【特集2】水素利用で実現する脱炭素 技術力を結集し開発加速


製造現場や街づくりなどで、水素を利用する動きが活発化している。サプライチェーン構築から、機器開発、自治体の取り組みまでを追う。

水素はカーボンニュートラル(CN)の達成に必要不可欠なエネルギー源だ。そして2050年脱炭素社会の実現だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻で一変した世界情勢において、エネルギーの安定供給のカギでもある。今、世界各国で水素戦略が策定されるとともに、関連技術の研究開発への投資や、サプライチェーン実証事業への支援が加速している。水素社会の実現に向け、コスト低減やインフラ整備、水素の燃焼特性に合わせた機器の開発といった課題と向き合わなければならない。

このような流れの中で、日本では水素タービンや燃焼機器などの開発が進められている。資源エネルギー庁の資料によると、水素タービンの市場は50年までの累積で最大約23兆円に上る想定。ウクライナ戦争の動向次第では、水素関連技術の需要はさらに高まる見通しだ。

水素関連技術の実用化のため、各社は蓄積してきた知見やノウハウを注ぎ込み、全力で開発に当たっている。水素は燃焼時にCO2を排出しない一方、天然ガスと比較して燃焼速度が速いという特性を持つ。ゆえに、逆火やNOX(窒素酸化物)が発生しやすいという課題がある。

三菱重工業では、逆火などへの対応と環境性能を両立させる燃焼器を開発中だ。小型の水素発電では、既に実機での専焼の検証まで終了している。大型は30vol%(1vol%=1万ppm)混焼の開発を終え、専焼の開発が進んでいる。混焼、専焼ともに、実機での実証段階となっている。今後、30%を超える混焼が可能な燃焼器を開発できれば、混焼率の選択肢を提供でき、国際市場で優位に立てる可能性がある。

水素の利用で、ものづくりの脱炭素化も進む。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)とノリタケカンパニーリミテドは、水素燃焼に対応した連続焼成炉を開発。特殊セラミックを用いたラジアントチューブバーナーを搭載し、高い環境性能と耐熱・耐蝕性を誇る。リチウムイオン電池(LiB)電極材の焼成のほか、自動車や通信機器などの分野へ展開を目指している。

東邦ガスは水素バーナーの開発や燃焼試験サービスの提供のほか、サプライチェーンの構築にも取り組んでいる。同社の知多緑浜工場内に24年までにプラントを建設し、水素供給を開始する予定。需要創出と供給体制整備の両面から水素利用を展開していく。

顧客の要望に応じた検証を行うTGESの試験炉内部

石炭をガス化し水素製造 火力発電を脱炭素化

石炭火力発電を水素発電に転換する取り組みも進められている。Jパワー(電源開発)と中国電力が出資する大崎クールジェンは、石炭火力の発電効率を高めることで、CO2排出量の大幅削減を目指す「石炭ガス化複合発電(IGCC)」プロジェクトを進行中。石炭からガスを精製し、そのガスから製造した水素で発電することでCNを達成するというものだ。

実証は3段階で構成される。第1段階の「酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスを燃焼させてガスタービンを、ガスの精製時と燃焼時の熱で発生させた蒸気で蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。

第2段階の「CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスをもとに水素を製造する。ガスの主成分は一酸化炭素(CO)と水素(H2)のため、蒸気(H2O)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離回収する仕組みだ。

第3段階の「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証」では、第2段階で作った水素を用いてガスタービンを回すだけでなく、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)2台に水素を供給し発電試験を行っている。

火力発電は、天候などによって発電量が大きく変動してしまう太陽光や風力発電に対し「調整力」の役割を担っている。安定供給と脱炭素化の両立に寄与する大崎クールジェンのプロジェクトに期待が高まる。

D大崎クールジェンでは、次世代の石炭利用技術を開発している(提供:大崎クールジェン)

自治体の取り組みも活発化 BCP対策などにも有効

自治体の水素利用や街づくりの動きも注目だ。山梨県では「P2G(パワーtoガス)システム」を構想中。固体高分子(PEM)形水電解装置で、再エネ由来電力と水からグリーン水素を製造する。脱炭素化の促進とBCP(事業継続計画)対策として、工場などへ導入する方針だ。また山梨県は東京都と連携し、山梨県で製造した水素を東京都に供給する。

東京都では「晴海フラッグ」を水素供給のモデルにする方針が発表された。晴海フラッグは、東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション群を中心とする大規模街づくり事業だ。隣接地には水素ステーションが整備されるほか、パイプラインから純水素型燃料電池に水素を供給し、電力だけでなく発電時に発生する熱も活用する。

水素ステーションに関しては、充填速度向上のための技術開発が加速。トラックなどの大型商用車への高速充填や、2台同時の充填を可能にするディスペンサーの開発が進む。

脱炭素社会実現に向けた水素利用の課題を乗り越えるための技術や取り組みが注目される。

【特集2】再エネ由来の水素ステーション 大幅なコストダウンも実現


【石川県】

石川県は2022年3月に「石川県カーボンニュートラル産業ビジョン」を発表した。経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で示された、今後成長が期待される14分野を踏まえて策定。脱炭素化を推進する産業を支援し、その成長を促すことが目的だ。中でも、製造、輸送、利用それぞれの段階で県内企業の参入が見込まれる水素には、脱炭素化のキーテクノロジーとしての期待が高まる。

「能登スマート・ドライブ・プロジェクト」では、「能登の里山里海」が11年6月に世界農業遺産に認定されたことを契機にプラグインハイブリッド車で能登半島を周遊できるプロジェクトを実施した。認定10周年を迎えた21年には新たな展開として、燃料電池車(FCV)を用いた水素利用に関するプロジェクトを開始した。能登の「のと里山空港」と金沢の「産業振興ゾーン」に、県内初の水素ステーションを整備。最大の特徴は、水素を再エネ由来の電力による水の電気分解で、オンサイト製造すること。水素製造能力に限界があるが、「エリア内のFCVの普及台数などを考慮し、ステーションの運用上、必要十分」と、県内の水素利用のFS(事業化調査)を実施した日本環境技研は説明する。

