【特集2】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負

【TGオクトパスエナジー】

今秋、それぞれの暮らしに合わせてカスタマイズした電力料金プランが登場し、日本に本当の電力自由化がやってくる。

東京ガスは、英国エネルギー事業者のオクトパスエナジーと提携し、今年1月、合弁会社である「TGオクトパスエナジー」を設立した。

オクトパスエナジーはエネルギー業界向けに開発した統合ITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、2016年に英国の電力小売り事業に参入。バイラルマーケティングの手法で、わずか5年で約200万件の顧客を獲得した。

強みの一つは300近い料金プランだ。利用状況や使用設備などから顧客に最もメリットのあるプランをAIが診断。SNSやメールで適宜提案し、顧客はスマホやPCからプランの変更ができる。

クラーケンは既にドイツやオーストラリアなどのエネルギー事業者に導入されている。複数のシステムが一本化された統合パッケージであるため、ガスも電気も販売するエネルギー事業者にとって、運用や維持管理の面で大きなコスト削減につながる。

きめ細やかな顧客サービスも特長だ。8人チームで特定の顧客5~7万件を担当する。決まったメンバーが密着したサポートを行うため、コンシェルジュのような対応が可能だ。顧客満足度が高く、離脱抑制につながっている。

アジアで初めてクラーケンを投入するTGオクトパスエナジーは、今秋から電力販売を開始し、順次全国展開していく。実店舗は持たず、SNSなどの口コミで広めることで販管費を抑え、電気料金にも反映できる。

有沢洋平取締役部門長は、「パーソナライズ化したプランを提供し、もっと電力自由化のメリットを享受してもらいたいです。日本のエネルギー事業者ではなし得なかった、新たな顧客体験を浸透させたい。価格勝負ではない、電力小売り第二幕の始まりです」と意気込む。

英国のオクトパスエナジーは、再生可能エネルギーの普及を目指しており、供給する電気を100%再エネで調達するとともに、自らも風力発電事業に参入している。TGオクトパスエナジーも、このマインドを受け継ぐ。

日本版のクラーケンはライセンス販売も視野に入れている。日本の電力小売り事業を大きく変える“クラーケン(=海の怪物)”という黒船がやってきた。

オクトパスエナジー社創業者兼CEOのグレッグ・ジャクソン氏

【特集2】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化

【日本ユニシス】

街全体のエネルギーマネジメントを可能にするエナビリティーEMS。ビル建物から戸建て住宅まで、幅広く管理をサポートする。データを活用し、再生可能エネルギー利用の快適な暮らしを目指す。

日本ユニシスのマルチエネルギーマネジメントシステム「Enability(エナビリティー) EMS(E・EMS)」は、建物における電力・ガス・水道など多様なユーティリティーを対象に、利用状況の収集や見える化、機器の遠隔制御によるリソースの管理などを行うシステムだ。

利用状況の収集、見える化では、大規模なビルや工場から一戸建て住宅まで建物全般を計測対象としている。大規模なビルや工場では、エネルギーの見える化のほか、空調機など設備のオン・オフ制御、計測したデータを基にした、子メーターの遠隔検針(料金計算業務と連携した検針値集計)を行う。主に高圧一括受電マンション向けには、エネルギー使用状況を踏まえた「節約ポイントの付与」などのサービスも提供する。一戸建て住宅を対象とした家電製品ごとのエネルギー使用量管理も実施する。

Enability EMSの概要

将来的には、メーター計測値を活用した環境価値管理を目指している。統合的に計測値活用を行い、建物全体のみならず、入居するテナント単位での環境価値管理(RE100への対応など)を支援していく。

収集データで遠隔制御 分散リソースを有効活用する

遠隔制御サービスでは、収集したデータを活用し、発電設備や蓄電・蓄熱設備といった分散リソースを有効活用するためのエネルギーマネジメントサービスの提供を目指している。

低圧電気利用の一戸建て住宅に対しては、日々の電力使用の傾向や気象情報を基に、AIが翌日の需要と太陽光やエネファームの発電量を予測する。自家消費を最大にするため、エコキュートを昼間の時間帯に稼働させる自動制御や、蓄電池の充放電やエネファームの発電量の制御も同時に行う。

高圧電気利用の法人や自治体向けには、一戸建て住宅と同様の制御指示に加え、制御装置にデマンドコントローラーの機能を持たせて、ピークシフト・ピークカットを行う。

リソースで注目度が高いのはEV(電気自動車)のスマート充電だ。普及が進んだ後、充電時にピークが立たないよう、社用車などは翌日の利用予定を基に、充電を制御する。事業者は契約電力の上昇を回避でき、小売り事業者は調達単価の削減につながる。

今年3月から出光興産と共同で、宮崎県国富町の工場と役場にて、太陽光発電システムとEV蓄電池、車両管理システムを活用し、建物の電力需要やEVの稼働状況、卸電力市場動向などの予測値を基にした、充放電制御を最適化する実証試験を開始している。

脱炭素社会実現の鍵 E・EMSで地産地消を支援

日本ユニシスは、5年前から関西電力のコンソーシアムでエネファームやエコキュートの遠隔制御の実証試験を行っている。昨年は九州電力ともエコキュートでの実証を開始している。

実証段階から本番サービスの提供を目指し、上位からの指令による制御と自家消費などのエネルギーマネジメントのほか、レジリエンス(強靭性)向上への対応も検証する。非常用の容量確保や、自然災害などで停電が予測されるときには充電を優先することなども検討。需要家が意識することなく自然エネルギーの活用を推進しながら快適な生活を送れる世界を目指している。

また、自然エネルギーの利用最適化の実現は企業におけるCO2排出量削減へ貢献し、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与する。

公共第一事業部ビジネス二部の樋口慶マネージャーは、今後は地域で分散リソースを活用するVPP(仮想発電所)への取り組みが加速していくと予想する。E・EMSで、地域の電力を有効に使うためのエネルギーマネジメントやメーターの見える化によるエネルギー利用の支援だけではなく、地域におけるエネルギーサービスの提供を実現するためEnabilityシリーズを活用したいと意気込む。

