【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年1月号)


【関西電力他/EV走行中給電システムの制御技術を開発】

関西電力、ダイヘン、大林組の3社は、「電気自動車(EV)走行中給電システム」の技術開発に取り組む。NEDOの助成事業に採択された。このプロジェクトは、道路に埋め込んだコイルと、EVに設置したコイルとの間で、電磁誘導の原理で送電するもの。EV走行時に給電することで、走行距離の延長や、充電の利便性の向上を目指していく。また、走行中の給電システムと都市全体のエネルギーマネジメントシステムの技術開発にも取り組む。EV車両の位置情報や再エネ発電量などの電力需給情報を取得し、給電システムからEV車両へ最適な給電制御を行う。こうした仕組みによって、昼間に余剰となる再エネ電気の有効活用につなげていく考えだ。

【東京ガスほか/水素燃焼式の電池向け焼成炉を世界で初めて開発】

東京ガスは、ノリタケカンパニーリミテド、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と共同で、世界で初めて水素燃焼による、リチウムイオン電池向けの焼成炉、「ネロー」を開発した。ネローは、ノリタケの焼成炉技術と、東京ガス・TGESの水素燃焼技術を融合させたもの。水素を燃料として、リチウムイオン電池電極材の製造工程で1000℃以上の安定した熱処理を行うことができる。水素専焼による高温焼成はNOxが発生しやすく安定した加熱などに課題があったが、独自の燃焼技術によりNOxの発生を抑制した。耐久性に優れたバーナーで安定加熱が可能となり、商品化が実現した。焼成時のゼロカーボンを実現する装置となる。

【電力中央研究所/カーボンニュートラル実現に向けた各種研究を紹介】

電力中央研究所はこのほど、「研究報告会2021」を有楽町朝日ホール(東京都千代田区)で開催した。報告会は昨今の新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて、これまでの報告会で初めて会場参加とオンライン配信を併用して開催。オンラインには800人以上の申し込みがあった。開会の挨拶に松浦昌則理事長が登壇。プログラムでは、基調講演として『「2050年カーボンニュートラル」への挑戦~実現に向けた課題と取り組み~』のプレゼンテーションを筆頭に、ゼロエミッション火力実現の概況、原子力の利活用、CO2を資源として循環させるカーボンリサイクル、カーボンニュートラル実現に向けた系統網の形成―など、電中研で進めている研究や取り組みを紹介した。

【三菱造船・商船三井/液化CO2輸送船の概念研究を完了】

三菱造船と商船三井は、液化CO2の輸送船(LCO2船)に関するコンセプトスタディー(概念研究)を完了した。LCO2船は、大気中や産業で発生するCO2を分離・回収し、貯蔵・利用するCCUS(CO2回収・利用・貯蔵)を行う際に、貯蔵および利用拠点まで輸送する役割を担う手段として、将来的な需要拡大が期待される。両社は今後も三菱造船のガスハンドリング技術と、商船三井の運航に関する豊富な知見を統合して、船舶によるCO2輸送技術の開発を促進していく。

【IHIほか/再エネで水素の製造・利活用の実証開始】

IHIは、北九州パワー、北九州市、ENE

OSなど5社と共同で、自治体新電力による地域の再エネを活用したCO2フリー水素の製造・供給の実証事業に取り組んでいる。このたび、複数の再エネを同時制御する「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム」を活用した水素製造の実証試験を開始した。発電量変化の特性が異なる複数の再エネから水電解装置で効率よく水素を製造。サプライチェーンで運用し、低コストなCO2フリー水素の製造・供給モデルを構築する。

【東洋計器/70周年記念誌を発行 ヒット商品誕生秘話も】

東洋計器はこのほど、創業70周年を記念した周年誌「東洋計器70年史」(全17章、639ページ)を発行した。同誌では1999年度から2020年度までの事業内容を振り返るほか、ハイブリッドカウンター「HyC―5」、メーター向けIoT端末「IoT―R」、水道スマートメーターへの参入など、同社が手掛けてきたさまざまなプロジェクトストーリーなどを掲載している。

【レモンガス/LPガスの配送技術 認定審査で技を競う】

LP販売のレモンガスは、LPガス容器の優秀な配送員を認定する審査を実施した。認定審査を受けたのは30~50歳代の計9人の男性たち。制限時間の10分以内に、50㎏の容器を持ち運んで取り換え設置する。審査員は、安全に容器を設置できたか、顧客への作業完了を報告したか、同社が手掛ける電気販売を提案していたかなどの項目をチェックした。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2021年12月号)


【東京電力ホールディングス他/災害時の再エネ利用拡大実証】

東京電力ホールディングス、東京電力エナジーパートナー、ヨークベニマルの3社は、再エネや電気自動車(EV)などを活用した災害時向けの電力供給システムの実証を始めた。「V2X機能付きマルチPCS」と呼ぶシステムを搭載していることが特徴だ。これは直流電源として太陽光発電や蓄電池、EVを接続し、各種電気機器に交流電気を供給する。ヨークベニマルの茨城県内のショッピング店舗を防災拠点に位置付け、停電が長期化する場合に備えて蓄電池の残容量を監視したり、近隣の電力融通が可能なEVの充電量などの情報を取得することで、非常時における電力の安定供給性の可能性を検証していく。非常時の再エネ利用の拡大にもつなげていく。

【JERA他/碧南火力でアンモニアの小規模利用】

JERAとIHIは、JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)5号機で、燃料アンモニアの小規模利用試験を開始した。両社は今年6月から2025年3月までの約4年間、NEDOの助成を受け、大型の商用火力発電機で燃料アンモニアの大規模な利用を行う実証事業に取り組んでいる。24年度に4号機でアンモニア20%混焼を目指す。今回の5号機での燃料アンモニアの小規模利用は、4号機での大規模混焼に用いる実証用バーナーの開発を目的としたもの。バーナー全48本のうち2本を試験用に改造し、材質の違いによる影響や実証用バーナーに必要な条件を調べる。使用するアンモニアは約200t。同発電所敷地内の脱硝用アンモニアタンクから5号機の試験用バーナーに供給する。

【IHI/大型アンモニア受入基地の開発へ】

IHIは大型のアンモニア(NH3)受け入れ基地の開発に着手した。国内ではNH3を火力発電に利用する期待が高まっており、2050年には現在の消費量の30倍となる年間約3000万tの需要が生じると言われている。同社はこれまで培ったNH3の受け入れ・貯蔵技術を拡充することで、輸入する大量のNH3を効率的に受け入れるインフラを早期・低コストで確立したい考えだ。受け入れ基地の開発のため、燃料NH3の大量需要が見込まれる地域を想定し、運用と防災に関する設計条件の検討を開始。保有する腐食に関する知見や材料についての実験技術を利用して基地の大型化を進める。25年ごろの開発完了を目指す。LNG級となる大型NH3貯蔵タンクの開発にも着手している。

【住友電気工業/米国海底電力ケーブルが完成】

住友電気工業と住友電気U.S.A.は、米国アラスカ州の海底電力ケーブル更新プロジェクトが8月に完成したと発表した。両社は同州の電力事業者Southeast Alaska Power Agencyから海底電力ケーブルシステムの設計、調達、建設を含めたEPC契約を受注。同州ランゲル近郊のヴァンク島とウォロンコフスキー島を結ぶケーブルを既存の138kVOFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)から環境保全性に優れた69kVのXLPE(架橋ポリエチレン)ケーブルに更新した。

【ヤンマーエネルギーシステム/複数の再エネで脱炭素】

ヤンマーエネルギーシステムは、「琵琶湖カントリー倶楽部」で、ゴルフ場としては日本で初となるカーボンニュートラルを今年度中に実現する。太陽光発電や木質チップを燃料としたバイオマスボイラーで施設内のエネルギーを供給する。ヤンマーの独自技術によるエネルギー制御システムで、CO2を削減する。大阪ガスから新設の非FITを中心とした再エネ電気を活用。さらにJクレジットを使うことで、実質CO2ゼロを実現する。この技術をもとに、同社はCNによるエネルギーサービスを目指す。

【大阪ガス/タイ衣料工場でガス転換】

大阪ガスのグループ会社である大阪ガスタイランド (OGT) 社は、パルファンテキスタイル社と、ガス供給の契約を結んだ。パルファン社がタイで操業している衣料品製造工場向けにCNG(圧縮天然ガス)として供給する。工場で使用している石炭だき水管ボイラーを高効率なガスだき貫流ボイラーに交換し、温室効果ガスを削減する。OGTは、工場へのCNG供給設備とガスだきボイラーの設置工事を進め、来年7月からの供給開始を目指す。CNGはトレーラーを活用して供給する。OGT社にとって石炭からの転換は初。

【商船三井他/アンモニア燃料の大型輸送船を開発へ】

商船三井は名村造船所(大阪府大阪市)、三菱造船とともに、大型のアンモニア(NH3)郵送船を共同開発することで合意した。船舶の燃料もNH3を採用する。NH3は燃焼時にCO2を排出しない次世代のクリーンエネルギーとして火力発電所での石炭混焼利用や、水素キャリアとしての活用を中心に今後大規模な需要が見込まれている。カーボンニュートラルを実現する有力な選択肢として位置付けられており、2030年に300万t、50年に3000万tの年間需要が想定されている。こうした需要増に応えるべく、同社は大型輸送船を開発して社会の脱炭素化に貢献する。NH3を主燃料とする船舶用主機関は開発中であり、発注に向けて3社が協業体制を取り早期の導入を目指す。

