【特集2】道内初の天然ガス主体ZEB物件 エネやBCPの知見を投入


【北海道ガス】

北海道ガスはZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及推進に注力する。ZEBとは、建物の高断熱化や設備の高効率化、消費エネルギーを削減すると同時に、太陽光発電や地中熱利用などの創エネで年間の一次エネルギー消費の収支ゼロ以下を目指す建物のことを指す。
政府が昨年11月に発表した第6次エネルギー基本計画では、2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の省エネ性能の確保を目指すと明記され、その重要性が高まっている。
そうした背景から、同社は21年4月、環境共創イニシアチブの「ZEBプランナー」に登録した。顧客向けにシステム提案から補助金申請のサポート、稼働後のビル運用のサポートまで、一貫したZEBコンサルティングサービスを展開している。
今年11月には、地上三階、延床面積856㎡のZEB第一号物件が完成する。高断熱化と高性能ガラス、高効率設備の導入でエネルギー消費量を56%削減。建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の最高ランクである5つ星を獲得した。

北ガスが手掛けたZEB物件


第一号物件をモデルケースに 道内全域にZEBを展開

同社が手掛けるZEB物件は他にはない独自の特徴がある。災害に強い都市ガスインフラによりガスを供給し、空調に電源自立型ガスヒートポンプ(GHP)を導入することで、レジリエンスを強化している点だ。電源自立型GHPなら仮に停電が発生しても、冷暖房の稼働はもちろんのこと、照明の利用やスマートフォンなど電子機器の充電など、必要最低限の電源が確保できる。
「18年9月に発生した北海道胆振東部地震によって、道内のお客さまはBCPへの意識が高まっています。そうしたニーズにも応えながら、ZEB化を実現することができます」。第一営業部都市エネルギーグループの渡邊翔氏はそう説明する。
さらに、同ビルにはカーボンニュートラル(CN)天然ガスや実質再生可能エネルギー100%電気を供給することで、建物全体のCO2排出量が実質ゼロの「CNビル」を実現した。
同グループの鈴木崚太氏は「CO2排出量を徹底した省エネによるZEB Ready化で40t削減し、さらにCO2排出量実質ゼロの電気と天然ガスの供給によって36t削減し、実質ゼロとしました。脱炭素化の実現には、需要側と供給側の双方からのアプローチが求められてくるでしょう」とZEBへの取り組みについて話す。
今年に入り、エネルギー価格の高騰や、4月に「官庁施設の環境保全性基準」が改定されたことなどを受けて、ZEBの需要がさらに高まっている。6月に同ビルの建設が明らかになってからは、北ガスに対して同じ規模のZEB物件建設に関する相談が増えたとのことだ。
北ガスでは中小規模の建物については、今回の第1号案件をモデルケースとして、省エネとレジリエンス強化を両立するZEBを道内全域に展開していく。また、CNにつながるエネルギーサービスの提供を通じて、北海道の脱炭素化、地域発展に貢献していく。

【特集2】多種多様な業界が注目 燃料電池による水素活用


【パナソニック】

純水素型燃料電池を用いた「H2 KIBOU FIELD」実証。再エネや蓄電池を組み合わせた試みが話題を呼んでいる。

パナソニックは今年4月、RE100実現と分散型エネルギー社会構築に向け、5kW純水素型燃料電池「H2 KIBOU」と太陽光発電、リチウムイオン電池を組み合わせた実証施設「H2 KIBOU FIELD」を同社草津工場内に設置して実証実験を開始した。

同社草津工場に隣接する実証施設「H2 KIBOU FIELD」


実証施設ではH2 KIBOUを99台(495kW)並べて、昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は燃料電池を稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、24時間稼働する装置があるため一日中電力使用があり、ピーク電力は夏場に約680kW使用する。年間通して、工場の電力需要を太陽電池、燃料電池、蓄電池の三電池で賄う。液化水素の供給は岩谷産業が担当。年間で120tの水素を使用することが想定され、270万kW時の電力需要に対応する。
実証施設は稼働から半年が経過した。今もメーカーやゼネコン、地方自治体など、多種多様の業種の担当者が見学に訪れており、関心の高さがうかがえる。燃料電池事業横断推進室の河村典彦水素事業企画課長は、実証施設の能力について「長期的には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を用いるのが目標です。現段階は、グリーン水素ではないが消費拡大、利活用の好事例を示していきたい」とアピールする。

実用化課題は発電コスト 価格引き下げで選択肢に

このような水素によるRE100スキームにおいて、課題の一つがコストだ。現在の水素発電では、1kW時当たり0.6㎥の水素が必要で「例えば今の1㎥当たり100円の水素価格では、経済合理性が成り立たない」(河村課長)。経済産業省は2030年に向けて、水素価格を同30円、50年には同20円程度に引き下げる目標を掲げており、河村課長は「同30円なら再エネ電力程度のコスト、同20円なら系統電力並みになります。そうなれば電力の選択肢の一つに選ばれる可能性も出てきます」と期待を寄せる。
そのほか、ガス管と別の水素導管の敷設や関連法案の整備などといった課題も実用化に向けて解決しなければいけない。
河村課長は将来に向けて、「水素は、エネルギーミックスの考えで共存を図りながら推進していくべきだと思っています。燃料電池を用いた分散型エネルギーはBCPの観点からもリスク分散につながるほか、電力価格上昇に対応する自衛手段にもなります」と強調する。23年4月以降は実証実験を次のフェーズに進めて、欧州や中国などにもアピールし、海外展開する計画。パナソニックは、脱炭素社会の実現に向けて、純水素型燃料電池を核とした水素の利活用を進めていく。

【特集2】水素・メタネーション技術を展開 脱炭素化の切り札として注目


【日立造船】

日立造船は水素発生装置とメタネーション装置を手掛ける。次世代エネルギー製品として各方面から注目を集めている。

脱炭素化に向けた次世代エネルギーとして脚光を浴びているのが、水素と合成メタンだ。この二つに関連する装置を手掛ける日立造船には各方面から多くの引き合いが寄せられている。
同社の水素発生装置「HydroSpring」は固体高分子(PEM)型水電解法を採用する。PEM型は電解槽内に設置した電解膜を純水で満たし電気で水素と酸素に分離する。中でも、電源の出力変動にミリ秒単位で追従できる長所により、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発生する急激な出力負荷変動にも対応する。
また、純水で水素を製造できるため環境負荷が小さい。10〜100%で水素発生量を制御することが可能なほか、電流密度が高く電解装置自体のサイズを小さくできる。1500kWクラスでの水素発生量は400Nm3時に上る。このほか、屋外設置ができる点も利点となっている。

