【特集2】脱炭素に挑むガス体エネルギー e-メタンなど次世代技術が加速


脱炭素化に向けて新たなエネルギー技術が取り上げられるようになってきた。実用化に向けてのルールづくりも重要なポイントなってくる。

2050年カーボンニュートラルに向けて、ガス体エネルギーの次世代技術がこの1年で数多く発表され、従来にも増して開発や取り組みが加速している。
日本ガス協会は昨年6月、「カーボンニュートラルチャレンジ 2050」アクションプランの中で「メタネーション実装への挑戦」を打ち出し、業界を上げての取り組みを本格化させた。メタネーションはCO2と水素(4H2)を反応させて都市ガスの主成分である「メタン(CH4)と水(2H2O)」を生成する。こうして合成されたメタンを総称で「e-methane (e-メタン)」と呼ぶ。e-メタンの代表的な合成法はサバティエ反応を利用した方式で、触媒を介してH2とCO2を反応させてCH4を生成する。
INPEXと大阪ガスが24年度に開始する実証においても同方式が採用されている。INPEXの長岡鉱場内から回収したCO2を用いてe-メタンを製造し、同社の都市ガス導管に注入する予定だ。e-メタンの製造能力は1時間当たり400N㎥と世界最大規模となる。実証では、①触媒によるメタネーション反応の挙動把握を目的とした反応シミュレーションの技術開発、②プロセスの基本性能や触媒の長期耐久性などの評価・確立を目的とした大規模メタネーション反応プロセス技術開発、③商用スケールへの大型化、適用性や経済性などの評価を目的とした、反応システムのスケールアップの適用性―を検証する。

メタネーションの事業イメージ 出所:INPEX


エネ変換効率向上を目指す 新たなメタネーション技術

メタネーションでは高効率化や低コスト化を目指し、次世代技術の開発も進行中だ。東京ガスの「ハイブリッドサバティエ」や「PEMCO2還元」、大阪ガスの「SOECメタネーション」、「バイオメタネーション」などがその代表的な技術となる。
東京ガスが取り組むハイブリッドサバティエは、サバティエ反応を220℃以下と従来よりも低温で行う。これにより、発生する熱を水素発生の水電解に活用。投入する電力量を抑制して、80%以上の高効率なメタネーションを目指して開発を進めている。
PEMCO2還元は独自に開発する水電解セルスタックと親和性の高い電気化学還元デバイスを使用して、水とCO2から直接メタンを生成する。メタン合成装置が不要のため、設備を簡素化して設備コストの低減が期待できる。また固体高分子型のため反応温度が100℃以下と低く、大型化における配熱処理の課題がないことも特徴だ。
大阪ガスのSOECメタネーション技術(高温電解ガス合成技術)は、水素の供給が不要で、電力からメタンへのエネルギー変換効率が85~90%と非常に高い。従来のメタネーションでは水の電気分解やメタン合成反応で発生する熱を有効利用できず同55~60%にとどまっている。SOECメタネーションはエネルギー損失が少なく前述のような高い効率が実現でき、電力使用量を従来に約3分の2まで削減できる可能性があるという。
メタネーションの実用化に向けて、制度面での取り組みも進められている。CO2を排出する側とメタネーションなどに利用する側のどちらでCO2をカウントするかというルール決めが行われているのだ。国内におけるカウントルールは、メタネーション推進官民協議会傘下の今年3月に開かれた「CO2カウントに関するタスクフォース」で、工場や発電所などの排出者側にCO2排出を計上し、メタネーションでe-メタンを生産する都市ガス事業者など利用側はゼロと整理された。
ただ、排出者側にとって利用側にCO2を引き渡すメリットがなければ、そうした取り組みが浸透しない。このため、補完的な仕組みの制度設計が必要とされている。
30年には、海外でグリーン水素を調達し毎時数千~数万N㎡の大規模実証を行い、現地からe-メタンを輸入する計画だ。これにより、30年までに都市ガス全体のうち1%のe-メタン導入を目指す。この1%を都市ガス量に換算すると、4億㎡に相当する大規模なものとなる。
24年度に始まるINPEXと大阪ガスの実証や、海外での大規模生産計画のためにも、早期の環境価値取引ルールづくりが求められている。


グリーン水素登場を見越し 利用機器の実証始まる

次世代エネルギーでは水素関連の取り組みも活発だ。パナソニックは純水素型燃料電池や太陽光発電、蓄電池を自社工場敷地内に設置して、工場で利用するエネルギーを賄う実証を行っている。将来、再エネ由来のグリーン水素が供給されることを見越した先進的な実証だ。リンナイは、水素100%燃焼給湯器を開発。水素の燃焼特性に合わせたバーナー技術によって実現した。11月からはオーストラリアで実証をスタートさせる。同社はトヨタ自動車が静岡県裾野市に建設する「ウーブン・シティ」において、水素を燃焼させて行う調理において共同開発も開始した。このように、水素利用機器側での取り組みが今年に入って活発となっており、今後さらに加速していくものと見られる。
産業ガス大手のエア・ウォーターは北海道十勝地方で、家畜糞尿由来のバイオガスに含まれるメタンを液化バイオメタン(LBM)化し、活用するまでのサプライチェーン構築の実証を行っている。LBMはメタン純度が99・99%と高い。ロケットやLNGトラックなどその性能が生かせる用途をターゲットにしている。
次世代に向けてさまざまな開発や取り組みが進む中、環境価値についてのルールが話題に上るようになってきた。ただ、水素もLBMも再エネからつくり出したとしても、環境価値が認められる仕組みには現在のところなっていない。こうした手つかずの部分の整備が今後一層求められてくるだろう。

【特集2】液化バイオメタンの実証開始 高純度ガスを多彩な用途へ


【エア・ウォーター】

エア・ウォーターは、家畜のふん尿からつくる液化バイオメタンの実証を開始した。LNG代替に加え、高純度なガス質を生かしロケット燃料などの利用を目指す。

北海道十勝地方で、牛などの家畜から排出されるふん尿を利用して液化バイオメタン(LBM)を生成し、需要家に供給する実証が今年度から本格的に開始となった。
同実証は、環境省が推進する「令和3・4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択されたもの。エア・ウォーターが中心となり、家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンをLBMに加工。液化天然ガス(LNG)の代替燃料として利用することを目的として、LBM生成から需要家での活用までを実証する。サプライチェーン全体でのCO2排出量、温室効果ガスの削減とともに、家畜ふん尿に起因する臭気の減少にもつながることが期待されている。

