【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年4月号)


自己託送制度の見直し/都市ガスのカーボンニュートラル化

Q 電気事業における自己託送制度活用の要件厳格化で、どのような影響が考えられますか。

A 自己託送に関わる指針の改正により、①発電設備は、自己託送利用者が自ら設置したものに限られ、他の者が設置した発電設備を譲り受け、または貸与を受けること(賃借型)は認められない、②電気の供給を受ける一の需要場所(オフィスビルなど)について、自己託送利用者と当該需要場所におけるすべての者とが密接な関係を有する必要がある―とされました。

電気事業法上、自己託送を利用できるのは「非電気事業用電気工作物…を維持し、及び運用する(第2条第1項第5号ロ)」者ですが、「維持し、及び運用する」とは、その設備の所有を要しないと解されます(2020年度版電気事業法の解説83頁)。自己託送の目的は、「需要家が保有する自家用発電設備による余剰電力の有効活用(第68回電力・ガス基本政策小委員会 資料3の11頁)」ですが、だとすれば、自己託送利用者が発電設備を保有することを自己託送の要件とすることはやむを得ないとしても、自ら設置したことまで要求するのは行き過ぎと言えるでしょう。

電気事業法施行規則2条3号によると、密接な関係がない供給者と需要家は、長期にわたる組合契約を締結することで、自己託送を利用することができます。賃借型が認められない以上、組合型の自己託送の増加が見込まれますが、①組合契約により組成される組合の役割についての規定はなく、②長期の契約が求められるため、組合員の変更(加入及び脱退)が自己託送において認められるか不明である―といった問題もあります。

自己託送利用者の予測可能性の確保のため、組合型の要件を事前に明確に定め、公表されることが望まれます。

回答者:深津功二/TMI総合法律事務所 パートナー弁護士


Q 都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化に向けた取り組みと課題を教えてください。

A ガス業界は「S(安全)+3E(安定供給、経済、環境)」を前提に、足元では天然ガスの供給拡大を通じて低炭素化に貢献し、将来的には供給するガス自体をCN化することで、国内産業の発展と2050年CN達成の両立を目指しています。

ガスのCN化を実現する上で重要な役割を担うのが「e-メタン」です。e-メタンは回収したCO2と水素から作られ、燃焼しても大気中のCO2量を増やさないCNなエネルギーです。ガス導管やガス機器などの既存設備はそのまま利用できるため、新たに大規模なインフラ・設備投資を行う必要がなく、社会コストやお客さまの支出を抑制しながら、温暖化対策への貢献が可能です。

昨年末にはGX経済移行債の支援対象が示され、e-メタンを含む「水素等」分野においては、15年間で3兆円規模の支援が予定されるなど、日本のエネルギー政策においてもCNに向けた有力な手段として期待されています。現在、国内外で複数のプロジェクトが検討されており、米国キャメロンLNG基地を活用した日本へのe-メタン導入では、東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・三菱商事などが連携し、30年に約13万t/年(家庭用・約50万件)のe-メタン輸入を目指しています。

e-メタンの社会実装に向けては、既存の燃料であるLNG輸入価格との価格差に留意した導入促進策の検討に加え、燃焼時の CO2を誰が削減したことにするのかなど、その取り扱いに関する国内・国際ルール整備が必要となります。特に国際ルール整備においては、まずは特定の国との二国間での調整やルール確認などが重要となり、事業者の投資予見性の観点からも早期の協議が期待されています。

回答者:奥田 篤 /日本ガス協会カーボンニュートラル推進センター長

【コラム/4月26日】福島事故の真相探索 第3話


石川迪夫

第3話 ペデスタル壁にできた空洞

破損写真を独自に検証

ペデスタルの破損写真(写真B、第2話)について、われわれは独自の検討を試みた。

注意しておきたいことは、1号機の炉心位置からペデスタルの床上まで、約15ⅿの大きな落差があることである。この落差を越えて、圧力容器の中で起きる炉心溶融が、なぜ15mも下にあるペデスタル床の壁の損傷と結びつくのか、この謎解きの前半が第3話であり、1号機事故の解明の手掛かりとなる。

なおこの謎解きの過程で、福島第一2、3号機、並びにTMI事故での炉心溶融と水素爆発の過程もより明確となったので、それも随所で触れる。

当然のことだが、事故解明を行っていると、不明確な事故記録に沢山ぶつかる。事故検討を試みるにはそれらを明確にする必要があるが、繁多な事故対応業務においては、連絡や操作の記録に漏れや誤りが起きるのは防ぎようがない。加えて、上記事故の解明には、これまで原子力関係者が等閑視してきたジルカロイ・水反応の理解が必要である。この説明や解説には多くの紙幅を必要とする。

難解な話ではないのだが、読者が始めて見聞きする話が多いので、本論に入る前に説明すべき事柄が多いためだ。だが、本論に入る前の説明で、読者が読みくたびれてしまっては何にもならないので、今回は結論を先に述べて、説明を後に回す書き方を採用してみた。読み通してもらうための配慮であるが、通例を破って結論を先に述べる失礼をお詫び申し上げる。


注水で床に水溜りが

今回は、「空洞化」をつくった現象の前座説明が主体である。

結論から先に述べると、ペデスタル壁の空洞が出来た原因は、ペデスタルの床に溜まった水溜まりに高温の燃料棒が落ちてきて、激しいジルカロイ・水反応の発熱――ジルカロイ燃焼――が起きた事による。

