
【終了】第3回「プロジェクトE~エネルギーDX・GX時代を切り開く」

カーボンニュートラル(CN)社会を実現する中で、石炭火力発電の在り方が見直されている。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、天然ガスの需給がひっ迫し価格が高騰。各国は石炭火力の新たな活用策を探っている。
石炭は他の化石燃料と比べ、採掘できる年数が長く、存在している地域も分散している。またLNGと比べ、市場価格は低く安定しているため、調達コストを抑えることが可能だ。
しかしながら、昨年は石炭の市場価格も高騰した。ウクライナ情勢に加え、それ以前からの石炭権益への投資不足や主要産炭国での人手不足といった要因が重なった結果だ。こうした中、一部の大手電力会社は長期契約に加え、短期・中期契約やスポット契約調達などを組み合わせることでコスト抑制を図っている。使用する石炭の品種も見直している。高品位炭限定ではなく、低・中品位炭の調達も視野に入れ始めた。
石炭火力には、LNG火力と比較してCO2排出量の多さに加え、SOX(硫黄酸化物)、NOX(窒素酸化物)、すすや燃えカスなどの煤塵といった大気汚染物質の発生量も多いという課題がある。ゆえに、西欧では、将来的な廃止を掲げる国が多い。しかし、電力安定供給のため、中長期的には脱石炭の方向性には変わりないものの、石炭火力を短期的に再活用する方針が示されている。同時に、火力発電の脱炭素化技術の開発も加速中だという。
日本では東日本大震災以降、発電量全体における原子力の比率が大きく低下した。代わりに、LNGと石炭火力の比率は大きく上昇。石油も含めた火力全体の発電量は約7~8割に上る。また、日本はエネルギー資源が乏しく、海外から安定的に調達できる石炭を活用していく必要がある。
高度成長期から40年以上にわたり、環境対策技術や効率的な燃焼方法の開発など、環境負荷の低減に取り組んできた。大気汚染物質の90%以上を除去できる日本のクリーンコール技術は、世界トップクラスといえる。加えて、発電所の新設やリプレースにも取り組んでいる。非効率的な古い石炭火力を、新しく高効率なものに替えることで、CO2の排出量を減らすことが可能だ。
クリーンコール技術の中では、IGCC(石炭ガス化複合発電)に注目が集まる。Jパワーと中国電力が進める酸素吹きIGCCプロジェクト「大崎クールジェン」では、石炭から精製したガスでガスタービンを、ガス精製・燃焼時の熱を利用する蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。さらに、石炭から精製したガスをもとに水素を製造。ガスの主成分である一酸化炭素(CO)と水素(H2)を蒸気(H20)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離・回収する。
その後、つくった水素を用いてガスタービンに加え、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を稼働させ、発電効率をさらに高める試みを進めている。
さらに、発電時に排出されたCO2を回収するプロジェクトも進行中だ。具体的には、回収したCO2を地下に貯留するCCS(CO2回収・貯留)や、貯留するだけでなく有効利用するCCUS(CO2回収・利用・貯留)などがある。関西電力の舞鶴発電所では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から採択・委託を受け、二つの実証事業を行っている。
一つ目は、川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)と共同で実施するCCS実証だ。舞鶴発電所に、省エネルギー型CO2分離・回収システムの試験設備を設置し、燃焼排ガスからCO2を分離・回収する。この実証は「固体吸収法」という、表面にCO2を吸着する物質をコーティングした固体吸収材を用いた手法で行われる。従来の技術と比較して、CO2分離に要するエネルギーを約40%以上低減することを目指している。
二つ目は、日本CCS調査(JCCS)と共同で実施するCO2の輸送だ。CO2の排出地と貯留地・活用地は離れているケースが多く、安全かつコストを抑えた輸送技術の確立が求められている。この実証では、舞鶴発電所で排出されたCO2を液化し、北海道の苫小牧市に新たに建設される基地まで船舶で輸送する。CCUSを目的とした液化CO2の船舶輸送実証は、世界初となる見込みだ。
石炭を海外から運搬する船の脱炭素化も進められている。商船三井が開発した「ウインドチャレンジャー」は、帆で捉えた風を推進力に変えることで化石燃料の使用を抑える装置だ。新造船・既造船を問わず搭載できる。北米やオーストラリアなどから石炭を輸送する、東北電力の石炭運搬船「松風丸」の場合、航路によって約5~8%以上の燃費を削減可能だ。
燃焼技術そのものの向上はもちろん、排出されたCO2の有効利用といった関連技術の開発・実証が進む。脱炭素社会の実現と安定供給の両立に石炭をどう利用していくか―。そのための取り組みが注目される。
ベースロードとして、重要な役割を果たす石炭火力。この安定供給維持に欠かせない電源においても、2050年のカーボンニュートラル(CN)達成に向けては、CO2排出量削減を図る取り組みを進めていかなければならない。その有力候補の一つがCCS(CO2の分離・回収)だ。CCSはこの数年でCN達成に必要不可欠な技術であるとの認識が世界的に急速に広がりつつあり、日本においてもさまざまな実証が立ち上がっている。