電力での利用が困難 ふん尿の扱いに苦戦続く

酪農が盛んに行われている十勝地方は家畜から大量に排出されるふん尿の扱いが課題となっている。春や秋に畑の肥料として散布するが、この臭いが十勝地方の中心部である帯広の街中でも立ち込めることがある。これがイメージダウンにつながり、インバウンド需要に影響すると懸念する声もあるほどだ。一方で、エネルギーとして再利用することに関心のある酪農家は、固定価格買い取り制度(FIT)を活用し、ふん尿をバイオガス化して発電することを模索したが、送電網などインフラに関わる制約から活用は限定的で、長年解決策を見いだせずにいた。
このように、ふん尿をそのまま田畑に散布せず、新たな方策を見いだす機運が高まっていた。
そうした中、バイオガスをエネルギーに有効利用する手段として、エア・ウォーターが産業用ガス事業で培った極低温技術などを応用して同実証のスキームを考案。酪農家や乳業メーカー、同社グループ会社などの参画を受けて実証を行う運びとなった。
実証では、①酪農家の敷地内に設置したバイオガス捕集システムで家畜ふん尿由来のバイオガスを回収し圧縮や前処理を行い、ガスを貯めた吸蔵容器をセンター工場に輸送する、②センター工場で捕集したバイオガスを前処理した後、マイナス162℃まで冷やしメタンガスを液化する、③これを需要家に持ち込みボイラーなどで利用する―ところまで行う。
①バイオガス捕集システムは、今年5月に完成し試運転を実施してきた。酪農家に設置し無人で稼働するため、ガスを1MPa未満で捕集する。高圧ガスの複雑な保安体制を必要としない仕組みにした。ガス吸着剤に関わる知見を活用し、ガスが低圧状態でも容積の約20~30倍のガスを輸送できるものを開発した。装置は酪農家でも運用できるよう簡単な点検を1日1回行うだけで済むようにした。
②センター工場は1日当たり1tのLBMを製造する能力を有する。実証では30~50%程度で稼働させている。1日2台持ち込まれる吸蔵容器から抽出したバイオガスを圧縮した後、膜分離装置などでメタンからCO2、大気を除去。さらに深冷分離装置で液体窒素を用いて熱交換を行い、メタンを液化する。同工場は8月8日完成し試運転が開始となった。9月4日からは純度99%以上のメタンが製造可能に。10月13日には同センター工場からLBMが初出荷された。

LBM製造プラント


③出荷されたLBMは、需要家であるよつ葉乳業でLNGと混合してボイラーで燃焼試験を実施している。11月からは、同社と三菱商事が共同で実証しているLNGトラック向け充填所にも出荷していく予定だ。
地球環境システム開発センターの田中真子部長は「燃料としてのLBMはメタン純度が99・99%(フォーナイン)と非常に高いのが特徴です。そうした品質が求められる用途向けにも展開していきたいです。LNGトラックには重質分が含まれていないことから火炎温度が上がらず適しているとされています。また十勝地方の大樹町には堀江貴文氏が設立者に名を連ねる宇宙ベンチャーの『インターステラテクノロジズ』があります。このロケット向け燃料として、高純度なメタン燃料であるLBMは非常に有望です。高付加価値向けにも訴求したい」と強調する。

LBM 実証のスキーム図

LBMの都市ガス利用も 道内の複数地域に展開

地元の都市ガス事業者でも、LBMの導入を検討する動きがある。都市ガス大手3社に限定されているが、エネルギー供給構造高度化法で、条件を満たす余剰バイオガスについては80%以上を利用することが目標と位置付けられているのだ。
今後、こうした法律が地方ガス事業者にも適用される可能性がある。このため、LBMの取り組みに注目をしているとのことだ。
エア・ウォーターでは、道内の他の地域でもLBMサプライチェーンの展開を模索している。北海道産の新たな地産地消エネルギーとして、今後さらに注目を集めていきそうだ。

【特集2】CNに向けた取り組みをサポート 業務用顧客向けコンサルサービス開始


【東邦ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、日本国内の企業はCO2削減を推進するさまざまな施策を検討している。しかし、「そうはいっても、具体的に何から着手したらよいのかわからない」―。そうした企業が大半だという。
業務用顧客のこのような状況を受けて、東邦ガスは都市ガスや電力、エンジニアリングのノウハウを活用した新サービス「CN×P」を立ち上げた。これまでのガス会社の営業というと「ガスや設備導入はいかがですか」と提案してきた。これに対し、CN×Pでは、「まずはCO2削減、その先にあるCN化に向けてこのような手順で進めたらどうですか」「現状の把握から一緒に取り組んでいきましょう」とCNに資する取り組みを一から具体的にアドバイスして顧客とともに取り組む。


現状把握が重要 ロードマップを策定


国のCN宣言以前は、省エネ関連のサービスが主体だった。顧客には燃料転換に伴う都市ガスや設備の導入を提案しCO2削減を進めていった。その中で顧客が最も重要視するのは費用対効果だ。エネルギー関連で新たな設備導入や取り組みを行う際には必ず採算性が求められたという。
CN宣言以降はこの状況が一変した。CO2排出量削減に取り組むという点では同じだが、コストを負担してでも推進しなければならない課題となったのだ。
「従来の投資回収基準に加え、取引先や国、社会からの要請など、CNへの取り組みは判断軸が増えて複雑化しています。いつまでに、どれだけのコストを割いて注力するのか、企業の方針によっても異なります。そこで現状を把握しお客さまの要望を聞きながら、ロードマップ策定やデータの見える化、エンジニアリングを提供し、CN化をサポートするのがこのCN×Pです」。エネルギー計画部ビジネス開発グループの富田達也マネジャーは、こう話す。
CN×Pでは、①顧客のCO2排出量を把握しCNに向けた課題を明確化する、②運用改善、省エネ、再生可能エネルギーや高効率設備の導入などのエンジニアリングサービスの提供によりCO2を削減する、③工場などの現場のCO2排出量のモニタリング、現場社員向けの技能講習会の開催、設備チューニングの支援など良好な削減環境の維持する―という三つのサイクルを回していくことを掲げている。
このうち、①のCNに向けた正しい状況把握の部分が新たなに提供するサービスであり、ロードマップ支援サービスとデータの見える化支援サービスなどを展開する。ロードマップ支援サービスは、顧客の事情に合わせて、CN達成への取り組みを排出量の削減効果と費用対効果でグラフ化し、中長期的な指標となる「CNカーブ」を作成する。図のようにグラフは横軸がCO2削減量、縦軸が施策を行うことによる追加コスト影響を表している。色付きの長方形はCO2削減のそれぞれの施策を表している。施策の長方形が中央線のゼロより下にあるものは投資回収可能なもの、上にあるものは投資回収できないがCO2削減に寄与するものとなっている。このグラフの横軸に目標年度を記入することでそれぞれの顧客に合った排出削減ロードマップが策定できるというわけだ。

