紆余曲折の袖ヶ浦火力 東ガスが単独で建設へ


東京ガスは、千葉県袖ケ浦市で検討していたLNG火力発電所の建設を決めた。将来の水素活用を見据え、水素混焼が可能な最新鋭の高効率ガスタービンコンバインドサイクル発電195万kWを導入し、2029年度の運転開始を目指す。

冷却には空冷式を採用。水冷式に対し「発電効率が1%ほど低い」(発電事業関係者)など、建設費や発電効率の面で多少不利だが、エネルギー業界関係者は、「川崎天然ガス発電など既存火力がリプレースを迎える30年度に間に合わせる必要があり、建設地の出光興産の敷地が広大で巨大な冷却ファンを設置するスペースを十分に確保できることが判断の決め手になったのだろう」と見る。

15年に同地で火力発電計画が立ち上がった当初は、東ガスと出光、九州電力の3社が石炭を燃種に検討していたが、脱炭素の流れから19年に断念すると同時に出光が撤退。その後、LNGに切り替え2社で検討を続けたものの、燃料高騰を受けて昨年、九電も撤退した。情勢変化で二転三転を余儀なくされてきた発電所計画が、いよいよ一歩を踏み出した。

ドイツの地熱発電・熱供給事業に参画 国内の地熱開発で知見を生かす


【中部電力】

中部電力は、カナダのスタートアップ企業「エバーテクノロジーズ(エバー社)」がドイツのバイエルン州で進めている、地熱発電・地域熱供給プロジェクト「ゲーレッツリート地熱事業」に参画している。エバー社の株主である中部電力は今回、プロジェクト事業会社に直接出資する。

エバー社は「クローズドループ」と呼ばれる、地下に張り巡らしたパイプに地上から水を流し込み、循環させて地下熱を回収する地熱利用技術の研究・開発に取り組んできた。地下の熱水や蒸気が十分でない地域でも効率的に熱を取り出せることが特徴だ。

カナダのアルバータ州で実証設備を運用しており、商用での建設は今回が初。独自技術を取り入れた「エバーループ」として設置する。

設備は、深さ5000mの位置まで垂直坑を2本と、そこから水平に約3000mの長さの水平坑24本を掘削し、ループを作る。地中部分にはシール材を混ぜた水を流し込み、表面を固めて水漏れを防ぐ。水がループを循環し、地下熱で湯を沸かす。いわば地球を湯沸かし器にする発想だ。

欧州の地下熱は150℃前後。地上に取り出した熱は、熱交換器を通して熱供給用導管とバイナリー発電設備に供給される。流し込んだ水は減量せず循環し続ける。現在1本目のループを掘削中で、24年10月に完成、運転を開始する予定だ。26年8月に全4本のループを完成させて、全面運転開始を目指している。

発電出力は、約8200kW(発電端)。ドイツのFIP(市場価格+変動プレミアムで一定価格にて買い取り)制度を活用して市場で販売する。熱供給は約6万4000kWを予定。約20万世帯分の供給量に相当し、近隣の二つの自治体と30年の売買契約を結んでいる。


EUイノベ基金獲得 国内の地熱拡大にも

プロジェクトの総事業費は数百億円に及ぶが、カーボンニュートラルへの移行を実現する革新的な技術であることが評価され、「EUイノベーション基金」から約140億円の補助が決まった。

「選出されたのは申請数の1割強。基金獲得は、EUから高い評価を得られている証しで、このことが第三者割当増資を引き受け、数十億円出資の決め手になった」と佐藤裕紀専務執行役員は、事業の将来性を確信している。

日本の地熱資源量は世界第3位で活用のポテンシャルは高い。エバーループは熱供給や発電を水の循環で制御できるため、低需要時には地下に蓄熱し、調整電源としての役割も担える。中部電力は、国内への展開も視野に入れる。

佐藤専務執行役員は「地熱の位置づけをドラスティックに変え得る技術だ」と大きな期待を寄せている。

ゲーレッツリート地熱事業完成予想図

「長期脱炭素」に既設原発 柏崎刈羽の支援につながるか


既設原発の活用拡大に向けた新たな政策案が浮上した。7月末の総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会で、脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既設原発の安全対策投資を加える案をエネ庁が提示。巨額の投資回収の予見性確保が狙いだ。

需給上は柏崎刈羽などの再稼働が待たれるが……(出典:東京電力ホールディングスウェブサイト)

同オークションは2023年度中に始まり、落札電源には固定費水準の容量収入を原則20年間与える。脱炭素電源の新設・リプレース以外には、水素・アンモニア混焼に向けた既設火力の改修、さらに25年度実施分までは脱炭素化を条件にLNG火力の新設・リプレースも対象にすると整理した。

10年以上原発が停止したままの東日本では、特に東京エリアで夏・冬の需給ひっ迫が懸念される状況が続く。そうした中、本案についてある電力業界関係者は「特に柏崎刈羽などでまだ審査や工事が進んでいない炉への支援を念頭に、関係者が時間をかけて調整してきたのではないか」とみる。

他方、「福島事故でBWR(沸騰水型炉)が水素爆発の危険性が高いと示された。国民が再稼働に納得するにはオークションなどより、例えば事故耐性燃料の実装を促すような措置を考えるべきだ」(政府関係者)といった声もある。

【覆面ホンネ座談会】電力不祥事で議論迷走 遠のく市場の正常化


テーマ:電力事業制度改革

電力システム改革の抜本的な見直しが言われ始めて久しい。だが、カルテル疑惑や顧客情報の不正閲覧など、大手電力会社が自ら引き起こした不祥事がその議論を遠ざけてしまっている。電力システムのゆがみは正せるか。

