【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2023年1月号)


【JERA・トヨタ自動車/EV電池を再利用するスイープ蓄電装置】

JERAとトヨタ自動車は、リユースした電動車(HEV、PHEV、BEV、FCEV)の駆動用バッテリーを活用して、世界初となる大容量スイープ蓄電システムを構築し、電力系統への接続を含めた運転を開始した。蓄電池は、再エネ導入拡大に必要な調整力として、需要拡大が見込まれている。だが、材料となるコバルトやリチウムは資源に限りがあるため、使用済みの電動車用バッテリーからそれらを回収して、蓄電池として有効活用する技術が求められる。この事業では、JERA四日市火力発電所において、中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を行う予定だ。2020年代半ばに供給電力量約10万kW時の導入を目指す。

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ/ホンダの工場に最大規模の蓄電池と太陽光発電を導入】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、本田技研工業とHonda熊本製作所でのリチウムイオン蓄電池と太陽光発電の導入事業の基本合意契約を締結した。国内の工場向けでは最大規模となるリチウムイオン蓄電池(20MW時)と太陽光発電設備(屋根置き型1200kW、カーポート型800kW)を、初期投資の必要がないエネルギーサービス方式で導入。休日など発電量が電力需要を上回る時間帯に蓄電池を充電し、夜間に電力を供給することで、再エネ由来の電力を活用する。また、TGESが運営する遠隔監視センターから24時間365日監視を行い、予防保全に迅速に対応し安定稼働を図る。同社は設計施工・保守管理まで一貫したソリューションを提供していく構えだ。

【INPEX/ガス生産水素の利活用の一貫実証】

INPEXは、同社が保有する新潟県の東柏崎ガス田平井地区で「ブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験」を開始する。この実証では、新設の施設で、天然ガスを原料に年間 700 tの水素を製造する。水素輸送には、既存のパイプラインを使う。また、製造した水素は、アンモニア製造と水素発電に使用する。製造過程で発生するCO2は、国内枯渇ガス田の東柏崎ガス田平井地区の貯留層へ圧入する。CO2の大気排出を抑えたブルー水素・アンモニアにする計画だ。天然ガスでブルー水素・アンモニア製造、水素発電までを国内で一貫するのは日本初実証後は、ブルー水素製造プラントを建設し、2030 年ごろまでに商業化を目指す。

【日本ガイシ/Liイオン二次電池の残量を可視化】

日本ガイシは米国のオンセミ社と、超小型・薄型のリチウムイオン二次電池「EnerCera」の電池残量などを可視化する評価システムを開発した。システムには、オンセミがEnerCera専用に最適化した高精度で超低消費電力の電池残量監視ICを搭載。電圧や温度なども可視化する。デバイス動作時の安定性などが検証できるため、EnerCeraを利用したデバイスなどの開発時間の短縮が可能になる。EnerCeraはスマートキーや、スマートカードなどに採用されている。

【東北電力/水車検査を効率化 金属内部の欠陥を検出】

東北電力はグループ会社の東北発電工業と、金属内部の欠陥検出システム「3D-UTシステム」を開発した。水力発電所の水車の検査に使用する。システムは、従来の超音波探傷技術に「3D-UT」を加えた「3次元超音波探傷検査装置」と、欠陥を自動で検出する「自動欠陥検出プログラム」で構成。金属内部の欠陥検出精度が向上し、水車内部の状況を詳細に把握して適切な寿命評価ができるため、従来より長寿命化が実現。短時間で効率的な点検作業にもつながる。装置を小型化し、小規模水力発電所でも適用できる。

【大阪ガス/小型圧力調理器を開発 国内初のガス式業務用】

大阪ガス、Daigasエナジー、服部工業は、国内初となるガス式業務用小型圧力調理器「圧力調理器OPCH-40」を共同で開発した。2022年11月から受注を始めている。作業効率向上とランニングコスト・CO2排出量の削減、小型・低価格(税抜104万円)を実現。自動温調モードやタイマーモードの調理機能、立消安全装置や過熱防止装置の安全機能を持ち、圧力調理器に慣れていないユーザーでも簡単に使うことができる。業務用圧力調理器では初めて日本ガス機器検査協会から型式認定などの認証を取得した。

【東京ガス不動産/電力のCO2排出実質ゼロの都市型レジデンス】

東京ガス不動産が手掛ける都市型賃貸レジデンス「ラティエラ」が所有・管理戸数1000戸を達成した。同事業は2019年から首都圏で展開されており、22年11月には「ラティエラ大鳥居」と「ラティエラ武蔵小杉」が竣工。ラティエラ武蔵小杉の完成に合わせて、初のメディア向け内覧会が行われた。ラティエラ武蔵小杉は武蔵小杉駅徒歩7分に位置し、モダンなカラーでデザインされた居室は197戸。緑豊かな中庭と隣接した居住者専用の共同ワーキングラウンジや、電気自動車充電システムを有する。太陽光発電設備と東京ガスの非化石証書付電力「さすてな電気」を導入し、電力のCO2排出を実質ゼロとしている。同社は住み心地の良い豊かな暮らしの提供に寄与していく。

【ユーラスエナジーホールディングス/福岡県に系統用蓄電池の設置工事を開始】

ユーラスエナジーは、福岡県田川市内に系統用蓄電池の設置工事を始めた。風力・太陽光発電事業の実績を生かし、系統用蓄電池事業に参入する。出力規模1500kW、蓄電容量4580kW時のリチウムイオン電池で、電力系統につなぐ。電力の余剰時には蓄電し、不足時には放電することで、電力需給の安定化と再エネの導入促進につなげる。小売り電気事業者のユーラスグリーンエナジーを通じ、電力の調整力として活用する。2023年12月の営業運転開始を目指す。

【明電舎/最短の停電復旧を算出 高度な配電運用に寄与】

明電舎は東北大学、京都大学、中部大学と共同で、停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発した。停電時、周辺の供給余力で早期復旧するために、供給経路の切り替え手順を算出する。隣接する供給余力では足りず、遠くの供給余力も活用する多段融通にも適用可能だ。高度な配電運用が求められる中で、系統事故時の自動復旧などへ活用する方針だ。

【富士ガス/&LPG EXPO 2022開催 展示やセミナーで盛況】

富士ガス主催のプロジェクト「&LPG」初のエキスポが22年11月22日、東京国際フォーラムで開催された。LPガスの可能性を探り、災害対応や脱炭素化といった課題の解決を目指すプロジェクト。発電機・パラソルヒーターの実機の展示や、事業者・供給機器メーカーなどによるセミナーが行われた。来場者は300人を超え、業界内外への反響が期待される。

