【特集2】プラントの安全対策を万全に 双方向通信機能をフル活用


【理研計器】

幅広いガス種に対応する検知器やソリューションを展開する理研計器では、検知器で取得した情報を管理側に通信を介して伝えたり、検知器の設定変更を管理側から実施することが可能といった、双方向通信機能を活用した製品を取りそろえる。

通信で遠隔地と情報共有 双方向通信で緊急事態に対応

発電所やLNG基地の保守管理で、作業員向けに利用されているポータブルタイプのガス検知器では、最新機種「GX―3RPro」が国内で初めてBluetooth通信に対応した。緊急事態をすばやく知らせることができるほか、専用アプリを使用してスマートフォンやタブレットと連携すれば、緊急事態を迅速に知らせることができるほか、GX―3RProで得た検知情報を各種無線デバイスと組み合わせて、顧客サーバー上での管理や、現場の状況を離れた場所にいる管理者とリアルタイムで情報共有できる。また、緊急事態の発生時にアラート通知を発し、災害の兆候把握や的確な注意喚起を行い、緊急時の迅速な対応が可能となる。

携帯型の「GX-3RPro」

定置防爆型タイプの検知器「SD―3」は国内外の石油精製、石油化学プラント向けで、HARTなどの通信規格に対応する。HARTはアナログ伝送における統一信号として広く使用されているDC4~20 mAに、デジタル信号を重畳し、デジタル信号を伝送する方式で双方向通信も可能だ。

また、半導体工場向けの最大4成分のガス検知が可能な「GD―84D」はEthernet通信に対応しPoE HUBを使用することで、LANケーブルで電源供給が可能であり、施工コストを大幅に低減、かつウェブブラウザーで検知部の状況などが確認できる。

定置型の「SD-3」

これら通信機能への対応に加え、自己診断機能を搭載する。使用開始から3年後、また初期のセンサー出力からのドリフト値がしきい値を超えたときに警告を出す。さらに、校正履歴からセンサーの寿命を計測して機器が自ら状態を診断し、性能を維持して寿命を判断する。

営業技術課の杉山浩昭課長は「GX―3RProでBluetooth対応を契機に、ポータブルでどのような通信需要があるのか見極めていきます。LPWA(省電力広域無線通信)などの通信規格への対応なども検討していきたい。また、欧州を中心にしたガス関連の新たな規格への対応を進めていきます」と、今後の展開について話す。

水素やアンモニアなど、次世代エネルギーの取り組みが活発になってきた。その中で安全性をさらに向上していくことが求められている。理研計器では、そのような対応に通信技術などを駆使しながら取り組んでいく。

【特集2】ガス警報器の新たな可能性 ネット接続で広がる機能・サービス


【新コスモス電機】

家庭の台所に設定して、ガス漏れを見守る警報器―。新コスモス電機はガス漏れ検知機能に加え、スマートホームサービスに対応した新たなコンセプトの都市ガス警報器「快適ウォッチSMARTXW―735」をソフトバンクの子会社エンコアードジャパンと協力して開発し、各都市ガス事業者を通じて販売している。

快適ウォッチSMART XW-735


快適ウォッチSMARTは、通信機能を搭載した熱中症・乾燥おしらせ機能付きのガス・CO警報器。Wi―Fiに接続することで、スマートフォンなどの専用アプリでガス漏れやCOの警報を確認できる。エンコアードの「コネクトセンサーSEN1―FLG」をBluetooth通信で連携させると、「簡易セキュリティー」「家族の見守り」「家族の帰宅確認」などの生活に役立つ新機能・新サービスが利用できるようになる。
このうち、熱中症・乾燥環境おしらせ機能は、熱中症搬送者の多くが住居内で発症しており、その半数以上が高齢者や子どもという調査結果を受けて2015年からガス警報器の新たな機能として搭載したもの。ガス警報器に内蔵された温湿度センサーにより台所の温度と湿度を監視して、熱中症になりやすい環境や空気が乾燥している環境をランプで知らせ、スマホアプリに対してもプッシュ通知を行う。また、コネクトセンサーに内蔵された温湿度センサーにより、コネクトセンサーを設置した室内において熱中症になりやすい環境を検知した場合も、スマホアプリに対しプッシュ通知を行う。
家族の見守りはドアの開閉が長時間行われないこと、帰宅確認はコネクトセンサーを持った家族の外出や帰宅をコネクトセンサーが検知してスマホに通知する。

スマホアプリ画面


新機能を続々追加 業務効率化にも寄与

都市ガス警報器ではインターネットに接続することで、居住地域に関する災害情報や防犯情報、雨雲速報やゴミ出し日など生活に役立つ情報を提供したり、人感センサーによって人が近づいたらしゃべる機能などを実現した製品も展開する。
LPガス向けにはガスメーターと接続しガス切れ防止やLPガス配送の効率化、電気・水道のメーターと接続して使用状況を把握することで高齢者の見守りサービスや健康管理などを行う製品なども開発した。
「インターネット接続によって家庭用ガス警報器の可能性は大きく広がっています。今後も安全、安心、快適に寄与する商品やサービス提供を目指します」。担当者はこう話す。
「生活を支える」というコンセプトの下、新コスモス電機のガス警報器はさらに進化していく。

【特集2】認定制度でスマート保安を促進 中小事業者には予算措置で支援


【インタビュー】江澤正名経済産業省産業保安グループ保安課長

国は高圧ガス保安法などの改正で認定制度を創設し、定検期間の延長などで導入を促進する。保安高度化の裾野を広げるため、中小事業者には予算措置で支援を講じていく。

―2020年6月にスマート保安の基本方針が策定されました。策定以降の事業者の取り組みをどう評価していますか。
江澤 基本方針が策定されてから、スマート保安の推進に向けた基本的な考え方がまとまり、官民協議会も設立され、新技術の導入や制度見直しも含むアクションプランも策定されました。
 この間の事業者の取り組みを見ると、例えばドローンを利用してタンクの内部の肉厚を測定したり、最新の技術を組み合わせて常時監視を行い異常検知をしたりするなど、AI、IoTを活用した取り組みに大きな進展がありました。
―取り組んだ企業のメリットは大きいと思います。
江澤 それらを導入した企業はコストの削減や時間の節約などもできますから、競争力が向上します。そういった企業が増えていけば、製造業の割合が大きい日本においては、国際的な競争力が増すことになります。
 さらに、保安の実施についてのプロセスもかなり高度化しています。それらによって、今後は海外に日本のスマート保安の技術やノウハウを広めることができるかもしれません。そういったことにも期待しています。
―スマート保安をより進めるための制度整備は、どういう状況ですか。
江澤 今年の国会で成立し、23年12月までに施行される高圧ガス保安法などの改正では、高度なスマート保安を導入した事業者を認定する制度を創設します。AI、IoTなども活用し、高度な保安を実施できる事業者には定期検査の期間を延長したり、国と事業者が行う検査を事業者だけにするなどの措置を行います。それらによって、さらなる導入促進を行います。


