【コラム/6月21日】制度設計は続くよ どこまでも

前回コラムを書いてから2か月が経ち、春から初夏の雰囲気を漂わせ始めている。依然としてコロナの話題は尽きないが、電気事業制度設計も、その歩みを止めることなく、審議が続いている。

今回も前回に続き、その後の制度設計の進捗について書いてみたい。

制度設計は電力サプライチェーン上で大きく広がる

3~5月に審議会等で取り上げられた内容を筆者独自で電力サプライチェーン上にプロットしてみた。やはり再エネや環境関連が多いものの、全般的に広がりをもって取り上げられ始めている。

少し前、昨年夏から秋頃は、再エネ、送配電、環境といった分野が多く取り上げられていたが、昨年10月の菅首相のカーボンニュートラル宣言を機に、電気事業も国のエネルギー政策にあわせて裾野が広がりつつあることが感じ取れる。

 なお、3~5月にかけてエネ庁を中心に筆者がチェックした審議会等は約120本。営業日数がだいたい60日なので1日2回開催されている計算である。これほど膨大な議論、資料を取りまとめているエネ庁の皆さんには脱帽するばかりである。

徐々に取りまとめに移行

ちょうど1年前の通常国会でエネルギー供給強靭化法(以下、強靭化法)が成立し、その後、昨年7月には梶山経産大臣から非効率石炭フェードアウトや再エネ型経済社会の創造等について検討の指示があり、エネ庁各委員会、専門会合、WG等で詳細な制度設計が進んだ。

この数か月は、今冬の市場価格高騰を受けた検証を踏まえた今後の市場設計の在り方の

検討、第6次エネルギー基本計画策定における2050年、2030年の在り方の整理、経産・環境両省でのカーボンプライシングの議論、容量市場見直し、その他強靭化法の詳細設計の整理が進みつつある。

強靭化法は来年4月に施行されるため、この夏から秋にかけて取りまとめ、政省令等の改正を行わないと間に合わず、徐々に取りまとめに向けた方向に進みつつあるのが現状である。

現時点の主な制度の進捗(2021年5月末時点)

全部を書くとかなり膨大になるので、主だったものをいくつか取り上げてみる。

①エネルギー基本計画見直し

現時点を3E+Sの観点で検証し、2050年のあり方を決め、2030年の政策にバックキャストで落とし込む方法で検討中。

2030年について、再エネ導入量と省エネ目標量の試算が行われ、現行のエネルギーミックス目標からいずれも上乗せした数値が提示された。

また、2050年については、RITEにて前提を置いたうえで複数のシナリオ分析が提示された。あくまでも前提を置いたうえでの試算であり、今後定める目標に対して、具体的にどうやって実現させるかが論点となるだろう。

②カーボンプライシング

経産・環境両省で検討がされており、「成長に資する」ための目的や方向性は固まりつつある。あとは具体的にどういった設計とするか。経産省では炭素削減価値取引市場として、非化石証書、J-クレジット、JCMを中心とした方向性を描き始めている。

③容量市場

中間整理は夏までに行われ、年内には取りまとめされる予定だが、電力業界だけでなく、様々な産業に影響するものであり、今後の動向が注視される。

25年度分の取引のための21年度入札についてエネ庁で一定の方向性を取りまとめ、広域機関で具体的な検討に着手している。

前回入札との大きな違いは、オークションの2段階実施、維持管理費用に反映する費用の明確化、支配的事業者への事前確認制導入、小売電気事業者への激変緩和措置(前回あった経過措置と逆数入札は撤廃)、非効率石炭への誘導措置、情報公開。

広域機関では需要曲線の原案が出され、NetCONE(指標価格)は9,372円/kW、目標調達量は約1.77億kWと前回と大きな差異はみられない。

今後、募集要領のパブコメ等を経て、順調に進めば、6-7月に需要曲線公表、9-10月に入札実施、12月に約定結果公表の運びとなる。

④非効率石炭火力フェードアウト

こちらは昨年7月の梶山経産大臣指示をもとに検討され、整理されている。

省エネ法上での規制的措置は、石炭火力発電に絞って目標を設定(発電効率が実績で43%)され、それに向けて計画を立てて効率化を進めるもの。

効率化のためには、バイオマス混焼や水素・アンモニア燃料の混焼、タービン改造、熱利用等が挙げられているが、それでも難しい場合は、休廃止になるだろう。

一方の誘導措置は容量市場で約定価格からの減額措置(21年度入札は20%)が導入されている。

なお、これは発電専用の石炭火力だけに適用されるわけでなく、製造業における自家発自家消費もバイオマス混焼や熱利用等の計画を中長期計画で示し、定期報告で進捗報告する必要がある。

⑤発電側課金

現在、小売電気事業者が負担している託送料金の一部を系統利用者である発電事業者にも課すという制度。基幹送電線利用ルール見直しと整合させる形で、昨年12月から再度検討を開始したが、再エネ業界団体等の意見も聞きながら制度設計を進めている。

当初、基本料金(kW)のみの課金を想定していたが、将来、市場主導型の混雑処理に移行すること等を踏まえ、基本料金と従量料金を1対1の割合で課金することなった。この方向性のもと、潮流改善に資する電源への割引制度設計、請求・回収方法について検討を進めてきたが、現時点で大きな壁となっているのが小売電気事業者への転嫁。