【三井E&Sマシナリー/次世代燃料エンジン 生産設備増強へ】

三井E&Sマシナリーは、船舶用次世代燃料対応ディーゼルエンジンの安定的な供給体制を整備するために、岡山県の玉野機械工場敷地内で二元燃料ディーゼルエンジン試験運転用の設備増強工事に着手した。脱炭素に向けて、従来燃料である重油よりもCO2排出量が少ないLNGやメタノールなどを利用する二元燃料ディーゼルエンジンへの転換の必要性が高まっている。同社は、玉野機械工場内に次世代燃料に対応した燃料供給設備や専用の試験運転台を増強し、脱炭素化社会の構築に貢献していく構えだ。

欧州エネルギー事情の今 窮地に立つイタリアとドイツ


【オピニオン】吉澤摩耶/欧州時事リポーター

 欧州、特にドイツやイタリアにとって昨今のエネルギー問題は、専門家同士の議論の枠を飛び越え一般人の日常会話の中でも語り合わずにはいられない、最もホットな話題の一つである。

私はイタリア在住の日本人である。昨今のエネルギー事情について、在伊の一般生活者からは何が見えているのか述べてみたい。

イタリアでの暮らしも7年を過ぎるが、現在はエネルギーの観点から見てかなり特殊な時期である。テレビをつければ、ガス代の高騰が叫ばれ、パンの値段を上げなければ町のパン屋が破綻するというニュースが続き、いよいよ自分たちの生活が脅かされてきたことを誰もが感じている(欧米人にとってのパンは、日本の米以上に食の基本となる食べ物であり、歴史を見ても貧しい人が唯一買うことのできた救いの食べ物だ)。パンに関していえば、ロシアとウクライナが小麦の原産大国であったため、原材料の入手が困難になっていること、輸送コストが上昇している事情も相まっている。

昨年の冬から既に始まっているガス・電気料金の高騰だが、おのおのが事業者と結んでいる契約書によってかなり個人差はあるように見えるものの、ひどいケースだと3〜5倍に上がったという話も耳にする。

職人の国イタリアが誇るさまざまな工場、生活の一部であるスポーツジムも昨秋より閉鎖の決定を余儀なくされている。パンデミック騒動の次のフェーズの問題は、ウクライナ戦争とガスエネルギーの枯渇による経済破綻にシフトした。

イタリアではチェルノブイリ原発事故、福島第一原発事故の後、それぞれ国民投票により、国の原子力発電所稼働に関する方向性の決議が行われている。結果はいずれも全面廃止。ところが、それでは自国でエネルギーを賄いきれず、フランス、スイス、スロべニアから原子力エネルギーの電気を購入する形を取っている。

現在も原発再稼働についてはデリケートな議論だが、仮に再稼働が決まるような事があっても、決議から実稼働まで最低10年はかかるため、差し迫る経済危機の解決策としては期待できない。

データを見ると、イタリアのエネルギー自給率は25%。日本の11%よりやや優秀だが、ヨーロッパにおけるロシア依存はドイツと共に極めて高い。ドイツに関していえば自給率は35%でやや高い(自国石炭が豊富なため)が、ロシア依存度が非常に高い。カーボンニュートラルが叫ばれる今日において、槍玉に挙げられている石炭が救いの手を差し伸べてくれているというのは皮肉な状況である。

イタリアでは政界も揺れており、期待のドラギ政権がまさかの不信任により政権交代。右派の女性首相メローニ氏が新たに手綱を取り始めている。

イタリア、欧州諸国は今年をどう乗り切っていくのだろうか。今後のエネルギーシェアについて、ヨーロッパ諸国は大きな岐路に立たされている。

よしざわ・まや 2011年慶応大学環境情報学部卒。父親が原子力発電事業に携わっていたため、自身も幼い頃からエネルギー問題に興味を持つ。現在はイタリアを拠点に活動中。

【コラム/1月13日】防衛費より巨額のGX資金 拙速な制度設計に異議あり


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

「GDP(国内総生産)の2%」という防衛費騒動の陰で、より巨額な「GDP3%」もの費用を伴うGX(グリーントランスフォーメーション)=「脱炭素」の制度が、公開の場でほとんど議論されることなく、導入されようとしている。

岸田文雄首相肝いりで政府が進めてきた「GX実行会議」は昨年12月22日、「GX実現に向けた基本方針」をまとめ、1月22日までの期間でパブリックコメントを募集している

基本方針やGX会議の資料は以下の通りだ。

GX実行会議HP https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html

GX実行に向けた基本方針(案) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/siryou1.pdf

GX実行に向けた基本方針(案) 参考資料 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/siryou2.pdf

政府は昨年末のわずか3カ月ほどの短期間に、官邸主導のGX実行会議でこの案をまとめた。しかし、審議会などの公開の場での議論はほとんどなかった。

同案では「安定・安価なエネルギー供給が最優先課題」とし、「原子力の最大限活用」を掲げた。ここまでは良い。

だが、政府は「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現し、脱炭素と経済成長を両立する、としている。そして、この投資を「規制・制度的措置」と政府の「投資促進策」で実現するとしている。

これは年間15兆円だから、実にGDPの3%である。防衛費よりも巨額の費用の話になっている。

そして、中身を見ると「再生可能エネルギーを大量導入する」(約31兆円~)、「水素・アンモニアを作り利用する等」(約10兆円~)となっている。

これは既存技術に比べて大幅に高コストだ。政府はこれを丸抱えで進める。研究開発、社会実装を補助し、既存技術との価格差の補塡までする。

これでは日本経済も高コストになり成長など望めない。

RITE(地球環境産業技術研究機構)の試算でも、2030年にCO2を46%削減するためのGDP損失は30兆円近くに上るとされている。「GX投資」をいくら増やしても、そのコスト負担のために最終消費が減り、輸出が減少するためだ。(下図参照)

RITEによるGDP変化の要因分解

負担は再エネ賦課金の数倍か 実質的なエネルギー増税へ

政府が「脱炭素と経済の両立」と言い始めたのは2009年の民主党政権にさかのぼる。当時の目玉は、太陽光発電の大量導入だった。だがその帰結として、いま年間3兆円の再エネ賦課金の国民負担が発生し、「経済の重荷」になっている。今の政府案は、これを何倍にもして再現するものに見える。