「顧客管理や料金計算サービスの『Enability CIS』を組み合わせて、エネルギーマネジメントにおける環境価値の管理や、VPPで需要家の設備を利用する時のインセンティブ計算などをトータルで提供したい。持続可能なサービスとして、エネルギーの地産地消実現と、生活者の豊かで快適な暮らしを支援していきたいと考えています」と、再エネ主力電源化への展望を語る。

非化石証書のトラッキング事務局でもある日本ユニシス。E・EMSを核としたEnabilityシリーズで脱炭素社会の実現を目指す。

リソース(設備)の遠隔制御システムの構想

【特集2】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現

【パーパス】

1982年からLPガス事業者向けにシステムを提供するパーパス。培ったノウハウで、プラットフォームビジネスに乗り出した。データの共有化で生まれる新市場の開拓や活性化を支援する。

業界初の総合エネルギー顧客管理システム「クラウドAZタワー」(AZタワー)から13年。パーパスが新たに提供する全方位互換包括システム「AZスカイプラットフォーム」は、『クラウド(雲)』として分散接続する各種コンテンツやネットワークを連携させ、さらに高い『スカイ(天空)』から全体を俯瞰するシステムのイメージだ。システムやプラットフォーム、ツール、アプリが全方位で自在につながり、利用事業者と顧客を結ぶ『場』になることを目指している。AZタワーでLPガス事業者を中心に獲得したノウハウや知見を生かし、独自のアプリも展開する。

利用事業者はAZスカイプラットフォーム内のコンテンツを選び、自社のクラウドと連携して利用する。これまで顧客から集めた自社のデータのみで提供していたサービスを、参画する他社のデータも共有して、新しい製品やサービス、ビジネスを提供できるようになる。

補完プレイヤー(参画するシステム供給者)が増え、多様な製品を提供すれば利用する事業者が増える。利用者のニーズによってさらに多様なコンテンツが生まれ、補完プレイヤーが増えれば、プラットフォームとしての規模・機能・価値が向上する。AZスカイプラットフォームはこのエコシステムを循環させ、新市場の開拓や活性化への貢献を目指す。

垂直にも水平にも全方位でつながり、AZタワーもコンテンツとして含まれる

事業者のDXを実現する 業界を超えビジネスを支援

DXが注目される中、大規模な投資が難しい事業者などが大企業に負けないサービス展開をするためには、AZスカイプラットフォームのような基盤システムが必要だ。プロジェクトをけん引する、取締役常務執行役員の川口忠彦ITソリューション本部長は、「多くの補完プレイヤーに参加してもらい、利用事業者のビジネスを本当の意味で支援していきたい。コロナ禍での働く環境や事業環境の目まぐるしい変化に、柔軟で迅速に対応できるプラットフォームを構築していく」と目指す姿を語る。

プロジェクトリーダーの佐藤淳IoT・AI推進室理事部長は各プラットフォームの具体的なスキームや設計を手掛け、複数の業界をつなぐプラットフォームにすることを目指している。「住宅設備メーカーとしても、全製品についてITとの融合を始動させます」と意気込む。

国内では、顧客情報を扱うプラットフォームビジネスはパーパスが一番乗りだ。決済プラットフォーム、コミュニケーションプラットフォーム、AIエンジンの検証について、今夏の公開レベルを目標としている。

【特集2】簡単にガスと電気を仮復旧 学校体育館の空調維持に採用

I・T・O

災害発生時の人命救助は、72時間を境に生死を分けるといわれている。避難所や病院、福祉施設など向けに、その時間をしのぐことをコンセプトに開発されたのがI・T・Oの防災減災対応システム「BOGETS」だ。都市ガスと電気を製造するシステムで、プロパン・エアーガス発生装置「New PA」、発電機、耐震LPガススタンド、都市ガスとプロパン・エアーガスを切り替えるワンウェイロックバルブで構成されている。

寝屋川市の学校体育館に採用された「New PA」


 BOGETSを構成するシステムの核となるのがNew PAだ。同装置は元々災害対応向けではない。1990年以降に旧通産省が推進した都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画の熱変工事用ツールとして、「PA-13A」が注目された。プロパン容器を接続するだけで、ほかの動力を使わずにガスの噴射圧で簡単に空気を混合させ13A相当のガスが製造でき、移動できる点が脚光を浴びたのだ。2011年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の大阪府北部地震など、近年の大災害においてガスインフラ復旧に大きく貢献している。

誰でも簡単操作 ガス機器が利用可能に

 ただ、「PA-13A」は都市ガスとプロパン・エアーとの切り替えなどに専門性が高い操作が必要だった。東日本大震災以降、高圧ガス保安法が改正され、需要家でもガス設備を保有することが可能になった。
 そうした背景が相まって、誰でも簡単に扱えて、防災減災に資する製品として生み出されたのがNew PAだ。タッチパネル式制御盤を使い、モニターに表示される手順と音声に従って操作すれば、簡単に都市ガスを仮復旧することができる。プロパン・エアーガスを使えば、都市ガス仕様のGHPやガス調理器などが利用可能になった。
 また、LPガス発電機やマイクロガスコージェネといったガスの発電システムにより電源を確保することで、New PAの制御盤の稼働をはじめ、スマートフォンの充電や照明など、最低限必要な電化製品が使用できる。


 西村茂晴営業開発部マネージャーは「大阪府寝屋川市では学校体育館の空調に都市ガスのGHPを採用しました。これに合わせて都市ガスが途絶してもLPガスを原料に都市ガス相当のガスをつくり出すことができるBOGETSが評価され、導入に至りました。今後もそうした導入実績をつくっていきたい」と話す。
 同社では教育関連施設を中心に、ほかの用途でも需要を開拓していく構えだ。

