熟練技術者の人手不足など、悩みが尽きないエネルギーのインフラ業界。AI活用やデジタル化による高度な運用で悩みを解決する。
【大阪ガス】
埋設管位置をAIが判定する新技術 レーダーでインフラの無傷を目指す
道路の地下に埋設している水道管、下水管、電力・通信ケーブル、ガス管など、日々の生活や経済活動に欠かせない重要インフラ。その状況は、通信インフラのさらなる整備、無電柱化などへの取り組みに代表されるように、年々複雑化している。
道路を掘削するガス工事の際に、ガス管はもちろんのこと、ほかのインフラにも被害を与えてはならない―。そんな使命を胸に、大阪ガスが着目した技術がAIだ。このたび地中レーダーに関する「AI自動判定ソフトウェア」を開発した。
地下状況に応じた探査法 肝となる画像解析
大阪ガスによるガス管の工事現場では、図面情報、磁界で地下のガス管を探査するパイプロケーターと呼ぶ手法、さらに地中レーダーを使用するなど、状況に応じてさまざまなやり方で地下内部を探査している。
一方で課題もある。「埋設状況によっては、その埋設管を示す波形の判定が難しいケースがありました。より正確に波形を特定するには一定の経験が必要でした。そうした課題を背景に、波形の判定にAIを活用する仕組みを開発したわけです」。ガス管工事分野でこの道40年のベテラン技術屋、ネットワークカンパニー導管計画部R&Dチームの綱崎勝副課長は説明する。
レーダーの原理図
埋設管位置把握とAI判定―。このロジックを紐解くには少々複雑であり、まず地中レーダーの原理を知っておく必要がある。レーダーを使った地下探査の際、地上から地中に向けて電波を発射。探査レーダーの走査距離と電波の反射具合から、埋設されている深度を探り当てるもので、山なりの双曲線画像となっている(上図参照)。およそ1・4m程度の深度に埋設されているが、ここで描き出される画像が曲者なのだ。
例えば道路のアスファルトと土壌との境界面、埋設管が重なった場合、あるいは埋設管以外の大きな石や構造物が混ざってしまった場合、さらには粘性が高い土質で信号強度が低下してしまったケースなど、レーダーからの反射の波形が読み取りづらくなってしまう。このほか、地下水の状況によっても変わる。
こうした埋設環境の影響をもろに受ける電波を基に画像から正確な埋設管を読み取るには、綱崎さんのような熟練の技術屋が必要だった。
そこで、熟練者の経験値や頭脳をAIに学習させて画像を判定させようと取り組んだ。
AI活用の二つの方式 スパースモデリングの神髄
まず、大阪ガスが目を付けたのがディープラーニング方式だ。数万枚以上に及ぶ画像のデータから、埋設管の特長を学習させてパイプと非パイプを判定する。つまり数万枚の画像と埋設管を紐付けるわけだ。ただ、このやり方では必要な学習量が膨大過ぎるため、システム構築に時間がかかってしまう。
次に注目したのがスパースモデリングと呼ぶ技術だ。大阪ガスが出資するHACARUS社の技術で、これは目から鱗の仕組みである。綱崎副課長と共に同じチームで技術開発に取り組んできた中森裕明副課長は次のように説明する。
「やみくもに画像を覚えるディープラーニング方式ではなく、あらかじめ埋設管の波形をいろいろな数式を使って定義したのです。こうすることで少量の探査画像から埋設管の特徴を学習できます。また、AIが判定しやすくするために、画像の濃淡を調整処理することで波形画像がより鮮明になるよう工夫を施しました。結果的に、データ数は数百枚程度で済みました」
ディープラーニングとスパースモデリングの比較
技術開発の効果は歴然 水平展開にも期待
大阪ガスでは6月からこのシステムを導入して運用しており、AI以前と以後とではその効果は大きく改善された。
まず「AI以前」となる現場作業では、76%だった現場作業員による埋設管の検出率は、「AI以後」は89%となった。また実際に埋設管ではないものを余分に検出した割合は、36%だったものから8%へと大変な改善効果があった。
どうすればほかのインフラを破損させずにガス管工事を進められるか。そんな保安品質の向上を目指して進められた技術開発。一方で、「36%」の余分検出率からも分るように、地中を掘削しても、ガス管にたどり着けない、骨折り損になってしまう工事が存在していることも事実である。この技術を使うことで作業の出戻りを防ぐ「作業効率の改善」という意味でも、大きな価値はあるだろう。
保安品質と作業効率の向上を実現した大阪ガスの「スマート」な技術開発。他社への水平展開にも期待が持たれる。
「保安品質が向上します」と話す綱崎氏
【JFEエンジニアリング】
事業者ごとにカスタマイズ可能 管路・施設の維持管理に最適
日本国内のあらゆるインフラで、設備の老朽化が進んでいる。都市ガス導管も例外ではない。維持管理の重要性が増しているものの、保守点検・補修に関わる技術ノウハウは、作業者個人に依存している面が多く、熟練作業者が持つ属人化された技術の伝承が少子高齢化や担い手不足により進んでいない。一方、デジタルソリューションの導入に関して、事業者は業務の効率化や、事業継続の面で理解はあるものの、対象の絞り込みや活用効果の具現化が難しく、先送りされる傾向にある。
