【特集2】エネルギービジネスの主流に 系統用蓄電池の未来を占う


【系統用蓄電池編】再生可能エネルギーが普及する中、系統用蓄電池の発展は必然だろう。だが課題も多く、普及拡大にはまず価格の低下が必須になる。

系統用蓄電池が、エネルギービジネスのメインストリームの一つなりつつある。国が今後の「主力電源」と位置付ける再生可能エネルギーには、出力を一定状態に保てないという欠点がある。その欠点を補い再エネの持つ力をフルに活用するには、系統に接続し、必要に応じて充放電を行う蓄電池の存在が不可欠。今後、太陽光発電、風力発電などの普及に拍車が掛かる中、系統用蓄電池ビジネスが大きく進展していくのは必然といえるのだ。
系統用蓄電池に期待されるのは、まず調整力の役割だ。再エネ電源が増えれば、周波数の乱れなどが生じやすくなる。必要に応じて放電することで、周波数を整え系統を安定化させることができる。
限界費用がゼロに近い再エネの電気を使い切り、夏冬のピーク需要時の電力不足を補うためにも欠かせない。需要を超える発電量の時は、その電気を一時的にため、電気が足りない時に放電する。
では、どう具体的にマネーを生み出すのか。系統用蓄電池が参入し、価値を発揮できるのは次の市場だ。①日本卸電力取引所(JEPX)におけるkW時(電力量)、②容量市場におけるkW時(供給力)、③需給調整市場における⊿kW(調整力)―。
系統用蓄電池の市場には、既に大手電力だけでなく、住友商事、ENEOS、オリックス、NTTアノードエナジーなどが参入を表明している。これらの市場でどうビジネスを拡大させていくか、各社は知恵を絞っている。


北海道で申し込みが殺到 系統安定化に貢献せず


とはいえ、まだ課題も多い。今各社が最も力を入れているのは北海道エリアだ。調整力が足らず、需給調整市場で、再エネの出力変動を調整する「三次調整力②」に他エリアよりも高い値段がつくためだ。その弊害が露呈し問題化している。北海道電力ネットワークに対し、各社による系統用蓄電池の接続検討申し込みが殺到。2022年7月時点で61件・160万kWと、エリアの平均需要(約350万kW)の半分近くに達してしまったのである。
また、確実に系統につながり送電できるファーム型接続に申し込みが集中。「系統用蓄電池にはノンファーム型接続により混雑を解消することが期待されていたはず。系統混雑を増やしては本末転倒」(岩船由美子・東京大学特任教授)と批判を浴びている。
経済産業省の審議会はこれらの課題について検討中。いずれ解消されるだろう。だが、最大の課題が残っている。蓄電池が高価であることだ。
「系統用蓄電池の普及拡大を左右するのは、事業者の接続負担金を含めた導入コスト」。ある関係者はこう断言する。メーカー各社は価格を引き下げに努力を重ねているが、まだまだ値段は高い。蓄電池の特性を最大に生かすルール策定と価格の低下―。この二つが系統用蓄電池ビジネスの浮沈のカギを握っている。

【特集2】石狩湾新港で洋上風力 23年末の運開へ建設進む


【グリーンパワーインベストメント】

グリーンパワーインベストメント(GPI)は特別目的会社(SPC)の合同会社グリーンパワー石狩を通じて、石狩湾新港洋上風力発電事業の2023年12月の運開に向けて建設工事を進めている。出力8000kWの着床式風車を14基据え付け、合計で11万2000kW規模の風力発電所を立ち上げる計画だ。
同社が石狩湾新港での開発に着手したのは07年。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が開始となる5年前のことだ。「風力発電に本格的に取り組み始めたのは、商社マンとして1994年からの米国駐在時代です。当時から日本のエネルギー自給率の低さを懸念しており、風力発電を建設すれば、純国産エネルギーが確保できると考えました。さらに、電源として価値を持つには大規模な風力発電所が必要になる。そうした時代がやってくると長年開発を続けてきました」。GPIの創業から携わる幸村展人副社長はそう振り返る。
大規模風力発電所を建設するに当たっては、日本の国土事情を考えると、洋上を活用すべきと当時から考えていた。そこで、当時法理的に使用権が確定し得る港湾に目を付け、国内の港湾をしらみつぶしに調査を実施。風況や電力インフラを構築する上での条件に加え、将来拡張できる可能性があるかどうかなどを検討した。そうした条件から、需要地である札幌市から近く、将来性のある地点として石狩湾新港に建設する照準を定めた。
だが、開発当初に関連行政機関などに洋上風力の話をしても、「洋上風力は港湾の目的外構造物」と言われるなど、建設を受け入れる体制もなかったとのことだ。
電源開発では、地元住民との対話が欠かせない。洋上風力の場合、漁業に携わる人々への説明も時間をかけて行う必要があるといわれている。これに対しては「当社がなぜ石狩湾新港沖で風力発電を手掛けたいのか、なぜ日本にとって風力発電が必要なのか、長い年月をかけて説明しました。必要性を訴えることで地元の方々にも理解していただくよう心掛けてきました」と幸村副社長は話す。
風力発電設備の工事は、陸上部を鹿島建設、洋上部を清水建設と日鉄エンジニアリングが手掛ける。8000kW級の洋上専用の大型風車の設置は国内初となり、このビッグチャレンジの建設作業にオールジャパン体制で挑む。

石狩湾新港洋上風力発電事業のイメージ図


大型蓄電池設備を併設 エネ循環の構築に活用


同発電所では、北海道の再エネ発電設備に対し、実質的に義務付けられていた蓄電池設備を併設する。約2haの敷地にリチウムイオン電池を収納するコンテナを42台設置した。これについては「将来を見越した上で、エネマネへの取り組みは避けて通れません。蓄電池活用のノウハウを蓄積して将来の開発や地産地消を含む再エネのエネルギー循環の構築に活用していきます」と幸村副社長。
GPIは風力発電を中心とした再エネがエネルギー資源の少ない日本にとって非常に重要であることと、自然エネルギーの活用がその地域に裨益することを広く訴えることで、今後も普及拡大を目指していく。