また、政府は投資に充てるため20兆円の「GX経済移行債」を発行する。これを新設の「GX経済移行推進機構」が運営する「カーボンプライシング」制度で償還するとしている。

カーボンプライシングとは、エネルギーへの賦課金とCO2排出量取引制度で、実質的にはエネルギーへの累積20兆円の増税だ。

だが、これは論理的におかしい。政府は新しい制度が経済成長に資すると言うが、ならば法人税や所得税などによる一般財源の増収があるはずで、それで償還できるはずだ。これは建設国債と全く同じ話である。新たな償還財源など要らないはずだ。

そして累積20兆円もの規模で特別会計のごときものを作り、その運営のための外郭団体である「機構」を設立するというのは問題だ。行政の本能として、この機構を維持・拡大するようになる恐れがある。そのためにカーボンプライシングが強化されるならば、これも「経済の足かせ」になる。

排出量取引は欧州が先行したが、失敗の連続だった。排出権割当ての制度変更が延々と続き、不安定で経済は混乱した。行政は肥大化した。なぜ、日本が追随するのか。

一連の新しい制度を通じて、政府はエネルギーの生産・消費に関連する投資に、ことごとく関与するようだ。だが、何に投資するか政府が決めるというのは計画経済で、経済成長は望めない。

以上のように、現行の政府案には、巨額の国民の財産が関わっており、重大な問題が山積している。

いま多くの事業者が政府からお金を受け取ろうとし、政府担当者はそれだけ予算を増やそうとしている。このため一連の制度設計について、必ずしも賛同していなくても、表立った異議の声はほとんど聞こえてこない。だが目先の利益ばかりを考えるだけではいけない。

国全体としてのエネルギー需給および経済の将来について、本当にこの制度設計で良いのか、真剣に検討すべきだ。

月末に始まる通常国会では、公開の場で大いに議論すべきだ。一連の制度の性急な導入は控えるべきではないか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「中露の環境問題工作に騙されるな! 」(共著)など著書多数。最近はYouTube『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』での情報発信にも力を入れる。

バイオマスタウンが次なるフェーズ 自給率100%目指す計画始動


【地域エネルギー最前線】 岡山県 真庭市

国内でバイオマス利活用の先駆者である真庭市が、エネルギー自給率100%のビジョンを掲げた。

発電所増設や地域新電力設立など、エネルギーも資金も地域内循環率をできる限り高める構想だ。

 エネルギー業界で木質バイオマスのパイオニアといえば、岡山県真庭市は真っ先に思い浮かぶ地域の一つだろう。「美作檜」で有名な日本有数の木材産業の中心地だ。交通の便は決して良くはないが、林業・木材産業活性化とエネルギー利活用のノウハウを学ぼうと、多くの人が見学に訪れる。

そのスタートは1992年までさかのぼる。全国的に林業の衰退が問題となる中、若手経営者主導で地域ビジョンを考える「21世紀の真庭塾」を立ち上げた。幹材だけでなく、未利用材の皮や枝葉なども使い切る「カスケード利用」をベースとした産業化に着手。これに行政も関わるようになり、2000年代から「バイオマスタウン真庭構想」が始まった。以降、息の長い取り組みとなり、バイオマス発電所、燃料材の集積所、チップ工場の運用などを官民連携で軌道に乗せてきた。成果が評価され、「バイオマス産業都市」や「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」など政府のさまざまなモデル地域に認定されており、22年度には新たに「脱炭素先行地域」に選出された。

発電所は運営順調 経済効果は52億円

この間、市はどのような仕組みを構築してきたのか。エネルギー利用の要となる真庭バイオマス発電所(1万kW)は、市や民間事業者、関連組合などが出資する会社が運営。市内や近隣地域の間伐材などをチップ化し、年間約11万tを利用する。「輸入材を使わないピュアな地産地消でこの規模のバイオマス発電所はほかには見当たらない」(市エネルギー政策室)と言う。地域内にはもう1カ所、民間単独で運営するバイオマス発電所(5000kW)も稼働する。

電気は全量FIT(固定価格買い取り制度)で売電し、年間売り上げは20億円強に上る。ここから逆算して燃料の単価を設定しており、平均1t当たり1万1000~2000円程度だ。材は地域の関係者が集積所に持ち込む。質の高い燃料材を多く集めるため、含水率の低いものほど価格を高く設定する。燃料購入費は約14億円程度で、一部は山林所有者に還元している。売電益や燃料調達、さらに関連施設での雇用や運搬事業なども含めると、バイオマス産業化により52億円の経済効果があったと分析されている。

このほか、一部地区の住民から生ごみを回収して液肥をつくり、農家らへの配布も進める。エネルギー利用面では、11年に建て替えた市庁舎の空調にバイオマスボイラーを導入。一部は購入電力も使うが、年間で電気代870万円程度の削減につながっている。昨今の電力高騰のあおりは避けられないものの、その影響は最小限にとどまっている。

これで歩みを止めず、今後は脱炭素先行地域の取り組みが本格化する。市は「既存のバイオマス発電所だけでエネルギー自給率は32%、ほかの再生可能エネルギーも加えると62%に達する。さらに発電所の増設や省エネの深掘りなどを図れば、自給率100%は目指せる」(同)と説明する。これは太田昇市長も公約として数年前から掲げるビジョンだ。

木質バイオマス発電所をもう1基建設し発電能力増強へ

先行地域で発電所増設 逆風下で新電力設立も

先行地域では、公共施設の電力の脱炭素化を進めるため、1万kW級のバイオマス発電所をもう1基建設する計画だ。つまり、燃料調達量を倍増させる必要があり、これをいかに低コストで安定調達していくかが課題となる。先行地域では再エネ設備導入に際し通常より手厚い助成を受けられるため、FITは活用できない。FITなしで、材の調達面を含め電気の安定供給体制の再構築が求められる。まずは、これまで未活用だった広葉樹林のチップ化や、早生樹である柳の耕作放棄地での栽培など、さらなる掘り起こしに挑戦する。

発電事業を軌道に乗せるには、新電力設立も不可欠になる。新電力経営にとって今が厳しい状況であることは百も承知。しかし、自給率100%のためには避けて通れず、民間のアイデアも吸い上げ、電気以外のサービスを絡めた展開を模索していく。例えば熱供給の事業化や、発電所への市民出資、地域ポイントの活用といった展開が考えられる。「電気代高騰は新電力経営には向かい風だが地産地消には追い風だ。シュタットベルケのような中心的企業をどう育てるかが重要になる」(同)