以降その説明に入るのだが、なぜ原子炉の事故が15ⅿも下のペデスタルに損傷を及ぼしたのか、その謎を解くための手がかりは、事故時の炉心状況変化の正確な把握と、その変化を追いながら炉心からペデスタルにいたるまでの空間の変化状況を知ることである。

まず事故状況の復習から。津波で全電源喪失状態に陥った1号機は、炉心への水の補給が全くできなかったので、事故当日の11日の深夜には原子炉の水が全て蒸発してなくなり、原子炉圧力容器は空っぽになっていた。従って、炉心の冷却は輻射(放)熱に頼る状態となり、炉心が発する崩壊熱によって温度は徐々に上昇して、12日午前2時半ごろには、圧力容器の底は後述する高温クリープ破壊*1を起こして破れ、底に穴が開いた状態となった。

破壊時点での炉心温度は、中心の高温部分では2000℃を超えていたであろう。また、この時点で崩壊熱は、原子炉出力の0.6%程度にまで下がって低くなっていた。

2000℃の炉心が放散する輻射熱を受けて、圧力容器内部のステンレス鋼製の炉心構造体は溶融したり、変形したりしていた。炉心直上に配備された炉心スプレー配管も溶融・変形して、仮に原子炉に水が送られても、炉心へのスプレー水が満足に放散される状態にはなかった。

12日午前5時ごろ、東京電力は消防車を使って、空っぽの原子炉への送水を開始した。注水には上記の炉心スプレー配管を使った。詳細は後に譲るが、炉心スプレーに送られた約21トンの水のほとんどは、壊れた配管から流出して圧力容器の壁を伝って流れ下り、破壊された圧力容器の底を通ってペデスタル床上に溜まったと考えられる。配管の壊れた炉心スプレーは、炉心を冷やす本来の目的を果たせなかったのだ。

だが、この床上に溜まった水が、後述のペデスタル壁の損傷をもたらしたジルカロイ・水反応の主役であり、1号機に起きた水素爆発の元凶であることを覚えておいてほしい。

【コラム/4月25日】構造改革(Do Something)を考える~第3弾、財投・政府系金融機関改革の今日


飯倉 穣/エコノミスト

1、 「構造改革」の意味~明確な定義なし、官製用語

経済政策として構造改革の言葉が、平成時代を舞った。市場機能の貫徹を標榜した。公的なものの民営化、規制緩和、貿易制限廃止等である。市場原理かつ競争促進政策が要であった。それらは構造的な改革だったであろうか。

現経済の行き詰まりを見れば、これまでの構造改革は現状認識の間違いから出発した対策の連続であった。構造とは何かと改めて問うと疑問も多い。経済論的に「構造改革」の言葉に明確な定義は見当たらない。官製用語である。政治学的意味は、何かする(Do  something)で、単なるプロパガンダのようである。

「経済構造」(経済学的意味)として捉えれば、構造パラメーターと呼ばれ短中期的に一定と考える条件(貯蓄心、勤労精神、社会秩序維持の態度、技術水準、技術革新状態、教育水準等)のようである。これらの条件は、現経済活動の枠組みである。その条件を変更した場合、日本経済が、成長・健全化に向かうか、余り変わらずか、逆に混沌に落ち込むか不明である。一連の“構造改革“は、それを目指す提案もあるが、多くは既得権奪取狙いの制度変更である。成長と関係希薄なパイの再配分か混乱となる。

この視点で電力自由化、郵政民営化を述べてきた。今回は、構造改革の路線上にあった財投・政府系金融機関改革を考える。


2、目玉構造改革のその後

電力改革検証は本質を回避

平成以降、幸いにも行政でPDCA(計画・実行・確認・改善)を意識させた。所謂“構造改革”も検証対象となり、時折話題となる。例えば電力システム改革(電力自由化)の検証が進行中である。検討資料は、発送配電分離による各工程分離の問題に入ることなく、電源確保(容量市場)、卸電力市場・小売市場の不都合を手直しする弥縫策に終始している。本質に近づかない議論に首を傾げる。

郵政民営化は蒸し返しか

構造改革最大の目玉だった郵政民営化はどうか。郵政民営化委員会意見(2024年3月7日)でも今後のビジネスモデル不明・経営者の指導力不足を嘆く。そして報道は伝える。「郵政民営化撤回 動く局長会自民議連が法改正検討 維持コスト捻出狙い 郵政側は反対 行方は不透明」(朝日同4月5日)。郵政民営化に伴う経済的・政治的利害関係が輻輳し、今後の方向は迷走しそうである。

財投・政府系金融機関整理は音無し

郵政民営化と同時に構造改革の柱だった財政投融資・政府系金融機関改革もあった。入り口(郵貯等)、中間(資金運用部・財投計画)、出口(運用先・特殊法人等)の区分けで、それぞれ問題の指摘があった。議論は、入り口(郵貯等)の民営化を中心に進んだ。中間は、郵貯等の資金運用部預託廃止、財投債で必要資金調達となった。同時に出口の運用先の特殊法人・政府系金融機関の整理が大々的に取り上げられた。そして官邸主導で大胆な事業合理化・統廃合を実施した。その制度変更直後、金融危機発生で一部手直し再活用があった。その後制度改革の成否はあまり話題とならない。何故だろうか。


