脱炭素社会実現へ配電改革待ったなし 新たなビジネス創出にも期待


インタビュー:下村貴裕/資源エネルギー庁電力・ガス事業部 電力産業・市場室長

資源エネルギー庁は配電事業制度の改革に乗り出している。新たな事業制度の導入で、脱炭素化とレジリエンスの同時達成を目指す。

―菅義偉首相が示した2050年カーボンニュートラル達成に向けた、電力システムの課題とは。

下村 これまでも、再生可能エネルギーの大量導入、自然災害に伴う大規模停電の発生を見据えた電力供給の強靭化、AI・IoTといったデジタル技術の進展への対応などに取り組んできました。菅首相のカーボンニュートラル宣言を踏まえ、再エネを中心とした非化石電源の拡大がますます重要になるため、これらの取り組みをより一層深化、加速化させることが求められていると考えています。

―その中で現在、制度化に向け議論されているアグリゲーターや配電事業者はどのような役割を果たしますか。

下村 広域化・高度化する送電線に対し、配電網は分散化・多層化していきます。配電網には太陽光発電、蓄電池、電気自動車(EV)、電力使用量を変化させるデマンドレスポンス(DR)といった需要側の小規模なリソースの普及が拡大しています。デジタル技術を活用し、それらを束ねて適切に需給管理する役割を担うのがアグリゲーターです。再エネ主力電源化を円滑に進めていくためには、アグリゲーションビジネスの健全な発展が重要であると考えています。

 また、既に再エネが偏在するエリアでは系統に接続できないケースが出ていますが、欧州では「ローカル・フレキシビリティー・マーケット」として、地域の分散型リソースを系統の混雑管理のために運用する取り組みが始まっています。日本でも同様にデジタル技術を駆使し、これまで調整力として活用し切れていなかった分散型リソースを運用することができるようになれば、系統増強を待つことなく多くの再エネを接続できる可能性が高まります。配電ライセンスによって、こうした新たな試みに取り組みやすくなると期待しています。

配電網の独立運用 地域課題解決に活路

―配電ビジネスは、どのようなエリアで展開されますか。

下村 地域が抱える課題はそれぞれ特色がありますので、配電網を独立運用することでその課題の解決に資することが前提となるでしょう。また、一般送配電事業者の系統から見て独立運用に適した系統構成であるか否かも、判断材料になります。

―新旧の供給システムの融合をどう図っていきますか。

下村 新規参入者のノウハウを取り入れつつ、電力システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことが重要です。アグリゲーターは、工場などのDRを中心に手掛けていましたが、再エネもアグリゲートして市場への統合を進めていくことが再エネ主力電源化の鍵となります。

 こうした制度議論に合わせ、来年度は再エネのアグリゲーションビジネスやマイクログリッド構築を支援する予算を拡充し、既存のシステムの中で新しい仕組みを構築するための課題解決を図っていく予定です。ビジネスに関心のある事業者の声に耳を傾けながら、22年度の制度化に向けた議論を進めていきます。


しもむら・たかひろ 2003年東大大学院修了、経済産業省入省。電力広域的運営推進機関事務局長補佐、電力・ガス取引監視等委員会総務課などを経て18年から現職。

【中部電力 林社長】新たな価値創出に挑戦し 社会課題の解決と持続的な成長を実現する


2020年4月、事業体制を3つの会社に分社化するという大きな節目に社長に就任した。エネルギーの安定供給のみならず、社会課題の解決に資する新たな価値を提供することで、企業価値の最大化を目指す。

志賀 電力業界が大きく変わろうとしている中、2020年4月に社長に就任されました。入社された当時は、このような大変革を予想もしていなかったのではないでしょうか。

 私が中部電力に入社した当時のイメージは、電気を安定的に供給することで世の中の役に立っている会社、そして規制産業であるゆえに経営が安定している会社というもので、現在のように、電力自由化が進み、激しい市場競争を繰り広げることになろうとは想像していませんでした。また、当社は20年4月に「中部電力」「中部電力パワーグリッド」「中部電力ミライズ」の3社体制となり、約70年ぶりに会社形態が変わりましたが、これも、当時想像できなかった大きな変革です。一方で、エネルギーを常時安定的にお客さまにお届けするという役割、そしてそれが当社グループにとって一番大切なことであるという社員のマインドは、当時も今も変わることはありません。

はやし・きんご
1984年京大法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

震災が突き付けた 業界の変革の必要性

志賀 特に印象に残っているエピソードはありますか。

林 さまざまな出来事がありましたが、やはり11年の東日本大震災は大きな転機となりました。震災発生時は、長野支店の営業部長で、まだ被災状況の把握もままならない中で、配電部門の従業員を復旧応援のために被災地に送り出しました。お客さまのために、そして電力業界の仲間のために、何としても電力供給の使命を果たすという熱い想いを持って現地へ赴いてくれた彼らの姿は、今も忘れることができません。

 その後、5月に本店の企画部門に異動となり、浜岡原子力発電所が停止する中で中部電力の事業をどう再構築すべきかが議論になりました。その結果、関東地区での火力発電事業への参画や、大阪ガスとの米国のフリーポートLNGプロジェクトへの共同出資など、これまでの事業とは非連続とも言える事業展開や、営業エリアの垣根を超えた取り組みを行うことになりました。電力供給のような何があっても守り続けるべきものと、過去の価値観や発想を抜本的に変えていくという、2つの相反する考え方を強烈に心に刻んだのがあの震災でした。

