蓄電池の常識を塗り変える 革新的技術で脱炭素社会に貢献


【エネルギービジネスのリーダー達】
真鍋竹春/テックスインターナショナル代表取締役
川島徳道/HTL取締役

これまでの概念を覆す蓄電池の実用化を目指し、研究・開発に取り組んでいる。

日本発の技術として、世界の脱炭素化に貢献することを目指す。

まなべ・たけはる(右) 2002年にテックスインターナショナルを創業。環境ソリューションなどを手掛ける傍ら蓄電池の研究・開発に着手。
かわしま・のりみち(左) 理学博士。桐蔭横浜大学医用工学部長などを経て12年から環太平洋大学教授。23年HTL取締役。

2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指し、鉛、リチウムイオン、全固体、レドックスフロー(RF)など、さまざまな技術が次世代の蓄電池の地位を競い合っている。そうした中、これまでの技術とは一線を画す革新的な蓄電池が実用化の段階を迎える。

開発者は、テックスインターナショナルの真鍋竹春代表取締役。高分子と金属元素とからなり、金属のレドックス(酸化還元)反応による電子の移動で充放電を行う。単位体積当たりのエネルギー密度が高く小型化が可能であり、リチウムを含む電解液を使用しないため、発火や爆発のリスクがないのがメリットだ。


既存技術のデメリットを克服 製品の安定供給も

もともと、真鍋氏は病院や介護施設の事業継続計画(BCP)対策として非常用電源の導入事業を手掛けていた。しかし、設備導入した施設ではリチウムイオン電池(リン酸鉄リチウム蓄電池)の設置後、5年以内の故障が相次いで発生。調査の結果、経年劣化による膨張、破損があり、爆発と火災の危険性があったため「根本的な課題を解決しなければ、蓄電池による災害対策は不可能だ」と考え、約3年前に自ら研究・開発に着手した。化学的知見を取り入れるため、理学博士でHTL取締役の川島徳道氏の協力の下、技術の精度向上を目指し試作機を完成させた。

この高分子蓄電池は「IPB」(Incombustible Polymer Battery)」と呼び、その最大の特徴は難燃性を持ち、最大動作温度が85℃まで対応可能であることや、リチウム電池の半額程度の製造コストでありながらも約2万回の充放電と高速充電を実現している点にある。これにより、既存技術のデメリットを全て克服できると考えられる。

川島氏は、「リチウム電池は需要を満たすための原材料の確保に懸念があるが、IPBは全て国内で調達可能で製品を安定して供給できる。さらに、高分子は土中で自然分解するため、廃棄時の発火・爆発や環境汚染の心配がない」と、この技術を社会実装する意義を強調する。

昨年12月には、テックスとHTLが共同研究契約を結び、現在は両社でセルやユニットの製造と製造装置の開発を進めており、量産体制への準備段階にある。真鍋氏は、「さらなる改良により性能を高めることができる。まずは、太陽光発電(PV)向けに製品化。次に、パソコンやスマートフォンなどの弱電製品向け、将来は電気自動車(EV)やドローンなどのモビリティ領域への搭載を目指していきたい」と意気込む。

小型アプリケーションへの搭載だけでなく、有望な市場として期待されるのが分散型エネルギーシステムへの活用だ。デベロッパーや地方自治体からは、ビルや街全体を分散型のPVで賄いたいというニーズが高まっているが、これまではPVの施工や蓄電池の寿命の問題などから採算を取ることが困難だった。

HTLは既に、軽量で厚さ1・8㎜と薄く架台なしで屋根や壁に設置でき、発電効率も21・4%と従来製品(約19%)よりも高いPVを市場投入しており、これをIPBと組み合わせることで、固定価格買い取り(FIT)や市場連動価格買い取り(FIP)などの優遇策に依存せず、住宅や商業施設への導入を進める。

「2000kWのPVと4000~6000kWの蓄電池を組み合わせた発電システムの導入費用は4億~5億円に上るが、PVの高い発電効率と蓄電池の長い寿命により、補助金なしで約9%の利回りを確保できる」と真鍋氏。不動産投資よりも高い利回りとあって、国内投資家からは大きな期待が寄せられているという。


海外からは既に引き合いも 国内では関心低く

HTLの吉川良一代表取締役は「発火しない上に長寿命の蓄電池は安心して使用できる。今後、島しょ部や過疎地へのスマートグリッドの導入を後押しできるはずだ」と語る。

能登半島地震では発災後のインフラの早期復旧の重要性が改めて注目された。外部電源に頼らない自律型のエネルギー供給源として、PVと蓄電池を搭載したトレーラーハウスが被災地に向かうことや、透析装置やX線検査装置などの医療機器を避難所で使用できるようになることで、災害支援の在り方に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。

海外の大手蓄電池メーカーなどは既に、IPBに高い関心を寄せており商談も始まっているが、政府の次世代蓄電池開発支援が既存技術に特化しているため活用が難しいこともあり、国内における注目度がまだ低いことが課題となっている。だが、目標は日本発の技術として世界の脱炭素に貢献することであり、「性能通りのスペックを出せれば、世界中で必要とされるようになる」という需要家の言葉が、取り組みの原動力となっている。

