【特集2】座談会 家庭・産業用ヒートポンプ事情 省エネとCNに挑む最先端技術


エネルギー業界が脱炭素に向けて動き出している。鍵の一つはヒートポンプ(HP)技術だ。家庭用から産業用まで多様な省エネルギーのニーズに、業界はどのように対応するのか。

司会=中上英俊/住環境計画研究所会長

【出席者】

佐々木正信/東京電力エナジーパートナー販売本部副部長

甲斐田武延/電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門主任研究員

中上 日本は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて動き出しています。カーボンニュートラル(CN)宣言とも重なり、その動きは加速するでしょう。ただクリーンになったけど、エネルギーコストが2倍になったら話になりません。そのためには、徹底した省エネが必要です。省エネを50%達成すれば、再エネの普及率は倍になる。そういう対の関係なので、どちらかを優先するのではなく、両方とも進める必要があります。とはいえ、需給両面での取り組みを進めなくてはならないさなか、図らずもウクライナ問題でいろいろな課題が噴出しました。厳しい環境の中で佐々木さんは、省エネをどのように受け止めていますか。

佐々木 われわれエネルギー産業は、過去のオイルショックを契機に、エネルギーセキュリティーをどう確保しておくかを学び、省エネを進めてきました。しかしウクライナのような問題は本当に想定外でした。化石燃料価格の高騰で世界全体の経済が疲弊している状況の中、単に省エネや再エネを進めます、ではなく産業を活性化させながら長期的なCNにつなげる政策が求められています。

 例えば、米国のインフレ抑制法。産業政策的な色合いも強いわけですが、電気自動車(EV)の補助などで、国内にEV産業や電池産業の雇用も作ろうとしています。国民経済が成立しないとCNの達成は難しいわけです。国内でもグリーントランスフォーメーションのように予算措置を伴う政策が打ち出されていますが、短期的・長期的な視点からいろいろな政策が求められています。

中上 産業政策ということですが、日本のデマンド・サイド技術は世界に誇れるものです。特にヒートポンプですね。甲斐田さん、ヒートポンプを研究していて、何か感じていることはありますか。

甲斐田 最近、海外で「ヒートポンプ・フォー・ピーシーズ(平和のためのヒートポンプ)」という言葉を見かけます。ヒートポンプがエネルギー安全保障に貢献するという考え方です。例えば、アメリカでは国防生産法の中で、ヒートポンプを対象にしましたし、ヨーロッパでも安全保障の観点から、ヒートポンプに重きを置き始めています。エネルギーの安全保障と長期的な脱炭素にも貢献するという意味合いです。

 こうした考え方が生まれた背景をいろいろ考えてみたのですが、「単なる省エネに対する取り組み」では、そういう発想にはなりません。例えば、ヒートポンプのCOPが5だとします。1の消費電力に対して、5の熱を生み出すわけで、これは単なる省エネです。だけど、ヨーロッパでは、ヒートポンプの特長である「周囲の大気熱を回収している」という観点から、残りの4を再エネとして定義するようになりました。これは自分たちのエネルギー自給率を高めることにつながっており、そういった考え方が背景としてあるのかなと思ったりします。

 それと、安全保障。今の時勢ですと、ガスに依存しないベストミックスという観点です。電動式であれば、いろいろなエネルギー源からも電気を作れますから。

データ活用とセンサー 省エネと行動変容

中上 ヒートポンプ熱源を再エネとして定義するかどうかは国際的に議論があり、詰めるべき議題がありますが、いずれにせよそういった概念を入れなくてもヒートポンプは圧倒的に優れた設備です。

 エネルギーマネジメントについて話題を少し移したいと思います。海外の会議で「家庭用EMSは有効に活用できる」と議論するのですが、その割には進捗していません。要は、末端の家電製品までを全部つなげ、コントロールしないといけないわけです。そこの規格をどうするかが課題なわけです。規格争いが障害となって技術開発が停滞することだけは避けなくてはいけません。

 家電を含めた電気設備の待機時消費電力の議論でも似たようなことがあり、昔、海外の学者と「情報機器が進むとその待機時消費電力はどうなるか。その消費量は膨大になる」と議論しました。要するにセンサーです。センサーを使うほど待機時消費電力量は増えるわけです。ただ、設備メーカー側は「センサーはわれわれの技術やテリトリーではないし、技術開発するようなものではない」というスタンスです。だけど、センサー搭載型商品はあっという間に国際商品になっていきます。だから、日本政府なりが国際基準作りを主導していかないといけないはずです。気が付いたら、デファクトスタンダードを欧州勢がさらってしまうことを危惧しています。

甲斐田 日本は苦手な分野ですよね。スタンダード作りには時間もかかりますし、国際基準となると国の票をたくさん保有している欧州に強みがありますね。

佐々木 それに関連して、センサーを使ったデータ収集の話題を少し話します。以前、家庭用EMSのデータの解析について取り組んだことがあります。ただ、データ解析は、あくまでもその居住者の行動とセットで考えないと意味がありません。例えば照明時間のデータを収集しました。でも、果たして起きていて家の中で活動しているのか、本当は照明をつけっ放しで寝てしまっているのか。そうしたデータを第三者が見たときに、本当にそれを解析して、それがソリューションにつながるか、というのは意外と難しい。

中上 私が学生時代、そうしたビッグデータを収集するシステムなんてなかったものですから、温度計測で判断していました。いつ調理をしたか、入浴したか、宅内の行動が、宅内温度によって分かるんですよ。

甲斐田 産業用について言うと、温度は低コストで計測できます。だけど、流量の計測が一番大変です。先ほどセンサーの話題がありましたけど、測るのはセンサーです。でも値段単価が高い。温水の流量を測るにしても、何個も取り付けるのは大変です。その意味で、センサーの低コスト化が必要ですし、センサーの精度をどこまで高める必要があるのか、逆にどの程度にとどめるのか、その辺の判断も重要です。

佐々木 それと、仮に分析できたとして、その分析結果をユーザーにフィードバックしたとします。でも、消費者からは「家の中で電気をどう使おうと、人の勝手だ」となることもあります。法人所有の建物と違い、家庭の分析とソリューションは本当に難しい。

中上 以前、環境省の調査で、全国の家庭用CO2排出の診断調査をしました。診断結果を住民の方々に提出したところ、クレームが来ました。そこで、診断結果の見せ方を工夫して、エネルギー消費量の多い順に並べた結果を提出した。そうしたら「なぜ、わが家の消費量は多いのか。どうすれば省エネできるか」と逆に質問されました。「他人の家との比較」によって行動が変わるケースです。いわゆるナッジです。例えば、リモコン表示。増エネ中に「泣き顔マーク」を表示したら、どうなるか。そのマークを見た家の子どもが悲しむわけです。それによって「子どもを悲しませてはいけないな。わが家も省エネしよう」となるわけです。意外なところに、人々の行動変容のヒントがあります。

 さて、大口需要を話題にしたいと思います。東日本大震災後、省エネ達成のシナリオを作ろうとしました。エネ庁と「飲食店の省エネ対策」を議論した時、どうも議論がかみ合わない。すし屋、ラーメン屋、ファミレス……飲食店でもエネルギーの使い方は多様です。「平均値」で対策しようとしてもナンセンスなのです。それこそ、産業用となるとエネルギー、とりわけ熱の使い方は本当に多様です。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年9月号)


【関西電力ほか/系統安定化に大型蓄電所を運用へ】

関西電力は、オリックスと和歌山県紀の川市で蓄電所事業を実施することで合意した。8月から大型蓄電池(定格出力48MW、定格容量113MW)の設置工事を始め、2024年4月の運転開始を目指す。関西電力が大型蓄電池を導入するのは初めてのことだ。この事業は「再生可能エネルギー導入加速に向けた系統用蓄電池等導入支援事業」に採択されたもの。運開後は需給調整市場、日本卸電力取引所、容量市場などの取引を通じて運用していく。再エネ普及が進むことで、出力変動への対応が急務となっている。電力系統網に大型蓄電池を接続して、需給変動への調整力の供出や再エネの余剰電力の吸収などを通じて、電力需給の安定化を図る。

【東京電力ほか/電気バスの運行を最適化するEMSの実証開始】

東京電力はみちのりホールディングスと共同で、電気バス向けエネルギーマネジメントシステム(バスEMS)を開発する。NEDOが2022年度から実施する「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティ社会の構築」プロジェクトに採択された実証事業だ。みちのりHDがバスの運行管理最適化のノウハウ提供とシステムを、東京電力がエネルギー需給マネジメントシステムを担う。関東自動車、福島交通、茨城交通が導入予定の電気バス218台でバスEMSの技術検証を行うとともに、電気バス導入の経済性と実用化に向けた課題を洗い出す。参加する各社が培ってきた強みを生かし、電気バスの普及と地域エネルギーマネジメントの取り組みを推進していく方針だ。