3、財政投融資(資金の流れ)の見直し

財政投融資は、財投債等で調達された財政投融資資金(財政融資資金勘定・投資勘定の区分あり)で、国の政策(財政投融資計画)に沿い、特会、地方公共団体、政府関係機関、独立行政法人等に長期・固定・低利の融資や出資をする。

2000年まで郵貯・年金等の預託が原資だったが、制度見直し(法改正00年)で資金運用部・預託廃止となった。現在、財政投融資計画は、金融市場から財投債で必要資金を調達し、必要額を財投機関に投融資する。加えて機関の健全性判断を市場に委ねる意味で、財投機関は、事業に必要な資金を自主調達(財投機関債)する。この点は政策遂行の視点から評価が分かれる。

これで財投は、預託義務資金から解放され、財投原資の市場化で、市場との整合性確保、財投計画の肥大化防止、自主調達で政府関係機関の経営効率化等に努める姿になったという。金利の決定システムが、政治的・官庁的交渉・手続き(従来国債金利に0.2%上乗せ)から、金融市場(財投債発行)に移行した。民間と郵貯は、イコールフッテイングとなる。制度変更で郵政は、郵貯等の自主運用のメリットとリスクを抱えることになった。


4、政府関係金融機関の見直し

財政投融資対象は、民業補完の視点で事業整理もあった。とりわけ政府系金融機関は、90年代以降一貫して見直し対象だった。類似業務機関の廃止統合が行われた(北東・開銀、医療・環衛・国民等)。そして「政策金融機関改革の基本方針」(05年11月)は、政策金融機能を、①中小零細企業・個人、②海外資源確保・国際競争力確保、③円借款に限定し、他は撤退とした。また政策金融は、貸出残高GDP比半減、財政負担なし、再編後も縮小努力、民営化機関は完全民営化の方針を示した。

この結果、国民・中小・農林・沖縄・国際協力銀行の統合(日本政策金融公庫)、政投銀・商中の完全民営化、公営公庫の廃止・自治体移管(地方公共団体金融機構)があった。その後紆余曲折を経て、財投対象として政府関係機関(沖縄振興開発金融公庫、株式会社日本政策金融公庫、株式会社国際協力銀行、独立行政法人国際協力機構有償資金協力部門)、株式会社日本政策投資銀行、株式会社商工組合中央金庫となる。

融資対象は、政策公庫が、中小・個人・農林水産業、政投銀は産業・インフラ・地域・海外、国際協力は、重要物資確保・海外展開等である。機関再編・業務整理後、リーマンショックあり、コロナウイルス感染あり、日本経済停滞に伴う活性化必要対策ありで、政策金融の役割は、山あり谷ありである。

前回策定時から周辺環境が激変 エネルギー基本計画改定に一言


【多事争論】話題:第7次エネルギー基本計画

今年、エネ基改定が予定される中、関係者からはさまざまな意見が出始めている。

産業界からの提案、そして現行からの大転換を唱える有識者の意見を紹介する。


〈 GXに向け新たなアプローチで 現実的なバランス感が必須 〉

視点A:手塚宏之/国際環境経済研究所主席研究員

エネルギー基本計画は「安全性」「安定供給」「経済効率性の向上」「環境への適合」というエネルギー政策の基本方針にのっとり、わが国の基本的な方向性を示すものである。エネルギー政策基本法に基づき3年ごとの改定が規定されていて、今年は3年ぶりに新たな第7次エネルギー基本計画が検討されることになっている。現行の第6次計画は2021年10月に閣議決定され、そこでのテーマは、東日本大震災と福島第一原発事故から10年の節目ということもあり、「安全性」がいかなる事情よりも最優先すべき大前提であると強調した。その上で、前年に菅政権が発表した「50年カーボンニュートラル」への道筋を示すことと、そうした気候変動対策(「環境への適応」)を進めつつ、「安全性」の確保を大前提に「安定供給」の確保やエネルギーコストの低減(「経済効率性の向上」)に向けた取り組みを示すことを重要なテーマとして策定されたものである。

しかしその後3年で日本を取り巻く国際情勢は大きく様変わりした。22年5月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、化石燃料輸出大国であったロシア産エネルギーの輸入制限による世界的なエネルギー価格高騰と調達不安をもたらし、さらに昨年10月、ハマスによるイスラエル攻撃から始まったパレスチナ紛争は、中東地域からの石油、天然ガスなどの輸入に依存してきた日本のエネルギー安全保障にさらなる影を落としている。

一次エネルギー供給のおよそ8割を輸入化石燃料に依存する日本にとって、こうしたエネルギーを取り巻く世界情勢の不安定化は、国民生活、産業活動の死活問題に直結する深刻な安全保障上の危機である。脱化石燃料、脱炭素といった理想論は長期的に取り組むべき課題であり、目の前の現実問題として石油、天然ガスの輸入が途絶するような事態を招けば、たちまち輸送用燃料と熱供給の大半、電力供給の約4割が途絶する。そして国内の社会経済活動は大混乱し、食料生産や供給も途絶して、国民は困窮生活に追い込まれることになる。

次期計画は、現下の国際情勢を踏まえ、エネルギー安全保障(安定供給)の確保を最上位概念に据えて策定されるべきだ。

産業界の視点から次期計画に求めるのは、「経済効率性の向上」と「環境への適合」のバランスの取り方である。欧州では、脱炭素化政策の下で脱石炭と、再生可能エネルギーの普及政策を進める中、ロシア産の安価な天然ガス供給が途絶することで、エネルギーコストが跳ね上がり、深刻な脱工業化が始まっている。欧州企業は域内設備投資を控え始め、エネルギーコストが安い中国や北米地域に生産拠点を移転し始めている。

