【特集2】災害に備えた自給自足の家 雨水を生活用水に利用


【TOKAI】

TOKAIが手掛ける電気と水を自給自足する住宅「GQ(ジーク)ハウス」。

ライフライン確保に向けた独自の工夫が光る取り組みに注目が集まる。

家づくりにおいても、今後は防災の視点が求められてくるだろう。LPガス販売大手のTOKAIが手掛けるエネルギー自給自足の住宅「GQハウス」はその先進的な取り組みと言える。この住まいは、大規模自然災害などで断水や停電が発生しても避難所に頼ることなく一定期間自宅で安心した生活が送れる設備を備えている。暮らしに欠かすことができない水の確保は、敷地内に1000ℓもの雨水タンクを備え、溜まった雨水をトイレの洗浄用水や散水などに利用する。断水が発生した時でも、トイレの洗浄用水や大量の水を使用する洗濯水を確保できるのが特長だ。オプションの小型浄水器を組み合わせることで、断水時でも生活水(飲料可)を一定期間確保できる。

GQモデルハウス(静岡県島田市)

電気については、独自の防災対策システム「スマートエルラインライト」を用意している。電力を特定5回路へ配電する分電盤装置で、停電発生時に太陽光発電や蓄電池などに給電元を切り換えることが可能。日中であれば太陽光発電からの電力を特定5回路に給電(最大1500W)。夜間など太陽光発電の活用ができない場合は、車や蓄電池などの外部電源から特定5回路へ給電できる。「電気が途絶えても、一部の照明やテレビ、スマホの充電など、最低限必要な電気を確保できる。これらと、災害に強いLPガスを組み合わせれば、避難所に行かずとも自宅で安心した生活を送ることができる」。建設不動産本部事業開発推進部の武内淳部長は、こう語る。

雨水を貯めるタンク
スマートエルラインライトの分電盤


分譲住宅の販売開始 光熱費削減もアピール

GQの新たな展開として今年1月から同社の分譲住宅へのスペックインを開始した。消費者にとっては防災面への対応に加え、再エネや雨水などの利用によって光熱費が削減できる点も大切なポイントとなる。「プランによっては年間22万円強の光熱費削減になる」(武内氏)という。大規模自然災害が頻発する中、こうした災害対応型住宅が従来にも増して関心を集めていきそうだ。

【特集2】地域を守る「最後のとりで」 SSが燃料供給継続で奮闘


被災した地元の暮らしに懸命に寄り添い続けたSS。

災害対策の強化に向けて、多くの教訓が得られた。

【インタビュー】加藤庸之/全国石油商業組合連合会副会長・専務理事

かとう・つねゆき 1986年東京大学経済学部卒。通商産業省(現経済産業省)に入省し、資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長などを歴任。2018年太陽石油執行役員。23年6月から現職。

―能登半島地震はサービスステーション(SS)に甚大な影響を与えました。

加藤 石川県珠洲市のSSでは、敷地の地盤が隆起したり、計量機が傾いたりしました。給油待ちの自動車が列をなす長蛇の渋滞も発生し、「対応に大変苦労した」と聞いています。

―燃料供給の継続に向けた取り組みは。

加藤 石川県石油組合のSS事業者などは、自ら被災しながらも、燃料を避難所や拠点病院、移動電源車両などに円滑に供給しようと尽力しました。災害時に緊急車両へ優先的に給油する「中核SS」が活躍し、全国各地から応援に駆け付けた消防車両や警察車両などに燃料を供給しました。

―自家発電機を備えた「住民拠点SS」も大きな役割を果たしました。

加藤 全国には1万4000カ所以上の住民拠点SSがあり、東日本大震災の教訓を踏まえて整備が進められました。そのSSが今回の地震でも存在感を発揮しました。例えば、七尾市内の住民拠点SSは在庫に限りがある中、殺到した給油客に対して「1台3000円まで」の限定給油を行いました。

―全石連が力を入れた支援は。

加藤 全石連職員も1月4日から5日間、東京都内の本部から被災地へ応援に駆け付け、組合の災害対応活動をサポートしました。2月3日から4日にかけては、森洋会長が石川県石油組合を訪問し、情報交換しました。そこで挙がった要望を踏まえ、燃料代金の早期支払いや元売りに対する仕入れ代金の支払い遅延といった問題に対応するよう、関係各所に要請しました。

―SSは災害時の「最後のとりで」として頼られています。地震で再認識したことは。

加藤 地元に根付いて顧客の顔が見えている事業者が大事であることです。被災地で車中泊を続けながらSSを営業した経営者の使命感の高さには、感銘を受けました。


配送の多様化も視野 情報共有の環境づくりを

―今後の災害に備えて取り組む課題は。

加藤 地震発生後、道路が寸断されて孤立状態になった集落がありました。そうした事態
を踏まえ、被災状況に応じて適切に燃料を配送する方法を探りたいです。燃料の配送ルー
トを陸や海以外に多様化する観点からドローンなどにも可能性を感じています。デジタル
技術で燃料供給に関する情報などをリアルタイムで共有する環境づくりも重要です。今後
も有効な災害対策を追求するつもりです。

【特集2】被災しながらも供給継続に奔走 能登半島地震の現場模様


新年早々に発災した能登半島地震。エネルギーインフラは関係者の努力で維持された。

石川県をはじめとした北陸地方の石油・LPガス業界関係者から現地で当時の様子を聞いた。

2024年元日夕方、能登半島を震源とするマグニチュード7・6の地震が襲った。中でも、半島北部に珠洲市や輪島市は甚大な被害を受けた。

ハイオクを値引き販売 一般車は給油制限も

石油業界では、発災直後から資源エネルギー庁、石油元売各社と石油連盟事務局が24時間体制で北陸地域に向けて緊急で燃料供給に対応した。北陸地域における出荷基地被災状況などを情報収集。さらに、石川県からドラム缶での燃料配送要請を受けたことから、政府、石川県庁、石川県トラック協会などとの連携で、1月3日から石油元売りの出荷基地から燃料の入手が困難な被災地に向けてドラム缶出荷を実施した。また、政府・自治体の支援を受け、元売各社は販売業者とも連携し、能登半島北部への配送拡大に注力した。

