福島事故を機に原子力研究 安全運転の継続へ学術的に貢献


【中森文博/電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門主任研究員】

なかもり・ふみひろ 大阪大学大学院で博士号を取得後、2018年入所。燃料被覆管に関する研究を行う。また、1Fの廃止措置に関する研究を東京電力HDとともに行う、原子力分野の若手第一人者。日本原子力学会若手連絡会の副会長(企画)も務める。21年7月から現職。

通常運転時における燃料被覆管や1Fの廃止措置に関する研究を行う、電中研・中森文博主任研究員

大学院から原子力の研究に足を踏み入れた中森氏にこれまでのキャリア、今後の目標を聞いた。

 一緒に頑張りませんか?――この言葉が、電力中央研究所の中森文博主任研究員が原子力技術の研究に踏み出すきっかけになった。2011年3月、舞鶴工業高等専門学校専門科で電気・制御システム工学を専攻していた中森氏は、電気・情報系の大学院への進学を考えていた。進学先を検討していた矢先に、東日本大震災、福島第一原発(1F)事故が起きた。

ほどなくして、通っていた高専で開かれた大学院の説明会に福井大学大学院原子力・エネルギー安全工学専攻の福元謙一教授(当時)が来た。事故後、原発に対する世間のイメージは悪化していた。福元教授は、中森氏らに語りかけた。「われわれも今まで見たことがない事故が起きた。今後の事故対応や、原子力発電の安全性向上など、やらなければいけないことがたくさんある。何とかしなければならない。一緒に頑張りませんか?」

「君たちの世代で課題を解決してほしい、ではなく『一緒に』という言葉に引かれたんです」。福元教授の言葉に胸を打たれた中森氏は、福井大学大学院への進学、そして原子力技術を本格的に学ぶことを決意する。

当然のように親族からは反対に遭った。しかし、工学系の仕事をしていた親戚は「文博君がこれからやろうとしていることは大切な仕事だと思う。誰かがやらなければいけない」と背中を押してくれた。最終的には父と母も応援してくれた。

大学院では、燃料に用いられるウランを使用した研究に従事した。進学し、博士号を取得した大阪大学大学院では、福島第一原発事故によって生成した可能性がある燃料デブリの物理的性質の研究を行った。

「原子力を学ぼう、と決めてからは毎日、目の前のことをこなすことに必死でした」。原子力工学を学んだバックグラウンドを持たない「新参者」だった中森氏は懸命に研究を重ねた。福井大学大学院、大阪大学大学院の教職員をはじめ、多くの学友にも恵まれたという。「やっぱり、福島第一原発事故直後に原子力を研究した最初の世代なので、とにかく学生が不足していました。その分、先生方のお時間を使い放題であり、また先生方の責任や熱意も違いました。本当に人に恵まれていたと思います」

博士号を取得した後、18年から、電力中央研究所の原子力技術研究所で主任研究員として働く。

電中研では主に二つのテーマを研究する。一つ目は、燃料被覆管の微細構造の分析。3次元アトムプローブ装置を用いて、燃料被覆管に使用されているジルコニウム(Zr)合金を原子レベルで観察・分析する。この研究では、加圧水型原子炉(PWR)の燃料被覆管として使用されているニオブ添加ジルコニウム合金の照射によるニオブ分布の変化などを明らかにした。

二つ目は過酷事故時に燃料から放出されるセシウムと材料との反応性の評価。東京電力ホールディングスとともに、福島第一原子力発電所で使用されている塗料に沈着、浸透していると考えられるセシウムの性状を検討した。廃止措置や通常運転時の継続した安全性向上に資するため、通常から事故時の燃料と材料の挙動を学術的に取り上げる。

[3次元アトムマップ]照射によって形成されたナノレベルの原子の濃化(ナノクラスター)が観察されている

安全性向上が自分の使命 1F廃止措置に決着

10年前、原子力の「げ」の字も知らなかった中森氏は、今や博士号を取得し、電中研の主任研究員を務めるなど、原子力の若手第一人者になった。研究を続けていくうちに、原子力技術に対する使命感や責任感が日に日に強くなっているという。

「修士、博士時代にアメリカやドイツに研究で滞在したり、文部科学省から研究の支援をしてもらったり、教育にお金をかけてもらいました。それに見合うよう成果を創出し、後進につなげていきたいです」。事実、博士号を取得した大阪大学大学院で所属した研究室では、原子力に携わる日本人博士学生としては中森氏が約10年ぶりの採用だった。人材不足は、11年当初よりは解消傾向であるが、原子力技術研究の裾野を広げたいと常々思っている。幸い、同研究室で博士課程に進んだ後輩も現れた。

最後に、今後の目標を聞いた。中森氏は、定年までに福島第一原発の廃止措置に決着をつけるために、研究者として成果を出し続けることを挙げた。原子力発電に関する技術の安全性を学術的に担保することが役割だという。事故後に研究者としてのキャリアを歩み始めた中森氏には、達成目標に驕る、という考えは毛頭ない。定量的な指標を定める一方で、その指標がゴールだと思わずに研究を積み重ねる。継続した安全性の向上を追い求めることが、自分の使命だと覚悟する。

中森氏は日本原子研究開発機構が主催する研究者育成事業「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(英知事業)」のインタビューを受けた。後輩への応援メッセージには、「1Fの廃止措置の達成~『一緒に』頑張りませんか?」と記した。「福元先生のぱくりですよ」。笑って話すその姿は、頼もしかった。

太陽光開発などが影響か? 熱海土石流で浮上する人災疑惑


7月3日午前10時半ごろ、静岡県熱海市で未曽有の土石流災害が発生した。長引く大雨の影響で伊豆山上部の盛り土が崩落。海岸へと続く逢初川を大量の土砂などが流れ落ち、瞬く間に人や家屋を飲み込んだ。報道などによると、7月20日現在、死者19人、不明者9人で、被害を受けた家屋は約130棟に上る。