「ポスト自由化」時代を考える 電力産業の向かうべき方向性


脱炭素社会の実現に向け、鍵を握るのが電源のグリーン化と「電化」の促進とされる。電力ビジネスはどう変わるのか。「ポスト自由化」時代の方向性を探った。

電力自由化がスタートして以降、発電や小売り分野に新規事業者が続々と参入し価格競争が進んだ一方で、産業の発展に寄与するような技術開発競争は停滞してしまったと評価するエネルギー業界関係者は多い。

確かに、2000年代初頭までは「電力対ガス」という業界を分けた競争の構図があり、需要側設備として電力ではIH(電磁加熱)やヒートポンプ技術、ガスではコージェネレーションや空調、涼厨などが次々と開発され、性能向上でしのぎを削ってきた。そして、両者の切磋琢磨の結果として、産業・業務・家庭用の熱利用の分野で、需要家の利便性が高まったことは紛れもない事実だ。

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ヒートポンプなどの機器が電力利用システムを進化させた

ところが、この20年間を振り返ってみると、電力のみならず、石油、ガスも含めたエネルギーの利用技術分野で大きなイノベーションは起きていない。電力小売市場には、600以上もの事業者が新規参入しているが、画期的なイノベーションがない中での価格破壊によるシェア争いという消耗戦を繰り広げており、これが産業としての疲弊を招いたと言って過言ではないだろう。

新電力幹部は、「政府は再生可能エネルギーの導入拡大を柱とするグリーン成長戦略を経済発展の起爆剤にしようとしているが、単に太陽光や風力発電を大量導入したところで、海外の企業を儲けさせるだけで国内産業が活性化するわけではない。国内のエネルギー産業の発展に向け何をするべきか、根本から議論し直さなければならない」と警鐘を鳴らす。

技術革新もたらす 脱炭素化の潮流

閉塞感が漂う一方で、世界的な脱炭素化への潮流と再エネ導入の急拡大が、さまざまなビジネスチャンスをもたらしつつあることは注目すべきことだ。

例えば、FIT賦課金が国民負担として重くのしかかる中、企業活動で消費する電力を100%生の再エネで賄いたい顧客向けに、FITに依存しないCO2フリー電気のメニューをラインアップする小売り事業者が登場し始めたことは、その光明の一つ。

さらに今後は、太陽光発電大量導入時代の系統安定化対策として、AI・IoTによる高度な需給予測、屋根置きの太陽光設備、蓄電池、EV、給湯器といった分散型エネルギーリソース(DER)を集約し最適制御することが不可欠となる。これまでの電力供給事業の概念にはなかったような技術革新や事業モデルの創出、多様化に大いに期待がかかる。

そして、この流れに拍車を掛けようとしているのが、菅義偉首相が10月26日に行った就任後初の所信表明演説で掲げた「2050年カーボンニュートラル実現」の方針だ。

この所信表明を受けた11月6日の政府の成長戦略会議の会合で示された「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略に関する論点」では、三つの項目のうち、革新的なイノベーションの推進を図る分野として、「電化+電力のグリーン化(洋上風力、次世代蓄電池技術など)」が、いの一番に挙げられている。

ここからは、脱炭素化を達成するためには、再エネ拡大、原子力やゼロエミッション火力の推進という電源側の取り組みを前提に、需要側設備の電化をより重視していくべきだとの姿勢がうかがえる。

そして、ガスと需要を分けてきた熱利用の分野の電化にお墨付きが与えられたことで、「人口減少によりエネルギー需要全体が縮小しても、電力需要は1・5~2倍に拡大する可能性がある」(新電力関係者)と、電力業界もにわかに活気付いている。

自由化は何をもたらしたのか 草創期の第一人者たちが語る電力制度改革の原点と未来


発電小売部門に競争を導入する電力自由化がスタートし四半世紀が経過した。第一人者たちが歴史を振り返るとともに、未来のあるべき姿を提言する。

【座談会】井上雅晴/V-Power顧問、岩井博行/岩井レポート・アドバイス代表、本名 均/イーレックス社長、中井修一/電気新聞元編集局長、西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

上段左から井上氏、岩井氏、本名氏
下段左から中井氏、西村氏

―まずは、電力自由化四半世紀を振り返って率直な感想をお聞かせください。

井上 自由化以前は、大手電力会社にコスト削減の概念はほとんどなかったと聞いています。それが、競争にさらされ大きく変わりました。当時、電力会社の総売り上げは15兆円ありましたが、最初の5年で年間約2兆円下がったと記憶しています。そういう意味で、5年に限っては自由化の効果があったと思います。

岩井 もっとスピード感を持って改革を進めるべきであり、新規参入者側としてそういう働き掛けをしてこなかったことは大きな反省点です。安定供給への配慮もあり、ゆっくり進めたばかりに体制づくりもゆっくりとしたものになった。それが、「間違った」と思っても後戻りできない状況をつくり出してしまいました。

本名 2000年当時、新電力といえば通信事業者やガス事業者、商社など、資本がしっかりとした大企業が中心でした。供給力をいかに確保するかも含め、大手電力会社に対し不利な競争環境であることを覚悟の上での参入だったのです。当社も自前の供給力を確保しようと、LNG火力発電事業に乗り出しましたが、リーマンショックに伴う原油高につながるタイミングと重なり大失敗に終わりました。このように、自由化後は予想し得ないことが多々起きました。東日本大震災以降は、欧米のシステム改革を追う形でさまざまな制度改革が急速に進められ、あっという間で大変な20年間でした。