石炭火力におけるCCSの取り組みは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業「CO2固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」と「CO2船舶輸送に関する技術開発および実証試験」がある。現在、二つの実証は関西電力の舞鶴発電所(出力180万kW)を舞台に展開中だ。
固体吸収材を用いた実証は、川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)が実施する。舞鶴発電所の敷地内に省エネルギー型CO2分離・回収システムのパイロット設備を建設。発電所の燃焼排ガスの一部を利用し、川崎重工の「KCC移動層システム」とRITEのCO2用固体吸収材を用いてCO2を分離・回収する。
分離・回収には、これまでアミン水溶液を用いた吸収法が採用されてきた。ただ、CO2を吸収したアミン水溶液からCO2を分離するには、110℃程度の処理熱が必要になる。これに対し、実証するRITEの固体吸収材では同60℃程度まで低減できる見込みだ。NEDO環境部次世代火力・CCUSグループの布川信主任研究員は「CCSの課題の一つにコスト低減がある。固体吸収材によって熱処理温度を大幅に下げることができればコスト削減につながる」と期待する。
固体吸収材はCO2を吸着する性質を持つアミンを含有した球型多孔質セラミック材料で、これをKCC移動層システムに入れ込む。同システムには三つの工程があり、吸収塔で固体吸収材を用いて排煙からCO2を回収し、再生塔で吸収材に蒸気を流してCO2を分離。乾燥塔で吸収材を乾かした後に吸収塔に戻して再利用する。これを循環させて行う。
今回、舞鶴発電所に建設する実証設備の処理能力は日量40t規模。実証ではシステムの運用性や信頼性の評価、さらに固体吸収材の製造やプロセスシミュレーションなど基盤技術を開発し、固体吸収材の適用性拡大を図る。
CO2船舶輸送実証は、日本CCS調査、エンジニアリング協会、伊藤忠商事、日本製鉄の4者が実施する。舞鶴発電所から排出されたCO2を液化して北海道苫小牧市まで専用船を使って、出荷・輸送から受け入れまで行い、一貫輸送システムの確立、船舶輸送の事業化調査を実施する。年間1万t規模の輸送を行う計画だ。
CO2船舶輸送においても低コスト技術の開発が鍵となる。「液化CO2を低温にすれば、輸送タンクへの圧力を低下でき、タンクの肉厚を薄くしコスト削減を図ることができる。最適な温度・圧力条件を探していく」(布川主任研究員)
輸送船は三菱造船が建造した。エンジニアリング協会が、船主である山友汽船から傭船、研究開発設備である液化CO2の舶用タンクシステムを搭載し運用する。
固体吸収材と輸送船の実証は連携しており、固体吸収材を使って回収したCO2を液化して、ローディングアームで輸送船に搭載して苫小牧市まで運んでいき、降ろして貯蔵タンクに入れる工程までを実証する。
実証の場を提供する関西電力もCCS実用化に向けて取り組みを1990年代から進めてきた。CO2回収装置の研究を三菱重工エンジニアリングと共同で実施。南港発電所(大阪市)にパイロット設備を建設して、吸収液「KS1」を開発した。現在までに「KS21」まで更新され、回収設備は商用化されている。
昨年3月には、国の50年CN宣言を受けて「ゼロカーボンロードマップ」を発表。火力発電の脱炭素化に向けた手段として水素・アンモニア発電、CCSを挙げた。CCSは分離・回収、輸送、貯蔵のバリューチェーン全体に関わっていくことも含め検討を進めている。今年1月には、三井物産と貯留に関する事業性調査の覚書を締結。関西電力が運営する火力発電所から排出されるCO2を対象として、関西電力が回収、三井物産が輸送・貯留を主に担当し、バリューチェーンを一気通貫した事業性などを調査・検討する。
加えて、川崎汽船と液化CO2の船舶輸送に関する共同検討について覚書を締結しているほか、CCSバリューチェーンの事業性調査をエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から受託している。
「50年CN達成からバックキャストして検討を行う中で、あらゆる技術の進歩に期待している。CCSは実用化するにはコスト低減など課題はたくさんある。一つひとつ解消して実用化にこぎ着けたい。NEDOの実証では、バックアップする役割を担い、良い成果を上げることを願っている」。関西電力火力開発部門脱炭素技術グループの山本哲生チーフマネジャーはこう話す。
電力事業者から見れば、CCSをはじめとしたCN達成に向けたコストは追加でかかるものであり、前述のように可能な限り低減していく必要がある。元来、発電コストが安い石炭火力で、CCSを実現することへの期待は大きい。
(舞鶴発電所は3月14日に火災事故が発生したが、運用を再開。同社への取材は3月6日に行った)
国内での水素利用は、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」をはじめとした乗用車がけん引役となって始まり、水素ステーションなど関連施設の整備も進められた。現在、そうした動きに加え、トラックやトレーラーなど大型車両分野の開発・普及に向けた目標が設定されつつある。水素ディスペンサーにおいても、大型車両に合わせた高圧・大流量品の開発が始まっている。