「CN実現に向けたロードマップの策定」支援のアウトプットイメージ


例えば、製造業では、古い設備をそのまま用いて効率の悪い蒸気の使い方をしていたり、設備過剰で無駄に電力やガスを消費しているケースがある。こうした際に、「ガス設備の導入はもちろんですが、場合によってはヒートポンプの導入や既存設備の廃止を提案することもあります。電力もグリーン証書付き電力の購入よりオンサイトPPA(電力購入契約)による太陽光発電の設置の方がCN化に有効であれば導入を推薦します。あくまで優先すべきは顧客のCN化です」と、富田マネジャーは強調する。
データの見える化支援サービスでは、各種データの蓄積により、現場の管理工数低減やCO2削減進捗管理・フォローを行う。多くの事業所では工場単位、建屋単位でのエネルギー消費などのデータを蓄積しているが、製造ラインごとでは取得していないことが多い。
しかし、そうした取り組みがさまざまな企業に求められる時代がやってくるのは確実だ。そこで東邦ガスでは、「まず優先度の高い製造ラインから各データを測定していこう」と提案している。
また、データの見える化支援サービスでは事業所全体のエネルギーを見渡すマクロの視点から製造工程の細かな箇所確認するミクロの視点まで、いろいろな角度から見ることで問題点を見つけ出すことが鍵となる。「こうしたコンサルティングができるのは、エンジニアリングの知見を有し、お客さまの現場に深く入り込んできた当社ならではと自負しています」と、比嘉盛嗣チーフはアピールする。
これらのコンサルティングサービスを実施した後は、強みであるエンジニアリングサービスの提供によりCO2削減を行っていく。その後、現場の状況診断、CO2排出量のモニタリングなど削減環境の維持を図る。


CN黎明期にアピール 専用ホームページ開設


コンサルティングの内容は業種や規模が変われば取り組む内容も千差万別だという。それぞれカスタマイズした形で提供していくとのことだ。「同サービスは自信を持ってオススメできる費用感とアウトプットになっています。ただ、今はまだCN黎明期と捉えています。普及は当社がどうアピールしていくかにかかっています」と、富田マネジャー。
東邦ガスでは、専用ホームページを立ち上げるなど、CN×Pにかける意気込みが伝わってくる。同社の事業の新たな柱に育てていく構えだ。

同サービス普及を目指す富田マネジャーと比嘉チーフ

【特集2】道内初の天然ガス主体ZEB物件 エネやBCPの知見を投入


【北海道ガス】

北海道ガスはZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及推進に注力する。ZEBとは、建物の高断熱化や設備の高効率化、消費エネルギーを削減すると同時に、太陽光発電や地中熱利用などの創エネで年間の一次エネルギー消費の収支ゼロ以下を目指す建物のことを指す。
政府が昨年11月に発表した第6次エネルギー基本計画では、2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の省エネ性能の確保を目指すと明記され、その重要性が高まっている。
そうした背景から、同社は21年4月、環境共創イニシアチブの「ZEBプランナー」に登録した。顧客向けにシステム提案から補助金申請のサポート、稼働後のビル運用のサポートまで、一貫したZEBコンサルティングサービスを展開している。
今年11月には、地上三階、延床面積856㎡のZEB第一号物件が完成する。高断熱化と高性能ガラス、高効率設備の導入でエネルギー消費量を56%削減。建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の最高ランクである5つ星を獲得した。

北ガスが手掛けたZEB物件


第一号物件をモデルケースに 道内全域にZEBを展開

同社が手掛けるZEB物件は他にはない独自の特徴がある。災害に強い都市ガスインフラによりガスを供給し、空調に電源自立型ガスヒートポンプ(GHP)を導入することで、レジリエンスを強化している点だ。電源自立型GHPなら仮に停電が発生しても、冷暖房の稼働はもちろんのこと、照明の利用やスマートフォンなど電子機器の充電など、必要最低限の電源が確保できる。
「18年9月に発生した北海道胆振東部地震によって、道内のお客さまはBCPへの意識が高まっています。そうしたニーズにも応えながら、ZEB化を実現することができます」。第一営業部都市エネルギーグループの渡邊翔氏はそう説明する。
さらに、同ビルにはカーボンニュートラル(CN)天然ガスや実質再生可能エネルギー100%電気を供給することで、建物全体のCO2排出量が実質ゼロの「CNビル」を実現した。
同グループの鈴木崚太氏は「CO2排出量を徹底した省エネによるZEB Ready化で40t削減し、さらにCO2排出量実質ゼロの電気と天然ガスの供給によって36t削減し、実質ゼロとしました。脱炭素化の実現には、需要側と供給側の双方からのアプローチが求められてくるでしょう」とZEBへの取り組みについて話す。
今年に入り、エネルギー価格の高騰や、4月に「官庁施設の環境保全性基準」が改定されたことなどを受けて、ZEBの需要がさらに高まっている。6月に同ビルの建設が明らかになってからは、北ガスに対して同じ規模のZEB物件建設に関する相談が増えたとのことだ。
北ガスでは中小規模の建物については、今回の第1号案件をモデルケースとして、省エネとレジリエンス強化を両立するZEBを道内全域に展開していく。また、CNにつながるエネルギーサービスの提供を通じて、北海道の脱炭素化、地域発展に貢献していく。

【特集2】多種多様な業界が注目 燃料電池による水素活用


【パナソニック】

純水素型燃料電池を用いた「H2 KIBOU FIELD」実証。再エネや蓄電池を組み合わせた試みが話題を呼んでいる。

パナソニックは今年4月、RE100実現と分散型エネルギー社会構築に向け、5kW純水素型燃料電池「H2 KIBOU」と太陽光発電、リチウムイオン電池を組み合わせた実証施設「H2 KIBOU FIELD」を同社草津工場内に設置して実証実験を開始した。