熱海土石流の発生現場から下流を望む。右側にZEN社の太陽光発電所

「今回の災害は人災だ」。多くの専門家や地元関係者は、異口同音にこう指摘する。というのも、崩落現場(伊豆山赤井谷)にあった人工の盛り土が大雨によって岩盤ごと崩れ落ちる「深層崩落」が発生。大規模な土石流となった可能性が高いとみられているからだ。

問題の盛り土は、2006年9月21日に同土地の所有者となった不動産関連企業の新幹線ビルディングが宅地開発を目的に造成。同社の破綻を受け11年2月22日に熱海市がいったん差し押さえ、3日後の25日に現所有者である麦島善光氏の手に渡った。その後、現在までの約10年間にわたって事実上放置されていたもようだ。一部では、盛り土が県条例に基づき熱海市に届け出られた計画の高さ15mを超え、50m近くになっていた可能性も指摘されている。

加えて、崩落との因果関係が指摘されているのが、盛り土現場の南西側すぐ隣にある大型の太陽光発電所だ。ネット上では災害直後から「適切な雨水対策が講じられていないように見受けられる」「防草シートなどによる保水力の低下が原因では」「発電所上部が盛り土現場よりも高い場所に位置するため、大量の水が流れ落ちて崩落につながったのかも」などと指摘する声が上がっていた。

太陽光発電を巡る疑惑 所有者側は関連否定

実は、この発電所の土地所有者も麦島氏である。同氏が役員に名を連ねるZENホールディングス(東京都千代田区五番町)が13年10月に、「46・2kW×11件(合計508・2kW)」で固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定を受け、発電所を開発・運営している。気になるのは、厳しい安全規制が適用されない「低圧分割案件(17年度からFITの適用除外)」として制度の抜け穴を利用していることに加え、県の土砂流出防備林保安林指定区域とみられる地域に立地していることだ。県が開発を認めているため違法とはいえないが、事実なら県の責任も問われる可能性がある。

こうした疑惑に対し、麦島氏の代理人はいち早く「発電所内の雨水は、盛り土とは反対側の斜面に流れるように設計されている。崩落との関係はない」と否定。また盛り土自体についても「麦島氏は10年前に盛り土の土地を購入してから、一度も手を加えたことはないと言っている」などとして、火消しに躍起の状態だ。

ただ災害の前まで、盛り土付近をトラックなどの重機が頻繁に往来していたと証言する住民も。また崩落現場周辺では、麦島氏と関連のある別の企業が大型太陽光発電所の建設を計画していることも本誌の調査で判明した。果たして実態はどうなのか。(本号28頁の「調査報道」で詳報)

【コラム/8月2日】第6次エネルギー基本計画論序説


福島 伸享/元衆議院議員

 7月21日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で、第6次エネルギー基本計画の素案が公表された。私は、今年2月の「これでいいのか、第6次エネルギー基本計画」と題したコラム(https://energy-forum.co.jp/online-content/3974/)で、

【第5次エネルギー基本計画は従来の電源構成に焦点を当てた基本計画とは異なり、日本の産業構造全体の中での将来のエネルギー産業の姿を描いた革新的なものであること、技術や金融といったこれまでのエネルギー政策のツールとして中心的に捉えられてこなかった分野に焦点が当てられていること、などを指摘し・・・この路線を引き継いだ、革新的なエネルギー基本計画が策定されるのかどうかが、第6次エネルギー基本計画の見どころである】

と指摘してきたが、全体を通じて読んでみると、残念ながら革新的なものにはなっていない。今回のコラムでは、第6次基本計画の中身そのものへの評価の前に、その前提条件についていくつか思うところを述べてみたい。

 「はじめに」を読むと、冒頭東日本大震災及び福島第一原発の事故への言及がある。これは、ここ数次のエネルギー基本計画での通例ではあるが、さらに本文でも「東京電力福島第一発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策の再出発を図っていくことが今回のエネルギー基本計画の見直しの原点となっている」としている。

確かに、福島第一原発事故で明らかになった原発の「安全神話」を反省した規制のあり方の見直しや、同原発の廃炉、福島の復興への支援などは重要な政策課題である。一方、基本計画の根拠となるエネルギー政策基本法では、第12条で基本計画は「エネルギーの需給に関する施策」に関するものであるとされている。簡単に「反省と教訓」と言っているが、福島第一原発の事故が、日本のエネルギー(・・・・・)()需給(・・)()関する(・・・)政策の何の問題を浮き彫りにし、どのような方向性を示したというのか。この計画では、何ら実証的、論理的に示されていない。まさか、「原発は危ないから頼るのはやめましょう」という、俗耳に入りやすい情緒論ではあるまい。福島第一原発の事故が「エネルギー政策の再出発」と書きながら、この点が明確でないことが、第6次エネルギー基本計画が何を目的とした計画なのか、その性格を歪める原点となってしまっている。

「はじめに」で次に出てくるのは、「気候変動問題への対応」である。これも、昨今の国際状況を踏まえると、見逃すことのできないエネルギー政策上のテーマであるが、果たしてエネルギー政策上の主役に位置付けるべきものなのか。エネルギー政策基本法では、第2条で「安定供給の確保」、第3条で「環境への適合」、第4条で「市場原理の活用」という順序で、エネルギー政策の理念が列挙されている。立法時に、環境が先か市場原理が先かはかなり激しい議論が繰り広げられたが、「安定供給の確保」がエネルギー政策上の第一の目的であることは、誰しも否定する者はいなかった。言うまでもなく、小資源国の我が国にとって、いかにエネルギーの安定供給を実現するかが国家の要諦であり、環境問題の制約にいかに対応するか、効率的な供給をいかに実現するかは、それに従属する政策課題である。

「気候変動問題への対応は、これを経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会として捉える時代に突入し」たと書いてあるが、あまりに楽観的に過ぎるのではないか。当然、各国の持つ資源の状況、地政学的条件、現時点での技術力や産業競争力などは異なる。それぞれの国に、それぞれの領域での強みと弱みがある。そうした中で、国家の存亡をかけて、気候変動問題というパラメーターを使って、国家の基盤であるエネルギーの安定供給を競うゲームをしているのが、世界の現状なのではないか。そもそも、エネルギーの安定供給なき国に、「成長の機会」などありえない。

