脱炭素化に向けて新たなエネルギー技術が取り上げられるようになってきた。実用化に向けてのルールづくりも重要なポイントなってくる。
2050年カーボンニュートラルに向けて、ガス体エネルギーの次世代技術がこの1年で数多く発表され、従来にも増して開発や取り組みが加速している。
日本ガス協会は昨年6月、「カーボンニュートラルチャレンジ 2050」アクションプランの中で「メタネーション実装への挑戦」を打ち出し、業界を上げての取り組みを本格化させた。メタネーションはCO2と水素(4H2)を反応させて都市ガスの主成分である「メタン(CH4)と水(2H2O)」を生成する。こうして合成されたメタンを総称で「e-methane (e-メタン)」と呼ぶ。e-メタンの代表的な合成法はサバティエ反応を利用した方式で、触媒を介してH2とCO2を反応させてCH4を生成する。
INPEXと大阪ガスが24年度に開始する実証においても同方式が採用されている。INPEXの長岡鉱場内から回収したCO2を用いてe-メタンを製造し、同社の都市ガス導管に注入する予定だ。e-メタンの製造能力は1時間当たり400N㎥と世界最大規模となる。実証では、①触媒によるメタネーション反応の挙動把握を目的とした反応シミュレーションの技術開発、②プロセスの基本性能や触媒の長期耐久性などの評価・確立を目的とした大規模メタネーション反応プロセス技術開発、③商用スケールへの大型化、適用性や経済性などの評価を目的とした、反応システムのスケールアップの適用性―を検証する。

エネ変換効率向上を目指す 新たなメタネーション技術
メタネーションでは高効率化や低コスト化を目指し、次世代技術の開発も進行中だ。東京ガスの「ハイブリッドサバティエ」や「PEMCO2還元」、大阪ガスの「SOECメタネーション」、「バイオメタネーション」などがその代表的な技術となる。
東京ガスが取り組むハイブリッドサバティエは、サバティエ反応を220℃以下と従来よりも低温で行う。これにより、発生する熱を水素発生の水電解に活用。投入する電力量を抑制して、80%以上の高効率なメタネーションを目指して開発を進めている。
PEMCO2還元は独自に開発する水電解セルスタックと親和性の高い電気化学還元デバイスを使用して、水とCO2から直接メタンを生成する。メタン合成装置が不要のため、設備を簡素化して設備コストの低減が期待できる。また固体高分子型のため反応温度が100℃以下と低く、大型化における配熱処理の課題がないことも特徴だ。
大阪ガスのSOECメタネーション技術(高温電解ガス合成技術)は、水素の供給が不要で、電力からメタンへのエネルギー変換効率が85~90%と非常に高い。従来のメタネーションでは水の電気分解やメタン合成反応で発生する熱を有効利用できず同55~60%にとどまっている。SOECメタネーションはエネルギー損失が少なく前述のような高い効率が実現でき、電力使用量を従来に約3分の2まで削減できる可能性があるという。
メタネーションの実用化に向けて、制度面での取り組みも進められている。CO2を排出する側とメタネーションなどに利用する側のどちらでCO2をカウントするかというルール決めが行われているのだ。国内におけるカウントルールは、メタネーション推進官民協議会傘下の今年3月に開かれた「CO2カウントに関するタスクフォース」で、工場や発電所などの排出者側にCO2排出を計上し、メタネーションでe-メタンを生産する都市ガス事業者など利用側はゼロと整理された。
ただ、排出者側にとって利用側にCO2を引き渡すメリットがなければ、そうした取り組みが浸透しない。このため、補完的な仕組みの制度設計が必要とされている。
30年には、海外でグリーン水素を調達し毎時数千~数万N㎡の大規模実証を行い、現地からe-メタンを輸入する計画だ。これにより、30年までに都市ガス全体のうち1%のe-メタン導入を目指す。この1%を都市ガス量に換算すると、4億㎡に相当する大規模なものとなる。
24年度に始まるINPEXと大阪ガスの実証や、海外での大規模生産計画のためにも、早期の環境価値取引ルールづくりが求められている。
グリーン水素登場を見越し 利用機器の実証始まる
次世代エネルギーでは水素関連の取り組みも活発だ。パナソニックは純水素型燃料電池や太陽光発電、蓄電池を自社工場敷地内に設置して、工場で利用するエネルギーを賄う実証を行っている。将来、再エネ由来のグリーン水素が供給されることを見越した先進的な実証だ。リンナイは、水素100%燃焼給湯器を開発。水素の燃焼特性に合わせたバーナー技術によって実現した。11月からはオーストラリアで実証をスタートさせる。同社はトヨタ自動車が静岡県裾野市に建設する「ウーブン・シティ」において、水素を燃焼させて行う調理において共同開発も開始した。このように、水素利用機器側での取り組みが今年に入って活発となっており、今後さらに加速していくものと見られる。
産業ガス大手のエア・ウォーターは北海道十勝地方で、家畜糞尿由来のバイオガスに含まれるメタンを液化バイオメタン(LBM)化し、活用するまでのサプライチェーン構築の実証を行っている。LBMはメタン純度が99・99%と高い。ロケットやLNGトラックなどその性能が生かせる用途をターゲットにしている。
次世代に向けてさまざまな開発や取り組みが進む中、環境価値についてのルールが話題に上るようになってきた。ただ、水素もLBMも再エネからつくり出したとしても、環境価値が認められる仕組みには現在のところなっていない。こうした手つかずの部分の整備が今後一層求められてくるだろう。