こうした次世代品の開発を加速させるため、トキコシステムソリューションズは昨年9月、水素先端技術センターを開設した。設備には従来比5・5倍の吐出能力を有する圧縮機、同2・4倍の蓄圧器、同5・5倍の模擬充填タンクなどを導入。これにより、従来比3倍以上の大流量充填が実現し、乗用車など小型FCVでは3分程度、大型トラックでは10分程度で済ませる時間短縮技術や、1台のディスペンサーで乗用車とトラックなど異なるサイズの2台の車両に同時に水素を供給する充填技術、圧縮機や蓄圧器などのステーション機器の効率的な運転制御技術などの開発を手掛けている。さらに、出荷前試験の能力も従来の1カ月当たり最大6台から同20台へ引き上げた。
開発テーマのうち、FCVへの2台同時充填は、蓄圧器にためた水素をFCVタンクとの差圧を利用する。従来設備のまま2台同時に充填すると、タンクの圧力が低いFCVの方に水素が流れていき、先に充填しているFCVは待たされてしまう。設計開発本部の榧根尚之担当本部長は「圧縮機、蓄圧器の台数を増やせば解決するが、コスト増を最小限に抑えることが求められる。その解を見つけていく」と話す。
このほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」にも参画する。昨年度、整備された「福島水素充填技術研究センター」(福島県浪江町)で、大型車両への大流量水素充填技術や計量技術の開発・実証を行っている。ここでも、大型車両への充填時間を短縮することを目指している。
「従来のトラックなどが軽油を給油するのにかかる時間と同等の所要時間がターゲットだ。大型車両向けでは、1台のディスペンサーから2本のノズルで同時充填する開発を進めている。これは従来のトラックが軽油を2本のノズルで給油しているのと同様の考えだ」(榧根氏)
大流量に向けては配管など周辺技術の開発も進める。エンジニアリングも手掛けるトキコならではの取り組みだ。FCVの普及には水素供給を支える設備側の取り組みも不可欠であり、同社から目が離せない。
企業のカーボンニュートラル(CN)への取り組みが活発になってきた。特に製造業では工場のCN化を求められる可能性が高く、対応策を検討する企業が増えている。こうした中、エネルギー事業者にもCNに対応するサービスや製品の展開が求められるようになってきた。
東邦ガスは昨年3月に中期経営計画を発表、この中でCNの推進を掲げた。具体的な施策として、水素をガス・電気と並ぶエネルギーの軸として位置付け、サプライチェーン構築に向けた需要創出と供給体制整備の両面から取り組みを展開し、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立するとしている。
供給面では、同社の知多緑浜工場内に2024年までに日産1・7tの能力を有するプラントを建設し、水素供給を開始する。その後、同地域の水素需要の拡大に合わせてプラントの規模を同5t程度まで拡充していく計画だ。水素製造時に発生するCO2は、当面はクレジットの活用により相殺しつつ、分離回収・利用することも計画している。
さらに、水素の輸送・供給や消費の分野で知見・ノウハウを持つ企業とのアライアンスを進め、水素の普及拡大に向けた基盤を構築し、将来的には、知多緑浜工場を海外輸入水素の受入拠点とすることを目指す。
需要創出では、21年4月に自動車や機械などの金属部品製造の熱処理工程で利用される都市ガス用シングルエンドラジアントチューブバーナーの水素燃焼技術を開発した。
水素燃焼は都市ガスに比べて火炎温度が高いことから、NOX(窒素酸化物)排出量の増加やバーナー部品の劣化が課題となっている。同製品は水素燃焼時の排ガスを再循環させることで、都市ガス燃焼時と同等のNOX排出量と耐久性を実現した。
さらに、循環する機構とバーナー本体部と脱着交換できる仕様になっており、都市ガスから水素に移行する際に、バーナー一式を交換するよりも手間やコストを抑えることができる。部品コストは同社の標準的なバーナー本体部の10分の1程度で済むとのことだ。
製品開発に加え、21年10月からは水素燃焼試験サービスを開始した。同社技術研究所に顧客が生産現場で使用するバーナーや炉を持ち込んでもらい、水素燃焼試験を行うものだ。
「CNに向けて顧客の関心は高まっているものの、水素試験を自前で行うには、供給施設を新設するなどコストがかかる。従来と異なる火炎のコントロール、安全面への配慮なども必要になるため、これまで水素を取り扱っていない事業者にとってはハードルが高い。そこで、このサービスを利用すれば大きな費用負担なく、水素燃焼試験を実施できる」。産業エネルギー営業部営業推進グループの柘植紀慶係長は同サービスの特長をこう説明する。
試験には燃焼に関するノウハウを持った技術員が立ち会い、使用する供給設備などは水素の特性を考慮した安全対策が実施してある。
試験はまず顧客が持ち込んだバーナーが水素燃焼への対応が可能か不可能か、不明の場合は確認する。そして、①燃焼安定性、②火炎長・火炎温度、③ノズル・ボディ温度、④燃焼前後の外観、⑤排気組成―などを計測・確認していく。
水素は燃焼速度が速く、火炎温度が高いという特徴がある。都市ガスバーナーで燃焼温度が12
00℃の場合、水素では1400℃に相当し、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナーの部品が劣化しやすい。さらに燃焼速度が早いため逆火が発生する恐れもある。