高度なリスク対策を要求 IPAに調査依頼も


―高圧ガス保安法などの改正では、サイバーセキュリティ対策にも触れています。
江澤 認定制度の中で、サイバーセキュリティの確保も要件として追加しています。認定されるには、会社のトップがきちんとコミットメントしているか、高度なリスク対策を取っているかなど、認定要件に沿った対応を取らなければなりません。
 もしサイバーセキュリティに関して重大な問題があった場合は、法令に基づいて情報処理推進機構(IPA)に調査依頼ができるようにしています。
―今後はどういう点が課題になりますか。
江澤 これまで認定事業者は大手など一部の企業に限られていました。今後はスマート保安の裾野を広げ、優れた取り組みを行う事業者を増やしていく仕組みをつくっていきたいと思います。
 一方、日本には高圧ガス分野をはじめ、圧倒的に中小の事業者が多い。中小企業には認定を取ることにまでいかなくても、より高度な保安ができるよう、予算措置などで支援を行っていきたいと考えています。

えざわ・まさな 1995年東京大学工学部卒、通商産業省(当時)入省。資源エネルギー庁石炭課長、新エネルギーシステム課長、省エネルギー課長を経て2022年7月から現職。


【コラム/11月15日】制度設計は、益々増えて複雑に


制度設計の進捗に関する前回の寄稿から4か月ほど経ったが、まだまだその進展は止まることを知らない。最近では、環境省や内閣府など、少し範囲を広げてウォッチするようになったが、これを全て網羅して把握しようとすると、めまいが起きそうだ。今回は、今年7月以降、10月までの制度設計の進捗について振り返りたい。

幅広い分野での議論を展開

ここ最近の国の審議会の傾向は、相変わらず毎月の開催件数が減らず、多い時には、1日で4~5件開催されるケースも目立っている。コロナ禍でのオンライン化が影響していることになるが、人には「密になるな」と言いつつ、「会議」は「密」になっても良いということだろう。取り上げる分野が多岐に渡っていること、専門的な分野はワーキンググループ(WG)や専門部会を設置して議論せざるを得ないことが要因だろう。

 筆者も毎月、経産省を中心にエネルギーや環境に関する審議会をウォッチしている。完璧に全てを網羅しているというわけではないが、それ相応にチェックしているのであるが、審議会全体を見渡してみると、幅広い分野で議論が展開されていることが分かる。

例えば、表1は10月に開催された審議会を電力のサプライチェーンとその他キーワードを横軸にしてプロットしたものであるが、多岐に渡っていることが分かるだろう。

 ちなみに、筆者がチェックしている限りではあるが、エネルギー・環境関連の審議会開催件数は、7月が28件、8月が27件、9月が34件、10月が47件と、4か月で136件となっている。8月はお盆休みがあったので一服感があったものの、9月から再びドライブがかかり、10月には営業日換算で1日平均2.5件弱の開催という熾烈な状況になっている。

これから年末にかけてはGX実行会議の取りまとめに向けて各分野で一定程度の取りまとめが行われることや、年明けには通常国会が開会され、おそらくCCSや再エネ関連の法案提出が見込まれることから、ここしばらくの間は、審議会の開催頻度は高くなるだろう。

議論は同時並行で実施 内容も盛りだくさん

毎月、出しているレポートの中で、7月に第1四半期の振り返りと今後、予定されている月別スケジュールというものを作成した。(表2)

7月時点なので、更新・変更もあるので、最新版ではないが、非常に多くの検討が進められ、見直しや新たな措置が取られることが分かると思う。

全体をざっくり把握するには年度毎のスケジュールを見ていけばよいが、実務を行う事業者にとっては、こうして詳細にチェックして、抜け漏れがないようにしておくことが必要だろう。

至近の議題の特徴は、足元の危機・課題として挙げられているエネルギーセキュリティと電力安定供給、エネルギー価格高騰への対応を前提に、将来への布石としてカーボンニュートラル実現のためのGX推進についても同時並行的に議論が進んでいる。

前者については、資源燃料の安定確保のため、ガス事業法改正(臨時国会で法案提出)によるJOGMECによる調達支援や、発電事業者や都市ガス事業者などの異業種間でのLNG融通などの取組みを進めているほか、供給力確保において昨冬や今夏同様に、この冬も休止電源などを活用するkW公募、kW時公募により追加的な電源調達や再稼働可能な原子力発電の稼働などを行い、何とか厳気象時の最大需要であるH1需要に対して必要な最低限の供給予備力3%確保ができるレベルまで引き上げることができた。もちろん、大型火力のトラブル停止や寒波による急激な需要増が発生すれば、ひとたび、「ひっ迫」の危険水域に舞い戻る可能性は否めない。また、供給側だけに頼ることは難しいとして、需要側についても、「無理のない範囲での節電」協力依頼や、小売電気事業者を介したDR促進により、需給一体での対策を講じているところである。

 こうした足元の対策は、ある意味、プロ野球で言えば、先発投手が危険球退場して、急遽、リリーフ投手がマウンドに上がってピンチをしのぐといった場面に似ており、恒久的に同じことを繰り返してはいけない。そういった意味で、中長期的には、資源燃料としてアジア諸国などとのサプライチェーン強化や、供給力確保として24年度から契約発効する容量市場の着実な実施、予備電源の制度化、脱炭素電源の新規投資を促進するための長期脱炭素電源オークションの検討、そして需要側は引き続き、DRや省エネの徹底を進めることを検討項目として掲げている。

一方、将来の布石については、資源燃料や電源の脱炭素化を図るため、水素・アンモニア、メタネーションといった新たな燃料の開発・実証を進めるとともに、未整備である法令などの整備や事業者支援の在り方の検討を進めている。電源については、前述の長期脱炭素電源オークションの制度化による脱炭素電源の新設・改修を進めるため、来年度に初回オークション実施に向けた詳細設計が順次進められている。電源の脱炭素化については、再エネ主力電源化が謳われているが、そのために必要な地域間連系線の増強・系統運用の高度化を進めるほか、導入にあたって一定の規律を遵守させるためのルールづくりも始まっている。

 また、電力・ガスシステム改革から既に6~7年経過し、様々な課題が露見してきたことを受け、システム改革の再整理にも着手し始めている。

さらに、環境面で言えば、製品一つひとつのライフサイクルCO2を算定・表示し、取引先などのステークホルダーからの要請に応えることができるよう、カーボンフットプリントの算定に係る検討会創設や、脱炭素投資の財源として活用が見込まれるカーボンフットプリントの制度化、脱炭素に先行的に取り組み、野心的な削減目標をもつ企業が参加するGXリーグの詳細設計や、その中で行われる排出量取引についても、検討が始まっている。

制度が複雑化し機能するのか エネ事業者と需要家に最適なものを

こうして多くの議論が幅広く、同時並行に行われ、多くの制度が実装されているが、事業を行う側、そしてエネルギーを利用する側の双方にとって最適なものになっているかは、まだ言い難い状況である。