両地点とも水素供給能力1時間当たり50Nm3以下の小規模ステーションとなる予定だ。オフサイト型の中規模ステーションと比較して、大幅なコストダウンも実現したという。「県内にステーションが初めて整備され、FCVの普及はこれから」という石川県の現状を踏まえた整備だ。

【特集2】25年までに専焼ガスタービン開発へ 逆火・NOX対策で水素割合増やす


【三菱重工業】

三菱重工業では、水素だきガスタービン複合発電(GTCC)の開発を進めている。これまで大型ガスタービンで天然ガスに水素を30vol%(1vol%=1万ppm)混ぜて使用できるガスタービン燃焼器の開発を完了し、水素混焼割合を50vol%まで拡大した燃焼試験を実施した。さらに、中小型ガスタービン用の燃焼器で水素100%専焼(ドライ式)の燃焼試験を実施し、得られた知見を大型ガスタービン用の燃焼器にも展開して開発を進めている。また、米国の既設の高効率・大型GTCC発電プラントにて水素20vol%混焼の実証試験にも昨年成功した。これらを皮切りに、実機での実証試験を進めて早期の商用化を目指している。

水素ガスタービンは、既設の天然ガスだきガスタービンの燃焼器の交換と燃料供給系統の一部改造のみで対応可能となるため、開発のキーポイントは水素だきに対応できる燃焼技術と燃焼器となる。

技術検証は最新鋭の水素ガスタービンを用いる

世界初の一貫した検証施設 水素製造から発電まで

水素は天然ガスと比較して燃焼速度が速く、従来の拡散燃焼器に比べてサイクル効率が高い予混合燃焼器(燃料に空気をあらかじめ混合し燃焼器内に投入する方式)で混焼・専焼させた場合、天然ガスのみを燃焼させた場合よりも逆火(フラッシュバック)の発生リスクが高くなる。そのため、逆火発生の防止に向けた改良を中心に、低NOX化や安定燃焼化を実現する燃焼器の開発を進めている。

水素だき燃焼器の開発を進める中、発電に利用する水素を確保しガスタービンの運転実証を行う機会は少ない。そこで、三菱重工はガスタービンの開発・製造拠点を置く高砂製作所(兵庫県)に、水素製造から発電までにわたる技術を世界で初めて一貫して検証できる「高砂水素パーク」を、構内の実証設備複合サイクル発電所に隣接させて整備している。

水素製造に関しては、水電解装置を導入するほか、メタンを水素と固体炭素に熱分解することによりターコイズ水素を製造するなど、次世代水素製造技術の試験・実証を順次行う。

また、大型ガスタービンについては最新鋭機種であるJAC形を用いて水素混焼発電を実証するほか、中小型ガスタービンでの水素100%専焼も、H―25形ガスタービンでの実証を行う予定である。高砂水素パークでの実機実証を経て、共に2025年までの水素ガスタービン商用化を目指している。

三菱重工は脱炭素分野での実績を誇るリーダーとして、水素ガスタービンの開発・商用化を通じてグローバル社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献していく。

【特集2】自治体が推進する水素活用 グリーンP2Gに引き合い多数


【山梨県】

水素への取り組みは企業ばかりではなく、自治体主導で進めているものもある。山梨県のグリーン水素製造の取り組みには国内企業からの引き合いが相次いでいる。

山梨県と東京電力ホールディングス、東レの3者は昨年2月、共同開発を行ってきた再生可能エネルギー由来の水素を製造するパワーtoガス(P2G)システムを扱う事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立した。同システムは再生可能エネルギーを用いて水素を製造することが可能。カーボンニュートラル(CN)を目指す企業を中心に導入の決定が相次いでいる。

米倉山電力貯蔵技術研究サイト


その動きに国も注目。岸田文雄首相、菅義偉元首相、西村康稔経済産業相など、この1年で新旧5人の閣僚が実証拠点である米倉山電力貯蔵技術研究サイト(甲府市)を訪れたという。同地を見学した岸田首相は「国産水素の大規模な供給拠点の整備は我が国にとって重要。政府としても後押しする」とコメントしている。

国内最大規模のP2G サントリー白州工場に導入


昨年9月には、山梨県とサントリーホールディングスがサントリー白州蒸留所と南アルプスの天然水白州工場の脱炭素化に向けて、大容量・モジュール連結式のP2Gシステムを導入する発表した。国内最大級となる1万6000kW規模のシステムを構築し、年間で2200tの水素を製造、これを燃料として利用することで、1万6000tのCO2削減を図るとのことだ。
「海外でも水素実証が進んでいる。2万kWクラスの水素製造設備を入れて実証を進めている拠点が5カ所程度ある。だが、水電解装置に使う膜が異なる。YHCが利用する東レが開発した固体高分子(PEM)型電解質装置の電解質膜は海外製より約2倍の水素を取り出せる。サントリーに導入するシステムの水素製造能力は世界最大になるだろう」。山梨県企業局電気課新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長はこう胸を張る。

P2Gシステムを導入するサントリー白州工場


海外展開も視野に入っている。スズキと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国際実証事業として、インドの工場へのP2Gシステム導入に向け、水素需要やコストなど調査し導入検討に入った。このほか、スコットランドでも導入に向け検討に入っている。

