A 限界費用で入札することが問題なのではなく、容量市場に先行して始まり、大手電力の自主的取り組みの名目で実質強制したことがまずい。長期での固定費回収ができないまま、再生可能エネルギーの大量導入で限界費用により取引される短期の卸市場価格の水準が低下したことで、フリーライドで参入できると勘違いした事業者を大量に呼び込んだ。
B 限界費用という言葉は、受け手にとって幅広に解釈できる余地があり、厳密に定義した上で活用するべきだった。限界費用が競争均衡されている市場価格だとすれば、それでは固定費を回収できないという言い分に対し、一部の経済学者は反発する。だけど現実問題として可変費ベースの限界費用では固定費を回収できない。自主的取り組みからガイドライン化され、それがあまりにも厳しいために大手電力関係者も思考停止してしまい、自らの商品をいくらで売るのが適正なのか考えられなくなっているのではないかと懸念している。たとえば長期卸の価格をスポット取引と同様の限界費用で費用認識してしまうなど、発電事業者としてあり得ない。
C 市場はシングルプライスオークションで、自らの売値よりも高い水準で価格が決まるからその値差で固定費は回収できるといった話を経済学者がよくしていたが、値差が固定費回収に十分な額である保証はない。そんな雑な言説がまかり通っていたのは異常だし、それを真に受けて限界費用入札の強制を始めてしまったのは、完全な失策だろう。
D ピーク電源は稼働時間が短いのでそれなりのマージンを乗せて販売するのが先進国の常識だ。ところが日本では、その担い手が大手電力系列の電源ばかりで、ピーク時でさえ限界費用での入札が求められていて、高騰しにくい卸電力市場構造の根本原因になっている。これが、電源投資が起こりにくい上に、老朽火力の退出を促す結果を招いている。
固定費回収に規制的手法 電源投資促進なるか
―容量市場、長期脱炭素電源オークションなど、固定費回収スキームは機能するか。
A こうした市場の創設は、電源投資における市場メカニズム活用の限界を示唆するものだ。短期では、限界費用か平均費用か何が正しいのか分からない市場環境で取引させているのだから、長期回収で帳尻を合わせるしかない。いびつな市場が非線形の期間構造を生むことはさまざまなハレーションを起こし得るが、次善解として受け入れるしかない。
B これまでの制度設計議論は、スポットで発見される価格によって短期的な資源配分も長期的な投資配分も最適化されることを期待しており、不足分は別途容量市場などで補うがあくまで短期を出発点とした議論。だが実際は、長期の電源がしっかりと建っていないと短期の流動性は得られない。長期的に電源のファイナンスをどう維持していくのかを考える必要があり、電源をリスクにさらさないという点において総括原価は有効な手段だった。ファイナンスという意味では、それに近しいものを検討する必要がある。
C 予備力も含めてどの程度電源が必要かは、以前から市場原理とは無関係に決められてきたわけで、自由化だからこれらを取っ払って、全て市場の需給調整に委ねるなんて政策判断はされていない。容量市場はそうした判断になじむと思う。脱炭素オークションの導入が決まったのは、30年で廃止しなければならないかもしれない電源投資のために、民間事業者がリスクを取ることがあり得ない世界になってしまったからだ。これが良いとは決して思わないが、カーボンニュートラル(CN)をどうしても目指すのなら規制的手法に頼らざるを得ない。
D 脱炭素オークションは、全てオークションで調達するという点で極めて特殊な制度だ。イギリスでは新しい技術の電源調達を行う際は、その電源の特性に合わせてオークションか政府との交渉かを決めている。日本では、水素やアンモニアを混焼させる発電は、費用の不確実性が高いことが十分に考慮されないまま全てオークションと決まってしまったので、この制度で本当に新しい技術の電源に投資が向くのか疑問だ。状況に応じて適宜、制度の見直しをしていかないとうまくいかないと思う。
カーボンニュートラルを見据えた事業構造転換が待ったなしだ
―さまざまな制度をつぎはぎで導入している印象が否めない。きちんと機能するのだろうか。
A 鵺のような市場を立ち上げ矛盾だらけの制度で苦しむくらいなら、いっそのこと総括原価方式に戻してしまえばいいのにと思うよ。その非合理性を理解できない。
B 今から総括原価に戻ることはどうやってもあり得ない。それに、今回の資源エネルギー庁の幹部人事を見ても、システム改革を押し進めてきた人たちが顔をそろえているし、間違っていたなんて認めることはないだろう。
C アンモニア発電を手掛ける事業者は限られるからオークションとはいえ価格は交渉で決まるのだろうし、事実上の総括原価とも言える。ただ昔と違うのは、財務基盤が傷んだ大手電力が投資して必要量を確保できる時代ではない。キャッシュフローがリッチな企業が喜んで投資するような枠組みにして業界外から投資を呼び込まないと。
D 最近、脱炭素オークションの範囲を既設原子力の安全投資費用に広げる議論が始まったけど、原子力を卸電力市場の中でどう位置付けるつもりなのか。これによって大手電力に追加的な要請を加えるようなことがあれば、内容によっては安全対策投資費用を回収できるという話が変わってしまう恐れもある。
B バックエンドをまわすためにも原子力のkW時が必要なのだろう。脱炭素オークションで費用回収させようとするのは、それだけ安全対策費の問題が重いテーマなのだ。
太陽光発電のCO2排出量は実はかなり多い、という論文が2023年7月4日付で無料公開された。(論文、解説記事)。イタリアの研究者 エンリコ・マリウッティ(Enrico Mariutti)によるもので、タイトルは「太陽光発電産業の汚れた秘密(The Dirty Secret of the Solar Industry)」だ。