水素発生装置「HydroSpring」


触媒技術に強み 低温反応性能と高耐久性


水素発生装置と組み合わせて合成メタンの製造に利用するのがメタネーション装置だ。同社は以前から装置の反応器と触媒の製造を手掛けている。特に触媒技術に強みがあり、CO2と水素からメタンへの転換率は99%以上、エネルギー効率は75~80%を有する。
電解・PtGビジネスユニット営業部の足立進一電解営業グループ長は「同触媒は200℃台の低温でもメタンへの反応が可能なほか、2万時間以上の耐久性などを有しています」とアピールする。

メタネーション装置


最近はエネルギー事業者だけでなく、企業からもメタネーションへの引き合いが増えている。高橋哲也営業部長は「工場のCO2削減に検討する企業が増えています。企業の脱炭素への考え方・取り組みなどをヒアリングしながら、機器・システムの提案を行っています。排出するCO2が低濃度の場合には濃縮が必要だったり、水素はどう調達するかなどを考える必要があります。脱炭素に向けてどこに採算性を見出すのか、各企業の方針にかかっています」と、現状を説明する。脱炭素化を推し進める企業の積極的な姿勢が、次世代技術のこれからを左右していきそうだ。

【特集2】自社製品のCO2削減でCN貢献 水素100%燃焼給湯器を開発


【リンナイ】

リンナイは脱炭素時代に向けて給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。従来の給湯器で培った技術を応用し実現。今年秋から海外で実証を始める。

リンナイはこのほど、家庭用給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。今年11月からは、オーストラリアで実証実験を開始。実用化に向けた取り組みを加速させる。
同社は、2050年脱炭素化に向けて、独自のカーボンニュートラル(CN)宣言「RIM2050」を策定。日本国内全体のCO2排出量は11億794万t。このうち、リンナイの給湯、暖房、厨房商品を使用して排出されるのは1.5%に上る。これを受けて、「自社製品のCO2排出削減の取り組みはCNにおいて大きな役割を担う」と位置付け、開発を加速させている。その一つが水素給湯器だ。水素100%燃焼が可能でCO2を排出しないのが特長となっている。

水素100%燃焼の給湯器


水素を扱う上での燃焼の課題は逆火による爆発の恐れと、燃焼が安定しないことの二つだ。開発ではこれらを解決しながら、①従来の給湯器と同様に任意の水量と湯量に即座に対応できるよう低能力でも安全かつ安定的に燃焼できること、②天然ガスから水素への仕様転換が容易にできることが同時に求められる。


水素特有の燃焼特性 新たな燃焼技術で解決

そこで、新たに開発したのがバーナーとバーナーボディーだ。バーナーは、燃焼速度とガスの噴出速度のバランスを保つことで火が燃える。水素は燃焼速度が天然ガスより8倍は速く、低能力では噴出速度が遅くなり、バーナー内部に炎が入る逆火が発生しやすい。
この解決のため、海外向け給湯器やボイラーで使用されている全一次燃焼方式を採用し、かつ使用する金属繊維の素材や金属繊維の構成、板金に入れるスリットのパターンなどを見直し、逆火耐性、火炎均一性など水素燃焼に最適な条件を実現した。
バーナーボディーは万が一逆火が発生したときの安全性を確保するために開発した。天然ガスを燃焼する従来構造はガスの制御・混合を最適に行うため、ガスと空気をファンの手前で混ぜた状態で送っていた。これに対し、水素給湯器では、ファンとバーナーの間で水素を供給し空気と混ぜるようにした。さらに、バーナーの直前に低圧損のフレームトラップを取り付けることで、逆火時のリスクを最小限化している。これらにより、天然ガス同等の給湯性能を達成した。このほか、都市ガスから水素への転換を簡単な部品取り付けとマイコン内のデータを変更するだけで一時間以内に対応できるようにしている。
開発を担当した要素開発部の赤木万之次長は「オーストラリアの実証では長期使用などを検証します。英国やニュージーランドでも水素の利活用は検討されており、今後の各国の政策などを注視し、商品化に向けて先行したい」と意気込む。今後も、同社では燃焼技術を核にCN実現に向けた取り組みを加速させていく。

【特集2】NEDO実証でグリーン化模索 特約店の環境推進をサポート


【ENEOSグローブ】

ENEOSグローブはLPガスの脱炭素化施策を展開中だ。CNLPガス販売や特約店の支援策など多岐にわたる。

ENEOSグローブは、今年度から経営企画部に、新たに「カーボンニュートラル推進グループ」を設置した。カーボンニュートラル(CN)の推進を目指して、CO2排出量の削減目標や取り組み方針を策定するほか、グリーンLPガス(合成燃料)の研究開発にも着手する。

CO2原料のLPガス製造 社会実装まで包括的に検討

サプライチェーン排出量には、燃料の燃焼や工業プロセスなど、自社の直接排出である温室効果ガスなどが該当するスコープ1、他社から供給され、自社で使用している電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出のスコープ2、どちらでもなく、自社以外のサプライチェーンにおける間接排出のスコープ3がある。同社のグリーンLPガス研究開発は、スコープ3の排出量削減に貢献する取り組みだ。

NEDO実証のスキーム図

同研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発・実証事業」に、富山大学と日本製鉄と共同で「カーボンリサイクルLPG製造技術とプロセスの研究開発」を提案し、4月1日付で採択されたものだ。①触媒技術開発、②製造工程、③社会実装モデルの研究開発―を実施し、事業化に向けた包括的な検討を行う。

①の技術開発として、Fischer―Tropsch(FT)合成を用いて、カーボンリサイクルLPガスを製造する。FT合成とは、一酸化炭素と水素から触媒反応による、LPガス成分を含む液体炭化水素の合成過程のこと。

②の製造工程では、火力発電所・製鉄所などからCO2を調達し、水素はコスト面で課題はあるが、再生可能エネルギーによる電気分解や海外からのグリーン(あるいはブルー)水素の調達などを想定する。また、オンサイト型のカーボンリサイクルLPガス製造では、バイオマス資源からCO2と水素を含む合成ガスを取り出す技術を検討している。これらのガスからFT合成で液体炭化水素を合成し、精製・調整を経てLPガスを製造する。

③の社会実装モデルとして、製造されたLPガスの貯蔵・輸送や、LPガスの連産品を含めた利活用などを模索する。

LPガスは国民生活に密着した重要なエネルギーだ。現在、国内需要は年間約1400万tで、全国の約半数の世帯で使用されている。同社は、化石燃料ではなく、CO2原料のLPガスを製造するための高効率な製造技術とプロセス研究開発を進める。その成果を用いたカーボンリサイクルLPガスの早期商用化よって、脱炭素社会の実現に寄与する考えだ。

米国認証クレジットで提供 特約店と手を携えて

ENEOSグローブは顧客である特約店に対して、CNを推進するさまざまな取り組みを行っている。その一つに、CNLPガスの販売がある。米国の国際NGO団体が認証したクレジットにより、採掘から燃焼に至るまでに発生するCO2をオフセットしたものだ。全国各地の顧客から多数問い合わせを受け、既に複数の契約を締結した。納入後には、独自の供給証明書も発行。グループの環境方針として「事業活動における環境保全の推進」「低炭素・循環型社会への貢献」を掲げる同社にとって、CNLPガスの販売は、その実現に資するものとなっている。