【需要家】誰のための合成メタン? ガスワーキングの波紋


【業界スクランブル/需要家】

2月29日、ガス事業制度検討ワーキンググループでの一幕。「ガス導管と関係ない費用を託送料金原価に算入することは筋悪であり、もし同様の提案が電力の議論で出れば袋叩きに遭う」。経産省の事務方が一通りの説明を終えるのを待つ間、委員から発せられた一声が注目された。ガス体エネルギーのカーボンニュートラル化が進まない現状について、合成メタンで解決を図りたいという趣旨に対するコメントだ。

過去に開かれたガスの在り方検討会では、水素などの温室効果ガスを発生させないガス体エネルギーを導管に混入させると、需要家は既存の燃焼機器の買い換えを迫られ、数兆円規模の負担が生じる可能性があるとして、大手ガスは需要家保護の点で水素混入には難色を示していた。彼らが目指すのは、合成メタンの導入だ。

ただし、合成メタンの製造には、空気中などからCO2を回収しグリーン水素を製造して、その炭素と水素を合成するなど、高度な技術開発が不可欠だ。結果、グリーン水素よりもコストが高く、熱量当たりの単価が上昇するという。また、それ以前に合成メタンが非化石エネルギー源由来であることをどう証明するかなど課題を積み残す。

話を戻すと、こうした費用増をガスの全需要家の均等負担にすれば大手ガスは安心して合成メタンを大量生産できる。ただ大手ガスだけの取り組みを託送原価に算入することは、新規参入者のガス料金低廉化に向けた努力に水を差す。国民負担の抑制に努めるべき経産省が大手ガスだけが取り組む合成メタンを公共部門の託送原価に織込む方向を示すとは……。(Y)

東大発の洪水予測技術を実装 企業の「適応」対応を支援


【エネルギービジネスのリーダー達】北 祐樹/Gaia Vision代表取締役

気候変動対策のうち被害の拡大に備えた「適応」に本腰を入れる日本企業はまだ少ない。

そうした中、最新の洪水予測技術でリスクを見える化、軽減に向けた事業を展開する。

きた・ゆうき 東京大学大学院新領域創成科学研究科で爆弾低気圧などを研究。2020年博士課程修了(環境学博士)。MS&ADインターリスク総研を経て21年GaiaVision設立。東大生産技術研究所特任研究員。

気候関連の財務情報開示に関する国際枠組み・TCFDの取り組みなどを受け、企業活動として気候変動対策に本腰を入れる動きが定着してきた。ただ、国内では対策としては温暖化ガスを削減する「緩和」に目が向きがちで、社会・経済システムなどの調整で気候変動の悪影響を軽減する「適応」の事例は現状まだ少ない。他方、欧米では適応に関連したスタートアップが台頭している。

そうした中、2021年に設立したのが、適応の分野で企業の気候リスク分析を行うGaia Vision(ガイアビジョン)だ。今年2月には、環境省が主催する2023年度の環境スタートアップ大賞で、最上位の大臣賞を受賞した。

同社の強みは、東京大学が開発したグローバル洪水シミュレーションをコア技術として活用すること。国内外の各地点について高解像度で高精度、迅速にシミュレーションでき、民間で活用するのは同社だけだ。企業活動に伴う長期の気候リスクを見える化し、その低減に向けたサービスなどを展開する。

東大で研究を続けながら同社代表取締役を務め、二足のわらじを履く北祐樹氏は、「大学に籍を置くことで、日々アップデートされる最先端の研究成果を使いこなし、国内外の研究機関とのコネクションも活用できる。最先端サイエンスとテクノロジーを社会に届け、地球と人類社会を調和させる、という当社ビジョンを目指す上でベストなスタイル」と強調する。


気候リスクを分析・評価 リアルタイム洪水予測も

メイン事業は、企業の拠点情報を入力し、将来の気候変動に伴う資産や売り上げ額、業務停止日数などの影響を分析し、洪水浸水リスクマップを提示するサービスだ。日本の場合、気候リスクの財務影響評価は損害保険会社などの限られた場面で行われているが、より多くの企業が活用することを提案する。

製造業やインフラ企業、金融機関などが対象ユーザーとなる。例えばある電機メーカーは、これまでに河川近くの工場などが洪水被害を受けた経験があり、今後の被害予測や、投資家への説明材料として、同社のサービスを利用しているという。

さらに、気象業務法と水防法の改正で、昨秋から民間でも洪水予報を行えるようになったことを受け、自治体や民間向けにリアルタイムでの洪水予測サービスも始めた。こちらでも既存予測と差別化する。

気象庁が公開するのは3時間先の洪水予測だが、同社は細かいメッシュで36時間先の予測を精度保障する。いつ、どこで、どの程度の浸水が発生するのかといった情報まで示し、事前の避難指示や資産保全を判断できるようにした。5年前の大雨被害で北陸新幹線が水没したようなケースでは、事前に詳細予測を把握できれば、被害を軽減できる可能性がある。

このほか、治水対策効果の評価や河川流量シミュレーション、気候変動関連の研究開発や戦略立案の支援なども手掛ける。現在は無償ユーザーが50社、有償ユーザーとして18社が利用している。