【特集2】中小型太陽光開発を拡大 系統用蓄電池も本格的に開始


【大阪ガス】

大阪ガスはグループ全体で2030年度までに自社開発や保有する設備と、他社からの調達を含めて、国内外で500万kWの再生可能エネルギー普及貢献を目指している。その中で、注力するのが中小型太陽光だ。高圧から低圧の中小型案件の開発を増やしており、揚鋼一郎再生可能エネルギー開発部長は「脱炭素化に向け、再エネ電気を長期にわたって調達する顧客ニーズがこの1年で急激に高まっています。メガソーラーの開発適地が減少する中、中小型太陽光を多拠点で開発し、顧客に複数地点の発電所由来の電気を供給するオフサイトPPA(電力購入契約)モデルが増えています」と話す。
中小型は大掛かりな造成工事が必要ない土地に建設するケースが多く、系統容量の確保も大規模案件と比べると比較的容易にできる。このため、建設工期が非常に短く、着工から1カ月程度で完成するという。また、同社では大規模電源で得た資金調達の知見を応用して、従来組成が難しいとされたオフサイトPPAによる中小型太陽光向けのプロジェクトファイナンスの組成にも取り組んでおり、効率的な資金調達と、迅速な開発という中小型太陽光ならではの事業展開を目指している。同事業では複数のデベロッパーと協業し、開発を進めている。「太陽光は他電源種に比べ圧倒的に開発が容易であり、分散・多拠点化によりまだまだ伸び代はある」と揚部長は期待する。


系統用蓄電池への取り組み 将来に向けてリユース目指す


同社は再エネの普及に伴い社会的に必要となる系統用蓄電池にも着手する。まずは1万kW規模の系統用蓄電池の開発を進める。将来的にはモビリティー由来のリユース蓄電池を活用すべく、劣化のバラツキがある電池制御技術を保有するNExT-e Solutionsと提携し、23年度から実証を開始する。
大ガスでは、これまでエネルギー事業で培ったノウハウを再エネや蓄電池の開発運用に応用し、さらなる成長を目指していく構えだ。

共同開発中の蓄電池イメージ

【特集2】大規模案件を次々実現 オンサイトPPA事業を拡大


【テス・エンジニアリング】

テス・エンジニアリングは、事業の新たな柱として太陽光発電のオンサイトPPA(電力購入契約)事業に注力している。2022年2月のウクライナ侵攻によって、エネルギーを取り巻く状況は一変している。電気、ガス、石油などのエネルギー価格が総じて上昇し、製造業を中心に経営を圧迫する材料となっている。一方で、50年カーボンニュートラル達成に向けた取り組みも待ったなしで求められている。
そうした中にあって、「導入コストを最小限に抑えて再生可能エネルギーを導入できるPPAモデルは、事業採算性の合うスキームとして従来にも増して注目されています」と髙崎敏宏社長は現状を説明する。
同社では、エネルギーサービスや燃料転換などの事業でエネルギー多消費産業の顧客を多く抱えている。その強みを生かし、オンサイトPPAの導入を提案、工場の屋根などに太陽光を設置してエネルギーの自家消費を促している。
22年5月には、調味料や食品エキス製造を行うアリアケジャパンの九州第1工場(長崎県佐世保市)、第2工場(同北松浦郡)では、第1工場に667・5kW、第2工場に1421・8kWの太陽光発電を導入した。工場の屋根だけでなく、工場の駐車場にカーポートを新設し、その上に太陽光パネルを設置することで発電量を増やしている。

アリアケジャパンの九州工場


23年2月には、DMG森精機の最大拠点である伊賀事業所に1万3400kWが稼働を開始する。第1期工事で5400kW分が開始となり、25年2月に完了予定の第2期で約8000kWが発電開始となる。電力の全量を同事業所に供給することで、同事業所の年間電力需要量の約30%を賄う。また、CO2排出量は年間約5300tを削減できる見込みとのことだ。
PPAでは、工場への設置以外にも物流倉庫への設置も進めている。工場は電力を消費する需要があるが、物流倉庫の場合は屋根に設置した設備分の発電量を消費するほど需要がないケースもある。そこで、自社の小売り電気事業などで培ったノウハウを応用し、需給管理サービスとして自家消費だけでなく、余剰電力を他の倉庫へ供給したり、市場への売電や環境価値の有効活用などもサポートする。


本番はFIT終了後 100%再エネ電気供給

FIT認定の太陽光発電所については、現在も新規建設を進めるほか、セカンダリ案件の取得にも注力している。これらの発電所は20年のFIT期間終了後も活用していく方針だ。「再エネ事業が本番を迎えるのは、FIT期間が終了した後だと考えています。FITが切れた太陽光発電所の系統接続権を生かし、エンドユーザーに100%再エネの電気を供給していく方針です」。髙崎社長はそう意気込む。
今後もエネルギーコスト低減や脱炭素化といった顧客ニーズをキャッチアップしていく構えだ。

【特集2】出荷前のバイオマス燃料を分析 品質保証で発電事業者の信頼得る


【岩谷産業】

岩谷産業はバイオマス燃料のPKSを輸入販売する。PKSを品質確認して出荷する仕組みが顧客から評価されている。

岩谷産業はバイオマス発電燃料として、パーム油を搾った後のアブラヤシ殻であるPKSを国内事業者向けに販売している。同社のPKS販売の特徴は、インドネシアなど原産国から受け入れたPKSを同社中央研究所(兵庫県尼崎市)で分析し、品質確認を行っている点だ。
PKSは発熱量や水分など発電に直接影響する品質の確保と、塩素やナトリウム、カリウム、硫黄など、発電設備を傷める恐れがある物質の含有量が少ないことが求められる。そこで同社の分析では、水分や灰分、揮発分、発熱量、元素分析など、JIS規格などに準じた10項目の分析を行い、確認を行っている。

