【特集2】脱炭素化関連の技術開発を加速 鍵握る複合センサーシステム


【理研計器】

都市ガスプラントの業界標準となっている理研計器のセンサー製品群。複数個組み合わせることで、メタネーションなど次世代エネ開発に寄与する。

天然ガスはLNG化してタンカーで運ばれ、荷役設備を通じて荷揚げし、LNGタンクに運ばれる。出荷時にはLNGを天然ガスに戻し、熱量調整してパイプラインに送られる―。この一連の都市ガス製造工程に理研計器のガス検知器やセンサーが業界のスタンダードとして多く採用されている。

そんな同社が現在注力しているのが、次世代エネルギー技術開発現場へのセンサーの展開だ。カーボンニュートラルの潮流が世界規模で加速している。その中で、メタネーションや水電解技術、水素混焼・専焼技術など、さまざまな技術を社会実装するべく、国やエネルギー会社、メーカーなどが開発中だ。ただ、現場の開発者からは「実証実験ではコストはかけられない」「現場が防爆で一般的な分析計では対応しきれない」といった悩みの声を多く聞く。

市場戦略部の寺本考平副部長は、「当社は既存センシング技術の組み合わせや既存センサーの転用で、『ガス検知器以上、分析計未満』のガスモニタリング環境を提案できます」と胸を張る。

メタネーション開発に対応 三つのガスを高精度に把握

例えば、メタネーションにおいては、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、メタン(CH4)3種類のガス濃度の把握が求められる。それぞれのガスにきちんと置き換えされているか継続的に確認する必要があるためだ。

そこで、同社の防爆型熱量計「OHC―800」を用い、独自の演算技術でメタネーション工程における組成分析を行う。すると、H2とCH4の割合が判明し、演算で雑ガス量が計算できる。さらに、自動制御に使うプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)を組み合わせることによって3種類のガスの濃度管理(モニタリング)が可能となる。これにより、ガス検知器よりも正確な精度で濃度のモニタリングを実現しながら、分析装置よりも手軽にリアルタイムで把握が可能で、防爆エリアでの使用も考慮できるようになる。営業技術課の杉山浩昭課長は「センサーを組み合わせることで、単一のガス検知器では難しかった複雑なモニタリングが可能になりました」と説明する。

組み合わせ応用例

同社には、メタネーション以外に、水電解装置や水素ステーション、アンモニア燃料エンジンなどの開発でも問い合わせが相次いでいる。これらにも複合センサーシステムで対応していく。「さまざまな要望に応えていきたいです。開発において困りごとがあったら、問い合わせていただきたい」と寺本副部長。同社のセンサーが脱炭素化に資する次世代技術開発をさらに推し進めていきそうだ。

【特集2】激甚化する災害の備えは万全か 電力・都市ガス供給をバックアップ


【I・T・O】

都市ガスエリアの防災減災に寄与するのがI・T・Oの「BOGETS」だ。LPガスと組み合わせることで都市ガスと電気の復旧に寄与する。

LPガスの分散型エネルギーとしての特長を生かし、都市ガスエリアの防災・減災に寄与する設備がある。I・T・Oが販売する「BOGETS」だ。このシステムは、あらかじめ備蓄しておいたLPガスを活用して都市ガスと同じ燃焼特性を持ったプロパンエアーガス(PAガス)と電気を作り出すことが可能だ。

BOGETSを備えておけば、災害などで都市ガスの供給停止や停電などが起きても一定期間ガスと電気を確保することができる。ライフラインが寸断された状況にあっても、ガス空調や厨房用のコンロ、シャワー室の給湯器などもそのまま使用できるので、熱中症や風邪予防が図れるほか、温かい料理の提供も続けられる。

BOGETSはPAガス発生装置の「New PA」、発電機、耐震LPガススタンド、都市ガスとPAガスを切り替える「ワンウェイロックバルブ」で構成されている。タッチパネル式制御盤により誰でも簡単に操作が可能だ。モニターに表示される手順と音声案内で簡単に都市ガス仮復旧できる仕組みとなっている。LPガス発電機で電源を確保することで、New PAに電力供給するほか、非常用電源としてスマートフォンの充電や照明など避難時の最低限の生活支援に役立つ。