九州電力と連携 海外水力開発に有効

こうした情報はエネルギー企業にとっても有用だ。同社は九州電力と共同で、海外での水力開発に際し、河川流量予測の活用可能性を検証している。日本は河川や雨量などのデータが豊富に揃っているが、途上国などでは高精度のデータが不足していることが開発のネックとなりがち。そこで、グローバルなデータやシミュレーション技術があれば、ハードルが下がるのだ。

国内のエネルギー事業での利用実績はまだないが、リアルタイムの洪水予測は、電力やガス会社が災害時の復旧に備える上で参考になる。さらに、渇水予測は発電量予測に活用できる。

当面の課題は人材育成だ。現在の社員は北氏と、同じく東大で気候変動を研究していた出本哲・共同創業者の2人。専門知見を持ち、最新技術を理解した上でビジネスとして取り組める人材が不足しており、育成に力を入れる方針だ。

その上で、さらなるサービス拡充も視野に入れる。「人口衛星データの活用、さらにAIの進化により、従来の気象予測技術をさらに進化させることができる」(北氏)。洪水以外に台風などの異常気象予測を拡充させるとともに、洋上風力や太陽光発電の長期予測の事業化も目指している。

気候変動対策の両輪として、緩和だけでなく、より多くの企業が適応も意識し、既に起きている異常気象への即時対応や長期リスクの低減を図ることが重要だ。そうなれば、企業にとっても社会にとっても、持続可能なシステムの構築にまた一歩近づく。

【再エネ】炭素クレジット 再エネ取引減、森林は拡大へ


【業界スクランブル/再エネ】

カーボンプライシング構想やカーボンクレジット売買の需要増を背景に、東京証券取引所がCO2削減量の価値である「Jクレジット」の取引市場を昨秋開設してから間もなく半年を迎える。2005年から環境価値取引市場で先行する欧州に対して、日本では13年にJクレジット制度を創設したが、主に企業間での相対取引で、認知度が低かったこともあり、さらなる取引活性化のため環境価値取引市場が開設された。

本市場を通じた累計取引量は本年1月に約10万tを突破、3月には約20万tまで拡大し、取引量の約7割を再エネ電力、約3割を省エネによる環境価値が占める。政府はGXリーグにおける排出量取引を開始する本年後半には市場参加者を560者程度に倍増することを目指す。

しかし、このまま順調に取引量が増加するかというと、再エネ電力に関しては今後減少するのではないかとの見方がある。再エネ電力はクレジットとしてではなく、再エネ電力そのものが求められているためだ。実際に海外の民間系(ボランタリー)クレジットでは、再エネ電力はクレジット対象外とする動きもある。

代わりに、今後取引の増加が期待されるのが森林資源に関する環境価値である。足元では全体の取引量の1%にも満たないわずかな取引量だが、取引価格はt―CO2当たり8000円台の高値を記録しており、再エネ電力3000円台の2倍以上となっている。日本は森林資源に恵まれた国であり、森林管理人材や資金不足による供給体制の課題をAIや新品種の活用などで克服し、いずれ日本におけるクレジット取引の主軸になるだろう。(K)

富山の産業と暮らしを元気に ガス事業の枠を超え事業を展開


【事業者探訪】日本海ガス

都市ガスとLPガス供給で富山の経済と暮らしを支える日本海ガス。

人口減少、そして脱炭素という地域課題解決へさまざまな手を打ち出している。

北陸経済の中心地であり、ホタルイカやシロエビ、寒ブリなど海産資源に恵まれる富山湾に面し、立山連峰など自然を身近に感じられる富山市。豊富な工業用水と安価なエネルギー価格を武器に、製薬や機械、アルミ産業などを中心とする日本海側屈指の工業都市として発展を遂げた同市は、近年では、公共交通を軸とした「コンパクトなまちづくり」や「環境モデル都市」など先進的な取り組みで存在感を高めている。

日本海ガスは、同市のほか、高岡・射水市といった県西部を供給エリアとする都市ガス会社だ。モノ作りが盛んな地域だけに、同社のガス販売量の66%を工業用が占めており、産業界の環境意識の高まりに伴い、顧客数、販売量ともにこの10年間で4割伸ばしてきた。

土屋誠社長は、「東日本大震災後、エネルギー源を多様化するためガスエネルギーがクローズアップされたのに加え、2016年にINPEX直江津LNG基地からのパイプラインが運用開始となったことも、需要開発を頑張ろうという社内の機運の高まりにつながった」とした上で、「まだまだ燃料転換で地域の脱炭素化に貢献できる」と意気込みを見せる。

土屋誠社長

産業分野での取り組みは熱利用の燃料転換にとどまらない。電力小売事業には参入していないが、太陽光発電システムのPPA(電力販売契約)を手掛けるなど、顧客企業の脱炭素化のためのエネルギーソリューションにも注力している。担っているのは、「大切なお客さまのエネルギー利用を最適化し、生産コストを下げ競争力を高めるコンサルタント役」(土屋氏)だ。


W発電で家庭用に切り込み 県内資源でクレジット創出

一方、エネルギー競争という点では、新築住宅分野においても、他燃料との厳しい需要争奪戦を繰り広げている。その戦略の一つが、家庭用燃料電池「エネファーム」の普及拡大だ。21年には、新築時にエネファームを採用する家庭を対象に、太陽光発電システムを0円で導入できる「So―Raファーム」の提案を開始した。

