ】保守管理の高度化時代へ スマート保安革命


メンテナンス業務を高度化する「スマート保安」の導入が進んでいる。
AI、IoT機器、ドローンなどを用いた画像解析や遠隔システムが次々生まれ、
政府もスマート保安の普及・拡大に向け、制度改正に本腰を入れている。
保守・保安業界の各セクターで起きる「革命」の一端を紹介する。

【アウトライン】デジタル技術と人材を融合 官民が進めるスマート保安

【インタビュー】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を

【レポート設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も

【レポートインフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解

【レポート システム機器編】通信技術で安全性を向上 収集データの活用進む

【特集1まとめ】原発逃避の終局 クリーンエネルギー戦略の切り札に


東日本大震災以降、長期低迷を続ける原子力政策に光明が差してきた。
脱炭素化の世界的潮流を受け、欧州主要国が原子力の役割を再評価。
わが国でも第二次岸田政権における原子力政策の前進に期待する声は多い。
経産省は、岸田首相が旗を振る「クリーンエネルギー戦略」の議論に着手する。
果たして「原子力戦略の再構築」は重要な論点に位置付けられるのか。
原発問題からの逃避を続けてきた時代は終局を迎えようとしている。

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【アウトライン】世論の壁を打ち破れるか 原子力政策「失われた10年」への決別

【レポート】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり

【インタビュー】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを

【レポート】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情

【インタビュー】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース

【レポート】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁

【インタビュー】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する

【特集2】脱炭素化関連の技術開発を加速 鍵握る複合センサーシステム


【理研計器】

都市ガスプラントの業界標準となっている理研計器のセンサー製品群。複数個組み合わせることで、メタネーションなど次世代エネ開発に寄与する。

天然ガスはLNG化してタンカーで運ばれ、荷役設備を通じて荷揚げし、LNGタンクに運ばれる。出荷時にはLNGを天然ガスに戻し、熱量調整してパイプラインに送られる―。この一連の都市ガス製造工程に理研計器のガス検知器やセンサーが業界のスタンダードとして多く採用されている。

そんな同社が現在注力しているのが、次世代エネルギー技術開発現場へのセンサーの展開だ。カーボンニュートラルの潮流が世界規模で加速している。その中で、メタネーションや水電解技術、水素混焼・専焼技術など、さまざまな技術を社会実装するべく、国やエネルギー会社、メーカーなどが開発中だ。ただ、現場の開発者からは「実証実験ではコストはかけられない」「現場が防爆で一般的な分析計では対応しきれない」といった悩みの声を多く聞く。

市場戦略部の寺本考平副部長は、「当社は既存センシング技術の組み合わせや既存センサーの転用で、『ガス検知器以上、分析計未満』のガスモニタリング環境を提案できます」と胸を張る。

メタネーション開発に対応 三つのガスを高精度に把握

例えば、メタネーションにおいては、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、メタン(CH4)3種類のガス濃度の把握が求められる。それぞれのガスにきちんと置き換えされているか継続的に確認する必要があるためだ。

そこで、同社の防爆型熱量計「OHC―800」を用い、独自の演算技術でメタネーション工程における組成分析を行う。すると、H2とCH4の割合が判明し、演算で雑ガス量が計算できる。さらに、自動制御に使うプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)を組み合わせることによって3種類のガスの濃度管理(モニタリング)が可能となる。これにより、ガス検知器よりも正確な精度で濃度のモニタリングを実現しながら、分析装置よりも手軽にリアルタイムで把握が可能で、防爆エリアでの使用も考慮できるようになる。営業技術課の杉山浩昭課長は「センサーを組み合わせることで、単一のガス検知器では難しかった複雑なモニタリングが可能になりました」と説明する。

組み合わせ応用例

同社には、メタネーション以外に、水電解装置や水素ステーション、アンモニア燃料エンジンなどの開発でも問い合わせが相次いでいる。これらにも複合センサーシステムで対応していく。「さまざまな要望に応えていきたいです。開発において困りごとがあったら、問い合わせていただきたい」と寺本副部長。同社のセンサーが脱炭素化に資する次世代技術開発をさらに推し進めていきそうだ。