足立区の小中学校に導入 シリンダー1400本を設置

このシステムは、足立区の小中学校に採用されている。激甚化する災害への対応を目的に91校に設置された。LPガスは東京都のLPガス会社、富士瓦斯がシリンダー約1400本を供給している。富士瓦斯は、事業継続に関するISO22301を取得するほか、東日本大震災発生後、LPガス災害対応コンソーシアムを立ち上げるなど、LPガスの防災への関わりについて、長年取り組んできた事業者だ。

富士瓦斯の津田維一社長は「今後、政府の2050年カーボンニュートラル宣言によって電化が進んでいきます。しかし、災害への備えを考えたとき、一つのエネルギーに頼るのは好ましいといえません。万が一の備えとして、LPガスはBOGETSのような設備と組み合わせることで電気や都市ガスのバックアップができます」とLPガスの重要性を強調する。

LPガス単独としての役割に加え、このような設備と組み合わせれば、ほかのエネルギーに柔軟に変換できる点を多くの人に知ってもらうと、LPガスの存在感はさらに高まっていくだろう。

【特集2】レジリエンス性能さらに高まる 調整力電源としての役目も


【パナソニック(エネファーム)】

新型エネファームはLPWA搭載で利便性を高めた。10月からは本州の寒冷地向けにLPガス仕様も販売する。

近年、頻発する大災害によって分散型エネルギーとして見直されているLPガス。組み合わせることで、さらにレジリエンス性能が高まる機器として注目を集めているのが、家庭用燃料電池「エネファーム」だ。

中でも、パナソニックが今年4月に発売した第7世代機は、従来に増してレジリエンス性能を高めた仕様になっている。

特徴的なのは、セルラー方式のLPWA(省電力広域無線通信)機能を標準搭載していること。同機能でレジリエンス性能が飛躍的に向上している。具体的には、停電発電に備えた待機モード「停電そなえ発電」を付加した。エネファームがウェザーニューズ社のWxTechサービス「停電リスク予測API」を受信すると、自動的に停電そなえ発電に切り替わる。実際に停電が発生した場合は停電発電を継続し、停電が発生しなかった場合には通常運転に戻る。

また、同機能では、深夜など通常エネファームが運転を停止している時間帯に停電が発生した場合でも、停電に備え発電に切り替わっていれば、外部電源による再起動が不要で、停電発生時でも電気を利用できる。

第7世代の「エネファーム」

LINEで遠隔操作 使用状況を見える化

LPWAの搭載によって、エネファームの利便性も向上した。同社は、エネファームの遠隔操作に対応するLINE公式アカウントを活用したサービス「LINEのエネファーム」の提供を開始した。遠隔操作に加え、家庭の電気やお湯の使用量といったエネルギーの使用状況が、スマートフォンで確認できる。発電に関する情報や、電気・お湯などの使用量、使用料金の目安を、気軽にLINEのトーク画面で確認できる。また、ガス遮断時でも浴槽にためて入浴できる量のお湯を賄うヒーター給湯機能を搭載し、レジリエンス性能を高めた。

LINEのエネファーム画面

今年6月からは関西電力と東京ガスとともに、エネファームを活用したVPP(仮想発電所)実証に参画する。最大3000台規模のエネファームを対象に、LPWA通信によって群制御するシステムの各種技術検証を実施し、電力需給バランスの調整など、電力市場での活用を目指すもの。同社燃料電池企画部の浦田隆行部長は「補助金を頼らず、ビジネスとして成立させる志を持って取り組みます。LPガス顧客の多い地方の分散型電源として、再エネの調整力として脱炭素社会に貢献するものにしたい」と意気込む。エネファームの特長を生かし、さらなる価値創出にまい進する構えだ。