【再エネ】バイオ燃料ルール作り 国際枠組みの参加必須


【業界スクランブル/再エネ】

米国、イタリア、インド、ブラジル、アルゼンチン、アラブ首長国連邦。何のために集まった国かお分かりだろうか。昨年9月に発足したグローバル・バイオフュエル・アライアンス(GBA)の主要メンバー国だ。インドのニューデリーで行われたG20サミットでの調印式では、バイデン米大統領とブラジル・ルラ大統領に挟まれ、モディ首相が誇らしげに写真に収まっている。日本の首相の姿がないのは、エネルギー転換でバイオ燃料の話題が少ないからだろう。日本はクリーンエネルギー大臣会合の一つであるバイオフューチャー・プラットフォームにも参加していない。

しかしSAF(持続可能な航空燃料)については、2030年までに石油元売りに10%の供給義務を課す方針だ。将来的にはグリーン水素由来の合成燃料利用の可能もあるが、当面はバイオ燃料を使うことになる。そのため、石油元売りだけではなく、航空会社や商社などが原材料の確保を急いでいる。長距離バスやトラック、船舶などバイオディーゼルに対するニーズも顕在化しつつある。自動車でも、電気自動車の普及スピードをにらみながら、当面の対策としてバイオ燃料を活用する国は多い。

24年のG7議長国はイタリア、G20はブラジルである。いずれもGBAの主要メンバーであり、GBAで議論される持続可能性基準や認証制度などが、G7やG20などで国際標準として承認される可能性が高い。つまり、こうした国際的枠組みに参加しないのであれば、「日本発のルールメイク」を後から言い出したところで手遅れになる。国内の森林資源など日本企業が考える原材料の活用が認められない恐れすらあるのだ。24年は、バイオ燃料を巡る国際議論に日本が参加できる最後のチャンスになるかもしれない。(A)

【火力】どうする同時市場? 本来の目的見失うな


【業界スクランブル/火力】

系統の需給バランス維持に必要な調整力は、従来一般送配電事業者により公募されていたが、次年度から全種の調整力が需給調整市場から調達されるように切り替わる(沖縄除く)。しかし、自然変動電源拡大の影響もあり、現状でも募集量に対し応札量の未達が常態化しており、しばしば調整力や競合する卸電力の調達価格が高騰することが問題となっている。

この問題の解決のため、将来的に供給力(kW時)と調整力(ΔkW)を同時に約定する同時市場の開設を目指した検討が始められている。同時市場の仕組みとしては、スリーパートオファーとして発電事業者が入札に当たりユニット起動費、最低出力コスト、限界費用カーブを登録し、それらを元に約定ロジックを回すことで発電設備の起動停止と負荷配分を最適化し、安定的・経済的な運用が実現できるとされている。

約定ロジックでは膨大なデータを扱うことになり収束に関わる時間が問題となっており、もしも短時間で計算を収束させることができなければ市場を正常に機能させることはできない。

今後の方向として、計算時間の短縮のため入力データやロジックの簡素化を志向しているようだが、ちょっと待ってくれと言いたい。検討に当たり火力の情報は、燃料種別やユニット規模などで十種類程度に簡素化されているが、高温高圧にさらされながら厳しい運用をしている火力設備の状況を十分表しているとは言えない。計算時間短縮のためにさらに簡素化してしまうと、計算結果がさらに最適なものから乖離してしまう。例えば、円周率を3として正しい円の面積が求まるだろうか。

計算のテクニックにばかり気を取られ、安定供給という本来の目的を見失わないようにしてもらいたいものだ。(N)

【コラム/3月22日】「郵政民営化を考える~ケセラセラの構造改革本命」


飯倉 穣/エコノミスト

1,電力と違う 郵便料金値上げの静かさ

郵便料金の大幅値上げが10月にある。封書は31%値上げ(110円に)、消費税絡みの小幅値上げを除けば30年ぶりである。葉書も35%値上げ(85円)となる。値上げ案には、郵政の経営問題も絡めて賛否の意見が寄せられた。ユニバーサルサービス維持のためやむなし。値上げは、商売に響く等々である。

報道もあった。「郵便料金値上げ賛成6割弱 意見公募 局数削減求める声も 総務省審議会改正案認める答申」(朝日24年3月13日)、「封書110円に値上げ承認 総務省審議会 日本郵便10月にも」(日経同8日)。電力料金値上げに比べ地味な扱いである。

郵便料金の値上げは、賃上げ、燃料価格上昇等を、業務効率化で吸収できない事情のようである。1994年1月の値上げは封書29%、葉書21%だった。それが郵政民営化議論を加熱させた。経済社会環境や通信事情の変化、近時の物価上昇、郵政事業の疑似民営化達成等の要因のせいか、今回の値上げは静かである。

郵政改革は、小泉改革「改革なくして成長なし」で、経済社会活性化を目指す「聖域なき改革」の1丁目1地番地だった。関係者は、民営化の成り行き(骨太の方針)に一喜一憂した。電力自由化以上に、すべての改革の中心にあった。郵政民営化の騒動と現在を考える。


2,競合民間は、国営郵政に不快感

郵政事業は、07年まで国営で郵便・郵貯・簡保3事業一体だった。郵便局で窓口業務を担当し、3事業全体で経費負担し比較的効率的な運営で、料金の安定に努力してきた。多くの国民は、この体制を当然と受け入れていた。制度的に郵貯は、定額貯金の商品設計の有利性に加えて、資金運用部預託で安全・有利運用(国債クーポン+アルファ)だった。郵貯の預託(資金運用部)を利用する財政投融資の政策対象分野・機関(住宅建設等事業・政策金融)も償還確実が原則だった。