【東芝エネルギーシステムズ/安全性が高く環境リスクがない混合ガスのGIS受注】

東芝エネルギーシステムズは、東京電力パワーグリッドから自然由来ガスを用いたガス絶縁開閉装置(GIS)を受注した。府中変電所のリプレース案件で、72kVのGISを202

2年12月末までに据え付ける予定だ。この製品は絶縁媒体として安全性が高く、漏えい時に地球温暖化への影響がない窒素と酸素の混合ガス(ドライエア)を使用。同社は環境リスクがなく、取り扱いが簡便な自然由来ガスを用いた電力機器を「AEROXIA(TM)」のブランドで国内外に展開している。GIS全体の製品開発と、環境負荷低減対策として自然由来ガスを用いた機器の研究開発のノウハウを生かし、環境調和性の高い製品展開を積極的に行うことで、カーボンニュートラルの実現に貢献していく。

【ヒートポンプ・蓄熱センター/先進システム導入の施設公開】

ヒートポンプ・蓄熱センターは7月にセミナー・施設見学会を行った。今回公開されたのは、高砂熱学イノベーションセンター。ヒートポンプ・蓄熱システムの採用により大幅な省エネを実現している。セミナーでは、同システムの最新動向をはじめ、イノベーションセンターへの導入事例や効果などが紹介された。センターは、こうしたセミナーや施設見学会などさまざまな活動を通じて、省エネ性や環境性、経済性などに優れたシステムの普及を促進していく方針だ。

【三菱重工エンジニアリング/商用初の小型CO2回収装置が稼働】

三菱重工エンジニアリングはこのほど、太平電業から受注した小型CO2回収装置の商用初号機を納入し、運用を始めた。設置場所は、広島市の複合機能都市「ひろしま西風新都」にある出力7000kW級のバイオマス発電所。排ガスから回収されたCO2は、構内の農業ハウスで利活用される。この装置の回収能力は1日当たり0.3t、設置面積は全長5m×全幅2mだ。完全自己消費型のカーボンネガティブ発電所の設置で、脱炭素化社会の推進を目指す。

【川崎汽船/新型EV曳船を建造 発電機搭載で環境対策】

川崎汽船のグループ会社であるシーゲートコーポレーションは、ハイブリッドEV曳船を建造する。陸上の充電器で大容量リチウム電池に充電し、モーター駆動する方式に加え、バッテリーの残量不足を補う発電機を搭載する。発電機用燃料は、次世代燃料に置き換えていき、将来はゼロ・エミッション船を目指す。2025年に徳山下松港へ配備する予定だ。

【BECCジャパン/気候変動対策を議論 省エネの研究を発表】

第9回気候変動・省エネルギー行動会議(BECC JAPAN2022)が7月に開催された。気候変動対策や省エネのための行動変容に着目し、国内の調査研究などの最新事情を共有するもの。「スマートタウン居住者のエネルギー消費に関する実態調査」(東京工業大学)、「ビックデータを用いた空調機利用実態の解明」(東京都市大学大学院)などの発表があった。

【特集2】目指すは緑のLPガス 環境企業に出資しCN支える


【アストモスエネルギー】

欧米発のDME式LPガスに注目しているアストモス。脱炭素技術企業に出資し地域の産業活性化を目指す。

LPガス業界のCN化に向け、オイルメジャーの英シェルと連携しながら、クレジットによるCNLPガスの調達に先鞭を付けてきたアストモスエネルギー。昨年9月には新しく「グリーン戦略室」を立ち上げて、クレジットによるCN化にとどまらず、多様なアプローチでLPガスの環境対策への取り組みに本腰を入れている。

欧州ではDMEブレンド 年間数十万tで流通始まる

「今夏、バルセロナで開催された欧州LPガス協会が主催するカンファレンスに出席しました。開催期間中、『ジメチルエーテル(DME)』という言葉を多く耳にしました。DMEをLPガスにブレンドすることでCN化を図ろうとする動きがあるようです」。アストモスエネルギーのグリーン戦略室の浜口達弥室長は話す。

DMEは、水素と一酸化炭素を合成して製造する。水素と一酸化炭素の製造方法には、天然ガスのような化石資源から取り出す方式と、廃棄物や家畜ふん尿などを用いたバイオマス由来の方式がある。

DMEはLPガスの特性に類似していることから、ブレンド比率を限定すれば既存のLPガスサプライチェーンのインフラをそのまま流用できる点に大きなメリットがある。欧州では、とりわけバイオマス由来の方式を「rDME(リニューアブルDME)」と呼び、最大で2割をLPガスに混ぜることで、普及促進を図ろうとしているとのことだ。

「欧米では、バイオディーゼルの製造過程で4~5%副生物として生成されるLPガスをバイオLPガスと呼び、流通が始まっています。ただ、生産量はわずか年間数十万tにとどまっているため、rDMEのブレンドによって低炭素化の過渡期をつなごうとする考え方は理解できます」

【特集2】簡易ガスが秘める潜在力を探る 目指すはLPガス発のスマエネ


【ニチガス】

簡易ガス事業はスマエネへ進化する可能性を秘めている。最大事業者ニチガスがそんな「次世代型」に挑む。

東日本大震災以降、エネルギー供給システムの変革を迫られる中、需要と供給を一体的に管理する「スマートエネルギーシステム」の事例が各地で生まれてきた。エネルギーの需要に応じて、従来は事業者が一方通行的にエネルギーを供給するやり方ではなく、ある時は需要を抑えながら供給し、別のタイミングでは需要を喚起していく。

個別の需要側を制御しながらエネルギーをスマートに供給する事例を、とりわけ大手都市ガス事業者が中心となり手掛けてきた。一つひとつの需要を大きく束ねることになるため、おのずと大規模な案件となり、一つの「スマートコミュニティー」となる。

LPガス事業者のニチガスも、この大規模なコミュニティーに着目して、自らスマエネの構築に乗り出そうとしている。

巨大な簡易ガス事業者 スマートとレジリエンシー

ニチガスは日本最大のコミュニティーガス(簡易ガス)事業者である。都市ガス導管の未整備エリアで、70戸以上の団地や戸建て分譲が集約された地点にガス発生設備・ガス管を整備して、一括でガス供給するのが簡易ガスだ。

ニチガスは約350地点の簡易ガスを手掛ける。メーターの取付件数は約7万件で、100戸程度から数千戸規模まで、さまざまな地点を抱える巨大な簡易ガス事業者である。

そんな簡易ガス地点を「スマコミ」へと駒を進めるためには、住民との信頼関係の構築が不可欠である。

「当社では簡易ガス地点を重要区域として、電気とガスの割安なセットメニューの販売を強化しています。お客さまにメリットを享受していただきながら、当社への信頼をより深めていただきたいと考えています」(吉田恵一・代表取締役専務執行役員)

スマエネの実現に向けて、スマート制御システムの構築も準備中である。家電を制御する通信規格「エコーネットライト」搭載の機器群を束ねていく必要があるが、ベンチャー企業と連携しながら、機器を容易に操作できる簡易リモコンの準備を進めている。

さらにニチガスは、関東の数百戸規模の簡易ガス地点を拠点として「配電事業ライセンス」の取得を目指すべく、一般送配電事業者と協議を進めている。

このライセンスを取得する事業者は、仮に有事の際に大規模系統から切り離され、オフグリッドになったとしても、地点への安定供給を維持しなくてはならない。

ニチガスは、安定供給を担保するために、LPガスによる発電設備や蓄電池、さらには太陽光発電など多様な設備群を運用しながら責務を果たそうと考えている。再エネや蓄電池を組み合わせれば、低炭素化にも資するレジリエンス性の高まった地点となり得る。

簡易ガス事業に対して、スマエネや配電ライセンスという新しい役割を担うべく、ニチガスが新たな挑戦に取り組んでいる。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年6月号)


【神戸熱供給ほか/関西初となる地域冷暖房の脱炭素化】

関西電力や大阪ガスなどが出資する神戸熱供給は、HAT神戸(兵庫県)で手掛けている熱供給事業で、供給する熱エネルギーを脱炭素化した。対象となるのは10施設で、関西エリアの地域冷暖房で脱炭素化したのは初めてのことだ。今回、供給する熱エネルギーを作り出す電力とガスの全量についてCO2フリーのエネルギーを活用する。関西電力が提供する「再エネECOプラン」によって実質CO2フリーの電気を利用するほか、大阪ガスが提供するカーボンニュートラル都市ガスを活用する。これらの取り組みによって年間2000tのCO2を削減する。神戸熱供給は、「兵庫県や神戸市が推進する脱炭素社会の実現に貢献できる」としている。