【特集2】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す


【北海道ガス】

北海道南富良野町は、北海道のほぼ中央に位置し、町総面積の約9割を森林地帯が占めるという緑の多い町だ。周辺は富良野市やトマムリゾートなど観光地に囲まれ、同町にもラフティングなど、アウトドアのオプショナルツアーを楽しみに来る観光客が多く訪れる。

さまざまな資源を守る森林 経営や維持管理が課題

そんな自然あふれる南富良野町において、課題の一つとなっているのが森林の維持だ。森林は維持管理に資金や雇用が必要となる。この経営を将来にわたり継続できるかが問題となっていた。近年では、森林を商行為対象と考える業者から森林を購入したいとの申し出が多数ある。そうした買い手は所有した後に木を伐採して、残った山をそのまま放置する可能性がある。責任を持った運営が継続される保証がないのだ。このため簡単に継承できないのが課題だった。

「森林を守ることは水資源の確保や自然災害の防止にもつながるため重要です。町内のかなやま湖に生息する魚の絶滅危惧種イトウなど、生物を守ることにもなります。南富良野町は自然を観光資源にしているため、森林の安定的な整備は欠かせません」。南富良野町企画課まちづくりプロジェクト推進室の川口健太主幹はそう話す。

一方、北海道ガスは2050年脱炭素という目標に向け、さまざまな施策を検討中だった。その一つにCO2吸収価値(CO2クレジット)を創出するアイデアがあった。また、同社はエネルギーを通じた地域の課題解決や活性化に寄与するための取り組みを行っている。これまで夕張市などと連携協定を締結した実績もある。

そこで今回、南富良野町とも連携協定を締結。町内のかなやま湖に隣接する土地142・82 haの森林を取得し、維持管理を行いながら、CO2吸収価値を創出していくことにした。南富良野町も「信頼おける企業に継承できて安心できた」(川口主幹)と語る。

取得したかなやま湖に隣接する森林

ただ、吸収価値に変える作業は当初手探り状態だった。北ガス経営企画部環境グループの笠原慎副課長は「どの程度の量を認めてもらえるか、認証機関はあるのかなどを調査し、J―クレジットを選択しました。吸収量は木の年齢によっても変わります。得たCO2吸収価値は決して大きい規模ではありませんが、前述の水や自然資源の確保の観点からも森林を維持管理することは重要です」と話す。北ガスでは、同森林を長期にわたり管理維持していく方針だ。

レジリエンス強化でも連携 極寒期でも2週間の避難可能

今回の北ガスと南富良野町の連携協定では、レジリエンス強化や再エネの地産地消の内容も含まれている。南富良野町は16年8月、洪水豪雨災害に見舞われた。昨今の異常気象による豪雨は、治水に問題なかった町の想定を遥かに上回った。これにより、主力産業のポテトチップス工場が浸水。3カ月操業を停止し、全国的に品不足になるなど大きな影響を与えた。

近年は、猛吹雪など冬の災害も増えている。町に入る二つの道路が寸断され、陸の孤島になってしまうこともあった。そこで、町では道の駅を改装して防災拠点にする計画を進めており、北ガスが参画する。22年に営業を開始する複合施設には停電自立型GHPや、LPガス非常用発電機を導入する。極寒期においても、2週間程度暖や食事を取れるようにする構えだ。

再エネの地産地消に関しては、現在、固定価格買い取り制度(FIT)で売電している町内の小水力発電(177kW)の電力を町内に供給するスキームについて検討している。また、太陽光発電を道の駅などに設置し、道の駅で消費し余剰が出る場合は、北ガスが購入することも考えている。

北ガスは、この知見を今後の取り組みに生かしていく。北ガス経営企画グループ地域連携・再エネ開発推進チームの宮澤智裕チームリーダーは「北海道には多数の森林が存在します。森林を有効活用しながら、環境問題、レジリエンス強化について地域と連携と進めることが、地域活性化に有効であると考えます」と説明する。

エネルギー事業者による、CO2の吸収価値の創出を目的の一つとした森林取得は全国的にも珍しいケースだ。こうした取り組みは今後さらに広まりそうだ。

【特集2】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み


【静岡ガス・岸田裕之社長】

―今年8月に「2050年カーボンニュートラル(CN)ビジョン」を発表しました。

岸田 当社では、菅義偉前首相の昨年10月のCN宣言以前から、30年に向けた中長期的な企業ビジョンを議論してきました。お客さまからCNについて相談や問い合わせをいただく機会も増える中で、当社の考えを示す意味を込めて、今回のCNビジョンを策定しました。今後、CNを実現していく上で、「地域共創」の文字通り、お客さまはもとより自治体や地域の皆さまとともに、取り組んでいこうと考えています。