中井 取材してきた側から申し上げると、電力業界、中でも東京電力の力が大きくなりすぎたことに問題意識を持った官僚の行動が全ての改革の始まりでした。政治・経済情勢や米国との関係などさまざまなことが起因し、経済産業省は新事業者を参入させる規制緩和にかじを切ったわけです。市場を開放し電気料金を下げることが狙いでしたが、本当に国民経済的に良かったと言えるのか、答えが出るにはもう少し時間がかかりそうです。

西村 新電力の草創記は原油高で、メリットオーダー上、石油が市場価格を決めていたため市場には最も高い玉しか出ませんでした。原油高騰により08年ごろは新電力にとって最も厳しい時代でしたが、それでも電力供給システムを熟知した上で事業展開してくれたおかげで、電力業界はゆっくりと体質を改善することができたのです。12年以降のシステム改革であまりに電気事業について不勉強な市場参加者が増えてしまい、安定供給が崩壊しつつある現状との落差を考えると、最初に参入された皆さんの大きな貢献があらためて思い起こされます。

新たな需要開拓や技術の確立 分離後は導管会社が担い手に


インタビュー:広瀬道明/日本ガス協会会長

大手3社の導管分離を控え、都市ガス事業は歴史的な大転換期を迎えている。業界は、この歴史的な変革にどう向き合い存続を目指そうとしているのか。

ひろせ・みちあき 1974年早大政経学部卒、東京ガス入社。
2006年執行役員企画本部総合企画部長などを経て14年社長執行役員、
18年会長。18年6月に日本ガス協会会長に就任。

――都市ガス小売り自由化の動向をどう見ていますか。

広瀬 これまで市場競争は、首都圏、東海、近畿、九州地方が中心でしたが、北海道電力が参入をしたことでこれに北海道エリアが加わり、電力と同様に全国に広がったと認識しています。

――新型コロナウイルスが事業に与える影響は無視できません。

広瀬 経済活動の自粛により、電力もガスも業務用を中心に需要が激減した上、各社とも営業活動ができずスイッチング(契約切り替え)が停滞しました。特に対面営業を強みとしてきた都市ガス会社は、営業手法に大きな課題を突き付けられることになりました。これを機に、ウェブなどによる営業手法の重要性がより強く認識され広まればと思います。

歴史的大転換をもたらす 導管分離と脱炭素化

――資源エネルギー庁において、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」が始まりました。 広瀬 都市ガス事業が始まって、再来年で150年となりますが、今、この長い歴史の中で経験したことがないような大きな転換期を迎えています。「レジリエンス(強靭化)」や「デジタル化」といったさまざまな要素がある中で、最も大きな変化の要因は、「導管分離」と「脱炭素化」だと考えています。

 「製造」から「供給」「サービス」までを一体的に運営し、ガス体エネルギーを提供するという事業を150年近く変わらず続けてきましたが、導管(供給)が分離されることになります。また、石炭・石油・LNGと原料は変わってきましたが、時代は脱炭素に向かっています。これらの課題に対し、今後どうしていくべきか、事業者自らも考えていきますが、新規参入者を含め多様な分野の方に在り方研究会に参加いただき、将来のガス産業について幅広い議論をしていただくことで、その成果を、エネルギー基本計画をはじめとした今後の政策議論に反映することができればと思います。

――導管分離はどのような変革をもたらすでしょうか。

広瀬 単に導管部門を別会社化するだけでは意味がありません。これまではガス会社の一部門でしたが、導管分離後は、独立した会社として主体性のある経営が行われるようになります。導管会社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新しい事業分野に率先して取り組んでいくことになるでしょう。

――インフラ強化やレジリエンスの確保に向けた取り組みについてはどうお考えですか。

広瀬 大規模自然災害が頻発する中で、レジリエンスの観点から送電網、導管網の拡充・広域化の必要性は高まっています。ガスでは、太平洋側と日本海側を横断するようなパイプラインの整備について、具体的に検討していくべきではないでしょうか。

システムの分散化と強靭化に活路 地方ガスの新たな役割とは


インタビュー:山内弘隆/一橋大学大学院経営管理研究科特任教授

脱炭素社会に向けた世界の潮流は、都市ガス会社も到底避けて通れない。むしろ、新時代のエネルギーシステム構築の担い手となることが期待される。

やまうち・ひろたか 1955年千葉県生まれ。慶大大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。98年から2019年まで一橋大商学部教授。現在、一橋大名誉教授、同大大学院特任教授を務める。

――「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」では、どのような議論がされるのでしょうか。

山内 脱炭素化の実現に向け、電源の非化石化を前提とした電化が進められようとしている中で、炭素エネルギーであるガスを扱う都市ガス会社が、どのようなポジションで存続していくべきかが大きな課題となっています。エネルギー転換・脱炭素化を実現するまでの過渡期のエネルギーとして、また、地域のレジリエンス強化に資するエネルギーとしてまだまだガスの役割は大きい。

 一方で、50年に向けては国の政策や社会構造の変化、水素やメタネーションといった技術革新がどのようなロードマップで実現できるかなど、不確実な面が多く、それらを踏まえながらさまざまなシナリオを考えていかなければなりません。

――在り方研の議論は、次期エネルギー基本計画の策定にどう反映されるのでしょうか。

山内 エネルギーミックス(電源構成)は、原子力や石炭政策がまず前提にあり、ガスの存在はあいまいなものになりがちです。前回までのエネ基の議論では、熱利用や水素関連技術も含め十分な議論がなされたとは言えません。ガス市場整備室としてはもっと早くに在り方研の議論を始めたかったと聞いていますが、エネ基としっかり連携させることができるギリギリのタイミングで始められたことは、良かったと思います。