【北海道電力ネットワーク/住友電工/系統側蓄電池設備の運用開始】

北海道電力ネットワークは、住友電工のレドックスフロー電池設備(設備容量5万1000kW時)を系統側蓄電池として導入し4月から運用を開始した。北電ネットワークは設置した系統側蓄電池に係る費用を共同負担することを前提とした風力発電の募集を「系統側蓄電池による風力発電募集プロセス(Ⅰ期)」として実施している。この募集によって、すでに優先系統連系事業者15件、16万2000kWが決定しており、これらの連系のために必要となる系統側蓄電池として同設備を利用する。北海道電力と住友電工は2015年から北電の南早来変電所で同蓄電池の大規模実証試験を行い、系統安定化を目的とした運用において安定・安全に運転できることを確認している。

【リニューアブル・ジャパン/太陽光発電所管理実績が100万kWを突破】

リニューアブル・ジャパンは、発電所のO&M(オペレーション・メンテナンス)実績が1GW(100万kW)を突破した。再生可能エネルギー発電所の開発、発電、運営管理を手掛け、2月末時点で全国28カ所に拠点を設けている。自社開発のみならず、外部受託案件にも対応。除草や除雪、年次点検など徹底した業務内製化を図り、システムを共有して素早いトラブル解決と低コスト高品質のサービスを可能としている。また、4月には大垣共立銀行から融資を受け、長野県松本市の太陽光発電所購入を進めると発表するなど、今後も事業を拡大。一方で第二種・第三種電気主任技術者の育成など、次世代社員教育にも力を入れる「RJアカデミー」も開始し、業界をリードしていく方針だ。

【静岡ガス/JAPEXほか/愛知県でバイオマス発電所を建設】

静岡ガスはこのほど、石油資源開発、東京エネシス、川崎近海汽船、第一実業、岩谷産業、Solariant Capitalの6社と連携し、愛知県田原市の工業団地にバイオマス発電所を設けると発表した。木質ペレットを燃料とし、出力は5万kWを見込む。2022年10月に着工し、25年4月に運転開始予定。中部電力パワーグリッドに約20年売電する。この事業は静岡ガスが運営する。出資7社は、再生可能エネルギー由来電力の普及拡大と地域経済の発展へ貢献していく構えだ。

【大阪ガスほか/世界最高水準の高効率コージェネを共同開発】

大阪ガスと三菱重工エンジン&ターボチャージャは発電出力850kW級の高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムを共同開発した。停電発生時にはガスを燃料として発電し、必要な設備に電力を供給する事業継続計画対応機能や、設置スペースはそのままに、燃焼の最適化や高効率部品の採用などにより、出力アップと効率アップを両立した。従来機種を大幅に改良したことで、850kWの発電出力としては世界最高クラスの発電効率41.9%を達成した。

【JFEエンジニアリングほか/ゴミからメタノール製造 国内初の取り組み】

JFEエンジニアリングと三菱ガス化学は、都内の清掃工場「クリーンプラザふじみ」の排ガスから回収したCO2を原料に、メタノールへ転換に成功した。国内初のこと。CO2の回収率は90%以上、CO2純度は99.5%以上であることをJFEが確認。その回収CO2を三菱ガス化学がメタノールに転換した。両社のCO2利用技術に期待が高まっている。

【平田バルブ工業/JIS Q 9100の認証取得 航空宇宙分野へ事業拡大】

平田バルブ工業は「航空・宇宙および防衛分野の品質マネジメントシステム(JIS Q 9100:2016)」の認証を取得した。この認証は、ISO9001に航空宇宙業界特有の要求事項を追加したもの。日本で制定された世界標準の品質マネジメント規格だ。同社は認証取得により、航空宇宙分野への事業拡大に向け、取り組みを加速させるとしている。

【特集2】オフグリッドで再エネ100% 防災拠点として機能を強化


【九電工】

全量再エネ利用のエネルギーシステムの運用が始まった。佐賀県小城市では庁舎内の電気を全て太陽光が賄っている。

佐賀県小城市の市庁舎で、今年の冬からユニークな分散型システムの運用が始まった。九電工が手掛ける「再エネ100%利用」のシステムだ。既設庁舎に、太陽光パネル(552kW)と鉛蓄電池(3

456kW時)を設置。最大需要となる300kW程度に対して、実質100%の再エネで、エネルギーの自給自足を行う仕組みだ。電力会社からは基本的にオフグリッドで運用している。このシステムの核が「九電工EMS」だ。

建屋向けのエネルギーマネジメントシステムとなるとBEMSが想起されやすいが、九電工の独自技術で編み出したこのシステムは、それとは異なる。その仕組みについて、昨年7月に発足した新組織、グリーンエネルギー事業部の松村敏明担当部長はこう話す。

「一言で説明すると発電側のマネジメントシステムです。再エネ電力を、最も高い効率で負荷側に送電します。再エネの出力は変動するので使い勝手が悪いのですが、このシステムは、変動分を取り除いて安定した出力分のみを負荷に送ります。同時に変動分を蓄電池に充電することで、再エネ電気を一滴も無駄にしない自動制御システムです」

そんな技術開発に九電工が取り掛かったのは、同社と友好関係にあるインドネシアとの縁だ。「化石資源大国でしたが、現在では資源輸入国です。数多くの離島が存在し、多くは内燃力で発電しています。何とか再エネで課題解決したい」。そんなニーズに応えようとしたことから始まり、現在、同国で事業化に向け取り組んでいる。一方、小城市側は2018年の北海道大停電を契機に、エネルギー強靭化や再エネ利用の拡大を志向していた。そんなニーズとシーズが重なり、今回の運用に至った。

課題は余剰電力の活用 近隣施設にも供給開始

課題だった冬場の需要を順調に乗り切り、目下の課題は春や秋の空調需要の落ち込みで生じる余剰電力の活用先だ。その取り組みについて同じ部署の四宮健吾課長はこう話す。

「市役所近隣の別の公共施設である福祉施設への供給も開始しました。施設内の負荷分を増やすなど工夫しながら、再エネ発電の有効活用につなげたいです」

九電工EMSを導入した小城市庁舎

また、一連の取り組みは防災拠点としての機能も果たす。現在、市は庁舎と福祉施設を防災拠点として位置付け、有事には再エネ電気でレジリエンス性を高めようとしている。再エネ拡大と防災機能の強化―。二つの側面から九電工EMSが役割を果たす。

【特集2】再エネとコージェネを最適制御 多様な設備群を扱う強み生かす


【東京ガスエンジニアリングリューションズ】

東京ガスエンジニアリングリューションズは再エネの運用を本格化している。ガスコージェネを加えた多様なリソースによって最適なソリューションを提供する。

かつて分散型といえば、ガスコージェネレーションシステム(コージェネ)が代名詞であり、そのコージェネを核に地域冷暖房事業や分散型のエネルギーサービス、エネルギーソリューションを提供してきたのが、東京ガスグループの東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)だ。

TGESが20年以上の事業経験によって扱ってきた分散型や熱源設備群はコージェネや吸収式、ガスエンジンヒートポンプ(GHP)といったガス設備だけにとどまらない。電動型ターボ冷凍機といったヒートポンプ設備や、環境性に優れた木質チップボイラー、太陽熱、あるいは昨今では蓄熱槽を運用するなど、設備群の幅を広げてきた。そうしたビジネスモデルがいま、大きな変貌を遂げようとしている。キーワードは「もう一つの分散型」だ。

「太陽光発電設備の第三者保有モデルとなる『ソーラーアドバンス』というサービスを昨年から本格的に開始しました。設備を当社が負担することで、お客さまはイニシャルレスで太陽光発電設備を導入できます。これまで多様な設備を扱ってきたノウハウを活用しながら、太陽光パネルの設計や施工、そして運用を手掛けていきます」。企画本部経営企画部の北岸延之事業開発グループマネージャーはこう話す。

「もう一つの分散型」とは、つまり再エネによる発電設備を取り入れるビジネスモデルのこと。ユーザーは、投資負担がゼロで長期にわたり設備運用を手掛けるTGESからエネルギーサービスを受ける。裏を返せば、ユーザーはTGESに任せることで、長期にわたって「再エネ利用」をうたうことができるわけだ。

そんなビジネスモデルが既に始まっている。ユーザーは自動車メーカーの本田技研工業だ。国内事業所としては最大規模で、二輪車などを生産する熊本製作所(熊本県)の工場の敷地内に3800kWの太陽光パネルを敷き詰め、昨年10月からサービスが始まった。発電量は全て工場内自家消費だ。

こうしたモデルを巡っては、多様なビジネスプレーヤーが参入しているが、TGESによる運用の特徴は、「ヘリオネット21」と呼ばれる、同社が独自に開発し培ってきた「遠隔監視システム」を活用することにある。ヘリオネット21は、24時間365日遠隔監視を行う「ヘリオネットセンター」が運営し、故障予知や予防保全による対応の効率向上を図ってきた。今回の太陽光設備も遠隔監視することで、運用データに基づいた最適なメンテナンスを実施し、太陽光発電のパフォーマンスを最大限に発揮できる。