〈出席者〉 A コンサルタント B 発電事業関係者 C 大手電力関係者 D 学識者

―大手電力会社の老朽火力の退出加速と供給力不足への懸念が払しょくできず、卸電力市場への限界費用入札の弊害が指摘される。

A 限界費用で入札することが問題なのではなく、容量市場に先行して始まり、大手電力の自主的取り組みの名目で実質強制したことがまずい。長期での固定費回収ができないまま、再生可能エネルギーの大量導入で限界費用により取引される短期の卸市場価格の水準が低下したことで、フリーライドで参入できると勘違いした事業者を大量に呼び込んだ。

B 限界費用という言葉は、受け手にとって幅広に解釈できる余地があり、厳密に定義した上で活用するべきだった。限界費用が競争均衡されている市場価格だとすれば、それでは固定費を回収できないという言い分に対し、一部の経済学者は反発する。だけど現実問題として可変費ベースの限界費用では固定費を回収できない。自主的取り組みからガイドライン化され、それがあまりにも厳しいために大手電力関係者も思考停止してしまい、自らの商品をいくらで売るのが適正なのか考えられなくなっているのではないかと懸念している。たとえば長期卸の価格をスポット取引と同様の限界費用で費用認識してしまうなど、発電事業者としてあり得ない。

C 市場はシングルプライスオークションで、自らの売値よりも高い水準で価格が決まるからその値差で固定費は回収できるといった話を経済学者がよくしていたが、値差が固定費回収に十分な額である保証はない。そんな雑な言説がまかり通っていたのは異常だし、それを真に受けて限界費用入札の強制を始めてしまったのは、完全な失策だろう。

D ピーク電源は稼働時間が短いのでそれなりのマージンを乗せて販売するのが先進国の常識だ。ところが日本では、その担い手が大手電力系列の電源ばかりで、ピーク時でさえ限界費用での入札が求められていて、高騰しにくい卸電力市場構造の根本原因になっている。これが、電源投資が起こりにくい上に、老朽火力の退出を促す結果を招いている。

固定費回収に規制的手法 電源投資促進なるか

―容量市場、長期脱炭素電源オークションなど、固定費回収スキームは機能するか。

A こうした市場の創設は、電源投資における市場メカニズム活用の限界を示唆するものだ。短期では、限界費用か平均費用か何が正しいのか分からない市場環境で取引させているのだから、長期回収で帳尻を合わせるしかない。いびつな市場が非線形の期間構造を生むことはさまざまなハレーションを起こし得るが、次善解として受け入れるしかない。

B これまでの制度設計議論は、スポットで発見される価格によって短期的な資源配分も長期的な投資配分も最適化されることを期待しており、不足分は別途容量市場などで補うがあくまで短期を出発点とした議論。だが実際は、長期の電源がしっかりと建っていないと短期の流動性は得られない。長期的に電源のファイナンスをどう維持していくのかを考える必要があり、電源をリスクにさらさないという点において総括原価は有効な手段だった。ファイナンスという意味では、それに近しいものを検討する必要がある。

C 予備力も含めてどの程度電源が必要かは、以前から市場原理とは無関係に決められてきたわけで、自由化だからこれらを取っ払って、全て市場の需給調整に委ねるなんて政策判断はされていない。容量市場はそうした判断になじむと思う。脱炭素オークションの導入が決まったのは、30年で廃止しなければならないかもしれない電源投資のために、民間事業者がリスクを取ることがあり得ない世界になってしまったからだ。これが良いとは決して思わないが、カーボンニュートラル(CN)をどうしても目指すのなら規制的手法に頼らざるを得ない。

D 脱炭素オークションは、全てオークションで調達するという点で極めて特殊な制度だ。イギリスでは新しい技術の電源調達を行う際は、その電源の特性に合わせてオークションか政府との交渉かを決めている。日本では、水素やアンモニアを混焼させる発電は、費用の不確実性が高いことが十分に考慮されないまま全てオークションと決まってしまったので、この制度で本当に新しい技術の電源に投資が向くのか疑問だ。状況に応じて適宜、制度の見直しをしていかないとうまくいかないと思う。

カーボンニュートラルを見据えた事業構造転換が待ったなしだ

―さまざまな制度をつぎはぎで導入している印象が否めない。きちんと機能するのだろうか。

A 鵺のような市場を立ち上げ矛盾だらけの制度で苦しむくらいなら、いっそのこと総括原価方式に戻してしまえばいいのにと思うよ。その非合理性を理解できない。

B 今から総括原価に戻ることはどうやってもあり得ない。それに、今回の資源エネルギー庁の幹部人事を見ても、システム改革を押し進めてきた人たちが顔をそろえているし、間違っていたなんて認めることはないだろう。

C アンモニア発電を手掛ける事業者は限られるからオークションとはいえ価格は交渉で決まるのだろうし、事実上の総括原価とも言える。ただ昔と違うのは、財務基盤が傷んだ大手電力が投資して必要量を確保できる時代ではない。キャッシュフローがリッチな企業が喜んで投資するような枠組みにして業界外から投資を呼び込まないと。

D 最近、脱炭素オークションの範囲を既設原子力の安全投資費用に広げる議論が始まったけど、原子力を卸電力市場の中でどう位置付けるつもりなのか。これによって大手電力に追加的な要請を加えるようなことがあれば、内容によっては安全対策投資費用を回収できるという話が変わってしまう恐れもある。