同社草津工場に隣接する実証施設「H2 KIBOU FIELD」


実証施設ではH2 KIBOUを99台(495kW)並べて、昼間は燃料電池と太陽電池、夜間は燃料電池を稼働させる。燃料電池工場の電力需要は、24時間稼働する装置があるため一日中電力使用があり、ピーク電力は夏場に約680kW使用する。年間通して、工場の電力需要を太陽電池、燃料電池、蓄電池の三電池で賄う。液化水素の供給は岩谷産業が担当。年間で120tの水素を使用することが想定され、270万kW時の電力需要に対応する。
実証施設は稼働から半年が経過した。今もメーカーやゼネコン、地方自治体など、多種多様の業種の担当者が見学に訪れており、関心の高さがうかがえる。燃料電池事業横断推進室の河村典彦水素事業企画課長は、実証施設の能力について「長期的には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を用いるのが目標です。現段階は、グリーン水素ではないが消費拡大、利活用の好事例を示していきたい」とアピールする。

実用化課題は発電コスト 価格引き下げで選択肢に

このような水素によるRE100スキームにおいて、課題の一つがコストだ。現在の水素発電では、1kW時当たり0.6㎥の水素が必要で「例えば今の1㎥当たり100円の水素価格では、経済合理性が成り立たない」(河村課長)。経済産業省は2030年に向けて、水素価格を同30円、50年には同20円程度に引き下げる目標を掲げており、河村課長は「同30円なら再エネ電力程度のコスト、同20円なら系統電力並みになります。そうなれば電力の選択肢の一つに選ばれる可能性も出てきます」と期待を寄せる。
そのほか、ガス管と別の水素導管の敷設や関連法案の整備などといった課題も実用化に向けて解決しなければいけない。
河村課長は将来に向けて、「水素は、エネルギーミックスの考えで共存を図りながら推進していくべきだと思っています。燃料電池を用いた分散型エネルギーはBCPの観点からもリスク分散につながるほか、電力価格上昇に対応する自衛手段にもなります」と強調する。23年4月以降は実証実験を次のフェーズに進めて、欧州や中国などにもアピールし、海外展開する計画。パナソニックは、脱炭素社会の実現に向けて、純水素型燃料電池を核とした水素の利活用を進めていく。

【特集2】水素・メタネーション技術を展開 脱炭素化の切り札として注目


【日立造船】

日立造船は水素発生装置とメタネーション装置を手掛ける。次世代エネルギー製品として各方面から注目を集めている。

脱炭素化に向けた次世代エネルギーとして脚光を浴びているのが、水素と合成メタンだ。この二つに関連する装置を手掛ける日立造船には各方面から多くの引き合いが寄せられている。
同社の水素発生装置「HydroSpring」は固体高分子(PEM)型水電解法を採用する。PEM型は電解槽内に設置した電解膜を純水で満たし電気で水素と酸素に分離する。中でも、電源の出力変動にミリ秒単位で追従できる長所により、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発生する急激な出力負荷変動にも対応する。
また、純水で水素を製造できるため環境負荷が小さい。10〜100%で水素発生量を制御することが可能なほか、電流密度が高く電解装置自体のサイズを小さくできる。1500kWクラスでの水素発生量は400Nm3時に上る。このほか、屋外設置ができる点も利点となっている。

水素発生装置「HydroSpring」


触媒技術に強み 低温反応性能と高耐久性


水素発生装置と組み合わせて合成メタンの製造に利用するのがメタネーション装置だ。同社は以前から装置の反応器と触媒の製造を手掛けている。特に触媒技術に強みがあり、CO2と水素からメタンへの転換率は99%以上、エネルギー効率は75~80%を有する。
電解・PtGビジネスユニット営業部の足立進一電解営業グループ長は「同触媒は200℃台の低温でもメタンへの反応が可能なほか、2万時間以上の耐久性などを有しています」とアピールする。

メタネーション装置


最近はエネルギー事業者だけでなく、企業からもメタネーションへの引き合いが増えている。高橋哲也営業部長は「工場のCO2削減に検討する企業が増えています。企業の脱炭素への考え方・取り組みなどをヒアリングしながら、機器・システムの提案を行っています。排出するCO2が低濃度の場合には濃縮が必要だったり、水素はどう調達するかなどを考える必要があります。脱炭素に向けてどこに採算性を見出すのか、各企業の方針にかかっています」と、現状を説明する。脱炭素化を推し進める企業の積極的な姿勢が、次世代技術のこれからを左右していきそうだ。

【特集2】自社製品のCO2削減でCN貢献 水素100%燃焼給湯器を開発


【リンナイ】

リンナイは脱炭素時代に向けて給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。従来の給湯器で培った技術を応用し実現。今年秋から海外で実証を始める。

リンナイはこのほど、家庭用給湯器向け水素100%燃焼技術を開発した。今年11月からは、オーストラリアで実証実験を開始。実用化に向けた取り組みを加速させる。
同社は、2050年脱炭素化に向けて、独自のカーボンニュートラル(CN)宣言「RIM2050」を策定。日本国内全体のCO2排出量は11億794万t。このうち、リンナイの給湯、暖房、厨房商品を使用して排出されるのは1.5%に上る。これを受けて、「自社製品のCO2排出削減の取り組みはCNにおいて大きな役割を担う」と位置付け、開発を加速させている。その一つが水素給湯器だ。水素100%燃焼が可能でCO2を排出しないのが特長となっている。

水素100%燃焼の給湯器


水素を扱う上での燃焼の課題は逆火による爆発の恐れと、燃焼が安定しないことの二つだ。開発ではこれらを解決しながら、①従来の給湯器と同様に任意の水量と湯量に即座に対応できるよう低能力でも安全かつ安定的に燃焼できること、②天然ガスから水素への仕様転換が容易にできることが同時に求められる。


水素特有の燃焼特性 新たな燃焼技術で解決

そこで、新たに開発したのがバーナーとバーナーボディーだ。バーナーは、燃焼速度とガスの噴出速度のバランスを保つことで火が燃える。水素は燃焼速度が天然ガスより8倍は速く、低能力では噴出速度が遅くなり、バーナー内部に炎が入る逆火が発生しやすい。
この解決のため、海外向け給湯器やボイラーで使用されている全一次燃焼方式を採用し、かつ使用する金属繊維の素材や金属繊維の構成、板金に入れるスリットのパターンなどを見直し、逆火耐性、火炎均一性など水素燃焼に最適な条件を実現した。
バーナーボディーは万が一逆火が発生したときの安全性を確保するために開発した。天然ガスを燃焼する従来構造はガスの制御・混合を最適に行うため、ガスと空気をファンの手前で混ぜた状態で送っていた。これに対し、水素給湯器では、ファンとバーナーの間で水素を供給し空気と混ぜるようにした。さらに、バーナーの直前に低圧損のフレームトラップを取り付けることで、逆火時のリスクを最小限化している。これらにより、天然ガス同等の給湯性能を達成した。このほか、都市ガスから水素への転換を簡単な部品取り付けとマイコン内のデータを変更するだけで一時間以内に対応できるようにしている。
開発を担当した要素開発部の赤木万之次長は「オーストラリアの実証では長期使用などを検証します。英国やニュージーランドでも水素の利活用は検討されており、今後の各国の政策などを注視し、商品化に向けて先行したい」と意気込む。今後も、同社では燃焼技術を核にCN実現に向けた取り組みを加速させていく。