【シーメンス・ガメサ/日本法人を2022年に設置】

風力発電機大手のシーメンス・ガメサは、日本市場における事業戦略説明会を実施し、2022年に日本法人を設立する構想を明かした。現在の日本拠点は支店の位置付けだが、22年2月に「Siemens Gamesa Renewable Energy株式会社」を設立する。日本支店を株式会社化することで、国内で進められる洋上風力発電所開発などに対応するべく運営のスピード化を図りたい考え。ラッセル・ケイト支店長は「洋上・陸上風力ともに日本市場の1位を目指す」と意気込んでいる。

【日本ガイシ/ベルギー拠点にNAS電池】

日本ガイシはドイツの化学メーカー、BASFのベルギー・アントワープ拠点に納入した電力貯蔵用NAS電池がこのほど運開したと発表した。BASFの子会社BASF New Business GmbHから受注。NAS電池は最大出力1000kW、容量5800kW時で、コンテナ型NAS電池4台で構成されている。アントワープにあるBASFの統合生産拠点で電力網に接続された。

【ENEOS/米国で高効率ガス火力が運開】

ENEOSは米国子会社を通じて15%の権益を取得する米オハイオ州のサウスフィールドエナジー天然ガス火力発電所が運転を開始した発表した。同発電所は、出力約118万kWの高効率ガスタービンによるガスコンバインドサイクル方式を採用。発電した電力は、米国最大の卸電力市場であるPJMを通じて、米国北東部各州の需要地に供給される。

【ニチガス/神奈川にデポステを開設】

ニチガスが神奈川県相模原市に、県内で3地点目となるLPガス物流拠点「デポステーション」の運用を始めた。同社にとって18番目のデポステとなる。貯蔵量は80tで、主な配送エリアは相模原市、東京都町田市、山梨県上野原市・大月市。画像認証技術で容器のトレーサビリティを実施するゲートを設置。今春完成した「夢の絆・川崎」から出荷することで物流コストを抑えた。「(デポステを)ほかのLPガス事業者と共同で利用する体制を整えている」としており、他社の配送コストの削減にもつなげていく。

【特集2 インフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解


熟練技術者の人手不足など、悩みが尽きないエネルギーのインフラ業界。AI活用やデジタル化による高度な運用で悩みを解決する。

【大阪ガス】

埋設管位置をAIが判定する新技術 レーダーでインフラの無傷を目指す

道路の地下に埋設している水道管、下水管、電力・通信ケーブル、ガス管など、日々の生活や経済活動に欠かせない重要インフラ。その状況は、通信インフラのさらなる整備、無電柱化などへの取り組みに代表されるように、年々複雑化している。

道路を掘削するガス工事の際に、ガス管はもちろんのこと、ほかのインフラにも被害を与えてはならない―。そんな使命を胸に、大阪ガスが着目した技術がAIだ。このたび地中レーダーに関する「AI自動判定ソフトウェア」を開発した。

地下状況に応じた探査法 肝となる画像解析

大阪ガスによるガス管の工事現場では、図面情報、磁界で地下のガス管を探査するパイプロケーターと呼ぶ手法、さらに地中レーダーを使用するなど、状況に応じてさまざまなやり方で地下内部を探査している。

一方で課題もある。「埋設状況によっては、その埋設管を示す波形の判定が難しいケースがありました。より正確に波形を特定するには一定の経験が必要でした。そうした課題を背景に、波形の判定にAIを活用する仕組みを開発したわけです」。ガス管工事分野でこの道40年のベテラン技術屋、ネットワークカンパニー導管計画部R&Dチームの綱崎勝副課長は説明する。

レーダーの原理図

埋設管位置把握とAI判定―。このロジックを紐解くには少々複雑であり、まず地中レーダーの原理を知っておく必要がある。レーダーを使った地下探査の際、地上から地中に向けて電波を発射。探査レーダーの走査距離と電波の反射具合から、埋設されている深度を探り当てるもので、山なりの双曲線画像となっている(上図参照)。およそ1・4m程度の深度に埋設されているが、ここで描き出される画像が曲者なのだ。

例えば道路のアスファルトと土壌との境界面、埋設管が重なった場合、あるいは埋設管以外の大きな石や構造物が混ざってしまった場合、さらには粘性が高い土質で信号強度が低下してしまったケースなど、レーダーからの反射の波形が読み取りづらくなってしまう。このほか、地下水の状況によっても変わる。

こうした埋設環境の影響をもろに受ける電波を基に画像から正確な埋設管を読み取るには、綱崎さんのような熟練の技術屋が必要だった。

そこで、熟練者の経験値や頭脳をAIに学習させて画像を判定させようと取り組んだ。

AI活用の二つの方式 スパースモデリングの神髄

まず、大阪ガスが目を付けたのがディープラーニング方式だ。数万枚以上に及ぶ画像のデータから、埋設管の特長を学習させてパイプと非パイプを判定する。つまり数万枚の画像と埋設管を紐付けるわけだ。ただ、このやり方では必要な学習量が膨大過ぎるため、システム構築に時間がかかってしまう。

次に注目したのがスパースモデリングと呼ぶ技術だ。大阪ガスが出資するHACARUS社の技術で、これは目から鱗の仕組みである。綱崎副課長と共に同じチームで技術開発に取り組んできた中森裕明副課長は次のように説明する。

「やみくもに画像を覚えるディープラーニング方式ではなく、あらかじめ埋設管の波形をいろいろな数式を使って定義したのです。こうすることで少量の探査画像から埋設管の特徴を学習できます。また、AIが判定しやすくするために、画像の濃淡を調整処理することで波形画像がより鮮明になるよう工夫を施しました。結果的に、データ数は数百枚程度で済みました」

ディープラーニングとスパースモデリングの比較

技術開発の効果は歴然 水平展開にも期待

大阪ガスでは6月からこのシステムを導入して運用しており、AI以前と以後とではその効果は大きく改善された。

まず「AI以前」となる現場作業では、76%だった現場作業員による埋設管の検出率は、「AI以後」は89%となった。また実際に埋設管ではないものを余分に検出した割合は、36%だったものから8%へと大変な改善効果があった。

どうすればほかのインフラを破損させずにガス管工事を進められるか。そんな保安品質の向上を目指して進められた技術開発。一方で、「36%」の余分検出率からも分るように、地中を掘削しても、ガス管にたどり着けない、骨折り損になってしまう工事が存在していることも事実である。この技術を使うことで作業の出戻りを防ぐ「作業効率の改善」という意味でも、大きな価値はあるだろう。

保安品質と作業効率の向上を実現した大阪ガスの「スマート」な技術開発。他社への水平展開にも期待が持たれる。

【JFEエンジニアリング】

事業者ごとにカスタマイズ可能 管路・施設の維持管理に最適

日本国内のあらゆるインフラで、設備の老朽化が進んでいる。都市ガス導管も例外ではない。維持管理の重要性が増しているものの、保守点検・補修に関わる技術ノウハウは、作業者個人に依存している面が多く、熟練作業者が持つ属人化された技術の伝承が少子高齢化や担い手不足により進んでいない。一方、デジタルソリューションの導入に関して、事業者は業務の効率化や、事業継続の面で理解はあるものの、対象の絞り込みや活用効果の具現化が難しく、先送りされる傾向にある。

これまで、中小規模の都市ガス事業者で導入したシステムは大手事業者のシステムを利用していた。しかし、大手事業者のシステムは設備の大きいインフラ向けのため多機能であり、操作には専門知識を備えた人の配置が必要となる。運用面で中小規模の都市ガス事業者のニーズとミスマッチな部分もあることから、自らの運用状況に合ったシステムを探す事業者が多くいた。

中小事業者のニーズに応える 低コストで維持管理サポート

そうした事業者に向けて、JFEエンジニアリングは管路・施設保守点検システム「Panacea」を販売している。同システムはマッピングシステムの「PLM(パイプラインライブラリーズマップ)」、と保守点検電子帳票の「LANEX-Data」で構成されている。各事業者のニーズに応え、かつ低コストで運用に合った維持管理をサポートする点が強みとなっている。

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Panaceaのシステム構成例

PLMシステムの地図上で維持管理に必要な多くの情報を一元管理できる。都市ガス導管の敷設位置はシステム上で座標管理されているため、正確かつ更新も容易だ。作業者はスマートフォンやタブレットを用いて、座標認識された現場でデータを入力できる。事務所にはクラウド経由で作業者の入力データをリアルタイムで共有できるので有事の際、迅速に対応が行える。さらに、地図上で電気や上下水道、通信など、ほかの工事に関する情報も管理できる。

パイプライン事業部流送設計部の畠中省三技術グループマネージャーは「工事を行う際に必要な埋没物情報は、電気や上下水道といった事業者同士で共有しています。この情報は、ほかの埋没物を破損させないためにも事前把握が重要です。これらを現場にいながらリアルタイムで確認できます」と説明する。

このほか、PLMでは、ハザードマップや断層、災害履歴を重ねて表示することができる。管路の安全制の見える化も可能だ。

LANEX-Dataでは、電子帳票を用いた保守点検が可能であり、データを一元管理できる。現場で報告書の作成ができ、事務所での作業を削減したり、日報を月報に変換するなど、書類作成業務を90%削減できる。さらに、複数箇所から同時にデータを共有・変更できるため、上司など管理者が同時に作業内容を確認し指示や承認を行える。

現場においては、作業効率化に加えて、点検漏れ防止や、精度向上などメリットがある。具体的には、QRコードを用いて電子帳票と点検作業を紐付ける方法がある。施設や工事など、さまざまな対象物に取り付けて連携することで、設備のカタログや取扱説明書を登録したり、即座に電子帳票を開いたり、電話をかけたりすることが実現する。

また、スマートフォンをメーターにかざすとAIが自動でゲージ値を読み取り、点検作業時間を短縮、読み取りミスを防ぐことも可能だ。メーター読み取りの際、あらかじめ設定したしきい値から外れたデータを取得すると、警告を出して運転状況の異常を速やかに知らせる。警告は作業員が確認できるのはもちろんのこと、関係者に自動でメール通知を行い、リスクの共有化も瞬時に可能だ。