大規模な研究開発施設が稼働 米倉山を水素開発拠点に


今年4月には、P2Gの拠点である米倉山に建設した「次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ」が稼働を開始する。YHCのほか七つの企業や団体が入居し、水素・燃料電池の研究を行う。東京から技術研究組合のFC―Cubicも移転して研究を進める。P2Gシステムからパイプラインを引き、同施設に送りグリーン水素を用いてさまざまな研究が行われる予定だ。
水素利用の面でも注目を集めている。半導体装置のコンポーネント製造や食品加工の分野でもCN達成を見据え、導入検討が進んでいる。昨年3月には、自動車レース「スーパー耐久シリーズ」に参戦するトヨタ自動車の水素エンジンカローラの燃料として、YHCで製造したグリーン水素を提供した。「水素提供はエネルギー関係者以外から反響が大きく、YHCを知ってもらう良い機会になった」(宮崎氏)。

紹介した事例はこの1年にあった出来事で、話題を呼ぶ内容が目白押しだ。同社の快進撃がうかがえる。今後は、P2Gシステムの導入企業を増やしていくのと並行して、導入が決まったプロジェクトを着実に立ち上げて成果を上げていくことに注力していく方針だ。

自動車レースに参加し水素供給を行った

【特集2】水素燃焼試験サービスを開始 サプライチェーン構築も推進


【東邦ガス】

企業のカーボンニュートラル(CN)への取り組みが活発になってきた。特に製造業では工場のCN化を求められる可能性が高く、対応策を検討する企業が増えている。こうした中、エネルギー事業者にもCNに対応するサービスや製品の展開が求められるようになってきた。


24年に水素供給を開始 知多緑浜工場を一大拠点に


東邦ガスは昨年3月に中期経営計画を発表、この中でCNの推進を掲げた。具体的な施策として、水素をガス・電気と並ぶエネルギーの軸として位置付け、サプライチェーン構築に向けた需要創出と供給体制整備の両面から取り組みを展開し、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立するとしている。

水素サプライチェーンのイメージ図


供給面では、同社の知多緑浜工場内に2024年までに日産1・7tの能力を有するプラントを建設し、水素供給を開始する。その後、同地域の水素需要の拡大に合わせてプラントの規模を同5t程度まで拡充していく計画だ。水素製造時に発生するCO2は、当面はクレジットの活用により相殺しつつ、分離回収・利用することも計画している。
さらに、水素の輸送・供給や消費の分野で知見・ノウハウを持つ企業とのアライアンスを進め、水素の普及拡大に向けた基盤を構築し、将来的には、知多緑浜工場を海外輸入水素の受入拠点とすることを目指す。
需要創出では、21年4月に自動車や機械などの金属部品製造の熱処理工程で利用される都市ガス用シングルエンドラジアントチューブバーナーの水素燃焼技術を開発した。
水素燃焼は都市ガスに比べて火炎温度が高いことから、NOX(窒素酸化物)排出量の増加やバーナー部品の劣化が課題となっている。同製品は水素燃焼時の排ガスを再循環させることで、都市ガス燃焼時と同等のNOX排出量と耐久性を実現した。
さらに、循環する機構とバーナー本体部と脱着交換できる仕様になっており、都市ガスから水素に移行する際に、バーナー一式を交換するよりも手間やコストを抑えることができる。部品コストは同社の標準的なバーナー本体部の10分の1程度で済むとのことだ。

既存設備を有効利用 特性に合わせた運用法探る


製品開発に加え、21年10月からは水素燃焼試験サービスを開始した。同社技術研究所に顧客が生産現場で使用するバーナーや炉を持ち込んでもらい、水素燃焼試験を行うものだ。
「CNに向けて顧客の関心は高まっているものの、水素試験を自前で行うには、供給施設を新設するなどコストがかかる。従来と異なる火炎のコントロール、安全面への配慮なども必要になるため、これまで水素を取り扱っていない事業者にとってはハードルが高い。そこで、このサービスを利用すれば大きな費用負担なく、水素燃焼試験を実施できる」。産業エネルギー営業部営業推進グループの柘植紀慶係長は同サービスの特長をこう説明する。
試験には燃焼に関するノウハウを持った技術員が立ち会い、使用する供給設備などは水素の特性を考慮した安全対策が実施してある。
試験はまず顧客が持ち込んだバーナーが水素燃焼への対応が可能か不可能か、不明の場合は確認する。そして、①燃焼安定性、②火炎長・火炎温度、③ノズル・ボディ温度、④燃焼前後の外観、⑤排気組成―などを計測・確認していく。

水素を燃焼したサーモグラフィー写真
都市ガスを燃焼したサーモグラフィー写真


水素は燃焼速度が速く、火炎温度が高いという特徴がある。都市ガスバーナーで燃焼温度が12
00℃の場合、水素では1400℃に相当し、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナーの部品が劣化しやすい。さらに燃焼速度が早いため逆火が発生する恐れもある。
サーモグラフィーの写真(図1)は試験時の火炎の様子だ。都市ガスと比較して水素の火炎は中央部が薄い赤色をしている。これは水素が高温で燃焼していることを示す。NOX対策では、空気比(燃焼用の空気の割合)や出力を調整することで最適化を図っていく。
水素の火炎は都市ガスのように目視で確認できない(図2)。都市ガスでは炎を見て燃焼状態の調整が可能だが、水素ではそれができないため、排ガスの酸素濃度などを確認しながら調整する必要があるなど、運用面でも違いが出てくるとのことだ。

水素の火炎。目視で確認できない
都市ガスの火炎


長谷川順一マネジャーは「製造業を中心に10社以上が同サービスを利用している。水素への関心が高い顧客は、製造現場での検証に着手している。新規の問い合わせも増えてきた。今後さらに増えていきそうだ」と、手応えを感じている。
同サービスによって得た結果から、企業は水素導入に向けた具体的なシナリオを描くことができる。こうしたCNに向けたサービスは、一段と関心が高まりそうだ。

産業エネルギー営業部の長谷川氏(左)、柘植氏

【特集2】大型車両への大流量充填 技術センター新設で開発加速


【トキコシステムソリューションズ】

国内での水素利用は、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」をはじめとした乗用車がけん引役となって始まり、水素ステーションなど関連施設の整備も進められた。現在、そうした動きに加え、トラックやトレーラーなど大型車両分野の開発・普及に向けた目標が設定されつつある。水素ディスペンサーにおいても、大型車両に合わせた高圧・大流量品の開発が始まっている。