サーモグラフィーの写真(図1)は試験時の火炎の様子だ。都市ガスと比較して水素の火炎は中央部が薄い赤色をしている。これは水素が高温で燃焼していることを示す。NOX対策では、空気比(燃焼用の空気の割合)や出力を調整することで最適化を図っていく。
水素の火炎は都市ガスのように目視で確認できない(図2)。都市ガスでは炎を見て燃焼状態の調整が可能だが、水素ではそれができないため、排ガスの酸素濃度などを確認しながら調整する必要があるなど、運用面でも違いが出てくるとのことだ。
長谷川順一マネジャーは「製造業を中心に10社以上が同サービスを利用している。水素への関心が高い顧客は、製造現場での検証に着手している。新規の問い合わせも増えてきた。今後さらに増えていきそうだ」と、手応えを感じている。
同サービスによって得た結果から、企業は水素導入に向けた具体的なシナリオを描くことができる。こうしたCNに向けたサービスは、一段と関心が高まりそうだ。
山梨県と東京電力ホールディングス、東レの3者は昨年2月、共同開発を行ってきた再生可能エネルギー由来の水素を製造するパワーtoガス(P2G)システムを扱う事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立した。同システムは再生可能エネルギーを用いて水素を製造することが可能。カーボンニュートラル(CN)を目指す企業を中心に導入の決定が相次いでいる。
その動きに国も注目。岸田文雄首相、菅義偉元首相、西村康稔経済産業相など、この1年で新旧5人の閣僚が実証拠点である米倉山電力貯蔵技術研究サイト(甲府市)を訪れたという。同地を見学した岸田首相は「国産水素の大規模な供給拠点の整備は我が国にとって重要。政府としても後押しする」とコメントしている。
昨年9月には、山梨県とサントリーホールディングスがサントリー白州蒸留所と南アルプスの天然水白州工場の脱炭素化に向けて、大容量・モジュール連結式のP2Gシステムを導入する発表した。国内最大級となる1万6000kW規模のシステムを構築し、年間で2200tの水素を製造、これを燃料として利用することで、1万6000tのCO2削減を図るとのことだ。
「海外でも水素実証が進んでいる。2万kWクラスの水素製造設備を入れて実証を進めている拠点が5カ所程度ある。だが、水電解装置に使う膜が異なる。YHCが利用する東レが開発した固体高分子(PEM)型電解質装置の電解質膜は海外製より約2倍の水素を取り出せる。サントリーに導入するシステムの水素製造能力は世界最大になるだろう」。山梨県企業局電気課新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長はこう胸を張る。
海外展開も視野に入っている。スズキと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国際実証事業として、インドの工場へのP2Gシステム導入に向け、水素需要やコストなど調査し導入検討に入った。このほか、スコットランドでも導入に向け検討に入っている。
今年4月には、P2Gの拠点である米倉山に建設した「次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ」が稼働を開始する。YHCのほか七つの企業や団体が入居し、水素・燃料電池の研究を行う。東京から技術研究組合のFC―Cubicも移転して研究を進める。P2Gシステムからパイプラインを引き、同施設に送りグリーン水素を用いてさまざまな研究が行われる予定だ。
水素利用の面でも注目を集めている。半導体装置のコンポーネント製造や食品加工の分野でもCN達成を見据え、導入検討が進んでいる。昨年3月には、自動車レース「スーパー耐久シリーズ」に参戦するトヨタ自動車の水素エンジンカローラの燃料として、YHCで製造したグリーン水素を提供した。「水素提供はエネルギー関係者以外から反響が大きく、YHCを知ってもらう良い機会になった」(宮崎氏)。
紹介した事例はこの1年にあった出来事で、話題を呼ぶ内容が目白押しだ。同社の快進撃がうかがえる。今後は、P2Gシステムの導入企業を増やしていくのと並行して、導入が決まったプロジェクトを着実に立ち上げて成果を上げていくことに注力していく方針だ。
三菱重工業では、水素だきガスタービン複合発電(GTCC)の開発を進めている。これまで大型ガスタービンで天然ガスに水素を30vol%(1vol%=1万ppm)混ぜて使用できるガスタービン燃焼器の開発を完了し、水素混焼割合を50vol%まで拡大した燃焼試験を実施した。さらに、中小型ガスタービン用の燃焼器で水素100%専焼(ドライ式)の燃焼試験を実施し、得られた知見を大型ガスタービン用の燃焼器にも展開して開発を進めている。また、米国の既設の高効率・大型GTCC発電プラントにて水素20vol%混焼の実証試験にも昨年成功した。これらを皮切りに、実機での実証試験を進めて早期の商用化を目指している。
水素ガスタービンは、既設の天然ガスだきガスタービンの燃焼器の交換と燃料供給系統の一部改造のみで対応可能となるため、開発のキーポイントは水素だきに対応できる燃焼技術と燃焼器となる。
水素は天然ガスと比較して燃焼速度が速く、従来の拡散燃焼器に比べてサイクル効率が高い予混合燃焼器(燃料に空気をあらかじめ混合し燃焼器内に投入する方式)で混焼・専焼させた場合、天然ガスのみを燃焼させた場合よりも逆火(フラッシュバック)の発生リスクが高くなる。そのため、逆火発生の防止に向けた改良を中心に、低NOX化や安定燃焼化を実現する燃焼器の開発を進めている。