発災当初は歩道が歪み入車できなかった

販売では、多くのガソリンスタンド(SS)が閉店し、1月7日のピーク時に32件が営業不可となったが、31日には七尾市、志賀町、穴水町、輪島市、能登町、珠洲市の69店舗のうち、営業停止SSは11件まで減少した。

穴水町の幹線道路沿いにある舞谷商店では発災直後、道路が歪み、マンホールが飛び出るなどしたほか、大津波警報が発令されたことなどを受けて、「標高4~5mにある店舗を運営できる状態ではない」と判断。店を閉めて高台に避難した。警報が止んだ後は、SSに戻り設備を確認した。結果、レギュラーガソリンの地下タンクに水が入っていることが分かった。他のタンクは無事だった。電気についてはSSに発電機が用意されていたが、避難先から戻ると復旧していたという。

こうした中で、2日午前中に営業を再開した。店の前は開店直後から長蛇の列ができたという。レギュラーが販売できないため、ハイオクの価格をレギュラー並みの1ℓ当たり10円引きでレギュラー車にも販売していくことにした。舞谷昭弘社長は「ハイオク用タンクはレギュラーに比べて小さいのですぐになくなってしまう。当店は中核SSなので、緊急車両に給油しなければならない。元売りと連携して、毎日運んでもらった。それでも綱渡りの営業となった。正月だったため帰省客も多く、そうした人たちを含めて列ができたと思う。ただ、中核SSの役目を果たすため一般車両は2000円の給油に制限させてもらった」と振り返る。


七尾ガスターミナルが被災 北陸地方のガス供給が停止

LPガスでは、今回の地震で北陸3県の唯一の輸入基地であるENEOSグローブ「七尾ガスターミナル」が被災したことが大きな影響を与えた。

同社は発生直後から社長、役員、関係部門長がオンライン対策会議を開催し、安否確認や被災状況の情報収集にあたり、4日には社長を本部長とする「災害対策本部」を設置した。安定供給の使命の下、奔走したという。しかし1月末まで輸入船受け入れ配管、敷地内・周辺道路の損傷のため出荷停止となった。

全・半壊した家屋からボンベは撤去されていた

そこで、同社グループの輸入基地「新潟ガスターミナル」(新潟県聖籠町)からアストモスエネルギーの2次基地「金沢ターミナル」(金沢市)へ、内航船によるピストン輸送での出荷体制を整えた。日本LPガス協会会員の間で締結していた「災害時におけるLPガス供給に関する相互支援協定書」による連携が機能した。このほか、四日市エルピージー基地からも調達できるようにした。

LPガス供給において最も懸念されたのが、需要家への安定供給だ。家庭向けは軒先在庫があるため、次回のボンベ交換時期まで余裕がある。工業用途向けはそうはいかない。被災地以外の北陸地域には平時に近い形で供給が求められる。また、こうした需要家が被災地に必要な食料や物資などを供給しており、それを止めないためにも供給継続が不可欠だった。

富山市の日本海ガスでは、1月に代替基地から調達。2月からは七尾のタンク内在庫による出荷で通常の半分から3分の1程度を賄い、足りない分を継続して新潟などから調達した。

都市ガス会社からの応援もあった。東海地区の4社が、太平洋側で積んだLPガスを充てん所まで輸送するなどの協力を得られたという。山本健太・LPガス事業本部広域営業部長は、「繁忙期なのに、1台2人態勢で人も物も出してもらった。1月に300t程度供給を受けることができた」と感謝する。

発災直後のJA建設エナジー穴水事業所

配送に関しては、グループの配送会社とLPガス充てん所との連携を徹底した。特に充てん所の残量が圧倒的に少ないため、1日単位で数量を打ち合わせ、ぎりぎりで管理した。加えて卸売りと協議し、通常のエリア分担をやめ、より効率的に輸送できるように相互配送を行った。

2月下旬には、七尾にLPG船が入港できるようになった。3月以降は通常稼働となり、オーダー通り出荷されるようになったとのことだ。

【特集2】断水続く避難所で生活用水を供給 被災者の安心・安全に貢献


【I・T・O】

貯水から生活用水を浄化・供給する災害支援を行った。

被災者には電気・ガス・水の全インフラが必要になる。

ガス供給機器事業者のI・T・Oは、2024年元日に発生した能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県七尾市で救済活動に当たった。

同社は、NPO法人「LPガス災害対応コンソーシアム」の会員企業である田島、富士瓦斯、東京プロパンガスと共に災害支援チームを結成し、七尾市立小丸山小学校で被災者130人に対して支援活動を行った。チームが現地入りした時にはすでに電気は復旧しており、食料や飲料水は十分確保されていた。被災者より聞かれた困り事の多くは、震災直後から続く断水による入浴や手洗い、洗濯などができないことでの不自由さや衛生面での心配だった。そこでチームは、I・T・Oと以前から交流のあったクリタックが開発中の、100Vの電源接続で、1時間当たり2tの生活用水が供給可能な非常用生活用水浄化装置を設置し、被災者に生活用水を供給する支援を行うことにした。水源は学校のプール。特殊なフィルターにより不純物が除去された水はガス給湯器に送られ、仮設シャワー室と仮設手洗い場でお湯を供給。避難所で生活する人々に安心と安全を与えることに貢献した。

今年夏に発売予定の浄化装置


避難所の最低限の生活維持に 水インフラは必要不可欠

能登半島地震後のインフラ復旧の特徴として、ガス、電気は比較的早い段階で使えるようになったが、水インフラの復旧が遅れ断水が続いたことが挙げられる。「避難所で最低限の生活を維持するために必要なインフラは、電気、ガスだけではない。入浴やトイレや掃除、また、コロナ禍を経た生活には手洗い用の水が必要不可欠で、電気・ガス・水のすべてのインフラを整えることが求められている」と営業本部企画課マネージャーの岩岡冬季知氏は語る。