【特集2】NEDO実証でグリーン化模索 特約店の環境推進をサポート


【ENEOSグローブ】

ENEOSグローブはLPガスの脱炭素化施策を展開中だ。CNLPガス販売や特約店の支援策など多岐にわたる。

ENEOSグローブは、今年度から経営企画部に、新たに「カーボンニュートラル推進グループ」を設置した。カーボンニュートラル(CN)の推進を目指して、CO2排出量の削減目標や取り組み方針を策定するほか、グリーンLPガス(合成燃料)の研究開発にも着手する。

CO2原料のLPガス製造 社会実装まで包括的に検討

サプライチェーン排出量には、燃料の燃焼や工業プロセスなど、自社の直接排出である温室効果ガスなどが該当するスコープ1、他社から供給され、自社で使用している電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出のスコープ2、どちらでもなく、自社以外のサプライチェーンにおける間接排出のスコープ3がある。同社のグリーンLPガス研究開発は、スコープ3の排出量削減に貢献する取り組みだ。

NEDO実証のスキーム図

同研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発・実証事業」に、富山大学と日本製鉄と共同で「カーボンリサイクルLPG製造技術とプロセスの研究開発」を提案し、4月1日付で採択されたものだ。①触媒技術開発、②製造工程、③社会実装モデルの研究開発―を実施し、事業化に向けた包括的な検討を行う。

①の技術開発として、Fischer―Tropsch(FT)合成を用いて、カーボンリサイクルLPガスを製造する。FT合成とは、一酸化炭素と水素から触媒反応による、LPガス成分を含む液体炭化水素の合成過程のこと。

②の製造工程では、火力発電所・製鉄所などからCO2を調達し、水素はコスト面で課題はあるが、再生可能エネルギーによる電気分解や海外からのグリーン(あるいはブルー)水素の調達などを想定する。また、オンサイト型のカーボンリサイクルLPガス製造では、バイオマス資源からCO2と水素を含む合成ガスを取り出す技術を検討している。これらのガスからFT合成で液体炭化水素を合成し、精製・調整を経てLPガスを製造する。

③の社会実装モデルとして、製造されたLPガスの貯蔵・輸送や、LPガスの連産品を含めた利活用などを模索する。

LPガスは国民生活に密着した重要なエネルギーだ。現在、国内需要は年間約1400万tで、全国の約半数の世帯で使用されている。同社は、化石燃料ではなく、CO2原料のLPガスを製造するための高効率な製造技術とプロセス研究開発を進める。その成果を用いたカーボンリサイクルLPガスの早期商用化よって、脱炭素社会の実現に寄与する考えだ。

米国認証クレジットで提供 特約店と手を携えて

ENEOSグローブは顧客である特約店に対して、CNを推進するさまざまな取り組みを行っている。その一つに、CNLPガスの販売がある。米国の国際NGO団体が認証したクレジットにより、採掘から燃焼に至るまでに発生するCO2をオフセットしたものだ。全国各地の顧客から多数問い合わせを受け、既に複数の契約を締結した。納入後には、独自の供給証明書も発行。グループの環境方針として「事業活動における環境保全の推進」「低炭素・循環型社会への貢献」を掲げる同社にとって、CNLPガスの販売は、その実現に資するものとなっている。

また、12年から「ECO&EARTHキャンペーン」を展開している。同キャンペーンは、エネファームのさらなる拡販、家庭用・産業用の燃料転換、省エネ機器販売の後押しなどが目的だ。特約店の事業活動を支援するとともに、低炭素かつ豊かで安心・安全な暮らしの実現を目指す。

同社は、政府が掲げる50年の脱炭素社会実現に向けて、LPガス事業を通じたさらなる施策を今後も積極的に展開する構えだ。

【特集2】特約店向けに新商材でサポート 環境型LPガス運搬船を導入


【ジクシス】

親会社である住友商事の知見を生かしクレジットを調達するジクシス。特約店向けには「環境住宅」普及でサポートする。

コスモエネルギーホールディングス、住友商事、出光興産の3社が出資するLPガス元売り、ジクシス。同社が低炭素・脱炭素に向けて取り組むのは「自社の事業活動における対策」や「LPガス運搬船への環境対策」を進めるのと同時に、特約店向けには「クレジット使用によるCNLPガス販売」や「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様も可能な先進のLPガス住宅の販売サポート」を展開している。

住商系の知見活用 LPガス仕様の先進住宅

このうち、クレジット調達については取り組み始めたばかりだ。「親会社である住友商事グループの知見も活用しながら、クレジットの由来となるプロジェクト内容を確認し、第三者機関からの認証を得たクレジットを取り扱っています」と、企画管理本部経営企画部の田中保次長は説明する。

そんなクレジットを、まずは同社の事業活動における温室効果ガス排出分(GHGプロトコールのスコープ1・2)の相殺に活用する。同時に、全国各地の特約店へCNLPガスとして販売を順次進めている。

特約店では、ジクシスから購入したCNLPガスを、現状では「小売り商材」としてではなく、主に自らの事業所やオフィスなどで生じるCO2の相殺に利用しているケースが多いそうだ。

特約店向けには、CNLPガスの取り扱いだけでなく、新しい商材にもトライしている。『ホッと楽な家』というブランド名でLPガス式エネファームを標準搭載した先進のLPガス住宅だ。オプションとして、住宅内の年間消費エネルギーと、生み出すエネルギーを相殺するZEH仕様の住宅も展開している。同社が関わるのは、住宅販売ではなく住宅設計プログラムの提供だ。

和歌山県内につくったモデルルーム

「地域の工務店との連携が必須となっていきます。実際に和歌山県の工務店に協力してもらい、県内にモデルルームを開設しました。当社としては工務店と特約店を結び、こうした住宅が増えることで、結果としてLPガスの販売促進につなげていければいいと考えています」