また、12年から「ECO&EARTHキャンペーン」を展開している。同キャンペーンは、エネファームのさらなる拡販、家庭用・産業用の燃料転換、省エネ機器販売の後押しなどが目的だ。特約店の事業活動を支援するとともに、低炭素かつ豊かで安心・安全な暮らしの実現を目指す。

同社は、政府が掲げる50年の脱炭素社会実現に向けて、LPガス事業を通じたさらなる施策を今後も積極的に展開する構えだ。

【特集2】特約店向けに新商材でサポート 環境型LPガス運搬船を導入


【ジクシス】

親会社である住友商事の知見を生かしクレジットを調達するジクシス。特約店向けには「環境住宅」普及でサポートする。

コスモエネルギーホールディングス、住友商事、出光興産の3社が出資するLPガス元売り、ジクシス。同社が低炭素・脱炭素に向けて取り組むのは「自社の事業活動における対策」や「LPガス運搬船への環境対策」を進めるのと同時に、特約店向けには「クレジット使用によるCNLPガス販売」や「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様も可能な先進のLPガス住宅の販売サポート」を展開している。

住商系の知見活用 LPガス仕様の先進住宅

このうち、クレジット調達については取り組み始めたばかりだ。「親会社である住友商事グループの知見も活用しながら、クレジットの由来となるプロジェクト内容を確認し、第三者機関からの認証を得たクレジットを取り扱っています」と、企画管理本部経営企画部の田中保次長は説明する。

そんなクレジットを、まずは同社の事業活動における温室効果ガス排出分(GHGプロトコールのスコープ1・2)の相殺に活用する。同時に、全国各地の特約店へCNLPガスとして販売を順次進めている。

特約店では、ジクシスから購入したCNLPガスを、現状では「小売り商材」としてではなく、主に自らの事業所やオフィスなどで生じるCO2の相殺に利用しているケースが多いそうだ。

特約店向けには、CNLPガスの取り扱いだけでなく、新しい商材にもトライしている。『ホッと楽な家』というブランド名でLPガス式エネファームを標準搭載した先進のLPガス住宅だ。オプションとして、住宅内の年間消費エネルギーと、生み出すエネルギーを相殺するZEH仕様の住宅も展開している。同社が関わるのは、住宅販売ではなく住宅設計プログラムの提供だ。

和歌山県内につくったモデルルーム

「地域の工務店との連携が必須となっていきます。実際に和歌山県の工務店に協力してもらい、県内にモデルルームを開設しました。当社としては工務店と特約店を結び、こうした住宅が増えることで、結果としてLPガスの販売促進につなげていければいいと考えています」

大型船舶の環境対策 デュアル燃料式で運搬へ

ジクシスは、LPガスサプライチェーン全体で低炭素化に取り組んでいる。

LPガスを運搬する船舶は、従来は重油燃料で運航していたが、昨今は世界各国で船舶燃料の環境対策が求められている。こうした中、重油に加えて、環境性の高いLPガスも燃料として活用できるデュアル・フューエルタイプの船舶を来年から用船する計画だ。「水素やアンモニアなども将来的には輸送できる設計となっています」とのことだ。

サプライチェーン全域で環境対策を果たそうと、ジクシスの挑戦が始まっている。

【特集2】カーボンオフセットガスを拡販 グループで45年CN達成目指す


【サイサン】

サイサンは創業100周年となる2045年に向け、脱炭素化に取り組む。目下はカーボンオフセットLPガスの導入拡大に挑む。

サイサンは「ガスワングループカーボンニュートラルへの挑戦」というテーマを掲げ、グループ全体でカーボンオフセットLPガスの導入を促進している。2045年の創業100周年に向け、政府が目標とする50年でのCN達成より、5年前倒しで実現すべく取り組んでいる。

同社はCNLPガス(グリーンLPガス)とカーボンオフセットLPガスを区別している。前者は掘削や輸送などの過程でCO2が排出されないLPガスを指すが、現在の日本の技術では実現が難しい。現実的に可能となるのは、燃焼時に排出されるCO2をカーボンクレジットにより相殺する後者の導入だ。

サイサンは、カーボンオフセットLPガスに用いるクレジットの質も重視している。日本国内で認証を受けたJクレジットは、信頼性は高いが、値段も高額だ。同社はジャパンガスエナジーから1万t分の海外製クレジットを購入。その調達先はガスワングループが拠点を置く9カ国に限定している。価格を抑えつつも、森林や再エネ由来などの信頼性が高いとされるものを選ぶ徹底ぶりだ。

各県で最初の供給に奮闘 シンボル案件から輪を広げる

サイサンのカーボンオフセットLPガスの営業戦略は、まずアピールにつながる大型商業施設やスポーツチームに導入する。そして、関連施設や企業・団体などへと輪を広げていくというものだ。この戦略のもと、西武ライオンズのベルーナドームは、大型商業施設で日本初の導入となった。

西武ライオンズの事例に続くよう、ガスワングループの拠点がある各県での第一号を目指して、営業担当者は奮闘している。グループ会社で福島県にある常磐共同ガスは、いわきFCへ供給。サポーターなどへの社会貢献活動の際に、カーボンオフセットLPガスの使用をアピールできることは、チームにとってもメリットになるという。こうした流れが宣伝効果を高め、他社への流出を阻止することにもつながっている。

このほか、大口の工場や飲食店、自治体などへの導入も推進している。カーボンオフセットLPガスを導入した顧客に対し、年1回、ガス使用量とCO2排出量、クレジットでの削減量を記載した証明書を発行。環境に関する取り組みを集客やイメージアップにつなげたい企業・自治体の関心が集まっている。現在、グループ全体での顧客獲得件数は2100件ほどに上る。

「脱炭素化への関心の高まりを感じます」と語る鈴木課長

LPガス直売部の鈴木崇也課長は、「ゆくゆくは、ガス業界全体で研究を進めているグリーンLPガスの普及に携わりたいです。足元の取り組みとして、カーボンオフセットLPガスの導入拡大で、5年前倒しのCN実現を目指していく」と意気込みを見せた。

【特集2】業界を挙げて低・脱炭素化へ 官民連携で地域活性化に貢献も


LPガス業界ではサプライチェーン全体で脱炭素・低炭素化に取り組む。そうした施策の中には、自治体との連携などで地域活性化に貢献する動きも。

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けた国のグリーン成長戦略において、LPガスはその達成の柱の一つになるとされている。政府の試算では50年時点におけるLPガス需要は現在と比較して約6割が維持される見通しで、CNに貢献する業態転換の検討が待ったなしの情勢だ。