タッチパネルで誰でも簡単に操作可能だ

【特集3】安全に素早く正確な充塡 信頼の技術で世界トップ目指す

レポート/タツノ

昨年12月に発足した「水素バリューチェーン推進協議会」(JH2A)にタツノも名を連ねる。

エネルギー関連企業、各種メーカー、陸海運、ファイナンスなど業界を横断して88社(発足時)が参加し、社会実装プロジェクトの実現を通じて、早期に水素社会を構築することを目指す団体だ。

タツノはガソリン計量機を提供し始めて、今年で110年の老舗企業だ。新しいエネルギーの登場に合わせ、LNGやCNG(圧縮天然ガス)などの充填供給機も開発してきた。約20年前からは水素ディスペンサーにも取り組み、国内の水素ステーションでは50%を超える設置実績で水素供給インフラの構築に貢献している。

また、燃料電池車(FCV)への関心が高い北米のカリフォルニア州で、今や50%のシェアを獲得するまでの信頼を得ている。

「HYDROGEN-NX」セルフモデル

水素技術開発部の木村潔次長は「車両に入れるエネルギーが何になろうと、短時間で安全かつ正確に注入する装置をつくるというのがタツノのポリシーです」と、培った技術と信頼でFCVの普及にも貢献したいと話す。

世界随一の信頼と技術 水素社会の早期実現のために

タツノの水素ディスペンサー「HYDROGEN-NXシリーズ」は、①自社製の充塡ノズル、②世界最高レベルのコリオリ式質量流量計、③キャッシュレスのためのセルフ用POS外設機―の搭載が特長となっている。

①では、水素の特性により不具合が起こりやすい充塡ノズルを自社開発。メンテナンスの時間や費用の大幅削減を実現する。②のコリオリ式質量流量計は、質量流量精度±0・5%の高精度・低損圧の性能を発揮する。各国の防爆認証をはじめ、北米向け安全認証(ETL:Intertek)をノズルと共に日本企業として初めて取得した。③は、国内初で本体に搭載。セルフ式ガソリン計量機と同じ利便性が好評だ。

自社開発の充塡ノズル

水素は常温で液体を給油するガソリンと違って、82MPaの高圧でFCVに圧縮充塡する。ノズルは人が操作する部分なので、より高い安全性を求められる。タツノは、ノズル部分に取り付けた自社開発の赤外線通信受光部で車両のタンク情報を受信し、充塡を制御している。セルフ式の水素ステーションの普及をいち早く想定し、軽量化も図った。

昨年末、トヨタが新型ミライを発売した。タンクが3本になり容量が増えたことで、さらに短時間で充塡できる性能が求められる。

常務取締役の能登谷彰・営業本部長は、社会全体で水素の流通が増えて、その一部が車両用になるのがベストだと言い、「今後は大型車用のディスペンサーの需要も高まります。最終的に、液化水素を液体のまま充塡できれば、効率が上がりコストダウンにもつながるでしょう」と、新たな技術開発も視野に入れる。

「社会貢献の一つとして、全社を挙げて水素ビジネスを展開していきたい」と、水素社会の早期実現のために、JH2Aで積極的に取り組むとしている。

【特集3】国内外の脱炭素化で脚光 異業種連携と利用拡大が加速

日本や海外で脱炭素化への動きが加速するにつれ、水素が脚光を浴び始めた。昨今の情勢の後押しにより、異業種連携や利用分野の拡大が着々と進んでいる。

昨年12月、水素社会の実現に向け、新たなコンソーシアム「水素バリューチェーン推進協議会」が誕生した。同協議会の目的は、サプライチェーン全体における社会実装プロジェクトを実現し、早期の水素社会構築を目指すこと。岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、東芝など9社が理事会員を務め、参画企業は88社(2020年12月現在)に上る。

異業種が連携して水素社会の実現を目指す

今後、水素社会構築を加速するため、①水素の需要創出、②技術革新によるコスト削減、③事業者に対する資金供給―の3点の課題に取り組む。ワーキンググループを作り、社会実装プロジェクトの提案・調整やファンド創設、規制緩和などの政策提言を行っていく方針だ。

同協議会の参画企業の業種は、電力、ガス、石油などのエネルギーをはじめ、自動車や運輸、商社、電機メーカー、プラントメーカー、金融―と実に多彩だ。このように、水素は、製造、輸送、貯蔵に始まり、需要側への供給や利用に至るまで、多岐にわたる分野の技術と知見が必要になる。同様に、水素関連のプロジェクトや取り組みでは、ほかにも企業間連携による事例がいくつか挙げられる。

技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構「HySTRA(ハイストラ)」、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合「AHEAD(アヘッド)」はそれぞれ、海外産の水素を日本に輸送するサプライチェーン構築に向けた実証試験を行っている。また、FCV(燃料電池車)の普及に向け、日本水素ステーションネットワーク合同会社「JHyM(ジェイハイム)」は水素ステーションの整備を進めている。昨年11月時点で全国162カ所の採択数となり、経産省が目標とする「20年度までに160カ所程度」を達成した。

脱炭素の機運高まる 電力分野での利用も

日本の水素政策のベースとなっているのが、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(14年策定)だ。16年に改訂された際には、フェーズ1「水素利用の飛躍的拡大(燃料電池の社会への本格的実装)」、フェーズ2「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」、フェーズ3「トータルでのCO2フリー水素供給システムの確立」とする三段階での方向性が示された。中でも、フェーズ1では、燃料電池の目標価格、燃料電池の普及台数や水素ステーションの設置箇所の数値目標が示された。さらに19年の改定では、基盤技術のスペックやコスト内訳の目標として、水素製造コストや水素液化効率などの数値が設定された。

ロードマップの最初の改定時にはフェーズ1に重きを置いた政策だったが、現在はフェーズ2やフェーズ3、また電力分野での利用に重点が置かれるようになってきた。三菱パワーは発電所のゼロエミッション化に向け、水素専焼ガスタービンに向けた開発を進めるとともに、既設のLNGだき発電設備の改造を最小限にすることで投資コストを抑えた水素転換を目指している。また独シーメンス・エナジーは、30年までにガスタービン全機種を水素専焼に対応する目標を掲げる。

