【エネルギービジネスのリーダー達】
真鍋竹春/テックスインターナショナル代表取締役
川島徳道/HTL取締役
これまでの概念を覆す蓄電池の実用化を目指し、研究・開発に取り組んでいる。
日本発の技術として、世界の脱炭素化に貢献することを目指す。

かわしま・のりみち(左) 理学博士。桐蔭横浜大学医用工学部長などを経て12年から環太平洋大学教授。23年HTL取締役。
2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指し、鉛、リチウムイオン、全固体、レドックスフロー(RF)など、さまざまな技術が次世代の蓄電池の地位を競い合っている。そうした中、これまでの技術とは一線を画す革新的な蓄電池が実用化の段階を迎える。
開発者は、テックスインターナショナルの真鍋竹春代表取締役。高分子と金属元素とからなり、金属のレドックス(酸化還元)反応による電子の移動で充放電を行う。単位体積当たりのエネルギー密度が高く小型化が可能であり、リチウムを含む電解液を使用しないため、発火や爆発のリスクがないのがメリットだ。
既存技術のデメリットを克服 製品の安定供給も
もともと、真鍋氏は病院や介護施設の事業継続計画(BCP)対策として非常用電源の導入事業を手掛けていた。しかし、設備導入した施設ではリチウムイオン電池(リン酸鉄リチウム蓄電池)の設置後、5年以内の故障が相次いで発生。調査の結果、経年劣化による膨張、破損があり、爆発と火災の危険性があったため「根本的な課題を解決しなければ、蓄電池による災害対策は不可能だ」と考え、約3年前に自ら研究・開発に着手した。化学的知見を取り入れるため、理学博士でHTL取締役の川島徳道氏の協力の下、技術の精度向上を目指し試作機を完成させた。
この高分子蓄電池は「IPB」(Incombustible Polymer Battery)」と呼び、その最大の特徴は難燃性を持ち、最大動作温度が85℃まで対応可能であることや、リチウム電池の半額程度の製造コストでありながらも約2万回の充放電と高速充電を実現している点にある。これにより、既存技術のデメリットを全て克服できると考えられる。
川島氏は、「リチウム電池は需要を満たすための原材料の確保に懸念があるが、IPBは全て国内で調達可能で製品を安定して供給できる。さらに、高分子は土中で自然分解するため、廃棄時の発火・爆発や環境汚染の心配がない」と、この技術を社会実装する意義を強調する。
昨年12月には、テックスとHTLが共同研究契約を結び、現在は両社でセルやユニットの製造と製造装置の開発を進めており、量産体制への準備段階にある。真鍋氏は、「さらなる改良により性能を高めることができる。まずは、太陽光発電(PV)向けに製品化。次に、パソコンやスマートフォンなどの弱電製品向け、将来は電気自動車(EV)やドローンなどのモビリティ領域への搭載を目指していきたい」と意気込む。
小型アプリケーションへの搭載だけでなく、有望な市場として期待されるのが分散型エネルギーシステムへの活用だ。デベロッパーや地方自治体からは、ビルや街全体を分散型のPVで賄いたいというニーズが高まっているが、これまではPVの施工や蓄電池の寿命の問題などから採算を取ることが困難だった。
HTLは既に、軽量で厚さ1・8㎜と薄く架台なしで屋根や壁に設置でき、発電効率も21・4%と従来製品(約19%)よりも高いPVを市場投入しており、これをIPBと組み合わせることで、固定価格買い取り(FIT)や市場連動価格買い取り(FIP)などの優遇策に依存せず、住宅や商業施設への導入を進める。
「2000kWのPVと4000~6000kWの蓄電池を組み合わせた発電システムの導入費用は4億~5億円に上るが、PVの高い発電効率と蓄電池の長い寿命により、補助金なしで約9%の利回りを確保できる」と真鍋氏。不動産投資よりも高い利回りとあって、国内投資家からは大きな期待が寄せられているという。
海外からは既に引き合いも 国内では関心低く
HTLの吉川良一代表取締役は「発火しない上に長寿命の蓄電池は安心して使用できる。今後、島しょ部や過疎地へのスマートグリッドの導入を後押しできるはずだ」と語る。
能登半島地震では発災後のインフラの早期復旧の重要性が改めて注目された。外部電源に頼らない自律型のエネルギー供給源として、PVと蓄電池を搭載したトレーラーハウスが被災地に向かうことや、透析装置やX線検査装置などの医療機器を避難所で使用できるようになることで、災害支援の在り方に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。
海外の大手蓄電池メーカーなどは既に、IPBに高い関心を寄せており商談も始まっているが、政府の次世代蓄電池開発支援が既存技術に特化しているため活用が難しいこともあり、国内における注目度がまだ低いことが課題となっている。だが、目標は日本発の技術として世界の脱炭素に貢献することであり、「性能通りのスペックを出せれば、世界中で必要とされるようになる」という需要家の言葉が、取り組みの原動力となっている。