――人口減によって地方ガスの経営は一層厳しいものになりそうです。ガス会社の地域社会における役割についてどうお考えですか。

山内 地方のエネルギー供給システムの分散化が進む中で、それをどう担っていくかに、一つの地方ガスの生き残りの道があるのではないでしょうか。

 大手電力会社よりも地域に密着した事業を展開していることを強みに、地方自治体によるレジリエンスや脱炭素化の取り組みに主体的にかかわり、熱利用を含めた地域分散型のエネルギー供給システムを構築する―。そのためには、自社だけでは技術や資本面で賄えない部分もあるでしょう。そこに、大手ガス会社やIoT企業など他業種とのいろいろな連携が生まれると思います。

デジタル技術を活用した 新サービス創出に期待

――デジタル技術を活用した新たなサービスモデルの創出も、経営基盤の強化に欠かせません。

山内 ほかの産業と同様、エネルギーの分野でもデジタル技術の活用は、業務効率化や新サービスの創出など次の事業展開を考える上で大きな要素となります。例えば、ガスのスマートメーター化が実現すれば、そこから得られるデータを基にした新たなサービスが生まれるでしょう。また、新型コロナウイルス禍を契機に生活様式が変わり、エネルギーの使われ方が変わる可能性があります。そうした変化に向けてどのような手を打ち出すのか、各社の取り組みに期待しています。

10代で通信機器販売会社を創業 企業が成長し続ける秘訣


【私の経営論(1)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長


よしもと・ゆきお 1944年高知県生まれ。62年11月に京都市で通信機器販売店を創業、64年8月にエフビットコミュニケーションズの前身である近畿電話を設立し代表取締役社長に就任した。2017年6月代表取締役会長を経て18年4月から現職。

通信機器販売会社として1964年に発足した当社は、インターネット接続サービス(ISP)やビジネスホテルのビデオ・オンデマンド(VOD)などの情報通信サービスなどで業容を拡大し、成長してきました。

昨今では、エネルギー小売り全面自由化に合わせて、電気と都市ガス販売にも乗り出しています。本稿では、大手資本の後ろ盾のない当社が、厳しい競争環境の中でいかに新規事業を開拓し、成長し続けてきたかについてお話していこうと思います。

私は、遠洋マグロ漁業が盛んな高知県室戸岬で生まれました。振り返ってみると、高度経済成長期だった当時は、中学校を卒業すれば「金の卵」と呼ばれ、人材が重宝された時代でした。中学校卒業後は、マグロ漁船の船長を目指し水産高等学校に入学しましたが、父親とけんかし家出する形で大阪に出ました。

創業当時のメンバー

縁があって通信事業の世界に飛び込んだのは17歳の時です。先輩が京都で会社を立ち上げるからと誘われたのですが、その先輩が行方不明になってしまい、会社を引き継いだのです。いずれ会社を起こしてやろうという野心はありましたが、そんなに早くチャンスが巡ってくるとは思っていませんでした。当初の従業員数は6人。全員年上でした。

新電力プラットフォームを拡充 手厚いサポートで販売量増に貢献


【エネルギービジネスのリーダー達】深見典弘/ダイヤモンドパワー社長

創立20周年を迎えた新電力のパイオニアであるダイヤモンドパワーの社長に就任した深見典弘氏。パートナー企業の販売電力量拡大に貢献することで、さらなる飛躍に意欲を見せる。

ふかみ・のりひろ 1988年静岡大学人文学部経済学科卒、中部電力入社。2013年10月ダイヤモンドパワー取締役事務統括、16年4月三重支店営業部長、18年4月静岡支店副支店長兼電力ネットワークカンパニー静岡支社副支社長などを経て20年4月から現職。

電力の特別高圧・高圧分野の部分自由化に伴い、2000年3月に設立された新電力のパイオニア、ダイヤモンドパワー。創業当初は三菱商事の100%子会社だったが、13年10月に中部電力が株式の8割を取得すると、大手電力会社による初の新電力ビジネス、営業区域外への進出の足掛かりとなるなど、今日に至る電力自由化を象徴する一社だ。

激変する競争環境 成長の軸にアライアンス

20周年を迎えた今年、社長に就任した中部電力出身の深見典弘氏は、13年に初めての中部電力からダイヤモンドパワーへの出向者として赴任していた一人。プロパー社員とともに新電力ビジネスに携わった経験を、「状況に応じて臨機応変に計画や目標を変えながら、ライバルと競争して成果を出すという少数精鋭の営業スタイルに大きなやりがいを感じていた」と、感慨深く振り返る。

当時、新電力の競争相手は大手電力会社であり、同社としても三菱商事と中部電力とのシナジー効果で、公共入札を中心に東京エリアにおける直接販売をいかに増やすかが戦略の要となっていた。

一方で、電源調達、需給管理におけるインバランスの抑制にも腐心した。「需要と発電の誤差が3%を超えると大きな経済損失が生じてしまう。30分同時同量をいかに達成するか、プロパー社員の技術力とモチベーションの高さが印象に残っている」(深見社長)

4月からは社長としてダイヤモンドパワーの事業に再び携わることになったわけだが、小売り全面自由化を経て、新電力側から見える電力市場は大きく様変わりしたと実感しているという。

相次ぐ新規参入による東京エリアでの競争激化、安価な卸価格により取引市場調達に頼る新電力有利となりがちな状況は、調達手段が限られる中で独自電源の確保を不可欠としていた4年前までとは大きな違いだ。

競争環境が変化する中で、同社の今後の成長戦略を描くために欠かせないのが、16年に立ち上げた託送制度の代表契約者制度を活用した新電力プラットフォーム事業。プラットフォームに参画するパートナー企業の電源調達や需給管理などを同社が請け負い、必要な電力を供給するとともに、電源価格の上昇やインバランスなどのリスクも引き受ける仕組みだ。