こうした次世代品の開発を加速させるため、トキコシステムソリューションズは昨年9月、水素先端技術センターを開設した。設備には従来比5・5倍の吐出能力を有する圧縮機、同2・4倍の蓄圧器、同5・5倍の模擬充填タンクなどを導入。これにより、従来比3倍以上の大流量充填が実現し、乗用車など小型FCVでは3分程度、大型トラックでは10分程度で済ませる時間短縮技術や、1台のディスペンサーで乗用車とトラックなど異なるサイズの2台の車両に同時に水素を供給する充填技術、圧縮機や蓄圧器などのステーション機器の効率的な運転制御技術などの開発を手掛けている。さらに、出荷前試験の能力も従来の1カ月当たり最大6台から同20台へ引き上げた。
開発テーマのうち、FCVへの2台同時充填は、蓄圧器にためた水素をFCVタンクとの差圧を利用する。従来設備のまま2台同時に充填すると、タンクの圧力が低いFCVの方に水素が流れていき、先に充填しているFCVは待たされてしまう。設計開発本部の榧根尚之担当本部長は「圧縮機、蓄圧器の台数を増やせば解決するが、コスト増を最小限に抑えることが求められる。その解を見つけていく」と話す。


福島県で実施のNEDO事業 大流量ディスペンサー開発

このほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」にも参画する。昨年度、整備された「福島水素充填技術研究センター」(福島県浪江町)で、大型車両への大流量水素充填技術や計量技術の開発・実証を行っている。ここでも、大型車両への充填時間を短縮することを目指している。
「従来のトラックなどが軽油を給油するのにかかる時間と同等の所要時間がターゲットだ。大型車両向けでは、1台のディスペンサーから2本のノズルで同時充填する開発を進めている。これは従来のトラックが軽油を2本のノズルで給油しているのと同様の考えだ」(榧根氏)
大流量に向けては配管など周辺技術の開発も進める。エンジニアリングも手掛けるトキコならではの取り組みだ。FCVの普及には水素供給を支える設備側の取り組みも不可欠であり、同社から目が離せない。

【特集2】圧倒的な省エネ性能の給湯器 ZEH住宅への採用進む


【リンナイ】

電気とガスの両方を使うハイブリッド給湯器「ECO ONE」が好調だ。エネルギー価格の高騰やカーボンニュートラルなども追い風となっている。

エネルギー価格の高騰が家計に打撃を与えるといったニュースが毎日のように飛び交っている。そんな中、リンナイの家庭用給湯・暖房システム「ECO ONE」が省エネ性能によって注目を集めている。同製品は給湯に電気とガスの二つを利用し、単一のエネルギーに依存しないのが大きな特長だ。

「ECO ONE X5」集合住宅専用モデル


2011年の東日本大震災が発生する以前は、原子力発電が多く稼働し、深夜電力が有効活用できるエコキュートが急速に普及した。震災後はBCPの観点からエネルギー源を複数確保するため、ガスの利用が見直された。その後、電力とガスの小売り全面自由化や、国の50年脱炭素宣言など、エネルギーを巡る動向は日々刻々と変化している。「そうした制度面や社会の変化によって、省エネ強化の流れが加速した。住宅メーカーは脱炭素化への意識が高く、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の家づくりを推進している。ZEHの省エネ基準は数値化されており、省エネに寄与するならば設備採用を検討する。これがECO ONE販売の追い風となっている」。営業本部ハイブリッド営業室の柴田毅課長はこう話す。
最新機種「ECO ONE X5」では、貯湯タンクを70ℓと小型化したモデルをラインアップに加えた。都市部の住宅は貯湯タンクを設置するスペースが確保されておらず、これに対応するためだ。単にタンクを小型化すると省エネ効率は下がる。そこで新制御「ターボヒーティング」を採用した。風呂の湯はりなど、使用量が多い時間帯にヒートポンプの沸き上げ能力を通常の2.3kWから3.9kWに上昇させて運転。これにより、少ないタンク容量でも既存のECO ONEの100ℓタイプと同等の省エネ性能を実現した。エネルギー消費量は、従来のガス給湯暖房器より約39%削減している。
さらに、集合住宅専用モデルの販売を9月から開始する。集合住宅特有の設置環境に対応した省スペース設計で、メンテナンス性にも配慮したものとなる。これにより、マンションのZEHの標準化にも寄与していく構えだ。

電気とガスの利点生かし 負荷平準化・安定供給に貢献

同社では、ECO ONEの電気とガスの両方を利用する特長が、電力需要の平準化に利用できるのではないかと考えている。多くの原発が停止する中、エコキュートの販売台数は800万台を突破し深夜電力の使用量は増えている。一方、昼間は再エネの導入拡大が進み晴天時の供給量は増加傾向だ。「ECO ONEは電力供給量が過多のときは、ヒートポンプでお湯を沸き上げ、ひっ迫時はガスを利用することが可能で、時間とエネルギーの両方をシフトできる。この機能を活用し電力の平準化、安定供給に活用できるのではないか」と、柴田課長は話す。
ECO ONEのDR(デマンドレスポンス)活用――。そのためには一定の台数の普及が必要となる。同社では30年までに30万台の販売を目標に掲げる。この台数達成時にはDR活用が本格化しているだろう。

【特集2】豪雪地帯への太陽光導入 蓄電池併用し光熱費を大幅減


【デルタ電子】

豪雪地帯への太陽光発電導入は設置が難しくなかなか進んでいない状況だ。デルタ電子は独自の設置方法を開発。長野県野沢温泉村の店舗に太陽光と蓄電池を導入した。

長野県野沢温泉村は冬季の積雪が4mにおよぶ豪雪地帯だ。パウダースノーが楽しめる屈指のスキー場として世界的にも有名で、毎年多くのスキーヤーが訪れる。しかし近年は、「年々気温が上昇し、数十年前に6カ月あったスキーシーズンが徐々に短くなっている。名物の雪質にも影響が出始めている。観光が主産業の村には大きな打撃だ」。そう語るのは元プロスキーヤーで、現在は同村議員を務める上野雄大氏だ。