LPガス事業者の脱炭素化に期待が高まる


現在、LPガス業界のCNに向けた取り組みには、①化石燃料由来ではない原料から合成するグリーンLPガスの実用化、②LPガスと証書を組み合わせたオフセット、③省エネ機器を導入することによる低炭素化―などがある。
グリーンLPガスの実用化では、日本LPガス協会が今年7月、「グリーンLPガス推進官民検討会」を立ち上げた。現在、国内のグリーンLPガス開発では、CO2と水素から直接合成する方法と、DME(ジメチルエーテル)に水素を添加して合成する方法が有力視されている。検討会では、こうした開発のバックアップや社会実装に向けたロードマップづくり、品質基準の統一化、移行期における燃焼機器の省エネ化など、課題を共有化して協議していく。
実用化に向けては、コストも課題と指摘した。グリーンLPガスの製造原価は、水素価格の影響を受ける。政府が掲げる50年の水素の目標価格は1m当たり20円。現在のLPガス原価と比較して約1・7倍と試算している。ただ、水素生産国の豪州から安価に調達できるため、仮にグリーンLPガスの開発に成功したとしても、国内でサプライチェーンを完結するのは難しい。
このため、グリーンLPガスの社会実装の方向性としては、一般のLPガスと混合して供給することや、グリーンLPガスを一般のLPガスと差別化して販売することなどを想定している。


多角的な戦略で低炭素化 地域活性化にも貢献

脱炭素化への移行期においては、CO2排出権が付与されたLPガスの輸入や、Jクレジット制度を活用しカーボンオフセットされたLPガスなどが今後増加する。また、エコジョーズやエネファーム、燃転の省エネ機器拡販、ガス需要を守りながらの太陽光・蓄電池、ハイブリッド給湯器の販売、また電力や都市ガスの販売事業進出など、多角的な経営戦略による低炭素化が30年までに求められる。
各事業者がそれぞれの立場でいかにCN対応を加速させられるかに注目が集まる。加えて、自治体との連携などを通じ、地域の脱炭素化や経済活性化に貢献しようとする動きも活発化。CN時代に向けた業界の最前線を追った。

【特集2】LPガスグリーン化への挑戦 官民一体の取り組みに意義


ようやく本格化の兆しを見せ始めた「LPガスグリーン化」。その意義と課題について、橘川武郎・国際大学副学長に聞いた。

【インタビュー】橘川武郎/国際大学副学長


―LPガスのグリーン化にはどのような課題がありますか。
橘川 二つの大きな課題があります。その一つがCO2と水素を合成してメタンをつくるメタネーションや合成燃料「e-fuel」などと比べ、技術の確立が非常に難しいということです。国のグリーンイノベーション(GI)基金には、古河電気工業と北海道大学、静岡大学が連携し、金属触媒の技術を転用して、家畜の糞尿由来のバイオガスからグリーンLPガスを合成する技術の確立を目指すプロジェクトが採択されています。
 一方で、元売りの業界団体である日本LPガス協会の幹事五社は昨年、プロパン・ブタンガスのグリーン化事業を共同で進めていくための「日本LPガス推進協議会」を設立し、藤元薫・北九州私立大学名誉教授の多段LPガス直接合成技術や、LPガスと類似した特性を持つDME(ジメチルエーテル)からLPガスを製造する技術の開発を進めています。
 政府が支援する技術と業界団体が進める技術が違う例はほかにはほとんどなく、それだけLPガスのグリーン化へ決定打となる技術が定まっていないということを意味しています。もう一つの課題は担い手の不在です。ENEOSグローブもアストモスエネルギーも石油元売り会社の子会社で、元売りの優先順位はe-fuelである可能性が高く、プロパネーション、ブタネーションまで手が回るとは考えにくいのです。
―「グリーンLPガス推進官民検討会」にはどのような役割を期待していますか。
橘川 政府、業界団体、開発会社、研究機関など官民が一体となって、LPガスグリーン化へ、今考えられるあらゆる技術を網羅し互いに切磋琢磨しながら活路を見出そうという点で、非常に意義のある取り組みだと評価しています。検討会には、ユーザーとしても全国ハイヤー・タクシー連合会がオブザーバー参加していて、今後はLPガスを燃料とする産業用需要家にも参加を呼び掛けていくことになると思います。
―2050年の脱炭素社会においてLPガスが一定の役割を果たしていくということですね。
橘川 電力は電化が進み現在より30~50%需要が増え、都市ガスは使用量が維持されると推計されています。LPガスは消費量が減るとはいえ60%は残ると考えられます。業界は生き残りへの覚悟を持っていて、こうした動きはその表れだと思っています。
 もう一つ重要なことは、アジアでLPガスの需要が増えていることです。人類がLPガスを使い続けるためには、脱炭素化の技術開発を日本が担うしかありません。本業ではなくとも、サウジアラムコやエンタープライズはLPガスで相当収益を上げているでしょうから、そうした上流企業に出資してもらい、日本の技術をマッチングして開発するような仕掛けがあってもよいと考えています。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

【特集2】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」


かねてから地域のエネルギー供給を支え、地域と共に発展してきたLPガス業界。脱炭素時代に事業者が取り組むべき施策を、コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

LPガス事業はいろいろな意味で地域の発展に貢献できる事業である。クリーンな化石燃料であるLPガスは地域の低炭素化に貢献し、自立稼働が可能な分散型の供給形態は災害に強く、地域のレジリエンスに貢献する。これはLPガスの原料特性・供給特性に由来する貢献である。ただし脱炭素時代にあっては、グリーンLPガスへの置き換えや、LPガス非常用発電機の地域マイクログリッド組み込みなど、時代にふさわしい貢献が求められる。
LPガス事業者は大規模企業系から小規模個人経営系まで多様だが、地場系事業者が大半であり、その多くは今もLPガス以外の燃料(ガソリン、灯油など)も取り扱うことで、地域のエネルギー企業として貢献している。また、LPガス事業者が地域を支える代表的な企業であることも多い。
では、LPガス事業者は、地域が直面する脱炭素化と人口減少・過疎化の潮流の中でどういう役割を果たせるのか。ちなみに二つの潮流は、エネルギー(ガス)を減らす、市場(地域経済)を縮退させるという点で、LPガス事業者の持続可能性にも大きく影響するので、期待される役割は「自社の持続可能性のために何をすべきか」と実質的に同義になる。
日本の脱炭素政策は、地域では「地域脱炭素」として進められる。これは、地域(地方自治体)が主役となり、支援する関係省庁が縦割りを排し水平連携して、個々の地域での脱炭素を進める政策だと解せる。だが国との実力差が大きい自治体だけで進められる地域脱炭素には限界があり、おのずと民間からの援軍(脱炭素パートナー)が必要となる。ゼロカーボンシティ宣言自治体を中心に、脱炭素に関する連携協定や、コーポレートPPAを求める公募プロポーザルが増えているのはそのためである。
ただ当面、自治体が支援を求めるのは、自治体庁舎や施設・遊休地などへの太陽光導入、再エネ電力調達、公用車の電動車化といった電力分野の取り組みである。電力会社にとっては本業領域だが、ガス事業者にとっては、大手・中堅の都市ガスのように一定レベル以上の電力事業(再エネ発電、電力小売など)を営んでいなければ、直接的な連携が難しい領域である。