脱炭素への機運の高まりも、水素利用の拡大を後押しする。菅政権のカーボンニュートラル宣言を受けて策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、キーテクノロジーとして盛り込まれ、水素発電コストをガス火力以下に低減する目標などが示された。

さらに水素の製造プロセスに着目し、よりCO2排出量の少ない方法を目指す動きも出ている。その種別は色分けで分類される。グレー水素は、化石燃料を改質して生成される水素で副生物としてCO2が発生する。ブルー水素は化石燃料から水素を生成するが、CCS(CO2回収・貯留)によって実質的にCO2排出量を削減する。グリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して水素を生成することで、CO2フリーとなる。

製造・輸送コストが課題 アンモニアの利用に注目

課題となるのがコストだ。アクセンチュアのビジネスコンサルティング本部の岩上昌夫マネジング・ディレクターによると、「CO2フリーの点ではグリーン水素が理想的だが、グレー水素に比べて約4倍の製造コストがかかり(図参照)、早期の商用化は難しい」という。このため、当面は天然ガス蒸気改質、もしくは石炭ガス化にCCSを組み合わせたブルー水素が現実的とされる。ただ、「CCSで貯留したCO2は長期的には漏洩していくこと、また化石燃料が有限であることから、貯留はあくまで、つなぎの技術と考えるべきである」(岩上マネジング・ディレクター)という。

図 製造方法別水素製造コスト
IEA, U.S. DOE, Fraunhofer, Eurostat, Irena, Hydrogen Council のデータからアクセンチュアが作成

また、サプライチェーンにおけるコストアップも要因として挙げられる。水素の沸点はマイナス253℃と低く、極低温の液化設備や専用の輸送船が必要となり、水素コストが高くなってしまう。

そこで、水素エネルギーキャリアとして注目されているのがアンモニアだ。アンモニアは8・6気圧、20℃で液化するため、水素よりも液化時のエネルギー損失が少なく、輸送船も水素に比べて安価に製造することができる。この特性を利用して、アンモニアを海外で製造し、日本に輸送した後、必要な場所で水素を取り出して利用することが可能だ。

これまで幾度かのブームがありながら、エネファームやMIRAIといった市販化された商品はあるものの、水素社会の実現にはまだ至っていない。国内、海外を含めた脱炭素化という大きな潮流の中、水素の果たす役割はこれまでになく重要なものになっている。

【特集3】第7世代エネファームが登場 無線通信で災害対策機能を拡充

近年、全国各地で台風や豪雨など、自然災害が頻発している。ライフラインが止まり、多くの被害を及ぼしている。このうち、停電は約9割なのに対し、ガス供給停止はわずか2%程度だ。このことから、ガスを利用する家庭用燃料電池「エネファーム」が有事への備えとして有効なことが消費者に徐々に広まりつつある。

そうした中、パナソニックは災害対策機能を強化したエネファームの新製品を発表した。第7世代となる今回の製品はLPWA(低電力広域)通信機能を標準で搭載した。従来は有線LANで接続するため、ネットワーク環境が必要で工事や設定が必要だった。今回搭載の携帯電話通信網を使うため100%接続を実現し、これまでにない新サービスの拡充が可能となった。

第7世代となる「エネファーム」の新製品

具体的には、気象データを取得して自動的に最適発電を実施する「おてんき連動」機能を搭載した。ウェザーニューズが提供する「1kmメッシュ天気予報」を基に日々の運転計画を作成して発電を行う。太陽光発電を含めた家庭用エネルギー設備において、経済性を優先した運用が可能であり、例えば、晴天時の昼間は太陽光からの電気が屋内で使われているためエネファームを停止させて、夕方から稼働させる。雨や曇りの日は太陽光が発電しないのでエネファームを朝から発電させる。

さらに、ウェザーニューズが提供する「停電リスク予測API(アプリケーションプログラミングインターフェース。システム同士が相互に連携するための技術仕様)」をエネファームが受信した場合には、自動的に発電モードを切り替えて停電に備える。

このほか、通信機能は遠隔メンテナンス機能を実装、ソフトウェアの遠隔アップデート、保守点検作業の効率化などに寄与する。

今回のエネファームでは、ガスや水道が途絶えても最低限の生活が維持できることを目指した。ガスが停止して電気と水道の供給がある場合は、電気ヒーターによって、貯湯タンクが満タンならば、お風呂一杯分のお湯をつくることができる。断水時は貯湯タンクから130ℓの水を生活用水として取り出し、トイレの水洗用に約32回分の水を確保することが可能だ。

コロナ禍においても販売好調 買い替え需要をターゲットに

エネファームはコロナ禍において販売台数が伸びており、2020年度は4万台に達する見通しだ。パナソニック燃料電池企画部の浦田隆行部長は「今回の災害対策機能搭載によって、21年度の早期に累計20万台を達成したい」と意気込む。

販売する東京ガスでは、エネファームの販売開始から10年が経過し、今後拡大する見込みの買い替え需要をターゲットに販売していく構えだ。暮らしソリューション技術部の高世厚史部長は「買い替え率は95%と高水準だ。ここに停電への備えを訴求していく」と話す。

今回の通信機能搭載によって、災害対策に加え、新たな機能やサービス創出も期待できる。新たなフェーズに入ったエネファームに今後も注目だ。

【特集3】JERAと連携し拠点開設 用途拡大へ広がる戦略

レポート/ENEOS

水素エネルギー普及を牽引している水素ステーション(ST)と燃料電池車(FCV)―。2014年にFCVの商用販売・水素ST開所が始まり、水素STは1月時点で4大都市を中心に137カ所が整備された。さらに25カ所が建設中であり、国が計画する「20年度中に160カ所程度」の目標は達成する見通しだ。

一方で、カーボンニュートラルを目指す機運が世界的に高まりを見せている。日本も50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言し、その中心的な役割を担うエネルギーとして水素が期待されている。

