【関西電力送配電】
近年の関西地方で起こった停電被害として記憶に残るのが、2018年台風21号だ。「非常に強い勢力」で上陸し、記録的暴風と大規模な高潮をもたらした。関西電力エリアで電柱を1300本近くなぎ倒し、変圧器や電線を破損させるなどの被害が相次いだ。これにより、8府県で最大168万棟、延べ約220万棟が停電した。同社にとって平成最大の台風被害だった。「この被害が自然災害について考え直すきっかけになった」。岩崎慎也地域コミュニケーション部防災グループチーフマネジャーはそう振り返る。
この経験を通し課題として浮き彫りになったのが、停電の早期復旧と需要家の情報発信だ。そこで、①ドローン活用による設備被害全容の早期把握、②需要家への情報発信の仕組み構築―に取り組んだ。①のドローン活用は土砂崩れによって、進入困難な場所が多くできて設備被害の状況確認に時間を要したことがきっかけになった。ドローンを活用することにより、設備被害の全容の早期把握につなげる。
②の需要家への情報発信については、ウェブサイトで発表している停電発生・復旧状況に加え復旧作業の進捗状況、復旧見込み時間を表示するなどサービスを拡充するとともに、スマートフォン向けの新サービス「関西停電情報アプリ」も開発した。それぞれ停電の発生から作業の進捗状況や復旧見込み時間が確認できるほか、アプリはプッシュ通知に対応しており、事前に登録した地域の状況に関する情報が届く。関西エリア全域から地域を絞り込み、停電や復旧状況を確認することも可能だ。
台風21号のときは、ウェブサイトの情報掲載に関連した停電情報提供システムの更新が停止し、停電発生や復旧状況などの情報を手動で集約し発信していたため作業に手間を要した。そのため、需要家からの問い合わせにも十分対応できなかった。
そこで、停電情報提供システムを増強するとともに、現地で復旧に取り組む作業員がスマホを操作して、復旧ステータスなどの情報入力を行うと、システムに反映される仕組みを構築した。これにより「停電情報集約の工数が大幅に減り、正確かつ迅速に情報発信できるようになった。台風など災害の恐れがあるときは是非アプリを利用してほしい」と岩崎氏はアピールする。
南海トラフ巨大地震に備える 神戸本部など津波対策を強化
同社ではハード面での対策にも注力する。送配電設備が被災すると、経済や社会への致命的な影響を与える可能性があるためだ。津波対策では、沿岸部にあった送電ルートを見直し、内陸側に移設した。また、ハザードマップで浸水が想定される地域では変電設備をかさ上げしたり、地下式の変電所においては入口扉の水密化や脱着式防水パネルの設置など浸水への備えを強化した。
被災時に拠点となる建物も強化。同社神戸本部は南海トラフ巨大地震の津波によって約1・1m浸水する可能性がある。このため、浮動式プラップゲートの設置など浸水対策を実施した。
同社では、今後もソフトとハードの両面で防災対策を進めていく構えだ。