【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社編集局鉄鋼部長
菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言を受け、日本の鉄鋼業界の動きが再び加速している。
技術開発の壁が何層もある「ゼロカーボン・スチール」の実装に挑戦し、国際競争力を保てるのか。
日本の鉄鋼業界は2018年秋、「ゼロカーボン・スチール(CO2を排出しない製鉄法)」の技術開発に挑戦する方針を打ち出していたが、首相の宣言を受けて今年2月、改めて「2050年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」を公表した。これに続き、最大手の日本製鉄は3月に発表した中長期経営計画の中で、「カーボンニュートラル・ビジョン2050」を打ち出した。
日本鉄鋼連盟(鉄連)の場合、18年秋の方針表明と今回の表明との違いは何か。ゼロカーボン・スチールの実現を目指すという基本線は同じだが、時間軸に微妙な違いがある。18年の方針では「2100年までをターゲットにした長期ビジョン」とあえて明記。ゼロカーボン・スチールの実用化に関しても「目標ではなく、挑戦」と控え目な表現にとどめた。
一方、今年表明した基本方針は「50年カーボンニュートラルという(政府の)野心的な方針に賛同する」と強調。「50年までに開発・実用化」という明確な目標を示してはいないが、50年を強く意識している。鉄連会長を務める橋本英二・日本製鉄社長は今年に入ってからの定例会見で「(目標達成時期を)これまでは2100年としていたが、2年そこそこで50年に前倒ししたのはなぜか」と問われ、「世界のライバルとの開発競争は既に始まっている。50年実用化でも遅いかもしれない」と、50年や100年という目標の設定自体、ナンセンスと切り捨てた。
業界は政府方針に賛同 革新技術の実用化という外圧
いずれにせよ、鉄鋼業界は今もゼロカーボン・スチール実用化の目標時期を明示していない。それは地球温暖化対策に後ろ向きなのではなく、実現のハードルが極めて高いからだ。この高さを認識しているからこそ、日本の鉄鋼業にとって「何年までに開発・実用化できます」といった発言はむしろ無責任なスタンスとなる。
だがこうした慎重姿勢にもかかわらず、外野の期待は増す一方だ。昨年末に政府が策定したグリーン成長戦略の関連資料「カーボンニュートラルの産業イメージ」では、水素で鉄鉱石を還元するゼロカーボン・スチールが50年時点で実現している姿を紹介。同戦略では既存の高炉+CCUS(CO2回収・貯留・利用)など複数の選択肢を提示してはいるが、50年の絵姿としてゼロカーボン・スチールの実現を描く。
もとよりESG(環境・社会・統治)投資の広がりとともに、鉄鋼業への風当たりは年々強まっている。30年時点のCO2削減目標の引き上げを打ち出した欧州連合(EU)では、世界最大手のアルセロール・ミタルなど有力鉄鋼メーカーが相次いで水素を活用した次世代製鉄法の開発に挑む方針を発表した。規制強化を狙うEU当局との駆け引きが垣間見えるとはいえ、ESG投資がこうした動きを促しているのは間違いない。
日本も例外ではない。ESG投資を背景とした投資家からのプレッシャーは強まる一方だ。日本製鉄が「カーボンニュートラル・ビジョン」を策定した背景にもそれは確実にある。「50年」を意識しながら、ハードルは高くとも技術開発・実用化に向けて前進しなければならないのが現状なのだ。

