このほか、本州の寒冷地向けにLPガス用エネファームを10月1日から発売した。第7世代機をベースに、凍結予防仕様を強化。設置環境温度下限マイナス15℃の寒冷地でも使用可能とした。浦田部長は「LPガスは寒冷地にお客さまが多いです。今回、LPガス仕様にして、全国展開していきます。また、標高800mまで設置可能にしたことで、設置可能世帯が約2割の増加が見込まれます」と販売拡大に期待する。

【特集2】給湯で圧倒的な省エネ性能 新たなニーズ対応で効果発揮


【リンナイ(エコワン

電気とガスのいいとこ取りした給湯器「エコワン」。今年4月には太陽光自家消費モデルを追加した。

LPガスは地方の人口減少、過疎化、オール電化・エコキュートへのシフトによる需要減少が続いている。そこで、ガスの良さをアピールしつつ、オール電化・エコキュートに対抗できる商品としてリンナイが開発したのが、ハイブリッド給湯暖房システム「エコワン」だ。従来の給湯器はガスか電気など一つの燃料を利用してお湯を沸かしてきた。エコワンはガスと電気の両方を使い給湯する。電気給湯はヒートポンプを利用、電気エネルギー効率を高めている。ガス給湯はエコジョーズを採用し、瞬発力があり、お湯をたくさん使うときや温水暖房時に性能を発揮する。まさに、ガスと電気のいいとこ取りした製品だ。

ハイブリッド給湯器「エコワン」

年間エネルギー消費量は、ガスはエコジョーズより約85%、電気はエコキュートよりも約45%少ない。ガスと電気を効率よく使うため低燃費だ。また、給湯の一次エネルギー消費量は、基準給湯器25・1GJ、エコキュート最高効率タイプ15GJに対し、エコワンは13・8GJとほかの給湯器より大幅に省エネを図ることできる。

太陽光自家消費モデルを追加 停電発生時にも給湯と暖房

今年4月には、太陽光自家消費モデルを追加した。太陽光発電は、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の価格下落や賦課金の増加、蓄電池の性能向上から、発電した電気を自宅で使用する自家消費が有効になってきている。

太陽光発電自家消費モデルは、昼間の太陽光発電時間帯にヒートポンプ運転を行い蓄熱する。家全体の一次エネルギー消費量の基準値である80・7GJを45%削減し44・6GJを実現する。年間の給湯ランニングコストは従来器に比べて67%減、金額にして6万7000円削減できる。太陽光発電を利用することで、省エネ、低ランニングコスト化が可能だ。

災害の大規模化を受け、住宅にレジリエンス性能を求める消費者が増えてきた。エコワンの太陽光発電モデルなら、停電発生時にも太陽光発電で給湯でき、床暖房にも対応する。同社営業企画部の中尾公厚部長は「レジリエンス性能など、新たなニーズに対応する点をこれまでに増してアピールしていきたい」と意気込む。ハイブリッド給湯器の特長は、今後のニーズ対応でも効果を発揮しそうだ。

【特集2】コインタイマー対応機などで 業務用ニーズを掘り起こす


【リンナイ( 乾太くん)】

家庭用で人気を集めるガス衣類乾燥機「乾太くん」。実は業務用でも新たな需要を開拓するなど好評を博している。

家庭用で好評なリンナイのガス衣類乾燥機「乾太くん」――。今年は昨年比2万台増の11万台を販売する見込みだ。業務用も好評で、いろいろな用途で広がりを見せている。乾太くんは5~9kgクラスをラインアップする。業務用は家庭用の3倍の使用回数に耐え得る設計が施されている。これまで、ホテルや病院、理美容院など、シーツやタオルを大量に使用する事業者に使われてきた。

業務用でも好調なガス衣類乾燥機「乾太くん」

新たな展開として、コインタイマー内蔵機種を追加した。タイマーは一回の稼働時間や金額などを管理者が設定可能だ。病院や宿泊施設、寮などで利用拡大を図っている。これによって、多くの人が乾燥機の利便性をはじめ、生乾きがないこと、仕上がりの良さ、ウイルスやアレルギー物質の除去など、ガス乾燥機ならではの特長を享受できるようになった。