他方従来から同様の事業を行っている業界・企業から不公平という主張があった。民間から見れば、競合相手の3事業は、国の信用を背景に且つ税等の優遇措置を受けており、不平等である。集めた資金を財投計画で供給する仕組み、特殊法人の業態、民間補完の在り方も問題だった。80年代低成長となり民間金融の融資対象先細り、企業の資金調達手段の多様化があった。政策金融面(住宅金融・企業金融)でも、事業面(住宅建設等)でも、民間活動の補完の域を超えていると主張した。

そして財投制度は、調達面や運営面で特殊法人を楽にしていないか。そして旧国鉄のように、国に甘え実際は償還原則を逸脱していないか。

90年代金融自由化の流れは、民間比較で一層郵貯のあり方を問う。橋本改革のビッグバンとの整合性が問われた。簡保も同様で契約残高の大きさ、対象保険の有利さも指摘された。また宅配便の拡大に伴い、民間による郵便事業代替可能の主張、信書絡み新規分野の業務の帰属(法解釈)問題もあった。つまり新規参入・競争条件整備の要求である。郵政民営化論者は、国鉄・NTTの例を挙げ、民営化すれば効率化でコスト削減、利便性向上・サービス充実を期待できると考えた。


3,紆余曲折の政治決着で

橋本内閣6大改革の行政改革に郵政があった。中間報告(97年9月)は、「①簡易保険事業は民営化。②郵便貯金事業は、早期民営化の条件整備等、資金運用部預託は廃止。③郵便事業は、郵便局の位置づけ変更で国営事業」だった。画期的と持て囃された。その後紆余曲折を経て最終報告(同12月)は国営継続となった。郵政事業は、中央省庁再編実施(01年)の下で総務省郵政事業庁となる。03年郵政公社(国営事業かつ職員は公務員)に落ち着いた。

公社化の結論は、改革=民営化=正義に反すると、構造改革好きのマスコミ、エコノミスト、経済人はこき下ろした。民営化論者は、次を模索した。


4,構造改革の一丁目一番地に

小泉内閣は、「聖域なき構造改革」の第一に民営化・規制改革を掲げ、「郵政事業の民営化問題を含めた具体的な検討、公的金融機能の抜本的見直しなどで民間部門の活動の場と収益機会を拡大する」と述べた。

首相主導が可能な経済財政諮問会議を舞台に郵政民営化が俎上に乗る。そして郵政民営化基本方針閣議決定(04年9月)があった。基本方針2005は、小さくて効率的な政府を掲げ、官から民へ、国から地方への改革徹底。資金の流れを官から民へと述べ、郵政民営化、政策金融改革、政府B/Sの総点検を掲げた。郵政民営化法は、衆院可決(05年7月)、参院否決(同8月)、郵政解散で郵政を巡る総選挙(郵政選挙同9月)があった。05年10月(163回国会)郵政民営化法成立となる。

郵政民営化実施(07年)。日本郵政グループ5社体制(日本郵政(株)、郵便事業(株)、郵便局(株)、(株)ゆうちょ銀行、(株)かんぽ生命保険)が発足した。分社等の不都合もあり、12年見直しで、郵便事業(株)と郵便局(株)が統合し日本郵便(株)となり4社体制になった。15年東証に上場する(日本郵政株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険)。所謂「民営化」が完成した。

小さな国際人だった私 違いを理解し強みを生かそう


【リレーコラム】小川夏子/アシャースト法律事務所パートナー

1978年。パース。オーストラリアの現地校の小学一年生だった私。親に勧められ、作文を日本の作文コンクールに提出しました。

お題は、「日本語の先生になりたい」でした。短い作文でしたが、朝日イブニングニュース・日本貿易会共編の「小さな国際人」に掲載、出版されました。可愛いコアラのぬいぐるみを抱いている制服姿の写真があったからかもしれません。私はなぜ、日本語の先生になりたいと書いたのでしょうか(本当は、お花屋さんになりたかったという記憶です)。


日豪の発展に父子で尽力

父は日本語の教授でした。60年代の西豪州では、日本の総合商社が鉄鋼石鉱山合弁など、巨大な投資を行い、日本経済の発展に必要な重要資源の安定的な供給を確保し始めていました。日豪関係が深まる一方で、日本語ができるオーストラリア人は少なかったのです。そこで、日豪経済合同委員会の支援をいただき、父がパースの男子高校に先生として来ることになりました。初めは長い間パースにいるつもりではなかったのでしょう。しかし、日本人が少ないパースでは、日本ではありえないような仕事に恵まれ、その後、父はカーテン大学の教授を35年間務めました。

そのような父だったので、日本語ができることが大事だと、小さいときから分かっていました。教育は、すべて現地校で受けましたが、日本語は家で母に教えてもらい、日本人と会う機会があれば日本語で話すようにしていました。