気候変動問題への対応は、環境省、外務省など他省や政府全体でも取り上げるべきものである。一方、エネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画は、我が国のエネルギーの需給に関する政策を示すもので、資源エネルギー庁以外で責任をもって構築できる省庁はない。「はじめに」の「日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服」に書かれている、エネルギー設備の高経年化や自然災害の問題、電気料金の高止まりは、日本のエネルギー需給構造の本質的な問題ではない。結局のところ、第6次エネルギー基本計画は、そうした本質的な問題には踏み込まず、政権からの目先の政治的要請とメディアが注目する点に応えようとするに過ぎないものになってしまっているのではないか。

この基本計画を読んでいるとそもそも、エネルギー基本計画とは何のためのものなのか、我が国のエネルギー政策の目標とは何なのか、資源エネルギー庁の役割とは何なのか、という根源的なところが日本政府の中で曖昧になっていることに、大きな危機感を感じざるを得ないのである。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【マーケット情報/7月30日】原油続伸、燃料需要の回復を好感


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場は、燃料需要の回復を好感した買いが強まり、主要指標が軒並み続伸。7月30日時点で、米国のWTI先物はバレルあたり73.95ドル、北海原油の指標となるブレント先物は同76.33ドルまで値を戻し、いずれも同月13日以来の高値を付けた。

新型コロナウイルスのワクチン普及を背景に、経済活動が徐々に回復。移動規制の緩和によって、ジェット燃料やガソリン等の輸送燃料に対する需要が改善しつつある。そうしたなか、米国では製油所の稼働率が落ちたこともあり、ガソリンと軽油の在庫が減少。さらに、原油在庫の減少も続いていることから、石油製品の需給逼迫を懸念した買いが強まった。

米エネルギー情報局が発表する最新の週間在庫統計によると、同国の原油在庫は9週連続で減少。5月半ばと比べると、5,000万バレル以上も減少している。生産と輸入の減少が背景にある。米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内石油ガス掘削リグの稼働数は488基となり、前週から3基減少。減少を示すのは、6月上旬以来、約2カ月ぶりとなる。

他方、インドでも石油需要の回復が予想されている。国営石油BPCL社とMRPL社は、9月または10月以降、製油所稼働率を100%まで引き上げることを計画しているもよう。現在は85~90%で稼働していることから、実現した場合は原油需要の増加が見込まれる。

ただ、新型コロナウイルスに対しては変異株の感染拡大に対する懸念は根強い。また、サウジアラビアとロシアの8~9月産油量が増える見通しであり、価格の上昇は幾分か抑制された。

【7月30日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.95ドル(前週比1.88ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.33ドル(前週比2.23ドル高)、オマーン先物(DME)=74.03ドル(前週比1.32ドル高)、ドバイ現物(Argus)=74.54ドル(前週比2.15ドル高)

【省エネ】脱炭素での需要対策 国交省が担う重責


【業界スクランブル/省エネ】

2030年46%削減や50年脱炭素社会実現のためには住宅、建築物、街づくり、運輸、物流における徹底的な省エネ、再生可能エネルギー導入、脱炭素化が不可欠である。日本の産業競争力維持の点からも、30年までに工場などの産業部門の排出量半減は困難であり、その未達分も含めて、民生・運輸部門が大幅に削減する必要がある。当然、誘導施策では達成不可能な水準であり、従来とは次元の異なる建築規制強化などを実施せざるを得ない。これらの所管は国土交通省である。また、国の率先行動の観点からも、国交省の官庁営繕部が、CO2ゼロの新築官庁建築、建物・官舎改修、ゼロエミッション工事を先導する立場にある。

海外の先進規制事例でも、新築建物の断熱強化やPV・EVコンセント設置義務、m2当たりのCO2排出量規制、燃焼暖房禁止、ガソリン車の新車販売禁止などが進んでいる。関連機器などの市場拡大・価格低下効果は、導入補助事業よりも標準化規制の方が大きい。

政府の地球温暖化対策計画にも挙げられている通り、民生・運輸部門ではさまざまな取り組みが行われているが、国交省の規制強化こそが根本的かつ確実な対策といえる。一方、規制措置は影響が大きいことから、早期に具体方針を示し、十分な準備期間を設ける必要がある。当然、規制コスト増への対策も必要だ。例えば、自治体の建築確認申請手数料を引き上げ、審査体制を強化することも必要となる。また、中小工務店などへの習熟プログラム強化や、縮小業種の業種転換支援策(PV設置工事の技術講習など)も必要だ。

国内のZEB、ZEHなどの建築規制強化は、日本の建築技術力向上・メーカー技術力向上にも貢献し、C&T制度や炭素税のように国内産業界の競争力低下影響の懸念もなく、導入支援補助事業などよりも優先して取り組むべき課題である。この困難な規制措置実現のために、多くのハードルを越えるのは国交省の重責である。つまり、日本政府の温暖化目標が達成できるかどうかは、エネルギー供給側は経済産業省、需要側は実質的に国交省の努力が必須となる。(Y)

【住宅】太陽光の設置義務化 個人の自由束縛か


【業界スクランブル/住宅】

昨年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて国土交通省でも「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が進行中である。21年5月開催の第3回の資料「今後の取組のあり方・進め方」を筆者なりに解読した結果を述べる。

まず、「住宅・建築物における省エネ性能の底上げ」については、「省エネ基準適合義務化を進めることについては各委員とも同意見」「義務化に際して財産権や職業選択の自由等の侵害とならないよう丁寧な制度設計が必要」などの記述があり、「省エネ基準適合義務化」に関しては、やるやらないの議論ではなく、どのように実施するかの次元に入ったとみるのが妥当であろう。

一方、「再エネ・未利用エネルギーの利用拡大に向けた住宅・建築物分野における取組」については、「太陽光発電設備の住宅等の屋根への設置を義務化すべき」「少なくとも新築住宅には義務化をしていくべき」という賛成意見と、「設置の義務化は慎重に検討すべき」「義務化すると個人の負うリスクが顕在化する」という反対意見が二分しているとの印象を受けた。現時点では、太陽光発電の設置義務化までは時期尚早との判断に落ち着くだろう。