地域脱炭素化のカギ LPG事業者が中核に


しかし、地域に根ざすLPガス事業者は地域脱炭素に全く関与できないわけではない。あえて尖った提案をする。
結論を言えば、地域のLPガス事業者には、地域貢献と脱炭素化の交点としての「地域脱炭素化推進事業体」の中核的な推進者になってもらいたい。地域脱炭素は、今は自治体回りの脱炭素化が中心だが、いずれこうした事業体の必要性が理解され、設立を検討する自治体が増えてくる。一般的に「地域新電力・自治体新電力」と呼ばれるが、それは事業体の一側面しか表していないので、あえてこの聞きなれない環境省用語を使う。筆者は事業体の本質を、地域に賦存するエネルギーや資源を地域内で産出し、地域内で有効に利活用することでエネルギーの地産地消や資源の地域内循環に資するとともに、地域のステークホルダーの「サステナブル・マインドセット」を醸成するプラットフォームとなることだと理解している。資源循環まで視野に入れるのは、それがエネルギーにも資源にも恵まれないわが国の「地域」が進むべき方向であり、結果として地域が自立し地方創生にもつながると確信するからである(その意味では「カーボンニュートラル」ではなく「サステナブル」の形容になる)。


地産再エネをブランド化 自治体とタッグが必須


この事業体は、出だしはエネルギーの地産地消を担う地域新電力とみなされるが、今の地域新電力は「公共施設から始めて企業、家庭へ」としているものの、現実に地域住民まで巻き込めていない。地産地消は地域ぐるみで行うからこそ価値があり、その推進者は極めて重要である。LPガス事業者によっては、電力ビジネスゆえ腰引けになるかもしれないが、これは「電力小売事業ではなく、地域の宝である地産再エネ電力を地域ブランド化し、それを地域の脱炭素化と地域経済貢献のために最大限普及させる地域事業」だと考えてほしい(図参照)。電力ビジネスの難しい部分は専門家と連携すればよい。地域事業案件として参画意義を見出してもらいたい。

「地域脱炭素化推進事業体」の当面のイメージ


こうした事業体を地域脱炭素の中核に据えることで他のメリットも期待される。一つ目は、地域脱炭素施策の究極課題を解決しやすくなることである。その課題とは、住民や中小規模事業者(以下、住民など)といった、脱炭素ビジネス目線からでは動かない人たちの態度変容・行動変容をどう図るか、である。事業体の事業を通じて住民などと密接な関わりを持つことで、それが醸成される。
二つ目は、地域脱炭素ビジネスと地域貢献ビジネスのつなぎができることである。地方創生に資する地域脱炭素を志向していれば当然の帰結ともいえ、そこに関わっていればLPガス事業者にも新たなビジネスチャンスが見えてくるはずである。これらにより「地域脱炭素化推進事業体」は「地域サステナブル公社」に昇華できる。そのためにも、LPガス事業者をはじめ地域企業や団体が自治体のパートナーとなることが必要不可欠である。
おわりに、時代とともに柔軟な業態転換を果たしてきたLPガス事業者の「原点回帰」を強く望みたい。

つのだ・けんじ 1978年東京ガスに入社。家庭用部門、熱量変更部門、卸営業部門などに従事。2016年日本ガス協会地方支援担当理事。現在、業界向けに個社コンサルティングなどを行っている。

【特集2】自治体の脱炭素化をサポート 新たな地域貢献の形を提示


群馬県下仁田町で都市ガス事業を展開する東海ガス。これまでの事業ハウハウを生かし自治体の脱炭素化を支援する。

【東海ガス】


下仁田町と東海ガスの協定締結式の模様

群馬県南西部に位置する下仁田町は、下仁田ねぎやこんにゃくの産地として知られている。町の北部から西部の長野県との境にかけては、「妙義荒船佐久高原国定公園」が広がり、急峻に切り立つ妙義山があるなど自然豊かな地域だ。
そんな下仁田町は今年7月、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明。これに合わせて、TOKAIホールディングスの子会社である東海ガスと、ゼロカーボンシティ実現に向け、相互協力する連携協定書を締結した。
両者の関係は、下仁田町の公営ガス事業を東海ガスが2019年に譲り受けたことに始まる。以来、同社はこの3年余りの活動で、町内にある工場の生産・製造設備の燃料を重油などの石油系燃料から都市ガスに転換するなど、大口需要の開拓を進めてきた。その結果、ガス販売量を事業譲受の時点から3・3倍に増加、CO2排出量も1551t削減するなど、事業拡大と低炭素化の両立を実現してきた。
ガス供給以外でも、TOKAIグループで標榜するTLC(トータルライフコンシェルジュ)によって、電力販売やリフォームなどのサービスを展開したり、近隣の店舗とコラボレーションしてガス展を開催するなど、地域住民に寄り添った活動を行ってきた。


町が実績を評価 ゼロカーボンで連携


下仁田町保健課の岩井収課長は「20年に環境省が『地方公共団体における50年二酸化炭素排出実質ゼロ』、19年に群馬県が『5つのゼロ宣言』を表明しました。5つのゼロ宣言には温室効果ガスゼロが含まれており、町としても取り組みを強化する必要があると考えていました。東海ガスは公営ガス事業を引き継ぎ、低炭素化に資する事業活動で下仁田町に貢献してきました。ゼロカーボンに向けた取り組みでもその中心を担ってもらえたらと考え、連携協定を結ぶに至りました」と背景を語る。
一方、東海ガスはゼロカーボンに関して実績となる案件があった。本部のある静岡県藤枝市で進めている脱炭素モデルだ。今回、そのモデルを踏襲して下仁田町にゼロカーボンの仕組みを形成していく。
具体的には、まずJクレジットを活用し、CN都市ガスを役場や公民館、学校、保健センターなどに導入していく。導入開始した直後は既に静岡県で実施するゼロカーボンの活動で得たCO2クレジットを活用し、将来的には下仁田町の公共施設や町内企業から創出したCO2クレジットを調達し都市ガスに付与して、CO2クレジットの地産地消サイクルの形成を目指すとのことだ。
CO2クレジットの創出では、地域特性を生かした取り組みも行う。下仁田町特産のこんにゃく工場は重油設備を使っている企業がいまだ多い。これらの企業に都市ガス設備への転換を依頼し、それに伴う温室効果ガス削減によるクレジット創出を促す。また、町の面積のうち8割を占める森林管理を促進して森林経営活動由来のクレジットにも期待する。このほか、再生可能エネルギーの導入なども進めていく方針だ。