同社営業企画部の中尾公厚部長は「乾燥機はガスの良さを知ってもらう、切り札のような製品と自負しています。業務用はそうした特長を知ってもらうよい機会となります。利便性が個人にまで浸透するきっかけになる」。LPガスの需要開拓に、業務用乾太くんはきっと貢献するだろう。

【特集2】環境配慮型の発電事業 地域連携を果たし活性化


【広島ガス】

地域に根付いた事業としてなじみ深かった都市ガス事業。いま再エネ大量導入時代に向けて新たな取り組みが始まっている。広島ガスが、中国電力と共同出資する海田バイオマスパワー(小寺洋一社長)が今春から海田発電所の運転を開始した。出力は11万2000kWで、これまで100kW単位の太陽光発電を手掛けてきた広ガスにとっては、かなり大規模な再エネ発電事業である。

発電所外観。広島ガスと中国電力が50%ずつ出資する

「エネルギー事業において、CO2を削減していくこともさることながら、地元で未利用だった木材資源を発電燃料として有効活用することで、林業活性化や循環型社会の構築に貢献していきたい」

広島ガスから出向している海田バイオマスパワーの藤井速人・総務部総務担当マネージャーは、バイオマス発電事業の意義をそう説明する。

既存設備の有効活用 内航船は環境配慮型

海田発電所は広ガスが2001年まで石炭から都市ガスを製造していた海田工場の跡地(15万6000㎡)の一角に立地する。瀬戸内海に面したエリアだ。原料だった石炭を受け入れるための港湾設備や、工業用水など主要なインフラがあらかじめ整備されていた区画で、新規に発電事業を行うにはまさに適地であった。とりわけ工業用水インフラは、プラントの冷却機能(復水工程)を果たす。海水を利用せずに復水できることから、海域環境への影響を少しでも抑える仕組みだ。

発電所で使う燃料は、木質系のバイオマスを熱量ベースで80%混焼(残りの20%は石炭との混焼)を基本に消費する計画だ。主に3種類のバイオマスを使う。北米から調達するホワイトペレット、広島県内からの木質チップ、そして、東南アジアからのパームヤシ殻燃料だ。合計40万t程度の燃料を消費する計画で、メインとなる燃料は北米からのホワイトペレットだ。そして、県内からの木質チップを5万t程度とし、残りをパームヤシ殻燃料で調整する。

海外からのホワイトペレット、パームヤシ殻は、山口県岩国市内の中継基地を経由する。発電所前の港湾の水深が浅く大型船が直接、入港できないためだ。いったん、中継基地から、新たに造船した内航船「海栄丸」へ積み替えて運び込む。この内航船はセルフアンローダー搭載の船で、密閉に近い状態で荷役することができる船だ。半密閉であることから、周囲へ燃料が飛び散ることがなく、環境に配慮した船である。加えて、中継基地には倉庫を設けて風雨や浸水を避けるなど、バイオマス燃料の品質を維持するための工夫を施している。

バイオマス燃料を運ぶ内航船の海栄丸   提供:商船三井

「県内での木質チップの調達については、地元に迷惑は掛けられません。当社の都合を優先するような調達ではなく、あくまでも地元の方々と良好な関係を築きながら無理のない範囲で、年間5万t程度調達できたらと考えています」(藤井マネージャー)。地元への配慮を踏まえたプラント運用を目指している。

また、発電所の中核を担うプラントのボイラーには、燃料仕様に制約がない循環流動層を採用している。微粉機で粉砕する必要のない5㎝以下のバイオマス燃料をボイラーで燃やしていく。炉内温度は800~900℃となっており、炉内の燃焼に起因した窒素酸化物などを抑制でき、また炉内に尿素や石灰石を直接投入することで、炉内で脱硫脱硝が完結できるような設備となっている。

「基本はベースロード運転です。半年近く試運転を行い、各種バイオマス燃料の混焼率を変えながら、炉内でどのような挙動になるのか確認してきました。広島ガスにとっては初めての大きな発電所です。プラント運用のプロである中国電力さんから出向している方々から、日々学びながら安全・安定的な運用を目指していきたい」(藤井マネージャー) 再エネ主体のベースロード運転は、国策である再エネ主力電源化への大きな一歩。その役割の一翼を海田バイオマスパワーが担う。

