省エネに関しては絞り切った雑巾と言われている日本の産業界。しかし、実際の現場に目を向けると改善の余地は多分にあるという。
【インタビュー】小林敬幸/名古屋大学大学院工学研究科准教授

―日本の産業分野における省エネは「乾いた雑巾を絞るようなものだ」と言われています。
小林 全国の名だたる企業の工場現場を数多く訪ね、感じることがあります。生産工程の最終段階となる組み立て工場などでは確かに省エネは進んでいます。インバーター導入やエアー制御によって電気利用の高効率化が進む一方、製造の前半から中段のプロセス工程で、とりわけ熱利用の分野では改善の余地はかなりあります。
―具体的には、どのような製造工程でしょうか。
小林 加熱炉分野では、20年以上前にリジェネバーナーが開発されたが、それ以降革新的な改善はありません。200℃以上の熱を捨てていることが多く、乾燥炉の工程でも排熱は多分にあります。
―熱対策となると、特殊なエンジニアリング作業が必要です。
小林 加熱炉分野では、断熱材の技術が進歩していますが、活用しきれていません。例えば1000℃の温度を必要とする炉があるとします。よく見かけるのは、燃焼し続けているケースです。必要なのは1000℃の温度であって、熱量ではありません。化石資源を使って燃焼し続ける必要はないのです。断熱材を上手く活用し燃焼を工夫することで、対策は比較的簡単にできるはずです。
省エネ改善が進まない理由 蓄熱技術や合成燃料の期待
―どうして改善が進まないのでしょうか。
小林 これまでは燃料コストが安かったため、改善する必要がありませんでした。同時に省エネによって製品の品質が下がってもいけない。現場はどうしても保守的にならざるを得ません。国家プロジェクトで主導し成功事例を積み上げ、モノづくりの現場で導入しやすくする必要があるでしょう。
今、注目しているのは輻射熱によるロスです。ある工場に消費電力70kWの電気加熱炉があり、ロスを計算したところ、輻射による熱ロスが約40kW分もあることが分かりました。恐らくこうした現場は数多くあるはず。空調分野でも同じことが見受けられます。
―待機消費電力の課題に似ていますね。
小林 非常に単純な課題です。単純過ぎるがゆえに現場では見過ごされているわけです。
―今後の省エネ技術やメタネーションなどの合成燃料に対する期待はありますか。
小林 ゴミ焼却場などの実証で有効性が確認されている蓄熱・熱輸送です。日本の技術力は諸外国に比べて高く実用レベルに達していますが、初期投資が課題となっています。ただエネルギーコストの高い状況が続けば、一気に導入される可能性はあると思います。
合成燃料については、CO2削減分の帰属先をどうするか。権利配分の制度的な課題を解決して、事業者が取り組める環境が整うことを期待しています。