こうして、ユーザーはエネルギー設備運用のプロであるTGESに任せることで、「設備の運転不備」や、社会問題化しているような「太陽光パネル施工不良」といった課題からは解放され、安心して、そして安全に再エネを利用できるようになる。

再エネという新たな分散型アイテムを加えたTGESでは、「再エネ自家消費」にとどめず、再エネの余剰電気を活用する、もう一歩踏み込んだサービスモデルも構築している。

再エネを自己託送に 運用は全て自動制御

今年2月から、不動産デベロッパー大手である東京建物に対して始めたスキームだ。東京建物が管理する物流倉庫の広大な屋根に太陽光発電設備(3地点、計2100kW)を敷き詰め、倉庫内の照明や空調などの需要を中心とした自家消費を原則としながらも、太陽光の余剰電力を有効に活用する「自己託送」モデルである。

自己託送とは、特定の自社発電設備と特定の自社設備の需要を、電力会社の送配電ネットワークを介して結び付けた電力需給の仕組みである。このスキームでポイントになるのが、計画値同時同量の原則だ。太陽光発電設備の発電量と、需要側の需要量を30分ごとに予測し、かつ需要量と供給量を一致させて電気を送る。その計画値は、送配電ネットワークの運営を管理する電力広域的運営推進機関に30分ごとに提出する必要がある。計画値のズレは停電を誘発する恐れがあるため、送配電ネットワークという公共インフラを利用する限り厳守しなくてはいけないルールである。ズレが発生した場合、送配電ネットワークの利用者はインバランス料金(罰金)を支払うルールになっている。

こうした一連の面倒な設備運用や計画値の提出といった手続きを全て自動で行うのが、ヘリオネット21を進化させた「ヘリオネットアドバンス」である。

「エネルギー設備を遠隔から監視するだけでなく、直接制御できるようにしたことから可能になった新技術です。当社が手掛けてきたいくつかの地域冷暖房拠点で、コージェネの余剰電気を使った自己託送を行ってきました。そうしたノウハウをもとに、再エネによる自己託送にまで領域を広げました」(前出の北岸さん)

再エネを使った自己託送モデル

コージェネの新たな役割 回転体としての同期機能供出

再エネという新しい分散型の運用が本格化するのに伴い、従来の分散型、つまりガスコージェネにも、これまでの概念とは異なる新しい運用の可能性があるのではないかと北岸さんは考えている。

「昨今、再エネが大量導入された結果、電力系統全体で慣性力が失われつつあります。つまり系統の安定化を保つことが難しくなり、停電リスクが高まっています。これまで慣性力を供出し、系統の同期機能を果たしていたのは大型火力を中心とした回転体の発電機でしたが、今後、大型火力の新設やリプレースが難しくなれば、停電リスクはますます高まります。そこで、発電規模は小さいですが、回転体発電機であるコージェネが系統の安定化に寄与するような運用も考えていく必要があるのではないかと思っています」

電気工学への造詣が深く、電力インフラという公共財の安定利用に思いをはせる北岸さんなりの視点である。これまでコージェネ導入の目的はピークカットやレジリエンスの視点が中心だったが、今後は「再エネ共存」という新しい視点と、それに合わせた電力制度の見直しが求められてこよう。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年5月号)


【東北電力ほか/電気とガスのセット販売でポイントサービス】

東北電力と山形ガスは、電気・ガスのセット販売に関する業務提携契約を締結し、4月から「山形ガス 東北電力 ガスでんきセットプラン」として販売している。このセットプランは、東北電力が提供する電気料金プラン「よりそうプラスeねっとバリュー」または「よりそうプラスファミリーバリュー」と、山形ガスが提供する都市・LPガス料金プランをセットで契約した上で、山形ガスのポイントサービス「たんめるクラブ」に登録することが加入条件となる。契約時の条件と月々の請求に応じたポイントが付与され、貯まったポイントはガス料金への充当や他社ポイントなどへの交換が可能。両社は今後、電気・ガスのセット販売により、地域の豊かな暮らしをサポートしていく方針だ。

【中部電力ミライズほか/合弁会社を設立し電気とLPガスを販売】

中部電力ミライズ、Gas Oneグループのサイサンといちたかガスワンは、8月に合弁会社エネワンでんきを設立し、全国での小売り電気事業と中部3県(愛知・岐阜・三重)でのLPガス事業に取り組む。具体的には、サイサンといちたかガスワンのLPガス事業の基盤を軸に、関東・北海道エリアを中心に全国において電力を販売。また、中電ミライズの小売り電気事業の顧客を中心に、中部3県でLPガスを販売する。Gas Oneグループと中電ミライズグループの経営資源を融合し、両グループの強みを生かすことで、エネルギーの安定・安価な提供の実現を目指す。エネワンでんきは、将来的に暮らしを豊かにする新たなサービスの全国展開も視野に入れている。

【NTTグループ/環境価値の提供に対応したグリーン電力が選択可能に】

NTTコミュニケーションズとNTTアノードエナジーは4月1日から、再生可能エネルギーを選択できる電力メニューの提供を開始した。このメニューでは、選択した再エネに関する環境価値も併せて提供。これにより、契約者はRE100をはじめとする国際的な環境イニシアチブや温対法に関わる報告、および脱炭素化に向けたESG経営の促進が可能となる。NTTグループは「NTT Green Innovation toward 2040」という環境エネルギービジョンを掲げ、データセンターにおいて高効率な省エネ型設備を導入するなど、グループ全体での脱炭素化に取り組んできた。今回、顧客の要望に合わせた再エネの提供を通じて、再エネ利用のさらなる拡大を目指す。

【住友電気工業ほか/自家消費型太陽光発電システムを発売】

住友電気工業とハンファQセルズジャパンは、固定価格買い取り制度に依存しない自家消費型の住宅用太陽光発電システムを開発した。Qセルズの太陽電池モジュールと住友電工の大容量で長寿命のハイブリッド蓄電システム「POWER DEPO®H」を一体化。普及拡大に取り組む。POWER DEPO®Hは、蓄電容量12.8kW時、連系出力最大6kW、対応負荷容量75Aの機能を搭載。停電時の自立出力最大6kVAの充放電能力を持ち、200V機器も使用できる。

【エア・ウォーターほか/国内初の家畜ふん尿由来の水素事業を展開】

エア・ウォーター北海道と鹿島建設は、「しかおい水素ファーム」を共同で設立し、国内で初めて家畜ふん尿由来のバイオガスによる水素の製造・販売などを行う。家畜のふん尿処理施設である北海道鹿追町の環境保全センターから、メタン発酵で生成されたバイオガスの供給を受け、水素を製造。燃料電池自動車などへの充てんの他、近隣施設の燃料電池への供給や、産業用として工場などへの供給を予定している。販売エリアは道内を想定し、再エネの地産地消を推進する。

【エナリス/再エネ発電事業者を支援 需給管理の代行サービス】

エナリスは、再エネ発電事業者の業務を支援する「再生可能エネルギーアグリゲーションサービス」の提供を開始した。非FIT/FIP再エネ発電事業者に求められる需給管理業務を代行する。発電予測や予測値をもとにした発電計画の作成、計画値との誤差を解消するための発電事業者バランシンググループの組成、蓄電池を使った計画値との誤差補正などを行う。

【三菱造船ほか/LNGを船舶に供給 バンカリング船を契約】

KEYS Bunkering West Japanは、LNG燃料を船舶に供給する自社船舶の造船契約を三菱造船と締結した。2024年3月に完成予定で、西日本で稼働する初のLNGバンカリング船となる。KEYSは九州電力、日本郵船、伊藤忠エネクス、西部ガスによる合弁会社。九州と瀬戸内地域での船舶向けLNG燃料供給事業を、24年春ごろにも始める計画だ。

【特集2】官公庁や自治体など広く対象に 高い技術力で制御システムを守る


【東北電力グループ・トインクス】

トインクス(TOiNX)は、東北電力グループの一員として、情報システムおよび情報ネットワークに関するサイバーセキュリティーを担当する。トインクスが現在力を入れているのは、「制御システム」のセキュリティーだ。

個人情報などを取り扱う情報システムと異なり、発電所や工場など重要インフラで使用する制御システムはこれまで「インターネットから独立しており攻撃は受けない」と言われてきた。しかし2010年イラン核燃料施設攻撃を皮切りに、制御システムを狙った攻撃が問題化。監査の必要性が高まっている。

トインクスはその制御システムのセキュリティーに高い専門性を持つ。社内に制御システム対策の専門エンジニアを抱え、彼ら自身が顧客との営業も担う。セキュリティーの国際資格「グローバル・インダストリアル・サイバー・セキュリティー・プロフェッショナル(GICSP)」を持つ社員も在籍し「制御システムのセキュリティー分野では国内トップに食い込む技術を持っていると自負しています」と、営業本部営業企画部デジタルビジネス推進課・目黒有輝主任。東北電力グループ以外からも高い評価を得ており、他業種から監査依頼を受けることも多い。