木質以外では、生ごみなどの資源化施設(年間処理能力3万6000㎘、液肥生産能力8000t)の整備も進め、24年度から稼働予定だ。従来の生ごみ回収エリアを広げて液肥生産能力を拡大しつつ、メタンガスを活用したバイオガス発電で自家消費も図る。このほか太陽光や蓄電池の設置、176施設のLED(発光ダイオード)化で省エネも深掘りする。

市は、バイオマスタウンの主目的はあくまで林業・木材産業の活性化であり、エネルギー利用などは副産物だと強調する。高性能林業機械の導入支援や林道整備などとの両輪で、地産地消をどううまく進めていくかが最重要課題だ。

30年もバイオマス政策を継続できた背景には、市民の意識も大きいようだ。例えば他の地域では敬遠されがちな生ごみ処理施設も、真庭では複数地域が立地に手を挙げる。さらに高校生から80代までが参加する「脱炭素市民会議」で、市民が自分事として地域ビジョンを考える取り組みも進める。市は「中山間地域には未利用資源とチャンスがまだまだある。これまで連綿と受け継いだ成果をベースに、先行地域のチャレンジで新たな付加価値を付けていきたい」(同)と強調する。

コロナ禍の「ウッドショック」で世界的に木材価格が高騰し、国内林業がフォーカスされたが、その波も一瞬で通り過ぎた。そうした時流に左右されずに地域を発展させていこうと、パイオニアの挑戦は続く。

“循環型経済先進国” オランダに教えられること


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】関口博之 /経済ジャーナリスト

サーキュラー・エコノミー=循環型経済をテーマにしたシンポジウムが2022年11月に開かれ、筆者もコーディネーターとして参加した。これまでのいわば使い捨ての経済ではなく、有限な天然資源は有効に使う、リユースやリサイクルを積極的に進める、そうして地球環境への負荷を減らす―。こうした循環型経済への移行には、エネルギー業界としても関心を持たざるを得ない。

そのサーキュラー・エコノミー先進国として知られるオランダで注目されている新たなキーワードが「リジェネラティブ」、日本語で言えば「再生」だという。環境を維持するだけでは不十分で、人間が壊した環境をもう一度人間の手で再生させる、こうした考え方は欧州全体で広がっている。

その代表例とされるのがオランダ・アムステルダムの「デ・クーベル」地区の再開発だ。元々、造船所や工場の跡地で、有害物質の土壌汚染にさらされ荒廃していた地区に、ヤナギや葦を植え、土をよみがえらせるところから取り組んでいる。今はまだ水耕栽培だが、野菜も作り始めた。運河に放置されたボートハウスは陸揚げされてオフィスに生まれ変わり、にぎわいも取り戻しつつある。負の遺産をプラスに変えてこそ未来型の経済という発想なのだ。

アムステルダムでは先進的な取り組みが行われている

そこまで一足飛びには行けなくても、オランダに学べることは多い。例えばリユース・リサイクルを最大限活用したビル建設。大手銀行が5年前に建てたオフィスやレストランの複合施設は木材が多用されている。しかも新築なのにフロアは取り壊された修道院の床、窓の木枠も解体された企業の社屋のもの、といった具合だ。しかも木材をまた再利用するときのことも考えて、接合はボルト止めで、接着剤は使っていない。関係者は「ビルはまさに(建材・素材を貯めておく)マテリアル・バンクだ」と表現する。エレベーターも利用回数に応じてビル側がメーカーに料金を払う課金制。こうすることで、メーカーに対しては長寿命の製品を作ることが安定収益につながるという動機付けになる。

「長く使う」というのは、ある意味大きな環境価値だ。オランダのメーカーが開発したスマートフォンは、ユーザーが自分で分解して修理できるという。カメラの機能が良くなれば本体を買い替えることなく、自分でカメラだけを交換しアップグレードもできる。使用済みの部品はメーカーに返却し、資源として再利用する。

さまざまな工夫やアイデアがオランダではなぜ次々に出てくるのか。サーキュラー・エコノミーの研究家で、オランダにも在住していた安居昭博さんは「learning by doing=つまり前例のないこともやりながら学んでいく気質や考え方だ」と指摘する。そこに参画するのは大企業だけではなく、スタートアップや市民、自治体との共創のプロセスでもある。

やってみて、そこからどうビジネスを回すかを考える。ともすれば始める前から躊躇しがちな日本はここから何を学ぶか、だ。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

念願の原発4基体制に 九電が「快進撃」開始へ


九州電力の玄海原発3号機(118万kW)が2022年12月に発電を再開した。川内原発1、2号機(各89万kW)は運転しており、玄海4号機(118万kW)も2月には稼働を始める見通し。九電は原発4基体制となり、供給不安を解消するだけでなく、企業としての競争力も他社を一歩リードすることなる。

安全対策設備・施設などの償却は必要だが、高稼働が続けば、原発は発電コストで圧倒的な優位性を発揮する。九電は工場など向けの産業用電力Aの電力量料金を10~12円にとどめている。原発稼働ゼロのまま値上げ申請をした中国電力の高圧電力料金とは、10円以上の差が開く。当然、エリア外への進出に本腰を入れるだろう。

九州経済への影響も見逃せない。熊本県では半導体受注生産の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が進行中。また、ソニーも同県内に半導体の新工場建設を検討している。安定・廉価な電力供給は、工場立地の決め手の一つとなったはずだ。

電力各社は燃料費高騰に頭を痛めている。それらをしり目に九電の「快進撃」が続きそうだ。

電気代負担軽減へ原発再稼働を 国民の実感なき補助金の愚策


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 11月28日の予算委員会で、岸田文雄首相と今般の経済対策を巡る議論を行った。物価高対策の目玉である電気代の負担軽減策について、岸田首相は「来年の春以降想定される値上げの平均値を想定して対策を用意しました」と答弁したが、これには誤魔化しの論理がある。

政府は燃油高対策として巨額の予算を投入しているが、国際的な原油価格はすでに落ち着きを見せ、今や日本にとっての燃料高の主因は円安となっている。そうした中で「来年の春以降想定される値上げ」とは、為替水準や国際情勢の緊迫化に伴って想定されるものでないことに注意が必要だ。