大型船舶の環境対策 デュアル燃料式で運搬へ

ジクシスは、LPガスサプライチェーン全体で低炭素化に取り組んでいる。

LPガスを運搬する船舶は、従来は重油燃料で運航していたが、昨今は世界各国で船舶燃料の環境対策が求められている。こうした中、重油に加えて、環境性の高いLPガスも燃料として活用できるデュアル・フューエルタイプの船舶を来年から用船する計画だ。「水素やアンモニアなども将来的には輸送できる設計となっています」とのことだ。

サプライチェーン全域で環境対策を果たそうと、ジクシスの挑戦が始まっている。

【特集2】カーボンオフセットガスを拡販 グループで45年CN達成目指す


【サイサン】

サイサンは創業100周年となる2045年に向け、脱炭素化に取り組む。目下はカーボンオフセットLPガスの導入拡大に挑む。

サイサンは「ガスワングループカーボンニュートラルへの挑戦」というテーマを掲げ、グループ全体でカーボンオフセットLPガスの導入を促進している。2045年の創業100周年に向け、政府が目標とする50年でのCN達成より、5年前倒しで実現すべく取り組んでいる。

同社はCNLPガス(グリーンLPガス)とカーボンオフセットLPガスを区別している。前者は掘削や輸送などの過程でCO2が排出されないLPガスを指すが、現在の日本の技術では実現が難しい。現実的に可能となるのは、燃焼時に排出されるCO2をカーボンクレジットにより相殺する後者の導入だ。

サイサンは、カーボンオフセットLPガスに用いるクレジットの質も重視している。日本国内で認証を受けたJクレジットは、信頼性は高いが、値段も高額だ。同社はジャパンガスエナジーから1万t分の海外製クレジットを購入。その調達先はガスワングループが拠点を置く9カ国に限定している。価格を抑えつつも、森林や再エネ由来などの信頼性が高いとされるものを選ぶ徹底ぶりだ。

各県で最初の供給に奮闘 シンボル案件から輪を広げる

サイサンのカーボンオフセットLPガスの営業戦略は、まずアピールにつながる大型商業施設やスポーツチームに導入する。そして、関連施設や企業・団体などへと輪を広げていくというものだ。この戦略のもと、西武ライオンズのベルーナドームは、大型商業施設で日本初の導入となった。

西武ライオンズの事例に続くよう、ガスワングループの拠点がある各県での第一号を目指して、営業担当者は奮闘している。グループ会社で福島県にある常磐共同ガスは、いわきFCへ供給。サポーターなどへの社会貢献活動の際に、カーボンオフセットLPガスの使用をアピールできることは、チームにとってもメリットになるという。こうした流れが宣伝効果を高め、他社への流出を阻止することにもつながっている。

このほか、大口の工場や飲食店、自治体などへの導入も推進している。カーボンオフセットLPガスを導入した顧客に対し、年1回、ガス使用量とCO2排出量、クレジットでの削減量を記載した証明書を発行。環境に関する取り組みを集客やイメージアップにつなげたい企業・自治体の関心が集まっている。現在、グループ全体での顧客獲得件数は2100件ほどに上る。

「脱炭素化への関心の高まりを感じます」と語る鈴木課長

LPガス直売部の鈴木崇也課長は、「ゆくゆくは、ガス業界全体で研究を進めているグリーンLPガスの普及に携わりたいです。足元の取り組みとして、カーボンオフセットLPガスの導入拡大で、5年前倒しのCN実現を目指していく」と意気込みを見せた。

【特集2】業界を挙げて低・脱炭素化へ 官民連携で地域活性化に貢献も


LPガス業界ではサプライチェーン全体で脱炭素・低炭素化に取り組む。そうした施策の中には、自治体との連携などで地域活性化に貢献する動きも。

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けた国のグリーン成長戦略において、LPガスはその達成の柱の一つになるとされている。政府の試算では50年時点におけるLPガス需要は現在と比較して約6割が維持される見通しで、CNに貢献する業態転換の検討が待ったなしの情勢だ。

LPガス事業者の脱炭素化に期待が高まる


現在、LPガス業界のCNに向けた取り組みには、①化石燃料由来ではない原料から合成するグリーンLPガスの実用化、②LPガスと証書を組み合わせたオフセット、③省エネ機器を導入することによる低炭素化―などがある。
グリーンLPガスの実用化では、日本LPガス協会が今年7月、「グリーンLPガス推進官民検討会」を立ち上げた。現在、国内のグリーンLPガス開発では、CO2と水素から直接合成する方法と、DME(ジメチルエーテル)に水素を添加して合成する方法が有力視されている。検討会では、こうした開発のバックアップや社会実装に向けたロードマップづくり、品質基準の統一化、移行期における燃焼機器の省エネ化など、課題を共有化して協議していく。
実用化に向けては、コストも課題と指摘した。グリーンLPガスの製造原価は、水素価格の影響を受ける。政府が掲げる50年の水素の目標価格は1m当たり20円。現在のLPガス原価と比較して約1・7倍と試算している。ただ、水素生産国の豪州から安価に調達できるため、仮にグリーンLPガスの開発に成功したとしても、国内でサプライチェーンを完結するのは難しい。
このため、グリーンLPガスの社会実装の方向性としては、一般のLPガスと混合して供給することや、グリーンLPガスを一般のLPガスと差別化して販売することなどを想定している。


多角的な戦略で低炭素化 地域活性化にも貢献

脱炭素化への移行期においては、CO2排出権が付与されたLPガスの輸入や、Jクレジット制度を活用しカーボンオフセットされたLPガスなどが今後増加する。また、エコジョーズやエネファーム、燃転の省エネ機器拡販、ガス需要を守りながらの太陽光・蓄電池、ハイブリッド給湯器の販売、また電力や都市ガスの販売事業進出など、多角的な経営戦略による低炭素化が30年までに求められる。
各事業者がそれぞれの立場でいかにCN対応を加速させられるかに注目が集まる。加えて、自治体との連携などを通じ、地域の脱炭素化や経済活性化に貢献しようとする動きも活発化。CN時代に向けた業界の最前線を追った。