ただ、この夏にまとめられるエネルギー基本計画見直しの結果が非常に気になる。国レベルのカーボンニュートラルは、ありとあらゆる分野の努力を結集しないと実現できない高い目標であり、やや暴言になるが個人の自由をあるレベルで束縛しないと実現できないと筆者は考える。

エネルギー基本計画では、CO2削減でカバーできない部分はCO2固定などの要素も加えて帳尻を合わせると推定しているが、50年に向けては、各分野でさらなるCO2削減量の積み増しが必要になってくる。その際には、「カーボンニュートラルは、個人の自由束縛、負うリスクをどの程度まで許容して、実現すべきか」という、より深いレベルでの有識者の検討を期待する。(Z)

【太陽光】達成は非常に困難 30年の46%削減


【業界スクランブル/太陽光】

4月22~23日に行われた米国主催のオンライン形式による気候変動サミットにおいて、40カ国の首脳が地球温暖化防止に向けたビジョンと目的を示した。地球の気温上昇を2050年までに1.5℃に抑えること、地球は極めて深刻な事態にさらされているという共通認識が確認された。

菅義偉首相は、日本政府は30年までに温室効果ガスの排出量を13年比で46%削減すると述べた。これまで日本は26%削減目標を表明していたことを考えると、非常に野心的な目標設定といえる。また、日本は国連の緑の気候基金に最大30億ドル(およそ3300億円)を拠出することを明らかにした。こちらはお金の工面なので全く先が見えないことはないだろうが、排出量46%削減目標の達成は容易ではない。

これまで、総合資源エネルギー調査会では、第6次エネルギー基本計画策定の基本方針として、50年カーボンニュートラルを見据え、30年削減目標26%をマイルストーンと位置付け政策検討を重ねてきた。それが政策主導とはいえ、いきなり2倍弱の目標を突き付けられ、従来の検討ストーリーが覆ってしまった。

カーボンニュートラルに向けての有望株としての洋上風力、火力+CCUS(CO2回収・利用・貯留)、水素・アンモニアなどのゼロエミガス火力には大いに期待したいが、削減目標を26%としていたときでも、30年の目標をなんとか達成できる再生可能エネルギーは工事期間の短い太陽光発電しかなく、それでも目標を達成するのは容易ではないため、さまざまな規制緩和を含む政策支援が必要なことが示されていた。

今回の政府の決定を受けて、一部からは、原子力発電の再稼働・稼働期間の延長、さらにリプレース・新増設を求める意見が表明されているが、国民の合意が得られる見込みは低い。首相が表明した新目標をどのように達成するか、政府は具体策を示しておらず、環境省、経済産業省、国土交通省を含むあらゆる省庁と企業、業界団体が一致協力して明確な道筋を早急に示す必要がある。(T)

【マーケット情報/7月23日】原油上昇、燃料需要増加への期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。燃料需要回復への期待感が、価格の支えとなった。

欧州では、夏季休暇を前に、新型コロナウイルス感染防止を目的とした移動規制の緩和が続く。一方で、世界各地のデルタ変異株の感染拡大にともない、旅行は域内に限定されるとの見方が台頭。これにより、欧州のガソリンおよび軽油需要が、一段と増加するとの予測が強まった。

6月には既に、イタリアおよびフランスで、ガソリンと軽油の消費量が、パンデミック前の2019年6月を上回っている。また、ノルウェーでも、6月の軽油需要が、前年および2019年6月から増加している。

加えて、インドでもロックダウンの緩和が進み、6月のガソリンおよび軽油消費量が、前月比で増加。同国からの石油製品輸出が、減少する要因となった。

ただ、デルタ変異株の感染拡大が、経済と石油需要回復に対する先行き不透明感を強めている。インドネシア、英国、ロシア、米国などで、感染者数が増加している。

【7月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=72.07ドル(前週比0.26ドル高)、ブレント先物(ICE)=74.10ドル(前週比0.51ドル高)、オマーン先物(DME)=72.71ドル(前週比0.42ドル高)、ドバイ現物(Argus)=72.39ドル(前週比0.28ドル高)

【メディア放談】電力需給を巡る論説 新聞は電力ピンチに向き合ったか


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

冬の需給ひっ迫にかかわらず、今年度の夏、冬も電力不足の可能性があるという。

新聞各紙も問題視しているが、どう解決するか正面から向き合う論説は少ない。

―今年の冬に電力需給ひっ迫があったにもかかわらず、夏も需給が危ないという。梶山弘志経産相が会見で厳しい見通しを明らかにしている。

電力 自由化の進展で競争が激しくなり、電力会社は効率の悪い老朽火力を廃止していく。一方、再エネの拡大は止まらず。原発の再稼働も遅々として進まない。すると需給が厳しくなることは必然で、誰もが分かっていたはずだ。

―「ならば、なぜ火力のリプレースを進めなかったんだ」という批判がある。

電力 福島事故で原子力規制委員会の規制が厳しくなって、原発の安全対策工事に膨大な費用がかかった。それで、火力のリプレースにまで手が回らなかったことがある。そのうちに脱炭素の潮流が急速に強まって、石炭火力は新設が難しくなっていった。

ガス 経産省は、「2024年からは容量市場が始まる」と繰り返している。「それまでは辛抱しろ、何とかしのげ」ということだろう。だが、関係者には「容量市場で需給のバランスが取れると思ったら大間違い」という人もいる。

 結局、新型コロナ感染防止でのワクチンに匹敵するのは、原発の稼働しかない。ところが、希望の星だった柏崎刈羽原発が核物質防護体制の不備などで当面、再稼働がおぼつかなくなった。ほかに近々新たに再稼働しそうな原発は見当たらない。当面、今の状態が続きそうだ。

石油 6月8日の国会で、国民民主党の浜野喜史議員が需給ひっ迫について、「電力システム改革、自由化、再エネ大量導入の当然の帰結」と指摘している。その通りだ。もし停電が起きたら、それらを進めた経産省の自業自得というしかない。

