【日鉄ソリューションズ】
電力の事業環境が不透明感を増す中、リスク回避が各社生き残りのカギだ。
日鉄ソリューションズが「リスク管理」システムを販売した。
ウクライナショックによって化石資源調達の不透明感が増し、さらには再エネ大量導入などによって電力卸市場価格のボラティリティが高まるなど、電力事業者にとって長期的な視座に立ち、かつ安定的な業務の遂行が日に日に難しくなってきている。とりわけ、自社電源を持たず電力調達を卸市場に依存する割合が高い中小の新電力各社にとっては、昨今電力業界からの「退場」を余儀なくされているケースも出てきており、業務におけるリスク管理への取り組みは、避けて通れない課題となっている。そうした中、情報システムの設計開発や運用業務を手掛ける日鉄ソリューションズ(森田宏之社長)が新電力会社向けに、電力取引・リスク管理業務を支援する「Enepharos(エネファロス)」の提供を開始した。
金融工学のノウハウ活用 「灯台」で近未来照らす
「ラテン語のファロス(灯台)を組み合わせた造語で、事業の道標となるようなサービスにしていきたいという思いから名付けました。事業規模が小規模~準大手規模の新電力会社様をターゲットに、主に“3年”という中期先の業務見通しの作成サポートを通じてリスク管理を支援できたらと思っています」。金融ソリューション事業本部営業本部の片渕将志さんは説明する。
金融部門と電力リスク―。二つの取り組みに一見、親和性のないように見えるが、さにあらず。もともと、同社では金融デリバティブ業務を支援しており、そのノウハウを使って2001年頃から、アルミや銅といった非鉄金属調達向けのリスク管理業務支援に関わってきた。「現物」取引とは異なる先物取引、スワップ取引といったさまざまなデリバティブ商品を組み合わせながら、リスク管理の最適化を図る経済行動をシステムによって支え、大手商社を含めた国内の名だたる企業に導入してきた実績を持つ。加えて、石油元売り向けの「石油先物」商品など、エネルギー企業向けにもシステム導入の実績を持つ。そうして培ってきたノウハウを新たな領域に生かせないか。そんな発想から、電力市場に目を向けた経緯がある。
新電力の課題改善に挑戦 中長期の事業計画を支援
Enepharosのサービスの中身をのぞく前に、現在、中堅どころの新電力は電力取引業務に一体、どんな課題を抱えているのか。同社が調べたところ、「リスク管理の専門知識を持つ要員の属人化が課題」「電力価格などを入力するファイルはExcelファイル。ファイルデータが巨大になってきていて、取り扱いが困難になりつつある」「部署ごとに異なるファイルを使っていて、部署間同士や、現場と経営層の認識に齟齬が生じている」といった共通の課題を抱えているケースが多く存在することが分かった。
そこでEnepharosは、①電力取引管理・リスク管理・事業計画をサポート、②電力規制やガイドライン変更に伴うシステム改変の柔軟性、③クラウド型システムで手軽に導入―の三つのコンセプトを掲げ、「卸契約管理」「電力需要予測」「JEPX取引管理」「先物取引管理」「スワップ取引管理」「ポジション・損益管理」「リスク管理」「マーケットデータ管理」といった機能を提供する(表参照)。

例えば、「来冬のスポット価格が高騰する可能性がある。先物を買う場合の事業損益はどうなるか」。そんな先物売買のシミュレーションを行う場合、価格高騰シナリオを入力→先物の入力→損益シミュレーションを高速ではじき出す―といった流れになる。システム内にはLNGや石油の先物やスワップ取引指標を登録できるようになっており、主に大手事業者が中心となって手掛けている化石資源調達関連の価格管理も、Enepharosのリスク管理機能の一環として内包している。
グループの先端IT活用 即時性・柔軟性高い計算機能
「小売り量を伸ばしたいが、調達価格が上昇した場合はどうなるか」といった見通しを出すことで、事業を拡大するか縮小するかの判断材料にも出来る。こうした機能は、経営層への報告書や銀行からの融資相談の際の事業計画を提出する際の資料作成負荷の低減にも役に立つ。
これらの機能設計には数学的な数理モデルが欠かせない。同社の強みは同じ金融関連のグループ会社の存在も大きい。データマイニングの世界的な競技会で上位入賞するなどの実績を持っていて、これらの技術力を活用したシステム設計を施している。Enepharosは人工知能やデータ解析に多く用いられているプログラミング言語やクラウドなどの先端ITを用いて開発された。
「普通にExcel計算していたら膨大な時間を要しますが、このシステムでは1日48コマの電力取引を、向こう3年間までの見通しを含めて高速計算ではじき出します。また、ユーザー独自の指標を計算に組み込むことも可能ですね」(同事業本部金融プラットフォーム事業部の石垣嘉津弥さん)

国の英知を結集して電力システム改革の議論を進めてきた一方、今、さまざまな「想定外」が事業環境を悪化させ、結果、数多くの事業者が“退場”している。こうした環境下で今後、公益事業者として求められるのは多様なプレイヤーが、長期的に、かつ安定的に業務を遂行し続けられるかどうか、だ。「リスク管理の重要性は日に日に増していると感じています。また、サステナビリティの観点から、今後、太陽光を含め、さまざまなエネルギーソースの活用が重要になります。日本における多様な電力ソースを活用した電力需給の安定化に寄与できれば幸いです」。同事業本部長の前原卓己・執行役員は最後にそう話す。
※1 Enepharosとそのロゴは、日鉄ソリューションズの商標または登録商標。その他本⽂記載の会社名および製品名は、それぞれ各社の商標または登録商標。
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