今回、発電側に課金すると同時に需要側の託送料金が減額となる。その分を発電事業者と小売電気事業者との間で締結している相対契約内で転嫁することを想定しているが、FIT電源、特に太陽光・風力発電の取扱いが論点となっている。

どうしても小売側に転嫁しきれない部分を誰がどう負担するか。賦課金か、それとも発電事業者か、その折衷案か。いくつかのパターンが提示されたが、結論まで出ずに、継続議論となっている。

⑥非化石価値取引市場

昨年度から非FIT非化石証書の取引が始まり、この5月に20年度の第4回目の入札を行い、20年度の取引は終了した。

これと並行して、電気の利用者(需要家)の課題やニーズを踏まえ、非化石証書制度の見直しが行われている。

見直しのポイントは3つ。1つ目はFIT証書の価格大幅低減、2つ目は需要家が直接証書を購入できる市場の構築、そして3つ目はトラッキングの大幅拡充。

そこで、大きく2つの市場に分けて検討がなされている。1つはFIT証書を取扱い、小売電気事業者だけでなく需要家も取引参加できる「再エネ価値取引市場(仮称)。もう1つが、小売電気事業者が高度化法達成のために非FIT証書を購入するための「高度化法義務達成市場(仮称)」。

両市場とも検討課題は多くあり、現在はその一つひとつを議論しているところであるが、前者は今年度後半からの試行を、後者はこの8月の入札から適用させることを考えると検討の時間はあまり多くなく、丁寧かつ迅速な議論が必要になってくる。

特に高度化法の義務がある小売電気事業者、これまで非化石証書を活用した小売メニューを提供してきた事業者からは困惑の声も聞こえてきており、手戻りが多い制度設計にならないことが求められる。

⑦エネルギー小売事業者の省エネガイドライン改定

電力・ガス小売を行う事業者には、従来、30万件以上の顧客を有する場合、電気の利用者に省エネを促す情報提供していることを公表する努力義務が課せられていた。

ただし、この情報提供の公表が家庭の省エネを促す効果があったかというと、必ずしもそうでもない。

そこで、より省エネを促進するために既存ガイドラインの改定と、情報提供状況を評価する仕組み(評価スキーム)の導入が検討されている。

省エネに資するための情報提供、その方法、リアルタイムのデータ提供やDRの促進、電源構成の開示、その他事業者の創意工夫を140点満点で評価し、ランク付けされる。これが、エネ庁の登録小売電気事業者一覧や価格比較サイトの事業者名の横にロゴと評価された星印が付けられることとなる。

実際に筆者もいくつかの事業者の公知情報から得られる情報をもとに試算してみたが、事業者によりバラツキがあった(30点もあれば80点以上もあり)。

これからは単に価格だけでなく、事業者が独自に工夫したサービスや取り組みが差別化要素になるかもしれない。家庭や中小企業の省エネ改修・設備導入への補助も検討されており、小売電気事業者・ガス事業者がハウスメーカーやリフォーム業者等と連携した取り組みが出てくることも期待される。

今後数年、まだまだやることは多い

以上、まだ書き足りないところだが、このあたりで締めることとする。

今後数年の主だった制度設計の流れを纏めてみた。ここ数年もかなり新しい制度ができ、見直しされてきたが、これからの数年もまだまだやることは多い。

こうした制度一つひとつを網羅的に理解し、それを踏まえた事業リスク管理、事業機会の創出に向けた行動を起こすことが求められてくるだろう。

【特集2】ガス検知器が高性能かつ多機能へ スマート保安でニーズ有り

理研計器

理研計器はこのほど、ガスインフラ向け新製品を2製品ラインアップした。一つはLNG成分混合ガス用新方式ポータブルガスモニター「FI-8000+GX-8000」。主にタンカーからLNGを荷揚げする際に使われている製品だ。荷揚げでは、作業終了後にアンローディングアーム内部の天然ガスをN2(窒素)ガスで置換してから、切り離し作業を行う。

その際、SIGTTO(国際ガスタンカー運航者および基地操業者協会)の測定ガイドラインで、メタンガスの濃度を2vol%以下にするよう定められている。この数値確認に、事業者は非分散型赤外線式ガス検知器、もしくは熱伝導式ガス検知器を使用してきた。

二つのセンサーと独自計算法 LNG気化ガスを正確に測定


しかし、赤外線式ガス検知器でこの濃度を計測すると、実際のガス濃度が規定濃度以下にもかかわらず、原理上メタンに対して重質成分感度が高く、実際の数値以上で表示するため、時間とパージ用のN2を浪費してしまう。また熱伝導式メタン検知器で測定すると、実際のガス濃度が規定濃度以上にもかかわらず、原理上メタンに対して重質成分感度が低いため、パージが完了されているように表示して安全性を損なう問題があった。

FI-8000+GX-8000は、天然ガスが含有成分に対するセンサー感度の変化を、センサーの組み合わせと独自の計算法で補正。難しかったLNG気化ガスの正確な測定を実現した。営業技術課の杉山浩昭課長は「荷揚げ用途以外にも、ガス濃度の計測ニーズはあるはずです。パイプラインやLNGタンクなどの用途にも拡販していきたい」と話す。

