【エネルギービジネスのリーダー達】山本毅嗣/丸紅新電力社長
国内外の発電所建設・運営に長く携わり、電力事業者として安定供給への使命感を強く持つ。群雄が割拠する中で、環境価値、分散型供給を強化し次の成長を目指す。
昨年10月、丸紅の電力小売り子会社である丸紅新電力社長に就任した山本毅嗣氏。小売り全面自由化から4年が経過し、新電力の優勝劣敗が鮮明化しつつある中、「お客さま、販売代理店や取引先の信頼に応えながら、成長し続けられるようしっかりと取り組んでいく」と勝ち残りに意欲を見せる。
電力小売りで20年の経験 調達や運用に1日の長
丸紅新電力として電力小売り事業に乗り出したのは16年4月だが、グループとしてはそれより以前、2000年に電力小売りを手掛けるようになった。長野県伊那市にて三峰川電力を譲り受け、その電気を中部電力エリアで供給し始めたのが始まりだ。この20年間で蓄積した電力調達や需給運用などのノウハウがあり、それが丸紅新電力の強みにもなっている。
もう一つ、今後の競争力の源泉として期待しているのが、丸紅グループが保有・運営している太陽光や水力発電所など、再生可能エネルギー由来の電力を潤沢に調達できることだ。FIT電源と非化石証書を組み合わせ、CO2フリーの電気として販売することはもちろんのこと、新潟、長野両県で保有する公営水力と小売り契約を紐づけることで、グリーン電力のニーズにも応えることができる。
昨年12月には、特別高圧、高圧の需要家向けに「CO2削減メニュー」と、「再エネ電力メニュー」の提供を開始した。「再エネ由来の電力を調達したい」「CO2排出量を削減したい」という企業からの引き合いは多く、既に成約に至った案件もあるといい手応えを感じている。
背景には、ここ1年ほどで企業の再エネに対する意識が大きく変わったことがある。以前は、契約切り替えの大きな決め手はコスト削減にどこまで寄与できるかだったが、脱炭素化への機運が高まるにつれ、今では「料金が多少高くなったとしても再エネを購入したい」という企業が徐々に増えていることを実感するようになった。
そして、「丸紅グループが国内にて保有する再エネ電源は約300MW。今後も、グループとしてバイオマスや小水力、洋上風力開発にも力を入れていくことになっており、環境価値へのニーズに十分に対応できる」と、この分野での成長に自信を見せる。
一方で、新型コロナウイルス禍で課題も見えてきた。それは、グループのネットワークを活用することでBtoBの営業に強いのとは裏腹に、一般家庭向けの訴求力が弱いということだ。非常事態宣言中は、特別高圧・高圧の需要が減少したのに対し、在宅時間が増えたことで家庭の消費量は増加。いかに顧客をバランスよく持つことが重要であるかを痛感した。
家庭向け強化策の一環として、6月に関東エリアから販売を始めたのが、オール電化や屋根置き太陽光設備、EV(電気自動車)を所有する家庭向けの「ナイトおトクプラン」。地域の大手電力会社の新オール電化メニューよりも、安く夜間電力を使用できるといい、「ウエブを通じた広告展開で、一定の成果が得られることは確認しており、コロナ終息後も家庭向けの営業ツールとして最大限活用、拡販していく」方針だ。
「大きなプロジェクトを手掛けたい」と丸紅に入社した山本社長。電力事業に携わるようになって18年、主に国内外の発電所の建設・運営事業を手掛けてきた。
この間、強く印象に残っているのが12年から2年間、会長として赴任した英シージャックスでの経験だ。英東部ノーフォーク州の港町、グレート・ヤーマスを拠点とする洋上風力発電の据え付けを手掛ける会社で、「当時、ほとんどの日本企業が関心を持っていなかった洋上風力に早くから携わることができたことは、非常に良い経験になった」と振り返る。
同社は、SEP船と呼ばれる洋上風力建設に欠かせない多目的起重機船を5隻保有。このうちの1隻「ザラタン号」が、丸紅が筆頭株主である秋田洋上風力発電が、秋田・能代港沖で建設を進める洋上風力発電事業(14万kW)の据付工事に導入される予定で、来年の入港を心待ちにしている。
分散型の電力供給に注力 地域課題解決への寄与も
電力事業に長く携わってきただけに、「電力事業は社会インフラ。どんな状況下でも安定して電気をお届けするという役割は変わらない」との使命感は強い。そんな山本社長が環境価値と並んで、これから注力しようとしているのが地域に密着した分散型のエネルギー供給だ。
丸紅は、伊那市、中部電力とともに「丸紅伊那みらいでんき」を立ち上げている。ここで目指しているのは、単なるエネルギー供給ではなく、より深く地域に関わり、地域の課題解決に資するサービスを提供していくこと。
同市でのノウハウを生かし、他エリアでの展開も視野に入れており、電力小売りに止まらない、新たなビジネスの可能性を切り開こうとしている。