ガス営業部プロジェクト営業室の加藤雄三氏は「各事業者へのヒアリングから、デジタル化に向けた動きは行いつつも、現状、多くの事業者が紙ベースでの維持管理を行っています。書類をデジタル化し、ネットワークを利用することで、効率化できることが格段に増えます。加えて、従来の書式と見た目をそろえ、使い勝手の良いシステムとしデジタル化へのスムーズな移行ができるよう構築しました」と話す。

日常点検データを分析 設備の健全性をサポート

都市ガス導管のEPC(設計・調達・建設)で国内トップの実績を持つJFEエンジはパイプライン操業用の「パイプラインSCADAシステム」や非定常流送解析「Win GAIA」などを多くの事業者に導入してきた実績がある。今回、こうした運転に関わるソリューションと合わせて維持管理作業者の運用面をサポートするPanaceaの導入を推し進めている。

さらに、事業者の設備の健全性のサポートも考えている。「例えば、お客さまのパイプでさび汁が出たら、対応策を考え、補修すべきかどうかなど、健全性の評価、補修計画の立案など維持管理支援を行います。」と畠中技術グループマネージャーはアピールする。

その他、日常点検で得られる腐食、割れ、振動、地盤変動や地震による変位などのデータを分析する。次に運転効率や流量・圧力、強度、防食状態、防振性、耐震性などの性能を設計思想に基づき評価し、劣化に対する適正な検査方法、補修方法の提案や補修施工などに対応する。

実際、Panaceaの導入を検討・構築を検討する段階では、都市ガス事業者によって維持管理運用方法がそれぞれ異なるため、「各事業者の作業員の視点に立った工夫が必要です。予算に応じ、事業者ニーズに合致した最適なシステムや通信機能が備わったものをご提案できます」(加藤氏)

Panaceaを裏側で支える同社の「グローバルリモートセンター(GRC)」の存在も大きい。同センターは全国の運営プラントのデータを集約・監視・遠隔運転できる機能を有し、廃棄物処理施設の完全自動運転を実現するなど、JFEの最新ITが集約された拠点となっている。Panaceaのデータ管理もGRCで行われている。

将来的には、同拠点を核に、AI・ビッグデータを活用できるデータ解析ツール「Pla’cello」など同社が有するITソリューションと連携・活用して、都市ガスインフラのさらなる高度化を推し進めていく計画だ。

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スマホでメーターの数値を読み取る

【特集2 設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も


AIやビッグデータの活用で保安の高度化が進んでいる。それだけにとどまらず新サービス創出につながる動きも出てきた。

三菱重工業

目指すは「自動自律化」発電設備の有効活用に貢献

2015年ごろ、業務効率改善やコスト削減などを図るため、ビジネスにおけるデジタル化の気運が高まった。エネルギー分野も例外ではない。同時期に始まった小売り全面自由化と相まって、デジタルを利用した新たな仕組みを導入する動きが加速していた。

世界で81台の火力発電に導入 企業の脱炭素化を支援

三菱重工業では、発電プラントのO&M(運用・保守)ソリューション「TOMONI」の開発に着手、17年から国内外の顧客へのサービス提供を行っている。現在、GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)発電を中心に全世界で81台の火力発電設備に導入されており、高レベルのサイバーセキュリティーを有するクラウド環境を利用して、サービスを展開中だ。現在、火力発電にとどまらず、地熱発電の運用にも利用されている。

TOMONIによるサービスの概略図

近年、同社がTOMONIにおいて注力するのが、「脱炭素化・低炭素化に向けた発電資産の有効活用」と、「業務プロセスのデジタル化による高度化」だ。当初、デジタル化の意義や目的として、効率化やコスト削減などが挙げられてきた。近年は「脱炭素」という目標が全世界的に掲げられている。この動きに追従できる発電設備ソリューションを求める声が高まっているという。

エナジートランジション&パワー事業本部技術戦略室の石垣博康主幹技師は「脱炭素化には長い期間を要します。お客さまには、まず所有する発電設備の低炭素化・デジタル化をTOMONIを使って推進することを提案しています」と語る。

TOMONIを用いた脱炭素化に向けた取り組みとして進めているのが、①脱炭素のための自動自律プラントの実現、②プラントライフサイクルを通じたデジタル活用、③デジタル化による脱炭素化支援―だ。

①では、プラントの運転・保守をAIによって支援する。三菱重工では開発ロードマップを策定、20〜21年ではシステムがO&Mをサポートすること、22〜24年ではAIによって各アプリが学習しO&Mを部分最適化すること、25年以降はAIによって各アプリがリンクして全体最適化を実現する、という3段階に分けて取り組みを進めている。

同社高砂製作所内に実証発電設備を用いて、実装・検証を進めている。既存のプラント運転自動化のアプローチを中心に、ユニット起動過程、運転中のトリップ要因を分析し、事前検査や試験で異常を回避するなど、可用性の向上を図る。また、GTCCで再生可能エネルギーへの負荷追従に対応したり、バイオマスと石炭の混焼、売電や燃料にかかるコストを最適化し、利益の最大化を図るといった取り組みを進めている。石垣博康主幹技師は「多様な燃料への対応について、TOMONIではAIを使ったボイラー燃焼調整システムを提供します。このAIは、三菱重工のエンジニアが24時間そばにいて最適調整を行ってくれる感覚です。GTCCでは、ガスタービンの翼の冷却を負荷追従に合わせて調整したり、脱硫装置も制限値にできるだけ近づけて運用しコスト削減するといったことを可能にします」と説明する。

②では、プラントの建設から運転、リプレースまでを最適化していく。最近、多いのが建設試運転における活用だ。コロナ禍によって海外への渡航が制限されている。そこで建設試運転を行う際、日本の拠点と海外の発電所をTOMONIでつないで、日本から支援した。また、発電所の性能保証において、従来は1カ月分の稼働データを取得・解析し保証していたが、現在はTOMONIを用いてリアルタイム監視したデータを活用して保証している。このほかの業務では、検査記録データの設計利用、プラント性能の劣化監視、トラブル対応支援、点検データ技術文書の管理、トラブル対応支援、遠隔監視、顧客コミュニケーションなどを行う。

発電所では、2、3年ごとに定期検査がある。これまでは現場の損傷データを紙やエクセルなどで管理していた。これをデジタル化し前回の定期検査データを参照しながら、どの箇所の更新作業が必要か、次回に持ち越しても大丈夫か、などを顧客と相談しながら決める判断材料としている。データ管理を行うことでO&Mをより精緻に進めるわけだ。

③では、産業用の顧客向けに、所有する自家発電設備の安定稼働、設備価値の維持と向上を図りながら脱炭素化をサポートしていく。産業向け発電設備では工場で利用する熱をつくり利用することが多い。工場の需要に合わせて熱をたくさんつくると電気が余剰となる。そこで、工場で使用する電力をあらかじめ予測して、翌日に入札して売電し、インバランスもうまく調整するといった仕組みの実証を進めている。さらに、高砂製作所では、設備の状態に応じた負荷運用支援など、より複雑かつ多様な顧客ニーズに柔軟に対応できる発電設備を目指して、開発を進めている。

水素など次世代燃料に対応 蓄電池やCCUSとも連携

脱炭素に向けては、水素やアンモニアといった次世代燃料を火力発電で活用するため、研究開発が進んでいる。加えて、蓄電池やCCUS(CO2回収・転換利用・貯留)ユニットとの連携など、開発テーマは多岐にわたる。「これらをサポートしていくためにも、デジタル技術は必須です。開発にタイムラグが起きないようにまい進していきます」と石垣主幹技師は意気込む。

次世代エネルギーにおいて、三菱重工のデジタル技術に求められる役割はさらに大きくなっていきそうだ。

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】エネルギー設備を精緻に管理 データを掛け合わせ故障を予兆

日本全国でエネルギーサービスを展開する東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)。同社の設備管理の中核を担っているシステムが、「ヘリオネット21」だ。
同システムで、ガスエンジンやガスタービンなどを利用したコージェネレーションシステム、ボイラー、冷凍機など、各種設備に専用の端末を設置してデータを集めることで、全国各地に点在する設備の運転状況を把握する。

ヘリオネットセンターの制御室


設備の不調をつぶさに検知 メーカーとともに機能向上

データは24時間365日遠隔監視を行うヘリオネットセンターに集約され、あらかじめ設定された数値を外れた際などには、故障予知検出として、その詳細を監視室のディスプレイに表示する。同社社員が状況を確認し、これまでのメンテナンス履歴などを集めた自社のデータベースから、当該設備はどのような状態なのか、類似の設備で同じような兆候が発生したかなどを検索。これらデータを総合的にかんがみながら、緊急停止を伴う故障が発生しないように対応を行っている。
稼働状況を常時監視することで、一瞬の不調も見逃さないのがヘリオネット21の大きな特長だ。
例えば同社が管理する出力2400kWの20気筒ガスエンジンでは、シリンダーの一つの排気温度が数秒間だけ急速に落ち、すぐに元に戻った。温度の急変は一瞬の出来事で、エンジンの出力も回復したということもあり、本来であればメーカーが事前に定めている故障とされない事象だった。
しかしデータの動きや自社で行ってきたこれまでのメンテナンス経験などを基に、重大な故障の予兆と判断し、今回のケースでは、夜間の設備停止可能時間を見計らって故障の疑いのあるシリンダーの点火プラグとガス噴射弁を交換し、故障による緊急停止を未然に防いだ。
「小さな予兆とはいえ、今後重大な故障につながる可能性もある。そうなれば経済的な損失にもなるので、予防保全はとっても大きな意味があります」。エンジニアリング本部カスタマー技術部ヘリオネットセンターの橋本博課長はそう話す。
また、設備から得たデータやユーザーとしての運用知見は、機器メーカーとも共有されており、製品開発にも生かされている。同センターの金澤仁所長は、「メーカーと協力して設計の段階から設備を故障させないシステム作りを行うのも、当社の取り組みの特長。メンテナンス項目や点検周期を見直すことで、設備を故障させない運用の実現を目指しています」と胸を張る。