輸入したPKSの品質を確認


「原産国と中央研究所のダブルチェックで検査を行い、PKSの品質を保証していることが付加価値となっています。これにより発電事業者から高い信頼を得ています」。小池国彦中央研究所長はそうアピールする。
PKSは発電所に野積みで保管されていることが多い。すると、PKSが堆積した下部では発酵が始まり、臭気を発することがある。これに対し、PKS発電事業者大手のイーレックスと協力して、周辺地区に臭いが漂うのを防ぐため、悪臭成分のイソ酪酸、n―酪酸、イソ吉草酸が水酸化カルシウムを主成分とするアルカリ剤を処理することで減少することを突き止めた。
さらに消石灰で処理できない臭気に香料やマスキング剤を添加して付臭する技術や、夏場に発生する虫を除去する殺虫剤など、PKS供給の高付加価値化に寄与する技術開発も進めている。


バイオマス向け25年がピーク 石炭からの切り替え目指す


再エネの固定価格買い取り制度(FIT)によってバイオマス市場は拡大してきた。岩谷産業も2015年にPKS販売を開始して以来、順調に出荷数量を伸ばしており、21年は年間31万tに上った。ただし、FIT認定を受けたバイオマス発電所の建設が25年にピークを迎える見込みで、それ以降は新規市場の開拓が必要となる。
そこで今後、ターゲットに位置付けているのが、石炭火力発電設備を抱える企業だ。低炭素化に向け、バイオマスへの切り替えを検討し始めているのだ。PKSの営業を担当する資源・新素材部では「石炭使用量減少の目標を立てる企業を中心に、この一年で引き合いが増えました。そうした企業にPKSの品質と安定供給体制を訴求していきたい」とアピールする。国内を中心に新たな用途向けでの事業拡大を目指す構えだ。

【特集2】系統用蓄電池を大規模実証 費用共同負担で風力向け募集


【北海道電力ネットワーク】

北海道電力は再生可能エネルギーの導入拡大に向け蓄電池実証を実施。その成果から、蓄電池に関わる費用を共同負担する風力設備を募集した。

新設したレドックスフロー蓄電池設備

電力系統が小さい北海道において、風力・太陽光発電など再生可能エネルギーの連系量を増やすには、周波数変動(短周期・長周期)、需給調整での制約があり、解決する必要がある。
こうした中、北海道電力と住友電気工業は、基幹系統の南早来変電所(北海道安平町)にレドックスフロー電池設備(定格出力1.5万kW、設備容量6万kW時)を設置し、新たな調整力としての性能実証と、最適な制御技術の確立のため、2015年~19年1月まで実証試験を行った。
実証では蓄電池を用いた短期・長期単位周期変動抑制などの再エネ制御手法を確立。蓄電池が電力系統の周波数調整や需給調整対策として十分な能力があること、北海道の電力系統での周波数調整には、再エネの導入量に応じた制御方式の使い分けが効果的であることを確認した。
この結果を受けて、北海道電力は系統側にレドックスフロー蓄電池(設備容量5.1万kW時)を新設し、費用を共同負担することを前提とした「系統側蓄電池による風力発電募集プロセス(Ⅰ期)」を実施。22年4月から運用を開始した。募集によってすでに優先系統連系事業者15件、16・2万kWが決定。これらの連系のために必要となる系統側対策として同蓄電池設備を利用する。

【特集2】蓄電事業で地域づくりに貢献 持続可能なビジネスを育成する


【住友商事】インタビュー
藤田康弘ゼロエミッション・ソリューション事業部 部長

2015年から蓄電池実証を実施してきた住友商事。容量市場や需給調整市場など複合的に取引を行い収益化を目指す。

―蓄電ビジネスにどのように取り組んでいますか。
藤田 当社は2010年から10年以上にわたって蓄電事業に携わってきました。20年には、営業組織としてゼロエミッション事業部(21年にゼロエミッション・ソリューション事業部に改称)を発足させ、日産自動車と合弁で立ち上げたEVバッテリーをリユースする事業を手掛ける「フォーアールエナジー」の主管業務に加え、20人体制で系統に接続する大型蓄電の事業化を目指して取り組んでいます。

住友商事が甑島に導入した蓄電システム


―なぜ系統用蓄電事業に着目したのでしょうか。
藤田 これまで、夢洲(大阪市)、甑島(鹿児島県薩摩川内市)などで蓄電システムの実証事業を重ねてきました。中でも15年に開始した甑島のプロジェクトは、送配電網に蓄電システムを直接接続し電力の安定化に寄与した国内初の取り組みです。22年5月の電気事業法改正により蓄電所も発電所の一つと位置付けられ、電力需給調整や系統の安定化に資する事業ができるようになりました。この甑島プロジェクトが法改正の大きなきっかけとなったことは間違いありません。アメリカやイギリスでも蓄電池で系統電力の品質を維持するアンシラリー事業が立ち上がっていたこともあり、当社の考えは決して間違いではないという確信を持っていました。


蓄電池が生かせる 最適化した市場が必要


―収益化の手段については。
藤田 容量市場や需給調整市場、JEPX(日本卸電力取引所)と、複合的に取引を行うことで収益を最大化しようとしています。とはいえ、現行の市場は必ずしも蓄電事業に最適化されたものではありません。将来は、蓄電池の特性を生かせるマーケットを作る必要があります。瞬動性と応動性において、蓄電池は火力発電に比べて圧倒的に優れています。系統運用者にとっても、指令に対して確実かつ瞬時に調整力を提供できる蓄電池を活用することで、効率的・安定的に系統を運用できるようになります。蓄電事業者、系統運用者の双方にとってウィンウィンの関係を作るためにも、政策的なかじ取りが重要です。
―課題はありますか。
藤田 蓄電システムを系統に接続しやすくするための環境整備、循環型の地域づくり、蓄電池産業を日本に呼び戻すなど、関連の政策を並行して進めなければ、社会実装が進まないといった結果に至ります。当社の蓄電システムはEV用のバッテリーを再利用しますが、それを再資源化しEVのバッテリー製造に生かす仕組みを作るなど、資源の循環に配慮をしながら持続可能な事業に育成していきます。