山口県内に立地する燃料の中継基地

【特集2】ごみ処理発電で地産地消電力 脱炭素化への貢献に全国が注目


【日鉄エンジニアリング】

昨年10月の菅義偉首相の「カーボンニュートラル宣言」以降、全国の自治体において脱炭素化に向けた検討が加速している。そうした中、ごみ処理の余熱でつくる電気に注目が集まっている。地域内の家庭や事業所から出たごみを電気に変え、地元で有効活用できる地産地消性や、太陽光や風力のように天候や時間帯に影響されず、ベースロードで発電する供給安定性が評価されているのだ。

かずさクリーンシステムの外観

今年2月、千葉県君津市でそうしたごみ処理から生じた電力を地元で有効活用する取り組みがスタート。日鉄エンジニアリングが最大出資者であるかずさクリーンシステムから廃棄物を処理する際に発生する電力を君津市の清掃事務所や小学校など、22の施設に供給するというものだ。かずさクリーンシステムは君津市、木更津市、富津市、袖ケ浦市の出資で設立。これら自治体から発生する一般廃棄物の処理事業と併せ、発電事業を手掛けてきた。

今回の供給スキーム

今回、この電力を電力小売り事業者である日鉄エンジが買い取り、君津市の公共施設に供給するスキームに転換、1995kWの地産地消電力の供給を開始した。これにより、年間600tのCO2排出量を削減する計画だ。

かずさクリーンシステムは日本製鉄の溶鉱炉技術を生かしたシャフト炉式ガス化溶融炉を採用する。多様な廃棄物を1700〜1800℃の高温溶融により安定的かつ確実に処理を行い、無害で天然砂と同等の品質を持つスラグと、メタルという二つの資源を生み出す。同炉は木材やプラスチック、金物、土や泥が混じったごみも安全かつ確実に処理が可能。近年の大災害で発生した災害廃棄物の処理でも高い能力を発揮する。

また有害ガス成分の発生抑制に優れ、ダイオキシン類についても、十分な燃焼制御に加え、触媒反応方法などにより、ダイオキシン類対策特別措置法の規制値をクリアしている。

ごみ処理工場は24時間ベースロードで稼働する。環境・エネルギーセクター企画部の小野義広部長はその運用について、「火力発電は一定の品質の燃料を用いるので、設備の傷み方などもある程度予測できるが、ごみ処理はどのようなものを処理するか事前に分かるわけではありません。しかも勝手に止めるわけにもいかない。そこでメンテナンスが非常に重要になる。全国40カ所以上で蓄積したノウハウに基づき計画的に実施しています」と説明する。

小学校教育にも寄与 ほかの自治体にも働き掛け

このほか、ごみ処理発電は小学校教育の一環としても寄与している。同セクター電力ソリューション部企画・需給管理室の土屋一子マネジャーは「市内の小学校では4年生になると、かずさクリーンシステムを見学します。ここでつくられた電気が自分たちの小学校で使われていることを知ってもらう。ゴミの分別を促すなど、環境教育の面でも高い評価をいただいています」と話す。日鉄エンジでは、君津市への供給開始を皮切りに、かずさクリーンシステムを利用するほか3市にも地産のごみ余熱電力の供給を働き掛けているという。

脱炭素、地産地消、教育面への寄与で脚光を浴びるごみ処理発電。君津市の取り組みはその先駆けとなりそうだ。

【特集2】地域課題解決へ再エネ事業に注力 プロジェクトに参画して知見を得る


インタビュー/松本尚武:静岡ガス グローバル・エネルギー本部副本部長兼電力・環境事業部長

松本尚武グローバル・エネルギー本部副本部長兼電力・環境事業部長

―今年4月以降、バイオマス発電事業への参画を2件発表するなど、取り組みが活発です。貴社の再生可能エネルギー事業の取り組み方針をお聞かせください。

松本 当社が再エネ事業に取り組む目的は二つあります。脱炭素社会の実現と、地域課題の解決です。当社は2016年から電力の小売り事業を開始し、地域資源やガスコージェネを利用した地産地消をテーマに進めてきました。