電力やガスといった産業は、どうしても制度や規制があってこその事業ではあるが、あまり複雑で頑ななものになると、せっかくの良い制度であっても機能しないおそれがあり、結果して、再度見直しが入り、また多くの時間を費やして議論し直すことになりかねない。もちろん、一回作った制度が運用を経て、その状況を踏まえたブラッシュアップを行うことは否定しないが、各議論においては、是非、実りあるものになるよう願いたいところである。

【特集2】食品工場にLNG冷熱を供給 省エネとCO2削減を実現


【広島ガス】

広島ガスは2月から、豆腐など大豆を主原料とした食品を製造するやまみと共同で、「連携省エネルギー事業」を開始した。この事業は、三原西部工業団地に位置する広島ガスの備後工場から、隣接地にあるやまみ本社工場に、都市ガス製造の過程で抜き出したLNG冷熱を供給するというものだ。

両社は、連携事業のために新たな設備を導入している。広島ガス備後工場では、都市ガス製造で使用する気化器のシステムを、温水式の気化器からブライン式を中心としたシステムに変更した。やまみでは、主に豆腐を製造する過程で必要となる大量の冷水を生成していた冷凍機24台を、LNG冷熱の受け入れに対応した高効率ターボ冷凍機3台に入れ替えた。これにより、備後工場では加熱燃料、やまみでは電力使用量の大幅な削減に成功した。

省エネ・CO2削減は順調 冷熱利用の最適化が課題

連携事業の実現は、省エネなどの利益の一致はもちろんだが、広島ガスの確かな営業力と技術力の結晶だ。同社にとってやまみは都市ガスの供給先でもある。以前から両社間では、LNG冷熱を取り出し、やまみ本社工場で利用するアイデアを共有していた。

2017年に国の補助金を用いて、事業化に向けた調査を開始した。当初は三原市や工業団地内の他企業の協力も得つつ、工業団地全体での共同受電といったLNG冷熱利用にとどまらない、より大きな範囲での事業化を検討していた。最終的には投資効果の高いLNG冷熱の利用に的を絞った。20年度に、経産省が実施する「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金事業」に採択され、事業化に至った。

広島ガス備後工場の全景

連携事業を開始して約半年、省エネやCO2排出量の削減は順調に進んでいる。当初想定されていた目標値は、原油換算での省エネルギー量は年間1465㎘(広島ガス392㎘、やまみ1073㎘)、CO2削減量は年間2813t(広島ガス901t、やまみ1912t)となっている。「事業開始時に算出した目標値の達成に向け、毎月実績を管理しています。通年での成果の取りまとめはこれからですが、このまま安定的な運用を継続できるよう、努めていきます」と、エネルギー事業部産業用エネルギー営業部技術グループ服部大資主任は意気込みを見せる。

事業開始後の課題としては、冷熱の需要と供給の最適化がある。季節や1日の中の時間帯によって需要量も供給量も異なるため、無駄が出ないようデータを分析し、両社で検討する機会を月に1回設けている。効率的な設備運用のため、定期点検などの情報共有なども行う。また、備後工場ではガスの安定供給のため、ブライン式気化器の不具合を想定した訓練を充実させていくことも検討中だ。

広島ガスでは、「このまち思いエネルギー」という企業スローガンの下、エネルギーの地産地消や隣接地との関わり方、異業種間での連携などのノウハウを、次なる事業へ展開することも見据えている。実際に、広島県に拠点を持つ企業や自治体からの問い合わせが多数寄せられているという。同社の地域に根差した取り組みに今後も注目だ。

【特集2】ZEBに対応した新本社ビル 環境性と防災性・職場環境が向上


【岡山ガス】

5月20日、岡山ガスの新本社ビルが完成した。同ビルは、快適な室内環境と建物のエネルギー使用量の収支ゼロを目指すZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の4分野のうち、外皮の断熱化や高効率な省エネ設備を備えた建物を評価する「ZEB Ready(ゼブレディ)」を取得。また、温室効果ガス排出ゼロを目指すオーナーが加盟する「ZEBリーディングオーナー」にも登録している。

旧本社ビルは1973年に建築され、耐震化を検討していた。その中で、BCP対策と省エネの両立が可能なZEB対応の新本社建設を立案。設計会社の丸川設計事務所、ZEBプランナーのパナソニック、コンサルタントの備前グリーンエネルギーに協力を仰いだ。

検討開始は2019年で、設計会社は複数社の企画案から適したものを採用するプロポーザル方式で選出。同時期にZEBリーディングオーナーの登録を準備し、設計案ができあがった20年8月に登録を完了した。21年1月にゼブレディを取得、2月に着工、22年5月末から業務を開始している。

ガス設備メインのZEB 働きやすさも重視

新本社ビルでは、ガスコージェネレーションシステムや廃熱回収型吸収式冷凍機、高効率GHP、太陽光発電、蓄電池などを運用している。加えてBEMSの導入で、エネルギー使用量を「見える化」した。計測した発電量は、外気温や室温などと併せて入口のサイネージに表示される仕組みだ。

一般的にZEBといえば電気を用いた建物が多い中、同ビルはガス設備を軸にZEBを構築。外壁断熱やLow―Eガラスなどで外皮性能を向上させ、コージェネなど空調設備の負荷設計を、建物の規模に対して従来設計で必要とされていたエネルギーの7割程度に抑えている。また、通常時はコージェネ1台と太陽光発電を中心に給電し、停電時には2台を追起動し、計3台で給電する。コージェネが起動しないことも想定し、非常用のディーゼル発電機も備え、さらなるレジリエンス向上も図る。

屋上にはGHPやコージェネなどが置かれている

ゼブレディの基準を達成する設計は難航した。岡山ガスでは防災性・環境性に加え、働きやすさも重視。窓をつくると断熱性が落ちるなどの課題があった。総務部総務グループの宮脇雄一グループ長は「省エネに特化すれば基準はクリアできるが、快適とは言い難い。ゆくゆくはCASBEE(建築環境総合性能評価システム)ウェルネスオフィスの認証取得を目指しているので、働きやすさは欠かせない」と話す。また、一級河川の旭川と世界かんがい施設遺産の倉安川水系に隣接。建設工事には多くの制約があったが、旭川の景観と用水沿いの桜並木は社員に癒しを与えてくれているという。

現在、岡山ガスは新本社ビル見学の対応に追われている。ガス設備メインのZEB構築を手本としたい県や市などの自治体や、同業他社などから、多数の声が寄せられているのだ。エネルギー開発部環境エネルギーグループの山本雅生グループ長は「電気だけでなくガスでもZEBが構築できることをアピールしていきたい」と意気込みを見せる。今後、新本社ビル横の第2ビルにも、ZEB化の改修を行う予定。防災性、環境性、働きやすさの向上を追求していく。