また、I・T・Oは、東日本大震災で仙台営業所が被災した際、敷地内に設置していた災害時対応バルクを使って、地域の被災者を救済した経験から、災害時対応バルクの有用性をよく知る事業者でもある。災害時対応バルク導入には経済産業省が費用を助成しており、全国で設置が進められている。このうち約7割がI・T・Oが提供したもの。今回被災した能登町のグループホーム「ぽかぽか」では、昨年11月に設置した同社の製品が役立った。

【特集2】BCPの実効性向上のために ジクシスが取り組む平時の対策


【ジクシス】

ジクシスがBCPを意識した取り組みを進めている。

日頃から大規模災害に備えることで、社員の意識向上にもつながっている。

LPガス元売り大手のジクシスは、BCP(事業継続計画)の実効性を高めるため、平時から三つのことに取り組んでいる。

一つ目は、BCP総合訓練だ。この訓練は準備に三カ月以上を費やし、年に一度、社長や経営層に加え、供給部門に新たに配属された若手社員なども含め、多くの社員が関わる形で実施される。例えば首都直下型大地震の発生を想定し、特約店からの受注を取りまとめる東京のオーダーセンターの被災により、大阪のオーダーセンターのみで受注対応する場合をシミュレーションする。ジクシスでは平時から、オーダーセンターを東京と大阪に分散し、どちらかが被災した場合に、もう一方のオーダーセンターでバックアップ可能な体制を敷いている。

BCP総合訓練の様子

二つ目は、非常用電源と大容量蓄電池の導入だ。安定供給を維持するためのエネルギー確保は非常に重要であり、東京本社でもビル内に非常用電源を設置している。非常時にはその非常用電源から最低2日分の電力を確保している。また、オーダーセンター要員が在宅でも業務にあたれるよう、自宅に非常用発電池を配備している。

三つ目として、緊急通行車両の事前登録があげられる。大規模災害時には道路の通行規制が行われる場合がある。そのような時にもLPガス供給に支障をきたさないよう、運搬に使用するローリー車を緊急車両として警察に事前登録している。この業務を実際に行ったのは、若手の新入社員たちだ。「事前登録を行った当時、行政側が電子に対応していなかったため、彼らが全国の警察署まで直接足を運び、全国行脚という大活躍をしてくれたことで達成できた」と、人事総務部・総務チーム長の朝倉峰之氏は語る。


災害時に他社を支援 強い使命感と互助の精神

今回の能登半島地震に関しては、北陸に基地を持たないジクシスには直接的な被害はなかったが、同社が供給していた特約店の中には被災した店舗もあった。他社からのLPガスの供給が滞ったことによる協力要請に対しては、出荷基地と連携して可能な限り代替出荷の準備や対応を行った。朝倉氏は「もちろん他社からの乗り換えを期待してのことではなく、『人々の生活を守る』という事業者としての高い使命感と互助の精神によるもの」と語る。平時からBCPを意識した行動により、LPガスの安定供給維持に向けたさらに盤石な体制構築を目指す。

【特集2】業界一丸で災害に立ち向かう 連携プレーで需要期を突破


被災地への燃料供給で奔走したLPガス業界。

ガスターミナル同士の相互支援体制生きる。

【インタビュー】上平 修/日本LPガス協会参与・事務局長

うえひら・おさむ 1982年慶応大学経済学部卒、三菱石油(現ENEOS)入社。ENEOSグローブ調達需給部長などを経て、2016年から日本LPガス協会事務局長。21年4月から現職。

―能登半島地震の影響でLPガスの輸入基地が被災しました、発災後の対応は。

上平 ENEOSグローブグループのLPガス輸入基地「七尾ガスターミナル」(石川県七尾市)が被災したことを受けて、日本LPガス協会は1月9日に「災害対策本部」を立ち上げました。以降、資源エネルギー庁や全国LPガス協会、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を交え、会合を10 回重ね、被災地向けLPガスの供給継続と被災した関連設備の早期復旧を目指してきました。 

―どういう体制で燃料を供給しましたか。

上平 被災の影響で七尾基地からの出荷が制約される中、近隣にある同社グループの輸入基地「新潟ガスターミナル」(新潟県聖籠町)からアストモスエネルギーの2次基地「金沢ターミナル」(石川県金沢市)へ内航船によるピストン輸送を行い出荷する体制を整えました。協会会員の間で締結した「災害時におけるLPガス供給に関する相互支援協定書」に基づく連携プレーがうまく機能し、冬場の需要期を乗り切れました。

―復旧の状況については。

上平 七尾基地では、2月末に被災した入出荷設備の応急的な復旧が完了し、航路の安全確認後の3月1日には輸入船を受け入れました。その後も支障のない操業を確認し、3月21日に対策本部を解散しました。


モノがあっても運べない マネジメント強化が課題に

―浮き彫りになった課題は。 

上平 主要幹線道路が被災し、一時的に「モノがあっても運べない」という状況に陥りました。輸送ルートの確保は重要な課題と言えます。タンクローリーやドライバーをいかに集めるかという課題への対応も、引き続き注力していくつもりです。

―今後の災害に備えて強化したい施策は。

上平 日本には、5つの国家備蓄基地があります。その一翼を担うのが七尾基地です。各基地の役割を踏まえた上で、被災した場合の対応を事前にシミュレーションし、戦略的なリスクマネジメントを実践することが大切です。よりマネジメント力を高めたいです。

―「災害に強い分散型エネルギー」としての優位性を実感できましたか。

上平 東日本大震災と同様に実感できました。国のエネルギー基本計画でLPガスは、「災害時のエネルギー供給の最後のとりで」と位置付けられました。そうした期待に応えていきたいと決意を新たにしています。 