 その中で、再エネ開発を進めていく計画でした。しかし、低炭素から脱炭素にニーズがシフトしてきたことや、地域課題がより深刻さを増す中で、再エネ開発はそれらの解決ツールととらえて取り組んでいます。

―地域課題とは何ですか。

松本 県内の中山間地域では、放置林の問題があり、林業の活性化が求められています。また、静岡県はお茶の産地として有名ですが、近年は需要が停滞しています。そんな状況を打破するため、再エネを地域振興に利用できないかと検討を進めてきました。

県内事情から電源を検討 地域振興に再エネ利用

―今回のバイオマス案件は山形県と埼玉県です。いずれも貴社エリアから離れています。地域への取り組みを重要視する中、なぜ参画したのでしょうか。

松本 将来の当社の小売り事業向け再エネ電源として利用するには、系統でつながっていれば問題ないと考えました。一方、静岡県内は山が近いために平地が少ないことに加え、富士山周辺は景観を損なうため配慮が必要など、太陽光発電所の適地はそれほど多くありません。風力も東北地方の日本海側のように風況が良くありません。そうした中で、バイオマス発電は有力な電源と位置付けています。放置林などの地域課題の解決にも適しています。

 2件の案件は、いずれもマイナー出資者という立場です。事業運営に主体的に関わるのではなく、サポート役として関わっています。県内で電源を手掛けていく際には、事業主体を担っていく考えです。

―山形県の鳥海南バイオマス発電所(5万2900kW)のプロジェクトに関わったきっかけは。

松本 参画した目的の一つとして、将来の大型バイオマス電源を立ち上げるための調達や開発、運用など、ノウハウの蓄積があります。当社のお客さまには、製紙会社など自社電源に石炭火力を利用しているところが多くあります。中には、バイオマス燃料への切り替えに関心のある企業もあります。そのお手伝いができたらと考えています。また、参画に当たり重要視したのが燃料調達の確実性です。バイオマス発電において最もリスクが高い部分です。同案件は、酒田港が発電所の近隣にあるなど、立地にも恵まれており、大きな信頼を寄せています。

鳥海南バイオマス発電所の完成予想図

―埼玉県の東松山バイオガス発電所(1990kW)ではどのような取り組みを行いますか。

松本 同発電所では、街路樹や高速道路などの剪定枝を利用しますが、これを5㎝程度のチップに破砕して水分含有量を調整してボイラー燃料にします。

 当社は発電設備に関するエンジニアリング力はありますが、バイオマスの調達など、上流側のデリバリーや、木質チップの加工や成分調整を行い燃料にするところのノウハウはありません。そうしたものを積み上げたいです。

 国内材を活用したバイオマス発電は小規模にはなりますが、これまでのコージェネで培ったノウハウなどが生きるのではないかと考えています。ゆくゆくは、林業の課題解決のためにも、林地残材や製材端材の活用にも取り組んでいきたいと考えています。

―ほかの再エネで注目しているものはありますか。

松本 静岡県内では、小規模の太陽光が有望と考えています。営農併設型のソーラーシェアリングは地域課題解決に寄与するでしょう。

―政策・制度面で、注視している点はありますか。

松本 電力系統の増強・運用に関する議論に注目しています。再エネ事業を行う上で、出力抑制は長期的なリスクと考えなければなりません。事業者の立場からすると、系統にかかる費用負担の在り方も含め、増強・運用に関する議論が整理されてくると、FITのその先も見据えた上での事業の予見性が高まるものと期待しています。

―今後の展望は。 松本 当社では、再生可能エネルギーの開発を重点戦略として位置付けており、21~23年に再エネと海外事業を合わせて200億円程度を投じる計画です。脱炭素社会の実現と地域課題の解決を推進していくため、新しい取り組みに挑戦し続けたいと思います。