CO2発生量は多いが、低コストで安定した調達が可能な石炭をどう活用していくか。発電時のCO2有効利用や輸送時の燃料削減など、石炭火力の最新環境対策を追う。
カーボンニュートラル(CN)社会を実現する中で、石炭火力発電の在り方が見直されている。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、天然ガスの需給がひっ迫し価格が高騰。各国は石炭火力の新たな活用策を探っている。
石炭は他の化石燃料と比べ、採掘できる年数が長く、存在している地域も分散している。またLNGと比べ、市場価格は低く安定しているため、調達コストを抑えることが可能だ。
しかしながら、昨年は石炭の市場価格も高騰した。ウクライナ情勢に加え、それ以前からの石炭権益への投資不足や主要産炭国での人手不足といった要因が重なった結果だ。こうした中、一部の大手電力会社は長期契約に加え、短期・中期契約やスポット契約調達などを組み合わせることでコスト抑制を図っている。使用する石炭の品種も見直している。高品位炭限定ではなく、低・中品位炭の調達も視野に入れ始めた。
中国電力の安定供給を支える三隅火力
世界に誇る環境対策技術 新設による高効率化も
石炭火力には、LNG火力と比較してCO2排出量の多さに加え、SOX(硫黄酸化物)、NOX(窒素酸化物)、すすや燃えカスなどの煤塵といった大気汚染物質の発生量も多いという課題がある。ゆえに、西欧では、将来的な廃止を掲げる国が多い。しかし、電力安定供給のため、中長期的には脱石炭の方向性には変わりないものの、石炭火力を短期的に再活用する方針が示されている。同時に、火力発電の脱炭素化技術の開発も加速中だという。
日本では東日本大震災以降、発電量全体における原子力の比率が大きく低下した。代わりに、LNGと石炭火力の比率は大きく上昇。石油も含めた火力全体の発電量は約7~8割に上る。また、日本はエネルギー資源が乏しく、海外から安定的に調達できる石炭を活用していく必要がある。
高度成長期から40年以上にわたり、環境対策技術や効率的な燃焼方法の開発など、環境負荷の低減に取り組んできた。大気汚染物質の90%以上を除去できる日本のクリーンコール技術は、世界トップクラスといえる。加えて、発電所の新設やリプレースにも取り組んでいる。非効率的な古い石炭火力を、新しく高効率なものに替えることで、CO2の排出量を減らすことが可能だ。
クリーンコール技術の中では、IGCC(石炭ガス化複合発電)に注目が集まる。Jパワーと中国電力が進める酸素吹きIGCCプロジェクト「大崎クールジェン」では、石炭から精製したガスでガスタービンを、ガス精製・燃焼時の熱を利用する蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。さらに、石炭から精製したガスをもとに水素を製造。ガスの主成分である一酸化炭素(CO)と水素(H2)を蒸気(H20)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離・回収する。
その後、つくった水素を用いてガスタービンに加え、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を稼働させ、発電効率をさらに高める試みを進めている。
燃焼以外の技術も開発進む 運搬からCO2の活用まで
さらに、発電時に排出されたCO2を回収するプロジェクトも進行中だ。具体的には、回収したCO2を地下に貯留するCCS(CO2回収・貯留)や、貯留するだけでなく有効利用するCCUS(CO2回収・利用・貯留)などがある。関西電力の舞鶴発電所では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から採択・委託を受け、二つの実証事業を行っている。
一つ目は、川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)と共同で実施するCCS実証だ。舞鶴発電所に、省エネルギー型CO2分離・回収システムの試験設備を設置し、燃焼排ガスからCO2を分離・回収する。この実証は「固体吸収法」という、表面にCO2を吸着する物質をコーティングした固体吸収材を用いた手法で行われる。従来の技術と比較して、CO2分離に要するエネルギーを約40%以上低減することを目指している。
二つ目は、日本CCS調査(JCCS)と共同で実施するCO2の輸送だ。CO2の排出地と貯留地・活用地は離れているケースが多く、安全かつコストを抑えた輸送技術の確立が求められている。この実証では、舞鶴発電所で排出されたCO2を液化し、北海道の苫小牧市に新たに建設される基地まで船舶で輸送する。CCUSを目的とした液化CO2の船舶輸送実証は、世界初となる見込みだ。
石炭を海外から運搬する船の脱炭素化も進められている。商船三井が開発した「ウインドチャレンジャー」は、帆で捉えた風を推進力に変えることで化石燃料の使用を抑える装置だ。新造船・既造船を問わず搭載できる。北米やオーストラリアなどから石炭を輸送する、東北電力の石炭運搬船「松風丸」の場合、航路によって約5~8%以上の燃費を削減可能だ。
帆で受けた風を推進力とし運行する
燃焼技術そのものの向上はもちろん、排出されたCO2の有効利用といった関連技術の開発・実証が進む。脱炭素社会の実現と安定供給の両立に石炭をどう利用していくか―。そのための取り組みが注目される。