自己託送制度の見直し/都市ガスのカーボンニュートラル化
Q 電気事業における自己託送制度活用の要件厳格化で、どのような影響が考えられますか。
A 自己託送に関わる指針の改正により、①発電設備は、自己託送利用者が自ら設置したものに限られ、他の者が設置した発電設備を譲り受け、または貸与を受けること(賃借型)は認められない、②電気の供給を受ける一の需要場所(オフィスビルなど)について、自己託送利用者と当該需要場所におけるすべての者とが密接な関係を有する必要がある―とされました。
電気事業法上、自己託送を利用できるのは「非電気事業用電気工作物…を維持し、及び運用する(第2条第1項第5号ロ)」者ですが、「維持し、及び運用する」とは、その設備の所有を要しないと解されます(2020年度版電気事業法の解説83頁)。自己託送の目的は、「需要家が保有する自家用発電設備による余剰電力の有効活用(第68回電力・ガス基本政策小委員会 資料3の11頁)」ですが、だとすれば、自己託送利用者が発電設備を保有することを自己託送の要件とすることはやむを得ないとしても、自ら設置したことまで要求するのは行き過ぎと言えるでしょう。
電気事業法施行規則2条3号によると、密接な関係がない供給者と需要家は、長期にわたる組合契約を締結することで、自己託送を利用することができます。賃借型が認められない以上、組合型の自己託送の増加が見込まれますが、①組合契約により組成される組合の役割についての規定はなく、②長期の契約が求められるため、組合員の変更(加入及び脱退)が自己託送において認められるか不明である―といった問題もあります。
自己託送利用者の予測可能性の確保のため、組合型の要件を事前に明確に定め、公表されることが望まれます。
回答者:深津功二/TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
Q 都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化に向けた取り組みと課題を教えてください。
A ガス業界は「S(安全)+3E(安定供給、経済、環境)」を前提に、足元では天然ガスの供給拡大を通じて低炭素化に貢献し、将来的には供給するガス自体をCN化することで、国内産業の発展と2050年CN達成の両立を目指しています。
ガスのCN化を実現する上で重要な役割を担うのが「e-メタン」です。e-メタンは回収したCO2と水素から作られ、燃焼しても大気中のCO2量を増やさないCNなエネルギーです。ガス導管やガス機器などの既存設備はそのまま利用できるため、新たに大規模なインフラ・設備投資を行う必要がなく、社会コストやお客さまの支出を抑制しながら、温暖化対策への貢献が可能です。
昨年末にはGX経済移行債の支援対象が示され、e-メタンを含む「水素等」分野においては、15年間で3兆円規模の支援が予定されるなど、日本のエネルギー政策においてもCNに向けた有力な手段として期待されています。現在、国内外で複数のプロジェクトが検討されており、米国キャメロンLNG基地を活用した日本へのe-メタン導入では、東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・三菱商事などが連携し、30年に約13万t/年(家庭用・約50万件)のe-メタン輸入を目指しています。
e-メタンの社会実装に向けては、既存の燃料であるLNG輸入価格との価格差に留意した導入促進策の検討に加え、燃焼時の CO2を誰が削減したことにするのかなど、その取り扱いに関する国内・国際ルール整備が必要となります。特に国際ルール整備においては、まずは特定の国との二国間での調整やルール確認などが重要となり、事業者の投資予見性の観点からも早期の協議が期待されています。
回答者:奥田 篤 /日本ガス協会カーボンニュートラル推進センター長