【特集2】都市ガスと電気をバックアップ 公立校の体育館や給食施設へ導入


【I・T・O】

I・T・Oは防災減災システム「BOGETS」の導入拡大を目指している。自治体の災害時におけるエネルギーのニーズに応える。

今、非常用発電機の需要が高まっている。停電が全国的に頻発しており、支障が大きい施設や事業者のニーズが増加しているのだ。

非常用発電機には2種類ある。法律で設置が義務付けられた防災用発電機と、任意で設置する保安用発電機だ。防災用の稼働時間は2時間ほどで、避難誘導での使用が前提。保安用は燃料備蓄により約72時間稼働し、エアコンや給水ポンプ、照明などが利用できる。

空調や調理機能を維持 自治体のニーズに応える

I・T・Oは防災減災システム「BOGETS」の自治体への導入を進めている。BOGETSは、LPガスから都市ガスと電気をつくるシステムだ。ガス変換器の「NEW PA」でLPガスと空気を混ぜ、都市ガスと同様の燃焼特性を持つガスを生成。停電対応型GHPや発電機に投入し、発電する。BOGETSに組み込まれる発電機は、保安用にあたる。

自治体での導入事例として、足立区立の小中学校91校、稲城市立学校給食共同調理場第一調理場、寝屋川市立の中学校11校の三つがある。足立区と寝屋川市の事例では、NEW PAと停電対応型GHPを組み合わせて運用。災害時に避難所となる体育館の照明やコンセントでの使用、空調設備の運転などを目的としている。稲城市の事例では、NEW PAを導入。同施設は市の防災計画上、災害時に炊き出しを提供する。回転釜や連続炊飯器など厨房機能に不可欠なガスをバックアップする。

導入に当たっては、補助事業制度を活用した。足立区では「東京都効率学校屋内体育施設空調設置支援事業(リース補助)」、寝屋川市では「緊急防災・減災事業債」を利用。寝屋川市のケースでは、実質3割程度の負担での導入となったという。

稲城市の給食調理施設に設置されたNEW PA

自治体には三つのニーズがある。①避難所へのエネルギー供給、②炊き出しの調理、③災害対策本部の運営―のバックアップが求められている。①で特に重要なのは空調設備だ。災害から助かったとしても、避難中の暑さや寒さによる体調の悪化で亡くなることもある。これに応えたのが足立区や寝屋川市の事例だ。また、稲城市の給食調理施設の事例は②に該当する。

③災害対策本部運営のバックアップについて、営業開発部の野口恭夫防災担当部長は「災害対策本部となる庁舎に防災用発電機はあっても、それは避難を促すための設備。その場にとどまらなければならない災害対策本部の用途とは異なる」と話す。実際、庁舎などの保安用発電機の普及率は54%程度にとどまっている。導入コストなどの課題はあるが、まだまだ普及促進の余地がある。I・T・Oはこれらのニーズに応えるため、BOGETSのさらなる導入拡大を目指す構えだ。

【特集2】脱炭素に挑むガス体エネルギー e-メタンなど次世代技術が加速


脱炭素化に向けて新たなエネルギー技術が取り上げられるようになってきた。実用化に向けてのルールづくりも重要なポイントなってくる。

2050年カーボンニュートラルに向けて、ガス体エネルギーの次世代技術がこの1年で数多く発表され、従来にも増して開発や取り組みが加速している。
日本ガス協会は昨年6月、「カーボンニュートラルチャレンジ 2050」アクションプランの中で「メタネーション実装への挑戦」を打ち出し、業界を上げての取り組みを本格化させた。メタネーションはCO2と水素(4H2)を反応させて都市ガスの主成分である「メタン(CH4)と水(2H2O)」を生成する。こうして合成されたメタンを総称で「e-methane (e-メタン)」と呼ぶ。e-メタンの代表的な合成法はサバティエ反応を利用した方式で、触媒を介してH2とCO2を反応させてCH4を生成する。
INPEXと大阪ガスが24年度に開始する実証においても同方式が採用されている。INPEXの長岡鉱場内から回収したCO2を用いてe-メタンを製造し、同社の都市ガス導管に注入する予定だ。e-メタンの製造能力は1時間当たり400N㎥と世界最大規模となる。実証では、①触媒によるメタネーション反応の挙動把握を目的とした反応シミュレーションの技術開発、②プロセスの基本性能や触媒の長期耐久性などの評価・確立を目的とした大規模メタネーション反応プロセス技術開発、③商用スケールへの大型化、適用性や経済性などの評価を目的とした、反応システムのスケールアップの適用性―を検証する。

メタネーションの事業イメージ 出所:INPEX


エネ変換効率向上を目指す 新たなメタネーション技術

メタネーションでは高効率化や低コスト化を目指し、次世代技術の開発も進行中だ。東京ガスの「ハイブリッドサバティエ」や「PEMCO2還元」、大阪ガスの「SOECメタネーション」、「バイオメタネーション」などがその代表的な技術となる。
東京ガスが取り組むハイブリッドサバティエは、サバティエ反応を220℃以下と従来よりも低温で行う。これにより、発生する熱を水素発生の水電解に活用。投入する電力量を抑制して、80%以上の高効率なメタネーションを目指して開発を進めている。
PEMCO2還元は独自に開発する水電解セルスタックと親和性の高い電気化学還元デバイスを使用して、水とCO2から直接メタンを生成する。メタン合成装置が不要のため、設備を簡素化して設備コストの低減が期待できる。また固体高分子型のため反応温度が100℃以下と低く、大型化における配熱処理の課題がないことも特徴だ。
大阪ガスのSOECメタネーション技術(高温電解ガス合成技術)は、水素の供給が不要で、電力からメタンへのエネルギー変換効率が85~90%と非常に高い。従来のメタネーションでは水の電気分解やメタン合成反応で発生する熱を有効利用できず同55~60%にとどまっている。SOECメタネーションはエネルギー損失が少なく前述のような高い効率が実現でき、電力使用量を従来に約3分の2まで削減できる可能性があるという。
メタネーションの実用化に向けて、制度面での取り組みも進められている。CO2を排出する側とメタネーションなどに利用する側のどちらでCO2をカウントするかというルール決めが行われているのだ。国内におけるカウントルールは、メタネーション推進官民協議会傘下の今年3月に開かれた「CO2カウントに関するタスクフォース」で、工場や発電所などの排出者側にCO2排出を計上し、メタネーションでe-メタンを生産する都市ガス事業者など利用側はゼロと整理された。
ただ、排出者側にとって利用側にCO2を引き渡すメリットがなければ、そうした取り組みが浸透しない。このため、補完的な仕組みの制度設計が必要とされている。
30年には、海外でグリーン水素を調達し毎時数千~数万N㎡の大規模実証を行い、現地からe-メタンを輸入する計画だ。これにより、30年までに都市ガス全体のうち1%のe-メタン導入を目指す。この1%を都市ガス量に換算すると、4億㎡に相当する大規模なものとなる。
24年度に始まるINPEXと大阪ガスの実証や、海外での大規模生産計画のためにも、早期の環境価値取引ルールづくりが求められている。