今年の4月には、エネファームによるCO2削減分を同社が買い取りJクレジット化し、会員制ポータルサイト「Prego Club(プレーゴクラブ)」のポイントを進呈するサービスにも乗り出す。

脱炭素への貢献の一環として、北陸銀行の富山市内の11店舗にCO2排出実質ゼロの「カーボンニュートラルガス」の供給を始めている。市と同市内の森林組合の共同による「富山市カーボン・オフセット運営協議会」が作ったJクレジットでオフセットする。土屋氏は、「地域資源を活用することに意義がある」と強調。この取り組みをほかの森林組合にも広げ、クレジットを単に消費するのではなく、地域と協力しながら県内に森林を整備することでクレジットを創出、地域の脱炭素化に寄与していく考えだ。

【火力】武豊火力の火災事故 安全規制と競争促進の狭間


【業界スクランブル/火力】

再生可能エネルギーの一種として拡大が期待されるバイオマス発電だが、火災事故が相次いでいる。昨年末、経産省の電力安全小委員会内のワーキンググループでもその旨が報告されていたが、1月31日の武豊火力の爆発事故の報道映像は記憶に新しい。

バイオマス発電の燃料種は多様だが、燃焼時に木質ペレットを粉砕する場合は、粉じんが火災の原因となり、また保管中に自然発酵などにより可燃性ガスが発生することがあり、運用にはそれなりに気を使っている。

最近の事故を見ると、バイオマス燃料の貯蔵設備、搬送設備、または受入設備で多く発生しており、燃料取扱量の急拡大に対し安全確保の知見蓄積が追い付いていないのではないか。何事も最初はトラブルが付き物で、これらの知見を生かして早期に大量利用時の安全運用の実現が必要だ。

武豊事故を受け、規制当局から業界団体などを通じて情報の横展開を図るよう指導が出る中、2月29日には火力原子力発電技術協会主催の「バイオマス発電交流会」が行われた。以前から企画されていたようで、早速安全操業に関する事業者間の情報共有の場となったようだ。

しかし、安全の情報共有の取り組みに関し懸念がある。それは競争を促される中で、事業者がノウハウの流出を嫌うこと、適切な競争を実現するためとして事業者間の情報交換を不適切事例と言われかねないことだ。当事者の意識の問題であり乗り越えてもらいたいが、事業規制と安全規制が縦割りとなっている行政側の問題でもある。S+3Eの実現のためには、この視点での検証も避けて通れないだろう。(N)

【マーケット情報/4月19日】原油続落、余剰感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、世界各地で一段と余剰感が強まり、主要指標が軒並み下落。

先週発表となった米国の原油在庫は、市場の予想を上回り、さらに増加。増加を示すのはこれで4週連続となる。同国の在庫量は昨年6月以来の高水準を記録しており、市場では供給過剰への懸念が強まった。

また、米国および英国がイランに新たな経済制裁を課すも、エネルギーセクターは対象から外された。これにより、中東情勢悪化にともなう供給不安が和らぎ、価格の下方圧力となった。

ただ、週後半、米国が自粛を促すも、イスラエルがイランに報復攻撃を実施。一時価格は急伸したが、市場への影響は限定的との見方が広がり、前週比での価格上昇には至らなかった。


【4月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.14ドル(前週比2.52ドル安)、ブレント先物(ICE)=87.29ドル(前週比3.16ドル安)、オマーン先物(DME)=87.97ドル(前週比2.38ドル安)、ドバイ現物(Argus)=87.35ドル(前週比3.16ドル安)

ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ


【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】関口博之 /経済ジャーナリスト

翻訳家で環境活動家としても知られる枝廣淳子さんと仕事でご一緒する機会がある。彼女がすごいと思うのは理想論をさらりと語る一方で、行動は地に足がついていることだ。先日、枝廣さんが移住し活動拠点にしている静岡県熱海市を訪れた。

志を同じくする地元の仲間と立ち上げた「未来創造部」が2020年から始めたのが、海の藻場など生態系で炭素を吸収・蓄積する「ブルーカーボン」のプロジェクト。今後、カーボンニュートラルを達成したとしても、すでに大気中にあるCO2も減らさないと温暖化は止まらない。そのために陸での植林と並んで注目されているのが海の生態系によるCO2吸収=ブルーカーボンだ。

「未来創造部」では伊豆半島の西側にある土肥の海水浴場でシーズン前に除去される海草の一種の「コアマモ」を採取し、それを熱海に運んで、海岸近くの浅瀬に移植しているという。海水浴場では足にまとわりつき海水浴客に嫌がられる厄介ものだが、それを藻場の再生に生かすわけだ。磯焼けなどで失われつつある海の生態系を復活させ漁業資源を守るとともに、海草の光合成によってCO2の吸収にも貢献する。

コアマモの移植
提供:未来創造部

もちろん課題はある。移植した株が定着したか観察を続ける必要があるし、そもそも海底の藻場などの調査を簡便かつ廉価に行いたい。その方法も模索中だ。将来的にはブルーカーボンによるCO2吸収量を計測し、クレジットなどに活用することも検討しており、この取り組みが日本全国の海域に広がることを目指している。先は長いが一歩は踏み出した。各地のこうした取り組みをつなぐネットワークもできつつある。