ふじた・やすひろ 1992年東京大学大学院卒、住友商事入社。
化学品のトレードや台湾駐在などを経て、
2007年より一貫して蓄電池に携わる。20年4月から現職。


【特集2】ドローンとアプリで送電線点検 点検の品質・安全性の向上に貢献


【ブルーイノベーション】

ドローンやロボットなどを利用したソリューションサービスを手掛けるブルーイノベーションは11月7日から、送電線ドローン点検ソリューション「BEPライン」のサービスを提供している。同サービスはドローンが送電線を自動で追従飛行し、点検に必要な撮影を行い、そのデータをリアルタイムで送信するというものだ。

独自のプラットフォーム 映像のブレも自動で補正

BEPラインは、ドローンに搭載する送電線追従モジュールと操作・データ管理アプリで構成される。同サービスに用いられている「送電線点検用ドローン自動飛行システム」は、ブルーイノベーション独自のプラットフォーム「Blue Earth Platform」をベースに、東京電力ホールディングス、テプコシステムズと共同で開発。2021年5月から、東京電力パワーグリッドの送電線約2万8000㎞の点検に導入されている。

BEPラインでは、ドローンに搭載したモジュール内のセンサーが送電線を検知すると同時に、映像のブレを補正する。送電線にたわみや揺れがあっても、風の影響でドローンの向きや位置が変わっても、適切な距離を保ちながら追従飛行を継続。高画質かつ最適な画角で撮影し続けることが可能だ。

送電線に沿って飛行するドローン

また鉄塔に昇る労力やリスクを負うことなく、詳細な点検を実現する。点検員はリアルタイムで送られてくる映像を見て、異常を発見した場合は、ドローンを一時停止させズームでの撮影を行う。ドローンは自動で送電線を追従するため、事前のルート設定は不要で、点検員の操縦技能も問わない。

自社で点検を行う「サブスクリプション」と、点検を委託する「委託点検」の二つのプランで提供され、点検頻度や運用方法などに合わせた導入が可能だ。従来の高倍率スコープやヘリコプターなどによる目視での点検と比較すると、BEPラインの導入は、大幅な効率化や点検員の安全性向上、点検の品質向上を実現する。加えて、将来的な人材不足や設備の経年劣化による点検対象の増加への対応、データ利活用による設備の運用・管理、予兆保全、DX化の推進などにも寄与するという。

【特集2】ガス漏れを検知する「スマート兄弟」 保安の高度化に資する二つの製品


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

人口減少に伴う建物の老朽化などが進む中で、スマート保安が求められている。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、都市ガス事業を通じて培った技術を商品化し、保安の高度化に貢献する。TGESがガス事業者向けに販売するのは「スマート兄弟」―30m先までレーザー光線を照射しメタンガスを検知する「レーザーメタンスマート」と、ガス配管の気密が保たれているかを圧力を用いて検査する「セーバープロスマート」だ。

レーザーでガス漏れ検査 離れた場所から検知可能

レーザーメタンスマートには、特殊なレーザー光線が用いられている。ほかのガスには吸収されないが、メタンに当たると吸収される、1・6μ m(ミクロン)という波長の光だ。このレーザーを照射すると、ガス漏れがない場合は反射する光が検知される。ガス漏れがある場合はメタンに光が吸収されるため、反射する光が減少し、ガス漏れと判断される。ガス漏れを検知すると、アラート音とLEDの点滅で知らせ、表示部に測定値を表示する。さらに検知時にレーザーを照射していた部位の画像と測定値をクラウドに送信できる仕組みも実装する。また、レーザーを使用して計測するため、光を透過するガラス越しでの検知も可能となっている。

同製品の最大の特長は、ガス漏れを遠隔で計測できる点にある。従来の検知方式には、ガスが触れるとわずかに燃焼しその温度変化を検知する接触燃焼式や、ガス分子により抵抗値が変わる性質を利用する半導体式などがある。どちらの手法も、作業員がガス設備の近くで計測する必要があり、高所や橋の下、私有地など立ち入りが難しい場所の検査は一苦労だという。点検は法律で義務付けられているため、ガス事業者は大幅なコストを掛けて、こうした点検を実施してきた。「現場付近まで行かなくてもガス漏れを検知できることは、ガス事業者の究極の夢」と、企画本部経営企画部技術企画グループの安部健技術顧問は話す。

レーザーメタンスマートはハンディータイプの製品だ

これまでレーザー式のガス漏れ検知器は、他の製品の補助にとどまっていた。しかし、日本ガス協会が6月に発表した「供給管・内管指針」では、単独での漏えい検査方法として認められた。

レーザーメタンスマートの測定値の単位は、絶対濃度のppmにガスの厚みのmを掛け算した「ppm・m」となる。レーザーがどのくらいメタン分子にぶつかったのかで数値を算出するからだ。ゆえに、ガス漏れの場所や広がりの速やかな特定を得意とするが、漏れているガスの濃度を測定することはできない。従来の接触燃焼式や半導体式ではppmを計測しており、測定値の単位が異なるため、単純な性能の比較は難しいという。同製品と従来方式、それぞれの特質を理解して使用することが推奨されている。