グリーン水素登場を見越し 利用機器の実証始まる

次世代エネルギーでは水素関連の取り組みも活発だ。パナソニックは純水素型燃料電池や太陽光発電、蓄電池を自社工場敷地内に設置して、工場で利用するエネルギーを賄う実証を行っている。将来、再エネ由来のグリーン水素が供給されることを見越した先進的な実証だ。リンナイは、水素100%燃焼給湯器を開発。水素の燃焼特性に合わせたバーナー技術によって実現した。11月からはオーストラリアで実証をスタートさせる。同社はトヨタ自動車が静岡県裾野市に建設する「ウーブン・シティ」において、水素を燃焼させて行う調理において共同開発も開始した。このように、水素利用機器側での取り組みが今年に入って活発となっており、今後さらに加速していくものと見られる。
産業ガス大手のエア・ウォーターは北海道十勝地方で、家畜糞尿由来のバイオガスに含まれるメタンを液化バイオメタン(LBM)化し、活用するまでのサプライチェーン構築の実証を行っている。LBMはメタン純度が99・99%と高い。ロケットやLNGトラックなどその性能が生かせる用途をターゲットにしている。
次世代に向けてさまざまな開発や取り組みが進む中、環境価値についてのルールが話題に上るようになってきた。ただ、水素もLBMも再エネからつくり出したとしても、環境価値が認められる仕組みには現在のところなっていない。こうした手つかずの部分の整備が今後一層求められてくるだろう。

【特集2】液化バイオメタンの実証開始 高純度ガスを多彩な用途へ


【エア・ウォーター】

エア・ウォーターは、家畜のふん尿からつくる液化バイオメタンの実証を開始した。LNG代替に加え、高純度なガス質を生かしロケット燃料などの利用を目指す。

北海道十勝地方で、牛などの家畜から排出されるふん尿を利用して液化バイオメタン(LBM)を生成し、需要家に供給する実証が今年度から本格的に開始となった。
同実証は、環境省が推進する「令和3・4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択されたもの。エア・ウォーターが中心となり、家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンをLBMに加工。液化天然ガス(LNG)の代替燃料として利用することを目的として、LBM生成から需要家での活用までを実証する。サプライチェーン全体でのCO2排出量、温室効果ガスの削減とともに、家畜ふん尿に起因する臭気の減少にもつながることが期待されている。

電力での利用が困難 ふん尿の扱いに苦戦続く

酪農が盛んに行われている十勝地方は家畜から大量に排出されるふん尿の扱いが課題となっている。春や秋に畑の肥料として散布するが、この臭いが十勝地方の中心部である帯広の街中でも立ち込めることがある。これがイメージダウンにつながり、インバウンド需要に影響すると懸念する声もあるほどだ。一方で、エネルギーとして再利用することに関心のある酪農家は、固定価格買い取り制度(FIT)を活用し、ふん尿をバイオガス化して発電することを模索したが、送電網などインフラに関わる制約から活用は限定的で、長年解決策を見いだせずにいた。
このように、ふん尿をそのまま田畑に散布せず、新たな方策を見いだす機運が高まっていた。
そうした中、バイオガスをエネルギーに有効利用する手段として、エア・ウォーターが産業用ガス事業で培った極低温技術などを応用して同実証のスキームを考案。酪農家や乳業メーカー、同社グループ会社などの参画を受けて実証を行う運びとなった。
実証では、①酪農家の敷地内に設置したバイオガス捕集システムで家畜ふん尿由来のバイオガスを回収し圧縮や前処理を行い、ガスを貯めた吸蔵容器をセンター工場に輸送する、②センター工場で捕集したバイオガスを前処理した後、マイナス162℃まで冷やしメタンガスを液化する、③これを需要家に持ち込みボイラーなどで利用する―ところまで行う。
①バイオガス捕集システムは、今年5月に完成し試運転を実施してきた。酪農家に設置し無人で稼働するため、ガスを1MPa未満で捕集する。高圧ガスの複雑な保安体制を必要としない仕組みにした。ガス吸着剤に関わる知見を活用し、ガスが低圧状態でも容積の約20~30倍のガスを輸送できるものを開発した。装置は酪農家でも運用できるよう簡単な点検を1日1回行うだけで済むようにした。
②センター工場は1日当たり1tのLBMを製造する能力を有する。実証では30~50%程度で稼働させている。1日2台持ち込まれる吸蔵容器から抽出したバイオガスを圧縮した後、膜分離装置などでメタンからCO2、大気を除去。さらに深冷分離装置で液体窒素を用いて熱交換を行い、メタンを液化する。同工場は8月8日完成し試運転が開始となった。9月4日からは純度99%以上のメタンが製造可能に。10月13日には同センター工場からLBMが初出荷された。

LBM製造プラント


③出荷されたLBMは、需要家であるよつ葉乳業でLNGと混合してボイラーで燃焼試験を実施している。11月からは、同社と三菱商事が共同で実証しているLNGトラック向け充填所にも出荷していく予定だ。
地球環境システム開発センターの田中真子部長は「燃料としてのLBMはメタン純度が99・99%(フォーナイン)と非常に高いのが特徴です。そうした品質が求められる用途向けにも展開していきたいです。LNGトラックには重質分が含まれていないことから火炎温度が上がらず適しているとされています。また十勝地方の大樹町には堀江貴文氏が設立者に名を連ねる宇宙ベンチャーの『インターステラテクノロジズ』があります。このロケット向け燃料として、高純度なメタン燃料であるLBMは非常に有望です。高付加価値向けにも訴求したい」と強調する。

LBM 実証のスキーム図

LBMの都市ガス利用も 道内の複数地域に展開

地元の都市ガス事業者でも、LBMの導入を検討する動きがある。都市ガス大手3社に限定されているが、エネルギー供給構造高度化法で、条件を満たす余剰バイオガスについては80%以上を利用することが目標と位置付けられているのだ。
今後、こうした法律が地方ガス事業者にも適用される可能性がある。このため、LBMの取り組みに注目をしているとのことだ。
エア・ウォーターでは、道内の他の地域でもLBMサプライチェーンの展開を模索している。北海道産の新たな地産地消エネルギーとして、今後さらに注目を集めていきそうだ。

【特集2】CNに向けた取り組みをサポート 業務用顧客向けコンサルサービス開始


【東邦ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、日本国内の企業はCO2削減を推進するさまざまな施策を検討している。しかし、「そうはいっても、具体的に何から着手したらよいのかわからない」―。そうした企業が大半だという。
業務用顧客のこのような状況を受けて、東邦ガスは都市ガスや電力、エンジニアリングのノウハウを活用した新サービス「CN×P」を立ち上げた。これまでのガス会社の営業というと「ガスや設備導入はいかがですか」と提案してきた。これに対し、CN×Pでは、「まずはCO2削減、その先にあるCN化に向けてこのような手順で進めたらどうですか」「現状の把握から一緒に取り組んでいきましょう」とCNに資する取り組みを一から具体的にアドバイスして顧客とともに取り組む。