「未来創造部」のもう一つの取り組みが「炭作り」。熱海の郊外で、煙も臭いも出さない密閉式の製炭炉を使って「バイオ炭」を作る試みだ。材料にするのは間伐材や竹、剪定した枝、農作物や食物の残りかすなど。これらを6~8時間で熱分解することで炭素密度の高いバイオ炭ができるという。林業再生への一助にもなるし、自治体の扱う植物系ごみの減量にもなる。そして炭化することで炭の中に炭素を固定化、つまり封じ込めることができるという。

この製炭炉、小型ユニットなのでクレーン付きの4tトラックにも積めるようになっている。希望があれば「出張での炭作り」もできる。その出張が啓発活動にもなる。

こうした取り組みをみると、地域の厄介ものや廃棄物を有益なものに変えていく地域レベルでの「循環」と、CO2の地球レベルでの「循環」が同心円的に進むという形になっているのに気づく。

プロジェクトを担う「未来創造部」は実はNPOではなくれっきとした会社。枝廣さんは「こうした活動を事業として成立させることに意義がある」という。主な収入源は環境問題に関心の高い企業などから受託する従業員研修。熱海に来てブルーカーボンやバイオ炭の意味を学び、かつ見学や体験もする。生きた教材があるわけで、研修効果も高いだろう。結局は、熱海という地に足がついているのがすごいともいえる。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

トヨタがめざす脱炭素とは 水素エンジン車の市販化へ


【リレーコラム】谷 みのり/トヨタオーストラリア Senior Executive Coordinator

クルマが社会で必要な存在であり続けるための喫緊の課題がカーボンニュートラル。私たちトヨタの活動の軸は、モノづくりやサプライチェーンの脱炭素化を進めながら、モビリティーにおいて「マルチパスウェイ」という戦略。誰一人取り残さないように、幅広く選択肢を提供し「幸せの量産」を目指します。

大前提として、地球環境やサステナビリティーの観点から化石燃料から脱却していくことが必要。中長期的には再生可能エネルギーの普及が進み、電気と水素が社会を支える有力なエネルギーとなる。一方、短期的には世界各地の現実に向き合い、エネルギーセキュリティーを担保しながら、プラクティカルに変化を進める必要があり、トヨタは電気と水素の未来を見据えながら、多様なエネルギー事情やお客様ニーズに寄り添ったモビリティーの選択肢を提供すべきと考えています。

水素エンジンの商用車を開発トヨタは選択肢として、電動車の仲間である「バッテリーEV」、「ハイブリッド」、「プラグインハイブリッド」、水素と酸素の化学反応によって作られた電気をバッテリーに蓄え、モーターを駆動する「FCEV」をラインアップとしています。(ご存じのMIRAIはFCEV)。加えて、水素を燃焼させて駆動力を得る「水素エンジン車」の開発も2021年から進めており、モータースポーツを通じて鍛えてきた技術が、市販化に向け具現化の段階を迎えました。具体的には水素エンジンのハイエースの開発です。従来のエンジン車と変わらないパッケージの実現にチャレンジ。荷室のサイズ乗員の数はそのままに、航続距離は200km前後を確保。レースで使用した水素カローラの異常燃焼を抑制するための技術などが生かされており、安全安心な運転を担保する工夫もされています。レースはエンジンの高出力高回転領域を多用する非常に厳しい環境ですが、商用車として使用の場合はさらに違う性能が求められます。走る止まるを頻繁に繰り返すほか、重量負荷が急激に変わることもあります。

「世界の道と環境のバラエティー8割」を有するといわれるここ豪州での公道実証を、昨年10月より実施。地場の企業様のご協力のもと、一定期間使用いただき、課題の洗い出しを繰り返しました。この結果が開発につながり、さらに改良が重ねられます。近い将来、水素エンジン車を市販化することで、水素需要も増え、水素供給網が拡大し、カーボンニュートラルの加速に貢献できるようトヨタは「もっといいクルマづくり」に取り組んでいきます。

たに・みのり 金城学院大学卒業。1990年トヨタ自動車入社。2021年TMCAに出向、補給部用品の供給・販売促進企画、改善サポートに従事。


※次回は、MUFGの岡本麻記子さんです。

【原子力】蓄電池よりも合理的 既設原発の負荷追従


【業界スクランブル/原子力】

天気任せで出力変動し、需要に応じた運転のできない太陽光・風力発電が増えている。特に太陽光の増加は春、秋の日中に好天であると電力系統の安定制御に悪影響を与える可能性があり、出力制御(発電停止による出力抑制)を必要とする。

その頻度が高まり、2024年度には最大の電力需要を抱える東京電力PG管内も含め、全国で再エネの出力制御が必要と予想されている。脱炭素を目指す国の政策のため今後、再エネは増え続け系統制御に用いる火力は減る方向だから、電力系統の安定制御はますます難しい状態となる。

出力調整が容易な水力の規模は頭打ちで、需要を増やすために輸送や給湯の電化を図るべきだが、再エネの増加の方が早いであろうから、太陽光は利用率低下で発電単価が上がる。大規模な蓄電池設備の新規建設は膨大な投資となり電気料金を高める。

ところで現在の原子力は最大出力で一定運転するが、その理由は燃料費が安いためだ。今後、再稼働が進めば再エネの出力抑制はさらに増える。しかし原子力はもともと負荷追従運転が可能であり、過去に国内のBWR、PWRでそれぞれ試験実績もある。出力を下げる側だから基本的には安全性の問題はない。

再エネ主流の時代に水力、CCUS付き火力、水素製造負荷に限界がある場合、原子力は利用率が下がってでも負荷追従をする必要がある。既設原発で行えば追加投資は小さく、蓄電池建設より有利で料金の上昇を抑えられる。

原子力は蒸気タービンを使い、系統に慣性力を提供できる同期電源であり、負荷追従運転の本格運用に向け準備に取り組むべきである。(H)

【シン・メディア放談】ENEOSグループでまたセクハラ 厳しいコンプラから身を守る術は?