水素だき燃焼器の開発を進める中、発電に利用する水素を確保しガスタービンの運転実証を行う機会は少ない。そこで、三菱重工はガスタービンの開発・製造拠点を置く高砂製作所(兵庫県)に、水素製造から発電までにわたる技術を世界で初めて一貫して検証できる「高砂水素パーク」を、構内の実証設備複合サイクル発電所に隣接させて整備している。
水素製造に関しては、水電解装置を導入するほか、メタンを水素と固体炭素に熱分解することによりターコイズ水素を製造するなど、次世代水素製造技術の試験・実証を順次行う。
また、大型ガスタービンについては最新鋭機種であるJAC形を用いて水素混焼発電を実証するほか、中小型ガスタービンでの水素100%専焼も、H―25形ガスタービンでの実証を行う予定である。高砂水素パークでの実機実証を経て、共に2025年までの水素ガスタービン商用化を目指している。
三菱重工は脱炭素分野での実績を誇るリーダーとして、水素ガスタービンの開発・商用化を通じてグローバル社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献していく。
東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、ノリタケカンパニーリミテドと共同で、水素燃焼式のリチウムイオン電池(LiB)電極材用連続焼成炉「C-SERT-RHK-Nero(シーサートRHKネロー)」を開発した。特殊なセラミックを用いた水素燃焼ラジアントチューブバーナーを採用した世界初のLiB電極材用焼成炉だ。
連続焼成炉は大容量のもので全長40m、百数十台のラジアントチューブバーナーが並ぶ。あらかじめ設定された温度環境の中を、製品がローラー搬送により連続で通過することで、高品質な熱処理を行う。東京ガスグループの研究施設「アスラボ」では、その一部分を切り出した試験炉で顧客のニーズに合わせた検証を行っている。
ネローの主な特長として、燃焼時のNOX(窒素酸化物)の抑制と高い耐熱・耐蝕性がある。水素専焼はCO2が発生しない一方、火炎温度が高く燃焼速度が速い。そのため、NOXが発生しやすいという課題があった。この課題に対し、これまで開発してきた省エネバーナーの独自技術である「二段燃焼技術」や「自己排ガス再循環技術」を応用し燃焼をコントロールすることで、NOXの発生を抑制している。
また、従来の炉の課題であった耐熱・耐蝕性ついては、特殊セラミックを用いることで解決した。ネローに搭載されたラジアントチューブは、1300℃の炉内温度に対応可能であり、LiB電極材の焼成時に発生する特殊腐食雰囲気にも強い耐性を有している。
シーサートRHKシリーズはネローのほかに、都市ガス燃料型の「C-SERT-RHK(シーサートRHK)」と、電力対応型の「C-SERT-RHK-Fos(シーサートRHKフォス)」がある。どちらも、ネローと共通のセラミックラジアントチューブを採用している。
「ネローで培った技術を生かして、燃焼や炉の操業に関する技術など、カーボンニュートラルに向けたトータルエンジニアリングを行っていきたい」と、エンジニアリング本部燃焼システム部新商材開発・営業グループの米島正人マネージャーは意気込みを語る。
今後、LiB分野にとどまらず、高温域での熱処理が必要な自動車用超高張力鋼板等や通信機器、セラミックなどの分野への展開も目指すという。現状では水素は高価なため、省エネ化検討をはじめ、都市ガスとの混焼でエネルギーコストを削減したり、試験炉を用い実際に水素燃焼でテストを実施するなど、脱炭素化のための提案をしていく方針だ。
石川県は2022年3月に「石川県カーボンニュートラル産業ビジョン」を発表した。経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で示された、今後成長が期待される14分野を踏まえて策定。脱炭素化を推進する産業を支援し、その成長を促すことが目的だ。中でも、製造、輸送、利用それぞれの段階で県内企業の参入が見込まれる水素には、脱炭素化のキーテクノロジーとしての期待が高まる。
「能登スマート・ドライブ・プロジェクト」では、「能登の里山里海」が11年6月に世界農業遺産に認定されたことを契機にプラグインハイブリッド車で能登半島を周遊できるプロジェクトを実施した。認定10周年を迎えた21年には新たな展開として、燃料電池車(FCV)を用いた水素利用に関するプロジェクトを開始した。能登の「のと里山空港」と金沢の「産業振興ゾーン」に、県内初の水素ステーションを整備。最大の特徴は、水素を再エネ由来の電力による水の電気分解で、オンサイト製造すること。水素製造能力に限界があるが、「エリア内のFCVの普及台数などを考慮し、ステーションの運用上、必要十分」と、県内の水素利用のFS(事業化調査)を実施した日本環境技研は説明する。
両地点とも水素供給能力1時間当たり50Nm3以下の小規模ステーションとなる予定だ。オフサイト型の中規模ステーションと比較して、大幅なコストダウンも実現したという。「県内にステーションが初めて整備され、FCVの普及はこれから」という石川県の現状を踏まえた整備だ。
水素はカーボンニュートラル(CN)の達成に必要不可欠なエネルギー源だ。そして2050年脱炭素社会の実現だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻で一変した世界情勢において、エネルギーの安定供給のカギでもある。今、世界各国で水素戦略が策定されるとともに、関連技術の研究開発への投資や、サプライチェーン実証事業への支援が加速している。水素社会の実現に向け、コスト低減やインフラ整備、水素の燃焼特性に合わせた機器の開発といった課題と向き合わなければならない。