新方式ポータブルガスモニター「FI-8000+GX-8000」


もう一つは、信号変換器付きガス検知部「SD-3」シリーズ。大気中の可燃性ガス、毒性ガス、酸素を連続監視するための防爆型定置式ガス検知部で、ガス漏えいを検知し、設定した濃度値以上になると警報動作を行う。そうした基本性能に加え、石油化学工場などプラント設備の大型化・高度化に伴い、ガス検知器に対する高性能・多機能化の要求が高まっている。そこで、各国防爆検定取得に加え、ENパフォーマンス、SIL2認証(申請中)など、各種国際規格に対応させた。
また検知したガス濃度値は4~20mAのアナログ信号とデジタルHART信号に変換し出力する。さらに、オプションでModbus通信(RS-485通信)への対応も可能だ。「国が進めるスマート保安への対応もあり、ガス検知器も、濃度信号以外のさまざまな機器情報を提供することによる、信頼性向上へのニーズが高まっています。そうした動きに訴求したい」(杉山課長)
同社では、ガスインフラを支える製品を今後も積極的に展開していく方針だ。

信号変換器付きガス検知部「SD-3」シリーズ

【特集2】パイプライン敷設工事を効率化 検査時間を従来から半減

日鉄パイプライン&エンジニアリング

都市ガス導管の敷設工事では、パイプラインの溶接箇所ごとに検査を行う。同検査で主流なのは、工業用フィルムを溶接部に貼り付け、専用の現像車で現像して乾燥させ、判定作業を行う方式だ。
一方で、同じ工業用フィルムを用いていた医療用レントゲンや空港の手荷物検査の分野では、既にデジタルX線検査を導入している。デジタル化は検査の効率化や、現場管理業務の省力化など、多くのメリットをもたらす。
そうした動きに対応するため、日鉄パイプライン&エンジニアリングは溶接部検査をデジタル化した円周溶接部デジタルX線検査システム「NSDART」を実用化した。同システムは、デジタルX線検査技術「DRT」を応用。従来の検査と同等以上の品質を確保しているのはもちろんのこと、デジタル化することで、現像作業が不要となり即座に画像を確認できるほか、原画像や判定情報の保存、データの共有が容易にできる。また、インターネットを介して、遠隔地からの検査も可能。作業員を分散させ、新型コロナウイルスの感染リスク低減などにも貢献する。このほか、工業用フィルムの生産量が減少していく傾向にあり、備えにもなる。

円周溶接部デジタルX線検査システム「NSDART」


同システムの検査では、X線撮影用撮像素子であるフラットパネルディテクター(FPD)を搭載した自走式撮影装置と画像処理用PCを用いてパイプラインの円周を撮影する。このデータを、画像処理用PCと接続した判定用ディスプレーに映し判定する。
導入効果としては、①従来のフィルムX線検査で使用しているX線発生器の適用が可能、②FPDによって画像取得時間を短縮できるため、判定時間を従来の半分にできる、③自走して撮影するため、走行用レールなどの余分な治具が不要であり、作業効率が向上する―などが得挙げられる。
このほか、今回の開発で得た技術的知見は、パイプライン円周溶接部の品質管理へのDRT適用に向けたJIS規格の制定や、ガス事業法の改正にも貢献している。ガス事業法の改正によって、DRTの適用が認められ、同システムも実用化できたとのことだ。


ガス協会の技術賞を受賞 現場のデジタル化を加速


そうした取り組み全体が評価され、日本ガス協会の「21年度技術賞 ガス技術部門」を受賞した。田中進・技術本部技術統括部マネジャーは「大手ガス会社に導入していただき、好評を得ています。パイプラインの建設現場は、デジタル化する余地が残されています。この受賞を励みに開発を進めていきたい」と語っている。
ガスインフラの現場でのデジタル化がさらに加速していきそうだ。

「NSDART」で撮影する様子

【特集2】エリアを越える電力融通のために 皆の強い使命感で計画を達成

東日本大震災を教訓に、計画停電を回避すべく始動した国家プロジェクト。工期短縮で挑んだ飛騨変換所の新設工事について、当時の洞所長に聞いた。

インタビュー:洞 浩幸/中部電力パワーグリッド 岐阜支社飛騨電力センター変電課 専任課長(当時:中部電力パワーグリッド送変電技術センター飛騨直流連系工事所 所長)

―2013年に現地調査を開始して、15年に工事に着手。標高1000mを超える山岳地帯の開発面積は13万㎡になりました。

洞 私が着任したのは17年7月、平地に造成し、コンクリートの基礎工事に入るタイミングでした。ここは自然条件が大変厳しく、冬は積雪が2mを超え、気温もマイナス30℃近くにまでなる。冬場の3カ月間は工事ができないのに、10年はかかる規模のプロジェクトを2年短縮して、20年度内に完了させなければならなかった。大変な現場だと思いました。

―どのようにして工期を短縮したのですか。

洞 通常の変電所の工事は、平地に造成し、コンクリートを打って基礎ができてから建物を全て完成させます。その後構内を舗装して、電気機器の据え付け工事に入りますが、これでは間に合わない。基礎ができたところから同時に据え付け工事を行うことにしました。多くの工事が同時並行するので、さまざまな重機や資機材を運ぶ車両が狭いエリアに乗り入れる。重機の配置場所や資機材を搬入するルートを、毎日図面に落とし込み、関係者で確認しました。

―最も大変だったのは。

洞 18年9月4日の台風21号による倒木で配電線が倒れてしまい、現場に電気が来なくなってしまった時です。変圧器を組み立てている工程の時でした。精密機器なのでクリーンルームを作り変圧器のコイルが湿らないよう空調を効かせて作業をしていました。発電機を動かすも燃料が切れ、倒木で道路も通れない。途中までタンクローリーに来てもらい、2日間タンクローリーから工事現場までポリタンクで燃料を運びました。停電の復旧は近隣のお客さまが最優先なので、コイルが駄目になっても仕方がないと覚悟しました。