B バックエンドをまわすためにも原子力のkW時が必要なのだろう。脱炭素オークションで費用回収させようとするのは、それだけ安全対策費の問題が重いテーマなのだ。

【イニシャルニュース 】特捜部の本丸はT? 秋本問題で疑惑再燃


特捜部の本丸はT? 秋本問題で疑惑再燃

秋本真利衆院議員の収賄疑惑を契機に、シンクタンクTを巡る問題が再燃しつつあるようだ。東京地検特捜部は、再エネを巡る政界汚職事件を一昨年から捜査している。同社が再エネ絡みの数々の怪しい会社を結びつけた企業だからだ。関係する大物政治家の名前も浮上している。

Tは政界フィクサーと呼ばれるY代表が運営。S元首相や自民党のN元幹事長ら与野党の有力政治家が機関誌に登場。政治家、官僚、財界などとの太いパイプを生かし、存在感を増した。会員企業に政治家や官僚を紹介し、また落選議員に仕事を斡旋していた。また前H市長のS氏がTの創業に関わった。S氏はM塾出身で政財界問わず、同塾出身者の情報交換の場になっていた。ここ数年は、太陽光開発仲介やEVインフラ整備などに関与。著名エネルギー学者も顧問格に迎え入れている。

一部報道によると、東京地検特捜部は2022年初頭にTと関係先を家宅捜査したという。同部の狙いはやぶの中だが、関西の大物政治家、また大阪、岡山の再エネ開発案件の関係の事件化を狙っていると再エネ業界ではささやかれた。ちなみに、特捜部はTに関係があるとされるT社のM氏を今年4月までに逮捕後に起訴。またK元首相と親しい関係を誇示した、太陽光発電会社T社のI氏ら経営陣を21年6月に逮捕後に起訴した。

そんな中で今夏に発覚した、秋本議員を巡る収賄疑惑。秋本氏は、自民党再エネ派の親分的存在である河野太郎デジタル相の側近であり、「競走馬」というつながりもあることから、「河野氏つぶしではないか」と見る向きも。一方、永田町筋によれば「特捜部による再エネ疑惑追及の本丸はあくまでT絡み」とのこと。今後の捜査の行方に関心が高まっている。

洋上風力工事に影響 港湾の取り合い問題

秋本真利議員と日本風力開発の贈収賄疑惑が波紋を呼んでいる洋上風力。スキャンダルの影響はさておき、今後各地で開発が進む段階において、新たな課題も浮上している。

複数の大規模洋上風力計画が乱立する某県エリア。既に2地点の事業者が選定された政府公募第一ラウンドに続き、第二ラウンドでも2地点の選定プロセスのただ中にある。そうした中、業界関係者が注目しているのが、工事の拠点となる港湾を巡る問題だ。

世間を騒がせている洋上風力開発

県内にはN港とA港の2カ所があり、実施主体はどちらの港湾を使うかそれぞれ判断することになる。位置関係から考えて、第一、第二ラウンドの対象である4地点の計画では、それぞれN港を2地点、A港を2地点が選択すると考えられる。

だが、「特に設備規模が大きいY地点が活用する予定のA港のキャパシティ問題が今後表面化しそうだ。かといって、どちらかの事業者がN港に計画変更したとしてもそれは同じこと。港湾の取り合い問題は、事業のタイムラインにも関わる重要な問題だ」(再エネ業界関係者)。

今後の過程で政府はどの事業を優先させるのか、注目される。

電力カルテルで相次ぐ訴訟 論争の舞台は司法の場へ


大手電力4社グループによるカルテル問題が、新たな段階に入ろうとしている。関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社は8月10日までに、経産省の業務改善命令に基づく改善計画を提出した。事実上の再発防止策が出そろったことで、カルテル自体には一区切りが付いた格好だ。

処分不服、善管注意義務違反、株主訴訟・・・・・・

しかし一方で、公正取引委員会による課徴金命令などの処分を巡っては、中部、中国、九州が提訴に踏み切る方針を表明。うち中部と九州では「カルテル合意はなかった」として処分取り消し訴訟を提起する構えだ。注目は中部。公取委が調査中の東邦ガスとのカルテル問題の処分案が今秋に示される見通しだからだ。「これが、電力カルテル処分の取り消し訴訟にどんな影響を与えるのか。重要なポイントの一つになりそう」(一般紙記者)だという。

もう一つの注目は中国。8月3日、旧経営陣3人に善管注意義務違反があったとして、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こすと発表した。関西、中部、九州が経営陣を提訴しない方針を表明する中で、「なぜ中国が?」と業界に波紋を広げている。

果たして、司法の場ではどんな論争が繰り広げられるのか。

取引の健全性を崩した燃料油補助金 今こそ激変緩和措置の徹底検証を


【識者の視点】小嶌正稔/桃山学院大学経営学部教授

当初の枠組みから大きく反れ総額6兆円をかけた燃料油補助金制度が出口に向かおうとしている。

店頭価格200円越えで9月末終了も危ぶまれるが、どう転んでも制度の検証は待ったなしだ。

予算規模6兆円を超えた燃料油の激変緩和事業が9月末に終了する予定だ(8月18日時点)。時限的・激変緩和で始まった事業は、1年7カ月の間、目的や補助上限、基準価格、対象油種と基本的枠組みの変更を繰り返したが、いよいよ出口にたどり着こうとしている。

同事業は、コロナ禍からの回復の基礎として石油製品価格を安定させ物価の安定に寄与した一方、堅調な石油製品需要を下支えし、脱炭素と相入れない状況を作った。また補助金の運用に民間企業を使ったこと、緊急避難的処置の改定時に企業が経営判断として行う小売価格を加えたこと、効果が疑問視された価格モニタリング制度を一貫して続けたこと、そして政治的駆け引きで基準価格を決め、終了までのプロセスの議論なしに長期にわたり莫大な資金を使い続ける、といったマイナスの側面があった。今回の経験を踏まえ、同様の事態に備えていつでも発動できるスタンドバイポリシーを準備すべきである。