下仁田町とのJクレジットの地産地消モデルフロー


地元でエネルギー教育も検討 他地域への展開も目指す


連携協定には環境に関する情報発信なども含まれる。町内の小中学校で東海ガスの社員が環境やエネルギーに関する授業の1コマを担当することなども検討されている。中山貴幸下仁田支店長は「町営ガスを譲り受けて以来、進めてきたことが地域貢献として一つの形になりました。これからも一層、都市ガス事業を軸に地域に還元できる取り組みを推進していきたい」と語る。東海ガスではこうした取り組みを他の地域でも推進していく構えだ。

【特集2まとめ】LNG火力の正念場 電力危機に挑む新設・運用・調達事情


今年3月、政府は東京電力・東北電力管内に電力需給ひっ迫警報を発令した。
引き続き電力不足は深刻で、7月1日から7年ぶりに節電を要請する。
一方、ウクライナ戦争によって国際資源情勢が大きく変化してきた。
ロシア産の禁輸リスクの高まりで、安定・安価のLNG調達に黄信号が灯る。
そんな中、LNG火力の新規運開や燃料確保に奔走する大手電力会社。
差し迫るエネルギー危機をどう乗り切るのか。正念場のLNG火力事情に迫る。

【アウトライン】電力不足打開の切り札に LNG火力が供給力確保に貢献

【レポート】次世代GTで低炭素時代へ対応 12月運開で安定供給に貢献

【レポート】火力進化の一翼を担う拠点 高効率発電所に生まれ変わる

【レポート】震度6被災後18時間での復旧 過去の経験による対応が奏功

【インタビュー】調達価格のボラティリティ低減へ LNG先物取引を試験上場

【レポート】歴史的なLNG不足と高騰 大手電力経営への影響を占う

【特集2】震度6被災後18時間での復旧 過去の経験による対応が奏功


【石油資源開発(JAPEX)・福島ガス発電】

石油資源開発・相馬LNG基地と福島ガス発電・福島天然ガス発電所は、2年連続で地震に見舞われた。

今年3月の地震発生時の迅速な復旧のカギとなった、対応や安定供給への思いを聞いた。

仙台駅から在来線で南へ約1時間―のどかな田園風景を抜けた先に開発が進む新地駅がある。そこから車で15分程度の相馬港4号埠頭に、大規模なLNG基地とガス火力発電所がある。

LNG基地は、石油資源開発(JAPEX)相馬事業所が運営する相馬LNG基地だ。広大な敷地内には、LNGタンクや外航船・内航船のバース、ローリーの出荷施設などのガス関連設備があり、二つあるタンクは現在、1号タンクはガス事業用、2号タンクは発電事業用として運用されている。LNG外航船の受け入れと、導管への気化ガス送出、ローリーによる都市ガス事業者などへのLNGサテライト輸送、北海道・勇払への内航船輸送を行っている。

隣接地にあるのは、福島ガス発電が運営する福島天然ガス発電所だ。この発電所の最大の特徴は、燃料調達と発電の仕組みにある。燃料調達はJAPEXを含む事業パートナー5社が行う。それぞれが必要な電力に応じたLNGを調達し、福島ガス発電はそのLNGを発電所で電力に変換し、事業パートナー各社に引き渡すという「トーリング方式」を採用。各社が持ち込む発電燃料LNGの貯蔵や気化、発電所への送出に関する業務は、福島ガス発電から相馬LNG基地へ業務委託している。

国内で他に例のない連携を行う相馬LNG基地と福島天然ガス発電所を、震度6強の地震が襲った。

相馬LNG基地

2年連続震度6の被災 密な連携による早期復旧

福島県沖で地震が発生したのは、3月16日の午後11時36分ごろだった。地震により、相馬LNG基地の操業と福島天然ガス発電所の運転は一時停止した。基地・発電所の地震の被害は、地盤が緩んだことによるアスファルトのひび割れや配電盤の傾き、配管の支柱の沈下などだった。基地では工業用水タンクの溶接部からの水漏れ、発電所では海水を冷却水として取り入れる取水口の破損なども発生。しかし、幸いにも、基地のガス製造設備、発電所の発電設備など、主要設備への影響はほぼなかった。

メインとなる設備への被害が少なかったことを差し引いても、復旧の速さは驚くべきものだった。

相馬LNG基地では、気化ガス送出は被災翌日の17日午後6時に、ローリーでの出荷は18日午後1時までに再開。地震などでガス製造が止まった場合、24時間以内に再稼働できないと、ガス事業法上の製造支障事故として処理される。今回、相馬LNG基地は災害発生から約18時間で復旧。迅速な復旧ができたのは、安定供給への強い思いがあったからだ。

また、こうした速やかな復旧には、過去の経験が生かされている。昨年2月13日にも福島県沖を震源とする震度6の地震が発生した。その際、地盤沈下によってできた配管と支柱の隙間に詰め物をしたことなど、応急処置を係員が体に覚え込んでいたという。

加えて、深夜に地震が発生した場合、相馬LNG基地ではどの程度の地震があったのかを当番者が宿直者に知らせ、ガスの製造に支障がないかを中央監視センターで確認する。異常がある場合には、宿直者からその上位の者にメールで連絡を行う仕組みになっている。今回の地震発生時にもこの仕組みがすぐに立ち上がった。

福島天然ガス発電所の発電設備2機は夜間のためミドル運用となっていたが、すぐさま安全装置が作動し緊急停止。福島ガス発電は災害本部を立ち上げ、関係官庁との連絡や、安全確認をした上での被災状況の確認などを行った。地震直後は津波注意報が発令されていたため、注意報が解除された翌朝5時以降に発電設備の被災状況の確認を順次行っていったという。地震発生後は相馬LNG基地からの発電燃料の供給も一時的に止まっていたが、日頃から連携を深めていたこともあり、供給再開までの確認もスムーズに進んだ。

福島天然ガス発電所では、2号機は19日午後6時7分に、1号機は20日1時14分に運転を再開。福島天然ガス発電所の阿河恵所長は「東日本大震災を踏まえた設計や、昨年の地震の際に事業パートナー各社を含めた取り組みが実を結び、迅速な復旧に至ることができた。今回の地震発生時には、寒波による電力需給ひっ迫の想定もあったので、早期復旧により電力の安定供給に寄与することができたと考えている。出力規模が100万kWを超える発電所として、電力供給に対する社会的責任の大きさを改めて認識しました」と語る。