そうした中、ENEOSと火力発電事業者の最大手であるJERAは共同で、水素の普及促進を担う新たな拠点として「東京大井水素ステーション」を昨年8月に開所した。JERAの大井火力発電所敷地内につくられたもので、JERAは敷地の提供とともに、水素の原料である都市ガスの配管などの整備を担う。一方、ENEOSは都市ガス改質型の水素製造装置を有する(オンサイト方式)商用水素STの建設のほか、運営を担当する。

物流の中心地に建設した「東京大井水素ステーション」

都市ガスはJERA、ENEOS、大阪ガスの合弁会社「扇島都市ガス供給」が供給する。敷地内には出荷設備があり、首都圏にあるENEOSの水素STにも水素を出荷している。

同STは、大井という東京の経済を支える物流の中心地に立地している。このことから、将来的には、燃料電池トラックへの水素供給拠点の役割も想定する。現在、自動車会社がコンビニ各社と小型トラックによる実証を行っているほか、22年からは物流会社と大型トラックの走行実証を開始するなど、実用化に向けて動きが加速している。FCバスもさらなる普及が期待される。現在、都内を中心に約100台が運行中。このうち、同STは14台のFCバスが水素の充塡に利用している。

自動車会社では、FCバスの年間水素消費量はFCV45台分に相当するとしている。ENEOSの塩田智夫・水素事業推進部長は「物流や公共交通の分野など、大型車による大量消費が進めば、普及に弾みがつく」と話す。また、ENEOSでは、同STをはじめとする首都圏7カ所の拠点を利用して、東京五輪・パラリンピックの開催期間中、大会車両として導入される500台のFCVへの供給も担う予定だ。

ENEOSとJERAは今回の水素STを機に、ほかの水素事業でも協力関係を模索していく。「水素の普及とコスト削減には発電や産業分野での大規模な需要創出が必要です。そのためには一社単独ではなく複数社の協業が欠かせません」(塩田部長)

石油精製や発電に水素利用 再エネ水素の海外調達も検討

大井でのプロジェクトのほかにも、ENEOSでは、将来、国内の石油精製、製鉄・発電分野で水素利活用が拡大する可能性を見据えている。これに向けては、再生可能エネルギー由来の水素を海外から大量調達・供給するビジネスを検討し、「CO2フリー水素」のサプライチェーン構築にも取り組んでいく方針だ。

【特集3】新たな技術開発を推進 未利用資源の活用にも期待

レポート/三菱化工機

三菱化工機は、水素の供給コストの低減とともに、廃熱やCO2といった未利用資源の有効活用につながる新技術の開発を進めている。一つが吸蔵合金を用いた水素圧縮機だ。従来、水素の昇圧には電動式のコンプレッサーなどの機械式圧縮機を使用する際、多くの電力コストがかかっていた。

一方、吸蔵合金は、室温程度で水素を吸い込み、加熱すると水素放出圧を増加させる特徴を持っている。この仕組みを利用することで、従来型機器に比べ、昇圧時に機械的な駆動部分が不要となりメンテナンスコストの低減が期待される。

また、水素を昇圧する際の加熱温度が室温から約250℃と比較的低いこともメリットだ。企画本部研究開発部の山崎明良部長によると「工場などから出る廃熱の中でも、これまで使われなかった低い温度帯の廃熱を活用できる」という。加熱源に廃熱などが利用できれば電力コストも低減できる。

同社は那須電機鉄工やダイテック(愛媛県西条市)、広島大学、四国産業・技術振興センターなどと共同で、50サイクルの試験運転を実施した。水素・エネルギープロジェクト部水素・エネルギープロジェクト課の瓶子裕之課長は「吸蔵合金の水素吸蔵と吐出にかかる温度領域やサイクル時間などの最適化を図りました」と説明する。実証の結果、昇圧時の温度、圧力値や吐出時の安定した流量などの目標値を達成。今後は、さらなる耐久性の向上やスケールアップなどを検討し、22年度中の商用化を予定している。

吸蔵合金水素圧縮機の実証機 (写真提供:水素エネルギー製品研究試験センター)

同機は1MPa未満の低圧水素を19・6MPaまで昇圧できる。また、1時間当たり1N㎥の吐出能力を持っている。オフサイト型水素ステーションなどに水素を輸送する際に使用するシリンダーやカードルへの充塡などへの活用が期待される。

バイオマス技術を実証 CO2の有効活用に

一方、もう一つの技術開発としては、昨年、川崎製作所構内に微細藻類バイオマス生産の実証装置を設置し、11月から実証試験を行っている。この試験で使用する「フォトバイオリアクター」は、ガラス管の中で微細藻類を培養する装置だ。都市部のビルや工場への設置が可能。閉鎖空間での培養により不純物が混入しにくく、サプリメントや化粧品といった高付加価値商品向け原料の生産ができる。また、大型台風や地震に備え、飛来物対策や免振構造を採用したオリジナルフレームを考案した。 この実証試験の次なるステップとして、大気に排出されて未利用だったCO2を活用した「カーボンリサイクル技術」の開発に取り組む。バイオマス生産の実証装置は、同社川崎製作所構内の実証用水素ステーションの横に設置されており、ステーションにある小型水素製造装置「HyGeia-A(ハイジェイア-エー)」が都市ガスから水素を製造する際に排出するCO2の一部を直接投入して微細藻類の培養に利用する。今年2月末から実証試験を開始する。

川崎製作所内に設置された都市型フォトバイオリアクター

【コラム/2月10日】いままさに転換期にある電気事業を考える

加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

新型コロナウィルスに始まり新型コロナウィルスで終わった感が強い2020年から21年に移り、早や1カ月――。

電力事業は年末からの需要ひっ迫に端を発した卸電力取引市場価格高騰、新電力を中心とした小売り電気事業者の窮状、市場連動型メニューを選択した消費者の電気料金高騰、国による措置の話題がこの1カ月の大半を占めたと言っても過言ではない。