当時は、父が毎週日本人会のゴルフコンペに行った後、家族で集まってBBQなどを楽しみました。そこで、優しい叔父と叔母が、私に「なっちゃんは、日本語と英語が両方できて良いね」「大きくなったら弁護士になって難しい英語を日本語で説明してくれれば、助かるな」と言ってくれたのを覚えています。

結局、私は日本語の先生になりませんでした。M&A・会社法・外国投資規制の専門家として、資源・エネルギーを含むあらゆる業界で活躍する日系企業の方の力になる仕事をしてきました。今後、日系企業のみならず、世界の企業は、EX・GX戦略を実行するために新しいビジネスモデルおよびコラボレーションを検討していかなければなりません。

私が、現在の小さな国際人に期待することは、言葉、文化、専門などが違っていても相手を理解する努力をして、それぞれの強みを生かせるチームを組める人になってもらいたいということです。様々な観点から問題を分析することがイノベーションにつながり、そのためにもダイバーシティが重要になります。

おがわ・なつこ 1996年西豪州大学法学部・商業部卒業、ブレーク・ドーソン法律事務所入社。2010年に同社の初パートナーとして東京に転勤。12年にブレーク・ドーソンがアシャーストと合併。14年から、アシャースト・メルボルン事務所で引き続き日系企業の豪州案件を担当。


※次回はトヨタ自動車オーストラリアの谷みのりさんです。

虎ノ門地区のエネルギー供給 DR運用も目指す次世代型システム


【虎ノ門エネルギーネットワーク】

2016年10月に森ビル、東京電力エナジーパートナーが共同で設立した虎ノ門エネルギーネットワーク。環境性に優れた電力や熱を供給するとともに、災害時でもBCP機能を果たすことをモットーに現在、都内の再開発された「虎ノ門一・二丁目地区」などで熱供給事業や特定送配電事業を手掛けている。


2拠点プラントを連携 DR運用で社会貢献

日比谷線・虎ノ門ヒルズ駅の新設とあわせて、エリア一帯は再開発が行われてきた。まず「虎ノ門一丁目地区」が再開発され、虎ノ門ヒルズビジネスタワーが2020年1月に完工。タワー地下には第1プラントが整備され、電気や熱のエネルギー供給が始まった。再開発はさらに進み、虎ノ門ヒルズステーションタワーが23年7月に完成。地下には第2プラントが整備され、既存の第1プラントと連携している。これにより、一帯のエネルギー供給が本格開始した。

再開発で誕生したビジネスタワー

プラントを構成するエネルギー設備の大きな特徴は、第1・第2プラントそれぞれにヒートポンプ、蓄熱槽、ガスエンジンコージェネを活用した電気式とガス式のベストミックス方式を採用していることだ。この点を、虎ノ門エネルギーネットワーク技術部の近内義広課長は次のように説明する。

「コージェネはBCPの観点で有能な設備だ。レジリエンスも高めながら低炭素を実現していくための設備構成にしている。エリア全体のCOPは、1・2を目指していて、現状では1・08程。年間の運用を通じてさらに高めたい」

電力供給は、第1プラントが系統電力から受電し、コージェネの発電とミックスして、各需要家、第2プラントへ送電する。熱については、コージェネの排熱や蓄熱槽などを活用して供給しており、熱供給の対象延床面積は43万5000㎥に及ぶ。

また、同エリアではデマンドレスポンス(DR)にも取り組んでいる。一般送配電事業者からの要請によるDRに対応して、電力の需給ひっ迫の緩和だけでなく、再エネの余剰電力の吸収源にもなっている。特に同エリアのDR時には需要家と協力することが特徴である。これまで夏期と冬期で発動されたDRは全て成功したそうだ。「需要家の方々からは『電力ひっ迫時には進んでDRに協力する』と言ってもらっていて、大変スムーズに運用している。大規模蓄熱槽とターボ冷凍機の組み合わせは、突発的に発生するDRにも対応でき、さらに供給支障のリスクが低く安定供給の継続が可能だということが分かった」(近内氏)

新時代の再開発拠点では、省エネ・高効率運用だけでなく、DRといった新しい運用も加えてエネルギーシステムを構築していく。

【原子力】重要性を再確認 英国の原子力回帰


【業界スクランブル/原子力】

英国政府は「50年までの原子力ロードマップ」を1月に発表した。エネルギー安全保障戦略(2022年4月)で掲げた50年までに最大2400万kWの原子力発電を達成し、電力需要の25%を原子力で供給するという野心的目標を達成するための方策をまとめたものだ。

かつて英国は、1956年に商業用原子炉のコールダーホール1号機(黒鉛減速炭酸ガス冷却炉、GCR)の運転を開始し、旧ソ連に続く世界で2番目の原子力発電国であった。しかし、90年代半ばのピーク時には約1300万kWあった原子力規模は、現在では約600万kWにまで減少している。

ロードマップは、原子力発電が現在、大規模導入が可能で信頼性の高い確実かつ低炭素な唯一の電源であり、ネットゼロの推進に重要な要素であると強調。「英国政府は原子力に対する長年の投資不足を解消し、民生用原子力における世界的なリーダーシップを回復すべく決断を下した」と述べている。

また、ロードマップの主な目的として、「原子力部門と投資家に明確なシグナルを送ること」を挙げ、原子力導入に係る重要な決定と行動のタイムライン、そして今後実現する上での政府と産業界の役割を明確化するとしている。

核燃料サイクルについても、安全保障を重視した方針を打ち出した。国内の核燃サイクル能力を再生し成長させ、30年代までにロシア製の核燃料とウランの供給を排除し、各国パートナーと協力して、ロシアへの依存を終焉させ、政治的な影響力のリスクから解放された、共有の強靭な同盟国のサプライチェーンを構築するとしている。今回の発表は、英国が政府を挙げて原子力の規模拡大に向けた取り組みを始めたことを意味する。今後の成果に期待したい。(S)

【シン・メディア放談】焦点は避難計画の「実効性」か 再稼働議論は新たなステージに?