このような流れの中で、日本では水素タービンや燃焼機器などの開発が進められている。資源エネルギー庁の資料によると、水素タービンの市場は50年までの累積で最大約23兆円に上る想定。ウクライナ戦争の動向次第では、水素関連技術の需要はさらに高まる見通しだ。
水素関連技術の実用化のため、各社は蓄積してきた知見やノウハウを注ぎ込み、全力で開発に当たっている。水素は燃焼時にCO2を排出しない一方、天然ガスと比較して燃焼速度が速いという特性を持つ。ゆえに、逆火やNOX(窒素酸化物)が発生しやすいという課題がある。
三菱重工業では、逆火などへの対応と環境性能を両立させる燃焼器を開発中だ。小型の水素発電では、既に実機での専焼の検証まで終了している。大型は30vol%(1vol%=1万ppm)混焼の開発を終え、専焼の開発が進んでいる。混焼、専焼ともに、実機での実証段階となっている。今後、30%を超える混焼が可能な燃焼器を開発できれば、混焼率の選択肢を提供でき、国際市場で優位に立てる可能性がある。
水素の利用で、ものづくりの脱炭素化も進む。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)とノリタケカンパニーリミテドは、水素燃焼に対応した連続焼成炉を開発。特殊セラミックを用いたラジアントチューブバーナーを搭載し、高い環境性能と耐熱・耐蝕性を誇る。リチウムイオン電池(LiB)電極材の焼成のほか、自動車や通信機器などの分野へ展開を目指している。
東邦ガスは水素バーナーの開発や燃焼試験サービスの提供のほか、サプライチェーンの構築にも取り組んでいる。同社の知多緑浜工場内に24年までにプラントを建設し、水素供給を開始する予定。需要創出と供給体制整備の両面から水素利用を展開していく。
石炭火力発電を水素発電に転換する取り組みも進められている。Jパワー(電源開発)と中国電力が出資する大崎クールジェンは、石炭火力の発電効率を高めることで、CO2排出量の大幅削減を目指す「石炭ガス化複合発電(IGCC)」プロジェクトを進行中。石炭からガスを精製し、そのガスから製造した水素で発電することでCNを達成するというものだ。
実証は3段階で構成される。第1段階の「酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスを燃焼させてガスタービンを、ガスの精製時と燃焼時の熱で発生させた蒸気で蒸気タービンを、それぞれ回して複合発電を行う。
第2段階の「CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証」では、石炭から精製したガスをもとに水素を製造する。ガスの主成分は一酸化炭素(CO)と水素(H2)のため、蒸気(H2O)と反応させてCO2とH2に変換。CO2のみを分離回収する仕組みだ。
第3段階の「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証」では、第2段階で作った水素を用いてガスタービンを回すだけでなく、600kW級の固体酸化物形燃料電池(SOFC)2台に水素を供給し発電試験を行っている。
火力発電は、天候などによって発電量が大きく変動してしまう太陽光や風力発電に対し「調整力」の役割を担っている。安定供給と脱炭素化の両立に寄与する大崎クールジェンのプロジェクトに期待が高まる。
自治体の水素利用や街づくりの動きも注目だ。山梨県では「P2G(パワーtoガス)システム」を構想中。固体高分子(PEM)形水電解装置で、再エネ由来電力と水からグリーン水素を製造する。脱炭素化の促進とBCP(事業継続計画)対策として、工場などへ導入する方針だ。また山梨県は東京都と連携し、山梨県で製造した水素を東京都に供給する。
東京都では「晴海フラッグ」を水素供給のモデルにする方針が発表された。晴海フラッグは、東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション群を中心とする大規模街づくり事業だ。隣接地には水素ステーションが整備されるほか、パイプラインから純水素型燃料電池に水素を供給し、電力だけでなく発電時に発生する熱も活用する。
水素ステーションに関しては、充填速度向上のための技術開発が加速。トラックなどの大型商用車への高速充填や、2台同時の充填を可能にするディスペンサーの開発が進む。
脱炭素社会実現に向けた水素利用の課題を乗り越えるための技術や取り組みが注目される。
長野県野沢温泉村は冬季の積雪が4mにおよぶ豪雪地帯だ。パウダースノーが楽しめる屈指のスキー場として世界的にも有名で、毎年多くのスキーヤーが訪れる。しかし近年は、「年々気温が上昇し、数十年前に6カ月あったスキーシーズンが徐々に短くなっている。名物の雪質にも影響が出始めている。観光が主産業の村には大きな打撃だ」。そう語るのは元プロスキーヤーで、現在は同村議員を務める上野雄大氏だ。
そんな状況に対して、上野氏は温暖化緩和に個人で少しでも貢献し、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーで村を活性化できないかと考えた。そこで昨年9月、デルタ電子に依頼して自らが運営するスキー用品などを扱う店舗に、太陽光発電と蓄電池を導入した。