巨額をかけ長期にわたった施策の検証が急務だ


当初の基準は透明性担保も 政府が価格介入の禁じ手へ

燃料油の激変緩和事業の支給開始は2022年1月末であった。元売り事業者などへの補助金支給による価格抑制という変則的な方法でスタートしたが、時限的・緊急避難的処置としてスピード感が優先された。発動から4週間ごとに1円ずつ基準価格を引き上げることによって激変緩和を着実に実行する制度であり、特に原油を基準とすることで明確性、透明性が確保されていたと評価できた。

政府が石油元売りを通じて小売価格に影響を与える施策が長期間行われることは、市場メカニズムを破壊する行為であり、事実上、元売りが小売価格をコントロールできることが前提だとも取られかねない。この事業期間では大手元売りの卸売価格はほぼ同じ変動幅で動いていた。競争が働いていないとは言わないが、卸売価格(表面)でなく見えないところで競争が行われているとすれば、取引(価格決定メカニズム)の健全性が失われたと言わざるを得ない。時限的・緊急的な異例の措置は、変則ではなく禁じ手だったのだと認識しておく必要がある。

ロシアのウクライナ侵攻などによる原油価格の急騰を受け、22年3月以降、支給上限が5円から一挙に25円まで拡充され、激変緩和は緊急避難措置になった。原油の急騰を考えれば、補助上限額の引き上げは必要であった。しかし、原油価格高騰対策の基準価格の算定に、小売価格調査の結果が加えられたことで明確性も透明性も失われた。小売価格は経営主体が自社の経営判断で決めるものだ。これを支給基準に加えることは、小売業者の経営判断が補助額に反映されることを意味する。小売価格に影響を及ぼす方法は、説明のいらない、例えば二重課税見直しなどに限定すべきだ。

4月28日(第3段階)からは、石油製品の価格高騰対策・円安対策に姿を変えた。基準価格は172円から168円に引き下げ、補助上限額は一挙に35円に引き上げ、さらに超過分にも2分の1を支援する仕組みに拡充された。

製品価格の高騰対策となったことから、揮発油税の暫定税率を一時的に停止するトリガー条項が政治的に持ち出された。トリガー条項の設定時の基準は160円であり、当時の消費税率5%を差し引くと本体価格は152・38円。これに現行の消費税率10%を掛ければ167・6円となり、新基準価格と同額になる。補助金の上限額35円も同じで、当時(4月4日)の全国平均小売価格は、補助金の支給がないと仮定すると203円程度になる。これと168円との差は35円である。トリガー条項を発動することなく、それを適応したのと同じ結果となった。 

制度が価格高騰対策に変わった以上、政策対象を限定しない政策から、生活困窮者への支援など、対象者を絞り込む必要があった。

そしてもっとも効果が疑問視されたのは、補助金が小売価格に適切に反映されているかを確認する価格モニタリング制度である。

「燃料油補助」延長は愚策!? 人気取り政策の費用対効果


「萩生田(光一)政調会長に、ガソリン高騰対策を今月中にまとめるよう指示した」

岸田文雄首相は8月22日、9月に終了予定だった燃料油価格激変緩和措置の継続を示唆した。21日時点のガソリン平均価格は過去最高値に迫る183.7円だ。加えて、電気・ガス代支援策を含めた経済対策を9月中に取りまとめる考えも示した。

原油価格自体は安定している。8月22日のWTI先物では1バレル80ドルを割り込む場面も。サウジアラビアの追加減産など不安定要素はあるが、今後急激に油価が上がる可能性は低い。販価高騰の原因はひとえに円安の加速だ。

円安加速がガソリン価格上昇に大きく影響している

このため、燃料油だけでなく、原料、食品を含めたあらゆる輸入品の調達価格が上昇。本来必要なのは抜本的な円安対策なのだが、政府は国民受けのよい燃料油補助でお茶を濁している格好だ。

「以前のような競争がなくなったことで収益は安定している。正直、補助金はあってもなくても、どちらでもいい」(SS関係者)、「国が小売り価格相場を決める形となり、市場原理による本来の適正な価格形成は完全にゆがめられた」(エネルギー関係者)、「燃料油価格が上がれば消費が抑えられ、省エネ・省CO2に貢献、エネルギーシフトも後押しするのに、そのメリットは無視されている」(環境団体関係者)―。やめ時を見失った補助延長の愚策に、関係者からは冷ややかな声が聞こえる。

「激変緩和措置に合計6兆2千億円を投入し大きな効果を発揮している」と岸田首相は胸を張るが、果たして膨大な国費投入に見合った効果が国民経済にもたらされているのかどうか。いずれかの段階で徹底的な検証が必要だ。

通信事業に伴う電気を「生再エネ」に 電力多消費企業として脱炭素化へ役割


【ソフトバンク】

事業活動に伴う電力の安定調達と脱炭素化の両立は、とりわけ通信事業を継続する上で避けられない課題だ。ソフトバンクは、再生可能エネルギーとAIを組み合わせ、その難題に挑もうとしている。

SBパワー代表取締役社長兼CEOでもある中野明彦氏

電力の需給ひっ迫や価格高騰リスクが顕在化する中、国内企業にとって事業活動に伴う電力をいかに安定的に調達し、かつ脱炭素化に貢献できるかが事業を継続する上での重要なテーマになろうとしている。いち早くその難題に挑もうとしているのが、通信事業大手のソフトバンクだ。