レーザーメタンスマートの製造はガスターが手掛けている。製造数は年間500~600台ほど、レーザーメタンシリーズはこれまで計6000台ほどを製造してきた。その購入の9割は海外からだという。200社ほどの海外の代理店網を生かし、販売を拡大中だ。インフラの老朽化が進む米国ニューヨーク市の消防局では、約500台を導入。アメリカの環境保護庁が提唱する「Leak Detection and Repair(LDAR)」という、ガス漏れの発見から修理までを一気通貫で行うための管理コンセプトを導入している。 同製品ではガス漏れを検知すると、即座に画像と測定値がクラウド上に保存され、改ざんのない記録が蓄積されていく。LDARプログラムでは、こうした記録をデジタルで管理しないと罰則規定もあるという。「海外ではガス事業者の独自判断で導入するので、普及が進んでいる。日本ではスマート保安の新たな形として採用されたことが、非常に大きな一歩。保安の向上に寄与することがわれわれの責務だと考えている」(同)

温度補正機能が特長 3社共同で開発

もう一つのセーバープロスマートは、気密試験を行う機器だ。気密試験は、ガス管の両側を塞いだ状態で圧力をかけ、管の中の圧力の変化でガス漏れを検知する手法。正常だと圧力は変化しないが、ガス漏れがあると圧力は低下する。

温度補正機能は2018年度日本ガス協会技術大賞を受賞した

同製品の特長は温度補正機能にある。気密試験を行う際、気温が上がりガスが膨張すると、ガス漏れがあっても圧力が上がってしまう。反対に気温が下がると、ガス漏れがなくても圧力は下がってしまい、いずれにしても正しく計測することができない。この課題を解決すべく、同製品ではガス管内に圧力をかけるのではなく、内と外の圧力が同じになるよう設定。ガス管内外の圧力が同一のため、圧力に変化があれば気温の影響であると推測できるという仕組みとなっている。

セーバープロスマートに用いられている技術は、エイムテックが開発・製品化したものだ。TGESと東洋計器がエイムテックと共同で都市ガス用の製品を開発し、2018年には日本ガス協会の技術大賞を受賞している。

TGESは、これら「スマート兄弟」のさらなる導入拡大を通じて保安の高度化を推進していく。

【特集2】産業とともに進展する保安 人材不足など新たな課題に対応


保安は日本の産業発展を追いかけるように、さまざまな変遷を経て高度化してきた。2020年代の大きな目玉はAIやドローンなど新たなツールを活用したものだ。

産業界に保安が登場したのは高度経済成長期の1960年代だ。東名阪を中心にコンビナートが建設され、エネルギーを大量に消費して多くの産業を生み出してきた。生産技術の発展とともに、設備や施設が大型化していき、事故発生時には被害も甚大なものとなった。こうした事故や災害に対応するため、設備の安全技術向上が図られ、事故の発生確率が抑制された。

80年代~2000年代は、さらに事故を低減するため安全マネジメントシステムが導入された。製造事業所ではTQC(統合的品質管理)、TQM(総合的品質管理)など、現場での品質や安全を現場主導で行う取り組みが普及した。また、品質マネジメントシステム「ISO9001」が普及し、継続的な改善が進んだ。

00年代は人的・組織的要因の統合の取り組みが進んだ。事故の人的要因を考えるようなシステム構築や、企業組織としての風土や文化が事故要因につながらないか改めて検証する取り組みだ。

こうした取り組みによって、産業界の保安体制は高度経済成長期と比較して飛躍的に向上している。

産業保安の成熟 出所:三宅淳巳横浜国立大学理事・副学長資料

AIやドローンの活用 作業補助と効率化

20年以降は、さらなる安全向上に加え、人材不足への対応が課題となってきた。そうした中、注目を集めているのがドローンやロボットの活用だ。エネルギー業界でも、煙突や送電線、風力発電設備など、高所作業、遠隔地の点検作業に導入され、実証が進み実用化される用途も出てきている。

また、通信機能を保安設備に搭載し、現場の作業員と管理者がメンテナンス情報を双方向通信で交換したり、遠隔地からの操作などが行われるようになってきた。

さらに、部品やコンポーネントをはじめ発電所などプラントそのものをバーチャル化して、同じものを机上につくり、AIによる点検や寿命予測などが行われている。

こうした新技術の活用した保安は「スマート保安」と呼ばれている。大きな可能性を秘めているが、裏を返せば未知の部分があるということでもある。懸念事項を一つひとつ払拭していき、さらなる安全と効率化、人材不足解消に資することが保安には求められている。

【特集2】プラントの安全対策を万全に 双方向通信機能をフル活用


【理研計器】

幅広いガス種に対応する検知器やソリューションを展開する理研計器では、検知器で取得した情報を管理側に通信を介して伝えたり、検知器の設定変更を管理側から実施することが可能といった、双方向通信機能を活用した製品を取りそろえる。

通信で遠隔地と情報共有 双方向通信で緊急事態に対応

発電所やLNG基地の保守管理で、作業員向けに利用されているポータブルタイプのガス検知器では、最新機種「GX―3RPro」が国内で初めてBluetooth通信に対応した。緊急事態をすばやく知らせることができるほか、専用アプリを使用してスマートフォンやタブレットと連携すれば、緊急事態を迅速に知らせることができるほか、GX―3RProで得た検知情報を各種無線デバイスと組み合わせて、顧客サーバー上での管理や、現場の状況を離れた場所にいる管理者とリアルタイムで情報共有できる。また、緊急事態の発生時にアラート通知を発し、災害の兆候把握や的確な注意喚起を行い、緊急時の迅速な対応が可能となる。

携帯型の「GX-3RPro」

定置防爆型タイプの検知器「SD―3」は国内外の石油精製、石油化学プラント向けで、HARTなどの通信規格に対応する。HARTはアナログ伝送における統一信号として広く使用されているDC4~20 mAに、デジタル信号を重畳し、デジタル信号を伝送する方式で双方向通信も可能だ。

また、半導体工場向けの最大4成分のガス検知が可能な「GD―84D」はEthernet通信に対応しPoE HUBを使用することで、LANケーブルで電源供給が可能であり、施工コストを大幅に低減、かつウェブブラウザーで検知部の状況などが確認できる。