トインクスではサイバー攻撃対策として、顧客に向けた「セキュリティー診断サービス」を提案している。企業の情報システム、制御システムの脆弱性を調べ、対策をアドバイスするサービスで、電力グループ以外に官公庁・自治体、企業も対象だ。診断では顧客の持つ課題に合わせ、社内の専門家がシステムへの疑似攻撃を行う「ペネトレーションテスト」や、ヒアリング、現地調査で診断する「リスクアセスメント」などの手法が使われる。

独自開発ツールで脆弱性発見 隠れたリスクを洗い出す

ペネトレーションテストは、システムの知識を善用するホワイトハッカーが企業のシステム情報を知らない状態で攻撃する実戦仕様が特徴だ。サイバー攻撃を念頭に独自開発したテストツールで、市販のツールでは通常見つからない脆弱性も発見できる。リスクアセスメントでは、文書調査と現地調査の両方を行うため、ルールで規定されても運用上で不備のある項目や、暗黙のルールで運用されているリスクを洗い出すことができる。設置機器やケーブルの保護、部屋の管理など物理的なセキュリティー問題にも対応が可能だ。

「当社は情報システムセキュリティーがメインですが、これからは制御システムにも取り組み、他社にないスキルでより幅広いサービスを提供していきたいですね」(同課・齋藤貴久副主任)

インフラ施設へのサイバー攻撃が現実の問題となった昨今、トインクスの持つ技術は企業のサイバーセキュリティーに欠かせないものとなりつつある。

セキュリティ・キャンプ全国大会やIPA産業サイバーセキュリティセンターでの講師実績を持つ目黒さん(写真は大学の講義に登壇している様子)

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年4月号)


【関西電力/福岡でバイオマス専焼発電所の運転開始】

関西電力グループが運営するバイオマス発電所「かんだ発電所」(福岡県苅田町)が営業運転を開始した。関電グループが関西エリア外でバイオマス専焼の発電所を営業運転するのは初。発電出力は約7万5000kW、発電電力量は年間約5億kW時で、一般家庭の約16万世帯分の使用量に当たる。燃料は海外から輸入する木質ペレットや、パームやし殻を使う。関電は2017年に100%出資のバイオパワー苅田合同会社を設立し、19年から建設を進めてきた。関電グループは、「ゼロカーボンビジョン2050」で取り組みの柱に掲げる「サプライサイドのゼロカーボン化」に向けて再生可能エネルギー電源の普及・拡大に取り組んでいる。50年までに事業活動に伴うCO2排出ゼロを目指している。

【東京ガスほか/ごみ焼却場でCCU実証試験を開始】

東京ガスはこのほど、横浜市資源循環局鶴見工場の排ガス中に含まれるCO2を分離・回収し、資源として利活用する技術(CCU技術)の確立に向けた実証試験を、2023年1月から開始することで横浜市、三菱重工グループと合意した。具体的には、三菱重工グループの技術を通じてごみ焼却工場の排ガスから分離・回収されたCO2を、メタネーションの原料としてだけでなく、汎用性の高い産業ガスなどに資源化する技術の確立に向け、検討を行っていく。東京ガスは今年1月に横浜市との間でメタネーションに関する連携協定を締結。CO2のコンクリートや炭酸塩への資源化など、顧客先でのCCU技術の実証試験などを進め、商用化を目指していく。

【大阪ガス/EV活用のマルチユースサービス開発へ実証開始】

大阪ガスは、電気料金の削減、カーシェアリング、非常用電源(BCP)活用―の三つのマルチユースサービスの実現を目指し、同社が所有する実験集合住宅「NEXT21」で実証を開始した。マルチユースサービスの開発により、電気自動車(EV)をモビリティ用途だけでなく、蓄電池としても活用する。この実証では、EVを用いてエネルギーマネジメントを効率的に行いながら、NEXT21の入居者向けにカーシェアリングを行うことで、その実績データを取得し、ビジネスモデルの評価を行う。実証後は、官公庁や社用車を所有する業務用の顧客、集合住宅などへマルチユースサービスを導入し、CO2排出量削減・省エネに貢献する計画だ。

【ヤンマーエネルギーシステムほか/高い発電効率を実現したガスコージェネ】

ヤンマーエネルギーシステムは、東京ガス、東京ガスエンジニアリングソリューションズと共同開発した420kW常用ガスコージェネシステム「EP420G」を発売した。42.6%の高い発電効率に加え、近年、地震や台風による停電時のBCP対策が求められる中で、分散型エネルギーシステムとして、レジリエンス向上に貢献する。病院・オフィスビルといった業務用施設や中小規模の工場などへの導入を通じて、コージェネシステムのさらなる普及拡大が期待される。

【川崎汽船ほか/世界初の液化CO2輸送実証に着手】

川崎汽船は、世界初となるCCUS(CO2回収・利用・貯留)事業向け液化CO2輸送の実証に取り組む。エンジニアリング協会がNEDOの委託を受け、実証試験船は三菱造船が建造する。川崎汽船とエンジニアリング協会など4者は、2023年の本船完成に向け、安全で低コストな液化CO2の船舶輸送技術の確立と、CCUS技術の社会実装を目指す。川崎汽船は液化ガス輸送船の保有・運航実績などを生かし、輸送・荷役時の安全性評価と技術的なガイドライン策定を行う。

【沖縄電力/CO2フリーメニュー契約 工場電力5割を非化石】

オリオンビールは、電気のCO2排出量を実質ゼロとする「うちな~CO2フリーメニュー」の契約を沖縄電力と結んだ。再生可能エネルギー由来のCO2フリー電気を使用することで、沖縄県の持続的な環境保全への貢献を目指す。この契約締結により、工場で利用される電力エネルギーの50%が非化石燃料由来となり、2019年度比で36%削減される見通しだ。

【北陸電力/新築戸建ての購入者向け 太陽光発電サービス開始】

北陸電力は、太陽光パネル設置の初期費用を負担することなく、メンテナンス料を含む月額料金のみで、太陽光発電の電気を使用できるサービス「Easy ソーラー withハウスメーカー」を開始する。屋根形状やサイズ・パネル容量などの条件からプランを選択可能。利用者には、電気料金の節約や停電時でも日中は太陽光発電の電気を使用できるなどメリットがある。

東京ガス「Compass Action」の全容 需要家と連携深め脱炭素化に挑む


東京ガスが昨年11月に発表したCompass Action。脱炭素戦略を描く高い理想を掲げた野心的なロードマップだ。

2019年11月、東京ガスがグループ経営ビジョンとして発表した「Compass2030」。ガスを商材にする企業でありながら「CO2ネット・ゼロ」に向けた取り組みを明確に示したことで、エネルギー業界に大きなインパクトを与えた。

そして2年後の21年11月には、東ガスグループとして取り組むべき具体的な道筋を示した「Compass Action」を策定した。30年までをトランジションの加速期と位置付け1700万tのCO2削減目標を掲げる。そして、その先の50年までにカーボンニュートラル(CN)の実装に駒を進める。このアクションの要諦は次の三つだ。

一つ目はガス体のみならず再生可能エネルギーとの両輪で「CO2ネット・ゼロへの移行をリード」していくこと。ここでは、同社として複数のトランジション手段を扱うのがポイントだ。既存インフラとなるLNG基地やガス導管を徹底的に活用し、石炭や石油からの燃料転換を促す。加えて、メタネーションの実用化を通じカーボンニュートラルメタンの導入を拡大することでCO2を削減する。また、再エネの取扱量を30年までに600万kWまで増やしていく。さらに、ガス火力運用によって、再エネ調整電源としての機能を高めていく。再エネ拡大を支えるための一つの手段だ。燃料として、CO2を排出しない水素やアンモニアなどを活用することを検討しつつ、発生するCO2に対しては、CCUS(CO2回収・利用・貯留)の実用化を目指す。

二つ目が「価値共創のエコシステムの構築」だ。デジタルシフトとリアル補強の両輪で価値創出を加速する。このリアル補強とは、ガス業界の強みでもある対面の事業モデルのこと。検針、ガス機器・設備の保安点検など、家庭用から大口需要まで、多様なユーザーとの接点機会が多いガス事業者ならではのリアルな接点を活用する。そこに、デジタル技術を使って新しい価値を創出する。

三つ目が「LNGバリューチェーンの変革」だ。これに向け各事業主体の稼ぐ力・変動への耐性を向上していく。

場面ごとに多様な役回り ユーザーとの二人三脚

大きな理想を掲げながらも、『「理想形」=「現実解」』となる勝利の方程式に向かい、実際にユーザーとのフロントエンドに立つ営業人員はどのようなメンタリティで挑むのか。

「従来からの取り組みが、根本的に変わることはないと思っています。ただニーズは多様化し、その変化のスピードも増しています。そうした中で、お客さまと一緒に課題を解決してきた従来からの姿勢を、一層深掘りすることになると思います。あるときはエネルギー供給事業者やサービス事業者、別のときはアドバイザーでありコンサルタントというように、場面ごとに多様な役回りを果たすことになると思います」。都市エネルギー営業部公益営業部の星博善法人第二統括部長は話す。