一方、発電所は再エネの導入が進んだことによる、電力需給バランス制御のための火力発電の出力抑制を受け、発電量の一時的な制御などにも対応している。

福島ガス発電

安定供給が重大な使命 脱炭素社会にも貢献

相馬LNG基地がインフラとして果たす役割は大きい。顧客や隣接する発電所以外に、地域活性化のために稼働した駅前の「新地エネルギーセンター」へもガスを供給している。「引き続きエネルギー安定供給の継続という使命を果たすため、2年連続で震度6を超える地震に見舞われたこの経験を、訓練や教育を通じて後世にしっかりと伝えていきたい。そして、基地の設備面では、今回の教訓を生かすべく、対策工事を行っていきます」と、JAPEX相馬事業所の中野正則所長は話す。

また、JAPEXはエネルギーの安定供給を事業ミッションの一つとしつつ、脱炭素社会をも見据えている。LNG自体、低炭素な燃料であるが、再生可能エネルギーの拡大に貢献することや、三菱ガス化学との新潟県でのCCUSの可能性共同検討など、脱炭素社会への貢献にも取り組む方針だ。

【特集2】電力不足打開の切り札に LNG火力が供給力確保に貢献


国内の電力需給環境は火力発電所の休止・撤退やウクライナ情勢などで厳しい状況が続いている。この状況を打開するため、発電事業者はLNG火力の新設や再稼働など供給力確保にまい進している。

今年3月22日に東日本を襲った電力の需給ひっ迫―。原因は16日に発生した福島県沖地震で東京・東北エリアの発電所が停止したこと、真冬並みの寒さによる需要増加、悪天候による太陽光発電の出力低下など、複数の要因が絡み合って起こった。

加えて、脱炭素化の促進によって再生可能エネルギーの導入が拡大し、火力発電所の稼働率が低下、採算性が悪化して休廃止に追い込まれる発電所が増加した。予備率が低下し、夏や冬のピーク時に需給ひっ迫が発生しやすい環境にあったと言われている。

こうした事態を受け、経済産業省は5月、電力・ガス基本政策小委員会などを通じて検証を行い、「2022年夏冬の電力需給は厳しい」との予想を示した。具体的には、今夏の予備率が東北、東京、中部エリアで3・1%、北陸、関西以西のエリアで3・8%と、安定供給に最低限必要な3%台で推移するというぎりぎりの状況だ(下図参照)。

2022年度猛暑・厳寒時の需要に対する予備率

今冬はさらに厳しく、東京エリアの厳気象「H1需要」(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する予備率は23年1月がマイナス0・6%、2月がマイナス0・5%となる見込みで、供給力が約200万kW不足となる見通し。他の6エリアでも3%を下回るとのことだ。

供給力確保の施策打つ 国際競争に立ち向かう

危機的状況に対し、政府は6月、5年振りに「電力需給に関する検討会合」を開催。供給面では、主に次のような対策をまとめた。

①追加供給力の拡大を図るため、休止中の電源などの立ち上げに対価を支払うkW公募を実施し、需給が厳しくなる際に休止電源を稼働させ、供給力を確保する仕組みを構築。夏に向けて、一般送配電事業者が計120万kWを公募する。

②追加の燃料調達などに対価を支払うkW時公募により、予備的な燃料などを新たに確保する仕組みを構築する。夏に向けて一般送配電事業者が計10億kW時を公募する。

③電力広域的運営推進機関がkW、kW時モニタリングを実施し、供給力や余力率の変化を継続的に確認する。

④22年度冬の燃料調達リスクが顕在化し、電力需給に大きな影響が生じる恐れがある場合、電気事業法に基づく、発電事業者への供給命令を発出する。

国内の電力需給における課題が顕在化する一方で、ウクライナ情勢の影響が燃料調達に暗い影を落としている。欧州を中心とした各国がロシア産エネルギー資源への依存度低減を進めたため、LNGのスポット価格が高騰。ロシア以外の地域からエネルギーを調達するための資源獲得競争が激化している。日本でも燃料を安定的に確保できないリスクが高まっており、予断を許さない状況だ。

経産省が3月に開いた「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」では、ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。日本のエネルギー関連品目におけるロシア依存度は、石油が3・6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。

特にLNGは国内の備蓄能力に限界があるため、仮にロシア産の輸入が止まると、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。このため、政府は産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組み、LNG調達への関与強化などを検討すると提起している。

LNG火力が新設・復旧 国を挙げて燃料確保へ

厳しい電力需給の中にあって、期待されているのが供給力の増加につながる取り組みだ。

福島県沖地震において、石油資源開発(JAPEX)の相馬LNG基地と福島ガス発電の福島天然ガス発電所は震度6強の地震に遭った。21年2月に発生した震度6の地震に続く被災で、その経験を生かした取り組みによって、早期復旧を果たしている。

JERAは6月、前述の①kW公募で長期計画停止中の姉崎火力発電所5号機(60万kW)と知多火力発電所5号機(70万kW)の供給力を応札し落札した。また、②kW時公募に対して8億kW時の供給電力量を応札し落札。これにより、運転を再開すると、東北、東京、中部の3エリアの需給は1ポイント以上改善する見通しだ。

再稼働する姉崎5号機

今冬に向けては、東北電力の上越火力発電所1号機が12月の営業運転開始に向けて試運転中だ。同設備は三菱重工業と共同開発した最先端の「強制空冷燃焼器システム採用次世代ガスタービン」を採用。タービン翼の冷却構造を最適化し、タービンの入り口温度を1650℃まで引き上げた。蒸気冷却燃焼器を使用した従来型のガスタービンと比べ、熱効率が2%向上した。

JERAの姉崎発電所新1〜3号機は今年8月から順次試運転を開始する計画。最新鋭の燃焼温度1650℃級強制空冷式M701JAC形ガスタービンを用いた天然ガスたき次世代ガスタービン・コンバインドサイクルで、熱効率を61%から63%へと引き上げている。

こうした大型火力の新設やリプレースが電力ひっ迫局面を打開する切り札になるのは間違いない。

【特集2】歴史的なLNG不足と高騰 大手電力経営への影響を占う


水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

LNG需給は、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに危機的な状況を迎えている。燃料の不足は即停電につながる。電力ビジネスの今後について専門家に聞いた。

大手電力のLNG調達担当にとって2022年度は忘れられない年になりそうだ。昨秋から既にタイトになっていたLNG需給は、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに危機的な状況を迎えている。

EUの脱ロシアエネルギー計画「REPowerEU」は、今年末までにLNG調達を3600万t増やすと謳う。わずか年3・5億tのLNG市場の1割にも相当する数字だ。ガスの不需要期に入って、いったんは落ち着いた市場も、冬場の需要期になれば不足する供給の奪い合いになりそうなのだ。

折しも、わが国の今冬の電力需給は東京エリアなどで予備率がマイナスと想定される極めて厳しい状況だ。燃料の不足は即、停電のリスクを招く。いまや一隻150億円もする購買に、社内からは量的な確保に加え、コストダウンのプレッシャーものしかかる。

思えばLNGの購買も変わったものである。ほんの10年ほど前までは、特定の生産者との20年にも及ぶ長期契約に基づき、年間の配船計画を粛々と実行するのが燃料担当の仕事であった。