上野氏が運営する店舗と太陽光パネル


そんな状況に対して、上野氏は温暖化緩和に個人で少しでも貢献し、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーで村を活性化できないかと考えた。そこで昨年9月、デルタ電子に依頼して自らが運営するスキー用品などを扱う店舗に、太陽光発電と蓄電池を導入した。
豪雪地帯に太陽光パネルを設置するには工夫が必要となる。屋根に設置すると積雪の重みに耐えられないため、日光が当たる壁面に設置することになる。デルタ電子では金具メーカーのスワロー工業と共同で壁面設置用の架台を開発し実現した。壁面は屋根より設置するパネルが限られるが、悪いことばかりではない。雪が残る地面からの反射光がパネルに当たり発電出力を稼ぐことができるのだ。
デルタ電子エナジーインフラ営業本部の高嶋健マネージャーは「設置設備の定格出力は3・4kWだが、12月に降雪した地面からの反射光で1・2倍の4kWに達した。長年太陽光発電を手掛けているが、ここまでの高い出力は見たことがない」と驚いている。

小売り事業者を切り替え 電気料金を約3分の1に


蓄電池の活用においては、電力プランを中部電力ミライズのスマートライフプランに切り替えた。同プランは平日昼間が1kW時当たり38・71円、深夜が同16・3円。格安な深夜帯の電気を蓄電池にフル充電して、太陽光だけでは不足する午前中と夕方の電力消費を補う。これにより、使用電力の90%以上を太陽光と深夜電力で賄い、電気料金を設備導入前から約3分の1に削減した。
「再エネにより年間通して光熱費を削減できそうだ。メリットが確認できたら、村内での普及を目指したい」。上野氏はそう将来を展望する。
日本の国土面積のうち豪雪地帯が占める割合は51%、居住する人口も15%と占める割合は意外と大きい。再エネ未開の地をどのように開拓していくか―。今回の取り組みはその一歩になっていくに違いない。

【特集2】エネルギー危機への対応急ぐ欧州 変貌する家庭用市場の最新事情


欧州では昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー情勢が激変している。これを受けて、家庭用市場も新たな動きが出てきた。国内でも参考となる事例を専門家が解説する。

2022年2月、ロシアによるウクライナへの侵攻で欧州のエネルギー情勢は激変しエネルギー危機をもたらした。ロシアへの制裁措置としての天然ガス調達削減は欧州全体にエネルギー価格高騰による経済的な影響を与えるだけでなく、エネルギー供給途絶に対する心理的不安も与えた。
その後、欧州委員会は同年5月に「省エネ」「エネルギー調達先の多様化」「再エネ移行の加速」の三つを主要施策とするREPowerEU計画を提案。27年に向けてロシア産ガスの依存をゼロにするとともに、50年までに温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「クライメイト・ニュートラル」実現に向けコミットメントを強化している。
その結果、欧州のエネルギー市場においてはさまざまな動きが起きているが、今回家庭用市場にフォーカスし、新たな三つのトレンドと今後の日本市場への示唆について解説していく。

一つ目のトレンドは家庭用市場におけるヒートポンプ(HP)の普及拡大である。欧州の家庭用暖房システムはガスボイラーによる温水循環方式が一般的であり、温室効果ガス削減のためには、本領域における経済性の高い対策実施が重要となっている。従来ガスボイラーから温水循環型HPへの入れ替えは、初期投資およびランニングともにコスト上昇となり経済性が成立しなかった。しかしながら、天然ガス価格の高騰でランニングコスト差が相対的に減少したことにより、HP方式への転換による投資採算性が改善した。
その結果、21年の欧州におけるHPの販売台数は前年比30〜50%以上で急拡大している。今後のHP普及拡大に向けては初期投資コスト低減、工事施工作業者の育成、機器生産能力の確保など課題はあるが、REPowerEU計画においてロシアからのガス依存脱却に向けHPの普及は重要な施策と位置付けられているため、今後HPの普及はさらに拡大が予想される。
二つ目のトレンドはHEM(ホームエネルギーマネジメント)普及拡大だ。「クライメイト・ニュートラル」実現に向け家庭用市場においては、太陽光発電と蓄電池による自家消費比率の拡大、暖房・給湯領域の電化、EV充電設備の導入などが拡大しているが、これらの設備の導入に伴いHEMシステムの導入も拡大している。英国LCP Delta社の分析では、20年にはHEMシステムは欧州全体で年間22万件に導入されていたが、今後30年までに累計1000万件以上が導入されると予想している。
欧州でのHEMとは、家庭内でのエネルギーフロー全体のタイミング、使用量、組み合わせを自律的(自動的)に監視、制御、最適化する仕組みであり、快適性やCO2削減などの需要家の意向を最適化するだけでなく、外部からのエネルギー価格情報との連携により、需要家の経済メリット最大化を同時に実現するシステムである点が最大の特徴である。
また需要家の経済メリットでは、家庭内における自家消費の最大化、TOU(時間帯別料金)に基づく負荷シフトなどにより電力コストを最小化するだけでなく、電力システム(系統)側に需要家アセットを活用したDSF(デマンドサイドフレキシビリティ)を提供することで、TSO(送電管理・系統運用者)におけるアンシラリーサービス、小売り事業者やVPPにおけるインバランス抑制として活用し創出される金銭的価値の一部を需要家が共有することも含まれている点が重要なポイントだ。


