自民党総裁選が終わり、衆院選を前に政界は一気に「選挙モード」に突入、各党は議席増に向けて目の色を変え始めた。
コロナ・景気対策に隠れるが、各党はエネルギー政策、中でも原発を巡り独自の方針を打ち出し、国民へのアピールを始めている。
自民党総裁選の勝者は現時点(9月24日)で不明だが、場合によっては、自民党のエネルギー政策が大きく方針転換する可能性も否定できない。ある永田町関係者は、「総裁に就くのが河野太郎氏か否かが分水嶺になる」とみる。
河野氏は総裁選を通じ、核燃料サイクル中止との持論を展開。他方、再稼働に関しては発言のトーンを抑え、「既存の再稼働は当面容認」などと報じられた。だが、ある自民中堅議員は「表向きつくろったとしても、本音は即刻脱原発だ。総裁になれば、ガラス細工のエネルギー基本計画を作り直せと言い始めるだろう」と明かす。
党内には真逆の方向性でエネ基の見直しを求める意見も根強い。総合エネルギー戦略調査会幹事で、最新型原子力リプレース推進議員連盟の事務局長を務める滝波宏文参議院議員は、「S+3Eの原則を掲げながら、環境性だけアップグレードするエネ基は赤点」と酷評。「衆院選を控え、多くの議員が地元に張り付いている。国家の大事は拙速なプロセスでなく、衆院選後に皆が落ちついて参加できる形でエネ基を議論すべきだ」と主張する。
新増設・リプレースが盛り込まれず、発電コストの試算で事業用太陽光が原子力より安いかのように報じられたことで、原発立地地域の住民の心が折れかけ、「棄民だ」といった声まで出始めているという。「このままでは将来に禍根を残しかねない。特に今の議論では立地自治体の安全性についての視点が抜けており、原子力の国民理解の前に住民理解の取り組みを率先してほしい」(滝波氏)
ただ一方で、連立相手の公明党は依然として党五大理念の一つに「原発に依存しない社会・原発ゼロ社会」を掲げている。このため、岸田政権になったとしても「連立を解消しない限り、与党が原発推進にかじを切るのは難しい」(政府筋)との見方も少なくない。
対する最大野党・立憲民主党は、綱領で公明同様の「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会の1日も早い実現」を明記。衆院選でも、基本政策である①原発新増設はしない、②全ての原発の速やかな停止と廃炉、③核燃料サイクルを中止し、使用済み核燃料は直接処分とする―を訴えていく。
原発新増設で「肩すかし」 立憲民主は温暖化で独自色
立民をはじめ原発ゼロを掲げる野党にとっての誤算は、自公政権がエネルギー基本計画の素案で、原発新増設を記載しなかったことだ。ある野党関係者は「原子力の当面の課題は、新増設の是非。立民などは衆院選でこの点を重点的に攻める戦略だったが、肩すかしを食らった」と話す。
立民の独自色が発揮されるのが、地球温暖化対策だ。菅政権の2050年カーボンニュートラル宣言や温暖化ガス30年度46%削減目標について、田嶋要・環境・エネルギー調査会長は「消極的評価はしているが、パリ協定の大目標からすれば日本の目標水準が足りないのは明らかだ」と批判する。
同調査会は数年かけ、30年までに温暖化ガスをどこまで削減できるか検討を続けてきた。その結果は、「13年度比55%以上の削減が可能」。田嶋氏は「これを達成しなければならない」と強調する。「省エネ目標は野心的な水準を目指し、エネルギー多消費の業種を中心に大がかりな設備投資を進めるための大胆な税制や予算措置を講じるべきだ。再エネについては、政治がリードして耕作放棄地や遊休地を積極的に活用し、30年50%を目標に設定すべきだ」と続ける。ただ、この訴えがどこまで票に結び付くかは未知数だ。
新増設を打ち出す主要な党は見当たらない(写真は伊方原発)
国民民主の強い危機感 与野党間で存在埋没も
他方、国民民主党は強い危機感を抱いている。現在、衆院議員8人(山尾志桜里氏は衆院選不出馬を表明)が所属しているが、支持率の低迷に頭を痛めているのだ。
今夏の東京都議選では4人候補を立てたが、全員当選ラインに届かず。4人合わせた得票率は0・67%と、立民(12・34%)に大きく水をあけられた。候補者の少なさを差し引いても、党の知名度不足が影響したことは否めない。
国民には小林正夫氏、浜野喜史氏と二人の電力総連出身の参議院議員がいる。いずれも原子力政策について理解が深い。中道改革政党として、労働組合に限らず、大手電力をはじめ産業界にも同党を支援する関係者は多い。
衆院選を前に、野党では選挙協力を模索する動きが相次いだ。9月8日に立民・共産・社民・れいわ新選組の4党が、野党共闘を呼び掛ける市民連合との政策合意に達し、政策の一つには「原発のない脱炭素社会の追求」が入っている。これに国民は「現実的な政策が党是。今回の野党と市民連合の政策合意のゴールには同意できかねる」(浅野哲・エネルギー調査会長)と加わらず一線を画した。
ただ、国民も他党との違いが際立つような原子力政策を打ち出せたわけではない。9月に発表した重点公約では、原子力を「電力供給基盤における重要な選択肢」に位置付けながらも、新増設については「行わない」と明言。浅野氏は「新増設については記載すべきとの声もあったが、まず信頼と実績を積み上げることが目の前の課題。それを見守る必要がある」と理由を述べる。
一方、「カーボンニュートラル社会実現に向けて、あらゆる手段を確保・活用する」との言葉を盛り込んだ。小林参院議員は、新型炉や高温ガス炉による水素製造など将来の原子力利用への期待を込めたという。
国民の候補は、小選挙区で支持率が上昇に転じた自民、根強い基盤の公明との闘いを余儀なくされる。比例区での復活に期待を掛けるが、それには支持率回復が欠かせない。自公と立民などの間で存在が埋没しないよう、独自の政策をどう打ち出すかが問われる。
衆院選ではコロナや経済対策の影にエネルギー政策が埋もれる可能性も指摘されている。しかし日本のエネルギー政策が転換点を迎える今こそ、各党が具体策を掲げて競い合う姿を望みたい。