日常業務をDXで効率化 ペーパーレスアプリを開発

TGESはほかにも、ヘリオネット21で得られるデータや、気象データ、運用に関する知見などを活用することで、エネルギー設備を自動最適運用し、さらなる省エネやコスト低減を図るサービス「ヘリオネットアドバンス」も提供している。また、昨年から設備管理で発生する繁雑な業務のデジタル化にも取り組んでいる。

設備管理業務のDX化を実現


紙の帳票をタブレット端末に持ち替えて、「補給水やオイルの漏れはないか」「薬液の残量はどれぐらいか」―など、設備を巡視する管理員が、日常点検を行う。
これにより、紙の時代よりも点検データの検索性・分析性が大きく向上するほか、帳票の付随データとして写真を貼り付け、その上に文字を書き込むなど、画像編集ソフトなどで別途必要になる作業もタブレット上で完結することができる。
さらにアーカイブ機能も搭載し、紙の時代では持ち運びに苦労する資料の取り扱いが手軽になるほか、設備の技術図書や操作マニュアルも現地で簡単に検索・閲覧でき、点検業務や突発トラブル報告業務を効率化した。
現在は自社設備の管理業務で試験的に運用し、今後機能を拡充していく方針。数年以内には外販も想定しているそうだ。同センターの雨宮俊課長は「現場における毎日の点検業務は慣れがある反面、新たな手法の導入にハードルのあるケースが多いです。一方で、毎日の定常業務なので効率化による費用対効果は大きいです。今回開発したツールは、お客さまのニーズを基に設備管理業務に役立つDX技術をパッケージ化したもので、操作性も簡便なためアナログからデジタルへ違和感なく移行できます。今後もお客さまの声を重視しながら機能開発を続けていきます」と語った。
高度なシステムと優秀な設備技術員を組み合わせることで、TGESは設備保守の高度化に力を入れていく。

左から雨宮氏、橋本氏、金澤氏


【特集2】脱炭素社会への円滑な移行に貢献 メタネーションで他業界と連携


【インタビュー:本荘武宏/日本ガス協会会長】

日本ガス協会は、脱炭素社会実現に向けたアクションプランを策定した。2050年カーボンニュートラル、そして30年NDC(国別目標)達成にどう貢献していくのか。

―2050年カーボンニュートラル(CN)に向け、ガス業界としてどう取り組みますか。

本荘 昨年、菅義偉前首相が2050年CN宣言を打ち出し、30年に温室効果ガスを13年度比46%削減するNDC(国別目標)を掲げました。これにより、CO2削減の取り組み強化、脱炭素化への機運が高まりました。その実現に向けて再生可能エネルギーをはじめとした電力がよく話題になりますが、産業・民生部門のエネルギー消費量の約6割は熱利用で、その低・脱炭素化にガス体エネルギーが果たす役割は小さくありません。

 エネルギー基本計画案でも、50年までのトランジション期におけるガスへの燃料転換や将来の合成メタンの活用が示されるなど、都市ガスの有用性が評価され心強く受け止めています。トランジション期では累積するCO2を削減し、50年にはメタネーションなどによるCNメタンに置き換え、ガスのCN化の実現を目指します。既存のガス導管網を活用でき、社会的なコストを抑えつつ脱炭素社会への円滑な移行が可能な手段です。メタネーション設備の大型化やパイロット機の実証なども進め、商用化への道筋を付けていきます。

エネルギー政策は「S+3E」 電力含めた安定供給に努める

―30年46%削減も、非常に高い目標です。

本荘 50年までのCN実現には、さまざまな技術革新が求められ、かなりの時間を要します。そのためトランジション期で、社会全体のCO2排出量を削減しておくことが重要です。即効性のあるCO2削減策として、大規模産業用ユーザーなどの天然ガスへの燃料転換や、分散型システムの普及拡大による高度利用と併せて、CNLNGやCCU(CO2の回収・利用)などの普及促進を全国大で加速する必要があります。

 一方、エネルギー政策の要諦はあくまでも「S+3E」です。ガスの供給インフラの大部分は地中埋設であるため、昨今頻発している風水害への強靭性が高く、需要側でも停電時に熱と電気を供給できるコージェネレーションシステムや燃料電池が普及することで、災害時に一定の電力やお湯を賄うことができます。ガス業界として、LNGの安定調達やコージェネやガス空調などの機器普及を通じて、電力を含めたエネルギーの安定供給に努めます。また、電力需給変動への調整力として、デジタル技術で最適運用・制御するVPP(仮想発電所)を構築することで、系統安定化などにも貢献できます。

―実現に向けた課題は。

本荘 ガス事業者が、それぞれ果たすべき役割を認識し、努力と創意工夫に取り組むことが不可欠です。ただし、CN実現にはガス業界だけでは解決困難な課題があることも事実です。例えば、産業分野における天然ガスシフトにより確実かつ大規模なCO2削減が見込める一方で、お客さまには転換費、ランニング費の上昇が見込まれますので、転換を後押しするような政策支援が期待されます。

 メタネーションの実現に向け、設備の大型化やパイロットプラント実証などを進めなければなりません。25年の大阪・関西万博では、大阪ガスがメタネーションの実証提案を行う予定で、より高効率な技術の研究開発も進めます。

 水素やCO2の大量かつ安価な調達や、制度面のCNメタンの環境価値確立など、業界の枠を超えて他業界と連携した取り組みも不可欠です。例えば、サプライチェーンの構築における適地の検討や再エネ調達では商社、合成プラントの構築ではエンジニアリング会社、輸送では船舶会社、利用では大規模ユーザーなどとそれぞれの強みを生かせるよう連携して対応していきます。これらの業界はメタネーション推進官民協議会に参画しており、協議会を通じて官民一体となって検討します。

カーボンニュートラルに向けたシナリオ

ガス事業の枠を超え 地域活性化の取り組み支援

―脱炭素など地域の課題解決に向けたガス事業者の役割は。

本荘 事業環境が変化する中、ガス事業者の在り方も大きく変わると考えられます。大手ガス事業者は、海外も含めた総合エネルギー事業者を目指す一方、地域に根差したガス事業者は、地方自治体とも連携し各社・地域の特性に合った形で発展することになります。

 地方では、人口減少や地域経済の停滞、地域脱炭素化の要請という課題があります。再エネなど地域資源を生かし、地域活性化につなげる「地域脱炭素ロードマップ」なども国から示されています。地域に密着してエネルギー事業を運営するガス事業者が果たす役割は大きく、自治体などからも、地域での信頼を踏まえた課題解決の担い手として期待されています。

―そうした取り組みは既に始まっているのでしょうか。

本荘 小田原市、鳥取市、静岡県島田市などで、都市ガス事業者が中核となり、地域エネルギー供給の会社を設立するなど再エネ調達と地域への供給を行っています。これらは地域の循環型社会を形成していく観点からも重要な取り組みです。また、地域課題への取り組み事例として、日高都市ガスの「空き家管理サービス」や、越後天然ガスの「こども食堂」などがあります。地域の活性化は地域の魅力を高めます。一見ガスに直接関係ない取り組みであっても、地域の発展こそがガス事業者の持続的な成長につながります。

―協会としての支援策は。

本荘 協会の地方部を中心に、会員事業者の課題を吸い上げ、解決策を検討しています。具体的には、「地域活性化フォーラム」を開催し、地域活性化に資する講演や事業者の取り組み事例や課題を紹介しています。さらに今年度、地域が抱える課題発掘から「地域課題解決型ビジネス」の創出を後押しする取り組みを始めました。新たな事業を創出し、取り組み事例を業界内で共有することで、脱炭素や地域活性化に向けたヒントを提供できればと考えています。ガス事業者は各地域で、高齢者の活用、後継者不足への対応、飲食店の維持・発展などの取り組みを検討していると聞きます。事業者が地域資源を活用したプラットフォーム的な役割を担えるよう、引き続き多方面からの支援に注力します。

ほんじょう・たけひろ 1978年京都大学経済学部卒、大阪ガス入社。2009年取締役常務執行役員、13年副社長執行役員を経て15年社長。21年1月から同社会長、4月から日本ガス協会会長。

【特集2】メタン合成の高効率化を実現 施設整備で研究体制を拡充


【大阪ガス】

政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル社会」実現の鍵を握る「メタネーション」は、水を電気分解して水素を取り出し、二酸化炭素(CO2)と反応させることで都市ガスの原料となるメタンを生成する技術だ。

CO2と再生可能エネルギー由来の水素から都市ガスを生成するため、ガスの燃焼時に発生するCO2と相殺し、排出量を「実質ゼロ」にできる技術として期待が高まっている。

特に導管やLNG船、製造所などの既存インフラや需要家のガス設備をそのまま活用できることもあって、同技術の実用化は、高い経済合理性をもって脱炭素社会の実現に貢献するために必達の課題だと言える。

製造プラントの大型化やコスト低減など、さまざまな企業が実用化に向けた研究を進める中、大阪ガスは、これまで研究されてきた技術よりもさらに高効率でメタンを合成することができる、革新的なメタネーションを実現する重要なキーとなる「新型SOEC」と呼ばれる技術の開発に乗り出している。