<エネルギー人編> 電力・石油・ガス

コンプライアンスが一段と厳しくなる中で、社内外でいかに立ち振る舞うべきか―。

―日経平均株価が4万円を超え、過去最高値を記録した。為替は日米の金利差から1ドル=150円前後の円安が続く。

電力 業界的に好ましくないのは、為替の乱高下だ。燃料価格が下がれば燃料費調整制度で需要家に還元されるが、そのタイミングは遅れる。決算だけを断片的に見て高収益に見えても、その前に持ち出しがあることは需要家に伝わりにくい。過去最高益でありながら値上げを要請する営業マンは苦しいだろう。

ガス 良くも悪くも、世の中の景気の影響を受けにくいのがエネルギー業界だ。業界の株価に大きな影響を与えるのは、工場の新設などで大口需要家を獲得した時。高収益を上げた企業が設備投資にカネを回せばいいが。


円安・円高どっちがいい 激変緩和は絶好の「やめ時」

―春闘ではついに大手電力でも満額回答が相次いだ。

電力 今年は年始から災害対応など現場が大活躍している。社員のモチベーションアップに大きくつながるのは間違いない。

石油 前年を超える賃上げ回答が相次いだことで、日銀は3月18、19日の金融政策決定会合でマイナス金利を解除。それでも緩和的な金融環境は続くはずで、米国の利下げなどを織り込めば1ドル=130円前後の円安とも円高とも言えない相場にやがて落ち着くのではないか。

ガス 好調な企業決算が示すように、円安が日本経済にプラスの影響を与えているのは確かだ。ただ長期的に円安が続いて光熱費が高止まりすると、製造業の海外移転などで大口需要家を失いかねない。やはり「産業の血液」たるエネルギー価格が安いに越したことはなく、見慣れた110~120円になってほしい気持ちもある。

―燃料油に続き電気・ガスも加わった激変緩和措置は「今年春まで」の予定だが……。

ガス 今がこれ以上ない「やめ時」だ。4月の賃上げで国民の手取りは増加、春はエネルギー需要の閑散期で、6月には所得税や住民税の定額減税が始まる。この機を逃せば需要が増える夏を迎え、冬の足音が聞こえる秋にやめることもできない。

石油 自民党が安泰ならスパッとやめられるが、「裏金」問題などでこのありさまだ。円安が解消するまで続けることにならないといいが。もはや激変緩和ではなく、「福祉」政策だよ。

―ENEOSグループのジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の安茂会長が、懇親の場での不適切な行為があったとして解任された。

電力「ENEOSグループ」と言っても、ENEOSがJREを買収したのは22年1月とつい最近のこと。ひとくくりにされるのはかわいそうだが、ENEOSは22年に杉森務会長(当時)が性加害問題で、昨年には斉藤猛社長(同)がセクハラ行為で解任されたばかり。業界全体がコンプライアンスに緩い「昭和体質」だと思われかねない。

石油 セクハラの暴露が起こりやすい風土だったのは確かだ。「黒バット」(旧日本石油のエリートコースを表す隠語)が相手にするのは、大口需要家の部長や幹部クラス。通常のディーラー商売とは銀座通いの頻度も桁違いだ。

電力 昔の上司のセクハラ・パワハラなんて、挙げ出したらキリがない。それが今や、気心知れた仲間でもハメを外せば後ろから刺されるから恐ろしい。

【石油】内閣支持率が低下 補助金延長は必至


【業界スクランブル/石油】

3月上旬段階で中東情勢の緊張・米利下げ期待などで、WTI先物は80ドル直前、中東・北海原油は80ドルに乗せている。価格の上昇傾向を受け、国内製品価格がどうなるかが関心事項となるが、答えは、ほとんど影響がないということになる。しかし、某金融系有名エコノミストは、国内産業のコスト上昇が懸念されるとコメントしていた。

確かに補助金開始前であれば、価格が上がれば、連動して国内製品価格も上がるから正解だ。しかし現在は補助金が出ており、そうはならない。補助金は、ガソリン目標価格175円になるように、毎週支給額を調整している。

したがって、補助金継続中はほぼ横ばいが続く。もちろん、補助金は元売りに出ているからスタンド段階での価格転嫁の遅れや、政府の補助金計算基準の原油価格と、元売りの原価計算の原油価格との相違で目標価格前後でのブレは発生するが、基本的に原油価格と国内価格の連動性は補助金効果で断ち切られている。補助金の目的は、国内価格引き下げではなく値上がり防止、目標価格への収れんである。輸入価格上昇の問題は産業のコストではなく、財政負担の拡大にある。この点がよく理解されていないようだ。

さらに問題は補助金終了時の原油価格と為替水準である。パレスチナ・ウクライナの停戦、中国・米国の景気動向、OPECプラスの減産動向、日銀の金融政策転換など要素が多過ぎて読めない。3月上旬の補助金額は20円弱、終了時には補助金相当額が小売価格にオンされる。現時点では4月末終了予定だが、現状の内閣支持率を見れば延長必至との見方が大勢だ。(H)