<メディア人編> フリーA氏・一般B紙・地方C紙

能登半島地震により原発に送風が吹きはじめている。再稼働への影響はいかに―。

―マスコミとして能登半島地震の報道に思うところは?

C紙 反省点が一つ。ほとんどのマスコミが「志賀原発 安全上の異常なし」と報じたが、それは読者に寄り添う報道だったのか。原子力に一定の理解がある人なら、変圧器などの油漏れや破損が重大事故につながらないことは分かる。ただ多くの読者は福島第一原発事故を経験して、放射能漏れが起きないかどうかに不安を抱いている。そうであるならば「安全上の異常なし」だけでなく、「放射能漏れの危険なし」とはっきり伝えるべきだった。

B紙 同感だ。「異常なし」の「異常」とは何を意味するのか。放射性物質が拡散する過酷事故なのか、油漏れなどの設備破損なのか。分かりやすく伝わっていなかったと思う。実際に読者からの問い合わせも受けた。


志賀原発の「公開」求める声 花角知事はより慎重に

C紙 北陸電力は、発災時に志賀原発で何が起きていたのかをオープンにしてほしい。現場の人たちがどう動き、何に困ったのか。他電力にとっても今後の財産になる。B紙 原子力規制庁の記者クラブでも話題になったが、北陸電が志賀原発を公開しないことに不満を抱く記者は少なくない。復旧作業中だとしても、可能な範囲で首長や記者を受け入れてもいいのではないか。

C紙 被害状況は提供写真でも分かるが、実際に記者が見て感じることもある。「公開する」という姿勢が重要だ。フリージャーナリストのAさんはどう思う?

A氏 真面目な人が多い北陸電のこと。「きれいに整えてから」と考えているかもしれないが、今はその生真面目さを捨ててもいい。

C紙 一段落したら記者との懇談会を開いて、お互いに反省点などを情報交換するのもアリだ。

―ほかの原発への影響はどうか。

A氏 自治体が策定する避難計画の「実効性」に注目が集まりそうだ。原子力災害が発生した場合、原発から5~30㎞圏内(UPZ)の住民は屋内退避となるが、能登半島地震では家屋の倒壊に加えて道路も寸断。「屋内退避する屋内にたどり着けない」という状況だった。原子力規制委員会も避難計画策定のベースとなる「原子力防災指針」の見直しに向けて動き出した。

―これまでの運転差し止め訴訟では「避難計画の不備のみで運転差し止めはできない」との判断が示されたことも。

C紙 それでも、原告弁護団は能登半島地震の知見を活用するに決まっている。控訴審が行われている東海第二原発の差し止め訴訟への影響は小さくない。事業者も意固地になるのではなく、今回の地震で得た知見を公開して住民と共に考える姿勢を見せてほしい。

B紙 実効性のある計画が立てられないことが、首長が再稼働に同意しない「理由」として持ち出されるかもしれない。再稼働を巡る争点が「避難計画の是非」になると、これまでとはステージが変わる。報道も過熱する可能性があり注視が必要だ。

―柏崎刈羽原発への余波も気になる。今年、総合特別事業計画の見直しを予定する東京電力にとって、再稼働は避けて通れない。

B紙 規制委が昨年末に運転禁止命令を解除したが、地元のGOサインがいつ出るかは見通せない。それに2月9日、原子力規制庁の片山啓長官と面会した新潟県の花角英世知事からは、これまで以上に「慎重さ」がにじみ出ていた。以前は「東電は信用できない。信用できるのは規制庁だけ」という趣旨の発言をしていたが、9日は「(東電への認識は)変わっていない」とコメントした。「信頼できる」はずの規制庁が適格性を判断したのに、認識が変わらないとはなかなか厳しい。

A氏 元官僚で調整型の花角知事らしく、情勢を見極めているのだろう。出直し知事選もささやかれるが、「裏金」問題などで自民党に逆風が吹き荒れる中では無理だ。

C紙 諸事情を考慮すると、年内再稼働の可能性は「五分五分」といったところか。


原発・東電に厳しい新潟日報 再稼働実現の〝妙手〟は

―県民意識に変化は。

B紙 昨年後半から原発報道に一段と力を入れるのが、「反東電」の新潟日報だ。ほかの原発立地自治体まで足を運び、「経済効果がなかった」などと再稼働のマイナス面をばかりを強調している。新潟県民に最も読まれている地元紙で影響は大きい。

C紙 新潟県の場合、県民が気にするのは能登半島地震より東電だろう。2002年に発覚したトラブル隠し事件、07年の中越沖地震での変圧器火災、そして3・11。東電への不信感の歴史は深い。