そんな事例が早速始まろうとしている。東ガスは、六つの医学部附属病院を運営する学校法人順天堂と新たな取り組みを開始した。今年1月、CO2削減ロードマップを一緒に策定することを発表したのだ。ユーザーのロードマップ策定を、エネルギー事業者が支える、まさに二人三脚の事例だ。この第一歩として、順天堂医院では、CN都市ガスを採用することになった。東ガスにとって、医療機関向けのCN都市ガス供給は初めてだ。東ガス子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズのコージェネを使ったエネルギーサービスを通じて、これまで築き上げてきた両者の関係が、次のステージへと発展した一例である。

「コロナ対応に尽力し、″事業継続〟こそが最優先課題の医療業界ですが、病院という公益性の高い業種であるが故に自らCO2削減に取り組む姿勢を示した順天堂さまには感謝しています」(星部長)。もともと医療機関は熱需要が多く、コージェネとの相性は抜群だ。実際、順天堂医院でも十分な役割を果たしてきた。そんなコージェネも「今後の脱炭素に向け、運用の多様化のポテンシャルを多分に秘めています」(星部長)。

潜在力秘めるコージェネ デジタル技術で価値創造

一つはスマートエネルギーネットワークの視点である。コージェネを核にしながら周辺一帯の熱電をスマートに供給する取り組みだ。例えば、栃木県清原工業団地では、キヤノンや久光製薬、カルビーといった名だたる工場群のエネルギーをまとめて供給する事例が始まっている。そして、このケースでは驚くべきことに20%近くの省エネを実現している。個別に取り組んでいては達成が非常に困難な省エネ率だ。こうした東ガスの取り組みを筆頭に、スマエネ事例は全国に少しずつ広がっている。

もう一つは再エネ共存の視点だ。再エネが増えるほど、電力需給調整機能が大切になる。そんな出力変動する再エネの欠点を、コージェネの負荷調整機能によって支えていく運用だ。さらには電力市場を見極めた運用の可能性もある。仮に日本全体で電気が足りない局面に陥ったとき、コージェネの発電力が電力市場で貢献する。そんな役割の期待値も高まっている。

こうした新しいステージでの役割はデジタルによっても果たされようとしている。東ガスはこのほど、「Joyシリーズ」と呼ぶソフトウェアを事業譲受し、同社独自の中央監視サービス「0wl net」に組み込んだ。Joyシリーズは21年時点で3万8000件の顧客実績を誇る。これを使ったデジタルソリューション、0wl netとはどのようなものか。「お客さま側のエネルギー設備を統合監視する機能に加えて、当社が監視データを分析することで、継続的に省エネや省力化のソリューションを提案できます。また、電子帳票や遠隔監視カメラなど、ニーズに応じて多様な機能を提供します。例えば、導入していただいた自動車部品工場では40%の業務改善につながったとのありがたい声もいただきました」(産業エネルギー営業部北部産業エネルギー部の中尾寿孝グループマネージャー)

中尾さんによると、今後はエネルギー設備だけではなく工場の生産設備、各拠点のデータを本社一括遠隔監視するなど適用範囲を拡大することで、0wl netを企業全体の脱炭素や生産性向上の基盤となるサービスとして発展させたいとしている。デジタル技術を通じて新しい価値を創出する取り組みとして、ユーザーからの期待が高まりそうだ。

  *  *  *

こうした取り組みを通じてにじみ出てくるのは、社会コストを抑え安定供給を絶やさず、地に足の着いたCN社会へ移行しようという東ガスの決意である。次ページでは「これからの街づくり」にフォーカスした座談会をお届けする。CN都市ガスやコージェネがどのような役割を果たすべきか、有識者や業界関係者が議論する。

東ガス&丸熱 カーボンニュートラルな街づくり 理想形を現実解にする業界の挑戦


カーボンニュートラルに対して世の中の意識が日に日に高まっている。堅実なトランジションに向けて業界に何が求められ、どのように取り組むのか。

【左】柏木孝夫(かしわぎ・たかお)東京工業大学特命教授・名誉教授/1970年東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。
【中】川村俊雄(かわむら・としお)東京ガスエネルギーソリューション本部エネルギー企画部長/1994年東京大学工学部化学工学科卒、東京ガス入社。LNG基地、原料調達、気候変動対策等担当部署を経て、2021年4月から現職。
【右】岡本敏(おかもと・さとし)丸の内熱供給取締役常務執行役員/1986年三菱地所入社。ビル運営管理に25年以上従事。三菱地所プロパティマネジメント常務執行役員などを経て、2021年から現職。

柏木 業界にとってカーボンニュートラルの取り組みは不可欠ですが、まずはリアリティーのある取り組みが必要になります。その中で街づくりに関わる熱供給事業は即効性のある省エネに貢献します。まずは丸の内熱供給(以下、丸熱)さんの昨今の取り組みについてお話しください。

岡本 熱供給事業者として脱炭素に向けて、今後どのような取り組みをするべきか考えてきた中で、1年前に当社と三菱地所で「エネルギーまちづくりアクション2050」を策定しました。地域冷暖房ネットワークを核に「面的エネルギーによる強靭化」「脱炭素化に貢献する都市型マイクログリッド構想」を掲げ、環境価値と社会経済活動の最大化に向けて街づくりを支えていこうと考えたわけです。特に大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)には国際的に活躍する企業が多く、業務の継続力やエネルギーの脱炭素化に対して関心が高いエリアです。そうしたニーズにエネルギーマネジメントで応えたいと考えています。

 ここでのポイントは三つあります。一つ目は「供給マネジメント」です。当社でも一部で熱電一体供給を行っていますが、今後、大規模にそういった展開を広げていきます。二つ目は「需要マネジメント」です。新築や既存のビルそれぞれのエネルギー消費効率の向上です。三つ目が「つなぐ・事業マネジメント」です。大丸有エリアではスペース的に太陽光発電の設置が難しいため、地方と連携し、例えば地方のバイオマス発電とつなぎ、その再エネ電力を調達する。また、個別コージェネの排熱利用もあります。個別のビルでは排熱を活用し切れませんので、われわれの方で受け入れて、それをつないでネットワーク化する。こうした面的利用によって環境価値やBCP(事業継続計画)あるいはDCP(地域継続計画)に貢献していきたいと考えています。

スマエネ運用の高度化 省エネは脱炭素技術

柏木 東京ガスで昨秋に発表した「Compass Action」では、地に足の着いたリアリティーのある計画を打ち出しています。

川村 はい。当社グループが一体となって「CO2ネット・ゼロ」に向けて、ガス体と再エネの両輪で責任あるトランジションをリードしようと考えています。ポイントとしては、ネット・ゼロという高い理想を掲げつつも、エネルギーの安定供給を維持し、地に足の着いた現実感のあるカーボンニュートラル社会への移行を主導していきたいと考えています。

 具体的には一丁目一番地である天然ガスの高度利用として三つの取り組みを掲げています。一つ目は燃料転換です。全国的には産業用を中心に、石炭や重油の利用がまだまだ残っていますので、まずはガスへの燃料転換を進めていきます。二つ目が、スマートエネルギーネットワークです。田町、豊洲、あるいは工場群のエネルギーをまとめて運用する栃木県清原工業団地など、既に具現化した事例があります。こうした街づくりの観点からスマエネ運用の高度化が大切になります。三つ目が、CO2クレジットを使ったカーボンニュートラルLNG(CNL)による都市ガス(CN都市ガス)の供給です。この延長に、CCUS(CO2回収・利用・貯留)や合成メタン供給へとつなげたいと考えています。

 スマエネについて補足しますと、その要諦は、CN都市ガスを含む環境性と、防災性を両立することだと考えており、ポイントは五つあります。まずは「①コージェネを配置」し、それを「②面で使い」切る。さらに「③再エネや未利用熱エネルギー」を使う。未利用エネとしては地下のトンネル水などが該当します。加えて、「④DR(電力需要制御)を含めたICTによる需給連携制御」です。そして、これらのエネルギー供給のベースとなるのが「⑤ガス導管の強靭性」です。この中圧・高圧ガス導管は東日本大震災クラスの災害でも、その機能が担保されたことはご記憶の通りです。

 こういった五つの視点を組み合わせてスマエネをさらに進化させていくことが、地に足の着いたトランジションであるという意識の下で取り組んでいきます。

柏木 最近では大規模なビルで、電力会社がコージェネを導入するケースが生まれています。虎ノ門ヒルズもその一例です。コージェネを導入しないと建物としての価値が認められなくなっている時代です。またコージェネ自体の発電効率も高まってきており、導入すれば20%ほどは確実に省エネになります。同時にこれは省エネだけでなく、脱炭素テクノロジーというような言い方もできると思います。オフセットされたCN都市ガスによって、脱炭素社会への近道となるテクノロジーだということです。こうした取り組みは、従来の「物売り」から「ソリューション売り」の展開にもつながっていくと思います。