同社は今年5月、自社の通信事業で必要となる電力を、非化石証書を使用せず、実際の再生可能エネルギー発電で調達していく方針を打ち出した。

同社の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量は年間約70万t(CO2換算)。このうち半分以上を携帯電話基地局で使用する電気が占めるものの、20年以降、電力小売り事業者であるSBパワーが供給する再エネ電気メニューへの切り替えを進めるなどで、既に基地局に使用する電力の7割以上を再エネで賄うようになっているという。

ただこれは、非化石証書の購入などによって「実質」再エネ化した電気である。同社が目指すのは、通信事業で使用する電力量に相当する年間約20億kW時を追加性のある「生再エネ」で賄うことだ。 その調達スキームは、再エネ発電事業者とSBパワーが20年間の長期調達契約を結ぶというもので、オフテーカー(引き取り手)として再エネ開発プロジェクトを推進していく狙いがある。

さまざまなリスク回避も 自ら電気を調達する重要性

ソフトバンクのエナジー事業推進本部本部長であり、今年4月に発足したグリーントランスフォーメーション(GX)推進本部本部長を兼務する中野明彦執行役員は、「電力多消費の通信事業者として、自ら使う電力を自ら確保していく必要がある」と、同社の電力調達戦略の根底にある強い問題意識を明かす。

今後、生成AIや自動運転などが普及し社会のデジタル化が進展すれば、データ処理に必要な計算能力の増大に伴い、通信事業における電力消費量も飛躍的に増大する可能性がある。20年という長期にわたって固定価格で再エネを調達することは、脱炭素化を実現するだけではなく、需要が伸びる局面においても、電力の需給ひっ迫や価格高騰といったさまざまなリスクにさらされることなく、事業を安定的に継続することにもつながるというわけだ。

ただ、太陽光や風力といった自然変動型の再エネは、出力が不安定でどうしても需要に対して過不足が生じてしまう。

そこで同社は、単に再エネを調達するのではなく、得意分野であるAIやビッグデータ分析能力を活用することで、基地局やデータセンターに備えているBCP(事業継続計画)用蓄電池活用を含めた、最適な再エネの電源ポートフォリオを構築できるよう実証を進めている。

「蓄電池を活用するに当たっては、劣化を抑えながら耐用年数しっかりと使っていくことが経済性の面で非常に重要。再エネは気象条件で発電量が変動する中、蓄電池による充放電や、電力小売り事業を手掛けるからこそ可能な需要側のデマンドレスポンス(DR)をどう組み合わせれば、事業が経済的に成り立つのか。実際に取り組まなければ分からないことが多くハードルは相当高いが、ベストプラクティスを追求していきたい」(中野氏)考えだ。

家庭の省エネ行動定着化へ アプリ普及1千万世帯も

こうした事業で使用する電力の再エネ化の取り組みに加え、需要側では家庭分野の脱炭素化の取り組みにも力を入れている。それを実現するためにソフトバンクが注力するのが、20年7月に提供を開始したSBパワーによる家庭向け節電サービス「エコ電気アプリ」を通じた、一般の需要家の環境・節電意識の醸成だ。

翌日の電力需要予測や市場価格などを踏まえて同社がDRを発動し、「節電チャレンジ」として同アプリを通じて利用者に節電への協力を依頼。それに応じて利用者がエアコンの温度設定の調整などの節電に取り組む。

アプリでCO2排出削減量を確認できる

重要なのは、節電要請が繰り返し発動された際にいかに確実に協力を得られるか。当初から、節電チャレンジに成功すると報酬としてPayPayのポイントを付与しているほか、昨年度、環境省の「食とくらしの『グリーンライフ・ポイント』推進事業」に採択されたのを機に、節電によるCO2排出削減量の見える化や、CO2排出削減量をランキング化し上位の利用者に追加でポイントを付与するなど、節電への意欲を維持するための工夫を凝らしてきた。

特筆すべきは、同社単独ではなく、九州電力、東京電力エナジーパートナー(東電EP)、東邦ガス、東北電力、北陸電力、さらに今年7月からは中国電力と、電力小売り事業者の垣根を越えて広く家庭向け節電サービスを普及させていこうとしている点。既にSBパワー単体で120万世帯が同アプリに加入しており、全社を合わせると23年度中にも500万世帯に拡大、いずれ1000万世帯も視野に入る。

脱炭素社会を実現するには、今後、家庭分野でのCO2削減は大きな課題となる。「エコ電気アプリ」はそもそも、家庭で節電やCO2削減に長く取り組んでもらうためのサービスとして開発したもので、1000万世帯で省エネ、省CO2のための行動を定着、習慣化してもらうことができれば、その実現に大きな一歩となることは間違いないだろう。

中野氏は、「通信事業は電力多消費産業であるとの認識の下、グループ全体で発電側と需要側双方で脱炭素化に正面から取り組んでいきたい」と、強い決意を示す。

【コラム/9月5日】実はかなり多い 太陽光発電のライフサイクルCO2


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

太陽光発電のCO2排出量は実はかなり多い、という論文が2023年7月4日付で無料公開された。(論文解説記事)。イタリアの研究者 エンリコ・マリウッティ(Enrico Mariutti)によるもので、タイトルは「太陽光発電産業の汚れた秘密(The Dirty Secret of the Solar Industry)」だ。

太陽光発電に関するライフサイクルCO2排出量評価(発電設備の建設、運転、廃棄に至るまでの全体におけるCO2排出量の評価)において、IEA(国際エネルギー機関)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を含めて既存の文献は著しい過小評価になっている、としている。