定置型の「SD-3」

これら通信機能への対応に加え、自己診断機能を搭載する。使用開始から3年後、また初期のセンサー出力からのドリフト値がしきい値を超えたときに警告を出す。さらに、校正履歴からセンサーの寿命を計測して機器が自ら状態を診断し、性能を維持して寿命を判断する。

営業技術課の杉山浩昭課長は「GX―3RProでBluetooth対応を契機に、ポータブルでどのような通信需要があるのか見極めていきます。LPWA(省電力広域無線通信)などの通信規格への対応なども検討していきたい。また、欧州を中心にしたガス関連の新たな規格への対応を進めていきます」と、今後の展開について話す。

水素やアンモニアなど、次世代エネルギーの取り組みが活発になってきた。その中で安全性をさらに向上していくことが求められている。理研計器では、そのような対応に通信技術などを駆使しながら取り組んでいく。

【特集2】ガス警報器の新たな可能性 ネット接続で広がる機能・サービス


【新コスモス電機】

家庭の台所に設定して、ガス漏れを見守る警報器―。新コスモス電機はガス漏れ検知機能に加え、スマートホームサービスに対応した新たなコンセプトの都市ガス警報器「快適ウォッチSMARTXW―735」をソフトバンクの子会社エンコアードジャパンと協力して開発し、各都市ガス事業者を通じて販売している。

快適ウォッチSMART XW-735


快適ウォッチSMARTは、通信機能を搭載した熱中症・乾燥おしらせ機能付きのガス・CO警報器。Wi―Fiに接続することで、スマートフォンなどの専用アプリでガス漏れやCOの警報を確認できる。エンコアードの「コネクトセンサーSEN1―FLG」をBluetooth通信で連携させると、「簡易セキュリティー」「家族の見守り」「家族の帰宅確認」などの生活に役立つ新機能・新サービスが利用できるようになる。
このうち、熱中症・乾燥環境おしらせ機能は、熱中症搬送者の多くが住居内で発症しており、その半数以上が高齢者や子どもという調査結果を受けて2015年からガス警報器の新たな機能として搭載したもの。ガス警報器に内蔵された温湿度センサーにより台所の温度と湿度を監視して、熱中症になりやすい環境や空気が乾燥している環境をランプで知らせ、スマホアプリに対してもプッシュ通知を行う。また、コネクトセンサーに内蔵された温湿度センサーにより、コネクトセンサーを設置した室内において熱中症になりやすい環境を検知した場合も、スマホアプリに対しプッシュ通知を行う。
家族の見守りはドアの開閉が長時間行われないこと、帰宅確認はコネクトセンサーを持った家族の外出や帰宅をコネクトセンサーが検知してスマホに通知する。

スマホアプリ画面


新機能を続々追加 業務効率化にも寄与

都市ガス警報器ではインターネットに接続することで、居住地域に関する災害情報や防犯情報、雨雲速報やゴミ出し日など生活に役立つ情報を提供したり、人感センサーによって人が近づいたらしゃべる機能などを実現した製品も展開する。
LPガス向けにはガスメーターと接続しガス切れ防止やLPガス配送の効率化、電気・水道のメーターと接続して使用状況を把握することで高齢者の見守りサービスや健康管理などを行う製品なども開発した。
「インターネット接続によって家庭用ガス警報器の可能性は大きく広がっています。今後も安全、安心、快適に寄与する商品やサービス提供を目指します」。担当者はこう話す。
「生活を支える」というコンセプトの下、新コスモス電機のガス警報器はさらに進化していく。

【特集2】認定制度でスマート保安を促進 中小事業者には予算措置で支援


【インタビュー】江澤正名経済産業省産業保安グループ保安課長

国は高圧ガス保安法などの改正で認定制度を創設し、定検期間の延長などで導入を促進する。保安高度化の裾野を広げるため、中小事業者には予算措置で支援を講じていく。

―2020年6月にスマート保安の基本方針が策定されました。策定以降の事業者の取り組みをどう評価していますか。
江澤 基本方針が策定されてから、スマート保安の推進に向けた基本的な考え方がまとまり、官民協議会も設立され、新技術の導入や制度見直しも含むアクションプランも策定されました。
 この間の事業者の取り組みを見ると、例えばドローンを利用してタンクの内部の肉厚を測定したり、最新の技術を組み合わせて常時監視を行い異常検知をしたりするなど、AI、IoTを活用した取り組みに大きな進展がありました。
―取り組んだ企業のメリットは大きいと思います。
江澤 それらを導入した企業はコストの削減や時間の節約などもできますから、競争力が向上します。そういった企業が増えていけば、製造業の割合が大きい日本においては、国際的な競争力が増すことになります。
 さらに、保安の実施についてのプロセスもかなり高度化しています。それらによって、今後は海外に日本のスマート保安の技術やノウハウを広めることができるかもしれません。そういったことにも期待しています。
―スマート保安をより進めるための制度整備は、どういう状況ですか。
江澤 今年の国会で成立し、23年12月までに施行される高圧ガス保安法などの改正では、高度なスマート保安を導入した事業者を認定する制度を創設します。AI、IoTなども活用し、高度な保安を実施できる事業者には定期検査の期間を延長したり、国と事業者が行う検査を事業者だけにするなどの措置を行います。それらによって、さらなる導入促進を行います。