パートナー企業にとっては、販売活動に専念でき安定した利益を得られるとあって、現在までに北関東の都市ガス会社など約50社が参画している。目標は、これを近い将来、倍増させること。そのためには、プラットフォームに参画、または参画が見込まれるパートナー企業のニーズに耳を傾け、より有効なサービスを提供していかなければならない。

既に、新電力立ち上げ支援や、目まぐるしく変わる電気事業制度についての情報提供、さらには、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度終了に伴う太陽光余剰電力の買い取りスキームなど、電力販売量拡大を後押しするサービスに力を注いでいるが、今後はさらに一歩進んだプラットフォーム事業を展開していくための新スキームにも積極的に乗り出していく方針だ。

「ローカルグリッドや電力の地産地消の実現に向けた支援、自己所有電源を活用した需要家PPS(特定規模電気事業者)事業、VPPやデマンド・レスポンス(DR)への対応はもちろんのこと、パートナー企業の家庭用のお客さまの暮らしを豊かにするようなサービスも充実させていきたい」と深見社長。

今年開設された容量市場をはじめ、新たな制度が今後も相次いで立ち上がり、事業を取り巻く環境は今後も大きく変わっていく可能性は高い。これをいかに正確に読み適切に対応していくかが、今後ますます重要な経営課題となると見ている。

新型コロナウイルス禍の影響で、3月に予定していた20周年記念式典の開催は見送らざるを得なくなり、4月以降も思うような営業活動はできていない。既存のパートナー企業とはリモートシステムを介してやり取りできるものの、新規開拓となるとどうしても対面する必要があり難しいのが実情だ。だが、「新規開拓に向け新たなアプローチの手法を模索中だ」といい、秘策はあるようだ。

培った信頼を生かし 着実な成長を目指す

自由化当初から参入し、同時同量制御の実施など困難に直面しながらも、バランスの良い電源調達と適格な需給運用体制を実現することで顧客企業との信頼関係を築き上げてきたという社員の自負は、中部電力傘下になった今も変わっていない。

「20年かけて培ってきた信頼を生かし、足元の状況だけに捉われることなく、将来を見据えた適切な電源ポートフォリオを形成し、パートナー企業とともに着実に成長していきたい」と今後の事業拡大に意欲を示した。

電力のゲームチェンジャーなるか 通信大手3社の次の一手に迫る


百花繚乱の電力市場で、IoT技術を武器に一歩リードしはじめた通信事業者。イノベーションを促し電力ビジネスを根底から変革させる起爆剤となるか。

2000年以降、段階的に自由化が進められてきた電力小売り市場。16年4月の全面自由化以降は、600社以上の新規事業者が参入し、4年半が経過してもなお、需要争奪戦は激しさを増す一方だ。

通信業界からは、NTTを筆頭にKDDIやソフトバンクといった大手3社も参戦。早くに自由化を経験した通信業界の雄とあって、当初は、大手電力会社と双璧をなす勢力となり、電力業界に大変革をもたらすだろうとの期待はあったものの、これまでほかの新電力の戦略との目立った違いは浮き彫りにならなかった。

ところがここにきて、状況は変わりつつある。各社が自社の通信ビジネスの強みを生かした新たな手を打ち出し始め、三社三様の電力市場攻略の筋書きが垣間見え始めたのだ。通信会社が、不毛な料金競争からいち早く抜け出し、電力事業のイノベーションによる価値創造のけん引役となっていくのではないか―との期待が高まっている。

電力インフラに巨額投資 東電とスマエネ実証も

通信大手3社の中で、最も早く電力事業に参入したのはNTTグループだ。高・特高圧市場が自由化された同じ年、NTTファシリティーズと東京ガス、大阪ガスの共同出資によるエネットを設立し、電力販売とエネルギーサービス事業に乗り出した。

NTTが東電と取り組むスマートエネルギー実証のイメージ

ただ、NTT側は当時から、電力小売りビジネスの拡大にはあまり関心がなく、自社の基地局などの設備に安い電気を供給し、自社グループの電力コストを削減することが参画の最大の狙いだと言われていた。

【NTTアノードエナジー】毎年1000億円の設備投資 持続可能な街づくりに貢献


自在アセットを活用した直流給電システムの構築を打ち出したNTTグループ。電力インフラの整備に乗り出す真意を聞いた。

【インタビュー】谷口直行/NTTアノードエナジー取締役スマートエネルギー事業本部長

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―新型コロナウィルス禍を機に、通信・エネルギービジネスにどのような変化がもたらされると見ていますか。

谷口 コロナの感染拡大によって、通信・エネルギーインフラのレジリエンス対策の在り方は大きく変わると考えています。これまでは、避難者は体育館など一カ所に集まり、インフラ事業者はそこに向けて通信・エネルギーサービスを提供すれば良かった。ですが、これからは避難所の「分散化」「多様化」が求められます。レジリエンス上サポートすべき形が変わっていくということになります。

―NTTグループとして災害時のBCP対応も念頭に、自営線を通じた直流電力供給の構想を打ち出しています。その方向性にも影響があるということでしょうか。

谷口 まず、配電“網”を構築することは考えていません。われわれはNTTのアセットである通信ビルなどに設置する蓄電池を活用し、自営線敷設による直流給電を行うことでよりレジリエンス性の高いサービスなどを展開するといった構想です。その意味では大きな方向性が変わることはありませんが、さらなる分散化のニーズにどう向き合っていくかは、これからの大きなテーマになると思います。自治体が設置した避難所に対してサービスを提供するというよりも、エネルギーと通信のレジリエンスの観点で自治体が持つ災害時の避難の在り方や、地域への企業誘致などの課題に対してどのようにサービスを展開していくべきか、自治体の構想段階から関与していく必要があると考えています。