現状把握が重要 ロードマップを策定


国のCN宣言以前は、省エネ関連のサービスが主体だった。顧客には燃料転換に伴う都市ガスや設備の導入を提案しCO2削減を進めていった。その中で顧客が最も重要視するのは費用対効果だ。エネルギー関連で新たな設備導入や取り組みを行う際には必ず採算性が求められたという。
CN宣言以降はこの状況が一変した。CO2排出量削減に取り組むという点では同じだが、コストを負担してでも推進しなければならない課題となったのだ。
「従来の投資回収基準に加え、取引先や国、社会からの要請など、CNへの取り組みは判断軸が増えて複雑化しています。いつまでに、どれだけのコストを割いて注力するのか、企業の方針によっても異なります。そこで現状を把握しお客さまの要望を聞きながら、ロードマップ策定やデータの見える化、エンジニアリングを提供し、CN化をサポートするのがこのCN×Pです」。エネルギー計画部ビジネス開発グループの富田達也マネジャーは、こう話す。
CN×Pでは、①顧客のCO2排出量を把握しCNに向けた課題を明確化する、②運用改善、省エネ、再生可能エネルギーや高効率設備の導入などのエンジニアリングサービスの提供によりCO2を削減する、③工場などの現場のCO2排出量のモニタリング、現場社員向けの技能講習会の開催、設備チューニングの支援など良好な削減環境の維持する―という三つのサイクルを回していくことを掲げている。
このうち、①のCNに向けた正しい状況把握の部分が新たなに提供するサービスであり、ロードマップ支援サービスとデータの見える化支援サービスなどを展開する。ロードマップ支援サービスは、顧客の事情に合わせて、CN達成への取り組みを排出量の削減効果と費用対効果でグラフ化し、中長期的な指標となる「CNカーブ」を作成する。図のようにグラフは横軸がCO2削減量、縦軸が施策を行うことによる追加コスト影響を表している。色付きの長方形はCO2削減のそれぞれの施策を表している。施策の長方形が中央線のゼロより下にあるものは投資回収可能なもの、上にあるものは投資回収できないがCO2削減に寄与するものとなっている。このグラフの横軸に目標年度を記入することでそれぞれの顧客に合った排出削減ロードマップが策定できるというわけだ。

「CN実現に向けたロードマップの策定」支援のアウトプットイメージ


例えば、製造業では、古い設備をそのまま用いて効率の悪い蒸気の使い方をしていたり、設備過剰で無駄に電力やガスを消費しているケースがある。こうした際に、「ガス設備の導入はもちろんですが、場合によってはヒートポンプの導入や既存設備の廃止を提案することもあります。電力もグリーン証書付き電力の購入よりオンサイトPPA(電力購入契約)による太陽光発電の設置の方がCN化に有効であれば導入を推薦します。あくまで優先すべきは顧客のCN化です」と、富田マネジャーは強調する。
データの見える化支援サービスでは、各種データの蓄積により、現場の管理工数低減やCO2削減進捗管理・フォローを行う。多くの事業所では工場単位、建屋単位でのエネルギー消費などのデータを蓄積しているが、製造ラインごとでは取得していないことが多い。
しかし、そうした取り組みがさまざまな企業に求められる時代がやってくるのは確実だ。そこで東邦ガスでは、「まず優先度の高い製造ラインから各データを測定していこう」と提案している。
また、データの見える化支援サービスでは事業所全体のエネルギーを見渡すマクロの視点から製造工程の細かな箇所確認するミクロの視点まで、いろいろな角度から見ることで問題点を見つけ出すことが鍵となる。「こうしたコンサルティングができるのは、エンジニアリングの知見を有し、お客さまの現場に深く入り込んできた当社ならではと自負しています」と、比嘉盛嗣チーフはアピールする。
これらのコンサルティングサービスを実施した後は、強みであるエンジニアリングサービスの提供によりCO2削減を行っていく。その後、現場の状況診断、CO2排出量のモニタリングなど削減環境の維持を図る。


CN黎明期にアピール 専用ホームページ開設


コンサルティングの内容は業種や規模が変われば取り組む内容も千差万別だという。それぞれカスタマイズした形で提供していくとのことだ。「同サービスは自信を持ってオススメできる費用感とアウトプットになっています。ただ、今はまだCN黎明期と捉えています。普及は当社がどうアピールしていくかにかかっています」と、富田マネジャー。
東邦ガスでは、専用ホームページを立ち上げるなど、CN×Pにかける意気込みが伝わってくる。同社の事業の新たな柱に育てていく構えだ。

同サービス普及を目指す富田マネジャーと比嘉チーフ

【特集2】道内初の天然ガス主体ZEB物件 エネやBCPの知見を投入


【北海道ガス】

北海道ガスはZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及推進に注力する。ZEBとは、建物の高断熱化や設備の高効率化、消費エネルギーを削減すると同時に、太陽光発電や地中熱利用などの創エネで年間の一次エネルギー消費の収支ゼロ以下を目指す建物のことを指す。
政府が昨年11月に発表した第6次エネルギー基本計画では、2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の省エネ性能の確保を目指すと明記され、その重要性が高まっている。
そうした背景から、同社は21年4月、環境共創イニシアチブの「ZEBプランナー」に登録した。顧客向けにシステム提案から補助金申請のサポート、稼働後のビル運用のサポートまで、一貫したZEBコンサルティングサービスを展開している。
今年11月には、地上三階、延床面積856㎡のZEB第一号物件が完成する。高断熱化と高性能ガラス、高効率設備の導入でエネルギー消費量を56%削減。建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の最高ランクである5つ星を獲得した。

北ガスが手掛けたZEB物件


第一号物件をモデルケースに 道内全域にZEBを展開

同社が手掛けるZEB物件は他にはない独自の特徴がある。災害に強い都市ガスインフラによりガスを供給し、空調に電源自立型ガスヒートポンプ(GHP)を導入することで、レジリエンスを強化している点だ。電源自立型GHPなら仮に停電が発生しても、冷暖房の稼働はもちろんのこと、照明の利用やスマートフォンなど電子機器の充電など、必要最低限の電源が確保できる。
「18年9月に発生した北海道胆振東部地震によって、道内のお客さまはBCPへの意識が高まっています。そうしたニーズにも応えながら、ZEB化を実現することができます」。第一営業部都市エネルギーグループの渡邊翔氏はそう説明する。
さらに、同ビルにはカーボンニュートラル(CN)天然ガスや実質再生可能エネルギー100%電気を供給することで、建物全体のCO2排出量が実質ゼロの「CNビル」を実現した。
同グループの鈴木崚太氏は「CO2排出量を徹底した省エネによるZEB Ready化で40t削減し、さらにCO2排出量実質ゼロの電気と天然ガスの供給によって36t削減し、実質ゼロとしました。脱炭素化の実現には、需要側と供給側の双方からのアプローチが求められてくるでしょう」とZEBへの取り組みについて話す。
今年に入り、エネルギー価格の高騰や、4月に「官庁施設の環境保全性基準」が改定されたことなどを受けて、ZEBの需要がさらに高まっている。6月に同ビルの建設が明らかになってからは、北ガスに対して同じ規模のZEB物件建設に関する相談が増えたとのことだ。
北ガスでは中小規模の建物については、今回の第1号案件をモデルケースとして、省エネとレジリエンス強化を両立するZEBを道内全域に展開していく。また、CNにつながるエネルギーサービスの提供を通じて、北海道の脱炭素化、地域発展に貢献していく。