―コロナ対策も行いましたか。

洞 昨年の夏は100人ほど出入りしていました。所員は2班体制にし、車両も一人1台で使いました。工事の大変さは誰もが承知だが、コロナはどう感染するか分からない。みんな負担に感じたでしょうが仕事以外でも気を付けてくれて、一人の感染者も出ませんでした。

温かい明かりを届けたい 完成を支えた人たちに感謝

―台風にコロナ、大変でしたね。

洞 その後も想定外のことがありました。10月から実際に電気を流す系統連系試験を行っていた時のことです。年明け、大寒波で全国的に電力需給がひっ迫しましたよね。試験では大きな電力のやり取りが必要なのに、その電気がない。毎日のピーク使用量を見ながら、使用量が少なくなる真夜中ならできる試験を選別し、昼と夜の二交代で行った期間もありました。

―そうして運開を迎えました。

洞 完成した設備に目が行きがちですが、造成工事や基礎工事の厳しい工程に文句も言わず、休みも返上して泥だらけになって仕事をしてくれた人たちがいてこそです。3月31日19時の運用開始時は、彼らの顔がまぶたに浮かびました。所員には「自分たちだけでやった仕事じゃないんだぞ」といつも言っています。9人の所員は強い使命感でこの長い闘いを乗り越えてくれた。電気のスーパーマンだと思いました。たくさんの人と出会い、共に苦労した、本当にいい現場でした。

―これからの飛騨変換所については。

洞 3.11のような状況の中でも明かりがあれば温かい気持ちになれます。東西で融通できる電力が90万kW増え、今後は、エリアを越えて、より安定的に電気を送ることができると強く感じました。万が一トラブルが起こってもどうすれば一番早く復旧できるか、今も日々考えています。

【特集2】データサイエンティストからの指南 CO2削減に向けた利活用

データを活用した新ビジネスの創出―。多くのエネルギー会社が課題とする部分だろう。データサイエンティストの草分け的存在、河本教授に話を聞いた。

インタビュー:河本 薫/滋賀大学データサイエンス学部教授

本誌 データサイエンティスト(DS)とはどんな職業ですか。

河本 一般的に、データからビジネスや社会的価値を創造する人を指します。私は①ビジネスDS、②AIDS、③理論DS――の三つに分類して考えています。①ビジネスDSはデータの分析力でビジネス課題を解決できる人材を指します。②AIDSはAIを使って人工知能システムを作る人、③理論DSは数学を使い何らかの証明をする人を言います。私は①ビジネスDSに当てはまります。

現場と一体となって取り組む 成功への三つのステップ

本誌 ビジネスDSに求められる仕事内容とは。

河本 一般的には数学的知識やプラログラミングを駆使するイメージを持たれますが、それだけでは解決できません。ビジネスDSの仕事には「見つける」「解く」「使わせる」の三つのステップがあると考えます。「見つける」では、社内にどのような解決すべき課題があるか探したり、分析のためデータを成形しないといけません。

 「解く」は、現場の人に「押し付けられた」という感情なく、納得感を持って受け入れてもらう。そうしたものを引き出せるような解き方が問われます。

 最後の「使わせる」は、最も難しいです。今まで勘と経験で責任感を持ってやってきた担当者を否定してデータ分析のやり方に変えるには、現場と一体となって取り組まなければなりません。

 これら三つのステップを経て課題解決にたどり着きます。現場の知識とデータ分析のキャッチボールで進んでいきます。完全に分けることはできません。

本誌 エネルギー会社がデータを活用した新ビジネスの検討する上で気をつける点はありますか。

河本 「エネルギーに関するデータはお客さまにとって大切なもの。役に立つもの」と思い込んでいる点です。大半の需要家はエネルギーデータに関心がありません。スマートメーターのデータも最初の1カ月は見ますが、その後は手間や時間を使ってまで見ないのが現実です。謙虚な姿勢を持って臨むことが必要です。

本誌 需要家が関心を示すデータとは何ですか。

河本 時間やお金に関するデータです。多くの人が頻繁に時間やスケジュールを確認します。お金もどれだけ支出したか、貯金できたか、など関心が高いです。そうしたデータと肩を並べるほど、魅力あるサービスが提示できるかが、成否を分けるでしょう。

本誌 エネルギー会社のデータビジネスの現状をどう見ますか。

河本 多くの企業があるにもかかわらず、欧米のビジネスモデルを踏襲したようなサービスしか出てこないことが気になります。

本誌 柔軟な発想を持って生み出すには何が必要ですか。

河本 優れたサービスを作り出すところまで到達できると思いますが、成功するにはそれを採用する意思決定が必要です。エネルギー会社のこれまでのビジネスモデルとは異なる意思決定が求められます。そこに課題があると思います。

本誌 エネルギー関連で今後注目するデータ活用はありますか。

河本 政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、エネルギーリソースの改善だけではなく、需要家側の制御も必要になると思います。CO2を巡る規制は今後増えるでしょう。CO2関連のコストは上昇していくため、その最適化のためにデータを活用する余地は十分あると考えています。