原発報道の変わらぬ構図 朝日・東京の思想信条

―梶山大臣の発言もあり、マスコミも需給ひっ迫の問題を取り上げている。原発の扱いを巡っては意見が分かれている。

石油 やはり、朝日・毎日・東京対読売・産経の構図だ。朝日は社説(6月2日)で、「中長期的に需給を安定させる抜本策を講じる必要がある」とした。まったくその通りだ。

 ところが続いて、大量のCO2を出す古い火力は頼みにできず、原発もリスクの大きさや国民の不信、廃棄物の問題から「当てにするわけにはいかない」と書いている。結局、結論は「再エネの拡大を急ぐべきだ」になる。

マスコミ 今年のゴールデンウィーク中の5月3日、四国電力で太陽光の出力(232万kW)が需要(229万kW)を上回った。四電はエリア外送電などで、何とか停電を回避した。

 ところが2週間後、悪天候で太陽光はストップ。今度は関西電力から50万kW融通してもらっている。火力発電のトラブルなどが起きて、本州側の電力会社に余裕がなかったら、四国の電力供給は危なかったかもしれない。

―四電は供給力確保に血眼になったはずだ。

マスコミ 不思議なのは、朝日の記者・編集者が、このまま再エネが野放図に普及すれば、こういったことが全国で頻繁に起きることを理解しないことだ。あるいは、分かっていながら書かないのかもしれない。ならば、本当にたちが悪い。

電力 東京新聞に至っては、「電力不足への対応が原発再稼働につながらないよう、厳しくチェックすることも必要だ」と書いている。こうなると、もう客観的事実は意味がない。再エネ推進・反原発は思想信条に近い。

マスコミ それと同じことを、日曜日朝のTBS系「サンデーモーニング」で、造園家のWさんも言っていた。地上波は影響力が大きいから、自分の「思想」を述べるのはやめてほしいと思うけど、無理だろうな。

日経のあいまいな論説 再エネ偏重を見直し?

―日経も編集方針がよく見えなくなった。

電力 6月5日の社説で「中長期で供給力を安定的に確保する仕組みを整えなければならない」と書いている。続いて読んでいて「おやっ」と思ったのは、再エネに触れていないこと。あいまいな内容だけど、要するに高効率の天然ガス火力の建設を増やすべきだと言いたかったようだ。

マスコミ 無責任な社説だね。日経の記事は再エネ偏重で、再エネ関連の広告も多い。だけど、このまま増えていけばかなりの調整力が必要で、コスト面からもまずいことが分かったんじゃないか。

 かといって、原発の役割は書きたくない。さらにSDGs信奉で「火力に頼らざるを得ない」とも書けない。それで結局、CO2排出が比較的少ない天然ガス火力に落ち着いたんだろう。

―一方、原発に理解のある読売・産経は。

石油 読売の社説(5月31日)は、「太陽光発電は天候に左右され、供給を不安定にする一因となっている」「出力が安定している原発の利用が有力な選択肢だ」と書いた。さらに、「国民に原発の必要性を説き、理解を得るのは政治の責任」とも主張している。

 産経も主張(5月27日)で「安全性を確保した原発の早期再稼働を含め、安定電源の確保が急務」「基幹電源として活用できる原発の再稼働は当然」と書いている。

―電気事業にある程度理解があれば、正論だと思うだろう。だけど、国は動くだろうか。

電力 菅政権の支持率が低下している。総選挙で「自民党は50議席減らす」との分析もある。すると当然、不人気な原子力政策には触れなくなる。残念だが、政治・行政には期待できない。

―すると、また何も変わらずか。

【再エネ】再エネ100%へ 系統安定化の課題


【業界スクランブル/再エネ】

5月の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の会合において、地球環境産業技術研究機構(RITE)が、政府が参考として示す2050年の電源構成によりカーボンニュートラルを達成する場合、電力コストが2倍、再生可能エネルギー100%のシナリオでは4倍程度まで上昇するとの結果を発表した。多くの委員からは「産業競争力上、大変なことになる」「既に確立した技術を活用すべきだ」といった声が相次いだ。

再エネ100%シナリオでは、太陽光や風力など自然変動電源の出力変動に対応するための「システム統合費用」が大きくなる。これに対して地球環境戦略研究機関(IGES)は前提条件の設定に疑義を唱え、システム統合費用はもっと安くなるのではと問題を提起する。シナリオの分析結果は前提条件次第で変わり得るため、数字の絶対値に意味があるというよりはむしろ、シナリオ間の比較衡量を行う上で有用だ。さまざまな機関により前提条件を含めた活発な議論が行われ、ブラッシュアップされることが重要であろう。

ところで、筆者が興味深く感じたのは、IGESが自然変動電源の電力量の変動に関して「新たな重要な問題提起」としている点である。前回の長期需給見通し策定時、系統安定化費用として明示的に全て算入はされなかったものの、かかる調整費用に関しては既に議論されており、その結果「調整費用は実際の費用より低く試算される可能性がある」と注記された経緯がある。また、昨年末から今年1月にかけての需給ひっ迫時、悪天候で太陽光の出力が低下した日には、LNGなど火力で不足を補ったことは記憶に新しい。

再エネ100%の電源構成は理想的だが、経済性の問題以前に安定供給の確保についてしっかり議論する必要がある。kW時のバランス、周波数・電圧の維持に加え系統安定性が大きな課題となる。この点、実はRITEの分析は「電源脱落時のブラックアウト対策のため系統全体での慣性力の確保といった課題が克服され」たことを前提としている。いよいよ、この課題に向き合うときに来ているのではないだろうか。(N)

エネルギーを学ぶということ 「光を灯す」ミッション


【リレーコラム】中山寿美枝/J-POWER執行役員

エネルギーを一生の仕事にしようと決めたのは、高校生の時だった。「光を灯す者をこそ世は呼べ、光を灯す者と我等ならめ」という校歌にインスパイアされたのか、私はエネルギーの研究者になろうと思うようになった。