過小評価になっている技術的な理由は、
・中国製の製品なので、製造時には石炭を多用しているはずだが、それを考慮しておらず、世界平均の発電時CO2原単位を用いている。
・中国では石炭採掘時のメタン発生も多いはずで、その温室効果をCO2の量に換算する必要があるが、それが考慮されていない
・太陽光発電の為に建設される送電網の整備時に発生するCO2排出を考慮していない
・太陽光発電の為に設置されるバッテリーの製造時に発生するCO2排出を考慮していない
・太陽光パネルを設置することで、太陽光反射が減少する。この分をCO2排出量に換算する必要があるが、考慮されていない。
といったことである。
全て合計すると、イタリアにおける太陽光発電のCO2排出原単位は、最悪の場合kW時あたり245gCO2に達するという(図1)

図1 マッティ論文より

図中、一番左は、一定の前提の下での太陽光パネル製造のための電力の発電に伴うCO2発生量であり、それにさまざまな補正を施すと、一番右にあるトータルのCO2排出量となる。その値は245となっている。


ゼロエミ電源として無視できない数値 「1kW時当たり245g」

この1kW時当たり245gという推計はとても多い。今、国内でよく事業者によって参照されている数値は、日本の電気事業連合会が2016年の電力中央研究所報告に基づいて公表している値で、kWhあたり38gである(図2)。桁一つ違う。

図2 電気事業連合会より

もっとも大きな違いはパネル製造時のCO2排出量に関する想定によるものだ。近年になって世界における太陽光パネルの9割が中国で製造されるようになり、それが主に石炭火力発電によって賄われるようになったことが、この電気事業連合会の数値にはまだ反映されていない。
1kWhあたり245gもCO2を排出しているとなると、これはまったく無視できる量ではない。2022年に運転開始した上越火力発電所1号機のように、日本の最先端の液化天然ガス(LNG)火力発電であれば、CO2排出原単位は1kWh当たり320~360gと推計されている(図3)。

図3 環境省資料 https://www.env.go.jp/press/files/jp/114277.pdf

こうなると太陽光発電のことを「ゼロエミッション」と呼ぶことなど到底できない。せいぜい、火力発電によるCO2排出を半分にする、というぐらいである。
マウリッティは、この太陽光発電のCO2排出に関するライフサイクル分析という分野全体が、太陽光発電を推進するという特定の目的に奉仕するようになり、科学的な検証を拒絶してきた、と詳しく証拠を挙げて厳しく批判している。
中国製の太陽光パネルを使用すればライフサイクルでのCO2排出量は大幅に増大することは筆者も以前簡単な計算をしたことがある。
事業者はライフサイクルでのCO2排出を透明性の高い形で正確に評価する必要があるし、政府は補助金などの支援を実施するにあたっては、その実態をよく把握すべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

中間貯蔵施設の共同開発 上関町が調査受け入れ


中間貯蔵施設の新たな「共同利用案」が動き出した。山口県上関町の西哲夫町長が8月18日、中国電力が関西電力との共同開発を前提に申し入れた同施設の建設可能性調査の受け入れを表明した。上関町では東日本大震災後、上関原発の準備工事中断を受け、2012年度に約13億円だった交付金が今年度の当初予算では約8000万円にまで減少。しかし、今回の調査受け入れで年間最大1億4000万円の交付金を得ることになり、建設となればその額はさらに膨れ上がる。

調査受け入れを表明する西哲夫町長(提供:時事)

原発再稼働が進む西日本では、四国電力、九州電力がそれぞれ敷地内での中間貯蔵施設建設に向け動き出している。中国電も島根2号機の再稼働、3号機の運転開始を控え、中間貯蔵施設の建設が課題となっていた。共同開発について中国電の大瀬戸聡常務は8月2日の会見で、自社のみで中間貯蔵施設を建設・運営するのは負担が大きいとし、発電費の低減にもつながり経済的に「合理的な取り組み」だと意義を強調。また「当社側から関西電力に提案した」と経緯を説明した。関電側としては使用済み核燃料の福井県外搬出量の確保につながり、願ってもない提案だっただろう。

今後は、建設となった場合の費用負担の割合などが焦点となる。関係者からは「カルテル問題がありながら、よく頓挫しなかった」(関連自治体の県議)と驚きの声も。中間貯蔵問題を巡る経緯やカルテル問題からして、費用負担の交渉で優位に立つのは中国電か。「カルテルでは巨額の課徴金処分を食らったが、中間貯蔵で関電側が相応の負担をしてくれれば、痛み分けで両社の関係も改善されるのでは」(大手電力関係者)。

【マーケット情報/9月1日】原油上昇、供給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減の見通しが台頭し、買いが優勢となった。

米国の大手製油所が相次いで不具合に見舞われた。マラソン・ペトロリアム社のガリービル製油所では、ナフサタンクで火災が発生。これにより同社は、25日から同製油所の稼働率を引き下げて運転している。フリントヒル・リソース社のパイン・ベンド製油所では28日、停電が発生。石油製品の供給が減少するとの見方が広がった。

加えて、米メキシコ湾岸地域のフロリダ港が、ハリケーン・イダリアの接近を受け、31日まで稼働を一時停止。出荷減の見方を強めた。また、米国の週間石油在庫は、輸出増と輸入減で減少。昨年12月以来の最低水準を記録した。

さらに、ロシアが、追加的な輸出削減で、OPECプラスと合意と発表。需給を引き締める要因となった。

一方、中国では、不動産不況の拡大が続き、需要減の予測が一段と強まった。ただ、油価の下方圧力には至らなかった。


【9月1日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.55ドル(前週比5.72ドル高)、ブレント先物(ICE)=88.55ドル(前週比4.07ドル高)、オマーン先物(DME)=88.23ドル(前週比1.84ドル高)、ドバイ現物(Argus)=87.69ドル*(前週比1.47ドル高)