高度なリスク対策を要求 IPAに調査依頼も


―高圧ガス保安法などの改正では、サイバーセキュリティ対策にも触れています。
江澤 認定制度の中で、サイバーセキュリティの確保も要件として追加しています。認定されるには、会社のトップがきちんとコミットメントしているか、高度なリスク対策を取っているかなど、認定要件に沿った対応を取らなければなりません。
 もしサイバーセキュリティに関して重大な問題があった場合は、法令に基づいて情報処理推進機構(IPA)に調査依頼ができるようにしています。
―今後はどういう点が課題になりますか。
江澤 これまで認定事業者は大手など一部の企業に限られていました。今後はスマート保安の裾野を広げ、優れた取り組みを行う事業者を増やしていく仕組みをつくっていきたいと思います。
 一方、日本には高圧ガス分野をはじめ、圧倒的に中小の事業者が多い。中小企業には認定を取ることにまでいかなくても、より高度な保安ができるよう、予算措置などで支援を行っていきたいと考えています。

えざわ・まさな 1995年東京大学工学部卒、通商産業省(当時)入省。資源エネルギー庁石炭課長、新エネルギーシステム課長、省エネルギー課長を経て2022年7月から現職。


【コラム/11月15日】制度設計は、益々増えて複雑に


制度設計の進捗に関する前回の寄稿から4か月ほど経ったが、まだまだその進展は止まることを知らない。最近では、環境省や内閣府など、少し範囲を広げてウォッチするようになったが、これを全て網羅して把握しようとすると、めまいが起きそうだ。今回は、今年7月以降、10月までの制度設計の進捗について振り返りたい。

幅広い分野での議論を展開

ここ最近の国の審議会の傾向は、相変わらず毎月の開催件数が減らず、多い時には、1日で4~5件開催されるケースも目立っている。コロナ禍でのオンライン化が影響していることになるが、人には「密になるな」と言いつつ、「会議」は「密」になっても良いということだろう。取り上げる分野が多岐に渡っていること、専門的な分野はワーキンググループ(WG)や専門部会を設置して議論せざるを得ないことが要因だろう。

 筆者も毎月、経産省を中心にエネルギーや環境に関する審議会をウォッチしている。完璧に全てを網羅しているというわけではないが、それ相応にチェックしているのであるが、審議会全体を見渡してみると、幅広い分野で議論が展開されていることが分かる。

例えば、表1は10月に開催された審議会を電力のサプライチェーンとその他キーワードを横軸にしてプロットしたものであるが、多岐に渡っていることが分かるだろう。

 ちなみに、筆者がチェックしている限りではあるが、エネルギー・環境関連の審議会開催件数は、7月が28件、8月が27件、9月が34件、10月が47件と、4か月で136件となっている。8月はお盆休みがあったので一服感があったものの、9月から再びドライブがかかり、10月には営業日換算で1日平均2.5件弱の開催という熾烈な状況になっている。

これから年末にかけてはGX実行会議の取りまとめに向けて各分野で一定程度の取りまとめが行われることや、年明けには通常国会が開会され、おそらくCCSや再エネ関連の法案提出が見込まれることから、ここしばらくの間は、審議会の開催頻度は高くなるだろう。

議論は同時並行で実施 内容も盛りだくさん

毎月、出しているレポートの中で、7月に第1四半期の振り返りと今後、予定されている月別スケジュールというものを作成した。(表2)

7月時点なので、更新・変更もあるので、最新版ではないが、非常に多くの検討が進められ、見直しや新たな措置が取られることが分かると思う。

全体をざっくり把握するには年度毎のスケジュールを見ていけばよいが、実務を行う事業者にとっては、こうして詳細にチェックして、抜け漏れがないようにしておくことが必要だろう。

至近の議題の特徴は、足元の危機・課題として挙げられているエネルギーセキュリティと電力安定供給、エネルギー価格高騰への対応を前提に、将来への布石としてカーボンニュートラル実現のためのGX推進についても同時並行的に議論が進んでいる。

前者については、資源燃料の安定確保のため、ガス事業法改正(臨時国会で法案提出)によるJOGMECによる調達支援や、発電事業者や都市ガス事業者などの異業種間でのLNG融通などの取組みを進めているほか、供給力確保において昨冬や今夏同様に、この冬も休止電源などを活用するkW公募、kW時公募により追加的な電源調達や再稼働可能な原子力発電の稼働などを行い、何とか厳気象時の最大需要であるH1需要に対して必要な最低限の供給予備力3%確保ができるレベルまで引き上げることができた。もちろん、大型火力のトラブル停止や寒波による急激な需要増が発生すれば、ひとたび、「ひっ迫」の危険水域に舞い戻る可能性は否めない。また、供給側だけに頼ることは難しいとして、需要側についても、「無理のない範囲での節電」協力依頼や、小売電気事業者を介したDR促進により、需給一体での対策を講じているところである。

 こうした足元の対策は、ある意味、プロ野球で言えば、先発投手が危険球退場して、急遽、リリーフ投手がマウンドに上がってピンチをしのぐといった場面に似ており、恒久的に同じことを繰り返してはいけない。そういった意味で、中長期的には、資源燃料としてアジア諸国などとのサプライチェーン強化や、供給力確保として24年度から契約発効する容量市場の着実な実施、予備電源の制度化、脱炭素電源の新規投資を促進するための長期脱炭素電源オークションの検討、そして需要側は引き続き、DRや省エネの徹底を進めることを検討項目として掲げている。

一方、将来の布石については、資源燃料や電源の脱炭素化を図るため、水素・アンモニア、メタネーションといった新たな燃料の開発・実証を進めるとともに、未整備である法令などの整備や事業者支援の在り方の検討を進めている。電源については、前述の長期脱炭素電源オークションの制度化による脱炭素電源の新設・改修を進めるため、来年度に初回オークション実施に向けた詳細設計が順次進められている。電源の脱炭素化については、再エネ主力電源化が謳われているが、そのために必要な地域間連系線の増強・系統運用の高度化を進めるほか、導入にあたって一定の規律を遵守させるためのルールづくりも始まっている。