【特集2】LPガスグリーン化への挑戦 官民一体の取り組みに意義


ようやく本格化の兆しを見せ始めた「LPガスグリーン化」。その意義と課題について、橘川武郎・国際大学副学長に聞いた。

【インタビュー】橘川武郎/国際大学副学長


―LPガスのグリーン化にはどのような課題がありますか。
橘川 二つの大きな課題があります。その一つがCO2と水素を合成してメタンをつくるメタネーションや合成燃料「e-fuel」などと比べ、技術の確立が非常に難しいということです。国のグリーンイノベーション(GI)基金には、古河電気工業と北海道大学、静岡大学が連携し、金属触媒の技術を転用して、家畜の糞尿由来のバイオガスからグリーンLPガスを合成する技術の確立を目指すプロジェクトが採択されています。
 一方で、元売りの業界団体である日本LPガス協会の幹事五社は昨年、プロパン・ブタンガスのグリーン化事業を共同で進めていくための「日本LPガス推進協議会」を設立し、藤元薫・北九州私立大学名誉教授の多段LPガス直接合成技術や、LPガスと類似した特性を持つDME(ジメチルエーテル)からLPガスを製造する技術の開発を進めています。
 政府が支援する技術と業界団体が進める技術が違う例はほかにはほとんどなく、それだけLPガスのグリーン化へ決定打となる技術が定まっていないということを意味しています。もう一つの課題は担い手の不在です。ENEOSグローブもアストモスエネルギーも石油元売り会社の子会社で、元売りの優先順位はe-fuelである可能性が高く、プロパネーション、ブタネーションまで手が回るとは考えにくいのです。
―「グリーンLPガス推進官民検討会」にはどのような役割を期待していますか。
橘川 政府、業界団体、開発会社、研究機関など官民が一体となって、LPガスグリーン化へ、今考えられるあらゆる技術を網羅し互いに切磋琢磨しながら活路を見出そうという点で、非常に意義のある取り組みだと評価しています。検討会には、ユーザーとしても全国ハイヤー・タクシー連合会がオブザーバー参加していて、今後はLPガスを燃料とする産業用需要家にも参加を呼び掛けていくことになると思います。
―2050年の脱炭素社会においてLPガスが一定の役割を果たしていくということですね。
橘川 電力は電化が進み現在より30~50%需要が増え、都市ガスは使用量が維持されると推計されています。LPガスは消費量が減るとはいえ60%は残ると考えられます。業界は生き残りへの覚悟を持っていて、こうした動きはその表れだと思っています。
 もう一つ重要なことは、アジアでLPガスの需要が増えていることです。人類がLPガスを使い続けるためには、脱炭素化の技術開発を日本が担うしかありません。本業ではなくとも、サウジアラムコやエンタープライズはLPガスで相当収益を上げているでしょうから、そうした上流企業に出資してもらい、日本の技術をマッチングして開発するような仕掛けがあってもよいと考えています。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

【特集2】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」


かねてから地域のエネルギー供給を支え、地域と共に発展してきたLPガス業界。脱炭素時代に事業者が取り組むべき施策を、コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

LPガス事業はいろいろな意味で地域の発展に貢献できる事業である。クリーンな化石燃料であるLPガスは地域の低炭素化に貢献し、自立稼働が可能な分散型の供給形態は災害に強く、地域のレジリエンスに貢献する。これはLPガスの原料特性・供給特性に由来する貢献である。ただし脱炭素時代にあっては、グリーンLPガスへの置き換えや、LPガス非常用発電機の地域マイクログリッド組み込みなど、時代にふさわしい貢献が求められる。
LPガス事業者は大規模企業系から小規模個人経営系まで多様だが、地場系事業者が大半であり、その多くは今もLPガス以外の燃料(ガソリン、灯油など)も取り扱うことで、地域のエネルギー企業として貢献している。また、LPガス事業者が地域を支える代表的な企業であることも多い。
では、LPガス事業者は、地域が直面する脱炭素化と人口減少・過疎化の潮流の中でどういう役割を果たせるのか。ちなみに二つの潮流は、エネルギー(ガス)を減らす、市場(地域経済)を縮退させるという点で、LPガス事業者の持続可能性にも大きく影響するので、期待される役割は「自社の持続可能性のために何をすべきか」と実質的に同義になる。
日本の脱炭素政策は、地域では「地域脱炭素」として進められる。これは、地域(地方自治体)が主役となり、支援する関係省庁が縦割りを排し水平連携して、個々の地域での脱炭素を進める政策だと解せる。だが国との実力差が大きい自治体だけで進められる地域脱炭素には限界があり、おのずと民間からの援軍(脱炭素パートナー)が必要となる。ゼロカーボンシティ宣言自治体を中心に、脱炭素に関する連携協定や、コーポレートPPAを求める公募プロポーザルが増えているのはそのためである。
ただ当面、自治体が支援を求めるのは、自治体庁舎や施設・遊休地などへの太陽光導入、再エネ電力調達、公用車の電動車化といった電力分野の取り組みである。電力会社にとっては本業領域だが、ガス事業者にとっては、大手・中堅の都市ガスのように一定レベル以上の電力事業(再エネ発電、電力小売など)を営んでいなければ、直接的な連携が難しい領域である。


地域脱炭素化のカギ LPG事業者が中核に


しかし、地域に根ざすLPガス事業者は地域脱炭素に全く関与できないわけではない。あえて尖った提案をする。
結論を言えば、地域のLPガス事業者には、地域貢献と脱炭素化の交点としての「地域脱炭素化推進事業体」の中核的な推進者になってもらいたい。地域脱炭素は、今は自治体回りの脱炭素化が中心だが、いずれこうした事業体の必要性が理解され、設立を検討する自治体が増えてくる。一般的に「地域新電力・自治体新電力」と呼ばれるが、それは事業体の一側面しか表していないので、あえてこの聞きなれない環境省用語を使う。筆者は事業体の本質を、地域に賦存するエネルギーや資源を地域内で産出し、地域内で有効に利活用することでエネルギーの地産地消や資源の地域内循環に資するとともに、地域のステークホルダーの「サステナブル・マインドセット」を醸成するプラットフォームとなることだと理解している。資源循環まで視野に入れるのは、それがエネルギーにも資源にも恵まれないわが国の「地域」が進むべき方向であり、結果として地域が自立し地方創生にもつながると確信するからである(その意味では「カーボンニュートラル」ではなく「サステナブル」の形容になる)。


地産再エネをブランド化 自治体とタッグが必須


この事業体は、出だしはエネルギーの地産地消を担う地域新電力とみなされるが、今の地域新電力は「公共施設から始めて企業、家庭へ」としているものの、現実に地域住民まで巻き込めていない。地産地消は地域ぐるみで行うからこそ価値があり、その推進者は極めて重要である。LPガス事業者によっては、電力ビジネスゆえ腰引けになるかもしれないが、これは「電力小売事業ではなく、地域の宝である地産再エネ電力を地域ブランド化し、それを地域の脱炭素化と地域経済貢献のために最大限普及させる地域事業」だと考えてほしい(図参照)。電力ビジネスの難しい部分は専門家と連携すればよい。地域事業案件として参画意義を見出してもらいたい。

