花角英世新潟県知事は、柏崎刈羽原発の再稼働について、「県民の信を問う」と公約し当選を果たした。しかし、具体的にどう信を問うかは示されず、次の知事選を前にして、公約が知事の肩に重くのしかかっている。
「(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画の)検証結果は広く県民の皆さんと情報共有するとともに、県民の皆さんの評価をいただき、納得いただけるか見極めます。その上で、結論を得て〝県民の信を問う〟ことを考えます」―。
2018年の新潟県知事選。花角英世知事(自民・公明支持)は柏崎刈羽原発の再稼働についてこう公約し、再稼働阻止を訴えた池田千賀子氏(立憲民主・国民民主・共産・自由・社民推薦)との接戦を制した。
福島第一原発事故の後、東京電力の同型の原発が立地する新潟県には、原発への逆風が依然強く吹く。再稼働について明言を避け、「県民の信を問う」とした戦術が、勝利に大きく貢献したことは明らかだろう。
知事選から約2年半。花角知事は、その「信を問う」時期を迎えようとしている。再稼働の前提条件となる国、県による安全性などの検証、確認の作業が最終局面に入ったためだ。
柏崎刈羽6、7号機は原子力規制委員会による新規制基準の適合審査に「合格」し、今年に入り保安規定も了承された。7号機は設計・工事計画も認可されている。 知事が県民の評価を求めるとした県の三つの検証委員会(①県技術委、②健康・生活委、③避難委)も検討が進む。最も重要視される県技術委は9月、福島事故の原因などについて報告書案を了承。柏崎刈羽原発の安全性確認の作業を本格化させる。
来年の前半にも全ての検証結果が示され、再稼働に向けての課題が整理、提示される見通しだ。結果が出そろえば、残るステップは県、柏崎市、刈羽村の「地元同意」だけになる。
福島事故の賠償・廃炉の負担を抱える東電は、企業存続のために年5000億円の収益確保を目指す。柏崎刈羽の再稼働は、その大前提となる。また国にとっても、「原子力政策での最優先事項」(経済産業省幹部)。非効率石炭火力のフェードアウトなど低炭素化の政策を進めるうえで、柏崎刈羽の再稼働は、安定・低廉な電力供給に欠かせない。梶山弘志経産相も運転再開を重視し、自民党県連の小野峯生幹事長は、「この半年間で経産省の柏崎刈羽再稼働への力の入れようが、大きく変わった」と話す。
国土交通省出身の花角知事は二階俊博運輸相(当時)の秘書官を務め、今も与党、霞が関に太いパイプがある。知事は再稼働について、「検証結果が出てから議論を始める」と言葉を濁している。しかし、国の意向、中央政界との密接な関係、運転再開による経済効果などを考えると、既に再稼働の意向を固めたと考えるのが自然だろう。
どう信を問うのか 戸惑う県政界関係者
では、知事はどう具体的に信を問うのか―。県政界関係者は「分からない」と口をそろえる。だが、県政与党の自民党県連には、できるだけ避けたいことがある。再稼働が「ワンイシュー」になる選挙をしないことだ。
16年の知事選で、自民・公明党は長岡市長の森民夫氏を推薦した。これに対して、原発問題を争点化したい共産・自由・社民党などは米山隆一氏を擁立。再稼働容認の考えを示した森氏は、元建設省官僚、全国市長会長などの経歴、実績を掲げながら落選。連合新潟の支持も取り付けた森氏の敗北は、県政界に衝撃を与えた。「知事選で(再稼働が)ワンイシューになったら、結果が厳しくなることは分かっている」。小野幹事長はこう漏らす。
一方、東電関係者の胸中には再稼働のモデルケースがある。新潟県中越沖地震(07年7月)後の柏崎刈羽の運転再開だ。
最大震度6強のこの地震で、柏崎刈羽原発は設計時の想定を超える揺れを観測した。3号機変圧器が火災を起こし、使用済み燃料プールの水が漏れ、微量だが放射性物質が海に流出。県民の原発に対する不信感が一気に高まった。
東電は地震で受けた被害の修理や耐震補強工事を行い、県も独自に技術委員会を設け、安全性の検証、確認を実施。それら一連のプロセスを経て、再稼働の最終判断は泉田裕彦知事(当時)に一任されることに。
中越沖地震後の08年10月の知事選で、泉田氏は再稼働への言及を避けて再選を果たした。その泉田氏は、09年5月、次の知事選(12年10月)を待たずに県議会全員協議会で同意の考えを表明している。
花角知事が判断する時期が近づいている
柏崎市・刈羽村は容認 知事同意には反発も
櫻井雅浩柏崎市長、品田宏夫刈羽村長は、既に再稼働容認の意向を示している(11月15日に柏崎市長選があるが、櫻井氏の当選が確実視されている)。花角知事が県議会の了承を得て、首を縦に振れば、再稼働は実現する。
しかし、中越沖地震後の泉田氏のように、選挙を経ずに運転再開に同意すれば、「信を得ていない」と反発は避けられない。次期知事選(22年6月)での再選にも大きく影響するだろう。
自民党県連は、泉田知事、米山知事とはぎくしゃくした関係が続き、県政は停滞した。それだけに花角知事への信頼は、「ぜひ再選してほしい」(小林一大県連政調会長)と厚い。知事だけが再稼働判断の重荷を負わないよう、「場合によっては、われわれが盾になる」(同)とも考えている。
新潟県の抱える課題は柏崎刈羽だけではない。財政難は深刻で、またコロナ禍の不況が経済、暮らしを直撃している。
そこで、こんな案がある。東北電力が主体となり、東電が出資して電力小売り会社をつくる。そこに柏崎刈羽の電気を卸供給し、県内の企業・工場などに割安の価格で販売して経済の活性化を促す―というものだ。
県民の間には、再稼働しても電気は首都圏で使われ、リスクだけでメリットがないという不満がある。国、東電がこういったプランを多く示すことが、「同意」への反発を和らげるかもしれない。