インタビュー:下村貴裕/資源エネルギー庁電力・ガス事業部 電力産業・市場室長
資源エネルギー庁は配電事業制度の改革に乗り出している。新たな事業制度の導入で、脱炭素化とレジリエンスの同時達成を目指す。
―菅義偉首相が示した2050年カーボンニュートラル達成に向けた、電力システムの課題とは。
下村 これまでも、再生可能エネルギーの大量導入、自然災害に伴う大規模停電の発生を見据えた電力供給の強靭化、AI・IoTといったデジタル技術の進展への対応などに取り組んできました。菅首相のカーボンニュートラル宣言を踏まえ、再エネを中心とした非化石電源の拡大がますます重要になるため、これらの取り組みをより一層深化、加速化させることが求められていると考えています。
―その中で現在、制度化に向け議論されているアグリゲーターや配電事業者はどのような役割を果たしますか。
下村 広域化・高度化する送電線に対し、配電網は分散化・多層化していきます。配電網には太陽光発電、蓄電池、電気自動車(EV)、電力使用量を変化させるデマンドレスポンス(DR)といった需要側の小規模なリソースの普及が拡大しています。デジタル技術を活用し、それらを束ねて適切に需給管理する役割を担うのがアグリゲーターです。再エネ主力電源化を円滑に進めていくためには、アグリゲーションビジネスの健全な発展が重要であると考えています。
また、既に再エネが偏在するエリアでは系統に接続できないケースが出ていますが、欧州では「ローカル・フレキシビリティー・マーケット」として、地域の分散型リソースを系統の混雑管理のために運用する取り組みが始まっています。日本でも同様にデジタル技術を駆使し、これまで調整力として活用し切れていなかった分散型リソースを運用することができるようになれば、系統増強を待つことなく多くの再エネを接続できる可能性が高まります。配電ライセンスによって、こうした新たな試みに取り組みやすくなると期待しています。
配電網の独立運用 地域課題解決に活路
―配電ビジネスは、どのようなエリアで展開されますか。
下村 地域が抱える課題はそれぞれ特色がありますので、配電網を独立運用することでその課題の解決に資することが前提となるでしょう。また、一般送配電事業者の系統から見て独立運用に適した系統構成であるか否かも、判断材料になります。
―新旧の供給システムの融合をどう図っていきますか。
下村 新規参入者のノウハウを取り入れつつ、電力システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことが重要です。アグリゲーターは、工場などのDRを中心に手掛けていましたが、再エネもアグリゲートして市場への統合を進めていくことが再エネ主力電源化の鍵となります。
こうした制度議論に合わせ、来年度は再エネのアグリゲーションビジネスやマイクログリッド構築を支援する予算を拡充し、既存のシステムの中で新しい仕組みを構築するための課題解決を図っていく予定です。ビジネスに関心のある事業者の声に耳を傾けながら、22年度の制度化に向けた議論を進めていきます。

しもむら・たかひろ 2003年東大大学院修了、経済産業省入省。電力広域的運営推進機関事務局長補佐、電力・ガス取引監視等委員会総務課などを経て18年から現職。