プロパン業界の商慣行という傘の下、消費者が実態を分からずに割高な料金を支払っているケースは多い。一部の悪質な営業実態からは、エネルギーライフラインの担い手であるとの意識の欠如が浮かび上がる。
「アパートオーナー様、プロパン供給会社を●●社に変更すれば●万円をお支払い‼」「ガス給湯器の全戸無償交換に加え、さらなるメリットを一つ選択いただけます‼」―。プロパンガスの切り替え競争が激しい地域、主に関東では、プロパン販売業者が賃貸集合住宅のオーナーなどに対し、さまざまな設備の「無償提供」をアピールするチラシを配布するなど、新旧業者による激しい顧客争奪戦が繰り広げられている。
こうしたケースでは「現在の供給会社からの残存請求分は当社が全額お支払い」などと強調。さらに「ガス料金を現状より●%安くします‼」と入居者のメリットをうたうことも多いが、それは最初の数カ月だけで、いつの間にか大幅に値上げされていることも珍しくない。またプロパン業者が継続的に供給する権利を持つため、建築業者に対し無償で配管工事を行う「無償配管」もはびこる。

戸建て住宅を巡っても、同様の「貸付配管」などが横行する。居住者がプロパン業者を切り替えようとした際、業者が設備の残存費用の支払いを求め、もめた挙句、プロパン業者が消費者を相手に訴訟に至る、といった事例だ。
電力や都市ガスと異なり、プロパン業者は公益事業規制を受けた経験がない。それゆえ先述のような商慣行が定着し、電力や都市ガスでは考えられないような悪質な営業が一部で行われているのだ。
集合住宅で苛烈な営業合戦 コロナ禍の混乱で急増も
では、具体的にどのような悪質営業が展開されているのか。特にトラブルが多い賃貸集合住宅関連を中心にいくつかのパターンを見てみよう。
資金力のある大手の間でおなじみなのが、賃貸住宅オーナーに対し、冒頭のような設備の無償提供などを持ちかける手法だ。「物件の設備維持管理費用の削減」「物件の付加価値アップで入居率向上」といった名目で、さまざまな特典を提示。給湯器や調理器の全戸無償交換、故障時の修理負担なしは当たり前で、エアコンや温水洗浄便座、ドアフォン、防犯カメラの提供、インターネットやWiFi導入費用負担など、ガスとは関係ない設備の提供も日常茶飯だ。
また、1戸につき現金数万円を支給するというストレートなアピールも。現金支給と設備無償提供を組み合わせた例も散見される。こうした競争が激しい地域ではいまだにブローカー(切り替え業者)が跋扈している。なお切り替え後の申込書の料金欄が空白になっており、都度手書きで記入することもままあるという。