まずは1月の危機的な状況に対応した電気事業者全てに感謝したい。筆者も契約している小売り電気事業者がほぼ毎日、通知してきた家庭用デマンドレスポンスに参加し、本当に微力ながら節電に協力させていただいた。

現時点ではLNG船も順次、入港しており、また卸電力取引市場価格も落ち着きをみせているが、まだ冬は終わっていないことから、予断は許さない状況であることに変わりない。この話題はエネルギーフォーラム本誌を含め色々な場でも議論されているので、そちらに譲ることとしたい。

さて、こうして危機的な状況が話題をさらった1か月であったが、電気事業制度を検討・審議する国の審議会などは粛々と開催されている。

もちろん、今回の需給逼迫と市場価格高騰に関する議題もいくつか取り上げられているが、大半は今後の電気事業に関する議題が占めている。

筆者も仕事柄、審議会を追っているが、この1月に電気事業に関連がある審議会などでチェックした会議数は23件。1月は年始の休みがあってスタートが遅いこともあるので、平均1日に約1件は開催されている状況である。電力広域的運営推進機関が開催する研究会などはこれに含まれていないので、それを含めると更に増えることとなる。

議論されている分野を「電力事業のサプライチェーン+その他関連キーワード」別に筆者独自に整理してみたが、多く取り上げられているのは再エネや環境関連となり、これは50年カーボンニュートラル実現や再エネ主力電源化等の流れを大きく受けていると考えられる。

また、昨年6月に成立・公布されたエネルギー供給強靭化法の詳細設計も昨年夏以降に検討されており、多くの制度が施行される22年4月に向けた準備も進みつつある。

例えば、託送料金制度におけるレベニューキャップ制の導入では、今夏の省令改正などを目指し、電取委の料金制度専門会合の下部にワーキンググループが設置され、専門的な議論に入っている。その他、FIP制度の規模の目安や地域活用電源の要件の整理、配電事業や特定卸供給制度(アグリゲーター)における保安の在り方などの議論も進んでいる。

2021年1月に開催された審議会等の状況

今後数年間で予定されている電気事業制度を記してみた。これでも一部を記したものであるが、特徴としては、多くの制度がこの2~3年で同時並行的に進展していくことである。

この全体像を把握し、一つひとつの制度が自社にとってどういったリスクがあるのか、また、逆にどういった事業機会があるのかを見極めながら事業運営を日々行っていくことが求められる。某経営者は「脳に汗をかくまで考える」と言っているが、まずは基本を押さえ、そして考え抜き、行動に移すことが必要であろう。

もちろん、制度は完ぺきではないので、事業者や団体は必要な意見を国に主張していき、国の方でも事業者や団体からの意見に耳を傾けて制度設計や見直しを図っていただく体制ができることが望まれる。

現に、最近の審議会では、例えば、発電側基本料金の議論では、再エネ関連の各団体によるヒアリングを行っており、こうした流れを少しずつ形作っていけるとよいだろう。

主な制度・施策のスケジュール

最後に、今年で東日本大震災から10年が経つ。あの震災を契機に日本の電力事業が大きく変わった。

再エネ導入拡大を求めFIT制度ができ、世界的に低炭素から脱炭素へ舵を切り始め、パリ協定の締結、日本でも第5次エネルギー基本計画で再エネ主力電源化やCO2削減を言及してきた。また、電力システム改革として3段階の施策を実行するなど、矢継ぎ早に制度を進めてきた。一方で、北海道胆振東部地震でのブラックアウトや台風による大規模かつ長時間の停電など災害の激甚化によりレジリエンスの強化といった言葉が強調されるようになった。

こうした中で、エネルギー供給強靭化法の成立や50年カーボンニュートラル宣言など、この10年を踏まえた法改正や国としての新たな姿勢を示したのが昨年。今後は改正法の実行、カーボンニュートラル実現に向けた行動が問われる時代となり、いままさにこの瞬間が電気事業の転換期にあたるのではないかと感じる。

今回の事象の整理・検証を含め、今後のあるべき姿、目指すべき姿を見つめ、行動していくことが大切になってくるだろう。

現状の立ち位置

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

制度Tracker: https://solution-esp.com/seido-joho2.html

新たな柱として電力事業拡大 再エネを軸に県内事業を手掛ける

【鈴与商事】

鈴与商事は主力の石油・LPガスに続く新たな柱として電力事業の拡大に注力している。これまで清水港にある鈴与グループの倉庫屋根を活用した分散設置型メガソーラーをはじめ、静岡市とのエネルギー地産地消事業、資源循環型バイオガス発電、御前崎港バイオマス発電所などに取り組んでいる。

静岡市との地産地消事業は17年2月に開始した。再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期間が満了を迎える太陽光発電の卒FIT電源を地産電源の一つに組み込み、市内の全小中学校や市有施設に電力供給する。これにより、地域経済の活性化や防災機能の向上、環境負荷の低減などを推進中だ。

鈴与菊川バイオガスプラントの外観

具体的には、静岡市役所庁舎など279の市有施設の電力を市内2カ所の清掃工場から発生する電力と、鈴与商事が調達する電力によって賄い、エネルギーの地産地消を実現する。また、地域の防災拠点となる静岡市内の小中学校80校に蓄電池を設置。蓄電池群制御システムを活用し、平常時は需給調整のため、非常時には防災用電力として活用するスキームを構築している。そうした取り組みによって、19年にはこれらの施設にかかる電気代を1億3672万円削減している。

資源循環型バイオガス発電では、鈴与グループでアグリビジネスを手掛けるベルファームが生食用トマトのハウス栽培を行っており、栽培で発生する食品系廃棄物処分を利用し、メタン発酵によるバイオガス発電を行っている。