B紙 だが、単純に「反東電」イコール「反原発」ではない複雑な構図がある。新潟日報が首長選の出口調査などで行った世論調査では、再稼働に「賛成」が4割程度を占めることも。東電への不信感は強いが、安定供給や脱炭素のために再稼働を容認する県民もそれなりにいる。

―再稼働には何らかの〝妙手〟が必要かもしれない。

A氏 『週刊ダイヤモンド』(1月27日号)掲載の橘川武郎・国際大学学長のインタビュー記事が興味深い。避難計画の策定に供給エリアとして関わってきた東北電力のお墨付きをもらえるかが「勝負どころ」とした上で、「私が経営者なら」柏崎刈羽原発の電力を新潟県内に送り、電気料金の抑制などのメリットをもたらすと語っている。こうした意見は地元からは聞こえても、橘川氏のような立場の人が口にするのは初めてでは?

―再稼働に向けた一進一退は続きそうだ。

【石油】トリガー議論が再燃 忘れられた論点


【業界スクランブル/石油】

燃料油補助金が4月末に終了することを前にして、代替措置として、再びトリガー条項の凍結解除が議論されている。トリガー条項とは、総務省家計調査で、ガソリン価格160円超が3カ月継続した場合、ガソリン税の一部税率(旧暫定税率:25.1円)を免税(軽減)するというものだ。ただ、130円未満が3カ月続くと課税が復活する。

2010年に租税特別措置法で規定されたが、11年に震災財源臨時特例法でその適用が停止され、凍結解除(復活)には法律改正が必要になる。軽油引取税にも同様の規定(17.1円)がある。

そもそもトリガー条項は、決して良策とはいえない。09年の総選挙で、ガソリン暫定税率廃止を政権公約に、政権を奪取した民主党・鳩山政権が、減税財源を見つけられずに廃止を断念、振り上げた拳を下げられず、顔を立てるための筋の悪い規定である。公約段階では、ガソリン税のナフサ免税約1.5兆円を廃止、減税財源にするとしていたが、そんなことすれば日本の石化産業は崩壊する。

政府・財務省は、①現場の混乱(適用時の買い控え、課税時点と販売時点の違いによる税のかぶり、停止時の買い急ぎ)、②不公平性(自動車ドライバー・運送業界のみ受益)、③財源不足(特に地方)を理由に反対、石油業界も否定的だ。

ただ、それ以上に問題なのは160円という基準である。成立当時の為替レートは1ドル100円以下だった。消費税込みの税金75円、スルーマージン(元売り・流通の取り分・付加価値)40円とすると、為替レート150円では原油価格は約48ドルに相当する。

旧暫定成立廃止だけでなく、EV税制や燃料税制の抜本見直しが先決だ。(H)

既存ビジネスからの転換 目指すは家庭用ソリューション


【ニチガス】

「ガスや電力販売の既存モデルだけでは将来の成長はない。総合エネルギー企業として当社が目指すモデルの一つが家庭向けのソリューションビジネスだ」。ニチガスの吉田恵一専務が語るソリューションとは、AIを主軸としたテクノロジーを用いて誰もが家の中で、利便性や快適性を向上させながら、安心安全に生活し、最適なエネルギー利用を実現させることだ。

家庭用途では、スマートハウスとスマートホームという二つの概念が存在しているという。前者は宅内の断熱性を高めたり、省エネを進めたりすることで、エネルギー利用を最適化。後者はIoT技術などを駆使しながら便利で快適な暮らしを進めるものだ。二つの概念を結び付け、エネルギーを最適利用して快適で安心した暮らしを支えることが、同社のエネルギーソリューションである。

スマートリモコンの開発を進めている

そこでカギを握るのが、同社が開発を進めている、「スマートリモコン」である。エアコン、給湯・暖房……といった多様な設備を、スマホ画面から遠隔操作する。例えば、帰宅時間に合わせてお風呂を沸かし終えたり、空調温度を整えたりする。エコーネットライトと呼ばれる通信プロトコルが各種設備内に整備され始めたことで、こうした利用が可能になる。リモコンの設定によっては、主力販売している電気とガスのハイブリッド給湯設備の「次世代運用」も見据えている。電力市場価格をにらみながら運用を制御し、電力価格が高い時にはガスを主体に給湯するといったイメージだ。

「スマホからは遠隔でエネルギーの使用状況も確認できる。例えば遠くに住む高齢の両親の見守り機能にも応用できる」(執行役員の清水靖博営業本部電力事業部長)

さらに住宅に設置された蓄電池や太陽光発電システムなどのエネルギー設備も活用する。例えば、天気予報のデータを組み込みながら、再エネ利用の最大化や最適な充放電のタイミングを制御する。


簡易ガス団地向けの供給 配電ライセンス取得目指す

そんなソリューションには、もう一つの青写真がある。それはコミュニティーガス(旧簡易ガス)団地でのモデルだ。同社は現在、あるコミュニティーガス団地で配電ライセンスの取得を目指している。需要がコンパクトに密集するエリアに規模の大きな蓄電池を設置し、災害時などにはオフグリッド化し独立運用するなど、配電網を通じたやりとりも含め全需要家に対して最適に制御しながら、責任を持ってエネルギーを供給していくビジョンだ。