*9月1日はシンガポールの祝日で休場のため、ドバイ現物のみ8月31日との比較

洋上風力公募を巡る汚職疑惑の真相 安値阻止へ奔走した日風開勢力の誤算


国の洋上風力公募を巡る秋本真利衆院議員の汚職疑惑が世間を騒がせている。

独自調査から浮かび上がったのは、安値落札を阻止すべく奔走した日風開勢力の誤算だ。

 「思うに、秋本は単なるたかり屋だったんだよ」

前外務政務官で自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(会長・柴山昌彦元文部科学相、顧問・河野太郎デジタル相ら)の事務局だった秋本真利衆院議員(千葉9区)が、日本風力開発(東京・霞が関)の塚脇正幸社長から多額の資金提供を受けていた事件で、再エネ事情に詳しい国会議員の一人は、本誌の取材にこう明かした。「政治の世界で秋本は所詮小物に過ぎない。彼の力で洋上風力公募のルールがねじ曲がったとか、日風開が不当な利益を得たとか、はたまた親分的存在の菅(義偉・前首相)さんや河野さんが裏で絡んでいるとか、そんなことはまずないだろう」

東京地検特捜部が捜査している秋本氏の容疑は、「再エネ海域利用法」に基づく政府の洋上風力公募を巡り、2022年2月の国会で日風開に有利な質問を行った謝礼として、塚脇氏から計3000万円を受け取ったというものだ。

日風開側は当初、資金のやり取りは秋本氏と塚脇氏が競走馬の馬主仲間で、21年秋に設立した馬主組合の経費に関係するものだと説明。同社ウェブサイトでも賄賂性を否定するコメントを出していた。しかしその後の報道によれば、2019年頃にも塚脇氏が青森での洋上風力事業に絡んで国会質問した秋本氏に3000万円を渡していたことが判明、塚脇氏は賄賂性を認める方針に転じたというのだ。

これと前後して、一部メディアやSNS上などでは、秋本氏らの圧力で洋上風力公募第2ラウンドの選定ルールが日風開に有利な形に歪められたとの批判や、河野氏や菅氏らを巻き込んだ政界汚職に発展するのではないかと見る向きが広まった。

東京地検の捜査を受ける秋本議員事務所
提供:朝日新聞社


大物政治家の関与は? 時系列で見てみると……

確かに、21年12月24日に第1ラウンドの秋田県由利本荘市沖など3海域で、三菱商事と中部電力グループの連合体が圧倒的な低価格(1kW時当たり11・99~16・49円)で総取りをしたことが発表されると、地元・秋田出身の菅氏が早速、資源エネルギー庁幹部を呼んで落札結果の問題を指摘。また安倍政権時代に菅官房長官の下で官房副長官を務めた、当時の萩生田光一経済産業相も年明け早々に選定ルールの見直しを示唆した。これが、22年2月の衆院予算委員会で、秋本氏が「2回目の公募から評価の仕方を見直してほしい」と求める前段となった節がある。

一方、河野氏と秋本氏を巡っては、「脱原発・再エネ推進」という政策理念の下で親分・子分の関係にあるほか、河野氏が一時、日本競走馬協会(東京・麻布台)の会長を務めていたことから、「競走馬つながり」という共通点もあった。こうした事情から、「秋本のバックで大物政治家が動いた」とする憶測が飛び交ったわけだ。

果たして真相はどうなのか。本誌では洋上風力公募ルール見直しの経緯を改めて調査。そこから浮かび上がってきたのは、①京都大学の寄付講座や業界団体の活動を巡り日風開勢力が奔走、②しかし結果として、選定ルール見直しは日風開側の狙い通りにならなかった、③収賄はあくまで秋本個人の事件であり、政界汚職に広がる可能性は低い―という側面だ。時系列での整理が非常に重要なため、21年12月からの動きを振り返ってみたい。

原子力開発最前線 日立GEニュークリア・エナジー 「HI―ABWR」はGX戦略の要


【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

「HI―ABWR」には、ABWR(改良型沸騰水型炉)建設の実績が合理的、実務的に取り入れられている。

GXが投げ掛ける課題に対する「解答」であり、日立製作所のフラッグシップとなる大型革新軽水炉だ。

ごく最近、カナダにおいて小型軽水炉BWRX―300(出力30万kW)をGE日立が4基受注すると報じられた。推定受注価格は1基当たり700〜800億円だという。

4基120万kWで3000億円程度である―。これは「お安い!否、安すぎないか」が私の最初の印象であった。これなら、3・11前の130万kW級大型炉のコストとさして変わらないではないか。もちろんカナダと比べて、地震大国のわが国では事情は異なろうが、それにしても安い。

早ければ2028年にも初号基が完成するという。実際にどの程度の工期で出来上がるのか、そして最終的にコストがどこまで積み上がるのか、今から非常に楽しみである。そんな中、日立製作所・原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳執行役常務に話を伺った。


カナダでの新設に関与 ビジネスの近未来を刺激

稲田氏は、紳士然としたたたずまいだった。開口一番、「まだ受注が決定した訳ではありません」。穏やかな語り口調からは、慎重ながらも確固とした自信をうかがい知ることができた。

また、1基当たりの価格の新聞報道については現時点でなんとも言えないとも。さらに、受注する本体は米国のGE日立であり、日本の日立GEは米社に常駐する社員のパイプを通じて、サプライヤーとして関与していくことになると、ここでも慎重姿勢を崩さなかった。慎重さは誠実さの証なのだろう。

なんであれ、日本の日立がこの新規の小型軽水炉建設に深く関与することには違いない。英国のホライズンプロジェクトでの苦難の経験も慮れば、実に喜ばしいことである。革新型軽水炉の新設機運のあるわが国において、〝Inspire the Next〟……原子力ビジネス界の近未来を大いに刺激することは間違いない。