【特集2】強い責任感で生活インフラ支える 金沢ターミナルが供給面で底力


【アストモスエネルギー】

「LPガスのサプライチェーン(供給網)を構成する関係者全員が『生活インフラを途絶えさせてはいけない』という強い責任感で結びついていることを実感できた」

能登半島地震に伴う津波警報の発令で北陸地方に緊張が走る中、アストモスエネルギーの宮崎博典・サプライ&ロジスティクス部長は、発災当時をこう振り返る。

北陸地方は、LPガスの二次基地「金沢ターミナル」(石川県金沢市)を抱える主要エリア。1月1日の発災当日はターミナルの稼働休止日だったが、出荷の継続に向けては予断を許さない状況となった。素早く基地運営の協力会社に連絡し、地震の影響を確認。設備に問題がなかったことから、予定通り翌日には稼働を再開した。

金沢ターミナルが大きな役割を果たした。

具体的には、どのような動きを見せたのか。金沢ターミナルの人員を増員するため千葉県市川市や長崎県松浦市に構えるグループ会社などに対して応援を要請した。LPガスの輸送を手がける事業者へも協力を求め、輸送路を多様化しながらタンクローリーによる供給を止めないようにした。

一方、企業の垣根を越えてLPガスを相互に融通するという仕組みも実現した。七尾市には、海外からの輸入船でLPガスを調達して貯蔵するENEOSグローブガスターミナル運営の「七尾ガスターミナル」がある。同ターミナルは地震の影響を受けており、出荷の制限を受けていた。金沢ターミナルがLPガスの受け入れと出荷を手助けし、顧客への供給が途絶えないよう支えた。

アストモスエネルギーは、協力関係にある元売りなどの関係者間で協議しながら、「被災地の供給網を支える」という使命を共有し、他社との連携プレーを繰り広げた。


膨れ上がる冬場の需要期 限られた玉の差配に力

金沢ターミナルでは、冬場の1日の取扱量は通常300t程度だが、この時は800~900tに膨れ上がったそうだ。

発災後の対応が円滑に進むよう奮闘した一人が、アストモスエネルギー国内事業本部需給部の相馬健洋・副部長兼受注センター所長(肩書は当時)だ。相馬氏は、医療機関などの緊急度の高い施設のニーズを見極めながら、「限られた玉(LPガス)の差配に全力を傾けた」と強調する。

自立稼働が可能な「分散型エネルギー」のLPガス。そうした強みを継続的に発揮できるよう定期的に防災訓練を重ねてきたことも、被災地で生きた。例えば、LPガスの基地に給電に必要な電源車を接続するという訓練に取り組んできた。

「LPガスの基地が出荷停止に追い込まれても、関係者間で連携して瞬時に対応することができた」と宮崎氏。同社は能登半島地震で得られたノウハウを生かし、今後とも供給網の「レジリエンス(強靭性)」を一段と追求していきたい考えだ。

【特集2】陸・海の両面で安定供給に精励 業界内連携を生かして早期復旧


ENEOSグローブ

「災害に強い分散型エネルギー」というLPガスの優位性を改めて確認するきっかけとなった能登半島地震。その舞台裏には、被災地の暮らしを支えようと海上輸送と陸上輸送の双方で安定供給に奮闘を続けるENEOSグローブの姿があった。

1月1日の発生直後から社長と役員、関係部門長がオンライン対策会議を開催し、安否確認や被災状況の情報収集に当たったほか、1月4日には社長を本部長とする「災害対策本部」を設置した。これ以降、休日を除く毎日午前9時から対策会議を開き、各部門が「LPガスの供給を途絶えさせない」という使命を共有。被災状況の確認や課題の整理、対応策の検討といった業務で精励した。

LPガスの安定供給を支える役割は民間基地に加え、国家備蓄基地も担う。その一つが、石川県七尾市に構える七尾基地だ。そこには、ENEOSグローブ傘下の「七尾ガスターミナル」と、国から委託を受けてエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が管理する「七尾国家石油ガス備蓄基地」が立地する。後者の運営にはENEOSグローブも関わる。

供給網の要となる七尾基地

地震では、LPガスを外航船で受け入れる際に用いる配管が被災したことで、原料の受け入れや国家備蓄の放出ができない状態に追い込まれた。そこで、基地の受け入れや放出に用いる配管のフランジ(継手)や保冷材を点検し補修するなどの対策を講じた。

外航船を入港させるための海上航路の安全性確認を進める一方で、民間基地への受け入れや備蓄基地からの放出準備が着々と進展。2月末には七尾基地の「仮復旧完了」の宣言ができるまでにこぎ着けた。


課題は輸送ルートの確保 行政の協力支えに解決

陸上では、LPガスのタンクローリーの輸送能力を確保するという課題に直面した。出荷に必要なポンプ回りの配管が損傷する痛手を被った。タンクローリーが通行する構内の路面の被災も目立ち、応急措置を余儀なくされた。アスファルトを削って鉄板を敷設するなどして、仮復旧を行った。

一方、民間基地へのアクセスとなる構外道路もタンクローリーの通行ができなくなるほどの被害を受けた。道路を所管する石川県や七尾市などの関係先から最大限の協力を得て、1週間程度で通行できるまでに復旧。一連の対応でタンクローリーの輸送ルートを確保した。

完全復旧ではないものの、矢継ぎ早の災害対策が奏功し、供給を切らすことなく、難局を乗り越えることができた。従来からの対策で生かされたのは、関係者間の相互支援協定だ。災害対応の担当者は「元売り各社間でタイムリーかつ効果的に連携する備えが生きたほか、資源エネルギー庁が参画してくれたおかげで、関係省庁への支援要請もスムーズに行えた」(ENEOSグローブ関係者)と手応えをつかむ。今回の震災で得られた経験と教訓は、分散型エネの災害対応力を一段と磨く今後の展開につなげたい考えだ。