欧州におけるHEMシステム全体像イメージ  出典:LCP Delta社資料より抜粋

ヒートポンプ需要拡大 HEMシステム導入進む

三つ目のトレンドは、需要家におけるリスク低減ニーズの拡大である。今回の欧州エネルギー危機の結果、欧州の家庭用需要家においては温室効果ガス排出量やコスト削減のニーズに加え、エネルギー価格高騰におけるリスク回避ニーズも拡大している。その結果、家庭用需要家の初期投資コストと運用コストの両方のリスクをサービス提供事業者が担保するEaaS(Energy as a Service)も新たに誕生している。例えば、オランダe-conic社などでは太陽光発電、HP、蓄電池、EV充電器などを初期投資不要で毎月定額で提供する家庭用向けのEaaSがスタートしている。これまで家庭用におけるEaaSの事例が少なかったが、今回のエネルギー危機で今後同様のモデルは拡大していくと予測されている。
欧州エネルギー危機による家庭用市場における新たな三つのトレンドについて紹介したが、国内市場においても同様なニーズが拡大すると想定される。
つまり家庭用エネルギー消費構造が太陽光発電や蓄電池、HP給湯機、EV充電の普及拡大に伴い電力消費比率が高くなる一方、今後も化石燃料の価格高騰リスクも継続すると想定されるため、欧州同様に家庭用需要家におけるエネルギーリスクへの不安は拡大すると想定される。
そのため、今後の国内家庭用市場でも欧州と同様に需要家宅内の快適性だけでなく、経済メリットを同時に最大化するHEMサービスや、初期投資コスト不要で太陽光発電や蓄電池、HP給湯機などを導入し月額定額で提供する家庭用EaaSビジネスのニーズは拡大すると予測される。
今後の市場環境の変化により、これ以外にもさまざまな新たなニーズが生まれるだろう。継続的な欧州市場の分析に基づく国内市場への事業検討は、今後さらに重要になっていくと見ている。

やまもと・ひでお 大手都市ガス会社を経て、2001年入社。エネルギー需要家に対するエネルギー・カーボンマネジメント構築支援や新規エネルギー事業立ち上げ支援などを担当。現在、英国企業と連携し、欧州の海外先進事例に基づき「デジタル」「フレキリビシティ」を活用した新規ビジネスモデル構築に関する支援に携わる。

【特集2】COセンサーで早期に発報 住宅火災の死者減少を目指す


新コスモス電機は一酸化炭素(CO)検知機能付火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」を開発した。

COは毒性が強い気体だ。その上、無色無臭で、煙よりも先に発生することもあるという。人間の五感では気付かず、吸い込むと頭痛やめまいなどの症状を引き起こす。これにより避難が遅れ、死に至ることも少なくない。実際、CO中毒は火災の死因の約4割に上る。

火災による死者数の増加から、全ての住宅への警報器設置が義務化されたのは、2006年のことだ。同年、新コスモス電機は国内初となる電池式のCO検知機能付火災警報器を開発。「火災による犠牲者を一人でも減らしたい」という思いのもと、改良を経て誕生したのがプラシオだ。

COセンサー付火災警報器PLUSCO

プラシオは従来の煙センサーに加え、COセンサーも搭載し、火災の発生を早期に知らせる。COがない通常時は、煙濃度5~15%/mで火災警報を発報。100ppmのCOを検知した場合は、煙センサーの感度が約2倍に上昇し、煙濃度2.5~7.5%/mで警報を発する。この機能は住宅用防災警報器に関する基準に基づき、光電式住宅用防災警報器(CO反応式)として、総務大臣からの認証を受けている。

また、より多くの設置を目指して、現代の住宅に馴染むよう設計。警報器としては斬新なキューブ型を採用しつつ、シンプルなデザインとなっている。新コスモス電機は、プラシオの設置拡大により火災での死者数減少を目指していく。

【特集2】ポイント交換で顧客満足度を向上 ガス機器の購入機会の創出も


【広島ガス】

広島ガスは、ウェブ会員サービス「MY HIROSHIMA GAS(マイ広島ガス)」を展開している。毎月のガス使用量と料金の確認ができるほか、家庭用の需要家には「広ガスポイント」が貯まる。

広島県の特産品と交換 イベントへの抽選応募も

広ガスポイントのサービスは、ガスの使用料金や警報器のリース料金など税込み100円の支払いで1ポイントがたまる仕組みだ。このほか、アンケートへの回答や購入したガス機器の種類に応じてポイントを付与。また、中国電力の電気と広島ガスのガスをセットで契約すると、中国電力の「エネルギアポイント」と広ガスポイントが年間最大で各500ポイント付与される。

たまったポイントは、商品との交換や抽選企画への応募に使うことができる。ほかに、スーパーや飲食店など180を超える加盟店で利用できる「広ガスクーポン」、エネルギアポイントや「広島広域都市圏ポイント(としポ)」への交換も可能だ。

地産地消をテーマに、ポイント交換商品は広島県の特産品50点ほどをそろえている。抽選企画では、広島東洋カープやひろしま美術館などのチケット、ABCクッキングスタジオでの料理教室への参加券などが当たる。料理教室は同社のガスを契約しているスタジオで行われ、この企画をきっかけにスタジオを利用し始めた人もいるという。

マイ広島ガスは2016年10月、広ガスポイントは17年4月にスタートした。昨年末には、サービス開始以来初の交換商品の大きな入れ替えを実施。交換しやすいポイント数の商品を充実させるなど、会員の目線を意識したという。また、ガス機器を販売する「広島ガスWEBモール」の利用者にはマイ広島ガス会員が多いこともあり、会員限定のシークレットセールの開催や、メールでセールを通知し商品購入につなげるなど、新たなアプローチを模索中だ。

昨年末にトップページもリニューアル

「ガス機器の買い替えスパンは長い。ウェブ会員サービスは、その間の顧客満足度を保つ手段でもある。しかし現状、サービスの周知ができていないこともあるので、ガス機器の販売施策とウェブ会員サービス全体の親和性を高めると同時に、お客さまとの接点機会での周知を徹底していきたい」と、エネルギー事業部販売推進部プロモーショングループの宮堂太朗マネジャーは意気込む。