電力・ガス事業は全面自由化されたが、経過措置として電力にはまだ規制料金が残っている。燃料費の変動を料金に反映させる燃料費調整制度があるものの、制度が定める上限を超えて燃料価格が上昇した場合には対応はできない。結果、大手電力会社は今年度上半期の最終損益が軒並み赤字になった。それも東京電力は1434億円、東北電力は1364億円と膨大な額だ。

結局「来年の春以降想定される値上げ」とは、この赤字を埋めるための規制料金の新たな値上げ認可に伴うものなのだ。しかも、これまで申請をした電力5社の値上げ幅は3割前後。査定で圧縮されるにせよ、2・4兆円の予算を投じて行われる電気代補助もこの水準では相殺され、ほとんど値下げ実感のないものとなってしまう。タイミングも、予算投入の方法も愚策と言わざるを得ない。

原発再稼働でLNG抑制 燃料費1・6兆円節約も

私は、ウクライナ危機直後の国際的なエネルギー価格急騰の局面で、2・7兆円の予算を投じている再エネ賦課金の停止を行えば、このような政策は不要だったと考える。現在再稼働に向けた審査を受けている原発17基を即時動かせるようにすれば、LNG火力の燃料はざっと1700万tも削減され、1・6兆円の燃料費が節約されることになる。動いていない要因は「規制のあり方」なのだから、緊急時であれば政治の判断で暫定的な規制を導入して動かせるようにすればいい。

いずれも国会に法案を提出して法改正をすれば直ちにできるものだが、岸田首相に政治家としての覚悟も決断もなく、ましてや支持率が下がり、3人もの閣僚が辞任する瀬戸際の政権運営では、国民に実感もされず喜ばれることもないまま2・4兆円もの予算を消費する愚策を取るしかないのだ。

こうした私の指摘に対して、岸田首相は「ちょっと答えるのが難しい」と話すばかりだった。このようなエネルギー情勢の激変期こそ、骨太なエネルギー政策の転換が必要だ。まさに1973年のオイルショック時の田中角栄内閣はそうだった。今こそ、誠意のダイナミズムを取り戻さなければ、この国の衰退は止まらないだろう。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【マーケット情報/1月9日】原油下落、中国経済の回復懸念が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需要後退の見通しが広がり、売りが優勢となった。特に、ドバイ現物は前週比5.03ドルの大幅下落となった。

中国では、3年ぶりに渡航制限を撤廃するなどロックダウン政策を大幅緩和したものの、新型コロナ感染者が急増。経済と原油需要の回復に対する懸念拡大が弱材料となった。また、中国政府が1億5,400万バレル相当の石油製品(ガソリン、ディーゼル、ケロシン)の輸出割り当て枠を発給。国内の供給過剰を受け、前年比で約46%増となるなど、だぶつき感が現れた。一方で、輸出割り当ての増加にともない、原油の輸入需要が強まるとの見方も台頭している。実際、中国政府は今年2度目となる輸入割り当て枠を発給。合計で既に、前年の58%に達している。ただ、油価の上昇要因には至らなかった。

ロシアが同国原油の価格上限設定に対する禁輸措置を発表したが、強材料にはならなかった。IMFが米・欧州連合(EU)・中国の景気低迷を念頭に、今年は世界経済の3割が不況入りするとの見解を示すなど、需要の後退見通しと相殺される形となった。

週後半に、米国エネルギー情報局(EIA)が、ガソリンとディーゼルの在庫減少を発表したが、油価の上昇圧力は限定的だった。

【1月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.63ドル(前週比2.30ドル安)、ブレント先物(ICE)=79.65ドル(前週比2.45ドル安)、オマーン先物(DME)=77.23ドル(前週5.03ドル安)、ドバイ現物(Argus)=76.95ドル(前週比4.85ドル安)

再エネ事業者に負担軽減策 発電側課金は形骸化も


制度の趣旨は形骸化してしまうのか―。再生可能エネルギーの大量導入に向け、効率的な系統利用と増強を目的に2024年度の導入が予定されている発電側課金。ここにきて、資源エネルギー庁が再エネ事業者の負担軽減案を示したことが波紋を呼んでいる。

エネ庁の方針は、既に認定されたFIT/FIP(フィード・イン・プレミアム)について、調達期間中は課金の対象外とし、新規認定についても、調達価格の算定段階で課金による負担増加分を考慮するというものだ。

そもそもこの議論の発端は、再エネを中心とした分散型電源の立地による潮流の変化など、発電事業者が設備増強の起因者となるケースが増加したことを背景に、需要側が全て負担してきた送配電設備の費用について、発電側にも受益に応じた負担を求めることにあったが、「事実上骨抜きにされた」(業界関係者)形だ。

しかも、FIT切れと同時に課金によってコストが増えるとなれば、事業を継続しない事業者が出てくることは自明の理。学識者の一人は、「彼らのために引かれた送配電網だけが残ることになりかねない」と警鐘を鳴らす。

ガス識別技術やコロナ新知見 最先端の研究論文からの示唆


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

ビジネスチャンスは論文の中にもある。例えばガスを目に見えるようにするデバイスの原理実証だ。

さらにまだまだ終わらないコロナ禍。オミクロン株発生の謎や気をつけるべきこととは―。

 ガスを扱う業界の人であれば、ガス漏れが目で見えれば、とても便利になると思ったことは一度くらいあるのではないだろうか。

しかし空気やガスは目で見ることができない。黒い箱の中に煙を入れて空気の流れを見ることはできるが、空気を構成する窒素、酸素、二酸化炭素、水素の動きは見分けられない。ほとんどの気体は無色で屈折率が非常に近いため、人間が認識可能な光の屈折が起こらないためだ。

もちろん、ある種のトレーサー粒子(追跡子)を化学修飾して、一部の気体の動きを見ることはできる。しかしさまざまな前処理や、複雑で高価な実験セットアップなどが必要で、金と時間と手間暇がかかる。それでも見える気体の種類は限られている。

「構造色」で気体を識別 デバイスは簡単な構造

そうした中、2022年11月17日のAdvanced Science誌オンライン版に興味深い論文が掲載された。「Visualization of flow-induced strain using structural color in channel-free PDMS devices」というタイトルで、日本の物質・材料研究機構、米ハーバード大学、コネチカット大学の共同研究の成果だ。

PDMSデバイスに関する論文

構造色というのは、見る角度によって多様に変化して見える色のこと。身近なところでは、DVDが虹色にキラキラ見えるのが構造色だ。自然界では、モルフォ蝶、オパールなどでも見られる。DVDの表面を電子顕微鏡で見てみると、可視光の波長と同じような間隔で整然と溝が並んでいるが、この構造が光の一部を吸収して、残った光が反射して色になる。DVDを傾けると吸収する光の波長が変わるため、虹色に見えるのだ。