現在、効率よくメタン発酵させ、ガスを取り出すプロジェクトを産業技術総合研究所と共同で取り組んでおり、産総研が有する大規模RNA/DNA解析技術を用いて、良好な菌叢・微生物機能が維持されるプラント運転条件を見いだすため研究を続けている。生成されたバイオガスで発電するだけでなく、排出される熱は冬季暖房向けに、CO2はトマトのハウス栽培に供給されるトリジェネレーションとして活用中だ。

御前崎港に発電所を建設 地域活性化に向けた事業

最新の取り組みでは、レノバが主導する御前崎港バイオマス発電所に出資した。鈴与グループなどが保有する当地を発電所候補地としてレノバに紹介したのがプロジェクトの始まりだという。2社に加え、地元の大手電力である中部電力と三菱電機クレジットが参画。4社で発電所の建設・運営やFITを利用した売電事業を行う。

建設・運用に関しては、レノバが先行して運転を開始する秋田県内の発電所をはじめ全国4カ所でバイオマス発電所を手掛けており、そのノウハウを生かす。「特に御前崎港の7万5000kWクラスは他の3地点と同規模であり、運用においてノウハウを横展開して進めている」(レノバ)という。燃料は木質ペレットやパームヤシ殻など輸入材をメインに、静岡県内の未利用材や間伐材なども利用していく方針だ。

御前崎港バイオマス発電所のイメージ図

このように、鈴与商事は静岡県内で地産地消、循環型社会の実現をテーマにさまざまな電力事業を進めている。吉村豊・エネルギーシステム営業部長は「事業を行う上で地元への貢献、地域活性化というキーワードは欠かせません。また、再エネの普及促進や利活用は当社の主要なテーマとして取り組んでいます。菅義偉首相が掲げた50年温室効果ガスゼロ政策は当社の電気事業にとって追い風です。この流れに乗っていきたい」と意気込む。

30年に向けては、電気自動車シフトの動きも活発になってくる。そうした変化にも、EVを活用したエネルギーマネジメントに取り組むスタートアップ企業、REXEVと協業するなど追随する。社内で一致団結してスピード感を持って取り組んでいく。

電気と生活水を自給自足で反響 全国にOTSハウスを展開

【TOKAI】

大規模災害が発生したとき、まず優先的に確保すべきは、電気やガスなどエネルギー、そして生活水だ。水は飲料水としてだけでなく、入浴やトイレなど、多くの生活シーンで欠かせないものとなる。

OTSハウスのモデルハウス

そんなエネルギーと水のBCP(事業継続計画)対策に優れた先鋭的な住宅として注目を集めているのが、TOKAIが提供する「OTSハウス」だ。電気を太陽光発電と蓄電池、水を独自開発の浄化装置を核とした生活水循環システムにより賄い、完全自給自足する従来にない住宅となっている。2011年から9年の歳月をかけて開発・実証が行われ、19年から販売を開始した。

鈴木辰麻理事・新規事業開発部長は「太陽光発電と蓄電池は多くのメーカーが取り扱っていますが、水まで扱って完全自給自足できる家を販売するのは当社しかありません。その独自性から昨年12月に住宅系の展示会に出展した際も、多くの方から関心を寄せていただきました」と反響を口にする。

OTSハウスは全6タイプをラインアップする。最上位クラスの「アドバンス」は、電気を系統電力に頼らずに太陽光発電と蓄電池で賄う。生活用水は建物敷地内に降る雨水を集め、最大1万7000ℓを貯水。この水を独自開発したRO(逆浸透膜)浄化装置を通して浄化、塩素消毒して生活水として利用している。キッチン・トイレを除いた生活排水も合併浄化槽で一次浄化した後、雨水と一緒にタンクに戻され、生活水として循環することを実現している。

昨年6月には、新たな方式で生活水を確保する「ウォーターコンシャススタンダード」を追加した。経済的な活性炭フィルターによるろ過システムを採用するもので、一次ろ過器で砂や鉄サビなど、二次ろ過器で色や臭いの原因物質を除去する。RO装置と同様に浄化後に塩素消毒で一般細菌を除去し水道水と同等レベルにする。

経済的な活性炭フィルターによるろ過システム

このほか、水道水を貯める大容量貯水タンクで断水に対応する「バリュー」に3日間自立する「バリュー3」を新たに加えるなど、導入しやすい低価格帯も追加している。

コンソーシアムを設立 仲間を全国から募る

昨年6月には、これまで静岡県内で進めてきたOTSハウスの販売を全国規模に広めるため、「雨と太陽で暮らす家。On The Spot コンソーシアム(共同事業体)」を設立した。住宅コンサルタントとして実績のある清水英雄事務所と協業し、全国で事業パートナー(代理店)と販売パートナー(会員)を募集。共同でOTSハウスの普及を推進していく構えだ。事業・販売パートナーは「OTSハウス」をはじめTOKAIが提供する規格住宅商品および水と電気の自給自足に必要な設備の取り扱いが可能となるとともに、毎年発表を予定する新商品の取り扱いも可能となる。「これまで当社単独で販売してきましたが、全国展開となると仲間が必要になります。OTSハウスのコンセプトに共感してもらえる企業の参加を募っていきます」と鈴木理事はアピールする。

昨年からの新型コロナウイルス感染拡大で、大規模災害が発生した場合、避難所に身を寄せるリスクもあることから、自宅でライフラインを確保することが従来にも増して重要になってきている。エネルギーと水を自給自足するOTSハウスのコンセプトはそうした新しい生活様式にもマッチすることから、今後より脚光を浴びていくだろう。

温泉とともに湧出するガスを活用 コージェネでホテルなどにエネ供給

【川根温泉】

SLで有名な大井川鉄道で、始発の金谷駅から30分ほど北の山間に向かった所に川根温泉はある。1994年12月に掘削された同温泉は毎分730ℓの湯量が、今も自噴している。島田市観光課観光施設係の天野幸治課長補佐は「温泉を過疎化が進むこの地域の観光や産業振興の起爆剤に位置付け、温泉をつくることになりました」と経緯を話す。温泉湧出とともに、川根温泉ホテルをオープン。現在では多くの観光客を集めている。