これまで、中小規模の都市ガス事業者で導入したシステムは大手事業者のシステムを利用していた。しかし、大手事業者のシステムは設備の大きいインフラ向けのため多機能であり、操作には専門知識を備えた人の配置が必要となる。運用面で中小規模の都市ガス事業者のニーズとミスマッチな部分もあることから、自らの運用状況に合ったシステムを探す事業者が多くいた。
中小事業者のニーズに応える 低コストで維持管理サポート
そうした事業者に向けて、JFEエンジニアリングは管路・施設保守点検システム「Panacea」を販売している。同システムはマッピングシステムの「PLM(パイプラインライブラリーズマップ)」、と保守点検電子帳票の「LANEX-Data」で構成されている。各事業者のニーズに応え、かつ低コストで運用に合った維持管理をサポートする点が強みとなっている。
Panaceaのシステム構成例
PLMシステムの地図上で維持管理に必要な多くの情報を一元管理できる。都市ガス導管の敷設位置はシステム上で座標管理されているため、正確かつ更新も容易だ。作業者はスマートフォンやタブレットを用いて、座標認識された現場でデータを入力できる。事務所にはクラウド経由で作業者の入力データをリアルタイムで共有できるので有事の際、迅速に対応が行える。さらに、地図上で電気や上下水道、通信など、ほかの工事に関する情報も管理できる。
パイプライン事業部流送設計部の畠中省三技術グループマネージャーは「工事を行う際に必要な埋没物情報は、電気や上下水道といった事業者同士で共有しています。この情報は、ほかの埋没物を破損させないためにも事前把握が重要です。これらを現場にいながらリアルタイムで確認できます」と説明する。
このほか、PLMでは、ハザードマップや断層、災害履歴を重ねて表示することができる。管路の安全制の見える化も可能だ。
LANEX-Dataでは、電子帳票を用いた保守点検が可能であり、データを一元管理できる。現場で報告書の作成ができ、事務所での作業を削減したり、日報を月報に変換するなど、書類作成業務を90%削減できる。さらに、複数箇所から同時にデータを共有・変更できるため、上司など管理者が同時に作業内容を確認し指示や承認を行える。
現場においては、作業効率化に加えて、点検漏れ防止や、精度向上などメリットがある。具体的には、QRコードを用いて電子帳票と点検作業を紐付ける方法がある。施設や工事など、さまざまな対象物に取り付けて連携することで、設備のカタログや取扱説明書を登録したり、即座に電子帳票を開いたり、電話をかけたりすることが実現する。
また、スマートフォンをメーターにかざすとAIが自動でゲージ値を読み取り、点検作業時間を短縮、読み取りミスを防ぐことも可能だ。メーター読み取りの際、あらかじめ設定したしきい値から外れたデータを取得すると、警告を出して運転状況の異常を速やかに知らせる。警告は作業員が確認できるのはもちろんのこと、関係者に自動でメール通知を行い、リスクの共有化も瞬時に可能だ。
ガス営業部プロジェクト営業室の加藤雄三氏は「各事業者へのヒアリングから、デジタル化に向けた動きは行いつつも、現状、多くの事業者が紙ベースでの維持管理を行っています。書類をデジタル化し、ネットワークを利用することで、効率化できることが格段に増えます。加えて、従来の書式と見た目をそろえ、使い勝手の良いシステムとしデジタル化へのスムーズな移行ができるよう構築しました」と話す。
日常点検データを分析 設備の健全性をサポート
都市ガス導管のEPC(設計・調達・建設)で国内トップの実績を持つJFEエンジはパイプライン操業用の「パイプラインSCADAシステム」や非定常流送解析「Win GAIA」などを多くの事業者に導入してきた実績がある。今回、こうした運転に関わるソリューションと合わせて維持管理作業者の運用面をサポートするPanaceaの導入を推し進めている。
さらに、事業者の設備の健全性のサポートも考えている。「例えば、お客さまのパイプでさび汁が出たら、対応策を考え、補修すべきかどうかなど、健全性の評価、補修計画の立案など維持管理支援を行います。」と畠中技術グループマネージャーはアピールする。
その他、日常点検で得られる腐食、割れ、振動、地盤変動や地震による変位などのデータを分析する。次に運転効率や流量・圧力、強度、防食状態、防振性、耐震性などの性能を設計思想に基づき評価し、劣化に対する適正な検査方法、補修方法の提案や補修施工などに対応する。
実際、Panaceaの導入を検討・構築を検討する段階では、都市ガス事業者によって維持管理運用方法がそれぞれ異なるため、「各事業者の作業員の視点に立った工夫が必要です。予算に応じ、事業者ニーズに合致した最適なシステムや通信機能が備わったものをご提案できます」(加藤氏)
Panaceaを裏側で支える同社の「グローバルリモートセンター(GRC)」の存在も大きい。同センターは全国の運営プラントのデータを集約・監視・遠隔運転できる機能を有し、廃棄物処理施設の完全自動運転を実現するなど、JFEの最新ITが集約された拠点となっている。Panaceaのデータ管理もGRCで行われている。
将来的には、同拠点を核に、AI・ビッグデータを活用できるデータ解析ツール「Pla’cello」など同社が有するITソリューションと連携・活用して、都市ガスインフラのさらなる高度化を推し進めていく計画だ。
スマホでメーターの数値を読み取る