実用化の課題解決へ 新型セルの試作に成功

これまで主に進められてきたメタネーション技術は、まず再エネで水を電気分解し水素を生成し、その水素をCO2と反応させ(サバティエ反応)メタンを生成するものだ。

これに対し「SOEC」では、再エネ電気で水蒸気をCO2とともに電気分解することで水素とCOを生成し、さらに「メタン化反応装置」で触媒反応によってメタンを合成する。

水電解・サバティエ反応技術では、水電解装置とサバティエ反応装置の2段階で熱損失が発生するため、エネルギー変換効率は55~60%にとどまってしまうが、SOEC技術の場合、排熱を有効利用することで85~90%という高い効率でメタンを生成できる。また、「水電解よりも、効率よく水素を生成できる可能性があり、その意味でも大きく期待されている基礎研究分野」(広報部)だという。

水電解・サバティエ反応技術、SOEC技術のどちらにしても、メタネーション技術の実用化には、低コスト化とスケールアップの実現という大きな課題が立ちふさがる。同社は今年1月、この二つを解決する足掛かりとなる新型SOECの実用サイズセルの試作に国内で初めて成功したと発表した。

これまでのSOECは、高価な特殊セラミックス材料で構成されていたが、新型のSOECは、ホーロー食器のように丈夫な金属を基板とし、表面を薄いセラミックス層で覆うことで、特殊セラミックス材料の使用量を1割程度まで削減できるようになった。

これにより、低コスト化はもちろん、①耐衝撃性が高く強靭、②形状の自由度が高い、③多数の素子を接続しやすくスケールアップが容易――といった優位性を得ることができる。

さらに新型SOEC技術の用途は、メタン製造による都市ガスのカーボンニュートラル化のみにとどまらない。水素やガソリンなどの液体燃料、アンモニア、化学品原料などの高効率製造にも活用できると考えられ、その潜在力には計り知れないものがある。

大阪ガスは、同技術の研究を加速化することで「2030年頃までに技術を確立し、50年の実用化を目指したい」(広報部)考えだ。

産官学の連携強化 脱炭素技術の開発加速

とはいえ、現在はまだまだ基礎研究の段階に過ぎず、実用化への道のりは遠い。研究開発を加速させるには、他の研究機関や企業などとの積極的な連携がますます重要になる。

そこで10月、大阪市内の「エネルギー技術研究所」を含む酉島地区に、カーボンニュートラルな燃料の製造や利用、蓄電池などの研究開発を行う「カーボンニュートラルリサーチハブ(CNRH)」を開設した。

カーボンニュートラルなエネルギーを「つくる」、うまく「つかう」、そして足元の徹底したCO2削減を実現するための同社グループの研究開発機能をここに集約。今後は、さまざまな脱炭素技術の実験設備を拡充していく計画で、低・脱炭素化に向けたグループ内での技術連携に加え、企業や、官公庁、大学・研究機関など産学官のさまざまなパートナーとの共同研究体制の強化を図る。

まずは来年1月に、燃料電池や太陽光発電設備、蓄電池、電気自動車などを導入した実験住宅「スマートエネルギーホーム」を導入する。さらに3月には、SOECメタネーション専用のラボを整備する予定だ。

同社は、50年脱炭素社会実現に向けた「カーボンニュートラルビジョン」を今年1月に発表した。その実現に向けては、さまざまな関連技術のイノベーションが欠かせない。同社は、業界横断的な連携で脱炭素社会に貢献する技術・サービスの開発取り組み、気候変動をはじめとする社会課題の解決を目指す。

SOECメタネーションのイメージ

【特集2】電気料金負担が重荷の中小企業 「S+3E」前提の脱炭素に期待


【インタビュー:大下英和/日本商工会議所産業政策第二部部長】

脱炭素時代に向けて、中小企業は今何を思っているのか。日本商工会議所に、需要家の立場から話を聞いた。

―現状のエネルギー情勢をどのように受け止めていますか。

大下  日本商工会議所は全国515の商工会議所の連合体で、会員事業者数は122万件に上り、その9割以上が中小企業です。東日本大震災以降の原発停止やFIT賦課金で電力価格が高い水準です。コロナ禍で中小企業の事業環境が厳しくなる中、電力コストが重荷になっている状況です。

―業界はカーボンニュートラルへ(CN)の取り組みに軸足を移し始めています。

大下  エネルギー政策の基本であるS(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)の四つの要素を前提に取り組む必要があります。環境の追求は大切ですがエネルギーのコストアップは中小企業にとって死活問題です。

 今夏、会員企業に実施したアンケート調査では、上昇傾向にある電力料金について「経営にマイナスの影響」との回答が85%に達しました。毎年、調査を実施していますが、ここまで高い数値が出たのは初めてのことです。

―国は再生可能エネルギーの主力電源化を進めています。

大下  再エネだけに頼ることに懸念を抱いています。脱炭素への取り組みは進めるべきですが、再エネ主力化に向けては、安定供給を支える蓄電設備や電力系統網の増強が必要です。現実的な時間軸やコスト負担の見通しを国民や中小企業に示したうえで議論を進めていくべきです。

 また、3Eの一つである安定供給は、経済活動や国民生活に不可欠です。北海道停電、千葉県を中心とした台風被害による大規模停電は、企業の事業継続にも大きな影響を及ぼしました。災害の多い日本で、再エネを主力化しかつ安定供給を維持し続けることの大切さや難しさを痛感しています。

安定供給の難しさ痛感 LNG火力の役割高い

―天然ガスやLNG利用、あるいはその他の電源について何か意見はありますか。

大下  自然環境により発電量が変動する再エネ電源を拡大していくうえでは、バックアップとしての火力発電の助けが必要です。その際、LNG火力の役割は大きいと考えています。また産業分野では、電化による対応が難しい高温域も存在しており、天然ガスの活用が期待されます。同時に官民が連携し、LNGを安定的に調達できるように産ガス国との良好な関係を維持し、海外権益の獲得など上流開発への取り組みを強化してもらいたいと思います。

 加えて、電力の安定供給と経済効率性の観点から、原発の活用が極めて重要だと考えています。大前提となる安全性が確認された原発については再稼働するとともに、原発を電源構成の中にしっかり位置付け、リプレースや新増設も選択肢として除外せずに議論してもらいたいと考えます。

―ガス会社への要望は。

大下  「脱炭素=電化」というイメージですが、電気のみに頼ると、逆にリスクとなります。多様なエネルギーをバランスよく組み合わせることがレジリエンスを高める上で重要です。既存のパイプラインを通じたCN都市ガスの供給、水素サプライチェーンの構築などで、脱炭素への取り組みを支えていただくことを期待しています。

―今後、日本商工会議所として取り組むことは。

大下  日本商工会議所では、現在、全国の商工会議所による環境アクションプランの策定を進めています。各地の商工会議所が、中小企業の脱炭素への取り組みを支援するとともに自治体と連携し、地元のガス会社や電力会社の協力もいただきながら、地域の取り組みを進めていければと思います。

【特集2】動き出した関東エリアの事業者 大手に続く地方ガス「脱炭素」への挑戦


家庭用や大口需要家からの脱炭素ニーズが生まれている。CN都市ガスを扱い始めた桐生ガスや厚木ガスの取り組みを追った。

脱炭素社会を支えていくのは再生可能エネルギーなどの「CO2フリー電気」だけではない。カーボンニュートラル(CN)都市ガスも、選択肢として保有しておきたいエネルギーの一つである。そんな新しい商材であるガスを巡って、大手事業者が先行していた取り組みが、地方ガス事業者にも広がってきている。

家庭用初の桐生ガス 1㎥単価7・7円増の負担

1925年に創業し、100年近くの歴史を持つ老舗の都市ガス事業者、桐生ガス。群馬県桐生市や太田市を供給エリアに抱え、約2万3000件の需要家を持っている。都市ガスの卸元はINPEXで、エリア内の需要構造は主に家庭用が中心だ。

そんな同社がこの度、INPEXとCN都市ガスの売買契約を結んだことで、日本の地方ガス事業者の中で一般家庭向けとしては初めてCN都市ガスの小売りを開始することになった。

「当社の自社消費分をCN都市ガスへと切り替えるほか、小口向けにオプションメニューとして販売を始めました」。そのように説明するのは桐生ガス営業部の村上恵理次長だ。

INPEXからの具体的な調達量や調達金額は公表していないが、ユーザーはオプションとして1㎥当たり7・7円を付加金として負担するスキームである。7・7円はINPEXからの卸値に加えて事務手数料などを加えた価格としている。

8月から販売を始めて以降、環境意識の高い家庭用需要家からすでに数件の申込みがあったという。また9月末には地元の金融機関である群馬銀行桐生支店向けに、桐生ガスの法人需要家としては初めて、供給を始めるなど、少しずつ販売数量を伸ばしている。

「他のエリアの地方都市ガス会社に加えて、当社供給エリア内の飲料、繊維、自動車部品の大口ユーザーからも問い合わせをもらっています」と村上さんは今後の展開に期待を寄せている。

「公益事業の精神を体し、良質低廉なる気体燃料を豊富円滑に供給する」を社是として、これまで地元に貢献しながら地元とともに持続可能な事業を営んできた桐生ガス。今後は、脱炭素を支える新たな商材を加えて、地元地域へ貢献していく。

「INPEXと売買契約を結びました」(村上さん:右)

大口需要家持つ厚木ガス 世界的企業のニーズを探る

脱炭素の波は神奈川県の県央エリアにも訪れている。1959年に創業して以来、約60年にわたって神奈川県厚木市や伊勢原市を中心に供給し続けている厚木ガス。創業当初700件程度だった供給軒数は、現在5万5000件程にまで伸びている。LPガス事業や簡易ガス事業などガス体エネルギー事業に加え、高圧向けの電力事業を始めるなど総合エネルギー事業者として歩み始めている。そんな同社も今、脱炭素戦略に奔走している。