 今年から2025年まで、毎年1000億円を投入し再エネや蓄電池、直流配電による自営線を整備してオフィスや病院に電力供給していく計画ですが、再エネや蓄電池を設置するNTTの電話局に近い施設でなければ、経済性を含めて実効力がある事業とはなり得ません。レジリエンス対策と事業性が両立するような領域を見出し、全国展開していきたいと考えています。

オフィス分散化に 地方活性化のチャンス

―通信インフラ事業を手掛けているからこその取り組みですね。

谷口 このビジネスでターゲットにしているのは、大都市ではなく人口減少が加速し持続可能なエネルギーや通信インフラの維持が難しくなっている地方都市です。地方活性化策などに伴う開発段階から参画してインフラを整備していきます。外出自粛期間を通じてオフィスの分散化が可能であると分かったことは、地方に企業誘致の大きなチャンスを生みました。その際には、安心して企業活動できるための基盤を、エネルギーと通信の両面で当社が担っていきたいですね。

―通信とエネルギーはより密接な関係になりそうです。

谷口 ローカル5Gなど新技術による通信サービスの仕組みを導入していく上で、通信事業者にとってエネルギーは切っても切り離せないものになっています。通信事業者が通信サービスだけを手掛ける時代は既に終わっていて、エネルギーをセットで販売することはもちろんのこと、シェアリングエコノミーを追求しながらさまざまなサービスを提供するとともに、コストの最適化を図っていかなければなりません。

 そのためには、送配電網を管理する電力会社との協調はより重要になります。設備の共有化や情報共有を加えることで、さらに効率化を図っていくとともに強靭なインフラの仕組みを構築できると考えています。

【ソフトバンク】エネルギー分野で新たな価値創造 電力マーケットの拡大目指す


家庭向け電力販売に注力するソフトバンク。電力データを活用した新サービスでリードしようとしている。

【インタビュー】中野明彦/ソフトバンクエナジー事業推進本部本部長

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―現在の電力市場競争についてどう分析していますか。

中野 スイッチング率は伸びてはいるものの、新電力の販売量の伸びは鈍化しつつあり、踊り場に差し掛かっていると見ています。2016年の全面自由化からの言わば第一ラウンドが終了し、第二ラウンドに入ったと言っていいと思います。価格訴求で顧客を獲得するだけでは単なるパイの奪い合いであり、おのずと限界がある上、小売りのマーケット全体もシュリンクしてしまいます。事業者の創意工夫で電力ビジネスに新しい価値を付加し、マーケット自体を広げていかなければいけません。

―コロナ禍で市場価格の低迷が続き、取引所調達の小売り事業者が存在感を増しているのも事実です。

中野 一時的に安くなった市場価格をもとに、今年はお客さまを獲得できたとしても、この先の市場価格は誰にも見通せませんし、そのお客さまが来年も契約してくださるか分かりません。中長期的な視点で事業をとらえないと、電力ビジネスを継続することは難しく、最終的にはお客さまにご迷惑をおかけすることにもなりかねません。

―2020年は御社の電力ビジネスにとって大きな転機になりそうですか。

中野 他社よりも1年以上遅れて(低圧の)小売市場に参入したこともあり、まだまだ事業として発展途上な段階ではあります。ただ、ここにきてようやく新しいことに挑戦できる環境が整いつつあります。顧客基盤や収益基盤が不安定なままでは、新しいことにはなかなか取り組めませんから、最初の数年は基礎体力を付けることに注力しました。お客さまの数も順調に増やすことができ、電力の需給運用面のノウハウや電力データなどが徐々に蓄積されていることから、それらを活用した新しいサービスを検討できるようになってきました。ソフトバンクグループの強みを最大限生かし、新しい価値をエネルギー分野から創出できるかがわれわれの挑戦となります。

――御社の強みとは具体的に何でしょうか。

中野 当社の本業は、通信・インターネットサービスであり、スマートフォンを中心にさまざまなサービスを提供しています。自前の技術でアプリや関連サービスを開発できることは、これからの電力ビジネスを進める上でも大きな強みになると考えています。最新のスマートフォンサービス・コンテンツやAIによるビッグデータ分析技術を電力小売り事業に活用することで、エネルギー分野から新たな価値創造を発信していくことが当社の役割であると自任しています。

制度対応が競争力に 事業者として責務果たす

―度重なる制度変更が、新電力ビジネスにとってリスクにもなっています。

中野 新電力にとって次々にスタートする新たな制度はリスクでもありますが、逆にチャンスになり得ると考えています。制度の変化をいち早くとらえ、深く理解し、それらに対応できるかが、今後の新電力間の競争で大きな差を生むことになるでしょう。

 電力ビジネスは参入するのは比較的容易ですが、オペレーションはそう簡単にはいきません。さらにここに新しい制度がどんどん加わります。ある日突然、経営が立ち行かなくなることも起こり得ます。

 われわれはそうした新たな流れの中であっても、事業者としての責務を果たし、お客さまにご満足いただけるエネルギーサービスをお届けすることに愚直に取り組んでいきます。

【LPガス】安定供給の担い手 業界として矜持を


【業界スクランブル/省エネ】

災害対応で常に最後の砦と呼ばれるように、LPガスは災害対応に強いエネルギー供給源と言われてきた。これは、従前から日本LPガス協会や全国LPガス協会が川上から川下まで進めてきた災害への備えに加えて、50年間にわたって独自の配送システムをつくり上げてきたLPガス業界特有の優位性の視点から、まさに今般のような複合的な災害に十分に対応できる実力を持っている。