清水氏は「国や地元の行政からの期待も高い配電ライセンス国内第一号を目指して、多くのお客さまにニチガスのソリューションを提供したい」と力を込める。

【ガス】28年前後が転換期 長契一辺倒が不利な状態


【業界スクランブル/ガス】

主要都市ガス各社の2024年3月期決算予想が出そろった。フリーポート回復という特殊要因がある大阪ガスは史上最高益を見通しているが、それ以外の主要企業はそろって減収減益を想定。しかし、この傾向は各社とも昨年度の業績が良すぎたからであり、今年度の経営状況を悲観する材料はない。その証拠に、主要4社の売上高、経常益の見通しは全て一昨年度の実績を上回っている。

好調な経営状況を支える一因に、日本入着LNG価格(JLC)と比較して、各社が調達する長期契約LNGの競争力が高いことが挙げられる。ウクライナ戦争勃発以降、欧州でのロシア産ガス供給量減少に伴い、欧州天然ガス市場価格(TTF)は例年の4〜5倍に跳ね上がり、それに呼応する形でアジアのスポット価格(JKM)も高騰した。JLCは大手電力中心に購入されたスポットの高価格に引っ張られる形で上昇した。

しかし、多くを長期契約で固める都市ガス会社はスポットを購入する必要がなく、各社のLNG調達価格はJLCを下回った。一方、ガス料金にはJLCが指標として用いられているため、JLCと実際の調達価格との差分は各社の利益となった。今年度のJKMは昨年度よりも落ち着いているためJLCも下がってはいるが、実際の調達価格を依然上回っており、各社とも利益を享受している。

しかしJKMがいつまでも長期契約価格を上回っているわけではない。米国やカタールでは新規LNG事業が進行中であり、28年前後には生産量が倍増する。するとスポット価格が急落し、長期契約主体の都市ガス会社は一転不利な状況に陥る。各社はその状況に備え、今から長期とスポットの適切なポートフォリオを構築、リスク管理を徹底することが重要だ。(G)

電力需要の新潮流、シグナルを発信せよ


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

米国最大の独立系統運用機関であるPJMは1月、今後10年間の電力需要見通しを大幅に上方修正。需要量の伸びは従来の年平均0.8%から2.4%と約3倍になった。2034年の需要は、現在より2200億kW時(100万kW級原子力30基分!)も増加する見通しだ。なおPJMに限らず、米国の各地域においても長期需要見通しは引き上げられている。

需要増の原動力の一つがデータセンター(DC)需要だ。ボストン・コンサルティング・グループによれば、全米のDC向け年間電力需要量は、22年の1260億kW時から、20年代末には最大で3900億kW時(約3倍!)まで伸び、電力需要全体の7.5%に達する可能性があるとのこと。デジタル関連需要の増加はDCのみならず、半導体工場の建設も促し、電力需要はさらに上乗せされることになる。

デジタル産業向けの電力需要は、最近話題の生成AIなどにけん引され、システムの高度化と用途の急拡大の相乗効果で、30年代以降も級数的に増加していく可能性があるようだ。いわゆるDX(デジタル技術による社会や生活の変革)が本格的に走りはじめ、この産業が21世紀における電力需要の主役に躍り出るということだろう。

一方、電力の供給インフラの建設の方は、10年単位の事業であり、急加速という訳にはいかない。日本では今年、長期のエネルギー政策が議論されるはずである。電力需要の見通しが「炭素中立」への「数字合わせ」に終わり、米国のように電力需要の新潮流に関するシグナルを発信できなければ、DX推進に不可欠な電力インフラの投資を呼び込むことはできない。関係者の方々には、後年になって「国民の生活水準低下」を「省エネの成功」とすり替えて自賛することのなきよう、お願いしたい。

【コラム/3月19日】EUは戦略的原材料の過度の域外依存を克服できるか


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現在、EUはレアメタルの多くを域外とりわけ中国に依存している(レアアースは、ほぼ100%を中国に依存)。EUは、2050年カーボンニュートラルを目指しているが、そのために必要となる再生可能エネルギー電源の開発や電気自動車の生産にはレアメタルが欠かせない。EUにとって、レアメタルなどの重要な原材料の域外の特定国への過度な依存を解消させることは焦眉の課題となっている。

このような中で、欧州委員会は、2023年3月に「欧州重要原材料法」(“European Critical Raw Material Act”)を提案したが、同年11月には、閣僚理事会と議会の合意が成立したことから、両機関の最終承認を経て、法案は成立する見通しである。「重要原材料」とは、「経済的な重要性が高い一方で、供給中断に対して非常に脆弱なもの」と定義されており(34種類)、その代表的なものは、レアアースを含むレアメタルである。

法案(閣僚理事会と議会の合意を含む)では、「重要原材料」の中で、防衛および宇宙だけでなく、グリーンおよびデジタル移行のための技術にとって重要な17の原材料を「戦略的原材料」と位置づけている。そして、対象となる原材料に対して、2030年までにEUの年間需要量の
1)少なくとも10%は、域内の生産によること
2)少なくとも40%は、域内の加工によること
3)少なくとも25%を域内のリサイクルによること
4)いかなる加工段階でも65%以上を単一の第三国から供給されないこと
を求めている。