ソニー、NTT、日産自動車、リコー―。厚木ガスの供給エリア内には、世界に名だたる企業の研究所が立地している。特に厚木ガス本社の両脇にはソニー厚木テクノロジーセンターが隣接するなど、グローバル企業からの「エネルギーへのニーズ」には敏感にならざるを得ない。

「世の中が脱炭素社会へと歩み出す中、従来から行ってきた重油から都市ガスへの燃料転換、あるいは高効率なコージェネ設備を導入して低炭素化を進めていくだけでは、解決しません。われわれとしては、これまで安定供給を支えるために整備してきた既存のガスインフラを座礁資産としないためにも脱炭素時代にふさわしいメニューを用意しておくことが極めて重要だと考えています」。厚木ガス営業本部長の鈴木正樹取締役はそう話す。

「脱炭素=電化」―。鈴木取締役がエネルギーのニーズについて、需要家からヒアリングする中、多くのユーザーはそんなイメージを持っていたそうだ。つまり、CN都市ガスの存在そのものがほとんど認知されていない状況だったというのだ。

そこで、厚木ガスでは、都市ガスの卸元でもある東京ガスと協議。その結果、CN都市ガスの卸売りを快諾してもらい、まずはその認知度向上に努め始めており、現在、大口需要家向けに具体的な小売り営業を展開中だ。例えば、某機械メーカーでは、エネルギー設備のリプレースのタイミングで、CN都市ガスの導入を検討してもらっているそうだ。

厚木ガスのガスホルダー

環境価値の国内法展開 大手会社との連携が必要

厚木ガスではCN都市ガスの認知度向上に向けて奔走しているが、事業規模が小さい地方都市ガス事業者による1社の自助努力では限界がある。旗振り役を担うべき大手都市ガス事業者に加えて、政策的な広報活動も必要になってくるだろう。一方で、認知度を高めていくだけでは本格的な普及には到底至らない。そこで、二つほど課題があるだろう。

一つは政策面だ。厚木ガスが指摘するのは、「CN都市ガスによるCO2削減分の価値を、国内法である省エネ法や温対法(地球温暖化対策推進法)へ適用できるかどうか」だ。現状では、そのあたりの法律的な交通整理が未整備である。ユーザーにしてみれば、コストを掛けてCO2削減に貢献したのに、その評価を得られないのでは、意味がない。これからの政策課題となるだろう。

もうひとつは、エネルギー設備のエンジニアリングに関する課題で、特に大口ユーザーに当てはまることがある。需要家には、CN都市ガスの導入を選択するのか、電化にするのか、あるいはBCP(事業継続計画)の観点から電気とガスのハイブリッドエネルギー方式を望むのか、などさまざまなユーザーが存在している。その選択を決断するタイミングは、需要側の設備更新の時期と重なるケースが多いだろう。その際、それなりの設備のエンジニアリング力が求められていくはずだ。かなりの技術力を要する。「エンジニアリング力があって、エネルギーサービスを手掛ける大手事業者と連携することが不可欠になると考えています」(鈴木取締役)。

本格的な普及に向けて、まだまだ課題を残しているCN都市ガスではあるが、その取り組みはまさに今、地方を含めた業界大で始まったばかりである。

【特集2】CO2回収設備のニーズ急増 自治体連携で脱炭素時の地産地消を支える


【三菱化工機】

業界からCO2回収設備の問い合わせが増加中の三菱化工機。自治体の下水処理場ではメタンを製造して地産地消を支える。

都市ガス向けのガス製造プラント、LNGプラント、熱量調整設備、石油精製向けの硫黄回収設備など、これまで数多くのエネルギーインフラ設備を納入した実績を持つ三菱化工機。同時に水素製造装置、水素ステーション、CO2回収設備などCN時代を支えるアイテムも手掛けている。そんな同社にとって、いま大きな変化が起きている。

「昨秋の政府によるカーボンニュートラル宣言以降、全国の製造業のお客さまからCO2回収設備に対する問い合わせは多いですね」。三菱化工機の水素・エネルギー営業部の石川尚宏部長は話す。その声は化学プラント系を中心とした製造業に加えて、資源系エネルギー企業にも納入実績を持つことから、エネルギー会社からの問い合わせも多いそうだ。

CO2回収設備に対しては、要素技術としてPSA(圧力変動吸着)装置、分離膜、アミンを吸収液とした回収設備に取り組んできた実績がある。そうした中、顧客ニーズ、条件に合わせ最適な提案が出来るよう各技術のブラッシュアップを進めている状況である。

CO2の回収か再利用か 業界連携支える政策議論を

一方、吸着後のCO2処理が、業界の悩みの種だ。CN宣言が出された以上、そのCO2を野ざらしにはできない。

貯留か利用・販売か―。CCSのように地中に貯留するのか。あるいはCN時代の取り組みとして相応しい、CO2を原料とした「ケミカルリサイクリング」といったCO2純度を高めた炭酸ガス販売、あるいはLCO2(液体CO2)として販売するなどの手法が考えられる。CCSに加えてリサイクルについても、国による各種実証が始まっている。

「一民間企業だけで取り組めるものではありません。各企業が連携して取り組めるように、今後は国のエネルギー・産業政策としてリサイクルをどのように位置付けるのか、しっかりと議論してもらいたいですね」(石川さん)。

自治体連携深める 下水施設で地産地消

そんな同社では、いま自治体との連携にも取り組んでいる。ターゲットとしているのが下水処理施設における「未利用エネルギー」利用への挑戦だ。例えば福岡市では、下水処理施設で生じた消化ガスから水素を製造し、水素ステーション向けの水素利用に貢献する循環型のエンジニアリングを手掛けている。

また、石川県金沢市では、下水消化ガスからメタンを製造。同社納入の液ガス熱調設備で熱量調整を行った上で既存のパイプラインにガス注入する実証を展開。そのエンジニアリングを、設備納入という形で支えた実績を持っている。いずれの事例も自治体におけるエネルギーの地産地消を支えるシステムである。

昨今、多くの自治体がSDGs宣言を出す中、自治体の設備である下水処理施設を利用した取り組みは、注目に値する。同時に、既存のパイプラインインフラを活用する事例は、今後、都市ガス業界がCNへの取り組みを深めていくためにも、参考にすべき内容だ。

CN時代を支える水素ステーション

【特集2】LPガス業界が着手する脱炭素 持続可能性を追求し決断


【インタビュー:八木勉/アストモスエネルギー副社長】

日本初となる「カーボンニュートラルLPガス」調達が始まった。脱炭素に対する業界不安を一蹴すべく先陣を切ったアストモスの矢木副社長に話を聞いた。

―LNGに続きLPガスでもカーボンニュートラル(CN)商材が登場しました。日本での初輸入となったCNLPガスの概要について教えてください。

矢木 今回調達したCNLPガスは、オランダ石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルの子会社である「シェル・インターナショナル・イースタン・トレーディング社」(シェル)のカーボンクレジットを活用し、LPガスのライフサイクルで発生するCO2をオフセットしたものです。

 クレジットは、シェルが行った植林など海外での環境保全活動に由来するCO2削減量を、国際的な第三者認証機関が確認し、発行した信頼性のあるものです。

 クレジット価格は当社が負担し、シェルは、回収コストを原資にさらなる保全活動に取り組むことになり、温暖化防止サイクルの形成につながっていきます。

業界はCN化の実現性に不安 現実解を示すために調達

―当然クレジットの分、コストは割高になります。大きな経営判断ですね。

矢木 これまで、低炭素で社会に貢献できるエネルギーとして位置付けられてきたLPガスでしたが、昨秋の2050年CN宣言、今春の30年温暖化ガス46%削減目標発表で、一気に削減対象のエネルギーとされ、需要家、特約店をはじめ取引先の皆さまはLPガスの将来に大きな不安を感じているものと思います。

 一方、政府の「グリーン成長戦略」にもうたわれている通り、CN化が図れれば、50年においても相当規模のLPガス需要が残るとされており、現時点でもリアリティーのあるCN化の手段があることを業界内外に示すことでいい刺激をもたらすと考え、今回の調達を決定しました。

 また、CNLPガスの現物を用意し、具体的なマーケティングを開始することで、環境意識の高い潜在需要の発掘、顕在化が図れることも期待しています。

―CNLPガスはどのように活用されていきますか。

矢木 8月中旬に千葉基地に荷揚げし、本格的にマーケティングを開始しましたが、既に、多数の需要家や取引先の皆さまから問い合わせをいただいています。LPガスは品質が均一であり、元来、差別化が難しい商品ですが、CNLPガスには環境価値が付加されており、差別化商材としての販売が期待できます。また、特約店によっては、自社の優良顧客層の囲い込み策として、戦略的なサービス商材としてご活用いただく形もあると考えています。

―ほかのグリーン化の取り組みについての考えは?