大学院でエネルギー科学を専攻したところで、研究者向きではないと悟り、世界中に電気を届ける仕事をしようと決めた。そして、国際事業に力を入れる電力会社に入社した。そこで改めて、自分はエネルギーの実態を何も知らないと実感した。大学で学んだのは理論と技術ばかりで、世界と日本のエネルギーの需給動向や政策や課題といった「生きた」エネルギー関連知識を学ぶ機会はなかった。それを知りたい、学ばなければ、と思った。

6度目の社内異動で、気候変動問題を担当することになった。各種エネルギー統計、IEAやIPCCの報告書を読み、専門家と会い、COPなどの国際会議に参加して情報収集を行った。その約20年間の蓄積から、エネルギー・気候変動の動向と展望、地域特性、国際交渉の裏表、対策と課題などを把握し、分析・評価できるようになった。この生きたエネルギーの知識を学生に伝えたいと思った。

教壇に立ち生きた知識を講義

その機会が来て、京大経営管理大学院で後期1科目を担当することになった。授業のうち9回は、①エネルギーの歴史、②エネルギーの不都合な今、③エネルギーの将来と低炭素シナリオ、④COPとパリ協定、⑤SDGsと気候変動、⑥気候変動の科学(IPCC報告書)、⑦気候変動対策(食サイクルから気候工学まで)、⑧最新のエネルギー展望(WEO2020)、⑨エネルギービジネスの変革、とエネルギーと気候変動をテーマにした。

シラバスを見て30人強の履修登録があった。学生が興味を持てるように、データと文献と専門家ネットワークを駆使してファクトフルかつ新鮮な講義資料を作成し、毎回の課題は、自分だったら(CO2削減の行動変容メニューから)どれを選ぶ?(SDGs達成のために)何ができる? といった観点で出題した。課題回答と質問には全てに必ずフィードバックを行うようにした。

期末の最終アンケートの結果、多くの学生がエネルギーを当事者として考えるようになった、今後も関心を持ち続けたい、という回答だった。一つ、小さい光を灯せたような気がした。今年度の講義でも最新情報を全力で伝えたい。全ての学生がエネルギーをしっかり学ぶ機会が得られるようになり、全ての大人と子供がエネルギーに関心を持つ日まで、私の「光を灯す」ミッションは続く。

なかやま・すみえ 1988年東京工業大学大学院エネルギー科学専攻修了、電源開発(J-POWER)入社。火力部、技術開発部などを経て、2001年から経営企画部で気候変動を担当。21年4月から現職。19年博士(工学)取得。20年から京都大学経営管理大学院特命教授を兼務。

※次回は東京大学生産技術研究所特任教授の岩船由美子さんです。

【石炭】慣性力と負荷調整力 認知変わる石炭火力


【業界スクランブル/石炭】

従来の“読むニュース”から、 欧米型スタイルの“語るニュース”へと定着させた磯村尚徳氏は、日本のニュースのパイオニアである。磯村氏がNHKニュースセンター9時(愛称:NC9)のニュースキャスターとして登用されたのは1974年。約半世紀前になる。磯村さんのNC9がスタートして数カ月はニュースの印象が大きく変わったことで、視聴率が低下したが、海外メディアから好評であったことから、うなぎ上りに視聴率が向上し、“語るニュース”が定着した。その後のニュース番組では、久米宏氏、古舘伊知郎氏らが続く。語るニュースの先駆者の跡を継ぐ彼らは当時、多くのバッシングを受け、さぞ苦しんだのであろう。磯村氏の座右の銘「多く苦しむもの 多くを学ぶ」を口にして、過去の苦しかった頃を振り返る。

火力の世界では2018年ごろから欧米を起点として石炭のバッシング(脱石炭への動き、投資撤退)が強くなった。そして今ではASEAN(東南アジア諸国連合)にもその流れが広がっている。また、日本では菅義偉首相が就任し「2050年ゼロエミッション」を表明後、国内においても石炭火力に対する逆風は強くなるばかりである。このような急激な環境変化で、石炭火力に従事する者にとっては辛い時期であろう。ただ、とことん追い込まれると新たなアイデアが湧いてくるものだ。10年前にはなかなか理解されなかった石炭火力の負荷調整力の必要性は、今では理解されるようになってきた。また、回転体の発電機が持つ慣性力も電力系統安定化を維持するために重要な機能であることも注目されてきた。「石炭=ベースロード」一辺倒だった認知が、少しずつ変化してきている。

再生可能エネルギーが50年ゼロエミッション達成に向けてその比率が大幅に増える将来、再エネの欠点である非連続性、レジリエンス機能に劣る点を補完する石炭火力による負荷調整力と慣性力が重要な役割を果たす時代が来るであろう。その時に、磯村氏と同じように火力発電従事者が「多く苦しむもの 多くを学ぶ」と語っていることを願って止まない。(C)

【江島 潔 経済産業副大臣兼内閣府副大臣 参議院議員】まだ日本は巻き返せる


えじま・きよし 1982年東京大学大学院工学系研究科修了。千代田化工建設入社。95年下関市長、2013年参院議員、15年国土交通大臣政務官、18年参院東日本大震災復興特別委員長、19年参院農林水産委員長。20年9月から現職(当選2回)。

下関市長から自民党の参院議員に転じ、エネルギー・環境政策などさまざまな課題に取り組む。 地球温暖化問題では、中国の動向を念頭に世界に向かって国際連携の重要性を訴えた。

祖父・江島鉄雄氏は京大工学部卒、父・江島淳氏は東大工学部卒の元国鉄職員。技術者の系譜に連なることで、大学は迷うことなく工学部を選択。合成化学を専攻する。卒業後は、「技術立国・日本を支えたい」と、千代田化工建設に入社。水素還元製鉄法などに取り組んだ。

政治家への転身のきっかけは、父・淳氏が生前に残した一言だった。「政治家として十分に役に立てなかった」。国鉄マンから参院議員に転じたが、2期目を迎えた時に病床に伏す。無念の言葉だった。父親の遺志を継ぐことを決め、江島家のルーツがある下関市の市長選に出馬。1995年から市長を務める。かつては花形だった水産業や造船業などが斜陽化する中、新たに観光産業に着目。ウォーターフロントの整備など、街の活性化に力を尽くした。