「地域脱炭素化推進事業体」の当面のイメージ


こうした事業体を地域脱炭素の中核に据えることで他のメリットも期待される。一つ目は、地域脱炭素施策の究極課題を解決しやすくなることである。その課題とは、住民や中小規模事業者(以下、住民など)といった、脱炭素ビジネス目線からでは動かない人たちの態度変容・行動変容をどう図るか、である。事業体の事業を通じて住民などと密接な関わりを持つことで、それが醸成される。
二つ目は、地域脱炭素ビジネスと地域貢献ビジネスのつなぎができることである。地方創生に資する地域脱炭素を志向していれば当然の帰結ともいえ、そこに関わっていればLPガス事業者にも新たなビジネスチャンスが見えてくるはずである。これらにより「地域脱炭素化推進事業体」は「地域サステナブル公社」に昇華できる。そのためにも、LPガス事業者をはじめ地域企業や団体が自治体のパートナーとなることが必要不可欠である。
おわりに、時代とともに柔軟な業態転換を果たしてきたLPガス事業者の「原点回帰」を強く望みたい。

つのだ・けんじ 1978年東京ガスに入社。家庭用部門、熱量変更部門、卸営業部門などに従事。2016年日本ガス協会地方支援担当理事。現在、業界向けに個社コンサルティングなどを行っている。

【特集2】自治体の脱炭素化をサポート 新たな地域貢献の形を提示


群馬県下仁田町で都市ガス事業を展開する東海ガス。これまでの事業ハウハウを生かし自治体の脱炭素化を支援する。

【東海ガス】


下仁田町と東海ガスの協定締結式の模様

群馬県南西部に位置する下仁田町は、下仁田ねぎやこんにゃくの産地として知られている。町の北部から西部の長野県との境にかけては、「妙義荒船佐久高原国定公園」が広がり、急峻に切り立つ妙義山があるなど自然豊かな地域だ。
そんな下仁田町は今年7月、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明。これに合わせて、TOKAIホールディングスの子会社である東海ガスと、ゼロカーボンシティ実現に向け、相互協力する連携協定書を締結した。
両者の関係は、下仁田町の公営ガス事業を東海ガスが2019年に譲り受けたことに始まる。以来、同社はこの3年余りの活動で、町内にある工場の生産・製造設備の燃料を重油などの石油系燃料から都市ガスに転換するなど、大口需要の開拓を進めてきた。その結果、ガス販売量を事業譲受の時点から3・3倍に増加、CO2排出量も1551t削減するなど、事業拡大と低炭素化の両立を実現してきた。
ガス供給以外でも、TOKAIグループで標榜するTLC(トータルライフコンシェルジュ)によって、電力販売やリフォームなどのサービスを展開したり、近隣の店舗とコラボレーションしてガス展を開催するなど、地域住民に寄り添った活動を行ってきた。


町が実績を評価 ゼロカーボンで連携


下仁田町保健課の岩井収課長は「20年に環境省が『地方公共団体における50年二酸化炭素排出実質ゼロ』、19年に群馬県が『5つのゼロ宣言』を表明しました。5つのゼロ宣言には温室効果ガスゼロが含まれており、町としても取り組みを強化する必要があると考えていました。東海ガスは公営ガス事業を引き継ぎ、低炭素化に資する事業活動で下仁田町に貢献してきました。ゼロカーボンに向けた取り組みでもその中心を担ってもらえたらと考え、連携協定を結ぶに至りました」と背景を語る。
一方、東海ガスはゼロカーボンに関して実績となる案件があった。本部のある静岡県藤枝市で進めている脱炭素モデルだ。今回、そのモデルを踏襲して下仁田町にゼロカーボンの仕組みを形成していく。
具体的には、まずJクレジットを活用し、CN都市ガスを役場や公民館、学校、保健センターなどに導入していく。導入開始した直後は既に静岡県で実施するゼロカーボンの活動で得たCO2クレジットを活用し、将来的には下仁田町の公共施設や町内企業から創出したCO2クレジットを調達し都市ガスに付与して、CO2クレジットの地産地消サイクルの形成を目指すとのことだ。
CO2クレジットの創出では、地域特性を生かした取り組みも行う。下仁田町特産のこんにゃく工場は重油設備を使っている企業がいまだ多い。これらの企業に都市ガス設備への転換を依頼し、それに伴う温室効果ガス削減によるクレジット創出を促す。また、町の面積のうち8割を占める森林管理を促進して森林経営活動由来のクレジットにも期待する。このほか、再生可能エネルギーの導入なども進めていく方針だ。


下仁田町とのJクレジットの地産地消モデルフロー


地元でエネルギー教育も検討 他地域への展開も目指す


連携協定には環境に関する情報発信なども含まれる。町内の小中学校で東海ガスの社員が環境やエネルギーに関する授業の1コマを担当することなども検討されている。中山貴幸下仁田支店長は「町営ガスを譲り受けて以来、進めてきたことが地域貢献として一つの形になりました。これからも一層、都市ガス事業を軸に地域に還元できる取り組みを推進していきたい」と語る。東海ガスではこうした取り組みを他の地域でも推進していく構えだ。

【特集2まとめ】LNG火力の正念場 電力危機に挑む新設・運用・調達事情


今年3月、政府は東京電力・東北電力管内に電力需給ひっ迫警報を発令した。
引き続き電力不足は深刻で、7月1日から7年ぶりに節電を要請する。
一方、ウクライナ戦争によって国際資源情勢が大きく変化してきた。
ロシア産の禁輸リスクの高まりで、安定・安価のLNG調達に黄信号が灯る。
そんな中、LNG火力の新規運開や燃料確保に奔走する大手電力会社。
差し迫るエネルギー危機をどう乗り切るのか。正念場のLNG火力事情に迫る。

【アウトライン】電力不足打開の切り札に LNG火力が供給力確保に貢献

【レポート】次世代GTで低炭素時代へ対応 12月運開で安定供給に貢献

【レポート】火力進化の一翼を担う拠点 高効率発電所に生まれ変わる

【レポート】震度6被災後18時間での復旧 過去の経験による対応が奏功

【インタビュー】調達価格のボラティリティ低減へ LNG先物取引を試験上場

【レポート】歴史的なLNG不足と高騰 大手電力経営への影響を占う