果たしてこれらの目標は達成されるだろうか。Economist Intelligence(The Economist Groupの調査部門)は、下記の理由で、戦略的原材料に関して、域内におけるサプライチェーンのレジリエンスは実質的には改善されないと指摘している。例えば、同法では、戦略的原材料の少なくとも10%を域内で生産することを求めているが、この目標の達成には、高いハードルが待ち受けている。レアメタル鉱山が新たに開発される可能性が最も高いのは、スウェーデン、フィンランド、ポルトガルだが、鉱山開発は、各国の独自の法的障壁に直面する可能性が高く、また投資のリードタイムや環境への影響を考えると容易ではない。

スウェーデンでは、2023年1月に、最北部で、推定埋蔵量100万トン以上とされる欧州最大のレアアース鉱床が発見されたと伝えられた。しかし、実際に資源を採掘することが可能になるまでには、許可申請、採算性の評価、地域の環境に与える環境アセスメントなどで長い道のりがある。また先住民族は、北極圏の環境を破壊することを懸念し、採掘に反対している。スウェーデンの国営鉱業会社LKABが採掘権を申請する予定であるが、同社のヤン・モストロム最高経営責任者は、採掘されても鉱物が市場に出回るのは10~15年後になるだろうと述べている。

【新電力】自前電源だけではない 安定供給への貢献


【業界スクランブル/新電力】

新電力について、メディアやネット論壇で「新電力側も、長期的な視点に立って発電設備への投資を行い、電力の安定調達を図ってほしい」(読売新聞1月24日:公取委「電力分野における実態調査報告書」)という論調を見かける。

新電力の「旧一電源タダ乗り」(2024年度からは容量拠出金を負担するのでタダ乗りではない)を批判するものだが、一部は自前電源確保のため常に活動している。成果が出ないだけだ。東日本大震災後、自前電源保有(主に石炭・バイオマス混焼電源で、事実上禁圧となったが、震災直後、政府は石炭に否定的ではなかった)に動いた新電力がいたことを思い出してもらいたい。

最近の新電力は新設太陽光の小売り充当に向けて動いているが、太陽光自体安くはない。資本費が1kW当たり16万円、メンテナンス費用は同1万円以上で、1kW時当たり16円を超える。不稼働時間帯の補完電力料金設定も難しい。

市場依存するとして、市場連動料金をそのまま織り込む2部料金にするのか、市場調達分にリスク分を加算して固定価格を維持するのか。前者は仕上がり料金不明、後者は絶対値が高く、顧客受けは悪い。発電抑制量の見通しが付けにくく、容量市場では稼げない上に長期脱炭素電源オークションに入れるのは超メガサイズだけだ。FIP適用は当然考慮するが、プロジェクトファイナンスで苦労する。

小売りが実際の電気の流れに関与せずにサービスを提供することが転売ヤーと馬鹿にされるが、旅行代理店は飛行機やホテル、青果店は畑と農家を直接確保しない。電源を持たずとも、調達先との関係性深耕、トレーディング、付帯サービスの工夫などで競争を勝ち抜く絵図を評価してもいいのでは。(Z)

企業にとって「有害」 ドイツ温暖化政策の苦境


【ワールドワイド/環境】

ドイツがさまざまな難問に直面している。高止まりする利子率、輸出の不調、ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰により、ドイツ経済は苦境にある。経済協力開発機構(OECD)によれば、今年のドイツの成長見通しは1.1%とOECD平均の3%を大きく下回る。

ドイツ最大の産業団体・ドイツ産業連盟のジークフリート・ルスヴルム事務局長は、2月のフィナンシャルタイムズのインタビューに対して「ドイツの気候政策はほかのどの国よりも教条的である。原子力と石炭のフェーズアウト、再エネへの転換は、ドイツ経済をほかの先進国に比して不利なものにしている。7年後のエネルギー供給がどうなっているか誰も確実な見通しを持てず、その時点でのエネルギー価格も分からない。投資判断を行う企業にとっては有害(toxic)である。多くの企業がドイツではなく、エネルギーコストの安い外国で新規投資行っている」と述べた。ドイツ雇用者連盟のダルガー事務局長も「ビジネス界は政府に対する信頼を失っている」と語った。両者ともこれまで政府のグリーンエネルギー転換を支持してきた。それが「有害」という言葉を使って批判を強めているのは、政府がひたすら野心的な脱炭素目標に向かって進む中で、ドイツが製造拠点であり続けられるかどうかに強い懸念を有しているからだろう。

産業界のみならず、農業団体からも政府批判のボルテージが上がっている。1月には農業補助金カットに怒った農民がアウトバーンをトラクターで封鎖する異常事態が発生した。その背景は政府の苦しい財政事情だ。現政権はコロナ対策用の基金を脱炭素政策に流用しようとしたが、昨年11月、連邦最高裁判所から違憲判決を受けてしまったため、補助金のカット、各種課金の引き上げを企図している。農業補助金のカットは農家を圧迫し、送電手数料の大幅引き上げは産業部門のエネルギーコストを確実に引き上げることになる。

筆者は2月半ば、日独エネルギー転換協議会に参加した。ドイツ側参加者は「コストを抑制しながら野心的目標を追求する」とコメントしていたが、それでも他国よりも高いコストが産業空洞化をもたらすとの危機意識は感じられなかった。日本は「ドイツに倣え」ではなく、「ドイツの失敗から学ぶ」ことが重要だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)