共同研究グループは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)という柔軟な材料を板状に成形し、片面の一部をアルゴンプラズマ処理し、その面をガラス基板と密着させるだけという非常に簡単な構造で、そこに流れる気体を可視化し、識別できるデバイスを作製した。

PDMSにアルゴンプラズマを当てると、表面に通常より数百倍硬い膜ができる。できた柔らかい面と硬い面という二重構造に圧力が加わると、最表面が変形して、周期的なひだ状の構造ができる。ひだの間隔が、可視光の波長に近い値を取ると構造色が発現する。

今回試作したデバイスでは、プラズマ処理したPDMS表面とガラス基板を密着させて、そこをこじ開けるように気体を流入させた時、気体の通り道だけが変形するようになっている。また、プラズマで処理していないPDMS面を固定することで、気体の通り道だけに圧力がかかる。これによって、気体が通った時だけ、構造色が発現する。この変形は温度が一定であれば、流れ由来の圧力という物理現象に依存するため、どのような気体であっても構造色が生じる。研究グループが詳細に検討した結果、構造色は気体の流量、粘度、密度に依存することが分かった。

実験では、6種類の気体(ヘリウム、ネオン、窒素、アルゴン、二酸化炭素、キセノン)を一定流量でデバイスに流入させた際に発現した構造色を撮影し、気体ごとに構造色の色強度を赤、緑、青、グレー(RGB平均値)について算出した。各気体の密度と粘度を色ごとにプロットすることで、気体を区別できることを示している。

つまり、気体の種類が既知であれば流量計として利用でき、また構造色が粘度と密度の両方に依存するため、それを利用した識別が可能になる。具体的には、流量を一定にして複数の気体を順次流せば、各気体の特性(粘度、密度)に応じて固有の色が発現するため、気体の識別に利用できる。これは密度の値が同じ複数の気体でも、それぞれの粘度の値は異なるためだ(粘度の値が同じでも密度が異なる気体でも同じことがいえる)。

これを利用して事前に多数の気体を測定し、学習データを取得しておけば、未知の気体の定性・定量につながる。低コスト・低エネルギーでの計測デバイスが実用化すれば、関連業界には大きな影響を与えそうだ。

いまだコロナの謎多数 変異や免疫持続の短さの訳は

後半は話題をガラッと変え、コロナ関連の最新知見を紹介する。コロナ禍も4年目に突入したが、最近、医学系の論文ではウイルス変異が話題になっている。武漢株では心臓や脾臓、肺などで壊死が起こるほど激しかった病状が、オミクロンでは非常に軽くなった。このこと自体は非常に良いことだが、これほどの大きな変異は人間の集団の中で感染ごとに発生する変異では説明できない。

この原因について、HIV患者などが300日以上、新型コロナに罹り続けたという症例が注目されている。体内の免疫システムが弱まっているためウイルスが長くとどまり、変異を繰り返すことで多様な変異株が生まれているという。また、長期患者に治療薬を投与したところ、一時的にウイルスが検出されなくなったものの、しばらくするとさまざまな変異株が出てきたという報告もある。オミクロン株は、こうした患者の体内で生まれたのだというのが、有力な説の一つになっている。

オミクロン株にシフトして弱毒化していることは確かだが、後遺症については武漢株と同様との報告が多い。またmRNAワクチンを含め、コロナの免疫については持続期間が短い。天然痘の免疫が数十年持続するのに対し、コロナ免疫は数カ月程度であるため、ワクチンを接種しても、また1回罹って回復しても感染する。この免疫持続期間の差は何なのか。明確な答えを、科学的根拠を持って示す論文は出されていない。

いずれにしろ、われわれの生活はコロナ禍以前に近づきつつあるが、感染リスクを減らすための取り組みを、改めて徹底することが必要だ。例えば、暴露するウイルス量の積算で感染確率は上がっていくため、飲み屋などでは2時間以内で切り上げることがリスクを減らす。また、若者は感染しても無症状の率が高いため、若者が多い店舗は避けることも、やはり大事な視点だろう。

〈科学新聞〉〇1946年創刊〇発行部数:週4万部〇読者構成:大学、公的研究機関、民間研究機関、科学機器メーカー、官公庁、自治体など

原油価格70ドル台に下落 問われる補助金の出口戦略


原油価格が急落している。各国の景気減速に伴う需要後退の見通しで、WTI先物は2022年12月9日時点で1バレル71ドルまで下落。21年12月以来の水準となり、関係者から「石油燃料への補助金の根拠が薄れた」と見直しを迫る声が上がっている。

政府は22年10月に総合経済対策を発表。補助金について23年9月末まで継続するものの、1月から「上限を緩やかに調整」し、6月からは「段階的に縮減」する方向を示している。石油業界の専門家は「出口戦略に道筋を付けたい経産省と、国民の支持を得ようと補助金を終わらせたくない政府のせめぎあいが見える」と分析。原油価格自体は補助金前の水準だが、当時より20円以上円安に振れており「段階的縮減は3~5円刻みとなるのでは」(石油業界専門家)と指摘する。

3兆円規模の補助金を巡っては、消費者の負担軽減や供給事業者の収支改善に一定の成果を挙げているものの、国家財政が厳しさを増す中、その費用対効果を疑問視する向きも出ている。政府が人気取りに走らず、補助金の出口戦略を着実に実行できるか注目だ。

LNG価格の下落見込めず 原発再稼働へ首相の実行力必須


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

世界的なLNG争奪戦は、2022年以上に激化する可能性が高い。

日本はサハリン2からの調達懸念もあり、原発再稼働の拡大が不可欠だ。

2023年も欧州から波及したLNG争奪戦は収束しそうにない。

国際エネルギー機関(IEA)は、22年を歴史上初めて「真の世界エネルギー危機」が発生した年だと位置付けている。天然ガスの多くをロシアからの供給に長らく依存してきた欧州は激しく動揺し、日本も大きな影響を被った。

22年の市場の動向を振り返ってみよう。欧州の天然ガス価格指標となる「オランダTTF」の先物価格は22年8月に、1MW時=340ユーロ超まで高騰し、連動して日本勢が調達するLNGの市場価格も大きく上昇した。