かわもと・かおる1991年京都大学応用システム科学専攻修了、大阪ガス入社。98年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、2011年からビジネスアナリシスセンター所長。18年4月より現職。

【特集2】スマメが切り開く新ビジネス エネデータ活用に多様な可能性

東電管内で概ね設置が終わったスマートメーター。このスマメのビッグデータを始め、エネルギー分野の、あらゆるデータ利活用の行方が注目されている。

スマートメーターから取得できる30分値の電力使用量データをはじめ、エネルギーデータを活用した新サービスが盛り上がりを見せている。

スマメは電力系統の最適制御のため、スマートグリッドを構成する要素の一つとして、2014年から設置が進んでいる。24年度末をめどに全国全ての需要家に取り付けられる計画だ。これに先駆けて、東京電力管内では今年2月末時点で、約2800万台が取り付け済みとなっている。

スマメの電力使用量を計測したデータは30分単位で内蔵する通信機能によって電力会社に送られる。データは図のようにルートによって3種類のデータに分けられる。Aルートはスマメと一般送配電事業者をつなぐもの。検針値を取得したり、接続・切断など遠隔操作のために使われる。

Bルートはスマメと宅内にある家電機器を通信規格「エコーネットライト」で連携可能だ。エネルギー管理システム(EMS)によって、電力使用量や電気料金などの「見える化」、機器の制御のために利用できる。

Cルートは一般送配電事業者がAルートで得たデータを、第三者の企業が需要家にサービスを提供するためのもの。電力小売り事業者などにデータを送信し、料金計算などに使われている。

スマートメーターは通信のやり取り先で三つのルートがある

BルートやCルートのデータは、これまで分からなかった電力使用量が可視化され、需要家に有益な情報を提供する。家電機器の利用時間から推測すれば、節電に活用できる。ただ、データサイエンティストの河本薫滋賀大学教授は「エネルギーの使用量データを単に示しただけでは、継続的に一般的な需要家から関心を得るのは困難」と指摘する。

これに対し、事業者やサービス提供者は、スマメデータのほか、独自に機器を分電盤などに取り付けてデータを取得。さらに加工、成形し直すなど再構築することで、需要家が「魅力的」「有益」と感じるサービスやデータを生み出して提供する動きが加速している。

誰でもデータが一目瞭然 使いやすさで差別化

例えば、一般の需要家にとって簡単かつ分かりやすくデータ表示するスマホのアプリやインターフェースを開発している企業がある。

エナジーゲートウェイでは、スマートホーム向けに「ienowa」を展開する。宅内の分電盤に取り付けた電力センサーを介し、電気の使用量を家電機器別に、スマホアプリ上に表示することが可能。②のように、前月と比較して今月の電気代がどの程度になるかが把握できる。

Natureが販売する「Nature Remo E」ではエコーネットライト規格対応の住宅用太陽光発電や蓄電池、スマメと連携することで、電力の使用量やPVの稼働状況、蓄電池残量がアプリ確認できる。

エナジーゲートウェイの「ienowa」と、Natureの「Nature Remo E Lite」のスマホアプリ画面

またエネルギー以外のビッグデータ、通信や決済機能などスマホの利便性を組み合わせたサービスも登場してきた。ソフトバンクの子会社SBパワーは、各一般送配電事業者から取得したスマメのCルートデータを、独自のAIによる需要予測技術を活用したデマンドレスポンスサービスのトライアルを昨年夏から実施。今年は九州電力と共に取り組む。

スマホ専用アプリを通して、需要家に節電協力を案内し、節電効果に応じてポイントを付与する。ポイントはキャッシュレス決済サービス「PayPay」のPayPayボーナスと交換できる。節電に協力してもらうことで需要家に利益を還元し、モチベーションを高め、しかも需要家が簡単に参加できる仕組みを構築したのは画期的だ。

こうしたエネルギーデータを応用した新サービのス開発・普及の取り組みが、今後も増えていくことが期待される。

【特集2】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負

【TGオクトパスエナジー】

今秋、それぞれの暮らしに合わせてカスタマイズした電力料金プランが登場し、日本に本当の電力自由化がやってくる。

東京ガスは、英国エネルギー事業者のオクトパスエナジーと提携し、今年1月、合弁会社である「TGオクトパスエナジー」を設立した。

オクトパスエナジーはエネルギー業界向けに開発した統合ITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、2016年に英国の電力小売り事業に参入。バイラルマーケティングの手法で、わずか5年で約200万件の顧客を獲得した。

強みの一つは300近い料金プランだ。利用状況や使用設備などから顧客に最もメリットのあるプランをAIが診断。SNSやメールで適宜提案し、顧客はスマホやPCからプランの変更ができる。

クラーケンは既にドイツやオーストラリアなどのエネルギー事業者に導入されている。複数のシステムが一本化された統合パッケージであるため、ガスも電気も販売するエネルギー事業者にとって、運用や維持管理の面で大きなコスト削減につながる。

きめ細やかな顧客サービスも特長だ。8人チームで特定の顧客5~7万件を担当する。決まったメンバーが密着したサポートを行うため、コンシェルジュのような対応が可能だ。顧客満足度が高く、離脱抑制につながっている。

アジアで初めてクラーケンを投入するTGオクトパスエナジーは、今秋から電力販売を開始し、順次全国展開していく。実店舗は持たず、SNSなどの口コミで広めることで販管費を抑え、電気料金にも反映できる。