4期14年の市長職を終え、「政治活動は完結した」と引退を決意。教育分野に身を投じ、大学の教壇に立った。しかし、1本の電話で再び政治の世界に舞い戻ることになる。2012年12月、民主党から政権を奪い返し、自公連立政権が誕生する。しばらくすると、安倍晋三首相(当時)から連絡があった。「参院選に出ないか」。13年4月に行われる参院補欠選挙(山口県選挙区)への出馬の誘いだった。立候補し、次点候補にダブルスコアの差をつけて当選。16年の参院選でも対立候補に大差をつけて再選を果たしている。

原子力発電への熱い思い 核融合エネルギーへの期待

国政の場では、国土交通大臣政務官、党水産部会長、参院東日本大震災復興特別委員長、同農林水産委員長などを歴任。20年9月からの現職では、エネルギー・環境、福島復興をはじめ、経済産業政策のさまざまな課題に向き合っている。

中でも、エネルギー・環境政策では、菅義偉首相が「50年カーボンニュートラル」「30年に13年比でCO2排出46%削減」と野心的な目標を打ち出す中、エネルギー基本計画の改定作業が進行している。厳しい制約の中で、どう3E(環境性、供給安定性、経済性)+S(安全性)を実現するか、官僚らと知恵を絞る日々が続く。

注目は原子力発電の扱い。業界関係者は、目標達成には再生可能エネルギーの普及拡大とともに、原発のリプレース・新増設が欠かせないと指摘する。基本計画での扱いに関心が集まるが、「まずは原子力の再稼働に力点を置く。現時点でリプレース・新増設は想定していない」と話す。

とはいえ、「3E+Sを維持する上で、原子力は非常に重要」との思いは強い。故郷・山口県には上関原発の建設計画がある。「あくまで山口県選出の国会議員の立場として」と断りながら、「立地地域では長年の議論や選挙を経て、民意の形成を図り地元合意ができている。中国地方の安定電源として、地元のために一日も早く計画を進めてほしい」と強調する。

原子力については、将来を見据えることの重要性も説く。「50年に向けて、再エネだけに頼れば国全体が高コスト構造になり、産業競争力を失う。そのためにも原子力は欠かせず、小型炉や高温ガス炉に国費を投入し、必要な産業を維持していくべきだ」。また、未来のエネルギーとして核融合を重視。「人類が発展するためには、核融合が欠かせない。そのためのシナリオをどう設計するか、政治家として全力を尽くしたい」と力を込める。

11月の英国でのCOP26(第26回気候変動枠組み条約締約国会議)に向けて、これから地球温暖化の議論が本格化する。温暖化問題は、各国の利害・思惑が複雑に交錯する国際政治の問題でもある。

その中で注視しているのが、中国の動向だ。「欧米の国々や日本が50年カーボンニュートラルを目指す中、中国の目標年は60年。しかも30年までにピークアウトするという。EUは石炭火力を全て認めない方針だが、多くの途上国はついていけない。すると、途上国は中国と同じことをしてしまう」。5月20日に行われたG7気候・環境大臣会合では、世界全体でカーボンニュートラルを実現するよう国際連携の重要性を訴えた。「中国も目標年を50年にさせるよう、世界が一丸となるべきだ」。こう主張していくという。

座右の銘は「一所懸命」。かつて世界をけん引した日本の産業力・技術開発力は、いまやほかの先進国や中国に大きく水をあけられている。しかし長年、技術者として働いた経験から「まだまだ日本は巻き返せる」と確信。日本企業が再び世界の表舞台で活躍できるよう、経済産業政策に取り組む考えだ。

趣味のマラソンはコロナ禍でしばらく封印。ステイホームで「パスタづくりに腕を振るうことが増えた」と口元をほころばせる。

【石油】創立理念はどこに 有害無益のIEA


【業界スクランブル/石油】

国際エネルギー機関(IEA)は5月18日、英国で11月に開かれるCOP26のアロック・シャルマ議長(英)の要請に基づき、2050年カーボンニュートラル実現からバックキャストしたロードマップを公表した。翌日の日経朝刊でも「化石燃料へ新規投資停止」との見出しでキャリーされた。内容的には、既に世界的に提唱されているものではあるが、先進石油消費国からなる専門国際機関から発表されただけに、関係者に大きな衝撃を与えた。

しかも、加盟国政府への根回しはなく、事務局内でも限定メンバーで取りまとめられたらしく、その唐突感が衝撃を増幅させた。そのためか、石油業界からはまとまったコメントはなく、英フィナンシャル・タイムズ紙は「石油業界反応せず」と報じた。

IEAは、第一次石油危機直後の1974年、米キッシンジャー元国務長官の提唱で、石油輸出国機構(OPEC)に対抗すべく経済協力開発機構(OECD)に付置された国際機関である。OECD加盟国で、一定水準の石油備蓄保有を加盟条件としており、過去、エネルギー安全保障を最優先目標として、石油安定供給に貢献してきた。供給削減時に石油を相互融通する緊急時融通システム(ESS)を有しており、1991年の湾岸戦争勃発時には、協調的緊急時対応措置(CERM)を発動、各国が石油備蓄を放出するなど、供給不足を回避した。

そんなIEAが、化石燃料への新規投資停止を含む、脱炭素実現に向けたレポートを発表した。化石燃料への投資停止で、石油供給のOPECシェアは、現在の約3割から30年には5割超とセキュリティー上、脆弱になるとする。今後、先進国の石油消費は減り、増加するのは途上国だから、投資不足になろうが、OPEC依存度が上がろうが構わないというのか。

最近のIEAは、明らかに気候変動対策最優先である。「EUの下請け機関」との陰口も聞こえる。エネルギー安全保障を忘れたIEAなど有害無益である。このままだと「さらば、IEA」と言わざるを得ない。(H)

炉心溶融はどう起きたか TMI事故の経緯を検証する


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.4】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