矢木 CNLPガスはクレジットで相殺する名目的なものですが、国際的に認められたカーボンオフセット手段の一つです。ただ、LPガスそのもののグリーン化として、バイオLPガスや合成LPガス(プロパネーションなど)の技術開発、商用化の道筋も付けなければなりません。日本LPガス協会を中心に業界全体での取り組みが検討されていますが、当社としても産学、異業種連携、スタートアップ企業の発掘など、多面的な取り組みを展開したいと考えています。

―それぞれどのような課題認識でしょうか。

矢木 バイオLPガスは欧米で商用化されている前例もありますが、SAFやバイオディーゼルの副産品として生産量は数十万tレベルにとどまっており、LPガスを目的生産物としたプロセスの研究、実用化が必要です。国内のバイオ原料は、古紙や家畜ふん尿、下水汚泥、間伐材など、地方の実情に応じた廃棄資源が利用できる半面、原料調達面の制約から「地産地消」とならざるを得ず、地方に強い、LPガスの既存流通ネットワークの活用が可能です。

 LPガスは元来、分散型で需給調整機能に秀でたミドルエネルギーとしての特長があり、今後、普及が進む不安定な太陽光、風力などの再エネのバックアップ電源や熱源としてバイオLPガスを組み込むことで、地方のCN化との親和性をさらに高めることができると考えています。

―プロパネーションについては。

矢木 CO2とH2(水素)から炭化水素を作り出す技術で、石油産業で確立されているガスtoリキッドの技術が応用できると考えられます。ただ、ガス化技術はまだ基礎研究レベルで、ガス製造に至るための技術開発は、これからの段階です。

 50年以降もLPガスが顧客のエネルギー選択肢の中で存在感を発揮できるよう、LPガスの低炭素化、脱炭素化に向け、業界を挙げて早急に取り組むことが、われわれの使命だと思っています。

―輸送船のCO2削減にも取り組んでいます。

矢木 LPガスと重油の両方が使えるエンジンを搭載したデュアルフューエル(DF)船、「クリスタル・アステリア」号(川崎重工業製)が本年9月に就航しました。これも日本初の取り組みです。LPガス燃料は重油と比べCO2を約20%、SOXを約95%削減でき、航行中のGHG排出抑制につながります。また、産ガス国で積んだLPガスの一部を燃料に使うのでバンカーバージ船(燃料補給船)の手配が不要となり、機動的な運航が可能となります。

 IMO(国際海事機関)の環境規制も年々厳格化されてきており、今後ともDF船は世界的に増加していくと見られますが、当社としても高齢船のリプレースに合わせ、DF船など、技術革新に応じた環境対応船の投入を図っていき、輸送部門での低炭素化を実現していく方針です。

―政策要望はありますか。

矢木 今回調達したCNLPガスのクレジットは海外由来ということもあり、国内での省エネ法や、地球温暖化対策推進法、RE100企業でのCO2削減カウント(オフセット)には適用されず、需要家サイドでの数値的な評価に結び付き難い側面があります。CNは全世界的な取り組みであり、海外由来のクレジットの適用についても検討をお願いしたいです。

【特集2】業界展望編再確認したいLPガスの魅力 優位性を発揮して令和生き抜く


多様なセグメントで成立しているLPガスサプライチェーンには、さまざまな点で優位性がある。各分野で明るい業界展望に向けて、優位性を生かした現実解を示す動きが始まっている。

「災害に強い」「対面営業を主体とした地域密着型の事業」「環境に優れたエネルギー」とあまたの特長があるLPガスが、いま国のカーボンニュートラル(CN)戦略に揺れている。

業界戦略が不透明な中、人口減少に伴う需要減少やエネルギー間競争のあおりを受け続けるこの分散型エネルギーは、そのまま存在感を失うことになるのか―。

調達面の地殻変動 脱炭素LPガスの現実解

LPガスの調達面で、大きな動きがあった。元売り大手のアストモスエネルギーでは、脱炭素時代におけるLPガスの存在感を示そうと、「カーボンニュートラルLPガス」の調達に乗り出した。「大型運搬船1隻分のLPガス全てをシェル社のクレジットでオフセットした。約17万tのCO2削減効果に相当する」(アストモス)。

同社ではこれまでLPガスの海外貿易に取り組んでおり、その取扱量は世界最大規模を誇る。そんな取り組みが、今回のシェルとのスキームを実現させた格好である。

CNの取り組みは、他社へも広がっている。INPEXは9月、同じくアストモスとCN供給の売買契約を結んだと発表した。INPEXが、自ら操業する豪州イクシスLNGプロジェクトで産出されるLPガス(プロパンガス)のCO2を相殺するもの。INPEXが試掘から液化、販売、輸送、国内ユーザーの燃焼に至る全ての工程で発生するCO2を相殺する。

LPガスでも脱炭素を実現できる―。そんな現実解を示すことで、LPガス業界の存在感を高めていく。

究極のレジリエンス 再エネ共存果たす

サプライチェーンの下流面では、LPガスならではの特長を生かした、ユニークな事例が生まれようとしている。場所は太平洋に面した外房の地、千葉県いすみ市。市ではレジリエンス力を高めようと、LPガス発電設備による「マイクログリッド」の構築に向けて動き出している。有事の際に市庁舎周辺の小規模な電力ネットワークをオフグリッド化する。その際、エリア内のエネルギー自給率を完全担保するシステムだ。

そして、今回のエネルギー設備の核となるのがLPガス発電機なのだ。分散型としてのLPガスが、エリア内の電力供給を支える新しいシステムへと昇華されることになる。

さらに特筆すべきは、このオフグリッド内には発電設備として太陽光発電や蓄電池も導入されることだ。再エネの出力変動分を、LPガス発電や蓄電池によって需給調整する。突然曇り出して太陽光発電の出力が低下したら、瞬時に蓄電池やLPガス発電機が動き出して停電を回避する。 システムを構築する関電工によると、「再エネの導入量の拡大とともに、需給調整力の重要性がますます高まっていきます」としており、まさに再エネとの共存を図っていく取り組みだ。レジリエンス機能を高めるだけでなく、新しい「LPガスの在り方」を模索する事例となるだろう。

【特集2】バックキャストで考える LPガス事業の近未来像


【寄稿:角田憲司/エネルギー事業コンサルタント】

年を経るごとに事業環境の課題が顕在化するLPガス業界。コンサルタントの角田氏にLPガス事業の近未来像を考察してもらった。

「2050年、LPガスはどのようになっているだろうか」。今こう問うと、誰もが「カーボンニュートラル対応」を思い浮かべるだろうが、一年前は違う論点が想起されていたはずである。

それはLPガスの主たる供給地域である地方圏が人口減少・少子高齢化の進展に伴って縮退(シュリンク)し、それがLPガス需要の減少を加速させ、SS(ガソリンスタンド)や上下水道、公共交通機関などと同様に、地域インフラ事業として事業継続が難しくなっていることである。

一方でそうした地域ではLPガスは生活に必要不可欠なエネルギーであるから、ニーズがある限り供給を継続しなくてはならない。LPガスは災害対応の観点から「最後の砦となるエネルギー」と言われるが、地域の生活者の「最後の砦となるエネルギー」という自覚も重要である。

都市ガスと異なる業界特性 「地域供給」の健全な姿

この課題認識はLPガス業界関係者には共有されているものの、都市ガス業界が「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」を官民連携で開催したような「業界を挙げての対策検討」を行うことは、必ずしも容易ではない。なぜなら、同じようなガス体エネルギーを扱っていながら業界特性がかなり異なるからである。

例えば都市ガスの「在り方研」では、経営悪化による事業者の廃業問題を想定せず「全事業者が頑張りきる」ことを暗黙の前提としていたが、LPガスでは廃業などによる販売事業者の減少は「日常的な出来事」になっている。またLPガス販売事業者も、同業他社からの顧客獲得やM&A(合併・買収)などを通じて広域的な事業拡大をする大手事業者から、特定地域において需要減少に苦しみながら事業継続努力を続ける小規模・零細事業者まで多様であり、「LPガス事業の将来の在り方」に関する「業界大でのワンボイス化」はなかなか難しい。

とはいえ、「50年においても地域の生活者を支えるエネルギーであるために」という事業本来の目的を全うするために、考えるべきことは考え、やるべきことはやる必要があるのだが、現在から将来を見据える「フォアキャスティング」的な検討では、現実的な課題や課題解決に伴う利害関係調整の困難さに圧倒されてうまくいかない可能性が高い。

ゆえに「50年においてもLPガスが地域の生活者に健全な形で供給されている姿をクリアにし、その実現に向けて必要な対策を考え実行する」という「バックキャスティング」的検討が必要になる。またその際の「最優先の視点」は、「LPガス販売事業者の企業としての生き残り」ではなく、「地域におけるLPガス供給の健全な姿」である。これを業界で行ってもよいが、前述のとおり難しければ、地域の事業者が核となった地域単位での検討で構わない。

【特集2】究極のレジリエンスに挑戦 LPガスマイクログリッドを構築へ


LPガスの最大にして最高の特長は「分散型」だ。レジリエンスの特長を遺憾なく発揮するシステムを紹介する。

災害の度に、その復旧の速さから注目されているLPガス。この分散型エネルギーを活用して、さらにレジリエンシーを高めようとする動きが出ている。

千葉県・いすみ市で準備 有事にも電力供給を継続

2019年9月。台風15号によって千葉県は大停電に見舞われた。外房に位置する人口約3万7

000人の町、いすみ市(太田洋市長)も例外ではなかった。当時の記憶を今でも鮮明に覚えているという、いすみ市の市原正一・危機管理課長は「なぎ倒された木々が、電線や電柱を巻き込み、停電に見舞われました。幸い市庁舎は短時間の停電のみで、ロビーでは住民へスマホの充電などをサポートしました。もう二度とあのような経験はしたくないですね」と振り返る。10日間ほど停電を余儀なくされた地域もあったという。

太平洋に面しているいすみ市は津波被害のリスクがあるほか、山間部も多く、大雨災害時には土砂災害の対応も念頭に置く必要がある。今夏、関東を襲った豪雨では床上浸水の被害にも見舞われた住宅もあり、日々の暮らしの中に災害リスクが潜んでいるエリアだ。

そんないすみ市では、レジリエンス機能を高めようと、現在、東京電力パワーグリッドや関電工の協力を得ながら、新しいエネルギーシステムの構築に取り組む。東京大学の加藤孝明教授を委員長とし、三菱総合研究所の小宮山宏・理事長ら複数の有識者との議論を重ね、その結果生まれたキーワードが「マイクログリッド」だった。