有沢洋平取締役部門長は、「パーソナライズ化したプランを提供し、もっと電力自由化のメリットを享受してもらいたいです。日本のエネルギー事業者ではなし得なかった、新たな顧客体験を浸透させたい。価格勝負ではない、電力小売り第二幕の始まりです」と意気込む。

英国のオクトパスエナジーは、再生可能エネルギーの普及を目指しており、供給する電気を100%再エネで調達するとともに、自らも風力発電事業に参入している。TGオクトパスエナジーも、このマインドを受け継ぐ。

日本版のクラーケンはライセンス販売も視野に入れている。日本の電力小売り事業を大きく変える“クラーケン(=海の怪物)”という黒船がやってきた。

オクトパスエナジー社創業者兼CEOのグレッグ・ジャクソン氏

【特集2】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化

【日本ユニシス】

街全体のエネルギーマネジメントを可能にするエナビリティーEMS。ビル建物から戸建て住宅まで、幅広く管理をサポートする。データを活用し、再生可能エネルギー利用の快適な暮らしを目指す。

日本ユニシスのマルチエネルギーマネジメントシステム「Enability(エナビリティー) EMS(E・EMS)」は、建物における電力・ガス・水道など多様なユーティリティーを対象に、利用状況の収集や見える化、機器の遠隔制御によるリソースの管理などを行うシステムだ。

利用状況の収集、見える化では、大規模なビルや工場から一戸建て住宅まで建物全般を計測対象としている。大規模なビルや工場では、エネルギーの見える化のほか、空調機など設備のオン・オフ制御、計測したデータを基にした、子メーターの遠隔検針(料金計算業務と連携した検針値集計)を行う。主に高圧一括受電マンション向けには、エネルギー使用状況を踏まえた「節約ポイントの付与」などのサービスも提供する。一戸建て住宅を対象とした家電製品ごとのエネルギー使用量管理も実施する。

Enability EMSの概要

将来的には、メーター計測値を活用した環境価値管理を目指している。統合的に計測値活用を行い、建物全体のみならず、入居するテナント単位での環境価値管理(RE100への対応など)を支援していく。

収集データで遠隔制御 分散リソースを有効活用する

遠隔制御サービスでは、収集したデータを活用し、発電設備や蓄電・蓄熱設備といった分散リソースを有効活用するためのエネルギーマネジメントサービスの提供を目指している。

低圧電気利用の一戸建て住宅に対しては、日々の電力使用の傾向や気象情報を基に、AIが翌日の需要と太陽光やエネファームの発電量を予測する。自家消費を最大にするため、エコキュートを昼間の時間帯に稼働させる自動制御や、蓄電池の充放電やエネファームの発電量の制御も同時に行う。

高圧電気利用の法人や自治体向けには、一戸建て住宅と同様の制御指示に加え、制御装置にデマンドコントローラーの機能を持たせて、ピークシフト・ピークカットを行う。

リソースで注目度が高いのはEV(電気自動車)のスマート充電だ。普及が進んだ後、充電時にピークが立たないよう、社用車などは翌日の利用予定を基に、充電を制御する。事業者は契約電力の上昇を回避でき、小売り事業者は調達単価の削減につながる。

今年3月から出光興産と共同で、宮崎県国富町の工場と役場にて、太陽光発電システムとEV蓄電池、車両管理システムを活用し、建物の電力需要やEVの稼働状況、卸電力市場動向などの予測値を基にした、充放電制御を最適化する実証試験を開始している。

脱炭素社会実現の鍵 E・EMSで地産地消を支援

日本ユニシスは、5年前から関西電力のコンソーシアムでエネファームやエコキュートの遠隔制御の実証試験を行っている。昨年は九州電力ともエコキュートでの実証を開始している。

実証段階から本番サービスの提供を目指し、上位からの指令による制御と自家消費などのエネルギーマネジメントのほか、レジリエンス(強靭性)向上への対応も検証する。非常用の容量確保や、自然災害などで停電が予測されるときには充電を優先することなども検討。需要家が意識することなく自然エネルギーの活用を推進しながら快適な生活を送れる世界を目指している。

また、自然エネルギーの利用最適化の実現は企業におけるCO2排出量削減へ貢献し、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与する。

公共第一事業部ビジネス二部の樋口慶マネージャーは、今後は地域で分散リソースを活用するVPP(仮想発電所)への取り組みが加速していくと予想する。E・EMSで、地域の電力を有効に使うためのエネルギーマネジメントやメーターの見える化によるエネルギー利用の支援だけではなく、地域におけるエネルギーサービスの提供を実現するためEnabilityシリーズを活用したいと意気込む。

「顧客管理や料金計算サービスの『Enability CIS』を組み合わせて、エネルギーマネジメントにおける環境価値の管理や、VPPで需要家の設備を利用する時のインセンティブ計算などをトータルで提供したい。持続可能なサービスとして、エネルギーの地産地消実現と、生活者の豊かで快適な暮らしを支援していきたいと考えています」と、再エネ主力電源化への展望を語る。

非化石証書のトラッキング事務局でもある日本ユニシス。E・EMSを核としたEnabilityシリーズで脱炭素社会の実現を目指す。

リソース(設備)の遠隔制御システムの構想

【特集2】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現

【パーパス】

1982年からLPガス事業者向けにシステムを提供するパーパス。培ったノウハウで、プラットフォームビジネスに乗り出した。データの共有化で生まれる新市場の開拓や活性化を支援する。