広島ガスでは23年2月に、約3年振りとなる実会場でのイベントを開催。ガス機器の購入者はもちろん、来場者に対しマイ広島ガスや広ガスポイントサービスを広く案内していく。

【特集2】大規模案件を次々実現 オンサイトPPA事業を拡大


【テス・エンジニアリング】

テス・エンジニアリングは、事業の新たな柱として太陽光発電のオンサイトPPA(電力購入契約)事業に注力している。2022年2月のウクライナ侵攻によって、エネルギーを取り巻く状況は一変している。電気、ガス、石油などのエネルギー価格が総じて上昇し、製造業を中心に経営を圧迫する材料となっている。一方で、50年カーボンニュートラル達成に向けた取り組みも待ったなしで求められている。
そうした中にあって、「導入コストを最小限に抑えて再生可能エネルギーを導入できるPPAモデルは、事業採算性の合うスキームとして従来にも増して注目されています」と髙崎敏宏社長は現状を説明する。
同社では、エネルギーサービスや燃料転換などの事業でエネルギー多消費産業の顧客を多く抱えている。その強みを生かし、オンサイトPPAの導入を提案、工場の屋根などに太陽光を設置してエネルギーの自家消費を促している。
22年5月には、調味料や食品エキス製造を行うアリアケジャパンの九州第1工場(長崎県佐世保市)、第2工場(同北松浦郡)では、第1工場に667・5kW、第2工場に1421・8kWの太陽光発電を導入した。工場の屋根だけでなく、工場の駐車場にカーポートを新設し、その上に太陽光パネルを設置することで発電量を増やしている。

アリアケジャパンの九州工場


23年2月には、DMG森精機の最大拠点である伊賀事業所に1万3400kWが稼働を開始する。第1期工事で5400kW分が開始となり、25年2月に完了予定の第2期で約8000kWが発電開始となる。電力の全量を同事業所に供給することで、同事業所の年間電力需要量の約30%を賄う。また、CO2排出量は年間約5300tを削減できる見込みとのことだ。
PPAでは、工場への設置以外にも物流倉庫への設置も進めている。工場は電力を消費する需要があるが、物流倉庫の場合は屋根に設置した設備分の発電量を消費するほど需要がないケースもある。そこで、自社の小売り電気事業などで培ったノウハウを応用し、需給管理サービスとして自家消費だけでなく、余剰電力を他の倉庫へ供給したり、市場への売電や環境価値の有効活用などもサポートする。


本番はFIT終了後 100%再エネ電気供給

FIT認定の太陽光発電所については、現在も新規建設を進めるほか、セカンダリ案件の取得にも注力している。これらの発電所は20年のFIT期間終了後も活用していく方針だ。「再エネ事業が本番を迎えるのは、FIT期間が終了した後だと考えています。FITが切れた太陽光発電所の系統接続権を生かし、エンドユーザーに100%再エネの電気を供給していく方針です」。髙崎社長はそう意気込む。
今後もエネルギーコスト低減や脱炭素化といった顧客ニーズをキャッチアップしていく構えだ。

【特集2】複数拠点間での再エネ融通を最適化 環境価値の調達コストも削減可能


【三菱電機】

三菱電機は、再エネ設備の導入で脱炭素化を図る企業をサポートする。将来的には、自拠点間にとどまらない環境価値融通の場の創出を目指す。

横浜にオフィスを構える三菱電機の電力システム製作所電力ICTセンターには、同社が誇る電力・情報・通信技術を担うエンジニアが集結。先進的なソリューション創出のための開発を行っている。

電力ICTセンターはこのほど「マルチリージョン型デジタル電力最適化技術」を開発した。工場など複数拠点間における再エネ由来電力の融通を最適化し、企業の脱炭素化目標の達成を支援する。今後、同社の電力市場向けソフトウェア製品「BLEnDer」シリーズとして展開中の「再エネ発電・需要の予測」や「電力計画の作成・提出」といった機能と組み合わせた検証を行う。2023年4月には、クラウドサービス型ソリューション「マルチリージョンEMS」として提供を開始する予定だ。

30分単位で環境価値を管理 脱炭素化目標の達成を支援

近年、脱炭素社会の実現に向けて、サプライチェーンにおける再エネ導入が進められている。実際に欧米では、カーボンフリー電気で製造した製品でないと購入されないケースもあるという。こうした流れの中で、再エネを導入する企業は増加傾向にある一方、設備の設置スペースや電力の安定的な確保といった課題を抱える企業も少なくない。

これらの課題に対し、マルチリージョンEMSは電力融通と蓄電池運用で脱炭素化目標を達成する計画を策定。再エネ・需要予測や環境価値証書の価格などから、再エネ電力の自拠点内での消費、蓄電池への充電、自己託送制度を利用した別拠点への融通などの組み合わせを最適化する。環境価値調達のコスト削減も可能となる。

同システムの環境価値の管理業務は主に①脱炭素目標の設定、②需給計画の作成、③目標達成計画の表示、④目標達成計画の監視、⑤30分値の可視化、⑥最終結果の確認とレポート出力――の六つのステップで構成される。特にポイントとなるのは、⑤30分値の可視化だ。一般的には、カーボンフリー化のための環境価値は年間で管理し、月間の電力消費量に見合った分を購入する。一方、同システムでは30分単位で環境価値を管理。再エネで発電した電気と環境価値でカーボンフリー化した電気を区別することができる。拠点ごとに求める再エネ由来電力の条件が異なる場合や、設備導入の戦略検討などにも有効だ。

電力デジタルエナジーシステム開発部の塚本幸辰部長は「クラウドサービスなので、国内外問わず利用できる。参加企業が増えると、自社の拠点間だけでなく企業間での環境価値のやりとりも可能になる。そうした場として提供することで、環境価値の管理が普及していく」と今後の展望を語る。企業の脱炭素化と環境価値市場の成熟に資する同システムの実装に期待が高まる。