今年4月以降、電力、都市ガス、石油に伍してLPガス主要元売各社は、「指定公共機関」に指定されるなど、今後は国・自治体と業界の連携である災害時供給連携計画などでも、実践的な災害対策訓練に参画する礎石ができたといってもよい。もちろん、コロナ禍の中でLPガス供給・販売事業者のみの自助努力では解決できないさまざまな課題も存在しており、行政との連携の中で改善する余地は多分に残されていると考えている。

今後もコロナ禍の中でエネルギー供給・販売事業者としてエッセンシャルワーカーという自負を持つ必要がある。そのためには、例えば電力、都市ガス事業者と同様に感染予防や対策における医療面での優先度向上(ワクチン接種の優先度など)を要求していかなければならない。また、一次基地や二次基地の感染者増加に伴う出荷停止の場合など、円滑かつ速やかな国家備蓄や民間備蓄の運用、さらにはお客さまを含めた感染防止のためのLPガス機器類の検査・交換期限の延長など、業界は期限管理の制度を壊すのではなく要求すべきである。

さらには国、地方自治体などの規制当局に対し、紙と押印ベースによる書類申請しか受け付けないなどの仕組みを行政当局と協議の上、早急に解決していく必要がある。LPガス供給・販売事業はエッセンシャルファシリティであり、それに従事する私たちは当然エッセンシャルワーカーである点を行政当局はきちんと認識するべきであり、われわれ自身も業界に対する矜持を持つべきであろう。(D)

顧客本位のサービスを提供し 電力業界を革新する


【エネルギービジネスのリーダー達】山口浩一/クリーンエナジーコネクト社長 

企業の再エネ調達ニーズに応えるべく、環境エネルギー投資が立ち上げた新会社の社長に就任した。顧客目線のエネルギーシステムによる電力業界革新に意欲を見せる。 

やまぐち・ひろかず 東京電力で経営企画本部次長、国際部長、新成長タスクフォース事務局長などを
歴任した後、2018年に環境エネルギー投資マネージング・ディレクターに就任。20年4月にクリーンエ
ナジーコネクトを立ち上げ代表取締役社長に就任。 

エネルギー・環境分野に特化したベンチャーキャピタル(VC)である環境エネルギー投資が、企業の「RE100」達成を支援するために立ち上げたクリーンエナジーコネクト。社長に就任したのは、東京電力出身で環境エネルギー投資のマネージング・ディレクターを務める山口浩一氏だ。 

新規性の高いソリューション  自ら非FIT電源保有も 

国際的イニシアチブ「RE100」への参加を表明する企業が増え、国内でも事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達しようと模索する動きが加速しつつある。一方で、肝心の再エネ調達の選択肢は多様化・複雑化しており、専門のノウハウを持たない需要家が、自社にとって最適な再エネ調達方法を見つけることが非常に難しくなっているのが実情だ。 

既に、大手電力会社や新電力などの小売り電気事業者が、水力などの再エネを由来とするグリーン電力プランや、FIT電源にトラッキング付非化石証書を組み合わせるプランなどを提供しているものの、FITに依存しない生のグリーン電力となると供給量はまだまだ足りない。 

そこで、新規性の高いソリューションをワンストップで提供し、非FITを含む多様な再エネ調達ニーズに対応できる事業モデルを主導しようと、今年4月に設立されたのがクリーンエナジーコネクトだ。6月に環境エネルギー投資が運用する4号ファンドから全額出資を受け、本格的に事業を開始した。環境エネルギー投資が立ち上げたベンチャー企業としては4社目となる。 

山口社長は、「外資系を中心に、グローバルでRE100を目指す需要家にとっては、再エネを増やすことに貢献し、その結果として化石燃料の消費抑制につなげることが重視される。ところが、日本ではまだまだそういったニーズを踏まえた電力供給ができる事業者が少ないという声は多い。クリーンエナジーコネクトとして、最先端のニーズに対応していきたい」と意気込む。 

そのために、既存のFIT電源や顧客需要家が保有するFIT電源の活用にとどまらず、同社としても非FITの太陽光発電(PV)などに投資し、保有していく方針を掲げる。 

あわせて、そうした電源由来の電気を「自己託送」により顧客企業の自家消費用に供給するのに加え、再エネ電源と需要家が長期間の電力購入契約を直接結ぶことで環境価値を確保した上で、卸電力市場を介して電力供給する「コーポレートPPA」なども駆使していくことになる。 

大手との競争は視野に入れず  生のグリーン電力を需要家に 

現在、一般的なグリーン電力の調達手段となっているグリーン電力証書や非化石証書は、どうしても電気料金を押し上げてしまう。しかし、オンサイト自家消費や自己託送を活用すれば、kW時当たりの電力料金を現行の電気代と同等かそれ以下に抑えながら、生のグリーン電力を利用できるというメリットを需要家に提供できる。 

あえて小売り電気事業者としてのライセンスは取得しておらず、大手電力会社系や新電力などとの競争は視野に入れていない。顧客需要家が電力供給契約を結ぶ供給事業者とも良好な関係を保ちながら、最適な再エネ供給メニューづくりを促していく考えだ。 

最初の案件として、投資ファンドの出資者でもある第一生命へのアドバイザリーを開始している。第一生命は全国で所有している不動産でRE100達成を目指しており、FITPVにも投資している。まずは、こうしたPVで発電した電力とトラッキング付非化石証書を組み合わせることで、RE100達成に向けた取り組みを前進させたいという。 