業界初の総合エネルギー顧客管理システム「クラウドAZタワー」(AZタワー)から13年。パーパスが新たに提供する全方位互換包括システム「AZスカイプラットフォーム」は、『クラウド(雲)』として分散接続する各種コンテンツやネットワークを連携させ、さらに高い『スカイ(天空)』から全体を俯瞰するシステムのイメージだ。システムやプラットフォーム、ツール、アプリが全方位で自在につながり、利用事業者と顧客を結ぶ『場』になることを目指している。AZタワーでLPガス事業者を中心に獲得したノウハウや知見を生かし、独自のアプリも展開する。

利用事業者はAZスカイプラットフォーム内のコンテンツを選び、自社のクラウドと連携して利用する。これまで顧客から集めた自社のデータのみで提供していたサービスを、参画する他社のデータも共有して、新しい製品やサービス、ビジネスを提供できるようになる。

補完プレイヤー(参画するシステム供給者)が増え、多様な製品を提供すれば利用する事業者が増える。利用者のニーズによってさらに多様なコンテンツが生まれ、補完プレイヤーが増えれば、プラットフォームとしての規模・機能・価値が向上する。AZスカイプラットフォームはこのエコシステムを循環させ、新市場の開拓や活性化への貢献を目指す。

垂直にも水平にも全方位でつながり、AZタワーもコンテンツとして含まれる

事業者のDXを実現する 業界を超えビジネスを支援

DXが注目される中、大規模な投資が難しい事業者などが大企業に負けないサービス展開をするためには、AZスカイプラットフォームのような基盤システムが必要だ。プロジェクトをけん引する、取締役常務執行役員の川口忠彦ITソリューション本部長は、「多くの補完プレイヤーに参加してもらい、利用事業者のビジネスを本当の意味で支援していきたい。コロナ禍での働く環境や事業環境の目まぐるしい変化に、柔軟で迅速に対応できるプラットフォームを構築していく」と目指す姿を語る。

プロジェクトリーダーの佐藤淳IoT・AI推進室理事部長は各プラットフォームの具体的なスキームや設計を手掛け、複数の業界をつなぐプラットフォームにすることを目指している。「住宅設備メーカーとしても、全製品についてITとの融合を始動させます」と意気込む。

国内では、顧客情報を扱うプラットフォームビジネスはパーパスが一番乗りだ。決済プラットフォーム、コミュニケーションプラットフォーム、AIエンジンの検証について、今夏の公開レベルを目標としている。

【特集2】簡単にガスと電気を仮復旧 学校体育館の空調維持に採用

I・T・O

災害発生時の人命救助は、72時間を境に生死を分けるといわれている。避難所や病院、福祉施設など向けに、その時間をしのぐことをコンセプトに開発されたのがI・T・Oの防災減災対応システム「BOGETS」だ。都市ガスと電気を製造するシステムで、プロパン・エアーガス発生装置「New PA」、発電機、耐震LPガススタンド、都市ガスとプロパン・エアーガスを切り替えるワンウェイロックバルブで構成されている。

寝屋川市の学校体育館に採用された「New PA」


 BOGETSを構成するシステムの核となるのがNew PAだ。同装置は元々災害対応向けではない。1990年以降に旧通産省が推進した都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画の熱変工事用ツールとして、「PA-13A」が注目された。プロパン容器を接続するだけで、ほかの動力を使わずにガスの噴射圧で簡単に空気を混合させ13A相当のガスが製造でき、移動できる点が脚光を浴びたのだ。2011年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の大阪府北部地震など、近年の大災害においてガスインフラ復旧に大きく貢献している。

誰でも簡単操作 ガス機器が利用可能に

 ただ、「PA-13A」は都市ガスとプロパン・エアーとの切り替えなどに専門性が高い操作が必要だった。東日本大震災以降、高圧ガス保安法が改正され、需要家でもガス設備を保有することが可能になった。
 そうした背景が相まって、誰でも簡単に扱えて、防災減災に資する製品として生み出されたのがNew PAだ。タッチパネル式制御盤を使い、モニターに表示される手順と音声に従って操作すれば、簡単に都市ガスを仮復旧することができる。プロパン・エアーガスを使えば、都市ガス仕様のGHPやガス調理器などが利用可能になった。
 また、LPガス発電機やマイクロガスコージェネといったガスの発電システムにより電源を確保することで、New PAの制御盤の稼働をはじめ、スマートフォンの充電や照明など、最低限必要な電化製品が使用できる。


 西村茂晴営業開発部マネージャーは「大阪府寝屋川市では学校体育館の空調に都市ガスのGHPを採用しました。これに合わせて都市ガスが途絶してもLPガスを原料に都市ガス相当のガスをつくり出すことができるBOGETSが評価され、導入に至りました。今後もそうした導入実績をつくっていきたい」と話す。
 同社では教育関連施設を中心に、ほかの用途でも需要を開拓していく構えだ。

タッチパネルで誰でも簡単に操作可能だ

【特集3】第7世代エネファームが登場 無線通信で災害対策機能を拡充

近年、全国各地で台風や豪雨など、自然災害が頻発している。ライフラインが止まり、多くの被害を及ぼしている。このうち、停電は約9割なのに対し、ガス供給停止はわずか2%程度だ。このことから、ガスを利用する家庭用燃料電池「エネファーム」が有事への備えとして有効なことが消費者に徐々に広まりつつある。