【特集2】多種多様な業界が注目 燃料電池による水素活用


【パナソニック】

純水素型燃料電池を用いた「H2 KIBOU FIELD」実証。再エネや蓄電池を組み合わせた試みが話題を呼んでいる。

パナソニックは今年4月、RE100実現と分散型エネルギー社会構築に向け、5kW純水素型燃料電池「H2 KIBOU」と太陽光発電、リチウムイオン電池を組み合わせた実証施設「H2 KIBOU FIELD」を同社草津工場内に設置して実証実験を開始した。

同社草津工場に隣接する実証施設「H2 KIBOU FIELD」


実証施設ではH2 KIBOUを99台(495kW)並べて、昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は燃料電池を稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、24時間稼働する装置があるため一日中電力使用があり、ピーク電力は夏場に約680kW使用する。年間通して、工場の電力需要を太陽電池、燃料電池、蓄電池の三電池で賄う。液化水素の供給は岩谷産業が担当。年間で120tの水素を使用することが想定され、270万kW時の電力需要に対応する。
実証施設は稼働から半年が経過した。今もメーカーやゼネコン、地方自治体など、多種多様の業種の担当者が見学に訪れており、関心の高さがうかがえる。燃料電池事業横断推進室の河村典彦水素事業企画課長は、実証施設の能力について「長期的には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を用いるのが目標です。現段階は、グリーン水素ではないが消費拡大、利活用の好事例を示していきたい」とアピールする。

実用化課題は発電コスト 価格引き下げで選択肢に

このような水素によるRE100スキームにおいて、課題の一つがコストだ。現在の水素発電では、1kW時当たり0.6㎥の水素が必要で「例えば今の1㎥当たり100円の水素価格では、経済合理性が成り立たない」(河村課長)。経済産業省は2030年に向けて、水素価格を同30円、50年には同20円程度に引き下げる目標を掲げており、河村課長は「同30円なら再エネ電力程度のコスト、同20円なら系統電力並みになります。そうなれば電力の選択肢の一つに選ばれる可能性も出てきます」と期待を寄せる。
そのほか、ガス管と別の水素導管の敷設や関連法案の整備などといった課題も実用化に向けて解決しなければいけない。
河村課長は将来に向けて、「水素は、エネルギーミックスの考えで共存を図りながら推進していくべきだと思っています。燃料電池を用いた分散型エネルギーはBCPの観点からもリスク分散につながるほか、電力価格上昇に対応する自衛手段にもなります」と強調する。23年4月以降は実証実験を次のフェーズに進めて、欧州や中国などにもアピールし、海外展開する計画。パナソニックは、脱炭素社会の実現に向けて、純水素型燃料電池を核とした水素の利活用を進めていく。

【特集2】水素・メタネーション技術を展開 脱炭素化の切り札として注目


【日立造船】

日立造船は水素発生装置とメタネーション装置を手掛ける。次世代エネルギー製品として各方面から注目を集めている。

脱炭素化に向けた次世代エネルギーとして脚光を浴びているのが、水素と合成メタンだ。この二つに関連する装置を手掛ける日立造船には各方面から多くの引き合いが寄せられている。
同社の水素発生装置「HydroSpring」は固体高分子(PEM)型水電解法を採用する。PEM型は電解槽内に設置した電解膜を純水で満たし電気で水素と酸素に分離する。中でも、電源の出力変動にミリ秒単位で追従できる長所により、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発生する急激な出力負荷変動にも対応する。
また、純水で水素を製造できるため環境負荷が小さい。10〜100%で水素発生量を制御することが可能なほか、電流密度が高く電解装置自体のサイズを小さくできる。1500kWクラスでの水素発生量は400Nm3時に上る。このほか、屋外設置ができる点も利点となっている。

水素発生装置「HydroSpring」


触媒技術に強み 低温反応性能と高耐久性


水素発生装置と組み合わせて合成メタンの製造に利用するのがメタネーション装置だ。同社は以前から装置の反応器と触媒の製造を手掛けている。特に触媒技術に強みがあり、CO2と水素からメタンへの転換率は99%以上、エネルギー効率は75~80%を有する。
電解・PtGビジネスユニット営業部の足立進一電解営業グループ長は「同触媒は200℃台の低温でもメタンへの反応が可能なほか、2万時間以上の耐久性などを有しています」とアピールする。

メタネーション装置


最近はエネルギー事業者だけでなく、企業からもメタネーションへの引き合いが増えている。高橋哲也営業部長は「工場のCO2削減に検討する企業が増えています。企業の脱炭素への考え方・取り組みなどをヒアリングしながら、機器・システムの提案を行っています。排出するCO2が低濃度の場合には濃縮が必要だったり、水素はどう調達するかなどを考える必要があります。脱炭素に向けてどこに採算性を見出すのか、各企業の方針にかかっています」と、現状を説明する。脱炭素化を推し進める企業の積極的な姿勢が、次世代技術のこれからを左右していきそうだ。

【特集2】自社製品のCO2削減でCN貢献 水素100%燃焼給湯器を開発


【リンナイ】

リンナイは脱炭素時代に向けて給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。従来の給湯器で培った技術を応用し実現。今年秋から海外で実証を始める。

リンナイはこのほど、家庭用給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。今年11月からは、オーストラリアで実証実験を開始。実用化に向けた取り組みを加速させる。
同社は、2050年脱炭素化に向けて、独自のカーボンニュートラル(CN)宣言「RIM2050」を策定。日本国内全体のCO2排出量は11億794万t。このうち、リンナイの給湯、暖房、厨房商品を使用して排出されるのは1.5%に上る。これを受けて、「自社製品のCO2排出削減の取り組みはCNにおいて大きな役割を担う」と位置付け、開発を加速させている。その一つが水素給湯器だ。水素100%燃焼が可能でCO2を排出しないのが特長となっている。

水素100%燃焼の給湯器


水素を扱う上での燃焼の課題は逆火による爆発の恐れと、燃焼が安定しないことの二つだ。開発ではこれらを解決しながら、①従来の給湯器と同様に任意の水量と湯量に即座に対応できるよう低能力でも安全かつ安定的に燃焼できること、②天然ガスから水素への仕様転換が容易にできることが同時に求められる。