川村 おっしゃる通りです。ちょうど当社も、従来のエネルギーを中心に販売する会社から変わっていこうとしています。当社は4月からホールディングス型グループ体制へ移行しますが、その際法人営業部門は、地域冷暖房事業やエネルギーサービス事業を手掛ける100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と一体となってお客さまにソリューションを提供する体制になります。ガスや電気の供給、さらにはエネルギーサービスをソリューションとしてワンストップで提供していくわけです。

設備改修と運転制御改善  CN導入の第一歩

岡本 川村さんが先ほど、地に足の着いた取り組みとおっしゃいましたが、全く同感です。当社も、まずはプラントの高効率化・省エネに取り組んでいます。例えばターボ冷凍機の軸受けの改良、ポンプや冷却塔のインバーター化、あるいは高効率な小型貫流ボイラーへの更新などです。また、先般、新菱冷熱工業さんと一緒に、設備をAI制御する取り組みを発表しました。4%の消費電力削減を達成しました。このように大きな設備更新、あるいは設備の改良による効率化、運転の制御の高度化などを同時並行的に進めています。

 あと、既存のエネルギーインフラをいかに有効に活用するかも重要な視点です。その意味で、既存インフラを活用できるCN都市ガスの導入は意義のある取り組みだと考えています。需要家さんだけでなく、需要家さんのビルに入居しているテナントさんも非常に環境意識の高い企業さんが多く入居しているわけです。であるならば、同じ都市ガスでも環境に優しい都市ガスということで、昨年11月に当社は全量をCN都市ガスに切り替えました。

 現状、一連のコスト増加分は当社で負担しています。今後、需要家さんにどのようにご負担いただくか課題になるかと思いますが、まずはCN都市ガス・CN熱の存在をしっかりと周知しているところです。

川村 この件については、改めて丸熱さまに感謝申し上げます。個人的な話になりますが、1年前までは原料部に所属しており、まさにCNLの調達に携わっていた当事者でして、CNLには思い入れがあります。3年ほど前に、海外のLNGサプライヤーからこの商材の提案があったとき、当社の営業部門に相談に行きました。「果たしてお客さまに届けられるのか」。社内で議論を重ね、お客さまとも話し合いを進めていく中、丸熱さまにご理解をいただき、日本で初めてCN都市ガスを採用いただきました。

 おかげさまで今では60社を超えるお客さまにご利用いただいており、その過程で「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立し、まずは周知に向けて取り組んでいるところです。

 なお、オフセットするCO2クレジットは、現状では制度的に担保されたものではなく、あくまでも企業自らがボランタリーで取り組んでいるものです。国の制度や国内法制面で、CO2削減カウントとして扱われるようにするためには、国際的な枠組みを見据えての働きかけも必要になるでしょうから、ハードルはあるかと思いますが、まずは自分たちでできること、繰り返しになりますが、地に足の着いたトランジションへの取り組みということで、第一歩を踏み出したところです。

 また、クレジットの品質面の担保には特に注意を払っています。第三者機関からの認証を得た信頼性の高いものであることに加え、クレジットの起源となる環境プロジェクトについても十分確認するよう努めております。

丸の内熱供給はCN都市ガスを導入した

岡本 当社としてはCN都市ガスの燃料面での取り組みだけでなく、設備面でも環境性に優れた設備の導入を促進しています。例えば燃料電池については、三菱地所が丸の内ビルディングに導入した三菱重工業製のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の排蒸気を当社が受け取り、街区へ融通することで、機器の導入効果を高める取り組みを行っています。あと、今後検討するのは蓄電池ですね。「荷重の重い設備」になりますので、導入するのであれば、どうしても新築のタイミングが理想的ではありますが、屋内設置の場合の安全性の確保、消防法との兼ね合いなどを考えながら新築・既存とも蓄電池の導入を検討しています。

柏木 今後のイノベーションの一つとして水素利用が挙げられます。東京ガスの水素に対する取り組みを簡単にお話しください。

水素利用へのチャレンジ 排熱とCN熱の制度課題

川村 業界としては既存インフラの有効活用の点で、合成メタンを第一目標としています。ただ、その合成メタンを作るにも水素が必要ですし、当社としても、水素サプライチェーンの一部となる水素製造面など、要素研究には既に取り組んでいます。また、エリアが限定されるかもしれませんが、大規模なコンビナート地帯での水素供給・水素利用というやり方もあるかもしれません。実際、東京の晴海地区では、水素の直接供給について取り組む予定です。

 この晴海地区では二つの側面があります。エリア内にある集合住宅のご家庭には都市ガスの燃料電池エネファームが全戸(約4000戸)に導入されます。一地点に4000台の規模ですから、まとめて運用するVPP(仮想発電所)のような展開への可能性も秘めています。

 それから集合住宅の共用部に純水素型の燃料電池が入ります。この水素供給は非常にチャレンジングな取り組みです。近隣の水素ステーションを拠点に水素導管を敷設します。水素パイプラインにより街区へ水素供給する初めての事例となります。水素の安全をしっかりと確認していくという意味でも、大きな挑戦だと考えています。

 このように合成メタン一本足ではなく、水素についてもいろいろとチャレンジしているところです。

柏木 先ほど、川村さんからCO2クレジットにおける国内制度での扱われ方の課題についての指摘がありました。岡本さんからも何か制度的な課題はありますか。

岡本 先般、東京都に対して意見表明をさせていただきましたが、コージェネを使ったときの排熱利用についての課題です。排熱を有効利用している一方、現状の基準では、排熱を活用すればするほどプラントのエネルギー消費効率が下がってしまいます。排熱といった未利用熱を活用する場合の評価を制度的に認めていただきたいと思います。

 あとCN熱の課題があります。例えば熱供給事業者が、再エネ電力100%で熱を製造しても、それはカーボンフリーの熱とは認められていません。時代に即した制度設計をしていただけたらと思います。

柏木 皆さんの取り組みがきちんと評価されるような制度設計が必要です。ありがとうございました。

再エネ普及のカギ握る「メタネーション」 東ガス×横浜市が実証試験開始


東京ガスが進めるカーボンニュートラルの取り組みの一つとして、メタネーションの実証試験がある。既存のメタネーション技術は、触媒を使ったCO2と水素の反応(サバティエ反応)により、都市ガスの主成分となるメタンを生成する。CO2は燃焼排ガスなどから分離回収。水素の生成には水電解装置が使われ、実用化すればCO2の排出量が回収量と相殺され、ガス事業の脱炭素化に大きく寄与する。

今年1月、東京ガスは横浜市と鶴見区末広町にある横浜テクノステーションで行うメタネーションの実証試験に関する連携協定を締結した。同社敷地に隣接する横浜市下水道センターとごみ焼却工場から排ガス、消化ガスや再生水を受け取り、それらに含まれるCO2と、水の電気分解によって得られる水素を原料としてメタンを合成。エネルギーの地産地消を目指すとしている。

東京ガス・メタネーション推進グループの小笠原慶氏は「実証試験では、日立造船製のメタネーション装置を使い、横浜市との地産地消実証をはじめとした各種運転試験などから、プラント運用や社会実装に向けた大型化に関する課題を洗い出す。2020年代後半には革新的なメタネーション技術を追加して、より高効率な実証を行いたい」と話す。具体的にはサバティエ反応を低温化し、排熱を水電解の反応に活用する高効率なメタン生成技術「ハイブリッドサバティエ」や、電極触媒と高分子電解質膜を使い、CO2を直接メタンに転換する技術「PEMCO2還元」の実用化を目指すという。

次世代セルスタック技術  2年以内に量産化目指す

メタネーションの実用化に欠かせないのが、水電解による水素製造技術だ。昨年5月には、燃料電池の技術開発などを行うSCREENホールディングスと、水電解用セルスタックの低コスト製造技術の共同開発に合意。電解質膜に塗膜化した触媒を貼り付ける技術で、高速かつ大量製造を目指す。「わが社が持つ触媒技術とSCREENさんの燃料電池製造技術を合わせ、共同開発開始から2年以内に技術を確立していきたい」(水素製造技術開発グループの白﨑義則氏)。目指すは、将来の低コスト化に向けた次世代セルスタックの開発だ。

メタネーションの実用化や水素製造技術にはまだまだ課題も多い。製造コストや供給安定性の確保、水素とメタンを受け取る需要側の設備など、革新的な技術がどこまで実現可能か問われている。30年代にメタネーションの海外展開・商用化を実現させるため、東京ガスの研究が加速する。

東京ガスで技術開発に取り組む小笠原慶氏(左)白﨑義則氏(右)

