【私の経営論】川村憲一/トラストバンク代表取締役
当社は創業者である須永珠代の考えで作られてきた。社員が50人規模までは文鎮型の組織で、社員全員が須永の発言や行動を感じながら仕事を行ってきた。2016年ごろに100人規模の組織となり、ピラミッド型の組織に変わった。この規模であれば、トップと現場間の相互の情報伝達も迅速に行われ、事業の環境変化にも即座に対応することが可能だった。
私は19年4月に執行役員として入社し、同年10月に取締役に就任した。この頃から、さらに業容が拡大し、各々の仕事観を持った中途社員を採用していたこともあり、トラストバンクが大切にしている考え方や行動が徐々に薄まってきたように感じていた。
行動指針の創出 社員行動の軸を作る
そんなことを考え、組織開発に手を掛けようとしていたタイミングの20年1月に須永からバトンを受けた。須永はカリスマ的な経営者で、その発するビジョンに引かれて多くの社員が入社した。私もその一人である。須永が発する言葉は、行動の指針となっていた。それにより一気呵成にサービスを作ってきた。一方で、ふるさと納税の同業者が多数参入してきた時期でもあり、劇的な環境変化のスピードに対応できる組織作りが急務となっていた。トップからの意思決定を待つのではなく、現場で起きる変化に直接向き合っている社員一人ひとりが応え、お互いに支え合う組織に変わっていく必要が出てきたのだ。
一人ひとりがボトムアップで主体的に動いていくためには、共通の価値観が大事になってくる。ミッションやビジョンはもとより、行動レベルまで認識が統一できると判断がしやすくなる。そのために行動指針を明確にすることが必要と考えた。19年末から、自治体職員や事業者・生産者から現在のような信頼を得られた背景を考え続けていた。
「トラストバンクらしい行動」とは何か―。トラストバンクは自立した持続可能な地域を作るというビジョンの実現に向けて、「共創」という考えを大切にしており、自社だけで全てを成し遂げるのではないと考えている。そこで改めて、須永が取り組んできたことや、社内で成果を上げている社員の行動をひもとき、経営陣や社員、自治体職員など、多くの人たちとの会話で感じたものをアウトプットした。
それが当社の行動指針「TB Value」である。①全ての事柄は自分事として捉える「主体性」、②諦めずにやり切る「誠実さ」、③思考し、取り組み、改善する「圧倒的スピード」の三つで、日々の行動がこれらに沿っているかを確認しながら、意識して行動できるようになり、成果につながることで、結果的に指針が自分たちの物になっていくものと考えた。
これらの浸透を推進するため、毎朝全社員向けに送っているメッセージでTB Valueに基づく内容を共有したり、日々の業務に取り組む中で繰り返し伝えていくことを始めた。社内報でTB Valueの策定背景を記事化したり、創業者とのトップ対談で発信したり、新入社員には、入社オリエンテーションで直接伝えている。部門長のミーティング議事録のヘッダーにも記載したり、あらゆる場面でTB Valueを目にする機会を作った。
また、社内でTB Valueを自分事にするためのワークショップも開催した。これを通じて、日々の具体的な業務や姿勢がTB Valueに沿っているか、沿っていないかの事例一覧も作った。ここまでやってもなかなか浸透しない。
TB Valueを発表して1カ月が経過したところで、組織にどこまで根付いているかの確認をした。まずはマネージメント層が集まる部長会で確認した。しかし、十数名いる中でかろうじて一人が自信なさげに発言するレベルだった。
1年が経過し、部門長からもTB Valueのおかげで、「日々の業務が行動指針に基づいている行動なのかという一つの軸ができた」という声が出始めてきた。
今では、自主的に部門内でTB Valueに基づく行動をしているかを振り返り、それを定点で追いかけているチームも出てきているのは大変頼もしい限りだ。

OKRの概念取り入れる 目標達成と会社らしさ
さらに組織強化として、社内の最大部署「ふるさとチョイス」事業部では、目標管理にOKRの概念を取り入れるチャレンジを始めた。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略で、日本語では「達成すべき目標と、目標達成のための主要な成果」と表す。過去、KGI(重要目標達成指標)、KPI(重要業績評価指標)を設定してきたが、単独部署や個人で達成できるものが少なく、個人の成果として実感が湧きにくかった。また、KPIを部署に持たすことで、自部門の成果を達成すればよいという思考に陥りやすく、閉ざしたコミュニケーションになっていた。部長という肩書きは、部のトップとして部のことに集中しがちになっていた。本来は目標を達成するために部を越えて、相互に支え合う関係になるべきところだが、程遠い状態になっていた。
そんな状況を打開するためにOKRの概念を取り入れ、さらに部長の肩書きも廃止し、ユニットリーダー=推進する人という役割名に変更した。結果的に事業ターゲットであるKPI、KGI達成に向けた取り組みが当社らしさにもつながるとチャレンジしている。
手前みそではあるが、当社には熱い想いを持った社員がたくさん集まっている。その想いをしっかり紡ぎ形にすることがビジョン実現につながると考えている。そのためにチーム作りが重要なのである。今後も行動指針の浸透と組織の在り方を考え続け、「個々が主体的に動き、かつお互いを支え合うチーム」を作っていく。