GX(グリーントランスフォーメーション)に向けて、日立GEは、BWRX―300に加えて、次の3炉型を合わせた4炉型を戦略的に開発している。

①HI―ABWR(Highly Innovative ABWR)、②RBWR(Resource Renewable BWR)、③PRISM(Power Reactor In-novative Small Module)―。

「HI-ABWR」のシビアアクシデント対策

HI―ABWRは、3・11の教訓である地震・津波などの自然災害対策、シビアアクシデント対応、テロ対策などが、これまでのABWR建設の実績を踏まえて極めて合理的かつ実務的に取り入れられた大型革新軽水炉(130~150万kW級)である。

私はこれが日立GEのGX対応への「解答」であり、フラッグシップになるのだなと感じた。つまり、東芝の「iBR」、三菱の「SRZ―1200」と比肩するのがこの炉型である。私見だが、これまでの国内でのABWR建設実績に基づけば、一歩先んじているようにも思われる。

RBWRはプルトニウムを含む超ウラン元素(TRU)の燃焼を実現しようとする軽水冷却高速炉である。既存のABWRの設計をベースにし、まずは現行既設炉に適用可能な四角格子燃料で早期実現し、ゆくゆくは六角格子燃料を採用することで中性子のスペクトルを硬くし、TRUの燃焼が多数回、回せるマルチサイクルを狙うという。ABWR2基から出てくるTRUをRBWR1基で消費するのだという。

私の率直な感想は「うーん、軽水冷却高速炉でマルチサイクルかぁ」。なにか難しそうでやや眉唾ではと当初思ったが、自信に満ちた説明に耳を傾けるうちに、エンジニアリングの実態に迫っているのかもと思い始めた。実績のある軽水冷却技術でもわが国の核燃料サイクルを支えるという気概なのか。

そして、PRISMはGEの設計であり、金属燃料を用いたナトリウム冷却の小型モジュール炉である。

新型炉開発の変遷

安全面においては重力落下や熱膨張などの物理法則に根ざした固有の安全性が非常に高いとされている。そのルーツは米国で開発されたEBR―Ⅱ(1965年臨界、94年閉鎖)であり固有の安全性の高さは実証済みである。ビル・ゲイツ氏もその開発に投資している「Natrium」の原子炉はこのPRISM炉であり、その運開目標は28年だという。計画はやや遅延気味とも聞くが、いずれにしても日立GEもこの開発に関与するわけである。つまり高速増殖炉「もんじゅ」の廃止以降、国内の高速炉計画は混迷を極めているが、日立の技術と人材がPRISM/Natriumの建設現場で実力を発揮することになろう。これは極めて明るいニュースだと断言できる。

ALPS処理水を海洋放出 「科学」は「風評」に勝てるか


復興と廃炉の完遂に向け、大きな一歩を踏み出した。

東京電力は8月24日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。約7800㎥を17日間かけて放出する。東電によると、今年度は4回に分け、合計約3万1200㎥を放出する計画だ。トリチウムの総放出量は約5兆ベクレルを見込む。タンクの解体・撤去が進めば、燃料デブリや使用済み燃料の一時保管施設など、廃炉作業の進展に向けた用地の確保につながる。

岸田文雄首相は放出に先立つ20日、福島第一原発を視察した。21日には首相官邸で全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長らと面会し、翌日の関係閣僚会議で海洋放出を決定。国際原子力機関(IAEA)包括報告書などで科学的な安全性を担保し、既に各国の理解を取り付けている。中国は反対しているが、「大挙してサンマを獲りに来ている」(小野寺五典元防衛相)といい、非科学的な姿勢が一層浮き彫りとなっている。

福島第一原発で小早川智明・東京電力社長から海洋放出設備の説明を受ける岸田文雄首相(提供:時事)


国と漁業者の「軟着陸」 オールジャパンで実害抑制を

海洋放出を巡っては、2015年に国・東電と福島県漁連が結んだ「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」という「約束」との整合性が焦点となった。一部メディアでは「政府は実質的に約束をほごにした」との見方もあるが、そう単純な話ではない。

坂本会長は「約束」について、岸田首相との面会後の会見で「破られてはいないが、果たされてもいない」とし、「最後の一滴を放出するまで漁業を継続できたとき、初めて100%の理解が生まれる」との見方を示した。また面会時には「全漁連として反対の立場は変わらない」と前置きしつつも、「安全性への理解は進んでいる」と歩み寄っている。その後、面会に同席した西村康稔経済産業相が記者会見で「関係者の一定の理解を得た」と表明。軟着陸に向け、経産省と全漁連の間ですり合わせが行われたとみられる。

全漁連側の主張は「子々孫々まで、安心して漁業を継続したい」(坂本会長)というものだ。こうした要望を受け、岸田首相は面会で「たとえ今後、数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応する」と約束した。全漁連としては反対の姿勢を貫いたことで、政府から〝新たな約束〟を引き出せたともいえる。

処理水は海洋放出前に海水希釈するが、希釈後のトリチウム濃度の基準は世界保健機関(WHO)が定める飲料水基準の7分の1以下だ。また世界中の原発が同様の処理水を放出してきた。しかし、こうした「事実」を伝えることなく、消費者の不安をあおる風評「加害者」は依然として存在する。

海洋放出を受け、今後の焦点は風評被害対策の実行へと移った。既に政府は水産物の販路拡大などに約300億円、漁業の継続支援などに約500億円の基金を創設している。実際に風評被害が発生した場合は、価格下落額などを算定した上で東電が賠償する。実害を最小限に抑えるべく、オールジャパンでの努力が求められる。