【特集2】マルヰガス災害救助隊を出動 基金活用した物資提供で支援


【岩谷産業】

有事の際、速やかにLPガス復旧作業を行うことを目的に、特約店組織による「マルヰガス災害救援隊」を結成し、安定供給に取り組む岩谷産業。この災害救援隊にはマルヰガス特約店の約3600人が登録しており、これまで32の事例に対して出動している。

今回の大地震でもこの救援隊が活躍した。1月12日から3月末にかけて、関東、近畿、中部、中国地方から延べ187人が復旧活動に注力した。ガス漏れなどの点検調査、復旧件数は3675件にのぼった。

復旧活動を行う災害救援隊

一方、マルヰ会の救援活動に加え、岩谷産業は独自に支援物資を送った。1月2日には、地元自治体などに必要な物資の状況をヒアリングし、岩谷グループのLPガス小売り会社、イワタニセントラル北陸の在庫分を通じて支援した。

また、岩谷がサウジアラムコと共同で2009年に設立した基金も用いた。カセットこんろ、カセットボンベ、カセットガスストーブ、富士の湧水など支援物資を無償で現地に送った。その他、「デリバリーステーション」を使った炊き出し活動も行った。このステーションはイベントやアウトドア、災害時に利用できる大容量調理キットで、岩谷がリンナイと共同で開発したものだ。「輪島市内の避難所で、特約店と連携して炊き出し活動を行った。岩谷グループであるイワタニフーズの食材を用いて、300食ほどの豚汁を提供した」(マルヰ会事業部)


金沢LPGセンターが要 ハブとして機能を発揮

岩谷は輪島市、金沢市、小松市に石川県内のLPガス容器の充てん・配送拠点を構えている。今回の地震で「輪島LPGセンター」が大きな被害を受け稼働停止に追い込まれた一方、「金沢LPGセンター」の被害が軽微だったことは岩谷にとっては幸運だった。

ここは非常用発電設備などを備える基幹センターで、いわば供給網の要だ。「LPガス容器だけでなく、支援物資提供のハブ機能も担うことができた」(同)。岩谷では、今回の経験も踏まえて今後の災害対策に生かしていく考えだ。

【コラム/5月3日】福島事故の真相探索 第4話


石川迪夫

第4話 ジルカロイ・水反応とは

原子炉への注水量は

第3話で事故時に関与したジルコニウム量は、推定ではあるが16~19トンであった。今回はその相手方、水量の計算だ。計算に当たっては、ジルコニウム量を16トンとして行うこととする。

東京電力の事故調査報告書(2022年6月)には、炉心スプレー管を通じて、80トンの原子炉注水を完了したと明記しているのだが、この水が全て原子炉に入ったのではない。配管には3カ所の分岐管があって、各分岐管から流れ出た水量が把握されていない。加えて、注水記録の記載も明確でなく、発表された各種の公式レポートの記載には乱れがあり、信用できないのだ。出所は不明だが、3月21日まで注水はなかったとのフェイク発表も広まっているので、原子炉への注水量は推定する以外に方法はない。

なお、フェイク発表を信じている人はけっこういるらしいが、その人たちは、12日に起きた水素爆発を起こした水素がどこからやって来たと思っているのであろうか。水がなければ、原子炉建屋を壊すほどの大量の水素は発生し得ない。21日まで注水がなかったと主張する人は、12日の1号機爆発を否定することになる。フェイク発表は、事実に合わない。

東京電力の注水記録によれば、1号機の炉心に水が注入されたのが12日午前5時ごろからで、消防車を使って、1回当たり約1トンの注水を6回行なっている。その後、午前9時15分より本格的な注水に移り、爆発直前の午後2時53分の注水停止までに2度の注水を行ない、その合計が74トンとある。

ただ、炉心への注水を急ぐために格納容器のベントを午後2時ごろに開いたと記録しながら、1時間後の午後2時53分には注水を停止している。目的に反する操作が行われていたわけで、注入量も定かでなければ、炉心注水の目的も定かではない。調査で確かめる術がないのだ。

注水記録の中でわれわれの目を引いたものがあった。消防車からの原子炉への送水量と原子炉圧力の関連を示した、消防ポンプの性能曲線図(参照)で、東京電力が使ったという。この図とてどれほど信頼できるかは分からないが、この関連図を使って、午前9時15分以降の本格的送水について計算したのが、われわれの作った炉心注水量だ。結果は21トンであったが、詳細が不確かなので、炉心注水量は20トンと仮定して以降の話を進める。

消防ポンプ性能曲線

では、この20トンの注水は、原子炉の中でどのように行動したであろうか。

1号機の原子炉圧力容器の水が全て蒸発したのが11日の深夜だ。圧力容器の底がクリープ破壊したのが12日午前2時半、この時、70気圧余あった原子炉圧力はこの破壊で低下し、7.5気圧に減っている。注水開始前の原子炉状況はこのような状態にあった。

炉心直上にある炉心スプレー系統の配管類が溶融・変形していたため、20トンの原子炉への注水は炉心には届かず、壊れた配管から圧力容器の壁などを伝わって流下し、ペデスタル床に溜まっていったと考えている。この溜まり水が、午後3時半に起きた水素爆発の元凶であり、ペデスタル壁の損傷の主役となったことは、既に述べた。

なお、ペデスタル床と格納容器の床は同一のレベルでつながっている。このため、ペデスタルに降りそそいだ20トンの水は、格納容器の床にも流れ出て溜まり、その水深は25cmほどとなる。この水量と水深は、後の謎解きにも出てくるので、記憶にとどめておいてほしい。

【特集1/座談会】「分散化」は本当に有効なのか!? 強靭化へ新たな知見と教訓


火力発電所や国家石油ガス備蓄基地の被災などエネルギー関連設備も被害を受けた。

電力、ガス、石油業界は新たに得た知見を次の災害にどう生かすべきか。

【出席者】
草薙真一/兵庫県立大学副学長
荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授
藤井 聡/京都大学レジリエンス実践ユニット長