豪雪地帯に太陽光パネルを設置するには工夫が必要となる。屋根に設置すると積雪の重みに耐えられないため、日光が当たる壁面に設置することになる。デルタ電子では金具メーカーのスワロー工業と共同で壁面設置用の架台を開発し実現した。壁面は屋根より設置するパネルが限られるが、悪いことばかりではない。雪が残る地面からの反射光がパネルに当たり発電出力を稼ぐことができるのだ。
デルタ電子エナジーインフラ営業本部の高嶋健マネージャーは「設置設備の定格出力は3・4kWだが、12月に降雪した地面からの反射光で1・2倍の4kWに達した。長年太陽光発電を手掛けているが、ここまでの高い出力は見たことがない」と驚いている。
蓄電池の活用においては、電力プランを中部電力ミライズのスマートライフプランに切り替えた。同プランは平日昼間が1kW時当たり38・71円、深夜が同16・3円。格安な深夜帯の電気を蓄電池にフル充電して、太陽光だけでは不足する午前中と夕方の電力消費を補う。これにより、使用電力の90%以上を太陽光と深夜電力で賄い、電気料金を設備導入前から約3分の1に削減した。
「再エネにより年間通して光熱費を削減できそうだ。メリットが確認できたら、村内での普及を目指したい」。上野氏はそう将来を展望する。
日本の国土面積のうち豪雪地帯が占める割合は51%、居住する人口も15%と占める割合は意外と大きい。再エネ未開の地をどのように開拓していくか―。今回の取り組みはその一歩になっていくに違いない。
エネルギー価格の高騰が家計に打撃を与えるといったニュースが毎日のように飛び交っている。そんな中、リンナイの家庭用給湯・暖房システム「ECO ONE」が省エネ性能によって注目を集めている。同製品は給湯に電気とガスの二つを利用し、単一のエネルギーに依存しないのが大きな特長だ。
2011年の東日本大震災が発生する以前は、原子力発電が多く稼働し、深夜電力が有効活用できるエコキュートが急速に普及した。震災後はBCPの観点からエネルギー源を複数確保するため、ガスの利用が見直された。その後、電力とガスの小売り全面自由化や、国の50年脱炭素宣言など、エネルギーを巡る動向は日々刻々と変化している。「そうした制度面や社会の変化によって、省エネ強化の流れが加速した。住宅メーカーは脱炭素化への意識が高く、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の家づくりを推進している。ZEHの省エネ基準は数値化されており、省エネに寄与するならば設備採用を検討する。これがECO ONE販売の追い風となっている」。営業本部ハイブリッド営業室の柴田毅課長はこう話す。
最新機種「ECO ONE X5」では、貯湯タンクを70ℓと小型化したモデルをラインアップに加えた。都市部の住宅は貯湯タンクを設置するスペースが確保されておらず、これに対応するためだ。単にタンクを小型化すると省エネ効率は下がる。そこで新制御「ターボヒーティング」を採用した。風呂の湯はりなど、使用量が多い時間帯にヒートポンプの沸き上げ能力を通常の2.3kWから3.9kWに上昇させて運転。これにより、少ないタンク容量でも既存のECO ONEの100ℓタイプと同等の省エネ性能を実現した。エネルギー消費量は、従来のガス給湯暖房器より約39%削減している。
さらに、集合住宅専用モデルの販売を9月から開始する。集合住宅特有の設置環境に対応した省スペース設計で、メンテナンス性にも配慮したものとなる。これにより、マンションのZEHの標準化にも寄与していく構えだ。
同社では、ECO ONEの電気とガスの両方を利用する特長が、電力需要の平準化に利用できるのではないかと考えている。多くの原発が停止する中、エコキュートの販売台数は800万台を突破し深夜電力の使用量は増えている。一方、昼間は再エネの導入拡大が進み晴天時の供給量は増加傾向だ。「ECO ONEは電力供給量が過多のときは、ヒートポンプでお湯を沸き上げ、ひっ迫時はガスを利用することが可能で、時間とエネルギーの両方をシフトできる。この機能を活用し電力の平準化、安定供給に活用できるのではないか」と、柴田課長は話す。
ECO ONEのDR(デマンドレスポンス)活用――。そのためには一定の台数の普及が必要となる。同社では30年までに30万台の販売を目標に掲げる。この台数達成時にはDR活用が本格化しているだろう。
2022年2月、ロシアによるウクライナへの侵攻で欧州のエネルギー情勢は激変しエネルギー危機をもたらした。ロシアへの制裁措置としての天然ガス調達削減は欧州全体にエネルギー価格高騰による経済的な影響を与えるだけでなく、エネルギー供給途絶に対する心理的不安も与えた。
その後、欧州委員会は同年5月に「省エネ」「エネルギー調達先の多様化」「再エネ移行の加速」の三つを主要施策とするREPowerEU計画を提案。27年に向けてロシア産ガスの依存をゼロにするとともに、50年までに温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「クライメイト・ニュートラル」実現に向けコミットメントを強化している。
その結果、欧州のエネルギー市場においてはさまざまな動きが起きているが、今回家庭用市場にフォーカスし、新たな三つのトレンドと今後の日本市場への示唆について解説していく。