TMI(スリーマイルアイランド)事故での炉心溶融の姿を克明に描いたスケッチ図がある。

溶融炉心は元の位置にとどまり、メルトダウンは起きなかったことが分かる。

TMI事故の溶融炉心のスケッチ図をまず見てほしい。TMI事故の15年くらい後の1995年ごろに発表されたもので、世界に1枚しかない克明なスケッチ図だ。事故炉の廃炉を考える上で非常に役立つから、廃炉関係者には保存をお勧めする。

図に沿って番号順に説明する。

①のデブリ(debris)は鉱滓を意味する英語で、小さく壊れた燃料破片が山積みになっている。

②は、溶融炉心。燃料と炉心材料が溶融してできた合金だ。

③は、溶融炉心を包む殻で、成分は燃料棒を主体とした炉心材料の溶融混合物と考えられる。

④は、炉心を囲むバッフル板に開いた穴で、殻の中の溶融炉心がデブリの重量に押されて横に移動して接触し、板を溶かしたという。

⑤は、この穴から流下した溶融炉心が容器の底で固化した層だ。

⑥は、制御棒(銀、カドミウムなど)が溶け落ちた層で、⑤の下層にあるのは、融点が低いために早期に溶融したからという。

⑦は炉心上部にある制御棒駆動部の保護カバー、⑧は炉心の最外周に配置された燃料棒。いずれも炉心溶融の熱影響を受けていないかのごとくに描かれている。

スケッチ図の着目点 燃料棒が三つに変化

スケッチ図の着目点は二つだ。その一は、燃料棒が①②③の三つになり、区別して描かれていることだ。理由は、それぞれが違った物に変化しているからだ。

①のデブリは高温の燃料棒が壊れた残骸で、欠けたペレットと考えればよい。燃料実験をしていると常に出合う代物だ。

②の溶融炉心は、燃料棒が崩壊熱により殻の中で加熱されてできたウラン、ジルカロイ、酸素の三元素合金に、溶けた炉心材料が加わってできた一種の合金だ。③の「卵の殻」がるつぼとなって合金ができたと思えば分かりやすい。

③は材料的には②とほぼ同じだが、燃料集合体の隙間に溶けた合金や炉心材料が詰まって出来上がったと思われる。②と③の違いは、②は均質の合金であるからドリルが楽に通ったが、③は解体時ドリルが通らない堅い部分が所々にあったという。溶融した二酸化ウラン(UO2)は非常に堅いから、それであろう。

溶融炉心は、どのような経緯で、いつできたのであろうか。事故データを基に考えてみよう。

事故記録には、ポンプを回して大量の冷水が炉心に入った途端に、約80気圧に下がっていた原子炉圧力が、150気圧以上に急上昇して安全弁が開いたとある。その間わずか2分足らずだ。炉心に大きな発熱が生じたことは間違いなく、その後に水素爆発が生じたことから判断して、高温の被覆管ジルカロイと水の反応が発生したのが原因とみられる。この反応については11月号で詳しく述べる。

①②③のできた順序は殻の中で溶融炉心ができたことから考えて、ジルカロイの反応熱が燃料棒を溶かして殻を作り、その中に閉じ込められた炉心材料が崩壊熱によってゆっくりと加熱されて溶融炉心となり、その後に落下してきた燃料棒の残骸が殻の上に堆積しデブリ層となった、というのが無理のない形成の順序であろう。

なお日本では、溶融炉心もデブリも一緒くたにしてデブリと呼んでいるがこれは間違いでスケッチ図の作成者に対して失礼である。外国の混乱を招かぬよう、学術用語は正しく使ってほしい。

炉心溶融は中央部のみ メルトダウンは起きず

話をスケッチ図に戻す。注目点の第二は、⑦炉心上部にある制御棒駆動部のカバーや⑧最外周に置かれた燃料棒に著しい変形や変色がなく、元の状態のように描かれていることだ。炉心溶融を作った発熱は炉心の中央部を溶かしただけで、炉心の端には大した影響を及ぼしていないことを示している。

これは原子炉の発熱の仕組みに関わる事柄だから説明しておこう。原子炉の中の発熱は炉心の中央部で大きく、外周部では小さい。その理由は、外周部の中性子は炉心の外に漏れ出すので、中央部と比べて核分裂量が少なく、崩壊熱が減るためだ。結果、外周部燃料の温度上昇は小さい。TMI事故においては、最外周燃料棒は、ジルコニウムの酸化被膜ができる温度まで上昇しなかったので、反応も起きず、元の状態のまま残ったと考えられる。

TMI事故で、ジルコニウム・水反応が起きた時間は、総計約20分である。この時間内に炉心中央部では高温の被覆管が燃焼して、燃料棒を溶融し卵の殻を作った。

これに対して外周部の燃料棒は温度が低く水と反応しなかった。中央部での激しい発熱は水中の発熱であることに加え、卵の殻や燃料棒などが熱遮蔽体として働いたので、中央部から離れた場所にある物体には熱の影響が及ばなかったのであろう。

ジルコニウム・水反応が、高温の燃料棒にのみ生じる水中発熱であることを考えれば、炉心溶融が炉心の中央部にだけ起きたことは、なるほどとうなずける。

なお卵の殻の上面が平らになっているのは、デブリの重量に押されて殻の中のガスが抜け、まだ軟らかかった上面がへこんだ結果と説明されている。

以上がTMI事故のスケッチ図の説明だ。ご覧になったように、圧力容器内での変化は炉心中央部に限られて、溶融炉心は元あった場所にとどまっている。流下した一部の溶融炉心も、圧力容器の底で固化している。圧力容器を溶かした痕跡もない。

TMIの炉心溶融は、溶融炉心が流れ落ちて圧力容器の底を溶かすという、福島事故後にテレビで度々放映されたメルトダウン映像とは全く違っている。TMI事故ではメルトダウンが起きていない。この事実を読者諸兄はしっかりと記憶してほしい。

詳細は拙著『考証 福島原子力事故炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』を参照いただきたい。

いしかわ・みちお  東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3 https://energy-forum.co.jp/online-content/5381/