左から順に、草薙氏、萩本氏、藤井氏

―能登半島地震では配電設備の被害が大きく、停電復旧に約1カ月を要しました。

草薙 電力は被害範囲が広範で、一般送配電事業者(TSO)が送配電網協議会などを通じて連絡を取り合い、他電力が応援に入りました。また志賀原子力発電所のトラブルもあり、高い緊張感のもとで対応に当たっていた印象があります。

藤井 能登半島には七尾大田火力発電所と志賀原子力発電所という大きな発電所が二つあり、地震で七尾大田火力が稼働停止しました。発災直後には関西電力送配電から北陸電力送配電に対して最大60万kWのひっ迫融通が行われたものの、全国的なひっ迫は生じていません。ただ被害地域が広範囲となり多くの発電所が停止すると、3・11のように計画停電などの必要性が出てくる。改めて余裕を持った発電量確保の必要性を感じました。

荻本 七尾大田火力のような大きな電源は、送電線が高速道路のような役割を果たし、広い地域に電気を送り届けます。こうした供給は地域間融通で対応できましたが、今回の停電は家屋の倒壊に伴って電柱が倒れるなどが原因で、復旧へ必要な対応はさまざま。また被害を受けた家屋に電気を流すと、火災や漏電が起きかねません。個々の状態を確かめながらの復旧作業が求められた点が特徴です。

草薙 復旧作業では個々の需要家の顔を見ながら、直接対応するケースが多かったと聞きます。日本語を話せない外国人の被災者への対応などに苦労があったでしょう。

藤井 能登半島は新耐震基準に満たない建築物が約50%で、全国平均の13%と比べて格段に高い。家屋の耐震性によって災害時の停電が増えるメカニズムを再認識しました。

耐震化率が低く多数の家屋が倒壊した

荻本 今回の地震では広い面的な被害があり、復旧作業には道路などほかのインフラ復旧を待つ必要がありました。さらに道路が開通しても、アクセスに非常に時間がかかり、長時間の作業が行えないこともあった。

藤井 高速道路が七尾市で止まっていて、輪島市や珠洲市まで到達していません。「日本の隅々まで高速道路が整備されていれば……」との後悔は拭えません。

草薙 一方、道路の復旧がなかなか進まなかったことで、自衛隊の輸送艦などが海から支援物資の陸揚げを行いました。海からの救援はこれまでの災害ではあまり経験がなく、新たな学びとなりました。

藤井 七尾大田火力のような長期間の稼働停止の回避は、どれくらいの耐震補強で可能なのか、という検証は行う必要がありそうです。ただ電力自由化によって、強靭性の確保のための投資が削られてしまう側面は否定できません。本来は国費の投入も含めて、強靭性向上が図られるべきです。

荻本 設備の強靭化については、限られたお金をどこに投下するのか、社会全体での選択が必要となります。人口減少の中で過疎地への配電網をどこまで維持するのか、しないのかという判断も迫られるでしょう。


分散型電源の強みと弱み 地域に見合った選択を

―能登半島地震を受け、分散型電力システムの導入を求める声が高まりそうです。

荻本 災害時は、送配電網や電源の障害で広範囲で停電が発生します。その時、供給側は地域を超えた協力で復旧に向けて努力する。しかし、需要側の工夫も必要で、停電の影響の軽減のために需要側が貢献する「安定需給」の確立が求められています。これは、需要側が電気の使用を管理して自律することに加え、回復力の強化という効果もある。例えば電気自動車(EV)の今後の活用が挙げられます。バッテリー容量は大きくないので、冷暖房などには使えませんが、スマホの充電など停電の復旧予定に合わせて利用できれば効果は大きいでしょう。

草薙 EV活用時の課題の一つが、系統強度です。回転機を使わないので、交流の電圧波形を維持する能力が落ちてしまう。電力システム全体が小さかった時代は、系統強度の不足で電圧変動や周波数変動が起き、しばしば停電が発生しました。人口減少やEVの活用などでシステムの総体が小さくなると、またそうした問題が出てきます。

荻本 分散型電力システムは近年導入が始まり、まだ移行期にあります。移行期はシステムストレングスと呼ばれる交流電圧波形維持の問題など、さまざまな脆弱性を抱えている。例えば米国の西海岸では、合計100万kW級の多数の太陽光発電が一斉脱落した事例があります。ただシステムストレングスに対応するインバーターの開発や太陽光で発電した電気を貯めるバッテリーなど、脆弱性を補うにはお金がかかる。分散型電力システムはこうした現実を直視し、優先順位をつけて適用分野を広げる必要があります。

藤井 強靭性の強化という点で、地域分散的な電力システムが役立つという考えには必ずしも賛同できません。分散型では、例えば家屋倒壊などで太陽光発電が使えなければ電力供給は停止し、一つひとつ修理が必要となり、復旧に時間がかかる。しかし大きな発電所が多くあり、他地域からの融通システムの強靭性が確保されていれば、停電を最小限に抑えられる可能性が高い。

荻本 米国では、長い配電網の先に住宅や農場がある地域があり、ハリケーンによる配電線の被害の復旧にひと月もかかる例があります。そこで電力会社は、需要側に太陽光発電とバッテリーを設置する代わりに、配電線を撤去した。豪州の乾燥地帯でも、似たような事例があります。日本は国土が広大な2国と状況は異なりますが、「自立」の考え方としては頭に入れておくべきでしょう。

【特集1】避難所・仮設住宅のエネルギー環境 断水下の被災者を支えた貴重なインフラ


断水が被災者を苦しめる中、避難所へのエネルギー供給に大きな支障はなかった。

そして現在は仮設住宅の建設がピークに。事業者はその対応にフェーズを移している。

「水が出て流せることが当たり前ではない中、避難所でエネルギー面の不便がなかったことは助かった。エネルギーまで来なかったら目も当てられなかった」(七尾市福祉課)

