国際的にも、CCS懐疑論は鳴りを潜め、CN達成に欠かせない事業との認識が共有されつつある。
特に直近1年の動きは激しく、世界全体で約60もの新規事業が発表された。各国の戦略とは。
再生可能エネルギーや水素などと並行し、脱炭素ソリューションの一つとしてCCS(CO2の回収・貯留)の事業化を目指す動きは当然、日本にとどまったものではない。
国際エネルギー機関(IEA)は、カーボンニュートラル(CN)の実現はCCSがなければほぼ不可能であると指摘。2050年CNに向けては、①既に公表や実施されている政策に基づくSTEPSシナリオ、②未実施も含めて政府の発表済み公約が全て実施された場合のAPSシナリオ、③50年CO2排出ネットゼロ達成を想定したシナリオ―という三つのシナリオに応じて、世界全体で年間38億~76億tのCO2を貯留する必要があると試算する。こうした差し迫った状況下で各国が、CCSの実用化に向けた取り組みに本腰を入れ始めているのだ。
かつて大勢を占めていた懐疑論は薄まり、政策導入に転換する流れが加速。各国政府は戦略的かつ計画的な政策と企業支援を進めている。CCSに関する研究を進めている国際シンクタンク「グローバルCCSインスティテュート(GCCSI)」によると、世界では現在196件のCCSの実用化を目指すプロジェクトが進行中だという。そのうち61件は昨年1年間で新規に発表されたものであり、まさに活況を呈している。
米国は政府支援や税制優遇 欧州では懐疑派からの転換も
中でも、世界最大級の支援を背景に「空前のCCSブーム」が巻き起こっているのが米国だ。21年にインフラ投資雇用法が成立、昨年5月にはエネルギー省(DOE)がCCS事業などに23憶4000万ドルを捻出すると発表した。直近では2月、CO2輸送や地中貯留インフラを結び付ける商用規模の技術実証プロジェクトに対し最大17億ドルを捻出するなど、総額で120億ドル規模の予算を組む。米国では、50年までに10億t規模での貯留を目指しており、現状の排出量の2割を超える野心的な目標を掲げている。
また、08年に制定されたCCSに対する税制優遇制度「セクション45Q」が、インフレ抑制法(22年に成立)により大幅に拡充されたことも追い風となっている。産業用の排ガスを地下で貯留した場合、1t当たり50~85ドルの税控除が可能となり、もはや国が炭素処理に直接補助金を出しているのと変わらない状況だ。高い収益力を見込んで、これまでに3桁に上る企業が申請を行っているという。
その一方で、環境保護庁による陸域制度の審査や、内務省による海域制度の立ち上げに関する遅れが課題に浮上。制度の見直しを含めた改革の是非がこれからの焦点となるだろう。
翻って、欧州では域内各国の事情や立場によってCCSへのスタンスが異なる。これまで積極的に取り組んできたのが、北海沿岸の産油国である英国やノルウェーだ。
英国では、BPなどのオイルメジャーが主導、または支援する四つのCCSクラスターを30年までに構築し、2000万~3000万tのCO2貯留を目指す。水素製造や、大気から直接炭素を回収・貯留する「DACCS」、バイオエネルギーを使って炭素を回収・貯留する「BECCS」など、多様な炭素分離技術を積極的に導入しているのも特徴的だ。
ノルウェーは、産油国としての地位を維持しつつ、政府が支援する「ロングシップ」と呼ばれるCCSプロジェクト初の案件である「ノーザンライツ」を推進するとともに、CO2輸入にも力を入れる。CCSによるCO2の国際取引を規制するロンドン条約1996年議定書の改正を働きかけ、暫定適用を初めて宣言するなど、欧州における同国の主導的な役割は大きい。
さらに注目されるのは、これまで懐疑的な姿勢を貫いてきたドイツの方針転換だ。昨年8月には、ドイツの石油・ガス会社のウィンターシャルDEAが、ノルウェー・エクイノール社と共同でCCS事業を推進すると発表。回収したCO2をノルウェーの貯留地点に送るためのパイプライン建造や船舶輸送などを計画しており、37年までに約2000万tのCO2輸送を目指す。これに伴い、政府としても国内制度の整備を急いでいる。
アジア諸国でも活況 戦略見直しで実行段階
化石燃料の需要が堅調なアジアでも、CNへのコミットからCCSへの関心が急速に高まっている。21年には、CO2回収・貯留にとどまらず利用まで見据えて、アジア全域でのCCUS活用に向けた産学官プラットフォーム「アジアCCUSネットワーク」が立ち上がった。
特に産油・産ガス国の動きが目立ち、マレーシアやインドネシア、タイ、ベトナムでは、それぞれ国営の石油会社がCCS推進のドライバーとなっている。他方、消費国側もCCSの活用を模索し始め、中でもシンガポールや韓国がCO2輸出の働きかけに積極的だ。
世界最大のCO2排出国であり、温暖化の国際交渉の場で存在感を強める中国はどうか。ここにきてCCS推進にかじを切った。GCCSIによると、60年までに年間貯留量23億tを目標に掲げており、現状の排出量の20%を超える。国内の電力会社や国営石油会社などがプロジェクトを立ち上げており、産油国や欧米石油メジャーなどとの連携も深めつつある。
海外のCCS/CCUSプロジェクト
※EOR(原油増進回収技術) グローバルCCSインスティテュート調べ
中東諸国の戦略にも変化の兆しが見えてきた。こうした国々にとってこれまでCCSは、あくまで石油・ガスの増産を目的としたEOR(原油増進回収)・EGR(天然ガス増進回収)が主体だったが、最近は海外のCO2を受け入れるための検討が始まっている。中東経済が化石燃料依存からの脱却を図る上で、CCSの位置付けは一層重要になろう。
このように、世界各国でCCS戦略の見直しが進み、より具体的に実行に移す流れになってきたことは間違いない。ただ、国際的なルールの整備は今後の課題であり、国境をまたぎCO2を輸送するプロジェクトも急増する中、貯留キャパシティの問題、貯留後の環境モニタリング体制を含めたプロジェクト全体の責任の所在の在り方など、検討すべき論点は多い。国際議論が国益と合致するよう、日本にとってもアジアをはじめとした関係諸国との連携をより深める取り組みが肝要だ。