【特集2】エネルギービジネスの主流に 系統用蓄電池の未来を占う


【系統用蓄電池編】再生可能エネルギーが普及する中、系統用蓄電池の発展は必然だろう。だが課題も多く、普及拡大にはまず価格の低下が必須になる。

系統用蓄電池が、エネルギービジネスのメインストリームの一つなりつつある。国が今後の「主力電源」と位置付ける再生可能エネルギーには、出力を一定状態に保てないという欠点がある。その欠点を補い再エネの持つ力をフルに活用するには、系統に接続し、必要に応じて充放電を行う蓄電池の存在が不可欠。今後、太陽光発電、風力発電などの普及に拍車が掛かる中、系統用蓄電池ビジネスが大きく進展していくのは必然といえるのだ。
系統用蓄電池に期待されるのは、まず調整力の役割だ。再エネ電源が増えれば、周波数の乱れなどが生じやすくなる。必要に応じて放電することで、周波数を整え系統を安定化させることができる。
限界費用がゼロに近い再エネの電気を使い切り、夏冬のピーク需要時の電力不足を補うためにも欠かせない。需要を超える発電量の時は、その電気を一時的にため、電気が足りない時に放電する。
では、どう具体的にマネーを生み出すのか。系統用蓄電池が参入し、価値を発揮できるのは次の市場だ。①日本卸電力取引所(JEPX)におけるkW時(電力量)、②容量市場におけるkW時(供給力)、③需給調整市場における⊿kW(調整力)―。
系統用蓄電池の市場には、既に大手電力だけでなく、住友商事、ENEOS、オリックス、NTTアノードエナジーなどが参入を表明している。これらの市場でどうビジネスを拡大させていくか、各社は知恵を絞っている。


北海道で申し込みが殺到 系統安定化に貢献せず


とはいえ、まだ課題も多い。今各社が最も力を入れているのは北海道エリアだ。調整力が足らず、需給調整市場で、再エネの出力変動を調整する「三次調整力②」に他エリアよりも高い値段がつくためだ。その弊害が露呈し問題化している。北海道電力ネットワークに対し、各社による系統用蓄電池の接続検討申し込みが殺到。2022年7月時点で61件・160万kWと、エリアの平均需要(約350万kW)の半分近くに達してしまったのである。
また、確実に系統につながり送電できるファーム型接続に申し込みが集中。「系統用蓄電池にはノンファーム型接続により混雑を解消することが期待されていたはず。系統混雑を増やしては本末転倒」(岩船由美子・東京大学特任教授)と批判を浴びている。
経済産業省の審議会はこれらの課題について検討中。いずれ解消されるだろう。だが、最大の課題が残っている。蓄電池が高価であることだ。
「系統用蓄電池の普及拡大を左右するのは、事業者の接続負担金を含めた導入コスト」。ある関係者はこう断言する。メーカー各社は価格を引き下げに努力を重ねているが、まだまだ値段は高い。蓄電池の特性を最大に生かすルール策定と価格の低下―。この二つが系統用蓄電池ビジネスの浮沈のカギを握っている。

【特集2】燃料高騰で再エネニーズ急拡大 新ビジネスで開発案件が増加


再生可能エネルギーの需要はこれまでにも増して高まっている。大規模開発には厳しい目が向けられつつも新たなビジネスモデルが続々登場している。

「2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流。以降、世の中の再生可能エネルギーに対する印象が大きく変わった」。開発事業者の幹部がそう語るように、この数年で太陽光や風力に良いイメージを持つ人の割合が大きく減った。代わりに、発電所を建設するための盛り土への懸念、山を切り開く自然破壊、風車が風を切る音の被害など、問題が一気に噴出してきた。制度面ではFIT(固定価格買い取り制度)からFIP(市場連動価格買い取り制度)に移行し市場に統合されることによって、投資インセンティブの確保が難しくなるなど、事業の採算性が厳しくなったともいわれている。

PPAモデルが活況 中小型太陽光の開発進む

そうしたマイナス要因がありつつも、再エネビジネスは50年の脱炭素化に向けて長期にわたり再エネ電気を求めるニーズがこの1年で顕在化しているほか、ウクライナ侵攻によってエネルギー価格が高騰している影響で、需要家側から見て、従来のエネルギーコストと比較しても見合うサービスが登場。導入を前向きに検討する動きが活発になってきている。
太陽光では、PPA(電力購入契約)による自家消費モデルの導入が増えてきた。工場など電力需要の多い企業では屋根を利用して自家消費するオンサイトPPAを採用する。コージェネや自家発電設備を所有する需要家には、再エネの出力変動を吸収しながら安定的に電力を供給するスキームをエネルギーサービス会社が扱う。
都市部など設置スペースがない需要家向けには、遠隔地の中小型太陽光を複数地点まとめて所有し、供給を受けるオフサイトPPAが活況だ。中小型太陽光は低圧から高圧の設備が主流で、系統接続の障壁もメガソーラーに比べると低い。短工期で建設できるため事業者の負担も軽く、需要家もすぐに手に入る。その手軽さが評判だ。

太陽光は中小型の開発が盛んだ


風力では洋上風力への期待が高い。一般海域に設置するための再エネ海域利用法が制定され、事業者の「占用公募制度」が創設された。国が一定の条件を満たした海域を洋上風力の「促進区域」に指定し、その区域であれば、事業者は最大30年間独占して事業ができる。23年度に実施する着床式洋上風力発電事業の入札「ラウンド2」では、秋田県沖など合計4カ所が対象となる。この動向に注目が集まっている。
開発に厳しい目が向けられつつも、再エネニーズはこれまで以上に高まってくるだろう。その要求に応えるように、新規ビジネスが今後さらに登場すると見られる。