避難所が数百カ所に及び全容がつかみきれない中、北陸電力送配電はまず数百人以上の施設への供給を優先し、その後100人単位へと広げていった。発電機車は合計95台体制で、商用電源でも対応した。復旧の進捗につれ送電ニーズも変化。「初めは人命に関わる避難所、その後はごみ処理場、火葬場、浄水場、防災無線など、自治体によっても異なる。経産省リエゾンが集約した情報を共有し対応することができた」(同社)。他方、細かい道路情報は誰も把握できず、重要施設に発電機車が一度で到着できないこともあった。

また、空調を含め全てLPガスを使用する輪島の日本航空学園のキャンパスは発災後、自衛隊や消防、電力などの最前線基地(現在は自治体応援者の基地)、そして避難所となった。ガスヒーポンや道路などが破損し断水していたが、厨房の配管が使用できることを確認。日本海ガスが、ローリーでの搬入などが可能かを確認した上でLPガスを配送できたのは3月上旬になってから。ただ、同校のLPGタンクは冬休み中で満タンであり、2カ月ほど在庫が持った。その間、同社はカセットボンベや寝具などの支援物資を送った。

仮設建設はピークを迎えている(石川県穴水町で)


仮設の建設最盛期 電力・LPガスの対応状況は

仮設住宅については、石川県が8月までに6600棟の完成を目指し、現在建設最盛期だ。

北陸電力送配電では、復旧作業しながら仮設用の電柱や配電設備を整備。平時同様、NTTと役割分担して電柱を設置する。入居に当たる電気の申し込み対応も増えてくる。「以前の住宅の電気契約をどうするか1件ずつ確認しつつ、高齢者などには丁寧に対応していく」(北陸電力七尾支店)。

他方、県LPガス協会が県土木部に要請し、地元販売店が仮設へのガス供給を担うことになった。というのも、東日本大震災では地元販売店に代わり配管工事などを担った大手事業者がそのまま顧客を獲得。さらに一部では工事関連費用を需要家に転嫁していたが、今回はエネ庁の指導により回避されている。

消費機器関連では、県は当初、高齢者への安全面の配慮からコンロはIH、給湯はLPガスと方針を掲げたが、早期にIHコンロが品薄に。以後はガスコンロを採用するが、据付工事で人手不足が課題となっているようだ。

【特集1】災害への強さを見せたLPガス 販売・配送の情報収集が課題に


設備被害を受けながらも、燃料油とLPガスは被災地へエネルギーを供給し続けた。

資源エネルギー庁の日置純子燃料流通政策室長に、災害対応から見えた課題を聞いた。

【インタビュー:日置純子/資源エネルギー庁燃料流通政策室長】

―能登地震でも災害に強いLPガスの利点が生かされました。

日置 いろいろありましたが、結果的に供給上の支障が生じることはなく、改めて災害に強く非常時に有用なエネルギーであることが確認されました。発災当初は北陸エリア向けの大半を担うENEOSグローブの七尾基地が出荷停止となり、特に産業用ガスをどう途切れさせることなく供給するかが大きな課題となりました。小規模ながらアストモスエネルギーの金沢基地をフル稼働させ、新潟、名古屋、四日市、堺といった基地からの配送や、限定的ながら七尾の出荷再開でなんとか乗り切れました。元売各社をはじめ、国土交通省や石川県の道路部局など関係者の理解と協力があってこそです。奥能登では充填所が被災しましたが、在庫や他地域からの応援配送で対応できました。

―今後の課題は。

日置 合理化に伴い日本海側にはLPガスの輸入基地が少なく、レジリエンスの観点から基地の配置や設備の在り方などを検討する必要があると考えています。資源エネルギー庁としても、情報収集に課題があったと認識しています。例えば、地元の小規模販売事業者の多くは配送を委託しているという実態が改めて浮き彫りになりました。応援配送の担い手たる事業者は誰なのか、災害に備えて情報を持っておく必要があります。また、被災している中で現地の人手が足りず、他エリアから支援に入るにしても宿泊施設もないような状況でどのような対応が可能なのか。今回の経験を踏まえ、対策を講じていきます。


中核SSはしっかり機能 初期対応で役割果たす

―中核SSは機能しましたか。

日置 発災当初は道路寸断でローリー車が入って来られず、非常用電源も3日で切れてしまうという状況下、病院や福祉施設、緊急車両、避難所への円滑な燃料供給を行うなど、非常に重要な役割を果たしたと評価しています。タンクへの浸水などにより運用できない設備も一部ありましたが、ハイオクのタンクにレギュラーガソリンを貯蔵するなど、緊急避難的な対応で初期の混乱を切り抜けることができました。自らも被災している中、高い使命感を持って対応していただけたことに感謝しています。

―今回の地震で、SSの過疎化が20年早く進んだという人がいます。

日置 地震をきっかけに、能登半島で人口や産業が戻らない場合、SSのニーズが減る可能性はもちろんありますが、国や自治体は、産業を含めた被災地の復興にしっかりと取り組んでいこうとしているところです。地震で設備に損傷を受けたSSやLPガス施設に対する補修費用の支援も行っています。現時点で悲観的なシナリオを描き、過疎化が進むと考えることは適切ではないと考えます。

ひおき・じゅんこ 京都大学卒業後、経済産業省入省。ネットワーク事業制度企画室長、デジタル取引環境整備室長などを経て23年7月から現職。

【特集1】疲労麻痺するほどの激務 被災支店の災害対応模様


北陸電力七尾支店では、発災直後の通信障害で従業員や家族の安否確認がままならず、支店に集まるのも苦慮した。そんな状態からスタートした同支店の災害対応の実情を、北角規良・営業部長と石塚聡・総務担当部長に聞いた。

七尾支店の北角氏(左)と石塚氏

非常時は支店長以下、部課長がすぐ出社する決まりだが、基幹道路が寸断し下道の被害も甚大。翌日にはほぼ全員集まり、本店と役割分担し後方支援に当たった。従業員の中には今も避難所から職場に通う人も。輪島営業所では火災で家を失った人、自宅全壊の人もいる。