【コラム/3月23日】ウクライナ危機とドイツにおけるエネルギー政策の転換


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2月24日に開始したロシアのウクライナへの軍事侵攻により、ドイツのエネルギー政策は大きく転換しつつある。ドイツ政府は、22日には、ロシアからドイツに天然ガスを送る新たなパイプラインプロジェクトである「ノルドストリーム2」の稼働に必要な手続きを停止すると発表しているが、27日には、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子力発電所3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した。

ドイツは、エネルギー資源のロシアへの依存度は高い。とくに、天然ガスは、輸入量の55%はロシアからであり、同国への依存度は欧州主要国の中で最も高い。ドイツでロシア依存がこのように高まったのは、1960~70年代に展開されたブラント元首相による東欧諸国との関係正常化を目的とした「東方外交」の産物である。天然ガスのパイプラインによるロシア依存が高まる中で、エネルギー供給保障の問題がなかったわけではない。しかし、これまで、安定供給上の問題であったのは、供給元であるロシアによる供給停止ではなく、天然ガス輸送の中断による影響であった。ロシアは、冷戦時代を含め、安定的にドイツや他の欧州諸国に天然ガスを送り続けている(ウクライナ向けを除く)。このため、ロシアは、信頼できる供給元であり続けた。これに対して、ウクライナでは、欧米寄りの政権が誕生すると、ロシアはウクライナ向けの天然ガスの輸送を制限しているにもかかわらず、天然ガスを以前同様引き出していたために、同じパイプラインでドイツやその他欧州諸国に送られるべき天然ガスの量が減ってしまい、欧州の経済や市民生活に大きな影響が及んだ。

「ノルドストリーム」は、このような背景の下で、天然ガスをロシアから海底パイプラインでドイツに直接輸送することで、輸送中断のリスクを軽減するために計画されたものである。「ノルドストリーム1」が2011年に完成するまで、ロシアからの天然ガス輸送の約8割は、ウクライナ経由のものであったが、「ノルドストリーム1」の完成で、ウクライナ経由は半分程度に減らすことができた。しかし、この度のロシアのウクライナへの軍事侵攻により、供給元としてのロシアに対する信頼は失われたことが、ドイツにおけるエネルギー政策の大きな転換につながった。

エネルギー供給事業者としてのロシアに対しての警戒心は、欧州諸国の中になかったわけではない。とくに旧ソ連の政治的影響下にあった中東欧やフィンランドでは、天然ガスのすべてもしくは大部分をロシアに依存しており、ロシアへの依存度を減らすことでロシアの政治的影響力も排除したいと考えている。中東欧やフィンランドにおける原子力開発には、このような背景があることを見逃してはならない。フィンランドは、5基目の原子力発電所であるオルキルオト3号を建設したが、筆者は、その決定の理由を、電力会社TVO社で聞いたことがある。「フィンランドでは、将来の電力需要の増加を天然ガス火力で賄うか、原子力発電で賄うか議論があったが、天然ガスは100%ロシアに依存しており、エネルギーのロシア依存度を高めないために原子力発電を選択した」とのことであった。そのさい、同社の幹部が「あまり公の場では言えないことだが」と前置きして述べたことが印象的であった。また、同国は1995年にEUに、そして、1998年に北欧電力市場Nord Poolに参加したが、その背景には、EUの経済圏や北欧のエネルギー市場に自らをしっかりと組み込むことで、ロシアからの政治的影響を受けないように、またはそれを軽減したいとの意図があった。

ドイツも、今回の出来事で、ロシアが安定的なエネルギー供給事業者であるかどうかについて大きな疑念をいだくことになったが、カーボンニュートラル政策への影響はどうだろうか。火力発電所の稼働は少なくとも当面は延長していかざるをえない(原子力発電については、廃止の準備が進んでおり、稼働延長は難しい可能性が高い)。しかし、長期的にカーボンニュートラルを達成していく政策には変わりはないだろう。ドイツは、一次エネルギーの約6割は、国外に依存している。EUも一次エネルギーの輸入依存度 は5割を超えている。

カーボンニュートラルの達成のためには、再生可能エネルギー電源、原子力、CCS、省エネなどを進めていかなくてはならないが、欧州では、とりわけ、再生可能エネルギー電源は最大限開発する必要があると考えられている。その背景には、化石燃料利用の大幅減少を通じてのエネルギーの域外依存度、とりわけロシアへの依存度の低減を図りたいとの意図がある。EUは、2008年に採択された「気候エネルギーパッケージ」以降、温室効果ガス削減、再生可能エネルギー開発、エネルギー利用効率向上に関する野心的な目標を掲げるようになったが、なぜそのような膨大なコストがかかる政策に踏み切ったのかは、このように考えると良く理解できるだろう。それは、エネルギーセキュリティの確保の観点から極めて重要であるからだ。

わが国でも、カーボンニュートラルが政策のトッププライオリティとなりつつあるが、エネルギーセキュリティ確保の観点を見失ってはならないだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【特集2】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開


【東京ガス】

東京・晴海地区再開発の目玉「水素エネルギー計画」を主導する東京ガス。水素パイプライン供給を国内で初めて商業化、2024年の運転開始を目指す。

東京五輪・パラリンピックが終了し、選手村のあった東京・晴海地区でも再開発が進んでいる。中でも水素供給事業を含むエネルギーインフラ計画には、各方面から大きな注目が集まっている。

この中核を担うのが東京ガスだ。大会期間中は選手村を走る燃料電池車やFCバスのPRに協力。大会終了後は選手村跡地に建つ大規模マンション群の地下に張り巡らされる水素パイプラインを整備する。

実用段階では日本初で、水素普及を見据えた脱炭素社会の先駆けとなる取り組みだ。将来的には再生可能エネルギー由来の電力を使って製造した水素を供給するなど、新しい街づくりへ環境、産業の両面で大きな効果が期待されている。

水素パイプライン敷設に 都市ガス事業のノウハウ

水素パイプラインの整備計画や運営を担当するのは、東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギー(川村俊雄社長)。東京ガスは事業者側の代表窓口として、水素ステーションを運営するENEOS、純水素型燃料電池の事業者3社との間で調整を受け持つことになった。延長約1㎞の水素パイプラインには、ガス事業法を適用することもあり、東京ガスの持つ都市ガス事業のノウハウを最大限に生かす形で進める。

水素を流すパイプラインには、工場や商業ビルで使う都市ガス用の中低圧供給パイプラインを使用。曲げ性能と耐震性能の高さが特長だ。しかし、水素には「脆化」という特定の金属をもろくする性質がある。

敷設する中低圧供給パイプライン

水素パイプラインには特殊な材料が必要との見方もある中、東京ガスエネルギー企画部エネルギー公共グループの福地文彦課長は「過去に日本ガス協会で試験を行い、今回水素を供給する条件下では、脆化が起きないことが実証された。パイプには実績のある安全な材料が使われる」と話す。

水道などライフラインの工事で水素パイプに傷がつく可能性も考慮して、パイプの上から防護鉄板を敷く対策を取った。その上に標識シートをかぶせることで注意喚起を十分に行うなど、損傷防止策に万全を期している。

水素パイプラインを保護するための対策

また、地震時における水素供給の緊急停止判断基準も厳格化した。東京ガスの都市ガス供給では各地区の想定被害に応じて60~90カインに設定しているが、東京・晴海地区の水素供給では60カインで供給を停止するように設定した。

水素の供給先は、住宅街や商業施設の5カ所に設置された純水素型燃料電池となる。そこから各家庭や施設に電力と熱を送る仕組みだ。燃料電池の排熱も利用し、共用部の給湯の予熱として使われる。

燃料電池はパナソニック製と東芝エネルギーシステムズ製の二つを採用した。パナソニック製は5kWモデルの発電効率が56%と非常に高く、貯湯ユニットで熱を利用でき、約1分で起動可能な点が評価された。同社の電池を6基連結して出力アップ、住宅街での運用を予定している。

設置するパナソニック製の純水素型燃料電池

東芝エネルギーシステムズ製は100kWの純水素型燃料電池を採用。昨年11月にトヨタ自動車本社工場(愛知県豊田市)で運転を開始するなど、多くの施設や工場で稼働実績があり、今回は商業施設で運用される。

純水素型燃料電池を2種 24年3月供給開始目指す

東京大会前の19年度に第1期工事が終了し、パイプライン全体の7割は敷設済みだ。残る3割の工事や燃料電池については、今年1月以降の第2期工事で設置する予定という。

晴海エコエネルギーがガス事業法に基づく小売り事業登録を完了してから供給開始を目指すため、実際の運用は24年3月ごろを予定している。福地課長は「大会終了後、ここからまた設備工事を行い、23年度の街開きまでに無事に供給を開始できるようにしたい」と意気込みを語った。

東京・晴海地区再開発のシンボルとなる水素計画。それを支える水素パイプラインは、文字通り地区の脱炭素化を進めていくための環境インフラだ。水素社会の実現を目指した東京五輪・パラリンピック後のレガシーとして新たな都市モデルとなるか注目される。