いまやLNG取引は一隻150億円に上る

劇的に変化したLNG市場 スポット取引が全体の約40%

この10年ほどの間に、長期契約の仕向け地制約の見直しが進むとともに、供給側では米国、需要側では中国や欧州など、従来の商慣行に縛られないプレーヤーが増えたことで、LNGは一気に世界的なコモディティとなった。いまや世界のLNG取引のうち、約40%がスポットである。欧州のパイプラインガス市場とも一体化が進み、双方の需給が大きく影響し合うようになった。LNGを欧州の需要家と取り合うなどということは、ほんの5年前でも想像しづらいことであった。生産者と需要家に加えて、欧州の大手資源商社トラフィギュラや石油商社ヴィトールなどのトレーダーも市場の重要な担い手となっている。こうして購買担当のひのき舞台は、年単位に及ぶ厳しい長期契約交渉から、多様な相手との間で瞬時に取引を決断していく短期決戦の場に移りつつある。

日本において燃料が使用される環境も大きく変わった。例えば、電力自由化によって燃料費の高い石油火力の退場が進んだこと、太陽光を中心に変動再エネが大幅に増えたこと、そしてベースロードである原子力の多くが依然として休止していることなど、電源構成が変化した。LNG火力はミドルに加え、ベースやピークも一部担うようになった。

LNG火力はベースもピークも担うようになった

電力市場は様変わり 冬の陣をどう戦うか

ガスタービンが多いLNG火力は、再エネの出力変動に対する出力調整となる⊿(デルタ)kWは得意分野だが、従来石油火力が担ってきたような季節や景気変動による需要の変化に対応した発電量の増減(⊿kW時)はタンクの容量が小さいため苦手である。スポット取引が増えたのが救いだが、これとて需要が集中する冬季には思うに任せないことも多い。いったん調達難で発電が止まれば、原子力不在のベースロードも手薄になり、揚水の稼働すら厳しくなるのだ。

勇ましい表題をつけてはみたものの、短期的にできることは限られている。有事には、ロープ際に追い込まれる前に手を打っていくのが鉄則である。ここでは「モノの確保」「価格よりマージン」「総力戦」の三点をキーワードとしたい。

まずは「モノの確保」である。お客さまへの供給義務が存在する電気事業ではモノ(燃料)がないのは最悪だ。ロープ際ではkW時当たり200円の電気も買わざるを得ない。早め早めの手当が肝要だ。

二つ目は「価格よりマージン」である。現在のような高値相場になると、つい「上がりすぎ」と思い込み、調達や値決めをためらうものだ。ところが、ひっ迫した市場では何が起きても不思議はない。大事なのは価格そのものより、小売りや卸売りに対するマージンの確保だ。時にはロスを固定する判断も必要になる。市場の変動に晒される状況をいかに避けるかが大切だ。

三つ目は「総力戦」だ。実はコトはLNGでは完結しない。求められるのは需給運用全体の最適化だ。供給責任を満たしつつ、少しでも収支を改善するために、LNGに加え、石炭・石油などの燃料取引、火力の補修計画や貯水池・揚水など水力の運用、さらに卸・小売販売など、社内の需給対応機能をフル回転しつつ、緊密に連携させるということである。

20年代は「資源インフレの10年」になる可能性が高いように思う。ガスにおいては、LNG換算で年1億tを超える欧州向けのロシア産の相当量をLNG市場が受け止めねばならない。ところが、25年までは新規運開予定の大型LNG基地案件もなく供給増はわずかだ。LNG以上に新規投資がない石炭市場も緩和の見通しは暗い。こうした中、時代に適応する電力経営について考えてみた。

25年まで大型LNG基地案件はなく供給増はわずかだ

先に「総力戦」という言葉を使ったが、需給回りの各機能こそが電力事業のバリューチェーンだ。特にその上流(燃料)と中流(電力卸)の市場リスクはロシアのウクライナ侵攻以前から大きくなっていた。そのことを念頭に、LNG取引の在り方は無論、それを含めたバリューチェーン全体の再点検を提案したい。キーワードは「リスク管理」「組織」「上流」である。

まずは「リスク管理」である。大手電力のビジネスは、自由化とともに卸電力取引の発達や「域外」販売の増加などにより、仕入れと販売の在り方が複雑になってきた。そうした中で燃料や卸電力の市場価格変動が大きな経営リスクとして顕在化している。自社の発電所から「域内」販売というシンプルなモデルに適応した燃料費調整だけでは需給収支のリスクをカバーすることが困難になってきたのだ。今後は仕入れから販売の過程において、各市場の騰落の影響(感度)を洗い出し、ヘッジなどでリスクを最小化していく手順を整理し、それを遂行していく必要がある。

関連部門の全体最適と早い意思決定が求められてくる

資源インフレ時代へ 電力経営の進化に期待

二つ目の「組織」については2点指摘したい。まずは、燃料市場や卸電力市場の劇的変化に対応できるプロ集団を組織できているか、ということだ。価格の動きが激しくなった市場にあっては、機動的に高額の売買(購買だけではない)の判断をしながら、マージンを確定するヘッジ取引なども併せて実行する体制が必要だ。

もう一点は先ほどの「総力戦」を遂行する体制の構築である。市場の動きが格段に早くなっている中では、関連部門の「全体最適」の姿をいち早く描いて意思決定することが重要だ。例えば、市場をにらみながら需給最適に資すると判断すれば、一隻200億円のLNGの購買も、抑制してきた石油火力の補修費の大幅増による稼働増も、安売りで拡販してきた大口営業の単価の大幅引き上げも、ためらわず行わねばならない。「スピード感を持て」と言う前に、「仕組み」レベルで考えるときではないか。

最後のキーワードの「上流」は権益の話だ。危機的な状況になるほど、資源は持てるものが強いという現実が実感される。豪州や北米に権益を保有する会社は、その有り難みをかみしめているのではないか。燃料の安定確保には長契という手段も大切だが、燃料に対する長期的な権利、価格のヘッジ両面において権益には及ばない。ESGの流行で上流投資はすっかり「禁句」になったが、現在、日本の電力の7割は化石燃料で発電され、当面は一定量の使用を続けねばならないのも現実だ。

資源会社や商社などが上流から逃げ、市況高騰下においても各燃料の増産投資の動きは鈍い。自ら需要を持つ電力会社は、彼らよりもリスクは小さく、今後考えられる数少ない投資の担い手だ。容易ではないことを承知で、あえて提言する。

スーパーサイクルと言えるほどの燃料資源高騰期を迎えた電力経営であるが、こういう時代なればこその進化を期待したい。

みずかみ・ひろやす 一橋大学商学部卒、米ジョージタウン大学MBA取得。1983年北陸電力に入社し、2011年から燃料部長を務める。20年同社執行役員を退任し同年7月から現職。