食事面では本店の手配で賄えない支店従業員分を、地元スーパーに1カ月ほど提供してもらった。普段から顔を合わせる自治体職員や地域の人たちが、同社の要望に耳を傾けてくれたという。そして今も珠洲、輪島営業所には七尾支店が水を運ぶ。七尾は3月中旬にトイレの水を流せるようになったが、珠洲や輪島はまだ仮設トイレ。ただ、環境改善は大分進んできた。

配電部門の要請にはできる限り応えるよう努め、週2回の物資運搬は当初から続ける。また自治体のごみ回収がストップし、毎日2人ペアで作業員の宿泊先などのごみをトラックで回収。「2カ月ほどは疲労感が麻痺するほどの激務」だったが、現在、後方支援業務はかなり落ち着いてきた。

今回の教訓としては、「初動対応の一丁目一番地である従業員の安否確認、そして従業員の出社をいかにできるようにするか。また支店レベルでも地元企業との連携や能登エリアでの広域的連携体制の整備が今後の課題となる」と考えている。

【特集1】被災地のエネルギーインフラ事情をルポ 激甚複合災害に対峙した現場の奮闘記


被災地では多くのエネルギーインフラが被害を免れず、関係者はさまざまな課題に直面した。

他方、これまでの教訓が生きた場面も。甚大な複合災害に対峙した現場の生の声を拾った。

能登半島地震ではマグニチュード7・6、最大震度7を観測し、津波や液状化、火災といった大規模複合災害により、インフラの復旧は困難を極めた。道路の寸断や断水が長期に及び、かつ冬場の発災で、自らや家族が被災者というケースもある中、エネルギー関係者はどのように復旧に当たり、何を感じたのか。4月上旬に現地を取材し、当事者に発災から現在までを振り返ってもらった。


〈配電部門〉 困難極めた停電復旧

電力ネットワークでは今回、送変電設備でも一部被害があったものの、顕著だったのは配電設備だ。3月末時点で電柱の傾斜2310本、折損760本、断線・混線が1680カ所となっている。無電柱エリアでも路上機器に家屋が倒壊するなどの被害があった。

地震発生直後、石川県の能登地域を中心に約4万戸が停電し、北陸電力や他電力の応援部隊はアクセス可能なエリアから段階的に作業を実施していった(グラフ参照)。当初約200人が現地に入り、最大時は一日1400人規模で対応した。もともと奥能登の二つの事業所は所員が少なく、多数の人を投入してもさばききれないため、受け入れ可能な最大規模の人員が現地に赴いた。

到達困難な場所への作業員輸送に自衛隊が協力
提供:北陸電力

需要側設備の健全性が確認できない場合などを除き3月中旬には復旧したが、その間の苦労はほかの災害の比にならないものだった。北陸電力送配電配電部の越中洋・業務運営チーム統括は、「昨年末も奥能登では雪害があり、除雪し倒木を避けながら復旧作業を行った。しかし今回は複合災害であり、断水や渋滞も長期化。通常の停電復旧ではまず巡視し、被害を想定した上で班数などを考えるが、今回はそもそも巡視できないエリアが多数あった」と振り返る。特に被害が甚大な珠洲市や輪島市は、広いエリア内に設備が点在する上、なかなか現地に到達できなかった。

現地に入った作業員は3泊4日でローテーションを組み、被災地からいったん帰ってもすぐまた出向く、という日々がしばらく続いた。渋滞も悩みの種で、「ひどい時は金沢から珠洲に8時間かけて行き、1時間だけ作業して帰るなど、とにかく非効率だった」(越中氏)。また、罹災証明が発行されるまで道をふさぐ倒壊家屋を撤去できず、復旧させたくてもできない。1月いっぱいはそんな状況だった。

液状化で電柱が傾いたり沈下したりという箇所は、通電に問題がなければいったん仮復旧し、後から修復していくことになる。そうした対応にもまだ2年程度はかかる見通しだ。

そして何といっても、作業環境の改善がなかなか進まない点での苦労がつきなかった。通常であれば日が経つにつれ現場の環境はどんどん改善していくものだが、今回、1月ほど過酷な環境ではないにせよ、3カ月たっても大きく改善せず。現在でも共同の風呂や仮設トイレを使い、プライベート空間が限られる中で作業を続けている。

ただ、「大変な状況でも現場の配電復旧や後方支援は頑張ったし、雪慣れしていない他電力の人も1月いっぱいフルに活動してくれた」(同)。現在は仮復旧から本復旧の段階に入るとともに、仮設住宅への対応などが多くなってきた。今後、現場が直面した課題などを聞き取り、これからの訓練などに生かす方針だ。

発災以降の停電戸数の推移
提供:北陸電力

災害時連携計画が効力 応援要請が円滑に

越中氏は「場面場面で、これまでの災害の教訓が生きていたと感じた」とも強調する。まず大きかったのが災害時連携計画の存在だ。5年前の房総半島台風の教訓から、一般送配電事業者は同計画を策定し、経済産業省への届け出が義務付けられた。同計画に基づき今回、陸上自衛隊や海上保安庁の協力を得て、アクセス困難なエリアには作業員をヘリや船で輸送した。特に海保とは3年前に災害時の協定を結んだばかりだったが、ルールに基づき円滑に応援を求めることができた。

また、同計画では、仮復旧に関して全電力で統一した仕様・工法で行うこととしている。以前は応援に行くと部材や工法の違いに戸惑うことがあったが、ある程度統一できており、また統一できていないものについても拠点で作業前にレクを行うことでスムーズに対応できた。

さらに、経産省のリエゾンの存在も大きかったという。「リエゾンが災害対策総本部会議に参加して各部門が困っている話を吸い上げ、例えば道路啓開などの件で国土交通省に掛け合うなど、他省庁との懸け橋になってくれた」(同)

他方、昨年に一般送配電事業者の顧客情報漏えい問題が明らかになったことを受け、災害対応時も非公開情報や個人情報の扱いには最大限の配慮をしながら対応したと振り返る。