これに急速な円安進行が重なり、財務省の貿易統計によると、22年7~9月期のLNGの平均輸入価格は、前年同期と比べて約2・5倍に値上がりした。

TTF価格は、22年秋以降に急減に下落し、一時、100ユーロを下回った。危機は薄れたように見えるが、欧州各国がガスの貯蔵を進めた結果、貯蔵施設がほぼ満杯になり、需要が一時的に落ちているにすぎない。

この冬の間に貯蔵したガスの消費が進めば、貯蔵能力が回復し、需要も再び高まる。欧州連合(EU)はロシアの戦費調達を阻むため、ロシアからのガス供給を22年より絞る方針で、欧州のガス需給は23年の方がはるかに深刻になるとの見方が強い。

不測の事態により、欧州へのガス供給が突然、途絶するリスクもくすぶっている。22年9月には、

ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」で大規模なガス漏れが発生した。これを捜査しているスウェーデンの治安当局は、何者かによる破壊工作と断定している。

TTF価格に上限を検討 EU各国の足並み揃わず

EUは危機への対応策として、TTF価格に上限を設けることを模索している。ただ、加盟国の足並みは揃っていない。

EUの政策執行機関である欧州委員会が上限を275ユーロに設定する案を提示したのに対し、イタリアやポーランドなどは160ユーロ前後に下げるように要求している。一方、経済力のあるドイツやオランダなどは上限を設けること自体に反対している。

そもそも、上限価格を巡る議論が決着しても、実効性が保てるのか、疑念が付きまとう。

欧州委の提案では、TTF価格が2週間にわたり275ユーロを超え、かつ10営業日連続で、LNGの世界基準価格より58ユーロ高い場合にのみ、上限価格が発動される。この条件は、TTF価格が高騰に見舞われた22年8月の時点でも満たしておらず、欧州委の提案に沿って上限を設定しても有名無実化しかねない。

かといって、イタリアなどが提案するように上限価格を下げ過ぎると、需要の過度な拡大を招き、かえって安定供給が困難になるとの指摘が出ている。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想され、欧州はロシアからの天然ガスの供給減を補うために、世界からLNGを買い集める。こうした構図は23年も大きく変化しないだろう。

LNG需給は22年以上にひっ迫しそうだ

補助金は「痛み止め」 輸入価格の抑制策を

中国が「ゼロコロナ政策」を修正して景気が持ち直していけば、LNGの需要が膨らむ可能性もある。IEAは、世界各地で新たなLNG供給能力の開発が急がれているが、このうち23年に市場へ追加的に拠出される量は200億㎥にとどまる見通しで、需給は引き締まると予想している。

世界的なLNG争奪戦は、22年より一段と激化する可能性が高まっている。LNGの値下がりはとうてい望めない状況だ。

日本はどう対応するのか。抜本的な解決策は見当たらない。

政府は、23年1月から電気・ガス料金への補助制度を始める。月400kW時を使う家庭向けの電気料金の抑制額は、月2800円になるという。だが、政府の補助制度に対しては、市場メカニズムをゆがめ、望ましくないとの意見が根強い。政府の対策は、家計や企業の痛みを一時的に抑える「痛み止め」にすぎない。

現在、国民に要請している節電にも限界がある。また、LNGの輸入が滞る緊急時には政府自らが前面に出て、LNGの融通を図るといった対策を打ち出しているが、どれも決定力に欠ける。

さらにおぼつかないのが、潜在的なリスクへの備えだ。今のところ、ロシア極東の石油・天然ガス事業「サハリン2」からのLNG調達に支障は生じていない。

だが、日本の経済制裁に対するロシアからの報復措置という政治リスクは消えていない。サハリン2の中核を担っていた英国のシェルが離脱した後、ロシア企業が同じレベルのオペレーションを遂行できるのかとの懸念もある。欧米の経済制裁で、プラントの部品交換が難しくなり、生産に影響する可能性も指摘されている。

サハリン2からの輸入が滞れば、高値で市場からLNGを調達するしか選択肢はない。

高騰したLNGの輸入は、すでに日本から巨額の所得を流出させている。海外への所得流出は、国全体の経済の大きさを所得の面から計測した指標である「国内総所得(GDI)」を低下させ、企業や家計の負担増につながる。

日本経済の成長を考えれば、できるだけ輸入量を減らしていかなければならない。

短期的に実行可能な方策の一つは、原発の再稼働の拡大だろう。

西村経済産業相は22昨秋、「原発を1基動かすことは、(年間の)LNG使用量100万トンに相当し、その分を海外から買わなくてよくなる」と述べた。

これまで電力会社が原子力規制委員会に再稼働を申請した原発は25基で、このうち17基が安全審査を通過している。ただ、過去に一度でも再稼働した原発は10基にとどまる。安全審査をパスしている残り7基の再稼働が重要だ。

岸田文雄首相は22年夏に、この7基の再稼働について、「前面に立ってあらゆる対応を取っていく」と述べている。新しい年を迎え、その言葉の実行を求めたい。

飯田市が脱炭素先行地域に選定 地域マイクログリッド構築とDR推進


【中部電力】

 中部電力は長野県飯田市で、既存配電系統を活用した地域マイクログリッドを構築する。レジリエンス機能の強化など、マイクログリッドのモデルケースを目指す。環境省が募集した「第2回脱炭素先行地域」に飯田市と共同で計画を提案し、2022年11月に選定された。

脱炭素先行地域とは、50年のカーボンニュートラル実現に向けて、30年度までに地域特性に応じてCO2排出実質ゼロを目指す地域のことだ。全国からの応募を受けて、環境省が100の地域を採択する予定となっている。

災害時に停電が発生しても電力供給が可能

地域とともに挑戦 脱炭素とレジリエンス強化

中部電力は、地域マイクログリッドの構築による災害時のレジリエンス向上と、デマンドレスポンス(DR)の活用による地域の省エネ活動の推進に貢献する。

地域マイクログリッドを構築すると、系統からの電力供給が途絶えても、早期の供給再開が可能だ。災害時には、飯田市の川路地区に位置する既存太陽光発電施設「メガソーラーいいだ」と新設する蓄電設備、既存の配電系統を用いて小さな電力網を構成。避難施設となる川路小学校や川路保育園といった計6施設をはじめ、配電ルート沿いの住宅などへ電力を供給する。既存の配電網を活用することで、インフラ投資を最小限に抑える。今回の取り組みをもとに他地域への展開も目指しているという。