 また、電力・ガスシステム改革から既に6~7年経過し、様々な課題が露見してきたことを受け、システム改革の再整理にも着手し始めている。

さらに、環境面で言えば、製品一つひとつのライフサイクルCO2を算定・表示し、取引先などのステークホルダーからの要請に応えることができるよう、カーボンフットプリントの算定に係る検討会創設や、脱炭素投資の財源として活用が見込まれるカーボンフットプリントの制度化、脱炭素に先行的に取り組み、野心的な削減目標をもつ企業が参加するGXリーグの詳細設計や、その中で行われる排出量取引についても、検討が始まっている。

制度が複雑化し機能するのか エネ事業者と需要家に最適なものを

こうして多くの議論が幅広く、同時並行に行われ、多くの制度が実装されているが、事業を行う側、そしてエネルギーを利用する側の双方にとって最適なものになっているかは、まだ言い難い状況である。

電力やガスといった産業は、どうしても制度や規制があってこその事業ではあるが、あまり複雑で頑ななものになると、せっかくの良い制度であっても機能しないおそれがあり、結果して、再度見直しが入り、また多くの時間を費やして議論し直すことになりかねない。もちろん、一回作った制度が運用を経て、その状況を踏まえたブラッシュアップを行うことは否定しないが、各議論においては、是非、実りあるものになるよう願いたいところである。

【特集2】液化バイオメタンの実証開始 高純度ガスを多彩な用途へ


【エア・ウォーター】

エア・ウォーターは、家畜のふん尿からつくる液化バイオメタンの実証を開始した。LNG代替に加え、高純度なガス質を生かしロケット燃料などの利用を目指す。

北海道十勝地方で、牛などの家畜から排出されるふん尿を利用して液化バイオメタン(LBM)を生成し、需要家に供給する実証が今年度から本格的に開始となった。
同実証は、環境省が推進する「令和3・4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択されたもの。エア・ウォーターが中心となり、家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンをLBMに加工。液化天然ガス(LNG)の代替燃料として利用することを目的として、LBM生成から需要家での活用までを実証する。サプライチェーン全体でのCO2排出量、温室効果ガスの削減とともに、家畜ふん尿に起因する臭気の減少にもつながることが期待されている。

電力での利用が困難 ふん尿の扱いに苦戦続く

酪農が盛んに行われている十勝地方は家畜から大量に排出されるふん尿の扱いが課題となっている。春や秋に畑の肥料として散布するが、この臭いが十勝地方の中心部である帯広の街中でも立ち込めることがある。これがイメージダウンにつながり、インバウンド需要に影響すると懸念する声もあるほどだ。一方で、エネルギーとして再利用することに関心のある酪農家は、固定価格買い取り制度(FIT)を活用し、ふん尿をバイオガス化して発電することを模索したが、送電網などインフラに関わる制約から活用は限定的で、長年解決策を見いだせずにいた。
このように、ふん尿をそのまま田畑に散布せず、新たな方策を見いだす機運が高まっていた。
そうした中、バイオガスをエネルギーに有効利用する手段として、エア・ウォーターが産業用ガス事業で培った極低温技術などを応用して同実証のスキームを考案。酪農家や乳業メーカー、同社グループ会社などの参画を受けて実証を行う運びとなった。
実証では、①酪農家の敷地内に設置したバイオガス捕集システムで家畜ふん尿由来のバイオガスを回収し圧縮や前処理を行い、ガスを貯めた吸蔵容器をセンター工場に輸送する、②センター工場で捕集したバイオガスを前処理した後、マイナス162℃まで冷やしメタンガスを液化する、③これを需要家に持ち込みボイラーなどで利用する―ところまで行う。
①バイオガス捕集システムは、今年5月に完成し試運転を実施してきた。酪農家に設置し無人で稼働するため、ガスを1MPa未満で捕集する。高圧ガスの複雑な保安体制を必要としない仕組みにした。ガス吸着剤に関わる知見を活用し、ガスが低圧状態でも容積の約20~30倍のガスを輸送できるものを開発した。装置は酪農家でも運用できるよう簡単な点検を1日1回行うだけで済むようにした。
②センター工場は1日当たり1tのLBMを製造する能力を有する。実証では30~50%程度で稼働させている。1日2台持ち込まれる吸蔵容器から抽出したバイオガスを圧縮した後、膜分離装置などでメタンからCO2、大気を除去。さらに深冷分離装置で液体窒素を用いて熱交換を行い、メタンを液化する。同工場は8月8日完成し試運転が開始となった。9月4日からは純度99%以上のメタンが製造可能に。10月13日には同センター工場からLBMが初出荷された。

LBM製造プラント


③出荷されたLBMは、需要家であるよつ葉乳業でLNGと混合してボイラーで燃焼試験を実施している。11月からは、同社と三菱商事が共同で実証しているLNGトラック向け充填所にも出荷していく予定だ。
地球環境システム開発センターの田中真子部長は「燃料としてのLBMはメタン純度が99・99%(フォーナイン)と非常に高いのが特徴です。そうした品質が求められる用途向けにも展開していきたいです。LNGトラックには重質分が含まれていないことから火炎温度が上がらず適しているとされています。また十勝地方の大樹町には堀江貴文氏が設立者に名を連ねる宇宙ベンチャーの『インターステラテクノロジズ』があります。このロケット向け燃料として、高純度なメタン燃料であるLBMは非常に有望です。高付加価値向けにも訴求したい」と強調する。

LBM 実証のスキーム図

LBMの都市ガス利用も 道内の複数地域に展開

地元の都市ガス事業者でも、LBMの導入を検討する動きがある。都市ガス大手3社に限定されているが、エネルギー供給構造高度化法で、条件を満たす余剰バイオガスについては80%以上を利用することが目標と位置付けられているのだ。
今後、こうした法律が地方ガス事業者にも適用される可能性がある。このため、LBMの取り組みに注目をしているとのことだ。
エア・ウォーターでは、道内の他の地域でもLBMサプライチェーンの展開を模索している。北海道産の新たな地産地消エネルギーとして、今後さらに注目を集めていきそうだ。