メタンガスで発電した電気が供給されている川根温泉ホテル


一方で、川根温泉はお湯とともに湧出するメタンガスを主成分とする可燃性ガスを大気に放出していた。温室効果ガス排出抑制や再生可能エネルギーの活用といった機運が高まりを見せつつあり、可燃性ガスの有効利用について2012年から検討を開始した。
可燃性ガスはメタンガスを86%含む。ガス量も常時1時間当たり30㎥程度が確保でき、25 kWクラスのヤンマーエネルギーシステム製マイクロコージェネを3台稼働するのに十分であると分かった。
だが、計画を進める上で鉱業法に基づく採掘権の取得が課題となった。鉱業法は04年に一部改正され、特定区域制度が導入された。これにより、国が特定区域を指定し開発事業者を募集する制度になったのだ。同制度が導入された直後のため前例がなく、同地を特定区域にしてもらう交渉を国と行い、その後、特定区域の指定と開発事業者の公募を経て、全国初の同制度を利用した鉱業権として設定された。メタンガス発電の検討に入ってから5年の歳月をかけて実現したのである。

ホテル横に設置したコージェネ


ホテルの電力6割を賄う 日帰り温泉に熱を供給


温泉にはコージェネのほか、ガスコンプレッサー、ガスホルダーを設置。発電した電気は川根温泉ホテルに、排熱は隣接する日帰り温泉に供給している。コージェネは4台設置しており最大100kWの発電が可能だ。深夜は需要が少ないため、ガスホルダーに貯めて、ホテルで使用する電力の約6割を賄い、ピークカットにも役立っている。排熱は日帰り温泉の沸かし湯に使われており、ガス代の削減に寄与している。BCP(事業継続計画)対策としても、非常用発電系統の一部負荷を肩代わりすることで、非常用発電機の持続時間を延長できる。
川根温泉の有効利用に関して、アドバイザーを務めた静岡大学グリーン科学技術研究所の木村浩之教授によると、「静岡県中西部一帯は川根温泉周辺だけでなく、温泉を掘ると広範囲にわたって高濃度のメタンガスを含有する可燃性ガスが湧出する可能性が高い。ほかの地域でもメタンガスを活用する事例が出てきてほしい」とさらなる活用に期待する。温泉が静岡県の地域振興や観光だけでなく、エネルギーや環境の面でも貢献していきそうだ。

【終了】水素社会を拓くアンモニア

※本セミナーは、2020年2月24日に開催し終了したものです。

<プログラム>
【13:00~13:30】「CO2フリーアンモニアによる低炭素社会の実現」
東京ガス株式会社アドバイザー 村木 茂 氏
【13:30~14:00】「なぜ、アンモニアか? ~CO2フリー燃料、水素キャリアとしてのアンモニアの可能性~」
住友化学株式会社主幹、元内閣府大臣官房審議官 塩沢 文朗 氏
【14:00~14:30】「JERAゼロエミッション2050」の取り組みとアンモニア混焼の展望(仮)」
株式会社JERA 経営企画本部 調査部長 坂 充貴 氏
【14:30~15:00】「日本の燃料アンモニア導入・拡大に向けた取組について(仮題)」
経済産業省資源エネルギー庁 資源・燃料部 政策課 石油・LNG企画官 渡邉 雅士 氏
【15:00~16:00】パネルディスカッション
モデレーター/塩沢氏、参加者/村木氏、渡邉氏

【特集2】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用

電源開発 竹原火力発電所

低炭素化に向け石炭火力の運用に新しい視点が必要となってきている。再エネ大量導入を見据えて負荷調整機能を高めながらバイオマス混焼も進める。

2020年6月、広島県竹原市の竹原火力発電所で約6年の歳月をかけ建設していた新1号機が営業運転を開始した。

新1号機は、出力25万kWの旧1号機と出力35万kWの2号機の合計60万kWと同容量の出力を持つ。

竹原火力新1号機と3号機の全景(提供:Jパワー)

蒸気条件として超々臨界圧(USC)を採用し、発電所の熱サイクルを最適化して向上させ、主蒸気温度600℃を実現(再熱蒸気温度は630℃、主蒸気圧力は27MPa)。微粉炭燃焼の火力発電設備として世界最高水準となる発電端効率48%を達成している。

さらに最新鋭の排煙脱硝・排煙脱硫・集じん装置の導入で、新1号機は旧1号機・2号機に比べ硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx)・ばいじんを大幅に削減。高効率の達成と最新鋭の環境対策設備の導入は、地域社会への環境負荷低減をもたらしている。加えてCO2排出量を大幅に削減。発電電力量当たりの排出量を約2割削減している。

また、さらなる低炭素化を実現するために木質バイオマス燃料を積極的に活用することにも注目したい。一般的には数%程度の混焼率であるが、竹原火力では10%の混焼率を達成すべく高い目標を掲げている。

今後も導入拡大が進む再生可能エネルギー電源の出力変動にも柔軟に対応する、高い運用性能を実現する。

CO2削減に挑戦する火力 エネルギーの安定供給のために

新1号機の建設は14年に始まった。旧1号機(1967年運転開始)、旧2号機(74年)は設備を廃止するまで可能な限り稼働させつつ、3号機(83年)の運転にも支障をきたさないよう建設を進めてきた。廃止設備を運転させながら建設を進める「ビルド&スクラップ方式」を採用し、通常の建設工事に比べ1.5倍の工期をかけながら、難易度の高い建設をマネジメントしてきた。その間、定期的に工事状況についての説明会を実施し、刊行物を発行するなど地域の理解を得ながら工事を進めた。

民家との距離も近い立地であるため、旧1号機の運転開始から半世紀たった現在も変わらず環境対策に取り組み、地域住民とのきめ細かい情報共有に努めている。

竹原火力発電所は半世紀を超えてなお地域とともに歩み、高効率石炭火力の世界最高技術でCO2削減に取り組み、国内の安定供給を支えていく。