水素特有の燃焼特性 新たな燃焼技術で解決

そこで、新たに開発したのがバーナーとバーナーボディーだ。バーナーは、燃焼速度とガスの噴出速度のバランスを保つことで火が燃える。水素は燃焼速度が天然ガスより8倍は速く、低能力では噴出速度が遅くなり、バーナー内部に炎が入る逆火が発生しやすい。
この解決のため、海外向け給湯器やボイラーで使用されている全一次燃焼方式を採用し、かつ使用する金属繊維の素材や金属繊維の構成、板金に入れるスリットのパターンなどを見直し、逆火耐性、火炎均一性など水素燃焼に最適な条件を実現した。
バーナーボディーは万が一逆火が発生したときの安全性を確保するために開発した。天然ガスを燃焼する従来構造はガスの制御・混合を最適に行うため、ガスと空気をファンの手前で混ぜた状態で送っていた。これに対し、水素給湯器では、ファンとバーナーの間で水素を供給し空気と混ぜるようにした。さらに、バーナーの直前に低圧損のフレームトラップを取り付けることで、逆火時のリスクを最小限化している。これらにより、天然ガス同等の給湯性能を達成した。このほか、都市ガスから水素への転換を簡単な部品取り付けとマイコン内のデータを変更するだけで一時間以内に対応できるようにしている。
開発を担当した要素開発部の赤木万之次長は「オーストラリアの実証では長期使用などを検証します。英国やニュージーランドでも水素の利活用は検討されており、今後の各国の政策などを注視し、商品化に向けて先行したい」と意気込む。今後も、同社では燃焼技術を核にCN実現に向けた取り組みを加速させていく。

【特集2】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」


かねてから地域のエネルギー供給を支え、地域と共に発展してきたLPガス業界。脱炭素時代に事業者が取り組むべき施策を、コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

LPガス事業はいろいろな意味で地域の発展に貢献できる事業である。クリーンな化石燃料であるLPガスは地域の低炭素化に貢献し、自立稼働が可能な分散型の供給形態は災害に強く、地域のレジリエンスに貢献する。これはLPガスの原料特性・供給特性に由来する貢献である。ただし脱炭素時代にあっては、グリーンLPガスへの置き換えや、LPガス非常用発電機の地域マイクログリッド組み込みなど、時代にふさわしい貢献が求められる。
LPガス事業者は大規模企業系から小規模個人経営系まで多様だが、地場系事業者が大半であり、その多くは今もLPガス以外の燃料(ガソリン、灯油など)も取り扱うことで、地域のエネルギー企業として貢献している。また、LPガス事業者が地域を支える代表的な企業であることも多い。
では、LPガス事業者は、地域が直面する脱炭素化と人口減少・過疎化の潮流の中でどういう役割を果たせるのか。ちなみに二つの潮流は、エネルギー(ガス)を減らす、市場(地域経済)を縮退させるという点で、LPガス事業者の持続可能性にも大きく影響するので、期待される役割は「自社の持続可能性のために何をすべきか」と実質的に同義になる。
日本の脱炭素政策は、地域では「地域脱炭素」として進められる。これは、地域(地方自治体)が主役となり、支援する関係省庁が縦割りを排し水平連携して、個々の地域での脱炭素を進める政策だと解せる。だが国との実力差が大きい自治体だけで進められる地域脱炭素には限界があり、おのずと民間からの援軍(脱炭素パートナー)が必要となる。ゼロカーボンシティ宣言自治体を中心に、脱炭素に関する連携協定や、コーポレートPPAを求める公募プロポーザルが増えているのはそのためである。
ただ当面、自治体が支援を求めるのは、自治体庁舎や施設・遊休地などへの太陽光導入、再エネ電力調達、公用車の電動車化といった電力分野の取り組みである。電力会社にとっては本業領域だが、ガス事業者にとっては、大手・中堅の都市ガスのように一定レベル以上の電力事業(再エネ発電、電力小売など)を営んでいなければ、直接的な連携が難しい領域である。


地域脱炭素化のカギ LPG事業者が中核に


しかし、地域に根ざすLPガス事業者は地域脱炭素に全く関与できないわけではない。あえて尖った提案をする。
結論を言えば、地域のLPガス事業者には、地域貢献と脱炭素化の交点としての「地域脱炭素化推進事業体」の中核的な推進者になってもらいたい。地域脱炭素は、今は自治体回りの脱炭素化が中心だが、いずれこうした事業体の必要性が理解され、設立を検討する自治体が増えてくる。一般的に「地域新電力・自治体新電力」と呼ばれるが、それは事業体の一側面しか表していないので、あえてこの聞きなれない環境省用語を使う。筆者は事業体の本質を、地域に賦存するエネルギーや資源を地域内で産出し、地域内で有効に利活用することでエネルギーの地産地消や資源の地域内循環に資するとともに、地域のステークホルダーの「サステナブル・マインドセット」を醸成するプラットフォームとなることだと理解している。資源循環まで視野に入れるのは、それがエネルギーにも資源にも恵まれないわが国の「地域」が進むべき方向であり、結果として地域が自立し地方創生にもつながると確信するからである(その意味では「カーボンニュートラル」ではなく「サステナブル」の形容になる)。


地産再エネをブランド化 自治体とタッグが必須


この事業体は、出だしはエネルギーの地産地消を担う地域新電力とみなされるが、今の地域新電力は「公共施設から始めて企業、家庭へ」としているものの、現実に地域住民まで巻き込めていない。地産地消は地域ぐるみで行うからこそ価値があり、その推進者は極めて重要である。LPガス事業者によっては、電力ビジネスゆえ腰引けになるかもしれないが、これは「電力小売事業ではなく、地域の宝である地産再エネ電力を地域ブランド化し、それを地域の脱炭素化と地域経済貢献のために最大限普及させる地域事業」だと考えてほしい(図参照)。電力ビジネスの難しい部分は専門家と連携すればよい。地域事業案件として参画意義を見出してもらいたい。

「地域脱炭素化推進事業体」の当面のイメージ


こうした事業体を地域脱炭素の中核に据えることで他のメリットも期待される。一つ目は、地域脱炭素施策の究極課題を解決しやすくなることである。その課題とは、住民や中小規模事業者(以下、住民など)といった、脱炭素ビジネス目線からでは動かない人たちの態度変容・行動変容をどう図るか、である。事業体の事業を通じて住民などと密接な関わりを持つことで、それが醸成される。
二つ目は、地域脱炭素ビジネスと地域貢献ビジネスのつなぎができることである。地方創生に資する地域脱炭素を志向していれば当然の帰結ともいえ、そこに関わっていればLPガス事業者にも新たなビジネスチャンスが見えてくるはずである。これらにより「地域脱炭素化推進事業体」は「地域サステナブル公社」に昇華できる。そのためにも、LPガス事業者をはじめ地域企業や団体が自治体のパートナーとなることが必要不可欠である。
おわりに、時代とともに柔軟な業態転換を果たしてきたLPガス事業者の「原点回帰」を強く望みたい。

つのだ・けんじ 1978年東京ガスに入社。家庭用部門、熱量変更部門、卸営業部門などに従事。2016年日本ガス協会地方支援担当理事。現在、業界向けに個社コンサルティングなどを行っている。