 「脱炭素」の文字を前にすると、「コストがかかって収益的にも辛いもの」を想像する方が大半だと思います。確かに初期段階ではコストがかかり、困難な対応も多くあると思います。しかし、CN実現には10年、30年と長い時間軸で取り組む必要があります。その間に、経済やエネルギーを循環させる仕組みを構築し、最終的に収益面でもお客さまに喜ばれるものにしていけたらと考えています。

岸田社長

顧客とともに低炭素化推進 省エネでは提案を加速

―30年までに200万tのCO2削減との目標を掲げています。

岸田 この数値は、静岡県のエネルギー会社として、大きな目標を立てて取り組んでいるというメッセージでもあります。例えば、当社エリアの富士市には紙・パルプ、食品といった熱多消費産業のお客さまが多くあります。まずは、そうした企業の低炭素化を徹底的にサポートしていきます。そこで取り組むのが①天然ガスシフト、②コージェネなどのエネルギー高度利用の推進、③省エネビジネスです。①天然ガスシフトでは、C重油や石炭を使用している産業用のお客さまがCN宣言をきっかけに燃料転換に興味を持ち始めており、当社の提案に耳を傾けていただけるようになりました。CO2削減の施策をお客さま個々の事情に合わせて、ともに検討していきます。

―③省エネビジネスは営業力が重要になってきそうです。

岸田 お客さまが工場のエネルギー運用で困っていることを一つひとつ聞いていく必要があります。例えば、ある工場では熱配管の保温方法が旧態依然の方式のままでした。そこで、当社が新しい方法を提案したところ、大幅な省エネが図ることできました。こうした取り組みを加速していきたいです。課題は現場で分かることが多く、お客さまと良好な関係を築いていくことが重要です。30年まではこうした低炭素化に資する取り組みと、CNLNGクレジットとの組み合わせが大事になります。

CNLNGを積んだ船が同社袖師基地に入港した

その先、50年の脱炭素化への取り組みではメタネーションなどイノベーションが必要です。日本ガス協会や大手ガス会社と連携して取り組みを強化していきます。

―系列ガス会社もCNビジョンに基づき取り組むのでしょうか。

岸田 当社と導管がつながっているグループ会社は同じ考え方で取り組みを進めていきます。ただ、佐渡ガス(新潟県)のような会社は異なります。佐渡島は標高1000m級の山があり、森林が多くあります。例えば、佐渡島の森林を取得してCO2吸収価値をJクレジット化することでCNを推進できる可能性もあるでしょう。

 下田ガス(静岡県)では、市が使用する電気を切り替えるプロポーザルの際に、電力供給の枠にとどまらず、地域でエネルギーと経済を循環できる仕組みを導入できないかと提案しました。卒FITの電力を市役所や商店街に購入していただき、地域コインを発行するようなイメージです。これを地元の商店街などでの経済循環につなげることはできないかと。地域ごとに異なる特性に合わせたアプローチを考え抜きます。

―30年までに再エネ20万kW開発という目標については。

岸田 太陽光は一般的な野立てに加え、PPAモデルによる地域電源を考えています。太陽光発電設備を無償提供し、10~20年間のサービスとガス供給を行うモデルを展開していきます。また、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)にも取り組んでおり、耕作放棄地の解消などに寄与するものと考えています。

 バイオマスは今年5月、三菱地所などと埼玉県で剪定枝を燃料としたバイオマス発電所を手掛ける計画を発表しました。道路整備などで発生する剪定枝は廃棄物として扱われています。これを燃料として利用するものです。静岡県内でも同様の仕組みを用いた発電所を展開したいです。

―今後、エネルギービジネスはどうなっていくと見ていますか。

岸田 今後10年で低炭素化への取り組みがさらに加速していくでしょう。地域の皆さまや企業と知恵を出し、その地域に合ったやり方を見出して経済やエネルギーを循環させていくインフラの仕組みの構築が鍵になると思います。エネルギー企業である当社が中心になりながら魅力ある仕組みをつくっていきたいですし、「静岡ガスなら任せられる」という信頼を積み上げていきたいと考えています。