そうした中、パナソニックは災害対策機能を強化したエネファームの新製品を発表した。第7世代となる今回の製品はLPWA(低電力広域)通信機能を標準で搭載した。従来は有線LANで接続するため、ネットワーク環境が必要で工事や設定が必要だった。今回搭載の携帯電話通信網を使うため100%接続を実現し、これまでにない新サービスの拡充が可能となった。

第7世代となる「エネファーム」の新製品

具体的には、気象データを取得して自動的に最適発電を実施する「おてんき連動」機能を搭載した。ウェザーニューズが提供する「1kmメッシュ天気予報」を基に日々の運転計画を作成して発電を行う。太陽光発電を含めた家庭用エネルギー設備において、経済性を優先した運用が可能であり、例えば、晴天時の昼間は太陽光からの電気が屋内で使われているためエネファームを停止させて、夕方から稼働させる。雨や曇りの日は太陽光が発電しないのでエネファームを朝から発電させる。

さらに、ウェザーニューズが提供する「停電リスク予測API(アプリケーションプログラミングインターフェース。システム同士が相互に連携するための技術仕様)」をエネファームが受信した場合には、自動的に発電モードを切り替えて停電に備える。

このほか、通信機能は遠隔メンテナンス機能を実装、ソフトウェアの遠隔アップデート、保守点検作業の効率化などに寄与する。

今回のエネファームでは、ガスや水道が途絶えても最低限の生活が維持できることを目指した。ガスが停止して電気と水道の供給がある場合は、電気ヒーターによって、貯湯タンクが満タンならば、お風呂一杯分のお湯をつくることができる。断水時は貯湯タンクから130ℓの水を生活用水として取り出し、トイレの水洗用に約32回分の水を確保することが可能だ。

コロナ禍においても販売好調 買い替え需要をターゲットに

エネファームはコロナ禍において販売台数が伸びており、2020年度は4万台に達する見通しだ。パナソニック燃料電池企画部の浦田隆行部長は「今回の災害対策機能搭載によって、21年度の早期に累計20万台を達成したい」と意気込む。

販売する東京ガスでは、エネファームの販売開始から10年が経過し、今後拡大する見込みの買い替え需要をターゲットに販売していく構えだ。暮らしソリューション技術部の高世厚史部長は「買い替え率は95%と高水準だ。ここに停電への備えを訴求していく」と話す。

今回の通信機能搭載によって、災害対策に加え、新たな機能やサービス創出も期待できる。新たなフェーズに入ったエネファームに今後も注目だ。

【特集3】JERAと連携し拠点開設 用途拡大へ広がる戦略

レポート/ENEOS

水素エネルギー普及を牽引している水素ステーション(ST)と燃料電池車(FCV)―。2014年にFCVの商用販売・水素ST開所が始まり、水素STは1月時点で4大都市を中心に137カ所が整備された。さらに25カ所が建設中であり、国が計画する「20年度中に160カ所程度」の目標は達成する見通しだ。

一方で、カーボンニュートラルを目指す機運が世界的に高まりを見せている。日本も50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言し、その中心的な役割を担うエネルギーとして水素が期待されている。

そうした中、ENEOSと火力発電事業者の最大手であるJERAは共同で、水素の普及促進を担う新たな拠点として「東京大井水素ステーション」を昨年8月に開所した。JERAの大井火力発電所敷地内につくられたもので、JERAは敷地の提供とともに、水素の原料である都市ガスの配管などの整備を担う。一方、ENEOSは都市ガス改質型の水素製造装置を有する(オンサイト方式)商用水素STの建設のほか、運営を担当する。

物流の中心地に建設した「東京大井水素ステーション」

都市ガスはJERA、ENEOS、大阪ガスの合弁会社「扇島都市ガス供給」が供給する。敷地内には出荷設備があり、首都圏にあるENEOSの水素STにも水素を出荷している。

同STは、大井という東京の経済を支える物流の中心地に立地している。このことから、将来的には、燃料電池トラックへの水素供給拠点の役割も想定する。現在、自動車会社がコンビニ各社と小型トラックによる実証を行っているほか、22年からは物流会社と大型トラックの走行実証を開始するなど、実用化に向けて動きが加速している。FCバスもさらなる普及が期待される。現在、都内を中心に約100台が運行中。このうち、同STは14台のFCバスが水素の充塡に利用している。

自動車会社では、FCバスの年間水素消費量はFCV45台分に相当するとしている。ENEOSの塩田智夫・水素事業推進部長は「物流や公共交通の分野など、大型車による大量消費が進めば、普及に弾みがつく」と話す。また、ENEOSでは、同STをはじめとする首都圏7カ所の拠点を利用して、東京五輪・パラリンピックの開催期間中、大会車両として導入される500台のFCVへの供給も担う予定だ。

ENEOSとJERAは今回の水素STを機に、ほかの水素事業でも協力関係を模索していく。「水素の普及とコスト削減には発電や産業分野での大規模な需要創出が必要です。そのためには一社単独ではなく複数社の協業が欠かせません」(塩田部長)

石油精製や発電に水素利用 再エネ水素の海外調達も検討

大井でのプロジェクトのほかにも、ENEOSでは、将来、国内の石油精製、製鉄・発電分野で水素利活用が拡大する可能性を見据えている。これに向けては、再生可能エネルギー由来の水素を海外から大量調達・供給するビジネスを検討し、「CO2フリー水素」のサプライチェーン構築にも取り組んでいく方針だ。