地域の省エネ活動の推進としては、中部電力ミライズが提供する家庭向けDRサービス「NACHARGE(ネイチャージ)」を活用する。再生可能エネルギーの発電状況や電力の需給状況に合わせて、節電や使用時間の変更などを要請。取り組み結果に応じて、ポイントを付与するサービスだ。エリア一丸となった省エネ活動を展開し、将来的には、ポイントと地域通貨を連携させることで経済循環を生み出し、地域活性化へつなげていくことも視野に入れている。

地域マイクログリッドは26年度以降の実運用に向け、22〜24年度に構築、24〜26年度に試運用を行う見通し。NACHARGEは23年度に制度設計し、運用する中で地域連携を拡大していく。

中部電力は地域と共に脱炭素化に挑戦し、新しいコミュニティーの提供や安心・安全で強靭な暮らしやすい社会の実現を目指す。

経産省がCPの方向性決定 炭素賦課金は28年度以降


経済産業省が、GX(グリーントランスフォーメーション)政策の一環としてカーボンプライシング(CP)の方向性を決めた。炭素賦課金は2028年度ごろから導入し、化石燃料輸入業者に対し炭素比例で課す。

12月14日のクリーンエネルギー戦略会合で決定

23年度から自主的な形で始める排出量取引は、26年度ごろから企業が削減目標を超過達成した分の取引などを本格化させ、33年度ごろから発電部門を対象とした有償オークションに移行。CPの二重負担を避けるため、発電事業者は炭素賦課金の対象から外れる。

経済界からは「経産省としては、岸田降ろしが本格化する前にCPの方向性を決めようとの考えだろう。表向きはCPに積極的なように見せているが、賦課金が始まる28年までは実害はなく、その間に欧米の政策が変われば調整も可能ではないか」と冷静な受け止めが出ている。

問題は、賦課金の水準と、石油石炭税など既存税制との位置付けの整理だ。CPの設計では、将来的な石石税やFIT賦課金などの負担減を見込み、炭素に絡む負担総額は増やさない考え。「そのためには原発36基の再稼働が必須条件になる」(同)。原発政策とセットで、今後CPの詳細設計がどう進むのか、要注目だ。

【覆面ホンネ座談会】先進国と途上国の亀裂深化 専門家がCOPを一刀両断


テーマ:COP27の舞台裏

温暖化防止国際会議・COP27では、議長国エジプトが音頭を取り、先進国が嫌がった「ロス&ダメージ(損失と損害)」基金設立に合意。そんな今会合を専門家が振り返る。

〈出席者〉A研究者  B有識者  C経産省OB

―まずは現地に行かれた方の印象を聞いていきたい。Aさんからどうぞ。

A 今回、「文化祭化」が著しくなっていた。各国の自主的目標設定に委ねるパリ協定という枠組みができて、COPの政府間交渉としての役割が薄まり、アピールの場になるであろうことは前から予想できていた。悪いことではないが、現実的な話が飛んでしまっていた。象徴的なのが化石賞。世界中から石炭を買い集めているドイツや、COP期間中に大幅な石炭火力増設を公言した中国は、今回一度も受賞していない。日本の化石賞受賞を大きく報じるメディアは、裏取り能力の無さを恥じた方がいい。

B 私は京都会議(COP3)の頃から十何年連続で参加してきたが、COP12辺りから行くのをやめた。優秀な人や知人が大勢現地に行っているので、自分が行かなくても大体動向が把握できるので。

A 年に一度の大同窓会という感じ。

B そう。なぜあんなに大勢集まるのかというと、まず環境運動家は運動資金をもらっているので、実績をつくらなければならない。大学の先生なども、COPで発表することが成果になる。そういう側面が多くて、だんだん学園祭的になっている。

ウクライナ戦争の影響端々に 途上国のしっぺ返し

―ウクライナ侵攻を機に、現実的なエネルギー政策の重要性が増す中での開催だった。Cさんも現地を訪れたが、感想は。

C 表面的にはクリーンエネルギー転換を加速すべきという議論が目立ったが、裏ではウクライナ戦争の影響が多方面に出ていた。一点目は、各国が今のエネルギー価格を抑えるため逆炭素税的な補助金を出し、中国やインドなどはどんどん石炭を燃やすなど、温暖化対策が逆行している。二点目は、エネルギー高騰で各国の懐具合が厳しくなった。途上国はさらに資金を引き出そうとするが、先進国もない袖は振れず、原則合意したロス&ダメージ基金は今後本当にどうするのか。三点目は、今回の合意文書に初めてエネルギーというヘッドラインができ、3段落目に「低排出エネルギーおよび再生可能エネルギー」が入った。「低排出エネルギー」はいろいろ解釈できるが、天然ガスやアンモニアなどとの混焼も含まれ得る。産油国の「目指しているのは脱炭素であり脱化石燃料ではない」との主張が入った。欧州は不満顔だったが、やはり再エネ1本での難しさが表面化している。

A その通りで、欧州がリードしてきた再エネ一辺倒には付いていけない、という動きが如実になってきた。各国の産業団が忌憚のない議論をするイベントがあるが、今回そこに欧州勢が軒並み不参加だった。「それどころではない」という状況だからだ。2021年秋からのエネルギー価格高騰は大問題なのに、炭素国境調整措置などばかり議論している欧州委員会への不信感が膨れ上がり、コミュニケーションも成立しなくなりつつあるようだ。このように構図が変わる時、日本が別の温暖化対策への貢献策を示せれば、と強く思った。

―EUと域内の企業、金融が一体的に脱炭素を進めてきた流れも変わるのか。

A COP26でグリーン投資加速に向けたGFANZ(グラスゴー金融同盟)が立ち上がったが、既に岐路を迎えている。GFANZから脱退する大手機関投資家も出てきて、金融業界の人も困惑していた。ESG(環境・社会・統治)投資のリターンが期待値を下回っていることもあって、今後どうなるかポジションが読みにくい。

B 金融業界もぐらついている。JPモルガンなどは割と大っぴらにGFANZへの懸念を口にするし、ブラックロックもESG重視と言いつつ化石燃料への投資停止はあり得ないと言っている。実はESGはそもそも、もうからない上に、右からも左からも攻撃を受けている。右側からは「左翼思想で年金の運用を決めるなど論外」との強力な反論。片や左側も「グリーン投資は見せかけだけ」などと批判する。こうした意見を全て聞いていては、誰もお金を預けようとしなくなるよ。

COP27では温暖化による損害に対する新たな基金設立に合意した