一つ目のトレンドは家庭用市場におけるヒートポンプ(HP)の普及拡大である。欧州の家庭用暖房システムはガスボイラーによる温水循環方式が一般的であり、温室効果ガス削減のためには、本領域における経済性の高い対策実施が重要となっている。従来ガスボイラーから温水循環型HPへの入れ替えは、初期投資およびランニングともにコスト上昇となり経済性が成立しなかった。しかしながら、天然ガス価格の高騰でランニングコスト差が相対的に減少したことにより、HP方式への転換による投資採算性が改善した。
その結果、21年の欧州におけるHPの販売台数は前年比30〜50%以上で急拡大している。今後のHP普及拡大に向けては初期投資コスト低減、工事施工作業者の育成、機器生産能力の確保など課題はあるが、REPowerEU計画においてロシアからのガス依存脱却に向けHPの普及は重要な施策と位置付けられているため、今後HPの普及はさらに拡大が予想される。
二つ目のトレンドはHEM(ホームエネルギーマネジメント)普及拡大だ。「クライメイト・ニュートラル」実現に向け家庭用市場においては、太陽光発電と蓄電池による自家消費比率の拡大、暖房・給湯領域の電化、EV充電設備の導入などが拡大しているが、これらの設備の導入に伴いHEMシステムの導入も拡大している。英国LCP Delta社の分析では、20年にはHEMシステムは欧州全体で年間22万件に導入されていたが、今後30年までに累計1000万件以上が導入されると予想している。
欧州でのHEMとは、家庭内でのエネルギーフロー全体のタイミング、使用量、組み合わせを自律的(自動的)に監視、制御、最適化する仕組みであり、快適性やCO2削減などの需要家の意向を最適化するだけでなく、外部からのエネルギー価格情報との連携により、需要家の経済メリット最大化を同時に実現するシステムである点が最大の特徴である。
また需要家の経済メリットでは、家庭内における自家消費の最大化、TOU(時間帯別料金)に基づく負荷シフトなどにより電力コストを最小化するだけでなく、電力システム(系統)側に需要家アセットを活用したDSF(デマンドサイドフレキシビリティ)を提供することで、TSO(送電管理・系統運用者)におけるアンシラリーサービス、小売り事業者やVPPにおけるインバランス抑制として活用し創出される金銭的価値の一部を需要家が共有することも含まれている点が重要なポイントだ。
ヒートポンプ需要拡大 HEMシステム導入進む
三つ目のトレンドは、需要家におけるリスク低減ニーズの拡大である。今回の欧州エネルギー危機の結果、欧州の家庭用需要家においては温室効果ガス排出量やコスト削減のニーズに加え、エネルギー価格高騰におけるリスク回避ニーズも拡大している。その結果、家庭用需要家の初期投資コストと運用コストの両方のリスクをサービス提供事業者が担保するEaaS(Energy as a Service)も新たに誕生している。例えば、オランダe-conic社などでは太陽光発電、HP、蓄電池、EV充電器などを初期投資不要で毎月定額で提供する家庭用向けのEaaSがスタートしている。これまで家庭用におけるEaaSの事例が少なかったが、今回のエネルギー危機で今後同様のモデルは拡大していくと予測されている。
欧州エネルギー危機による家庭用市場における新たな三つのトレンドについて紹介したが、国内市場においても同様なニーズが拡大すると想定される。
つまり家庭用エネルギー消費構造が太陽光発電や蓄電池、HP給湯機、EV充電の普及拡大に伴い電力消費比率が高くなる一方、今後も化石燃料の価格高騰リスクも継続すると想定されるため、欧州同様に家庭用需要家におけるエネルギーリスクへの不安は拡大すると想定される。
そのため、今後の国内家庭用市場でも欧州と同様に需要家宅内の快適性だけでなく、経済メリットを同時に最大化するHEMサービスや、初期投資コスト不要で太陽光発電や蓄電池、HP給湯機などを導入し月額定額で提供する家庭用EaaSビジネスのニーズは拡大すると予測される。
今後の市場環境の変化により、これ以外にもさまざまな新たなニーズが生まれるだろう。継続的な欧州市場の分析に基づく国内市場への事業検討は、今後さらに重要になっていくと見ている。
新コスモス電機は一酸化炭素(CO)検知機能付火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」を開発した。
COは毒性が強い気体だ。その上、無色無臭で、煙よりも先に発生することもあるという。人間の五感では気付かず、吸い込むと頭痛やめまいなどの症状を引き起こす。これにより避難が遅れ、死に至ることも少なくない。実際、CO中毒は火災の死因の約4割に上る。
火災による死者数の増加から、全ての住宅への警報器設置が義務化されたのは、2006年のことだ。同年、新コスモス電機は国内初となる電池式のCO検知機能付火災警報器を開発。「火災による犠牲者を一人でも減らしたい」という思いのもと、改良を経て誕生したのがプラシオだ。
プラシオは従来の煙センサーに加え、COセンサーも搭載し、火災の発生を早期に知らせる。COがない通常時は、煙濃度5~15%/mで火災警報を発報。100ppmのCOを検知した場合は、煙センサーの感度が約2倍に上昇し、煙濃度2.5~7.5%/mで警報を発する。この機能は住宅用防災警報器に関する基準に基づき、光電式住宅用防災警報器(CO反応式)として、総務大臣からの認証を受けている。
また、より多くの設置を目指して、現代の住宅に馴染むよう設計。警報器としては斬新なキューブ型を採用しつつ、シンプルなデザインとなっている。新コスモス電機は、プラシオの設置拡大により火災での死者数減少を目指していく。