マイクログリッド―。LPガス業界では馴染みのない言葉かもしれないが、端的に説明すると、限られたエリアにおけるエネルギー(電気)の自給自足を担保する仕組みのこと。有事の際には大規模な電力ネットワークから一時的に配電網を切り離し、そのエリア内の自立した発電設備などによってエネルギーを賄う。

11年の3月の東日本大震災では、大規模な電力ネットワークにつながっていたが故に計画停電を余儀なくされた地域もあったが、マイクログリッド下では、無縁だ。そして、今回のシステムの核となるエネルギーの一つが、LPガス発電設備なのだ。

「周辺は都市ガス導管が未整備で、普段からLPガスを使っています。LPガスは災害に強いエネルギーだと認識しています。スペースに余裕のある箇所にLPガスの電源などを設置して、避難所内のみならず周辺に面的に電力供給するマイクログリッドは有用です」(同)と、市原さんは期待する。

関電工がシステム構築 分散型の本領を発揮

エリア内のグリッドは、市庁舎や学校など30件ほどの施設(一部、一般民家も含まれる)で構成される。そして、一連のシステムは関電工が構築する(22年2月運開予定)。LPガス発電に加えて、市庁舎の屋上には太陽光発電を設置。さらに蓄電池も併設するトリプル発電方式だ。

太陽光発電を最大限に生かし、常に変動する再エネの発電量を、LPガスや蓄電によってグリッド内の電力需給を調整する―。まさに分散型としてのLPガスの特長を最大限に発揮する、究極のエネルギーシステムといえる。

【特集2】研修プログラムで特約店の人材育成支える 個の力を高めてチーム力向上につなげる


【ENEOSグローブ】

独自の人材育成プログラムを実施するENEOSグローブ。国家資格の取得支援では合格率100%の実績を持つ。

「LPガス需要の減少や環境対応など、業界は大きな課題を抱えていますが、未来を担う人材の育成は大きな課題だと考えています。当社としては、特約店の人材育成をサポートすることで、少しでも業界の課題解決につなげられればと考えています」。そう話すのは、元売り大手・ENEOSグローブ販売総括部の兼健太郎・販売総括グループマネージャーだ。

ENEOSグローブでは、特約店に対して、人材育成を目的とした研修プログラム「ENEOSグローブカレッジ」を毎年開講しており、今年度は70を超える特約店の従業員が受講している。

このカレッジは「一人ひとりの成長をチームの力に結集すること」をテーマに、組織の持続的成長のため、組織の要であるマネージャーと自律的行動と協働で成果を上げるメンバー各々の個の能力向上に必要なプログラムを提供。今年度は受講者の役割や役職に応じて階層を細分化した講座を設けた。区分けされた階層は経営層に近い部長や部門長クラス、組織の運営を担う課長、現場に近いリーダーや営業担当、そして新入社員―といったように細かく分けた。

細分化した背景を、佐々木洋江・アシスタントマネージャーはこう説明する。

「取り組む内容や日々考えていることなど、おのずと階層ごとに異なります。各階層に求められるスタンスやスキルに応じた研修内容を構築しました」

各階層が、人としての信頼に影響を与える「人間力(ヒューマンスキル)」から学習し、実践的な「仕事力(業務遂行スキル)」や「専門性(LPガス関連スキル)」を関連して学ぶことで、個々の能力を高め自律的に行動する人材として成長するための体系を構築している。その内容は「事業推進マネジメント」「人と組織のマネジメント」「営業プランニング力強化」「営業マインド養成」など多岐にわたる。

ほとんどのコースが参加型で、グループディスカッションやペアワークの場を設けるなど、プレゼン能力やコミュニケーション能力の向上も支えていく仕組みだ。

ドラッガー氏の教え 国家資格「完全合格」を支援

カレッジでは複数の外部講師を招聘しているが、中には「現代経営学」や「組織マネジメント」の考え方を生み出したP・F・ドラッガー氏から実際に薫陶を受けた講師も名を連ねているなど、豪華な構成となっている。

従前は集合形式で開催していたが、新型コロナ禍で、今年度のカレッジは昨年度から引き続きオンライン形式で開催している。移動が不要で時間が効率的に使えると受講者からも好評だという。また、懸念していた受講者間の交流にも問題はなく、オンラインでできない研修は無いということを実感しているそうだ。「特にグループワークでは、他社の事例を吸収しようと、皆さん活発にディスカッションしていますね」(佐々木さん)。

加えて、研修後に実務に戻って一定の期間を経た後、再び講師との1対1面談などの機会を設定。研修内容と実務とのギャップを埋めるためのフォローを、研修の一環として行うなど、手厚い人材育成となっている。これも、オンラインだからこそ可能な施策だ。

さて、ENEOSグローブカレッジには階層別研修とは別に「LPガス専門分野」というもう一つの柱がある。なかでも国家資格となる液化石油ガス設備士の資格取得サポートは、同社の取り組みの中でも特筆すべきものだ。この資格はLPガスの供給・販売現場では重要な資格の一つで、特約店にとっては欠かすことのできないものだ。そんな資格取得を、ENEOSグローブでは「合格率100%」の実績を持っている。

「試験日程1週間以上にわたって座学から実技まで、試験に必要な内容を研修センターで箱詰めになって学びます。13年から毎年実施していますが、おかげさまでこれまで受講者全員が合格しています。コロナ禍で、実施回数や人数が制限されていますが、全員に必ず合格してもらいたいとの思いで行っています」(兼さん)

多くの特約店や資格取得の支援など、さまざまな側面から人材育成に取り組んでいるENEOSグローブ。こうした姿勢は結果的に、消費者に向けて「安全で安心なLPガス」や「LPガスそのものの魅力」を伝えることにもつながっていく。

【特集2】狙うはエネルギー界のBtoB版アマゾン 機器受発注業務をアプリで一括管理


【日本瓦斯】

ニチガスは受発注管理をペーパーレス化するアプリを開発した。事業者・メーカー業務の高効率化で、業界のDX化を図っていく。

ニチガスは、LPガス事業者およびガス機器メーカー向けの製品受発注システム「タノミマスター」をリリースしている。このアプリは、ガス機器を導入する際に発生する受発注など、これまでメールやFAX、電話で行われていた一連の業務を一元管理しペーパーレス化する。今後は決済、請求書送付機能の実装を予定しており、事業者・メーカー双方で発生する、無駄な販売管理コストを削減する。

アイデアを考えたのは、同社の和田眞治社長。営業時代に自身が体感した、非効率な業務を改善できないかということが発想の原点にあった。和田社長は「BtoB向けのアマゾンを目指しています」と説明する。

タノミマスターの画面例

事業者間のやり取りを削減 ペーパーレスで業務効率化

ガス事業者がガス機器を受注する際、事業者とメーカーの間には大まかに、①メーカーの営業担当に発注、仕切価格を電話で交渉、②発注書類を作成しFAXやメールで送信、③納品日時の連絡、④請求書を作成しFAXやメールで送信―という工程が生じる。

事業者とメーカーが直接取引をする場合は工程数が少なくなるものの、その中間に卸業者がいる場合、メーカー、事業者双方の間のやり取りが増えるため余計に時間がかかり、さらに中間マージンが生じてしまう。

ガス機器メーカーも、在庫管理や総務などバックオフィス部門で受発注管理の作業が常に行われるなど、ガス事業者・卸業者・メーカー間で行われる業務は何かと煩雑だ。和田社長は「どの企業も手作業で行われる非効率な業務が多い。これが会社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を図る上での阻害要因になっている」と指摘する。

アプリにはリンナイ、ノーリツ、パロマ、パーパスなどの大手メーカーが参加しており、各社の製品をアプリ上で注文できる。

さらに、発注に加え納期の連絡、請求書の受け渡しを行えるほか、価格もガス事業者と機器メーカーで取り決めた、仕切価格に沿って設定させることも可能。今後は決済機能も実装していく。口頭やFAXで行われていた従来の業務を、完全にペーパーレス化することで受発注業務を効率化する。

ガス事業者だけではなく、機器メーカーにもメリットがある。紙ベースだった発注書類がペーパーレス化、電話やFAXのやり取りが減り、バックオフィス業務も少人数で済む。またアプリに参加することで、自社製品をウェブで受注するための社内システムを一から構築する必要もないなど、販売管理コスト低減にもつながる。

ラインアップ拡充も検討 修理・工事向けアプリも

データは、ニチガスが構築するブロックチェーンとX―Roadと呼ばれるエストニアの技術で安全に管理されるため、個社間で取り決めた仕切り価格などの情報が、ニチガスをはじめとする第三者に漏れる心配はない。

現在、アプリには前述の主要ガス機器メーカーに加え、ガスメーターメーカー、バルブメーカーが参加しており、今後は容器、工事機器などガス関連資機材に加え、キッチン回りの商材やエアコンなど、LPガス以外の商材も扱っていく考えだ。

さらに、同社はガス事業者と機器メーカーの受発注だけでなく、同アプリをベースにしたガス機器の工事依頼向けに「工事タノミマスター」、修理依頼向けに「修理タノミマスター」、機器の見積もりを行う「ミツモリマスター」などの関連アプリもリリースしている。業務全体のペーパーレス化に資するシステム開発を鋭意進めている。

「エネルギー業界の在り方が激変する中で、電力・ガスなど業界の境界がなくなりつつある。今後は事業者同士が共創することが大事で、タノミマスターをはじめとする当社の事業を、エネルギー業界のシェアリングエコノミーのツールとして、多くの事業者に活用してもらいたい」。和田社長はこう期待する。

DXプラットフォームの共創の輪を広げ、LPガス業界の業務改革を進めていく構えだ。