東電時代は企画畑が長く、2011年の福島第一原発事故以降は、新成長タスクフォースの事務局長としてイノベーションによる同社の企業価値向上に向け取り組んできた。 

世界で再エネシフトやデジタル化が加速する中で、新しいイノベーションを生み出せなければ先はないとの思いから、社内にベンチャー投資チームを作り外部から人材を招聘。エネルギーイノベーションに向け、海外ベンチャーへの投資を積極的に行った。 

電力業界の旧弊を打ち破ろうと懸命に努めたものの、大きな組織の中では一つのことを実現するにも社内調整に追われるなど難しさを感じることも。2年前に環境エネルギー投資に移ってからは、目に見える成果が求められる大変さがある一方、真に顧客目線のサービスを提供できることにやりがいを感じているという。 

「お客さま本位のサービスを提供できなければベンチャー企業は成長しない」と語る山口社長。これからは、大手電力会社の外で顧客目線の新しいエネルギーシステムを作り上げ、電力業界に革新をもたらしたい考えだ。 

新たな収益源として期待も エフビット社がガス火力買収


エフビット社が買収に踏み切った新中袖発電所

通信系新電力のエフビットコミュニケーションズ(京都市)は8月5日、Fパワーが所有していた新中袖発電所(千葉県袖ヶ浦市、11万kW)の買収を完了した。同社が発電所を保有、運用するのは初めて。小売事業の電源として利用することで、卸電力価格のボラティリティ低減につなげるのに加え、市場メカニズムを活用しながら新たな収益機会を模索していく方針だ。 

新中袖発電所は、ガスタービンの排熱を利用して蒸気タービン発電するコンバインドサイクル方式。燃料は都市ガスで、ガスタービン発電機を2ユニット備えており、市場価格に合わせた柔軟な稼働が可能であることも買収の決め手となったという。 

卸電力価格は低水準が続いているものの、2024年度には発電設備の固定費の一部負担を小売り電気事業者に求める容量拠出金の支払いが始まる。自前の電源を持つことでこの負担軽減を図るだけではなく、需給調整市場への参加で収益を得ることも視野に入れている。 

同社は高圧向けを中心に全国で電力供給事業を展開。現在、契約電力40万kWを獲得しているが、24年には100万kWまで規模を拡大する目標を掲げている。 

【東北電力 樋󠄀口社長】地域とともに スマート社会実現へビジネスモデルを転換


人口減少や少子高齢化が加速し、社会課題が顕在化する中、この4月に社長のバトンを受け継いだ。社会の変化に対応したビジネスモデルへの転換を図り、社会の持続的発展と東北電力グループの成長の両立を目指す。 

ひぐち・こうじろう 
1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、
原子力本部副本部長、19年取締役副社長執行役員CSR担当、コンプライアンス推進担当、
原子力本部長代理を経て20年4月から現職。 

志賀 4月1日に社長へ就任されました。いつごろ、どのように打診があったのでしょうか。 

樋口 原田宏哉社長(現特別顧問)から昨年10月初めに社長就任について話があり、大変驚いたというのが正直なところです。咄嗟に「私でよろしいのですか」と問い掛けたものの、すぐに「分かりました」と返事をしたと記憶しています。経営課題が山積しており、「やるしかない」と覚悟を決めました。 

志賀 これまでの電力マン人生で、印象深かったことは何でしょうか。 

樋口 日本のコンバインドサイクル発電の先駆けとなった東新潟火力発電所3号系列の建設工事に携われたことは、とても誇りに思っています。このコンバインドサイクル発電の実用化は、後に、日本産業技術大賞を受賞しています。そして、火力部副部長として電源計画に携わっていた2011年3月に東日本大震災が発生しました。地域に未曾有のダメージを与えましたが、実家の取り壊しや、放射性物質による汚染など、個人的にも大変な状況にありました。そのような中で、震災直後の電力不足の解消のため緊急設置電源の確保に奔走しました。その後、原町火力発電所の所長として復旧工事に従事し、早期復旧を成し遂げられたことは非常に感慨深く思います。 

志賀 原町火力の復旧は、奇跡の復興とも言われましたね。  

樋󠄀口 所長として原町火力に赴任したのは東日本大震災直後の6月末のことでした。18mの津波で壊滅的な被害を受け、太平洋沿岸の火力発電所の中でも最も大きな被害を受けました。港湾内では石炭船が座礁、発電所構内では油タンクが破損し、建物はサービスビルの3階の天井まで壁をぶち抜かれました。石炭を運ぶベルトコンベアも横倒しとなり、巨大な電気集塵機も傾くなど被害は想像を絶するもので、一旦解体して新しく建設し直した方が早いとも思われるほどでした。 

原町火力の復旧は〝奇跡〟と称される

志賀 その困難と思われた復旧工事を、期間を短縮して完了しました。大変なご苦労だったのでは。 

樋󠄀口 当初、3年をかけて全面復旧を目指すことを計画したのですが、1日も早い復旧が当社を救う、そして南相馬の復興のシンボルになると考え、メーカーや工事関係者を含む「チーム原町」が一丸となって、24時間体制で工事に当たりました。その結果、当初の想定より1年早い、2年で復旧することができました。工程を短縮するため、毎日、工事関係者が集まり協議を重ねていたのですが、大手メーカーであっても社長自ら、工場や工事担当箇所に指示を出していただきました。改めて、緊急事態の際は、トップダウンによる指示が必要であり実効性があると身をもって学びました。